(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、本発明の第1の実施の形態の磁気軸受装置が適用されるターボ分子ポンプの概略構成を示す断面図である。ターボ分子ポンプは、
図1に示すポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動するコントロールユニット(不図示)と、を備えている。
【0015】
ポンプ本体1は、回転翼4aと固定翼62とで構成されるターボポンプ段と、円筒部4bとネジステータ64とで構成されるドラッグポンプ段(ネジ溝ポンプ)とを有している。ここではネジステータ64側にネジ溝が形成されているが、円筒部4b側にネジ溝を形成しても構わない。
【0016】
回転翼4aおよび円筒部4bはポンプロータ4に形成されている。ポンプロータ4はシャフト5に締結されている。ポンプロータ4とシャフト5とによって回転体ユニットRが構成される。複数段の固定翼62は、軸方向に対して回転翼4aと交互に配置されている。各固定翼62は、スペーサリング63を介してベース60上に載置される。ポンプケーシング61の固定フランジ61cをボルトによりベース60に固定すると、積層されたスペーサリング63がベース60とポンプケーシング61の係止部61bとの間に挟持され、固定翼62が位置決めされる。
【0017】
シャフト5は、磁気軸受67,68,69によって非接触支持される。磁気軸受67,68,69は、5軸磁気軸受を構成している。磁気軸受69を構成する電磁石は、シャフト5と一体に回転するロータディスク55を軸方向に挟むように配置されている。後述するように磁気軸受67,68,69は、センサキャリア成分が重畳された電磁石電流に基づいて浮上位置の変化を推定するセルフセンシングの磁気軸受である。
【0018】
モータ42は同期モータであり、本実施の形態では、DCブラシレスモータが用いられている。モータ42は、ベース60に配置されるモータステータ42aと、シャフト5に設けられるモータロータ42bとを有している。モータロータ42bには、永久磁石が設けられている。磁気軸受が作動していない時には、シャフト5は非常用のメカニカルベアリング66a,66bによって支持される。
【0019】
ベース60の排気口60aには排気ポート65が設けられ、この排気ポート65にバックポンプが接続される。回転体ユニットRを磁気浮上させつつモータ42により高速回転駆動することにより、吸気口61a側の気体分子は排気ポート65側へと排気される。
【0020】
図2は、制御系(コントロールユニット)の概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、コントロールユニットに設けられたDC電源40によって交流から直流に変換される。DC電源40は、インバータ41用の電源、励磁アンプ43用の電源、制御部44用の電源をそれぞれ生成する。
【0021】
モータ42に電流を供給するインバータ41には、複数のスイッチング素子が備えられている。これらのスイッチング素子のオンオフを制御部44によって制御することにより、モータ42が駆動される。
【0022】
図2に示した10個の磁気軸受電磁石45は、各磁気軸受67,68,69に設けられている磁気軸受電磁石を示している。上述したように、
図1に示したターボ分子ポンプに用いられている磁気軸受は5軸制御型磁気軸受である。ラジアル方向の磁気軸受67,68は各々2軸の磁気軸受であって、それぞれが2対(4個)の磁気軸受電磁石45を備えている。また、軸方向の磁気軸受69は1軸の磁気軸受であって、1対(2個)の磁気軸受電磁石45を備えている。磁気軸受電磁石45に電流を供給する励磁アンプ43は、10個の磁気軸受電磁石45のそれぞれに設けられている。
【0023】
モータ42の駆動および磁気軸受の駆動を制御する制御部44は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のディジタル演算器とその周辺回路により構成され
る。モータ制御に関しては、制御部44からインバータ41へ、インバータ41に設けられている複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号441が入力される。また、インバータ41から制御部44へは、モータ42に関する相電圧および相電流に関する信号442が入力される。
【0024】
磁気軸受制御に関しては、制御部44から各励磁アンプ43へ、励磁アンプ43に含まれるスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWMゲート駆動信号443が入力される。また、各励磁アンプ43から制御部44へは、各磁気軸受電磁石45の電流値に関する電流検出信号444が入力される。
【0025】
図3は、磁気軸受67,68に備えられた制御軸1軸分の磁気軸受電磁石45を示す模式図である。2個の磁気軸受電磁石45が浮上中心軸(浮上目標位置)Jを挟むように対向配置されている。上述したように、各磁気軸受電磁石45に対して、励磁アンプ43がそれぞれ設けられている。
図3では、P側(図示右側)の磁気軸受電磁石45に近づくような変位dを正とする。変位が負側の磁気軸受電磁石45をM側の磁気軸受電磁石45と呼ぶことにする。
【0026】
(電磁石電流Ip,Imの説明)
本実施の形態における5軸制御型磁気軸受では、各磁気軸受電磁石45の電磁石電流には、機能別で成分に分けると、バイアス電流ib、浮上制御電流icおよび位置検出用のセンサキャリア成分の電流isが含まれている。P側の磁気軸受電磁石45を流れる電流をIp、M側の磁気軸受電磁石45を流れる電流をImとすると、次式(1)のように表される。ispはP側のセンサキャリア成分で、ismはM側のセンサキャリア成分である。ただし、ispとismとは振幅が逆符号になっている。
