特許第6387832号(P6387832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387832偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387832
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20180903BHJP
   H04B 10/079 20130101ALI20180903BHJP
【FI】
   H04B10/61
   H04B10/079
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-558492(P2014-558492)
(86)(22)【出願日】2014年1月17日
(86)【国際出願番号】JP2014000215
(87)【国際公開番号】WO2014115519
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-8900(P2013-8900)
(32)【優先日】2013年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/光トランスペアレント伝送技術の研究開発(λリーチ)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 大作
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/136652(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/125176(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/105070(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02169867(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 10/079
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である多重化された2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機において、
前記多重化された前記2個の光信号の中心周波数の周波数シフト量は互いに異なり、前記中心周波数のいずれか一方をフィルタ中心周波数に用いるフィルタ処理による信号品質変動を付与する信号品質変動付与手段と、
前記信号品質変動を付与した前記多重化された前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する信号品質監視手段と、を備えた、
偏光多重分離光通信受信機。
【請求項2】
前記信号品質変動付与手段は、フィルタ回路である、請求項1記載の偏光多重分離光通信受信機。
【請求項3】
前記フィルタ回路は、前記2個の光信号のいずれか一方の中心周波数をフィルタ中心周波数とし、かつ前記光信号の光スペクトル帯域をフィルタ帯域とするフィルタ係数を有する、請求項2記載の偏光多重分離光通信受信機。
【請求項4】
前記信号品質変動付与手段は、前記偏光分離が安定化した後に前記信号品質変動を付与する、請求項1から3の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機。
【請求項5】
前記信号品質変動付与手段は、前記信号品質監視手段が前記2個の光信号を特定した後は、前記光信号をバイパスする、請求項1から4の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機。
【請求項6】
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信する偏光多重分離光通信送信機と、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機とを備え、
前記偏光多重分離光通信受信機は、請求項1から5の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機である、偏光多重分離光通信システム。
【請求項7】
前記偏光多重分離光通信送信機は、
前記2個の光信号の位相差を周期的に変化させる周波数シフト手段を備え、
前記偏光多重分離光通信受信機は、
前記位相差の情報を入力する光送信機情報入力手段と、
前記光送信機情報入力手段に入力した前記位相差の情報と前記2個の光信号の特定結果とに基づいて、前記2個の光信号の前記位相差を補償する周波数シフト補償手段と、を備えた、請求項6記載の偏光多重分離光通信システム。
【請求項8】
前記周波数シフト手段は、前記2個の光信号の少なくとも一方に周波数偏差を加えることにより、前記2個の光信号の位相差を周期的に変化させる、請求項7記載の偏光多重分離光通信システム。
【請求項9】
前記偏光多重分離光通信受信機は、
局所光を発生する局所光発生手段と、
前記局所光と前記多重化した前記2個の光信号とを干渉させてから前記偏光分離を行う偏光分離手段と、
前記周波数シフト補償手段の後段に設けられ、前記局所光と前記2個の光信号との周波数偏差を補償する周波数偏差補償手段と、を備えた、
請求項7または8記載の偏光多重分離光通信システム。
【請求項10】
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信し、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する、偏光多重分離光通信方法において、
前記受信した前記多重化した前記2個の光信号の中心周波数の周波数シフト量は互いに異なり、前記中心周波数のいずれか一方をフィルタ中心周波数に用いるフィルタ処理による信号品質変動を付与し、
