(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
(積層セラミックコンデンサ)
図1に示すように、セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0020】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、
図1に示すように、通常、直方体とされる。また、その寸法にも特に制限はない。
【0021】
(誘電体層)
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、主成分として、一般式ABO
3(AはBa、CaおよびSrから選ばれる少なくとも1つであり、BはTiおよびZrから選ばれる少なくとも1つである)で表される化合物を有している。また、誘電体磁器組成物は、主成分がABO
3である誘電体粒子を有している。
【0022】
一般式ABO
3で表される化合物の具体例として、{(Ba
1−x−yCa
xSr
y)O}
u(Ti
1−zZr
z)
vO
3で表される化合物が挙げられる。なお、u、v、x、y、zはいずれも任意の範囲であるが、以下の範囲であることが好ましい。
【0023】
上記式中、xは好ましくは0≦x≦0.1、より好ましくは0≦x≦0.05ある。xを前記範囲とすることにより、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成される誘電体層の温度特性および比誘電率を向上させることができる。また、本実施形態においては、必ずしもCaを含まなくても良い。すなわち、xが0でもよい。
【0024】
上記式中、yは好ましくは0≦y≦0.1、より好ましくは0≦y≦0.05である。yを前記範囲とすることにより、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成される誘電体層の温度特性および比誘電率を向上させることができる。また、本実施形態においては、必ずしもSrを含まなくても良い。すなわち、yが0でもよい。
【0025】
上記式中、zは好ましくは、0≦z≦0.3、より好ましくは0≦z≦0.15である。zを上記範囲とすることにより、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成される誘電体層の温度特性および比誘電率を向上させることができる。また、本実施形態においては必ずしもZrを含まなくても良い。すなわち、zが0でもよい。
【0026】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物の主成分はチタン酸バリウムであることが好ましい。すなわち、x=y=z=0であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は前記主成分に対し、副成分として希土類元素の酸化物である第1の副成分と、Siの酸化物である第2の副成分を少なくとも有している。
【0028】
第1の副成分としてEuの酸化物を含有することが好ましい。第1の副成分として、少なくとも3種の希土類元素の酸化物を含むことが好ましい。第1の副成分としてRa(Sc、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)の酸化物およびRb(Y、Dy、Ho、TbおよびGdから選択される少なくとも1種)の酸化物を含むことが好ましい。そして、第1の副成分としてEuの酸化物、Raの酸化物およびRbの酸化物を全て含有することが最も好ましい。
【0029】
主成分100モルに対するEuの酸化物の含有量をEu
2O
3換算でαモルとすると、αは、好ましくは0.075以上0.5以下、より好ましくは0.10以上0.4以下である。αを上記の範囲内とすることにより、比誘電率、温度特性、高温負荷寿命が良好になる傾向にある。
【0030】
主成分100モルに対するRaの酸化物の含有量をRa
2O
3換算でβモルとすると、βは、好ましくは0.5以上3以下、より好ましくは1.0以上2.5以下である。βを上記の範囲内とすることにより、比誘電率、温度特性、高温負荷寿命が良好になる傾向にある。また、RaとしてYbを用いることが、さらに好ましい。
【0031】
主成分100モルに対するRbの酸化物含有量をRb
2O
3換算でγモルとすると、γは、好ましくは1.0以上4以下、より好ましくは1.4以上3以下である。γを上記の範囲内とすることにより、比誘電率、温度特性、高温負荷寿命が良好になる傾向にある。また、RbとしてYを用いることが好ましく、さらに好ましくは、YとTbの両方を用いる。
【0032】
主成分100モルに対する前記第2の副成分であるSiの酸化物含有量をSiO
2換算でδモルとすると、δは、1.5以上5以下であることが好ましい。また、0.030≦α/δ≦0.25を満足することが好ましい。δ、α/δが上記の範囲内であることにより比誘電率、温度特性、高温負荷寿命が良好になる傾向にある。
【0033】
上述の通り、本実施形態では、前記主成分に対し、前記第1の副成分としてEuの酸化物、Raの酸化物およびRbの酸化物を含有することが好ましい。ここで、Eu、Ra、Rbは、各希土類元素のイオン半径の大きさに応じて分類している。Euのイオン半径は大きく、Raのイオン半径は小さく、Rbのイオン半径がEuのイオン半径とRaのイオン半径との中間に位置する。
【0034】
Euの酸化物、Raの酸化物およびRbの酸化物は、主成分を含む誘電体粒子に固溶する。各希土類元素の酸化物が誘電体粒子に固溶することで、誘電体粒子が、いわゆるコアシェル構造を形成する。
【0035】
