特許第6387776号(P6387776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387776脱リンスラグからのリン酸肥料原料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387776
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】脱リンスラグからのリン酸肥料原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20180903BHJP
   C05B 13/02 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C21C1/02 110
   C05B13/02
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-205642(P2014-205642)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-74940(P2016-74940A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【弁理士】
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(72)【発明者】
【氏名】坂元 基紘
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/092537(WO,A1)
【文献】 特開2008−100915(JP,A)
【文献】 特開昭57−073117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/02
C21C 5/28−5/50
C25B 1/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑中のリン濃度が0.5〜4質量%である溶銑に、CaOとSiO2の質量比を示す指標である塩基度が0.8〜1.5で、かつ、酸化鉄濃度がt.Fe濃度で10質量%以上を含有するフラックスを添加するとともに酸素を吹き込んで、処理終了時の温度を1200℃以上1450℃以下の範囲とする脱リン処理を行い、
当該脱リン処理の途中でスラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になった後に、さらに副材(生石灰や、脱リン及び脱炭等で生成するスラグ等のCaO含有物質)を添加することによって、CaOとSiO2の質量比である塩基度αを1.5以上3.0以下に調整し、かつ、酸化鉄(Fe換算)濃度を5〜25質量%にした脱リンスラグとし、
上記脱リンスラグを、当該脱リン処理の終了時の温度である1200〜1450℃から600℃まで、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上の冷却速度で冷却した際、析出するリン含有鉱物相が、固溶体相(Ca3(PO42−Ca2SiO4相、5CaO・SiO2・P25相、又は、7CaO・2SiO2・P25相の総称)となり、上記塩基度に対するリン酸濃度(質量%)の範囲を満足し、かつ、上記固溶体相の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上である
ことを特徴とする脱リンスラグからのリン酸肥料原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑中のリン濃度が高い溶銑を脱リン処理して、リン酸肥料の原料とするのに適した脱リンスラグを製造し、そのスラグを適切に冷却してリン酸肥料の原料を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は降水量が多いので、土壌からミネラル分が流出して、土壌が酸性化し易い。そのため、植物を生育させる際に使用するリン酸肥料には、土壌中のリン酸濃度だけでなく、土壌pHも同時に増加させる塩基性リン酸肥料が広く使用されている。現在、塩基性リン酸肥料として、アルカリ分を多く含む溶成リン肥が利用されている。
【0003】
非特許文献1に示すように、過去には、製鋼法の1つであるトーマス製鋼法で副産物として製造されるトーマスリン肥が、塩基性リン酸肥料としても利用されてきた。しかし、現在は、トーマス製鋼法が衰退したため、トーマスリン肥は使用されていない。
【0004】
現在、高炉から出銑された溶銑は不純物として約0.1%のリンを含んでいるが、リンは、製鋼工程でフラックスを添加し酸素を吹き込むことで酸化除去されて、製鋼スラグとして排出されている。
【0005】
特許文献1に示すように、製鋼スラグのリン酸濃度は1〜4質量%程度であり、リン酸肥料として十分な濃度ではないものの、製鋼スラグ中には、フラックス由来のCaO分や溶銑から酸化除去されたSiO2分が多量に含まれているので、ケイ酸リン酸肥料として利用されている。
【0006】
しかし、現在でもリン酸肥料の原料であるリン鉱石の全量を輸入に依存している我が国では、製鋼スラグ中のリン酸分は有用なリン酸肥料資源として考えられており、特許文献2〜4に示すように、製鋼スラグ中のリン酸分を濃縮して高リン酸スラグを製造し、製鋼スラグからリン酸肥料を製造することが試みられている。