Ip=ib+ic+isp
Im=ib−ic+ism …(1)
【0027】
バイアス電流ibは直流あるいは極めて低い周波数帯であり、回転体ユニットRに作用する重力との釣り合い力、浮上力の直線性改善、変位センシングのためのバイアス用として用いられる。
【0028】
浮上制御電流icは、シャフト5(すなわち回転体ユニットR)を所定位置に浮上させる制御力用として用いられる電流である。浮上制御電流icは浮上位置の変動に応じて変化するので、その周波数帯は直流から1kHz程度となる。
【0029】
センサキャリア成分isは、シャフト5の浮上位置変位(すなわち回転体ユニットRの浮上位置変位)の検出に用いられる電流成分である。センサキャリア成分isには、浮上制御力の影響を極力抑えるべく、通常は数kHz〜数十kHz(1kHz≪fc≪100kHz)の周波数帯における周波数が使用される。
【0030】
一般に、産業用途の磁気軸受では、励磁アンプ43として電圧制御型のPWMアンプが適用される。すなわち、磁気軸受電磁石45の電磁石コイルに印加される電圧を制御することで、電磁石電流の制御を行っている。
【0031】
電磁石コイルに印加される電圧Vp、Vmの内の、センサキャリア成分vsp,vsmはそれぞれ逆位相で印加されるので、次式(2)のように表される。ただし、ωc=2πfcであって、fcはセンサキャリア周波数である。また、tは時間、vは一定振幅値である。
vsp=−v×sin(ωc×t)
vsm=v×sin(ωc×t) …(2)
【0032】
ところで、磁気軸受電磁石45とシャフト5との間のギャップ(
図3参照)と電磁石コイルのインダクタンスとは反比例するので、P側電磁石コイルおよびM側電磁石コイルのインダクタンスLp,Lmに関して、次式(3)が成り立つ。なお、Dはシャフト5が浮上中心軸(浮上目標位置)にある場合のギャップで、dは浮上目標位置からの変位である。Aは定数である。
1/Lp=A×(D−d)
1/Lm=A×(D+d) …(3)
【0033】
センサキャリア成分に関して、電磁石コイルに印加される電圧と電磁石コイルを流れる電流との間には次式(4)に示すような関係がある。ただし、コイル抵抗は無視した。
vsp=Lp×d(isp)/dt
vsm=Lm×d(ism)/dt …(4)
【0034】
上述した式(2),(3),(4)から、電磁石コイルを流れる電流のセンサキャリア成分isp,ismは次式(5)のように表される。なお、B=v×A/ωcである。このように、センサキャリア成分isp,ismは、変位dの時間変化により振幅変調される。一方、バイアス電流ib、浮上制御電流icは周波数が低いため、変位変動の影響は無視できる。
isp=−v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lp)
=−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2)
ism=v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lm)
=B(D+d)×sin(ωc×t−π/2) …(5)
【0035】
以上の結果をまとめると、センサキャリア成分isp,ismを検波すれば、変位dの情報が得られる。P側およびM側の磁気軸受電磁石45を流れるトータルの電流Ip,Imは、次式(6)のように表される。
Ip=ib+ic−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2)
Im=ib−ic+B(D+d)×sin(ωc×t−π/2) …(6)
【0036】
ここで、次式(7)のように、電流Ip,Imの和信号(Ip+Im)を考える。この和信号(Ip+Im)をハイパスフィルタに通すと、和信号(Ip+Im)に含まれているバイアス成分(2×ib)が除去される。その結果、式(7)の右辺第2項が残り、和信号(Ip+Im)を変位信号として用いることができる。
Ip+Im=2×ib+2×B×d×sin(ωc×t−π/2) …(7)
【0037】
(励磁アンプ43)
図4は、各磁気軸受電磁石45に対応して設けられている励磁アンプ43の構成を示す図である。励磁アンプ43は、直列接続されたスイッチング素子とダイオードとを直列接続したものを、さらに2つ並列接続したものである。磁気軸受電磁石45は、スイッチング素子SW10およびダイオードD10の中間と、スイッチング素子SW11およびダイオードD11の中間との間に接続される。
【0038】
スイッチング素子SW10,SW11には、制御部44からゲート信号(ゲート駆動電圧)として、バイアス電流ib、浮上制御電流icおよびセンサキャリア成分isを制御するためのPWM制御信号(
図2のPWMゲート駆動信号443)が入力される。
スイッチング素子SW10,SW11は同時にオンオフされ、両方ともオンの場合には実線矢印で示すように電流(上述した電流Ip,Im)が流れ、両方ともオフの場合には破線矢印で示すように電流(上述した電流Ip,Im)が流れる。オン時の電流値は電流センサ101Aにより計測され、オフ時の電流値は電流センサ101Bにより計測される。電流センサ101A,101Bには例えばシャント抵抗が用いられ、シャント抵抗の電圧を電流検出信号として用いる。電流検出信号は制御部44に入力される。
【0039】
