(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
振動センサにより検出された機械部品の信号の波形から所定の周波数帯域を抽出し、周波数分析された周波数成分と、機械部品の損傷に起因する損傷周波数とを、比較し、機械部品の異常を診断する情報端末器であって、
前記機械部品の損傷に起因する損傷周波数を、前記機械部品の所定の回転速度を基に換算した換算損傷周波数として保存するデータベースを備え、前記損傷周波数は、前記データベースの換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられることを特徴とする情報端末器。
前記データベースに保存された前記換算損傷周波数は、複数の名番の前記機械部品ごとに、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、該名番の機械部品の諸元と、前記機械部品の所定の回転速度を基に算出されたものであり、
前記損傷周波数は、前記データベースの該名番に対応する前記換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられることを特徴とする請求項1に記載の情報端末器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1によると、サーバ側の診断対象物仕様記憶手段には、機械部品の仕様が記憶されているため、機械部品の製造メーカが機械部品の仕様を秘匿化しておきたい場合には、さらなる改善が望まれる。また、情報端末器で測定された加速度データおよび温度データが、そのままサーバに送信され、サーバ側で該データを処理して機械部品の異常を診断するので、情報端末器からサーバに送信するデータ量が膨大になる。このため、データ転送に多くの時間を要すると共に、情報端末器の消費電力も多くなり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、情報端末器に、機械部品の異常を診断する際に必要な、個々の機械部品の諸元を保存せずに、機械部品の諸元を秘匿化することができる情報端末器及び機械部品診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 振動センサにより検出された機械部品の信号の波形から所定の周波数帯域を抽出し、周波数分析された周波数成分と、機械部品の損傷に起因する損傷周波数とを、比較し、機械部品の異常を診断する情報端末器であって、
前記機械部品の損傷に起因する損傷周波数を、前記機械部品の所定の回転速度を基に換算した換算損傷周波数として保存するデータベースを備え、前記損傷周波数は、前記データベースの換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられることを特徴とする情報端末器。
(2) 前記データベースに保存された前記換算損傷周波数は、複数の名番の前記機械部品ごとに、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、該名番の機械部品の諸元と、前記機械部品の所定の回転速度を基に算出されたものであり、
前記損傷周波数は、前記データベースの該名番に対応する前記換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられることを特徴とする(1)に記載の情報端末器。
(3) 前記機械部品の名番を入力又は選択する表示操作部をさらに備え、
前記入力又は選択された前記名番に対応する前記換算損傷周波数が前記データベースにある場合には、前記損傷周波数は、前記データベースの該名番に対応する前記換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられ、
前記入力又は選択された前記名番に対応する前記換算損傷周波数が前記データベースにない場合には、前記損傷周波数は、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、前記表示操作部から直接入力された前記機械部品の諸元と、前記機械部品の実際の回転速度とを基に算出されるか、または、前記表示操作部から直接入力された前記換算損傷周波数と、前記機械部品の実際の回転速度とを基に算出されることを特徴とする(2)に記載の情報端末器。
(4) 前記機械部品は、軸受であり、
前記データベースは、前記軸受の内輪、外輪、転動体、及び保持器の損傷に起因する軸受損傷周波数を、前記軸受の所定の回転速度を元に換算した換算軸受損傷周波数として保存し、
