(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387764
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】締結装置
(51)【国際特許分類】
B23P 19/06 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
B23P19/06 K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-195157(P2014-195157)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-64475(P2016-64475A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐規
【審査官】
八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−93243(JP,A)
【文献】
米国特許第6003229(US,A)
【文献】
特開平8−297016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にm個の凹部を有するベアリングナットと、前記凹部と係合可能な凸部を外周にn個有する菊ワッシャーとからなる締結部材を、前記締結部材を覆うソケットを介して前記ベアリングナットを軸状体の雄ネジ部に締め付けることで、前記軸状体に部材を固定する締結装置において、
a×b=m×nの関係を満たす自然数a及びbを選択し、
前記ソケットに、前記軸状体と同軸の仮想円に外接するa本の直線状の貫通溝が周方向に等間隔で形成された中空円盤体を一体として取り付けるとともに、発光部から受光部へ至る光路が前記仮想円に外接するb台のレーザーセンサを、前記中空円盤体の外部に周方向に等間隔で固定し、
前記軸状体に対する前記菊ワッシャーの移動を規制する移動規制手段を設けたことを特徴とする締結装置。
【請求項2】
前記aが前記nと等しく、かつ前記bが前記mと等しい請求項1に記載の締結装置。
【請求項3】
前記移動規制手段が、前記n個の凸部の外縁を前記ベアリングナットが存在する方向とは逆の軸方向へ押圧する第1押圧面と、該n個の凸部の外縁を径方向内側へ押圧する第2押圧面とを内周に有する該軸状体の外部に固定された環状体である請求項1又は2に記載の締結装置。
【請求項4】
前記貫通溝の溝幅と、前記発光部が発光するレーザー光のスポット径とが同一である請求項1〜3のいずれか1項に記載の締結装置。
【請求項5】
前記ソケットを回転駆動する駆動軸の動作を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記駆動軸に加わるトルクが予め設定された目標値になるまで予め設定された回転速度で回転させた後に、前記回転速度よりも低い回転速度で該駆動軸を回転させ、前記b台のレーザーセンサのうちのいずれか1台の前記受光部がレーザー光を検出したときに該駆動軸を停止させる制御を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は締結装置に関し、更に詳しくは、ベアリングナット及び菊ワッシャーからなる締結部材におけるベアリングナットの凹部と菊ナットの凸部との位相を、目視で確認することなく正確に合わせることができる締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型車のトランスミッション(例えば、特許文献1を参照)においては、回転軸に軸受を固定するために、ベアリングナット及び菊ワッシャーからなる締結部材が用いられている。この締結部材を用いた固定作業においては、ナットランナーにより回転軸の端部側からベアリングナットをソケットを介して締め付けた後に、ベアリングナットの凹部と位相が合った菊ワッシャーの凸部を折り曲げて係合させることで、軸受の最終的な固定が行われる。
【0003】
しかしながら、上記の固定作業においては、締結部材がソケットにより隠されてしまう上に、回転軸に対して菊ワッシャーが自由に移動してしまうため、ベアリングナットの凹部と菊ワッシャーの凸部の位相を正確に合わせることが困難であった。
【0004】
