(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モータ制御手段は、前記伝達手段により伝達されなかった回転角度が予め定められた規定範囲外である場合に、前記電動モータの駆動を停止するよう印加電圧を零に決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、乗り物の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車に適用した構成を例示している。
【0010】
ステアリング装置100は、自動車の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0011】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。ピニオンシャフト106は、前輪150を転動させるラック軸105に対して、回転することにより前輪150を転動させる駆動力を加える。
【0012】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTを検出するトルクセンサ109が設けられている。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。
本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度を検出するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に前輪150を転動させる駆動力を与える。
【0014】
減速機構111は、ピニオンシャフト106に嵌め込まれたウォームホイール111aと、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ111bと、ピニオンシャフト106とウォームホイール111aとの間に設けられたトルクリミッタ111cとを有する。トルクリミッタ111cは、トレランスリング、弾性ブッシュ、摩擦クラッチであることを例示することができる。
【0015】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109、レゾルバ120、ステアリングシャフト102の回転角度である操舵角Sθを検出する操舵角検出手段の一例としての操舵角センサ180からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170などからの出力信号が入力される。
【0016】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した検出トルクに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0017】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Tdと、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号vが入力される。また、制御装置10には、レゾルバ120からの電動モータ110の回転角度に応じた出力信号であるモータ回転角度信号Mθs、操舵角センサ180からの操舵角Sθに応じた出力信号である操舵角信号Sθsなどが入力される。
【0018】
そして、制御装置10は、トルク信号Td、車速信号vなどに基づいて電動モータ110に供給する目標電流を算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部30と、を備えている。
【0019】
次に、目標電流算出部20について詳述する。
図3は、目標電流算出部20の概略構成図である。
目標電流算出部20は、目標電流を設定する上で基準となるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、モータの回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて目標電流を決定する目標電流決定部25を備えている。また、目標電流算出部20は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTの位相を補償する位相補償部26を備えている。
なお、目標電流算出部20には、操舵トルクT、車速Vc、後述する検出モータ回転速度Mωdに関する情報(信号)などが入力される。
【0020】
ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とベース電流Ibとの対応を示す制御マップに、操舵トルクTおよび車速Vcを代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0021】
イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、位相補償された操舵トルクTおよび車速Vcを代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0022】
ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)および検出モータ回転速度Mωdと、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、位相補償された操舵トルクT、車速Vcおよび検出モータ回転速度Mωdを代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0023】
目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて、d−q座標系のq軸目標電流Iqcを算出するq軸目標電流算出部251を有している。d−q座標系は、電動モータ110のロータ(永久磁石)と同期して回転するd軸およびq軸からなる回転直交座標系であり、d軸は、ロータが形成する磁束の方向に沿った軸であり、q軸は、電動モータ110が発生するトルクの方向に沿った軸である。
【0024】
また、目標電流決定部25は、q軸目標電流算出部251が算出したq軸目標電流Iqcと、検出モータ回転速度Mωdとに基づいてd−q座標系のd軸目標電流Idcを算出する界磁電流算出部252を有している。界磁電流算出部252は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た補償電流を、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、補償電流とd軸目標電流Idcとの対応を示すマップに代入することにより、d軸目標電流Idcを算出する。
【0025】
次に、制御部30について詳述する。
図4は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、電動モータ110の作動を制御するモータ制御手段の一例としてのモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、を有している。また、制御部30は、電動モータ110に実際に流れる実電流に応じた値を出力するモータ電流検出部33と、このモータ電流検出部33によって検出された電流をd−q座標系の電流に変換する3相2軸変換部35と、を有している。また、制御部30は、レゾルバ120からのモータ回転角度信号Mθsに基づいて実際の電動モータ110の回転角度を算出するモータ回転角度算出部36と、モータ回転角度算出部36で算出された回転角度である検出モータ回転角度Mθdに基づいて電動モータ110の回転速度を算出するモータ回転速度算出部37と、を有している。また、制御部30は、モータ回転角度算出部36で算出された検出モータ回転角度Mθdを補正して補正後の回転角度である補正後モータ回転角度Mθcを出力する補正手段の一例としてのモータ回転角度補正部38を有している。
【0026】
モータ駆動制御部31、モータ駆動部32およびモータ回転角度補正部38は、後で詳述する。
モータ電流検出部33は、3相ブラシレスモータである電動モータ110のU相に実際に流れる電流であるU相実電流を検出するためのU相電流検出部と、電動モータ110のW相に実際に流れる電流であるW相実電流を検出するためのW相電流検出部と、を有している。U相電流検出部およびW相電流検出部は、それぞれ電動モータ110のU相、W相に接続されたいわゆるシャント抵抗の両端に生じる電圧から各相に流れる実電流の値を検出する。
【0027】
3相2軸変換部35には、モータ電流検出部33にて検出されたU相実電流,W相実電流、およびモータ回転角度算出部36にて算出された検出モータ回転角度Mθdが入力される。そして、3相2軸変換部35は、予め定められた式に従って、U相実電流,W相実電流をd−q座標系の値であるd軸実電流Idaとq軸実電流Iqaとに変換し、変換したd軸実電流Ida,q軸実電流Iqaを出力する。
【0028】
モータ回転角度算出部36は、電動モータ110に設けられたレゾルバ120からのモータ回転角度信号Mθsに基づいて検出モータ回転角度Mθdを算出する。レゾルバ120およびモータ回転角度算出部36が、電動モータ110の回転角度を検出する検出手段の一例として機能する。
モータ回転速度算出部37は、モータ回転角度算出部36で算出された検出モータ回転角度Mθdに基づいて検出モータ回転速度Mωdを算出する。
【0029】
次に、モータ駆動制御部31およびモータ駆動部32について詳述する。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20の目標電流決定部25にて算出されたd軸目標電流Idcから、3相2軸変換部35にて算出されたd軸実電流Idaを減算するd軸減算部41dと、目標電流決定部25にて算出されたq軸目標電流Iqcから、3相2軸変換部35にて算出されたq軸実電流Iqaを減算するq軸減算部41qとを有している。
【0030】
また、モータ駆動制御部31は、d軸減算部41dにて算出された偏差(Idc−Ida)に基づいてd軸目標電流Idcとd軸実電流Idaとが一致するようにPI(比例積分)制御を行い、d軸目標電圧Vdcを算出するd軸PI制御部42dを有している。また、モータ駆動制御部31は、q軸減算部41qにて算出された偏差(Iqc−Iqa)に基づいてq軸目標電流Iqcとq軸実電流Iqaとが一致するようにPI(比例積分)制御を行い、q軸目標電圧Vqcを算出するq軸PI制御部42qを有している。