【0007】
ところで、上記リン酸肥料を肥料として使用する際において肥料効果を高めるには、リン酸濃度だけではなく、リンの結晶状態や鉱物相を制御する必要がある。例えば、上記溶成リン肥は、燐鉱石と酸化マグネシウムを融解し混合して、ジェット水流で急冷して製造した肥料であり、リン含有鉱物相を、非晶質、即ち、ガラスにすることにより、肥料効果を高めている。
【0008】
なお、本発明でのリン含有鉱物相とは、肥料中各鉱物相の中でリンが濃化した相を指すこととする。
【0009】
非特許文献1に示すように、トーマスリン肥は、主成分がCaO、P25、及び、SiO2であるので、リン含有鉱物相が、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体相、5CaO・SiO2・P25相、又は、7CaO・2SiO2・P25相(以下、「固溶体相」と総称する場合がある。)である。固溶体相は、肥料効果の高い鉱物相である。
【0010】
非特許文献1には、高P溶銑(P:1.7〜2.1%、C:3.5〜3.8%、Si:0.2〜0.4%)を転炉に装入して、石灰の添加および空気を吹き込むことにより精錬を行い、スラグの塩基度を4〜6とし、そのP25濃度を15〜20%程度として、溶鋼(P:0.08%以下、C:0.10%以下)を製造する方法が記載されている。
【0011】
その方法では、溶銑中の炭素およびリンの酸化反応を利用して炉内の温度を増加させている。その精錬後、生成したスラグは肥料効果の高いリン酸肥料(トーマスリン肥)として利用される。
【0012】
また、特許文献2には、製鋼スラグを還元することにより溶製した高P溶銑(P:0.5〜3%、C:4.5%前後、Si:0.05%前後)に対して、転炉にて塩基度が2〜8のフラックスを添加し、酸化鉄源の添加または気体酸素の吹き込みを行うことによって脱リン処理(処理後温度:1550℃以上)を行い、溶鋼(C:1%以下、P:0.1〜0.2%)とスラグ(塩基度:5〜6、P25濃度:10〜30%)を製造する方法が記載されている。
【0013】
その方法では、前記したトーマス製鋼法と比べて処理対象とする溶銑中のSi濃度を下げているため、生成スラグ量を減らすことによってそのスラグ中のP25濃度の高濃度化が行われている。その方法では、スラグ中のP25濃度の増加によりスラグの融点が下がる効果を利用して、ホタル石を使わないでも、滓化性の良いスラグを得ることができている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5105322号公報
【特許文献2】特開平11−158526号公報
【特許文献3】特開2009−132544号公報
【特許文献4】特開2011−208277号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】日本土壌肥料学雑誌、第13巻、p93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
リン酸肥料の原料であるリン鉱石を海外から輸入している我が国では、溶銑中のリンは非常に魅力的な資源である。溶銑中のリンや製鋼スラグ中のリン酸分を原料として、リン酸肥料を製造することが望まれるが、この場合、リン酸肥料への酸化鉄の混入は不可避となるため、酸化鉄を含んで、リン酸濃度が高く、肥料効果が高いリン酸肥料を開発することが望まれている。
【0017】
但し、リン酸肥料は安価であることが当然望まれており、安価とするためにはその原料とする脱リンスラグを低コストで安定して製造する方法の開発が必要である。さらに、併せてそのスラグを適切に処理して肥料効果が高いリン酸肥料とする方法の開発も必要である。
【0018】
例えば、前述したトーマスリン肥は、CaOとSiO2の重量比で表示する塩基度が4以上と非常に高い組成領域にあり、塩基度が4未満であることが多い製鋼スラグを原料とした場合、必ずしも固溶体相が析出するとは限らず、肥料効果が不明である。
【0019】
さらに、近年では、製鋼法としては現在一般的に行われている上底吹転炉法がコスト的にもエネルギー的にも有利で、さらに不純物濃度が低い溶鋼を得ることが可能であるため、トーマス製鋼法は行われなくなっている。トーマス製鋼法は、精錬対象とする溶銑の初期不純物濃度が高いものであり、その結果精錬後の溶鋼の不純物濃度も高くなる。
【0020】
今回所望しているP25濃度の高いスラグを得るために敢えて高P濃度の溶銑にトーマス製鋼法を利用する場合には、そのための転炉や排ガス処理設備が必要となる。溶銑中Cの酸化反応によりCOガスが大量に発生するため、生成スラグのフォーミングやスロッピングが問題とならぬよう、炉容積が大きい転炉が必要である上に、そのようなCOガスの処理設備も必要となるために、設備費の増大を避けることができない。
【0021】
また、特許文献1には、溶銑予備処理工程で回収されるスラグをケイ酸リン酸肥料として使用することが開示されているが、意図的にリン酸濃度を濃縮する工程がないため、スラグのリン酸濃度が5%以下と低く、リン酸肥料としての肥料効果は低い。
【0022】
