(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Zrを0.01mass%以上0.20mass%未満、Siを0.002mass%以上0.03mass%未満、Mgを0.001mass%以上0.1mass%未満を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、ZrとSiの質量比Zr/Siが、2≦Zr/Si≦30の範囲内とされており、
前記不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量が100massppm未満とされ、さらに前記不可避不純物のうちO,S,Cの合計含有量が50massppm未満とされており、
導電率が80%IACS以上であり、0.2%耐力が300MPa以上であり、表面のビッカース硬さが100Hv以上であることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品は、例えば銅合金の板材に対してプレス打ち抜きを行い、さらに必要に応じて曲げ加工等が施されて製造されている。このため、上述の銅合金には、プレス打ち抜き等において、プレス金型の摩耗やバリの発生を抑制できるように、良好なせん断加工性も求められている。
ここで、上述のCu−Zr系合金は、高い導電率を確保するために、Zr等の添加元素の含有量が少なく純銅に近い組成を有しており、延性が高く、せん断加工性が良好ではなかった。詳述すると、プレス打ち抜きを行った際に、バリが発生し、寸法精度良く打ち抜きを行うことができないといった問題があった。さらに、金型が摩耗しやすいといった問題や、打ち抜き屑が多く発生するといった問題もあった。
【0006】
特に、最近では、電子機器や電気機器等のさらなる小型化および軽量化にともない、これら電子機器や電気機器等に使用されるコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品のさらなる小型化および薄肉化が要求されている。このため、電子・電気機器用部品を寸法精度良く成形する観点から、これら電子・電気機器用部品を構成する材料として、せん断加工性を十分に向上させた銅合金が求められている。
ここで、銅合金のせん断加工性を向上させる手段として、銅合金のビッカース硬さを高くすることが効果的である。また、銅合金のビッカース硬さを高くした場合には、表面の傷つき難さ(耐摩耗性)も向上する。そのため、電子・電気機器用部品として使用される銅合金としては、上述のビッカース硬さが高いことが望まれる。
【0007】
また、コネクタ等の端子においては、接圧を確保するために厳しい曲げ加工を行う必要があり、従来よりも優れた耐力が要求されている。
さらに、ハイブリッド自動車や電気自動車等に用いられる消費電力の大きな電子・電気機器用部品においては、通電時の抵抗発熱を抑制するために、高い導電率を確保する必要がある。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れ、電子・電気機器用部品に適した電子・電気機器用銅合金、及び、この電子・電気機器用銅合金からなる電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用部品、端子及びバスバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Cu−Zr系合金に少量のSi,Mgを添加し、その他の不純物元素を厳しく制限することで、導電率及び耐力を向上させることができるとともに、ビッカース硬さを大幅に向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の電子・電気機器用銅合金は、Zrを0.01mass%以上0.20mass%未満、Siを0.002mass%以上0.03mass%未満、Mgを0.001mass%以上0.1mass%未満を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、
ZrとSiの質量比Zr/Siが、2≦Zr/Si≦30の範囲内とされており、前記不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量が100massppm未満とされ
、さらに前記不可避不純物のうちO,S,Cの合計含有量が50massppm未満とされており、導電率が80%IACS以上であり、0.2%耐力が300MPa以上であり、表面のビッカース硬さが100Hv以上であることを特徴としている。
【0011】
上述の構成の電子・電気機器用銅合金によれば、Zrを0.01mass%以上0.20mass%未満、Siを0.002mass%以上0.03mass%未満の範囲で含んでいるので、導電率を維持したまま耐力を向上させることができるとともに、ビッカース硬さを向上させることができる。
さらに、Mgを0.001mass%以上0.1mass%未満の範囲で含んでいるので、銅の母相中にMgを固溶させることで、高い導電率を維持したまま耐力をさらに向上させることができる。
また、不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量が100massppm未満に制限されているので、ZrやSiがこれら不可避不純物と反応して消費されてしまうことを抑制できる。
【0012】
また、ZrやMgと化合物(酸化物、硫化物、炭化物等)を形成する元素であるO,S,Cの合計含有量を50massppm未満に制限しているので、ZrやMgが消費されてしまうことを抑制でき、確実に、耐力、ビッカース硬さを向上させることができる。また、上述の化合物(酸化物、硫化物、炭化物等)による熱間加工性及び冷間加工性の劣化を抑制することができる。
【0013】
さらに、ZrとSiとの質量比Zr/Siが上述のように規定されているので、ZrとSiとの相乗効果により、確実に、耐力、導電率、ビッカース硬さを向上させることができる。
また、導電率が80%IACS以上とされているので、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
さらに、0.2%耐力が300MPa以上とされているので、容易に変形することがなく、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の銅合金として特に適している。
また、表面のビッカース硬さが100Hv以上とされているので、せん断加工性及び耐摩耗性が向上することになり、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の銅合金として特に適している。
【0014】