Raの酸化物を好ましい範囲内の含有量で含有すると、主成分のキュリー温度および静電容量の温度特性が高温まで良好になり、高温負荷寿命が向上する傾向にある。
【0036】
Euの酸化物および/またはRbの酸化物を好ましい範囲内の含有量で含有すると、高温負荷寿命および静電容量の温度特性が向上する傾向にある。
【0037】
また、本実施形態では第2の副成分としてSiの酸化物、例えばSiO
2を含有することが好ましい。なお、SiO
2は焼結助剤としての機能を有する。ここで、Siの酸化物は、前記第1の副成分との複合酸化物を形成しやすい。さらに、前記第1の副成分と前記第2の副成分との複合酸化物の粒子は、コアシェル粒子とは別に偏析して、誘電体磁器組成物を構成する粒子となる。
【0038】
本実施形態では、
図2に示すように、誘電体層2を構成する焼成後の誘電体磁器組成物を切断した断面において、後述する偏析粒子2bが占める領域の面積が5.0%以下であり、それぞれの偏析粒子2bの断面積の平均(以下、偏析粒子2bの平均断面積ともいう)が0.075μm
2以下であることを特徴とする。偏析粒子2bが占める領域の面積と、偏析粒子2bの平均断面積とを調整することで、相反する高温負荷寿命の向上と静電容量の温度特性の向上とを両立させることができる。さらに、誘電体層2に、後述するEu含有偏析粒子が実質的に含まれない場合には、高温負荷寿命および静電容量の温度特性がさらに向上する。また、「Eu含有偏析粒子が実質的に含まれない」とは、全ての偏析粒子2bに占めるEu含有偏析粒子の数が10%未満である場合とする。
【0039】
なお、本実施形態では、偏析粒子2bが占める領域の面積、偏析粒子2bの平均断面積および偏析粒子2bにおけるEuの含有量は、例えば第1の副成分の含有量、第2の副成分の含有量および第1の副成分の含有量と第2の副成分の含有量との比を調整することにより可能である。偏析粒子2bが占める領域の面積を5.0%以下とし、偏析粒子2bの平均断面積を0.075μm
2以下とするように各副成分の含有量を調整することにより、良好な高温負荷寿命と静電容量の温度特性とを有する積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0040】
また、本実施形態では、誘電体磁器組成物に、さらにBa、Caの酸化物から選択される少なくとも1種を含む第3の副成分と、Mn、Crの酸化物から選択される少なくとも1種を含む第4の副成分と、V、Mo、Wの酸化物から選択される少なくとも1種を含む第5の副成分と、Mgの酸化物である第6の副成分とを所定の範囲内の量で含有することで、誘電体磁器組成物の特性を更に向上させることができる。
【0041】
前記第3の副成分を含有させることにより、主成分を含む誘電体粒子の異常粒成長が抑制され、異常粒成長による高温負荷寿命の低下が抑制される。また、前記第3の副成分の含有量に上限はないものの、前記第3の副成分の含有量を適量にすることで、焼成温度の上昇および誘電体磁器組成物の構造変化を抑制することができる。
【0042】
主成分100モルに対する第3の副成分の含有量は、BaO、CaO換算で、0.5モル以上4モル以下であることが好ましい。また、第3の副成分としては、少なくともBaの酸化物を含有することが好ましい。
【0043】
さらに、前記主成分に含まれるBa、CaおよびSrと、前記第3の副成分に含まれるBa、Caとの合計物質量をA
tとし、前記主成分に含まれるTiおよびZrの合計物質量をB
tとした場合に、1.004≦A
t/B
t≦1.054であることが好ましく、1.009≦A
t/B
t≦1.054であることがより好ましい。
【0044】
前記第4の副成分を適量、含有させることにより、高温負荷寿命をさらに向上させることができる。主成分100モルに対する第4の副成分の含有量は、MnO、Cr
2O
3換算で、0.05モル以上0.3モル以下であることが好ましい。また、本実施形態では、第4の副成分として、少なくともMnの酸化物を含有することが好ましい。
【0045】
前記第5の副成分を含有させることで高温負荷寿命をさらに向上させることができる。また、前記第5の副成分の含有量に上限はないものの、前記第5の副成分の含有量を適量にすることで、絶縁抵抗の低下を抑制することができる。したがって、主成分100モルに対する第5の副成分の含有量は、V
2O
5、Mo
2O
3、WO
3換算で、0.01モル以上0.15モル以下であることが好ましい。また、第5の副成分としては、少なくともVの酸化物を含有することが好ましい。
【0046】
前記第6の副成分を適量、含有させることで、主成分を含む誘電体粒子の異常粒成長を防止するとともに焼結を促進する。その結果、高温負荷寿命が向上する。本実施形態では主成分100モルに対する第6の副成分の含有量は、MgO換算で0.5〜1.8モルが好ましい。
【0047】
本実施形態の誘電体磁器組成物の平均結晶粒径には、特に限定はない。誘電体層の厚さなどに応じて例えば0.1〜3.0μmの範囲から適宜決定することができるが、前記の範囲を外れてもかまわない。
【0048】
一般的に、積層セラミックコンデンサにおける静電容量の温度特性は、誘電体層が薄いほど悪化する傾向にある。このことは、誘電体層を薄くするためには、必然的に誘電体磁器組成物の前記平均結晶粒径を小さくする必要があり、前記平均結晶粒径が小さいほど、積層セラミックコンデンサの静電容量の温度特性が悪化する傾向にあることに由来する。本実施形態の誘電体磁器組成物は、平均結晶粒径を小さくする必要がある場合、具体的には、平均結晶粒径が0.1〜0.5μmとする必要がある場合に特に好適に用いられる。また、一般的に、平均結晶粒径が小さい場合には、高温負荷寿命は良好であり、直流電界下での静電容量の経時変化も小さい。この点からも平均結晶粒径を0.1〜0.5μmと小さくすることが好ましい。