特許文献2に開示された技術を用いると、高リン酸スラグを製造することは可能であるが、冷却速度などが明示されておらず、リン酸含有鉱物相などを意図的に制御しておらず、肥料効果が不明である。さらに、この技術を今回所望しているP25濃度の高いスラグを得るために利用する場合には、上記したトーマス製鋼法を利用する場合と同様の転炉や排ガス設備などの問題が存在する。
【0023】
そのため、本発明は、上記状況に鑑み、溶銑中のリン濃度が高い溶銑を脱リン処理して、リン酸肥料の原料とするのに適した脱リンスラグを、転炉設備の使用を前提とせずに合理的に、かつ低コストで製造し、そのスラグを適切に冷却して肥料効果の高いリン酸肥料の原料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記目的を達成するため、成分組成及び製造条件の面で肥料効果の高いリン酸肥料原料について検討を重ね、リン含有鉱物相を肥料効果の観点で整理すると序列があることを見出した。そして、そのようなリン酸肥料の原料とするのに適した脱リンスラグを、溶銑中のリン濃度が高い溶銑を対象として、転炉設備の使用を前提とせずに適切な条件で精錬処理することによって、合理的かつ低コストで製造できることを見出した。さらに、そのようにして製造した脱リンスラグを、適切に冷却することによって、肥料効果の高い鉱物相の析出を促進し、肥料効果の低い鉱物相の析出を抑制し、かつ、酸化鉄を含有しても、肥料効果の高いリン酸肥料を安定的に製造する方法を見出した。
【0025】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0026】
溶銑中のリン濃度が0.5〜4質量%である溶銑に、CaOとSiO2の質量比を示す指標である塩基度が0.8〜1.5で、かつ、酸化鉄濃度がt.Fe濃度で10質量%以上を含有するフラックスを添加するとともに酸素を吹き込んで、処理終了時の温度を1200℃以上1450℃以下の範囲とする脱リン処理を行い、
当該脱リン処理の途中でスラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になった後に、さらに副材(生石灰や、脱リン及び脱炭等で生成するスラグ等のCaO含有物質)を添加することによって、CaOとSiO2の質量比である塩基度αを1.5以上3.0以下に調整し、かつ、酸化鉄(Fe換算)濃度を5〜25質量%にした脱リンスラグとし、
上記脱リンスラグを、当該脱リン処理の終了時の温度である1200〜1450℃から600℃まで、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上の冷却速度で冷却した際、析出するリン含有鉱物相が、固溶体相(Ca3(PO42−Ca2SiO4相、5CaO・SiO2・P25相、又は、7CaO・2SiO2・P25相の総称)となり、上記塩基度に対するリン酸濃度(質量%)の範囲を満足し、かつ、上記固溶体相の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上である
ことを特徴とする脱リンスラグからのリン酸肥料原料の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、酸化鉄を含むが、リン酸濃度が高く、肥料効果の高いリン酸肥料原料を製造するのに適した脱リンスラグを、合理的に、かつ、低コストで製造、その脱リンスラグを適切に冷却することにより、肥料効果の高いリン酸肥料原料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】製鋼工程においてリン酸含有スラグを製造する工程の一例を示す図である。
図2】リン酸濃度及び塩基度とリン含有鉱物相との関係を示す図である。
図3】結晶化度とt.Fe濃度の関係を示す図である。
図4】固溶体相の存在濃度とt.Fe濃度の関係、及び、C3P相の存在濃度とt.Fe濃度の関係を示す図である。
図5】固溶体相又はC3P相の存在濃度と冷却速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の脱リンスラグの製造方法は、溶銑中のリン濃度が0.5〜4質量%である溶銑を、CaOとSiO2の質量比を示す指標である塩基度が0.8〜1.5で、かつ、酸化鉄濃度がt.Fe濃度で10質量%以上を含有するフラックスを用いるとともに酸素を吹き込んで、処理終了時の温度を1200℃以上1450℃以下の範囲とする脱リン処理を行う。
【0031】
その脱リン処理では、その途中でスラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になったと判断した後に、さらに副材(生石灰や、脱リン及び脱炭等で生成するスラグ等のCaO含有物質)を添加することによって、最終的なスラグのCaOとSiO2の質量比である塩基度αを1.5以上3.0以下に調整し、例えば、当該スラグ中のリン酸濃度を8〜(−4α2+23α−4)質量%、かつ、t.Fe濃度を5〜25質量%にすることを特徴とする。
【0032】
