【文献】
Thaddeus B. MASSALSKI et al.,BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS SECOND EDITION,pp. 1410-1412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
断面組織の観察において、観察されるすべての前記γ単体相の平均円相当直径が300μm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体からなる薄膜太陽電池として、Cu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を備えたCIGS系太陽電池が広く提供されている。
ここで、Cu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成する方法として、蒸着法により成膜する方法が知られている。蒸着法によって成膜された光吸収層を備えた太陽電池は、エネルギー交換効率が高いといった利点を有しているものの、成膜速度が遅く、生産効率が低いといった問題があった。
【0003】
そこで、Cu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成する方法として、In膜とCu−Ga膜との積層膜を形成し、この積層膜をSe雰囲気中で熱処理して、上述の積層膜をセレン化する方法が提供されている。ここで、In膜及びCu−Ga膜を形成する際には、Inスパッタリングターゲット及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法が適用される。
【0004】
上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、一般に、粉末焼結法あるいは溶解鋳造法によって製造されている。
粉末焼結法により製造されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、微細な組織を有するためスパッタ性に優れるといった利点を有するが、酸素濃度が高くスパッタレートが遅いといった欠点も有している。
【0005】
一方、溶解鋳造法により製造されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、酸素濃度が低くスパッタレートが速いといった利点を有するが、凝固過程においてGaの偏析が生じるとともに結晶粒が粗大化してしまうといった欠点を有している。特に、Gaを20原子%以上含有するCu−Ga合金においては、鋳造過程でGaの偏析が生じて脆弱なγ相が粗大化し、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに割れが発生しやすくなってしまう。
【0006】
そこで、例えば特許文献1及び特許文献2には、溶解鋳造法によって製造されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいて、γ相等の結晶組織を制御したものが提案されている。
【0007】
特許文献1に記載されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、Gaを25〜30質量%含有し、残部がCuである組成を有しており、Ga濃度が20〜25質量%であるβ相とGa濃度が30〜35質量%であるγ相との二相で構成されたものとされている。そして、γ相の平均円相当径を50μm以下、最大円相当径を200μm以下に規定している。
【0008】
また、特許文献2に記載されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、Gaを22at%以上29at%以下、残部がCu及び不可避不純物である組成を有しており、CuとGaの金属間化合物層であるζ相とγ相との混相からなる共析組織(但し、ラメラー組織が存在する組織は除く)を有するものとされている。そして、γ相の径Dを、Ga濃度Cat%に対してD≦7×C−150となるように規定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1においては、β相とγ相との二相で構成されており、γ相を微細化させることによって、Ga含有量が多くても圧延加工により製造できることが記載されている。
また、特許文献2においては、CuとGaの金属間化合物層であるζ相とγ相との混相からなる共析組織を有するものとされているが、ラメラー組織が存在する組織は除かれている。
【0011】
ここで、共析組織である(ζ+γ)相において、γ相が粗大化した場合、若しくはζ相と層状または針状のγ相との共析組織ではなくなっている場合には、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット表面に微細な割れが生じやすく、取扱い性が低下するといった問題があった。また、スパッタ時に異常放電等が発生しやすくなり、スパッタ性が低下するといった問題があった。さらに、Cu−Ga合金鋳塊において切削加工性が低下することから、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを精度良く製造することが困難になるといった問題があった。
【0012】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、スパッタリングターゲット表面の微細な割れの発生やスパッタ時の異常放電の発生を抑制でき、安定して成膜を実施することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、切削加工性に優れ、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを精度良く形成することが可能なCu−Ga合金鋳塊を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Gaを21原子%以上