【0049】
本実施形態の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層2の厚さは、一層あたり、通常5μm以下、特に3μm以下とした場合でもX8R特性を満足し、高信頼性を達成できる。本実施形態の誘電体磁器組成物は、このような薄層化した誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの静電容量の温度特性の改善に有効である。なお、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサの誘電体層の積層数は、通常、2〜300程度となる。
【0050】
本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、80℃以上、特に125〜150℃の環境下で使用される機器用電子部品として用いて好適である。そして、このような温度範囲において、静電容量の温度特性がEIA規格のR特性を満足し、さらに、X8R特性も満足する。また、EIAJ規格のB特性(−25〜85℃で容量変化率±10%以内)、EIA規格のX7R特性(−55〜125℃、ΔC=±15%以内)も同時に満足することが可能である。
【0051】
一般的な積層セラミックコンデンサでは、通常の使用条件下で、誘電体層に、0.1V/μm以上、特に0.5V/μm以上、一般に5V/μm程度以下の交流電界と、これに重畳して5V/μm以上50V/μm程度以下の直流電界とが加えられる。このような電界が加わっても、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、静電容量の温度特性が極めて安定している。
【0052】
(コアシェル構造を有する誘電体粒子、偏析粒子)
図2に示すように、本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、主成分であるABO
3粒子に副成分として少なくとも希土類酸化物が固溶したコアシェル構造を有する誘電体粒子2aと、希土類酸化物を高濃度で含む偏析粒子2bとが存在する。さらに、上記コアシェル構造を有する誘電体粒子2aおよび上記偏析粒子2bに該当しないその他の誘電体粒子2cが存在してもよい。
【0053】
コアシェル構造を有する誘電体粒子2aを特定する手法は限定されないが、たとえば、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により切断面の反射電子像を撮影した場合に、中心部と周辺部とでコントラストが異なる粒子として特定される。そして、
図2に示すように、誘電体粒子2aの中心部をコア部2a1、周辺部をシェル部2a2とする。
【0054】
偏析粒子2bは、当該粒子の全域において、希土類酸化物の濃度が、前記コアシェル構造を有する誘電体粒子2aのシェル部2a2における希土類酸化物の平均濃度の2倍以上である粒子とする。前記偏析粒子2bは、前記反射電子像において、前記コア部2a1および前記シェル部2a2と異なるコントラストを有する。
【0055】
(偏析粒子の断面積、偏析率の測定)
誘電体層2中に含まれる偏析粒子2bの断面積、および、誘電体層2中に含まれる偏析粒子2bが占める面積の測定方法に制限はない。たとえば、以下の方法で測定される。まず、得られた積層セラミックコンデンサ1を内部電極層3に垂直な面で切断し、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により切断面の反射電子像の写真を撮影する。反射電子像の写真の枚数、観察面積、倍率に特に制限は無いが、コアシェル構造を有する誘電体粒子2aが合計で約1000個以上含まれるように複数回撮影することが好ましい。また、倍率は20000倍前後とすることが好ましい。前記反射電子像を画像処理ソフトで処理し、誘電体層2中に存在するそれぞれの偏析粒子2bの断面積、および前記反射電子像において、誘電体層2中に存在する偏析粒子2bが占める領域の面積を算出する。
【0056】
誘電体層2中の偏析粒子2bの断面積は、撮影した反射電子像に存在する全ての偏析粒子2bについて画像処理ソフトにより算出し、それぞれの偏析粒子2bの断面積より偏析粒子2bの平均断面積を算出する。また、偏析粒子2bが占める領域の面積は、撮影した反射電子像における誘電体層2の面積に対する偏析粒子2bが占める領域の面積として算出する。以下、誘電体層2の面積に対する偏析粒子2bが占める領域の面積を偏析率と呼ぶ場合がある。
【0057】
(偏析粒子におけるEuの有無)
誘電体層2中に含まれる偏析粒子2bにおけるEuの有無の確認方法に制限は無いが、たとえば、以下に示す方法で確認できる。エネルギー分散型X線分光装置(STEM−EDX)を用いて希土類元素のマッピング画像を作成し、目視にて偏析粒子2bを決定する。そして、目視にて決定した全ての当該偏析粒子2bについてSTEM−EDXの点分析でEuの濃度測定を行うことにより、偏析粒子2bにおけるEuの存在の有無を確認する。
【0058】
偏析粒子に含まれる酸化物全体を100wt%とした場合において、EuをEu
2O
3換算で2wt%以上含む偏析粒子を、実質的にEuを含有する偏析粒子とする。以下、実質的にEuを含有する偏析粒子を、Eu含有偏析粒子と呼ぶ場合がある。
【0059】
(誘電体層)
本実施形態における誘電体層2は、偏析率は5%以下であり、偏析粒子2bの平均断面積は0.075μm
2以下である。偏析率と偏析粒子2bの平均断面積が前記範囲内である場合に、高温負荷寿命と静電容量の温度特性が格段に向上する。
【0060】
