特許第6388191号(P6388191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388191
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】円錐ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20180903BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20180903BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20180903BHJP
   F16C 33/36 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C33/58
   F16C19/36
   F16C33/36
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-267847(P2013-267847)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-211230(P2014-211230A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-280994(P2012-280994)
(32)【優先日】2012年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-78999(P2013-78999)
(32)【優先日】2013年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】黄金井 誠
(72)【発明者】
【氏名】富永 大介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 洋
(72)【発明者】
【氏名】清野 俊一
(72)【発明者】
【氏名】青木 護
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−075621(JP,U)
【文献】 特開昭59−050224(JP,A)
【文献】 特開2000−130443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 19/36
F16C 33/36
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の円錐ころと、前記複数の円錐ころを収容保持する複数のポケットを画成する樹脂製保持器と、を有する円錐ころ軸受であって、
前記保持器は、軸方向に離間した大径リング部及び小径リング部と、該大径リング部及び小径リング部との間を繋ぐ複数の柱部と、を有し、前記大径リング部の内周面と、前記小径リング部の外周面との少なくとも一方には、該リング部の肉厚が前記柱部の肉厚よりも薄くなるように環状の切欠き部が形成され、
前記円錐ころのころ大径Dw1と径方向断面肉厚Hの比が、0.3<Dw1/H<0.6であり、ころ長さLwと内輪幅Bの比が0.8<Lw/B<1.2であることを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項2】
前記大径リング部の内周面には、該大径リング部の肉厚が前記柱部の肉厚よりも薄くなるように環状の切欠き部が形成され、
前記内輪の大径側端部には大鍔が形成され、且つ、前記内輪軌道面は、前記内輪の小径側端面まで連続しており、
前記環状の切欠き部には、前記大鍔が入り込んでいることを特徴とする請求項1記載の円錐ころ軸受。
【請求項3】
前記柱部は、前記ポケットの内径側の少なくとも一部において、0.2mm〜0.7mmのかかり代とし、前記ポケットの内径側開口幅が前記円錐ころのころ大径より狭くなるように形成され、且つ、
前記ポケットの外径側の少なくとも一部において、0.1mm〜0.5mmのかかり代とし、前記ポケットの外径側開口幅が前記円錐ころのころ小径より狭くなるように形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の円錐ころ軸受。
【請求項4】
前記内輪の大径側端部には大鍔が形成され、且つ、前記内輪軌道面は、前記内輪の小径側端面まで連続しており、
接触角αが37°30´以上50°以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
【請求項5】
接触角αが45°であることを特徴とする請求項4に記載の円錐ころ軸受。
【請求項6】
前記保持器の傾斜角度は、32°30´以上55°未満に設定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐ころ軸受、特に、自動車、鉄道車両、建設機械、産業用ロボットの関節部、工作機械、搬送装置、組立装置等に好適に使用可能な円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーメント剛性を必要とする場合に選定される転がり軸受としては、アンギュラ玉軸受が考えられる。
