特許第6387797号(P6387797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6387797-シリコン部品用シリコン結晶の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387797
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】シリコン部品用シリコン結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20180903BHJP
   C01B 33/021 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C30B29/06 A
   C01B33/021
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-227712(P2014-227712)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-88822(P2016-88822A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−121193(JP,A)
【文献】 特開2010−153706(JP,A)
【文献】 特開2005−145744(JP,A)
【文献】 特開2005−203575(JP,A)
【文献】 特開2002−208596(JP,A)
【文献】 特開2001−199794(JP,A)
【文献】 特開平03−080200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液内のドーパントが凝固の相変化に伴い液相側に平衡偏析係数に基づいてドーパントが分配される量を考慮して結晶中で所望の濃度となるように前記ドーパント量を決めてシリコン部品用シリコン結晶を製造する方法であって、
前記シリコン結晶がシリコン多結晶又は疑シリコン単結晶であり、
前記ドーパントとしてゲルマニウムと窒素を含み、更に不可避成分又は前記ドーパントとして炭素と酸素を含み、前記ゲルマニウム濃度が1×1019〜5×1020atoms/cm3であり、前記窒素濃度が5×1014〜4×1015atoms/cm3であり、前記炭素濃度が1×1016atoms/cm3〜3×1017atoms/cm3であり、前記酸素濃度が0.1×1018atoms/cm3〜3.0×1018atoms/cm3であることを特徴とするシリコン部品用シリコン結晶の製造方法
【請求項2】
ドーパントとして炭素を含むときには、前記炭素濃度が5×1016〜3×1017atoms/cm3である請求項1記載のシリコン結晶の製造方法
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法で製造されたシリコン結晶からシリコン部品を加工する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造用のプラズマ装置(プラズマエッチング装置)に用いられる各種リング、電極板等のシリコン部品、CVD(化学気相成長)用装置のサセプタ、均熱板等のシリコン部品、スパッタリングターゲット用の板状シリコン部品、及びシリコン部品に加工するためのシリコン結晶の製造方法に関する。更に詳しくはゲルマニウム及び窒素又はゲルマニウムと窒素と炭素がドーピングされたシリコン結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ドーパントとしてゲルマニウムを少なくとも含むシリコン単結晶、シリコンウエハ及びシリコン材料が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献1は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の成長方法を開示する。この方法では、シリコン融液中、高濃度ドーパントを添加させた種子結晶の直下近傍に、下方に向ってドーパント濃度を漸次減少させた領域を形成させて、ミスフィット転位のない成長結晶を得ている。このドーパントとしてゲルマニウムを用い、種子結晶中のゲルマニウム濃度を6×1019〜5×1020atoms/cmとしている。特許文献1には、この方法によれば、シリコン単結晶を引上げるときに結晶の無転位化のために行われるネッキングを不要とすることができることが記載されている。
【0004】
