(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の一態様に至った経緯>
前述のように、インクジェット法では、数万個単位のノズルを用いて基板に対してインク塗布を行う。この場合、ある程度小規模の不良ノズルの発生が起こる度に、ノズルのメンテナンス(ノズル清掃、インク入替など)を行うと、メンテナンス時間が増加し、製造効率が低下してしまう。そこで、通常、不良ノズルの発生が小規模である場合は、不良ノズルからのインク吐出を停止した上で、そのまま基板へのインク塗布は継続される。ただし、単に不良ノズルからのインク吐出を停止するだけでは、インクの塗布量が低下し、インクの塗布むらや濡れ不良が発生する。よって、この場合、不良ノズルの発生によるインク塗布量の低下を補完する必要がある。このような補完方法の一例を、
図17を用いて説明する。
図17は、インク塗布を説明する模式平面図であって、(a)は不良ノズル発生前の状態を説明する図であり、(b)は不良ノズル発生後の状態を説明する図である。
【0014】
図17では、基板上の隣接する隔壁95間の領域として、塗布領域95aが形成されており、電気絶縁性を有し、隔壁95よりも低い絶縁層(画素規制層)94が塗布領域95a内に形成されている。そして、インクを吐出する複数(図では10個)のノズル925を、紙面左右方向に沿って列状に並べ、紙面上下方向に沿って走査させながら、ノズル925からインクを吐出することにより、塗布領域95aにインクを塗布する。この際、各ノズル925の吐出結果であるインクの塗布位置96bを、塗布領域95aにおけるハッチング付の円形で示す。なお、塗布位置96bは、塗布後のインクの濡れ状態を示してはおらず、あくまで塗布の位置を示している。すなわち、塗布位置96bに塗布されたインクは、その後、塗布領域95a内を埋めるように流動し、塗布領域95a内を一様に濡らす。
【0015】
各ノズル925は、1つの塗布領域95aに対して、3回インクを吐出可能であるとする。すなわち、
図17に示す塗布領域95aの範囲には、ノズル925がインクを塗布できる位置は30個存在する。なお、各ノズル925の、塗布領域95aに対するインクの吐出可能数は、ノズル925の最短吐出間隔と、隣接する隔壁95の間隔との関係によって定まる。
【0016】
この30個のインク塗布可能位置のうち、各ノズル925は、あらかじめ定められた一部の塗布位置96bにのみインクを吐出する。つまり、塗布領域95aには、塗布可能であるが、ノズル925がインクを吐出しない非塗布位置96cが存在し、これをハッチングなしの点線円形で示す。
【0017】
ここで、ノズル925に不良ノズル925B(×印を付したノズル925)が発生し、一部の塗布位置96bが、追加非塗布位置96d(×印を付した非塗布位置)となった場合を考える。具体的には、
図17(b)では、2つの不良ノズル925Bが発生し、4つの塗布位置96bが追加非塗布位置96dとなっている。このように不良ノズル925Bが発生し、追加非塗布位置96dが増えると、塗布領域95aに対するインクの塗布量が低下する。
【0018】
これに対し、
図17(b)では、他のノズル925の塗布回数を増やし、4つの非塗布位置96cを代替吐出位置96eに補完設定することにより、インク塗布量の低下を補完している。なお、前述のようにインクは塗布領域95a内を流動できるため、追加非塗布位置96dと代替吐出位置96eとが異なる位置であっても、塗布むらや濡れ不良の発生を抑制することができる。
【0019】
一方、有機EL表示パネルでは、高解像度化が進んでおり、これに伴って塗布領域が小さくなってきている。
図18は高解像度の有機EL表示パネルにおけるインク塗布を説明する模式平面図であって、(a)は不良ノズル発生前の状態を説明する図であり、(b)は不良ノズル発生後の状態を説明する図である。
【0020】
図18は、
図17と同じく、隣接する隔壁951間の領域として、塗布領域951aが形成されており、塗布領域951a内に絶縁層(画素規制層)941が形成されている。一方、
図18では、
図17に比べ、隣接する隔壁951の間隔が狭くなっており、各ノズル925は、1つの塗布領域95aに対して、1回しかインクを吐出できない。よって、
図17で説明したインク塗布の方法では、
図18(a)に示すように、各ノズル925は、非塗布位置96cを確保できない。
【0021】
したがって、不良ノズル925Bが発生した場合、
図18(b)に示すように、追加非塗布位置96dに対する代替吐出位置96eを設定することができない。よって、不良ノズル925Bの発生によるインク塗布量の低下を補完できない。
【0022】
このような課題に対し、ノズルの最短吐出間隔を、隔壁の間隔に応じて短くすることで、各ノズルの1つの塗布領域に対するインクの塗布可能回数を増やす方法が考えられる。ノズルの最短吐出間隔は、ノズルの基板に対する走査速度と、ノズルのインク吐出可能な最大吐出周波数とによって定まる。
【0023】
しかし、ノズルの走査速度を低減させることは、インク塗布にかかる時間が長くなることに相当し、製造効率の観点から好ましくない。また、ノズルの最大吐出周波数を高めることは、塗布精度の低下や、インク切れの悪化を引き起こす原因となるため、インクジェット装置の高性能化やインクの改良といった、製造工程の大幅な変更が必要となる。
【0024】
さらに、ノズルの最短吐出間隔を短くする方法以外には、不良ノズル以外のノズルの1回当たりの吐出量を通常より増加させる方法も考えられる。しかし、不良ノズルが発生する度に吐出量を変化させる方法では、各ノズルの管理項目が増える上に、吐出量に応じて塗布位置や最短吐出間隔の調整が必要となるなど、ノズルの制御が複雑となる。
【0025】
そこで、本願の発明者は、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法により、不良ノズルの発生によるインク塗布量の低下を補完すべく、以下に説明する本発明の一態様である有機EL表示パネルの製造方法に至ったのである。
【0026】
<本発明の一態様の概要>
本発明の一態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、基板を準備し、基板上に、行方向及び列方向が定められた行列状に複数の第1電極を形成し、列方向に並ぶ第1電極の列を1列ごとに区切る隔壁を基板上に複数形成することにより、隣接する隔壁間の領域として、行方向に沿って複数並ぶ塗布領域を形成し、あらかじめ不良ノズルが選定された複数のノズルを、基板の上方で列状に並べ、行方向に沿って基板に対して相対的に走査させながら、複数のノズルのうち、不良ノズルに選定されていない使用ノズルのみから機能性材料を含むインクを吐出することにより、塗布領域にインクを塗布するインク塗布を行い、塗布されたインクを乾燥させることにより、塗布領域に機能性材料を含む機能層を形成し、機能層を覆う第2電極を形成する、有機EL表示パネルの製造方法であって、インク塗布の際に、複数のノズルのうち、不良ノズルに選定されておらず、かつ塗布領域の上方を通過するノズルであって、インクを吐出しない予備ノズルが、使用ノズルとは別に少なくとも一つ存在する。
【0027】
当該製造方法では、複数のノズルのうちに不良ノズルが発生した場合であっても、予備ノズルを使用ノズルに変更することで、インク塗布量の低下を補完できる。すなわち、当該製造方法によると、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズルの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0028】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様において、インク塗布の際に、各塗布領域に対する、使用ノズルごとのインクの吐出回数が、多くとも1回である。当該製造方法では、高解像度の有機EL表示パネルであっても高い製造効率及び高い品質で製造することができる。
【0029】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様において、塗布領域を形成する際に、列方向に並ぶ第1電極の列を、等間隔に区切る副壁を複数形成することにより、隣接する隔壁及び副壁に囲まれた領域として、行方向及び列方向に沿って並ぶ複数の塗布領域を形成する。当該製造方法では、副壁を形成することで、インク塗布において、隔壁を超えて行方向に隣接する塗布領域にインクが流出しても、当該インクは副壁を超えては流動できないため、混色が発生する範囲を低減できる。
【0030】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様において、インク塗布の際に、列方向に沿って並ぶ複数の塗布領域のそれぞれに対し、当該塗布領域の上方を通過する予備ノズルが少なくとも一つ存在する。当該製造方法では、副壁に区切られた塗布領域ごとに予備ノズルが存在するため、どの塗布領域の上方に不良ノズルが発生してもインク塗布量低下の補完を実現することができる。
【0031】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様において、複数のノズルが、行方向と交差する方向に延伸する長尺状の複数のサブヘッドに配置され、複数のサブヘッドが、列方向に延伸する長尺状のノズルヘッドに配置され、ノズルヘッドに対して、行方向及び列方向と平行な平面において、相対回転可能である。当該製造方法では、サブヘッドがノズルヘッドに対して相対回転することによって、インク塗布時の列方向に沿ったノズルの間隔(ピッチ)を調整することができる。
【0032】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、複数のノズルを、塗布領域が形成された基板の上方で列状に並べ、基板の上面に沿って相対的に走査させながら、複数のノズルから機能性材料を含むインクを吐出することにより、塗布領域にインクを塗布するインク塗布を、複数の基板に対して順次行うインクジェット法により、塗布領域に機能性材料を含む機能層を形成する、有機EL表示パネルの製造方法であって、インクジェット法においては、インク塗布を開始する前に初期ノズル設定を、一定数の基板に対するインク塗布が完了するごとにノズル補完設定を、それぞれ行い、初期ノズル設定においては、複数のノズルを検査し、当該検査結果が使用基準外であったノズルを不良ノズルに選定し、複数のノズルのうち、不良ノズルに選定されておらず、かつインク塗布の際に塗布領域の上方を通過するノズルから、インク塗布の際にインクを吐出する使用ノズルと、インク塗布の際にインクを吐出しない予備ノズルと、をそれぞれ一つ以上設定し、ノズル補完設定においては、複数のノズルを検査し、当該検査結果が使用基準外であった使用ノズルを不良ノズルに変更し、使用ノズルから不良ノズルに変更されたノズルの数に応じて、予備ノズルを使用ノズルに変更することにより、ノズル補完設定の前後において、使用ノズルの数を一定に維持する。
【0033】
