(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388445
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバのグレーティング作製方法及びグレーティング作製装置
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
G02B6/02 416
G02B6/02 461
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-262549(P2014-262549)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-122129(P2016-122129A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年9月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人情報通信研究機構、「革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】多賀 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩司
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
【審査官】
山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/025732(WO,A2)
【文献】
特開2002−372612(JP,A)
【文献】
特開2002−267880(JP,A)
【文献】
特開2014−194544(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0308005(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0201793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02、5/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のクラッド中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバに対して、全てのコアに同一の光学特性を有するグレーティング構造を作製する方法であって、
前記各コアの空間的な位置と、短波長レーザ光に基づく干渉縞の焦点面の位置とを相対的に変化させてグレーティング構造を作製するに際し、
前記各コアの空間的な位置と、前記干渉縞の焦点面の位置との相対的な変化は、
前記焦点面に対して、前記マルチコア光ファイバを上下動することで行う
ことを特徴とするマルチコア光ファイバのグレーティング作製方法。
【請求項2】
前記干渉縞は、短波長レーザ光の光路を二分割させた後の干渉で生じさせる請求項1に記載のマルチコア光ファイバのグレーティング作製方法。
【請求項3】
前記干渉縞は、短波長レーザ光が位相マスクを透過することにより回折した回折光同士の干渉で生じさせる請求項1に記載のマルチコア光ファイバのグレーティング作製方法。
【請求項4】
前記上下動による変化量は、前記マルチコア光ファイバのクラッド直径以下である請求項1に記載のマルチコア光ファイバのグレーティング作製方法。
【請求項5】
単一のクラッド中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバを支持する光ファイバ支持手段と、
前記マルチコア光ファイバに対して短波長レーザ光に基づく干渉縞を生じさせる干渉縞生成手段と、
前記干渉縞の焦点面に対して前記マルチコア光ファイバの各コアが合致するように、前記焦点面と前記各コアの位置とを相対的に変化させる移動手段とを備え、
前記移動手段は、前記支持手段に支持された前記マルチコア光ファイバを上下方向に昇降させる昇降機構を含む
ことを特徴とするマルチコア光ファイバのグレーティング作製装置。
【請求項6】