さらに、本発明のリン酸肥料原料の製造方法は、本発明に係る脱リンスラグの製造方法によって製造された脱リンスラグを用いて、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有する、1200〜1450℃の溶融スラグを、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却することによって、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有するリン酸肥料原料であって、さらに、前記リン酸肥料原料中、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体相、5CaO・SiO2・P25相、及び、7CaO・2SiO2・P25相の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上であるリン酸肥料の原料を製造することを特徴とする。
【0033】
まず、植物生育用のリン酸肥料の原料(リン酸肥料原料)とするのに適した脱リンスラグ(リン酸含有スラグ)の製造方法について説明する。図1に、製鋼工程において、リン酸含有スラグを製造する工程の一例を示す。
【0034】
図1に示すように、製鋼工程においては、高炉で製造した溶銑であって、通常は、リンを0.08〜0.15質量%含有する溶銑を転炉に移送し、溶銑の上にスラグを形成し、酸素源を吹き込んで、溶銑とスラグの反応で、溶銑の脱リン処理S01を行う。
【0035】
脱リン処理S01によって生成した転炉脱リンスラグ41を転炉から排出し、その後、転炉内の溶銑の上に、再度、スラグを形成し、酸素源を吹き込んで、脱炭処理S02を行う。脱炭処理S02で得られた溶鋼に2次精錬S03を施した後、連続鋳造S04で鋼片を製造する。
【0036】
脱リン処理S01後、転炉から排出される転炉脱リンスラグ41には、溶銑中のリンが酸化したリン酸とともに、多量の鉄分を含んでいる。そこで、転炉脱リンスラグ41から鉄やリン等の有価元素を回収するために、転炉脱リンスラグ41に還元・改質処理S11を施す。
【0037】
還元・改質処理S11においては、転炉脱リンスラグ41を溶融し、還元剤及び改質剤として、微粉炭、Al23源、SiO2源を添加して、リンを0.5〜4質量%と多く含有する高リン溶銑42を製造する。
【0038】
そして、高リン溶銑42に、生石灰やSiO2などを原料としたフラックスを添加し、酸素を吹き込む脱リン処理S13を施して、植物生育用のリン酸肥料の原料(リン酸肥料原料)として使用可能なリン酸含有スラグ50を製造する。
【0039】
なお、脱リン処理S13によってリン含有濃度で0.1〜0.3質量%まで脱リンされた溶銑51は、高炉で生成された溶銑とともに転炉へ供給されるので、溶銑を無駄に製造するロスが無く合理的なプロセスとなっている。
【0040】
ここで、本発明製造方法で冷却する溶融スラグ(本発明肥料原料の原料スラグ)の製造方法についてさらに説明する。
【0041】
リンを0.5〜4質量%含む高P溶銑に、必要に応じ、脱Cr処理を施した後、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度が0.8〜1.5で、かつ、酸化鉄をFe換算で10質量%以上含有するフラックスを用いるとともに酸素を吹き込んで、1200〜1450℃の処理終了後の温度で脱リン処理を施し、スラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になった後に、さらに、副材を添加して製造する。
【0042】
高P溶銑のリン濃度は0.5〜4質量%とする。高P溶銑のリン濃度が0.5質量%未満であると、処理後のスラグ中のリン酸濃度が8質量%以上に達せず、通常のリン濃度0.15質量%以下の溶銑を脱リンした際に生成する脱リンスラグのリン酸濃度5質量%未満と大差がないので、高P溶銑のリン濃度は0.5質量%以上が適している。好ましくは1質量%以上である。
【0043】
一方、高P溶銑のリン濃度が4質量%を超えると、スラグ中のリン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%を超え、肥料効果の低いリン酸スラグしか得ることができないので、高P溶銑のリン濃度は4質量%以下とする。
【0044】
フラックスの塩基度(CaOとSiO2の質量濃度比)は0.8〜1.5とする。フラックスの塩基度が0.8未満であると、高リン溶銑といえども、脱リンを行うことができず、スラグ中のリン酸濃度が8質量%に達しないので、フラックスの塩基度は0.8以上とする。
【0045】
一方、フラックスの塩基度が1.5を超えると、脱リン処理の初期においてはスラグのリン酸濃度が未だ低い(P25<5質量%)ので、フラックスをスラグに添加しても滓化性が悪くなる。そこで、滓化性を良くしようとスラグの温度を上げると、スラグの脱リン能が低下してしまうので、フラックスの塩基度は1.5以下とする必要がある。
【0046】
フラックス中の酸化鉄の濃度は、Fe換算で10質量%以上とする。フラックス中の酸化鉄がFe換算で10質量%未満であると、スラグのリン酸濃度が低い場合(P25<5質量%)に、滓化性の良いスラグを得ることができないし、酸素ポテンシャルが低いために脱リンが進行しないので、フラックス中の酸化鉄はFe換算で10質量%以上とする必要がある。より好ましくは14質量%以上である。
【0047】