当該製造方法では、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズルの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0034】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様の初期ノズル設定及びノズル補完設定における複数のノズルの検査においては、複数のノズルの下方に、面状の検査用領域を配置し、複数のノズルを、検査用領域の上面に沿って相対的に走査させながら、複数のノズルから検査用領域に対してインクを吐出し、当該吐出されたインクの検査用領域における塗布状態を検査する。当該製造方法では、複数のノズルの塗布状態から各ノズルの吐出精度を評価することができる。
【0035】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様の初期ノズル設定において、予備ノズルを一定の間隔ごとに複数設定する。当該製造方法では、初期ノズル設定後に発生した不良ノズルの位置による予備ノズルまでの最短距離のばらつきを抑制することができ、塗布領域内のインク塗布厚のばらつきを抑制することができる。
【0036】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様において、 塗布領域には、複数の電極が1列に並んでおり、一定の間隔が、隣接する電極の中心間の距離以下である。当該製造方法では、第1電極のそれぞれに対し、その上方を通過する予備ノズルが少なくとも一つ存在することになる。よって、初期ノズル設定後に不良ノズルが発生した場合であっても、同じ第1電極の上方を通過する複数のノズルに、予備ノズルが存在するため、インク塗布厚のばらつきをさらに抑制することができる。
【0037】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様のノズル補完設定においては、使用ノズルから不良ノズルに変更されたノズルに最も近い予備ノズルを使用ノズルに変更する。当該製造方法では、塗布領域内のインク塗布厚のばらつきを抑制することができる。
【0038】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様のノズル補完設定においては、検査結果が使用基準外であった予備ノズルを不良ノズルに変更する。当該製造方法では、初期ノズル設定後にインクの吐出精度が低下した予備ノズルを使用ノズルの候補から外しておくことができる。
【0039】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様のノズル補完設定においては、検査結果により、予備ノズルに優先順を付与し、使用ノズルから不良ノズルに変更されたノズルに近接する2以上の予備ノズルのうち、優先順の最も高い予備ノズルを使用ノズルに変更する。当該製造方法では、ノズル補完設定後のインク塗布において、より吐出精度の高いノズルを使用でき、インクの塗布不良、塗布むらの発生を抑制できる。
【0040】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様のノズル補完設定においては、検査結果が使用基準内であった不良ノズルを予備ノズルに変更する。当該製造方法では、予備ノズルの数が増え、予備ノズルが不足するまでの期間を延長できる。
【0041】
また、本発明の別態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、上記態様のノズル補完設定において予備ノズルの数が不足する場合は、複数のノズルのメンテナンスを行い、メンテナンス後に初期ノズル設定を行う。当該製造方法では、不良ノズルの吐出精度が向上でき、予備ノズルを確保することができれば、インク塗布を再開することができる。
【0042】
なお、本願において「上」とは、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)を指すものではなく、有機EL表示パネルの積層構造における積層順を基に、相対的な位置関係により規定されるものである。具体的には、有機EL表示パネルにおいて、基板の主面に垂直な方向であって、基板から積層物側に向かう側を上方向とする。
【0043】
また、例えば「基板上」と表現した場合は、基板に直接接する上方の領域のみを指すのではなく、積層物を介した基板の上方の領域も含めるものとする。
【0044】
<実施の形態>
以下では、本発明の一態様に係る有機EL表示パネルの製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は模式的なものを含んでおり、各部材の縮尺や縦横の比率などが実際とは異なる場合がある。また、本願において、平面図、平面写真とは、対象物を垂直上方から見た図、写真であり、有機EL表示パネルにおいては、当該パネルを基板上面の垂直上方から見た図、写真である。さらに、平面形状とは、平面図、平面写真に現れる形状を指す。
【0045】
1.有機EL表示装置1の全体構成
図1は、有機EL表示装置1の全体構成を示すブロック図である。有機EL表示装置1は、例えば、テレビ、パーソナルコンピュータ、携帯端末、業務用ディスプレイ(電子看板、商業施設用大型スクリーン)などに用いられる表示装置である。有機EL表示装置1は、有機EL表示パネル10と、これに電気的に接続された駆動制御部20とを備える。
【0046】
有機EL表示パネル10(以下、「パネル10」という。)は、例えば上面が長方形状の画像表示面であるトップエミッション型の表示パネルである。
図1に示すように、以下では説明のため、パネル10上面の長辺に沿った方向をX方向、パネル10上面の短辺に沿った方向をY方向とする。パネル10では、画像表示面に沿って複数の有機EL素子(不図示)が配列され、各有機EL素子の発光を組み合わせて画像を表示する。なお、パネル10は、一例として、アクティブマトリクス方式を採用している。
【0047】
駆動制御部20は、パネル10に接続された駆動回路21と、計算機などの外部装置又はアンテナなどの受信装置に接続された制御回路22とを有する。駆動回路21は、各有機EL素子に電力を供給する電源回路、各有機EL素子への供給電力を制御する電圧信号を印加する信号回路、一定の間隔ごとに電圧信号を印加する箇所を切り替える走査回路などを有する。制御回路22は、外部装置や受信装置から入力された画像情報を含むデータに応じて、駆動回路21の動作を制御する。
【0048】
なお、
図1では、一例として、駆動回路21がパネル10の周囲に4つ配置されているが、駆動制御部20の構成はこれに限定されるものではなく、駆動回路21の数や位置は適宜変更可能である。
【0049】
2.パネル10の構成
(1)平面構成
図2は、パネル10の画像表示面の一部を拡大した模式平面図である。パネル10では、一例として赤色、緑色、青色にそれぞれ発光する副画素SPR、SPG、SPBが行列状に配列されている。副画素SPR、SPG、SPBは、パネル10の長辺に沿ったX方向に交互に並び、一組の副画素SPR、SPG、SPBは、一つの画素Pを構成している。画素Pにおいては、階調制御された副画素SPR、SPG、SPBの発光輝度を組み合わせることにより、フルカラーを表現することが可能となっている。
【0050】
また、パネル10の短辺に沿ったY方向においては、副画素SPR、副画素SPG、副画素SPBのいずれかのみが並ぶことでそれぞれ副画素列LR、副画素列LG、副画素列LBが構成されている。これにより、パネル10全体として画素Pが、X方向及びY方向に沿った行列状に並び、この行列状に並ぶ画素Pの発色を組み合わせることにより、画像表示面に画像が表示される。
【0051】
副画素SPR、SPG、SPBには、それぞれ赤色、緑色、青色に発光する有機EL素子が形成され、当該有機EL素子の発光を画像表示面側から取り出すことにより、副画素SPR、SPG、SPBは発光する。副画素SPR、SPG、SPBの発光色は、有機EL素子の発光色そのものでも良いし、有機EL素子の発光色をカラーフィルタによって補正したものであってもよい。
【0052】
パネル10では、一例として、ラインバンク方式を採用している。すなわち、副画素列LR、LG、LBを1列ごとに区切る隔壁15が複数形成されることにより、隣接する隔壁15間の領域として、X方向に沿って複数並ぶ塗布領域15aが形成されている。各塗布領域15aは、後述するインクジェット法により機能層を形成する際に、インクが塗布される領域である。ラインバンク方式では、塗布領域15aが副画素列LR、LG、LBに渡って連続することで、塗布されたインクがY方向に沿って流動可能となり、機能層の膜厚むらを低減することができる。
【0053】
なお、パネル10には、各塗布領域15aにおいて、副画素SPR、SPG、SPBごとにこれらを絶縁する絶縁層(画素規制層)14が形成され、副画素SPR、SPG、SPBはそれぞれ独立して発光することが可能となっている。
図2では、画素規制層14は点線で表されているが、これは、画素規制層14は機能層に覆われており、平面図では直接見えないことを表現している。
【0054】
(2)断面構成
図3(a)は、
図2のX−X線に沿った模式断面図であり、
図3(b)は、
図2のY−Y線に沿った模式断面図である。なお、
図3(a)では、副画素SPGの断面構成を中心に、
図3(b)では、副画素列LGの断面構成のみを記載しているが、副画素SPR、SPB及び副画素列LR、LBについても
図3(a)、(b)と同様の構成となっている。また、
図3では、紙面上方向をZ方向としている。
【0055】
パネル10は、基板11、第1電極12、正孔注入層13、画素規制層14、隔壁15、正孔輸送層16A、有機発光層16B、電子輸送層17、第2電極18及び薄膜封止層19を備える。この内、正孔輸送層16A及び有機発光層16Bは後述するインクジェット法により形成されている。なお、この積層構成は、あくまで一例であって、この他に電子注入層、阻止層、バッファ層などが積層されていてもよいし、上記の各層の一部が省略されていてもよい。また、電子注入輸送層のように、物理的に一つの層が、複数の機能を有していてもよい。
【0056】
a.基板11
基板11は、パネル10の支持部材である。図示は省略するが、基板11では、長方形平板状の基板本体上に、TFT(Thin Film Transistor)層が形成されている。
【0057】
基板本体は、電気絶縁性を有する材料又は電気絶縁性を有する材料をコーティングしたアルミニウムやステンレスなどの金属材料で形成される。電気絶縁性を有する材料としては、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英ガラスなどのガラス材料である。また当該材料は、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂などの樹脂材料であってもよい。また当該材料は、例えば、酸化アルミニウムなどの金属酸化物材料であってもよい。
【0058】
有機EL素子は水分や酸素などと反応して劣化する場合があるため、基板本体には水分透過度の低い材料、例えばガラスや金属などを用いて、有機EL素子下部からの水分や酸素の浸透を抑制することが好ましい。また、基板本体に樹脂材料を用いる場合は、樹脂材料の上面に、例えば窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウムなどの水分透過度の低い薄膜をコーティングすることが好ましい。