29原子%以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有し、溶解鋳造法によって形成されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットであって、CuとGaからなるζ相とCuとGaからなる板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相と、晶出γ相を有するγ単体相と、を備えており、前記(ζ+γ)相において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが、D<5μmとされていることを特徴としている。
【0014】
このような構成とされた本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットによれば、CuとGaからなるζ相とCuとGaからなる板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相と、晶出γ相を有するγ単体相と、を備えているので、スパッタ面においてGaの偏析が抑制されており、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。また、前記(ζ+γ)相において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが、D<5μmとされているので、前記(ζ+γ)相におけるγ相が粗大化しておらず、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット表面の微細な割れの発生を抑制でき、取扱い性が向上することになる。また、欠陥等が少なく、異常放電等を抑制することができ、スパッタ性が向上することになる。
なお、γ単体相及び(ζ+γ)相の領域内に、他の微細析出相(たとえばα相)が存在することがあるが、この存在率は、5%以下が望ましい。また、γ単体相及び(ζ+γ)相の領域外に、γ単体相、(ζ+γ)相以外の相(たとえば、晶出α相)が存在する場合もあるが、この存在率も、5%以下が望ましい。
【0015】
ここで、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、断面組織の観察において、観察されるすべての前記γ単体相の平均円相当直径が300μm以下とされていることが好ましい。
この場合、晶出γ相を有するγ単体相の平均円相当直径が300μm以下とされているので、γ単体相が十分に微細化されており、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。また、異常放電等を抑制することができ、スパッタ性が向上し、安定して成膜を行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、Ga濃度をC原子%とした場合に、断面組織観察において観察される前記γ単体相の面積率A%が、
2<A<98、かつ、(C−25)×10<A<(C−17)×10
の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記γ単体相の面積率Aが上述の範囲内に規定されているので、前記(ζ+γ)相と前記γ単体相とが適切な割合で分散しており、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。
【0017】
本発明に係るCu−Ga合金鋳塊は、Gaを21原子%以上
29原子%以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有するCu−Ga合金鋳塊であって、CuとGaからなるζ相とCuとGaからなる板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相と、晶出γ相を有するγ単体相と、を備えており、前記(ζ+γ)相において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが、D<5μmとされていることを特徴としている。
【0018】
このような構成とされた本発明のCu−Ga合金鋳塊によれば、CuとGaからなるζ相とCuとGaからなる板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相と、晶出γ相を有するγ単体相と、を備えており、前記(ζ+γ)相におけるγ相の平均間隔Dが、D<5μmとされた結晶組織を有しているので、切削加工性に優れており、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを精度良く製造することができる。
【0019】
ここで、本発明のCu−Ga合金鋳塊においては、断面組織の観察において、観察されるすべての前記γ単体相の平均円相当直径が300μm以下とされていることが好ましい。
この場合、晶出γ相を有するγ単体相の平均円相当直径が300μm以下に微細化されているので、脆化が確実に防止され、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを安定して製造することができる。
【0020】
また、本発明のCu−Ga合金鋳塊においては、Ga濃度をC原子%とした場合に、断面組織観察において観察される前記γ単体相の面積率A%が、
