(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラズマ界面固定部は、60度から120度の範囲から選択される開口角を有する傾斜面を備え、前記傾斜面は、プラズマ室外側表面側に設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のビーム引出スリット構造。
請求項1から9のいずれかに記載のビーム引出スリット構造を備えるイオン源であって、前記イオン源プラズマ室は、前記ビーム引出方向から見て前記スリット長手方向に細長いアークチャンバーであり、前記イオン源は、
前記アークチャンバー内に熱電子を放出する熱電子放出部と、
前記スリット長手方向に沿う磁場を前記アークチャンバー内に印加する磁場発生器と、をさらに備えることを特徴とするイオン源。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明のある実施形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す図である。
図1の上部はイオン注入装置10の概略構成を示す上面図であり、
図1の下部はイオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。
【0015】
イオン注入装置10は、真空空間において被処理物の表面にイオン注入処理をするよう構成されている。被処理物は、例えば基板Wであり、例えば半導体ウエハである。よって以下では説明の便宜のため被処理物を基板Wまたは半導体ウエハと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図していない。
【0016】
イオン注入装置10は、ビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方により基板Wの全面にわたってイオンビームBを照射するよう構成されている。本書では説明の便宜上、設計上のイオンビームBの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。後述するようにイオンビームBを被処理物に対し走査する場合には走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。よって、ビームスキャンはx方向に行われ、メカニカルスキャンはy方向に行われる。
【0017】
イオン注入装置10は、イオン源12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、を備える。イオン源12は、イオンビームBをビームライン装置14に与えるよう構成されている。ビームライン装置14は、イオン源12から注入処理室16へとイオンを輸送するよう構成されている。また、イオン注入装置10は、イオン源12、ビームライン装置14、及び注入処理室16に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0018】
図示されるように、ビームライン装置14は例えば、上流から順に、質量分析磁石装置18、ビーム整形装置20、偏向走査装置22、Pレンズなどのビーム平行化装置24、及び、角度エネルギーフィルター26を備える。なお本書において、上流とはイオン源12に近い側を指し、下流とは注入処理室16に近い側を指す。
【0019】
質量分析磁石装置18は、イオン源12の下流に設けられており、イオン源12から引き出されたイオンビームBから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成されている。ビーム整形装置20は、Qレンズなどの収束レンズを備えており、イオンビームBを所望の断面形状に整形するよう構成されている。
【0020】
偏向走査装置22は、ビームスキャンを提供するよう構成されている。偏向走査装置22は、イオンビームBをx方向に走査する。こうして、イオンビームBは、y方向の幅よりも長いx方向の走査範囲にわたって走査される。
図1において矢印Cによりビームスキャン及びその走査範囲を例示し、走査範囲の一端及び他端でのイオンビームBをそれぞれ実線及び破線で示す。なお明確化のためにイオンビームBに斜線を付して図示する。
【0021】
ビーム平行化装置24は、走査されたイオンビームBの進行方向を平行にするよう構成されている。角度エネルギーフィルター26は、イオンビームBのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。このようにして、ビームライン装置14は、基板Wに照射されるべきイオンビームBを注入処理室16に供給する。
