【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リグニン部位とポリアルキレングリコール部位とを有するリグニン誘導体に着目し、ポリアルキレングリコール部位の構造、両部位のモル比率、数平均分子量及び分子量分布が相まってセメント添加剤としての性能に影響を及ぼし、これらを好適化することによってセメント減水性能や分散保持性能が向上し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、リグニン部位とポリアルキレングリコール部位とを必須とするリグニン誘導体を含むセメント添加剤であって、上記リグニン誘導体は、ポリアルキレングリコール部位を構成するアルキレンオキサイドの平均付加モル数が10を超え、ポリアルキレングリコール部位とリグニン部位とのモル比率が0.1〜20であり、かつ、数平均分子量が6000〜20万、分子量分布が1.0〜3.5であるセメント添加剤である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
<リグニン誘導体>
本発明のリグニン誘導体は、リグニン部位とポリアルキレングリコール部位とを必須とする。これらの部位以外にその他の構造部位を有していてもよい。
【0012】
上記リグニン部位は、リグニンに由来する構造単位である。リグニンとしては、特に限定されず、例えば、アルカリリグニン、クラフトリグニン、酢酸リグニン、オルガノソルブルリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニン等が挙げられ、これらのリグニンを1種又は2種以上を用いることができる。
これらのリグニンの中でもアルカリリグニン、酢酸リグニン、オルガノソルブルリグニン、爆砕リグニンは、蒸解に硫黄含有化合物を用いないことから、硫黄臭の発生がない点で有利である。
【0013】
上記リグニンの原料となる植物についても特に限定されず、スギ、モミ、ヒノキ、マツ等針葉樹、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹、稲藁、穀物、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等が挙げられる。
これらの中でも、木質系のものが分散性能の点で好ましく、針葉樹や広葉樹のものがさらに好ましく、特に、針葉樹のものが好ましい。
【0014】
本発明で使用するリグニンは、通常行われる方法、例えば、「リグニンの化学(中野準三編 ユニ出版)」に記載の方法を用いて原料物質より単離することにより得ることができる。
【0015】
リグニンの分子量は、原料物質、単離方法によって異なり、本発明において使用されるリグニンの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量500〜100万のリグニンを使用することができる。好ましくは、重量平均分子量5000〜10万のリグニンである。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法を用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0016】
本発明のリグニン誘導体に用いられるリグニン中の硫黄元素の含有率は、リグニン100質量%に対して0.1〜4質量%の範囲であることが好ましい。硫黄元素の含有率は、0.1〜3質量%の範囲であることがより好ましい。更に好ましくは、0.1〜2質量%の範囲であり、特に好ましくは、0.1〜1質量%の範囲である。
リグニン中の硫黄元素の含有率は、後述する実施例に記載の測定機器、測定条件で元素分析によって測定することができる。
【0017】
本発明のリグニン誘導体におけるポリアルキレングリコール部位は、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物(以下、ポリアルキレングリコール含有化合物ともいう。)に由来する構造単位であり、ポリアルキレングリコール部位を構成するアルキレンオキサイドの平均付加モル数が10を超えることを特徴とする。
上記アルキレンオキサイドの平均付加モル数とは、ポリアルキレングリコール部位を構成する1つのポリアルキレングリコール鎖において付加しているアルキレンオキサイドのモル数の平均値を意味する。
上記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が10以下であれば、セメント添加剤の減水性能が充分なものとはならず、セメントの適正な分散性を得るために必要なセメント添加剤の純分添加量が多くなる。該添加量は、セメント添加剤の減水性能の指標となり、少ないほど減水性能が優れると評価される。多量に使用されるセメントに対して、該添加量がわずかでも少なくなれば大きな効果が認められることになる。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール部位を構成するアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、11以上が好ましく、より好ましくは13以上、更に好ましくは15以上、特に好ましくは20以上、一層好ましくは25以上、より一層好ましくは30以上、最も好ましくは50以上である。上限としては、上記アルキレンオキサイドの平均付加モル数は通常300以下であることが好ましく、より好ましくは250以下、さらに好ましくは200以下、特に好ましくは150以下、一層好ましくは100以下である。
またセメント分散性の保持性能については、上記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が11以上であることが好ましく、より好ましくは13以上、更に好ましくは15以上、特に好ましくは20以上、一層好ましくは25以上である。保持性能の観点から上限としては、上記アルキレンオキサイドの平均付加モル数は100以下であることが好ましく、より好ましくは75以下、更に好ましくは60以下、特に好ましくは50以下、一層好ましくは40以下、より一層好ましくは30以下である。
【0019】