特許文献2は、ゲルマニウム濃度が5×1019〜1.5×1020atoms/cmであり、かつ酸素濃度が11×1017〜18×1017atoms/cm(OLS ASTM)である高耐熱衝撃性シリコンウエハを開示する。この特許文献2は、シリコンウエハ中に高濃度のゲルマニウムと高濃度の酸素が不純物として含むと、このゲルマニウム(Ge)と酸素とが形成するGe−酸素コンプレックスが、シリコン単結晶内で発生したスリップや転位を、ミクロ範囲で効果的に固着させ、熱衝撃によるスリップや転位を、マクロ範囲で十分抑制し、高耐熱衝撃性を有するシリコンウエハが実現できることを開示する。
【0005】
特許文献3は、酸素濃度が0.5×1018atoms/cm以上で、ドーパントを1.0×1012atoms/cm以上の濃度で含み、結晶格子歪みが1×10−3〜2×10−5(原子単位)の範囲であるシリコン単結晶ウエハを開示する。そしてこのドーパントとしてゲルマニウム、炭素、又は窒素の少なくとも一種が示され、酸素濃度が0.5×1018atoms/cm以上で、ゲルマニウム及び/又は炭素を1.0×1013〜2.0×1018atoms/cmの濃度範囲で含有したシリコン単結晶に、窒素を1.0×1013〜2.0×1018atoms/cmの濃度範囲でドープし、更に、還元性ガス及び/又は不活性ガスの雰囲気下、1000℃以上で高温処理し、表面の窒素濃度を1.0×1013atoms/cm以下、結晶格子歪みを該表面から20μmの深さで2×10−6(原子単位)以下としたシリコン単結晶ウエハが示される。この特許文献3は、そのシリコン単結晶ウエハが窒素等のドーパント不純物を特定濃度でド−プして、結晶格子歪みが所定の範囲になるように構成したことにより、優れた重金属不純物ゲッタリング性能を有すること、また、窒素とそれ以外のドーパントとを併せて夫々特定濃度でド−プしたシリコン単結晶に、還元性ガス、又は不活性ガス雰囲気下、特定温度で高温処理したシリコン単結晶ウエハが、デバイスを形成する表層が、極めて清浄な表面を有する無欠陥層となり、他方、内部のバルクにはゲッタリングサイトが密に分布する半導体製造用として極めて好適なシリコン単結晶ウエハとなることを開示している。
【0006】
特許文献4は、太陽電池製造用のゲルマニウム濃縮シリコン材料を開示する。特許文献4には、所定量のゲルマニウムを溶融物に添加し、それぞれの結晶シリコン材料のシリコン格子にゲルマニウムを取り込むように結晶化を実行することが記載され、ゲルマニウムがこのように取り込まれることで、シリコン材料のそれぞれの特性、主に、材料強度が向上する。これにより、太陽電池の製造およびこれらの太陽電池からのモジュールの作製におけるこのような材料の適用に好ましい効果を及ぼすことが記載されている。ここでは、ゲルマニウム濃度が50〜200ppmw(9.65×1017〜3.86×1018atoms/cm)の範囲のシリコン材料が、材料強度の向上を示し、最良の実用範囲は、生成された材料の品質に依存することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−080294号公報(要約、請求項1、請求項3)
【特許文献2】特開2003−146795号公報(請求項2、段落[0020])
【特許文献3】特開2002−208596号公報(請求項1、請求項2、請求項5、段落[0039])
【特許文献4】特開2011−524849号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、シリコン結晶から、半導体デバイス製造用のプラズマ装置(プラズマエッチング装置)に用いられる各種リング、電極板等のシリコン部品、CVD用装置のサセプタ、均熱板等のシリコン部品、スパッタリングターゲット用の板状シリコン部品等に加工する場合に、従来のシリコン結晶では加工中にシリコン結晶材料が割れたり、欠けを生じたりする不具合があった。具体的には、シリコン結晶から板材にスライスしたときに、或いはリング孔をくり抜いたときに、その加工中にシリコンが割れたり、欠けたりする場合があった。更に、シリコン部品が使用されている最中に割れたり、欠けたりする場合があった。またスパッタリングターゲットで使用中にそのターゲットが割れる場合があった。更に一方向凝固法でシリコン多結晶インゴットを鋳造したときに、インゴットが欠ける場合があった。
【0009】
特許文献1に示されるシリコン単結晶の成長方法は、ドーパントとしてゲルマニウムを含むことによりミスフィット転位のない結晶、即ち無転位シリコン単結晶を得るものであり、得られたシリコン単結晶では本発明の課題を解決し得ない。また特許文献2に示されるシリコンウエハは、ゲルマニウムと酸素を不純物として含むことにより、熱衝撃によるスリップや転位を抑制し、高耐熱衝撃性を有するものであり、このウエハでは本発明の課題を解決し得ない。
【0010】