【0022】
注入処理室16は、1枚又は複数枚の基板Wを保持し、イオンビームBに対する例えばy方向の相対移動(いわゆるメカニカルスキャン)を必要に応じて基板Wに提供するよう構成されている物体保持部(図示せず)を備える。
図1において矢印Dによりメカニカルスキャンを例示する。また、注入処理室16は、ビームストッパ28をビームライン終端に備える。イオンビームB上に基板Wが存在しない場合には、イオンビームBはビームストッパ28に入射する。
【0023】
ある他の実施形態においては、イオン注入装置10は、z方向に垂直な一方向に長い断面を有するイオンビームを注入処理室16に与えるよう構成されていてもよい。この場合、イオンビームは例えば、y方向の幅よりも長いx方向の幅を有する。こうした細長断面のイオンビームはリボンビームと呼ばれることもある。あるいは、更なる他の実施形態においては、イオン注入装置10は、イオンビームを走査することなく、スポット状の断面を有するイオンビームを注入処理室16に与えるよう構成されていてもよい。
【0024】
図2は、本発明のある実施形態に係るイオン源12の一部を概略的に示す斜視断面図である。
図3は、本発明のある実施形態に係るイオン源12の一部の概略断面図をイオン源12の関連要素とともに概略的に示す図である。
【0025】
イオン源12は、傍熱型のイオン源であり、アークチャンバー30と、熱電子放出部32と、リペラー34と、第1引出電極36と、第2引出電極38と、各種電源を備える。
【0026】
アークチャンバー30は、略直方体の箱型形状を有する。アークチャンバー30は一方向に細長い形状を有しており、以下ではこの方向をアークチャンバー30の縦方向と称する。縦方向は
図2及び
図3の紙面における上下方向である。
【0027】
アークチャンバー30は、高融点材料、具体的には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、アークチャンバー内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバーを溶けにくくできる。
【0028】
アークチャンバー30の縦方向一方側に熱電子放出部32が設けられている。アークチャンバー30の縦方向他方側にリペラー34が設けられている。リペラー34は熱電子放出部32に対向する。以下では説明の便宜上、アークチャンバー30の熱電子放出部32側を上側と称し、アークチャンバー30のリペラー34側を下側と称する。
【0029】
また、アークチャンバー30の一方の側部には、ソースガスを導入するガス導入口40が設けられている。アークチャンバー30の他方の側部には、イオンビームBが引き出される開口部としてのビーム引出スリット42が形成されている。
【0030】
ソースガスには、希ガスや、水素(H
2)、ホスフィン(PH
3)、アルシン(AsH
3)等の水素化物、三フッ化ホウ素(BF
3)、四フッ化ゲルマニウム(GeF
4)等のフッ化物、三塩化インジウム(InCl
3)等の塩化物、等のハロゲン化物が用いられる。また、ソースガスには、二酸化炭素(CO
2)一酸化炭素(CO)、酸素(O
2)などの酸素原子(O)を含む物質も用いられる。
【0031】
アークチャンバー30は、チャンバー本体44とスリット部材46とを備える。スリット部材46にビーム引出スリット42が形成されている。チャンバー本体44は、一方の側部が開放された箱部材である。スリット部材46は、チャンバー本体44の開放側に取り付けられる蓋である。チャンバー本体44にスリット部材46が取り付けられることにより、イオン源12のプラズマ室が形成される。熱電子放出部32、リペラー34、及びガス導入口40は、チャンバー本体44に設けられている。
【0032】
アークチャンバー30は高電圧電源48の正極に接続されている。よって、チャンバー本体44及びスリット部材46には高電圧電源48によって正の高電圧が印加される。
【0033】
ビーム引出スリット42は、スリット部材46の上側から下側へと延びる細長スリットである。ビーム引出スリット42は、フロントスリットとも呼ばれる。このような上下長孔は、円形などの小孔に比べて面積が大きいので、イオン源12から引き出されるイオンビーム量を増加することができる。
【0034】