【0003】
また、円錐ころ軸受として、保持器のポケットの外周側および内周側の開口縁部に、突部を設けて、ころと保持器とを一体化して、軸受組込み時や使用中のころの脱落を防止し、また、内輪の小鍔を不要とし、その分だけころ長さを長くすることで、負荷容量を大きくしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンギュラ玉軸受において、さらなる高モーメント剛性や長寿命の要求に対応するには、軸受サイズが大きくなってしまい、軸受サイズの維持又は縮小という要求に対応する為には、限界がある。
更に、最近、変速機用として使用される軸受では、高負荷容量で、かつ、変速機のコンパクト化を対応できるもの、つまり、軸受サイズを変更することなく、従来と同等以上の機能であることが求められる。
【0006】
一方、特許文献1に記載の円錐ころ軸受では、接触角について考慮されておらず、図示された円錐ころ軸受の接触角では、ラジアル剛性は高いが、高モーメント剛性が得られないと考えられる。
また、特許文献1には、保持器へのころの挿入性に関する検討がなかった。さらに、特許文献1に記載の円錐ころ軸受に使用される保持器は、ころと保持器とが一体化されているが、円錐ころを保持するためのかかり代に対する記載がない為、円錐ころを保持する性能が十分であるか不明である。更に、この円錐ころ軸受では接触角が35°未満であり、仮に、接触角を35°以上に設定すると、内輪には小鍔がない為、保持器だけでころを十分に保持できないことが懸念される。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持器への円錐ころの挿入性を向上することができる円錐ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の円錐ころと、前記複数の円錐ころを収容保持する複数のポケットを画成する樹脂製保持器と、を有する円錐ころ軸受であって、
前記保持器は、軸方向に離間した大径リング部及び小径リング部と、該大径リング部及び小径リング部との間を繋ぐ複数の柱部と、を有し、
前記大径リング部の内周面と、前記小径リング部の外周面との少なくとも一方には、該リング部の肉厚が前記柱部の肉厚よりも薄くなるように環状の切欠き部が形成され
前記円錐ころのころ大径Dw1と径方向断面肉厚Hの比が、0.3<Dw1/H<0.6であることを特徴とする円錐ころ軸受。
(2) 前記大径リング部の内周面には、該大径リング部の肉厚が前記柱部の肉厚よりも薄くなるように環状の切欠き部が形成され、
前記内輪の大径側端部には大鍔が形成され、且つ、前記内輪軌道面は、前記内輪の小径側端面まで連続しており、
前記環状の切欠き部には、前記大鍔が入り込んでいることを特徴とする(1)記載の円錐ころ軸受。
(3) 前記柱部は、前記ポケットの内径側の少なくとも一部において、0.2mm〜0.7mmのかかり代とし、前記ポケットの内径側開口幅が前記円錐ころのころ大径より狭くなるように形成され、且つ、
前記ポケットの外径側の少なくとも一部において、0.1mm〜0.5mmのかかり代とし、前記ポケットの外径側開口幅が前記円錐ころのころ小径より狭くなるように形成されることを特徴とする(1)又は(2)記載の円錐ころ軸受。
(4) 前記内輪の大径側端部には大鍔が形成され、且つ、前記内輪軌道面は、前記内輪の小径側端面まで連続しており、
接触角αが37°30´以上50°以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の円錐ころ軸受。
(5) 接触角αが45°であることを特徴とする(4)に記載の円錐ころ軸受。
(6) 前記保持器の傾斜角度は、32°30´以上55°未満に設定されることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の円錐ころ軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の円錐ころ軸受によれば、保持器の大径リング部の内周面と、小径リング部の外周面との少なくとも一方には、該リング部の肉厚が柱部の肉厚よりも薄くなるように環状の切欠き部が形成されるので、保持器への円錐ころの挿入性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面図であり、(b)は、円錐ころを示す図である。
図2】(a)は、図1の保持器の全体斜視図であり、(b)は、(a)の部分拡大図である。
図3】(a)は、図1のIII−III線に沿った断面図であり、(b)は、図1のIII´−III´線に沿った断面図である。
図4】本実施形態と従来例の円錐ころ軸受におけるモーメント剛性および寿命を示すグラフである。
図5】円錐ころ軸受の変形例に係る要部拡大縦断面図である。