図5は、励磁アンプ43による電磁石コイルへの印加電圧(ラインL1)および電磁石コイルに流れる電流(ラインL2)の一例を示す図である。2つのスイッチング素子SW10,SW11をオンすると、電圧が電磁石コイルに印加されて電流が増加する。また、スイッチング素子SW10,SW11をオフすると、ダイオードD10,D11の導通により電磁石コイルに逆電圧が印加され電流が減少する。そのため、電流ラインL2は、PWMキャリア1周期における電流の増加および減少と、より周期の長い正弦波的な変化との両方を示している。この正弦波的な変化が、センサキャリア成分の変化に相当している。
【0040】
図6は、
図5の符号Bで示す部分の拡大図である。スイッチング素子SW10,SW11をオン状態(上昇ライン)からオフ状態(下降ライン)にスイッチングした時、およびオフ状態(下降ライン)からオン状態(上昇ライン)にスイッチングした時に、サージ電圧等に起因するスパイク状のノイズCが発生しているのが分かる。従来の磁気軸受装置においては、このノイズ成分の影響が、変位検出におけるS/N比低下を招いている。そこで、本実施の形態では、磁気軸受制御におけるノイズ成分の影響を抑えるために、以下に説明するような制御を行っている。
【0041】
図7は、PWM変調された電磁石電圧(ラインL10)とスパイクノイズCとの関係を説明する図である。PWM変調された電磁石電圧は、PWM制御信号のオン、オフに応じて電圧Hと電圧Lとの間で変化する矩形波電圧となる。TpwmはPWM変調の周期(PWM周期)を示し、
図7では、PWM周期Tpwmの一周期における電圧変化を示している。ラインL20は電流検出信号を示しており、符号C1,C2で示す部分がスパイクノイズである。スパイクノイズC1,C2は、矩形波電圧の立ち上がりタイミングT1(L→H)および立ち下がりタイミングT2(H→L)において発生する。
【0042】
Tonは、矩形波電圧のオンデューティ区間の時間幅を示している。電磁石電流におけるPWM制御では、このオンデューティ区間の時間幅Tonを制御することによって、シャフト5を所望の浮上位置に保持している。
図7(a)は、ターボ分子ポンプ(すなわち、磁気軸受装置)の受ける外部振動が小さい静粛環境にある場合のオンデューティ区間Tonの変動幅を示している。一方、
図7(b)は外部振動が大きい場合(非静粛環境)のオンデューティ区間Tonの変動幅を示している。
【0043】
外部からターボ分子ポンプに振動が加わると、ポンプ内部の回転体Rの浮上位置が変化するため制御電流の変動振幅が大きくなる。そのため、
図7(b)に示すように、オンデューティの変動幅も大きくなる。
図7において、二点鎖線は変動するオンデューティの上限(Tonuで示す)と下限(Tonlで示す)とを示したものである。静粛環境時においては、デューティ比(=Ton/Tpwm)50%前後の僅かな幅でオンデューティが変化する。一方、外部振動が大きい場合には、
図7(b)に示すようにオンデューティ変動幅が大きくなり、オフ(L)からオン(H)への立ち上がりタイミングT1は左右に大きく変動する。
【0044】
符号ST1,ST2は電流検出信号のサンプリングタイミングを示している。
図7(a)に示す静粛環境時には、サンプリングタイミングST1で電流検出信号をADサンプリングすれば、スパイクノイズC2の影響の少ない電流検出信号を取得することができる。すなわち、サンプリングタイミングST1よりも前の立ち下がりタイミングT2で発生したスパイクノイズC2は、サンプリングタイミングST1になる前に十分に減衰している。また、最もオンデューティ時間幅の長いオンデューティ上限Tonuとなった場合でも、サンプリングタイミングST1が立ち上がりタイミングT1よりも時間的に後になることはない。そのため、立ち上がりタイミングT1におけるスパイクノイズは、サンプリングタイミングST1でADサンプリングされる電流検出信号に影響を及ぼさない。
【0045】
一方、外部振動が大きくてオンデューティ変動幅が長い場合には、
図7(b)に示すように、サンプリングタイミングST1がオンデューティ上限Tonu2における立ち上がりタイミングT1よりも時間的に後になる場合がある。
図7(b)に示す例では、立ち上がりタイミングT1で生じたスパイクノイズC1は、サンプリングタイミングST1においても十分に減衰していない。そのため、ADサンプリングされる電流検出信号にスパイクノイズC1が影響することになる。なお、
図7(b)に示すオンデューティ上限Tonu2および下限Tonl2は、
図7(a)のTonu、Tonlに対してTonu2>Tonu、Tonl2<Tonlとなっている。
【0046】
図7(b)のような状況は、例えば、地震などによる外乱が作用した場合に生じる。電磁石電流に重畳したスパイクノイズの影響が電流検出信号を介してフィードバックされると、それが電磁石において振動力に変換され、ポンプ振動が発生する原因となる。
【0047】
ところで、地震などの一時的な振動が外部から作用して回転体Rが大きく変位し、所定浮上位置に復帰させる制御過程では、スパイクノイズの影響によるポンプ振動が一時的に大きくなっても、実用上問題にならない場合がる。例えば、ターボ分子ポンプが搭載される電子顕微鏡などの分析計測器においては、試料を観察するタイミングにおいて厳しい低振動状態が要求される。そのため、観察は外乱の無い静粛状態で行われ、外乱がある場合には観察は行われない。
【0048】
すなわち、観察時には、ターボ分子ポンプの磁気軸受の励磁電流は、
図7(a)に示すようにオンデューティ変動が小さな状態となっている。そのため、上述した特許文献1に記載のように、PWM制御のデューティ可変範囲を制限して、スイッチングノイズの影響を常時低減しておく必要はない。
【0049】
そこで、本実施の形態では、ADサンプリングが次式(A)を満足する区間内で行われるように、サンプリングタイミングST1を設定するようにした。それにより、少なくとも静粛環境においては、ADサンプリングされた電流検出信号へのスパイクノイズの影響を防止することができる。なお、式(A)におけるTdは、スパイクノイズ発生からノイズ成分が減衰して影響が問題とならなくなるまでの時間(減衰時間)である。