前記軸受損傷周波数は、前記データベースの換算軸受損傷周波数を、前記軸受の実際の回転速度を用いて計算することで与えられることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の情報端末器。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の情報端末器と、該情報端末器と信号を送受信可能な振動分析器とを備える機械部品診断システムであって、
前記振動分析部は、
前記機械部品の振動を検出する前記振動センサと、
該振動センサにより検出された信号の波形から所定の周波数帯域を抽出するフィルタ処理部と、
該フィルタ処理部で得られたフィルタ処理後の波形を周波数分析し、スペクトルデータを得る演算処理部と、
を備え、
前記情報端末器は、
前記振動分析器から送信された前記スペクトルデータに含まれる前記周波数成分と、前記機械部品の損傷に起因する前記損傷周波数とを、比較し、前記機械部品の異常を診断する診断部と、
該診断部が診断した診断結果を出力する表示部と、
を備えることを特徴とする機械部品診断システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の情報端末器によれば、機械部品の損傷に起因する損傷周波数を、機械部品の所定の回転速度を基に換算した換算損傷周波数として保存するデータベースを備え、損傷周波数は、データベースの換算損傷周波数を、機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられる。これにより、情報端末器に個々の機械部品の諸元を保存する必要が無く、機械部品の諸元を秘匿化することができる。
【0008】
また、本発明の機械部品診断システムによれば、情報端末器と、該情報端末器と信号を送受信可能な振動分析部とを備え、振動分析部は、機械部品の振動を検出する振動センサと、該振動センサにより検出された信号の波形から所定の周波数帯域を抽出するフィルタ処理部と、該フィルタ処理部で得られたフィルタ処理後の波形を周波数分析し、スペクトルデータを得る演算処理部と、を備え、情報端末器は、振動分析器から送信されたスペクトルデータに含まれる周波数成分と、機械部品の損傷に起因する損傷周波数とを比較し、機械部品の異常を診断する診断部と、該診断部が診断した診断結果を出力する表示部と、を備えるので、分析器から情報端末器に送信されるデータ量を削減して、高速で機械部品を診断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る機械部品診断システムを
図1〜
図5を参照して詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る機械部品診断システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、機械部品診断システム10は、無線型振動分析器20(以下、「分析器20」とも称す)と、情報端末器40と、を備え、機械部品の診断を行う。なお、以下の説明では、機械部品として転がり軸受11を例に説明する。
【0011】
転がり軸受11は、ハウジング15等に内嵌される外輪12と、図示しない機械設備の回転軸に外嵌される内輪13と、外輪12と内輪13との間で転動可能に配置された複数の転動体14と、転動体14を転動自在に保持する不図示の保持器と、を有する。
【0012】
無線型振動分析器20は、振動センサ21、フィルタ処理部22としてのハイパスフィルタ(HPフィルタ)27及びアンチエイリアスフィルタ(AAフィルタ)29、増幅器28、A/D変換回路30、演算処理部23、内部メモリ24、送受信部26、及び電源31を主に備える。
【0013】
振動センサ21は、例えば、圧電式加速度センサなどで構成され、分析器20をハウジング15に取り付けて、電源31からの電力を供給することで、転がり軸受11の振動を検出可能となる。
【0014】
例えば、振動センサ21が取り付けられる分析器20の先端部には、不図示の雌ねじ部が形成されており、雌ねじ部に螺合する部材に磁石を取り付けることで、分析器20がハウジング15に固定されてもよい。
【0015】
電源31は、リチウム電池などから構成されており、USBケーブルなどを介して外部から充電可能である。また、分析器20の側面には、電源31をON/OFFする不図示のスイッチが設けられている。
【0016】