図6】本発明の円錐ころ軸受が適用される直交軸歯車減速機の縦断面図である。
図7】本発明の円錐ころ軸受が適用されるハイポイド式の減速機付き電動機の減速機部の拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る円錐ころ軸受について、図面に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、円錐ころ軸受1は、内周面に外輪軌道面2aを有する外輪2と、外周面に内輪軌道面3aを有する内輪3と、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aとの間に転動自在に配置される複数の円錐ころ4と、複数の円錐ころ4を所定の間隔で収容保持する複数のポケットPを画成する樹脂製保持器10と、を有する。
【0012】
外輪2に形成された外輪軌道面2aは、外輪2の内周面に小径側から大径側に向かうに従って内径が次第に大きくなるように設けられている。
【0013】
また、内輪3は、大径側端部に半径方向外方に突出して形成された大鍔3bを備え、内輪軌道面3aは、小径側端面3cまで連続し、小径側端面3cから大鍔3bに向かうに従って外径が次第に大きくなるように設けられている。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の円錐ころ軸受1では、外輪軌道面2aの接線と円錐ころ軸受1の回転軸線とのなす角度である接触角αが45°に設定されており、モーメント剛性を向上している。
なお、接触角αは、37°30´以上50°以下の範囲とすることでモーメント剛性を向上することができ、軸受間距離が短い、具体的には、軸受間距離が軸受の組立幅Tの4倍以下の場合に、接触角αを37°30´以上50°以下の範囲とすると、作用点間距離を長くすることができ、軸受のモーメント剛性を向上する上で特に有効である。
【0015】
また、円錐ころ軸受1では、径方向断面肉厚Hと内径dの比が0.05<H/d<0.1
5となるように設定されており、接触角αを45°と大きく設定しつつも、径方向に薄肉とされてコンパクトな構成としている。
【0016】
さらに、内輪3が小鍔を設けないことで、ころ長さLwを大きくとることができ、ころ長さLwと内輪幅Bの比が0.8<Lw/B<1.2に設定されており、負荷容量を大きくしてモーメント剛性を向上し、長寿命化を図っている。また、ころ大径Dw1と径方向断面肉厚Hの比が0.3<Dw1/H<0.6に設定されている。
【0017】
さらに、内輪外径をD1としたとき、内輪大鍔側高さ(D1-d)/2と径方向断面肉厚Hの比が0.7<(D1-d)/2H<0.9に設定され、これにより、大鍔3bをバックアップすることができ、大鍔3bの強度を大幅に向上することができる。
ここで、(D1-d)/2H≧1とすると、外輪外径より大鍔外径のほうが大きくなるため、大鍔がハウジングと接触してしまう。このため、ハウジングとの干渉を考慮すると、大鍔の高さは、(D1-d)/2<H、即ち、(D1-d)/2H<1とする必要がある。そして、軸受の傾き、変形、動き量等の余裕分を考慮すると、(D1-d)/2H<0.9とすることが好ましい。また、(D1-d)/2H≦0.7とすると、大鍔の強度が足りなくなる可能性があるため、(D1-d)/2H>0.7とすることが好ましい。
なお、図1中、Tは円錐ころ軸受の組立幅、Dは円錐ころ軸受の外径を表わしている。また、本実施形態に適用される円錐ころ軸受1としては、通常、軸受内径が30〜500mm、軸受外径が33〜650mmのものである。したがって、軸受サイズが風力発電機主軸用のものに比べて小さいため、円錐ころのサイズも小さく、重量も軽い。このため、円錐ころ軸受1には、本発明のような一体型樹脂製の保持器を採用することが好適である。
【0018】
また、図1及び図2に示すように、樹脂製保持器10は、軸方向に離間した大径リング部11及び小径リング部12と、大径リング部11及び小径リング部12との間を繋ぐ、円周方向に所定の間隔で設けられた複数の柱部13と、備える。樹脂製保持器10は、射出成形で製作されており、特に、コスト面で有利なアキシャルドロー型により射出成形されることが望ましい。
【0019】
保持器10で使用可能な樹脂組成物で用いるベース樹脂としては、一定以上の耐熱性を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。
また、保持器10として要求される耐疲労性と、低い吸水寸法変化を満足するために、結晶性樹脂の方が好適であり、具体的には、ポリアミド46、ポリアミド66、芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等である。芳香族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6T/6I等の変性ポリアミド6T,ポリアミドMXD6,ポリアミド9T,ポリアミド4Tを使用することができる。以上説明したベース樹脂の中で、吸水寸法変化がほとんど無いポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂が特に好適である。