上記アルキレンオキサイドとしては、特に限定されないが、炭素数2〜18のアルキレンオキサイドを用いることが好ましく、より好ましくは炭素数2〜8のアルキレンオキサイドであり、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド、トリメチルエチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、テトラメチルエチレンオキサイド、ブタジエンモノオキサイド、オクチレンオキサイド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキサイド、ジヘキサンエチレンオキサイド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキサイド等の脂環エポキシド;スチレンオキサイド、1,1−ジフェニルエチレンオキサイド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0020】
上記ポリアルキレングリコール部位を構成するアルキレンオキサイドとしては、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキサイド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキサイドが主体であることである。
【0021】
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール部位が、2種以上のアルキレンオキサイドにより構成されるときに、全アルキレンオキサイドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキサイド100モル%中のエチレンオキサイドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、本発明のリグニン誘導体がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0022】
上記ポリアルキレングリコール含有化合物としては、ポリアルキレングリコール部位のアルキレンオキサイドの平均付加モル数が上述の範囲となる限り特に限定されないが、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール系化合物(以下、グリコール系化合物ともいう。);ポリエチレングリコール−モノエチル−グリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−モノメチル−グリシジルエーテル、ラウリルアルコール−ポリエチレンオキサイド−グリシジルエーテル等の単官能のグリシジルエーテル系化合物;ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル等の二官能のグリシジルエーテル系化合物;及びこれらのグリシジル基(以下、エポキシ基ともいう。)をメトキシ、エトキシ等のアルコキシド化合物と反応させて、グリシジルエーテル基の官能度を低下させたグリシジルエーテル系化合物;メトキシポリエチレングリコール等のアルコキシポリアルキレングリコールとエピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンとの反応により得られる単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物が挙げられる。
なお、ポリアルキレングリコール部位は、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物に由来する構造となっていればよく、そのような構造を構成するための原料が特定されるものではないが、上記化合物から構成されることが好ましい。その場合、これらの化合物は、化合物中のアルキレンオキサイドの平均付加モル数が10を超えるものである。
【0023】
上記ポリアルキレングリコール含有化合物としては、不飽和結合を有しないポリアルキレングリコール含有化合物が好ましく、不飽和結合を有しないポリアルキレングリコール含有化合物の中でもより好ましくは単官能のグリシジルエーテル系化合物、アルコキシポリアルキレングリコールとエピハロヒドリンとの反応により得られる単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物であり、更に好ましくはアルコキシポリアルキレングリコールとエピハロヒドリンとの反応により得られる単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物である。
【0024】
本発明のリグニン誘導体におけるポリアルキレングリコール部位とリグニン部位とのモル比率は、0.1〜20である。上記モル比率は、リグニン部位1モルに対するポリアルキレングリコール部位のモル比率を表す。
上記モル比率が上記範囲よりも小さいと、セメント添加剤としての性能を充分に発揮できず、該用途に適さないものとなる。上記範囲よりも大きいと、セメントの適正な分散性を得るために必要なセメント添加剤の純分添加量が多くなる。
上記ポリアルキレングリコール部位とリグニン部位とのモル比率は、好ましくは、1.0〜13であり、より好ましくは1.5〜12であり、更に好ましくは2〜11であり、特に好ましくは2.5〜10であり、最も好ましくは3〜9である。
上記ポリアルキレングリコール部位とリグニン部位とのモル比率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0025】
本発明のリグニン誘導体の数平均分子量は6000〜20万であり、好ましくは6000〜10万であり、より好ましくは6000〜5万であり、更に好ましくは6000〜3万であり、特に好ましくは6000〜2万である。数平均分子量が上記範囲を外れると、セメント添加剤としての用途に適さないものとなる。
本発明のリグニン誘導体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.0〜3.5である。
上記分子量分布が上記範囲よりも小さいと、分子量分布曲線がシャープなものとなり過ぎ、セメント添加剤としての製造が困難となる。上記範囲よりも大きいと、セメントの適正な分散性を得るために必要なセメント添加剤の純分添加量が多くなる。
本発明のリグニン誘導体の分子量分布は、好ましくは1.0〜2.0であり、より好ましくは1.0〜1.8であり、更に好ましくは1.0〜1.6である。リグニン誘導体の数平均分子量、分子量分布は、GPCを用い、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
<リグニン誘導体の製造方法>
本発明のリグニン誘導体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、リグニンとポリアルキレングリコール含有化合物とを反応させる製造方法が挙げられる。