【0031】
d軸減算部41d,q軸減算部41qおよびd軸PI制御部42d,q軸PI制御部42qは、電動モータ110に供給する目標電流(d軸目標電流Idc,q軸目標電流Iqc)と電動モータ110に供給される実電流(d軸実電流Ida,q軸実電流Iqa)との偏差が零となるようにフィードバック制御を行う。
【0032】
また、モータ駆動制御部31は、d軸PI制御部42dおよびq軸PI制御部42qにて算出されたd軸目標電圧Vdc,q軸目標電圧Vqcを、3相交流座標系のU相目標電圧VucとW相目標電圧Vwcとに変換する2軸3相変換部51を有している。また、モータ駆動制御部31は、2軸3相変換部51にて変換されたU相目標電圧VucとW相目標電圧VwcとからV相目標電圧Vvcを算出するV相目標電圧算出部52を有している。
【0033】
2軸3相変換部51は、予め定められた式およびモータ回転角度補正部38から出力された補正後モータ回転角度Mθcに基づいて、d軸目標電圧Vdcおよびq軸目標電圧Vqcを、U相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcに変換する。つまり、2軸3相変換部51は、d軸PI制御部42dおよびq軸PI制御部42qから出力された、言い換えればフィードバック制御された値と、補正後モータ回転角度Mθcとに基づいて電動モータ110に印加する印加電圧を決定する。
V相目標電圧算出部52は、零からU相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcを減算することによりV相目標電圧Vvcを算出する。
【0034】
また、モータ駆動制御部31は、2軸3相変換部51およびV相目標電圧算出部52にて算出されたU相目標電圧Vuc,V相目標電圧Vvc,W相目標電圧Vwcに基づいて電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成し、生成したPWM信号を出力するPWM信号生成部60を有している。
【0035】
次に、モータ駆動部32について詳述する。
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、モータ駆動部32は、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
【0036】
以上のように構成された本実施の形態に係るステアリング装置100では、電動モータ110からラック軸105に至る回転力伝達系にトルクリミッタ111cにより相対滑りなどの異常が発生した場合には、ステアリングシャフト102(ラック軸105)側の操舵角に対応する正規なモータ回転角度である正規モータ回転角度Mθrをレゾルバ120から検出する場合、ステアリングシャフト102(ラック軸105)側の操舵角と位置ずれが生じる。また、回転力伝達系に相対滑りが発生した場合には、2軸3相変換部51は、レゾルバ120の検出値に基づいてモータ回転角度算出部36で算出された検出モータ回転角度Mθdをそのまま用いて目標電圧を算出すると、所望のアシスト力を発生させることができない。
【0037】
かかる事項に鑑み、本実施の形態に係るステアリング装置100では、モータ回転角度補正部38が、操舵角センサ180が検出した操舵角Sθに基づいてモータ回転角度算出部36で算出された検出モータ回転角度Mθdを補正し、2軸3相変換部51へ出力する。
なお、回転力伝達系に生ずる滑りとしては、回転力伝達系に設けられたトルクリミッタ111cの滑り、ベルト駆動伝達の滑り等が考えられる。
【0038】
次に、モータ回転角度補正部38について詳述する。
本実施の形態に係るモータ回転角度補正部38は、電動モータ110からラック軸105に至る回転力伝達系に発生した滑り分のずれを補正するように以下のように構成されている。
【0039】
図5は、モータ回転角度補正部38の概略構成図である。
モータ回転角度補正部38は、操舵角センサ180が検出した操舵角Sθから相関するモータの回転速度を推定するモータ回転速度推定部381を有している。また、モータ回転角度補正部38は、モータ回転速度推定部381が推定した推定モータ回転速度Mωaとモータ回転速度算出部37が算出した検出モータ回転速度Mωdとの偏差であるモータ回転速度偏差ΔMωを算出するモータ回転速度偏差算出部382を有している。
【0040】
また、モータ回転角度補正部38は、モータ回転速度偏差算出部382が算出したモータ回転速度偏差ΔMωに基づいて、正規モータ回転角度Mθrと実際のモータ回転角度(検出モータ回転角度Mθd)との偏差であるモータ回転角度偏差ΔMθ(=Mθd−Mθr)を算出するモータ回転角度偏差算出部383を有している。また、モータ回転角度補正部38は、モータ回転角度偏差算出部383が算出したモータ回転角度偏差ΔMθに基づいて回転力伝達系に伝達不能となる故障が発生しているか否かを判別する故障判断部384を有している。なお、伝達不能となる故障としては、ウォームホイール111aやウォームギヤ111bのギヤ噛合部の破損による空転、ギヤ軸支部の空転、ベルト駆動伝達部の破損による空転等に起因する伝達不能を例示することができる。