以下では説明の便宜上、ビーム引出スリット42の延びる方向をスリット長手方向と称する。スリット長手方向は、アークチャンバー30の縦方向に相当する。スリット長手方向は、イオン源12のビーム引出方向に直交する。また、以下では、スリット長手方向及びビーム引出方向の双方に直交する方向をスリット幅方向と称する。よって、
図2及び
図3に示される断面は、スリット長手方向及びビーム引出方向に平行な平面によるビーム引出スリット42における断面である。
図3においては、スリット長手方向は上下方向であり、ビーム引出方向は左右方向であり、スリット幅方向は紙面に垂直な方向である。
【0035】
熱電子放出部32は、アークチャンバー30内に熱電子を放出するものであり、フィラメント50とカソード52を有する。熱電子放出部32は、チャンバー本体44のカソード取付孔に挿入され、アークチャンバー30と絶縁された状態で固定される。また、熱電子放出部32に関連して、フィラメント電源54、カソード電源56、及びアーク電源58が設けられている。
【0036】
フィラメント50は、フィラメント電源54で加熱され、先端に熱電子を発生させる。フィラメント50で発生した(1次)熱電子は、カソード電源56によるカソード電界で加速される。(1次)熱電子は、カソード52に衝突し、その衝突時に発生する熱でカソード52を加熱する。加熱されたカソード52は(2次)熱電子を発生する。
【0037】
アーク電源58によってカソード52とアークチャンバー30との間にアーク電圧が印加されている。アーク電圧によって(2次)熱電子が加速される。(2次)熱電子は、ガス分子を電離するに十分なエネルギーを持ったビーム電子としてアークチャンバー30内に放出される。ビーム電子は、磁場Mによってほぼ限定された範囲に存在するのでイオンはその範囲で主に生成される。ビーム電子は、拡散によりアークチャンバー30の内壁、ビーム引出スリット42、カソード52、リペラー34に到達し、壁面で失われる。
【0038】
リペラー34は、リペラープレート60を有する。リペラープレート60は、カソード52と対向してほぼ平行に設けられている。リペラープレート60は、アークチャンバー30内の電子を跳ね返して、プラズマPが生成される領域に電子を滞留させてイオン生成効率を高める。
【0039】
イオン源12には磁場発生器62が設けられている。磁場発生器62はアークチャンバー30の外に配置されている。磁場発生器62は一対のソース磁場コイルを備え、その一方がアークチャンバー30の上方にあり、他方がアークチャンバー30の下方にある。磁場発生器62によってアークチャンバー30内に磁場Mが印加される。磁場Mはアークチャンバー30の縦方向に印加される。
【0040】
カソード52からアークチャンバー30に放出されたビーム電子は磁場Mに沿ってカソード52とリペラー34との間を往復移動する。往復移動するビーム電子は、アークチャンバー30に導入されたソースガス分子と衝突電離してイオンを発生させ、アークチャンバー30にプラズマPを生成する。アークチャンバー30が縦長であるので、プラズマPも縦長となる。
【0041】
第1引出電極36は、アークチャンバー30の外側に隣接して設けられている。第1引出電極36は、スリット部材46からビーム引出方向に隙間を空けて配置されている。第2引出電極38は、スリット部材46と反対側に第1引出電極36に隣接して設けられている。第2引出電極38は、第1引出電極36からビーム引出方向に隙間を空けて配置されている。
【0042】
第1引出電極36及び第2引出電極38にはそれぞれ、図示されるように、ビーム引出スリット42に対応する開口がイオンビームBを通すために設けられている。これらの開口は、ビーム引出スリット42と同様に上下長孔形状を有する。第1引出電極36及び第2引出電極38は、例えば、ステンレス鋼、グラファイト、モリブデン、またはタングステンで形成されている。
【0043】
第1引出電極36は、サプレッション電源64に接続されている。サプレッション電源64は、第2引出電極38に対して第1引出電極36に負電位を印加するために設けられている。第2引出電極38は接地されている。第1引出電極36はサプレッション電極とも呼ばれる。第2引出電極38はグランド電極とも呼ばれる。
【0044】
図4は、本発明のある実施形態に係るスリット部材46の概略断面図である。
図4の上部は、第1引出電極36側から見たスリット部材46の概略平面図である。
図4の中部に示される断面は、スリット部材46の概略断面図であり、スリット長手方向及びビーム引出方向に平行な平面によるビーム引出スリット42における断面を概略的に示す。
