【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0053】
(実施例1) アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株の菌学的性状
本発明者等によってタイ王国の植物より新たに、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株を分離した。アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株の菌学的性状は以下の通りであった。
(I)形態的性質
本菌株は、スタ−チ・無機塩寒天、酵母エキス・麦芽エキス寒天、酵母エキス・スタ−チ寒天などで良好に生育し、スタ−チ・無機塩寒天で胞子の着生がみられた。胞子は大きさ約1μm×0.5μmであり、気菌糸より6〜8個の胞子が連なり、短い螺旋状の胞子鎖を形成していた。
(II)各種培地上での性状
イ−・ビ−・シャ−リング(E.B.Shirling)とデ−・ゴットリ−ブ(D.Gottlieb)の方法(インタ−ナショナル・ジャ−ナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジ−、16巻、313頁、1966年)によって調べた本生産菌の培養性状を表1に示す。色調は標準色として、カラ−・ハ−モニ−・マニュアル第4版(コンテナ−・コ−ポレ−ション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定し、色票名とともに括弧内にそのコ−ドを併せて記した。以下は特記しない限り、27℃、3週間目の各培地における観察の結果である。
【0054】
【表1】
【0055】
(III)生理学的諸性質
(1)メラニン色素の生成
(イ)チロシン寒天 :陰性
(ロ)グルコ−ス・ペプトン・ゼラチン培地 :陰性
(2)硝酸塩の還元 :陽性
(3)ゼラチンの液化(20℃) :陰性
(グルコ−ス・ペプトン・ゼラチン培地)
(4)スタ−チの加水分解 :陰性
(5)脱脂乳の凝固(37℃) :陰性
(6)脱脂乳のペプトン化(37℃) :陰性
(7)生育温度範囲 :19〜40℃
(8)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリ−ブ寒天培地)
利用する:D−グルコ−ス、D−キシロ−ス、D−マンニト−ル、D−フルクト−ス、ラフィノ−ス
L−ラムノ−ス、myo−イノシト−ル、メリビオ−ス、D−ガラクト−ス
利用しない:L−アラビノ−ス、ダルシト−ル、マルト−ス、D−ソルビト−ル、スクロ−ス
(9)セルロ−スの分解 :陰性
【0056】
(IV)細胞の化学組成
細胞壁中にメソ型のジアミノピメリン酸、アラニン、グルタミン酸、リシンを含み、全菌体糖としてマジュロ−スを含む。主要メナキノンはMK−9(H
6)とMK−9(H
8)で、主要脂肪酸はiso−C16:0,10−methylC17:0,C16:1およびanteiso−17:0である。細胞壁ムラミン酸はアセチル型である。ミコ−ル酸は含まれない。
(V)16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子のうち約1400塩基の配列を決定し、DNAデ−タベ−スに登録され公開されているアクチノアロムラス属に属する菌株およびその他の放線菌のデ−タを用い近隣結合法による系統解析の結果、本菌株はアクチノアロムラス属に分類することが妥当であり、アクチノアロムラス フルブス(Actinoallomurus fulvus)およびアクチノアロムラス アマミエンシス(Actinoallomurus amamiensis) に近縁な一菌株である。
【0057】
(VI)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁にメソ型のジアミノピメリン酸およびリシンを有する。全菌体糖にはマジュロ−スを含む。細胞壁ムラミン酸はアセチル型で、主要メナキノンはMK−9(H
6)とMK−9(H
8)である。ミコ−ル酸を含有しない。気菌糸より短い螺旋状の胞子鎖を形成する。コロニ−は白色の色調を呈し、メラニン色素は産生しない。
これらの結果および16S rRNA遺伝子の解析結果から、アクチノアロムラス属に属する1菌種であると判断された。なお、本菌株はアクチノアロムラス(Actinoallomurus sp.)MK10−036として、2012年1月24日付にて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センタ−に寄託されている(受領番号 NITE ABP−1208)。
【0058】
(実施例2) アクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の取得
酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに、液体培地で培養したアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.) MK10−036(受領番号 NITE ABP−1208)を2本に各1ml植菌し、27℃で7日間振盪培養した。得られた種培養液を酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)5,000mLを含む7,000mL容ジャ−ファ−メンタ−、2基に各100mLずつ植菌し、27℃、通気量0.2MMV、撹拌200rpmで10日間撹拌培養した。
【0059】
培養液10Lを3000rpm、15分間遠心分離し、上清と菌体に分けた。上清を5Lの酢酸エチルで2回抽出を行い、酢酸エチル層を減圧下乾固して576mgの粗物質1を得た。一方、菌体に2Lのアセトンを加え、1時間撹拌して菌体成分の抽出を行った後に、3000rpm、15分間遠心分離した。得られた上清からアセトンを留去後、1Lの酢酸エチルで2回抽出を行い、酢酸エチル層を減圧下乾固して170mgの粗物質2を得た。粗物質1および2を混合しクロロホルムで充填したシリカゲルカラム(φ40×45mm)にのせ、クロロホルム−メタノ−ル(100:1)および(100:2)でそれぞれ溶出し、減圧濃縮により粗物質3(205mg)および粗物質4(161mg)を得た。