偏析率は0.5%以上であることが好ましい。さらに、Eu含有偏析粒子が実質的に存在しない場合には、高温負荷寿命と静電容量の温度特性がさらに向上する。なお、前記観察視野内における全ての偏析粒子2bに占めるEu含有偏析粒子の数が10%未満である場合に、Eu含有偏析粒子が実質的に存在しないとする。また、Eu含有偏析粒子が実質的に存在しない状態のことを、偏析粒子がEuを実質的に含有しない状態であるともいう。
【0061】
本実施形態の偏析粒子2bを構成する成分としては、実質的にR−Si−Ba−Ti−O系の複合酸化物からなることが好ましい。該複合酸化物中の希土類酸化物とSiの酸化物の含有割合は、R
2O
3換算のモル比とSiO
2換算のモル比で、R
2O
3:SiO
2=0.3:0.7〜0.7:0.3であることが好ましく、さらに好ましくはR
2O
3:SiO
2がほぼ0.5:0.5である。
【0062】
その他の誘電体粒子2cの態様には特に限定は無い。その他の誘電体粒子2cの態様としては、たとえば、前記コントラストがコアシェル構造を有する誘電体粒子2aのシェル部2a2と類似した低濃度の全固溶粒子、添加物が全く固溶していないABO
3粒子、希土類元素以外の添加物のみが固溶した誘電体粒子などが挙げられる。なお、その他の誘電体粒子2cの存在確率が0%、すなわち、本実施形態に係る誘電体層2における粒子が、コアシェル構造を有する誘電体粒子2aおよび偏析粒子2bのみであってもよい。
【0063】
(内部電極層)
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2を構成する材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として卑金属を用いる場合には、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましい。合金中のNiの含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各微量成分が合計0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途に応じて適宜変更でき、特に限定されない。通常、0.1〜3.0μm、好ましくは0.5〜2.0μm程度である。
【0064】
(外部電極)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では、安価なNi、Cuやこれらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜50μm程度であることが好ましい。
【0065】
(積層セラミックコンデンサの製造方法)
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極4を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0066】
まず、誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層2を形成するためのペースト(誘電体層用ペースト)を調整する。
【0067】
(誘電体原料)
誘電体原料の主成分原料として、まずABO
3の原料を準備する。ABO
3としてはBa
uTi
vO
3で表されるチタン酸バリウムを用いることが好ましい。
【0068】
ABO
3の原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0069】
また、前記ABO
3の原料としてBa
uTi
vO
3で表されるチタン酸バリウムを用いる場合には、u/vが1.000≦u/v≦1.005の範囲内であることが好ましい。u/vを上記範囲内とすることにより、焼成時の粒成長を好適に制御することが容易となる。そして、当該誘電体原料を用いて作製した積層セラミックコンデンサ1の温度特性および高温負荷寿命が向上する。
【0070】
主成分として前記チタン酸バリウムを用いる場合、チタン酸バリウム原料の平均粒子径は特に限定されるものではないが、好ましくは、0.10μm〜0.3μmであり、さらに好ましくは、0.12μm〜0.17μmである。使用するチタン酸バリウム原料の粒子径を上記範囲内とすることにより、焼結を好適に制御すること、および、偏析粒子2bの粒成長を好適に制御することが容易となる。そして、当該誘電体原料を用いて作製した積層セラミックコンデンサ1の信頼性および温度特性が向上する。
【0071】
副成分の原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記の酸化物や複合酸化物となる各種化合物を混合して用いることもできる。前記各種化合物は、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。また、副成分の原料の大きさは、前記主成分の原料の大きさより小さいことが好ましい。より好ましくは、前記副成分の原料の平均粒子径が前記主成分の原料の平均粒子径の1/2以下である。
【0072】
上記の誘電体磁器組成物粉末の製造方法は特に限定されるものではない。上記した方法以外の方法として、たとえばチタン酸バリウム粉末に副成分を被覆する方法が挙げられる。被覆させる副成分の種類も特に限定されるものではない。好ましくはRの酸化物(Eu、Ra、Rb)、Mgの酸化物、およびSiの酸化物から選択される1種以上の酸化物である。被覆させる方法は、公知の方法を用いればよい。たとえばRの酸化物(Eu、Ra、Rb)、Mgの酸化物、およびSiの酸化物から選択される1種以上の酸化物を溶液化し、チタン酸バリウムが分散したスラリーと混合した後、熱処理することでチタン酸バリウム粒子表面に各副成分を被覆することができる。
