(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電機子巻線に超電導コイルを備えた超電導モータに駆動電流を供給する場合に、前記超電導モータの回転状態を示す回転信号を前記超電導モータからマスターインバータに取り込み、該マスターインバータから各スレーブインバータに前記回転信号を供給し、マスターインバータ及び各スレーブインバータは、前記回転信号を用いたフィードバック制御手法に基づいて駆動電流を生成することを特徴とする請求項2に記載の偏流防止装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記差動トランスを用いる特許文献1に記載の技術では、電流調整器が複数の差動トランスから構成されているので、電流調整器における電力損失が大きく、また電流調整器の装置サイズや重量が大きい。すなわち、上記電流調整器では、差動トランスが周知の鉄損や銅損を不可避的に有しているので電力損失が大きく、また複数の超電導コイルに対して差動トランスを各々設けるので装置サイズや重量が大きくなる。したがって、偏流防止装置に起因して電力損失及び装置サイズや重量が大きいという問題点がある。また、特許文献2の方法では並列回路が多数になる場合に、十分に偏流を防ぐことが難しい。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来の電流調整器よりも電力損失が小さく、また小型軽量な偏流防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、複数並列接続された超電導コイルによって構成されている超電導並列回路装置に電流を供給し、各超電導コイル間の偏流を防止する偏流防止装置であって、前記超電導コイル毎に設けられ、前記超電導コイルに通電電流を供給する複数のインバータを具備し、前記複数のインバータは、予め設定された電流分配情報に基づいて各超電導コイル間で偏流が生じないように通電電流を同期生成するという手段を採用する。
【0007】
本発明では、第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記複数のインバータは、通電電流の生成処理のタイミングを規定する同期信号を外部に出力する単一のマスターインバータと、前記同期信号を取り込み、当該同期信号に基づいて通電電流を生成する複数のスレーブインバータとからなるという手段を採用する。
【0008】
本発明では、第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、電機子巻線に超電導コイルを備えた超電導モータに駆動電流を供給する場合に、前記超電導モータの回転状態を示す回転信号を前記超電導モータからマスターインバータに取り込み、該マスターインバータから各スレーブインバータに前記回転信号を供給し、マスターインバータ及び各スレーブインバータは、前記回転信号を用いたフィードバック制御手法に基づいて駆動電流を生成するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、交流電流を前記超電導並列回路装置に供給するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、差動トランスを用いた偏流防止装置に代えて、駆動電流を各超電導コイルに供給するインバータによって偏流を防止するので、偏流防止に起因する電力損失を低減することが可能であり、また小型軽量化を実現することが可能である。さらに、本発明では、超電導コイル毎に設けられた各インバータが、個々の超電導コイルの特性に基づく電流分配情報に従い各超電導コイル間で偏流が生じないように電流を同期生成するので、超電導コイルが多数になったとしても偏流を防ぐことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態として、超電導同期モータに適用した場合について説明する。
本実施形態に係る偏流防止装置Aは、超電導同期モータB及び電源Cに接続され、電源Cから供給される交流電圧を3相(U相、V相、W相)の駆動電流に変換し、当該駆動電流を超電導同期モータBに供給する。上記超電導同期モータBは、内部に永久磁石もしくは界磁巻線を有する円筒状の回転子と、当該回転子の周面に対向配置されるとともに極低温に冷却された複数の超電導コイルを備えた固定子とから構成されている。この固定子は、U相、V相及びW相に対応した複数の固定子巻線を備え、また各固定子巻線は、各々にN個の超電導コイルが並列接続されて構成されている。また、超電導同期モータBには、回転検出器20が取り付けられている。この回転検出器20は、回転数や、磁極位置や、角速度などの超電導同期モータBの回転状態を示す回転信号を検出し、その情報を偏流防止装置Aに出力する。つまり、偏流防止装置Aは、回転検出器20から入力される回転信号を用いたフィードバック制御手法に基づいて駆動電流を生成する。
【0013】
偏流防止装置Aについてさらに説明すると、偏流防止装置Aは、
図1に示すように、マスターインバータM及び1台以上のスレーブインバータS1〜Snから構成されている。