Td<ST1<Tpwm−Tonu …(A)
【0050】
なお、式(A)は、オフデューティ区間でADサンプリングを行う場合のサンプリングタイミングST1についての条件である。オンデューティ区間でADサンプリングする場合のサンプリングタイミングST2としては、次式(B)を満足する区間内でADサンプリングを行えば良い。
Tpwm−Tonl+Td<ST2<Tpwm …(B)
【0051】
より好ましくは、式(A)、(B)に代えて、次式(C)、(D)のようにサンプリングタイミングを設定するのが良い。なお、Tminは、ADサンプリングの際のADコンバータへ取り込みを行うための取込最小区間である。減衰時間Tdが経過した後の取込最小区間Tminにおいて信号を取り込めば、スパイクノイズの影響がほとんど無い信号を取り込むことができる。
Td<ST1<Td+Tmin …(C)
Tpwm−Tmin<ST2<Tpwm …(D)
【0052】
図8は、式(A)〜(D)の範囲を説明する図である。例えば、オフデューティ区間のサンプリングタイミングST1を式(A)の範囲内の時刻=Tpwm−Tonuの近傍に設定した場合、実際のオンデューティ変動幅が静粛環境のオンデューティ変動幅よりも大きくなると、ADサンプリングされた電流検出信号にスパイクノイズの影響が現れることになる。一方、式(C)の範囲に設定した場合には、非静粛環境と示すオンデューティ変動幅までオンデューティが変動しても、スパイクノイズの影響が現れない。
【0053】
また、オンデューティ区間のサンプリングタイミングST2を式(B)の範囲内の時刻=Tpwm−Tonl+Tdの近傍に設定した場合も、実際のオンデューティ変動幅が静粛環境のオンデューティ変動幅よりも大きくなると、ADサンプリングされた電流検出信号にスパイクノイズの影響が現れることになる。一方、式(D)の範囲に設定した場合には、非静粛環境と示すオンデューティ変動幅までオンデューティが変動しても、スパイクノイズの影響が現れることがない。
【0054】
このように、式(A)、(B)の範囲にサンプリングタイミングST1,ST2を設定した場合には、静粛環境ではスパイクノイズの影響を受けないが、静粛環境でない場合にはスパイクノイズの影響を受けやすくなる。一方、式(C)、(D)の範囲に設定した場合には、許容される外部振動の範囲が広くなる。その結果、外部振動により
図8の非静粛環境で示すオンデューティ変動幅までオンデューティが変動しても、スパイクノイズの影響を受けることがない。
【0055】
図9は、式(C)、(D)のように範囲を設定した場合の、サンプリングタイミングST1,ST2の一例を示す図である。ここで、PWM周期Tpwm(PWM周波数fpwm=1/Tpwm)に対して、Tpwm=n×Tsnpl(ただし、nは正の整数)を満たす周期Tsnplを考える。そして、
図9に示すように、PWM周期Tpwmをn分割した周期Tsnpl上にサンプリングタイミングST1,ST2を設定する。
【0056】
Tsnplは、(Td+Tmin)程度、またはそれ以下の時間周期となるように設定される。例えば、Tdを1μs程度、Tminを0.5μs程度とすると、Td+Tmin=1.5μsとなる。PWM周波数をfpwm=80kHzとした場合、fsnpl=8・fpwm(すなわち、Tpwm=8・Tsnpl)に設定すると、fsnpl=640kHzとなる。このときのTnspl≒1.56μsとなり、TnsplはTd+Tmin=1.5μsと同程度となる。なお、
図9において、φは、サンプリングタイミングST1,ST2が区間Tminに入るための位相調整量であり、Tmin程度の大きさである。
【0057】
PWM周波数fpwm、センサキャリア周波数fc、サンプリング周波数fsを、N≧M>1である整数M,Nに対してfpwm=M・fs=N・fcのように設定し、時間間隔が時間(Td+Tmin)以下であって、かつ、整数L(>1)に対してTpwm=L・Tsnplを満足する時間間隔Tsnpl毎に、ADサンプリングを行うためのサンプリングタイミングを設定するのが好ましい。このように設定することにより、ADサンプリング点を全軸の信号(電流検出信号および和信号)をスパイクノイズの影響のないサンプリングタイミングに分散配置することができる。また、PWM制御は全軸を同期させているので、周期Tpwmにおいてノイズ影響の無い区間が全軸で揃い、全ての軸でノイズ影響の無いADサンプリングを行うことができる。
【0058】
時間間隔を時間(Td+Tmin)以下とすることで、
図8の区間(C),(D)のように設定した場合でも、スパイクノイズの影響を受けることなくADサンプリングを行うことができる。さらに、ADサンプリングのタイミングを全体的にφ(Tmin程度の大きさ)だけ調整可能とすることで、サンプリングタイミングST1,ST2を容易に区間Tmin内に設定することができる。
【0059】
本実施の形態では、全軸の励磁アンプ43のPWM周期の同期化を図った上で、
図9に示すように、オフデューティ区間となる区間(A)または区間(C)の同一タイミングおよびオンデューティ区間となる区間(B)または区間(D)の同一タイミングでADサンプリングを行うようにした。
【0060】
図10,11は、各電流検出信号および変位信号としての和信号の各サンプリングタイミングの一例を示す図である。
図10は電流検出信号のサンプリングタイミングを示す図であり、5軸(lx1,ly1,lx2,ly2,lz)の10信号(lx1p,lx1m,ly1p,ly1m,lx2p,lx2m,ly2p,ly2m,lzp,lzm)について示したものである。