さらに、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、CuとZrとSiを含有するCu−Zr−Si粒子が存在することが好ましい。
この場合、Cu−Zr−Si粒子が存在することにより、導電率が低下することなく耐力を向上させることができる。また、ビッカース硬さを確実に向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、前記Cu−Zr−Si粒子の少なくとも一部は、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内の比較的粒径の小さなCu−Zr−Si粒子が存在することにより、導電率を維持したまま耐力を向上させることが可能となる。また、ビッカース硬さを確実に向上させることが可能となる。
【0019】
本発明の電子・電気機器用銅合金薄板は、上述の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、その板厚が0.05mm以上1.0mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
この構成の電子・電気機器用銅合金薄板によれば、上述のように、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金からなり、さらにせん断加工性にも優れていることから、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0020】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金薄板においては、表面にSnめっき又はAgめっきが施されていることが好ましい。
この場合、表面にSnめっき又はAgめっきが施されているため、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0021】
本発明の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金を用いて製造されているので、信頼性に優れている。
【0022】
本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
この構成の端子は、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金を用いて製造されているので、信頼性に優れている。
【0023】
本発明のバスバーは、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
この構成のバスバーは、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金を用いて製造されているので、信頼性に優れている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れ、電子・電気機器用部品に適した電子・電気機器用銅合金、及び、この電子・電気機器用銅合金からなる電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用部品、端子及びバスバーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金について説明する。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Zrを0.01mass%以上0.20mass%未満、Siを0.002mass%以上0.03mass%未満、Mgを0.001mass%以上0.1mass%未満を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する。また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量が100massppm未満とされている。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、不可避不純物のうちO,S,Cの合計含有量が50massppm未満とされている。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、ZrとSiの質量比Zr/Siが、2≦Zr/Si≦30の範囲内とされている。
【0027】
そして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、CuとZrとSiを含有するCu−Zr−Si粒子が存在している。
このCu−Zr−Si粒子の少なくとも一部は、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされており、具体的には、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされた比較的微細なCu−Zr−Si粒子と、粒径が1μm以上50μm以下の範囲内とされた比較的粗大なCu−Zr−Si粒子とを有している。
【0028】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、導電率が80%IACS以上、0.2%耐力が300MPa以上、表面のビッカース硬さが100Hv以上といった特性を有している。
【0029】
ここで、上述のように成分組成、Cu−Zr−Si粒子の粒径、導電率、0.2%耐力、ビッカース硬さを規定した理由について以下に説明する。
【0030】
(Zr:0.01mass%以上0.20mass%未満)
Zrは、Cu−Zr−Si粒子を形成し、導電率を維持したまま耐力を向上させる作用効果を有する元素である。また、ビッカース硬さを向上させる作用効果を有する。
ここで、Zrの含有量が0.01mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Zrの含有量が0.20mass%以上の場合には、導電率が大幅に低下してしまうおそれがあるとともに、溶体化が困難となり、熱間加工時や冷間加工時に断線や割れ等の欠陥が発生するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Zrの含有量を0.01mass%以上0.20mass%未満の範囲内に設定している。なお、Cu−Zr−Si粒子の個数を確保して強度を確実に向上させるためには、Zrの含有量を0.04mass%以上とすることが好ましく、0.05mass%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下や加工時の欠陥等を確実に抑制するためには、Zrの含有量を0.15mass%以下とすることが好ましく、0.11mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