【0059】
TFT層は、基板本体上に形成された電子回路の層であり、有機EL素子への電力供給回路や供給電力の制御回路などが配置されている。具体的には、TFT層は基板本体上に配置された半導体の層、導電体の層及び電気絶縁体の層からなる積層であり、この積層構成によって、TFT素子、コンデンサ素子、配線などの電子回路素子が構成される。また、TFT層の最上部には、層間絶縁層(不図示)が形成され、基板11の上面は平坦化されている。
【0060】
半導体の層は、例えば、シリコンなどの一般的な半導体材料、インジウム−亜鉛−ガリウム酸化物などの酸化物半導体材料、多環芳香族化合物などの平面方向に広がったπ電子共役系を有する有機半導体材料などで形成される。導電体の層は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)などの金属材料、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素材料、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などの導電性酸化物材料などで形成される。電気絶縁体の層は、例えば、窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウムなどの無機材料、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂などの有機材料などで形成される。層間絶縁層は、電気絶縁性を有するパターニング可能な材料、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂などの有機材料で形成される。
【0061】
なお、TFT層には、層間絶縁層とは別にパッシベーション層として、TFT層の電子回路素子全体を覆う窒化シリコンや酸化アルミニウムなどを材料とする層が形成されてもよい。
【0062】
b.第1電極12
第1電極12は、基板11上に、行方向をX方向に、列方向をY方向にそれぞれ定められた行列状に形成された複数の電極であり、有機発光層16Bに正孔を供給する陽極としての役割を有する。第1電極12のそれぞれは、各有機EL素子の位置を規定しており、各副画素SPR、SPG、SPBの形成位置に対応するよう形成されている。
【0063】
第1電極12は、例えば、Al、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)などの金属材料で形成される。また、これらの金属材料を組み合わせた合金材料や、金属材料・合金材料を積層した多層構造で形成されていてもよい。さらに、第1電極12と正孔注入層13との接合性向上や、第1電極12の酸化防止の目的で、上記の層上にITO、IZOなどの透明導電性酸化物材料からなる層を積層した多層構造で形成されていてもよい。さらに、第1電極12の最下層には、ウェットエッチングによる浸食や、下層への水素の拡散などを抑制する目的で、酸化タングステンなどの金属酸化物材料からなるバリアメタル層を形成してもよい。
【0064】
なお、正孔を供給する観点からは、第1電極12には仕事関数の高い材料を用いることが好ましい。また、トップエミッション型であるパネル10では、第1電極12に光反射性を付与することが好ましい。
【0065】
c.正孔注入層13
正孔注入層13は、機能層の一種であり、第1電極12上に形成された層であって、第1電極12から有機発光層16Bへの正孔の供給(正孔注入)におけるエネルギー障壁を低下させ、正孔注入を容易にする役割を有する。パネル10では、正孔注入層13が第1電極12ごとに独立して形成され、基板11上に行列状に配列されている。正孔注入層13は、機能性材料として、適切なイオン化エネルギーを有する材料を用いて形成される。このような材料としては、例えば、Ag、Mo、Cr、W、Ni、バナジウム(V)、イリジウム(Ir)などの酸化物である金属酸化物材料や、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などである。
【0066】
d.画素規制層14
画素規制層14は、
図3(b)に示すように、第1電極12及び正孔注入層13の端部を覆うように形成された電気絶縁性を有する層であって、基板11上面からの高さ(Z方向に沿った高さ)ついて、隔壁15よりも低く形成されている。画素規制層14は、各塗布領域15a内で隣接する副画素SPR、SPG、SPB(第1電極12)同士の間の電気絶縁性を向上させる役割を有する。また、画素規制層14は、第1電極12の端部を覆うことで、第1電極12と第2電極18との接触によるショートも抑制している。
【0067】
なお、パネル10では、
図2に示すように画素規制層14の第1電極12及び正孔注入層13の端部を覆う平面形状が曲線状となるように形成されている。このように画素規制層14を形成することで、正孔輸送層16Aを形成する際に、インクが正孔注入層13、画素規制層14及び隔壁15に囲まれる領域の端まで濡れ広がりやすくなり、濡れ不良を抑制することができる。
【0068】
画素規制層14の材料は、例えば、窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウムなどの無機材料、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂などの有機材料などで形成される。また、正孔輸送層16Aを形成する際、塗布領域15a内に機能性材料を含むインクが濡れ広がりやすいように、画素規制層14の表面はインクに対する親液性を有することが好ましい。
【0069】
e.隔壁15
隔壁15は、Y方向に沿って並ぶ第1電極12及び正孔注入層13の列を1列ごとに区切ることにより、隣接する隔壁15間の領域として、方向Xに沿って複数並ぶ塗布領域15aを形成する。このとき、隔壁15は、
図2に示すように、Y方向に延伸する線状の形状、いわゆるラインバンクとなっている。
【0070】
隔壁15は、具体的には、正孔輸送層16Aや有機発光層16Bを形成する際に、機能性材料を含むインクが各塗布領域15aの外側に流出することを抑制している。また、隔壁15は、形成後の正孔輸送層16Aや有機発光層16Bを区画して電気的に絶縁する役割を有する。
【0071】
隔壁15は、例えば、電気絶縁性を有し、フォトリソグラフィ法によりパターニングが可能な感光性レジスト材料から形成される。感光性レジスト材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂などである。なお、隔壁15は、感光性レジスト材料以外の材料を含有していてもよい。また、感光性レジスト材料の感光性は、感光によって現像液に対する溶解性が低下するネガ型、感光によって現像液に対する溶解性が増加するポジ型のいずれであってもよいが、ネガ型であることが好ましい。一般的に、上方から露光した場合の感光性レジスト材料の感光領域は、上方が広く、下方が狭い逆テーパー形状となりやすい。したがって、感光領域が残るネガ型では、現像処理後の感光性レジスト材料が逆テーパーに近い形状となり、形成した隔壁15を超えてインクが流出することを抑制できる。
【0072】
なお、隔壁15は、後述するパネル10の製造方法から、有機溶媒や熱に対する耐性を有することが好ましい。また、インクの流出を抑制するために、隔壁15の表面は撥液性を有することが好ましく、例えば、隔壁15に撥液性成分を含む材料を用いるか、隔壁15に撥液性を付与する表面処理を行うことが好ましい。撥液性成分としては、例えば、フッ素系化合物、シロキサン系化合物である。この撥液性成分は、例えば独立した材料として、感光性レジスト材料15P中に混合されてもよいし、例えば、感光性レジスト材料15Pの共重合体中に含有されてもよい。また、撥液性を付与する表面処理としては、例えばフッ素ガス雰囲気下におけるプラズマ処理などを用いることができる。
【0073】
f.正孔輸送層16A
正孔輸送層16Aは、機能層の一種であり、後述するインクジェット法によって各塗布領域15aに塗布されたインクを乾燥させることによりに形成された層であって、第1電極12から供給された正孔の有機発光層16Bへの輸送性を向上させる役割を有する。なお、ラインバンク方式を採用するパネル10では、正孔輸送層16Aは、各塗布領域15aに沿ってY方向に延伸する形状であり、各塗布領域15a内のすべての第1電極12、正孔注入層13及び画素規制層14を覆うように連続する。すなわち、各副画素列LR、LG、LBにおいて、それぞれの副画素SPR、SPG、SPBは、正孔輸送層16Aを共有する。
【0074】
正孔輸送層16Aは、機能性材料として、正孔の移動度が比較的高い有機材料を用いて形成される。このような材料としては、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体(いずれも特開平5−163488号公報に記載)などである。
【0075】
g.有機発光層16B
有機発光層16Bは、機能層の一種であり、正孔輸送層16Aと同様に後述するインクジェット法によって各塗布領域15aに塗布されたインクを乾燥させることにより形成された層である。有機発光層16Bでは、第1電極12及び第2電極18から供給された正孔及び電子の再結合による発光(電界発光現象)が行われる。
【0076】
ラインバンク方式を採用するパネル10では、有機発光層16Bは、正孔輸送層16Aと同様に各塗布領域15aに沿ってY方向に延伸する形状であり、各塗布領域15a内の正孔輸送層16A全面を覆うように連続する。すなわち、各副画素列LR、LG、LBにおいて、それぞれの副画素SPR、SPG、SPBは、有機発光層16Bを共有する。ただし、有機発光層16Bは、第1電極12の上方にある部分のみが発光し、副画素SPR、SPG、SPBごとに独立して発光する。
【0077】
有機発光層16Bは、機能性材料として、電界発光現象によって発光する有機発光材料を用いて形成される。有機発光材料としては、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物、アザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質(いずれも特開平5−163488号公報に記載)などの公知の蛍光物質、燐光物質である。また、例えば、上記の蛍光物質、燐光物質をドーパントとした有機化合物の混合層であってもよい。なお、パネル10では、副画素列LR、LG、LBにそれぞれ赤色、緑色、青色に発光する有機発光材料を含む有機発光層16Bを形成する3色塗り分け方式を採用し、フルカラー対応している。
【0078】
h.電子輸送層17
電子輸送層17は、機能層の一種であり、隔壁15及び有機発光層16Bが形成された基板11全体を覆うように形成された層であって、第2電極18から供給された電子の有機発光層16Bへの輸送性を向上させる役割を有する。
【0079】