前記支持手段は、斜面を有する第1三角柱と、前記斜面を移動する第2三角柱とにより前記マルチコア光ファイバが載置されるV溝を備えて構成され、前記第2三角柱が前記第1三角柱の斜面に対してスライド移動することで前記マルチコア光ファイバが昇降する移動手段を構成する請求項5に記載のマルチコア光ファイバのグレーティング作製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバのコア部分の屈折率を短波長レーザ光(紫外レーザ光)照射によって変調することによって作製される光ファイバグレーティングに関し、特にマルチコア光ファイバの各コアに光ファイバグレーティングを作製するためのグレーティング作製方法及びグレーティング作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバグレーティングは、光ファイバのコア部内の屈折率に周期的な屈折率変化を作製することで、屈折率変化がグレーティング(回折格子)として働き、グレーティングの周期が作るブラッグ反射条件を満たす波長の光のみを反射する構造となる。
コア部内に周期的な屈折率変化を与えるためには、例えば特許文献1に記載されるように、レーザ光の照射による干渉によって生じる干渉縞に基づく光強度の変調により行われる。
【0003】
一方、通信需要の増大に伴い、単一のクラッド内に複数のコア部分を有するマルチコア光ファイバの利用が研究されている。
また、特許文献2に記載されるように、マルチコア光ファイバをグレーティング化し、温度や歪みの変化を光波長の変化として検出するセンサとして利用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−242326号公報
【特許文献2】特開2009−258739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ光の干渉を利用して光ファイバにグレーティングを作製する場合、レーザ光の干渉によって生じる干渉縞は、3次元空間中のある平面(焦点面)上にのみ生成され、焦点面と直交する方向への空間的な広がりは10ミクロン程度であり、その上下の空間においては干渉縞がぼやけてしまう。
通常のシングルコア光ファイバ1のコア3にグレーティングを作製する場合、コア直径が10ミクロン程度であれば、
図9(a)に示すように、干渉縞焦点面をコア3の中心が存在する平面上に合わせれば、コア全体(焦点面と直交する方向の10ミクロンの範囲)に対してコントラストのシャープな干渉縞が生成されるので、コア内全体にグレーティングの作製を行うことができる。
【0006】
しかしながら、例えば
図9(b)に示すようなコア3が複数あるマルチコア光ファイバ2では、全てのコア3にコントラストのシャープな干渉縞を同時に生成することはできないので、全てのコア3にグレーティングを一括して作製することはできない。
マルチコア光ファイバグレーティングについて記載された特許文献2においても、「よく知られた干渉、あるいは位相マスク技法を用いてグレーティングがそれぞれのコアに刻まれる」と記載されるだけで、マルチコア光ファイバの各コアにグレーティングを作製する場合の具体的な手法については言及されていない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたもので、マルチコア光ファイバの各コアに対して、周期が同一のグレーティングを容易に作製することができるマルチコア光ファイバのグレーティング作製方法及びグレーティング作製装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、単一のクラッド中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバに対して、全てのコアに同一の光学特性を有するグレーティング構造を作製する方法であり、短波長レーザ光に基づいてシャープな干渉縞が得られる平面(干渉縞焦点面)の位置が、マルチコア光ファイバ内の全てのコアの中心と一致することができるようにするため、グレーティング作製中のマルチコア光ファイバの空間的な位置を制御するものである。
【0009】
すなわち請求項1のグレーティング作製方法は、単一のクラッド中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバに対して、全てのコアに同一の光学特性を有するグレーティング構造を作製する方法であって、前記各コアの空間的な位置と、短波長レーザ光に基づく干渉縞の焦点面の位置とを相対的に変化させてグレーティング構造を作製する
に際し、前記各コアの空間的な位置と、前記干渉縞の焦点面の位置との相対的な変化は、前記焦点面に対して、前記マルチコア光ファイバを上下動することで行うことを特徴としている。
【0010】
請求項2は、請求項1のグレーティング作製方法において、前記干渉縞は、短波長レーザ光の光路を二分割させた後の干渉で生じさせることを特徴としている。
【0011】
請求項3は、請求項1のグレーティング作製方法において、前記干渉縞は、短波長レーザ光が位相マスクを透過することにより回折した回折光同士の干渉で生じさせることを特徴としている。
