特許第6387977号(P6387977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387977
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20180903BHJP
   H01F 19/04 20060101ALI20180903BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20180903BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F19/04 U
   H01F27/29 G
   H01F27/24 Q
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-22350(P2016-22350)
(22)【出願日】2016年2月9日
(65)【公開番号】特開2017-143117(P2017-143117A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 啓雄
【審査官】 竹下 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−66570(JP,A)
【文献】 特開2014−192324(JP,A)
【文献】 特開2015−65272(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/123889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F17/00−21/12
19/04
27/00
27/02
27/06
27/08
27/23−27/26
27/28−27/29
27/30
27/32
27/36
27/42
38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部ならびに所定方向に沿った前記巻芯部の各端部にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有するドラム状コアを備え、
前記第1および第2の鍔部の各々は、前記巻芯部側に向きかつ前記巻芯部の各端部を位置させる内側端面と、前記内側端面の反対側の外側に向く外側端面と、前記内側端面と前記外側端面とを連結するものであって、実装時において実装基板側に向けられる底面と、前記底面の反対側の天面と、を有し、さらに、
前記第1および第2の鍔部の各々の前記天面に一方主面を接触させながら、前記第1および第2の鍔部間に渡された板状コアと、
前記第1の鍔部の前記底面に設けられた少なくとも1つの第1の端子電極と、
前記第2の鍔部の前記底面に設けられた少なくとも1つの第2の端子電極と、
前記巻芯部に巻回され、かつ前記第1の端子電極と前記第2の端子電極との間に接続された、少なくとも1本のワイヤと、
を備え、
前記第1の鍔部の前記天面のうち、前記板状コアの前記一方主面と接する第1接触部の面積と、前記第2の鍔部の前記天面のうち、前記板状コアの前記一方主面と接する第2接触部の面積と、の和は、前記第1接触部における第1最大幅および前記第2接触部における第2最大幅を、それぞれ前記所定方向と直交する方向に沿った最大幅とした場合に、第3最大幅Wを前記第1最大幅と前記第2最大幅とのうち大きくない方とし、前記第1接触部の前記外側の縁を第1外縁と、前記第2接触部の前記外側の縁を第2外縁とした場合に、最大長Lを前記所定方向に沿って測定した前記第1外縁と前記第2外縁との間の最大距離とするとき、第3最大幅Wと最大長Lとの積の2/3以上である、
コイル部品。
【請求項2】
前記第1接触部および前記第2接触部は四角形であり、
前記第1接触部の面積と前記第2接触部の面積との和は、前記第1接触部の外周側の2つの頂点と前記第2接触部の外周側の2つの頂点とによって規定される仮想の四角形の面積の2/3以上である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記板状コアの前記主面の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、前記板状コアの外周縁は、前記仮想の四角形の辺とほぼ重なっている、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1および前記第2の鍔部と前記板状コアとは、接着剤によって互いに接合されていて、前記接着剤は、前記内側端面に沿う部分を除いて、前記第1の鍔部の前記第1接触部および前記第2の鍔部の前記第2接触部と前記板状コアの前記主面との接触面を取り囲むように配置されている、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記板状コアの前記主面の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、前記板状コアの外周縁は、前記仮想の四角形の辺の内側に位置しており、それによって、前記第1および第2の鍔部の各前記天面には、前記板状コアから露出する露出部が設けられる、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記第1および前記第2の鍔部と前記板状コアとは、接着剤によって互いに接合されていて、前記接着剤は、前記内側端面に沿う部分を除いて、前記露出部と前記板状コアの側面とに接触しながら、前記第1の鍔部の前記第1接触部および前記第2の鍔部の前記第2接触部と前記板状コアの前記主面との接触面を取り囲むように配置されている、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記接着剤は、前記第1の鍔部の前記第1接触部および前記第2の鍔部の前記第2接触部の各々と前記板状コアの前記主面との接触面には存在しない、請求項4または6に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記第1および第2の端子電極の少なくとも一方は、前記第1または第2の鍔部の前記底面上において、前記外側端面と前記内側端面との間の距離の半分以下の距離をもって、前記外側端面側の端縁から前記内側端面側の端縁に向かって延びるように配置される、請求項1ないし7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項9】
