(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)第1導電型を有し、化合物半導体から成る第1化合物半導体層、化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
積層構造体の少なくとも一部から構成されたリッジストライプ構造が形成されており、
リッジストライプ構造の両側には、積層構造体から構成された側部構造体が形成されており、
リッジストライプ構造を構成する第2化合物半導体層上に形成された第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに分離されている半導体レーザ素子であって、
少なくとも一方の側部構造体の、第2電極の第2部分に隣接した部分の上には、保護電極が形成されており、
第2電極及び保護電極が形成されていないリッジストライプ構造の部分の上から側部構造体の部分の上に亙り、酸化物絶縁材料から成る絶縁膜が形成されている半導体レーザ素子。
ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上には、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている請求項5に記載の半導体レーザ素子。
(a)第1導電型を有し、化合物半導体から成る第1化合物半導体層、化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
積層構造体の少なくとも一部から構成されたリッジストライプ構造が形成されており、
リッジストライプ構造の両側には、積層構造体から構成された側部構造体が形成されており、
リッジストライプ構造を構成する第2化合物半導体層上に形成された第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに分離されている半導体レーザ素子であって、
第2電極の第1部分は、絶縁膜上に形成された第1引出し配線層によって覆われており、
第2電極の第2部分は、絶縁膜上に形成された第2引出し配線層によって覆われており、
第2引出し配線層から延びるワイヤボンディング層が、一方の側部構造体上に形成された絶縁膜上に設けられており、
ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上には、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている半導体レーザ素子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ素子、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様に係る半導体レーザ素子)
3.実施例2(本開示の第2の態様に係る半導体レーザ素子)、その他
【0017】
[本開示の第1の態様及び第2の態様に係る半導体レーザ素子、全般に関する説明]
本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ素子において、酸化物絶縁材料は、酸化シリコン(SiO
X)から成る形態とすることができる。但し、このような形態に限定するものではなく、酸化物絶縁材料として、その他、酸化アルミニウム(AlO
X)、酸化タンタル(TaO
X)、酸化ジルコニウム(ZrO
X)を挙げることができる。あるいは又、絶縁膜を構成する材料として、ZnO
X、SiON、HfO
X、ScO
X、YO
X、MgO
X、ThO
X及びBiO
Xから成る群から選択された少なくとも1種類の材料とすることもできる。絶縁膜は、これらの材料から成る単層構成とすることもできるし、多層構成とすることもできる。ここで、下付き文字「X」は、各酸化物絶縁材料が、ストイキオメトリ(化学量論的組成)から逸脱した組成をとり得ることを意味する。絶縁膜は、真空蒸着法やスパッタリング法等の各種PVD法によって形成することができるし、あるいは又、各種CVD法によって形成することができる。また、絶縁膜の上にシリコン層(具体的には、例えばアモルファスシリコン層)を形成してもよい。シリコン層は光吸収層として機能し、シリコン層を設けることによって、1次モードの光に対する吸収が大きくなり、横モードを安定させることができる。
【0018】
絶縁膜をSiO
Xから構成する場合、SiO
Xから成る絶縁膜の厚さを、2×10
-8m乃至3×10
-7m、好ましくは2×10
-8m乃至2×10
-7mとすることが望ましい。SiO
Xから成る絶縁膜の上にシリコン層を形成する場合、SiO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至8×10
-8m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、好ましくは、SiO
Xから成る絶縁膜の厚さを4×10
-8m乃至8×10
-8m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、一層好ましくは、SiO
Xから成る絶縁膜の厚さを4×10
-8m乃至8×10
-8m、シリコン層の厚さを2×10
-8m以上とすることが望ましい。
【0019】
絶縁膜をAlO
Xから構成する場合、AlO
Xから成る絶縁膜の厚さを、2×10
-8m乃至3×10
-7m、好ましくは2×10
-8m乃至2×10
-7mとすることが望ましい。AlO
Xから成る絶縁膜の上にシリコン層を形成する場合、AlO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至1.0×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、好ましくは、AlO
Xから成る絶縁膜の厚さを4×10
-8m乃至1×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、一層好ましくは、AlO
Xから成る絶縁膜の厚さを4×10
-8m乃至1×10
-7m、シリコン層の厚さを2×10
-8m以上とすることが望ましい。
【0020】
絶縁膜をTaO
Xから構成する場合、TaO
Xから成る絶縁膜の厚さを、2×10
-8m乃至5×10
-7m、好ましくは2×10
-8m乃至4×10
-7mとすることが望ましい。TaO
Xから成る絶縁膜の上にシリコン層を形成する場合、TaO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至2×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、好ましくは、TaO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至1×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、一層好ましくは、TaO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至1×10
-7m、シリコン層の厚さを2×10
-8m以上とすることが望ましい。
【0021】
絶縁膜をZrO
Xから構成する場合、ZrO
Xから成る絶縁膜の厚さを、2×10
-8m乃至3×10
-7m、好ましくは2×10
-8m乃至2×10
-7mとすることが望ましい。ZrO
Xから成る絶縁膜の上にシリコン層を形成する場合、ZrO
Xから成る絶縁膜の厚さを2×10
-8m乃至2×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、好ましくは、ZrO
Xから成る絶縁膜の厚さを3×10
-8m乃至1.1×10
-7m、シリコン層の厚さを5×10
-9m以上、一層好ましくは、ZrO
Xから成る絶縁膜の厚さを6×10
-8m乃至1.1×10
-7m、シリコン層の厚さを2×10
-8m以上とすることが望ましい。
【0022】