前記信号品質変動を付与した前記多重化した前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する、偏光多重分離光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光多重分離光通信技術に関し、特に、高い信頼性を有する伝送を実現する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及により、基幹ネットワークのトラフィック量が急増していることから、100Gbpsを超える超高速長距離光通信システムの実現が強く望まれている。このような超高速長距離光通信システムを実現する技術として、ディジタル信号処理技術を活用した光位相変調方式と偏光多重分離技術とが注目されている。
【0003】
偏光多重分離技術は、光送信機において、搬送波を同一の周波数帯に配備し、かつ、偏光状態が互いに直交する2個の独立した光信号を多重化する。さらに、光受信機において、受信信号から前記2個の独立した光信号を分離することにより、2倍の伝送速度を実現する技術である。この偏光多重分離技術と、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の光位相変調方式との、双方の技術を組み合わせることにより、100Gbpsという超高速長距離光通信システムを実現することができる。光搬送波周波数偏差及び光位相偏差を補償する処理、及び、2個の独立した光信号に分離する偏光分離処理を、LSI(Large Scale Integration)などにより実装されたディジタル信号処理回路で実施することにより高精度に復調する技術は、光ディジタルコヒーレント通信方式と呼ばれる。
【0004】
さらに、光位相変調方式および偏光多重分離技術を用いた偏光多重分離光通信システムにおいて、光ファイバ伝送中に光信号が受ける非線形光学効果に起因する光雑音を抑制する技術が非特許文献1に開示されている。非特許文献1に開示されている技術は、光送信機において2個の独立した光信号に対して異なる光位相の時間的変動を付与し、付与された前記光位相の時間的変動を光受信機において補償する。これにより、2個の独立した光信号間に生じる非線形光学効果に起因する光雑音を抑制し、伝送特性を改善している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Fujisawa,T.Nakano,D.Ogasahara,E.Le Taillandier de Gabory,Y.Inada,T.Ito,and K.Fukuchi,“Demonstration of the Mitigation of Intra−Channel Nonlinearities based on Inter−Polarization Digital Frequency Offsetting with 50Gb/s PM−QPSK signal over 10,080km transmission”European Conference and Exhibition on Optical Communication Technical Digest, Page Mo.1.C.2, June 16, 2012.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の技術は、以下に述べる効果を付加することで、更なる高度化が可能である。すなわち、光受信機において偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機において生成された2個の独立した光信号のうちのいずれかであるかを特定することができるようにすることである。これにより、偏光分離された光信号に付与された光位相の時間的変動量を確実に特定し、光位相の時間的変動を確実に補償することが可能となる。その結果、光搬送波周波数偏差及び光位相偏差を補償する処理を確実に動作させ、ビット列を確実に復元することが可能となる。
【0007】
光受信機において、偏光分離された2個の独立した光信号を特定する方法としては、以下の方法が一般的である。すなわち、光送信機において、互いに異なる特定のビット列(トレーニングパタン)をそれぞれの光信号に挿入し、光受信機において復元されたビット列に含まれる前記特定のビット列を照合した結果に基づいて、光信号を識別する方法である。しかしながら、ビット列を正しく復元することができない可能性が生じる場合は、この方法は適切ではない。
【0008】
また、光位相の時間的変動の補償量の設定の組み合わせは、この場合高々2通りである。そのため、この2通りの組み合わせをそれぞれ試行し、光送信機において光信号に予め挿入された前記特定のビット列を光受信機において抽出できたか否かに基づいて、正しく復調できたか否かを判定する方法がある。しかしながら、この場合、全体の処理に多くの時間を要するため、例えば光ファイバ切断時のパス切り替えのような数10msという短時間での障害復帰が強く望まれる場合への適用は適切ではない。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、偏光多重分離光通信システムの光受信機で偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機で生成された2個の独立した光信号の内の何れであるかを特定することである。これにより、高い信頼性を実現する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による偏光多重分離光通信受信機は、偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である多重化された2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機において、前記多重化された前記2個の光信号に信号品質変動を付与する信号品質変動付与手段と、前記信号品質変動を付与した前記多重化された前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する信号品質監視手段と、を備えている。