電子輸送層17は、機能性材料として、電子の移動度が比較的高い有機材料を用いて形成される。このような材料としては、例えば、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、ジフェキノン誘導体、ペリレンテトラカルボキシル誘導体、アントラキノジメタン誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリノン誘導体、キノリン錯体誘導体(いずれも特開平5−163488号公報に記載)、リンオキサイド誘導体、トリアゾール誘導体、トジアジン誘導体、シロール誘導体、ジメシチルボロン誘導体、トリアリールボロン誘導体などである。
【0080】
i.第2電極18
第2電極18は、機能層を覆う電極であって、パネル10では、電子輸送層17を覆うように基板11全体に渡って形成されている。第2電極18は、有機発光層16Bに電子を供給する陰極としての役割を有する。
【0081】
第2電極18は、例えば、ITOやIZOなどの透明導電性酸化物材料や、透明導電性酸化物材料からなる層に、Ag、Au、Ni、Cu、Al、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの金属材料又はこれらの合金材料の層を積層して形成される。
【0082】
なお、電子を供給する観点からは、第2電極18には仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。また、トップエミッション型であるパネル10では、第2電極18には、例えば光透過率80%以上などの高い光透過率を有する材料を用いることが好ましい。
【0083】
j.薄膜封止層19
薄膜封止層19は、上記第1電極12から第2電極18までの各部材が形成された基板11全体を覆うように形成された層であり、各部材が水分や酸素などに晒されることを抑制する役割を有する。薄膜封止層19は、水分透過度の低い材料、例えば、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化炭素、窒化炭素、酸化アルミニウムなどの無機材料で形成される。また、トップエミッション型であるパネル10では、薄膜封止層19に、高い光透過性を有し、第2電極18との屈折率の差が小さい材料を用いることが好ましい。
【0084】
k.その他
パネル10では、以上の部材が形成された基板11上に、ガラス材料などの水分透過性の低い材料で形成された封止板を配置してもよい。このとき、基板11と封止板との間は、例えば硬化性樹脂材料からなる接着層などによって接合される。これにより、基板11上の各有機EL素子に対する水分や酸素などの浸透をさらに抑制することができる。
【0085】
また、封止板の副画素SPR、SPG、SPBに対応する位置に、カラーフィルタを配置してもよい。これにより、副画素SPR、SPG、SPBの発光色を補正することができる。さらに、封止板の副画素SPR、SPG、SPB同士の間に対応する位置及び封止板の周縁領域にブラックマトリクスを配置してもよい。これにより、パネル10の画像表示面における外光の反射を抑制し、また、画像表示面における画素Pとそれ以外の部分とのコントラストを向上させることができる。
【0086】
なお、上記の断面構成はあくまで一例であって、例えば、
図3(a)では電子輸送層17及び第2電極18は、複数の塗布領域15aに渡って形成されているが、これらの全部又は一部が塗布領域15aごと又は副画素SPR、SPG、SPBごとに形成されていてもよい。また、例えば、
図3(a)、(b)では正孔注入層13が、副画素SPR、SPG、SPBごとに形成されていたが、塗布領域15aごと又は複数の塗布領域15aに渡って形成されていてもよい。
【0087】
3.パネル10の製造方法
(1)全体工程
本発明の一態様であるパネル10の製造方法について、まず全体工程を説明する。
図4、
図5及び
図6は、パネル10の製造過程を示す模式断面図である。なお、
図4、
図5及び
図6に示す断面は
図3(a)の副画素SPGの断面に相当するものである。また、
図4(b)、(c)に示すハッチングを付さない画素規制層14は、当該断面に存在するものではなく、当該断面の紙面奥側に存在する画素規制層14の表面を表現している。
【0088】
a.基板準備
最初に、基板11を準備する。具体的には、電気絶縁性材料を平板状に成形した基板本体を用意し、基板本体上にTFT層を形成する。TFT層の形成は、例えば、以下のようにすることができる。
【0089】
まず、基板本体上に所定の形状にパターニングされた半導体材料の層、導電体材料の層又は電気絶縁体材料の層を形成し、これを繰り返して所定の電子回路を形成する。各層の形成には、各層の材料に応じて、例えば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、気層成長法などの乾式プロセスや、印刷法、スピンコート法、インクジェット法、ディスペンス法、ダイコート法などの湿式プロセスを用いることができる。各層のパターニングには、例えば、フォトリソグラフィ法、シャドウマスク法、メタルマスク法などを用いてもよいし、湿式プロセスで直接所定の形状に形成してもよい。また、必要に応じて形成した各層にプラズマ注入、イオン注入、ベーキングなどの処理を行ってもよい。
【0090】
次に、当該電子回路を覆うように、パッシベーション層、層間絶縁層を順に形成する。パッシベーション層及び層間絶縁層の形成には、各層の材料に応じて、上記の乾式プロセス、湿式プロセスを用いることができる。なお、電子回路内のTFT素子と第1電極12とが電気的に接続できるよう、パッシベーション層及び層間絶縁層には、所定の位置に開口(コンタクトホール)を形成する。コンタクトホールの形成には、上記のパターニング法を用いることができる。
【0091】
b.第1電極及び正孔注入層形成
次に、基板11上に、行方向及び列方向がX方向及びY方向に定められた行列状に複数の第1電極12及び複数の正孔注入層13を形成する。例えば、まず、スパッタリング法で基板11上に金属薄膜を形成した後に、続けて反応性スパッタリング法で金属薄膜上に金属酸化物の薄膜を形成する。次に、金属酸化物の薄膜上にフォトレジスト材料を塗布した後に、フォトリソグラフィ法でフォトレジスト材料をパターニングし、X方向及びY方向からなる行列状に並ぶ副画素SPR、SPG、SPBの形成領域にのみフォトレジスト材料を残す。次に、ドライエッチング法、ウェットエッチング法をこの順に続けて用い、フォトレジスト材料が配置されていない箇所において金属酸化物の薄膜、金属薄膜をエッチングする。最後に、金属酸化物の薄膜上のフォトレジスト材料及び残渣を除去する。これにより、X方向及びY方向に沿って行列状に並ぶ金属薄膜からなる第1電極12及び当該金属薄膜上方に積層された金属酸化物の薄膜からなる正孔注入層13を形成できる(
図4(a))。このように第1電極12及び正孔注入層13を同時にエッチングすることで、製造プロセスを効率化することができる。また、同一のフォトレジストによりパターニングすることにより、第1電極12と正孔注入層13との位置合わせの精度が向上する。
【0092】
なお、第1電極12及び正孔注入層13の形成方法は、上記のスパッタリング法、反応性スパッタリング法及びフォトリソグラフィ法の組み合わせに限られず、材料に応じて、上記に例示した乾式プロセス、湿式プロセス、パターニング法を用いることができる。また、第1電極12の最下層にバリアメタル層を配置する場合は、金属薄膜の形成前に金属酸化物の薄膜を形成しておき、金属薄膜をウェットエッチングした後に、さらに金属酸化物の薄膜をドライエッチングすればよい。なお、パネル10の製造方法においては、上記のように第1電極12及び正孔注入層13を連続してエッチングする方法に限定されず、第1電極12を形成した後に、金属酸化物の薄膜を形成・パターニングして正孔注入層13を形成してもよい。
【0093】
c.画素規制層形成
次に、第1電極12及び正孔注入層13が形成された基板11上に画素規制層14を形成する。具体的には、例えば、真空蒸着法を用いて、基板11上の全面を覆う無機材料の薄膜を形成し、フォトリソグラフィ法を用いて、第1電極12及び正孔注入層13の端部を、
図2に示す曲線状の平面形状で覆い、X方向に延伸する形状に形成する。これにより、画素規制層14を形成できる(
図4(b))。なお、画素規制層14は有機材料を用いて形成してもよく、さらに、上記に例示した他の乾式プロセス、湿式プロセス、パターニング方法を用いて形成してもよい。
【0094】
d.隔壁形成
次に、Y方向に並ぶ第1電極12及び正孔注入層13の列を1列ごとに区切る隔壁15を基板11上に複数形成する。これにより、隣接する隔壁15間の領域として、X方向に沿って複数並ぶ塗布領域15aを形成する。すなわち、本実施の形態において、X方向は行方向、Y方向は列方向に相当する。具体的には、例えばダイコート法により基板11上の全面に画素規制層14よりも膜厚が大きくなるように感光性レジスト材料を塗布し、フォトリソグラフィ法により、感光性レジスト材料をY方向に延伸する形状にパターニングし、Y方向に並ぶ第1電極12、正孔注入層13の列を1列ごとに区切る隔壁15を複数形成する(
図4(c))。なお、隔壁15は他の乾式プロセス、湿式プロセス、パターニング方法を用いて形成してもよい。
【0095】
e.インク塗布
次に、後述するインクジェット法により、機能性材料、ここでは正孔輸送層16Aの材料を含むインク16aを吐出することにより、塗布領域15aにインク16aを塗布するインク塗布を行う(
図5(a))。なお、インク16aは塗布領域15a内で画素規制層14を超えて連続するように吐出される。これにより、塗布領域15a内でY方向にインク16aが流動可能となり、塗布領域15a内のインク16aの塗布むらが低減される。すなわち、この後の乾燥において、塗布領域15a内における正孔輸送層16Aの膜厚むらや形成不良の発生が低減する。
【0096】
f.乾燥
次に、塗布されたインク16aを乾燥させることにより、塗布領域15aに機能性材料を含む機能層である正孔輸送層16Aを形成する。具体的には、例えば、インク16a塗布後の基板11を真空チャンバーなどの真空環境に置くことによって、インク16aの溶媒を蒸発させる。これにより、各塗布領域15aに正孔輸送層16Aを形成できる(
図5(b))。
【0097】
g.有機発光層形成
次に、正孔輸送層16Aの形成方法と同様に、後述するインクジェット法により、機能性材料、ここでは有機発光材料を含むインクを吐出することにより、塗布領域15aにインクを塗布するインク塗布を行う。そして、塗布されたインクを乾燥させることにより、塗布領域15aに有機発光材料を含む機能層、すなわち有機発光層16Bを形成する(
図5(c))。なお、インク塗布の際は、インクは塗布領域15a内の正孔輸送層16A全面に塗布し、塗布領域15a内で
図2のY軸方向にインクが流動できるようにする。これにより、塗布領域15a内のインクの塗布むらが低減し、乾燥後における、塗布領域15a内における有機発光層16Bの膜厚むらや形成不良の発生が低減する。
【0098】
h.電子輸送層形成
次に、基板11上のすべての隔壁15及び有機発光層16Bを覆うように電子輸送層17を形成する(
図6(a))。電子輸送層17の形成には、電子輸送層17の材料に応じて、例えば上記に例示した乾式プロセスや湿式プロセスを用いることができる。
【0099】
i.第2電極形成
次に、機能層、ここでは電子輸送層17を覆う第2電極18を形成する(
図6(b))。例えば、上記に例示した乾式プロセスにより、電子輸送層17上に透明導電性酸化物材料の薄膜を成膜して第2電極18を形成する。
