(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機被膜におけるメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の含有量の合計が、有機被膜の総量を基準として50mol%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機被覆金属ナノ粒子。
前記被膜交換工程において、前記一次被覆金属ナノ粒子とメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸とを不活性雰囲気中で加熱還流させることにより前記被膜を交換せしめることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法。
前記アルコール系溶媒中に炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンが更に含有されており、かつ、前記有機被膜が前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンを更に含有していることを特徴とする請求項7に記載の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
<有機被覆金属ナノ粒子>
先ず、本発明の有機被覆金属ナノ粒子について説明する。本発明の有機被覆金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm〜1μmである金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に配置されており、かつ、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸が含有されている有機被膜と、を備えているものである。
【0027】
(金属ナノ粒子)
本発明にかかる金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm〜1μmであることが必要である。平均粒子径が前記範囲にあると、250℃以下の低温で焼結させることが可能となり、本発明の有機被覆金属ナノ粒子を金属配線形成用ペースト(インクを含む)や接合材料等に使用することができる。なお、このような有機被覆金属ナノ粒子を金属配線形成用ペースト(インクを含む)に使用した場合、前記金属ナノ粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、有機被覆金属ナノ粒子中の有機被膜の成分割合が大きくなり、有機被膜成分の残存が起こり焼結を阻害し、配線抵抗が高くなる。また、金属ナノ粒子の表面が大気中で酸化されやすく金属ナノ粒子の酸化割合が高くなり、加熱処理時に酸化成分が除去しきれずに残存して配線抵抗が高くなる。他方、前記上限を超えると、粒子サイズ効果が小さいため、融点の低下効果が小さく金属粒子の焼結温度が高くなり、比較的低温(例えば250℃以下)での加熱による金属ナノ粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、配線抵抗が高くなる。このような金属ナノ粒子の平均粒子径としては、耐酸化性と低い焼結温度の両立という観点から、1〜500nmであることが好ましく、10〜200nmであることがより好ましい。
【0028】
なお、このような金属ナノ粒子の平均粒子径は、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。また、このような金属ナノ粒子の平均粒子径は任意の100個以上の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定して各粒子の粒子径を求め、その値を平均化することにより求めることもできる。なお、このような粒子径は、粒子の断面の最大直径を意味し、粒子の断面が円形ではない場合には、その粒子の断面の最大の外接円の直径とする。
【0029】
また、このような金属ナノ粒子としては、Cu、Ni、Fe及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する粒子であることが好ましく、Ag、Cu及びNiからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するものがより好ましく、安価であり、耐エレクトロマイグレーション性に優れているという観点から、Cuナノ粒子が特に好ましい。
【0030】
ここで、「このような金属ナノ粒子としては、Cu、Ni、Fe及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する粒子である」とは、このような金属ナノ粒子が前記「Cu、Ni、Fe及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属」のみから構成されるもの、或いは、主として前記金属からなり本発明の効果を損なわない範囲で他の金属成分を含み構成されるものであることを意味する。このような金属ナノ粒子に含有させることが可能な他の金属成分としては、金属配線形成用ペースト(インクを含む)や接合材料用の金属ナノ粒子材料に利用することが可能な公知の他の金属成分を適宜含有することができる。このような金属ナノ粒子に含有する他の金属成分としては、機械強度向上やエレクトロマイグレーション耐性向上の観点から、例えば、Sn、Zn、Zr、Siを好適に用いることができる。なお、後者の場合、金属ナノ粒子における前記「Cu、Ni、Fe及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する粒子」の含有量は、金属ナノ粒子の全質量100質量%に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることが特に好ましい。このような金属ナノ粒子における前記金属を含有する粒子の含有量が前記下限未満では、本発明の効果が十分に得られない傾向にある。
【0031】
(有機被膜)
本発明にかかる有機被膜は、前記金属ナノ粒子の表面に配置されており、かつ、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸が含有されていることが必要である。このような有機被膜は、メトキシ酢酸(C
3H
6O
3)及び/又はエトキシ酢酸(C
4H
8O
3)が含有されていることにより、極性溶媒との高親和化による沈殿の防止、金属ナノ粒子表面の有機被膜の短鎖化による粒子間相互作用低減と凝集の防止、低温脱離可能な短鎖モノマー被覆による残存有機成分の低減が可能となる。これより、このような有機被膜を表面に有する本発明の有機被覆金属ナノ粒子を用いて、寿命が長く低抵抗配線の形成が可能な金属配線形成用ペースト(インクを含む、印刷配線用金属ナノ粒子分散ペースト)の提供が可能となる。なお、本発明のメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸は、いずれも炭素数4以下の短鎖アルコキシカルボン酸であるが、短鎖アルコキシカルボン酸の炭素数が4超になると、金属ナノ粒子間の有機被覆剤同士が比較的強く結合して凝集体を作りやすくなるため金属ナノ粒子の極性溶媒への分散性が低くなる。また、有機被膜が熱処理時に分解しにくくなり、残存有機成分により配線抵抗が高くなる。
【0032】
なお、このようなメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸としては、末端の水酸基から水素原子がとれた残基として含まれていてもよい。
【0033】
このような有機被膜における前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の含有量の合計が、有機被膜の総量を基準として、50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、90mol%以上であることが特に好ましい。前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の含有量が前記下限未満である場合には、凝集防止の効果及び/又は低温脱離の効果が低くなる傾向にある。
【0034】
また、本発明の有機被覆金属ナノ粒子にかかる有機被膜としては、更に、炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを含有していることが好ましい。このような脂肪酸及び/又は脂肪族アミンを更に含有することにより、有機被膜の密度を向上させることができ、粒子の酸化を抑制することができる。また、本発明の有機被覆金属ナノ粒子を金属配線形成用ペースト(インクを含む)等に用いた場合、印刷や溶媒乾燥等を行った際に脂肪酸及び/又は脂肪族アミンのアルキル鎖が絡み合うことでバインダーの役割をして、絶縁層や配線におけるクラックの発生を防止することができる。