脱リンは、処理終了時の温度で1200〜1450℃の範囲で行う。処理終了時の温度が1200℃未満であると、添加したフラックスの溶融滓化が進み難く、十分に溶融滓化しなくなるので、脱リン処理終了時の温度は1200℃以上にする必要がある。好ましくは1250℃以上である。
【0048】
一方、脱リン処理終了時の温度が1450℃を超えると、脱リン反応の平衡上、スラグへのPの移行が少なくなるし、処理容器の内壁耐火物の溶損も増加するので、脱リン処理終了時の温度は1450℃以下とする必要がある。好ましくは1400℃以下である。
【0049】
脱リン処理時の温度は、脱リン処理終了時に限らず上記した理由により、1200〜1450℃の範囲で行うことが好ましい。この温度は、溶銑に酸素を吹き込むことで調整できるが、熱源の供給を適宜併用しても良い。
【0050】
脱リン処理の途中でスラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になった時、さらに、副材(生石灰や、前記した脱リンS01および脱炭S02等で生成するスラグ等のCaO含有物質)を添加して、スラグの塩基度を1.5以上3.0以下に調整し、最終的に、「CaOとSiO2の重量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有する脱リンスラグ」を製造する。
【0051】
なお、スラグ中のリン酸濃度の判断と副材の添加は、例えば、次のように行うことができる。但し、脱リン処理の対象とする溶銑の成分と添加するフラックスの組成と量とが分かっていれば、過去の脱リン処理での反応進行状況を参考にして容易に判断することができるので、処理の都度、途中で溶銑やスラグのサンプリングを必要とする訳ではない。
【0052】
(a)途中で一度、溶銑をサンプリングおよび迅速分析を行い、溶銑濃度およびフラックス添加量からマスバランス計算を行い、リン酸濃度を算出する。リン酸濃度が5質量%以上であれば副材(石灰分)を添加する。リン酸濃度が5質量%未満であれば、引き続き脱リン処理を行い、再度、溶銑をサンプリングして、リン酸濃度を算出する。
【0053】
(b)途中で一度、スラグをサンプリングし、XRFなどでスラグ組成を迅速に分析する。リン酸濃度が5質量%以上であれば副材(石灰分)を添加する。リン酸濃度が5質量%未満であれば、引き続き脱リン処理を行い、再度、スラグをサンプリングして、リン酸濃度を算出する。
【0054】
この副材の添加は、リン酸濃度が5質量%以上になったと判断した時点以降に行えばよいが、この副材の溶融滓化の容易性と脱リン処理の安定性を考慮して、脱リン処理を終了する3分前までに、添加を終えることが好ましい。
【0055】
以上、本発明製造方法で冷却する溶融スラグ(本発明肥料原料の原料スラグ)の製造方法について説明したが、該製造方法においては、低塩基度で操業を行い、さらに、P25による液相線温度(融点)降下効果を利用するので、トーマス製鋼法(非特許文献1(処理温度1550℃以上)より低い温度(1200〜1450℃)で滓化性の良いスラグを得ることが可能である。
【0056】
本発明方法では、高P濃度の溶銑から高リン酸濃度の肥料に好適なスラグと通常の鉄鋼製品製造に支障の無いP濃度の溶銑とが製造されるため、本発明方法は処理内容に無駄が無く、合理的なプロセスといえる。
【0057】
また、高リン溶銑から溶鋼ではなく溶銑を製造するので、脱炭反応はほとんど起こらない。その結果、転炉や排ガス設備を必要とせず、鍋などの簡易な脱リン設備で操業が可能である。したがって、本発明に係る肥料原料の原料とするスラグを低コストで製造することができる。
【0058】
上記したように脱リン処理S13を行って脱リンスラグを製造した後、そのスラグから肥料効果の高いリン酸肥料の原料を製造するためには、脱リン処理後のスラグを処理炉から排出する際に、そのスラグの冷却速度を制御して、リン酸肥料原料中の可溶性リン酸の量を増大する必要がある。
【0059】
本発明により製造するリン酸肥料原料は、上記した脱リン処理の結果として、CaOとSiO2の重量比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下で、P25が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄がFe換算で5質量%以上25質量%以下であり、さらに、このスラグを脱リン処理後の温度から適切に冷却して凝固させることによって、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体相、5CaO・SiO2・P25相、及び、7CaO・2SiO2・P25相(以下、3つの鉱物相をまとめて「固溶体相」ということがある。)の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上になるように製造したものである。
【0060】
脱リン処理S13(図1、参照)を行う際に、その脱リン処理S13終了時の処理容器内の溶融スラグの塩基度αが1.5以上3.0以下で、P25が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄がFe換算で5質量%以上25質量%以下になるように、脱リン処理条件を調整した理由の一つは、前述した脱リン処理条件により製造するのに適したものだからである。