2<A<98、かつ、(C−25)×10<A<(C−17)×10
の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記(ζ+γ)相と前記γ単体相とが適切な割合で分散しており、均一な膜を成膜することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スパッタリングターゲット表面の微細な割れの発生やスパッタ時の異常放電の発生を抑制でき、安定して成膜を実施することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、切削加工性に優れ、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを精度良く形成することが可能なCu−Ga合金鋳塊を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット10、及び、このCu−Ga合金スパッタリングターゲット10の素材となるCu−Ga合金鋳塊20について、添付した図を参照して説明する。
本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット10は、例えば太陽電池においてCu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成するために、Cu−Ga合金薄膜をスパッタによって成膜する際に用いられるものである。
【0024】
また、本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット10は、
図1に示すように、軸線Oに沿って延在する円筒形状をなしており、例えば外径Rが100mm≦R≦200mmの範囲内、内径rが50mm≦r≦150mmの範囲内、軸線O方向長さが100mm≦L≦3000mmの範囲内とされている。
ここで、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット10の外周面が、スパッタ面とされる。
【0025】
このCu−Ga合金スパッタリングターゲット10は、溶解鋳造法によって製造されており、Gaの含有量が21原子%以上31原子%以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有している。
そして、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲット10においては、
図2の組織写真に示すように、CuとGaからなるζ相とCuとGaからなる板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相11と、晶出γ相を有するγ単体相12と、を備えている。これら以外の組織、たとえば、晶出α相、析出α相などの存在比率は、5%以下である。
【0026】
ここで、ζ相と板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相11において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが、D<5μmとされている。
また、γ単体相12は分散して存在しており、断面組織の観察において、観察されるすべての前記γ単体相12の平均円相当直径が300μm以下とされている。
さらに、Ga濃度をC原子%とした場合に、断面組織観察において観察されるγ単体相12の面積率A%が、
2<A<98、かつ、(C−25)×10<A<(C−17)×10
の範囲内とされている。
【0027】
以下に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット10の組成、結晶組織を上述のように規定した理由について説明する。
【0028】
(Ga濃度)
Ga濃度が21原子%未満である場合には、凝固過程でα相が存在し、(ζ+γ)相11とγ単体相12との混在組織とならず、均一な組成のCu−Ga合金膜を成膜することが困難となる。一方、Ga濃度が31原子%を超える場合には、γ単体相となってζ相と板状または針状のγ相との共析組織である(ζ+γ)相11が存在しなくなり、割れ等が発生するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Ga濃度を21原子%以上31原子%以下の範囲内に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Ga濃度を21.3原子%以上30原子%以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0029】
((ζ+γ)相11において隣り合うγ相の平均間隔D)
ζ相と板状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相11が存在する場合、共析組織におけるγ相の粒状化及び粗大化を抑制することが可能となる。ここで、(ζ+γ)相11において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが5μm以上の場合には、スパッタリングターゲット表面に微細な割れが発生しやすくなり、取り扱い性が低下してしまうおそれがある。また、切削加工性が低下してしまい、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット10を精度良く製造することができなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、(ζ+γ)相11において隣り合う前記γ相の平均間隔Dを5μm未満に規制している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、(ζ+γ)相11において隣り合う前記γ相の平均間隔Dを3μm以下とすることがより好ましい。