【0060】
粗物質3をメタノ−ルに溶解し、高速液体クロマトグラフィ−にて逆相カラム(Pegasil ODS SP−100、φ20×250mm、センシュ−科学(株)製、日本国)に注入し、アセトニトリル−水(60:40)、流速8mL/分、UV 210nm検出の条件で溶出した。保持時間17.7分、26.8分、30.7分および33.6分のピ−クを分取し、減圧下乾固することでアクチノアロライドE物質(1.8mg)、アクチノアロライドA物質(81.7mg)、アクチノアロライドD物質(2.7mg)およびアクチノアロライドC物質(4.4mg)を得た。
【0061】
粗物質4をメタノ−ルに溶解し、ODS(φ15×20mm、富士シリシア化学(株)製、日本国)オ−プンカラムクロマトグラフィ−を用いて、アセトニトリル−水溶媒系で段階溶出(60:40、70:30、80:20、90:10、100:0)し、アセトニトリル−水(60:40)を減圧下乾固することで粗物質5を得た。粗物質5を高速液体クロマトグラフィ−にて逆相カラム(Pegasil ODS SP−100、φ20×250mm、センシュ−科学(株)製)に注入し、アセトニトリル−水(60:40)、流速8mL/分、UV 210nm検出の条件で溶出した。保持時間24.5分のピ−クを分取し、減圧下乾固することでアクチノアロライドB物質(5.9mg)を得た。
得られたアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の理化学的性状を測定した。
【0062】
アクチノアロライドA物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:564
(3)分子式:C
32H
52O
8
(4)高速原子衝突イオン化による[M+Na]
+理論値(m/z)587.3560、実測値(m/z)587.3570
(5)比旋光度:[α]
D25=105.2°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):末端吸収
(7)赤外部吸収極大ν
max(KBr錠):3435,2968,2927,2864,1749,1709,1630,1458,1371,1317,1147,1115,1057,1022,978cm
−1に極大吸収を有する。
(8)
1H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.40(1H,dt),5.13(1H,t),4.88(1H,d),3.64(1H,dd),3.26(1H,dd),2.91(1H,d),2.83(1H,dd),2.77(1H,d),2.67(1H,dq),2.49(1H,m),2.47(1H,m),2.45(1H,m),2.35(1H,d),2.34(1H,m),2.30(1H,d),2.13(1H,d),1.84(1H,m),1.81(1H,m),1.79(1H,d),1.78(1H,m),1.63(3H,brd),1.61(1H,m),1.47(3H,s),1.34(3H,s),1.14(3H,t),1.07(3H,d),1.05(3H,d),1.04(3H,t),1.01(3H,d),0.88(3H,d)
(9)
13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.6,217.3,170.2,133.7,131.7,128.8,126.5,102.3,82.2,76.5,74.9,73.6,53.1,48.9,47.5,46.7,40.5,38.8,36.0,34.8,32.2,29.9,26.8,18.4,17.9,17.2,16.9,16.1,12.1,10.3,9.4,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0063】
アクチノアロライドA物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドA物質は下記式Iで表される構造であることが決定された。
【0064】
【化11】
【0065】
アクチノアロライドB物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:566
(3)分子式:C
32H
54O
8
(4)エロクトロスプレ−イオン化による[M+Na]
+理論値(m/z)589.3716、実測値(m/z)589.3713
(5)比旋光度:[α]
D25=102.7°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):末端吸収
(7)赤外部吸収極大ν
max(KBr錠): 3437,2972,1751,1712,1628,1454,1379,1319,1248,1149,1109,1059,974cm
−1に極大吸収を有する。
(8)
1H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.38(1H,dt),5.13(1H,t),4.88(1H,d),3.70(1H,ddd),3.51(1H,dd),3.26(1H,dd),2.91(1H,d),2.82(1H,dd),2.75(1H,d),2.52(1H,m),2.52(1H,m),2.32(2H,m),2.32(1H,m),2.12(1H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.78(1H,m),1.77(1H,d),1.65(1H,m),1.62(3H,brd),1.59(1H,m),1.52(1H,m),1.47(3H,brd),1.42(1H,m),1.34(3H,s),1.13(3H,t),1.03(3H,d),1.00(3H,d),0.90(3H,t),0.88(3H,d),0.84(3H,d)
(9)
13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.8,170.1,133.2,131.7,129.1,126.5,102.3,82.1,82.0,79.3,76.6,73.6,53.3,48.9,46.6,40.6,38.7,37.8,36.8,32.4,29.8,28.1,26.8,18.4,17.9,17.2,17.0,16.2,12.1,10.4,10.3,4.2