【0018】
請求項4は、請求項1のグレーティング作製方法において、前記上下動による変化量は、前記マルチコア光ファイバのクラッド直径以下であることを特徴としている。
【0019】
請求項5のグレーティング作製装置は、
単一のクラッド中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバを支持する光ファイバ
支持手段と、
前記マルチコア光ファイバに対して短波長レーザ光に基づく干渉縞を生じさせる干渉縞生成手段と、
前記干渉縞の焦点面に対して前記マルチコア光ファイバの各コアが合致するように、前記焦点面と前記各コアの位置とを相対的に変化させる移動手段と
を備え、
前記移動手段は、前記支持手段に支持された前記マルチコア光ファイバを上下方向に昇降させる昇降機構を含むことを特徴としている。
【0024】
請求項6は、請求項5のグレーティング作製装置において、前記支持手段は、斜面を有する第1三角柱と、前記斜面を移動する第2三角柱とにより前記マルチコア光ファイバが載置されるV溝を備えて構成され、前記第2三角柱が前記第1三角柱の斜面に対してスライド移動することで前記マルチコア光ファイバが昇降する移動手段を構成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
請求項1のグレーティング作製方法によれば、各コアの空間的な位置と、干渉縞の焦点面の位置とを相対的に変化させることで、焦点面がマルチコア光ファイバ内の全てのコアに順次合致することで、全てのコアへグレーティング構造を順次作製することが可能となる。
グレーティング作製に際しては、干渉縞の焦点面に対してマルチコア光ファイバが上下動し、各コアの位置が交代で焦点面に来るようにすることで、各コアの空間的な位置と干渉縞の焦点面の位置との相対的な変化を得るようにしている。
【0026】
請求項2のグレーティング作製方法によれば、短波長レーザ光の光路を二分割させた後の干渉で干渉縞を得るようにしている。
【0027】
請求項3のグレーティング作製方法によれば、短波長レーザ光が位相マスクを介して回折した回折光同士による干渉で干渉縞を得るようにしている。
【0034】
請求項4のグレーティング作製方法によれば、上下動による変化量をクラッド直径とすることで、マルチコア光ファイバの任意の範囲に焦点面を合致させることができる。
【0035】
請求項5のグレーティング作製装置によれば、移動手段を備えたことにより、各コアの空間的な位置と、干渉縞の焦点面の位置とを相対的に変化させることで、焦点面がマルチコア光ファイバ内の全てのコアに順次合致することができ、全てのコアへグレーティング構造を順次作製することが可能となる。
その際、マルチコア光ファイバを上下方向に昇降させる昇降手段を備えたことで、各コアの空間的な位置と干渉縞の焦点面の位置との相対的な変化をマルチコア光ファイバの回転動作で得ることができる。
【0040】
請求項6のグレーティング作製装置によれば、第2三角柱が第1三角柱の斜面に対してスライド移動することで、V溝に載置されたマルチコア光ファイバを上下に昇降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係るマルチコア光ファイバのグレーティング作製装置の実施形態の一例を示す構成説明図である。
【
図2】(a)(b)はマルチコア光ファイバに照射される干渉縞焦点面の位置を示すファイバ断面説明図である。
【
図3】(a)(b)はマルチコア光ファイバに照射される干渉縞焦点面の位置を示すファイバ断面説明図である。
【
図4】本発明に係るマルチコア光ファイバのグレーティング作製装置の実施形態の他の例を示す構成説明図である。
【
図5】
図4のグレーティング作製装置におけるマルチコア光ファイバのコアと干渉縞焦点面との相対的な位置の変化を説明するためのモデル図である。
【
図6】本発明に係るマルチコア光ファイバのグレーティング作製装置の実施形態の他例を示す構成説明図である。
【
図7】
図6のグレーティング作製装置におけるマルチコア光ファイバのコアと干渉縞焦点面との相対的な位置の変化を説明するためのモデル図である。
【
図8】(a)(b)はマルチコア光ファイバに照射される干渉縞焦点面の位置を示すファイバ断面説明図である。
【
図9】(a)はシングルコア光ファイバに照射される場合の干渉縞焦点面の位置を示すファイバ断面説明図、(b)はマルチコア光ファイバに照射される場合の干渉縞焦点面の位置を示すファイバ断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に係るグレーティング作製装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