前記第1および第2の鍔部の前記少なくとも一方の前記底面上における前記内側端面側には、勾配面または段差面が形成される、請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記第1および前記第2の鍔部の少なくとも一方の前記天面の平坦性は、前記板状コアの前記主面の反対側の他方主面の平坦性より高い、請求項1ないし9のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項11】
前記第1および前記第2の鍔部の各前記天面に接触する前記板状コアの前記主面の平坦性は、前記板状コアの前記主面の反対側の他方主面の平坦性より高い、請求項1ないし10のいずれかに記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイル部品に関するもので、特に、ワイヤを巻回した巻芯部と巻芯部の両端部にそれぞれ設けられた鍔部とを有するドラム状コアを備える、コイル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある技術として、たとえば特許第4737268号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、コイル部品として、以下のようなパルストランスが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のパルストランスは、巻芯部ならびにこの巻芯部の各端部にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有するドラム状コアを備える。第1および第2の鍔部の各々は、巻芯部側に向きかつ巻芯部の各端部を位置させる内側端面と、内側端面の反対側の外側に向く外側端面と、内側端面と外側端面とを連結するものであって、実装時において実装基板側に向けられる底面と、上記底面の反対側の天面と、を有している。
【0004】
ドラム状コアの巻芯部には、たとえば4本のワイヤが巻回される。第1および第2の鍔部の各々には、3個の端子電極が設けられる。これら端子電極は、各鍔部における上記底面に位置される。そして、各鍔部上の3個の端子電極のうち、2個の端子電極には、それぞれ、2本のワイヤの端部が接続され、残り1個の端子電極には、残り2本のワイヤの端部が共通に接続される。
【0005】
また、第1および第2の鍔部間には、板状コアが渡される。板状コアは、第1および第2の鍔部の各々の天面に、その一方主面を接触させた状態とされる。
【0006】
このようなパルストランスは、通信信号を伝送するとともに、電気的絶縁を得る用途で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4737268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の特に図面に注目すると、そこに図示されたドラム状コアは、以下のような面積関係を有している。すなわち、巻芯部に対して、第1および第2の鍔部が短く、第1および第2の鍔部の天面のうち、板状コアの一方主面と接触する接触部の各面積の和は、特許文献1の図3を実測すると、当該接触部の外周側の4つの頂点によって規定される仮想の四角形の面積の約1/3以下しかない。
【0009】
特に、特許文献1に記載のものをはじめとして、ワイヤの巻回中心軸が実装基板と平行となる従来構造のコイル部品のドラム状コアでは、以下の理由により、一般的に上記面積関係を有している。
【0010】
まず、鍔部の天面と板状コアの一方主面との間において、不可避的に形成される隙間が生む磁気抵抗が比較的大きいため、ドラム状コアと板状コアとによって与えられる閉磁路における磁気効率が低くなってしまう。そこで、上記の磁気効率の低さを補って所望のインダクタンスを確保しようとすると、ワイヤの巻回数を増やす必要がある。
【0011】
巻回数を増やすためには、巻芯部を長くしなければならない。しかし、従来構造では、実装面積の点からコイル部品の外形寸法が制約される。すなわち、巻芯部を長くした分、鍔部を短くする必要がある。その結果として、多くの文献に記載され、あるいは、市場に出回っている、従来構造のドラム状コアでは、鍔部が巻芯部より短く、大体において、上記のような面積関係を有しており、大きくても接触部の面積の和は、上記仮想の四角形の面積の約1/3程度であった。
【0012】
しかし、ワイヤの巻回数の増加に伴い、ワイヤの各ターン間で生じる線間容量が増加するとともに、抵抗損失も増加する。その結果、コイル部品の高周波特性が劣化することに本件発明者は着目した。たとえば、従来構造では、10GBASE−T規格対応など、今後要請される高周波特性を実現することが困難であると考えられる。
【0013】
そこで、この発明の目的は、鍔部と板状コアとの間の隙間に起因する磁気抵抗の影響を低減し、それによって、ワイヤの巻回数を増加させることなく、より大きなインダクタンスを取得することができる、コイル部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るコイル部品は、まず、巻芯部ならびに所定方向に沿った巻芯部の各端部にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有するドラム状コアを備える。ここで、第1および第2の鍔部の各々は、巻芯部側に向きかつ巻芯部の各端部を位置させる内側端面と、内側端面の反対側の外側に向く外側端面と、内側端面と外側端面とを連結するものであって、実装時において実装基板側に向けられる底面と、底面の反対側の天面と、を有する。
【0015】
この発明に係るコイル部品は、さらに、第1および第2の鍔部の各々の天面に一方主面を接触させながら、第1および第2の鍔部間に渡された板状コアと、第1の鍔部の底面に設けられた少なくとも1つの第1の端子電極と、第2の鍔部の底面に設けられた少なくとも1つの第2の端子電極と、巻芯部に巻回され、かつ第1の端子電極と第2の端子電極との間に接続された、少なくとも1本のワイヤと、を備える。
【0016】