上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る半導体レーザ素子において、第2電極の第1部分は、絶縁膜上に形成された第1引出し配線層によって覆われており、第2電極の第2部分及び保護電極は、絶縁膜上に形成された第2引出し配線層によって覆われている形態とすることができる。そして、この場合、第1引出し配線層及び第2引出し配線層は、離間した状態で、リッジストライプ構造上から側部構造体上に亙り形成されている構成とすることができる。更には、係る構成にあっては、第2引出し配線層から延びるワイヤボンディング層が、一方の側部構造体上に形成された絶縁膜上に設けられている構成とすることができ、更には、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上には、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている構成とすることができる。尚、このような構成には、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分が、リング状のサージ保護電極によって囲まれている構成も包含される。ここで、1つのサージ保護電極が設けられていてもよいし、複数のサージ保護電極が設けられていてもよく、また、サージ保護電極は、出来るだけ、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分の近くに設けることが好ましい。本開示の第2の態様に係る半導体レーザ素子においても同様である。保護電極は、リッジストライプ構造の両側に設けられた側部構造体の両方に形成されていることが好ましく、更には、側部構造体の肩部近傍まで、あるいは又、側部構造体の肩部まで、あるいは又、側部構造体の肩部を超えて側部構造体の側面まで、設けられている構成とすることができる。尚、保護電極を側部構造体の肩部近傍まで形成する場合、第2電極の第2部分と対向する保護電極の縁部から、リッジストライプ構造と対向する側部構造体の肩部までの距離(L)を2μm以下とすることが好ましい。保護電極の幅は、安定して形成するといった観点から、1μm以上、好ましくは1.0μm以上であることが好ましい。また、保護電極の長さは、可飽和吸収領域と同じ長さであることが望ましく、あるいは又、第2電極の第2部分と同じ長さであることが望ましい。
【0023】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様に係る半導体レーザ素子、あるいは又、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第2の態様に係る半導体レーザ素子にあっては、光反射端面及び光出射端面を有し、第2電極の第2部分は、光反射端面の近傍に配設されている形態とすることができる。但し、このような形態に限定するものではない。
【0024】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ素子において、積層構造体はGaN系化合物半導体から成る構成とすることができる。具体的には、積層構造体は、AlGaInN系化合物半導体から成る構成とすることができる。ここで、AlGaInN系化合物半導体として、より具体的には、GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNを挙げることができる。更には、これらの化合物半導体に、所望に応じて、ホウ素(B)原子やタリウム(Tl)原子、ヒ素(As)原子、リン(P)原子、アンチモン(Sb)原子が含まれていてもよい。また、発光領域(利得領域)及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)は、量子井戸構造を有することが望ましい。具体的には、単一量子井戸構造[SQW構造]を有していてもよいし、多重量子井戸構造[MQW構造]を有していてもよい。量子井戸構造を有する第3化合物半導体層(活性層)は、井戸層及び障壁層が、少なくとも1層、積層された構造を有するが、(井戸層を構成する化合物半導体,障壁層を構成する化合物半導体)の組合せとして、(In
yGa
(1-y)N,GaN)、(In
yGa
(1-y)N,In
zGa
(1-z)N)[但し、y>z]、(In
yGa
(1-y)N,AlGaN)を例示することができる。
【0025】
あるいは又、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ素子において、積層構造体は、GaAs系化合物半導体から成る構成とすることができるし、あるいは又、II−VI族化合物半導体、具体的には、例えば、ZnSe系化合物半導体から成る構成とすることもできる。
【0026】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ素子(以下、これらを総称して、単に、『本開示の半導体レーザ素子等』と呼ぶ場合がある)を、所謂Wリッジ構造を有する分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造、Separate Confinement Heterostructure)を有する半導体レーザ素子とすることができるし、斜めリッジストライプのWリッジ構造を有する分離閉じ込めヘテロ構造を有する半導体レーザ素子とすることもできる。そして、本開示の半導体レーザ素子等にあっては、第2電極の第1部分から発光領域を経由して第1電極に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極と第2電極の第2部分との間に電圧を印加することによって可飽和吸収領域に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作、モード同期動作させることができる。
【0027】
本開示の半導体レーザ素子等において、第2電極の第1部分と第2部分とは、分離溝によって分離されている形態とすることができる。ここで、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の1×10倍以上、好ましくは1×10
2倍以上、より好ましくは1×10
3倍以上であることが望ましい。あるいは又、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、1×10
2Ω以上、好ましくは1×10
3Ω以上、より好ましくは1×10
4Ω以上であることが望ましい。
【0028】
このように、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値を、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の1×10倍以上とし、あるいは又、1×10
2Ω以上とすることで、第2電極の第1部分から第2部分への漏れ電流の流れを確実に抑制することができる。即ち、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)へ印加する逆バイアス電圧V
saの最適化を図ることができるため、例えば、時間幅の短い光パルスを有するシングルモードのモード同期動作を実現できる。そして、第2電極の第1部分と第2部分との間のこのような高い電気抵抗値を、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離するだけで達成することができる。
【0029】
あるいは又、本開示の半導体レーザ素子等において、第2電極を第1部分と第2部分とに分離する分離溝の幅は、2μm以上、半導体レーザ素子における共振器長(以下、単に『共振器長』と呼ぶ)の40%以下、好ましくは10μm以上、共振器長の20%以下であることが望ましい。共振器長として、0.6mmを例示することができるが、これに限定するものではない。
【0030】
本開示の半導体レーザ素子等において、第2電極、保護電極、サージ保護電極は、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/白金層の積層構造、又は、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/ニッケル層の積層構造から成る形態とすることができる。尚、下層金属層をパラジウムから構成し、上層金属層をニッケルから構成する場合、上層金属層の厚さを、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層から成る構成とすることが好ましく、この場合、厚さを、20nm以上、好ましくは50nm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、又は、下層金属層が第2化合物半導体層に接する下層金属層と上層金属層の積層構造(但し、下層金属層は、パラジウム、ニッケル及び白金から成る群から選択された1種類の金属から構成される)から成る構成とすることが好ましい。
【0031】