【0030】
(γ単体相12の粒径)
晶出γ相を有するγ単体相12の円相当直径が300μmを超えるものが多く存在した場合には、スパッタ性が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、断面組織の観察において、観察されるすべての前記γ単体相12の平均円相当直径が300μm以下となるように、γ単体相12の粒径及び分布を規定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、観察されるすべての前記γ単体相12の平均円相当直径が80μm以下であることがより好ましい。
【0031】
(γ単体相12の面積A)
Ga濃度をC原子%とした場合に、断面組織観察において観察されるγ単体相12の面積率A(%)が2または(C−25)×10よりも小さい場合、あるいは、A(%)が98または(C−17)×10よりも大きい場合には、(ζ+γ)相11とγ単体相12の存在比率のバランスが崩れ、スパッタ性が低下してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、γ単体相12の面積率A%を、
2<A<98、かつ、(C−25)×10<A<(C−17)×10
の範囲内に設定している。
【0032】
次に、上述した構成のCu−Ga合金スパッタリングターゲット10の製造方法の一実施形態について、
図3のフロー図を参照して説明する。
本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲット10の製造方法は、Cu−Ga合金鋳塊20を鋳造する連続鋳造工程S01と、このCu−Ga合金鋳塊20に対して切削加工等の機械加工を行う機械加工工程S02と、を備えている。
【0033】
連続鋳造工程S01においては、縦型連続鋳造装置や横型連続鋳造装置等の各種連続鋳造装置を用いて、Cu−Ga合金鋳塊20を連続的に製出し、所定の長さに切断する。なお、本実施形態では、Cu−Ga合金鋳塊20は、断面形状が円筒状をなすものとされている。
ここで、連続鋳造工程S01において用いられる連続鋳造装置30について
図4及び
図5を参照して説明する。
【0034】
この連続鋳造装置30は、鋳造炉31と、鋳造炉31に連結された連続鋳造用鋳型40と、連続鋳造用鋳型40から製出されたCu−Ga合金鋳塊20を引き抜くピンチロール38と、を備えている。
鋳造炉31は、溶解原料を加熱溶解して所定の組成の銅溶湯を製出して保持するものであり、溶解原料及び銅溶湯が保持される坩堝32と、この坩堝32を加熱する加熱手段(図示なし)と、を備えている。
ピンチロール38は、連続鋳造用鋳型40から製出されるCu−Ga合金鋳塊20を挟み込み、引き抜き方向Fへ引き抜くものである。本実施形態では、Cu−Ga合金鋳塊20を間欠的に引き抜く構成とされている。
【0035】
連続鋳造用鋳型40は、供給された銅溶湯が注入される筒状のモールド41と、このモールド41内に挿入されるマンドレル45と、モールド41を冷却する冷却ユニット48と、を備えている。ここで、本実施形態では、
図4に示すように、連続鋳造用鋳型40は、アダプタ49を介して鋳造炉31に装着されている。
【0036】
冷却ユニット48は、
図4及び
図5に示すように、モールド41の外周側に配設された水冷ジャケットとされており、冷却水を循環させることでモールド41を冷却する構成とされている。
モールド41は、概略筒状をなしており、一方側から他方側に向けて貫通する貫通孔が設けられている。この貫通孔の一方側からマンドレル45が挿入されている。マンドレル45は、モールド41の貫通孔の内壁から間隔をあけて配置され、モールド41内には、断面円環状をなすキャビティが画成されることになる。なお、本実施形態においては、モールド41は、グラファイトで構成されている。
【0037】
ここで、本実施形態においては、
図5に示すように、モールド41の厚さtが2mm以上500mm以下の範囲内とされ、モールド41の引き抜き方向長さLmが100mm以上500mm以下の範囲内とされている。
また、本実施形態においては、冷却ユニット48は、モールド41を冷却する冷却長さLcが50mm以上とされており、平均抜熱量が300W/(m
2・K)以上の冷却能を有するものとされている。
【0038】
ここで、本実施形態では、ピンチロール38によってCu−Ga合金鋳塊20が間欠的に引き抜かれており、この引き抜きパターンを設定することにより、鋳造速度Vが制御される。
本実施形態では、鋳造速度Vは、実質的な鋳物厚さをXmmとしたときに、
(30−X)mm/min<V<(200−X)mm/min
の範囲内となるように制御されている。ここで、実質的な鋳物厚さXは、後述するように、鋳塊の断面形状及び抜熱方向によって規定されるものである。本実施形態では、断面円筒状の鋳塊を外周面側から抜熱していることから、鋳物厚さXは、断面円筒状の鋳塊の肉厚dの2倍となる。
【0039】
また、本実施形態では、凝固位置での鋳造方向に垂直な面でのモールド41の温度差が100℃以内となるように、冷却条件及び引き抜きパターンが設定されている。
さらに、モールド41内において、凝固界面と引抜方向に直交する基準線とがなす角度が5°以内となるように、冷却条件及び引き抜きパターンが設定されている。
【0040】
次に、上述した連続鋳造装置30を用いて本実施形態であるCu−Ga合金鋳塊20を製造する手順について説明する。
