【文献】
Clinical Pharmacology & Therapeutics,vol.89(5),pp.655−661(2011,May)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正常な心筋細胞と比較して、DCM心筋細胞が、陽性変力ストレスに応答して、最初に陽性であり、後で不全の特性を伴って陰性になる変時作用を有する、請求項1に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】患者特異的DCM iPSCの生成を示す図である。(a)この試験で採用したDCM家族の7人の構成員の概略系図である。黒い四角(男性)および丸(女性)は、2つの対立遺伝子のうちの1つの第1染色体に特異的なTNNT2 R173W突然変異を有する個体を示す。(b)PCRおよびDNA配列決定によって、DCM患者のTNNT2遺伝子のエクソン12にR173W点突然変異が存在することが確認された。CONは対照である。(c)皮膚生検材料から増大させた、患者由来の皮膚線維芽細胞の代表的な画像である。山中因子を用いて患者由来の皮膚線維芽細胞を再プログラミングすることによって得られた、(d)ESC様コロニーおよび(e)TRA−1−60陽性コロニーの代表的な画像である。(f)患者の皮膚線維芽細胞由来のiPSCの免疫蛍光法およびアルカリホスファターゼ染色について示す画像である。(g)患者特異的iPSCにおけるOct4およびNanogのプロモーター領域におけるメチル化の状態の定量的バイサルファイトパイロシークエンス分析について示すグラフである。Nanogプロモーター領域およびOct4プロモーター領域はどちらも、患者特異的iPSCでは高度に脱メチル化されている。(h)患者特異的iPSCを免疫不全マウスの腎臓被膜内に注射することによって得た、3つの胚葉全ての組織を示す奇形腫の画像である。バーは200μmである。
【
図2】NE処理後に、異常な筋節α−アクチニン分布を有する細胞の数が有意に多いことおよび初期不全を示したDCM iPSC−CMを示す図である。(a)分化後30日目における筋節α−アクチニンおよびcTnTの免疫染色について示す画像である。単一のDCM iPSC−CM点状の筋節α−アクチニン分布パターンを示し、これにより、組織化が乱れた筋フィラメント構造が示されている。マージした顕微鏡写真の囲みをつけた領域の拡大写真に、細胞における詳細なα−アクチニンおよびcTnTの染色パターンが示されている。バーは20μmである。(b)対照iPSC−CM(n=368)と比較して有意に高い百分率のDCM iPSC−CM(n=391)で、細胞の総面積の4分の1超における点状の筋節α−アクチニン染色パターンが示された(**p=0.008)。(c)対照iPSC−CM(n=36)とDCM iPSC−CM(n=39)との間で細胞サイズに有意差は観察されなかった。(d)対照(n=14)の拍動EBとDCM(n=14)の拍動EBの両方の収縮性を、NE処理を伴って、または伴わずに経時的に追跡した代表的なMEAアッセイについて示すグラフである。EBを、一方の側面をNEで処理し、他方は処理していない二重チャンバーMEAプローブに播種した。実験の間、電気信号を同時に記録した。拍動頻度を、NE処理していないEBの拍動頻度に対して正規化した。(e)ビデオ画像による、NE処理後の経時的なCMクラスター(n=10)の正規化された拍動頻度を示すグラフである。(f)NE処理の7日後における単一の対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMに対する筋節α−アクチニン免疫染色の代表的な画像である。対照と比較して、長期のNE処理により、DCM細胞の筋節の組織化が有意に悪化した。バーは20μmである。(g)NE処理した(対照、n=210;DCM、n=255)またはNE処理していない(対照、n=261 ;DCM、n=277)組織化が乱れた筋節の染色パターンを有するCMの百分率を示すグラフである。NE処理により、DCM群では組織化が乱れたCMの数が著しく増加し(**p<0.001)、対照iPSC−CMに対する有意な効果は低かった(*p=0.05)。(h)NE処理後の経時的なiPSC−CMの形態学的変化および収縮性の変化の追跡を示す画像である。バーは200μmである。データは、平均±s.e.mとして示されている。
【
図3】より小さな[Ca
2+]