以上のようなコイル部品において、この発明では、前述した技術的課題を解決するため、第1の鍔部の天面のうち、板状コアの一方主面と接する第1接触部の面積と、第2の鍔部の天面のうち、板状コアの一方主面と接する第2接触部の面積と、の和は、第1接触部における第1最大幅および第2接触部における第2最大幅を、それぞれ所定方向と直交する方向に沿った最大幅とした場合に、第3最大幅Wを第1最大幅と第2最大幅とのうち大きくない方とし、第1接触部の外側の縁を第1外縁と、第2接触部の外側の縁を第2外縁とした場合に、最大長Lを所定方向に沿って測定した第1外縁と第2外縁との間の最大距離とするとき、第3最大幅Wと最大長Lとの積の2/3以上であることを特徴としている。
【0017】
なお、上述のように、第1接触部の面積と第2接触部の面積との和を上記第3最大幅Wと最大長Lとの積の2/3以上とすることについては、どちらかと言えば、従来技術との関係で明確な差別化を図ろうとする意義があると理解すべきである。
【0018】
上述した構成によれば、鍔部と板状コアとの接触面積を大きく取ることができるため、鍔部と板状コアとの間で生じ得る磁気抵抗を低減することができる。
【0019】
この発明に係るコイル部品において、第1接触部および第2接触部は必ずしも四角形でなくてもよいが、通常、四角形である。第1接触部および第2接触部が四角形である場合、第1接触部の面積と第2接触部の面積との和は、第1接触部の外周側の2つの頂点と第2接触部の外周側の2つの頂点とによって規定される仮想の四角形の面積の2/3以上であることが好ましい。
【0020】
上述のように、第1接触部および第2接触部が四角形である場合、この発明に係るコイル部品は、好ましくは、板状コアの主面の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、板状コアの外周縁が、上記仮想の四角形の辺とほぼ重なっている。この構成によれば、板状コアの全体積を閉磁路形成に寄与させることができ、効率的である。
【0021】
上述の好ましい実施態様において、第1および第2の鍔部と板状コアとは、たとえば接着剤によって互いに接合される。この場合、接着剤は、内側端面に沿う部分を除いて、第1の鍔部の第1接触部および第2の鍔部の第2接触部と板状コアの上記主面との接触面を取り囲むように配置されていることが好ましい。このように構成すれば、接着剤による接着周長を長く取ることができるので、接触面を取り囲むだけの接着剤の付与であっても、十分な接着力を確保することができる。
【0022】
前述のように、第1接触部および第2接触部が四角形である場合、板状コアの主面の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、板状コアの外周縁は、上記仮想の四角形の辺の内側に位置しており、それによって、第1および第2の鍔部の各天面には、板状コアから露出する露出部が設けられてもよい。
【0023】
上述の代替の実施態様においても、第1および第2の鍔部と板状コアとは、たとえば接着剤によって互いに接合される。この場合、接着剤は、内側端面に沿う部分を除いて、露出部と板状コアの側面とに接触しながら、第1の鍔部の第1接触部および第2の鍔部の第2接触部と板状コアの主面との接触面を取り囲むように配置されていることが好ましい。このように構成すれば、接着剤による接着周長を長く取ることができるばかりでなく、一断面上において、互いに異なる方向に向く2つの面に接着剤を接触させることができるので、より高い接着力を得ることができる。
【0024】
上述のように、第1および第2の鍔部と板状コアとが接着剤によって互いに接合される場合、接着剤は、第1の鍔部の第1接触部および第2の鍔部の第2接触部の各々と板状コアの主面との接触面には存在しないようにされることがより好ましい。この構成によれば、鍔部と板状コアとが互いに直接接する状態を得ることができるので、たとえば接着剤が介在する場合に比べて、鍔部と板状コアとの間で生じ得る磁気抵抗をより低減することができ、よって、より大きなインダクタンスを取得することに寄与し得る。
【0025】
この発明において、第1および第2の端子電極の少なくとも一方は、第1または第2の鍔部の底面上において、外側端面と内側端面との間の距離の半分以下の距離をもって、外側端面側の端縁から内側端面側の端縁に向かって延びるように配置されることが好ましい。この構成によれば、鍔部の底面側、すなわち、実装面側において、端子電極が存在しない比較的大きな空間を巻芯部の近傍に作り出すことができる。そして、このような巻芯部近傍の、端子電極が存在しない空間は、ワイヤの位置や向きが固定される巻芯部上と端子電極上との間において、ワイヤの位置や向きに自由度を与える緩衝空間として用いることができる。そのため、ワイヤに対して無理な変形を強いることがなく、よって、ワイヤの断線やショート不良を生じにくくすることができる。
【0026】
上記好ましい実施態様において、より好ましくは、第1および第2の鍔部の上記少なくとも一方の底面上における内側端面側には、勾配面または段差面が形成される。この構成によれば、実装面側において形成される、端子電極が存在しない空間をより大きくすることができるとともに、巻芯部の端部周面から端子電極に至るように案内されるワイヤに対して、より短い経路を与えることができる。
【0027】
この発明において、第1および第2の鍔部の少なくとも一方の天面の平坦性は、板状コアの上記主面とは反対側の他方主面の平坦性より高いことが好ましい。また、この構成に代えて、あるいは、この構成に加えて、第1および第2の鍔部の各天面に接触する板状コアの主面の平坦性は、板状コアの他方主面の平坦性より高いことが好ましい。これらの構成によれば、鍔部と板状コアとの密着性を高めることができるとともに、平坦性を高めるための、たとえば鏡面研磨のような加工を施す領域を必要最低限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明に係るコイル部品によれば、鍔部と板状コアとの接触面積を大きく取り、それによって、鍔部と板状コアとの間で生じ得る磁気抵抗を低減することができるので、ワイヤの巻回数を多くすることなく、大きいインダクタンスを取得することができる。したがって、ワイヤの巻回数の増加による容量および抵抗損失の増加を招かないので、高周波特性に優れたコイル部品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】この発明の第1の実施形態によるコイル部品1を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は右側面図である。