まず、鋳造炉31の坩堝32内に溶解原料を投入し、加熱ヒータによって坩堝32内に装入された溶解原料を加熱して溶解し、所定の組成に調製された銅溶湯を製出する。この銅溶湯は、坩堝32内において所定の温度にまで加熱されて保持される。そして、この銅溶湯が、連続鋳造用鋳型40へと供給される。このとき、溶湯温度を、当該組成のCu−Ga合金の液相線温度よりも30〜150℃高い温度とすることが好ましい。
【0041】
銅溶湯は、モールド41内に画成されたキャビティへ供給される。モールド41内に供給された銅溶湯は、冷却ユニット48によって外周側から抜熱され、凝固してCu−Ga合金鋳塊20となる。このCu−Ga合金鋳塊20を、ピンチロール38で間欠的に引き出すことによって、モールド41内に銅溶湯が順次供給され、Cu−Ga合金鋳塊20が連続的に製造される。
【0042】
上述のようにして製造された本実施形態であるCu−Ga合金鋳塊20は、機械加工工程S02において、鋳塊外周面及び鋳塊内周面が除去される。これにより、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット10を得ることが可能となる。すなわち、本実施形態であるCu−Ga合金鋳塊20は、上述したCu−Ga合金スパッタリングターゲット10と同様の組成及び結晶組織を有していることになる。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲット10においては、
図2に示すように、CuとGaからなるζ相と層状または針状のγ相との共析組織を有する(ζ+γ)相11と、晶出γ相を有するγ単体相12と、を備えているので、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。また、(ζ+γ)相11において隣り合う前記γ相の平均間隔Dが、D<5μmとされているので、(ζ+γ)相11におけるγ相が粒状化及び粗大化しておらず、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット10の脆化を抑制でき、スパッタリングターゲット表面の微細な割れの発生を抑制できる。また、欠陥等が少なく、異常放電等を抑制することができ、スパッタ性が向上することになる。
【0044】
また、本実施形態のCu−Ga合金スパッタリングターゲット10においては、断面組織の観察において、観察されるすべてのγ単体相12の平均円相当直径が300μm以下とされているので、スパッタ面においてGaの偏析が抑制されており、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。また、異常放電等を抑制することができ、安定して成膜を行うことが可能となる。
【0045】
さらに、本実施形態では、Ga濃度をC原子%とした場合に、断面組織観察において観察されるγ単体相12の面積率A%が、
2<A<98、かつ、(C−25)×10<A<(C−17)×10
の範囲内とされているので、(ζ+γ)相11とγ単体相12とが適切な割合で分散することになり、スパッタ面においてGaの偏析が抑制され、均一な組成の膜を成膜することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態であるCu−Ga合金鋳塊20においては、上述したCu−Ga合金スパッタリングターゲット10と同様の組成及び結晶組織を有していることから、Gaの偏析がなく切削加工性に優れており、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲット10を確実に製造することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態においては、モールド41の厚さtが2mm以上とされているので、モールド41の割れを防止して確実に鋳造を行うことができる。また、モールド41の厚さtが500mm以下とされているので、均一に冷却を行うことができる。
また、本実施形態においては、冷却ユニット48が、モールド41を冷却する冷却長さLcが50mm以上とされており、平均抜熱量が300W/(m
2・K)以上の冷却能を有するものとされているので、冷却速度を確保することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態においては、凝固位置におけるモールド41の温度差が100℃以内となるように冷却条件及び引き抜きパターンが制御されているので、モールド41内での銅溶湯の対流が抑制され、Gaの偏析を抑制することができる。
また、鋳造速度Vは、実質的な鋳物厚さをXmmとしたときに、
(30−X)mm/min<V<(200−X)mm/min
の範囲内となるように制御されているので、冷却速度を確保することができるとともに、鋳造を安定して行うことができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、太陽電池においてCu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成するために、Cu−Ga合金薄膜をスパッタによって成膜する際に用いられるものとして説明したが、これに限定されることなく、他の用途に使用されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットであってもよい。
【0050】
また、本実施形態では、
図4に示すように、鋳塊を水平方向に引き抜く連続鋳造装置によってCu−Ga合金鋳塊を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、鋳塊を下方へ引き抜く連続鋳造装置や鋳塊を上方へ引き抜く連続鋳造装置を用いて、Cu−Ga合金鋳塊を製造してもよい。