【0035】
なお、このような脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数としては、炭素数が大きくなると得られる金属ナノ粒子の平均粒子径が小さくなるという観点から、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数の下限としては10以上が好ましく、12以上がより好ましい。また、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数の上限としては、特に制限はないが、有機被膜成分がより低温で熱分解されるという観点から、18以下が好ましく、16以下がより好ましく、14以下が特に好ましい。
【0036】
前記脂肪酸としては、前記炭素数を有するものであれば特に制限はなく、飽和又は不飽和の炭化水素基を有する脂肪酸が挙げられる。また、前記炭化水素基は直鎖状のものであっても、分岐状のものであってもよい。このような脂肪酸としては、例えば、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸;cis−9−オクタデセン酸(オレイン酸)等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0037】
また、前記脂肪族アミンとしては、前記炭素数を有するものであれば特に制限はなく、飽和又は不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンが挙げられ、また、第1級〜第3級のいずれかのアミンを用いることができる。また、前記炭化水素基は直鎖状のものであっても、分岐状のものであってもよい。このような脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン(アミノデカン)、ドデシルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等のアルキルアミン;オレイルアミン、エルシラミン等のアルケニレンアミンが挙げられる。
【0038】
更に、このような有機被膜における前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの含有量の合計としては、有機被膜の総量を基準として、30mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましい。前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの含有量の合計量を前記範囲とすることにより、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンによる粒子間相互作用が抑制される傾向にある。
【0039】
また、このような有機被膜としては、粒径制御の観点から、更に、炭素数8以上の脂肪酸及び炭素数8以上の脂肪族アミンの両方を含有していることが好ましい。なお、本発明の有機被覆金属ナノ粒子において、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンは有機被膜に任意に含まれる成分であるため、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの含有量の合計量の下限は特に制限されない。
【0040】
本発明の有機被覆金属ナノ粒子において、前記有機被膜としては、大気中又は不活性ガス雰囲気中で、250℃以下の温度で90質量%以上熱分解されるものが好ましく、95質量%以上熱分解されるものがより好ましい。熱分解される有機被膜の量が前記下限未満になると接合部分や配線中に有機被膜成分が残存し、接合特性や電気特性が低下する傾向にある。なお、前記有機被膜の熱分解率は、昇温速度20℃/分で室温から500℃まで昇温した場合に、有機被膜の全質量に相当する重量減少量に対する、室温から250℃までに減少した重量の割合で表されるものである。また、このような有機被膜の熱分解率は、例えば、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有する有機被膜を形成することによって達成できる。
【0041】
(有機被覆金属ナノ粒子)
本発明の有機被覆金属ナノ粒子は、前記金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に配置された前記有機被膜とを備えているものである。
【0042】
このような本発明の有機被覆金属ナノ粒子において、前記有機被膜の含有量は、金属ナノ粒子100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましい。有機被膜の含有量が前記下限未満になると、有機被覆金属ナノ粒子が酸化されるため、大気中又は不活性ガス雰囲気中、250℃以下で焼結させることが困難となる傾向にあり、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えると、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、熱分解時に発生するガスの量が多くなったり、有機被膜が十分に熱分解されずに接合部や配線中に残存したりするため、金属ナノ粒子の焼結が阻害され、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にある。なお、有機被覆金属ナノ粒子の酸化が抑制され、熱分解時のガスの発生量や有機被膜の残存量が低減されるという観点から、有機被膜の含有量としては、0.1〜5質量部がより好ましく、0.2〜2質量部が特に好ましい。
【0043】
このように、本発明の有機被覆金属ナノ粒子は、低温(具体的には250℃以下)での焼結が可能な平均粒子径が1nm〜1μmの金属ナノ粒子と、この金属ナノ粒子の表面に配置されており、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での熱処理により容易に熱分解が可能な有機被膜とを備えるものであるため、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での焼結が可能となる。また、本発明の有機被覆金属ナノ粒子を用いて得られる金属配線形成用ペースト(インクを含む、金属ナノ粒子分散ペースト)は、極性溶媒との高親和化による沈殿の防止、金属ナノ粒子被膜短鎖化による粒子間相互作用低減と凝集の防止を図ることができ、極性溶媒中での分散性に優れたものとすることができる。更に、有機被膜に含まれるメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸は、常温で液体であるため合成後の洗浄除去が容易で製造コストを下げることが可能である。
【0044】
このような本発明の有機被覆金属ナノ粒子は、例えば、以下に説明する本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法により得ることができる。
【0045】
<有機被覆金属ナノ粒子の製造方法>
次に、本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0046】
<第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法>
先ず、本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法は、平均粒子径が1nm〜1μmである金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に配置された炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する一次被膜とを備える一次被覆金属ナノ粒子を調製する一次被覆金属ナノ粒子調製工程と、前記一次被覆金属ナノ粒子とメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸とを有機溶媒中で混合し、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの少なくとも一部をメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸に交換せしめて上記本発明の有機被覆金属ナノ粒子を得る被膜交換工程と、を含むものである。
【0048】
(一次被覆金属ナノ粒子調製工程)
本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法においては、先ず、平均粒子径が1nm〜1μm(好ましくは1〜500nmで、より好ましくは10〜200nm)である金属ナノ粒子を調製する。このとき、金属ナノ粒子の表面を、炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する一次被膜で覆うことにより、金属ナノ粒子の凝集を抑制することができる。