このような、リグニン部位とポリアルキレングリコール部位とを必須とするリグニン誘導体の製造方法であって、上記製造方法は、リグニンとポリアルキレングリコール含有化合物とを反応させる工程を含むリグニン誘導体の製造方法もまた本発明の1つである。
【0027】
上記リグニンとポリアルキレングリコール含有化合物との反応において、例えば、リグニン中の水酸基にポリアルキレングリコール含有化合物の反応基を反応させることにより、リグニンを誘導体化することができる。
上記ポリアルキレングリコール含有化合物の反応基としては、リグニンの水酸基と反応することができる限り制限されないが、例えば、グリシジル基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、アミノ基等が挙げられ、反応性の観点から、好ましくはグリシジル基、水酸基である。
【0028】
上記リグニンとポリアルキレングリコール含有化合物との反応において、リグニンに対するポリアルキレングリコール含有化合物の添加量は、本発明のリグニン誘導体のポリアルキレングリコール部位とリグニン部位とのモル比率に依存する。また、理論的には、リグニン中の全ての水酸基は親水性化合物中の反応基と反応する可能性があり得るため、ポリアルキレングリコール含有化合物の添加量は、リグニン中の水酸基の量、ポリアルキレングリコール含有化合物中の上記反応基の量と上記モル比率に基づき算出される。ポリアルキレングリコール含有化合物の添加量は、通常、リグニン100質量%に対し、5〜400質量%、好ましくは10〜300質量%、より好ましくは15〜250質量%である。
【0029】
ポリアルキレングリコール含有化合物として、グリシジル基を有しないグリコール系化合物を用いる場合、リグニンとグリコール系化合物との混合物に、酸触媒を添加して反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。グリコール系化合物としては上述の化合物を用いることができる。
【0030】
上記反応において、酸触媒としては、塩酸、硫酸等を用いることができる。収率向上の観点から、好ましい条件として、添加量は、ポリアルキレングリコール含有化合物に対して0.1〜3.0質量%、反応温度は、100℃〜200℃、より好ましくは120℃〜160℃、更に好ましくは140℃、反応時間は、30分〜180分、より好ましくは60分〜120分、更に好ましくは、90分である。
【0031】
上記反応において、リグニンとグリコール系化合物との反応終了後、反応系に水を添加して、水不溶部を取り除くことが好ましい。
【0032】
本発明のリグニン誘導体の製造方法において用いられるポリアルキレングリコール含有化合物としては、反応性の観点から、グリシジルエーテル系化合物を用いることが好ましい。
【0033】
上記グリシジルエーテル系化合物としては、上述の化合物を用いることができるが、(1)二官能のグリシジルエーテル系化合物とナトリウムエトキシド等のアルコキシド化合物との反応により得られる単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物、(2)アルコキシポリアルキレングリコールとエピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンとの反応により得られる単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物を用いることが反応性の観点から、好ましい。上記(1)及び(2)の反応の一例として、それぞれ下記式(1)及び(2)に示す。式中、nは、10を超える数を表す。Rは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
上記グリシジルエーテル系化合物としてより好ましくは、(2)の単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物である。
上記(1)の反応生成物には、副生成物として、二官能のグリシジルエーテル系化合物の有する2つのグリシジル基と2分子のアルコキシド化合物とが反応し生成するエポキシ基を有しない化合物や未反応の二官能のグリシジルエーテル系化合物が含まれる。この反応生成物とリグニンとを反応させてリグニン誘導体を合成した場合には、未反応の二官能のグリシジルエーテル系化合物が架橋剤として作用し、リグニン誘導体の分子量分布が大きくなるおそれがある。上記(2)の反応においては、このような副反応が起きず、完全単官能型エポキシポリアルキレングリコール化合物を合成することができ、分子量分布の小さいリグニン誘導体を合成することができる。
【0037】
上記(2)の反応に用いられるアルコキシポリアルキレングリコールとしては、上述の化合物を用いることができ、好ましくはメトキシポリエチレングリコールである。
上記エピハロヒドリンとしては、上述の化合物を用いることができ、好ましくは収率向上の観点から、エピクロロヒドリンである。
【0038】
上記(2)の反応に用いられるエピハロヒドリンの添加量は、特に限定されないが、アルコキシポリアルキレングリコール100モル%に対し、好ましくは100〜1000モル%、より好ましくは300〜800モル%である。
【0039】
上記(2)の反応において、塩基としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物等を用いることができる。具体的には、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。塩基として好ましくは反応性の観点から水素化ナトリウムであり、添加量は、アルコキシポリアルキレングリコール100モル%に対して80〜150モル%であることが好ましい。
さらに、溶媒としては、一般的な合成に使用される有機溶媒を用いることができ、好ましくはアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフランである。
上記(2)の反応の好ましい条件として、反応温度は、50℃〜150℃、より好ましくは50℃〜80℃、反応時間は、60分〜600分、より好ましくは180分〜360分である。
【0040】
上記リグニンの水酸基とグリシジルエーテル系化合物のエポキシ基との反応は、通常用いられる方法により行うことができる。
例えば、リグニンをアルカリ水溶液に溶解し、アルカリ性条件下で遊離したリグニン中の水酸基(リグニン−OH)をグリシジルエーテル系化合物中のエポキシ基と反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解した後に得られる。
