(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程では、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度が1800℃以上2000℃以下の温度域において、前記台座の前記第2の主面の温度が、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度以上である状態を維持しながら、前記炭化珪素単結晶が冷却される、請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程では、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度が1000℃以上2000℃以下の温度域において、前記台座の前記第2の主面の温度が、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度以上である状態を維持しながら、前記炭化珪素単結晶が冷却される、請求項2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程では、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度が500℃以上2000℃以下の温度域において、前記台座の前記第2の主面の温度が、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度以上である状態を維持しながら、前記炭化珪素単結晶が冷却される、請求項3に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程は、前記台座の前記第2の主面の温度が、前記炭化珪素単結晶の前記表面の温度以上になる前に、前記収容部内の圧力を上げる工程を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程では、前記台座を加熱しながら前記炭化珪素単結晶が冷却される、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程では、前記収容部の底部の温度を、前記台座の前記第2の主面の温度よりも低く維持しながら、前記炭化珪素単結晶が冷却される、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を冷却する工程は、前記台座の前記第2の主面の温度を、前記炭化珪素単結晶を成長させる工程における前記台座の前記第2の主面の温度以上に維持しながら、前記炭化珪素単結晶を冷却する工程を含む、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記炭化珪素単結晶を成長させる工程後であって、かつ前記炭化珪素単結晶を冷却する工程前に、前記収容部内の圧力を、前記炭化珪素単結晶を成長させる工程における圧力よりも高く維持した状態で前記炭化珪素単結晶をアニールする工程をさらに備える、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0010】
発明者らは、炭化珪素単結晶における結晶欠陥の導入または伝搬の原因について鋭意研究の結果、以下の知見を得て本発明を見出した。
【0011】
昇華法による炭化珪素単結晶の結晶成長は以下のように行われる。
図1に示されるように、炭化珪素原料3が収容部1内に配置される。収容部1の開口部を塞ぐように収容部1の上側に台座2が配置される。種結晶4は、炭化珪素原料3の表面3aに対面するように台座2の表面2aに取り付けられている。加熱源(図示せず)は、たとえば収容部1の周囲に配置されており、収容部1および台座2の各々の温度を所望の温度に調整できるように構成されている。炭化珪素単結晶を成長させる工程においては、炭化珪素原料3から種結晶4に向かう方向に沿って温度が低くなるように温度勾配が設けられている。そのため、加熱源により炭化珪素原料3を加熱して昇華させると、昇華した炭化珪素が種結晶4の表面4a上において再結晶する。以上のようにして、種結晶4の表面4a上に炭化珪素単結晶5が成長する(
図2参照)。
【0012】
炭化珪素単結晶5を成長させる工程が終了した後、加熱源の電源をオフにして成長した炭化珪素単結晶5を冷却する。加熱源の電源をオフにする直前においては、台座2の裏面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低くなっている(
図2参照)。
【0013】
この状態で加熱を止め、炭化珪素単結晶5の冷却を始めると、台座2の裏面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の温度よりも低い状態を維持しながら低下する。台座2は、たとえば炭素により構成されている。炭素の熱膨張係数は、炭化珪素の熱膨張係数よりも大きい。そのため、炭化珪素単結晶5を冷却する際、台座2の熱収縮量が、炭化珪素単結晶5の熱収縮量よりも大きくなると炭化珪素単結晶5に熱応力が生じる。
【0014】
比較的高温(たとえば1000℃以上)の状態で炭化珪素単結晶5に熱応力が生じると、炭化珪素単結晶5内に転位などの結晶欠陥が導入される場合や、既に炭化珪素単結晶5内に存在していた結晶欠陥が炭化珪素単結晶5中を伝搬する場合がある。また比較的低温(たとえば500℃以上1000℃未満)の状態で炭化珪素単結晶5に熱応力が生じると、炭化珪素単結晶5内にクラックが発生する場合や、炭化珪素単結晶5が割れる場合がある。これらの現象は、炭化珪素単結晶5の外周部においてより顕著に発生し、また炭化珪素単結晶5が大口径の場合により顕著に発生する。特に、台座2を構成する材料の熱膨張係数と炭化珪素単結晶の熱膨張係数との差が大きい場合に、台座2の熱収縮量と炭化珪素単結晶の熱収縮量との差はより顕著になる。
【0015】
発明者は鋭意研究の結果、炭化珪素単結晶5の成長終了後における炭化珪素単結晶5の冷却工程において、台座2の裏面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら炭化珪素単結晶5を冷却することを考え出した。これにより、台座2の熱収縮量を、炭化珪素単結晶5の熱収縮量と同程度に維持しながら炭化珪素単結晶5を冷却することができる。結果として、炭化珪素単結晶5の冷却時における炭化珪素単結晶5内の熱応力を低減することができるので、結晶欠陥の導入または伝搬を抑制することができる。特に、台座2を構成する材料の熱膨張係数と炭化珪素単結晶5の熱膨張係数との差が大きい場合に、炭化珪素単結晶5内の熱応力をより低減することができる。