【0049】
前記金属ナノ粒子と前記一次被膜とを備える一次被覆金属ナノ粒子の調製方法としては、アルコール系溶媒中、炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンの存在下で、前記アルコール系溶媒に不溶な金属塩を還元せしめることにより該金属のナノ粒子を形成させ、かつ、該ナノ粒子の表面に、前記炭素数8以上の脂肪酸及び/又は前記炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する一次被膜を形成させる方法であることが好ましい。
【0050】
また、このような一次被覆金属ナノ粒子の調製方法としては、炭素数8以上の脂肪族アルコール系溶媒により金属塩を還元せしめる方法であってもよい。
【0051】
《金属塩》
このような一次被覆金属ナノ粒子調製工程においては、前記アルコール系溶媒に不溶な金属塩を使用することが好ましい。このような金属塩としては、炭酸塩及び水酸化物が挙げられる。これらの金属塩は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0052】
このような一次被覆金属ナノ粒子調製方法においては、アルコール系溶媒中で金属塩を熱分解して金属イオンを生成させるが、金属塩としてアルコール系溶媒に不溶なものを使用すると、溶媒中に存在する金属イオンは少量となる。このような系において金属イオンを還元すると、生成する粒子核は少量であり、金属ナノ粒子は徐々に生成するため、有機被膜は金属ナノ粒子の表面に形成されやすく、かつ安定に存在する。その結果、金属ナノ粒子の凝集を十分に抑制することが可能となる。また、金属塩を徐々に溶解させて金属ナノ粒子を形成するため、多量の溶媒を必要とせず、溶媒量を少なくすることができる。その結果、溶媒の温度を均一に保持することができ、粒子径が均一な大量の金属ナノ粒子を容易に製造することが可能となる。
【0053】
一方、アルコール系溶媒に可溶な金属塩を使用すると、溶媒中には多くの金属イオンが生成する。このような系において金属イオンを還元すると一度に多くの金属ナノ粒子が生成する。金属ナノ粒子が多量に生成すると、その表面に有機被膜が形成される前に、粒子同士が凝集するため、粒子は粗大化して沈殿する。また、Cuのように酸化されやすい金属においては、表面に有機被膜が形成されないと、酸化されやすくなる。
【0054】
このようなナノ粒子調製方法において用いられる金属塩としては、Cu、Ni、Fe及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属の塩が好ましく、Ag、Cu及びNiからなる群から選択される少なくとも一種の金属の塩がより好ましく、安価であり、得られる金属ナノ粒子が耐エレクトロマイグレーション性に優れているという観点から、炭酸銅及び/又は水酸化銅が特に好ましい。
【0055】
《一次被覆金属ナノ粒子調製方法》
本発明にかかる一次被覆金属ナノ粒子調製方法においては、アルコール系溶媒中、炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンの存在下で、前記金属塩を還元せしめて金属ナノ粒子を形成させることが好ましい。アルコール系溶媒は、還元反応における溶媒であるとともに、還元剤としても作用する。したがって、このようなナノ粒子調製方法においては、NaBH
4やN
2H
4といった還元剤を添加する必要がなく、簡素化された方法で一次被覆金属ナノ粒子を調製することができる。
【0056】
また、アルコール系溶媒が還元剤として作用すると、金属塩の還元により生成した金属ナノ粒子の周囲にはアルコール系溶媒が多く存在するため、金属ナノ粒子表面に存在する脂肪酸及び/又は脂肪族アミンが少なくなり、有機被膜中の脂脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの含有量が低減されると考えられる。
【0057】
このような一次被覆金属ナノ粒子調製方法に用いられるアルコール系溶媒としては、CuやNi等の卑金属を還元するためには、沸点が200℃程度又はそれ以上の溶媒が望ましいという観点から、ポリオールが好ましく、グリコールがより好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコールが特に好ましい。これらのアルコール系溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなアルコール系溶媒とこれに混和可能な溶媒(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフランといったエーテル類;酢酸エチル、酢酸ベンジルといったエステル類;アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等)とを併用してもよい。
【0058】
このような一次被覆金属ナノ粒子調製方法に用いられる脂肪酸及び/又は脂肪族アミンとしては、ともに炭素数が8以上のものである。このような炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンは前記金属ナノ粒子の表面に配位して有機被膜を形成する。この炭素数8以上の脂肪酸及び/又は前記炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する一次被膜は熱的に安定であるため、生成した金属ナノ粒子の凝集が抑制され、平均粒子径が1nm〜1μm(好ましくは1〜500nmで、より好ましくは10〜200nm)の金属ナノ粒子を安定して得ることができる。一方、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数が7以下になると、金属ナノ粒子の形成時に、脂肪酸及び脂肪族アミンの立体障害が十分に作用せず、また、炭素数7以下の脂肪酸又は炭素数7以下の脂肪族アミンを含有する有機被膜は熱的安定性に劣るため、金属ナノ粒子が粗大化し、平均粒子径が1μm以下の金属ナノ粒子を得ることが困難となる。また、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数が大きくなると、得られる金属ナノ粒子の平均粒子径が小さくなるという観点から、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数としては12以上が好ましい。なお、脂肪酸及び/又は脂肪族アミンの炭素数の上限としては特に制限はないが、後述する被膜交換が容易であるという観点から、22以下が好ましい。
【0059】
このような一次被覆金属ナノ粒子調製方法に用いられる脂肪酸としては、炭素数が8以上であれば、飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。また、直鎖状のものであっても分岐状のものであってもよい。このような脂肪酸としては、例えば、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の炭素数12以上の飽和脂肪酸;cis−9−オクタデセン酸(オレイン酸)等の炭素数8以上の不飽和脂肪酸が挙げられる。このような脂肪酸は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、脂肪族アミンとしては、炭素数が8以上であれば、飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。また、直鎖状のものであっても分岐状のものであってもよい。このような脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン(アミノデカン)、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の炭素数8以上のアルキルアミン;オレイルアミン、エルシラミン等の炭素数8以上のアルケニルアミンが挙げられる。このような脂肪族アミンは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0060】
なお、アルコール系溶媒中に存在する前記の脂肪酸及び/又は脂肪族アミンとしては、両者をともに用いる場合、前記脂肪酸と前記脂肪族アミンのモル比としては特に制限はないが、脂肪酸/脂肪族アミン=75/25〜25/75が好ましく、75/25〜50/50がより好ましい。前記モル比をこのような範囲内とすることにより、より熱的に安定な有機被膜が形成される傾向にあり、平均粒子径が1nm〜1μm(好ましくは1〜500nmで、より好ましくは10〜200nm)の金属ナノ粒子が容易に得られる傾向にある。
【0061】