図2図1に示したコイル部品1の鍔部5と板状コア7との接合構造を示すもので、(A)は正面図、(B)は(A)の線B−Bに沿う断面図である。
図3】この発明の第2の実施形態によるコイル部品21を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は右側面図である。
図4】この発明の第3の実施形態によるコイル部品31を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は右側面図である。
図5】この発明の範囲内の実施例に係るパルストランスと同範囲外の比較例に係るパルストランスとを比較するもので、(A)は挿入損失Sdd21の周波数特性を示し、(B)は挿入損失Sdd21の測定回路を示す。
図6】この発明の範囲内の実施例に係るパルストランスと同範囲外の比較例に係るパルストランスとを比較するもので、(A)はモード変換Scd21の周波数特性を示し、(B)はモード変換Scd21の測定回路を示す。
図7】この発明の範囲内の実施例に係るパルストランスと同範囲外の比較例に係るパルストランスとを比較するもので、(A)はコモンモード除去比Scc21の周波数特性を示し、(B)はコモンモード除去比Scc21の測定回路を示す。
図8】この発明の第4の実施形態を説明するための図2(A)に対応する図である。
図9】この発明の第5の実施形態を説明するための図2(A)に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1を参照して、この発明の第1の実施形態によるコイル部品1について説明する。図1に示したコイル部品1は、コイル部品の一例としてのパルストランスを構成するものである。
【0031】
図1に示すように、コイル部品1は、巻芯部2を与えるドラム状コア3を備えている。ドラム状コア3は、また、図1(B)の右側の両方向矢印で示される所定方向Dに沿った巻芯部2の各端部にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部4および5を備えている。ドラム状コア3は、たとえば、フェライト等の磁性体から構成される。
【0032】
巻芯部2は、たとえば円柱状または多角柱状である。巻芯部2の表面には、必要に応じて凹凸や傾斜が形成されていてもよい。
【0033】
鍔部4および5は、ほぼ矩形の断面形状を有する直方体状である。鍔部4および5は、それぞれ、巻芯部2側に向きかつ巻芯部2の各端部を位置させる内側端面4aおよび5aと、内側端面4aおよび5aの反対側の外側に向く外側端面4bおよび5bとを有し、さらに、実装時において実装基板(図示せず。)側に向けられる底面4cおよび5cと、底面4cおよび5cの反対側の天面4dおよび5dと、第1の側面4eおよび5eと、第1の側面4eおよび5eに対向する第2の側面4fおよび5fとを有している。底面4cおよび5c、天面4dおよび5d、第1の側面4eおよび5e、ならびに第2の側面4fおよび5fは、それぞれ、内側端面4aおよび5aと外側端面4bおよび5bとを連結するものである。
【0034】
コイル部品1は、また、第1および第2の鍔部4および5の各々の天面4dおよび5dに一方主面6を接触させながら、第1および第2の鍔部4および5間に渡された板状コア7を備えている。板状コア7は、主面がたとえば長方形状の平板状であって、ドラム状コア3と同様、たとえば、フェライト等の磁性体から構成される。したがって、板状コア7は、ドラム状コア3と協働して、閉磁路を構成する。
【0035】
ここで、第1接触部および第2接触部を、それぞれ、天面4dおよび5dのうち、板状コア7の主面6と接触する部分とすると、コイル部品1では、第1接触部は天面4d全面であり、第2接触部は天面5d全面となっている。したがって、以下の説明において、単に天面4dまたは天面5dと言うときであっても、それぞれ、第1接触部または第2接触部をも意味している場合があると理解すべきである。
【0036】
第1の鍔部4の底面4cには、4つの第1の端子電極8a、8b、8cおよび8dがこの順に設けられる。第2の鍔部5の底面5cには、4つの第2の端子電極9a、9b、9cおよび9dがこの順に設けられる。この実施形態では、4つの第1の端子電極8a、8b、8cおよび8dは互いに同じ寸法を有し、また、4つの第2の端子電極9a、9b、9cおよび9dは互いに同じ寸法を有している。
【0037】
端子電極8a〜8dおよび9a〜9dは、たとえば、Ag粉末等の導電性金属粉末を含む導電性ペーストを印刷し、次いで、これを焼き付け、さらに、NiめっきおよびSnめっきを施すことによって形成される。あるいは、端子電極8a〜8dおよび9a〜9dは、たとえば、タフピッチ銅またはリン青銅等の銅系金属からなる導電性金属片を鍔部4および5に貼り付けることによって形成される。
【0038】
コイル部品1は、さらに、巻芯部2に巻回された4本のワイヤ11〜14を備えている。これらワイヤ11〜14は、たとえば、ポリウレタン、ポリエステルイミド、ポリアミドイミドのような樹脂によって絶縁被覆されたCu線からなり、第1の端子電極8a〜8dのいずれかと第2端子電極9a〜9dのいずれかとの間に接続される。
【0039】
ワイヤ11〜14は、所定方向Dに沿った方向を巻回中心軸として、巻芯部2に巻回される。また、ワイヤ11〜14は、詳細には図示されないが、巻芯部2上で巻芯部2に接触する側の内層と内層より外側の外層との2つの層をなすように巻回される。より詳細には、第1のワイヤ11および第3のワイヤ13は、バイファイラ巻きにされながら内層側に位置され、第2のワイヤ12および第4のワイヤ14は、バイファイラ巻きにされながら外層側に位置される。
【0040】
また、内層側に位置する第1のワイヤ11および第3のワイヤ13の巻回方向と外層側に位置する第2のワイヤ12および第4のワイヤ14の巻回方向とは、互いに逆にされる。
【0041】
第1のワイヤ11の一方端11aは、第1の端子電極8aに接続され、同じく他方端11bは、第2の端子電極9bに接続される。
【0042】
第2のワイヤ12の一方端12aは、第1の端子電極8bに接続され、同じく他方端12bは、第2の端子電極9aに接続される。
【0043】
第3のワイヤ13の一方端13aは、第1の端子電極8cに接続され、同じく他方端13bは、第2の端子電極9dに接続される。