図11は、変位信号である各和信号(5信号)のサンプリングタイミングを示す図である。
図11のX1はlx1p+lx1m、Y1はly1p+ly1m、X2はlx2p+lx2m、Y2はly2p+ly2m、Zはlzp+lzmである。ここでは、15信号に対して、アナログ−デジタル変換用のADコンバータ(8チャンネル)を3つ使用する。3つのADコンバータの内、電流検出信号用に2つ(ADC1,ADC2)を使用し、和信号用に1つ(ADC3)を使用する。
【0061】
なお、センサキャリア周波数fcは10kHzであり、PWM周波数fpwmおよびサンプリング周波数fsは、fpwm=8fc、fs=2fcのように整数倍の関係に設定されている。また、上述した周期Tsnplは、PWM周期Tpwmを8分割した周期に設定されている。
【0062】
図10の上段には、周期Tpwmのノコギリ波およびオンオフデューティを示す矩形波形が記載されている。矩形波形におけるハッチングを施した領域は、オンデューティ変動幅を示している。黒丸で示すサンプリングタイミングは、ハッチングを施した領域を避けるように設定されている。周波数fpwm,fc,fs,fsnplは全軸で同期しているので、
図10では、10信号に対してノコギリ波および矩形波形は一組のみ示した。
【0063】
ADサンプリングを行うサンプリングタイミングST1,ST2として使用できるサンプリングタイミングは周期Tc中に16点(黒丸で示す)あるが、ADC1における5信号(lx1p,lx1m,ly1p,ly1m,lzp)のADサンプリングのサンプリングタイミングは、それらの16点のいずれかに分散配置される。
【0064】
図10に示す例では、電流検出信号Ixlpは、左側から1番目と、それに対してTs、2Ts、・・・・、だけ離れたサンプリングタイミングにおいてADサンプリングが行われる。また、電流検出信号Ixlmについては、左側から3番目と、それに対してTs、2Ts、・・・・、だけ離れたサンプリングタイミングにおいてADサンプリングが行われる。周期TsnplはPWM周期Tpwmをn分割したものなので、特定のサンプリング点に対して、Ts後、2Ts後、・・・のサンプリング点は必ず存在する。ADC2による5信号(lx2p,lx2m,ly2p,ly2m,lzm)のADサンプリングも、ADC1の場合と同様に行われる。
【0065】
図11は、和信号(X1、Y1、X2、Y2、Z)のADサンプリングを説明する図である。和信号の欄には、X軸の和信号、Y軸の和信号およびZ軸の和信号の波形を示した。式(7)からも分かるように、和信号の周波数はセンサキャリア成分の周波数fcと同じである。Y軸の和信号はX軸の和信号に対して90度だけ位相が異なっている。
図10の場合と同様に、5つの和信号はセンサキャリア周期Tc中の16のサンプリングタイミングのいずれかに分散配置され、それらは一つのADコンバータ(ADC3)でADサンプリングされる。
【0066】
例えば、和信号X1の場合には、X軸の和信号波形上の黒丸で示すように、波形ピークから図示右側に周期Tsnplだけずれた位置のデータをADサンプリングしている。一方、和信号X2の場合には、白丸で示すように、波形ピークから図示左側に周期Tsnplだけずれた位置のデータをADサンプリングしている。和信号Y1,Y2についても同様である。和信号Zの場合には、波形ピークの位置のデータがADサンプリングされる。
【0067】
図12は、制御部44における磁気軸受制御の機能ブロック図であって、制御軸5軸の内の1軸分について示したものである。
図3に示したように、制御軸1軸分には一対(P側およびM側)の磁気軸受電磁石45が設けられており、各磁気軸受電磁石45に対して励磁アンプ43(43p、43m)がそれぞれ設けられている。
図4に示したように励磁アンプ43には電磁石電流を検出する電流センサ101A,101Bが設けられており、10個の励磁アンプ43からはそれぞれ電流検出信号が出力される。
【0068】
ゲート信号生成部401pは、PWM演算部412pで生成されたPWM制御信号に基づいて、P側の励磁アンプ43pのスイッチング素子を駆動するためのゲート駆動電圧(ゲート信号)を生成する。同様に、ゲート信号生成部401mは、PWM演算部412mで生成されたPWM制御信号に基づいて、M側の励磁アンプ43mのスイッチング素子を駆動するためのゲート信号を生成する。
【0069】
ゲート信号に基づいて各励磁アンプ43(43p、43m)のスイッチング素子がオンオフ制御されると、磁気軸受電磁石の電磁石コイルに電圧が印加され、電流Ip、Imが流れる。P側の励磁アンプ43pの電流センサ101A,101Bからは、P側の磁気軸受電磁石に流れる電流Ipの電流値を検出し、検出結果である電流検出信号(電流と同様の符号Ipで示す)が出力される。一方、M側の励磁アンプ43mの電流センサ101A,101Bからは、M側の磁気軸受電磁石に流れる電流Imの電流検出信号(電流と同様の符号Imで示す)が出力される。
【0070】
励磁アンプ43p,43mから出力された電流検出信号Ip,Imは、それぞれ対応するADコンバータ400p,400mにより取り込まれる。また、電流検出信号Ip,Imは加算部414により加算され、和信号(Ip+Im)が加算部414から出力される。その後、和信号(Ip+Im)は、センサキャリア周波数fcを中心周波数とするバンドパスフィルタ405を介してADコンバータ400に入力され、ADコンバータ400により取り込まれる。
【0071】