振動センサ21により検出された振動信号は、HPフィルタ27、増幅器28、AAフィルタ29、及びA/D変換回路30の順に通過する。このため、検出された振動信号は、フィルタ処理部22を構成するHPフィルタ27及びAAフィルタ29がバンドパスフィルタとして機能することで特定の周波数帯域が抽出され、増幅器28によって増幅され、さらにA/D変換回路30によってデジタル信号に変換されて、演算処理部23に送られる。
【0017】
演算処理部23は、フィルタ処理機能を備え、HPフィルタ27及びAAフィルタ29によって抽出された特定の周波数帯域に対してフィルタ処理を行う。したがって、本実施形態では、演算処理部23のフィルタ処理機能が、本発明のフィルタ処理部22の一部として機能する。また、演算処理部23は、フィルタ処理後の信号を、必要に応じて、絶対値化処理やエンベロープ処理を行った後、FFT解析してスペクトルデータを生成する。
算出されたスペクトルデータなどは、内部メモリ24に一時的に記憶される。
【0018】
送受信部26は、例えば、Bluetooth(登録商標)などで構成され、情報端末器40からの動作指令信号を受信すると共に、演算処理部23の分析機能により得られたスペクトルデータの信号を情報端末器40へ送信する。なお、分析器20と情報端末器40との間の通信は、有線で行われてもよい。
【0019】
情報端末器40は、例えば、タブレット等の携帯情報端末器であり、インターネット等の通信回線網を介して分析器20と接続可能である。また、インターネット等を介して本部41のホストコンピュータとも接続可能であり、該ホストコンピュータからアプリケーションプログラムをダウンロードして更新することもできる。
【0020】
情報端末器40は、送受信部42、演算処理部43、内部メモリ44、表示操作部(表示部)45、及びスピーカ46を主に備える。
【0021】
情報端末器40は、送受信部42が分析器20の送受信部26から受信したスペクトルデータに基づいて、内部メモリ44に記憶された損傷周波数などのデータベースを参照しながら所定の手順に従って演算処理部43で演算処理し、その結果を表示操作部45に出力する。
【0022】
送受信部42は、動作指令信号の送信、スペクトルデータの信号の受信等、分析器20との間で各種データの送受信を行う。
【0023】
表示操作部45は、液晶パネルからなり、情報端末器40に内蔵する制御ソフトにより画面表示が切り替え可能である。表示操作部45は、振動値、診断結果、各種波形など処理結果を表示すると共に、転がり軸受11の診断メニュー、転がり軸受11の名番、回転輪の回転速度などを選択して入力することができる。
【0024】
演算処理部43は、分析器20の送受信部26から受信したスペクトルデータに基づいて、内部メモリ44に記憶された損傷周波数などのデータベースを参照し、転がり軸受11の異常の有無、及び異常部位を診断する。
【0025】
なお、内部メモリ44に記憶されている転がり軸受11の損傷に起因する損傷周波数は、該転がり軸受11の所定の回転速度を元に換算した、転がり軸受11の部位ごとの換算損傷周波数であり、診断に使用される損傷周波数は、換算損傷周波数を、転がり軸受11の実際の回転速度を用いて計算することで得られる。例えば、
図3に示す関係式を用いて、登録されている軸受名番の内部諸元(該関係式に必要な寸法、転動体の数等)から予め算出しておいた単位回転速度時の内輪傷成分Si1、外輪傷成分So1、転動体傷成分Sb1、保持器成分Sc1を換算軸受損傷周波数とし、この換算軸受損傷周波数をDLL(Dynamic Link Library)として保存する。
【0026】
転がり軸受11の名番入力は、情報端末器40の表示画面に表示される名番一覧表から選択してもよく、個別に手動入力することもできる。なお、名番が登録されていない転がり軸受11については、転がり軸受11の諸元と、機械部品の実際の回転速度とを直接入力することで、演算処理部43によって、
図3に示す所定の関係式を用いて、転がり軸受11の部位ごとの損傷に起因する損傷周波数が計算される。この場合、データベースには、
図3に示す所定の関係式が保存されている。
若しくは、名番が登録されていない転がり軸受11については、外部で計算した所定の回転速度における換算損傷周波数を表示操作部45から直接入力しておき、演算処理部43が、この換算損傷周波数を用いて、機械部品の実際の回転速度を基に損傷周波数を算出するようにしてもよい。
いずれにおいても、名番が登録されていない転がり軸受11の換算損傷周波数は、実際の機械部品の運転時に呼び出せるように、名番と共に、内部メモリ44に保存されることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態の機械部品診断システム10による測定、診断などの手順について説明する。