【0020】
また、この樹脂組成物は、一定以上の強度を達成し、線膨張係数・吸水寸法変化を抑制するために、強化繊維材を含有する。強化繊維材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の表面処理品(シランカップリング剤・サイジング剤で表面処理されることで、ベース樹脂との接着性向上)を好適に使用することができる。
樹脂組成物中の強化繊維材の含有量は、樹脂組成物全体の10重量%以上40重量%以下、より好ましくは15〜30重量%である。
【0021】
また、柱部13は、大径リング部寄りの部分と小径リング部寄りの部分において断面形状が異なっており、柱部13の途中で切り替わっている。即ち、図3(a)に示す柱部13の大径リング部寄りの部分は、円錐ころ4のピッチ円Cに対して内径側に円錐面14aが設けられた突出部14を有している。また、図3(b)に示す柱部13の小径リング部寄りの部分は、円錐ころ4のピッチ円Cに対して外径側に円錐面15aが設けられた突出部15を有している。
なお、円錐面14a、15aの曲率は、円錐ころ4の曲率よりも若干大きく設定されている。
【0022】
また、円錐ころ4と樹脂製保持器10とを一体にするため、柱部13の大径リング部寄りの突出部14では、ポケットの内径側開口幅W1は、ころ大径Dw1より狭く、柱部13の小径リング部寄りの突出部15では、ポケットの外径側開口幅W2は、ころ小径Dw2より狭い寸法となる。
【0023】
表1は、柱部13の大径リング部寄りの突出部14でのかかり代(Dw1−W1)を0.2mm〜0.7mmの間で0.1mmずつ変え、柱部13の小径リング部寄りの突出部15でのかかり代(Dw2−W2)を0.1mm〜0.5mmの間で0.1mmずつ変えて、ころ挿入性及びころ保持性を試験した結果を示している。なお、その他の条件については、同一としている。また、表中、◎はころ挿入性及びころ保持性の両方が良好であることを示しており、○は、ころ挿入性及びころ保持性のいずれかが◎の場合よりも低いが実施可能ではあることを示しており、×は、ころ挿入性及びころ保持性のいずれかが実施不可能であることを示している。
【0024】
この結果から、柱部13の大径リング部寄りの突出部14でのかかり代(Dw1−W1)を0.2mm〜0.7mmとし、柱部13の小径リング部寄りの突出部15でのかかり代(Dw2−W2)を0.1mm〜0.5mmとすることが好ましいことがわかる。特に、ころ挿入性ところ保持性との良好なバランスの観点から、柱部13の大径リング部寄りの突出部14でのかかり代(Dw1−W1)を0.2mm〜0.6mmとし、柱部13の小径リング部寄りの突出部15でのかかり代(Dw2−W2)を0.1mm〜0.3mmとすることが好ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
また、図1に示すように、大径リング部11の内周面には、大径リング部11の肉厚tが柱部13の肉厚tよりも薄くなるように環状の切欠き部16が形成され、保持器10
の内周面は、柱部13から大径リング部11にかけて段付き形状に形成される。また、切欠き部16は、柱部13の一部を径方向に沿って切欠いている。これにより、大径リング部11の肉厚が薄くなるとともに、柱部13の突出部14も一部切除されるので、大径リング部側の柱部13の弾性変形量が大きくなり、保持器10の内側から円錐ころ4が挿入しやすくなる。
また、環状の切欠き部16には、内輪3の大鍔3bが入り込むことができ、その分だけ大鍔3bを大きくしてアキシャル荷重の負荷を増大することができる。さらに、切欠き部16は、柱部13の一部を径方向に沿って切欠いているので、大鍔3bとの干渉を回避することができる。
【0027】
また、図1に示すように、円錐ころ軸受1の回転軸線に対する保持器10の外周面の傾斜角度αは、円錐ころ軸受1の接触角αに対応して、32°30´以上55°未満、好ましくは、32°30´以上54°以下に設定される。
【0028】
本実施形態の円錐ころ軸受1は、高モーメント剛性を得るためには、軸受配列として背面組合せ(DB組合せ)で使用することが望ましい。
また、円錐ころ軸受1は、予圧荷重を高めればモーメント剛性を向上する事が可能であるが、その反面、軸受の寿命が低下する可能性があるため、特殊熱処理(浸炭処理又は浸
炭窒化処理)を施した長寿命鋼を使用することが好ましい。
【0029】
ここで、軸受基本動定格荷重(Cr)×20%以上〜60%以下の荷重条件下で、接触角を変えながら、モーメント剛性及び寿命について比較を行った。表2で、◎は、実施可能且つ効果が良いことを表し、○は、◎よりも性能は劣るが、実施可能であることを表し、△は、○よりも性能は劣るが、実施可能であることを表し、×は、効果が良くないことを表している。この表2の結果から、接触角を37°30´以上50°以下とすることで、高いモーメント剛性と長寿命が得られることがわかる。