ADコンバータ400は、センサキャリア生成回路411で生成されたセンサキャリア信号(センサキャリア成分)に基づいて同期サンプリングにてデータを取り込む。ADコンバータ400により取り込まれた和信号(Ip+Im)は、復調演算部406に入力される。復調演算部406では、サンプリングにより取り込まれたデータに基づいて復調演算を行って変位情報を取得する。磁気浮上制御器407では、復調演算部406からの変位情報に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正等により浮上制御電流設定を生成する。P側の制御には、バイアス電流設定量から浮上制御電流設定を減算したものが用いられ、M側の制御には、バイアス電流設定量に浮上制御電流設定を加算したものが用いられる。
【0072】
一方、ADコンバータ400p,400mにより取り込まれた電流検出信号Ip,Imは、それぞれ対応する移動平均演算部409p,409mに入力される。移動平均演算部409p,409mは、ADコンバータ400p,400mにおいて取り込んだサンプリングデータ(lx1p,lx1m,ly1p,ly1m,lx2p,lx2m,ly2p,ly2m,lzp,lzm)を各々移動平均処理する。それにより、浮上制御力へ寄与する電流成分(バイアス電流ib、浮上制御電流ic)に関する情報が取得される。
【0073】
移動平均演算部409pの演算結果は、アンプ制御器410pに通された後に、バイアス電流設定量から浮上制御電流設定を減算した結果に対して減算処理される。さらに、この減算処理結果に対してセンサキャリア生成回路411からのセンサキャリア成分(v×sin(ωc×t))が減算され、その減算結果に基づいてPWM制御信号がPWM演算部412pにおいて生成される。ゲート信号生成部401pは、PWM演算部412pで生成されたPWM制御信号に基づいてゲート駆動電圧(PWMゲート信号)を生成する。
【0074】
同様に、信号処理演算部409mの演算結果は、アンプ制御器410mに通された後に、バイアス電流設定量に浮上制御電流設定を加算した結果に対して減算処理される。さらに、この減算処理結果に対してセンサキャリア生成回路411からのセンサキャリア成分(v×sin(ωc×t))が加算され、その加算結果に基づいてPWM制御信号がPWM演算部412mにおいて生成される。ゲート信号生成部401mは、PWM演算部412mで生成されたPWM制御信号に基づいてゲート駆動電圧を生成する。
【0075】
上述したように、本実施の形態の磁気軸受装置は、複数の制御軸の各々に設けられ、回転軸に対して対向配置された対を成す磁気軸受電磁石45と、回転軸の浮上位置変化を検知するための搬送波信号が重畳された電磁石電流を、磁気軸受電磁石45に供給する複数の励磁アンプ43と、電磁石電流を検出して電流検出信号Im,Ipを出力する複数の電流センサ101A,101Bと、対を成す磁気軸受電磁石45に関する各電流検出信号Im,Ipを加算して和信号(Im+Ip)を取得する加算部414と、電流検出信号Im,Ipおよび和信号(Im+Ip)を予め定められたADサンプリング期間(
図8の区間(A)、(B))においてADサンプリングして、浮上位置変化に関する変位情報を取得し、該変位情報に基づいて励磁アンプ43をPWM制御する制御部44と、を備え、励磁アンプ43をPWM制御することにより発生する電流ノイズの継続時間をTdとし、PWMキャリア信号の周期をTpwmとし、外乱の無い静粛環境条件でのPWMキャリア信号のオンデューティ上限をTonuとし、外乱の無い静粛環境条件でのPWMキャリア信号のオンデューティ下限をTonlとしたときに、ADサンプリング期間は、周期Tpwmの開始から時間Tdが経過した時点と周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tonu)が経過した時点との間の第1ADサンプリング期間(
図8の区間(A))と、周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tonl+Td)が経過した時点と周期Tpwmの完了時点との間の第2ADサンプリング期間(
図8の区間(B))とを有する。
【0076】
上記の構成とすることで、少なくとも静粛環境においては、スイッチングノイズの影響による振動発生を防止することができる。また、上記のようにADサンプリング期間を設定することで、ADサンプリング点を分散配置することが可能となり、一括データ取り込みが可能なADコンバータを用いる必要がない。なお、従来のようなデューティ変動への制限を設けていないので、PWM制御のデューティ可変範囲を必要以上に制限してしまうおそれがない。
【0077】
さらに、ADサンプリングにおける取込最小時間をTminとしたとき、オフデューティ区間におけるサンプリング期間を、
図8の区間(C)のように、周期Tpwmの開始から時間Tdが経過した時点と前記周期Tpwmの開始から時間(Td+Tmin)が経過した時点との間の期間に設定し、オンデューティ区間におけるサンプリング期間を、
図8の区間(D)のように、周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tmin)が経過した時点と周期Tpwmの完了時点との間の期間に設定するようにしても良い。
【0078】
例えば、サンプリング期間を、周期Tpwmの開始から周期Tpwmの10%が経過した時点と周期Tpwmの開始から周期Tpwmの40%が経過した時点との間の期間、および、周期Tpwmの開始から周期Tpwmの70%が経過した時点と周期Tpwmの開始から周期Tpwmの90%が経過した時点との間の期間に設定する。このようにサンプリング期間を設定することで、静粛環境だけでなく、よりデューティ変動の大きな環境状態においても軸受自体の振動の発生を防止することができる。
【0079】
−第2の実施の形態−