【0011】
本発明による偏光多重分離光通信システムは、偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信する偏光多重分離光通信送信機と、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機とを備え、前記偏光多重分離光通信受信機は、前記多重化され前記2個の光信号に信号品質変動を付与する信号品質変動付与手段と、前記信号品質変動を付与した前記多重化された前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する信号品質監視手段と、を備えている。
【0012】
本発明による偏光多重分離光通信方法は、偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信し、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する、偏光多重分離光通信方法において、前記受信した前記多重化した前記2個の光信号に信号品質変動を付与し、前記信号品質変動を付与した前記多重化した前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏光多重分離光通信システムの光受信機で偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機で生成された2個の独立した光信号の内の何れであるかを特定することが可能となる。これにより、高い信頼性を実現する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態の偏光多重分離光通信受信機の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第2の実施形態の偏光多重光通信システムの光送信機の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第2の実施形態の偏光多重光通信システムの光受信機の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第3の実施形態の偏光多重光通信システムの光受信機の構成を示すブロック図である。
図5】比較例の偏光多重光通信システムの光受信機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図を参照しながら、本発明の最良の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の偏光多重分離光通信受信機10の構成を示すブロック図である。
【0016】
偏光多重分離光通信受信機10は、偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である多重化された2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機である。さらに、前記多重化された前記2個の光信号に信号品質変動を付与する信号品質変動付与手段11を備える。さらに、前記信号品質変動を付与した前記多重化された前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する信号品質監視手段を備える。
【0017】
本実施形態によれば、偏光多重分離光通信システムの光受信機で偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機で生成された2個の独立した光信号の内の何れであるかを特定することが可能となる。これにより、高い信頼性を実現する偏光多重分離光通信受信機を提供することができる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態の偏光多重光通信システムの光送信機100の構成を示すブロック図である。光送信機100は、レーザ発振器101、周波数シフタ102−1〜2、光位相変調器103−1〜2、駆動信号生成器104−1〜2、偏光多重部105を備えている。
【0018】
レーザ発振器101から発振された搬送波となるレーザ光は2分岐された後、それぞれ周波数シフタ102−1及び周波数シフタ102−2により、互いに異なる符号で、かつ、絶対値が等しい周波数だけ、発振周波数がシフトされる。例えば、連続光の発振周波数をfcとし、周波数シフト量の絶対値をΔfとすると、周波数シフタ102−1、周波数シフタ102−2から出力される連続光の光周波数は、各々、fc+Δf、fc−Δfである。
【0019】
光位相変調器103−1は、駆動信号生成器104−1により送信ビット列から生成された駆動信号によって、周波数シフタ102−1から出力される連続光を変調する。光位相変調器103−2と駆動信号生成器104−2の動作も同様である。光位相変調器103−1〜2から出力される2個の独立した光信号は、搬送波の周波数帯が同一であり、さらに、偏光多重部105により互いに偏光状態が直交するように偏光多重された後、光伝送路に送信される。
【0020】
次に、図3を用いて、本実施形態の偏光多重光通信システムの光受信機の構成および動作を説明する。図3は、本実施形態の偏光多重光通信システムの光受信機200の構成を示すブロック図である。光受信機200は、90度光ハイブリッド201、光ディテクタ202−1〜4、ADC(アナログディジタルコンバータ)203−1〜4を備えている。さらに、偏光分離部204、周波数シフト補償部205、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2、シンボル識別部207−1〜2、光送信機情報入力インタフェース208を備えている。さらに、制御部209、信号品質変動付与部210、信号品質監視部211を備えている。