まず、操作者は、分析器20の電源31のスイッチをONにすると共に、情報端末器40の表示操作部45の入力画面から、診断メニューを選択する(ステップS1)。
診断メニューとしては、軸受診断機能、振動値測定機能、簡易診断機能、周波数分析機能の各機能を主に備える。軸受診断機能は、軸受の内外輪、転動体、及び保持器の損傷の有無、及びその損傷部位を診断する。振動値測定機能は、振動の変位、速度、加速度などの実効値、ピーク値、波高率を測定する。簡易診断機能は、検出された振動の変位、速度、加速度などの実効値、ピーク値、波高率を、予め設定されている閾値と比較して、転がり軸受の異常の有無を簡易的に診断する。周波数分析機能は、FFTなどにより振動波形を周波数分析したFFT波形を表示する。
【0028】
<軸受診断>
機械部品診断システム10による軸受診断機能が選択されると、
図2に示すように、まず、ステップS1において、診断すべき軸受の名番、回転数などを手動入力し、内部メモリ44から、記憶されている該名番の軸受に対応する換算損傷周波数などの各種情報を呼び出して設定し、診断開始を指示する(ステップS2)。
【0029】
分析器20は、情報端末器40の送受信部42から送信された指令信号に基づいて作動し、振動センサ21が転がり軸受11の振動の時間波形を取得する(ステップS3)。
【0030】
取得された振動の信号は、HPフィルタ27及びAAフィルタ29によりフィルタ処理され(ステップS4)、特定の周波数帯域が抽出される。その後、特定の周波数帯域から、演算処理部23のフィルタ機能で所定の周波数帯域をさらに抽出する。
【0031】
そして、演算処理部23は、抽出された所定の周波数帯域に対して周波数分析を行い、FFT波形を算出する(ステップS5)、あるいは、絶対値化処理やエンベロープ処理を行った後に周波数分析を行い、エンベロープFFT波形を算出する(ステップS6)。なお、FFT波形は、指数平均を用いて、平均化処理が行われている。演算処理部23は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT演算部でもあり、FFTアルゴリズム及びエンベロープ分析に基づいて振動信号の周波数スペクトルを算出する。
【0032】
算出された周波数スペクトルは、スペクトルデータとして分析器20の送受信部26から情報端末器40に送信される。情報端末器40に送信されるデータは、振動センサ21で検出された時間波形信号がFFT処理されたスペクトルデータであるので、時間波形を情報端末器40に送信する場合に比べて送信するデータ量が大幅に削減されている。このため、該データの転送時間が短くなり、通信時間が短縮される。
【0033】
情報端末器40の送受信部42で受信されたスペクトルデータは、演算処理部43の軸受診断部が、内部メモリ44に記録されている軸受情報を参照して転がり軸受11の異常の有無などを診断する(ステップS7)。
【0034】
具体的には、転がり軸受11の部位ごとの損傷に起因する軸受損傷周波数を、該転がり軸受に対応する換算軸受損傷周波数と、転がり軸受11の実際の回転速度とを用いて予め計算する。そして、分析器20から受信したスペクトルデータを対象に、軸受損傷周波数ごとの照合(「ピーク周波数=軸受損傷周波数」の成否)により、転がり軸受11の傷などの異常の発生有無とその部位を特定する。
【0035】
つまり、転がり軸受11の軸受損傷周波数成分には、軸受傷成分、即ち、内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Scがあり、この周波数成分それぞれのレベルを抽出することになる。そして、異常の部位が、外輪12、内輪13、転動体14、保持器のいずれかであるかを特定する。そして、その結果を表示操作部45に出力して表示する(ステップS8)。
【0036】
<振動値測定/簡易診断>
ステップS1において、機械部品診断システム10による振動値測定/簡易診断が選択されると、
図4に示すように、振動値測定/簡易診断の動作指令が、送受信部42及び送受信部26を介して分析器20に送信されて、振動センサ21が転がり軸受11の振動の時間波形を取得する(ステップS3)。
【0037】
次いで、演算処理部23が、簡易診断機能で診断に使用される診断パラメータである振動値を算出する(ステップS10)。診断パラメータとして、振動の加速度や速度の実効値(rms)、ピーク値(peak)、波高率(c.f.)、及び変位のピーク値(peak)の少なくとも一つの振動値が簡易診断値として算出される。