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0066】
アクチノアロライドB物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドB物質は下記式IIで表される構造であることが決定された。
【0067】
【化12】
【0068】
アクチノアロライドC物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:546
(3)分子式:C
32H
50O
7
(4)エレクトロスプレ−イオン化による[M+Na]
+ 理論値(m/z)569.3454、実測値(m/z)569.3444
(5)比旋光度:[α]
D25=190.0°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):278.5nm(ε値:9,773)
(7)赤外部吸収極大ν
max(KBr錠):3437,2972,2927,1726,1697,1620,1454,1392,1277,1213,1111,1057,984cm
−1に極大吸収を有する。
(8)
1H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.27(1H,dt),5.16(1H,t),4.88(1H,d),3.64(1H,dd),3.63(1H,d),3.31(1H,d),3.27(1H,dd),2.67(1H,dq),2.48(1H,m),2.46(2H,m),2.45(2H,d),2.44(1H,m),2.30(1H,m),2.19(2H,q),2.13(1H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.79(1H,m),1.63(3H,brd),1.43(3H,s),1.41(3H,s),1.07(3H,d),1.05(3H,d),1.04(3H,t),1.04(3H,t),1.00(3H,d),0.89(3H,d)
(9)
13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.2,206.4,177.4,168.3,133.7,131.0,128.8,126.2,119.0,87.6,76.6,76.0,74.9,47.9,47.5,41.1,38.9,37.5,35.9,34.7,32.2,29.9,22.2,17.9,17.0,17.0,16.1,14.9,12.3,10.3,9.4,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0069】
アクチノアロライドC物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドC物質は下記式IIIで表される構造であることが決定された。
【0070】
【化13】
【0071】
アクチノアロライドD物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:548
(3)分子式:C
32H
52O
7
(4)高速原子衝突イオン化による[M+H]
+ 理論値(m/z)549.3791、実測値(m/z)549.3792
(5)比旋光度:[α]
D25=167.7°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):278.5nm(ε値:9,316)
(7)赤外部吸収極大ν
max(KBr錠):3438,2972,2875,1726,1689,1620,1454,1392,1279,1213,1057,968cm
−1に極大吸収を有する。
(8)
1H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.27(1H,dt),5.17(1H,t),4.88(1H,d),3.70(1H,dt),3.63(1H,d),3.52(1H,dd),3.31(1H,d),3.27(1H,dd),2.50(1H,m),2.48(1H,m),2.45(2H,d),2.28(1H,q),2.28(1H,m),2.19(1H,q),2.11(2H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.78(1H,m),1.66(1H,m),1.63(3H,brd),1.50(1H,m),1.43(3H,s),1.41(3H,s),1.40(1H,m),1.05(3H,t),1.04(3H,d),1.00(3H,d),0.90(3H,t),0.89(3H,d),0.84(1H,d)
(9)
13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:206.4,177.4,168.3,133.2,130.9,129.1,126.2,119.0,87.6,82.0,79.3,76.9,76.0,47.9,41.1,38.8,37.8,37.5,36.8,32.3,29.9,28.1,22.2,17.9,17.1,17.0,16.2,14.9,12.3,10.4,10.4,4.2
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0072】
アクチノアロライドD物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドD物質は下記式IVで表される構造であることが決定された。
【0073】
【化14】
アクチノアロライドD物質
【0074】
アクチノアロライドE物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:546
(3)分子式:C
32H
50O
7
(4)高速原子衝突イオン化による[M+H]
+ 理論値(m/z)547.3635、実測値(m/z)547.3641
(5)比旋光度:[α]
D25=120.1°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):274.5nm(ε値:8,627)