【0021】
光送信機100から送信された光送信信号は、光受信機200に入力される(光受信信号)。さらに、レーザ発振器101とほぼ同一の発振周波数を有する局所光発振部212からの局所発振光とともに、90度光ハイブリッド201に入力され干渉する。その後、90度光ハイブリッド201の4つの出力光信号として出力される。各光信号は光ディテクタ202−1〜4により電気信号に変換された後、ADC203−1〜4により4チャネルのディジタル信号に変換される。
【0022】
ここで、信号品質変動付与部210は、光受信機200での光受信信号の受信開始後、偏光分離部204の偏光分離処理が安定化するまでは、何もせずに単に前記4チャネルのディジタル信号をバイパスして、偏光分離部204に送る。偏光分離部204は、4チャネルのディジタル信号から、CMA(Constant Modulus Algorithm)等のアルゴリズムを用いて偏光分離処理を行うことにより、2個の独立した光信号に分離し、ディジタル信号として出力する。
【0023】
偏光分離処理が安定化するには多少の時間が必要であり、光受信信号の受信直後の偏光分離処理は不安定である。信号品質監視部211は、偏光分離部204で計算される受信信号のコスト値から、光受信信号の品質が安定化したことを確認する。すなわち、偏光分離部204の偏光分離処理が収束すると、制御部209は、信号品質変動付与部210を用いて、2個の独立した光信号に対して異なる品質変動を付与する。
【0024】
例えば、信号品質変動付与部210をフィルタ回路として構成し、フィルタ回路の係数に、2個の独立した光信号のいずれか一方の中心周波数をフィルタ中心周波数、かつ、光スペクトル帯域をフィルタ帯域とする矩形フィルタの係数を設定する。フィルタ中心周波数の値は、光送信機情報入力インタフェース208より入力される光送信機100の情報であるfcとΔfから計算される、fc+Δf、fc−Δfのいずれかを用いる。ここでは説明の便宜のため、フィルタの中心周波数をfc+Δfとする。フィルタ帯域はADC203−1〜4のアナログ帯域以上かつ光信号の光スペクトル帯域未満に設定する。
【0025】
このとき、2個の独立した光信号の一方、すなわち、矩形フィルタにより主として切り出されたfc+Δfの光信号が、偏光分離部204に入力されることから、偏光分離部204の出力信号の信号品質は、fc+Δf、fc−Δfのいずれも劣化する。しかしながら、主として切り出されたfc+Δfの光信号の劣化量は、fc−Δfの劣化量よりも小さくなる。
【0026】
従って、信号品質監視部211により確認される信号品質の劣化が小さい信号が、光送信器100において+Δfの周波数シフトを付与された光信号であり、また他方が−Δfの周波数シフトを付与された光信号であることが分かる。信号品質監視部211が監視する信号品質の指標としては、偏光分離処理アルゴリズムのコストを用いることができる。
【0027】
すなわち、偏光分離処理のアルゴリズムとしては単位円からの距離をコストとして定義するアルゴリズムであるCMA(Constant Modulus Algorithm)を用いることができる。偏光多重されたQPSK信号を偏光分離する場合、QPSK信号の理想的なシンボルの位置は単位円上に存在する。単位円からどれだけ外れているか、すなわち、単位円からの距離をコストと見なして、このコストがゼロとなるように内部の変数を更新して行くことにより偏光分離を行う。信号品質監視部211はこのコストを監視することで、信号品質の劣化の大小を判定する。
【0028】
光送信器100において+Δfの周波数シフトを付与された光信号と、−Δfの周波数シフトを付与された光信号とを特定した後は、制御部209は、信号品質変動付与部210に、単に、信号をバイパスするだけの動作をさせるようにする。
【0029】
次に、周波数シフト補償部205は、制御部209から通知された偏光分離部204から出力される2個の独立した光信号の周波数シフト量に基づいて、各光信号の周波数シフトを補償する。すなわち、周波数シフト補償部205は、光送信機100の周波数シフタ102−1〜2により2個の独立した光信号に付与された周波数シフトを補償する。周波数シフト量は光送信機情報入力インタフェース208により、例えば、光通信システムの管理者により入力される。
【0030】
光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2は、2個の独立した光信号のそれぞれについて、光信号と局所発振光との光周波数偏差および光位相偏差を補償する。
【0031】
シンボル識別部207−1〜2は、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の出力信号である2個の独立した光信号のそれぞれについて、シンボル判定を行った後、ビット列を復元する。
【0032】
以上の本実施形態の偏光多重光通信システムによれば、光受信機200で偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機100で生成された2個の独立した光信号のうちのいずれであるかを特定することが可能となる。その結果、高い信頼性を有する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法を実現することができる。
【0033】
すなわち、偏光分離された光信号に付与された光位相の時間的変動量を確実に特定し、光位相の時間的変動を確実に補償することが可能となる。その結果、光搬送波周波数偏差及び光位相偏差を補償する処理を確実に動作させることができ、ビット列を正しく復元することが可能となる。よって、偏光多重光信号の非線形光学効果に起因する位相雑音による伝送特性の劣化を抑制し、かつ、高い信頼性を有する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法を実現することができる。