また特許文献3に示されるシリコン単結晶ウエハは、ドーパントとしてゲルマニウム、炭素、又は窒素の少なくとも一種含有させて、結晶格子歪みが所定の範囲になるように構成したことにより、優れた重金属不純物ゲッタリング性能を有するものであり、このウエハでは本発明の課題を解決し得ない。更に特許文献4に示されるシリコン材料は、50〜200ppmwの濃度範囲でゲルマニウムをシリコン溶融物に添加して材料強度を向上させている。しかし、上記濃度範囲でゲルマニウムを含ませたシリコン材料は、本発明のシリコン部品に加工した場合、依然として強度が不足し、加工中に割れや欠けを生じていた。
【0011】
本発明の目的は、シリコン部品用にシリコン結晶を加工する際に、シリコン結晶が割れや欠けを起こしにくい、強度の高いシリコン部品用シリコン結晶の製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は、この方法で製造されたシリコン結晶から割れや欠けのないシリコン部品を加工する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点は、シリコン融液内のドーパントが凝固の相変化に伴い液相側に平衡偏析係数に基づいてドーパントが分配される量を考慮して結晶中で所望の濃度となるように前記ドーパント量を決めてシリコン部品用シリコン結晶を製造する方法であって、前記シリコン結晶がシリコン多結晶又は疑シリコン単結晶であり、前記ドーパントとしてゲルマニウムと窒素を含み、更に不可避成分又は前記ドーパントとして炭素と酸素を含み、前記ゲルマニウム濃度が1×1019〜5×1020atoms/cm3であり、前記窒素濃度が5×1014〜4×1015atoms/cm3であり、前記炭素濃度が1×1016atoms/cm3〜3×1017atoms/cm3であり、前記酸素濃度が0.1×1018atoms/cm3〜3.0×1018atoms/cm3であることを特徴とするシリコン部品用シリコン結晶の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、ドーパントとして炭素を含むときには、前記炭素濃度が5×1016〜3×1017atoms/cm3であるシリコン結晶の製造方法である。
【0015】
本発明の第の観点は、第1又は第2の観点の方法で製造されたシリコン結晶からシリコン部品を加工する方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点のシリコン結晶の製造方法では、ドーパントとして所定濃度のゲルマニウムと所定濃度の窒素を含むことにより、シリコン(Si)の格子に適度な引張応力を伴った格子歪み、即ち格子が適度な膨張する歪みを生じ、シリコン結晶の強度を向上させる。ドーパントとして所定濃度の炭素を含む場合には、炭素原子は、シリコン結晶中で格子位置を占め、炭素原子の共有結合半径はシリコン原子の半径より小さいのでシリコン格子を縮小させ、格子歪みを生じる。このため、更に所定濃度の炭素を含むことにより適度な格子歪みを生じ、シリコン結晶の強度を向上させる。またゲルマニウムと窒素をドープし過ぎると、過度な歪みが生じ、シリコン強度を低下させるおそれを生じるけれども、炭素は縮小させる格子歪みを生じさせるので、ゲルマニウムと窒素のドープ過多によるシリコン強度の低下を生じさせない効果もある。
【0017】
本発明の第2の観点のシリコン結晶の製造方法では、ドーパントとして炭素を含むときには、その炭素濃度は5×1016〜3×1017atoms/cm3であることが好ましい。この場合、本発明の第1の観点のシリコン結晶の製造方法における炭素と同じ役割を果たし、更に強度を向上させる。
【0019】
本発明の第の観点の方法で加工されたシリコン部品は、割れや欠けのなく、各種用途に好適に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施例のシリコン多結晶を製造する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施形態を説明する。
【0022】
〔シリコン結晶〕
本発明のシリコン結晶は、シリコン単結晶、シリコン多結晶又は擬シリコン単結晶である。シリコン単結晶は、例えば、種結晶をるつぼ内のシリコン融液に接触させてゆっくりと回転させながら引き上げるチョクラルスキー(CZ)法により製造される。シリコン多結晶は、例えば、るつぼ内においてシリコン融液をるつぼ底面から上方に向けて一方向凝固させる一方向凝固法により製造される。更に擬シリコン単結晶は、シリコン単結晶の種結晶を用いた一方向凝固法により製造される。ここで擬シリコン単結晶(near-monocrysalline silicon)とは、本体の体積の50%以上の領域全体に1つの一貫した結晶方位を有するシリコン結晶体であり、多結晶領域に隣接して単結晶領域を有するシリコン結晶である。