前記アルコール系溶媒中の金属塩、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンのそれぞれの濃度としては、0.001〜10mol/Lが好ましく、0.01〜1mol/Lがより好ましい。金属塩の濃度が下限未満になると、金属ナノ粒子の生成量が少なくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金属塩の熱分解に要する時間が長くなる傾向にある。また、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの濃度が前記下限未満になると、金属ナノ粒子の表面に十分な有機被膜が形成されず、金属ナノ粒子が凝集したり、Cuのように酸化されやすい金属においては酸化される傾向にあり、他方、前記上限を超えると、余分な脂肪酸及び/又は脂肪族アミンを除去するための洗浄操作が煩雑となり、実用的に好ましくない。
【0062】
還元反応温度としては、100℃以上かつ前記アルコール系溶媒の沸点以下の温度が好ましい。還元反応温度が前記下限未満になると、金属塩の還元反応が十分に進行せず、金属ナノ粒子が形成されない場合がある。また、還元反応時間としては特に制限はないが、このような一次被覆金属ナノ粒子調製方法によれば、2時間以内の反応時間で90%以上の高収率で大量の一次被覆金属ナノ粒子を調製することができる。更に、このような還元反応は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0063】
このように、前記一次被覆金属ナノ粒子調製方法によって得られた一次被覆金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面が炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する有機被膜で覆われたものであるため、アルコール系溶媒に不溶であり、容易に沈殿するが、ヘキサン、トルエンといった親油性溶媒に対して高い分散性を示す。したがって、一次被覆金属ナノ粒子を含む前記アルコール系溶媒と親油性溶媒を混合して親油性溶媒中に一次被覆金属ナノ粒子を分散させ、その後、前記アルコール系溶媒と親油性溶媒を分離することによって、容易に一次被覆金属ナノ粒子を回収することができる。この方法によれば90%以上の回収率で一次被覆金属ナノ粒子を得ることが可能となる。
【0064】
(被膜交換工程)
次に、前記一次被覆金属ナノ粒子調製工程で得られた、炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを含有する一次被膜を備える一次被覆金属ナノ粒子とメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸とを有機溶媒中で混合し、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンの少なくとも一部をメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸に交換せしめて上記本発明の有機被覆金属ナノ粒子を得る。これにより、平均粒子径が1nm〜1μm(好ましくは1〜500nmで、より好ましくは10〜200nm)である金属ナノ粒子と、この金属ナノ粒子の表面に配置されている前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を少なくとも含有している有機被膜とを備える本発明の有機被覆金属ナノ粒子を得ることができる。なお、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸は、本発明の有機被覆金属ナノ粒子において記載したものである。
【0065】
このような被膜交換工程に用いられる有機溶媒としては、特に制限はないが、例えば、1−ブタノール、デカノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜20のモノアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール類;グリセリン等のトリオール類;α−テルピネオール等の環状アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル類;酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテート、酢酸ベンジル等のエステル類等が挙げられる。被膜交換後の金属ナノ粒子は、このような有機溶媒に対して高い分散性を示すため、有機溶媒で均一に被膜交換を行うことが可能となる。なお、このような有機溶媒としては、被膜交換後の溶媒乾燥のしやすさの観点から、エステル及び/又はエーテルであること好ましい。
【0066】
本発明にかかる被膜交換工程において、前記有機溶媒中の一次被覆金属ナノ粒子の濃度としては、金属原子換算で0.001〜10mol/Lが好ましく、0.01〜5mol/Lがより好ましい。一次被覆金属ナノ粒子の濃度が前記下限未満になると、合成量が少なくなるためコストが高くなる。他方、一次被覆金属ナノ粒子の濃度が前記上限を超えると、被膜交換が十分に進行せず、金属ナノ粒子の表面に炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを多く含有する有機被覆金属ナノ粒子が残存するため、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、有機被膜が十分に熱分解されずに接合部や配線中に残存する傾向にあり、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にあり、また、交換用のメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の混合量が多くなるため、被膜交換後の余分なメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を除去するための洗浄操作が煩雑となり、不純物として残りやすい傾向にあり、実用的に好ましくない。
【0067】
また、前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の混合量としては、一次被覆金属ナノ粒子を構成する金属原子1モルに対して、0.1〜20モルが好ましく、0.5〜10モルがより好ましい。前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の混合量が前記下限未満になると、被膜交換が十分に進行せず、金属ナノ粒子の表面に炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを多く含有する有機被膜が残存するため、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、有機被膜が十分に熱分解されずに接合部や配線中に残存する傾向にあり、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にある。他方、前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の混合量が前記上限を超えると、被膜交換後の余分なメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を除去するための洗浄操作が煩雑となり、実用的に好ましくない。
【0068】
被膜交換反応温度としては室温以上100℃以下が好ましい。室温未満の温度では被膜交換反応が十分に進行せず、金属ナノ粒子の表面に炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンを多く含有する有機被膜が残存するため、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、有機被膜が十分に熱分解されずに接合部や配線中に残存する傾向にあり、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にある。他方、100℃を超える温度では、金属ナノ粒子が凝集しやすく、大気中又は不活性ガス雰囲気中、250℃以下で焼結させることが困難となり、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での接合や配線形成において、高い接合強度を有する接合部、熱伝導性及び電気伝導性に優れた配線や接合部を形成することが困難となる傾向にある。このような被膜交換反応温度としては、効率的な被膜交換の観点から、30〜80℃の範囲内であることがより好ましい。
【0069】