(7)赤外部吸収極大ν
max(KBr錠):3437,2974,2939,2879,1730,1697,1626,1454,1390,1255,1099,1057,987cm
−1に極大吸収を有する。
(8)
1H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.22(1H,t),4.97(1H,dd),4.81(1H,d),3.82(1H,d),3.64(1H,dd),3.26(1H,dd),3.26(1H,d),2.66(1H,dq),2.64(1H,m),2.62(1H,d),2.54(1H,m),2.49(1H,m),2.47(1H,d),2.46(1H,m),2.30(1H,m),2.23(1H,m),2.22(1H,m),2.12(1H,dd),1.96(1H,m),1.91(1H,m),1.68(1H,dd),1.62(3H,brd),1.53(1H,m),1.53(3H,s),1.36(3H,s),1.11(3H,t),1.09(3H,d),1.06(3H,t),1.04(3H,d),0.94(3H,d),0.81(3H,d)
(9)
13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.3,207.0,177.6,166.7,132.9,130.7,129.4,126.6,117.6,88.2,81.4,74.8,72.7,47.5,46.4,40.2,39.4,35.9,35.8,35.2,34.8,31.6,24.9,17.9,17.7,16.5,15.9,15.6,13.1,9.5,8.1,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0075】
アクチノアロライドE物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドE物質は下記式Vで表される構造であることが決定された。
【0076】
【化15】
【0077】
(実施例3)アクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のin vitroにおけるトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.b.brucei GUTat3.1株)
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のin vitroでのT.b.brucei GUTat3.1株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、トリパノソ−マ原虫のナガナ病の起因原虫T.b.brucei GUTat3.1株(名古屋市立大学医学部藪義貞講師より分与可能)を用いた。原虫の維持継代は藪らの方法[Yabu Y, Koide T, Ohota N, Nose M, Ogihara Y. Continuous growth of bloodstream forms of Trypanosoma brucei brucei in axenic culture system containing a low concentration of serum. Southeast Asian J. Trop. Med. Public Health,29:591−595(1998)]を若干改変して行った。すなわち、24穴プレ−トの各ウェル内で、10%非動化牛胎児血清(FBS)、抗生物質及び種々の補給剤添加イスコフ改変ダルベッコ(IMDM)培地を用い、37℃、5%CO
2−95% air下で培養を行い、1〜3日毎に培地交換して連続培養を行った。
【0078】
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、乙黒らの方法[Otoguro K,Ishiyama A, Namatame M, Nishihara A, Furusawa T, Masuma R, Takahashi Y, Shiomi K, Yamada H, Omura S. Selective and Potent in vitro antitrypanosomal activities of ten microbial metabolites. J.Antibiotics, 61:372−378(2008)]に従って行った。すなわち、96穴プレ−トの各ウェルに前培養された原虫浮遊液(原虫数2.0−2.5×10
4個/mLに調整)95mLと化合物溶液(50%エタノ−ル水溶液) 5mLを添加し、混和後、37℃、5%CO
2−95% air下で72時間培養を行った。
【0079】
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにAlamar Blue試薬(Sigma−Aldorich社製、米国)10μLを添加、混和し、37℃にて5%CO
2−95% air下で3−6時間培養後、原虫の酸化還元電位を蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−(Bio−Tek社製、米国)にて励起波長528/20nm、蛍光波長590/35nmでの蛍光強度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。本化合物の50%原虫増殖阻止濃度(IC
50値)は蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−付属ソフトウェアのKC−4(Bio−Tek社製、米国)の化合物濃度作用曲線より求めた。
【0080】
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知の抗トリパノソ−マ原虫薬として、ペンタミジン、スラミン及びエフロニチン[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国) より分与]を用いた。
【0081】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.b.brucei GUTat3.1株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表2に示す通りであった。
