特許第6388162号(P6388162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6388162抗トリパノソ−マ原虫活性物質アクチノアロライド類及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388162
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】抗トリパノソ−マ原虫活性物質アクチノアロライド類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/08 20060101AFI20180903BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20180903BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20180903BHJP
   C12P 17/18 20060101ALI20180903BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C07D493/08 CCSP
   A61K31/365
   A61P33/00
   C12P17/18 D
   C12N1/20 A
【請求項の数】14
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-557416(P2014-557416)
(86)(22)【出願日】2014年1月17日
(86)【国際出願番号】JP2014000229
(87)【国際公開番号】WO2014112387
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-7684(P2013-7684)
(32)【優先日】2013年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01208
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】513014765
【氏名又は名称】マヒドン大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋子
(72)【発明者】
【氏名】乙黒 一彦
(72)【発明者】
【氏名】稲橋 佑起
(72)【発明者】
【氏名】岩月 正人
(72)【発明者】
【氏名】松本 厚子
(72)【発明者】
【氏名】パンバングレド, ワタナライ
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−178738(JP,A)
【文献】 特開2010−018562(JP,A)
【文献】 J. Antibiot.,2012年 4月,Vol.65, No.4,p.197-202
【文献】 J. Antibiot.,2011年 4月,Vol.64, No.4,p.303-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iで表される化合物。
【化1】
【請求項2】
下記式IIで表される化合物。
【化2】
【請求項3】
下記式IIIで表される化合物。
【化3】
【請求項4】
下記式IVで表される化合物。
【化4】
【請求項5】
下記式Vで表される化合物。
【化5】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を生産する能力を有するアクチノアロムラス属の放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を蓄積せしめ、該培養物から請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を採取することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物が、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036(受領番号 NITE ABP−1208)株である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036(受領番号 NITE ABP−1208)株。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を有効成分として含有するトリパノソ−マ原虫の増殖阻害活性剤。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を有効成分として含有するトリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療薬又は予防薬。
【請求項11】
トリパノソ−マ原虫がヒト感染性トリパノソ−マ原虫である請求項10に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項12】
ヒト感染性トリパノソ−マ原虫がガンビアトリパノソ−マ原虫、ロ−デシアトリパノソ−マ原虫及び亜属のトリパノソ−マ・クル−ジ(Trypanosoma cruzi)、トリパノソ−マ・ブルセイ(T. brucei)、トリパノソ−マ・コンゴレンス(T. congolense)、トリパノソ−マ・バイバックス(T. vivax)、トリパノソ−マ・エバンシ(T. evansi)、トリパノソ−マ・タイレリ(T. theileri)又はトリパノソ−マ・エキパ−ダム(T. equiperdum)である、請求項11に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項13】
トリパノソ−マ原虫が家畜感染性トリパノソ−マ原虫である請求項10に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項14】
家畜感染性トリパノソ−マ原虫がT. brucei brucei(ナガナ病起因原虫)、T. vivax vivax(ズ−マ病起因原虫)、T. evansi(ス−ラ病起因原虫)、又はT. equiperdum(媾疫病起因原虫)である請求項13に記載の治療薬又は予防薬。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本願は、2013年1月18日に日本国特許庁に対して出願された、特願2013−007684号からの優先権を主張するものである。特願2013−007684号に記載の内容は全て参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、トリパノソ−マ原虫の増殖阻害の分野に属する。具体的には、本発明は、動物薬、医薬品として有効なトリパノソ−マ原虫の増殖阻害活性を有する化合物、その製造法、及びその利用に関する。特に本発明は、本発明の化合物を有効成分として含有するトリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療薬又は予防薬(本明細書において、「抗トリパノソ−マ薬」と呼ぶことがある)に関する。
【背景技術】
【0003】
トリパノソ−マ症にはアフリカ地域で流行しているアフリカ睡眠病(ヒトアフリカトリパノソ−マ症)と南米地域で流行しているシャ−ガス病がある。アフリカ睡眠病は、再興原虫感染症であり、感染リスクが7,000万人、年間死亡者が約5万人に及ぶとされている。特にヒトに寄生するトリパノソ−マ原虫類はガンビアトリパノソ−マ原虫(Trypanosoma brucei gambiense)及びロ−デシアトリパノソ−マ原虫(T.b.rhodesiens)の2種類に分類され、前者は慢性睡眠病、後者は急性睡眠病を引き起こす。感染末期には中枢神経系に原虫が移行し、トリパノソ−マ原虫感染者の80%以上が昏睡状態に陥り、死に至るという死亡率の高い感染症である。これらのトリパノソ−マ原虫はアフリカにのみ生息するツェツェバエによって媒介される。
【0004】