【0023】
〔ドーパントの種類及びその濃度〕
本発明のシリコン結晶にドープされるドーパントは、ゲルマニウム、窒素、炭素である。
・ ゲルマニウム
シリコン結晶中のゲルマニウムの濃度は、1×1019〜5×1020atoms/cmである。ゲルマニウム濃度が1×1019atoms/cmで未満の場合、シリコンの格子に引張応力を伴った格子歪みが小さく、シリコン結晶の強度を向上させる効果が乏しい。またゲルマニウム濃度が5×1020atoms/cmを超えると、シリコンの格子歪みが大きくなり過ぎシリコン結晶の強度が低下する。好ましいゲルマニウム濃度は5×1019〜5×1020atoms/cmである。
【0024】
・ 窒素
シリコン結晶中の窒素の濃度は、5×1014〜4×1015atoms/cmである。窒素濃度が5×1014atoms/cmで未満の場合、シリコンの格子に引張応力を伴った格子歪みが小さく、シリコン結晶の強度を向上させる効果が乏しい。また窒素濃度が4×1015atoms/cmを超えると、結晶中での窒素の許容固溶度を超え、結晶中にSiが形成され、シリコン結晶の強度が低下する。好ましい窒素濃度は8×1014〜4×1015atoms/cmである。
【0025】
・ 炭素
シリコン結晶中に含まれる不可避成分又はドーパントとしての炭素の濃度は、1×1016atoms/cm〜3×1017atoms/cmである。不可避成分としてシリコン結晶中に含まれる炭素は、主に炉内のカーボンヒーターやカーボン製の成形断熱材などがその起源である。ドーパントとして炭素を加えた場合のシリコン結晶中の炭素の濃度は、5×1016〜3×1017atoms/cmであることが好ましい。炭素濃度が1×1016atoms/cm未満の場合、シリコンの格子に圧縮応力を伴った格子歪みが小さく、シリコン結晶の強度を向上させる効果が乏しい。また炭素濃度が3×1017atoms/cmを超えると、結晶中での炭素の許容固溶度を超え、結晶中にSiCが形成され、シリコン結晶の強度が低下する。好ましい炭素濃度は8×1016〜3×1017atoms/cmである。
【0026】
〔ドーピング方法〕
(1) ゲルマニウム
シリコン結晶中にゲルマニウムをドープするには、CZ法及び一方向凝固法の場合、金属ゲルマニウムをシリコン原料とともにるつぼ内に入れ、溶融する。シリコン原料としては高純度のシリコン多結晶の粒状物、塊状物、又はシリコン単結晶の高純度のリサイクル品(インゴット、シリコンウエハのリサイクル品)等が挙げられる。
【0027】
(2) 窒素
シリコン結晶中に窒素をドープするには、CZ法及び一方向凝固法の場合、るつぼ内に、シリコン原料を窒化ケイ素とともに入れるか、窒化ケイ素膜を形成したシリコンウエハを原料として入れるか、或いは窒素をドープしたシリコン原料を入れるかして、これを溶融する。また一方向凝固法の場合、るつぼ内面に窒化ケイ素をコーティングしたるつぼを使用することもできる。この窒化ケイ素がるつぼ内面にコーティングされる例としては、特開2001−198648号公報に示される方法が挙げられる。この方法ではシリコンインゴット鋳造用鋳型のるつぼの内層が、微細溶融シリカ砂が窒化ケイ素粉末及びナトリウム含有のシリカからなる混合体素地により結合されて作られる。
【0028】
(3) 炭素
シリコン結晶中に炭素をドープするには、CZ法及び一方向凝固法の場合、るつぼ内に、シリコン原料をグラファイト粉末又は炭化ケイ素粉末とともに入れるか、炭化ケイ素膜を形成したシリコンウエハを原料として入れるか、或いは炭素をドープしたシリコン原料を入れるかして、これを溶融する。また一方向凝固法の場合、炉内のカーボン部材の表面をコーティングしないでシリコン結晶を製造する。
【0029】
〔ドーピング量〕
ゲルマニウム(金属Ge)、窒素及び炭素の各ドーパントのドーピング量は、シリコン結晶中で上述した所望の濃度となるように、シリコン融液内のドーパントが凝固の相変化に伴い液相側に平衡偏析係数に基づいて分配される量を考慮して決められる。
【0030】
〔酸素濃度〕