【0082】
【表2】
【0083】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のT.b.brucei GUTat3.1株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC
50値)は各々0.0049,1.01,0.11,0.77および0.13 μg/mLであり、アクチノアロライドA物質が最も優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、ペンタミジンと同程度、スラミンおよびエフロニチンの322および463倍強い抗トリパノソ−マ原虫活性であった。アクチノアロライドB,C,DおよびE物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較するとスラミンおよびエフロニチンの2−14倍強い抗トリパノソ−マ原虫活性であった。
【0084】
(実施例4)アクチノアロライドA物質のin vitroにおけるトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.b.rhodensiense STIB900株)
本発明のアクチノアロライドA物質のin vitroでのT.b.rhodensiense STIB900株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、ロ−デシアアフリカ睡眠病の起因原虫T.b.rhodensiense STIB900株[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国)より分与]のトリポマスチゴ−ト体を用いた。24穴プレ−トの各ウェル内で、MEM培地に15%非動化牛胎児血清(FBS)、25mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−2−エタンスルホン酸(HEPES)、0.1%(w/w)グルコ−ス、1% MEM非必須アミノ酸、0.2mM 2−メルカプトエタノ−ル、2mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mMヒポキサンチンを添加した培地を用い、37℃、5%CO
2−95% air下で培養を行い、数日毎に培地交換して連続培養を行った。
【0085】
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、96穴プレ−トの各ウェルに前培養された原虫浮遊液(最終の原虫数8×10
3個/μL)および所定の濃度の化合物溶液(DMSO溶液)を最終体積100μLになるように添加し、混和後、37℃、5%CO
2−95% air下で72時間培養を行った。
【0086】
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにAlamar Blue試薬(Sigma−Aldorich社製、米国)10μLを添加、混和し、37℃にて5%CO
2−95% air下で2時間培養後、原虫の酸化還元電位を蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−(Bio−Tek社製、米国)にて励起波長528/20nm、蛍光波長590/35nmでの蛍光強度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。本化合物の50%原虫増殖阻止濃度(IC
50値)は蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−付属ソフトウェアのKC−4(Bio−Tek社製、米国)の化合物濃度作用曲線より求めた。
【0087】
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知の抗トリパノソ−マ原虫薬として、メラルソプロ−ル[(Prof. R. Brun, Swiss Tropical Institute, Basel, スイス国) より分与]を用いた。
【0088】
本発明のアクチノアロライドA物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.b.rhodensiense STIB900株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表3に示す通りであった。
【0089】
【表3】
【0090】
本発明のアクチノアロライドA物質のT.b.rhodesiense STIB900株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC
50値)は0.086 μg/mLであり優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、メラルソプロ−ルの1/43倍の抗トリパノソ−マ原虫活性であった。この結果より、アクチノアロライドA物質はロ−デシア型アフリカ睡眠病の薬剤開発に繋がることが期待される。
【0091】
(実施例5)アクチノアロライドA物質のin vitroにおけるアメリカトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.cruzi Tulahuen C4C8株)
本発明のアクチノアロライドA物質のin vitroでのT.cruzi Tulahuen C4C8株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、シャ−ガス病の起因原虫T.cruzi Tulahuen C4C8株[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国)より分与]のラットL6細胞に感染したアマスチゴ−ト体およびトリポマスチゴ−ト体を用いた。24穴プレ−トの各ウェル内で、L6細胞を含むRPMI1640培地に、10%非動化牛胎児血清(FBS)、1% L−グルタミンを添加した培地を用い、37℃、5%CO
2−95% air下で培養を行い、数日毎に培地交換して連続培養を行った。