黒液を、上記リグニンのアルカリ水溶液として用いることもできる。
【0041】
上記リグニンの水酸基とグリシジルエーテル系化合物のエポキシ基との反応条件として、反応温度は、通常、50℃〜100℃、好ましくは70℃、反応時間は、通常、30分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは、2時間〜6時間である。
【0042】
上記反応において、リグニンとグリシジルエーテル系化合物との反応終了後、反応系に酸を添加して中和することが好ましい。添加する酸としては、悪影響を及ぼさない限り何れの酸でもよく、例えば、塩酸、リン酸、硫酸等の無機酸、及びギ酸、酢酸等の有機酸を使用することができる。
【0043】
上記反応は、疎水性のリグニンにグリシジルエーテル系化合物の有するポリアルキレングリコール鎖が導入されたことにより、得られるリグニン誘導体が親水性になった時点で完了する。リグニンとグリシジルエーテル系化合物との反応の完了は、例えば、反応中の溶液を一部サンプリングしたものに酸を加えてpHを下げた際、沈殿を生じるか否かで判定することができる。反応が不十分である場合、未反応のリグニンが沈殿として析出する。反応が完了した場合は沈殿が生じず、両親媒性リグニン誘導体が得られている。
以下、本発明のリグニン誘導体は、両親媒性リグニン誘導体ともいう。
【0044】
本発明の一実施形態において、リグニンを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、得られたリグニンのアルカリ水溶液を常圧下で約70℃に温め、所定量のグリシジルエーテル系化合物を加え、約3時間攪拌しながら反応させ、反応終了後、反応系に酸を加えて中和することにより、リグニン誘導体が得られる。
【0045】
上記反応により得られたリグニン誘導体は、そのままコンクリート用混和剤として使用することもできるし、必要に応じて、脱塩及び未反応の親水性化合物の除去のために、限外濾過に付すことができる。例えば、分子量3000以下を排除できる限外濾過装置を用いて濾過に付すことが好ましい。
【0046】
上記リグニンとグリシジルエーテル系化合物との反応の一例として、好ましい反応形態を下記式(3)に示す。式中、nは、10を超える数を表す。Rは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。
【0047】
【化3】
【0048】
<セメント添加剤>
本発明のリグニン誘導体をセメント添加剤として使用する場合は、水溶液の形態で使用してもよいし、又は、乾燥させたものを粉体化して使用してもよい。乾燥させる場合、凍結乾燥機等の従来使用されている乾燥方法により完全に乾燥させてもよい。また、粉体化した本発明のセメント添加剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウトなどに用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
【0049】
好ましくは、本発明のリグニン誘導体を主成分とするセメント添加剤は、水溶液の形態で使用する。水溶液の濃度は任意であるが、例えば、5〜50%であり、好ましくは、10〜30%程度である。
【0050】
セメントに添加する際の本発明のセメント添加剤の配合量は、任意であるが、例えば、固形分換算で、セメントの質量に対して、0.01〜10.0質量%、好ましくは0.02〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。このような配合量により、通常の汎用セメントにおいては、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。特に、配合量が0.1質量%以上である場合は、流動性が著しく付与されるため、いわゆるセメント減水剤としての効果に優れ、好ましい。
【0051】
本発明のセメント添加剤はまた、他のセメント添加剤と組み合わせて用いることもでき、ポリカルボン酸系減水剤と併用することもできる。ポリカルボン酸系減水剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸の側鎖に(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を含む減水剤であればよい。
上記ポリカルボン酸を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等のジカルボン酸系単量体、これらのジカルボン酸無水物及びこれらの塩等が挙げられる。
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖としては、特に限定されないが、上述のアルキレンオキサイドから構成される高分子鎖((ポリ)アルキレンオキサイド)であることが好ましい。
上記ポリカルボン酸系減水剤の特性については、本発明のセメント添加剤と併用して分散性を向上し、減水性能を発揮できるものであれば特に限定されるものではない。
上記ポリカルボン酸系減水剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい
【0052】
本発明のセメント添加剤はまた、オキシカルボン酸系化合物と併用することもできる。オキシカルボン酸系化合物を併用することにより、高温の環境下においても、より高い分散保持性能を発揮することができる。オキシカルボン酸系化合物としては、炭素原子数4〜10のオキシカルボン酸又はその塩が好ましく、具体的には、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミンなどの無機塩又は有機塩などが挙げられる。これらのオキシカルボン酸系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのオキシカルボン酸系化合物のうち、グルコン酸又はその塩が特に好適である。特に、貧配合コンクリートの場合には、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤としてリグニンスルホン酸塩系の分散剤を使用し、オキシカルボン酸系化合物としてグルコン酸もしくはその塩を使用することが好ましい。
本発明のセメント添加剤はまた、その他のセメント添加剤として、特開2013−53010号公報に記載されているようなその他のセメント添加剤を併用することができる。
【0053】