(比較例)
本発明の第2の実施形態の比較例としての偏光多重光通信システムの光受信機の構成および動作を、図5を用いて説明する。
【0034】
図5は、比較例としての光受信機400の構成を示すブロック図である。光受信機400は、90度光ハイブリッド201、光ディテクタ202−1〜4、ADC203−1〜4(アナログディジタルコンバータ)を備える。さらに、偏光分離部204、周波数シフト補償部205、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2、シンボル識別部207−1〜2、光送信機情報入力インタフェース208を備える。
【0035】
光送信機(例えば、第2の実施形態の光送信機100)から送信された光送信信号は、光受信機400に入力される(光受信信号)。さらに、レーザ発振器101とほぼ同一の発振周波数を有する局所光発振部212からの局所発振光とともに、90度光ハイブリッド201に入力され干渉した後、90度光ハイブリッド201の4つの出力光信号として出力される。各光信号は光ディテクタ202−1〜4により電気信号に変換された後、ADC203−1〜4により4チャネルのディジタル信号に変換される。
【0036】
偏光分離部204は、4チャネルのディジタル信号から、CMA(Constant Modulus Algorithm)等のアルゴリズムを用いて偏光分離処理を行うことにより、2個の独立した光信号に分離し、ディジタル信号として出力する。
【0037】
周波数シフト補償部205は、光送信機100の周波数シフタ102−1〜2により2個の独立した光信号に付与された周波数シフトを補償する。周波数シフト量は光送信機情報入力インタフェース208により光通信システムの管理者により入力される。
【0038】
光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2は、2個の独立した光信号のそれぞれについて、光信号と局所発振光との光周波数偏差および光位相偏差を補償する。
【0039】
2個の独立した光信号の識別を行うシンボル識別部207−1〜2は、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の出力信号のそれぞれについて、シンボル判定を行った後、ビット列を復元する。
【0040】
本比較例によれば、光送信機100において付与された周波数シフトを周波数シフト補償部205で補償することにより、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の補償可能範囲を超えるような周波数シフトも復調することが可能となる。これにより、偏光多重光信号の非線形光学効果に起因する位相雑音による伝送特性の劣化を抑制した偏光多重光通信システムを実現することができる。
【0041】
一方、本発明の第2の実施形態によれば、比較例の効果に加えて、光受信機で偏光分離処理されて出力される2個の独立した光信号が、光送信機で生成された2個の独立した光信号の内の何れであるかを特定することが可能となる。これにより、さらに高い信頼性を有する偏光多重分離光通信受信機、偏光多重分離光通信システム、および偏光多重分離光通信方法を実現することができる。
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態における光受信機300の構成を示すブロック図である。第3の実施形態の光受信機300は、周波数シフト補償部205を備えず、制御部209から光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2に周波数シフト量が通知される点において、第2の実施形態の光受信機200と異なる。
【0042】
第2の実施形態で説明した通り、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2は、光受信信号の中心周波数と局所発振光の発振周波数との光周波数偏差を補償する処理を行う。光送信機100の周波数シフタ102−1〜2により光信号に付与された周波数シフトも周波数偏差の一部分と見なせる。よって、光周波数偏差と周波数シフト量の和が光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の補償可能範囲内であれば、周波数シフト補償部205を備えていなくても光信号を復調することが可能である。
【0043】
光周波数偏差と周波数シフト量の和が光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の補償可能範囲を超える場合は、次のように行う。すなわち、制御部209から通知される光信号の特定結果と光送信機100で各光信号に付与された周波数シフト量とに基づいて、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の周波数偏差推定量の初期値に周波数シフト量を正しく設定する。これにより、光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部206−1〜2の補償可能範囲は、元々の補償可能範囲に周波数シフト量を加えた範囲となるため、光信号を復調可能となる。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、第2の実施形態の効果に加えて、周波数シフト補償部205を備える必要がないために、回路規模の削減や開発コストの低減を図ることが可能となる。
【0045】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【0046】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0047】
付記
(付記1)