【0016】
(1)本発明の一態様に係る炭化珪素単結晶の製造方法は以下の工程を備えている。収容部1内に設けられた炭化珪素原料3と、炭化珪素原料3に対面するように設けられ、かつ台座2の第1の主面2aに固定された種結晶4とが準備される。炭化珪素原料3を昇華させることにより、種結晶4上に炭化珪素単結晶5が成長する。炭化珪素単結晶5が成長した後、炭化珪素単結晶5が冷却される。炭化珪素単結晶5を成長させる工程は、台座2の第1の主面2aとは反対側の第2の主面2bの温度が、炭化珪素原料3に対面する炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低い状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5を成長させる工程を含む。炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の冷却時に、炭化珪素単結晶に対する結晶欠陥の導入または伝搬を抑制することができる。
【0017】
(2)上記(1)に係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1800℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1800℃以上2000℃以下の温度域における炭化珪素単結晶5の冷却過程においては、炭化珪素単結晶5を構成している原子が動きやすい。そのため、当該温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却されることにより、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0018】
(3)上記(2)に係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1000℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1000℃以上1800℃未満の温度領域においても炭化珪素単結晶5内の熱応力を小さくすることができる。そのため、特に熱応力に起因して1000℃以上で炭化珪素単結晶5に入ると考えられている基底面転位を抑制することができる。
【0019】
(4)上記(3)に係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が500℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が500℃以上1000℃未満の温度領域においても炭化珪素単結晶5内の熱応力を小さくすることができる。そのため、結晶欠陥のみならず熱応力に起因して炭化珪素単結晶5に入るクラックまたは炭化珪素単結晶5の割れを抑制することができる。
【0020】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上になる前に、収容部1内の圧力を上げる工程を含む。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が炭化珪素原料3の表面3aの温度よりも高くなった場合に、成長した炭化珪素単結晶5が昇華することを抑制することができる。
【0021】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、台座2を加熱しながら炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができる。
【0022】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、収容部1の底部1bの温度を、台座2の第2の主面2bの温度よりも低く維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、より確実に、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができるので、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0023】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における台座2の第2の主面2bの温度以上に維持しながら、炭化珪素単結晶5を冷却する工程を含む。これにより、より確実に、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができるので、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0024】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに係る炭化珪素単結晶の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶5を成長させる工程後であって、かつ炭化珪素単結晶5を冷却する工程前に、収容部1内の圧力を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における圧力よりも高く維持した状態で炭化珪素単結晶5をアニールする工程をさらに備える。これにより、炭化珪素単結晶5に対する結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造装置の構成について説明する。
【0025】
図1に示されるように、炭化珪素単結晶の製造装置10は、収容部1と、台座2と、加熱源(図示せず)と、温度計(図示せず)とを主に有している。収容部1は、内部に炭化珪素原料3を収容可能に構成されている。台座2は、炭化珪素単結晶からなる種結晶4を保持可能に構成されている。台座2は、たとえば円柱状の形状を有しており、第1の主面2aと、第1の主面2aの反対側の第2の主面2bとを有する。種結晶4は、台座2の第1の主面2aに、たとえば接着剤などによって固定されている。台座2は、収容部1の開口部を塞ぐように、収容部1の上部に配置される。収容部1および台座2は、たとえば多孔質のグラファイトを含む材料からなる。
【0026】