また、被膜交換反応時間としては特に制限はないが、本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法によれば、2時間以内の被膜交換反応時間で90%以上の高収率で大量の本発明の有機被覆金属ナノ粒子を製造することが可能である。更に、このような被膜交換反応は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0070】
更に、前記被膜交換工程において、前記一次被覆金属ナノ粒子とメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸と有機溶媒とを不活性雰囲気中(窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中)で加熱還流させることにより前記被膜を交換せしめることがより好ましい。このようにすることにより、有機溶媒の揮発による減少を抑制でき、一定濃度のもとで交換反応が可能となる。
【0071】
また、被膜交換時の不純物成分による粒子の酸化を抑制するために還元剤を適量添加してもよい。
【0072】
<第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法>
次に、本発明の第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0073】
本発明の第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法は、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有するアルコール系溶媒中、前記アルコール系溶媒に不溶な金属塩を還元せしめることにより該金属のナノ粒子を形成させ、かつ、該ナノ粒子の表面にメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有する有機被膜を形成させることにより上記本発明の有機被覆金属ナノ粒子を得る有機被覆金属ナノ粒子調製工程を含むものである。
【0074】
(有機被覆金属ナノ粒子調製工程)
《アルコール系溶媒》
本発明の第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法の有機被覆金属ナノ粒子調製工程においては、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有するアルコール系溶媒中で金属塩を還元させて金属ナノ粒子を形成させる。このアルコール系溶媒は、還元反応における溶媒であるとともに、還元剤としても作用する。したがって、本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法においては、NaBH
4やN
2H
4といった還元剤を添加する必要がなく、簡素化された方法で有機被覆金属ナノ粒子を製造することが可能となる。
【0075】
本発明の第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法に用いられるアルコール系溶媒としては、CuやNi等の卑金属を還元するためには、沸点が200℃程度又はそれ以上の溶媒が望ましいという観点から、ポリオールが好ましく、グリコールがより好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコールが特に好ましい。これらのアルコール系溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなアルコール系溶媒とこれに混和可能な溶媒(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフランといったエーテル類;酢酸エチル、酢酸ベンジルといったエステル類;アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等)とを併用してもよい。
【0076】
《金属塩》
本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程に用いられる金属塩は前記アルコール系溶媒に不溶なものである。このような金属塩としては、炭酸塩及び水酸化物が挙げられる。これらの金属塩は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。なお、金属塩は、本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法の好適な一次被覆金属ナノ粒子調製工程において記載した金属塩を用いることができる。
【0077】
《メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸》
本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程に用いられるメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸としては、特に制限はなく、本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法において記載したものを用いることができる。
【0078】
本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程においては、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有するアルコール系溶媒中で前記金属塩を還元せしめる。前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有させることによって、生成した金属ナノ粒子の表面には、前記メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有し、安定に存在する有機被膜が形成される。これにより、金属ナノ粒子の凝集を抑制することが可能となる。なお、Cuのように酸化されやすい金属においては、表面に安定な有機被膜が形成されないと、酸化されやすくなる。
【0079】
本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程において、前記アルコール系溶媒中の金属塩の濃度としては、0.001〜10mol/Lが好ましく、0.01〜1mol/Lがより好ましい。金属塩の濃度が下限未満になると、金属ナノ粒子の生成量が少なくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金属塩の熱分解に要する時間が長くなる傾向にある。また、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の合計の濃度としては、0.001〜10mol/Lが好ましく、0.01〜1mol/Lがより好ましい。メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸の合計の濃度が前記下限未満になると、金属ナノ粒子の表面に十分な有機被膜が形成されず、金属ナノ粒子が凝集したり、Cuのように酸化されやすい金属においては酸化される傾向にあり、他方、前記上限を超えると、余分なメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を除去するための洗浄操作が煩雑となり、実用的に好ましくない。
【0080】
還元させる際の反応温度としては特に制限はないが、使用するアルコール系溶媒の沸点付近の温度(より好ましくは沸点)が好ましい。これにより、温度制御装置を使用せずに容易に溶媒の温度を均一に保持することができ、均一な粒子径を有する有機被覆金属ナノ粒子を得ることが可能となる。また、還元させる際の反応時間としては特に制限はないが、本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法によれば、1時間以内の反応時間で90%以上の高収率で大量の有機被覆金属ナノ粒子を製造することができる。更に、このような有機被覆金属ナノ粒子調製工程は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0081】
また、本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程において、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有するアルコール系溶媒中、前記アルコール系溶媒に不溶な金属塩を不活性雰囲気中で加熱還流させることにより前記金属塩を還元せしめることがより好ましい。このようにすることにより、有機溶媒の揮発による減少を抑制でき、一定の濃度のもとで調製を行うことが可能となる。
【0082】
なお、本発明の有機被覆金属ナノ粒子調製工程において、メトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸により合成液の酸性が強くなる場合には塩基性添加剤を適量添加してもよい。酸性液中で合成された粒子は粒径が大きくなる傾向があるが、塩基性添加剤により粒径増大を抑制することができる。
