(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変性ジエン系ゴムの骨格が、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム及びニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のゴム組成物。
前記原料としてのジエン系ゴムが有する全二重結合に対する、前記ニトロン化合物が有する前記カルボキシ基への変性率が、0.02〜4モル%である、請求項3に記載のゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、成分が2種以上の物質を含む場合、上記成分の含有量とは、2種以上の物質の含有量の合計を指す。
本明細書において、ウェットグリップ性能、伸び及び耐摩耗性もうちの少なくとも1つより優れる場合を所定の効果により優れるということがある。
【0010】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、
カルボキシ基を有する変性ジエン系ゴムを10〜90質量%含むポリマーと、
1分子中に複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物とを含有し、
前記エポキシ化合物の含有量が前記ポリマー100質量部に対して0.1〜5質量部である、ゴム組成物である。
【0011】
本発明のゴム組成物は上記構成をとるため、所定の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
本発明のゴム組成物は、1分子中に複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有し、上記1つのエポキシ化合物が有する複数のエポキシ基が変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基と反応することによって、硫黄による架橋とは異なる別の架橋を形成することができ、架橋点が所定のエポキシ化合物を含まない場合よりも多くなる。特にエポキシ化合物1分子中のエポキシ基の数が3個以上である場合、3次元の網目の架橋を形成することができる。
このようなエポキシ化合物による架橋をゴムに導入することは、コンパウンド物性を強靭化し、ゴムのガラス転移温度を上昇させて、よって、所定の効果を得ることができると本発明者らは推察する。
【0012】
また、本発明者らは、ゴム組成物がエポキシ化合物を含有する場合、耐セット性が悪化する場合があることを知見した。耐セット性の悪化は、系内の未反応のエポキシ化合物に起因すると本発明者らは推察した。
これに対して、本発明者らは、本発明のゴム組成物が更に硬化剤を含有する場合、耐セット性の悪化を改善することができ、さらに強靭化を実現することができることを見出した。
耐セット性の改善は、硬化剤とエポキシ化合物との反応によってより強固な架橋構造をゴムに導入することができるためであると本発明者らは推測する。
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0013】
<変性ジエン系ゴム>
本発明のゴム組成物に含有される変性ジエン系ゴムは、カルボキシ基を有し、共役ジエンを少なくとも含むモノマーから形成された骨格を有するジエン系ゴムである。
【0014】
(変性ジエン系ゴムの主鎖)
変性ジエン系ゴムの主鎖(骨格)を形成する上記共役ジエンは特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。上記モノマーが共役ジエン以外の単量体を含む場合、上記単量体は特に制限されない。例えば、ビニル系官能基を有する化合物が挙げられる。
【0015】
変性ジエン系ゴムは、カルボキシ基を有し、骨格としてジエン系ゴムを有する重合体であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
変性ジエン系ゴムの骨格は、ジエン系ゴムであれば特に制限されない。ジエン系ゴムの具体例としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(例えばスチレンブタジエンゴム(SBR))、ニトリルブタジエンゴム(NBR、アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0016】
なかでも、変性ジエン系ゴムの骨格は、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム及びニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
変性ジエン系ゴムは、カルボキシ基の他に更に二重結合を有することが好ましい態様の1つとして挙げられる。二重結合は変性ジエン系ゴムの、主鎖、側鎖及び末端のうちのいずれにあってもよい。
【0017】
<カルボキシ基>
変性ジエン系ゴムにおいて、カルボキシ基は主鎖と直接又は有機基を介して結合することができる。カルボキシ基を有する有機基としては、例えば、下記式(I−1)で表される基、下記式(I−2)で表される基が挙げられる。
【化1】
【0018】
上記式(I−1)中、X
111およびY
111は、それぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せを表し、X
111およびY
111のうちの少なくとも一方又は両方がカルボキシ基を有することができる。上記カルボキシ基は上記の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せに結合することができる。
X
111又はY
111としての、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せは、後述する式(2)のX又はYとしての脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せと同様である。
X
111およびY