【0030】
【表2】
【0031】
次に、上記試験結果が良好な実施例2〜5の内部諸元を再検討し、更にコンパクト化の観点から各諸元から受ける影響を検証した。また、表3に示している基本動定格荷重比は、比較例4の基本動定格荷重を1とする場合、比較例4と比較した値である。表3で、◎は、実施可能且つ効果が良いことを表し、○は、◎よりも性能は劣るが、実施可能であることを表し、×は、効果が良くないことを表している。この表3の結果を総合的に判断すると、実施例6〜9のように、接触角が本発明の要件を満たすことで、モーメント剛性、長寿命化が図られることがわかり、また、Lw/B、Dw1/H、(D1−d)/2Hが本発明の要件を満たすことで、さらにコンパクト化や大鍔の強度向上が図られることがわかる。
【0032】
【表3】
【0033】
また、予圧比が4における従来品(比較例4)の円錐ころ軸受におけるモーメント剛性及び寿命を1としたときの、発明品(実施例)の各予圧比におけるモーメント剛性比及び寿命比を表4及び図4に示す。なお、予圧比とは、一定値の予圧を「1」と設定したときに、この「1」に対して比で表わされる値である。また、予圧比「0」と示すのは、0「N」のことである。
【0034】
【表4】
【0035】
図4に示すように、発明品(実施例)の円錐ころ軸受は、予圧比4のとき、従来品(比較例4)に対するモーメント剛性比が2.1、また、比較例4に対する寿命比が4となっている。また、いずれの予圧比においても、発明品(実施例)の円錐ころ軸受は、モーメント剛性比及び寿命比において、従来品(比較例4)よりも高い値を示していることがわかる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の円錐ころ軸受1によれば、保持器10は、軸方向に離間した大径リング部11及び小径リング部12と、大径リング部11及び小径リング部12との間を繋ぐ複数の柱部13と、備え、大径リング部11の内周面には、大径リング部11の肉厚tが柱部13の肉厚tよりも薄くなるように環状の切欠き部16が形成さ
れる。これにより、保持器10の柱部13の弾性変形量が大きくなり、保持器10の内側から円錐ころ4を挿入しやすくすることができる。
【0037】
また、内輪3の大径側端部には大鍔3bが形成され、且つ、内輪軌道面3aは、内輪3の小径側端面3cまで連続しており、環状の切欠き部16には、内輪3の大鍔3bが入り込んでいるので、その分だけ大鍔3bを大きくしてアキシャル荷重の負荷を増大することができる。
【0038】
さらに、柱部13は、大径リング部寄りの突出部14において、0.2mm〜0.7mmのかかり代とし、ポケットPの内径側開口幅W1が円錐ころ4のころ大径Dw1より狭くなるように形成され、且つ、小径リング部寄りの突出部15において、0.1mm〜0.5mmのかかり代とし、ポケットPの外径側開口幅W2が円錐ころ4のころ小径Dw2より狭くなるように形成される。これにより、保持器10への円錐ころ4の挿入性及び保持性を向上することができる。
なお、本発明の保持器10は、アキシャルドロー型での射出成形に限定されるものでなく、即ち、柱部13は、ポケットPの内径側の少なくとも一部において、0.2mm〜0.7mmのかかり代とし、ポケットPの内径側開口幅W1が円錐ころ4のころ大径Dw1より狭くなるように形成され、且つ、ポケットPの外径側の少なくとも一部において、0.1mm〜0.5mmのかかり代とし、ポケットPの外径側開口幅W2が円錐ころ4のころ小径Dw2より狭くなるように形成されればよい。
【0039】
さらに、内輪3の大径側端部には大鍔3bが形成され、且つ、内輪軌道面3aは、内輪3の小径側端面3cまで連続しており、接触角αが45°に設定されている。これにより、モーメント剛性を向上することができ、また、ころ長さを長くして負荷容量を大きくとることができ、高モーメント剛性及び長寿命化を図ることができる。
また、接触角αは、37°30´以上50°以下の範囲とすることでモーメント剛性を向上することができ、軸受間距離が短い場合、具体的には、軸受間距離が軸受の組立幅Tの4倍以下の場合に、接触角αを37°30´以上50°以下の範囲とすると、軸受のモーメント剛性を向上する上で特に有効である。
【0040】
また、保持器10の傾斜角度αは、32°30´以上55°未満に設定されるので、保持器10は、接触角αが37°30´以上50°以下の急勾配の円錐ころ軸受1にも適用することができる。
【0041】
また、本実施形態の円錐ころ軸受1は、高モーメント剛性及び長寿命を実現するために内輪小鍔をなくし、その分のころ長さを長くしている。これに対応する為に本実施形態は、保持器10のかかり代を設定することで、保持器10のころ保持性能を向上させ、円錐ころ4と保持器10の一体化を実現している。よって、本実施形態の円錐ころ軸受1に採用される保持器10は、本来円錐ころ4を保持する機能を果たす内輪小鍔の代わりにその役割を担うことを実現しており、接触角が37°30´以上50°以下の急勾配円錐ころ軸受のころ落下を有効的に抑制することができる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良などが可能である。