【0100】
j.封止
次に、第1電極12から第2電極18までを形成した基板11を封止する。具体的には、例えば、上記に例示した乾式プロセスにより、第2電極18までを形成した基板11の上面を覆うように無機材料の薄膜を成膜して薄膜封止層19を形成する(
図6(c))。
【0101】
以上の方法により、
図2に示す断面構造を有するパネル10が完成する。
【0102】
(2)インクジェット法によるインク塗布
次に、正孔輸送層16A及び有機発光層16Bの形成におけるインクジェット法によるインク塗布について説明する。
【0103】
a.インクジェット装置100の構成
まず、インクジェット法によるインク塗布に用いるインクジェット装置100の構成について説明する。
図7は、インクジェット装置100を示す模式斜視図である。インクジェット装置100は、主要な構成要素として、作業テーブル110、ヘッド部120を備える。
【0104】
(a)作業テーブル110
作業テーブル110は、いわゆるガントリー式の作業テーブルであって、インク塗布の対象物である基板200が載置される基台111と、基台111の上方に配置された長尺状の移動架台112とを備える。なお、基板200は、例えば、パネル10の製造途中(インク塗布前)の基板11や、後述するノズル検査に用いる検査用基板である。また、例えば、基板200は分割後に複数の基板11となる基板11の集合体であってもよく、この場合、基板上面210に形成された各塗布領域15aは、基板上面210の短辺方向であるY方向に沿って延伸する形状となっている。
【0105】
基台111は、板状であって、基板200が載置される上面は長方形である。ここで、基台111上面の長辺に沿った方向を基台111の長手方向、基台111上面の短辺に沿った方向を基台111の短手方向とする。
【0106】
移動架台112は、基台111の長手方向に沿って平行に配置された一対のガイドシャフト113a、113b間に架け渡され、移動架台112の長手方向が基台111の短手方向に沿うように配置されている。一対のガイドシャフト113a、113bは、基台111上面の四隅に配置された柱状のスタンド114a、114b、114c、114dによって支持されている。
【0107】
移動架台112は、移動架台112の長手方向端部に固定されたリニアモータ部115a、115bをそれぞれ介して、ガイドシャフト113a、113bに取り付けられている。よって、移動架台112は、リニアモータ部115a、115bの駆動により、基台111の長手方向に沿って移動可能である。
【0108】
また、移動架台112の表面に形成され長手方向に延伸するガイド溝118には、サーボモータ部117を介して、L字形の台座116が取り付けられている。よって、台座116は、サーボモータ部117の駆動により、基台111の短手方向に沿って移動可能である。
【0109】
なお、リニアモータ部115a、115b、サーボモータ部117は、それぞれ通信ケーブル101、102を介して接続された制御装置(不図示)によって駆動される。
【0110】
(b)ヘッド部120
ヘッド部120は、本体部121、ノズルヘッド122及び撮像装置123を備える。本体部121は、作業テーブル110の台座116に固定され、ノズルヘッド122及び撮像装置123は、本体部121に取り付けられている。したがって、ヘッド部120は、移動架台112及び台座116の移動に連動し、基台111の長手方向及び短手方向に移動可能である。また、本体部121には、ノズルヘッド122の動作を制御する駆動回路が内蔵されており、当該駆動装置は、通信ケーブル103を介して制御装置に接続されている。
【0111】
ノズルヘッド122は、基台111の短手方向に延伸する長尺状の部材である。
図8は、ノズルヘッド122の模式底面図である。ノズルヘッド122の下面側には、長尺状のサブヘッド124が、ノズルヘッド122の長手方向(すなわち基台111の短手方向)に並んでいる。また、サブヘッド124には、サブヘッド124の長手方向に沿って、複数のノズル125が等間隔列状に並んでいる。各サブヘッド124は、自身の長手方向中央部でノズルヘッド122と固定され、かつノズルヘッド122に対して当該中央部を中心に、基台111の上面と平行な平面において、相対回転可能である。インクジェット装置100では、サブヘッド124がノズルヘッド122に対して相対回転することによって、インク塗布時のノズルヘッド122の長手方向(Y方向)に沿ったノズル125の間隔(ピッチ)を調整することができる。このサブヘッド124の回転は、本体部121の駆動回路を介して制御装置によって制御される。
【0112】
図9は、サブヘッド124の模式断面図である。サブヘッド124には、その下面側の開口からインクを吐出するノズル125が複数並んでいる。また、サブヘッド124の上面側には、各ノズル125に対応する位置に圧電素子125aが配置され、各圧電素子125aの下方には振動板125bを介して液室125cが配置されている。
【0113】
各圧電素子125aは、本体部121の駆動回路を介して制御装置に接続され、制御装置からの信号に応じ、振動板125bを変形させる。振動板125bは、各ノズルに共通する板状の部材であり、圧電素子125aによって変形し、当該圧電素子125aの下方の液室125cに圧力を加える。液室125cは、
図7に示す輸液チューブ104を介してインクタンク(不図示)から供給されたインクで満たされており、振動板125bによって圧力が加えられることで、ノズル125の開口からインクが吐出される。すなわち、インクジェット装置100では、制御装置によって、各ノズル125のインクの吐出量及び吐出タイミングを独立して制御することができる。
【0114】
撮像装置123は、例えばCCDカメラであって、通信ケーブル105を介して制御装置と接続されている。撮像装置123は、基板上面210を撮像し、その撮像データを制御装置へ送信する。これにより、制御装置は、ヘッド部120(各ノズル125)の基板上面210に対する位置を検知することができ、各ノズル125から正確に基板上面210の所定の位置にインクを塗布することができる。また、上記撮像データにより、制御装置は、各ノズル125から吐出されたインクの基板200上の塗布位置及び塗布量を検査することができる。
【0115】
b.インクジェット装置100の使用方法
以下では、一例として、基板200が基板11である場合のインクジェット装置100の使用方法を説明する。
【0116】
まず、基台111に、塗布領域15aが形成された基板11を載置する。このとき、基板11は、基板11の長辺方向であるX方向が基台111の長手方向と、基板11の短辺方向であるY方向が基台111の短手方向と、それぞれ平行となるように載置される。すなわち、塗布領域15aの延伸方向であるY方向が、ノズルヘッド122の延伸方向と一致するように基板11を配置する。よって、以下では、
図7に示すように、基台111の長手方向、短手方向もそれぞれX方向、Y方向とする。なお、この際、基板11は塗布領域15a、すなわち基板11上面を上に向けて基台111に配置される。すなわち、
図7に示すように、基台111の上面に垂直であって、基台111からノズル125に向かう方向がZ方向となる。
【0117】
次に、各サブヘッド124をノズルヘッド122に対して相対回転させ、ノズルヘッド122の長手方向に対する各サブヘッド124の長手方向の角度をあらかじめ設計された一定の角度に固定する。当該角度を適切に設定することで、ノズルヘッド122の長手方向(Y方向)に沿ったノズル125の間隔を一定の等間隔にすることができる。このとき、各サブヘッド124においてノズル125が、当該サブヘッドの長手方向に沿って等間隔列状に並び、さらに、このようなノズル125の列がY方向に沿って複数並ぶ。
【0118】
次に、撮像装置123の撮像データを基に、サーボモータ部117を駆動してヘッド部120をY方向に沿って移動させ、基板11に対するノズルヘッド122のY方向に沿った位置を調整する。そして、リニアモータ部115a、115bを駆動して、ノズルヘッド122が基板11のX方向の一方の端部に来るようにヘッド部120を移動させる。これにより、各ノズル125を、基板11の上方で、Y方向(列方向)に沿った複数の列状に並べることができる。
【0119】
次に、リニアモータ部115a、115bを駆動してヘッド部120を、X方向に沿って、基板11のX方向の他方の端部まで移動させる。この移動の際には、撮像装置123の撮像データを基に、各ノズル125が塗布領域15aの上方を通過するタイミングで、当該ノズル125からインクを吐出する。すなわち、ノズル125を、基板11上面のX方向(行方向)に沿って、基板11に対して走査させながら、塗布領域15aに対してインクを吐出する。これにより、塗布領域15aにインクを塗布する。
【0120】
以上により、インクジェット装置100を用いてインク塗布を行うことができる。ここで、パネル10の製造方法においては、インクジェット装置100が有するノズル125は、次のように分類されている。
【0121】
c.ノズル125の分類
パネル10の製造方法においては、上記インク塗布を行う前に、ノズル125からあらかじめ不良ノズルが選定されている。なお、不良ノズルとは、後述の検査結果が使用基準外であったノズル125である。そして、インク塗布の際は、ノズル125のうち、不良ノズルに選定されていない使用ノズルのみからインクを吐出する。不良ノズルからインクを吐出しないことにより、インクの塗布精度を向上させ、インクの混色、機能層の形成不良によるショートやリーク、機能層の膜厚むらによる輝度ばらつきの発生などを低減することができる。
【0122】
また、パネル10の製造方法においては、インク塗布の際に、ノズル125のうち、不良ノズルに選定されておらず、かつ塗布領域15aの上方を通過するノズルであって、インクを吐出しない予備ノズルが、前記使用ノズルとは別に少なくとも一つ存在する。この効果について以下に説明する。
【0123】
図10は、パネル10の製造方法におけるインク塗布を説明する模式平面図である。ここでは、一例として、塗布領域15aのうち、副画素列LRを形成する塗布領域15a(LR)のみにインク塗布を行う場合を説明している。なお、図に示すノズル125は、すべて塗布領域15aを通過する。
【0124】
図10(a)は不良ノズル発生前の状態を説明する図であり、各ノズル125は1重丸で示す使用ノズル125A又は2重丸で示す予備ノズル125Sのいずれかとなる。ここで、インク塗布の際に、予備ノズル125Sが使用ノズル125Aとは別に少なくとも一つ存在し、具体的には
図10(a)では、20個のノズル125のうち、使用ノズル125Aが17個、予備ノズル125Sが3個存在する。
【0125】
各ノズル125は、X方向に沿って走査しながら、使用ノズル125Aのみから、塗布領域15a(LR)のそれぞれに対して1回ずつインクを吐出する。このとき、
図10(a)に示す範囲において、各塗布領域15a(LR)に対しては、使用ノズル125Aが走査するインクの塗布位置16bが17個、予備ノズル125Sが走査する非塗布位置16cが3個となる。
【0126】
次に、
図10(a)の状態からインク塗布を複数の基板11に対して順次行うことで不良ノズルが発生した場合を考える。