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、96穴プレ−トの各ウェルに原虫浮遊液(最終の原虫数5×10
3個/ウェル)を添加後、48時間培養を行った。培地交換後、所定の濃度の化合物溶液(DMSO溶液)を添加し、混和後、37℃、5%CO
2−95% air下で96時間培養を行った。
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにCPRG/Nonidetを50μL添加した。更に2−6時間静置後、吸光マイクロプレ−トリ−ダ−(Labosystems社製、フィンランド国)にて540nmの吸光度を測定し、本化合物の50%原虫増殖阻止濃度を化合物濃度作用曲線より求めた。
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知のシャ−ガス病治療薬として、ベンズニダゾ−ルを用いた。
【0092】
本発明のアクチノアロライドA物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.cruzi Tulahuen C4C8株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表4に示す通りであった。
【0093】
【表4】
【0094】
本発明のアクチノアロライドA物質のT.cruzi Tulahuen C4C8株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC
50値)は0.226μg/mLであり優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存のシャ−ガス病治療薬と比較すると、ベンズニダゾ−ルの約2倍優れた抗トリパノソ−マ原虫活性であった。この結果より、アクチノアロライドA物質がシャ−ガス病の薬剤開発に繋がることが期待される。
【0095】
(実施例6) 細胞毒性試験
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の細胞毒性試験は乙黒らの方法[Otoguro K, Kohana A, Manabe C, Ishiyama A, Ui H, Shiomi K, Yamada H, Omura S. Potent antimalarial activities of polyether antibiotic, X−206. J. Antibiotics,54:658−663,(2001)]に準じて行った。すなわち、宿主細胞のモデルとしてヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞[Dr. L. Maes(Tibotec NV,Mechelen,ベルギ−国)より分与可能]を10%牛胎児血清(FCS)及び抗生物質添加MEM培地にて維持、継代培養を行ったものを用いた。
【0096】
ヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞を10%FCS−MEMにて1×10
3cells/mLとなるように浮遊液を調整し、96穴プレ−トに該浮遊液を100μL添加し混和後、37℃、5%CO
2−95% air下で24時間培養を行った。その後、各ウェルに10%FCS−MEM 90μLと本化合物の溶液(50%エタノ−ル水溶液)10μLを添加し、混和後、37℃、5%CO
2−95% air下で7日間培養を行った。MRC−5細胞の増殖の有無はMTT法にて比色定量することにより測定した。本化合物の50%細胞増殖阻止濃度(IC
50値)を化合物濃度作用曲線より求めた。また、選択毒性比(Selectivity Index:SI)は、(細胞毒性のIC
50値)/(抗トリパノソ−マ原虫活性のIC
50値)により計算して求めた。
【0097】
IC
50と選択毒性比について計算した結果を下記の表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞に対する細胞毒性(IC
50値)は各々順に>100、 51.83、32.44、16.45および4.71μg/mLであり、抗トリパノソ−マ原虫活性(T.b.b. GUTat3.1株)との選択毒性比(Selectivity Index:SI)は各々順に>20,408、51.3、295、21.4および36.2であった。このうちアクチノアロライドA物質のSIは既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、ペンタミジンの>5.4倍の選択毒性を示した。またアクチノアロライドA物質のその他のトリパノソ−マ原虫に対する活性(T.b.r. STIB900株およびT.Cruzi Tulahuen C4C8株)とのSIは>1163および>442と優れた高い選択毒性を示した。
【0100】
(実施例7) 抗菌活性
本発明のアクチノアロライドA物質の抗菌活性は以下の方法で測定した。濾紙円板(アドバンテック社製、直径6mm)にアクチノアロライドA物質の1mg/mLのメタノ−ル溶液をそれぞれ10μL浸漬し、一定時間風乾して溶媒を除去後、表6に記載の試験菌含菌寒天平板に張り付け、37℃または27℃で24時間培養後、濾紙円板の周りにできた生育阻止円の直径を測定した。
【0101】
アクチノアロライドA物質の試験菌に対する抗菌として測定した生育阻止円の直径を表6に示す。
【0102】
【表6】
* −:生育阻止円が観測されない
【0103】
本発明のアクチノアロライドA物質は、表7に列挙された微生物に対してほとんど抗菌活性を示さなかった。よって、本発明のアクチノアロライドA物質はトリパノソ−マ原虫に特異的な作用機序を有すると考えることができる。
【0104】
以上の結果から本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質は、トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する効果を有する一方、細胞毒性が低く、また他の微生物に対しては増殖抑制作用を示さないことから、抗トリパノソ−マ原虫薬として非常に優れた効果を有することが示された。