iトランジェントを示したDCM iPSC−CMの図である。(a)代表的なラインスキャン画像である。(b)CON iPSC−CM(左側)およびDCM iPSC−CM(右側)における自然発生カルシウムトランジェントを示す図である。(c)対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMにおける自然発生カルシウムトランジェントの発生頻度を示すグラフである。(d)対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMにおける[Ca
2+]
iトランジェントの組込みを示すグラフであり、DCMが示した各トランジェントにおける放出Ca
2+は対照細胞と比較して少なかった(対照、n=87細胞;DCM、n=40、**P=0.002)。CON細胞とDCM細胞との間で(e)タイミングの不規則性(標準偏差/平均)または(f)自然発生カルシウムトランジェントの振幅に有意差はなかった。
【
図4】Serca2aの過剰発現によりDCM iPSC−CMの収縮性が回復したことを示す図である。(a)DCM iPSC−CMのアデノウイルスによる形質導入後のSerca2a発現のウエスタンブロットを示す図である。Serca2aタンパク質レベルは、Ad.Serca2aを用いて形質導入した細胞では上方制御されたが、Ad.GFPを用いて形質導入した細胞では上方制御されなかった。(b)GFP陽性単一拍動CMに接近したAFMカンチレバーを示す代表的な画像である。バーは50μmである。(c)100〜400回の拍動にわたってAFMによって測定された単一のiPSC−CMの全ての収縮力のヒストグラムである。Serca2aの過剰発現により、DCM iPSC−CMの収縮力が、対照の収縮力に近いレベルまで有意に回復した。(d)AFMによって測定された単一のCMの平均収縮力のドットプロットである。一元配置ANOVA分析により、全ての群の平均の中で有意な差異があったことが示された(**p=0.002)。チューキーの多重比較検定により、対照iPSC−CM(n=13)(P=0.001)およびAd.Serca2a(n=12)(P=0.005)で形質導入されたDCM iPSC−CMはどちらも、Ad.GFP(n=17)で形質導入されたものよりも有意に強力な収縮力を示したことが示された。Ad.Serca2aで形質導入されたDCM iPSC−CMは対照iPSC−CM(P=0.578)の収縮力に匹敵する収縮力を示した。(e)それぞれAd.GFP、およびAd.Serca2aを用いて形質導入した単一のDCM iPSC−CMの代表的な自然発生カルシウムトランジェントを示す図である。(f)Ad.Serca2aを用いて形質導入したDCM iPSC−CM(n=22)は、Ad.GFPを用いて形質導入した細胞(n=14)と比較して全体的なカルシウムトランジェントの増加を示した(*p=0.04)(両側スチューデントt検定)。(g)Ad.Serca2a(n=40)またはAd.GFP(n=40)が過剰発現しているDCM iPSC−CMにおける組織化が乱れた筋節の染色パターンを有するCMの百分率を示すグラフである。2つの群間に有意差は観察されなかった(両側スチューデントt検定)。データは、平均±s.e.mとして示されている。
【
図5】家族内のDCM患者に由来するiPSCにおけるR173W突然変異を示す図である。TNNT2の遺伝子座のゲノムPCRおよびDNA配列決定により、全てのDCM患者由来のiPSCがR173W(C〜T)突然変異を有したことが示されている。
【
図6】ヒトESC(H7)、皮膚線維芽細胞、および患者特異的iPSCの全体的なmRNA発現パターンのマイクロアレイによる比較を示す図である。ピアソン相関と散布図の両方により、患者特異的iPSCの全体的な遺伝子発現パターンが、ヒトESCの全体的な遺伝子発現パターンと高度に類似していたことが示されている。
【
図7】患者特異的iPSCが延長培養後に正常な核型を維持したことを示す図である。20継代にわたって培養した後の2つのDCM iPSC株からの代表的な画像が示されている。
【
図8】山中再プログラミング因子の総計と内在性山中再プログラミング因子の相対的な発現レベルの定量的PCRについて示す図である。各再プログラミング因子の総遺伝子発現レベルと内在性遺伝子発現レベルを比較することにより、樹立された患者特異的iPSCの大部分において外因性導入遺伝子Oct4、Sox2、Klf4、およびc−MYCがサイレンシングされた。患者特異的iPSCの全てにおいて内在性Nanog発現が上方制御され、これにより、各細胞株の多能性状態が示されている。Nanog発現レベルはH7ヒトESCのNanog発現レベル(示されていない)に対して正規化したことに留意されたい。定量的PCRのために使用したプライマー情報は補足の表6に列挙されている。