さらに、ガンビアトリパノソ−マ原虫及びロ−デシアトリパノソ−マ原虫は人畜共通寄生虫であり、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜及びガゼルやヌ−等の野生動物にも寄生する。これらの動物は保有宿主となるが発症しない。またヒトには寄生せず、家畜動物に寄生する他種類のトリパノソ−マ原虫も存在する。Trypanosoma亜属の原虫であるT. brucei brucei(ナガナ病起因原虫)、Duttonella亜属の原虫であるT. vivax vivax(ズ−マ病起因原虫)等があり、これらの原虫が感染すると動物種によっては致死的な感染経過をたどる。これらもツェツェバエによって媒介される。
【0005】
ツェツェバエが生息する地域はアフリカ大陸のサハラ砂漠以南の東海岸から西海岸の36カ国1000万平方kmに及ぶ広範地域で、1億5000万頭以上の家畜動物が多様なトリパノソ−マ症の脅威に曝されている現状である。さらに、アブ、サシバエ等の吸血昆虫の機械的伝搬等により動物に感染するツェツェバエ非媒介性トリパノソ−マ原虫類として、Trypanosoma亜属の原虫であるT. evansi(ス−ラ病起因原虫)、T. equiperdum(媾疫病起因原虫)等がある。特にス−ラ病はアフリカ、中南米、東南アジア、中国、中近東、インド等世界的流行がみられる。近年さらに流行が拡大傾向にあり、日本への侵入を最も警戒すべき動物トリパノソ−マ症である。
【0006】
これらのトリパノソ−マ原虫類に対する既存のヒトの抗トリパノソ−マ原虫薬としては、過去半世紀の間、スラミン(1923年開発)、ペンタミジン(1939年開発)、メラルソプロ−ル(1953年開発)等の古典的薬剤及びエフロニチン(1978年開発)等の化学合成医薬品が長く用いられていた。スラミンは、ガンビアトリパノソ−マ原虫及びロ−デシアトリパノソ−マ原虫の感染初期に有効であるが腎毒性がある。
【0007】
ペンタミジンは、ガンビアトリパノソ−マ原虫の感染初期に有効であるがロ−デシアトリパノソ−マ原虫には無効であり、血圧低下や血糖減少の副作用がある。砒素剤のメラルソプロ−ルは血液脳関門を通過することにより、ガンビアトリパノソ−マ原虫及びロ−デシアトリパノソ−マ原虫の感染末期(中枢神経症)に有効であるが、中枢神経系への副作用が強く脳症を起こす。また、メラルソプロ−ルに対する耐性原虫株も出現している。
【0008】
エフロニチンは血液脳関門を通過することにより、メラルソプロ−ルが効かない耐性のガンビアトリパノソ−マ原虫の感染末期に有効であるが、ロ−デシアトリパノソ−マ原虫には無効である。これらの薬剤は古く、その有効性は徐々に低下している。また、動物のトリパノソ−マ症の治療にはジミナゼン、スラミン、イソメタジウム、変異原性物質のホミジウム等が使用されてきた。特にこれらの薬剤が長期間大量に使用されてきたために、現在、薬剤耐性原虫が各地で出現し、これらの抗トリパノソ−マ原虫薬としての有用性は著しく低下しており、大きな問題となっている。
【0009】
シャ−ガス病またはヒトアメリカトリパノソ−マ症は、年間推定感染者が1,000万人以上で年間死亡者が約1万人に及ぶ原虫感染症でクル−ズトリパノソ−マ原虫(Trypanosoma cruzi)が吸血性昆虫であるサシガメによって媒介されることで引き起こされる。急性期は発熱、びまん性リンパ節症、脾腫が見られる。大半の奨励では自然寛解するが一部は数年から数十年の無症状期間を経て慢性期に移行する。慢性期の症状は狭心症様の前胸部痛、不整脈、心不全などの心臓障害もしくは巨大臓器症であり、有効な治療法はなく、予後は極めて重篤である。
【0010】
既存のシャ−ガス病治療薬としては、過去半世紀の間、ニフルチモックス(1964年開発)、ベンズニダゾ−ル(1966年開発)等の化学合成医薬品が長く用いられていた。ニフルチモックスは慢性期に無効であり、振戦、不眠、神経炎、貧血などの重篤な副作用が見られる。ベンズニダゾ−ルも慢性期に無効であり、光過敏症、神経炎などの副作用が見られる。またいずれの薬剤も長期投与が必要である。
【0011】
アフリカ睡眠病およびシャ−ガス病では新規な薬剤の開発の遅れから、古典的な副作用の強い既存薬剤が治療に用いられているのが現状であり、いずれも世界規模で有効な新規な薬剤等の開発が求められている。既存のアフリカ睡眠病治療薬は原虫の種類及び感染のステ−ジによって有効性が異なるものや薬剤耐性原虫株の出現がみられるものがある。このため原虫の種類及び感染のステ−ジを問わず有効な薬剤、ロ−デシアトリパノソ−マ原虫や感染末期(中枢神経症)に有効な薬剤でしかも副作用の少ない新規な骨格を持ったアフリカ睡眠病治療薬の開発が地球規模で望まれている。一方、既存のシャ−ガス病治療薬は慢性期に無効で重篤な副作用がみられる。このため慢性期の患者にも有効かつ副作用の少ない新規な骨格を持ったシャ−ガス病治療薬の開発が地球規模で望まれている。
【0012】
これまでにこのような問題を解決すべくトリパノソ−マ症の治療を目的とした治療薬が報告されているが、未だ効果的な化合物は見出されていなかった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開公報WO2009/004899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
アフリカ睡眠病およびシャ−ガス病などのトリパノソ−マ症はトリパノソ−マ原虫が宿主内で増殖することによって引き起こされる。トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する物質はトリパノソ−マ症の発症を抑えるもしくは症状を緩和する抗トリパノソ−マ薬として期待される。よって、本発明は、上述の従来技術の問題を解決するために新規の抗トリパノソ−マ薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで本発明者らは、微生物培養物中からトリパノソ−マ原虫の増殖阻害する物質の探索を続けた結果、放線菌MK10−036株の生産する新規化合物であるアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質がその阻害活性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって、それぞれ下記式I〜Vで表される新規化合物であるアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を提供するものである。
【0017】
(アクチノアロライドA物質)
本明細書において、アクチノアロライドA物質とは、下記式Iで表わされる化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
また、本明細書におけるアクチノアロライドA物質として好ましくは、以下の立体構造を有する化合物である。
【0020】
【化2】
【0021】
(アクチノアロライドB物質)
本明細書において、アクチノアロライドB物質とは、下記式IIで表わされる化合物である。
【0022】
【化3】
【0023】
また、本明細書におけるアクチノアロライドB物質として好ましくは、以下の立体構造を有する化合物である。
【0024】
【化4】
【0025】
(アクチノアロライドC物質)
本明細書において、アクチノアロライドC物質とは、下記式IIIで表わされる化合物である。
【0026】
【化5】
【0027】
また、本明細書におけるアクチノアロライドC物質として好ましくは、以下の立体構造を有する化合物である。
【0028】
【化6】
【0029】
(アクチノアロライドD物質)
本明細書において、アクチノアロライドD物質とは、下記式IVで表わされる化合物である。
【0030】
【化7】
【0031】
また、本明細書におけるアクチノアロライドD物質として好ましくは、以下の立体構造を有する化合物である。
【0032】
【化8】
【0033】
(アクチノアロライドE物質)
本明細書において、アクチノアロライドE物質とは、下記式Vで表わされる化合物である。
【0034】
【化9】
【0035】
また、本明細書におけるアクチノアロライドE物質として好ましくは、以下の立体構造を有する化合物である。
【0036】
【化10】
【0037】
(製造方法)