図10(b)は不良ノズル発生後の状態を説明する図であり、インク塗布の前に、×印を付した2個の不良ノズル125Bが新たに選定されたものとする。
【0127】
この場合、
図10(b)に示す範囲において、各塗布領域15a(LR)に対しては、2つの塗布位置16bが、上記不良ノズル125Bが走査する塗布不可位置16dになる。各使用ノズル125Aの吐出量は
図10(a)の状態から変化しない場合、塗布位置16bが減少すると、塗布領域15a(LR)に対するインク塗布量が低下する。
【0128】
ここで、パネル10の製造方法では、3つ存在する予備ノズル125Sのうち、2つを使用ノズル125SAに変更すれば、使用ノズル125A、125SAの数を、
図10(a)と同じ17個に維持できる。これにより、
図10(b)に示す範囲においても、各塗布領域15a(LR)に対して、代替塗布位置16eが2つ追加され、塗布位置16b及び代替塗布位置16eの合計を17個とでき、インク塗布量の低下を補完することができる。また、この方法によると、ノズル125の最短吐出間隔を短くする必要も、使用ノズル125A、125SAの吐出量を増加させる必要もない。
【0129】
すなわち、パネル10の製造方法では、予備ノズル125Sが確保されているため、複数のノズル125のうちに不良ノズル125Bが発生した場合であっても、予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更することで、インク塗布量の低下を補完できる。したがって、パネル10の製造方法によると、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズル125Bの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0130】
さらに、上記によると、
図10(a)、(b)のように、各塗布領域15aに対する、ノズル125ごとのインクの吐出回数が、多くとも1回である場合においても、不良ノズル125Bの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。すなわち、パネル10の製造方法では、隣接する隔壁15の間隔が、インクジェット装置100の各ノズル125のインクの最短吐出間隔よりも小さいような高解像度のパネル10であっても高い製造効率及び高い品質で製造することができる。
【0131】
d.ノズル125の設定
上記における予備ノズル125Sの設定及び予備ノズル125Sの使用ノズル125SAへの変更を含めて、具体的な各ノズル125の設定方法を以下に説明する。まず、各パネル10の製造方法に用いるインクジェット法においては、複数の基板11に対してインク塗布を順次行う。また、当該インクジェット法においては、インク塗布を開始する前に初期ノズル設定を、一定数の基板11に対するインク塗布が完了するごとにノズル補完設定を、それぞれ行う。
【0132】
(a)初期ノズル設定
初期ノズル設定においては、最初に各ノズル125を検査する。
図11は、ノズルの検査を説明する模式平面図である。当該検査においては、まず上面に目標位置51Tが配置された検査用基板51を準備する。ここで、検査用基板51の上面は、本実施の形態における面状の検査用領域に相当する。なお、面状の検査用領域は、検査用基板51の上面に限定されず、例えば、パネル10のいわゆる額縁領域であっても良いし、基台111上面に載置された紙の上面などであってもよい。
【0133】
目標位置51Tは、一例として、その平面形状が×状の印であり、上面に沿ったX方向に一定の間隔ごとに複数配置されている。また、このような目標位置51Tの列(
図11のL1〜L11など)が、上面に沿ってX方向と直交するY方向に一定の間隔ごとに複数配置されている。また、隣接する目標位置51Tの列同士においては、目標位置51Tが、X方向に沿ってずれて配置されている。
【0134】
なお、検査用基板51においては、
図11に示す列L1〜L11以外にも多数の目標位置51Tの列が存在する。また、目標位置51Tは、撮像装置123などで認識できるものであれば形状や材質などに特に限定はなく、例えば、円形、多角形、直線などの形状が、検査用基板51の上面にエッチング、メッキ、インク塗布などによって形成されてもよい。
【0135】
上記のような検査用基板51を、インクジェット装置100の基台111に載置し、各ノズル125の下方に、検査用基板51の上面を配置する。この際、ノズルヘッド122の長手方向(基台111の短手方向)が検査用基板51のX方向と、ノズル125の走査方向(基台111の長手方向)が検査用基板51のY方向とそれぞれ平行となるように検査用基板51を配置する。
【0136】
次に、ノズルヘッド122を、X方向及びY方向に移動させ、検査用基板51のX方向端部(
図11では紙面上側の端部)を覆う位置に配置する。さらにサブヘッド124を回転させ、各ノズル125が、それぞれ目標位置51Tの列を通過する位置にくるように調整する。このとき、各ノズル125が通過する目標位置51Tは複数存在することになり、ノズル125ごとに複数回の吐出結果を検査できるため、検査精度が向上する。また、Y方向に隣接するノズル125が吐出したインクの塗布位置はX方向にずれることになるため、当該インクが連結することを抑制でき、検査エラーを低減できる。
【0137】
次に、ノズルヘッド122をX方向に沿って移動させることにより、各ノズル125を検査用基板51の上面に沿って走査させながら、各ノズル125から検査用基板51の各目標位置51Tに対してインクを吐出する。この際、各ノズル125から吐出されたインクの検査用基板51上の塗布状態を検査する。具体的には、吐出されたインクごとに、塗布状態として、各目標位置51Tに対する塗布位置16bのずれ及び塗布面積のデータを、撮像装置123を介して取得する。なお、この際、
図11の列L11の上から3つ目の目標位置51Tに吐出されたインクのように、1回の吐出においてインクが分離し、塗布位置16bが2つ以上存在する場合がある。よって、1つの目標位置51Tに対して2つ目以降の塗布位置16bsが存在するかどうかについても塗布状態として検査する。これにより、各ノズル125の塗布状態から当該ノズル125の吐出精度を評価することができる。また、検査する塗布状態は、上記に挙げたものに限られず、例えば塗布体積や塗布形状なども検査してもよい。
【0138】
上記検査の次に、あらかじめ定められた使用基準を基に、検査結果が使用基準外であったノズル125を不良ノズル125Bに選定する。なお、使用基準は用いるインクジェット装置100の性能や基板11の塗布領域15aの形状、パネル10に要求される品質などに基づいて決定される。例えば、使用基準を、ノズル125からの複数回の吐出において、すべてのインクの塗布位置16bが、目標位置51Tの少なくとも一部に接していること(完全に外れていないこと)、としてもよい。この場合、
図11において、列L4、L6、L10に吐出を行ったノズル125は、一部の塗布位置16b(例えば、列L4の上から3つ目、列L6の上から1つ目、列L10の上から2〜4つ目)が、完全に目標位置51Tから外れていることから、これらのノズル125は不良ノズル125Bに選定される。また、列L11に吐出を行ったノズル125も、完全に目標位置51Tから外れた塗布位置16bsが存在するため、不良ノズル125Bに選定される。
【0139】
なお、使用基準は上記のようにインクの塗布位置16bに基づくものであってもよいし、インクの塗布位置16bに加え、インク塗布面積(塗布量)の再現性(ばらつき)を考慮してもよい。また、一つの目標位置51Tに対して、2つ目以降の塗布位置16bsが存在するノズル125については、目標位置51Tと塗布位置16bsとの位置関係に関わらず、一律に不良ノズル125Bに選定する使用基準であってもよい。また、
図11において、塗布位置16bsが目標位置51Tに対して、Y方向にのみずれている場合は、当該ノズル125を不良ノズル125Bに選定しない使用基準であってもよい。
【0140】
次に、ノズル125のうち、不良ノズル125Bに選定されておらず、かつインク塗布の際に塗布領域15aの上方を通過するノズルから、使用ノズル125Aと、予備ノズル125Sとをそれぞれ一つ以上設定する。例えば、上記使用基準の例では、
図11において、列L1〜L3、L5、L7〜L9に吐出を行ったノズル125は、不良ノズル125Bに選定されていない。また、インク塗布を行う際、列L2〜L3、L5、L7〜L9に吐出を行ったノズル125が塗布領域15aの上方を通過するノズルであるとする。この場合は、例えば、L2、L5、L7、L9に吐出を行ったノズル125を使用ノズル125Aに、L3、L8に吐出を行ったノズルを予備ノズル125Sに設定することができる。
【0141】
以上の初期ノズル設定により、その後のインク塗布の際には、ノズル125のうち、不良ノズル125Bに選定されておらず、かつ塗布領域15aの上方を通過するノズルであって、インクを吐出しない予備ノズル125Sが、使用ノズル125Aとは別に少なくとも一つ存在することになる。
【0142】
なお、初期ノズル設定においては、予備ノズル125Sを一定の間隔ごとに複数設定することが好ましい。例えば、
図10(a)においては、予備ノズル125Sは間隔D1ごとに設定されている。予備ノズル125Sを複数設定することにより、複数の不良ノズル125Bが発生した場合に予備ノズル125S不足が発生する可能性を低減できる。また、予備ノズル125Sを一定の間隔ごとに設定することにより、初期ノズル設定後に発生した不良ノズル125Bの位置による予備ノズル125Sまでの最短距離のばらつきを抑制することができる。例えば、
図10(a)において、新たに不良ノズル125Bが1つ発生した場合、予備ノズル125Sまでの最短距離はD1/2以下にすることができる。塗布されたインクの塗布領域15aに沿った流動には限界があり、上記最短距離のばらつきを抑制することで、塗布領域15a内のインク塗布厚のばらつきを抑制することができる。
【0143】
また、初期ノズル設定において、予備ノズル125Sを一定の間隔ごとに複数設定した場合は、当該一定の間隔が、塗布領域15aに1列に並ぶ複数の第1電極12における、隣接する第1電極12の中心間の距離以下であることが好ましい。例えば、
図10(a)において、隣接する第1電極12の中心間の距離は、D2で示されており、予備ノズル125Sを設定する一定の間隔D1は、D2と等しい。これにより、第1電極12、すなわち副画素SPR、SPG、SPBの形成位置のそれぞれに対し、その上方を通過する予備ノズル125Sが少なくとも一つ存在することになる。よって、初期ノズル設定後に不良ノズル125Bが発生した場合であっても、同じ副画素SPR、SPG、SPBの形成位置の上方を通過する予備ノズル125Sが存在するため、インク塗布厚のばらつきをさらに抑制することができる。
【0144】
(b)ノズル補完設定
ノズル補完設定においては、まず初期ノズル設定と同様に、各ノズル125を検査する。この検査の内容・方法は、初期ノズル設定と同じである。
【0145】
次に、検査結果が使用基準外であった使用ノズル125A、125SAを不良ノズル125Bに変更する。例えば、