【0073】
誘電体原料中の各化合物の含有量に特に限定はない。なお、本発明者らは、本実施形態においては、上記した各副成分の一部が焼成時に気化する場合などの特殊な場合を除いて、前記誘電体磁器組成物の組成が焼成前後で実質的に変化しないことを確認している。
【0074】
(誘電体層用ペースト)
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、誘電体原料と水系ビヒクルとを混練した水系の塗料であってもよい。
【0075】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等、一般的な有機ビヒクルに用いられる各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0076】
水系ビヒクルとは、水溶性バインダや分散剤などを水中に溶解したものである。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂等、一般的な水系ビヒクルに用いられる各種バインダから適宜選択すればよい。
【0077】
(内部電極用ペースト)
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、チタン酸バリウムを含有していることが好ましい。
【0078】
(外部電極用ペースト)
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0079】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜10重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等の無機物、有機物から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0080】
(印刷、積層)
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0081】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷し内部電極パターンを形成した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0082】
(脱バインダ)
脱バインダ条件は特に制限はないが、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜800℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜48時間とする。また脱バインダの雰囲気は、空気中もしくは還元雰囲気中とすることが好ましい。
【0083】
(焼成)
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。昇温速度は好ましくは600〜10000℃/時間、更に好ましくは2000〜10000℃/時間である。焼成時の保持温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1180℃〜1290℃である。焼成時の保持時間は好ましくは0.05〜20時間であり、より好ましくは0.1〜4時間である。昇温速度、保持時間を上記範囲に制御することで誘電体粒子2aに十分に副成分を固溶させつつ、偏析粒子2bの大きさを狙いの範囲に制御することが容易となる。そして、電極の球状化を防止しつつ、誘電体磁器組成物の緻密化が容易となり、高温負荷寿命が向上する。なお、降温速度に特に制限はないが、好ましくは50〜1000℃/時間である。
【0084】
焼成の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましい。雰囲気ガスにはとくに制限はなく、たとえば、N
2とH
2との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0085】
焼成時の酸素分圧は、内部電極用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよい。たとえば、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、焼成雰囲気中の酸素分圧を10
−14〜10
−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧を前記範囲内とすることにより、内部電極層3の酸化を防ぎつつ、内部電極層3の導電材の焼結が正常に行われやすい。
【0086】
(アニール)
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体10にはアニール処理を施すことが好ましい。アニールは誘電体層2を再酸化するための処理であり、これにより誘電体層2の絶縁抵抗(IR)を著しく上げることができ、高温負荷寿命(IR寿命)も向上させることができる。
【0087】
アニールの際の雰囲気に特に制限はないが、酸素分圧を10
−9〜10
−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧を前記範囲内とすることにより、内部電極層3の酸化を防ぎつつ、誘電体層2の再酸化が容易となる。
【0088】
アニールの際の保持温度に特に制限はないが、1100℃以下とすることが好ましく、950〜1090℃とすることが特に好ましい。保持温度を前記範囲内とすることにより、誘電体層2の酸化を十分に行いやすい。また、内部電極層3の酸化および内部電極層3と誘電体層2との反応を防ぎ、積層セラミックコンデンサ1の温度特性、絶縁抵抗(IR)、高温負荷寿命(IR寿命)および静電容量が良好になりやすい。