CZ法及び一方向凝固法で石英るつぼを使用する場合、或いは一方向凝固法でるつぼ(鋳型)内面に微細溶融シリカ砂を含む内層シリカ層(特開平11−244988号公報)若しくは微細溶融シリカ砂のスラリーを塗布したスラリー層とシリカ砂をスタッコ(まぶす)したスタッコ層が複数回積層された多層コーティング層(特開平11−116228号公報)が形成されている場合、CZ法及び一方向凝固法ともに、シリコン原料に高純度のものを使用しても、るつぼ内面からシリコン融液中に溶出するSiOがシリコン結晶中に取り込まれ、シリコン結晶は酸素を含有する。CZ法及び一方向凝固法ともに、シリコン結晶中の酸素濃度を低減するために、炉内にArガス等の不活性ガスをキャリアガスとして流し、シリコン融液表面から蒸発するSiOガスを強制的に炉外に排出する。CZ法では更にシリコン融液に磁場を印加してシリコン融液の対流を抑制させる。また一方向凝固法では、前述したるつぼ内面に窒化ケイ素をコーティングしたるつぼを使用することにより、酸素濃度を低減する。
【0031】
本発明では、るつぼ内面に窒化ケイ素をコーティングしたるつぼを使用し、0.1×1018〜1.0×1018atoms/cmの濃度で酸素を含有するシリコン結晶を製造する。なお、本発明では、この製造方法に限らず、石英るつぼ又は内層にシリカコーティングしたるつぼを使用し、0.8×1018〜3.0×1018atoms/cmの濃度で酸素を含有するシリコン結晶を製造することもできる。なお、このオーダーの酸素濃度であれば、シリコンの強度向上に貢献することが知られている。
【0032】
〔ドーパント濃度及び酸素濃度の測定方法〕
本発明では、ゲルマニウム濃度は、Thermo Fisher Scientific社製の原子吸光分析装置iCF3500を用いて、また窒素濃度はCAMECA社製の二次イオン質量分析装置IMS−6Fを用いてそれぞれ測定した。また、炭素濃度と酸素濃度は、日本分光株式会社製FT/IR−4000を用いて、JEIDA−56−1998とJEIDA−61−2000に規定される条件でそれぞれ測定した。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。下記の実施例1〜3は、第2の観点の発明に基づき、実施例4〜6は、第1の観点の発明に基づく。
【0034】
まず、本発明の実施例及び比較例のシリコン多結晶インゴットを製造する装置を図1により説明する。図1は 一方向凝固法に基づくシリコン多結晶を製造する鋳造装置10を示す。この鋳造装置10は、内部を気密状態に保持するチャンバ11と、シリコン融液3が貯留されるるつぼ20と、このるつぼ20が載置されるチルプレート31と、このチルプレート31の下方に位置する下部ヒータ33と、るつぼ20の上方に位置する上部ヒータ43と、るつぼ20の上端に載置された蓋部50と、るつぼ20と蓋部50との間の空間に不活性ガス(Arガス)を導入するガス供給管42とを備える。また、るつぼ20の外周側には、断熱壁12が配設されており、上部ヒータ43の上方に断熱天井13が配設され、下部ヒータ33の下方に断熱床14が配設されている。即ち、るつぼ20、上部ヒータ43、下部ヒータ33等を囲繞するように、断熱材(断熱壁12、断熱天井13、断熱床14)が配設される。また、断熱床14には、排気孔15が設けられる。
【0035】
上部ヒータ43及び下部ヒータ33は、それぞれ電極棒44,34に接続されている。上部ヒータ43に接続される電極棒44は、断熱天井13を貫通して挿入されている。下部ヒータ33に接続される電極棒34は、断熱床14を貫通して挿入されている。るつぼ20が載置されるチルプレート31は、下部ヒータ33に挿通された支持部32の上端に設置されている。このチルプレート31は、中空構造であって、支持部32の内部に設けられた供給路(図示なし)を介して内部にArガスが供給されるようになっている。るつぼ20は、水平断面形状が正方形をなしている。このるつぼ20は、石英で構成されており、チルプレート31に接触する底面21と、この底面21から上方に向けて立設された側壁部22とを有する。この側壁部22は、製造するシリコン多結晶インゴットの形状に応じて、水平断面が矩形環状又は円形環状をなしている。図1では矩形環状の例を示す。側壁部22が円形環状である場合、即ち円形のるつぼの場合、るつぼ外周の断熱材の形状やその配置を適宜変更する(図示せず)。
【0036】
<実施例1>
上記鋳造装置を用いてシリコン多結晶インゴットを製造した。その鋳造は以下のように行った。高純度のSi原料260kgと5N(純度99.999%)の小塊状の金属ゲルマニウム6819gと窒素源としてシリコンウエハ上に成膜した窒化ケイ素膜0.026gと高純度グラファイト粉末0.67gを充填した水平断面が正方形のるつぼ(るつぼ内径670mmxるつぼ内径670mmxるつぼ深さ450mm)を鋳造炉内に入れ、Arガスで置換後、Ar雰囲気中で溶解、凝固、冷却を行った。るつぼは内面に微細溶融シリカ砂を含む内層シリカ層を形成した石英るつぼを使用した。溶解は上ヒータを1500℃、下ヒータを1450℃に設定しシリコン原料と添加したドーパントを溶解した。その後、一方向凝固を行うために、下ヒータを切り、中空構造のチルプレート内部にArガスを供給し、上ヒータの温度を0.1〜0.001℃/minで降下した。凝固が完了した後、上ヒータと下ヒータを制御して、インゴットの温度を1100℃で2時間保持して、その後炉冷し、200℃で炉から取り出した。得られたシリコン多結晶インゴットは、670mm角で高さ250mmの四角形柱状であり、酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.85×1018〜2.7×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0037】