【0041】
また、モータ回転角度補正部38は、故障判断部384が回転力伝達系に故障が発生していると判断した場合に、故障が発生している旨の情報を2軸3相変換部51に通知する通知部385を有している。また、モータ回転角度補正部38は、故障判断部384が回転力伝達系に故障が発生していると判断していない場合に、検出モータ回転角度Mθdを補正するとともに、補正後モータ回転角度Mθcを2軸3相変換部51に出力する補正出力部386を有している。
【0042】
ここで、電動モータ110の正回転時の、電動モータ110及びステアリングシャフト102の回転方向を正の回転方向、電動モータ110及びステアリングシャフト102の回転速度を正の回転速度とする。他方、電動モータ110の逆回転時の、電動モータ110及びステアリングシャフト102の回転方向を負の回転方向、電動モータ110及びステアリングシャフト102の回転速度を負の回転速度とする。
【0043】
図6は、回転力伝達系が正常に駆動連結された場合の操舵角速度Sωと推定モータ回転速度Mωaとの相関関係を示す図である。
モータ回転速度推定部381は、先ず、操舵角センサ180が検出した操舵角Sθに基づいて操舵角Sθの変化速度である操舵角速度Sωを算出する。そして、モータ回転速度推定部381は、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた
図6に示すような操舵角速度Sωと推定モータ回転速度Mωaとの相関関係に基づく制御マップに、算出した操舵角速度Sωを代入することにより推定モータ回転速度Mωaを算出する。
【0044】
モータ回転速度偏差算出部382は、モータ回転速度算出部37が算出した検出モータ回転速度Mωdからモータ回転速度推定部381が推定した推定モータ回転速度Mωaを減算することによりモータ回転速度偏差ΔMωを算出する(ΔMω=Mωd−Mωa)。
モータ回転角度偏差算出部383は、モータ回転速度偏差算出部382が算出したモータ回転速度偏差ΔMωを積分することによりモータ回転角度偏差ΔMθを算出する(ΔMθ=∫ΔMω)。モータ回転角度偏差ΔMθは、電動モータ110の回転角度の内、例えばトルクリミッタ111cの滑り量に相当する角度で、回転力伝達系のラック軸105に伝達されなかった回転角度である。
【0045】
故障判断部384は、モータ回転角度偏差算出部383が算出したモータ回転角度偏差ΔMθが予め定められた規定範囲内であるか否かを判別し、規定範囲外である場合には何らかの伝動不能な空転故障が発生していると判断し、規定範囲内である場合には伝動不能な故障が発生していないと判断する。
通知部385は、故障が発生していると故障判断部384が判断した場合に、故障が発生している旨を2軸3相変換部51に通知する。
【0046】
補正出力部386は、伝動不能な故障が発生していないと故障判断部384が判断した場合に、読み込んだ検出モータ回転角度Mθdからモータ回転角度偏差算出部383が算出したモータ回転角度偏差ΔMθを減算して、補正後モータ回転角度Mθcを算出する(Mθc=Mθd−ΔMθ)。そして、補正出力部386は、算出した補正後モータ回転角度Mθcを2軸3相変換部51に出力する。なお、トルクリミッタ111c等に滑りが発生していない場合には、ΔMθ=零であるため、補正後モータ回転角度Mθcとして検出モータ回転角度Mθdがそのまま出力される。
【0047】
図7は、モータ回転角度補正部38の補正出力処理を示すフローチャートである。
モータ回転角度補正部38は、電源投入時や電源断時等の特殊な場合を除く通常の動作時において、
図7に示す各処理を一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに繰り返し実行する。
モータ回転角度補正部38は、先ず、推定モータ回転速度Mωaを算出する(ステップ101)。これは、モータ回転速度推定部381が、操舵角センサ180が検出した操舵角Sθを読み込むとともに、上述したように、検出した操舵角Sθに基づいて操舵角速度Sωを算出し、算出した操舵角速度Sωに基づいて推定モータ回転速度Mωaを算出する処理である。
【0048】
その後、モータ回転角度補正部38は、モータ回転速度偏差ΔMωを算出する(ステップ102)。これは、モータ回転速度偏差算出部382が、モータ回転速度算出部37が算出した検出モータ回転速度Mωdを読み込むとともに、検出モータ回転速度Mωdからステップ101にて算出した推定モータ回転速度Mωaを減算することによりモータ回転速度偏差ΔMωを算出する処理である(ΔMω=Mωd−Mωa)。
【0049】
その後、モータ回転角度補正部38は、モータ回転角度偏差ΔMθを算出する(ステップ103)。これは、モータ回転角度偏差算出部383が、ステップ102にて算出したモータ回転速度偏差ΔMωを積分することによりモータ回転角度偏差ΔMθを算出する処理である(ΔMθ=∫ΔMω)。
【0050】
