(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387650
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】セラミックス基板の内部欠陥検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
G01N21/88 H
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-70472(P2014-70472)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190957(P2015-190957A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩和
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−075551(JP,A)
【文献】
特開昭63−163152(JP,A)
【文献】
特開2004−012239(JP,A)
【文献】
特開平02−010256(JP,A)
【文献】
特開平09−311109(JP,A)
【文献】
特開2001−099789(JP,A)
【文献】
特開平06−281589(JP,A)
【文献】
米国特許第05424536(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーモジュール用基板に用いられるセラミックス基板の内部欠陥検査方法であって、
光照射手段として、直線偏光されたレーザーを照射するレーザー照射装置を用い、前記光照射手段から直線偏光させた光を前記セラミックス基板に照射し、このセラミックス基板を透過した光を前記光照射手段の直線偏光を消光する配置に設けた偏光子を通すことにより、該偏光子を通過した光から前記セラミックス基板中の内部欠陥を検出することを特徴とするセラミックス基板の内部欠陥検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の絶縁基板として用いられるセラミックス基板に生じるボイド等の内部欠陥を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール用基板で用いられる絶縁基板では、素子の高出力化に伴う発熱密度の増大に対応させるために効率的に放熱する必要がある。一般にこのような基板では、半導体チップがAl、Cu等の金属回路層を介してセラミックス表面に設けられ、セラミックスの裏面には、Al等からなる放熱層、ヒートシンクが設けられた構造になっている。半導体チップが発熱すると、この熱はセラミックスから放熱層を伝わってヒートシンクから放熱される。
このようなセラミックス基板において、セラミックス基板中にボイド(微小な空洞、気孔)、クラック等が存在すると、このボイド等が起点となって部分放電により絶縁破壊が生じるおそれがあり、基板としての信頼性が低くなる。そのため、この種のセラミックス基板では、セラミックス中に含まれるボイド等の内部欠陥を予め検出することが必要になり、この内部欠陥の検出には非破壊によりセラミックス基板を検査する必要がある。
【0003】
従来、対象の試料を非破壊で検査する方法としては、例えば、特許文献1の内部欠陥検査方法が開示されている。この検査方法では、超音波で試料を非破壊検査するものであり、超音波が試料内部に伝搬され、内部欠陥から反射或は透過される超音波の振動が光干渉計により検出される。
一方、特許文献2の非破壊検査方法では、X線により非破壊検査するものであり、セラミック成形体の試料にX線が照射され、このX線でセラミック成形体の内部欠陥が検査されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−47607号公報
【特許文献2】特許第3631652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような超音波検査で用いられる超音波顕微鏡や、特許文献2のようなX線検査で用いられるX線装置は、装置全体が大掛かりになり、内部欠陥を検査する作業も煩雑になる。
さらに、何れの場合にも、広範囲の面積を効率的に検査することが難しく、検査に時間を要する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、セラミックス基板のボイド等の内部欠陥を非破壊で検査する方法であり、検査用の装置を小型化しながら簡便に内部欠陥を検出でき、広範囲で効率的に検査することが可能なセラミックス基板の内部欠陥検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミックス基板の内部欠陥検査方法は、パワーモジュール用基板に用いられるセラミックス基板の内部欠陥検査方法であって、
光照射手段として、直線偏光されたレーザーを照射するレーザー照射装置を用い、前記光照射手段から直線偏光させた光を前記セラミックス基板に照射し、このセラミックス基板を透過した光を前記光照射手段の直線偏光を消光する配置に設けた偏光子を通すことにより、該偏光子を通過した光から前記セラミックス基板中の内部欠陥を検出することを特徴とする。
【0008】
直線偏光した光がセラミックス基板を透過するときには、内部欠陥のないセラミックス部分では、内部が均一であるため、直線偏光の状態がほぼ維持された状態で偏光子まで到達する。そのため、この光は偏光子により消光する。