【0061】
但し、そのように組成と温度を調整した溶融スラグを、その処理終了時の温度である1200〜1450から600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値(以下「600℃までの冷却速度」ということがある。)で、10℃/min以上になるように制御して、好ましくは30℃/min以上になるように制御して冷却すると、以下に説明するように肥料効果が高いリン酸肥料原料とすることができることを、前述した脱リン処理条件の調整方法と併せて見出したのである。
【0062】
したがって、この併せて見出したこととの整合化を図ったことが、脱リン処理S13を行う条件を前記したように定めたもう一つの理由である。
【0063】
以下、肥料効果が高いリン酸肥料原料とするための観点から、リン酸含有スラグのリン含有鉱物相から固溶体相の析出を促進し、Ca3(PO42相(以下「C3P相」と記載することがある。)の析出を抑制する理由、成分組成を限定する理由、塩基度、P25濃度、酸化鉄濃度を限定する理由、また、脱リン処理を行ってリン酸含有スラグを製造する時、溶融スラグからの冷却速度を限定する理由について説明する。
【0064】
まず、固溶体相の析出を促進し、C3P相の析出を抑制する理由について説明する。
【0065】
表1に示す成分組成のスラグ原料は、脱リン処理S13(図1、参照)により生成されたものである。脱リン処理S13により生成されたスラグを、その処理終了時のスラグ温度である1200〜1450℃から600℃までの冷却速度が10℃/min以上になるように制御して冷却し、そのスラグの温度が25℃程度の常温になった後に、その試料中のリン含有鉱物相を、XRD、SEMなどで確認した。
【0066】
一部のスラグ試料では、結晶相の他にガラス相が確認された。ガラス相は、リンを含有していることが確認された。一方、結晶相は、リン酸塩相、ケイ酸塩相、FeO相の三つの鉱物相に分類することが可能であった。リン酸塩相は、C3P相と固溶体相の二種類であった。結果を表1に纏めて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
リン酸肥料として重要な部分であるリンが存在する鉱物相(以下「リン含有鉱物相」ということがある。)は、ガラス相、C3P相、固溶体相であることが解った。表1中の○は、主要な鉱物相であることを示し、△は、主要でない鉱物相又は微量に存在する鉱物相を意味する。結晶相であるC3P相と固溶体相が同時に析出することはなく、また、C3P相、又は、固溶体相が析出する時、ガラス相が同時に析出する場合があった。
【0069】
別途調査した結果から、(a)C3P相、ガラス相、及び、固溶体相の可溶性リン酸率には序列があり、(b)C3P相<<ガラス相<固溶体相の順に可溶性リン酸率が大きくなり、(c)固溶体相が、可溶性リン酸率が最も高い相であり、C3P相が、可溶性リン酸率が最も低い相であることが解っている。
【0070】
そのことから、スラグ中の肥料効果、つまり、可溶性リン酸濃度を高めるためには、C3P相の析出を可能な限り抑制して、固溶体相を積極的に析出させる必要があった。
【0071】
即ち、本発明者らは、リン含有鉱物相において、C3P相の析出を抑え、固溶体相の析出を促進することにより、可溶性リン酸濃度が高い脱リンスラグ(リン酸肥料原料)とすることができることを認識していたのである。
【0072】
リン酸肥料原料は、主成分として、CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄を含んでおり、各成分の合計を60質量%以上とすることが好ましい。各成分の合計が60質量%未満であると、上記成分以外の成分とリン酸が化合物を形成して、リン酸含有鉱物相の生成を制御することができなく場合があるので、上記各成分の合計は60質量%以上とすることが適している。好ましくは70質量%以上である。
【0073】
ただし、酸化鉄の濃度は、試料中のFe濃度で表示することとし、以後、“t.Fe濃度”と表示する。
【0074】
本発明者らは、固溶体相が最も安定的に析出する条件を検討した。図2に、t.Fe濃度を10質量%、MnO濃度を5質量%、MgO濃度を5質量%、Al23濃度を3質量%に固定し、溶融スラグを、脱リン処理S13後の温度である1200〜1450℃から600℃までの冷却速度が、10℃/min以上になるように制御して冷却した際の、リン酸濃度及び塩基度とリン含有鉱物相との関係を示す。
【0075】
即ち、図2は、リン含有鉱物相の塩基度依存性及びP25濃度依存性を示している。○は、固溶体相が析出した場合を示し、×は、C3P相が析出した場合を示す。塩基度α(=CaO/SiO2)が1.5以上3.0以下で、固溶体相が析出する。それ故、肥料効果を高めるには、塩基度αを1.5以上3.0以下にする必要がある。
【0076】
塩基度αが1.5より小さいか、又は、3.0より大きい場合は、C3P相が析出して肥料効果が低下する。それ故、脱リン処理時には、添加する生石灰やSiO2などのフラックスの量を調整し、スラグの塩基度αを1.5以上3.0以下にする。
【0077】
塩基度αが1.5以上3.0以下のスラグにおける固溶体相の全スラグ質量に対する存在比をSEMで測定したところ、リン酸濃度が8質量%以上で固溶体相が28質量%以上存在することを確認できた。