加熱源は、たとえば収容部1を取り囲むように、収容部1の外部に配置されている。加熱源は、高周波誘導加熱型のコイルであってもよいし、抵抗加熱型のヒーターであってもよい。加熱源は、台座2の第2の主面2bに対面する位置に配置されていてもよい。加熱源は、収容部1の底部1bに対面する位置に配置されていてもよい。温度計は、たとえば放射温度計である。温度計は、たとえば、台座2の第2の主面2b、収容部1の側面1aおよび底部1bの各々の温度を測定可能に構成されていてもよい。温度計は、収容部1の内部の温度を測定可能に構成されていてもよい。
【0027】
次に、本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法について説明する。
図1に示されるように、炭化珪素原料3が、収容部1内に設けられる。炭化珪素原料3は、たとえば多結晶炭化珪素の粉末である。種結晶4は、たとえば接着剤を用いて台座2の第1の主面2aに固定される。種結晶4は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素単結晶からなる。種結晶4の表面の直径は、たとえば100mm以上であり、好ましくは150mm以上である。種結晶4の表面は、たとえば{0001}面から8°以下程度オフした面である。種結晶4は、種結晶4の表面が、炭化珪素原料3の表面3aに対面するように配置される。以上のように、収容部1内に設けられた炭化珪素原料3と、炭化珪素原料3に対面するように設けられ、かつ台座2の第1の主面2aに固定された種結晶4とが準備される。
【0028】
次に、収容部1内に設けられている炭化珪素原料3が、たとえば2000℃以上2400℃以下程度の温度になるまで加熱される。炭化珪素原料3が昇温している間、収容部1内の雰囲気ガスの圧力はたとえば80kPa程度に維持される。雰囲気ガスは、たとえばアルゴンガス、ヘリウムガスまたは窒素ガスなどの不活性ガスを含んでいる。次に、収容部1内の雰囲気ガスの圧力が、たとえば1.7kPaにまで減圧される。これにより、収容部1内の炭化珪素原料3が昇華を開始し、炭化珪素原料3の表面に対面した位置に配置されている種結晶4の表面上に再結晶化することにより、種結晶4の表面上に炭化珪素単結晶5が成長し始める。炭化珪素単結晶が成長している間、収容部1内の圧力は、たとえば0.5kPa以上5kPa以下程度の圧力で約10時間程度維持される。以上のように、炭化珪素原料3を昇華させることにより、種結晶4上に炭化珪素単結晶5が成長する。
【0029】
図2に示されるように、炭化珪素単結晶を成長させる工程においては、種結晶4の表面の温度は、炭化珪素原料3の表面3aの温度よりも低くなるように維持される。具体的には、台座2の第2の主面2bに対して垂直な方向において、収容部1の底部1bの温度が最も高く、かつ台座2の第2の主面2bの温度が最も低くなるように、収容部1および台座2の各々の温度が制御される。収容部1の底部1bの温度は、炭化珪素原料3の底面の温度よりも高い。炭化珪素原料3の底面の温度は、炭化珪素原料3の表面3aの温度より高くてもよい。収容部1の底部1bと炭化珪素原料3の底面との間の温度勾配は、炭化珪素原料3の底面と表面3aとの温度勾配よりも大きくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも高い。しかし、炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間の温度分布は、特に規定されなくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間に温度勾配を有する場合、炭化珪素原料3の底面と表面3aとの温度勾配は、炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの温度勾配よりも大きくてもよい。
【0030】
図2に示されるように、炭化珪素単結晶を成長させる工程において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、台座2の第1の主面2aの温度よりも高い。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間の温度分布は、特に規定されなくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間に温度勾配を有する場合、炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの温度勾配は、炭化珪素単結晶5の表面5aと台座2の第1の主面2aとの温度勾配よりも小さくてもよい。台座2の第1の主面2aの温度は、台座2の第2の主面2bの温度よりも高い。炭化珪素単結晶5の表面5aと台座2の第1の主面2aとの間の温度勾配は、台座2の第1の主面2aと第2の主面2bとの温度勾配よりも大きくてもよい。以上のように、炭化珪素単結晶5を成長させる工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素原料3の表面3aに対面する炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低い状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5を成長させる。
【0031】
次に、炭化珪素単結晶5の結晶成長が終了した後、炭化珪素単結晶5が冷却される。炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される工程を含む。好ましくは、台座2を加熱しながら炭化珪素単結晶5が冷却される。たとえば、台座2の第2の主面2bに対面する加熱源をオンにした状態で、収容部1の側面1aに対面する加熱源をオフにすることで、台座2を加熱しながら炭化珪素単結晶5が冷却される。代替的には、台座2の第2の主面2bを加熱せずに、炭化珪素単結晶5を積極的に冷却することにより、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却されてもよい。
【0032】