図11の検査結果に対し、ノズル補完設定前では、列L11に吐出を行ったノズル125は不良ノズル125Bであり、列L3、L6、L9に吐出を行ったノズル125は、予備ノズル125Sであり、その他の7つのノズル125はすべて使用ノズル125Aであったとする。また、使用基準は前述の例と同じであったとする。この場合は、列L4、L10に吐出を行った使用ノズル125Aを、不良ノズル125Bに変更する。
【0146】
次に、使用ノズル125A、125SAから不良ノズル125Bに変更されたノズルの数に応じて、予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更する。例えば、上記例において、使用ノズル125Aから不良ノズル125Bに変更されたノズルの数は2個である。そこで、列L3、L9に吐出を行った予備ノズル125Sを、使用ノズル125SAに変更する。これにより、ノズル補完設定の前後において、使用ノズルの数を一定に維持することができる。したがって、当該製造方法では、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズルの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0147】
なお、ノズル補完設定においては、検査結果が使用基準外であった予備ノズル125Sについても、不良ノズル125Bに変更することが好ましい。例えば上記の例において、L6に吐出を行った予備ノズル125Sを不良ノズル125Bに変更する。予備ノズル125Sのように初期ノズル設定では不良ノズル125Bに選定されず、その後吐出を行わないノズルであっても、時間の経過とともにノズル125の開口部や液室125cのインクの状態が変化することで、インクの吐出精度が低下する場合がある。よって、このような予備ノズル125Sを不良ノズル125Bに変更することで、初期ノズル設定後にインクの吐出精度が低下した予備ノズル125Sを使用ノズル125SAの候補から外しておくことができる。
【0148】
また、ノズル補完設定において、上記使用ノズル125SAに変更する予備ノズル125Sの選び方は種々の方法が考えられる。例えば、ノズル補完設定において、使用ノズル125A、125SAから不良ノズル125Bに変更されたノズルに最も近い予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更してもよい。具体的には、
図10(b)に示すように、不良ノズル125Bに変更された2つの×印のノズルのうち、右側の不良ノズル125Bに対して、その左右に位置する予備ノズル125Sのうち、より近い左側の予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更する。
【0149】
前述のように、塗布されたインクの塗布領域15aに沿った流動には限界があるが、上記の方法により、塗布不可位置16dに最も近い位置に代替塗布位置16eを設定でき、塗布領域15a内のインク塗布厚のばらつきを抑制することができる。なお、使用ノズル125A、125SAから変更された不良ノズル125Bの位置が、副画素SPR、SPG、SPBの形成位置内にある場合は、同じ副画素SPR、SPG、SPBの形成位置内にある予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更することが好ましい。これにより、インク塗布厚のばらつきをさらに抑制することができる。なお、同じ副画素SPR、SPG、SPBの形成位置内に予備ノズル125Sが存在しない場合は、最も近い予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更すればよい。
【0150】
また、ノズル補完設定においては、行った検査結果により、予備ノズル125Sに優先順を付与し、使用ノズル125A、125SAから不良ノズル125Bに変更されたノズルに近接する2以上の予備ノズル125Sのうち、優先順の最も高い予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更してもよい。
図11において、使用基準を前述の例と同様にした際、列L1〜L3、L5、L7〜L9に吐出を行ったノズル125は使用基準内となるが、これらのノズル125であっても、その吐出精度にはばらつきがある。
【0151】
まず、列L1では、すべての塗布位置16bにおいて目標位置51Tとのずれが小さい。また、列L9、L3、L2では、それぞれ1つ、2つ、3つの塗布位置16bにおいて目標位置51Tとのずれが発生している。また、列L5、L7、L8では、4つの塗布位置16bにおいて目標位置51Tとのずれが発生している。ただし、列L5、L8では、当該ずれの方向はすべて同じ傾向を有しており、列L7では、当該ずれの方向は各回でばらばらである。
【0152】
このとき、使用基準内の各ノズル125は、例えば、吐出を行った列を基準に、吐出精度の高い順にL1>L8>L5>L9>L3>L2>L7と評価できる。ここで、L8はインクの吐出タイミングを調整すれば、L1と同様の結果が得られるため、L1に次ぐ評価となっている。また、L5は塗布領域15aの形状から、Y方向についてのずれの影響は小さいことを考慮し、X方向についてのずれが発生するL9、L3、L2よりも評価が高くなっている。このようにすれば、上記の吐出精度を基準に、予備ノズル125Sの優先順を付与できる。例えば、L1、L5、L9が予備ノズル125Sであった場合は、L1>L5>L9の順に優先順を付与する。
【0153】
図12は、上記優先順を用いたノズル補完設定を説明する模式平面図である。
図12において、ノズル補完設定前は、
図10(a)と同じ使用ノズル125A、予備ノズル125Sの配置であったとする。次に
図12では、ノズル補完設定において、1つの使用ノズル125A(右から6番目のノズル)が不良ノズル125Bに変更されたとする。このとき、当該不良ノズル125Bに近接する予備ノズル125Sは左右に一つずつ存在するが、左の予備ノズル125Sの優先順の方が高ければ、不良ノズル125Bからの距離に関わらず、左の予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更する。これにより、ノズル補完設定後のインク塗布において、より吐出精度の高いノズル125を使用でき、インクの塗布不良、塗布むらの発生を抑制できる。
【0154】
また、ノズル補完設定においては、行った検査結果が使用基準内であった不良ノズル125Bを予備ノズル125Sに変更することが好ましい。初期ノズル設定やノズル補完設定において、不良ノズル125Bに選定されたノズルであっても、時間の経過とともにノズル125の開口部や液室125cの状態が変化することで、インクの吐出精度が向上する場合がある。
【0155】
例えば、
図11において、前述の使用基準例では、列L4、L6、L10、L11に吐出を行ったノズル125は不良ノズル125Bに選定される。ただし、すべての塗布位置16bが目標位置51Tから完全に外れている列L10に比べ、列L4、L6、L11では完全に外れている又はインクが分離しているのは一箇所だけである。もし、この1箇所の吐出不良が、ノズル125要因によるものではない場合や、経時的に解決する要因によるものである場合、当該ノズル125の吐出精度はその後向上する可能性が高い。上記要因の具体例としては、例えば、検査用基板51に付着した異物によって塗布位置16bのずれが大きくなった場合や、ノズル125に固形化したインクが付着して塗布位置16bのずれが大きくなったものの、当該固形化したインクがインクの吐出の際に同時に吐出された場合などが考えられる。特に、
図11の列L6では、目標位置51Tから完全に外れている上から1つ目の塗布位置16bは、インクの塗布面積が他より大きく、上記異物の存在や固形化したインクの吐出が想定される。よって、列L6に吐出を行った不良ノズル125Bは、その後に吐出精度が向上する可能性がある。
【0156】
よって、このような不良ノズル125Bについて、検査によって吐出精度が向上していることが確認できた場合は予備ノズル125Sに変更し、使用ノズル125SAの候補に追加しておくことが好ましい。これにより、予備ノズル125Sの数が増え、予備ノズル125Sが不足するまでの期間を延長できる。
【0157】
なお、ノズル補完設定において予備ノズル125Sの数が不足する場合、すなわち、検査結果により使用ノズル125Aから不良ノズル125Bに変更されたノズルの数が、存在する予備ノズル125Sの数よりも多い場合は、ノズル125のメンテナンスを行う。これにより、不良ノズル125Bの吐出精度を向上し、予備ノズル125Sの候補を確保する。そして、メンテナンス後に、再度初期ノズル設定を行うことで、当該候補を予備ノズル125Sに変更できれば、インク塗布を再開することができる。ただし、上記メンテナンスは、予備ノズル125S不足が発生する前に定期的に行っても良い。
【0158】
4.変形例
以上、本発明の一態様として、パネル10の製造方法について説明したが、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の説明に何ら限定を受けるものではない。以下では、本発明の他の態様例として、有機EL表示パネルの製造方法における変形例を説明する。なお、以下において、上記説明に記載されたものと同じものについては、同じ符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0159】
(1)初期ノズル設定
図10(a)では、初期ノズル設定において、予備ノズル125Sを設定する一定の間隔D1は、隣接する第1電極12の中心間の距離D2と等しくしたが、これに限られず、D1>D2、D1<D2となってもよい。
図13はD1<D2となる変形例に係る初期ノズル設定を説明する模式平面図である。
図13では、画素規制層14間(副画素SPR、SPG、SPBの形成位置)のそれぞれに対し、予備ノズル125Sが二つ以上存在するように設定されている。これにより、不良ノズル125Bが発生した場合に、より近い位置から使用ノズル125SAに変更する予備ノズル125Sを選択でき、塗布領域15a内のインク塗布厚のばらつきをより抑制することができる。なお、
図13の初期ノズル設定では、
図10(a)の初期ノズル設定に比べ、塗布領域当たりのインク塗布数が少なくなるが、これに対しては、各ノズル125の1回のインクの吐出量を増加させるか、インク中の機能性材料の濃度を増加させれば、形成する機能層の膜厚を同等とすることができる。
【0160】
また、
図10(a)では、初期ノズル設定において、予備ノズル125Sを一定の間隔D1ごとに複数設定したが、これに限られず、間隔は不定であってもよい。
図14は当該変形例に係る初期ノズル設定を説明する模式平面図である。
図14では、予備ノズル125Sの間隔が不定となっている。なお、
図10(a)では、初期ノズル設定において、画素規制層14の上方を走査するノズル125を使用ノズル125Aに設定していたが、
図14に示すように、当該ノズル125を予備ノズル125Sに設定しても良い。特に画素規制層14上は、機能層の形成不良によるショートやリークの発生しにくい箇所であり、ここを非塗布位置16cとすることで、上記ショートやリークの発生を低減することができる。
【0161】
(2)隔壁の形状