本発明はまた、前記アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中にアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を蓄積せしめ、該培養物からアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を採取することを備える、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の製造方法に関する。該製造方法において、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物として、好ましくは、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036(受領番号 NITE ABP−1208)株である。
【0038】
(微生物)
別の態様において、本発明は更に、新規放線菌である、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株に関する。
【0039】
本明細書において、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株とは、本発明者等によってタイ王国の植物より新たに分離された微生物であり、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株として、2012年1月24日付にて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センタ−(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託された菌株のことである(受領番号 NITE ABP−1208)。本発明のアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株は、本明細書実施例1に記載の菌学的性状を有する。
【0040】
(医薬組成物)
また、本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質は医薬組成物として使用することができる。よって、更にまた別の態様において、本発明は、前記アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を有効成分として含有する医薬組成物に関する。具体的には、本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質はトリパノソ−マ原虫の増殖抑制作用を有することから、トリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療薬又は予防薬(抗トリパノソ−マ薬)として用いることができる。また、別の態様において、本発明は、トリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療又は予防に使用するためのアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質に関する。あるいは、本発明は、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の有効量をそれを必要とする患者に投与することを備える、トリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療方法又は予防方法に関する。
【0041】
本明細書において「トリパノソ−マ原虫」とは、ガンビアトリパノソ−マ原虫、ロ−デシアトリパノソ−マ原虫及びトリパノソ−マ原虫の亜属のトリパノソ−マ・クル−ジ(Trypanosoma cruzi)、トリパノソ−マ・ブルセイ(T. brucei)、トリパノソ−マ・コンゴレンス(T. congolense)、トリパノソ−マ・バイバックス(T. vivax)、トリパノソ−マ・エバンシ(T. evansi)、トリパノソ−マ・タイレリ(T. theileri)、トリパノソ−マ・エキパ−ダム(T. equiperdum)を含む。
【0042】
また、本明細書において、トリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患とは、前記トリパノソ−マ原虫が感染したことにより発症し又は増悪化する疾患又は傷害のことであり、例えば、一般に「トリパノソ−マ症」として知られる疾患が含まれ、例えば、アフリカトリパノソ−マ症、シャ−ガス病、ナガナ病、ス−ラ病等が含まれる。本発明の医薬組成物は、既存の薬剤における副作用や薬剤耐性の問題を解決するものであることから、これらの疾患の慢性期の治療薬として用いることもできる。
【発明の効果】
【0043】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質は、トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害することができることから、新規の抗トリパノソ−マ薬となる。また、本発明のアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株は、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を産生することから、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の製造に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質は、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を蓄積せしめ、該培養物からアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はEを採取(分離・抽出・精製)することにより製造することができる。
【0045】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の製造方法において、「アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物」は、放線菌に属する菌であって、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はEE物質を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の製造方法に用いることのできる菌株には、上記菌株の他、その変異株をはじめ、放線菌に属するアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する菌のすべてが含まれる。微生物が「アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物」であるか否かは、例えば、以下の方法により決定することができる。酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)5000mLを含む7000mL容ジャ−ファ−メンタ−に、液体培地で培養した被験微生物100mLを植菌し、27℃で10日間振盪培養後、得られた種培養液を、酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)が5000mL入った7000mL容ジャ−ファ−メンタ−、2基に各100mLずつ植菌し、27℃、通気量0.2MMV、撹拌200rpmで10日間撹拌培養することにより得られた培養物の中に、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質が存在すれば当該微生物はアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物であると決定することができる。好ましくは、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物は、上述のアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株である。
【0046】