一方、直線偏光をボイド等の内部欠陥が存在する箇所に照射した場合には、セラミックスと内部欠陥との二つの層が存在することになり、その境界付近で光の屈折率が変化することになる。このため、直線偏光した光が内部欠陥の部分で屈折しあるいは反射しながらセラミックス基板内を透過して偏光子まで到達する。この屈折あるいは反射の際に、直線偏光の光の偏光状態に一部歪みが生じ、直線偏光以外の偏光が発生する。この直線偏光以外の偏光状態の光は、直線偏光を消光するための偏光子によって消光されることがなく、偏光子を通過するので、この光を検出することにより内部欠陥の存在を検出することができる。
これにより、直線偏光した光を照射して、偏光子を介して観察するという、簡便かつコンパクトな検査装置により内部欠陥の検出が可能になる。
また、レーザー照射装置を用いることで、光照射手段に偏光子を用いなくとも内部欠陥を検出することが可能である。
【0009】
なお、前記光照射手段として、非偏光光源と、この非偏光光源からの光を前記セラミックス基板に直線偏光させて照射する光源側偏光子とを用いる
方法もある。
光照射手段として自然光やハロゲン光源等の人工の光を利用することでコスト的にも有利になる。非偏光を利用した場合、光源側の偏光子と直線偏光を消光する偏光子(検査側偏光子とする)とは、偏光状態が垂直関係になる配置であればよいため、光源側偏光子と検査側偏光子とを同じものを用いてその配置を変えるのみで容易に内部欠陥を検出可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセラミックス基板の内部欠陥検査方法によれば、セラミックス基板の内部欠陥を非破壊で検査できるとともに、光照射手段と偏光子とを用いた単純な検査装置であり、小型化しながら簡便にボイドやクラック、割れ等の内部欠陥を検出することができる。しかも、一度に照射する直線偏光の光の照射範囲を広くすることで、広範囲にわたって内部欠陥を効率的に検査することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の内部欠陥検査方法による検査装置の一例を示した模式図である。
【
図2】セラミックス基板を用いた絶縁基板の一例を示した模式図である。
【
図3】本発明の検査方法を用いたセラミックス基板のボイド検査結果を示した写真である。
【
図4】通常の光を照射してセラミックス基板を観察した場合の写真である。
【
図5】内部欠陥検査方法による検査装置の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセラミックス基板の内部欠陥検査方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のセラミックス基板の内部欠陥検査方法に使用される検査装置の一例を示している。この検査装置1は、光照射手段2と、検査側偏光子3と、光観察手段4とを備えており、光照射手段2から光をセラミックス基板10に照射し、反射した光をハーフミラー5により取り出し、検査側偏光子3を介して光観察手段4で観察する構成である。
【0014】
この検査装置1において、光照射手段2は、非偏光光源20と、照射側偏光子21とを有している。非偏光光源20は、例えば自然光やハロゲンランプ等の人工光からなり、照射側偏光子21に向けて非偏光の光を照射する。照射側偏光子21は、非偏光光源20からの光を通過させることで、自然光(非偏光)から特定の方向の振動のみを取り出して直線偏光させるものである。したがって、これら非偏光光源20と照射側偏光子21とを組み合わせた光照射手段2により、直線偏光の光を照射することができる。
【0015】
一方、検査側偏光子3は、照射側偏光子21と同じ機能を有しつつ、光照射手段2の直線偏光を消光するようにクロスした配置に設けられている。すなわち、例えば、照射側偏光子21から垂直方向の成分のみを有する直線偏光が得られる場合、この直線方向の成分のみを吸収する向きに回転された状態で検査側偏光子3が配置される。また、照射側偏光子21から水平方向の成分のみを有する直線偏光が得られる場合には、水平方向の成分のみを吸収する向きに検査側偏光子3が配置される。
【0016】
光観察手段4は、検査側偏光子3を通過した光を観察するものであり、この検査側偏光子3が前述したように照射側の直線偏光を消光するように配置されていることから、その直線偏光以外の偏光の光を観察することになる。
この光観察手段4としては、例えば、光学顕微鏡を備えており、この光学顕微鏡で捉えた画像をデジタル処理するコンピューター、その検出状態を表示するモニター等の適宜の構成により設けられる。
【0017】
ハーフミラー5は、光照射手段2とセラミックス基板10との間の光の進路上に45°の傾斜角度で配置される。ハーフミラー5は、透過率と反射率とが等しくなる性質を有しており、その反射角度(45°)により光照射手段2からの直線偏光をセラミックス基板10側に透過させ、このセラミックス基板10から反射した光を検査側偏光子3の方向に向きを変えるように設けられる。
なお、
図1に示す例では、セラミックス基板10で光を反射させ、その反射光を観察するように構成したが、セラミックス基板10を透過させ、透過した光を観察するようにしてもよい。
【0018】
検査装置1により検査されるセラミックス基板10について説明しておくと、
図2は、そのセラミックス基板10が用いられた絶縁基板30の一例を示している。
絶縁基板30は、一般的なパワーモジュール基板の構成を成しており、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等からなるセラミックス基板10の一方の面に、Al又はCuからなる回路層31がろう付け等により接合され、セラミックス基板10の他方の面にAl等からなる放熱層32がろう付け等により接合されている。回路層31の上に半導体素子33が搭載され、放熱層32にヒートシンク34が接合される。