例えば、上記実施形態では、大径リング部11の内周面に環状の切欠き部16が形成されているが、本発明は、大径リング部11の内周面と、小径リング部12の外周面との少なくとも一方に、環状の切欠き部が形成されればよい。例えば、図5に示す変形例のように、大径リング部11の内周面と小径リング部12の外周面との両方に、両リング部11、12の肉厚t、tが柱部13の肉厚tよりも薄くなるように環状の切欠き部16、17を形成し、保持器10の両側から円錐ころ4を挿入しやすくしてもよい。
【0043】
また、本発明の円錐ころ軸受は、産業ロボット、搬送装置、モータ用等の各種の減速機に適用可能であり、具体的な適用例について以下に示す。
【0044】
(適用例1)
図6は、本発明の円錐ころ軸受が適用される直交軸歯車減速機の縦断面図である。この直交軸歯車減速機は、モータと組合せて物流機器等に用いる歯車減速機に組み込まれ、L側(入力側より見て減速機左側面)と、R側の両方に軸出しをするものであり、図6は、L軸出しの例である。
【0045】
図6中、201は減速用の歯車を収める歯車箱である。202はL側軸出しされた中実出力軸、203は中空出力軸である。図6の場合は上半分が中実出力軸202を使用した場合、下半分が中空出力軸203を使用した場合を示している。歯車箱201は中心線cに対して左右対称に構成され、形状、寸法も全く同一である。左右の出力軸軸出部は出力軸カバー206又は207を歯車箱201にボルト締めにより固定している。なお軸出し側の出力軸カバー206のみ軸出し用穴を加工してある。
【0046】
図6において、中実出力軸202は歯車箱201に嵌装された、本発明の円錐ころ軸受1で両側を支持され、中間の最大直径部202aを挟んでその両側に出力ギヤ204を嵌合する出力ギヤ嵌合部202cが対をなして設けられている。また、図6の下半分に示した中空出力軸203の場合も含め、円錐ころ軸受の嵌合部202dの直径は中実出力軸202と同一にしている。
【0047】
そして、図示しないベベルピニオンと噛合するベベルギヤ210を支持する軸211には、ピニオン212が設けられる。出力ギヤ204はピニオン212と噛合し、ベベルギヤ210に伝達された動力が、出力軸202、203へと伝達される。
【0048】
(適用例2)
図7は、本発明の円錐ころ軸受が適用されるハイポイド式の減速機付き電動機の減速機部の拡大側断面図である。
【0049】
図7において、減速機301は、電動機のベアリングブラケット302のフランジ面302aに取り付けられている。また、減速機301の内部には、電動機から延出したピニオン303と噛合されるハイポイドギヤ304と、このハイポイドギヤ304の中央部を貫いて取り付けられたスピンドル305と、このスピンドル305を回転自在に支持する2個の円錐ころ軸受1と、これら円錐ころ軸受1を収納する収納部307a、308aを備えた2ピースからなるケーシング307、308とで構成されている。
【0050】
また、ケーシングの収納部307、308のそれぞれの底面と、この底面と接する円錐ころ軸受1の側面との間には、隙間が形成され、それぞれ1枚あるいは複数枚のシムワッシャ309、310が挿入されている。また、歯車嵌入側の収納部308には、シムワッシャ310と共に、バネワッシャ311等の弾性部材が挿入されている。
【0051】
なお、適用例1や適用例2に使用される円錐ころ軸受1は、外輪外径を650mm以下、内輪内径を500mm以下としている。
いずれの適用例においても、本発明の円錐ころ軸受1を使用することで、コンパクトな設計でありながら、出力軸202,203、及びスピンドル305に作用するアキシャル荷重及びラジアル荷重を支承することができる。
また、図6及び図7に示すように、本発明の円錐ころ軸受1を背面組合せで取り付けることにより、モーメント剛性を向上することができる。
また、高モーメント剛性を得るためには、玉軸受よりもころ軸受を適用する方が有利であり、特に円錐ころ軸受は、ころ転動面の延長線と外内輪軌道面の延長線が、回転軸上の1ヶ所で交わる構造であるため、ころ転動面と外内輪軌道面間の滑りが発生し難く、円筒
ころ軸受を適用する場合に比べて高い信頼性を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 円錐ころ軸受
2 外輪
2a 外輪軌道面
3 内輪
3a 内輪軌道面
3b 大鍔
4 円錐ころ
10 円錐ころ軸受用樹脂製保持器
11 大径リング部
12 小径リング部
13 柱部
14、15 突出部
14a、15a 円錐面
B 内輪幅
D 外径
D1 内輪外径
Dw1 ころ大径
H 径方向断面肉厚
d 内径
Lw ころ長さ
T 組立幅
α 接触角
α2 保持器傾斜角度
C 円錐ころのピッチ円
P ポケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7