(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1つの気筒に吸気を供給する1つの吸気ポートを、入口部は1つの集合流路に形成されて、途中からは底面と天井面とに繋がった隔壁にて2つの枝流路に分岐した形態と成しており、
前記2つの枝流路の終端部がそれぞれ吸気弁で開閉される一方、
前記2つの枝流路に燃料を個別に噴射する2つのインジェクタのノズルが、前記集合流路の箇所にそれぞれ配置されており、前記インジェクタによる燃料の噴射は、燃料が前記隔壁の前端に当たることなく枝流路に向かうように前記隔壁の前端よりも奥に向けて行われている構成であって、
前記集合流路の底面と天井面とのうち少なくともいずれか一方に、前記隔壁の前端に連続して入口に向けて延びる整流促進リブを、底面又は天井面からの突出高さがほぼ一定となるようにして形成している、
内燃機関のシリンダヘッド。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、吸気はシリンダヘッドに設けた吸気ポート(吸気通路)から気筒(燃焼室)に供給されており、ガソリン機関では、燃料はインジェクタによって吸気ポートに噴射していることが多い。そして、吸気性能のアップ等のために、1つの気筒に対応して2つの吸気バルブを設けていることが普通であるが、インジェクタは、1つだけ設けるシングルタイプと2つ設けるデュアルタイプとがある。
【0003】
前者のようにインジェクタを1つだけ設ける場合は、例えば特許文献1に開示されているように、吸気ポートは、入口部を1つの集合流路と成して途中から隔壁にて2つの枝流路に分岐した形態と成しており、集合流路の中間部にインジェクタのノズルを位置させて、燃料を隔壁の前端部に向けて噴射することで、燃料を2つの枝流路に分けて供給している。
【0004】
他方、後者のように2つのインジェクタを設ける場合は、例えば特許文献2に開示されているように、1つの気筒に対応した吸気ポートを互いに独立した2つの流路で構成し、各流路に対してインジェクタから燃料を噴射している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1つの気筒に対応して吸気バルブを2つ設けた場合は、燃料と吸気との混合性のアップのためには、特許文献2のように、2つの枝流路に別々のインジェクタで燃料を噴射するのが合理的である。
【0007】
つまり、特許文献1のように1つのインジェクタで2つの枝流路に燃料を噴射すると、燃料の噴射方向の中心と枝流路の中心とが大きくずれるため、枝流路を流れる吸気に燃料を均等に分散させ難いが、2つの枝流路に別々のインジェクタで燃料を噴射すると、燃料を枝流路における吸気の流れの中心に向けて噴射できるため、吸気への燃料の混合性を向上できる。
【0008】
また、インジェクタが1つのみであると、燃料が隔壁の前端面に付着することを避けることができず、このため、カーボン質の堆積等の問題があるが(特に、EGRガスを還流させると、EGRガスに含まれていた固形成分が燃料と一緒に隔壁に付着しやすくなる)、枝流路ごとにインジェクタを設けると、燃料の付着の問題も解消又は抑制できる。
【0009】
他方、吸気ポートの全体を2つの枝流路に分離すると、隔壁の体積が大きくなるため、シリンダヘッドの重量が増大し、延いては燃費の悪化につながるおそれもある。更に、吸気とEGRガスとの混合性を高めるには、できるだけ下流側で枝流路に分けるのが好ましいと云えるが、吸気ポートの全長を2つの枝流路に分けると、吸気とEGRガスとの混合性が低下することも懸念される。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、吸気ポートが形成されたシリンダヘッドに係るもので、このシリンダヘッドは、
「1つの気筒に吸気を供給する1つの吸気ポートを、入口部は1つの集合流路に形成されて、途中からは底面と天井面とに繋がった隔壁にて2つの枝流路に分岐した形態と成しており、
前記2つの枝流路の終端部がそれぞれ吸気弁で開閉され
る一方、
前記2つの枝流路に燃料を個別に噴射する2つのインジェクタのノズルが、前記集合流路の箇所にそれぞれ配置されており、前記インジェクタによる燃料の噴射は、燃料が前記隔壁の前端に当たることなく枝流路に向かうように前記隔壁の前端よりも奥に向けて行われている」
という基本構成になっている。
【0012】
そして、請求項1の発明では、上記基本構成において、
「前記集合流路の底面と天井面とのうち少なくともいずれか一方に、前記隔壁
の前端に連続して入口に向けて延
びる整流促進リブを、底面又は天井面からの突出高さがほぼ一定となるようにして形成している
」
という構成になっている。