【0044】
第4のワイヤ14の一方端14aは、第1の端子電極8dに接続され、同じく他方端14bは、第2の端子電極9cに接続される。
【0045】
上述したワイヤ11〜14と端子電極8a〜8dおよび9a〜9dとの接続には、たとえば、熱圧着や超音波溶着、レーザ溶着などが適用される。
【0046】
以上のような構成を有するコイル部品1は、次のような特徴を有している。
【0047】
まず、第1の鍔部4の天面4d(第1接触部)の外周側の2つの頂点V1およびV2と第2の鍔部5の天面5d(第2接触部)の外周側の2つの頂点V3およびV4とによって規定される仮想の四角形を考える。図1(A)において、これら頂点V1〜V4の各位置が図示されているが、図示された頂点V1〜V4の各位置は、板状コア7の主面6の延びる方向に対して直交する方向に透視したときの位置である。
【0048】
他方、第1の鍔部4の天面4d(第1接触部)の面積および第2の鍔部5の天面5d(第2接触部)の面積を考える。図1(A)において、第1の鍔部4の天面4d(第1接触部)が占める領域A1および第2の鍔部5の天面5d(第2接触部)が占める領域A2には、ハッチングが施されている。
【0049】
そして、上記領域A1の面積と上記領域A2の面積との和は、前述の4つの頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の面積の2/3以上とされる。言い換えると、この実施形態のように、上記仮想の四角形が長方形であり、天面4dおよび5dも長方形である場合、巻芯部2の所定方向Dに測定した寸法について、第1および第2の鍔部4および5のそれぞれの天面4dおよび5dの寸法L1およびL2の合計は、巻芯部2の寸法L3の2/3以上であるということである。すなわち、L1+L2≧L3×2/3の条件が満たされる。なお、この実施形態では、上記領域A1の面積と上記領域A2の面積とは互いに等しい、すなわち、寸法L1と寸法L2とは互いに等しいが、互いに異なっていてもよい。
【0050】
このような特徴的構成を採用すると、鍔部4および5の各々と板状コア7との接触面積を大きく取ることができるため、鍔部4および5の各々と板状コア7との間で生じ得る磁気抵抗を低減することができる。
【0051】
具体的には、前述のとおり、鍔部4および5の天面4dおよび5dと、板状コア7の主面6との間には、天面4d,5dや主面6の凹凸に起因する隙間が生じる。この隙間は比透磁率が1程度の空気や樹脂などで構成されるため、磁性体であるドラム状コア3や板状コア7に比べて磁気抵抗が大きく、閉磁路全体の磁気抵抗としては、隙間の磁気抵抗が支配的となる。
【0052】
ここで、鍔部4および5と板状コア7との接触面積を大きくすると、隙間の割合が相対的に小さくなり、閉磁路の磁気抵抗は接触面積に反比例して低減される。したがって、コイル部品1では、鍔部4および5と板状コア7とのどちら側の接触面においても、大きな磁気抵抗を有する隙間の影響が相対的に小さくなり、鍔部4および5の各々と板状コア7との間で生じ得る磁気抵抗を低減することができる。
【0053】
また、これにより閉磁路全体の磁気抵抗を低減でき、その結果、大きいインダクタンスを取得することが可能となる。言い換えると、従来構造と同じインダクタンスを得る場合であっても、ワイヤ11〜14の巻回数をより少なくできる。したがって、従来構造と同じインダクタンスを得るとともに、ワイヤ11〜14の巻回数の低減により容量および抵抗損失を低減することができ、コイル部品1を高周波特性に優れたものとすることができる。
【0054】
さらに、コイル部品1では、領域A1および領域A2が従来構造よりも大きくなったとしても、領域A1と領域A2との間の領域が小さくなるため、高周波特性を向上させる際に、従来構造よりも外形サイズを大きくする必要はない。つまり、同等外形・同インダクタンスにおいて高周波特性を向上させることができる。
【0055】
なお、上述した作用効果がより顕著に発揮されるようにするには、上記領域A1の面積および上記領域A2の面積がともに大きい方が好ましい。よって、より好ましくは、領域A1の面積と領域A2の面積との和は、たとえば、4つの頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の面積の5/6以上とされる。
【0056】
また、上記領域A1の面積は、頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の面積の1/3以上であるとともに、上記領域A2の面積についても、上記仮想の四角形の面積の1/3以上であることが好ましい。これにより、領域A1および領域A2の両方で磁気抵抗を低減でき、閉磁路全体の磁気抵抗を効果的に低減できる。ここで、面積が一定以上にされるのは、領域A1および領域A2の双方についてであることが好ましく、領域A1および領域A2のいずれか一方だけでは全体の磁気抵抗の十分な低減を望むことが困難な場合があり得る。
【0057】
この実施形態では、板状コア7の主面6の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、板状コア7の外周縁が、上記仮想の四角形の辺とほぼ重なっている。したがって、板状コア7の全体積を閉磁路形成に寄与させることができ、効率的である。しかしながら、このような利点を望まないならば、たとえば、板状コア7の外周縁が、上記仮想の四角形の辺の外側に位置していても、逆に、内側に位置していてもよい。なお、後者のように、板状コア7の外周縁が上記仮想の四角形の辺の内側に位置している実施形態については、図8および図9を参照してより具体的に説明する。
【0058】
また、コイル部品1は、次のような特徴も有している。第1の端子電極8a〜8dは、第1の鍔部4の底面4c上において、外側端面4bと内側端面4aとの間の距離(この距離は、本実施形態では、寸法L1に等しい。)の半分以下の距離L4をもって、外側端面4b側の端縁から内側端面4a側の端縁に向かって延びるように配置されている。同様に、第2の端子電極9a〜9dは、第2の鍔部5の底面5c上において、外側端面5bと内側端面5aとの間の距離(この距離は、本実施形態では、寸法L2に等しい。)の半分以下の距離L5をもって、外側端面5b側の端縁から内側端面5a側の端縁に向かって延びるように配置されている。すなわち、L4≦L1×1/2、L5≦L2×1/2の条件が満たされる。