第1導電型をn型とするとき、n型の導電型を有する第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、タングステン(W)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、錫(Sn)及びインジウム(In)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましく、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Pt/Auを例示することができる。第1電極は第1化合物半導体層に電気的に接続されているが、第1電極が第1化合物半導体層上に形成された形態、第1電極が導電材料層や導電性の基板を介して第1化合物半導体層に接続された形態が包含される。第1電極や第2電極、保護電極、サージ保護電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の各種PVD法にて成膜することができる。第1電極上に、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、パッド電極を設けてもよい。
【0032】
第1引出し配線層、第2引出し配線層、ワイヤボンディング層、パッド電極は、Ti(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましい。あるいは又、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。
【0033】
本開示の半導体レーザ素子等において、限定するものではないが、
第3化合物半導体層は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有し、
井戸層の厚さは、1nm以上、10nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下であり、
障壁層の不純物ドーピング濃度は、2×10
18cm
-3以上、1×10
20cm
-3以下、好ましくは、1×10
19cm
-3以上、1×10
20cm
-3以下である形態とすることができる。
【0034】
このように、第3化合物半導体層を構成する井戸層の厚さを1nm以上、10nm以下と規定し、更には、第3化合物半導体層を構成する障壁層の不純物ドーピング濃度を2×10
18cm
-3以上、1×10
20cm
-3以下と規定することで、即ち、井戸層の厚さを薄くし、しかも、第3化合物半導体層のキャリアの増加を図ることで、ピエゾ分極の影響を低減させることができ、時間幅が短く、サブパルス成分の少ない単峰化された光パルスを発生させ得るレーザ光源を得ることができる。また、低い逆バイアス電圧でモード同期駆動を達成することが可能となるし、外部信号(電気信号及び光信号)と同期が取れた光パルス列を発生させることが可能となる。障壁層にドーピングされた不純物はシリコン(Si)である構成することができるが、これに限定するものではなく、その他、酸素(O)とすることもできる。
【0035】
本開示の半導体レーザ素子等において、第2化合物半導体層は、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有し、超格子構造の厚さは0.7μm以下である構造とすることができる。このような超格子構造の構造を採用することで、クラッド層として必要な高屈折率を維持しながら、半導体レーザ素子の直列抵抗成分を下げることができ、半導体レーザ素子の低動作電圧化につながる。尚、超格子構造の厚さの下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができるし、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計として、60層乃至300層を例示することができる。また、第3化合物半導体層から第2電極までの距離は1μm以下、好ましくは、0.6μm以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層から第2電極までの距離を規定することで、抵抗の高いp型の第2化合物半導体層の厚さを薄くし、半導体レーザ素子の動作電圧の低減化を達成することができる。尚、第3化合物半導体層から第2電極までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができる。また、第2化合物半導体層には、Mgが、1×10
19cm
-3以上、ドーピングされており、第3化合物半導体層からの波長405nmの光に対する第2化合物半導体層の吸収係数は、少なくとも50cm
-1である構成とすることができる。このMgの原子濃度は、2×10
19cm
-3の値で最大の正孔濃度を示すという材料物性に由来しており、最大の正孔濃度、即ち、この第2化合物半導体層の比抵抗が最小になるように設計された結果である。第2化合物半導体層の吸収係数は、半導体レーザ素子の抵抗を出来るだけ下げるという観点で規定されているものであり、その結果、第3化合物半導体層の光の吸収係数が、50cm
-1となるのが一般的である。しかし、この吸収係数を上げるために、Mgドープ量を故意に2×10
19cm
-3以上の濃度に設定することも可能である。この場合には、実用的な正孔濃度が得られる上での上限のMgドープ量は、例えば8×10
19cm
-3である。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層、及び、p型化合物半導体層を有しており、第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離は、1.2×10
-7m以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離を規定することで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制することができ、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させることができる。尚、第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、5×10
-8mを挙げることができる。また、リッジストライプ構造及び側部構造体には、SiO
X/Si積層構造から成る積層絶縁膜が形成されており、リッジストライプ構造の有効屈折率と積層絶縁膜の有効屈折率との差は、5×10
-3乃至1×10
-2である構成とすることができる。このような積層絶縁膜を用いることで、100ミリワットを超える高出力動作であっても、単一基本横モードを維持することができる。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、例えば、ノンドープGaInN層(p側光ガイド層)、ノンドープAlGaN層(p側クラッド層)、MgドープAlGaN層(電子障壁層)、GaN層(Mgドープ)/AlGaN層の超格子構造(超格子クラッド層)、及び、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が積層されて成る構造とすることができる。第3化合物半導体層における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは、2.4eV以上であることが望ましい。また、第3化合物半導体層(活性層)から出射されるレーザ光の波長は、360nm乃至500nm、好ましくは400nm乃至410nmであることが望ましい。ここで、以上に説明した各種の構成を、適宜、組み合わせることができることは云うまでもない。
【0036】
本開示の半導体レーザ素子等にあっては、半導体レーザ素子を構成する各種の化合物半導体層(例えば、GaN系化合物半導体層)を基板に順次形成するが、ここで、基板として、サファイア基板の他にも、GaAs基板、GaN基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO
2基板、MgAl
2O
4基板、InP基板、Si基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。主に、GaN系化合物半導体層を基板に形成する場合、GaN基板が欠陥密度の少なさから好まれるが、GaN基板は成長面によって、極性/無極性/半極性と特性が変わることが知られている。また、半導体レーザ素子を構成する各種の化合物半導体層の形成方法として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法,MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法等を挙げることができる。
【0037】