上述した第1の実施の形態では、電磁石電流にセンサキャリア信号を重畳し、電流検出信号Ip,Imの和信号(Ip+Im)を変位信号として利用するセンサレス(セルフセンシング)方式の磁気軸受式ターボ分子ポンプを説明した。第2の実施の形態では、変位センサを設けてシャフト5の浮上位置の変位を検出する構成の磁気軸受式ターボ分子ポンプについて説明する。
【0080】
図13は制御系のブロック図であって、上述した
図2に対応するものである。
図2に示す構成要素と同一のものには同一の符号を付した。
図13に示すように、ポンプ本体には変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51が設けられている。変位センサ50x1,50y1は、ラジアル方向の磁気軸受67(
図1参照)の2軸に対応して設けられたものである。変位センサ50x2,50y2は、ラジアル方向の磁気軸受68(
図1参照)の2軸に対応して設けられたものである。変位センサ51は、アキシャル方向の磁気軸受69(1軸)に対応して設けられたものである。変位センサも、電磁石の場合と同様に1軸当たり一対のセンサで構成されている。
【0081】
各変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51には、センサ回路33がそれぞれ設けられている。制御部44から各センサ回路33には、センサキャリア信号(搬送波信号)305が入力される。各センサ回路33から制御部44には、変位により変調されたセンサ信号306が入力される。その他の構成は、
図2に示したものと同様であり、説明を省略する。
【0082】
図14は、変位センサを設けた場合の磁気軸受制御の機能ブロック図である。上述した
図12の場合と同様に、制御軸5軸の内の1軸分について示したものである。センサキャリア生成回路411で生成されたセンサキャリア信号(デジタル信号)はデジタル信号からアナログ信号に変換された後、位相調整用のフィルタ回路を通して一対の変位センサ500(例えば、一対の変位センサ50x1)に印加される。変位センサ500で変調されたセンサ信号は差動アンプ501により差分が取られ、その差分信号はバンドパスフィルタ処理された後にADコンバータ413によりADサンプリングされる。
【0083】
復調演算部414では、サンプリングデータに基づいて復調演算が行われる。さらに復調された信号に対してゲイン調整およびオフセット調整が行われる(ゲイン・オフセット調整部415)。磁気浮上制御器416では、ゲイン・オフセット調整部415から出力された信号(変位情報)に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正等により浮上制御電流設定を生成する。
図12の場合と同様に、P側の制御には、バイアス電流設定量から浮上制御電流設定を減算したものが用いられ、M側の制御には、バイアス電流設定量に浮上制御電流設定を加算したものが用いられる。
【0084】
図15は、変位センサからの信号をADコンバータ413でADサンプリングする場合の、サンプリングタイミングを示す図である。センサキャリア周波数fcは10kHzであり、PWM周波数fpwmおよびサンプリング周波数fsは、fpwm=8fc、fs=2fcのように整数倍の関係に設定されている。また、上述した周期Tsnplは、PWM周期Tpwmを8分割した周期に設定されている。なお、電流検出信号(lx1p,lx1m,ly1p,ly1m,lx2p,lx2m,ly2p,ly2m,lzp,lzm)については、
図10と同様のADサンプリングが行われる。
【0085】
図15の中段に示すセンサ信号は、ADコンバータ413に入力される5軸分の信号(差分後の信号)を示している。X1軸およびY1軸と示す信号は、変位センサ50x1,50y1に対応するセンサ信号であり、X2軸およびY2軸と示す信号は変位センサ50x2,50y2に対応するセンサ信号であり、Z軸と示す信号は変位センサ51に対応するセンサ信号である。
【0086】
サンプリング点(黒丸)は周期Tc中に16点あるが、ADC1(ADコンバータ413)における5信号(X1,Y1,X2,Y2,Z)のADサンプリングは、それらの16のサンプリング点のいずれかに分散配置される。例えば、センサ信号X1は、左側から1番目と、それに対してTs、2Ts、・・・・、だけ離れたサンプリングタイミングにおいてADサンプリングが行われる。また、センサ信号Y1については、左側から5番目と、それに対してTs、2Ts、・・・・、だけ離れたサンプリングタイミングにおいてADサンプリングが行われる。
【0087】
図16は、センサキャリア周波数fc=10kHz、fpwm=8fc=80kHz、fs=2fc=20kHzのように設定し、周期TsnplをTpwm=2・Tsnplと設定した場合を示す。3つのADコンバータADC1、ADC2,ADC3には、8チャンネルのADコンバータが用いられる。ADコンバータADC1では、変位センサ信号X1,Y1および電流検出信号lx1p,lx1m,ly1p,ly1mがサンプリングされる。ADコンバータADC2では、変位センサ信号X2,Y2および電流検出信号lx2p,lx2m,ly2p,ly2mがサンプリングされる。ADコンバータADC3では、変位センサ信号Zがサンプリングされる。
【0088】
第2の形態の磁気軸受装置は、複数の制御軸の各々に設けられ、回転軸に対して対向配置された対を成す磁気軸受電磁石45と、各磁気軸受電磁石45と前記回転軸との間に吸引力を発生させるための電磁石電流を、磁気軸受電磁石45のそれぞれに供給する複数の励磁アンプ43と、電磁石電流を検出して電流検出信号Im,Ipを出力する複数の電流センサ101A,101Bと、回転軸の浮上位置変化を検出するための搬送波信号(PWMキャリア信号)を生成する制御部44と、浮上位置変化に基づいてPWMキャリア信号を変調し、変調信号を出力する変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51と、を備え、制御部44は、電流検出信号Im,Ipおよび変調信号を予め定められたADサンプリング期間(