図4の下部は、アークチャンバー30の内側から見たスリット部材46の概略平面図である。
【0045】
スリット部材46は、プラズマ室内側表面66とプラズマ室外側表面67を備える。プラズマ室内側表面66は、使用時にプラズマPに接触する(
図2及び
図3参照)。プラズマ室外側表面67は、
図3に示されるように、第1引出電極36に対向する。
【0046】
プラズマ室内側表面66は平面であるのに対し、プラズマ室外側表面67は、第1引出電極36に向かう凹面である。この凹面は例えば、十分に小さい曲率をもつ楕円面(例えば円弧面)であり、スリット幅方向に延びる軸線を有する楕円柱(例えば円柱)により定められる。よって、プラズマ室内側表面66とプラズマ室外側表面67とは、ビーム引出スリット42の長手方向中央部において互いに近接し、ビーム引出スリット42の長手方向の両側の端部において離れている。つまりスリット部材46はスリット中央部において薄く、スリット端部において厚い。ビーム引出スリット42はこのように湾曲した形状を有する。この湾曲形状は、ビーム引出スリット42から引き出されるイオンビームBに縦方向の収束効果を与える。これにより、質量分析磁石装置18を効率よく透過させることができる。
【0047】
また、スリット部材46は、ビーム引出スリット42を定めるスリット孔のスリット表面部(平面部(または曲面部でもよい)、稜線状部)68を備える。スリット表面部68は、ビーム引出方向においてプラズマ室内側表面66とプラズマ室外側表面67との間にビーム引出スリット42を形成する。スリット表面部68は、ビーム引出スリット42を通じて引き出されるイオンビームBを囲む。
【0048】
ビーム引出は、第1引出電極36とスリット部材46との間に印加された電圧に応じてビーム引出スリット42に生じる電界によって行われる。その電界により、プラズマからイオンビームBがビーム引出スリット42を通じて引き出される。イオンビームBは、第1引出電極36及び第2引出電極38を通過し、ビームライン装置14によって注入処理室16に輸送され、基板Wに照射される。
【0049】
ビーム引出スリット42またはその近傍においてプラズマからイオンがビームとして引き出される位置にプラズマの境界面が形成される。この境界面はプラズマ界面とも呼ばれる。プラズマ密度や電界強度に依存して、プラズマ界面の位置や形状は大きく変化する。例えば、プラズマ密度が低下するとプラズマ界面はプラズマ側に退行し、逆に上昇すると第1引出電極36側に突出する。プラズマ界面の位置や形状は、引き出されるイオンビームBの特性に影響する。ビーム特性には例えばビーム強度や発散角などがある。ビーム特性は、イオン注入装置10における注入処理室16へのビーム輸送に影響する。ビーム特性が悪ければ基板Wへの注入ビーム電流が低下し、イオン注入装置10の生産性が悪化する。
【0050】
スリット表面部(平面部(または曲面部でもよい)、稜線状部)68は、スリット長手方向における中央部に形成されているプラズマ界面固定部(稜線状部)69と、スリット長手方向における両方の端部に形成されているプラズマ界面非固定部(平面部(または曲面部でもよい))70と、を備える。プラズマ界面非固定部70は、ビーム引出スリット42の両端部に形成されている。プラズマ界面固定部69は、プラズマのプラズマ界面を固定的に保持する。プラズマ界面固定部69は、ビーム引出方向におけるプラズマ界面の位置を決定する。プラズマ界面非固定部70は、プラズマのプラズマ界面をビーム引出方向に移動可能に保持する。
【0051】
図4に示されるように、プラズマ界面固定部69は、中央稜線部90を備える。中央稜線部90は、プラズマ界面を固定的に保持する単一の稜線部である。プラズマ界面非固定部70は、2つの端部稜線部92を備える。2つの端部稜線部92の一方はプラズマ室外側表面67側(つまり第1引出電極36側)に位置し、他方はプラズマ室内側表面66側(つまりプラズマP側)に位置する。2つの端部稜線部92の間にはくさび状の平坦領域が定められている。このくさび状平坦領域94は、ビーム引出スリット42の両端部それぞれに形成されている。プラズマ界面はくさび状平坦領域94においてビーム引出方向に移動可能に保持される。
【0052】
2つの端部稜線部92は、ビーム引出スリット42の長手方向中間部にて中央稜線部90から分岐している。くさび状平坦領域94は、2つの端部稜線部92の分岐点96からビーム引出スリット42の末端に向けてビーム引出方向における幅が徐々に広くなる。理解の容易のために、