ここで、化合物半導体層としてGaN系化合物半導体層を形成する場合、MOCVD法における有機ガリウム源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)ガスやトリエチルガリウム(TEG)ガスを挙げることができるし、窒素源ガスとして、アンモニアガスやヒドラジンガスを挙げることができる。また、n型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、n型不純物(n型ドーパント)としてケイ素(Si)を添加すればよいし、p型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、p型不純物(p型ドーパント)としてマグネシウム(Mg)を添加すればよい。また、GaN系化合物半導体層の構成原子としてアルミニウム(Al)あるいはインジウム(In)が含まれる場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いればよいし、In源としてトリメチルインジウム(TMI)ガスを用いればよい。更には、Si源としてモノシランガス(SiH
4ガス)を用いればよいし、Mg源としてシクロペンタジエニルマグネシウムガスやメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp
2Mg)を用いればよい。尚、n型不純物(n型ドーパント)として、Si以外に、Ge、Se、Sn、C、Te、S、O、Pd、Poを挙げることができるし、p型不純物(p型ドーパント)として、Mg以外に、Zn、Cd、Be、Ca、Ba、C、Hg、Srを挙げることができる。
【0038】
本開示の半導体レーザ素子等は、製造すべき半導体レーザ素子の構成、構造にも依るが、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、
(A)基板上に、第1導電型を有し、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る第1化合物半導体層、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体を形成した後、
(B)積層構造体に、リッジストライプ構造及び側部構造体を形成し、次いで、
(C)全面に、第2電極、保護電極、サージ保護電極を形成すべき部分に開口部が形成された絶縁膜を形成し、その後、
(D)例えば、リフトオフ法に基づき、第2電極、保護電極、サージ保護電極を形成し、次いで、
(E)第2電極、保護電極、サージ保護電極及び絶縁膜上に、第1引出し配線層、第2引出し配線層、ワイヤボンディング層を形成する、
各工程を具備した製造方法に基づき製造することができる。
【0039】
尚、製造すべき半導体レーザ素子の構成、構造にも依るが、工程(B)にあっては、第2化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層を厚さ方向に全部、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層を厚さ方向にエッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層、更には、第1化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよい。
【0040】
本開示の半導体レーザ素子等においては、前述したとおり、第1電極と第2電極の第2部分との間に逆バイアス電圧を印加する構成(即ち、第1電極を正極、第2部分を負極とする構成)とすることが望ましい。尚、第2電極の第2部分には、第2電極の第1部分に印加するパルス電流あるいはパルス電圧と同期したパルス電流あるいはパルス電圧を印加してもよいし、直流バイアスを印加してもよい。また、第2電極から発光領域を経由して第1電極に電流を流し、且つ、第2電極から発光領域を経由して第1電極に外部電気信号を重畳させる形態とすることができる。そして、これによって、レーザ光と外部電気信号との間の同期を取ることができる。あるいは又、積層構造体の一端面から光信号を入射させる形態とすることができる。そして、これによっても、レーザ光と光信号との間の同期を取ることができる。また、第2化合物半導体層において、第3化合物半導体層と電子障壁層との間には、ノンドープ化合物半導体層(例えば、ノンドープGaInN層、あるいは、ノンドープAlGaN層)を形成してもよい。更には、第3化合物半導体層とノンドープ化合物半導体層との間に、光ガイド層としてのノンドープGaInN層を形成してもよい。第2化合物半導体層の最上層を、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が占めている構造とすることもできる。
【0041】
本開示の半導体レーザ素子等において、可飽和吸収領域の長さは発光領域の長さよりも短い構成とすることができる。あるいは又、第2電極の長さ(第1部分と第2部分の総計の長さ)は第3化合物半導体層(活性層)の長さよりも短い構成とすることができる。第2電極の第1部分と第2部分の配置状態として、具体的には、
(1)1つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分と、第2電極の第2部分とが、分離溝を挟んで配置されている状態
(2)1つの第2電極の第1部分と2つの第2電極の第2部分とが設けられ、第1部分の一端が、一方の分離溝を挟んで、一方の第2部分と対向し、第1部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第2部分と対向している状態
(3)2つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2部分の端部が、一方の分離溝を挟んで、一方の第1部分と対向し、第2部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第1部分と対向している状態(即ち、第2電極は、第2部分を第1部分で挟んだ構造)
を挙げることができる。また、広くは、
(4)N個の第2電極の第1部分と(N−1)個の第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分が第2電極の第2部分を挟んで配置されている状態
(5)N個の第2電極の第2部分と(N−1)個の第2電極の第1部分とが設けられ、第2電極の第2部分が第2電極の第1部分を挟んで配置されている状態
を挙げることができる。尚、(4)及び(5)の状態は、云い換えれば、
(4’)N個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]と(N−1)個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]とが設けられ、発光領域が可飽和吸収領域を挟んで配置されている状態
(5’)N個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]と(N−1)個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]とが設けられ、可飽和吸収領域が発光領域を挟んで配置されている状態
である。
【0042】
本開示の半導体レーザ素子等を、例えば、光ディスクシステム、通信分野、光情報分野、光電子集積回路、非線形光学現象を応用した分野、光スイッチ、レーザ計測分野や種々の分析分野、超高速分光分野、多光子励起分光分野、質量分析分野、多光子吸収を利用した顕微分光の分野、化学反応の量子制御、ナノ3次元加工分野、多光子吸収を応用した種々の加工分野、医療分野、バイオイメージング分野といった分野に適用することができる。
【実施例1】
【0043】
実施例1は、本開示の第1の態様に係る半導体レーザ素子に関する。実施例1の半導体レーザ素子における共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図(YZ平面にて切断したときの模式的な断面図)を
図1に示し、共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図(XZ平面にて切断したときの模式的な端面図)を
図2に示し、実施例1の半導体レーザ素子を上方から眺めた模式図を
図3に示す。尚、
図1は、
図2及び
図3の矢印I−Iに沿った模式的な端面図であり、
図2は、
図1及び
図3の矢印II−IIに沿った模式的な断面図である。
【0044】
実施例1あるいは後述する実施例2の半導体レーザ素子(以下、これらの半導体レーザ素子を総称して、『実施例1等の半導体レーザ素子』と呼ぶ場合がある)10は、バイ・セクション型半導体レーザ素子から成り、