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である多重化された2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機において、前記多重化された前記2個の光信号に信号品質変動を付与する信号品質変動付与手段と、前記信号品質変動を付与した前記多重化された前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する信号品質監視手段と、を備えた、偏光多重分離光通信受信機。
(付記2)
前記信号品質変動付与手段は、フィルタ回路である、付記1記載の偏光多重分離光通信受信機。
(付記3)
前記フィルタ回路は、前記2個の光信号のいずれか一方の中心周波数をフィルタ中心周波数とし、かつ前記光信号の光スペクトル帯域をフィルタ帯域とするフィルタ係数を有する、付記2記載の偏光多重分離光通信受信機。
(付記4)
前記信号品質変動付与手段は、前記偏光分離が安定化した後に前記信号品質変動を付与する、付記1から3の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機。
(付記5)
前記信号品質変動付与手段は、前記信号品質監視手段が前記2個の光信号を特定した後は、前記光信号をバイパスする、付記1から4の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機。
(付記6)
前記信号品質監視手段は、前記偏光分離のアルゴリズムのコストにより前記信号品質を比較する、付記1から5の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機。
(付記7)
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信する偏光多重分離光通信送信機と、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する偏光多重分離光通信受信機とを備え、前記偏光多重分離光通信受信機は、付記1から6の内の1項記載の偏光多重分離光通信受信機である、偏光多重分離光通信システム。
(付記8)
前記偏光多重分離光通信送信機は、前記2個の光信号の位相差を周期的に変化させる周波数シフト手段を備え、前記偏光多重分離光通信受信機は、前記位相差の情報を入力する光送信機情報入力手段と、前記光送信機情報入力手段に入力した前記位相差の情報と前記2個の光信号の特定結果とに基づいて、前記2個の光信号の前記位相差を補償する周波数シフト補償手段と、を備えた、付記7記載の偏光多重分離光通信システム。
(付記9)
前記周波数シフト手段は、前記2個の光信号の少なくとも一方に周波数偏差を加えることにより、前記2個の光信号の位相差を周期的に変化させる、付記7または8記載の偏光多重分離光通信システム。
(付記10)
前記偏光多重分離光通信受信機は、局所光を発生する局所光発生手段と、前記局所光と前記多重化した前記2個の光信号とを干渉させてから前記偏光分離を行う偏光分離手段と、前記周波数シフト補償手段の後段に設けられ、前記局所光と前記2個の光信号との周波数偏差を補償する周波数偏差補償手段と、を備えた、付記7から9の内の1項記載の偏光多重分離光通信システム。
(付記11)
偏光状態が直交しかつ搬送波の周波数帯が同一である2個の光信号を多重化して送信し、前記多重化した前記2個の光信号を受信し偏光分離する、偏光多重分離光通信方法において、前記受信した前記多重化した前記2個の光信号に信号品質変動を付与し、前記信号品質変動を付与した前記多重化した前記2個の光信号を前記偏光分離した後に、前記2個の光信号の各々の信号品質を比較し、前記比較した結果に基づいて、前記2個の光信号を特定する、偏光多重分離光通信方法。
(付記12)
前記信号品質変動の付与は、フィルタ回路により行う、付記11記載の偏光多重分離光通信方法。
(付記13)
前記フィルタ回路は、前記2個の光信号のいずれか一方の中心周波数をフィルタ中心周波数とし、かつ前記光信号の光スペクトル帯域をフィルタ帯域とするフィルタ係数を有する、付記12記載の偏光多重分離光通信方法。
(付記14)
前記信号品質変動の付与は、前記偏光分離が安定化した後に行う、付記11から13の内の1項記載の偏光多重分離光通信方法。
(付記15)
前記信号品質変動の付与は、前記2個の光信号を特定した後は、前記光信号をバイパスする、付記11から14の内の1項記載の偏光多重分離光通信方法。
(付記16)
前記信号品質の比較は、前記偏光分離のアルゴリズムのコストにより行う、付記11から15の内の1項記載の偏光多重分離光通信方法。
【0048】
この出願は、2013年1月22日に出願された日本出願特願2013−008900を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、インターネットの普及による基幹ネットワークのトラフィック量の急増に対応した超高速長距離光通信システムを実現する技術として利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 偏光多重分離光通信受信機
11 信号品質変動付与手段
12 信号品質監視手段
100 光送信機
101 レーザ発振器
102−1、102−2 周波数シフタ
103−1、103−2 光位相変調器
104−1、104−2 駆動信号生成器
105 偏光多重部
200、300、400 光受信機
201 90度光ハイブリッド
202−1、202−2、202−3、202−4 光ディテクタ
203−1、203−2、203−3、203−4 ADC(アナログディジタルコンバータ)
204 偏光分離部
205 周波数シフト補償部
206−1、206−2 光搬送波周波数偏差・光位相偏差補償部
207−1、207−2 シンボル識別部
208 光送信機情報入力インタフェース
209 制御部
210 信号品質変動付与部
211 信号品質監視部
212 局所光発振部
図1
図2
図3
図4
図5