図4においてくさび状平坦領域94を灰色で示す。
【0053】
このようにして、プラズマ界面固定部69は、中央稜線部90によって定まる尾根部を備える。この尾根部は、スリット長手方向に沿って延びている。また、プラズマ界面非固定部70は、端部稜線部92及びくさび状平坦領域94によって定まる台地部を備える。台地部は、尾根部に比べてビーム引出方向において厚くなっており広い幅を有する。
【0054】
スリット部材46は、プラズマP側に形成されているスリット入口98と、中央稜線部90及びくさび状平坦領域94を介して、第1引出電極36側に形成されているスリット出口100と、を備える。スリット入口98は第1輪郭線102を有し、スリット出口100は第2輪郭線104を有する。第1輪郭線102は、中央稜線部90とプラズマ室内側表面66側のくさび状平坦領域94の端部稜線部92とにより形成されている。第2輪郭線104は、中央稜線部90とプラズマ室外側表面67側のくさび状平坦領域94の端部稜線部92とにより形成されている。
【0055】
スリット入口98の第1輪郭線102は、スリット幅方向及びスリット長手方向に平行な平面上にある。第1輪郭線102及び第2輪郭線104は、ビーム引出方向から見て、スリット長手方向に沿って細長く延びる略矩形である。
【0056】
第2輪郭線104は、ビーム引出スリット42の長手方向中央部においては第1輪郭線102と共通であり、ビーム引出スリット42の長手方向端部においてはくさび状平坦領域94を介して第1輪郭線102から離れている。
【0057】
図5(a)は、ビーム引出スリット42の長手方向中央部におけるスリット部材46の概略断面図である。
図5(b)は、ビーム引出スリット42の長手方向中間部におけるスリット部材46の概略断面図である。ここで、長手方向中間部とは、ビーム引出スリット42の長手方向における中央部と端部との間の領域をいう。
図5(c)は、ビーム引出スリット42の長手方向端部におけるスリット部材46の概略断面図である。
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)はそれぞれ、
図4のE−E断面、F−F断面、G−G断面であり、ビーム引出スリット42及びそのごく近傍を含む局所領域を示す。
図5(a)ないし
図5(c)は、スリット幅方向及びビーム引出方向に平行な平面によるビーム引出スリット42における断面を概略的に示し、上下方向がスリット幅方向であり、左右方向がビーム引出方向である。スリット長手方向は紙面に垂直な方向である。
【0058】
図5(a)において中央稜線部90は、スリット幅方向に対向する一対のエッジ部(スリット表面部の稜線状部)として図示される。このように、プラズマ界面固定部69は、スリット長手方向に垂直な断面においてスリット幅方向に突き出すエッジ部を備える。プラズマ界面固定部69において各エッジ部のプラズマP側には内側傾斜面106が形成されている。また、各エッジ部の第1引出電極36側には外側傾斜面108が形成されている。こうして、スリット中央部においてはエッジ部間にプラズマ界面110が形成される。
【0059】
内側傾斜面106は、60度から120度の範囲から選択される開口角を有する。ここで、開口角は、スリット長手方向に垂直な断面(つまり
図5(a)に示される断面)において、対向する一方の内側傾斜面106と他方の内側傾斜面106とがなす角度をいう。また、外側傾斜面108は、60度から120度の範囲から選択される開口角を有する。図示される実施形態においては、内側傾斜面106及び外側傾斜面108それぞれの開口角は90度である。
【0060】
ビーム引出スリット42の断面図である
図5(b)及び
図5(c)において、くさび状平坦領域94は、ビーム引出方向に沿う一対の平坦部として図示される。各平坦部はビーム引出方向において2つの端部稜線部92に挟まれる部分である。一方の平坦部は、スリット幅方向においてビーム引出スリット42の一方側にあり、他方の平坦部はスリット幅方向においてビーム引出スリット42の他方側にある。これら両側の平坦部間にプラズマ界面110が形成される。くさび状平坦領域94は、上述のように、
図5(b)に示されるスリット中間部よりも
図5(c)に示されるスリット端部において幅広である。従って平坦部も同様に、スリット中間部よりもスリット端部において長い。このようにして、プラズマ界面非固定部70は、スリット長手方向に垂直な断面においてビーム引出方向に沿って延びる平坦部を備える。