(a)第1導電型(各実施例においては、具体的には、n型導電型)を有し、化合物半導体(具体的には、GaN系化合物半導体)から成る第1化合物半導体層30、化合物半導体(具体的には、GaN系化合物半導体)から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(各実施例においては、具体的には、p型導電型)を有し、化合物半導体(具体的には、GaN系化合物半導体)から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2電極62、並びに、
(c)第1化合物半導体層30に電気的に接続された第1電極61、
を備えている。そして、
積層構造体の少なくとも一部から構成されたリッジストライプ構造71が形成されており、
リッジストライプ構造71の両側には、積層構造体から構成された側部構造体72(72A,72B)が形成されており、
リッジストライプ構造71を構成する第2化合物半導体層50上に形成された第2電極62は、発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分62Aと、可飽和吸収領域42に電界を加えるための第2部分62Bとに分離されている。具体的には、第1部分62Aと第2部分62Bとは、分離溝62Cによって分離されている。
【0045】
尚、
図3においては、第1引出し配線層63、第2引出し配線層64及びワイヤボンディング層65、更には、後述する保護電極81を明示するために、これらに斜線を付し、更に、第2電極の第1部分62A及び第2部分62Bを併せて示した。また、第1引出し配線層63及びワイヤボンディング層65において、点線の円形で囲んだ領域に、例えば、金線がワイヤボンディングされる。
【0046】
上述したとおり、積層構造体はリッジストライプ構造71を有する。具体的には、実施例1等の半導体レーザ素子10は、所謂Wリッジ構造を有する分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造)を有する半導体レーザ素子である。より具体的には、この半導体レーザ素子10は、ブルーレイ光ディスクシステム用に開発されたインデックスガイド型のAlGaInNから成るGaN系半導体レーザ素子である。そして、第1化合物半導体層30、第3化合物半導体層40、及び、第2化合物半導体層50は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、実施例1等の半導体レーザ素子10にあっては、以下の表1に示す層構成を有する。ここで、表1において、下方に記載した化合物半導体層ほど、n型GaN基板21に近い層である。第3化合物半導体層40における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。実施例1等における半導体レーザ素子10は、n型GaN基板21の(0001)面上に設けられており、第3化合物半導体層40は量子井戸構造を有する。n型GaN基板21の(0001)面は、『C面』とも呼ばれ、極性を有する結晶面である。また、p型GaNコンタクト層55及びp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の一部は、RIE法にて除去されており、リッジストライプ構造71、凹部73及び側部構造体72が形成されている。そして、第2電極62の第1部分62Aから発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極61と第2電極62の第2部分62Bとの間に電圧を印加することによって可飽和吸収領域42に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作及びモード同期動作させることができる。尚、リッジストライプ構造71の幅、凹部73の幅、保護電極81の幅及び長さを、以下の表2に示す。
【0047】
[表1]
第2化合物半導体層50
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)55
p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層54
p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)53
ノンドープAlGaNクラッド層52
ノンドープGaInN光ガイド層51
第3化合物半導体層40
GaInN量子井戸活性層
(井戸層:Ga
0.92In
0.08N/障壁層:Ga
0.98In
0.02N)
第1化合物半導体層30
n型GaNクラッド層32
n型AlGaNクラッド層31
【0048】
[表2]
リッジストライプ構造71の幅:1.5μm
凹部73の幅 :7.0μm
保護電極81の幅 :5.0μm
保護電極81の長さ :30μm
【0049】
そして、少なくとも一方の側部構造体72(実施例1にあっては、両方の側部構造体72A,72B)の、第2電極62の第2部分62Bに隣接した(対向した)部分72’の上には、保護電極81が形成されており、第2電極62及び保護電極81が形成されていないリッジストライプ構造71の部分の上から側部構造体72の部分の上に亙り、酸化物絶縁材料、具体的には、SiO
Xから成る絶縁膜56が形成されている。尚、絶縁膜56上には、アモルファスシリコンから成るシリコン層(図示せず)が形成されている。ここで、リッジストライプ構造71の有効屈折率と、絶縁膜56及びシリコン層、全体の有効屈折率との差は、5×10
-3乃至1×10
-2、具体的には、7×10
-3である。そして、リッジストライプ構造71及び側部構造体72の頂面に相当するp型GaNコンタクト層55上には、厚さ0.1μmのPdから成る第2電極(p側オーミック電極)62及び保護電極81が形成されている。一方、n型GaN基板21の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。
【0050】
実施例1等の半導体レーザ素子10にあっては、第3化合物半導体層40及びその近傍から発生した光密度分布に、Mgドープした化合物半導体層である、p型AlGaN電子障壁層53、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層54及びp型GaNコンタクト層55が出来るだけ重ならないようにすることで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制している。そして、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させている。具体的には、第3化合物半導体層40からp型AlGaN電子障壁層53までの距離を0.10μm、リッジストライプ構造71の高さを0.30μm、第2電極62と第3化合物半導体層40との間に位置する第2化合物半導体層50の厚さを0.50μm、第2電極62の下方に位置するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の部分の厚さを0.40μmとした。
【0051】
実施例1等における半導体レーザ素子10において、前述したとおり、第2電極62は、発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分62Aと、可飽和吸収領域42に電界を加えるための第2部分62B(可飽和吸収領域42に逆バイアス電圧V
saを加えるための第2部分62B)とに、分離溝62Cによって分離されている。ここで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(『分離抵抗値』と呼ぶ場合がある)は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の1×10倍以上、具体的には1.5×10
3倍である。また、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(分離抵抗値)は、1×10
2Ω以上、具体的には、1.5×10
4Ωである。
【0052】
実施例1等における半導体レーザ素子10において、発光領域側の積層構造体の端面(光出射端面)からレーザ光が出射される。この光出射端面には、例えば、反射率0.5%以下、好ましくは反射率0.3%以下の無反射コート層(AR)あるいは低反射コート層が形成されている。一方、半導体レーザ素子10における光出射端面と対向する光反射端面には、反射率85%以上、好ましくは反射率95%以上の高反射コート層(HR)が形成されている。尚、これらの無反射コート層(AR)や低反射コート層、高反射コート層(HR)の図示は省略している。可飽和吸収領域42は、半導体レーザ素子10における光出射端面と対向する光反射端面側に設けられている。また、保護電極81の長さ及び第2電極の第2部分62Bの長さは、可飽和吸収領域42の長さと同じである。無反射コート層あるいは低反射コート層として、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造を挙げることができる。尚、第2電極62の第2部分62Bは、光反射端面の近傍に配設されている。