(Si:0.002mass%以上0.03mass%未満)
Siは、上述のCu−Zr−Si粒子を形成し、導電率を維持したまま耐力を向上させる作用効果を有する元素である。また、ビッカース硬さを向上させる作用効果を有する。
ここで、Siの含有量が0.002mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Siの含有量が0.03mass%以上の場合には、導電率が大幅に低下してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Siの含有量を0.002mass%以上0.03mass%未満の範囲内に設定している。なお、Cu−Zr−Si粒子の個数を確保して強度を確実に向上させるためには、Siの含有量を0.003mass%以上とすることが好ましく、0.004mass%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下を確実に抑制するためには、Siの含有量を0.025mass%以下とすることが好ましく、0.02mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
(Mg:0.001mass%以上0.1mass%未満)
Mgは、銅合金の母相中に固溶することで、高い導電性を保持した状態で、強度およびビッカース硬さを向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Mgの含有量が0.001mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Mgの含有量が0.1mass%以上の場合には、熱間加工時に割れが生じ易くなるとともに導電率が大きく低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を0.001mass%以上0.1mass%未満の範囲内に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Mgの含有量を0.01mass%以上とすることが好ましい。また、導電率の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量を0.05mass%未満とすることが好ましい。
【0033】
(B,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Co:合計で100massppm未満)
上述のように、最適な特性を得るためには、Zr量、Si量を適正に制御する必要がある。ここで、銅合金中のZrと反応して晶出物を形成するB、Pは、上記のCu−Zr−Si粒子の形成によって強度およびビッカース硬さを向上させる効果の妨げとなるため、厳しく管理する必要がある。また、Ni,Cr,Ti,Fe,Coは、Siと化合物を形成し、同じく上記のCu−Zr−Si粒子の形成の妨げとなる。さらに、これらの化合物は破壊の起点として働き、熱間圧延性、冷間圧延性を劣化させるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量を100massppm未満に規定している。これらの化合物の形成を確実に防ぐために、B,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量を20massppm未満にすることがより望ましい。
さらに、銅合金中のZrと反応して晶出物を形成するB、Pは、その合計含有量が4massppm未満であることがより望ましい。また、Siと化合物を形成するNi,Cr,Ti,Fe,Coは、その合計含有量が16massppm未満であることがより望ましい。
【0034】
(O,S,C:合計で50massppm未満)
O,S,Cは、ZrおよびMgと化合物を形成し、上記のCu−Zr−Si粒子の形成およびMg固溶による強度およびビッカース硬さを向上させる効果の妨げとなる。また、ZrおよびMgとの化合物は、破壊の起点として働き、熱間圧延性、冷間圧延性を劣化させるおそれがある。
以上のことから、不可避不純物のうちO,S,Cの合計含有量を50massppm未満に規定している。
【0035】
(その他の不可避不純物:0.1mass%以下)
なお、上述したB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Co,O,S,C以外のその他の不可避的不純物としては、Ag,Sn,Al,Zn,Ti,Ca,Te,Mn,Sr,Ba,Sc,Y,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Li,Ge,As,Sb,Tl,Pb,Be,N,H,Hg,Tc,Na,K,Rb,Cs,Po,Bi,ランタノイド等が挙げられる。これらの不可避不純物は、材料の導電率を低下させる効果があるため、総量で0.1mass%以下とすることが好ましい。
【0036】
(Zr/Si)
上述のように、ZrとSiをCu中に添加することにより、Cu−Zr−Si粒子が形成され、導電率を維持したまま耐力を向上させることができる。また、ビッカース硬さを向上させることができる。
ここで、Zrの含有量(mass%)とSiの含有量(mass%)との比Zr/Siが2未満の場合には、Zrの含有量に対してSiの含有量が多く、過剰なSiによって導電率が低下してしまうおそれがある。一方、Zr/Siが30を超える場合には、Zrの含有量に対してSiの含有量が少なく、Cu−Zr−Si粒子を十分に形成することができず、上述の作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Zrの含有量(mass%)とSiの含有量(mass%)との比Zr/Siを2以上30以下の範囲内に設定している。なお、導電率の低下を確実に抑制するためには、Zr/Siを3以上とすることが好ましい。また、Cu−Zr−Si粒子の個数を確保して強度を確実に向上させるためには、Zr/Siを25以下とすることが好ましく、20以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
(Cu−Zr−Si粒子)
CuにZr,Siを添加した場合には、CuとZrとSiを含有するCu−Zr−Si粒子が存在することになる。本実施形態では、上述のように、Cu−Zr−Si粒子として、粒径が1μm以上50μm以下の範囲内とされた比較的粗大な粒子と、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされた微細な粒子が存在している。