【
図9】患者特異的iPSCは、in vitroにおいて3つの胚葉由来の細胞に分化することができる。異なる細胞型、例えば、ニューロン、内皮細胞、赤血球など、ならびに中胚葉マーカー平滑筋アクチン(SMA)、内胚葉マーカーα−フェトプロテイン(AFP)、および外胚葉マーカー(Tuj−1)を発現している細胞が全ての患者特異的iPSCの自然発生分化から検出された。バーは100μmである。
【
図10】患者特異的iPSCの相対的な心臓分化効率を示すグラフである。心臓分化効率は拍動EBの百分率として示されている(各株に対してn=3、データは、平均±s.e.mとして示されている)。
【
図11】対照iPSCに由来する拍動EBおよびDCM iPSCに由来する拍動EB内のcTnT陽性CMの百分率のFACS分析を示すグラフである。拍動EBの約50〜60%の細胞がcTnT陽性心筋細胞であった。
【
図12】DCM iPSC−CMおよび対照iPSC−CMにおける野生型(Wt)TNNT2発現および突然変異体(R173W)TNNT2発現の対立遺伝子特異的PCRを示す図である。患者IIa、IIb、およびIIIaでは、そのそれぞれのiPSC由来のCMにおいて突然変異体TNNT2が発現されていることが確認された。対立遺伝子PCRのために使用したプライマーは補足の表6に列挙されている。
【
図13】iPSC由来の拍動EBの電気生理学的性質を検査した多電極アレイ(MEA)について示す図である。(a)MEAプローブおよび播種した4つの拍動EBの代表的な画像である。(b)(a)に示されている4つの拍動EBの電場電位を反映する、MEAによって記録された電気信号である。(c)電場電位持続時間(FPD)、最大陽性振幅(MPA)、最大陰性振幅(MNA)、およびスパイク間の間隔(ISI)を示す抽出されたMEA電場電位グラフである。
【
図14】24の対照および24のDCM iPSC−CMの分化後30日目における遺伝子発現レベルを分析した単一細胞PCRについて示すグラフである。(a)心臓特異的転写因子、(b)カルシウムハンドリング(calcium handling)関連タンパク質、(c)イオンチャネル、(d)筋節タンパク質、および(e)骨格筋特異的タンパク質の遺伝子発現をα−チューブリンの遺伝子発現レベルに対して分析した。対照CMとDCM CMとの間に有意差は観察されなかった。データは、平均±s.e.mとして示されている。統計学的差異は両側スチューデントT検定を用いて試験した。
【
図15】iPSC−CMにおいて心臓特異的タンパク質が発現されたことを示す画像である。対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMのどちらにおいても心臓特異的タンパク質筋節α−アクチニン、cTnT、コネキシン43、およびMLC2aが発現された。矢印は細胞間接触時の陽性コネキシン43染色を示す。バーは20μmである。
【
図16】
図2aに示されている単一のCMにおける筋節α−アクチニンおよびcTnTの免疫染色の拡大画像である。バーは20μmである。
【
図17】
図2fに示されている単一のCMにおける筋節α−アクチニンおよびcTnTの2重免疫染色を示す画像である。バーは20μmである。
【
図18】
図2fに示されている各細胞のマージしたグラフの拡大画像である。NE処理後の、いくつかの単一のDCM iPSC CMにおいて、対照CMでは観察されなかった筋フィラメントの完全な変性が示されたことに留意されたい。バーは20μmである。
【
図19A-C】単一のDCM iPSC−CMと、対する対照iPSC−CMのリアルタイムPCRにより、NE処理の1週間後に遺伝子発現の変化が示されたことを示すグラフである。分化後19日目に対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMを培養皿に播種し、48時間後に10μMのNEを用いて、またはそれを用いずに7日間処理した。方法の節に記載の通り、対照iPSC(NEを用いて処理、n=8;NEなし、n=8)およびDCM iPSC(NEを用いて処理、n=8;NEなし、n=8)に由来する単一のCMを選び取り、PCRを実施した。NEを用いて処理した細胞とNEを用いずに処理した細胞との間の正味の閾値サイクル(CT)値を最初に算出した。次いで、データを、対照群の正味のct値と比較したDCM群の正味のCT値として示した。NE処理後に、遺伝子を、上方制御された(>1サイクルのCTの差異)、下方制御された(>1サイクルのCTの差異)、および発現の変化なし(<1サイクルのCTの差異)に群分けした。