その後、算出された振動値は、送受信部26、42を介して情報端末器40に送信される。
【0038】
そして、これら算出された加速度、速度、及び変位の診断パラメータから、簡易診断機能によるISO基準(例えば、ISO 10816−1等)の絶対値判定が可能となる。また、任意の閾値の判定も可能、即ち、算出された診断パラメータである加速度や速度の実効値(rms)、ピーク値(peak)、波高率(c.f.)、及び変位のピーク値(peak)を、それぞれの閾値と比較して簡易診断を行う(ステップS11)。「実効値(rms)、ピーク値(peak)、波高率(c.f.)>各閾値」であるときには、転がり軸受11の異常有りと判定され、各値が閾値以下である場合には、異常なしと判定される。このため、内部メモリ44には、各閾値が保存されている。
【0039】
簡易診断された診断結果は、表示操作部45にて表示される(ステップS12)。
【0040】
なお、ステップS11における簡易診断は、分析器20で行っても良い。さらに、ステップS12における結果表示も分析器20で行っても良い。分析器20で結果表示を行う場合には、LEDライトなどの光やアラームなどの音、その他一般的な警告方法を採用してもよい。
【0041】
<周波数分析>
ステップS1において、機械部品診断システム10による周波数分析が選択されると、
図5に示すように、周波数分析の動作指令が、送受信部42及び送受信部26を介して分析器20に送信される。分析器20は、情報端末器40から受信した指令信号に基づいて作動して、振動センサ21が転がり軸受11の振動の時間波形を取得する(ステップS3)。
【0042】
取得された振動の時間波形は、HPフィルタ27、AAフィルタ29及び演算処理部23のフィルタ処理機能によりフィルタ処理され(ステップS4)、軸受診断の場合と同様に、所定の周波数帯域が抽出される。
【0043】
そして、演算処理部23が、抽出された所定の周波数帯域における、振動信号の周波数分析を行う(ステップS5)。演算処理部23は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT演算部であり、FFTアルゴリズムに基づいてFFT波形を算出する。なお、FFT波形は、指数平均を用いて、平均化処理が行われており、また、エンベロープ処理を選択的に実行可能である。
【0044】
算出されたFFT波形は、分析器20の送受信部26から情報端末器40の送受信部42に送信され、その結果を情報端末器40の表示操作部45に表示する(ステップS13)。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の情報端末器10によれば、転がり軸受11の損傷に起因する損傷周波数を、転がり軸受11の所定の回転速度を基に換算した換算損傷周波数として保存するデータベース(内部メモリ44)を備え、損傷周波数は、データベースの換算損傷周波数を、転がり軸受11の実際の回転速度を用いて計算することで与えられる。これにより、情報端末器40に個々の転がり軸受11の諸元を保存せずに、損傷周波数を取得することができ、転がり軸受11の諸元を秘匿化することができる。
特に、本実施形態では、データベースに保存された換算損傷周波数は、複数の名番の転がり軸受11ごとに、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、該名番の転がり軸受11の諸元と、転がり軸受11の所定の回転速度とを基に算出されたものであり、損傷周波数は、データベースの該名番に対応する換算損傷周波数を、転がり軸受の実際の回転速度を用いて計算することで与えられる。
【0046】
また、本実施形態では、転がり軸受11の名番を入力又は選択する表示操作部45をさらに備え、入力又は選択された名番に対応する換算損傷周波数がデータベースにある場合には、損傷周波数は、データベースの該名番に対応する換算損傷周波数を、転がり軸受11の実際の回転速度を用いて計算することで与えられ、入力又は選択された名番に対応する換算損傷周波数がデータベースにない場合には、損傷周波数は、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、表示操作部から直接入力された転がり軸受11の諸元と、転がり軸受11の実際の回転速度とを基に算出されるか、または、表示操作部45から直接入力された換算損傷周波数と、転がり軸受11の実際の回転速度とを基に算出されるようにしている。このため、情報端末器40のデータベースに換算損傷周波数が保存されていない名番の転がり軸受11に対しても、損傷周波数を計算することができ、転がり軸受11の異常を診断することができる。