111のうちの少なくとも一方又は両方が芳香族炭化水素基であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
式(I−1)で表される基が有するカルボキシ基の数は1個以上であり、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。
式(I−1)中、*は結合位置を表す。式(I−1)において、*−CH−CH−*の部分は変性ジエン系ゴムの主鎖の一部を形成することができる。
【0019】
式(I−1)で表される基としては、例えば、下記式(II)で表される基が挙げられる。
【化2】
【0020】
上記式(II)中、a21、a22、はそれぞれ独立に0又は1以上であり、1〜5個が好ましい。a21+a22は1以上であり、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。*は結合位置を表す。式(II)において、*−CH−CH−*の部分は変性ジエン系ゴムの主鎖の一部を形成することができる。
【化3】
【0021】
上記式(I−2)中、X
121およびY
121は、それぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せを表し、X
121およびY
121のうちの少なくとも一方又は両方がカルボキシ基を有することができる。上記カルボキシ基は上記の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せに結合することができる。
X
121又はY
121としての、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せは、後述する式(2)のX又はYとしての脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せと同様である。
X
121およびY
121のうちの少なくとも一方又は両方が芳香族炭化水素基であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
式(I−2)で表される基が有するカルボキシ基の数は1個以上であり、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。
式(I−2)中、*は結合位置を表す。式(I−2)で表される基は変性ジエン系ゴムの側鎖として又は末端に結合することができる。
【0022】
式(I−2)で表される基としては、例えば、下記式(III)で表される基が挙げられる。
【化4】
【0023】
上記式(III)中、a31、a32、はそれぞれ独立に0又は1以上であり、1〜5個が好ましい。a31+a32は1以上であり、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。*は結合位置を表す。式(III)で表される基は変性ジエン系ゴムの側鎖として又は末端に結合することができる。
【0024】
変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基の量は、変性ジエン系ゴムが有する二重結合と変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基との合計モル数に対して、0.02〜4モル%が好ましく、0.05〜4モル%であることがより好ましく、0.1〜4モル%であることがさらに好ましい。
【0025】
変性ジエン系ゴムの重量平均分子量は特に制限されない。例えば、100,000〜2,000,000とすることができ、200,000〜1,500,000が好ましく、300,000〜1,300,000がより好ましい。変性ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
【0026】
変性ジエン系ゴムの骨格が芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムである場合、上記変性ジエン系ゴムの芳香族ビニル含有量は、上記変性ジエン系ゴム中の10質量%以上とすることができ、26〜80質量%が好ましく、26〜70質量%がより好ましい。変性ジエン系ゴムのミクロ構造は、JIS K 6239:2007(原料ゴム−溶液重合SBRのミクロ構造の求め方(定量))に準じて測定することができる。
【0027】
(変性ジエン系ゴムの製造方法)
変性ジエン系ゴムは、例えば、原料としてのジエン系ゴムとカルボキシ基及びニトロン基を有するニトロン化合物とを反応させることによって製造することができる。
上記反応によって、原料としてのジエン系ゴムが有する二重結合をカルボキシ基に変性することができる。具体的にはジエン系ゴムが有する二重結合と上記ニトロン化合物が有するニトロン基とが反応し、−O−N−を含む5員環を形成することによって、ジエン系ゴムにカルボキシ基を導入し、変性ジエン系ゴムを製造することができる。
変性ジエン系ゴムの製造方法としては具体的には例えば、原料としてのジエン系ゴムとニトロン化合物とを、100〜200℃で1〜30分間混合する方法が挙げられる。
【0028】
(原料としてのジエン系ゴム)
変性ジエン系ゴムを製造する際に使用される、原料としてのジエン系ゴムは特に制限されない。例えば、上記変性ジエン系ゴムの骨格として例示されているものと同様のものが挙げられる。
【0029】
(ニトロン化合物)
変性ジエン系ゴムを製造する際に使用することができるニトロン化合物は、カルボキシ基及び下記式(1)で表されるニトロン基を有する化合物である。
ニトロン化合物1分子が有するカルボキシ基の数は1個以上であり、1〜4個が好ましい。
ニトロン化合物1分子が有するニトロン基の数は1個以上であり、1〜4個が好ましい。
【0031】
上記式(1)中、*は結合位置を表す。
【0032】
上記ニトロン化合物は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0034】