グレーティング作製装置は、
図1に示すように、マルチコア光ファイバ10のクラッド11内に内在するコア12に対してグレーティング13を作製する装置であり、マルチコア光ファイバ10を支持する光ファイバ支持手段と、マルチコア光ファイバ10のコア12に照射する干渉縞を生じさせる干渉縞生成手段と、干渉縞に対してマルチコア光ファイバ10を移動させる移動手段とを備えて構成されている。
【0043】
マルチコア光ファイバ10は、長尺状の単一のクラッド11中に、長尺方向に沿った複数のコア12を有するマルチコア光ファイバで構成されている。マルチコア光ファイバに内在する複数のコア12は、クラッド11の屈折率より高い屈折率で作製され、マルチコア光ファイバ10の中心軸に対して同心円上に配置されている。この例では、中心軸の周囲に6個のコア12が同心円上にそれぞれ等間隔に配置されている。
【0044】
光ファイバ支持手段は、マルチコア光ファイバ10の両端部において、マルチコア光ファイバ10の外周面にそれぞれ当接する片側3個、両側で6個のローラー20で構成されている。各ローラー20は、マルチコア光ファイバ10に対して、上部に1個、下部に2個が等間隔に配置され、同一方向に回転することで、マルチコア光ファイバ10を回転させる移動手段を兼用している。
【0045】
干渉縞生成手段は、Geがドープされたマルチコア光ファイバ10のコア12に対して短波長レーザ光(紫外レーザ光)に基づく干渉縞を生じさせるもので、照射された短波長レーザ光の干渉から干渉縞(強度が周期的に分布した光)を生成する位相マスク30から構成されている。位相マスク30を介してコア12に波長223〜253nmの紫外レーザ光が照射されることで、位相マスク30を透過したレーザ光が回折し、回折した回折光同士により干渉縞が生成され、干渉縞焦点面で短波長レーザ光の強度が周期的に変化する。光誘起屈折率変化による屈折率は、Geの添加量と紫外レーザの照射量(強度×時間)によって決まるので、コア12に屈折率が長尺方向に周期的に変化するグレーティング13を作製することができる。
【0046】
干渉縞が明瞭に表れる平面(干渉縞焦点面)は、直交する方向への空間的な広がりが10ミクロン程度であり、マルチコア光ファイバ10に作製された全てのコア12に一括してグレーティング13を作製することはできないので、前記したローラー20(移動手段)によりマルチコア光ファイバ10を回転させ、各コア12の空間的な位置と干渉縞焦点面の位置とを相対的に変化するようにしている。
【0047】
例えば、
図2に示すように、マルチコア光ファイバ10の中心軸を含む平面に干渉縞焦点面を位置させ、各ローラー20の回転動作によりマルチコア光ファイバ10が中心軸を中心に段階的に回転するようにしている。すなわち、干渉縞焦点面が光ファイバの中心軸を含む平面の位置にあるとき(
図2(a))、1番目のコア及び4番目のコアに干渉縞が照射されてグレーティングが作製される。この状態からマルチコア光ファイバ10を60度回転させて停止させ、3番目のコア及び6番目のコアに干渉縞が照射されてグレーティングを作製し(
図2(b))、この状態から更に光ファイバを60度回転させて停止させ、2番目のコア及び5番目のコアに干渉縞が照射されてグレーティングを作製することで、全てのコア12にグレーティング13を作製することができる。グレーティング作製に用いられる位相マスク30は、同一のものを使用するので、各コア12に作製されるグレーティング13の光学特性は同一となる。
位相マスク30による干渉縞焦点面がマルチコア光ファイバ10の長尺方向の全長部分に照射されない場合は、短波長レーザ光の照射を行う照射手段及び位相マスク30をマルチコア光ファイバ20に対してずらしながら全長にわたって干渉縞を生成させることで、マルチコア光ファイバ10の全体にグレーティング13を作製する。
【0048】
上述の例では、マルチコア光ファイバ10が60度毎に段階的に回転するようにしたが、連続して回転することで、短波長レーザ光の干渉縞焦点面(干渉縞が明瞭に表れる平面)が、一つのコア12から次のコア12へ連続的に遷移させるようにしてもよい。この場合、例えば、干渉縞焦点面が各コア12を通過する時間内にグレーティング13が作製されるよう回転速度が制御される。
【0049】
また、マルチコア光ファイバ10の最大回転角を360度とすれば、マルチコア光ファイバ10に形成される各コア12の全てに干渉縞焦点面を位置させることができる。
【0050】