本明細書において、「変異株」とは、人工的又は自然界における変異誘発刺激によりアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株とは異なる菌学的性状又は遺伝子を有する株のことであり、このような変異株にはアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株から派生した菌株の他、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株を派生させた元の菌株も含まれる。本明細書において、変異株は実際の派生の痕跡の有無を問うものではなく、例えば、レアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株遺伝子(例えば、16S rRNA遺伝子)と高い相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上など)を有する遺伝子を有する菌株もまた変異株に含まれる。また、このような変異株は、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の産生能を維持している限り、人工的に作製したものであるか、天然から採取したものであるかを問わない。
【0047】
アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培養するための培地には、栄養源として、放線菌の栄養源として使用し得るものを含有することができる。例えば、市販のペプトン、肉エキス、コ−ン・スティ−プ・リカ−、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、NZ−アミン、カゼインの水和物、硝酸ソ−ダ、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の窒素源、グリセリン、スタ−チ、グルコ−ス、ガラクト−ス、マンノ−ス等の炭水化物、あるいは脂肪等の炭素源、及び食塩、リン酸塩、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を単独あるいは組み合わせて使用することができる。その他、培地には、必要に応じて微量の金属塩、消泡剤として動・植・鉱物油等を添加することもできる。これらのものは生産菌を利用したアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の生産の役だつものであればよく、公知の放線菌の培養材料はすべて用いることができる。
【0048】
また、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産する能力を有する放線菌に属する微生物の培養は、生産菌が発育しアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質を生産できる温度範囲(例えば、10−40℃、好ましくは、25−30℃)で数日〜2週間振盪培養することにより行うことができる。培養条件は、本明細書の記載を参照しながら、使用するアクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の生産菌の性質に応じて適宜選択して行なうことができる。
【0049】
アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の採取は、培養液より酢酸エチル等の水不混和性の有機溶媒を用いて抽出することにより行うことができる。本抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィ−、分配クロマトグラフィ−、ゲル濾過クロマトグラフィ−、薄層クロマトグラフィ−よりのかき取り、遠心向流分配クロマトグラフィ−、高速液体クロマトグラフィ−等を適宜組合せるか、あるいは繰返すことによって純粋になるまで精製することができる。
【0050】
本発明のトリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療薬又は予防薬は、経口投与形態、又は注射剤、点滴剤等の非経口投与形態で用いることができる。本化合物を哺乳動物等に投与する場合、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等として経口投与してもよいし、又は、注射剤、点滴剤として非経口的に投与してもよい。よって、本発明は、別の態様においては、アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、トリパノソ−マ原虫の感染に由来する疾患の治療方法又は予防方法に関する。アクチノアロライドA,B,C,D及び/又はE物質の投与量は症状の程度、年齢、疾患の種類等により異なるが、通常成人1日当たり50−500mgを1日1〜数回に分けて投与する。
【0051】
本発明の医薬組成物は、通常の薬学的に許容される担体を用いて、常法により製剤化することができる。経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、更に必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えた後、常法により溶剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により皮下又は静脈内用注射剤とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0053】
(実施例1) アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株の菌学的性状
本発明者等によってタイ王国の植物より新たに、アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株を分離した。アクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.)MK10−036株の菌学的性状は以下の通りであった。
(I)形態的性質
本菌株は、スタ−チ・無機塩寒天、酵母エキス・麦芽エキス寒天、酵母エキス・スタ−チ寒天などで良好に生育し、スタ−チ・無機塩寒天で胞子の着生がみられた。胞子は大きさ約1μm×0.5μmであり、気菌糸より6〜8個の胞子が連なり、短い螺旋状の胞子鎖を形成していた。
(II)各種培地上での性状
イ−・ビ−・シャ−リング(E.B.Shirling)とデ−・ゴットリ−ブ(D.Gottlieb)の方法(インタ−ナショナル・ジャ−ナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジ−、16巻、313頁、1966年)によって調べた本生産菌の培養性状を表1に示す。色調は標準色として、カラ−・ハ−モニ−・マニュアル第4版(コンテナ−・コ−ポレ−ション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定し、色票名とともに括弧内にそのコ−ドを併せて記した。以下は特記しない限り、27℃、3週間目の各培地における観察の結果である。
【0054】
【表1】
【0055】
(III)生理学的諸性質
(1)メラニン色素の生成
(イ)チロシン寒天 :陰性
(ロ)グルコ−ス・ペプトン・ゼラチン培地 :陰性
(2)硝酸塩の還元 :陽性
(3)ゼラチンの液化(20℃) :陰性
(グルコ−ス・ペプトン・ゼラチン培地)
(4)スタ−チの加水分解 :陰性
(5)脱脂乳の凝固(37℃) :陰性
(6)脱脂乳のペプトン化(37℃) :陰性
(7)生育温度範囲 :19〜40℃
(8)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリ−ブ寒天培地)
利用する:D−グルコ−ス、D−キシロ−ス、D−マンニト−ル、D−フルクト−ス、ラフィノ−ス
L−ラムノ−ス、myo−イノシト−ル、メリビオ−ス、D−ガラクト−ス
利用しない:L−アラビノ−ス、ダルシト−ル、マルト−ス、D−ソルビト−ル、スクロ−ス
(9)セルロ−スの分解 :陰性
【0056】
(IV)細胞の化学組成
細胞壁中にメソ型のジアミノピメリン酸、アラニン、グルタミン酸、リシンを含み、全菌体糖としてマジュロ−スを含む。主要メナキノンはMK−9(H)とMK−9(H)で、主要脂肪酸はiso−C16:0,10−methylC17:0,C16:1およびanteiso−17:0である。細胞壁ムラミン酸はアセチル型である。ミコ−ル酸は含まれない。