上記式(2)中、XおよびYは、それぞれ独立に、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状を含む。)、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せを表し、X及びYのうちの少なくとも一方又は両方がカルボキシ基を有する。上記カルボキシ基は上記の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基又はこれらの組合せに結合することができる。
式(2)で表される化合物1分子が有するカルボキシ基の数は1個以上であり、1〜4個が好ましい。
【0035】
XまたはYで表される脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基などが挙げられ、なかでも、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられ、なかでも、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3〜6のシクロアルキル基がより好ましい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基などが挙げられ、なかでも、炭素数2〜18のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基がより好ましい。
【0036】
XまたはYで表される芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などが挙げられ、なかでも、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、炭素数6〜10のアリール基がより好ましく、フェニル基、ナフチル基がさらに好ましい。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などが挙げられ、なかでも、炭素数7〜13のアラルキル基が好ましく、炭素数7〜11のアラルキル基がより好ましく、ベンジル基がさらに好ましい。
【0037】
XまたはYで表される芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル基、フリル基、チエニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基(イミダゾール基)、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基(ピリジン基)、フラン基、チオフェン基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基等が挙げられる。なかでも、ピリジル基が好ましい。
【0038】
ニトロン化合物はニトロン基及びカルボキシ基とは別の置換基を有してもよい。このような置換基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。このような置換基は上記X及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種に結合することができる。
【0039】
ニトロン化合物は、下記式(3)で表される化合物(カルボキシニトロン)であることが好ましい。
【0041】
式(3)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。
mが示す整数としては、ニトロン化合物を合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
nが示す整数としては、ニトロン化合物を合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
また、mとnとの合計(m+n)は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0042】
式(3)で表される化合物は、下記式(3−1)で表されるN−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(3−2)で表されるN−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(3−3)で表されるN−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(3−4)で表されるN−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、下記式(3−5)で表されるN−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、および、下記式(3−6)で表されるN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボキシ基含有ニトロン化合物であることが好ましい。
【0044】
ニトロン化合物の合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ヒドロキシアミノ基(−NHOH)を有する化合物と、アルデヒド基(−CHO)を有する化合物とを、ヒドロキシアミノ基とアルデヒド基とのモル比(−NHOH/−CHO)が1.0〜1.5となる量で、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等)下で、室温で1〜24時間撹拌することにより、両基が反応し、ニトロン基を有するニトロン化合物を与えることができる。ヒドロキシアミノ基を有する化合物と、アルデヒド基を有する化合物とのうちの一方又は両方がカルボキシ基を有することができる。
【0045】
ニトロン化合物の使用量は、原料としてのジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。
【0046】
原料としてのジエン系ゴムが有する全二重結合に対するカルボキシ基への変性率(カルボキシ基/原料ジエン系ゴムが有する全二重結合。これを「二重結合の変性率」ともいう。)が、0.02〜4モル%が好ましく(この場合、上記ジエン系ゴムが有する全二重結合に対して、そのうちの0.02〜4モル%が、上記ニトロン化合物によってカルボキシ基に変性される。)、0.05〜4モル%であることがより好ましく、0.1〜4モル%であることがさらに好ましい。