<実施例2>
金属ゲルマニウムの充填量を1091gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.0065gに変え、高純度グラファイト粉末の充填量を0.22gに変えた。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.83×1018〜2.8×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0038】
<実施例3>
金属ゲルマニウムの充填量を136gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.003gに変え、高純度グラファイト粉末の充填量を0.11gに変えた。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は0.81×1018〜2.9×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0039】
<実施例4>
金属ゲルマニウムの充填量を実施例1と同じ6819gにし、窒化ケイ素膜の充填量を0.013gに変えた。炭素源としての高純度グラファイト粉末は加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.82×1018〜3.0×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0040】
<実施例5>
金属ゲルマニウムの充填量を1227gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.0065gに変えた。炭素源としての高純度グラファイト粉末は加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.80×1018〜2.5×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0041】
<実施例6>
金属ゲルマニウムの充填量を136gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.0046gに変えた。炭素源としての高純度グラファイト粉末は加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.81×1018〜2.7×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0042】
<比較例1>
金属ゲルマニウムの充填量を68gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.00065gに変え、高純度グラファイト粉末の充填量を0.022gに変えた。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.82×1018〜2.9×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0043】
<比較例2>
金属ゲルマニウムの充填量を109gに変え、窒化ケイ素膜の充填量を0.00065gに変えた。炭素源としての高純度グラファイト粉末は加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.85×1018〜3.0×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0044】
<比較例3>
金属ゲルマニウムの充填量を1091gに変えた。窒素源としての窒化ケイ素膜及び炭素源としての高純度グラファイト粉末はいずれも加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.84×1018〜2.9×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0045】
<比較例4>