【0089】
上記以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜4時間とする。降温速度を好ましくは50〜1000℃/時間、より好ましくは100〜600℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスの種類に特に制限はないが、たとえば加湿したN
2ガスを用いることが好ましい。
【0090】
上記脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、N
2ガスや混合ガス等を加湿するためには、たとえばウェッター等を使用すればよい。ウェッターを使用する場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0091】
脱バインダ処理、焼成、アニールは連続して行ってもよく、それぞれ独立におこなってもよい。
【0092】
また、上述した実施形態では、誘電体磁器組成物からなる誘電体層と電極層とを含む積層セラミックコンデンサについて記載しているが、本発明に係る誘電体磁器組成物の用途は特に制限されず、単層コンデンサ、誘電体フィルタなどとしても好適に用いることができる。また、本発明に係るセラミック電子部品の種類も特に制限されない。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0094】
(実施例1)
主成分であるチタン酸バリウムの原料粉体として平均粒子径が下記表1に示す特定の平均粒子径(120〜170nm)であるBa
uTi
vO
3粉末(u/v=1.004)を準備した。
【0095】
第1の副成分であるEuの酸化物の原料粉体としてEu
2O
3粉末を、Raの酸化物の原料粉体としてYb
2O
3粉末を、Rbの酸化物の原料粉体としてTb
2O
3.5粉末およびY
2O
3粉末を、それぞれ準備した。
【0096】
第2の副成分であるSiの酸化物の原料粉体としてSiO
2粉末を準備した。
【0097】
さらに、Baの酸化物の原料粉体としてBaCO
3粉末を準備した。Mnの酸化物の原料粉体としてMnCO
3粉末を準備した。Vの酸化物の原料粉体としてV
2O
5粉末を準備した。Mgの酸化物の原料粉体としてMgO粉末を準備した。
【0098】
なお、上記全ての副成分の原料粉末には、予備粉砕を行い、上記全ての副成分の平均粒子径を、それぞれ下記表1に示す特定の平均粒子径(50〜170nm)に揃えた。
【0099】
次に、各副成分の原料粉末を、チタン酸バリウム100モルに対する含有量が下記表1に示す含有量となるように秤量した。表1に記載のない副成分の原料粉末については、Euの酸化物の原料粉体としてEu
2O
3粉末を0.65モル、Raの酸化物の原料粉体としてYb
2O
3を2.5モル、Siの酸化物の原料粉体としてSiO
2を3モル、Baの酸化物の原料粉体としてBaCO
3粉末を2モル、Mnの酸化物の原料粉体としてMnCO
3粉末を0.2モル、Vの酸化物の原料粉体としてV
2O
5粉末を0.05モル、Mgの酸化物の原料粉体としてMgO粉末を0.9モル、秤量した。これら各粉末をボールミルで20時間湿式混合、粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。なお、BaCO
3およびMnCO
3は、焼成によりBaOおよびMnOに変化して誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0100】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、ジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、アルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。なお、前記誘電体層用ペーストにおいて、DOPは可塑剤であり、アルコールは溶媒である。
【0101】
また、上記の誘電体層用ペーストとは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0102】
そして、前記誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。当該グリーンシートの形成は、前記グリーンシートの乾燥後の厚みが2.5μmとなるようにして行った。
【0103】
次いで、前記内部電極層用ペーストを用いて、前記グリーンシートの上に、所定パターンで電極層を印刷した。前記電極層を印刷した後に、前記PETフィルムから前記グリーンシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。
【0104】
次いで、前記電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、前記グリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0105】
次いで、得られた前記グリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記の条件にておこない、積層セラミック焼成体を得た。
【0106】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:235℃、保持時間:8時間、雰囲気:空気中、とした。
【0107】
焼成条件は、昇温速度:600℃/時間、保持温度:1260℃、保持時間:1時間、降温速度:200℃/時間とした。雰囲気ガス:加湿したN