【0053】
ところで、上述したとおり、第2化合物半導体層50上に、1×10
2Ω以上の分離抵抗値を有する2電極62を形成することが望ましい。GaN系半導体レーザ素子の場合、従来のGaAs系半導体レーザ素子とは異なり、p型導電型を有する化合物半導体における移動度が小さいために、p型導電型を有する第2化合物半導体層50をイオン注入等によって高抵抗化することなく、その上に形成される第2電極62を分離溝62Cで分離することで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を1×10
2Ω以上とすることが可能となる。
【0054】
そして、第2電極62の第1部分62Aは、絶縁膜56上に形成された第1引出し配線層63によって覆われており、第2電極62の第2部分62B及び保護電極81は、絶縁膜56上に形成された第2引出し配線層64によって覆われている。ここで、第1引出し配線層63及び第2引出し配線層64は、離間した状態で、リッジストライプ構造71上から側部構造体72上に亙り形成されている。更には、第2引出し配線層64から延びるワイヤボンディング層65が、側部構造体72上に形成された絶縁膜56上に設けられている。より具体的には、第2電極62の第1部分62Aは、リッジストライプ構造71の部分の上から側部構造体72の部分の上に亙り形成された絶縁膜56上に設けられた第1引出し配線層63によって覆われている。また、第2電極62の第2部分62Bは、他方の側部構造体72Bから、リッジストライプ構造71、一方の側部構造体72Aに亙り形成された絶縁膜56上に設けられた第2引出し配線層64によって覆われている。更には、第2引出し配線層64から延びるワイヤボンディング層65が、一方の側部構造体72A上に形成された絶縁膜56上に設けられている。
【0055】
保護電極81は、リッジストライプ構造71の両側に形成された側部構造体72A,72Bの両方に向けられており、しかも、側部構造体72の肩部72”まで設けられている。但し、これに限定するものではなく、
図4に示すように、保護電極81は、側部構造体72の肩部72”近傍まで設けられていてもよいし、
図5に示すように、保護電極81は、側部構造体72の肩部72”を超えて側部構造体72の側面(凹部73の側壁)まで設けられていてもよい。尚、
図4に示す距離L(第2電極の第2部分62Bと対向する保護電極81の縁部から、側部構造体72A,72Bの肩部72”までの距離L)を2μm以下とすることが好ましい。
【0056】
p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の厚さは0.7μm以下、具体的には、0.4μmであり、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さは2.5nmであり、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さは2.5nmであり、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計は160層である。また、第3化合物半導体層40から第2電極62までの距離は1μm以下、具体的には0.5μmである。更には、第2化合物半導体層50を構成するp型AlGaN電子障壁層53、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層54、p型GaNコンタクト層55には、Mgが、1×10
19cm
-3以上(具体的には、2×10
19cm
-3)、ドーピングされており、波長405nmの光に対する第2化合物半導体層50の吸収係数は、少なくとも50cm
-1、具体的には、65cm
-1である。また、第2化合物半導体層50は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層(ノンドープGaInN光ガイド層51及びノンドープAlGaNクラッド層52)、並びに、p型化合物半導体層を有しているが、第3化合物半導体層40からp型化合物半導体層(具体的には、p型AlGaN電子障壁層53)までの距離は1.2×10
-7m以下、具体的には100nmである。
【0057】
以下、
図16A、
図16B、
図17を参照して、実施例1における半導体レーザ素子10の製造方法を説明する。尚、
図16A、
図16B、
図17は、
図2及び
図3の矢印I−Iに沿ったと同様の模式的な一部端面図である。
【0058】
[工程−100]
先ず、基板上、具体的には、n型GaN基板21の(0001)面上に、周知のMOCVD法に基づき、第1導電型(n型導電型)を有し、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る第1化合物半導体層30、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(p型導電型)を有し、化合物半導体(具体的には、例えば、GaN系化合物半導体)から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体を形成する。
【0059】
[工程−110]
その後、積層構造体に、周知の方法に基づき、リッジストライプ構造71を形成し、同時に、リッジストライプ構造71の両側に側部構造体72A,72Bを形成する(
図16A参照)。
【0060】
[工程−120]
その後、全面に、CVD法に基づき、絶縁膜56を形成し、更に、図示しないシリコン層を形成する。そして、第2電極62、保護電極81を形成すべき絶縁膜56及びシリコン層の部分に開口が形成されたレジスト層をフォトリソグラフィ技術に基づき設け、シリコン層及び絶縁膜56のエッチングを行うことで、第2化合物半導体層50の一部を露出させる(
図16B参照)。
【0061】
[工程−130]
次いで、所謂リフトオフ法に基づき、露出した第2化合物半導体層50の上に、第2電極62及び保護電極81を形成する(
図17参照)。その後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術に基づき、第2電極62に分離溝62Cを形成することで、第2電極の第1部分62A第2部分62Bを分離する。
【0062】
[工程−140]
その後、周知の方法に基づき、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)あるいは金(Au)から成る第1引出し配線層63、第2引出し配線層64及びワイヤボンディング層65を形成し、更に、第1電極61の形成、基板の劈開等を行い、更に、パッケージ化を行うことで、半導体レーザ素子10を作製することができる。
【0063】
一般に、半導体層の抵抗R(Ω)は、半導体層を構成する材料の比抵抗値ρ(Ω・m)、半導体層の長さX
0(m)、半導体層の断面積S(m
2)、キャリア密度n(単位:cm
-3)、電荷量e(単位:C)、移動度μ(単位:m
2/V秒)を用いて以下のように表される。
【0064】
R=(ρ・X
0)/S
=X
0/(n・e・μ・S)
【0065】
p型GaN系半導体の移動度は、p型GaAs系半導体に比べて、2桁以上小さいため、電気抵抗値が高くなり易い。よって、断面積が小さいリッジストライプ構造を有する半導体レーザ素子の電気抵抗値は、上式から、大きな値となることが判る。
【0066】
製作した半導体レーザ素子10の第2電極62の第2部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を4端子法にて測定した結果、分離溝62Cの幅が20μmのとき、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は15kΩであった。また、製作した半導体レーザ素子10において、第2電極62の第1部分62Aから発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極61と第2電極62の第2部分62Bとの間に逆バイアス電圧V
saを印加することによって可飽和吸収領域42に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作させることができた。即ち、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上であり、あるいは又、1×10