【0019】
上記のように構成した検査装置1によってセラミックス基板10の内部欠陥を検査する方法について説明する。
図1に示すように、検査装置1の光照射手段2から直線偏光した光をセラミックス基板10に照射し、このセラミックス基板10の内部を通過し反射して得られる光をハーフミラー5により検査側偏光子3に通し、この検査側偏光子3を通過した光を光観察手段4により観察する。この
図1において、破線は、光照射手段2から照射された直線偏光のルートを示しており、矢印は光の進む方向を示している。
【0020】
セラミックス基板10のボイド等の内部欠陥11が存在しない部分では、セラミックス基板10内が均一であることから、直線偏光が大きく歪んだり回転することなく反射し、直線偏光の状態がほぼ維持された状態で検査側偏光子3に到達する。そして、この光は、直線偏光を消光するための検査側偏光子3を通過することで消光される。
一方、セラミックス基板中10にボイド等の内部欠陥11が存在する場合には、直線偏光はセラミックス基板10内の内部欠陥11に到達したときに、セラミックス基板10と内部欠陥11との境界面で光の屈折率が大きく変わるため、この境界部分で直線偏光の一部がその境界面での屈折や反射により歪められ、直線偏光以外の偏光の光に変化しながら反射することになる。このため、この反射した光が検査側偏光子3を通過する際に、消光しないで通過する光が生じる。
そして、この検査側偏光子3を通過した光を観察することにより、この光をセラミックス基板中10の内部欠陥11として識別することができる。この場合、例えば、光照射手段2によりセラミックス基板10をスキャンしながら、ラインカメラで撮像する、あるいはCCDカメラで全体を面状に撮像する等により、広範囲の検査を行うことができる。
【0021】
図3は、本発明の検査方法によりセラミックス基板のボイドを検査した結果の写真を示している。セラミックス基板にボイドが存在する場合、このボイドにより偏光状態が変化した光が検査側偏光子を通過し、元の直線偏光の光は消光するので、ボイドのない部分は黒く、ボイドの部分は、その形状に合わせて白い塊状の光として検出される。この
図3の写真の場合、ボイドの直径は約100μmであった。
【0022】
この場合、セラミックス基板表面の凹凸や内部の粉末粒子の粒界等により直線偏光が屈折したり散乱しながら反射するが、これら凹凸や内部粒子の場合は、ボイド等の内部欠陥により生じる偏光状態の広範囲の変化に比較して、極わずかな粒子レベルの点状での変化であり、内部欠陥による光との識別は容易になる。さらに、前述のコンピューターによる白黒二値化処理により、内部欠陥によらない微細な光を誤差として取り除くようにしてもよい。
【0023】
一方、
図4は、
図3の比較例として、光源側偏光子21及び検査側偏光子3を設けない状態でセラミックス基板に光を照射して観察した写真を示している。この場合、非偏光がセラミックス基板に照射されると、セラミックス基板の単独部分やボイドを含有する部分の何れの場合においても、照射部分全体で光が屈折や散乱するため、表面の凹凸のみが撮像されてボイドを識別することはできない。
【0024】
このように、本発明では、直線偏光をセラミックス基板10に照射し、反射または透過した光に対して直線偏光を消光する配置の検査側偏光子3を介在させることで直線偏光を消光させ、かつ、直線偏光以外の偏光状態の光を検出することでボイド等の内部欠陥11を検出しており、大型の超音波顕微鏡やX線装置を用いることなく、コンパクト化した検査装置1によりセラミックス基板1の内部欠陥11を非破壊で簡便に検査することができる。さらに、光をセラミックス基板10表面の所定範囲に照射できることで、一度に照射する直線偏光の範囲を広くして効率的に検査することができ、検査に要する手間を省き、検査時間も短縮できる。
【0025】
図5は、検査装置の他の例を示している。なお、この例において、上述した実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。
この検査装置40では、光照射手段41がレーザー照射装置からなっており、このレーザー照射装置41により、例えば垂直偏光に直線偏光されたレーザー光を照射可能になっている。
【0026】
このようにレーザー照射装置41で直線偏光をセラミックス基板10に直接照射できるため、光源側偏光子を不要にしながら、検査側偏光子3で内部欠陥を検査することができる。
レーザー光を用いて、内部欠陥を検査する場合には、光観察手段4としてラインカメラを用い、ラインカメラの視野をカバーし、かつレーザー光の照射強度分布がほぼ均一になるよう光学系を設けることで、効率的に内部欠陥を検査することができる。
また、この例では、セラミックス基板10から反射した光ではなく、セラミックス基板10を透過させた光を検出するように構成されている。このため、ハーフミラーも必要ない。このように、この検査装置40は、より簡便な構造になり、全体もより小型化できる。この場合、セラミックス基板10が極薄状であることから、光を透過させる場合でも反射の場合と同様にして高精度に内部欠陥11を検査することができる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1、40 検査装置
2 光照射手段
3 検査側偏光子
4 光観察手段
10 セラミックス基板
11 ボイド
20 非偏光光源
21 照射側偏光子
41 レーザー照射装置