【
図20】パッチクランプによって測定されたiPSC−CMの電気生理学的特徴を示す図である。(a)対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMのどちらにおいても3種類の自然発生APが観察された(左側、心室様;中央、心房様;右側、結節様)。推定70〜80%の細胞が心室様CMであり、他の細胞は心房様細胞および/または結節様細胞であった。対照iPSCとDCM iPSCとの間で心臓の細胞の運命に有意差はない(データは示していない)。(b)電流固定記録を用いた対照心室筋細胞およびDCM心室筋細胞における自然発生APを示す図である。DCM心室細胞のAPは対照細胞と比較してわずかに短かった(P=0.112)(c)。測定時(分化後19日目〜25日目)に対照細胞とDCM細胞との間で頻度(d)、APのピーク振幅(e)、または静止膜電位(f)に有意差はなかった(対照、n=18;DCM、n=17)。統計学的差異は両側スチューデントT検定を用いて試験した。
【
図21】iPSC−CMの収縮力の原子間力顕微鏡(AFM)測定について示す図である。(a)単一の心筋細胞レベルでのAFMによる力測定のプロセスの概略図である。(b)単一の心筋細胞を探索するAFMカンチレバーを示す代表的な画像である。バーは20μmである。(c)AFMによって獲得したシグナルおよび検査したパラメータ(力、頻度、および拍動持続時間)を示す代表的なグラフである。
【
図22】AFMによって測定された単一のiPSC−CMの拍動の頻度および持続時間を示すグラフである。(a)AFMによって測定された平均拍動頻度のドットプロットである。対照iPSC−CM(n=13)、Ad.Serca2aで形質導入されたDCM iPSC−CM(n=12)およびAd.GFPで形質導入されたDCM iPSC−CM(n=17)との間で拍動頻度および律動に有意差は観察されなかった。(b)AFMによって測定された平均拍動持続時間のドットプロットである。Serca2aの過剰発現により、拍動持続時間が有意に短縮された(*p=0.029)。統計学的差異は一元配置ANOVA、その後のチューキーの多重比較検定を用いて試験した。100〜400回の拍動にわたってAFMによって測定された、単一のiPSC−CMの全ての(c)拍動頻度および(d)拍動持続時間のヒストグラムである。
【
図23】AFMによって測定された各単一細胞についての相対的な細胞サイズ対収縮力のドットプロットを示すグラフである。(a)対照群(R
2=0.006)、(b)DCM/DCM−Ad.GFP群(R
2=0.105)、および(c)DCM−Ad.Serca2a群(R
2=0.061)において細胞サイズと収縮力との間に有意な直線関係はない。
【
図24】Serca2aおよびGFPの過剰発現後の経時的な培養皿中の拍動巣の正規化された百分率を示すグラフである。データは、3つの独立した実験の反復のアベレージを示す(平均±s.e.m)。
【
図25】Ad.Serca2aアデノウイルスまたはAd.GFPアデノウイルスを用いて形質導入したiPSC−CMの、赤色蛍光Ca
2+指標であるRhod−2AMを用いたCa
2+イメージングを示す写真である。(a)Rhod−2色素を取り込んだGFP陽性CMを示すマージした共焦点像である。(b)(a)と同じ細胞を写真に示されている矢印のラインでスキャンした。(c)(a)および(b)に示されている特定のCMについて記録したラインスキャン画像である。バーは20μmである。
【
図26】AFMによって測定された、Ad.Serca2aまたはAd.GFPを用いて形質導入した対照iPSC−CMの収縮性を示すグラフである。Ad.Serca2a(n=10)またはAd.GFP(n=10)を用いて形質導入した対照iPSC−CMの(a)収縮力のドットプロット、(b)拍動頻度、および(c)拍動持続時間である。各群の平均の間で有意な統計学的差異は観察されなかった。統計学的差異は両側スチューデントT検定を用いて試験した。100〜400回の拍動にわたってAFMによって測定された全ての単一の対照iPSC−CMの(d)収縮力のヒストグラム、(e)拍動頻度、および(f)拍動持続時間である。
【