【0083】
このようにして得られる有機被覆金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面がメトキシ酢酸及び/又はエトキシ酢酸を含有する有機被膜で覆われたものであるため、アルコール系溶媒に高い分散性を示し、容易に分散する。したがって、有機被覆金属ナノ粒子を含むアルコール系溶媒に更にアルコール系溶媒を加えて有機被覆金属ナノ粒子を分散させ、その後、アルコール系溶媒とそれ以外の成分を分離することによって、容易に有機被覆金属ナノ粒子を回収することができる。この方法によれば90%以上の回収率で有機被覆金属ナノ粒子を得ることが可能となる。
【0084】
また、前記本発明の第二の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法において、前記アルコール系溶媒中に炭素数8以上の脂肪酸及び/又は炭素数8以上の脂肪族アミンが更に含有されており、かつ、前記有機被膜が前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンを更に含有しているものであることが好ましい。このように、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンが更に含有されることによって、生成した金属ナノ粒子の表面には、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪族アミンを更に含有している有機被膜とすることができ、より安定に存在する有機被膜が形成され、有機被膜の安定性が向上する。これにより、金属ナノ粒子の凝集をより抑制することが可能となる。特に、Cuのように酸化されやすい金属においては、表面により安定な有機被膜が形成され、酸化されにくくなる。前記脂肪酸としては、前記炭素数を有するものであれば特に制限はなく、本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法において記載したものを用いることができる。また、前記脂肪族アミンとしては、前記炭素数を有するものであれば特に制限はなく、本発明の第一の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法において記載したものを用いることができる。
【0085】
<有機被覆金属ナノ粒子の用途等>
本発明の有機被覆金属ナノ粒子及び本発明の有機被覆金属ナノ粒子の製造方法によって得られる有機被覆金属ナノ粒子は、金属配線形成用ペースト(インクを含む)や接合材料等に使用することができる。なお、このような金属ナノ粒子を金属配線形成用ペースト(インクを含む)に使用する場合、得られた前記有機被覆金属ナノ粒子を用いて金属配線形成用ペーストを作製し、印刷法により金属配線を形成することができる。
【0086】
このような金属配線形成用ペーストは、前記金属ナノ粒子を用いる以外は特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子をテルピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、2−フェノキシエタノール、トリプロピレングリコール等の極性溶媒等に分散させ、エチルセルロース樹脂やアクリル樹脂等の増粘剤、アマイドワックスやウレアウレタン等のレオロジーコントロール剤、シリコーンやポリエーテル等の消泡剤、シリコン系等の界面活性剤等の添加剤を適宜加えることで形成できる。
【0087】
このような金属配線形成用ペーストを印刷して金属配線を形成する方法としては、特に限定されないが、具体的には、大気中又は不活性ガス雰囲気中で、インクジェット法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法等の印刷手法により前記金属配線形成用ペーストをパターニング塗布することで行うことができる。なお、塗布層の厚さは、溶媒乾燥及び加熱処理後の厚さが所望の値になるように金属配線形成用ペーストの濃度や印刷条件等を変えて適宜調整する。
【0088】
更に、金属配線形成用ペーストを印刷して金属ペースト層を形成した後に、得られた金属ペースト層に加熱処理を施すことにより、金属配線形成用ペーストの溶媒を乾燥及び/又は除去し、更に、金属ナノ粒子を焼結し導体化して金属配線を形成する。このような加熱処理の方法としては、特に限定されないが、具体的には、窒素等の不活性ガス又は還元性ガスの処理雰囲気下で加熱処理を施すことで行うことができる。なお、このような処理雰囲気は、酸化成分を除去して配線抵抗を下げるという観点から、還元性ガス雰囲気であることが好ましい。また、不活性ガス又は還元性ガス雰囲気での熱処理の前に、酸化性ガス雰囲気での熱処理を行うことが好ましく、金属ナノ粒子の有機修飾剤やペースト添加剤の揮発除去をより確実に行うことができ、配線抵抗をより低減させることができる。加熱処理の温度としては特に制限はないが、100〜450℃の範囲であることが好ましく、150〜400℃がより好ましい。加熱処理温度が前記下限未満になると、金属ナノ粒子の有機修飾剤の揮発除去が十分されないために抵抗率が下がらない傾向にあり、他方、加熱処理温度が前記上限を超えると、基材の耐熱温度を超える場合があり、熱応力も増大して反りや剥離の原因となる傾向にある。なお、還元性向上の観点から、加熱処理中にプラズマや光の照射を行ってもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
容量500mlのフラスコにエチレングリコール(HO(CH
2)
2OH)300mlを入れ、これに炭酸銅(CuCO
3・Cu(OH)
2・H
2O)30mmol、デカン酸(C
9H
19COOH)30mmol、アミノデカン(C
10H
21NH
2)30mmolを添加した後、窒素(N
2)ガスを1L/min流しながら、198℃で1時間加熱還流させたところ、微粒子が生成した。得られた微粒子をヘキサン中に分散させて回収した後、エタノール及びアセトンを添加して順次洗浄した後、遠心分離(3000rpm、20min)を施して微粒子を回収した。次いで、真空乾燥(50℃、30min)を施し、デカン酸及びアミノデカンを含有する有機被膜(一次被膜)を備える一次被膜微粒子を得た。
【0091】
次に、得られたこの微粒子20g、酢酸エチル(CH
3CO
2C
2H
5)750ml、メトキシ酢酸(CH
3OCH
2COOH)1500mmolをフラスコに入れ、窒素(N
2)ガスを1L/min流しながら、50℃で1時間加熱還流させて被膜交換を行った。得られた分散液をエタノール中に分散させて回収した後、ヘキサン、エタノール及びアセトンを添加して順次洗浄した後、遠心分離(3000rpm、20min)を施して微粒子を回収した。次いで、真空乾燥(50℃、30min)を施し、メトキシ酢酸を含有する有機被膜を備える微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)を得た。
【0092】
<電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定>
得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)をエタノールに分散させ、この分散液をエラスチックカーボン支持膜(高分子材料膜(15〜20nm厚)+カーボン膜(20〜25nm厚))付きCuマイクログリッド(応研商事(株)製)上に滴下した後、自然乾燥させて観察用試料を作製した。この観察用試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)製「JEM−2000EX」)を用いて加速電圧200kVで観察した。
図1に、実施例1で得られた微粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM写真)を示す。
【0093】
次に、得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)について、X線回折装置((株)リガク製「試料水平型強力X線回折装置RINT−TTR」)を用い、X線源:CuKα線(λ=0.15418nm)、加速電圧:50kV、加速電流:300mAの条件で粉末X線回折(XRD)測定を行った。
図2に、実施例1で得られた微粒子のXRDスペクトルを示すグラフを示す。また、TEM像より任意の100個の粒子から平均粒子径を求めた。この結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
図1に示した透過型電子顕微鏡写真(TEM写真)、
図2に示したXRDスペクトル及び表1から明らかなように、実施例1で得られた微粒子はメトキシ酢酸含有有機被覆金属ナノ粒子(有機被覆金属ナノ粒子)であり、金属ナノ粒子は粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0096】