【0047】
また、本実施形態の機械部品診断システム10によれば、情報端末器40と、該情報端末器40と信号を送受信可能な振動分析部20とを備え、振動分析部20は、機械部品の振動を検出する振動センサ21と、該振動センサ21により検出された信号の波形から所定の周波数帯域を抽出するフィルタ処理部22と、該フィルタ処理部22で得られたフィルタ処理後の波形を周波数分析し、スペクトルデータを得る演算処理部23と、を備え、情報端末器40は、振動分析器20から送信されたスペクトルデータに含まれる周波数成分と、転がり軸受11の損傷に起因する損傷周波数とを比較し、転がり軸受11の異常を診断する演算処理部(軸受診断部)43と、該演算処理部43が診断した診断結果を出力する表示部と、を備えるので、振動分析器20から情報端末器40に送信されるデータ量を削減して、高速で機械部品を診断することができる。
【0048】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係る機械部品診断システムの構成を示すブロック図である。
図6に示すように、機械部品診断システム10は、無線型振動分析器20と、情報端末器40と、を備え、第1実施形態で述べた転がり軸受11の診断機能に加え、転がり軸受11の運転音をスピーカ46によって再生する聴音機能を有する。このため、第2実施形態では、診断メニューに聴音機能が追加される。
【0049】
運転音の聴音には、振動センサ21が取得した転がり軸受11の振動の時間波形が用いられるため、分析器20から情報端末器40に振動の時間波形が送信される。このため、本実施形態の機械部品診断システム10は、情報端末器40側にフィルタ処理部47を備え、フィルタ処理部47は、転がり軸受11の振動の時間波形から特定の周波数帯域を抽出して演算処理部43に受け渡す。また、情報端末器40の演算処理部43は、特定の周波数帯域の時間波形に対して、エンベロープ処理やFFT解析する機能を有する。
【0050】
<聴音>
第2実施形態では、ステップS1において、機械部品診断システム10による聴音機能が選択されると、
図7に示すように、聴音の動作指令が送受信部42及び送受信部26を介して分析器20に送信される。分析器20は、情報端末器40から受信した指令信号に基づいて作動して、振動センサ21が転がり軸受11の振動の時間波形を取得する(ステップS3)。
【0051】
取得された振動の時間波形は、送受信部26及び送受信部42を介して情報端末器40に送信される。受信された振動の時間波形は、該時間波形データの繰り返し使用を可能とするため、内部メモリ44にデータ保存される(ステップS20)。
【0052】
次いで、フィルタ処理部47で、聴音を希望する特定の周波数帯域を抽出するフィルタ処理を行い(ステップS21)、演算処理部43でFFTアルゴリズムに基づいて振動信号のFFT波形を算出する(ステップS22)。算出されたFFT波形に相当する運転音が、スピーカ46に出力されて再生される(ステップS23)。また、別の周波数帯域の運転音を聞きたい場合には、ステップS21に戻り、内部メモリ44に保存されている振動の時間波形を再取得して同様の操作を行う。
【0053】
このように、本実施形態の機械部品診断システム10によれば、聴音機能を付加することができる。特に、情報端末器40にフィルタ処理部47を設け、演算処理部43でFFT解析を行うようにすることで、複数の周波数帯域での運転音を再生および表示することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態の機械部品診断システム10と同様である。
【0054】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えは、診断の対象となる機械部品は、上記した転がり軸受11に限定されず、運転により振動が発生する機械部品、例えば、ギアなどの機械部品にも、同様に適用できる。
【0055】
また、上記実施形態の機械部品診断システム10では、分析器20及び情報端末器40を1対1で対応づけして、特定の分析器20及び特定の情報端末器40でデータの送受信を行うようにしている。しかしながら、機械部品診断システム10による各種の診断は、1台の情報端末器40に複数の分析器20を対応付け、多数の機械部品を巡回監視するように構成してもよい。