(V)16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子のうち約1400塩基の配列を決定し、DNAデ−タベ−スに登録され公開されているアクチノアロムラス属に属する菌株およびその他の放線菌のデ−タを用い近隣結合法による系統解析の結果、本菌株はアクチノアロムラス属に分類することが妥当であり、アクチノアロムラス フルブス(Actinoallomurus fulvus)およびアクチノアロムラス アマミエンシス(Actinoallomurus amamiensis) に近縁な一菌株である。
【0057】
(VI)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁にメソ型のジアミノピメリン酸およびリシンを有する。全菌体糖にはマジュロ−スを含む。細胞壁ムラミン酸はアセチル型で、主要メナキノンはMK−9(H)とMK−9(H)である。ミコ−ル酸を含有しない。気菌糸より短い螺旋状の胞子鎖を形成する。コロニ−は白色の色調を呈し、メラニン色素は産生しない。
これらの結果および16S rRNA遺伝子の解析結果から、アクチノアロムラス属に属する1菌種であると判断された。なお、本菌株はアクチノアロムラス(Actinoallomurus sp.)MK10−036として、2012年1月24日付にて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センタ−に寄託されている(受領番号 NITE ABP−1208)。
【0058】
(実施例2) アクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の取得
酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに、液体培地で培養したアクチノアロムラス・エスピ−(Actinoallomurus sp.) MK10−036(受領番号 NITE ABP−1208)を2本に各1ml植菌し、27℃で7日間振盪培養した。得られた種培養液を酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕1%、グルコ−ス1%からなる液体培地(pH 6.0)5,000mLを含む7,000mL容ジャ−ファ−メンタ−、2基に各100mLずつ植菌し、27℃、通気量0.2MMV、撹拌200rpmで10日間撹拌培養した。
【0059】
培養液10Lを3000rpm、15分間遠心分離し、上清と菌体に分けた。上清を5Lの酢酸エチルで2回抽出を行い、酢酸エチル層を減圧下乾固して576mgの粗物質1を得た。一方、菌体に2Lのアセトンを加え、1時間撹拌して菌体成分の抽出を行った後に、3000rpm、15分間遠心分離した。得られた上清からアセトンを留去後、1Lの酢酸エチルで2回抽出を行い、酢酸エチル層を減圧下乾固して170mgの粗物質2を得た。粗物質1および2を混合しクロロホルムで充填したシリカゲルカラム(φ40×45mm)にのせ、クロロホルム−メタノ−ル(100:1)および(100:2)でそれぞれ溶出し、減圧濃縮により粗物質3(205mg)および粗物質4(161mg)を得た。
【0060】
粗物質3をメタノ−ルに溶解し、高速液体クロマトグラフィ−にて逆相カラム(Pegasil ODS SP−100、φ20×250mm、センシュ−科学(株)製、日本国)に注入し、アセトニトリル−水(60:40)、流速8mL/分、UV 210nm検出の条件で溶出した。保持時間17.7分、26.8分、30.7分および33.6分のピ−クを分取し、減圧下乾固することでアクチノアロライドE物質(1.8mg)、アクチノアロライドA物質(81.7mg)、アクチノアロライドD物質(2.7mg)およびアクチノアロライドC物質(4.4mg)を得た。
【0061】
粗物質4をメタノ−ルに溶解し、ODS(φ15×20mm、富士シリシア化学(株)製、日本国)オ−プンカラムクロマトグラフィ−を用いて、アセトニトリル−水溶媒系で段階溶出(60:40、70:30、80:20、90:10、100:0)し、アセトニトリル−水(60:40)を減圧下乾固することで粗物質5を得た。粗物質5を高速液体クロマトグラフィ−にて逆相カラム(Pegasil ODS SP−100、φ20×250mm、センシュ−科学(株)製)に注入し、アセトニトリル−水(60:40)、流速8mL/分、UV 210nm検出の条件で溶出した。保持時間24.5分のピ−クを分取し、減圧下乾固することでアクチノアロライドB物質(5.9mg)を得た。
得られたアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の理化学的性状を測定した。
【0062】
アクチノアロライドA物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:564
(3)分子式:C3252
(4)高速原子衝突イオン化による[M+Na]理論値(m/z)587.3560、実測値(m/z)587.3570
(5)比旋光度:[α]25=105.2°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):末端吸収
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3435,2968,2927,2864,1749,1709,1630,1458,1371,1317,1147,1115,1057,1022,978cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.40(1H,dt),5.13(1H,t),4.88(1H,d),3.64(1H,dd),3.26(1H,dd),2.91(1H,d),2.83(1H,dd),2.77(1H,d),2.67(1H,dq),2.49(1H,m),2.47(1H,m),2.45(1H,m),2.35(1H,d),2.34(1H,m),2.30(1H,d),2.13(1H,d),1.84(1H,m),1.81(1H,m),1.79(1H,d),1.78(1H,m),1.63(3H,brd),1.61(1H,m),1.47(3H,s),1.34(3H,s),1.14(3H,t),1.07(3H,d),1.05(3H,d),1.04(3H,t),1.01(3H,d),0.88(3H,d)
(9)13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.6,217.3,170.2,133.7,131.7,128.8,126.5,102.3,82.2,76.5,74.9,73.6,53.1,48.9,47.5,46.7,40.5,38.8,36.0,34.8,32.2,29.9,26.8,18.4,17.9,17.2,16.9,16.1,12.1,10.3,9.4,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0063】
アクチノアロライドA物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドA物質は下記式Iで表される構造であることが決定された。
【0064】
【化11】
【0065】
アクチノアロライドB物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:566
(3)分子式:C3254
(4)エロクトロスプレ−イオン化による[M+Na]理論値(m/z)589.3716、実測値(m/z)589.3713
(5)比旋光度:[α]25=102.7°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):末端吸収
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠): 3437,2972,1751,1712,1628,1454,1379,1319,1248,1149,1109,1059,974cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.38(1H,dt),5.13(1H,t),4.88(1H,d),3.70(1H,ddd),3.51(1H,dd),3.26(1H,dd),2.91(1H,d),2.82(1H,dd),2.75(1H,d),2.52(1H,m),2.52(1H,m),2.32(2H,m),2.32(1H,m),2.12(1H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.78(1H,m),1.77(1H,d),1.65(1H,m),1.62(3H,brd),1.59(1H,m),1.52(1H,m),1.47(3H,brd),1.42(1H,m),1.34(3H,s),1.13(3H,t),1.03(3H,d),1.00(3H,d),0.90(3H,t),0.88(3H,d),0.84(3H,d)