その後、モータ回転角度補正部38は、回転力伝達系に伝動不能な故障が発生しているか否かを判別する(ステップ104)。これは、故障判断部384が、ステップ103にて算出したモータ回転角度偏差ΔMθが規定範囲内であるか否かを判別し、規定範囲外である場合には伝動不能な空転故障が発生していると判断し、規定範囲内である場合には伝動不能な空転故障が発生していないと判断する処理である。
【0051】
そして、モータ回転角度補正部38は、ステップ104にて故障が発生していると判断した場合(ステップ104でYES)、故障が発生している旨を2軸3相変換部51に通知する(ステップ105)。これは、通知部385が、伝動不能な故障が発生している旨の情報を2軸3相変換部51に出力する処理である。
【0052】
他方、モータ回転角度補正部38は、ステップ104にて伝動不能な故障が発生していないと判断した場合(ステップ104でNO)、検出モータ回転角度Mθdを補正するとともに補正後モータ回転角度Mθcを出力する(ステップ106)。これは、補正出力部386が、読み込んだ検出モータ回転角度Mθdからステップ103にて算出したモータ回転角度偏差ΔMθを減算することにより補正後モータ回転角度Mθcを算出し(Mθc=Mθd−ΔMθ)、算出した補正後モータ回転角度Mθcを2軸3相変換部51に出力する処理である。
【0053】
以上説明した補正出力処理により、モータ回転角度補正部38から、故障が発生している旨の情報又は補正後モータ回転角度Mθcが2軸3相変換部51に出力される。
2軸3相変換部51においては、モータ回転角度補正部38から補正後モータ回転角度Mθcを取得した場合には、補正後モータ回転角度Mθcを用いて、d軸PI制御部42dおよびq軸PI制御部42qにて算出されたd軸目標電圧Vdcおよびq軸目標電圧Vqcを、U相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcに変換する。また、V相目標電圧算出部52は、これらU相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcに基づいてV相目標電圧Vvcを算出する。
他方、2軸3相変換部51は、モータ回転角度補正部38から伝動不能な故障が発生している旨の情報を取得した場合には、U相目標電圧Vuc及びW相目標電圧Vwcを零に設定する。そして、V相目標電圧算出部52は、V相目標電圧Vvcを零に設定する。
【0054】
以上のように構成された本実施の形態に係るステアリング装置100では、ウォームホイール111aやウォームギヤ111bのギヤ破損等に起因する空転等の伝動不能な故障が発生した場合には、モータ回転角度補正部38が、故障が発生した旨を通知する。そして、2軸3相変換部51が、U相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcを零に設定するので、電動モータ110の駆動が停止される。それゆえ、不要にモータを駆動させることなく運転者に早期に故障が発生したことを認識させることができる。
【0055】
また、本実施の形態に係るステアリング装置100では、衝撃荷重等により電動モータ110からラック軸105に至る回転力伝達系に設けられたトルクリミッタ111cに滑りなどの一時的な空転異常が発生した場合にあっては、電動モータ110が所望のアシスト力を継続することができるように駆動制御することができる。すなわち、モータ回転角度補正部38が、回転力伝達系に生じた滑りを考慮して検出モータ回転角度Mθdを補正し、補正後モータ回転角度Mθcを2軸3相変換部51に出力する。そして、2軸3相変換部51が、補正後モータ回転角度Mθcを用いて、U相目標電圧VucおよびW相目標電圧Vwcに変換するので、回転力伝達系に伝達可能な一時的な空転滑りが生じた場合には、検出モータ回転角度Mθdに基づいて電動モータ110を適切に継続して駆動制御することができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態においては、電動モータ110からラック軸105に至る回転力伝達系にトルクリミッタ111cが設けられている構成を例示しているが、トルクリミッタ111cの配置はモータから下流の駆動伝達部であれば良いし、他の伝達手段である場合でも本実施の形態に係る制御装置10を適用することができる。例えば、ラック・ピニオン機構とは、別に配置したピニオン機構に電動モータ110を配置しても良く、電動モータ110の発生トルクを、ベルト、ボールナット、ギヤ減速機構などを介してラック軸105に直接的に伝達し、ラック軸105を直線移動させる伝達機構に対しても本実施の形態に係る制御装置10を適用しても良い。かかる構成である場合でも、制御装置10は、衝撃荷重などが生じたことに起因する相対滑りを考慮して、電動モータ110が所望のアシスト力を発生することができるように制御することができる。
【0057】
なお、実施の形態では、補正後モータ回転角度Mθcに基づきモータの駆動制御を継続制御したが、これに限らず補正後モータ回転角度Mθcと操舵角センサ180の検出角である操舵角Sθとの差(偏差)を検出することで、操舵角センサ180または、レゾルバ120の回転検出センサの異常を判定することができ、これによりセンサ異常時のバックアップ制御が可能となる。