ここで、粒径が1μm以上50μm以下の範囲内とされた粗大なCu−Zr−Si粒子は、溶解鋳造時に晶出または偏析したものと推測される。また、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされた微細なCu−Zr−Si粒子は、その後の熱処理等において析出したものと推測される。
【0038】
粒径1μm以上50μm以下の粗大なCu−Zr−Si粒子は、強度向上には寄与しないが、プレス打ち抜き等に代表されるせん断加工を実施した際に破壊の起点となり、せん断加工性を大幅に向上させることが可能となる。
一方、粒径1nm以上500nm以下の微細なCu−Zr−Si粒子は、強度向上に寄与し、高い導電率を維持したまま耐力の向上を図ることができる。また、ビッカース硬さを向上させることができる。
【0039】
(導電率:80%IACS以上)
Zr、SiがCuの母相中に固溶している場合には、導電率が大幅に低下することになる。一方、本実施形態では、導電率を80%IACS以上に規定しているので、上述のCu−Zr−Si粒子が十分に存在していることになり、確実に強度の向上及びせん断加工性の向上を図ることが可能となる。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、導電率を85%IACS以上とすることが好ましく、88%IACS以上とすることがさらに好ましい。
【0040】
(0.2%耐力:300MPa以上)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、0.2%耐力が300MPa以上である場合には、容易に塑性変形しなくなるため、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム等の電子機器用部品に特に適している。
なお、0.2%耐力は325MPa以上であることが好ましく、350MPa以上がさらに好ましい。
【0041】
(ビッカース硬さが100Hv以上)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、ビッカース硬さを向上させるとせん断加工性が向上することになる。さらに、表面の傷つき難さ(耐摩耗性)も向上することになる。以上のことから、本実施形態では、ビッカース硬さを100Hv以上に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、ビッカース硬さは125Hv以上であることがさらに好ましい。
【0042】
次に、このような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0043】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、Zr、Si及びMgを添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を溶製する。なお、Zr、Si及びMgの添加には、Zr単体、Si単体及びMg単体などの金属単体やCu−Zr、Cu−Si及びCu−Mgなどの母合金等を用いることができる。また、Zr、Si及びMgを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。
【0044】
銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCuとすることが好ましい。また、銅合金溶湯の溶製時には、Zr、Si及びMgの酸化等を抑制するために、真空炉、あるいは、不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0045】
(熱処理工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために熱処理を行う。鋳塊を800℃以上1080℃以下にまで加熱する熱処理を行うことで、鋳塊内において、Zr、Si及びMgを均質に拡散、あるいは、Zr、Si及びMgを母相中に固溶させる。この熱処理工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
【0046】
(熱間加工工程S03)
次に、粗加工の効率化と組織の均一化のために熱間加工を実施する。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。線や棒の場合には押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。熱間加工時の温度も特に限定されないが、500℃以上1050℃以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、熱間加工後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
【0047】
(中間加工工程S04)
また、熱間加工の後の熱間加工材に対して、中間加工を施してもよい。中間加工工程S04における温度条件は特に限定はないが、冷間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましい。また、中間加工工程S04における加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、最終形状を得るまでの繰返し回数を減らすためには、20%以上とすることが好ましい。また、加工率を30%以上とすることがより好ましい。塑性加工方法は特に限定されないが、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0048】
(中間熱処理工程S05)
また、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として中間熱処理を加えてもよい。
中間熱処理工程S05における熱処理方法は特に限定はないが、好ましくは500℃以上1050℃以下の条件で、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で熱処理を行うことが好ましい。
ここで、上述の中間加工工程S04及び中間熱処理工程S05は、繰り返し実施してしてもよい。
【0049】
(仕上加工工程S06)
次に、上記の工程を施した材料を必要に応じて切断するとともに、表面に形成された酸化膜等を除去するために必要に応じて表面研削を行う。そして、所定の加工率で冷間加工を実施する。なお、この仕上加工工程S06における温度条件は特に限定はないが、−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、加工硬化によって強度を向上させるためには、加工率を30%以上とすることが好ましく、さらなる強度の向上を図る場合には、加工率を50%以上とすることがより好ましい。塑性加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。線や棒の場合には押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。