2Ω以上である。従って、第2電極62の第1部分62Aから第2部分62Bへの漏れ電流の流れを確実に抑制することができる結果、発光領域41を順バイアス状態とし、しかも、可飽和吸収領域42を確実に逆バイアス状態とすることができ、確実にシングルモードのセルフ・パルセーション動作を生じさせることができた。具体的には、光パルスのパルス幅は30ピコ秒であり、時間平均パワー(65ミリワット/秒,約72ピコジュール/パルス)から見積もられたパルスピークパワーは約2.4ワットであった。
【0067】
実施例1の半導体レーザ素子にあっては、少なくとも一方の側部構造体の、第2電極の第2部分に隣接した(対向した)部分の上には、保護電極が形成されている。そして、第2電極の第2部分及び保護電極に同じ値の電圧V
22が印加され、側部構造体の肩部領域における絶縁膜の部分において蓄積した正孔が保護電極に引き抜かれる結果、絶縁膜に含まれた酸素イオンが蓄積した正孔と共に化合物半導体層と反応することが無い。従って、絶縁膜の直下の化合物半導体層において陽極酸化反応が生じることが無く、側部構造体を構成する化合物半導体が酸化され、化合物半導体に由来した酸化物が生成し、体積膨張が生じ、その上方に形成された第2引出し配線層に断線が生じるといった現象の発生を抑制することができる。それ故、可飽和吸収領域に電圧を印加することができなくなり、モード同期動作ができなくなるといった現象が発生することがない。また、可飽和吸収領域と同様に、側部構造体を構成する第3化合物半導体層には逆バイアスが印加されるため、側部構造体を構成する第3化合物半導体層への電流注入が行われることはなく、発光領域及び可飽和吸収領域の機能を損なうことはない。
【0068】
実施例1の半導体レーザ素子、及び、保護電極を備えていないことを除き、実施例1の半導体レーザ素子と同じ構成、構造を有する比較例1の半導体レーザ素子の連続動作試験を行った。具体的には、V
sa=−11ボルトとした。ここで、第2電極62から発光領域41を経由して第1電極61に流れる電流(順バイアス電流I
gain)は、実施例1にあっては90ミリアンペア、比較例1にあっては105ミリアンペアであった。試験結果を
図15A及び
図15Bに示す。ここで、
図15Aは平均出力(単位:ワット)を示し、
図15Bはフォトカレント(単位:ミリアンペア)を示す。比較例1にあっては、試験開始から330時間経過後、モード同期動作が停止し、通常のレーザ動作となった。一方、比較例1にあっては、試験開始から800時間経過後にあっても、モード同期動作が継続され、平均出力は6.7ミリワットであった。
【実施例2】
【0069】
実施例2は、本開示の第2の態様に係る半導体レーザ素子に関する。実施例2の半導体レーザ素子を上方から眺めた模式図を、
図6、
図7、
図8あるいは
図9に示す。尚、
図6〜
図9においては、第1引出し配線層63、第2引出し配線層64及びワイヤボンディング層65、更には、サージ保護電極91を明示するために、これらに斜線を付し、更に、第2電極の第1部分62A及び第2部分62Bを併せて示した。また、第1引出し配線層63及びワイヤボンディング層65において、点線の円形で囲んだ領域に、例えば、金線がワイヤボンディングされる。
【0070】
実施例2の半導体レーザ素子にあっては、実施例1の半導体レーザ素子と同様に、第2電極62の第1部分62Aは、絶縁膜56上に形成された第1引出し配線層63によって覆われており、第2電極62の第2部分62Bは、絶縁膜56上に形成された第2引出し配線層64によって覆われており、第2引出し配線層64から延びるワイヤボンディング層65が、一方の側部構造体72A上に形成された絶縁膜56上に設けられている。但し、実施例1の半導体レーザ素子と異なり、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層65の部分と第2引出し配線層64との間に位置する一方の側部構造体72Aの部分の上には、ワイヤボンディング層65によって覆われたサージ保護電極91が形成されている。尚、サージ保護電極91は、第2電極62と同様に、厚さ0.1μmのPdから成る。
図6に示す例にあっては、サージ保護電極91は、Y方向に、ワイヤボンディング層65を横切って形成されている。一方、
図7に示す例にあっては、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層65の部分が、リング状のサージ保護電極91によって囲まれている。
【0071】
以上の点を除き、実施例2の半導体レーザ素子は、実施例1の半導体レーザ素子と同様の構成、構造を有するし、実施例2の半導体レーザ素子は、実施例1において説明した半導体レーザ素子の製造方法と同様の製造方法で製造することができるので、詳細な説明は省略する。
【0072】
実施例2の半導体レーザ素子にあっては、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上に、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている。それ故、半導体レーザ素子の製造工程や半導体レーザ素子を組み込んだ電子機器の使用中において、外部からESD電流に起因したサージ電流が、ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層に流れ込んできたときであっても、サージ電流は、サージ保護電極から一方の側部構造体を介して第1電極へと流れる。それ故、側部構造体の肩部領域における絶縁膜の部分の品質が低くとも、絶縁破壊が生じることを確実に防ぐことができる。
【0073】
半導体レーザ素子を上方から眺めた模式図を
図8、
図9に示すように、実施例2におけるサージ保護電極91と、実施例1における保護電極81とを組み合わせることもできる。
【0074】
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した半導体レーザ素子の構成、構造の構成は例示であり、適宜、変更することができる。実施例においては、種々の値を示したが、これらも例示であり、例えば、使用する半導体レーザ素子の仕様が変われば、変わることは当然である。実施例にあっては、1つのリッジストライプ構造を有する半導体レーザ素子に基づき、説明を行ったが、複数のリッジストライプ構造を有する、所謂マルチビームの半導体レーザ素子とすることもできる。この場合、複数のリッジストライプ構造の両外側に側部構造体を設ければよい。また、例えば、第2電極、保護電極、サージ保護電極を、厚さ20nmのパラジウム(Pd)から成る下層金属層と、厚さ200nmのニッケル(Ni)から成る上層金属層の積層構造としてもよい。半導体レーザ素子は、モード同期半導体レーザ素子に限定するものではない。
【0075】
本開示の半導体レーザ素子を用いて集光型の外部共振器を構成して、モード同期動作する半導体レーザ素子組立体を、
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bに示す。
図10Aに示す集光型の外部共振器にあっては、可飽和吸収領域側に高反射コート層(HR)が形成された半導体レーザ素子の端面と外部鏡103とで外部共振器が構成され、外部鏡103から光パルスを取り出す。発光領域(利得領域)側の半導体レーザ素子の端面(光出射端面)には無反射コート層(AR)が形成されている。光学フィルター102,112には、主にバンドパスフィルターが用いられ、レーザの発振波長の制御のために挿入される。参照番号101,104,111,114はレンズを指す。尚、モード同期は、発光領域に印加する直流電流と可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧V
saとによって決定される。外部共振器長さX’によって光パルス列の繰り返し周波数fが決定され、次式で表される。ここで、cは光速であり、nは導波路の屈折率である。
f=c/(2n・X’)
【0076】
あるいは又、本開示の半導体レーザ素子を用いて外部共振器を構成する例の変形例を、
図10Bに示す。
図10Bに示すコリメート型の外部共振器にあっても、可飽和吸収領域側に高反射コート層(HR)が形成された半導体レーザ素子の端面と外部鏡103とで外部共振器を構成し、外部鏡103から光パルスを取り出す。発光領域(利得領域)側の半導体レーザ素子の端面(光出射端面)には無反射コート層(AR)が形成されている。
【0077】
あるいは又、
図11A及び
図11Bに示す外部共振器にあっては、可飽和吸収領域側(光出射端面)に反射コート層(R)が形成されたモード同期半導体レーザ素子の端面と外部鏡113とで外部共振器を構成し、可飽和吸収領域から光パルスを取り出す。発光領域(利得領域)側のモード同期半導体レーザ素子の端面には低反射コート層(AR)が形成されている。尚、