ゲルマニウム源としての金属ゲルマニウム、窒素源としての窒化ケイ素膜及び炭素源としての高純度グラファイト粉末はいずれも加えなかった。それ以外、実施例1と同様にして、シリコン多結晶インゴットを製造した。このインゴットの酸素濃度は、上述した方法で測定したところ、0.80×1018〜2.9×1018atoms/cmの範囲にあった。
【0046】
<測定結果>
(a) ドーパント濃度
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた四角形柱状のシリコン多結晶インゴットのるつぼの底部から上方へ20mmの部分、及びるつぼの頂部から下方へ40mmの部分の面内中央部の各ドーパント(ゲルマニウム、窒素、炭素)を上述した方法で測定した。この平均値を表1に示す。なお、炭素濃度に関して、実施例4〜6及び比較例2〜4では、グラファイト粉末を加えなかったが、鋳造装置内の雰囲気からシリコン融液中に炭素源が混入したため、シリコン多結晶インゴットの炭素濃度はそれぞれ1×1016atoms/cmであった。また比較例1では、グラファイト粉末を加えたが、微量であったため、鋳造装置内の雰囲気からシリコン融液中に混入した量が測定された。このインゴットの炭素濃度は2×1016atoms/cmであった。
【0047】
(b) 強度試験
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた四角形柱状のシリコン多結晶インゴットをそれぞれスライスして670mm角で厚さ3mmの10種類のシリコン多結晶板を得た。結晶成長方向の中央部の各シリコン多結晶板を短冊状にスライスして、1枚のシリコン多結晶板から、幅4mm、厚さ3mm、長さ40mmの強度試験用サンプルを3個作製した。即ち、実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた10種類のシリコン多結晶インゴットから、それぞれ3個の強度試験用サンプルを作製した。強度のばらつきを防止するため、サンプル表面は研磨して鏡面に仕上げた。JISR1601に基づいて、各サンプルについて4点曲げ試験を行った。4点曲げ試験には、インストロン(登録商標)万能試験機5985型(インストロン社製)を使用した。クロスヘッドスピードは0.5mm/分、上スパンは10mm。下スパンは30mmに設定した。実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた10種類のサンプルの強度試験結果を表1に示す。
【0048】
(c) シリコン多結晶インゴットの割れ・欠けの有無
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた四角形柱状のシリコン多結晶インゴットの外観を目視により観察し、インゴットの割れ又は欠けの有無を調べた。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
<評価>
表1から明らかなように、ゲルマニウム、窒素、炭素のいずれもドープしていない比較例4の平均強度は169MPaと低かった。またゲルマニウム、窒素、炭素のすべてをドープしたものの各濃度が所定の下限値濃度未満の比較例1の平均強度は170MPaと低かった。またゲルマニウム濃度を比較例1より高めた比較例2は、窒素濃度が所定の下限値濃度未満でありかつ炭素をドープしていないため、173MPaと低かった。またゲルマニウム濃度を比較例1より高めた比較例3は、窒素及び炭素をドープしていないため、187MPaと低かった。これらの比較例1〜4に対して、ゲルマニウム濃度及び窒素濃度がそれぞれ所定の濃度範囲内にある実施例1〜6は、平均強度が193〜240MPaであり、高かった。特に、ゲルマニウムと窒素に加えて炭素を所定の濃度範囲含有させた実施例1〜3は、平均強度が193〜240であり、比較例1〜4より高かった。また比較例1及び比較例4のシリコン多結晶インゴットはるつぼから取り出した後で、微小な割れ及び欠けが見られた。これに対して実施例1〜6のシリコン多結晶インゴットには全く割れ及び欠けが見られなかった。上記結果から、実施例1〜6のシリコン多結晶インゴットから各種シリコン部品を加工する際に、又は加工後、使用したときに、シリコン部品に割れや掛けを生じないことが予想できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のシリコン結晶は、半導体デバイス製造用のプラズマ装置(プラズマエッチング装置)に用いられる各種リング、電極板等のシリコン部品、CVD(化学気相成長)用装置のサセプタ、均熱板等のシリコン部品、スパッタリングターゲット用の板状シリコン部品等に加工するために利用できる。
図1