【0050】
(時効熱処理工程S07)
次に、仕上加工工程S06によって得られた仕上加工材に対して、強度、導電率の上昇のために、時効熱処理を実施する。この時効熱処理工程S07により、粒径1nm以上500nm以下の微細なCu−Zr−Si粒子が析出することになる。
ここで熱処理温度は特に限定しないが、最適なサイズのCu−Zr−Si粒子を均一に分散析出させるために、250℃以上600℃以下の範囲内とすることが好ましい。なお、導電率によって析出状態を把握できることから、所定の導電率となるように、熱処理条件(温度、時間)を適宜設定することが好ましい。
ここで、上述の仕上加工工程S06と時効熱処理工程S07とを、繰り返し実施してもよい。また、時効熱処理工程S07の後に、形状修正や強度向上のために1%から70%の加工率で冷間加工を行ってもよい。さらに、調質や残留ひずみの除去のために熱処理を行ってもよい。なお、熱処理後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
【0051】
以上のようにして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金が製出されることになる。この電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上、ビッカース硬さが100Hv以上とされている。
また、仕上加工工程S06における加工方法として圧延を適用した場合、板厚0.05〜1.0mm程度の電子・電気機器用銅合金薄板(条材)を得ることができる。このような薄板は、これをそのまま電子・電気機器用部品に使用してもよいが、板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1〜10μm程度のSnめっきまたはAgめっきを施して、めっき付き銅合金条としてもよい。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金(電子・電気機器用銅合金薄板)を素材として、打ち抜き加工や曲げ加工等を施すことにより、例えばコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバーといった電子・電気機器用部品が成形される。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金によれば、Zrを0.01mass%以上0.20mass%未満、Siを0.002mass%以上0.03mass%未満の範囲で含んでいるので、Cu−Zr−Si粒子を形成させて、導電率を維持したまま耐力を向上させる、あるいは、耐力を維持したまま導電率を向上させることができるとともに、ビッカース硬さを向上させることができる。
さらに、Mgを0.001mass%以上0.1mass%未満の範囲で含んでいるので、銅の母相中にMgを固溶させることで、高い導電率を維持したまま耐力をさらに向上させることができる。
【0053】
また、不可避不純物のうちB,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Coの合計含有量が100massppm未満に制限されているので、ZrやSiがこれら不可避不純物と反応して消費されてしまうことを抑制できる。
さらに、本実施形態では、ZrやMgと化合物(酸化物、硫化物、炭化物等)を形成する元素であるO,S,Cの合計含有量を50massppm未満に制限しているので、ZrやMgが消費されてしまうことを抑制でき、確実に、耐力、導電率、ビッカース硬さを向上させることができる。また、上述の化合物(酸化物、硫化物、炭化物等)の形成を抑制することで、熱間加工性及び冷間加工性が劣化することを抑制できる。
【0054】
また、本実施形態では、ZrとSiの質量比Zr/Siが、2≦Zr/Si≦30の範囲内とされているので、ZrとSiとの相乗効果により、確実に、耐力、導電率、ビッカース硬さを向上させることができる。詳述すると、上述のように、ZrとSiの質量比Zr/Siを規定することにより、Cu−Zr−Si粒子を十分に形成させることができ、導電率が低下することなく耐力を向上させることができる。また、ビッカース硬さを確実に向上させることが可能となるのである。
【0055】
さらに、本実施形態では、Cu−Zr−Si粒子の少なくとも一部は、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされており、具体的には、粒径が1nm以上500nm以下の範囲内とされた比較的微細な粒子と、粒径が1μm以上50μm以下の範囲内とされた比較的粗大な粒子とが存在しているので、比較的微細なCu−Zr−Si粒子によって、高い導電率を維持したまま耐力の向上を図ることができる。また、ビッカース硬さを向上させることができる。さらに、粒径1μm以上50μm以下の比較的粗大なCu−Zr−Si粒子により、せん断加工性を大幅に向上させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、導電率が80%IACS以上、0.2%耐力が300MPa以上、表面のビッカース硬さが100Hv以上といった特性を有しているので、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の銅合金として特に適している。
【0057】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金薄板は、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金からなり、さらにせん断加工性にも優れていることから、コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
なお、表面にSnめっき又はAgめっきを施した電子・電気機器用銅合金薄板においては、各種電子・電気機器用部品の素材として適用可能である。
【0058】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用部品(コネクタ等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等)は、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れた電子・電気機器用銅合金を用いて製造されているので、信頼性に優れている。