【0051】
さらに、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの外径、内径、軸線O方向長さLは、本実施形態で規定したものに限定されることはなく、スパッタリング装置等に応じて任意のサイズとすることができる。
また、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、円筒状のものに限定されることはなく、平板状をなしていてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態では、断面円形状をなす円筒状のCu−Ga合金鋳塊を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、断面円形状をなす丸棒状のCu−Ga合金鋳塊を製造するものとしてもよい。あるいは、断面矩形状をなす板状のCu−Ga合金鋳塊を製造するものとしてもよい。
【0053】
ここで、上述の実施形態において鋳造速度を規定する際に用いた実質的な鋳物厚さXについて説明する。
図6に示すように、実質的な鋳物厚さXとは、鋳塊の断面形状及び抜熱方向によって規定されるものである。
【0054】
図6(a)は、鋳塊の断面形状がアスペクト比2以上の長方形とみなせる場合である。なお、短辺長さ(厚さ)をdとする。この断面形状の鋳塊を、少なくとも長辺側の両面から抜熱するときには、鋳物厚さX=dとなる。長辺側の一方の面からのみ抜熱するときには、鋳物厚さX=2×dとなる。
図6(b)は、鋳塊の断面形状が正方形とみなせる場合である。なお、1辺の長さをdとする。この断面形状の鋳塊を、正方形の4辺の面から抜熱するときには、鋳物厚さX=0.5×dとなる。向かい合う2辺の面から抜熱するときには、鋳物厚さX=dとなる。1辺の面からのみ抜熱するときには、鋳物厚さX=2×dとなる。
【0055】
図6(c)は、鋳塊の断面形状が円形とみなせる場合である。なお、円の直径をdとする。この断面形状の鋳塊を、円の外周面から抜熱するときには、鋳物厚さX=0.5×dとなる。
図6(d)は、鋳塊の断面形状がアスペクト比1〜2の長方形とみなせる場合である。なお、短辺長さをd、短辺長さをp×d(1<p<2)とする。この断面形状の鋳塊を、長方形の4辺の面から抜熱するときには、鋳物厚さX=p×d×0.5となる。長辺側の両面から抜熱するときには、鋳物厚さX=dとなる。
【0056】
図6(e)は、鋳塊の断面形状が楕円形とみなせる場合である。なお、楕円の短径をdとする。この断面形状の鋳塊を、楕円の外周面から抜熱するときには、鋳物厚さX=0.5×dとなる。
図6(f)は、鋳塊の断面形状が円筒形とみなせる場合である。なお、円筒の肉厚をfとする。この断面形状の鋳塊を、円筒の外周面から抜熱するときには、鋳物厚さX=2×dとなる。円筒の外周面及び内周面から抜熱するときには、鋳物厚さX=dとなる。
図6(g)及び
図6(h)は、鋳塊の断面形状が異形状をなす場合である。この場合には、最大肉厚部分を、上述の長方形、正方形、円形、楕円形、円筒等に近似して、上述のように、鋳物厚さXを規定することになる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
本発明例では、原料として純度99.99mass%以上のCu−Ga母合金を用いて、これをグラファイト坩堝(内径180φ)に25kg投入し、グラファイトヒータ加熱により溶解し、横型連続鋳造装置により、幅45mm,厚さ16mmの板状の鋳塊を連続した。間欠引き抜き条件は、駆動時間3秒、停止時間を9秒,6秒、4,5秒の3水準、引き抜き距離を10mmとした。鋳造速度は50〜80mm/minに設定した。
【0058】
比較例では、原料として純度99.99mass%以上のCu−Ga母合金を用いて、これをグラファイト坩堝(内径180φ)に25kg投入し、グラファイトヒータ加熱により溶解した後、得られた銅溶湯を坩堝内で凝固させた。
得られたCu−Ga合金鋳塊を機械加工することにより、本発明例及び比較例のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。
【0059】
(Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの組成分析)
作製されたCu−Ga合金円筒型スパッタリングターゲットのGa濃度を蛍光X線分析によって測定した。測定結果を表1に示す。
【0060】
(Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの組織観察)
作製されたCu−Ga合金円筒型スパッタリングターゲットの軸線方向に沿った断面において、結晶組織観察を行った。観察面について、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行い、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0061】
((ζ+γ)相において隣り合う前記γ相の平均間隔D)
観察する組織の細かさに応じて視野の大きさは調整するが、概ね0.5mm×0.4mm程度の視野を200〜500倍で光学顕微鏡観察を行い、視野内における板状または針状をなすγ相の平均間隔Dを測定した。γ相の測定方法について、
図7及び
図8を用いて具体的に説明する。
【0062】
図7においては、(ζ+γ)相11とγ単体相12とが存在しており、この(ζ+γ)相11は、ζ相11aと板状をなすγ相11bとを有している。ここで、板状をなすγ相11bは、ほぼ平行に並んで配置されている。そこで、板状をなすγ相11bについては、平行に並んだ板状のγ相11bに対して直交線Sを引き、この直交線Sの線分長さLと、この直交線Sに交差するγ相11bの数Nから、以下の式で平均間隔Dを算出した。