2+H
2混合ガス、酸素分圧:10
−12MPa、とした。
【0108】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、保持時間:3時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN
2ガス、酸素分圧:10
−7MPa、とした。
【0109】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを使用した。
【0110】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をバレル研磨した。前記バレル研磨を行った端面に前記外部電極用ペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼き付け処理を行い、表1に示す試料番号1〜12の積層セラミックコンデンサ試料(以下、単に「コンデンサ試料」と表記する場合がある)を得た。なお、得られたコンデンサ試料のサイズは3.2mm×1.6mm×1.2mm、誘電体層の層間厚みは2.0μm、内部電極厚みは1.0μm、誘電体層の数は100層である。
【0111】
得られたコンデンサ試料について、静電容量の温度特性、高温負荷寿命(HALT)、誘電体粒子におけるコアシェル構造の有無、偏析粒子2bの平均断面積、偏析率、および偏析粒子2bにおけるEuの含有の有無の確認を、それぞれ下記に示す方法により行った。測定結果を表1〜表4に示す。
【0112】
(静電容量の温度特性)
コンデンサ試料に対して、周波数1.0kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件化で、−55℃〜155℃における静電容量を測定し、25℃における静電容量を基準として静電容量の変化率を算出し、EIA規格の温度特性であるX8R特性を満足するか否かについて評価した。X8R特性を満足しているサンプルを良好とした。表1〜4では、X8R特性を満足しているサンプルを○、X8R特性を満足していないサンプルを×と評価している。
【0113】
(高温負荷寿命)
コンデンサ試料に対し、175℃にて100Vの電界下で直流電圧の印加状態を保持し、コンデンサ試料の絶縁劣化時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、電圧印加開始から絶縁抵抗が1桁落ちるまでの時間を寿命とし定義した。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)をそのサンプルの平均寿命と定義した。本実施例では5時間以上を良好とし、10時間以上を特に良好とした。なお、表1〜4では、MTTF10時間以上を◎、MTTF5時間以上10時間未満を○、MTTF5時間未満を×と評価している。
【0114】
(コアシェル構造の有無)
まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨した。そして、その研磨面にイオンミリングによるエッチング処理を施し、その後、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により観察視野3.0×4.0μmで反射電子像を撮影した。当該反射電子像は、前記の切断面上の互いに異なる箇所で5枚撮影した。当該反射電子像の写真において、粒子の中心部と周辺部とでコントラストが異なる誘電体粒子を、コアシェル構造を有する誘電体粒子とした。
【0115】
さらに、前記コアシェル構造を有する誘電体粒子以外の粒子のうち、前記反射電子像において、前記コア部および前記シェル部と明確に異なるコントラスト(内部電極とも異なるコントラスト)を有する粒子を偏析粒子とした。
【0116】
また、走査透過型電気顕微鏡(STEM)による観察を行い、コアシェル構造を有する誘電体粒子および偏析粒子を区別した。この場合、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(STEM−EDX)を用いて希土類元素のマッピングを行い、マッピング画像を作成した。そして、前記マッピング画像において、前記反射電子像と同様に、目視にてコントラストを比較し、コアシェル構造を有する誘電体粒子および偏析粒子を決定した。
【0117】
コアシェル構造を有する誘電体粒子および偏析粒子について、FE−SEMで決定する場合と、STEM−EDXで決定する場合とで、結果がよく一致することを確認した。また、このとき、偏析粒子における前記希土類元素の濃度が、前記コアシェル構造を有する誘電体粒子のシェル部における前記希土類元素の平均濃度の2倍以上であった。
【0118】
STEM−EDXを用いて元素マッピングを行う際に、酸素のマッピングも行い、希土類元素の存在箇所に酸素が存在していることを確認した。さらに、X線回折(XRD)により、希土類元素は、希土類酸化物、または、希土類複合酸化物の態様で存在することを確認した。他の元素についても同様の評価を行い、酸化物、または、複合酸化物の態様で存在することを確認した。
【0119】
なお、コアシェル構造を有する誘電体粒子、偏析粒子の他に、その他の誘電体粒子を含む試料もあった。
【0120】
(偏析率、偏析粒子の平均断面積)
まず、得られた反射電子像について画像処理ソフトでコントラスト解析を行い、誘電体層と電極層とに分類した。そして、誘電体層を偏析粒子と偏析粒子以外とに分類した。次に、誘電体層全体に占める偏析粒子の面積比を算出し、偏析率とした。また、得られた反射電子像に偏析粒子1つ1つの断面積を算出し、その平均値を偏析粒子の平均断面積とした。
【0121】
(Eu含有偏析粒子の有無)