<有機被膜成分の分析>
実施例1で得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)をフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)測定装置(ニコレー社製「Magna760」)に赤外顕微鏡用ダイヤモンドウィンドウを取り付けた装置を用いて、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)をATR法(Attenuated total reflection、減衰全反射法)により測定した。
図3に、実施例1で得られた微粒子(有機被覆金属ナノ粒子)から抽出した有機被膜成分のIRスペクトルを示すグラフを示す。なお、実施例1における被膜交換前の一次被膜微粒子(デカン酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子)について、同様に赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定した。その結果を
図3に示す。
【0097】
図3に示した結果から明らかなように、被膜交換前(交換前)の一次被膜微粒子のIRスペクトルには微粒子の表面に配置された一次被膜が含有するデカン酸及びアミノデカン由来のアルキル基の吸収ピークが見られたが、被膜交換後(交換後)のIRスペクトルにはアルキル基のピークが大きく減少して新たにメトキシ基のピークが見られるようになったことから、デカン酸・アミノデカンとメトキシ酢酸の交換反応が起こりメトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子(メトキシ酢酸を含有する有機被膜を備えるCuナノ粒子、すなわち本発明の有機被覆金属ナノ粒子)が得られたことが確認された。また、被膜交換前のIRスペクトル及び被膜交換後のIRスペクトルの両者ともにカルボキシレート由来のピークが見られたことから、カルボン酸がCuと結びつくことで有機被膜(被覆層)を構成していることも確認された。
【0098】
<分散性:分散状態の観察>
実施例1により得られたメトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子(すなわち、本発明の有機被覆金属ナノ粒子)0.1gを極性溶媒であるエタノール溶媒4mlに添加し、超音波洗浄器にて分散させ、1日及び1週間静置後の分散状態を目視により観察した。粒子が沈殿していなかったものを「分散」、沈殿していたものを「沈殿」、溶媒への分散成分はあるものの底に沈殿成分も見られたものを「やや沈殿」と判定した。得られた結果を表1に示す。
【0099】
<熱分解特性:有機被膜(被覆剤)脱離温度の測定>
実施例1により得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子)50mgをアルミニウム製パン((株)リガク製)に入れ、示差熱・熱重量同時測定装置(TG−DTA、(株)リガク製)を用いて、100ml/minのアルゴン(Ar)ガス流通下、昇温速度20℃/minで室温から500℃まで昇温してTG−DTA測定によりメトキシ酢酸含有有機被膜(被覆剤)の脱離温度の測定を行った。
図4に、実施例1で得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子)のTG−DTA測定結果を示すグラフを示す。なお、実施例1における被膜交換前の一次被膜微粒子(デカン酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子)について、同様にTG−DTA測定を行った。その結果を
図4に示す。
【0100】
図4に示したTG−DTA測定結果から明らかなように、有機被膜の脱離中心温度は被膜交換前で約267℃、被膜交換後は約215℃であり、メトキシ酢酸を含有する有機被膜(低分子量モノマー被覆)の効果により低温で脱離することが確認された。
【0101】
なお、実施例1で得られたメトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子の有機被膜(被覆剤)の脱離温度を表1に示す。
【0102】
(実施例2)
メトキシ酢酸に代えてエトキシ酢酸1500mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、エトキシ酢酸を含有する有機被膜を備える微粒子(エトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)を得た。
【0103】
得られた微粒子(エトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、実施例2で得られた微粒子はエトキシ酢酸含有有機被覆金属ナノ粒子(有機被覆金属ナノ粒子)であり、金属ナノ粒子は粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0104】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、デカン酸・アミノデカンとエトキシ酢酸の交換反応が起こりエトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子(エトキシ酢酸を含有する有機被膜を備えるCuナノ粒子、すなわち本発明の有機被覆金属ナノ粒子)が得られたことが確認された。
【0105】
更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0106】
(比較例1)
実施例1において被膜交換をせずにデカン酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子(比較用微粒子)を作製した。
【0107】
得られた比較用微粒子(デカン酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例1で得られた比較用微粒子はデカン酸・アミノデカン含有有機被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0108】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜はデカン酸・アミノデカンからなる有機被膜であることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。なお、
図3における「交換前」及び
図4における「被膜交換前」のグラフは比較例1の比較用有機被覆金属ナノ粒子の評価試験結果を示すものでもある。
【0109】
(比較例2)
メトキシ酢酸に代えて3−エトキシプロピオン酸(C
5H
10O
3)1500mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、3−エトキシプロピオン酸含有有機被覆微粒子(比較用微粒子)を作製した。
【0110】
得られた比較用微粒子(3−エトキシプロピオン酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例2で得られた比較用微粒子は3−エトキシプロピオン酸含有有機被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0111】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜は3−エトキシプロピオン酸からなる有機被膜であることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0112】
(比較例3)
メトキシ酢酸に代えてグリコール酸1500mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、グリコール酸含有有機被覆微粒子(比較用微粒子)を作製した。
【0113】
得られた比較用微粒子(グリコール酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例3で得られた比較用微粒子はグリコール酸含有有機被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0114】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜はグリコール酸からなる有機被膜であることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0115】
(実施例3)
フラスコにエチレングリコール(HO(CH
2)
2OH)300mlを入れ、これに炭酸銅(CuCO
3・Cu(OH)
2・H
2O)60mmol、アミノデカン(C
10H
21NH