図8の区間(A)、(B))においてADサンプリングして浮上位置変化に関する変位情報を取得し、該変位情報に基づいて励磁アンプ43をPWM制御する。そして、励磁アンプ43をPWM制御することにより発生する電流ノイズの継続時間をTdとし、PWMキャリア信号の周期をTpwmとし、外乱の無い静粛環境条件でのPWMキャリア信号のオンデューティ上限をTonuとし、外乱の無い静粛環境条件でのPWMキャリア信号のオンデューティ下限をTonlとしたときに、ADサンプリング期間は、周期Tpwmの開始から時間Tdが経過した時点と周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tonu)が経過した時点との間の第1ADサンプリング期間(
図8の区間(A))と、周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tonl+Td)が経過した時点と周期Tpwmの完了時点との間の第2ADサンプリング期間(
図8の区間(B))とを有する。
【0089】
そのため、第2の実施の形態のように専用に変位センサを設ける構成の磁気軸受装置においても、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0090】
さらに、オフデューティ区間におけるサンプリング期間を、
図8の区間(C)のように、周期Tpwmの開始から時間Tdが経過した時点と前記周期Tpwmの開始から時間(Td+Tmin)が経過した時点との間の期間に設定し、オンデューティ区間におけるサンプリング期間を、
図8の区間(D)のように、周期Tpwmの開始から時間(Tpwm−Tmin)が経過した時点と周期Tpwmの完了時点との間の期間に設定するようにしても良い。
【0091】
また、第1の実施の形態の場合と同様に、サンプリング期間を、周期Tpwmにおける10%が経過した時点と40%が経過した時点との間の期間、および、周期Tpwmにおける70%が経過した時点と90%が経過した時点との間の期間に設定することで、静粛環境だけでなく、よりデューティ変動の大きな環境状態においても軸受自体の振動の発生を防止することができる。
【0092】
−第3の実施の形態−
図17は、本発明の第3の実施の形態を説明する図である。前述したように、モータ42の駆動制御にもPWM制御が用いられている。モータ43は、磁気軸受と比べてより大電力で駆動される。本実施の形態では、モータ駆動系のスイッチングノイズがGNDラインを介して磁気軸受制御系、特に、変位信号へ重畳されるのを防止することを目的としている。本実施の形態では、磁気軸受に関しては第2の実施の形態と同様に変位センサを用いる構成とした。
【0093】
図17は、ADサンプリングの一例を示したものである。ここでは、磁気軸受制御系に関してはfs=2・fc=20kHz、fpwm=8・fc、fsnpl=2・fpwmのように設定し、モータ駆動系のPWMキャリア信号の周波数fpwm(motor)をfpwm(motor)=2・fc=fsのように設定する。モータ駆動系のPWMスイッチングタイミングは、
図17のPWMキャリアの上下頂点間に位置し、その位置は出力状況に応じて変動する。そのため、そのスイッチングタイミングを避けてPWMキャリアの上下頂点付近で、駆動制御に必要なモータ相電流(Iu,Iv,Iw)、モータ相電圧(Vu,Vv,Vw)の検出を行う。同様に、磁気軸受関係の信号も、大電力モータ駆動系のノイズの影響を避けるべくADサンプリングタイミングを設定する。なお、センサレス(セルフセンシング)構成に対しては、専用の変位センサに関する変位信号を上述した和信号に置き換えればよい。
【0094】
なお、上述した各実施形態において、PWMキャリア信号におけるオンデューティの時間幅が(Td+Tmin)以下または(Tpwm−Td−Tmin)以上となるような大きな外乱が作用した場合、センサ信号および電流検出信号に常にノイズが影響し磁気軸受制御が不安定となるおそれがある。そこで、制御部44において、PWMキャリア信号のオンデューティの時間幅が(Td+Tmin)以下または(Tpwm−Td−Tmin)以上となる頻度(所定時間当たりの回数)を計測し、頻度が所定の頻度閾値を超えた場合に、警報信号を出力するようにしても良い。例えば、コントロールユニットに表示装置を設けて、警報信号が出力されるとその表示装置に警報表示を行う。また、警報信号をコントロールユニットから外部に出力されるような構成としても良い。頻度閾値としては、例えば、正規分布での2σ(約10%)を目安とすれば良い。
【0095】
また、制御部44に値の異なる複数の頻度閾値を保持し、ポンプの使用状況に応じて複数の頻度閾値のいずれか一つを選択するようにしても良い。例えば、電子顕微鏡のように振動に厳しい装置にポンプを搭載する場合には、頻度閾値を小さめに設定する。
【0096】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、
図7で示したPWM制御信号のオンオフが逆論理の場合でも、
図7の各オンデューティ時間をそれぞれオフデューティ時間に置き換えて同様に適用が可能である。また、例えば、上述した実施の形態ではターボ分子ポンプに搭載された磁気軸受装置を例に説明したが、ターボ分子ポンプに限らず種々の回転ポンプの磁気軸受装置や、ポンプ以外の磁気軸受装置にも同様に適用することができる。