【0061】
プラズマ界面非固定部70においては、内側傾斜面106がくさび状平坦領域94に隣接してプラズマP側に形成されている。また、外側傾斜面108がくさび状平坦領域94に隣接して第1引出電極36側に形成されている。
【0062】
プラズマ界面非固定部70は、20度以内の範囲から選択される開口角を有する平坦面をプラズマ室内側表面側に備える。すなわち、図示される実施形態においては、くさび状平坦領域94の平坦部の開口角は0度である。なお、くさび状平坦領域94の平坦部の開口角は20度以内であってもよい。
【0063】
このようにして、スリット開口形状は最もプラズマ密度の高いスリット中央部においてエッジ形状を有する。また、本スリット開口形状は、スリット中央部から両端に行くに従いビーム引出方向に沿う平坦部を有する。本スリット形状によるビーム引出しに際しては、ビーム引出電流密度の最も多いスリット中央部のエッジ部にプラズマ界面が確立するようにソースパラメータやビーム輸送パラメータが調整される。そうすると、スリット端部ではスリット長手方向に沿って平坦部の適当な位置に自動的に安定なプラズマ界面が出来る。これにより、長寿命スリットに見られるような低エネルギーでの電流低下は改善される。また、プラズマ密度の低いスリット端部では若干のイオン化物質の堆積はありうるものの、スリット中央部ではエッジ形状であるため顕著な堆積は見られない。よって、本スリット形状によると、長期間にわたってビーム電流が低下することがなく、長時間の安定なビーム引き出しが可能となる。したがって、本スリットを使用することにより、生産性の高いイオン注入装置を提供することができる。
【0064】
なお、ある実施形態においては、プラズマ界面固定部がスリット長手方向におけるプラズマの高密度領域に形成され、プラズマ界面非固定部がスリット長手方向におけるプラズマの低密度領域に形成されてもよい。このようにして、任意のプラズマ密度分布に適合するビーム引出スリットが提供されてもよい。例えば、スリット端部にプラズマ高密度領域が形成され、スリット中央部にプラズマ低密度領域が形成される場合を仮定すると、プラズマ界面固定部がスリット端部に形成されプラズマ界面非固定部がスリット中央部に形成されてもよい。
【0065】
図6は、
図2ないし
図5に示されるビーム引出スリット42におけるスリット長手方向のプラズマ密度分布を例示する図である。
図6において、横軸はビーム引出スリット42の長手方向中心からの距離を表し、縦軸はイオン密度を表す。
図6の右方は熱電子放出部32側を示し、左方はリペラー34側を示す。実線はシミュレーション結果を示し、正方形印は実験結果を示す。
【0066】
プラズマPの生成時、アークチャンバー30内には外部から縦方向に磁場Mが印加されている。磁場方向の両極性拡散により、ビーム引出スリット42の長手方向中央部が最もプラズマ密度が高く、スリット両端ではその2/3程度に低下する。したがって、スリット長手方向の中央と端部ではプラズマ界面の位置が異なる。これにより、スリット中央とスリット端部とでイオンビームBの特性が異なりうる。
【0067】
基板Wに注入されるビーム電流量をできるだけ多くするためには、ビーム引出スリット42においてプラズマ密度が高い領域から引き出されるビームの部分の特性を改善することが効果的である。そのため、プラズマパラメータや電極間距離などイオン源12の各種パラメータは、プラズマの高密度領域について最適となるよう調整される。例えば、プラズマの高密度領域におけるプラズマ界面が所定の位置に保持されるように、イオン源12のパラメータが調整される。
図6に例示されるプラズマ密度分布の場合、ビーム引出スリット42の中央部から引き出されるビーム部分の特性が最適化されるようにイオン源12のパラメータが調整される。
【0068】
しかし、そのように調整されたパラメータはプラズマの低密度領域については最適でないことになる。そのため、低密度領域から引き出されるビーム部分の特性は相対的に悪くなる。例えば、低密度領域におけるプラズマ界面は、高密度領域とは異なる位置に保持され、その結果、低密度領域から引き出されるビーム部分は所望のビーム特性と異なるビーム特性を有する。
図6に示されるようにビーム引出スリット42の端部のプラズマ密度が低い場合、ビーム引出スリット42の端部から引き出されるビーム部分の特性を良好に保つのは難しい。
【0069】
図7は、あるスリット部材72の長手方向中央部を概略的に示す断面図である。
図7には、スリット部材72に形成されるスリット74及びそのごく近傍を含む局所領域を示す。このスリット74は、