集合流路の底面に整流促進リブを設けた場合は、整流促進リブの前端部は底面から急激に立ち上がっており、集合流路の天井面に整流促進リブを設けた場合は、整流促進リブの前端部は天井面から急激に立ち下がっていることが多いと云える。
【0013】
本願発明は請求項2の発明も含んでいる。この発明は、請求項1において、前記整流促進リ
ブの前端は、前記集合流路の入口よりも下流側に位置している1
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、2つの枝流路に別々のインジェクタで燃料が噴射されるため、吸気と燃料との混合性を高めることができると共に、隔壁への燃料の付着も防止又は著しく抑制できる。また、シリンダヘッド及び吸気マニホールドとも、シングルインジェクタタイプのものを大きな設計変更無しでデュアルインジェクタタイプに簡単に転用できる。
【0015】
そして、隔壁を吸気ポートの全長にわたって設けるのではなく、吸気ポートは集合流路も有しているため、隔壁の体積をできるだけ減らしてシリンダヘッドの重量増大を防止できる。このため、車両用内燃機関に適用すると、燃費の向上に貢献できて特に有益である。
【0016】
しかも、集合流路には整流促進リブを設けているため、集合流路において吸気を2つの枝流路に分けて流す分流機能・整流機能に優れており、2つの枝流路での吸気量を均等化できると共に、吸気の方向性(直進性)も向上できる。このため、シリンダヘッドの重量増大を防止しつつ、混合気の均質化を確保できる。この点、本願発明の大きなメリットである。
【0017】
また、EGR装置を備えた内燃機関の場合は、集合流路の存在により、吸気が枝流路に流入する前にEGRガスと混合する機会も高くなるため、吸気とEGRガスとの均一な混合を促進して、燃焼の安定化や排気ガスの改善に貢献できると云える。
【0018】
また、シリンダヘッドはアルミ等の金属を材料にした鋳造されているのが普通であり、鋳造の鋳型においては、枝流路に相当する部分は砂の中子になっているが、本願発明のように吸気ポートに集合流路を設けると、隣り合った枝流路の箇所の中子が互いに繋がるため、中子を安定させて鋳造工程の能率向上にも貢献できる。
【0019】
本願発明では、燃料が整流促進リブに当たること
はないため、燃料が整流促進リブに付着することによるダストの発生等の問題を的確に阻止できる。また、
請求項2を採用すると、整流促進リブは集合流路の入口まで至っていないため、鋳型において、隣り合った中子は整流促進リブの手前においても繋がっているため、中子の安定を一層向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1).構造の説明
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は車両用内燃機関に適用しており、内燃機関は、機関本体の主要構成要素として、シリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド2とを有している。シリンダブロック1には複数の気筒(シリンダボア)3が形成されており、各気筒にピストン4が摺動自在に嵌まっている。シリンダヘッド2には、気筒3に向けて開口した台錘状の凹所5が形成されている。
【0022】
シリンダヘッド2のうちクランク軸線を挟んで両側の部位に、各気筒3に対応して吸気ポート6と排気ポート7とが振り分けて形成されている。吸気ポート6は、シリンダヘッド2の一側面(吸気側面)9に開口した集合流路10と、集合流路10から分岐した2つの枝流路11とで構成されており、2つの枝流路11はクランク軸線方向に並んでいる。従って、隣り合った一対の枝流路11は、底面12と天井面13とに繋がった隔壁14によって区分されている。
【0023】
集合流路10は、吸気の流れ方向から見てクランク軸線方向に長い形態であり、
図2では、左右側部(クランク軸線方向から見たら前後側部)を円弧状に形成しており、このため、集合流路10は小判形になっている。他方、
図3では、集合流路10の左右側部は平坦状に形成している。いずれの形態も採用できる。
【0024】
枝流路11の出口11aは、シリンダヘッド2における凹所5の傾斜面から気筒3に向けて開口しており、各出口11aは吸気バルブ15で開閉される。吸気バルブ15は、スリーブ16を介してシリンダヘッド2に摺動自在に装着されており、ばね16aによって閉じ方向に付勢されている。なお、凹所5には弁座を嵌着している。
【0025】
シリンダヘッド2の一側面9には、吸気マニホールド17(又はスペーサ)が固定されている。吸気マニホールド17の枝通路18が、吸気ポート6の集合流路10に連通している。従って、枝通路