(9)13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.8,170.1,133.2,131.7,129.1,126.5,102.3,82.1,82.0,79.3,76.6,73.6,53.3,48.9,46.6,40.6,38.7,37.8,36.8,32.4,29.8,28.1,26.8,18.4,17.9,17.2,17.0,16.2,12.1,10.4,10.3,4.2
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0066】
アクチノアロライドB物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドB物質は下記式IIで表される構造であることが決定された。
【0067】
【化12】
【0068】
アクチノアロライドC物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:546
(3)分子式:C3250
(4)エレクトロスプレ−イオン化による[M+Na] 理論値(m/z)569.3454、実測値(m/z)569.3444
(5)比旋光度:[α]25=190.0°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):278.5nm(ε値:9,773)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3437,2972,2927,1726,1697,1620,1454,1392,1277,1213,1111,1057,984cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.27(1H,dt),5.16(1H,t),4.88(1H,d),3.64(1H,dd),3.63(1H,d),3.31(1H,d),3.27(1H,dd),2.67(1H,dq),2.48(1H,m),2.46(2H,m),2.45(2H,d),2.44(1H,m),2.30(1H,m),2.19(2H,q),2.13(1H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.79(1H,m),1.63(3H,brd),1.43(3H,s),1.41(3H,s),1.07(3H,d),1.05(3H,d),1.04(3H,t),1.04(3H,t),1.00(3H,d),0.89(3H,d)
(9)13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.2,206.4,177.4,168.3,133.7,131.0,128.8,126.2,119.0,87.6,76.6,76.0,74.9,47.9,47.5,41.1,38.9,37.5,35.9,34.7,32.2,29.9,22.2,17.9,17.0,17.0,16.1,14.9,12.3,10.3,9.4,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0069】
アクチノアロライドC物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドC物質は下記式IIIで表される構造であることが決定された。
【0070】
【化13】
【0071】
アクチノアロライドD物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:548
(3)分子式:C3252
(4)高速原子衝突イオン化による[M+H] 理論値(m/z)549.3791、実測値(m/z)549.3792
(5)比旋光度:[α]25=167.7°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):278.5nm(ε値:9,316)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3438,2972,2875,1726,1689,1620,1454,1392,1279,1213,1057,968cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.27(1H,dt),5.17(1H,t),4.88(1H,d),3.70(1H,dt),3.63(1H,d),3.52(1H,dd),3.31(1H,d),3.27(1H,dd),2.50(1H,m),2.48(1H,m),2.45(2H,d),2.28(1H,q),2.28(1H,m),2.19(1H,q),2.11(2H,d),1.82(1H,m),1.80(1H,m),1.78(1H,m),1.66(1H,m),1.63(3H,brd),1.50(1H,m),1.43(3H,s),1.41(3H,s),1.40(1H,m),1.05(3H,t),1.04(3H,d),1.00(3H,d),0.90(3H,t),0.89(3H,d),0.84(1H,d)
(9)13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:206.4,177.4,168.3,133.2,130.9,129.1,126.2,119.0,87.6,82.0,79.3,76.9,76.0,47.9,41.1,38.8,37.8,37.5,36.8,32.3,29.9,28.1,22.2,17.9,17.1,17.0,16.2,14.9,12.3,10.4,10.4,4.2
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0072】
アクチノアロライドD物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドD物質は下記式IVで表される構造であることが決定された。
【0073】
【化14】
アクチノアロライドD物質
【0074】
アクチノアロライドE物質の理化学的性状は次の通りであった。
(1)性状:シラップ状
(2)分子量:546
(3)分子式:C3250
(4)高速原子衝突イオン化による[M+H] 理論値(m/z)547.3635、実測値(m/z)547.3641
(5)比旋光度:[α]25=120.1°(c=0.1、メタノ−ル)
(6)紫外部吸収極大λ(メタノ−ル中):274.5nm(ε値:8,627)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3437,2974,2939,2879,1730,1697,1626,1454,1390,1255,1099,1057,987cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重クロロホルム中)δ ppm:5.22(1H,t),4.97(1H,dd),4.81(1H,d),3.82(1H,d),3.64(1H,dd),3.26(1H,dd),3.26(1H,d),2.66(1H,dq),2.64(1H,m),2.62(1H,d),2.54(1H,m),2.49(1H,m),2.47(1H,d),2.46(1H,m),2.30(1H,m),2.23(1H,m),2.22(1H,m),2.12(1H,dd),1.96(1H,m),1.91(1H,m),1.68(1H,dd),1.62(3H,brd),1.53(1H,m),1.53(3H,s),1.36(3H,s),1.11(3H,t),1.09(3H,d),1.06(3H,t),1.04(3H,d),0.94(3H,d),0.81(3H,d)
(9)13C NMR(重クロロホルム中)δ ppm:217.3,207.0,177.6,166.7,132.9,130.7,129.4,126.6,117.6,88.2,81.4,74.8,72.7,47.5,46.4,40.2,39.4,35.9,35.8,35.2,34.8,31.6,24.9,17.9,17.7,16.5,15.9,15.6,13.1,9.5,8.1,7.7