図3に示されるように、炭化珪素単結晶を冷却する工程においては、台座2の第2の主面2bに対して垂直な方向において、収容部1の底部1bの温度が最も低く、かつ台座2の第2の主面2bの温度が最も高くなるように、収容部1および台座2の各々の温度が制御される。つまり、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、収容部1の底部1bの温度を、台座2の第2の主面2bの温度よりも低く維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。収容部1の底部1bの温度は、炭化珪素原料3の底面の温度よりも低い。炭化珪素原料3 の底面の温度は、炭化珪素原料3の表面3aの温度よりも低い。収容部1の底部1bと炭化珪素原料3の底面との間の温度勾配は、炭化珪素原料3の底面と表面3aとの温度勾配よりも大きくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5 aの温度よりも低くてもよい。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間の温度分布は、特に規定されなくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間に温度勾配を有する場合、炭化珪素原料3の底面と表面3aとの温度勾配は、炭化珪素原料3 の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの温度勾配よりも大きくてもよい。
【0033】
図3に示されるように、炭化珪素単結晶を冷却する工程において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、台座2の第1の主面2aの温度よりも低い。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間の温度分布は、特に規定されなくてもよい。炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの間に温度勾配を有する場合、炭化珪素原料3の表面3aと炭化珪素単結晶5の表面5aとの温度勾配は、炭化珪素単結晶5の表面5aと台座2の第1の主面2aとの温度勾配よりも小さくてもよい。台座2の第1の主面2aの温度は、台座2の第2の主面2bの温度よりも低い。炭化珪素単結晶5の表面5aと台座2の第1の主面2aとの間の温度勾配は、台座2の第1の主面2aと第2の主面2bとの温度勾配よりも大きくてもよい。以上のように、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素原料3の表面3aに対面する炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上の状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5を冷却する工程を含む。なお、炭化珪素単結晶5を冷却する工程のある一部の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの未満になってもよい。
【0034】
なお、上記各面における温度とは、各面の中心の温度である。たとえば、台座2の第2の主面2bの温度とは、台座2の第2の主面2bの中心の温度のことである。好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度の平均値が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度の平均値以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。より好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、収容部1の底部1bの温度の平均値を、台座2の第2の主面2bの温度の平均値よりも低く維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。なお、上記各面における温度の平均値とは、各面の異なる複数の位置(たとえば中心を含む5箇所の位置)を測定した場合における、全ての測定点の温度の平均値である。さらに好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bにおける複数の測定位置の温度の最大値が、炭化珪素単結晶5の表面5aにおける複数の測定位置の温度の最小値以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。さらに好ましくは、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、収容部1の底部1bの複数の測定位置の温度の最大値を、台座2の第2の主面2bの複数の測定位置の温度の最小値よりも低く維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。
【0035】
なお、各面における温度は、たとえば放射温度計により測定することができる。収容部1内に成長する炭化珪素単結晶5の表面5aの温度を直接測定することが困難である場合は、炭化珪素単結晶5が接する種結晶4の表面に沿った平面における収容部1の側面1aの位置1a1の温度を基準にすることができる(
図1参照)。位置1a1の温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの中心の温度よりも高いので、台座2の第2の主面2bの中心の温度が、位置1a1の温度よりも高い場合は、台座2の第2の主面2bの中心の温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの中心の温度よりも高いと推定することができる。つまり、炭化珪素単結晶5の表面5aの中心の温度を位置1a1の温度と読み替えて冷却時の条件を決めることができる。
【0036】
図4および
図6〜9に示されるように、炭化珪素単結晶5の表面5aおよび台座2の第2の主面2bの各々の温度の時間変化について説明する。
図4および
図6〜9において、破線11が炭化珪素単結晶5の表面5aの温度を示しており、実線12が台座2の第2の主面2bの温度を示している。
図4および
図6〜9において、時間T0から時間T1までが、実質的に炭化珪素単結晶を成長させる工程である。
【0037】
図4に示されるように、炭化珪素単結晶を成長させる工程において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、台座2の第2の主面2bの温度よりも高い状態を維持している。炭化珪素単結晶を成長させる工程において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度A1は、たとえば2100℃以上2400℃以下であり、台座2の第2の主面2bの温度A2は、たとえば2000℃以上2300℃以下である。時間T1以降において、炭化珪素単結晶5および台座2が冷却される。炭化珪素単結晶5の冷却速度は、台座2の冷却速度よりも大きくてもよい。時間T2において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、台座2の第2の主面2bの温度と等しくなる。時間T2以降において、台座2の第2の主面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持される。