本発明のセメント添加剤と組み合わせて用いることができる他のセメント添加剤としては、更に、水溶性高分子物質、高分子エマルジョン、遅延剤、早強剤・促進剤、鉱油系消泡剤、油脂系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、オキシアルキレン系消泡剤、アルコール系消泡剤、アミド系消泡剤、リン酸エステル系消泡剤、金属石鹸系消泡剤、シリコーン系消泡剤、AE剤、その他界面活性剤、防水剤、防錆剤、ひび割れ低減剤、膨張材等が挙げられ、これらは、特開2012−131997号公報に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0054】
その他のセメント添加剤(材)として、例えば、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石膏等が挙げられる。
【0055】
本発明のセメント添加剤と他のセメント添加剤と組み合わせて用いる場合の配合割合は、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニン誘導体の固形分と他のセメント添加剤の固形分との質量割合が1〜99/99〜1であることが好ましい。より好ましくは、5〜95/95〜5であり、更に好ましくは、10〜90/90〜10であり、特に好ましくは、20〜80/80〜20である。
また、本発明のセメント添加剤とポリカルボン酸系減水剤又はオキシカルボン酸系化合物と他のセメント添加剤とを用いる場合、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニンとポリカルボン酸系減水剤又はオキシカルボン酸系化合物と他のセメント添加剤との質量割合は、1〜98/1〜98/1〜98であることが好ましい。より好ましくは、5〜90/5〜90/5〜90であり、更に好ましくは、10〜90/5〜85/5〜85であり、特に好ましくは、20〜80/10〜70/10〜70である。
【0056】
上述した種々の他のセメント添加剤の中でも、本発明のセメント添加剤と併用するセメント添加剤としては、ポリカルボン酸系減水剤やオキシカルボン酸系化合物の他に、オキシアルキレン系消泡剤、促進剤、分離低減剤、AE剤が好ましく、AE剤を用いる場合、本発明のセメント添加剤とオキシアルキレン系消泡剤とAE剤との3成分を併用することが好ましい。
【0057】
本発明のセメント添加剤と併用するオキシアルキレン系消泡剤としては、上記のものの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が好ましい。
本発明のセメント添加剤とオキシアルキレン系消泡剤とを併用する場合、オキシアルキレン系消泡剤の配合割合は、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニン誘導体の固形分の質量に対して0.01〜20質量%であることが好ましい。
また、本発明のセメント添加剤とオキシアルキレン系消泡剤とAE剤との3成分を併用する場合、オキシアルキレン系消泡剤の割合は、上記と同様であり、AE剤の割合は、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニン誘導体の固形分の質量に対して0.001〜2質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明のセメント添加剤と促進剤とを併用する場合、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニン誘導体と促進剤との質量割合は、10/90〜99.9/0.1であることが好ましい。より好ましくは、20/80〜99/1である。
【0059】
本発明のセメント添加剤と分離低減剤とを併用する場合、分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素原子数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等の1種又は2種以上を用いることができる。
本発明のセメント添加剤と分離低減剤とを併用する場合、本発明のセメント添加剤の必須成分であるリグニンと分離低減剤との質量割合は、10/90〜99.99/0.01であることが好ましい。より好ましくは50/50〜99.9/0.1である。本発明のセメント添加剤と分離低減剤とを含むセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適に用いることができる。
【0060】
本発明のセメント添加剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような本発明のセメント添加剤を含んでなるセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0061】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、特に限定されず、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形)等が挙げられ、特開2009−046655号に記載のものと同様のものを用いることができる。上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0062】
上記セメント組成物の1m
3あたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)としては、例えば、単位水量100〜185kg/m
3、使用セメント量200〜800kg/m
3、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好適であり、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m
3、使用セメント量250〜800kg/m
3、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65とすることである。このように、本発明の多分岐ポリアルキレングリコール系ブロック共重合体を含むセメント混和剤は、貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能であり、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m
3以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。