上記ニトロン化合物によって原料としてのジエン系ゴムを変性する場合、原料としてのジエン系ゴムが有する全二重結合に対する、ニトロン化合物が有するカルボキシ基への変性率は、0.02〜4モル%が好ましく、0.05〜4モル%であることがより好ましく、0.1〜4モル%であることがさらに好ましい。
【0047】
変性率は、原料ジエン系ゴムが有する全ての二重結合のうち、例えばニトロン化合物による変性によって、カルボキシ基に変性された二重結合の割合(mol%)を表すことができる。変性率は、例えば、原料ジエン系ゴムおよび変性ジエン系ゴム(すなわち、変性前後のジエン系ゴム)のNMR(核磁気共鳴分光法:Nuclear Magnetic Resonance)測定を行うことで求めることができる。
【0048】
変性ジエン系ゴムが有するニトロン化合物の含有量は、原料としてのジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。
変性ジエン系ゴムが有するニトロン化合物の含有量は、上記変性ジエン系ゴムを所定の量で含む上記ポリマー100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.05〜5質量部であることがより好ましい。
変性ジエン系ゴムは未反応の変性剤(例えばニトロン化合物)を含んでもよい。
変性ジエン系ゴムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
<ポリマー>
本発明において、ポリマーは、変性ジエン系ゴムと、上記変性ジエン系ゴム以外のポリマーを含む。
ポリマーに含まれる、変性ジエン系ゴム以外のポリマーは、ジエン系ゴムであることが好ましい態様の1つとして挙げられる。ジエン系ゴムとしては、例えば、上記変性ジエン系ゴムの骨格として例示されたものと同様のものが挙げられる。
変性ジエン系ゴム以外のジエン系ゴムは、なかでも、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種又は全部であることが好ましい。
【0050】
本発明のゴム組成物に含有されるポリマーは、上記変性ジエン系ゴムを10〜90質量%含む。変性ジエン系ゴムの含有量は、所定の効果により優れ、加工時の取扱い性に優れるという観点から、上記ポリマーに対して、15〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましい。
【0051】
<エポキシ化合物>
本発明のゴム組成物に含有されるエポキシ化合物は、1分子中に複数のエポキシ基を有する化合物である。
エポキシ基は、置換基を有してもよい炭化水素基に結合することができる。
炭化水素基は特に制限されない。例えば、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。)、芳香族炭化水素基、これらの組合せが挙げられる。炭化水素基は不飽和結合を有してもよい。
【0052】
エポキシ化合物が1分子中に有するエポキシ基の数は、所定の効果により優れるという観点から、2〜6個が好ましく、2〜4個がより好ましい。
【0053】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ基樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のようなエポキシ樹脂が挙げられる。
【0054】
エポキシ化合物の分子量は3,000以下であることが好ましく、400〜700であることがより好ましい。なお、エポキシ化合物が重合体である場合、エポキシ化合物の分子量は数平均分子量とすることができる。本発明において、エポキシ化合物の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算値である。
エポキシ化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
本発明において、エポキシ化合物の含有量は、上記ポリマー(本発明のゴム組成物に含有される、変性ジエン系ゴムを所定の量で含むポリマー。以下同様。)100質量部に対して、0.1〜5質量部である。エポキシ化合物の含有量は、所定の効果により優れるという観点から、上記ポリマー100質量部に対して、0.3〜5質量部であることが好ましく、0.5〜3質量部であることがより好ましい。
【0056】
本発明において、変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基に対する、エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル比(エポキシ基/カルボキシ基)は、1.5〜18であることが好ましく、この範囲であれば、エポキシ基/カルボキシ基のモル比が大きくなるほど、ウェットグリップ性能により優れる。
エポキシ基/カルボキシ基のモル比は、6〜15がより好ましく、10〜14が更に好ましい。
【0057】
本発明のゴム組成物は、その効果や目的を損なわない範囲で更に添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、シランカップリング剤(例えば、エボニックデグサ社製Si69、エボニックデグサ社製Si363)、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、ワックス、オイル、液状ポリマー、テルペン樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、硬化剤などが挙げられる。
【0058】
(硬化剤)
本発明のゴム組成物は更に硬化剤を含有することが好ましい。
本発明のゴム組成物は更に硬化剤を含有することによって、所定の効果により優れ、耐セット性を優れたものとすることができる。
【0059】
硬化剤は、エポキシ基と反応することができる官能基を2個以上有する化合物であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。硬化剤は変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基と反応してもよい。