マスターインバータMは、超電導同期モータBのU相、V相及びW相それぞれの固定子巻線の1つの超電導コイルに接続し、接続先の超電導コイルの特性に基づく補正係数(電流分配情報)に基づいて交流電圧を3相の駆動電流に変換し、当該駆動電流を超電導コイルに供給するとともに、光ファイバーケーブルを介して接続されているスレーブインバータS1〜Snに回転信号(トルク指令値Ts及び位相角情報θe)やPWM同期信号Stを出力する。
【0014】
このマスターインバータMは、
図2に示すように、ASR回転数制御部1a、位相角演算部1b、PWM同期信号生成部1c、ベクトル演算部1d、ACR電流制御部1e、AC/DC変換器1f及びPWM生成駆動部1gから構成されている。なお、ASR回転数制御部1a、位相角演算部1b、ベクトル演算部1d及びACR電流制御部1eは、ソフトウェアによって構成されている。
【0015】
ASR回転数制御部1aは、一種のPI(・D)制御部であり、上位制御装置から入力された速度指令情報と、回転検出器20から入力された回転信号とに基づいて速度指令と超電導同期モータBの角速度との差分(速度誤差)及び磁極位置偏差を算出し、速度誤差に所定の比例積分(・微分演算)を施すことにより速度誤差に応じたトルク指令値Tsを算出し、接続先の超電導コイルの特性に基づく補正係数を乗算したトルク指令値Tsをベクトル演算部1dに出力するとともに、当該トルク指令値TsをスレーブインバータS1〜Snに出力する。なお、上記補正係数は、U相、V相及びW相の各同一相を構成する並列接続された超電導コイルに通電する電流の割合であり、予めメモリに記憶された設定値である。
【0016】
位相角演算部1bは、回転検出器20から入力された回転信号に基づいて超電導同期モータBの回転の位相角を算出し、当該位相角を示す位相角情報θeを、ベクトル演算部1d及びスレーブインバータS1〜Snに出力する。
PWM同期信号生成部1cは、PWM同期信号Stを生成し、当該PWM同期信号StをPWM生成駆動部1g及びスレーブインバータS1〜Snに出力する。
【0017】
ベクトル演算部1dは、位相角演算部1bから入力された位相角情報θe及びASR回転数制御部1aから入力されたトルク指令Tsに基づいて、電流指令値をACR電流制御部1eに出力する。
【0018】
ACR電流制御部1eは、ベクトル演算部1dから入力された電流指令値に所定の比例積分(・微分演算)を各々施することにより電圧操作量Vqs,Vdsに変換し、ベクトル演算にてU相、V相及びW相からなる3相交流座標系上の電圧操作量Vu,Vv,Vwに変換し、PWM生成駆動部1gに出力する。
AC/DC変換器1fは、例えば整流回路などであり、電源Cから入力された交流電圧を直流電圧に変換し、当該直流電圧をPWM生成駆動部1gに出力する。
【0019】
PWM生成駆動部1gは、PWM同期信号生成部1cから入力されたPWM同期信号Stを基準に、電圧操作量Vu,Vv,Vwに基づいてスイッチング動作するためのPWM信号を生成し、PWM信号に基づいてAC/DC変換器1fから供給された直流電圧をスイッチングすることによりU相、V相及びW相からなる3相の駆動電流を生成し、超電導コイルに供給する。
【0020】
次に、スレーブインバータS1〜Snについて説明する。スレーブインバータS1〜Snは、超電導同期モータBのU相、V相及びW相の各相に駆動電流をそれぞれ供給し、U相、V相及びW相の固定子巻線の異なる超電導コイルにそれぞれ接続されている。このスレーブインバータS1〜Snは、光ファイバーケーブルを介して接続されているマスターインバータMから入力される回転信号(トルク指令値Ts及び位相角情報θe)、PWM同期信号St及び補正係数に基づいて交流電圧から3相の駆動電流を生成する。なお、スレーブインバータ2〜Nの構成は、同一であるので、以下ではスレーブインバータS1に着目して説明する。
【0021】
スレーブインバータS1は、トルク比設定部2a、位相角演算部2b、ベクトル演算部2c、ACR電流制御部2d、AC/DC変換器2e及びPWM生成駆動部2fから構成されている。
トルク比設定部2aは、接続先の超電導コイルの特性に基づく補正係数をマスターインバータMから入力されたトルク指令値Tsに乗算し、当該トルク指令値Tsをベクトル演算部2cに出力する。なお、上記補正係数は、U相、V相及びW相の各同一相を構成する各超電導コイル間で偏流が生じないようにマスターインバータMの接続先である超電導コイルを基準にスレーブインバータS1の接続先の超電導コイルの特性に基づいて予めメモリに記憶された設定値である。
位相角演算部2bは、マスターインバータMから入力された位相角情報θeをそのままベクトル演算部2cに出力する。
【0022】
ベクトル演算部2cは、入力された位相角情報θe及びトルク比設定部2aから入力されたトルク指令値Tsに基づいて電流指令値をACR電流制御部2dに出力する。
【0023】
ACR電流制御部2dは、ベクトル演算部2cから入力された電流指令値に所定の比例積分(・微分演算)を各々施することにより電圧操作量Vqs,Vdsに変換し、ベクトル演算にてU相、V相及びW相からなる3相交流座標系上の電圧操作量Vu,Vv,Vwに変換し、PWM生成駆動部2fに出力する。
AC/DC変換器2eは、例えば整流回路などであり、電源Cから入力された交流電圧を直流電圧に変換し、当該直流電圧をPWM生成駆動部2fに出力する。
【0024】