前記研磨面をSTEMにて観察した。観察視野は1.0×1.0μmとした。そして、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(STEM−EDX)を用いて各元素のマッピングを行った。
【0122】
偏析粒子の存在箇所は、希土類元素のマッピングにより目視にて確認した。そして、前記観察視野内における全ての偏析粒子についてSTEM−EDXを用いて点分析を行い、Eu含有偏析粒子の有無を確認した。
【0123】
偏析粒子に含まれる全元素の酸化物の合計を100wt%とした場合に、EuがEu
2O
3換算で2wt%以上である偏析粒子をEu含有偏析粒子とした。また、前記観察視野内における偏析粒子から任意に選択した100個の偏析粒子に対するEu含有偏析粒子の数が10個以上である場合に、Eu含有偏析粒子が実質的に含まれているとした。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、偏析率が5.0%以下であり、偏析粒子の平均断面積が0.075μm
2以下である場合には(試料番号3、4、6〜8、10〜12)、容量温度特性、高温負荷寿命の全てが良好であった。
【0126】
それに対し、偏析率が5.0%を超える場合、および/または偏析粒子の平均断面積が0.075μm
2を超える場合には(試料番号1、2、5、9)、容量温度特性および/または高温負荷寿命が悪化した。
【0127】
(実施例2)
主原料となるチタン酸バリウム(Ba
uTi
vO
3(u/v=1.004))の平均粒径を150nmとし、希土類Ra、Rbの酸化物の種類を表2に示す値にした以外は、実施例1の試料番号8と同様にして試料番号21〜27の積層セラミックコンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の特性評価をおこなった。結果を表2に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
表2より、試料番号21〜27のように希土類Ra、Rbの酸化物の種類を変化させても、偏析率が5.0%以下であり、偏析粒子の平均断面積が0.075μm
2以下である場合には容量温度特性、高温負荷寿命の全てが良好であった。
【0130】
(実施例3)
焼成条件以外は実施例1の試料番号4と同様にして、試料番号31の積層セラミックコンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の特性評価をおこなった。試料番号31の焼成条件は、昇温速度を2000℃/時間、保持時間を0.2時間とした。結果を表3の試料番号31に示す。
【0131】
また、誘電体原料の準備を以下に示す方法で行い、誘電体原料の準備以外は実施例1の試料番号4と同様にして、試料番号32、33を作製し、実施例1と同様の特性評価を行った。
【0132】
試料番号32の誘電体原料の準備は、主成分であるBaTiO
3に対し、Siの酸化物とRaの酸化物であるYb
2O
3および、Rbの酸化物Tb
2O
3.5のみを湿式混合したのち、900℃の大気中で4時間熱処理を行った。その後、再度湿式混合により整粒を行い、BaTiO
3反応粉とした。
【0133】
前記BaTiO
3反応粉を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察を行ったところ、主成分のBaTiO
3に反応したSi酸化物、Yb
2O
3、Tb
2O
3.5が観察された。またX線回折(XRD)で反応組成の確認を行ったところ、Si−Ra−OやSi−Rb−Oが確認された。BaTiO
3反応粉と残りの副成分とを試料番号4の組成となるように混合し、誘電体原料を得た。
【0134】
試料番号33の誘電体原料の準備は、主成分であるBaTiO
3に対し、Euの酸化物Eu
2O
3のみを湿式混合したのち、900℃の大気中で4時間熱処理を行った。その後、再度湿式混合により整粒を行い、BaTiO
3反応粉とした。
【0135】
前記BaTiO
3反応粉を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察を行ったところ、主成分のBaTiO
3に反応したEu
2O
3が観察された。BaTiO
3反応粉と残りの副成分を試料番号4の組成となるように混合し、誘電体原料を得た。
【0136】
【表3】
【0137】
偏析率が5.0%以下であり、偏析粒子の平均断面積が0.075μm
2以下であり、かつEu含有偏析粒子が実質的に含まれていない試料番号31〜33は、容量温度特性が良好であった。また、試料番号31〜33は、高温負荷寿命が試料番号4と比較して、更に良好となった。
【0138】
(実施例4)
Raの酸化物としてYb
2O
3の他に、更にSc
2O
3、Er
2O
3、Lu
2O
3を準備し、また、Rbの酸化物にTb
2O
3.5、Y
2O
3以外に、Dy
2O
3、Ho
2O
3、Gd
2O
3を準備し、第1の副成分および第2の副成分の組成以外は実施例1の試料番号8と同様にして試料番号41〜68の積層セラミックコンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の特性評価をおこなった。結果を表4に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
表4より、偏析粒子存在率が5.0%以下であり、偏析粒子の平均断面積が0.075μm
2以下である試料番号41〜68は全て容量温度特性および高温負荷寿命が良好であった。さらに、各副成分の種類および含有量が好ましい範囲内であり、偏析粒子にEuが実質的に含まれていない場合には、高温負荷寿命がさらに良好となった。