【0059】
以上、本発明の実施形態である電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用部品、端子、リレー、バスバーについて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、電子・電気機器用銅合金の製造方法の一例について説明したが、電子・電気機器用銅合金の製造方法は、実施形態に限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
純度99.99mass%以上の無酸素銅(ASTM F68−Class1)からなる銅原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1に示す成分組成に調製し、水冷銅鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約20mm×幅約200mm×長さ約30〜40mmとした。
【0061】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、均質化と溶体化のために表2に記載の温度条件で4時間の加熱を行う熱処理工程を実施し、その後、水焼き入れを実施した。熱処理後の鋳塊を切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。
【0062】
その後、表2に記載された加工率、温度にて熱間圧延を行い、水焼き入れを実施した後、表2に記載された条件にて仕上加工工程として冷間圧延を実施し、厚さ約0.5mmの条材を製出した。
そして、得られた条材に対して、表2に記載された温度にて、表2に記載の導電率となるまで時効熱処理を実施し、特性評価用条材を作成した。
【0063】
なお、この特性評価用条材のうち、B,P,Ni,Cr,Ti,Fe,Co,O,S,C以外のその他の不可避的不純物の総量は、0.01〜0.09mass%であった。
【0064】
(加工性評価)
加工性の評価として、前述の仕上加工工程(冷間圧延時)における耳割れの有無を観察した。目視で耳割れが全くあるいはほとんど認められなかったものを「◎」、長さ1mm未満の小さな耳割れが発生したものを「○」、長さ1mm以上3mm未満の耳割れが発生したものを「△」、長さ3mm以上の大きな耳割れが発生したものを「×」とした。耳割れの長さが1mm以上3mm未満である「△」は実用上問題がないと判断した。
なお、耳割れの長さとは、圧延材の幅方向端部から幅方向中央部に向かう耳割れの長さのことである。評価結果を表2に示す。
【0065】
(粒子観察)
Cu、Zr、Siを含有するCu−Zr−Si粒子を確認するため、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子株式会社製、JEM−2010F)を用いて粒子観察し、EDX分析(エネルギー分散型X線分光法)を実施した。
まず、
図2に示すように、TEMを用いて20,000倍(観察視野:2×10
7nm
2)で観察した。そして、観察された粒子について、
図3に示すように、100,000倍(観察視野:7×10
5nm
2)観察を行った。また、粒径が10nm未満の粒子については、さらに500,000倍(観察視野:3×10
4nm
2)で観察を行った。
また、観察された粒子について、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて組成を分析し、Cu−Zr−Si粒子であることを確認した。EDX分析結果の一例を
図4に示す。
【0066】
Cu−Zr−Si粒子の粒径は、長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とした。
組織観察により、粒径1nm以上500nm以下の範囲内のCu−Zr−Si粒子が観察されたものを○、観察されなかったものを×として評価した。評価結果を表2に示す。
【0067】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して垂直になるように採取した。測定結果を表2に示す。
【0068】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、オフセット法により0.2%耐力、引張強さを測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して垂直になるように採取した。
【0069】
(ビッカース硬さ)
JIS Z 2244に規定されているマイクロビッカース硬さ試験方法に準拠し、試験荷重0.98Nでビッカース硬さを測定した。なお、測定位置は、特性評価用試験片の圧延面とした。評価結果を表2に示す。
【0070】
(Zr、Si、Mg、その他の添加元素及び不純物含有量の測定方法)
Zr、Si、Mgと比較例5のNi、Co、比較例6のCrは、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて測定した。
H、Nの分析は、熱伝導度法で行い、O,S,Cの分析は、赤外線吸収法で行った。その他不可避不純物はグロー放電質量分析装置(GD−MS)を用いて測定した。
【0071】
成分組成、製造工程、評価結果を表1、2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
比較例1は、Zrが本発明の範囲よりも少なく、耐力及びビッカース硬さが不十分であった。また、Cu-Zr-Si粒子は観察されなかった。
比較例2は、Zrが本発明の範囲よりも多く、冷間圧延時に大きな割れが発生した。このため、その後の評価を中止した。
比較例3は、Siが本発明の範囲よりも少なく、耐力が不十分であった。また、Cu-Zr-Si粒子は観察されなかった。
比較例4は、Siが本発明の範囲よりも多く、導電率が大きく低下した。
比較例5は、Mgが本発明の範囲よりも少なく、耐力が不十分であった。
比較例6は、Mgが本発明の範囲よりも多く、熱間圧延時に大きな割れが発生した。このため、その後の工程及び評価を中止した。
【0075】
比較例7は、不可避不純物であるNi、Coを本発明の範囲よりも多く含んでおり、導電率が大きく低下した。また、Cu-Zr-Si粒子は観察されなかった。
比較例8は、不可避不純物であるCrを本発明の範囲よりも多く含んでおり、導電率大きく低下した。また、Cu-Zr-Si粒子は観察されなかった。
【0076】
これに対して、本発明例においては、導電率が高く、かつ、耐力、ビッカース硬さに優れていた。
以上のことから、本発明によれば、耐力、導電率、ビッカース硬さに優れ、電子・電気機器用部品を構成する材料として特に適した電子・電気機器用銅合金を提供することができることが確認された。