2)60mmol、メトキシ酢酸(CH
3OCH
2COOH)60mmolを添加した後、窒素(N
2)ガスを1L/minで流しながら、198℃で1時間加熱還流させたところ、微粒子が生成した。得られた微粒子をヘキサン中に分散させて回収した後、エタノール及びアセトンを添加して順次洗浄した後、遠心分離(3500rpm、20min)により回収し、真空乾燥(50℃、30min)を施し、メトキシ酢酸及びアミノデカンを含有する有機被膜を備える微粒子(メトキシ酢酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子)を得た。
【0116】
得られた微粒子(メトキシ酢酸・アミノデカン含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、実施例3で得られた微粒子はメトキシ酢酸・アミノデカン含有有機被覆金属ナノ粒子(有機被覆金属ナノ粒子)であり、金属ナノ粒子は粒子径が100nm〜800nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約250nmであることが確認された。
【0117】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、有機被膜成分はメトキシ酢酸及びアミノデカンであり、メトキシ酢酸・アミノデカン含有有機被覆Cuナノ粒子(メトキシ酢酸及びアミノデカンを含有する有機被膜を備えるCuナノ粒子、すなわち本発明の有機被覆金属ナノ粒子)が得られたことが確認された。
【0118】
更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0119】
(実施例4)
アミノデカンを用いなかった以外は実施例3と同様にして、メトキシ酢酸を含有する有機被膜を備える微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)を得た。
【0120】
得られた微粒子(メトキシ酢酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、実施例4で得られた微粒子はメトキシ酢酸含有有機被覆金属ナノ粒子(有機被覆金属ナノ粒子)であり、金属ナノ粒子は粒子径が200nm〜800nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約400nmであることが確認された。
【0121】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、有機被膜成分はメトキシ酢酸であり、メトキシ酢酸含有有機被覆Cuナノ粒子(メトキシ酢酸を含有する有機被膜を備えるCuナノ粒子、すなわち本発明の有機被覆金属ナノ粒子)が得られたことが確認された。
【0122】
更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0123】
(比較例4)
特開2012−46779号公報に記載の合成法に準じた手法において被覆剤として脂肪酸・脂肪族アミンの代わりにポリビニルピロリドンを使用してポリビニルピロリドン被覆微粒子を作製した。
【0124】
すなわち、フラスコにエチレングリコール(HO(CH
2)
2OH)300mlを入れ、これに炭酸銅(CuCO
3・Cu(OH)
2・H
2O)60mmolを添加したところ、炭酸銅はエチレングリコールにほとんど溶解せずに沈殿した。これに、ポリビニルピロリドン14.3gを添加した後、窒素ガスを1L/minで流しながら、198℃で1時間加熱還流させたところ、微粒子が生成した。得られた微粒子をヘキサン中に分散させて回収した後、エタノール及びアセトンを添加して順次洗浄した後、遠心分離(3500rpm、20min)により回収し、真空乾燥(50℃、30min)を施し、ポリビニルピロリドン被覆微粒子(比較用微粒子)を得た。
【0125】
得られた比較用微粒子(ポリビニルピロリドン被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例1で得られた比較用微粒子はポリビニルピロリドン被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、粒子径が50nm〜400nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約100nmであることが確認された。
【0126】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜はポリビニルピロリドンであることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0127】
(比較例5)
メトキシ酢酸に代えてヘキサン酸60mmolを用いた以外は実施例4と同様にして、ヘキサン酸含有有機被覆微粒子(比較用微粒子)を作製した。
【0128】
得られた比較用微粒子(ヘキサン酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例1で得られた比較用微粒子はヘキサン酸含有有機被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、粒子径が200nm〜800nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約400nmであることが確認された。
【0129】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜はヘキサン酸からなる有機被膜であることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0130】
(比較例6)
メトキシ酢酸に代えてリシノール酸(C
18H
34O
3)1500mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、リシノール酸を含有する有機被膜を備える微粒子(リシノール酸含有有機被覆微粒子)を得た。
【0131】
得られた微粒子(リシノール酸含有有機被覆微粒子)について、実施例1と同様に電子顕微鏡観察、金属成分の同定及び金属粒子の平均粒子径測定を行った結果、比較例6で得られた微粒子はリシノール酸含有有機被覆金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は粒子径が100nm〜500nmのCuナノ粒子で、平均粒子径が約150nmであることが確認された。
【0132】
また、実施例1と同様に有機被膜成分の分析を行った結果、表面被膜はリシノール酸からなる有機被膜であることが確認された。更に、分散状態の観察及び有機被膜脱離温度の測定を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0133】
(評価試験結果)
上記及び表1に示した実施例1〜4の結果と比較例1〜6の結果との比較から明らかなように、実施例1〜4の有機被覆金属ナノ粒子は、いずれも極性溶媒中での分散性に優れ、かつ、有機被膜の脱離温度が250℃以下と低温である有機被覆金属ナノ粒子が得られていることが確認された。
【0134】
これに対して、比較例1のデカン酸・アミノデカン含有有機被覆Cuナノ粒子は、Cuナノ粒子が無極性のアルキル基で被覆されているためエタノール溶媒に添加後すぐに沈澱し、極性溶媒への分散性が極めて悪いことが確認された。また、比較例2の3−エトキシプロピオン酸含有有機被覆Cuナノ粒子は、本発明の有機被膜よりやや長鎖なアルコキシカルボン酸で被覆されているため、金属ナノ粒子の有機被覆剤間の相互作用がやや強く長期的分散性にやや難があり、1週間静置後にやや沈澱が生成し、十分な分散性を有していないことが確認された。更に、比較例3のグリコール酸含有有機被覆Cuナノ粒子は、ヒドロキシ基間の相互作用が強く長期的に粒子が凝集して沈澱してしまうことが分り、十分な分散性を有していないことが確認された。また、比較例4ポリビニルピロリドン被覆Cuナノ粒子は、分散性は良好であるものの、高分子被覆剤であるため脱離温度が362℃と高く、低温での熱処理時に被覆剤が分解しにくいことが確認された。更に、比較例5のヘキサン酸含有有機被覆Cuナノ粒子は、Cuナノ粒子が無極性のアルキル基で被覆されているためエタノール溶媒に添加後すぐに沈澱し、極性溶媒への分散性が極めて悪いことが確認された。また、比較例6のリシノール酸含有有機被覆Cuナノ粒子は、本発明の有機被膜より長鎖なカルボン酸で被覆されているため、金属ナノ粒子の有機被覆剤間の相互作用が強く長期的分散性に難があることが確認された。
【0135】
以上より、本発明の有機被覆金属ナノ粒子は、極性溶媒中での分散性に優れ、かつ、大気中又は不活性ガス雰囲気中、低温(具体的には250℃以下)での熱処理により有機被膜が容易に熱分解される有機被覆金属ナノ粒子が得られていることが確認された。