作業者がトルクレンチを用い締付トルクまで締め付けを行ってから、一度ソケットを取り外し、締結部材の状態を目視で確認しつつ増し締めを行っている。しかし、そのような行為を行うと、作業時間が長くなってトランスミッションの製造コストが増加してしまうとともに、最終的な軸受の締め付けトルクの確認及び記録が困難になるため、トランスミッションの品質を向上させることが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−294044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ベアリングナット及び菊ワッシャーからなる締結部材を用いた固定作業において、ベアリングナットの凹部と菊ナットの凸部との位相を、目視で確認することなく正確に合わせることができる締結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の締結装置は、外周にm個の凹部を有するベアリングナットと、前記凹部と係合可能な凸部を外周にn個有する菊ワッシャーとからなる締結部材を、前記締結部材を覆うソケットを介して前記ベアリングナットを軸状体の雄ネジ部に締め付けることで、前記軸状体に部材を固定する締結装置において、a×b=m×nの関係を満たす自然数a及びbを選択し、前記ソケットに、前記軸状体と同軸の仮想円に外接するa本の直線状の貫通溝が周方向に等間隔で形成された中空円盤体を一体として取り付けるとともに、発光部から受光部へ至る光路が前記仮想円に外接するb台のレーザーセンサを、前記中空円盤体の外部に周方向に等間隔で固定し、前記軸状体に対する前記菊ワッシャーの移動を規制する移動規制手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の締結装置によれば、ベアリングナットとともに回転する中空円盤体に形成された複数本の貫通溝と、ベアリングナットに対して固定された複数台のレーザーセンサとの組み合わせにより、凹部と凸部の位相が合う基準を周方向に設けるようにしたので、ベアリングナット及び菊ワッシャーからなる締結部材を用いた固定作業において、ベアリングナットの凹部と菊ワッシャーの凸部の位相を、目視で確認することなく正確に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態からなる締結装置の側面からの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態からなる締結装置を示す。
【0011】
この締結装置は、ナットランナー1の駆動軸2に着脱可能に接続された筒状のソケット3を、ベアリングナット4及び菊ワッシャー5からなる締結部材6におけるベアリングナット4に外嵌させてトランスミッションの回転軸7に形成された雄ネジ部に締め付けることで、その回転軸7に軸受8を固定するものである。
【0012】
ナットランナー1は、モーター又はアクチュエータを駆動源とし、駆動軸2を制御する制御装置9と、駆動軸2に加わるトルクを検出するトルク計10とを備えている。トルク計10の検出値は、制御装置9に記録されるようになっている。
【0013】
ベアリングナット4の外周には、
図2に示すように、周方向に等間隔でm個(この例では4個)の矩形状の凹部11が形成されている。また、菊ワッシャー5の外周には、
図3に示すように、ベアリングナット4の凹部11に係合可能な矩形状の凸部12が、周方向に等間隔でn個(この例では17個)が形成されている。それらのn個の凸部12は、軸方向に向けて跳ね上げられている。
【0014】
これらのベアリングナット4の凹部11のうちの少なくとも1個と、菊ワッシャー5の凸部12のうちの少なくとも1個とは、ベアリングナット4が菊ワッシャー5に対して1回転すると、m×n回(この例では68回)だけ位相が合う関係にある。
【0015】
締め付け後においてベアリングナット4の凹部11と位相が合った菊ワッシャー5の凸部12を人力で折り曲げて、その凹部11に係合させることで、最終的な固定が行われるようになっている。
【0016】
なお、ベアリングナット4の凹部11の個数mと、菊ワッシャー5の凸部12の個数nとは、特に限定するものではないが、一般的には、m≠nかつ奇偶が異なる自然数が用いられる。
【0017】
このような締結装置において、ソケット3の上面には、内孔を駆動軸2が貫通する中空円盤体13が、ソケット3と一体となるように取り付けられている。この中空円盤体13の表面には、
図4に示すように、回転軸7と同軸の仮想円14に外接するa本(この例では17本)の直線状の貫通溝15が、周方向に等間隔で形成されている。この貫通溝15の両端は、中空円盤体13の外部に開口している。なお、仮想円14の大きさは、中空円盤体13内に位置するものであれば、特に限定するものではない。