また、上述した装置では、マルチコア光ファイバ10と干渉縞焦点面との位置関係について、干渉縞焦点面がマルチコア光ファイバ10の中心軸上を通過する平面としたが、
図3に示すように、中心軸から離れた平面(中心軸上を通過する平面と平行な平面)上であってもよい。
【0051】
図4は、グレーティング作製装置の実施形態の他の例を示すもので、一対のコ字状クランプ41,41間を軸42で結合し、軸42を回転可能にすることで、マルチコア光ファイバ10を支持する支持手段及びマルチコア光ファイバ10を回転させる移動手段を構成している。一対のコ字状クランプ41は、マルチコア光ファイバ10の両端が嵌合する形状に形成され、クランプ41間を連結する軸42が回転することで、マルチコア光ファイバ10が外部の軸に対して回転するようになっている。その結果、
図5に示すように、短波長レーザ光の干渉縞焦点面(干渉縞が明瞭に表れる平面)をマルチコア光ファイバ10の各コア12に位置させて各コアにグレーティングが作製される。
【0052】
上述した各実施形態の回転手段は、同一方向にのみ回転するのではなく、反対方向にも回転可能にするのが好ましい。すなわち、両端部が支持されたマルチコア光ファイバ10を回転手段により同一方向にのみ回転させ続けると、光ファイバ自体にねじりが生じ破断する事象が生じる可能性がある。この事象を防止するため、マルチコア光ファイバ10の回転方向を周期的に反転させるようにする。
例えば、当初は時計回りにマルチコア光ファイバ10を回転させ、ある定められた角度回転させた後は回転方向を反転して反時計回りとし、初期の位置にまで戻す。これを繰り返し行いながら、グレーティング生成に必要なだけの短波長レーザ光(紫外レーザ光)の照射を行えばよい。
また、反転して初期状態に戻った後、そのまま反時計回りに回転を続け、ある定められた角度まで回転して再び時計回りに反転させるという方法も考えられる。
【0053】
図6は、グレーティング作製装置の実施形態の他の例を示すもので、短波長レーザ光による干渉縞焦点面に対するマルチコア光ファイバ10の空間的位置を変化させる場合に、マルチコア光ファイバ10を回転させる回転手段に代えて、マルチコア光ファイバ10を上下方向に昇降する昇降手段で構成する。
すなわち、マルチコア光ファイバ10の支持手段及び昇降手段について、マルチコア光ファイバ10の両端部分がそれぞれ載置される一対のV溝治具50,50で構成する。V溝治具50は、斜面を有する第1三角柱51と、この斜面上を移動する第2三角柱52とによりマルチコア光ファイバ10が支持されるV溝となる支持手段を構成している。
また、V溝治具50は、
図7に示すように、第2三角柱52が第1三角柱51の斜面に対してスライド移動することでマルチコア光ファイバ10が上下方向に昇降する移動手段を構成している。
【0054】
この構成により、移動手段によりマルチコア光ファイバ10を昇降動作させることにより、
図8に示すように、マルチコア光ファイバ10と位相マスク30との間の間隔Lを広げたり狭めたりすることで、短波長レーザ光による干渉縞焦点面に対して、マルチコア光ファイバ10の空間的位置を変化させることができ、クラッド11内における干渉縞焦点面の位置を変化させ、全てのコア12に干渉縞焦点面を合致させることができる。昇降動作は、連続的に変化させてもよいし、マルチコア光ファイバ10のコア12の上下方向のピッチに応じた量を段階的に変化させてもよい。
マルチコア光ファイバ10の空間的な位置(上下動による位置)の変化量は、最大でクラッド11の直径分あれば、マルチコア光ファイバ10に形成される各コア12の全てに干渉縞焦点面を位置させることができる。
【0055】
上述したグレーティング作製装置の各実施形態では、短波長レーザ光から干渉縞を生成する場合に位相マスク30を使用したが、短波長レーザ光の光路を二分割させた後の干渉で干渉縞を得るようにしてもよい。
【0056】
上述した各グレーティング作製装置によれば、マルチコア光ファイバ10における各コア12へのグレーティング作製処理が可能となる。
光ファイバグレーティングは、商用光伝送路(特に長距離海底ケーブルシステム)において、光増幅器の利得帯域を平坦化する利得等化用素子として採用されており、マルチコア光ファイバにおいてファイバグレーティングを作製可能とすることで、光伝送システム向け要素技術として有用な光ファイバを容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
10…マルチコア光ファイバ、 11…クラッド、 12…コア、 13…グレーティング、 20…ローラー(支持手段及び移動手段)、 30…位相マスク、 50…V溝治具、 51…第1三角柱、 52…第2三角柱。