【0056】
巡回監視の場合、分析器20を多数の機械部品にそれぞれ設置しておき、タブレットなどの携帯可能な情報端末器40で多数の機械部品を監視、診断するようにしてもよい。また、巡回のために情報端末器40が分析器20に接近したとき、即ち、機械部品診断の際に分析器20の電源が自動的にONとなるようにして、情報端末器40からの指示に従って、検出・解析・送信を自動的に行うようにしてもよい。
【0057】
また、無線型振動分析器20に設置されたUSB端子は、上述したように、外部から電源31を充電する機能に加え、時間波形やスペクトルデータを有線で情報端末器40へ送信するようにしてもよい。
【0058】
さらに、情報端末器40が保存する各種データをホストコンピュータなど、他の機器に取り込んで、巡回ルートの管理、振動レベルの時間経過傾向の管理、簡易報告書の作成など、さらに詳細な管理が可能となる。
【0059】
また、上記実施形態の情報端末器40の内部メモリ44に保存された、換算損傷周波数のデータベースは、機械部品(転がり軸受11)の諸元を秘匿化できる上で有効であり、本発明の無線型振動分析器20を用いて異常を診断する場合に限定されない。
【0060】
さらに、上記実施形態では、換算損傷周波数のデータベースを内部メモリ44に保存し、損傷周波数は、この換算損傷周波数を基に、機械部品の実際の回転速度を用いて計算しているが、損傷周波数の算出はこれに限定されない。
【0061】
即ち、情報端末器40のデータベースには、
図3に示すような損傷周波数を与える所定の関係式を保存しておき、表示操作部にて直接入力された機械部品の諸元と、機械部品の実際の回転速度を基に算出するようにしてもよい。
或いは、換算損傷周波数を外部で予め手計算しておき、表示操作部から直接入力された換算損傷周波数と、機械部品の実際の回転速度を基に算出するようにしてもよい。
このため、これらいずれかの手法によって損傷周波数を算出して異常の診断を行う場合には、情報端末器40のデータベースには、換算損傷周波数が予め保存されない構成であってもよい。
【0062】
即ち、本発明は、振動センサにより検出された機械部品の信号の波形から所定の周波数帯域を抽出し、周波数分析された周波数成分と、機械部品の損傷に起因する損傷周波数とを、比較し、機械部品の異常を診断する情報端末器であって、
前記機械部品の損傷に起因する損傷周波数は、該損傷周波数を与える所定の関係式に対して、前記表示操作部から直接入力された前記機械部品の諸元と、前記機械部品の実際の回転速度を基に算出されるか、または、前記表示操作部から直接入力された前記換算損傷周波数と、前記機械部品の実際の回転速度を基に算出されるものも含まれる。
【0063】
また、本発明の振動分析器は、上記実施形態の無線型のものに限定されず、有線型のものであってもよい。
【0064】
また、本実施形態では、HPフィルタ27、AAフィルタ29及び演算処理部23のフィルタ処理機能によってフィルタ処理部22を構成しているが、本発明のフィルタ処理部22は、該振動センサにより検出された信号の波形から、周波数分析される所定の周波数帯域を抽出するものであれば、本実施形態に限定されるものでなく、アナログフィルタだけで構成されてもよいし、デジタルフィルタだけで構成されてもよい。
【0065】
また、本発明の振動分析器は、他のセンサを実装する分析器としてもよい。その場合、例えば、温度計そのものを実装してもよいし、例えば、他のセンサを外部に備え、その信号を受け取る端子を備え付けても良い。
【0066】
さらに、本発明の振動分析器の取り付け位置は、適宜決定されればよい。例えば、回転軸に対して垂直方向(ラジアル方向)に配置されてもよく、平行方向(スラスト方向)に配置されてもよい。
【0067】
本出願は、2017年3月24日出願の日本特許出願2017−59297に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
情報端末器は、振動センサにより検出された機械部品の信号の波形から所定の周波数帯域を抽出し、周波数分析された周波数成分と、機械部品の損傷に起因する損傷周波数とを、比較し、機械部品の異常を診断する。情報端末器は、前記機械部品の損傷に起因する損傷周波数を、前記機械部品の所定の回転速度を基に換算した換算損傷周波数として保存するデータベースを備え、前記損傷周波数は、前記データベースの換算損傷周波数を、前記機械部品の実際の回転速度を用いて計算することで与えられる。これにより、情報端末器に個々の機械部品の諸元を保存する必要が無く、機械部品の諸元を秘匿化することができる。