【0078】
次に、リン酸濃度の上限を、塩基度αの二次式で限定する理由について説明する。図2に示すように、塩基度αが1.5〜3.0の範囲内でも、リン酸濃度がある程度以上に増加すると、C3P相が析出し始める。そのC3P相が析出し始めるリン酸濃度は、塩基度αが増加すると二次曲線的に増加することを実験的に確認したので、二次曲線的に増加するリン酸濃度を(−4α2+23α−4)で近似した。
【0079】
即ち、塩基度を一定にして、リン酸濃度を0質量%から増加させていくと、8質量%の条件から固溶体相が析出するようになり、リン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%以下の領域では、リン含有鉱物相は固溶体相であるが、(−4α2+23α−4)質量%を超えると、リン含有鉱物相はC3P相となる。
【0080】
そこで、リン酸肥料原料のリン含有鉱物相がC3P相であると肥料効果が落ちるので、リン酸濃度は8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下とする。そのため、脱リン処理時、スラグに添加するフラックスの量を調整して、リン酸濃度を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下にする必要がある。
【0081】
リン酸濃度が8質量%未満であると、リン酸濃度が低いうえに、リン含有鉱物相は、固溶体相でなく、C3P相である。その結果、リン酸肥料の使用量が多大になり、肥料としての商品価値が低下する。
【0082】
t.Fe濃度は、5質量%以上25質量%とする。表1に示す試料の中で塩基度αが1.5以上3.0以下で、かつ、リン酸濃度が12質量%以上20質量%以下の試料における、結晶化度とt.Fe濃度の関係を図3に示す。
【0083】
t.Fe濃度が5質量%より小さいと、スラグ中にガラス相が存在し、5質量%以上では、結晶化度が100%となり結晶相が存在する。酸化鉄は、FeOとして存在すると考えられており、塩基性酸化物であって、スラグの結晶化を促進する成分である。それ故、結晶相である固溶体相を析出させるためには、5質量%以上の酸化鉄が必要であることが解る。
【0084】
図4に、上記試料における固溶体相の存在濃度とt.Fe濃度の関係、及び、C3P相の存在濃度とt.Fe濃度の関係を示す。t.Fe濃度が5質量%以上25質量%以下の範囲では固溶体相が析出し、t.Fe濃度が25質量%を超えるとC3P相が析出した。
【0085】
この結果から、固溶体相を析出させるためには、脱リン処理時に吹き込む酸素量を調整して、t.Fe濃度を5質量%以上25質量%以下にする必要があることが解る。
【0086】
リン酸肥料原料を製造する際には、上記組成に調整した1200〜1450℃の溶融スラグを、600℃までの冷却速度が10℃/min以上になるように制御して冷却する必要がある。溶融スラグの温度が1200℃未満であると、スラグが完全に溶融しない場合があり、その場合、リン酸肥料としての肥料効果が発現しない。
【0087】
溶融スラグの温度を、1450℃を超える温度とすると、溶融スラグが凝固を始める温度まで少し時間が経過するので、そのような溶融スラグである時間を析出相の調整を目的とする冷却速度の制御期間に含めることは不適当となる。
【0088】
溶融スラグの塩基度、リン酸濃度、t.Fe濃度が上記した範囲内にある場合でも、必ずしもC3P相の析出を抑制できるわけではない。C3P相の析出を抑制するためには、溶融スラグを冷却する冷却速度も重要な因子となるからである。
【0089】
本発明者らは、塩基度α:1.6、Al23:3質量%、MgO:9質量%、P25:18質量%、t.Fe濃度:6質量%の溶融スラグ試料を、600℃までの冷却速度が:1℃/min、5℃/min、10℃/min、30℃/min、及び、50℃/minになるよう制御して冷却し、試料中のリン含有鉱物相の存在濃度を調査した。
【0090】
脱リン処理後の温度から600℃までの間の冷却速度を、600℃に到達するまでの間は、所定の冷却速度以上になるように制御することとしたのは、スラグ中のリン含有鉱物相がその温度範囲で定まり、600℃より下の温度領域では、鉱物相に変化が生じないからである。調査結果を図5に示す。
【0091】
図5に示すように、前記冷却速度が1℃/min、5℃/minでは、C3P相のみが析出し、前記冷却速度が10℃/min、30℃/min、50℃/minでは、固溶体相のみが析出した。
【0092】
この結果から、固溶体相の存在濃度を28質量%以上にするには、水冷や溶融スラグを鉄板の板に流し込んで急冷する方法などを用いて、600℃に到達するまでの間の前記数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却する必要があることが解る。好ましくは30℃/min以上である。
【0093】
以上、リン酸含有スラグの製造方法及びリン酸含有スラグについて説明したが、本発明は、上記説明に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0094】