【0038】
好ましくは、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1800℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。たとえば、
図4において温度A3は2000℃であり、温度A4は1800℃である。なお、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が2000℃よりも高い場合および1800℃よりも低い場合において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低くなっても構わない。
【0039】
好ましくは、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1000℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。より好ましくは、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が500℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。
【0040】
図5に示されるように、収容部1の圧力の時間変化について説明する。
図5に示されるように、炭化珪素単結晶5を実質的に成長させている時間T0〜時間T1の間における圧力P2は、たとえば0.5kPa以上5kPa以下である。炭化珪素単結晶5の結晶成長が実質的に終了した後の時間T1に、炭化珪素単結晶5の冷却が開始される。好ましくは、炭化珪素単結晶5の冷却を開始した時間T1以降であって、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上になる時間T2よりも前に、収容部1内の圧力が上げられる。具体的には、たとえば時間T2における収容部1内の圧力P1は30kPaである。たとえば収容部1内にアルゴンなどの不活性ガスが導入されることにより、収容部1内の圧力が上げられる。炭化珪素単結晶5の冷却を開始する前に、収容部1内の圧力が、結晶成長中の圧力よりも上げられてもよい。
【0041】
図6に示されるように、炭化珪素単結晶5の冷却を開始した後、一定時間経過後、
台座2の第2の主面2bの温度を一定時間維持した後に、再度、
台座2の第2の主面2bを冷却してもよい。
図6に示すように、炭化珪素単結晶5の結晶成長が実質的に終了した時間T1の後、炭化珪素単結晶5および台座2の各々が冷却される。時間T2から時間T4まで、台座2の第2の主面2bを温度A3に維持する。一方、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、時間T2から時間T4の間、単調に減少する。時間T3において、台座2の第2の主面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度と等しくなる。時間T3から時間T4の間において、台座2の第2の主面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持される。
【0042】
図7に示されるように、炭化珪素単結晶5を冷却する工程において、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における台座2の第2の主面2bの温度以上に維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却されてもよい。
図7に示すように、炭化珪素単結晶5の結晶成長が実質的に終了した時間T1の後、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、単調に減少する。一方、台座2の第2の主面2bは、時間T1以降時間T3まで、結晶成長時の温度A2を維持する。時間T2において、台座2の第2の主面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度と等しくなる。時間T2から時間T3の間において、台座2の第2の主面2bの温度は、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持される。
【0043】
図8に示されるように、炭化珪素単結晶5の結晶成長が実質的に終了した時間T1以降、炭化珪素単結晶5を冷却しつつ、台座2が加熱されてもよい。この場合、時間T1以降、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度は、単調に減少する。一方、台座2の第2の主面2bの温度は、時間T1以降、一度結晶成長時の温度よりも高くなり、時間T2において、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度と等しくなる。時間T2における、台座2の第2の主面2bの温度A3は、結晶成長中の台座2の第2の主面2bの温度よりも高く、かつ結晶成長中の炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低くてもよい。台座2の第2の主面2bの温度は、時間T2以降さらに上昇して最大値を示した後、減少を開始してもよい。
【0044】
図9に示されるように、炭化珪素単結晶5を成長させる工程後であって、かつ炭化珪素単結晶5を冷却する工程前に、炭化珪素単結晶5をアニールする工程が実施されてもよい。たとえば、時間T0以降時間T1までが炭化珪素単結晶5の結晶成長工程であり、時間T1以降時間T3までが炭化珪素単結晶5のアニール工程であり、時間T3以降が炭化珪素単結晶5の冷却工程である。炭化珪素単結晶5の結晶成長が実質的に終了した時間T1の後、収容部1内の圧力を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における圧力よりも高く維持した状態で、炭化珪素単結晶5がアニールされる。具体的には、時間T1以降において、収容部1内にたとえばアルゴンなど不活性ガスが導入された状態で、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が、温度A1から温度A5にまで上昇する。時間T2以降時間T3までの間、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が温度A5に維持される。台座2の第2の主面2bは、たとえば温度A1よりも高い温度に維持される。時間T3以降、炭化珪素単結晶5および台座2の各々が冷却される。結晶成長時における、炭化珪素単結晶5の表面と台座2の第2の主面2bとの温度差は、アニール時における温度差よりも大きくてもよい。