D(μm)=L(μm)/(N−1)
なお、測定する領域は、撮影した写真から、最も平均的な箇所を目視にてランダムに選定した。また、直交線Sに交差するγ相11bの数Nは4以上とした。
【0063】
また、
図8においては、(ζ+γ)相11とγ単体相12とが存在しており、この(ζ+γ)相11は、ζ相11aと針状をなすγ相11cとを有している。ここで、針状をなすγ相11cは、点状(小円状)に配置されている。
図8に示すように、1つの点(小円)(γ相11c)の中心を第1点として選択し、この起点から最も近接した第2点(γ相11c)の中心とを線分で結び、さらに、この第2点から起点以外で最も近接した第3点(γ相11c)の中心とを線分で結び、これを繰り返し行う。結んだ線分S
1、S
2、・・・、S
nの長さL
1、L
2、・・・、L
nを合計し、結んだ線分の個数をnとした場合に、以下の式で平均間隔Dを算出した。
D(μm)=(L
1+L
2+・・・+L
n)(μm)/n
なお、測定する領域は、撮影した写真から、最も平均的な箇所を目視にてランダムに選定した。また、線分の数nは3以上とした。
【0064】
(γ単体相の面積率)
観察する組織の細かさに応じて視野の大きさは調整するが、概ね0.5mm×0.4mm程度の視野を200〜500倍で光学顕微鏡観察を行い、視野内におけるγ単体相の面積率を算出した。γ単体相の面積率の算出方法について、
図9を用いて具体的に説明する。
図9(a)に示すように、(ζ+γ)相11におけるγ相11bは、ζ相11aによって包まれた領域に存在していることから、γ単体相12と容易に判別することができる。ここで、
図9(a)の組織写真を、画像処理ソフトを用いて、
図9(b)に示すように2色に色分け(2値化)する。そして、この2値化した画像からγ単体相12の面積率Aを算出した。
【0065】
(γ単体相の平均円相当径)
γ単体相の平均円相当径は、画像処理ソフトに用いて2値化した画像から求積法を用いて個々のγ単体相の円相当径から算術平均して算出した。なお、
図10に示すように、γ単体相同士が連結されている場合には、各領域に内接円を描き、異なる領域同士が、この内接円の直径の2/3以下である領域で連結されたものは異なる領域として円相当径を算出した。
【0066】
(スパッタ性の評価)
スパッタ性については、スパッタ時の異常放電回数によって評価した。作製されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて、以下の条件でスパッタ試験を実施し、スパッタ装置に付属されたアーキングカウンターを用いて、異常放電回数をカウントした。
評価結果を表1に示す。
電源:直流方式
スパッタ出力:5000W
スパッタ圧:0.5Pa
スパッタ時間:1時間
到達真空度:5×10
−5Pa
雰囲気ガス組成:Arガス
【0067】
(膜厚のばらつき)
上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて、Cu−Ga合金膜を成膜した。500mm×500mm厚み1.1mmのガラス(基板)の上に
図11に示すようにマスクを施し、マグネトロンスパッタ装置を用いて、投入電力5kW/mの直流スパッタにより、目標膜厚500nmでCu−Ga合金膜を成膜した。なお、スパッタ時のAr圧力を0.5Paとし、ターゲット−基板間距離を60mmとし、成膜時の基板加熱を実施しなかった。
成膜後にマスクをはがし、成膜されたCu−Ga合金膜の膜厚を、膜の付着している箇所と膜の付着していない箇所の段差を段差計DEKTAK−XTにて読み取ることにより測定した。測定は
図11の(1)〜(9)の9点で行い、目標膜厚(500nm)に対する膜厚の最大値と最小値の差を評価した。目標膜厚(500nm)に対する膜厚の最大値と最小値の差が30nm未満を「○」、最大値と最小値の差が30nm以上を「×」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(Cu−Ga合金鋳塊の切削性評価)
本発明例及び比較例のCu−Ga合金鋳塊に対して、旋盤を用いて下記の条件で切削加工を実施し、ターゲット表面の微細な割れの有無を評価した。具体的には、実体顕微鏡を用いて、倍率50倍で長手方向に4視野観察し、割れが確認されないものを「○」、割れが確認されたものを「×」と評価した。評価結果を表1に示す。
切削条件
工具:超硬工具
送り速度:10mm/min
【0069】
【表1】
【0070】
比較例1は、Gaの含有量が15原子%と本発明の範囲よりも少なく、α相が多く発生してしまい、スパッタ時に異常放電の発生が多く、膜厚のばらつきも大きかった。
比較例2は、(ζ+γ)相において隣り合うγ相の平均間隔Dが本発明の範囲よりも大きく、γ単体相の円相当径も大きかったため、スパッタリングターゲット表面に微細な割れが発生し、スパッタ時に異常放電の発生が多く、膜厚のばらつきも大きかった。
比較例3は、(ζ+γ)相において隣り合うγ相の平均間隔Dが本発明の範囲よりも大きかったため、スパッタリングターゲット表面に微細な割れが発生し、スパッタ時に異常放電の発生が多くなった。
比較例4は、Gaの含有量が35原子%と本発明の範囲よりも多く、γ単体相の単相となったため、スパッタリングターゲットに割れが発生し、スパッタ時に異常放電が多く発生した。
【0071】
これに対して、本発明例においては、いずれもスパッタリングターゲット表面に微細な割れが発生せず、スパッタ時における異常放電回数が少なく、かつ、膜厚のばらつきも少なく、安定して成膜できることが確認された。