図1ないし
図3に示されるイオン源12に使用されうる。
図7においては、上下方向がスリット幅方向であり、左右方向がビーム引出方向である。スリット長手方向は
図7の紙面に垂直な方向である。
【0070】
スリット74は、一対の平坦部76によって規定される。
図7において平坦部76は、ビーム引出方向に沿う一対の直線状の平坦部として図示される。一方の平坦部76は、スリット幅方向においてスリット74の一方側にあり、他方の平坦部76はスリット幅方向においてスリット74の他方側にある。これら両側の平坦部76間にプラズマ界面78が形成される。平坦部76は、スリット長手方向においてスリット74の全長にわたって形成されている。
【0071】
プラズマ界面78はスリット74において平坦部76に沿ってビーム引出方向に移動可能である。そのため、プラズマ密度や引出電界強度などの条件に応じた場所にプラズマ界面が生成され、スリット74にプラズマ界面78が安定的に確立されやすい。このようなスリット74は、とくにプラズマPのエネルギーが低い場合であっても安定してビームを引き出すことができる点で有利である。よって、スリット74は、低エネルギースリットとも呼ばれる。
【0072】
しかし、スリット74には堆積物による詰まりが生じやすいという欠点がある。平坦部76のうちプラズマ界面78の後方に位置する部分がプラズマPに覆われるので、この部分にプラズマ物質が堆積し成長しうる。反応性の高いフッ素系のソースガスが使用される場合にはそうした堆積がよく見られ、とりわけ、プラズマ密度の高いスリット中央部に顕著である。そのため、短時間でスリット74の開口幅が減少して引出ビーム電流が減少するという不都合な結果が生じうる。
【0073】
図8は、他のスリット部材80の長手方向中央部を概略的に示す断面図である。スリット部材80にはスリット82が形成されている。スリット82は、
図1ないし
図3に示されるイオン源12に使用されうる。スリット82は、一対の突出部84によって規定される。
図8において突出部84は、スリット幅方向に対向する一対のエッジ部として図示される。突出部84は、スリット長手方向においてスリット82の全長にわたって形成されている。これら突出部84間にプラズマ界面86が形成される。
【0074】
図8に示されるスリット82は、
図7に示されるスリット74と異なり、プラズマPに覆われる平坦部を有しない。そのため、プラズマ物質の堆積及び成長は抑制される。よって、開口幅及び引出ビーム電流の減少も抑制され、長寿命のスリットを得ることができる。
【0075】
しかし、スリット82においてはプラズマ界面86の形成場所が突出部84に限定される。プラズマ密度や引出電界強度などの条件に応じて決まるプラズマ界面86の位置が突出部84に一致すればプラズマ界面86は容易に形成されるが、もしずれていればプラズマ界面86は形成されにくい。そのため、
図8のスリット82は
図7のスリット74に比べて、プラズマ界面86の安定的な確立という点で不利である。プラズマ密度の低いスリット端部は上述のように、プラズマ界面86の確立に最適な条件下にないから、スリット中央部に比べてビーム特性が悪化しうる。これがビーム輸送に影響し、場合によっては低エネルギーでの注入ビーム電流が低下しうる。
【0076】
図9は、本発明のある実施形態に係るスリット部材46を概略的に示す図である。
図9の上部は、第1引出電極36側から見たスリット部材46の概略平面図である。
図9の中部は、スリット部材46の概略断面図であり、スリット長手方向及びビーム引出方向に平行な平面によるビーム引出スリット42における断面を概略的に示す。
図9の下部は、アークチャンバー30の内側から見たスリット部材46の概略平面図である。
【0077】
ビーム引出スリットは他の種々の形状をとりうる。例えば、
図10(a)に示されるように、第2輪郭線がスリット幅方向に延びる楕円柱面112上にあり、第1輪郭線がスリット幅方向及び長手方向に平行な平面114上にあってもよい。楕円柱はスリット中央部において平面114と接触してもよい。楕円柱は中太りの楕円柱または楕円体でもよい。また、
図10(b)に示されるように、第2輪郭線がスリット幅方向に延びる第2楕円柱面116上にあり、第1輪郭線がスリット幅方向に延びる第1楕円柱面118上にあってもよい。第1楕円柱は、第2楕円柱を包含し、スリット中央部において第2楕円柱と接触してもよい。
【0078】
第1輪郭線及び第2輪郭線は、他の任意の形状であってもよい。