なお、図1に示すリン酸含有スラグを製造する工程においては、転炉脱リンスラグから得た高リン溶銑を脱リン処理してリン酸含有スラグを製造すると説明したが、リン酸含有スラグを製造は、この説明に限定されることはない。
【0095】
例えば、高炉で生成した溶銑を脱リン処理することで製造してもよい。また、生石灰、SiO2、P25、酸化鉄などを出発原料として、上記組成範囲に入るように混合した後、溶融して、上記冷却速度で冷却してリン酸肥料原料を製造してもよい。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0097】
(実施例)
溶銑中のリン濃度が0.5〜4質量%で、C濃度が3〜5質量%である溶銑を、CaOとSiO2の質量比を示す指標である塩基度が0.8〜1.5で、かつ、酸化鉄濃度がt.Fe濃度で10質量%以上を含有するフラックスを用いるとともに酸素を吹き込んで、処理終了時の温度を1200℃以上1450℃以下の範囲とする脱リン処理を行った。
【0098】
その脱リン処理では、その途中でスラグ中のリン酸濃度が5質量%以上になったと判断した時点から2分の間に、さらに副材として一般的な製鋼精錬処理後のスラグを添加した。この操作によって、最終的なスラグのCaOとSiO2の質量比である塩基度αを1.5以上3.0以下に調整し、当該スラグ中のリン酸濃度を8〜(−4α2+23α−4)質量%、かつ、t.Fe濃度を5〜25質量%にすることを特徴とする脱リンスラグを安定して製造することができた。
【0099】
そのスラグは、CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)を合計で60質量%以上含有していた。
【0100】
このとき同時に製造された溶銑の成分は、リン濃度が0.1〜0.3質量%でC濃度が3〜4質量%であったので、高炉から出銑された通常の溶銑と混合して通常の転炉製鋼法に供することができた。
【0101】
さらに、上記した脱リン処理によって製造した脱リンスラグを、600℃までの間は、主として、前記数値で10℃/minの冷却速度になるよう制御して冷却し、スラグの固溶体相の存在比、可溶性リン酸率、及び、結晶化度を調査した。結果を本発明に係る要件を満たして実施した実施例と、一部の要件を満たさずに実施した比較例とを対比して、表2に纏めて示す。
【0102】
【表2】
【0103】
可溶性リン酸率を、可溶性リン酸率0.6以上を◎、○、0.5未満を×として評価した。
【0104】
冷却速度が10℃/minの実施例1〜9のスラグ試料においては、塩基度が1.5以上3.0以下、リン酸濃度が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、t.Fe濃度が5質量%以上25質量%以下で、かつ、全スラグ質量に対する固溶体相の存在濃度が28質量%以上である。
【0105】
比較例1〜8のスラグ試料では、塩基度αが1.5未満と低く、リン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%を超えていたため、また、比較例9のスラグ試料では、塩基度αが1.5未満と低く、t.Fe濃度が25質量%超と高いため、比較例10のスラグ試料では、塩基度が3.0より高いため、固溶体相が析出しなかった。
【0106】
比較例11のスラグ試料では、リン酸濃度が8質量%より低く、比較例12のスラグ試料では、リン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%より高いため、固溶体相が析出しなかった。比較例13のスラグ試料では、t.Fe濃度が5質量%より低くガラス相となり、また、比較例14と15のスラグ試料では、t.Fe濃度が25質量%より高かったため、固溶体相が析出しなった。
【0107】
比較例13のスラグ試料では、冷却速度が10℃/min未満であるので、固溶体が析出しなかった。
【0108】
同じ組成で冷却速度が異なる実施例6及び10と、比較例16を比較すると、600℃までの冷却速度を10℃/min以上とした場合には、固溶体相が28質量%以上になっていて、600℃までの冷却速度を30℃/minに高めた方が、固溶体相の濃度が高くなっていることを確認した。
【0109】
本発明に係る要件を、冷却速度の制御まで含めて実施した実施例では、リン酸肥料として肥料効果が高いと分かっている、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体相、5CaO・SiO2・P25相、及び、7CaO・2SiO2・P25相の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上である、リン酸肥料の原料とするに適したものが製造されていたことを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
前述したように、本発明によれば、溶銑中のリン濃度が高い溶銑を脱リン処理して、リン酸肥料の原料とするのに適した脱リンスラグを、転炉設備の使用を前提とせずに合理的に、かつ低コストで製造し、そのスラグを適切に冷却してリン酸肥料の原料を製造する方法を提供することができる。よって、本発明は、鉄鋼産業及び植物育成産業において利用可能性が高いものである。
図1
図2
図3
図4
図5