図11Aに示す例は集光型であり、
図11Bに示す例はコリメート型である。あるいは又、
図11Cに示すように、モード同期半導体レーザ素子をモノリシック型とすることもできる。
【0078】
発光領域41や可飽和吸収領域42の数は1に限定されない。1つの第2電極の第1部分62Aと2つの第2電極の第2部分62B
1,62B
2とが設けられた半導体レーザ素子の模式的な端面図(XZ平面にて切断したときの模式的な端面図)を
図12に示す。この半導体レーザ素子にあっては、第1部分62Aの一端が、一方の分離溝62C
1を挟んで、一方の第2部分62B
1と対向し、第1部分62Aの他端が、他方の分離溝62C
2を挟んで、他方の第2部分62B
2と対向している。そして、1つの発光領域41が、2つの可飽和吸収領域42
1,42
2によって挟まれている。あるいは又、2つの第2電極の第1部分62A
1,62A
2と1つの第2電極の第2部分62Bとが設けられた半導体レーザ素子の模式的な端面図(XZ平面にて切断したときの模式的な端面図)を
図13に示す。この半導体レーザ素子にあっては、第2部分62Bの端部が、一方の分離溝62C
1を挟んで、一方の第1部分62A
1と対向し、第2部分62Bの他端が、他方の分離溝62C
2を挟んで、他方の第1部分62A
2と対向している。そして、1つの可飽和吸収領域42が、2つの発光領域41
1,41
2によって挟まれている。
【0079】
半導体レーザ素子を、斜め導波路を有する斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造の半導体レーザ素子とすることもできる。実施例1において説明した半導体レーザ素子に斜め導波路を有する斜めリッジストライプ構造を適用した例を
図14に示すが、この図は、リッジストライプ構造71、及び、側部構造体72を上方から眺めた模式図である。この半導体レーザ素子にあっては、直線状の2つのリッジストライプ構造が組み合わされた構造を有し、2つのリッジストライプ構造の交差する角度θの値は、例えば、
0<θ≦10(度)
好ましくは、
0<θ≦6(度)
とすることが望ましい。斜めリッジストライプ型を採用することで、無反射コートをされた端面の反射率を、より0%の理想値に近づけることができ、その結果、半導体レーザ素子内で周回してしまうレーザ光の発生を防ぐことができ、主たるレーザ光に付随する副次的なレーザ光の生成を抑制できるといった利点を得ることができる。尚、このような半導体レーザ素子を実施例2にて説明した半導体レーザ素子に適用することができることは云うまでもない。
【0080】
実施例においては、半導体レーザ素子を、n型GaN基板21の極性面であるC面,{0001}面上に設けた。ところで、このような場合、第3化合物半導体層にピエゾ分極及び自発分極に起因した内部電界によるQCSE効果(量子閉じ込めシュタルク効果)によって、電気的に可飽和吸収が制御し難くなる場合がある。即ち、場合によっては、セルフ・パルセーション動作及びモード同期動作を得るために第1電極に流す直流電流の値及び可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧の値を高くする必要が生じたり、メインパルスに付随したサブパルス成分が発生したり、外部信号と光パルスとの間での同期が取り難くなることがある。このような現象の発生を抑制するためには、{11−20}面であるA面、{1−100}面であるM面、{1−102}面といった無極性面上、あるいは又、{11−24}面や{11−22}面を含む{11−2n}面、{10−11}面、{10−12}面といった半極性面上に、半導体レーザ素子を設ければよい。これによって、半導体レーザ素子の第3化合物半導体層にたとえピエゾ分極及び自発分極が生じた場合であっても、第3化合物半導体層の厚さ方向にピエゾ分極が生じることは無く、第3化合物半導体層の厚さ方向とは略直角の方向にピエゾ分極が生じるので、ピエゾ分極及び自発分極に起因した悪影響を排除することができる。尚、{11−2n}面とは、ほぼC面に対して40度を成す無極性面を意味する。また、無極性面上あるいは半極性面上に半導体レーザ素子を設ける場合、井戸層の厚さの制限(1nm以上、10nm以下)及び障壁層の不純物ドーピング濃度の制限(2×10
18cm
-3以上、1×10
20cm
-3以下)を無くすことが可能である。
【0081】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《半導体レーザ素子:第1の態様》
(a)第1導電型を有し、化合物半導体から成る第1化合物半導体層、化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
積層構造体の少なくとも一部から構成されたリッジストライプ構造が形成されており、
リッジストライプ構造の両側には、積層構造体から構成された側部構造体が形成されており、
リッジストライプ構造を構成する第2化合物半導体層上に形成された第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに分離されている半導体レーザ素子であって、
少なくとも一方の側部構造体の、第2電極の第2部分に隣接した部分の上には、保護電極が形成されており、
第2電極及び保護電極が形成されていないリッジストライプ構造の部分の上から側部構造体の部分の上に亙り、酸化物絶縁材料から成る絶縁膜が形成されている半導体レーザ素子。
[A02]酸化物絶縁材料はSiO
Xから成る[A01]に記載の半導体レーザ素子。
[A03]酸化物絶縁材料は、酸化アルミニウム、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された少なくとも1種類の材料である[A01]に記載の半導体レーザ素子。
[A04]酸化物絶縁材料は、ZnO
X、SiON、HfO
X、ScO
X、YO
X、MgO
X、ThO
X及びBiO
Xから成る群から選択された少なくとも1種類の材料である[A01]に記載の半導体レーザ素子。
[A05]第2電極の第1部分は、絶縁膜上に形成された第1引出し配線層によって覆われており、
第2電極の第2部分及び保護電極は、絶縁膜上に形成された第2引出し配線層によって覆われている[A01]乃至[A04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
[A06]第1引出し配線層及び第2引出し配線層は、離間した状態で、リッジストライプ構造上から側部構造体上に亙り形成されている[A05]に記載の半導体レーザ素子。
[A07]第2引出し配線層から延びるワイヤボンディング層が、一方の側部構造体上に形成された絶縁膜上に設けられている[A06]に記載の半導体レーザ素子。
[A08]ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上には、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている[A07]に記載の半導体レーザ素子。
[A09]光反射端面及び光出射端面を有し、
第2電極の第2部分は、光反射端面の近傍に配設されている[A01]乃至[A08]のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
[A10]積層構造体はGaN系化合物半導体から成る[A01]乃至[A09]のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
[B01]《半導体レーザ素子:第2の態様》
(a)第1導電型を有し、化合物半導体から成る第1化合物半導体層、化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
積層構造体の少なくとも一部から構成されたリッジストライプ構造が形成されており、
リッジストライプ構造の両側には、積層構造体から構成された側部構造体が形成されており、
リッジストライプ構造を構成する第2化合物半導体層上に形成された第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに分離されている半導体レーザ素子であって、
第2電極の第1部分は、絶縁膜上に形成された第1引出し配線層によって覆われており、
第2電極の第2部分は、絶縁膜上に形成された第2引出し配線層によって覆われており、
第2引出し配線層から延びるワイヤボンディング層が、一方の側部構造体上に形成された絶縁膜上に設けられており、
ワイヤボンディングがなされているワイヤボンディング層の部分と第2引出し配線層との間に位置する一方の側部構造体の部分の上には、ワイヤボンディング層によって覆われたサージ保護電極が形成されている半導体レーザ素子。