PWM生成駆動部2fは、入力されたPWM同期信号St及び電圧操作量Vu,Vv,Vwに基づき、マスターインバータMのPWM信号に同期したスイッチング動作することにより、AC/DC変換器2eから供給された直流電圧をU相、V相及びW相からなる3相の駆動電流に変換し、超電導コイルに供給する。
【0025】
次に、このように構成された偏流防止装置Aの動作について、説明する。
偏流防止装置Aでは、マスターインバータMにおいて、ASR回転数制御部1aは、速度指令情報と回転信号とに基づいてトルク指令値Tsを算出し、補正係数をs乗算したトルク指令値Tsをベクトル演算部1dに出力するとともに、当該トルク指令値TsをスレーブインバータS1〜Snに出力する。そして、ベクトル演算部1dは、位相角情報θe及びトルク指令値Tsに基づいて、電流指令値をACR電流制御部1eに出力する。
【0026】
そして、ACR電流制御部1eは、電流指令値を電圧操作量Vqs,Vdsに変換し、ベクトル演算にて電圧操作量Vu,Vv,Vwに変換し、PWM生成駆動部1gに出力する。そして、PWM生成駆動部1gは、PWM同期信号Stを時間的な基準に、上記電圧操作量Vu,Vv,Vwに基づいてPWM信号を生成し、PWM信号に基づいて直流電圧から3相の駆動電流を生成し、超電導コイルに供給する。例えば、U相、V相及びW相それぞれに供給された駆動電流は、
図3(a)に示す波形になる。
【0027】
また、スレーブインバータS1において、トルク比設定部2aは、補正係数をマスターインバータMから入力されたトルク指令値Tsに乗算し、当該トルク指令値Tsをベクトル演算部2cに出力する。
ベクトル演算部2cは、位相角情報θe及びトルク比設定部2aから出力されたトルク指令値Tsに基づいて、電流指令値をACR電流制御部2dに出力する。
【0028】
そして、ACR電流制御部2dは、上記電流指令値を電圧操作量Vqs,Vdsに変換し、ベクトル演算にて電圧操作量Vu,Vv,Vwに変換し、PWM生成駆動部1gに出力する。そして、PWM生成駆動部2fは、入力されたPWM同期信号St及び電圧操作量Vu,Vv,Vwに基づきマスターインバータMのPWM信号に同期したスイッチング動作することにより、AC/DC変換器2eから供給された直流電圧をU相、V相及びW相からなる3相の駆動電流に変換し、超電導コイルに供給する。例えば、マスターインバータM及びスレーブインバータS1〜SnからU相の各超電導コイルに供給された駆動電流は、
図3(b)に示す波形になる。また、
図3(b)に示す駆動電流が供給される場合に、例えば、マスターインバータMの補正係数は「1」であり、スレーブインバータS1の補正係数は「0.95」であり、スレーブインバータS2の補正係数は「0.9」であり、スレーブインバータS3の補正係数は「0.85」であり、スレーブインバータS4の補正係数は「0.8」である。このように、補正係数に基づいて駆動電流を補正することにより、U相、V相及びW相の各同一相を構成する超電導コイル間で偏流を生じないようにすることができる。また、各超電導コイルへの通電電流を適当に割り宛てることもできる。
【0029】
以上のように、本実施形態は、差動トランスを用いた偏流防止装置に代えて、駆動電流を超電導コイルに供給するインバータ(マスターインバータM及びスレーブインバータS1〜Sn)によって偏流を防止するので、偏流防止に起因する電力損失を低減することが可能であり、また小型軽量化を実現することが可能である。さらに、本実施形態では、超電導コイル毎に設けられた各インバータ(マスターインバータM及びスレーブインバータS1〜Sn)が、個々の超電導コイルの特性に基づく電流分配情報に基づいて各超電導コイル間で偏流が生じないように電流を同期生成するので、超電導コイルが多数になったとしても偏流を防ぐことが可能である。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態は、3相の超電導同期モータBに3相の駆動電流を供給する偏流防止装置Aに本願発明を適用したものであるが、回転検出器を必要としない静止器(トランス)や回転機(センサレス誘導機)などの交流通電電気機器に電流を供給する偏流防止装置や、2相モータに2相の駆動電流を供給する偏流防止装置や、6相モータに6相の駆動電流を供給する偏流防止装置など3相の駆動電流を供給する偏流防止装置以外に本願発明を適用するようにしてもよい。
【0031】
(2)上記実施形態では、マスターインバータMは、トルク指令値Ts、位相角情報θe及びPWM同期信号stをスレーブインバータS1〜Snに出力したが、本発明はこれに限定されない。例えば、マスターインバータM、スレーブインバータS1〜Snにそれぞれ回転検出器20からの回転信号を入力し、マスターインバータMは、トルク指令値TsのみスレーブインバータS1〜Snに出力する。スレーブインバータS1〜Snは、上記トルク指令値Tsと、回転検出器20から入力された回転信号を元に算出した位相角情θeに基づいて同期駆動電流を制御するようにしてもよい。
【0032】
(3)上記実施形態では、マスターインバータM及びスレーブインバータS1〜Snは、補正係数をメモリに記憶し、メモリから読み出した補正係数に基づいて駆動電流を算出したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上位制御装置など外部からマスターインバータM及びスレーブインバータS1〜Snに補正係数を入力するようにしてもよい。