【0018】
また、
図5に示すように、中空円盤体13の外部には、発光部16Aから受光部16Bへ至る光路17が、上記の仮想円14に外接するb台(この例では4台)のレーザーセンサ16が、周方向に等間隔で配置されている。これらのb台のレーザーセンサ16は、ソケット3及び中空円盤体13の回転に拘わらず常に定位置となるように、締結装置の架台18に立設された支持柱19上に固定されている。b台のレーザーセンサ16の受光部16Bは、制御装置9に信号線20を通じてそれぞれ接続されている。
【0019】
なお、a及びbは、a×b=m×nの関係を満たす自然数であり、上記の例のように、a=nかつb=mの組み合わせに限定されるものではない。
【0020】
これらの中空円盤体13のa本の貫通溝15と、b台のレーザーセンサ16との組み合わせにより、ソケット3が外嵌するベアリングナット4を基準として、周方向にm×n(この例では68)だけ等分割された基準が設けられることになる。
【0021】
更に、回転軸7に対する菊ワッシャー5の移動を規制する移動規制手段である環状体21が、締結装置の架台18に固定されている。この環状体21の下部には、
図6に示すように、菊ワッシャー5に向けて突出する突出部21aが形成されている。その突出部21aの内周には、
図7に示すように、菊ワッシャー5の凸部12の外縁に当接して、その凸部12をベアリングナット4とは逆の軸方向(
図1における下方)へ押圧する水平面22と、その凸部12を径方向内側へ押圧する垂直面23とが、それぞれ形成されている。
【0022】
このような締結装置における制御装置9の制御内容を以下に説明する。
【0023】
まず、制御装置9は、ソケット3に接続するナットランナー1の駆動軸2を、トルク計10の検出値が予め設定された目標値(例えば、100〜300Nm)になるまで、予め設定された回転速度(例えば、20〜30rpm)で回転させて、ベアリングナット4を回転軸7に形成された雄ネジ部に締め付ける。
【0024】
次に、ナットランナー1の駆動軸2を、より低い回転速度(例えば、1〜10rpm)で回転させる。このとき、菊ワッシャー5は、環状体21により回転軸7に対する移動が規制されているため、回転しているベアリングナット4の凹部11に対して、凸部12は常に同じ位置に固定されている。
【0025】
そして、b台のレーザーセンサ16のうちのいずれか1台の受光部16Bが、中空円盤体13の貫通溝15内を通過したレーザー光を検出したときに駆動軸2の回転を停止させるとともに、そのときのトルク計10の検出値を記録する。
【0026】
このようにすることで、ベアリングナット4が菊ワッシャー5に対して、凹部11が凸部12に係合する最小の角度まで正確に回転するので、ベアリングナット4の凹部11と菊ナットの凸部12の位相を、目視で確認することなく正確に合わせることができるのである。
【0027】
また、ソケット3を取り外すことなくナットランナー1のみを用いて、ベアリングナット4及び菊ワッシャー5からなる締結部材6の位相合わせのためのトルクの増加量を最小にして過剰な増し締めを抑制しつつ、回転軸7に軸受8を最終的に固定する最終トルク値が得られるので、トランスミッションの製造コストの低減と品質向上とに資することが可能となる。
【0028】
上記の実施形態においては、中空円盤体13の貫通溝15の溝幅と、レーザーセンサ16の発光部16Aが発光するレーザー光のスポット径とを同じにすることが望ましい。そのようにすることで、レーザー光が貫通溝15内で乱反射することがなくなるので、受光部16Bにおけるレーザー光の検出精度が高くなって、ベアリングナット4の凹部11と菊ナットの凸部12の位相を、より正確に合わせることができる。
【0029】
なお、上記の実施形態においては、貫通溝15の本数aと、レーザーセンサ16の台数bとを入れ替えることも可能である。
【0030】
本発明の締結装置の適用対象は、トランスミッションの回転軸7及び軸受8に限るものではなく、他の軸状体及び部材の組み合わせであっても良い。
【符号の説明】
【0031】
3 ソケット
4 ベアリングナット
5 菊ワッシャー
6 締結部材
7 回転軸
8 軸受
9 制御装置
11 凹部
12 凸部
13 中空円盤体
14 仮想円
15 貫通溝
16 レーザーセンサ
16A 発光部
16B 受光部
17 光路
21 環状体
22 水平面
23 垂直面