図11に示されるように、第1輪郭線及び第2輪郭線は例えば、ビーム引出方向から見て、スリット長手方向に沿って細長い楕円またはレーストラック状の長円であってもよい。
【0079】
また、プラズマ界面固定部の尾根部は、直線平坦状には限られず、湾曲していてもよい。プラズマ界面非固定部の台地部は、平坦な平面状には限られず、曲面状であってもよい。
【0080】
本発明の実施形態は以下のように表現することもできる。
【0081】
本発明のある態様によると、熱電子衝突によるアーク放電によりアークチャンバー内部に高密度プラズマを生成するイオンソースにおいて、縦長でビーム引出方向に向かって凹形の縦収束型のビーム引出スリット構造が提供される。ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において長手方向中央部のビームが引き出される通路に接する部分の長手方向の一部がエッジ(稜線部)で構成され、それ以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。
【0082】
ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において、ビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部の形状が、縦長スリットの中央部で接する二つの楕円柱で形づくられるプラズマ側とビーム引出側を決める2面と、ビーム引き出し方向に縦長にザグリを入れることによって形づくられる稜線で構成されていてもよい。即ち、長手方向中央部以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。
【0083】
ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において、ビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部の形状が、縦長スリットの中央部で接する平面と楕円柱で形づくられるプラズマ側とビーム引出側を決める2面と、ビーム引き出し方向に縦長にザグリを入れることによって形づくられる稜線で構成されていてもよい。即ち、長手方向中央部以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。
【0084】
ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において、ビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部の形状が、縦長スリットの中央部で接する平面と多角柱で形づくられるプラズマ側とビーム引出側を決める2面と、ビーム引き出し方向に縦長にザグリを入れることによって形づくられる稜線で構成されていてもよい。即ち、長手方向中央部以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。
【0085】
ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において、ビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部の形状が、縦長スリットの中央部で接するプラズマ側とビーム引出側を決める2面と、ビーム引き出し方向に縦長にザグリを入れることによって形づくられる稜線で構成されていてもよい。即ち、長手方向中央部以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。ビーム引出スリット構造においては、プラズマ側に開口角60°〜120°の面が設けられていてもよい。
【0086】
ビーム引出スリット構造は、縦長スリットの断面形状において、ビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部の形状が、縦長スリットの中央部で接するプラズマ側とビーム引出側を決める2面と、ビーム引き出し方向に縦長にザグリを入れることによって形づくられる稜線で構成されていてもよい。即ち、長手方向中央部以外の部分はビーム引出開口部の引出方向に沿った平坦部で構成されていてもよい。ビーム引出スリット構造においては、平坦部がプラズマ側に向かって20°以内の開口角を有してもよい。
【0087】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。