【0059】
上記のようなL4≦L1×1/2、L5≦L2×1/2の条件が満たされると、前述した領域A1の面積と領域A2の面積との和が4つの頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の面積の2/3以上とされるという条件と相俟って、鍔部4および5の底面4cおよび5c側、すなわち、実装面側において、端子電極が存在しない比較的大きな空間を巻芯部2の近傍に作り出すことができる。そして、このような巻芯部2近傍の、端子電極が存在しない空間は、ワイヤ11〜14の位置や向きが固定される巻芯部2上と端子電極8a〜8dおよび9a〜9d上との間において、ワイヤ11〜14の位置や向きに自由度を与える緩衝空間として用いることができる。そのため、ワイヤ11〜14に対して無理な変形を強いることがなく、よって、ワイヤ11〜14の断線やショート不良を生じにくくすることができる。
【0060】
また、上述したL4≦L1×1/2、L5≦L2×1/2の条件を満たすように端子電極8a〜8dならびに9a〜9dを設計すると、たとえば特許文献1に記載のような寸法関係を有するドラム状コアの鍔部に形成された端子電極の場合と同じ寸法の端子電極を同じ位置に配置することができる。したがって、この実施形態に係るコイル部品1を適用するにあたり、実装基板側の設計変更を不要とすることができる。
【0061】
なお、図面では、端子電極8a〜8dならびに9a〜9dは、それぞれ、第1および第2の鍔部4および5の底面4cおよび5c上にのみ位置されたが、各々の一部が外側端面4bおよび5b上にまで延びるように設けられてもよい。
【0062】
また、図示されたコイル部品1では、端子電極8a〜8dおよび9a〜9dはそれぞれ互いに同じ寸法を有していたが、これに限られず、異なる寸法を有していてもよい。さらに、この場合、端子電極8a〜8dおよび9a〜9dのうち、いずれか一つでも寸法L4≦L1×1/2またはL5≦L2×1/2の条件を満たせば、当該端子電極に接続されるワイヤ11〜14の断線やショート不良の発生を低減することができる。
【0063】
第1および第2の鍔部4および5と板状コア7とは、たとえば接着剤によって互いに接合される。図2には、第2の鍔部5と板状コア7との接合構造が示されている。図2において図示されない第1の鍔部4と板状コア7との接合構造は、図2において図示された第2の鍔部5と板状コア7との接合構造と実質的に同様であるので、以下には、図2において図示された第2の鍔部5と板状コア7との接合構造についてのみ説明する。
【0064】
接着剤15は、たとえばエポキシ樹脂などの樹脂材料からなり、内側端面5aに沿う部分を除いて、鍔部5の天面5dと板状コア7の主面6との接触面を取り囲むように配置されている。前述したように、コイル部品1では、第2接触部である領域A2が従来構造に比べて広く、領域A2の外周も長いため、このように構成すれば、接着剤15による接着周長を長く取ることができるので、接触面を取り囲むだけの接着剤15の配置であっても、十分な接着力を確保することができる。
【0065】
また、図2(B)によく示されているように、接着剤15は、鍔部5の天面5dと板状コア7の主面6との接触面には存在しないようにされる。この構成によれば、鍔部4および5や板状コア7と比較して磁気抵抗が比較的大きい接着剤15を介さずに、鍔部4および5と板状コア7とが互いに直接接する状態を得ることができるので、鍔部4および5と板状コア7との間で生じ得る磁気抵抗を低減することができ、よって、より大きなインダクタンスを取得することに寄与し得る。
【0066】
なお、図1では、接着剤15の図示が省略されている。
【0067】
上述のように、鍔部4および5と板状コア7とは互いに直接接するので、鍔部4および5と板状コア7との間で生じ得る磁気抵抗をより低減するためには、鍔部4および5と板状コア7との互いの接触面の平坦性を高め、それによって、互いの接触面での密着性を高め、鍔部4および5と板状コア7との間に形成される隙間を低減することが有効である。そのため、鍔部4および5の各々の天面4aおよび5aならびに当該天面4aおよび5aに接触する板状コア7の主面6の各々の平坦性が、板状コア7の主面6とは反対側の他方主面16の平坦性より高いといった構成が採用される。この構成によれば、平坦性を高めるための、たとえば鏡面研磨のような加工を施す領域を必要最低限に抑えることができる。
【0068】
ただし、平坦性について、鍔部4および5の各々の天面4aおよび5aならびに当該天面4aおよび5aに接触する板状コア7の主面6と比較する面は、他方主面16に限られず、天面4a、5aおよび主面6を除いた、鍔部4および5や板状コア7の各表面のいずれかであってもよい。
【0069】
なお、より高い平坦性が与えられるのは、第1および第2の鍔部4および5のいずれか一方の天面4dまたは5dだけであってもよい。
【0070】
なお、本件明細書において「平坦性」とは、たとえば、JIS B 0621で定義される平面度や、JIS B 0601で定義される算術平均粗さ(線粗さ)Ra、算術平均うねりWaなどで指標されるものである。ただし、重要なのはこれら指標の絶対値ではなく、天面4a,5aや主面6の平坦性と、ドラム状コア3のそれ以外の表面の平坦性との相対関係であって、隙間による磁気抵抗の低減が図れている構成かどうかが判断できればよい。
【0071】
次に、図3を参照して、この発明の第2の実施形態によるコイル部品21について説明する。図3に示したコイル部品21は、コイル部品の一例としてのコモンモードチョークコイルを構成するものである。図3における(A)、(B)、(C)および(D)は、それぞれ、図1における(A)、(B)、(C)および(D)に対応している。図3において、図1に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0072】
図3に示したコイル部品21は、図1に示したコイル部品1と比較して、まず、ワイヤの本数が異なる。すなわち、コイル部品21は、2本のワイヤ11および12を備える。これに応じて、第1の鍔部4には、2つの第1の端子電極8aおよび8bが設けられ、第2の鍔部5には、2つの第2の端子電極9aおよび9bが設けられる。そして、第1のワイヤ11の一方端11aは、第1の端子電極8aに接続され、同じく他方端11bは、第2の端子電極9aに接続される。第2のワイヤ12の一方端12aは、第1の端子電極8bに接続され、同じく他方端12bは、第2の端子電極9bに接続される。