上記官能基としては、例えば、アミノ基(−NH
2)、−NH−、−N=C<(炭素窒素二重結合)のようなアミン系官能基;ヒドロキシ基;カルボキシ基が挙げられる。なかでもアミン系官能基が好ましい。なお硬化剤が官能基としてカルボキシ基を含む場合、官能基としてカルボキシ基を含む硬化剤は上記変性ジエン系ゴムを含まない。
【0060】
((アミン系化合物))
本発明のゴム組成物が硬化剤として更に含有することができるアミン系化合物は、アミン系官能基を2個以上有する化合物である。アミン系官能基は上記と同様である。
1分子のアミン系化合物が有するアミン系官能基の数は2〜10個であることが好ましい。
【0061】
アミン系官能基は、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基に結合することができる。
炭化水素基は特に制限されない。例えば、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。)、芳香族炭化水素基、これらの組合せが挙げられる。炭化水素基は不飽和結合を有してもよい。
ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン、これらの組合せが挙げられる。ヘテロ原子の組合せによって形成される基としては、例えば、スルホニル基、エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合が挙げられる。
【0062】
アミン系化合物は、1分子中に、−NH
2(第1の−NH
2)と、−NH
2(第2の−NH
2)、−NH−及び炭素窒素二重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とを有することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0063】
アミン系化合物としては、例えば、1分子中に、第1の−NH
2と、上記官能基としての第2の−NH
2とを少なくとも有する化合物I;
1分子中に、第1の−NH
2と、−NH−及び炭素窒素二重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とを有する化合物IIが挙げられる。
【0064】
・化合物I
化合物Iは、1分子中に、第1の−NH
2と、上記官能基としての第2の−NH
2とを少なくとも有する化合物である。
化合物Iは−NH
2を2個以上有するポリアミン化合物であることが好ましい。
化合物Iにおいて、−NH
2は芳香族炭化水素基に結合することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
化合物Iは、−NH
2が結合した芳香族炭化水素基を2つ有し、上記芳香族炭化水素基がスルホニル基を介して結合することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
化合物Iとしては、例えば、芳香族ポリアミンが挙げられる。具体的には例えば、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミンが挙げられる。
なかでも、ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。
【0065】
・化合物II
化合物IIは、1分子中に、第1の−NH
2と、−NH−及び炭素窒素二重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とを有する化合物である。
炭素窒素二重結合(N=C)の窒素原子には例えば水素原子が結合することができる。
化合物IIはさらにシアノ基を有することができる。
化合物IIとしては、例えば、ジシアンジアミドが挙げられる。
【0066】
硬化剤はその製造について特に制限されない。硬化剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
硬化剤の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.05〜3.00質量部が好ましく、0.20〜1.50質量部がより好ましい。
【0068】
エポキシ化合物と硬化剤との質量比(エポキシ化合物/硬化剤)は、耐セット性の改善に優れるという観点から、0.5〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。
【0069】
(シリカ)
本発明のゴム組成物は更にシリカを含有することが好ましい。
上記シリカは特に制限されないが、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
上記シリカは、ゴムの補強性の観点から、湿式シリカであることが好ましい。
【0070】
上記シリカの含有量は特に制限されないが、上記ポリマー(本発明のゴム組成物に含有される、変性ジエン系ゴムを所定の量で含むポリマー。)100質量部に対して、20〜130質量部であることが好ましく、25〜95質量部であることがより好ましい。
【0071】
(カーボンブラック)
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを更に含有することが好ましい。
上記カーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF等の各種グレードのものが挙げられる。
【0072】
上記カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、上記ポリマー100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、3〜60質量部であることがより好ましい。
【0073】
(ゴム組成物の製造方法)