11の終端と集合流路10の入口19とは、基本的には同じ形態になっている。また、
図5のとおり、集合流路10と枝流路11とは、下流側に行くに従ってクランク軸線方向に広がりながら、凹所5に向けて延びている。
【0026】
吸気マニホールド17には、各枝流路11に対応したインジェクタ21が装着されている。すなわち、吸気マニホールド17のうち各枝通路18の箇所に、吸気ポート6の枝流路11に向けて燃料を噴射する一対ずつのインジェクタ21が、クランク軸線方向に並べて装着されている。図示は省略しているが、各インジェクタ21は、クランク軸線方向に長い分配管(デリバリ管)に接続されており、分配管の端部等に燃料が供給され。3気筒の場合は、6本のインジェクタ21を備えることになる。
【0027】
インジェクタ21は、分配管に取付けられる本体部21aと、集合流路10に露出した小径のノズル21bと、両者の間に位置した段落ち部21cとを有しており、段落ち部21cがOリング22を介して吸気マニホールド17の取付け穴23に保持されている。既述の分配管は、吸気マニホールド17にボルトで固定されている。噴射制御装置は、本体部21aに接続している。
【0028】
インジェクタ21のノズル21bは、集合流路10の上部に配置されている。このため、インジェクタ21は、クランク軸線方向から見て、先端に行くに従って低くなるように傾斜している。従って、インジェクタ21の軸心と枝流路11の軸心とは、クランク軸線方向から見てクロスしている。また、集合流路10の上部には、ノズル21bをできるだけ上に寄せるための凹溝24を形成している。
【0029】
既述のとおり、2つの枝流路11は、集合流路10から離れるに従って
間隔が広がるように平断面視で非平行の姿勢になっている。他方、各インジェクタ21は平行な姿勢になっている。そこで、例えば
図5から理解できるように、インジェクタ21は、集合流路10のうち、クランク軸線方向に向かって前後外側寄りに少しずらして配置している。これにより、燃料が隔壁14に付着することを防止できる。
従って、燃料が隔壁14の前端に当たることはない。
【0030】
図4に明瞭に示すように、集合流路10及び枝流路11は、クランク軸線方向から見て、上流から下流に向けて上下巾H1が小さくなるテーパ状に形成されている。集合流路10及び枝流路11の底面12はほぼ直線状に延びており、また、枝流路11の天井面13も直線状に延びている。他方、
図5に示すように、平断面視では、枝流路11におけるクランク軸線方向の巾寸法はほぼ一定である。従って、枝流路11の断面積は上流から下流に向けて小さくなっており、その結果、吸気の流速は、下流に行くに従って速くなる。
【0031】
集合流路10の底面12には、隔壁14の前端に連続して入口19の方に向けて延びる下整流促進リブ25が一体に形成されている。下整流促進リブ25は、その先端25aは底面12から急激に立ち上がったおり、底面12からの高さH2は、下流側に向けて僅かに小さくなっているものの、おおむね同じ程度になっている。下整流促進リブ25の先端25aは、
図4に一点鎖線で示すように傾斜させてもよい。また、下整流促進リブ25は、高さH2を完全に一定にしたり、高さHを下流側に向けて僅かに増大させたりしてもよい。
【0032】
吸気の流れ方向から見ると、下整流促進リブ25は、
図6に示すように板状になっているが、台形状や山形であってもよい(
図2では、台形状に表示している。)。下整流促進リブ25の高さH2は、集合流路10の高さの1/3程度の寸法になっているが、高さH2は任意に設定できる。
【0033】
また、下整流促進リブ25の先端25aは入口19よりも下流側に位置している。すなわち、集合流路10の前部には下整流促進リブ25は存在していない。シリンダヘッド2を鋳造する鋳型のうち、隣り合った枝流路11を形成する中子は、集合流路10の箇所で一体に繋がっているが、特に、集合流路10の前部に相当する部分は頑丈な構造になっている。
【0034】
集合流路10の天井面13にも、隔壁14の前端に連続した上リブ26が一体に形成されている。従って、上下リブ26,25を隔壁14の一部と見ると、隔壁14がクランク軸線方向から見て前向き凹状に抉られた形態になっている。
【0035】
上リブ26は、先端に向けて高さが低くなっており、また、下整流促進リブ25よりも高さは低くなっている。従って、上リブ
26は、請求項に記載した整流促進リブにはなっていない(上リブ
26が分流・整流作用を備えていないということではなく、その程度が強くないということである。)。上リブ26の先端も、入口19より下流側に位置している。
【0036】
下整流促進リブ25をインジェクタ21から噴射される燃料の広がりエリアとの関係で見ると、