【0073】
また、第1のワイヤ11の巻回方向と第2のワイヤ12の巻回方向とは、互いに同じである。なお、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12とは、単層バイファイラ巻きにされても、いずれか一方が内層側、いずれか他方が外層側というように、2層巻きにされてもよい。
【0074】
また、図3に示したコイル部品21は、図1に示したコイル部品1と比較して、ドラム状コア3における鍔部4および5の形態が異なる。すなわち、コイル部品21では、鍔部4および5の底面4cおよび5cにおける内側端面4aおよび5a側には、勾配面22および23が形成される。これら勾配面22および23によれば、鍔部4および5の底面4cおよび5c側、すなわち、実装面側において形成される、端子電極が存在しない空間をより大きくすることができる。しかも、巻芯部2の端部周面から端子電極8aおよび8bならびに9aおよび9bに至るように案内されるワイヤ11および12に対して、より短いあるいは最短の経路を与えることができる。
【0075】
したがって、ワイヤ11および12をより自然な状態で巻芯部2の端部周面から端子電極8aおよび8bならびに9aおよび9bへと案内することができ、そのため、ワイヤ11および12の断線やショート不良をより生じにくくすることができる。また、ワイヤ11および12をより短くできることから、ワイヤ11および12に寄生する容量や直流抵抗損失を低減することができ、コイル部品1の高周波特性をより向上できる。
【0076】
なお、勾配面が設けられるのは、第1および第2の鍔部4および5のいずれか一方のみであってもよい。
【0077】
次に、図4を参照して、この発明の第3の実施形態によるコイル部品31について説明する。図4に示したコイル部品31は、コイル部品の一例としての通常のインダクタを構成するものである。図4における(A)、(B)、(C)および(D)は、それぞれ、図1における(A)、(B)、(C)および(D)に対応している。図4において、図1に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0078】
図4に示したコイル部品31は、図1に示したコイル部品1と比較して、まず、ワイヤの本数が異なる。すなわち、コイル部品31は、単に1本のワイヤ11を備える。これに応じて、第1の鍔部4には、1つの第1の端子電極8aが設けられ、第2の鍔部5には、1つの第2の端子電極9aが設けられる。そして、ワイヤ11の一方端11aは、第1の端子電極8aに接続され、同じく他方端11bは、第2の端子電極9aに接続される。
【0079】
また、図4に示したコイル部品31は、図1に示したコイル部品1と比較して、ドラム状コア3における鍔部4および5の形態が異なる。すなわち、コイル部品31では、鍔部4および5の底面4cおよび5cにおける内側端面4aおよび5a側には、段差面32および33が形成される。これら段差面32および33は、図3に示したコイル部品21における勾配面22および23と同様の作用効果を奏する。
【0080】
なお、段差面が設けられるのは、第1および第2の鍔部4および5のいずれか一方のみであってもよい。
【0081】
以上説明した実施形態に係るコイル部品1、21および31においては、鍔部4および5ならびに板状コア7が直方体状であったが、これに限られず、たとえば角を面取りした形状であってもよい。また、鍔部の天面や板状コアの主面の形状は長方形に限られず、正方形や多角形、円形、楕円形、これらの組み合わせなどであってもよい。
【0082】
なお、上記のように、鍔部の天面や板状コアの主面の形状が長方形(四角形)ではない場合、第1の鍔部の天面のうち、板状コアの主面と接触する第1接触部の面積と、第2の鍔部の天面のうち、板状コアの主面と接触する第2接触部の面積と、の和と“比較する面積”は適宜修正される。たとえば、コイル部品1において、4つの頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の面積は、板状コア7において、磁束が密に通過する範囲を表現している。つまり、コイル部品1では、当該範囲の面積に対して、第1接触部の面積と第2接触部の面積との和を一定(すなわち2/3)以上とし、磁気損失を低減した磁束の通過領域を確保することで、大きいインダクタンスを取得している。
【0083】
したがって、より一般的には、板状コアにおいて、磁束が密に通過する範囲の面積を“比較する面積”とすればよい。具体的には、第1接触部の第1最大幅および第2接触部における第2最大幅を、それぞれ所定方向と直交する方向に沿った最大幅とした場合に、第3最大幅Wを第1最大幅と第2最大幅とのうち大きくない方とする。また、第1接触部の外側(外側端面側)の縁を第1外縁と、第2接触部の外側(外側端面側)の縁を第2外縁とした場合に、最大長Lを所定方向に沿った第1外縁と第2外縁との間の最大距離とする。そして、上記第1接触部の面積と第2接触部の面積との和が、第3最大幅Wと最大長Lとの積の2/3以上であればよい。
【0084】
図5ないし図7には、この発明の範囲内のコイル部品の優位性を明らかにするため、この発明の範囲外のコイル部品と比較した、いくつかの特性値が示されている。
【0085】
なお、図5ないし図7に示した特性値を求めるため、この発明の範囲内の実施例および同範囲外の比較例に係る各試料としては、パルストランスを採用した。
【0086】
より詳細には、実施例に係る試料としては、図1に示した構造を有するものであって、外形寸法が、4.5mm(L3=長さ方向寸法)×3.2mm(幅方向寸法)×2.8mm(厚さ方向寸法)であり、図1(B)に示した寸法L1およびL2について、L1=L2=1.8mmであるものを用意した。
【0087】
他方、比較例に係る試料としては、特許文献1の図1に記載される構造を有するもので、外形寸法が上記実施例と同等であるが、図1(B)に示した寸法L1およびL2について、L1=L2=1.0mmであるものを用意した。
【0088】
そして、実施例に係るパルストランスと比較例に係るパルストランスとは互いに同等のインダクタンス値を与えるように設定した。
【0089】