本発明のゴム組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明のゴム組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を、例えば60〜160℃の条件下で先に混合して混合物を得て、上記混合物を冷却してから、上記混合物に硫黄または加硫促進剤を加えてこれらを混合することが好ましい。
また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0074】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を使用する空気入りタイヤである。なかでも、本発明のゴム組成物をタイヤトレッドに使用した空気入りタイヤであることが好ましい。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0075】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0076】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【0077】
[コンベアベルト]
本発明のコンベアベルトは、上述した本発明のゴム組成物を使用するコンベアベルトである。
本発明のコンベアベルトとしては例えば、カバーゴム層と、補強層とを少なくとも有するものが挙げられる。カバーゴム層は、上面カバーゴム層と下面カバーゴム層とに分かれていてもよい。この場合、例えば、上面カバーゴム層と下面カバーゴム層との間に補強層を配置することができる。
本発明のゴム組成物をカバーゴム層及び補強層からなる群から選ばれる少なくとも1種に使用することができる。
【0078】
本発明のコンベアベルトは、本発明のゴム組成物を用いる以外は特に制限されない。
本発明のコンベアベルトの製造方法としては、例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明のコンベアベルトが搬送できるものは特に制限されない。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0080】
<ニトロン化合物1の合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(b−1)で表されるテレフタルアルデヒド酸(30.0g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(a−1)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(c−1)で表されるニトロン化合物(カルボキシニトロン、CPN)を得た(41.7g)。収率は86%であった。得られたニトロン化合物をニトロン化合物1とする。ニトロン化合物1の分子量は241である。
【0081】
【化9】
【0082】
<ニトロン化合物2の合成>
300mLナスフラスコに、下記式(6)で表されるベンズアルデヒド(42.45g)およびエタノール(10mL)を入れ、ここに、下記式(5)で表されるフェニルヒドロキシアミン(43.65g)をエタノール(70mL)に溶かしたものを加え、室温で22時間撹拌した。撹拌終了後、エタノールからの再結晶により、下記式(7)で表されるジフェニルニトロンを白色の結晶として得た(65.40g)。収率は83%であった。得られたニトロン化合物をニトロン化合物2とする。
【0083】
【化10】
【0084】
<変性ジエン系ゴム1の製造>
スチレンブタジエンゴム137.5質量部(E580、スチレン量37質量%、重量平均分子量800,000、旭化成ケミカルズ社製、油展品、油展量は正味のスチレンブタジエンゴムの量の37.5質量%)とニトロン化合物1(0.85質量部)とをミキサー(160℃)で160℃の条件下で5分間混合することで、上記SBRをニトロン化合物1で変性した変性ジエン系ゴム1を得た。
上記SBRが有する二重結合の0.18モル%がニトロン化合物1によってカルボキシ基に変性された(二重結合の変性率0.18モル%)。
使用されたニトロン化合物1の変性効率は80%であった。
上記変性率(0.18モル%)は以下のとおり求められた。
【0085】
・変性ジエン系ゴム1の変性率
上記のとおり得られた変性ジエン系ゴム1についてNMR測定を行い、変性率を求めた。具体的には、上述のとおり製造したニトロン化合物1を使用した例については、変性前後のポリマー(原料としてのジエン系ゴム及び変性ジエン系ゴム)について、CDCl
3を溶媒とした
1H−NMR測定(CDCl
3、400MHz、標準物質TMS:テトラメチルシラン)により、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピーク面積を測定し、変性率を算出した。
なお、変性ジエン系ゴムの
1H−NMR測定は、変性後の生成物をトルエンに溶解して、メタノールに沈殿させる精製を2回繰り返した後に、減圧下で乾燥したサンプルを用いて測定した。
【0086】
<変性ジエン系ゴム2の製造>
ニトロン化合物1をニトロン化合物2に代えた他は変性ポリマー1と同様にして製造を行い、上記SBRをニトロン化合物2で変性した変性ジエン系ゴム2を得た。上記SBRが有する二重結合の0.22モル%がニトロン化合物2によって変性された。変性ジエン系ゴム2はカルボキシ基は有さない。上記変性率(0.22モル%)は以下のとおり求められた。
【0087】
・変性ジエン系ゴム2の変性率
示唆操作熱量測定(DSC)(METTLER TOLEDO社製 DSC823e)を用いて、変性ジエン系ゴム2及び原料として使用されたジエン系ゴムを昇温速度 10℃/分で−130℃から40℃まで加熱してガラス転移温度(単位:℃)を測定した。
【0088】
本発明者らは変性ジエン系ゴムの変性率(単位:モル%)とガラス転移温度(Tg)の変化率との間に比例関係が成り立つことを見出した。この知見に基づいて、下記式から変性ジエン系ゴム2の変性率(モル%)を求めた。
変性率=ΔTg/3.6
上記式中、ΔTgは以下のとおり求められる。
ΔTg=変性ジエン系ゴムのTg−原料として使用されたジエン系ゴムのTg
【0089】
<ゴム組成物の調製>