(10)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノ−ル、ジメチルスルホキシドに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
【0075】
アクチノアロライドE物質の各種理化学的性状やスペクトルデ−タを検討した結果、アクチノアロライドE物質は下記式Vで表される構造であることが決定された。
【0076】
【化15】
【0077】
(実施例3)アクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のin vitroにおけるトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.b.brucei GUTat3.1株)
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のin vitroでのT.b.brucei GUTat3.1株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、トリパノソ−マ原虫のナガナ病の起因原虫T.b.brucei GUTat3.1株(名古屋市立大学医学部藪義貞講師より分与可能)を用いた。原虫の維持継代は藪らの方法[Yabu Y, Koide T, Ohota N, Nose M, Ogihara Y. Continuous growth of bloodstream forms of Trypanosoma brucei brucei in axenic culture system containing a low concentration of serum. Southeast Asian J. Trop. Med. Public Health,29:591−595(1998)]を若干改変して行った。すなわち、24穴プレ−トの各ウェル内で、10%非動化牛胎児血清(FBS)、抗生物質及び種々の補給剤添加イスコフ改変ダルベッコ(IMDM)培地を用い、37℃、5%CO−95% air下で培養を行い、1〜3日毎に培地交換して連続培養を行った。
【0078】
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、乙黒らの方法[Otoguro K,Ishiyama A, Namatame M, Nishihara A, Furusawa T, Masuma R, Takahashi Y, Shiomi K, Yamada H, Omura S. Selective and Potent in vitro antitrypanosomal activities of ten microbial metabolites. J.Antibiotics, 61:372−378(2008)]に従って行った。すなわち、96穴プレ−トの各ウェルに前培養された原虫浮遊液(原虫数2.0−2.5×10個/mLに調整)95mLと化合物溶液(50%エタノ−ル水溶液) 5mLを添加し、混和後、37℃、5%CO−95% air下で72時間培養を行った。
【0079】
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにAlamar Blue試薬(Sigma−Aldorich社製、米国)10μLを添加、混和し、37℃にて5%CO−95% air下で3−6時間培養後、原虫の酸化還元電位を蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−(Bio−Tek社製、米国)にて励起波長528/20nm、蛍光波長590/35nmでの蛍光強度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。本化合物の50%原虫増殖阻止濃度(IC50値)は蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−付属ソフトウェアのKC−4(Bio−Tek社製、米国)の化合物濃度作用曲線より求めた。
【0080】
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知の抗トリパノソ−マ原虫薬として、ペンタミジン、スラミン及びエフロニチン[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国) より分与]を用いた。
【0081】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.b.brucei GUTat3.1株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表2に示す通りであった。
【0082】
【表2】
【0083】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のT.b.brucei GUTat3.1株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC50値)は各々0.0049,1.01,0.11,0.77および0.13 μg/mLであり、アクチノアロライドA物質が最も優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、ペンタミジンと同程度、スラミンおよびエフロニチンの322および463倍強い抗トリパノソ−マ原虫活性であった。アクチノアロライドB,C,DおよびE物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較するとスラミンおよびエフロニチンの2−14倍強い抗トリパノソ−マ原虫活性であった。
【0084】
(実施例4)アクチノアロライドA物質のin vitroにおけるトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.b.rhodensiense STIB900株)
本発明のアクチノアロライドA物質のin vitroでのT.b.rhodensiense STIB900株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、ロ−デシアアフリカ睡眠病の起因原虫T.b.rhodensiense STIB900株[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国)より分与]のトリポマスチゴ−ト体を用いた。24穴プレ−トの各ウェル内で、MEM培地に15%非動化牛胎児血清(FBS)、25mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−2−エタンスルホン酸(HEPES)、0.1%(w/w)グルコ−ス、1% MEM非必須アミノ酸、0.2mM 2−メルカプトエタノ−ル、2mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mMヒポキサンチンを添加した培地を用い、37℃、5%CO−95% air下で培養を行い、数日毎に培地交換して連続培養を行った。
【0085】
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、96穴プレ−トの各ウェルに前培養された原虫浮遊液(最終の原虫数8×10個/μL)および所定の濃度の化合物溶液(DMSO溶液)を最終体積100μLになるように添加し、混和後、37℃、5%CO−95% air下で72時間培養を行った。
【0086】
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにAlamar Blue試薬(Sigma−Aldorich社製、米国)10μLを添加、混和し、37℃にて5%CO−95% air下で2時間培養後、原虫の酸化還元電位を蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−(Bio−Tek社製、米国)にて励起波長528/20nm、蛍光波長590/35nmでの蛍光強度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。本化合物の50%原虫増殖阻止濃度(IC50値)は蛍光マイクロプレ−トリ−ダ−付属ソフトウェアのKC−4(Bio−Tek社製、米国)の化合物濃度作用曲線より求めた。