図5において、(B)に示した測定回路によって求められた挿入損失Sdd21の周波数特性が(A)に示されている。図5(A)に示した挿入損失Sdd21は、同(B)に示した測定回路を用いて求められた、入力に対する出力の比率をデシベル[dB]で表わしたものである。実施例は、比較例に比べて、Sdd21が高い(つまり、マイナスのdBの絶対値が小さい)。すなわち、実施例は、比較例に比べて、挿入損失特性が良好であることがわかる。また、実施例は、比較例に比べて共振周波数が高く、より高周波域での使用が可能であることがわかる。
【0090】
図6において、(B)に示した測定回路によって求められたモード変換Scd21の周波数特性が(A)に示されている。図6(A)に示したモード変換Scd21は、同(B)に示した測定回路を用いて求められた、入力に対する出力の比率をデシベル[dB]で表わしたものである。実施例は、比較例に比べて、Scd21が低い(つまり、マイナスのdBの絶対値が大きい)。すなわち、実施例は、比較例に比べて、モード変換特性が良好であることがわかる。また、実施例は、比較例に比べて共振周波数が高く、より高周波域での使用が可能であることがわかる。
【0091】
図7において、(B)に示した測定回路によって求められたコモンモード除去比Scc21の周波数特性が(A)に示されている。図7(A)に示したコモンモード除去比Scc21は、同(B)に示した測定回路を用いて求められた、入力に対する出力の比率をデシベル[dB]で表わしたものである。実施例は、比較例に比べて、Scc21が低い(つまり、マイナスのdBの絶対値が大きい)。すなわち、実施例は、比較例に比べて、コモンモード除去特性が良好であることがわかる。
【0092】
以上のような図5ないし図7に示した各特性値について、実施例が比較例よりも良好であるとの結果が得られたのは、実施例では、比較例に比べて、同等のインダクタンスを得るにあたってワイヤの巻回数を増やす必要がなく、そのため、ワイヤの各ターン間で生じる線間容量が小さくて済み、また、抵抗損失も少なくて済んだためである。
【0093】
前述の図1ないし図4を参照して説明したコイル部品1、21および31では、板状コア7の主面6の延びる方向に対して直交する方向に透視したとき、板状コア7の外周縁が、頂点V1〜V4によって規定される仮想の四角形の辺とほぼ重なっていた。これに対して、以下に図8および図9をそれぞれ参照して説明する第4および第5の実施形態では、板状コア7の外周縁が、上記仮想の四角形の辺の内側に位置している。
【0094】
図8および図9は、図2(A)に対応する図である。図8および図9において、図2(A)に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0095】
図8および図9に示した各実施形態では、板状コア7の外周縁が、上記仮想の四角形の辺の内側に位置しているため、ドラム状コア3の鍔部5の天面5dには、板状コア7から露出する露出部41が与えられる。接着剤15は、鍔部5の内側端面5aに沿う部分を除いて、上記露出部41と板状コア7の側面とに接触しながら、鍔部5の天面5d(第2接触部)と板状コア7の主面6との接触面を取り囲むように配置されている。
【0096】
上述の構成を採用すれば、接着剤15による接着周長を長く取ることができるばかりでなく、接着剤15がフィレットを形成することによって、一断面上において、互いに異なる方向に向く2つの面に接着剤15を接触させることができる。そのため、図8および図9に示した構成によれば、図2(A)に示した構成に比べて、より高い接着力を得ることができる。
【0097】
特に図9に示した実施形態では、板状コア7の主面6側の外周縁が面取りされ、それによって、当該外周縁に沿って勾配面42が形成されている。したがって、接着剤15は、勾配面42と鍔部5の天面5dとによって規定される凹部を埋めるように配置され得るので、図8に示した構成に比べて、より高い接着力を得ることができる。
【0098】
説明を省略したが、図8および図9において図示されない第1の鍔部4と板状コア7との接合構造についても、図8および図9において図示された第2の鍔部5と板状コア7との接合構造と実質的に同様とされることが好ましい。しかしながら、これに限定されることはなく、第1の鍔部4と板状コア7との接合構造については、図2に示した接合構造が採用されてもよい。
【0099】
また、図示しないが、図8および図9に示した実施形態においても、図2(B)に示すように、接着剤15は、第1の鍔部4の天面4d(第1接触部)および第2の鍔部5の天面5d(第2接触部)の各々と板状コア7の主面6との接触面には存在しないようにされることが好ましい。
【0100】
なお、図8および図9に示す実施形態の変形例として、接着剤15の一部が、鍔部4および5の外側端面4bおよび5b、第1の側面4eおよび5eならびに第2の側面4fおよび5f上にまで延びるように配置されてもよい。また、図9に示す実施形態の変形例として、接着剤15の一部が、勾配面42を越えて板状コア7の側面上にまで延びるように配置されてもよい。
【0101】
以上、この発明に係るコイル部品を、より具体的な実施形態に基づいて説明したが、説明した各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。たとえば、図3に示した勾配面22および23または図4に示した段差面32および33は、図1に示したコイル部品1において採用されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1,21,31 コイル部品
2 巻芯部
3 ドラム状コア
4 第1の鍔部
4a 第1の鍔部の内側端面
4b 第1の鍔部の外側端面
4c 第1の鍔部の底面
4d 第1の鍔部の天面
5 第2の鍔部
5a 第2の鍔部の内側端面
5b 第2の鍔部の外側端面
5c 第2の鍔部の底面
5d 第2の鍔部の天面
6 板状コアの一方主面
7 板状コア
8a,8b,8c,8d 第1の端子電極
9a,9b,9c,9d 第2の端子電極
11,12,13,14 ワイヤ
15 接着剤
16 板状コアの他方主面
22,23 勾配面
32,33 段差面
41 露出部
D 所定方向
L1 第1の鍔部の天面の寸法
L2 第2の鍔部の天面の寸法
L3 ドラム状コアの寸法
L4 第1の端子電極の延びる距離
L5 第2の端子電極の延びる距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9