パネル10は、
図2に示すようにいわゆるラインバンク方式を採用していたが、本発明の一態様に係る有機EL表示パネルの製造方法が有効であるのは、このような構造に限られない。
【0162】
a.副壁の配置
図15は有機EL表示パネル30(以下、「パネル30」という。)の画像表示面の一部を拡大した模式平面図である。パネル30では、パネル10と異なった形状の絶縁層(画素規制層)34及び隔壁層35を備える。
【0163】
画素規制層34は、画素規制層14とは上面形状が異なり、長方形状となっている。これにより、画素規制層34が単純な形状となり、形成が容易となる。
【0164】
隔壁層35は、隔壁15と同様に、Y方向(列方向)に並ぶ第1電極12の列を1列ごとに区切る複数の隔壁35bと、Y方向に並ぶ第1電極12の列を等間隔、具体的には2つの第1電極12ごとに区切る複数の副壁35cとを形成して構成されている。副壁35cを形成することで、有機発光層16Bを形成する際のインク塗布において、隔壁35bを超えてX方向に隣接する塗布領域35aにインクが流出しても、当該インクは副壁35cを超えては流動できないため、混色が発生する範囲を低減できる。パネル30では、上記隔壁層35により、塗布領域35aが、隔壁35b及び副壁35cに囲まれた領域として、X方向(行方向)及びY方向に沿って複数並んでいる。
【0165】
なお、画素規制層34及び隔壁層35は、例えば、フォトリソグラフィ法において、用いるフォトマスクの透光部及び遮光部の形状を適切に設定することで、形成することができる。
【0166】
パネル30の製造方法においても、インク塗布の際にノズル125のうち、不良ノズル125Bに選定されておらず、塗布領域35aの上方を通過するノズルであって、インクを吐出しない予備ノズル125Sが、少なくとも一つ存在する。また、当該インク塗布を、複数の基板11に対して順次行うインクジェット法を用い、当該インクジェット法においては、インク塗布を開始する前に初期ノズル設定を、一定数の基板11に対するインク塗布が完了するごとにノズル補完設定を、それぞれ行う。
【0167】
上記製造方法では、予備ノズル125Sが確保されているため、複数のノズル125のうちに不良ノズル125Bが発生した場合であっても、予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更することで、インク塗布量の低下を補完できる。すなわち、当該製造方法によると、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズル125Bの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0168】
なお、パネル30の製造方法においては、インク塗布の際に、Y方向に沿って並ぶ複数の塗布領域35aのそれぞれに対し、当該塗布領域35aの上方を通過する予備ノズル125Sが少なくとも一つ存在することが好ましい。インク塗布において、塗布されたインクは副壁35cを超えては流動できないが、上記によれば、副壁35cに区切られた塗布領域35aごとに予備ノズル125Sが存在するため、どの塗布領域35aの上方に不良ノズル125Bが発生してもインク塗布量低下の補完を実現することができる。
【0169】
b.ピクセルバンク方式
図16は有機EL表示パネル40(以下、「パネル40」という。)の画像表示面の一部を拡大した模式平面図である。パネル40は、格子状の隔壁層45を備え、いわゆるピクセルバンク方式を採用している。
【0170】
隔壁層45は、第1電極12を1つずつ区切る隔壁45b及び副壁45cから形成され、塗布領域45aが、隔壁45b及び副壁45cに囲まれた領域として、X方向(行方向)及びY方向(列方向)に沿って複数並んでいる。なお、隔壁層45は、隔壁層35において、副壁35cが、Y方向に並ぶ第1電極12の列を、1つの第1電極ごとに等間隔に区切る場合に相当する。隔壁層45は、例えば、フォトリソグラフィ法において、用いるフォトマスクの透光部及び遮光部の形状を適切に設定することで、形成することができる。
【0171】
パネル40の製造方法においても、インク塗布の際にノズル125のうち、不良ノズル125Bに選定されておらず、塗布領域45aの上方を通過するノズルであって、インクを吐出しない予備ノズル125Sが、少なくとも一つ存在する。また、当該インク塗布を、複数の基板11に対して順次行うインクジェット法を用い、当該インクジェット法においては、インク塗布を開始する前に初期ノズル設定を、一定数の基板11に対するインク塗布が完了するごとにノズル補完設定を、それぞれ行う。
【0172】
上記製造方法では、予備ノズル125Sが確保されているため、複数のノズル125のうちに不良ノズル125Bが発生した場合であっても、予備ノズル125Sを使用ノズル125SAに変更することで、インク塗布量の低下を補完できる。すなわち、当該製造方法によると、製造効率の低下を抑制しつつ、簡易な方法で不良ノズル125Bの発生によるインク塗布量の低下を補完できる。
【0173】
なお、パネル40の製造方法においても、インク塗布の際に、Y方向に沿って並ぶ複数の塗布領域45aのそれぞれに対し、当該塗布領域45aの上方を通過する予備ノズル125Sが少なくとも一つ存在することが好ましい。
【0174】
(3)その他
インクジェット装置100では、ノズルヘッド122が1つであったが、一つのインクジェット装置100が、複数のノズルヘッド122を備えても良い。このとき、ノズルヘッド122ごとに、塗布するインクを変更することで、正孔輸送層16A及び各色の有機発光層16Bの形成工程において、同一のインクジェット装置100をインク交換せずに用いることができる。
【0175】
また、インクジェット装置100では、基台111に載置した基板200の上方で、ヘッド部120を移動させることにより、ノズル125を走査したが、ノズルの走査方法はこれに限られない。例えば、固定されたヘッド部に対して基台が移動可能なインクジェット装置を用いて、当該基台の移動により、ノズルを基板に対して相対的に走査させてもよい。
【0176】
図10〜
図14においては説明を簡単にするため、各サブヘッド124にノズル125が3つずつ配置された図を用いたが、各サブヘッド124におけるノズル125の数はこれに限られず、例えば数百個などの多数であってもよいし、1個であってもよい。また、ノズル125がサブヘッド124を介さず、ノズルヘッド122に直接配置されていてもよい。
【0177】
また、
図10〜
図14においては、各サブヘッド124の長手方向がX方向(走査方向)に対して傾くことで、基板11又は検査用基板51の上方で列状に並ぶノズル125(ノズル列)をY方向(列方向)に沿って複数配置したが、このようなノズル列は1つであってもよい。なお、ノズル125が列状に並ぶ方向は、XY平面に平行な面内で、X方向(走査方向)に対して傾く方向であればよい。
【0178】
また、パネル10、30、40では、隔壁がY方向に沿って並ぶ第1電極12の列を区切るように形成されたが、隔壁がX方向、すなわち基板11の長辺方向に沿って並ぶ第1電極12の列を区切るように形成されてもよい。この場合、インク塗布の際に、
図7において、基台111上で基板200を90度回転させ、ノズルヘッド122の長手方向をX方向と平行にし、各ノズル125の走査方向をY方向と平行にすればよい。
【0179】
また、パネル10、30、40では、第1電極12が並ぶ行方向及び列方向は基板11上面の長辺方向(X方向)及び短辺方向(Y方向)と平行であったが、これに限られず、第1電極12が並ぶ行列の形状は、基板11上面形状とは独立して形成可能である。
【0180】
また、パネル10では、インクジェット法、すなわち複数のノズル125による塗布領域15aへのインク塗布によって形成した機能層は、正孔輸送層16A、有機発光層16Bであったが、当該機能層はこれに限られない。パネル10の製造方法においては、少なくとも一つの機能層が、インクジェット法により形成されればよく、当該機能層は、有機発光層、正孔・電子注入層、正孔・電子輸送層、正孔・電子阻止層、バッファ層などのいずれであってもよい。また、インクジェット法により形成する機能層は、副画素SPR、SPG、SPBごとに一つであってもよいし三つ以上であってもよい。例えば、当該機能層を正孔輸送層及び有機発光層の一方のみとし、他方は乾式プロセスを用いて形成してもよい。この際、乾式プロセスで形成する機能層の形状は任意であって、例えば、副画素ごと又は塗布領域ごとに独立して形成されてもよいし、複数の副画素又は複数の塗布領域に共有されるように形成されてもよい。また、例えば、当該機能層を有機発光層16Bのみとし、正孔輸送層16Aは形成しない構成であってもよい。さらに、例えば、正孔注入層13や電子輸送層17が湿式プロセスを用いて塗布領域15aに形成される構成であってもよい。
【0181】
また、パネル10の製造方法では、副画素列LR、LG、LBに、それぞれ赤色、緑色、青色に発光する有機発光材料を含む有機発光層16Bを形成する3色塗り分け方式を採用したが、フルカラーの対応方法はこれに限られない。例えば、副画素列LR、LG及びLBに青色に発光する有機発光材料を含む有機発光層を形成し、その上方に、蛍光層などの波長変換層を配置して、副画素列LRでは青色の発光を赤色に、副画素列LGでは青色の発光を緑色に変換する波長変換方式を採用してもよい。また、例えば、上記において波長変換層の代わりにカラーフィルタ層を配置してもよい。
【0182】
また、基板11や検査用基板51では、その上面を長方形状としたが、これに限定されず、例えば、三角形、正方形、五角形などの多角形、円形、楕円形、またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。
【0183】
また、パネル10、30、40では、赤色、緑色、青色にそれぞれ発光する副画素SPR、SPG、SPBが配列されていたが、副画素の組み合わせはこれに限られず、例えば赤1色や、赤色、緑色、青色及び黄色の4色であってもよい。また、一つの画素Pにおいて、副画素は1色あたり1個に限られず、例えば青色の副画素SPBが2つなど、各色の副画素が複数配置されてもよい。また、画素Pにおける副画素の配列は、赤色、緑色、青色の順番に限られず、これらを入れ替えた順番であってもよい。
【0184】
また、パネル10では、第1電極12を陽極、第2電極18を陰極としたが、これに限られず、第1電極を陰極、第2電極を陽極とする逆構造であってもよい。
【0185】
また、パネル10、30、40では、塗布領域には、有機EL素子を形成したが、一部において、第2電極18が有する抵抗成分による電圧降下の影響を低減するためのバスバー(補助電極)を形成してもよい。
【0186】
また、パネル10では、トップエミッション型かつアクティブマトリクス方式の有機EL表示パネルとしたが、これに限られず、例えばボトムエミッション型又はパッシブマトリクス方式を採用してもよい。
【0187】
また、パネル30では、Y方向に並ぶ第1電極12の列を、2つの第1電極12ごとの等間隔に区切るように副壁35cを配置したが、副壁35cのY方向の間隔はこれに限られず、3つ以上の第1電極ごとの等間隔であってもよい。
【0188】
なお、上記変更の際は、パネルの構成・製造方法も適宜変更される。