【0087】
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知の抗トリパノソ−マ原虫薬として、メラルソプロ−ル[(Prof. R. Brun, Swiss Tropical Institute, Basel, スイス国) より分与]を用いた。
【0088】
本発明のアクチノアロライドA物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.b.rhodensiense STIB900株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表3に示す通りであった。
【0089】
【表3】
【0090】
本発明のアクチノアロライドA物質のT.b.rhodesiense STIB900株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC50値)は0.086 μg/mLであり優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、メラルソプロ−ルの1/43倍の抗トリパノソ−マ原虫活性であった。この結果より、アクチノアロライドA物質はロ−デシア型アフリカ睡眠病の薬剤開発に繋がることが期待される。
【0091】
(実施例5)アクチノアロライドA物質のin vitroにおけるアメリカトリパノソ−マ原虫増殖阻害活性(T.cruzi Tulahuen C4C8株)
本発明のアクチノアロライドA物質のin vitroでのT.cruzi Tulahuen C4C8株トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する活性を以下の通り調べた。
試験原虫として、シャ−ガス病の起因原虫T.cruzi Tulahuen C4C8株[(Prof.R.Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国)より分与]のラットL6細胞に感染したアマスチゴ−ト体およびトリポマスチゴ−ト体を用いた。24穴プレ−トの各ウェル内で、L6細胞を含むRPMI1640培地に、10%非動化牛胎児血清(FBS)、1% L−グルタミンを添加した培地を用い、37℃、5%CO−95% air下で培養を行い、数日毎に培地交換して連続培養を行った。
In vitroでの本化合物の抗トリパノソ−マ原虫活性の測定は、96穴プレ−トの各ウェルに原虫浮遊液(最終の原虫数5×10個/ウェル)を添加後、48時間培養を行った。培地交換後、所定の濃度の化合物溶液(DMSO溶液)を添加し、混和後、37℃、5%CO−95% air下で96時間培養を行った。
培養終了後、原虫増殖の測定は96穴プレ−トの各ウェルにCPRG/Nonidetを50μL添加した。更に2−6時間静置後、吸光マイクロプレ−トリ−ダ−(Labosystems社製、フィンランド国)にて540nmの吸光度を測定し、本化合物の50%原虫増殖阻止濃度を化合物濃度作用曲線より求めた。
比較対象として培養トリパノソ−マ原虫に対する効果を測定した既知のシャ−ガス病治療薬として、ベンズニダゾ−ルを用いた。
【0092】
本発明のアクチノアロライドA物質と既知の抗トリパノソ−マ原虫薬の培養トリパノソ−マ原虫(T.cruzi Tulahuen C4C8株)に対する抗トリパノソ−マ原虫活性は以下の表4に示す通りであった。
【0093】
【表4】
【0094】
本発明のアクチノアロライドA物質のT.cruzi Tulahuen C4C8株に対する抗トリパノソ−マ原虫活性(IC50値)は0.226μg/mLであり優れた抗トリパノソ−マ原虫活性を示した。アクチノアロライドA物質は既存のシャ−ガス病治療薬と比較すると、ベンズニダゾ−ルの約2倍優れた抗トリパノソ−マ原虫活性であった。この結果より、アクチノアロライドA物質がシャ−ガス病の薬剤開発に繋がることが期待される。
【0095】
(実施例6) 細胞毒性試験
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質の細胞毒性試験は乙黒らの方法[Otoguro K, Kohana A, Manabe C, Ishiyama A, Ui H, Shiomi K, Yamada H, Omura S. Potent antimalarial activities of polyether antibiotic, X−206. J. Antibiotics,54:658−663,(2001)]に準じて行った。すなわち、宿主細胞のモデルとしてヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞[Dr. L. Maes(Tibotec NV,Mechelen,ベルギ−国)より分与可能]を10%牛胎児血清(FCS)及び抗生物質添加MEM培地にて維持、継代培養を行ったものを用いた。
【0096】
ヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞を10%FCS−MEMにて1×10cells/mLとなるように浮遊液を調整し、96穴プレ−トに該浮遊液を100μL添加し混和後、37℃、5%CO−95% air下で24時間培養を行った。その後、各ウェルに10%FCS−MEM 90μLと本化合物の溶液(50%エタノ−ル水溶液)10μLを添加し、混和後、37℃、5%CO−95% air下で7日間培養を行った。MRC−5細胞の増殖の有無はMTT法にて比色定量することにより測定した。本化合物の50%細胞増殖阻止濃度(IC50値)を化合物濃度作用曲線より求めた。また、選択毒性比(Selectivity Index:SI)は、(細胞毒性のIC50値)/(抗トリパノソ−マ原虫活性のIC50値)により計算して求めた。
【0097】
IC50と選択毒性比について計算した結果を下記の表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質のヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞に対する細胞毒性(IC50値)は各々順に>100、 51.83、32.44、16.45および4.71μg/mLであり、抗トリパノソ−マ原虫活性(T.b.b. GUTat3.1株)との選択毒性比(Selectivity Index:SI)は各々順に>20,408、51.3、295、21.4および36.2であった。このうちアクチノアロライドA物質のSIは既存の抗トリパノソ−マ原虫薬と比較すると、ペンタミジンの>5.4倍の選択毒性を示した。またアクチノアロライドA物質のその他のトリパノソ−マ原虫に対する活性(T.b.r. STIB900株およびT.Cruzi Tulahuen C4C8株)とのSIは>1163および>442と優れた高い選択毒性を示した。
【0100】
(実施例7) 抗菌活性
本発明のアクチノアロライドA物質の抗菌活性は以下の方法で測定した。濾紙円板(アドバンテック社製、直径6mm)にアクチノアロライドA物質の1mg/mLのメタノ−ル溶液をそれぞれ10μL浸漬し、一定時間風乾して溶媒を除去後、表6に記載の試験菌含菌寒天平板に張り付け、37℃または27℃で24時間培養後、濾紙円板の周りにできた生育阻止円の直径を測定した。
【0101】
アクチノアロライドA物質の試験菌に対する抗菌として測定した生育阻止円の直径を表6に示す。
【0102】
【表6】
* −:生育阻止円が観測されない
【0103】
本発明のアクチノアロライドA物質は、表7に列挙された微生物に対してほとんど抗菌活性を示さなかった。よって、本発明のアクチノアロライドA物質はトリパノソ−マ原虫に特異的な作用機序を有すると考えることができる。
【0104】
以上の結果から本発明のアクチノアロライドA,B,C,D及びE物質は、トリパノソ−マ原虫の増殖を阻害する効果を有する一方、細胞毒性が低く、また他の微生物に対しては増殖抑制作用を示さないことから、抗トリパノソ−マ原虫薬として非常に優れた効果を有することが示された。