図4の点線に示すとおり、クランク軸線方向から見ると、下整流促進リブ25の大部分は、燃料の広がりエリア(点線で囲われた内側のエリア)の外側に位置している。また、
図5に示すように、平断面視でも、下整流促進リブ25は燃料の広がりエリアの外側に位置している。従って、下整流促進リブ25に燃料が当たることはない
し、隔壁14の前端に燃料が当たることもない。すなわち、インジェクタ21による燃料の噴射は、燃料が隔壁14の前端に当たらないように、隔壁14の前端よりも奥に向けて行われている。
【0037】
排気ポート7は1つの気筒3に対して2つの排気口を備えており、各排気口が排気弁27で開閉されている。各排気口は1つ0に集合している。
【0038】
(2).まとめ
本実施形態では、2つの枝流路11に個別のインジェクタ21から燃料が噴射されるため、吸気と燃料との混合性を高めることができると共に、隔壁14への燃料の付着も全く又は殆ど発生しない。特に、本実施形態では枝流路11の断面積が下流側に向けて小さくなることで、吸気の流速が下流側ほど速くなっているため、拡散した霧化燃料は、枝流路11の内面に付着することなく吸気の流れに乗って気筒3に導かれる。
【0039】
また、隔壁14は集合流路10の箇所で切除された状態になっているため、シリンダヘッド2を軽量化して燃費の向上に貢献できて特に有益である。しかも、集合流路10に平行板状の下整流促進リブ25を設けているため、
図5に矢印で示すように、集合流路10において吸気を2つの枝流路に分ける分流機能・整流機能に優れており、その結果、2つの枝流路11に流れる流量を均等化できると共に直進性を向上して、気筒内での混合気の均質化を確保できる。
【0040】
さて、インジェクタ21から噴射される燃料の速度は、距離に比例して低下する。すなわち、ノズル21bの近くでは直進性が高いが、ノズル21bから遠ざかるほど直進性は低下して、吸気に乗りやすくなる。従って、実施形態のように、隔壁14の前端をできるだけノズル21bから遠ざけると共に、枝流路11をテーパ状に形成して吸気の流速を下流側ほど速くすることにより、燃料が隔壁14や上下のリブ25,26に付着することを防止して、燃料を吸気に乗せることができる。
【0041】
シリンダヘッド2はアルミの鋳造品であるが、鋳型のうち枝流路11を形成する中子は集合流路10の箇所で一体に繋がっているため、中子を安定させて鋳造工程の能率向上にも貢献できる。特に、実施形態のように下整流促進リブ25の先端を入口19より下流側にずらすと、隣り合った中子を繋ぐ部分の体積が増大するため、中子の安定性を一層向上できる。
【0042】
実施形態のように、集合流路10の上部に、インジェクタ21を上側に逃がし配置するための凹溝24を形成すると、インジェクタ21の先端部が集合流路10に入り込むことをできるだけ抑制しつつ、インジェクタ21のノズル21bをできるだけ集合流路10の下流側に入り込ませることができるため、吸気の流れ抵抗をできるだけ小さくしつつ、燃料を各枝流路11に向けて噴射することができる(燃料が下整流促進リブ25に付着することを的確に阻止できる。)。
【0043】
また、実施形態のように、枝流路11の底面12及び天井面13を直線状(ストレート状)に形成すると、吸気の流れ抵抗を低減できると共に、吸気の直進性を高めて、気筒3の内部でのタンブル流やスワール流の形成機能を促進できる利点がある。
【0044】
図7に示す実施形態では、集合流路10の底面12に下整流促進リブ25を形成すると共に、天井面13にも、上整流促進リブ28を形成している。上整流促進リブ28の高さは、下整流促進リブ25の高さの2倍かそれ以上になっている。また、上下整流促進リブ28,25の前端は、おおむね入口19から同じ程度だけ下流にずれた箇所に位置している。吸気ポート6の基本構造は従前の実施形態と同様である。
【0045】
集合流路10の上部にインジェクタ21の先端部を配置したことで、集合流路10の上部で吸気の流れが乱れるおそれがあるが、本実施形態のように天井面13に高さが大きい上整流促進リブ28を設けると、吸気に乱れが生じても、吸気を2つの枝流路11に均等に分流できると云える。また、底面12にも下整流促進リブ25を設けているため、吸気の分流性能に優れている。更に、上下に整流促進リブ25,28を設けつつ、互いの高さを異ならせているため、吸気の流れ抵抗の増大も防止できる。
【0046】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、天井面のみに整流促進リブを形成したり、底面と天井面との両方に、高さが同じ程度の整流促進リブを形成したりすることも可能である。底面と天井面との両方に整流促進リブを形成する場合、前端の位置を吸気の流れ方向にずらすことも可能である。