下記第1表に示す各成分を同表に示す量(質量部)で用いてこれらを配合しゴム組成物を製造した。具体的には、まず、下記第1表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、80℃のバンバリーミキサーで5分間混合して混合物を得た。次に、ロールを用いて、上記混合物に硫黄および加硫促進剤を加えて混合し、ゴム組成物を得た。
第3表についても第1表と同様にしてゴム組成物を製造した。
【0090】
なお、第1表において使用された変性ジエン系ゴム1は、正味の変性ジエン系ゴム1を35.6質量部含有する。35.6質量部の正味の変性ジエン系ゴム1は0.3質量部のニトロン化合物1を含有する。第3表も同様である。
【0091】
また、比較例において、カルボキシ基を有さない変性ジエン系ゴム2が使用された場合、または、エポキシ化合物が使用されなかった場合は、エポキシ基/カルボキシ基を計算できないので、第1表のエポキシ基/カルボキシ基の欄に「−」と表記した。
エポキシ基/カルボキシ基は、エポキシ化合物が有するエポキシ基と変性ジエン系ゴムが有するカルボキシ基とのモル比を意味する。
【0092】
<加硫ゴムシートの作製>
上記のとおり調製したゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0093】
<評価>
上記のとおり作製された加硫ゴムシートを用いて以下の評価を行った。結果を第1表、第3表に示す。なお耐セット性の結果を第3表に示す。各評価結果は比較例1の結果を100とする指数で表示された。
【0094】
<伸び(破断時伸び)>
本発明において、伸びは破断時伸びによって評価された。
上記のとおり作製された加硫ゴムシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、上記試験片を用いて引張試験をJIS K6251に準拠して引張速度500mm/分の条件で行い、切断時伸び(E
B)を室温にて測定した。
指数が大きいほど破断時伸びが良好であることを示す。
【0095】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製された加硫ゴムシートについて、JIS K6264−1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗減量を測定した。
なお、耐摩耗性の評価結果は、各例の摩耗量を逆数とし、比較例1の摩耗量の逆数を「100」とする指数で表示された。指数が大きいほど摩耗量が小さく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れる。
【0096】
<ウェットグリップ性能:tanδ(0℃)>
上記のとおり作製された加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度0℃の損失正接tanδ(0℃)を測定した。
指数が大きいほど、tanδ(0℃)の値が大きく、ウェットグリップ性能が優れるものとして評価できる。
【0097】
<耐セット性>
上記のとおり得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6262に準拠して、70℃×22時間、初期歪25%の条件で負荷除去後の歪量を測定した。
耐セット性の評価結果は、各例の負荷除去後の歪量を逆数とし、比較例1の結果の逆数を「100」とする指数で表示された。
指数が大きいほど、耐セット性(圧縮変形を受けてもゴムが永久変形し難い性質)に優れることを示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
第1表に示す各成分の詳細は以下のとおりである。
【表4】
【0102】
第1表に示す結果から明らかないように、所定の変性ジエン系ゴムを含有しない比較例2〜4は、比較例1よりも少なくとも耐摩耗性に劣った。また比較例4は比較例1よりも伸びが低かった。
エポキシ化合物を含有しない比較例5は、比較例1よりもウェットグリップ性能に劣った。
エポキシ化合物の含有量が所定の範囲ではない比較例6〜8は、比較例1よりも少なくとも伸びに劣った。比較例7、8は比較例1よりも耐摩耗性に劣った。
所定の変性ジエン系ゴムを含まず代わりにカルボキシ基を有さない変性ジエン系ゴムを含む比較例9は、比較例1と比較して、高い伸びを維持することができず、耐摩耗性についてさらなる向上が必要であり、ウェットグリップ性能が低下した。
所定のエポキシ化合物を含有せず代わりに1官能のエポキシ化合物を含有する比較例10は、比較例1と比較して、高い伸びを維持することができず、耐摩耗性についてさらなる向上が必要であった。
【0103】
これに対して、実施例1〜4は、ウェットグリップ性能に優れ、高い伸びを維持しつつ耐摩耗性に優れた。
また、実施例1、4、3を比較すると、エポキシ化合物が1分子中に有するエポキシ基の数が多い場合、ウェットグリップ性能に優れることが分かった。また、エポキシ化合物が1分子中に有するエポキシ基の数が3個である場合、耐摩耗性により優れることが分かった。
実施例1、2を比較すると、エポキシ化合物の含有量が多いほど、耐摩耗性、ウェットグリップ性能により優れることが分かった。
実施例1〜4を比較すると、エポキシ基/カルボキシ基のモル比が大きくなるほど、ウェットグリップ性能に優れることが分かった。また、実施例2は、実施例1、3、4よりも耐摩耗性により優れるので、エポキシ基/カルボキシ基のモル比が6〜11である場合、耐摩耗性により優れることが分かった。
【0104】
【表5】
【0105】
第3表で使用された各成分の詳細は、硬化剤1以外は第2表と同じである。硬化剤1の詳細は以下のとおりである。
硬化剤1:4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(4,4′−DDS)、和歌山精化工業株式会社製
【0106】
第3表に示す結果から明らかないように、実施例5は、ウェットグリップ性能に優れ、高い伸びを維持しつつ耐摩耗性に優れたが、耐セット性が比較例1よりも低くなった。
【0107】
これに対して、更に硬化剤を含有する実施例6、7は、実施例5よりも、ウェットグリップ性能により優れ、高い伸びを維持しつつ耐摩耗性により優れ、耐セット性が比較例1よりも優れた。