【0045】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法の作用効果について説明する。
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、収容部1内に設けられた炭化珪素原料3と、炭化珪素原料3に対面するように設けられ、かつ台座2の第1の主面2aに固定された種結晶4とが準備される。炭化珪素原料3を昇華させることにより、種結晶4上に炭化珪素単結晶5が成長する。炭化珪素単結晶5が成長した後、炭化珪素単結晶5が冷却される。炭化珪素単結晶5を成長させる工程は、台座2の第1の主面2aとは反対側の第2の主面2bの温度が、炭化珪素原料3に対面する炭化珪素単結晶5の表面5aの温度よりも低い状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5を成長させる工程を含む。炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の冷却時に、炭化珪素単結晶5に対する結晶欠陥の導入または伝搬を抑制することができる。
【0046】
また本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1800℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1800℃以上2000℃以下の温度域における炭化珪素単結晶5の冷却過程においては、炭化珪素単結晶5を構成している原子が動きやすい。そのため、当該温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却されることにより、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬を抑制することができる。
【0047】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1000℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が1000℃以上1800℃未満の温度領域においても炭化珪素単結晶5内の熱応力を小さくすることができる。そのため、特に熱応力に起因して1000℃以上で炭化珪素単結晶5に入ると考えられている基底面転位を抑制することができる。
【0048】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が500℃以上2000℃以下の温度域において、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上である状態を維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が500℃以上1000℃未満の温度領域においても炭化珪素単結晶5内の熱応力を小さくすることができる。そのため、結晶欠陥のみならず熱応力に起因して炭化珪素単結晶5に入るクラックまたは炭化珪素単結晶5の割れを抑制することができる。
【0049】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度が、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上になる前に、収容部1内の圧力を上げる工程を含む。これにより、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度が炭化珪素原料3の表面3aの温度よりも高くなった場合に、成長した炭化珪素単結晶5が昇華することを抑制することができる。
【0050】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、台座2を加熱しながら炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができる。
【0051】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程では、収容部1の底部1bの温度を、台座2の第2の主面2bの温度よりも低く維持しながら、炭化珪素単結晶5が冷却される。これにより、より確実に、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができるので、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0052】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を冷却する工程は、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における台座2の第2の主面2bの温度以上に維持しながら、炭化珪素単結晶5を冷却する工程を含む。これにより、より確実に、台座2の第2の主面2bの温度を、炭化珪素単結晶5の表面5aの温度以上に維持することができるので、冷却時における結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0053】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法によれば、炭化珪素単結晶5を成長させる工程後であって、かつ炭化珪素単結晶5を冷却する工程前に、収容部1内の圧力を、炭化珪素単結晶5を成長させる工程における圧力よりも高く維持した状態で炭化珪素単結晶5をアニールする工程をさらに備える。これにより、炭化珪素単結晶5に対する結晶欠陥の導入または伝搬をより抑制することができる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。