図27】Serca2aが過剰発現しているDCM iPSC−CMの遺伝子発現プロファイリングにより、DCM表現型の救済において機能し得る濃縮経路が同定されたことを示す図である。(a)Serca2a処理していないDCM iPSC−CMと比較して、対照iPSC−CMおよびSerca2a−処理したDCM iPSC−CMの生物学的反復において1.5倍を超える発現の差がある191遺伝子のヒートマップである。(b)Serca2aの過剰発現によるDCM表現型の救済に関与する可能性がある濃縮経路のヒートマップである。
【
図28】メトプロロール処理により、DCM iPSC−CMの筋節の組織化が改善され、NE処理の増悪作用が和らぐことを示すグラフである。(a)10μMのメトプロロール処理により、インタクトな筋節の完全性を有するDCM iPSC−CMの数が増加した(無処理、n=100;処理、n=86、*p=0.023)。(b)メトプロロール処理により、NE処理によって誘導されるDCM iPSC−CMの増悪が予防された。1μM(n=107、**p=0.008)のメトプロロールおよび10μM(n=101、**p=0.001)のメトプロロールのどちらによっても、組織化が乱れた細胞の数がメトプロロール処理をしていないもの(n=108)と比較して有意に減少した。(c)10μMのメトプロロール処理に対照iPSC−CMの筋節の完全性に対する有意な効果はなかった(無処理、n=88;処理、n=75)。データは、平均±平均値の標準誤差として示されている。統計学的差異は両側スチューデントT検定を用いて試験した。
【
図29】DCM iPSC−ECおよび対照iPSC−ECの類似した機能的性質を示す図である。(a)FACS分析により、DCM iPSCおよび対照iPSCのどちらも、CD31
+ECへの分化の効率が同様であることが示された。(b)FACSにより、内皮細胞マーカーであるCD31およびCD144の両方を発現している分化したDCM iPSCおよび対照iPSCからCD31
+細胞が単離された。(c)DCM iPSC由来のECおよび対照iPSC由来のECはどちらも低密度リポタンパク質(LDL)(赤色の蛍光)取り込み能力を示した。(d)対照iPSC由来のECおよびDCM iPSC由来のECはどちらも、Matrigel表面上にクモの巣状の細管を形成することができた。バーは100μmである。
【
図30】DCM iPSC−CMにおけるSerca2a遺伝子療法による潜在的な機構の概略図である。心筋トロポニンTにおける突然変異は、収縮性、筋節形成、およびカルシウムシグナル伝達に負に影響を及ぼし、カルシウム関連遺伝子、例えば、カルセケストリン、NFAT、およびTRICチャネルなどの変化を引き起こす。しかし、TNNT2 R173W DCM iPSC−CMにおける電気的興奮は正常であった。SR/ER膜カルシウムポンプであるSerca2aの送達により、カルシウムハンドリング分子のレベルが回復し、損なわれたカルシウムトランジェントおよび収縮性が逆転し、それにより、全体的なDCM iPSC−CM機能が改善された。cTnTは心筋トロポニンTであり、LTCはL型カルシウムチャネルであり、RyRはリアノジン受容体カルシウム放出チャネルであり、CSQはカルセケストリンであり、PMは原形質膜である。
【
図31A-M】患者特異的HCM iPSC−CMの生成および特徴付けを示す図である。(A)下壁の非対称の肥大が実証されている、発端者および対照である対応する家族員の収縮末期および拡張末期の代表的な長軸MRI画像である。(B)HCM患者(II−1、III−1、III−2、III−3、およびIII−8)における、MYH7遺伝子のエクソン18におけるArg663Hisミスセンス突然変異のPCRおよび配列分析による確認を示す。(C)この試験に採用したMYH7にArg663His突然変異を有する発端者(II−1)ならびにその夫(II−2)、および8人の子供(III−1〜III−8)の概略系図である。丸は、女性の家族員を示し、四角は男性を示す。黒い記号はHCM表現型の臨床症状を示し、白い記号は臨床症状が存在しないことを示す。家族員の下の「+」および「−」は、それぞれArg663His突然変異が存在することまたは存在しないことを示す。2人の個体(III−3およびIII−8)は、Arg663His突然変異を有することが見いだされたが、年齢が低いので、まだHCM表現型を示さない。(D)HCM iPSC−CMにおいて対照iPSC−CMと比較して細胞サイズおよび多核化(multinucleation)が増大していることを実証している心筋トロポニンTおよびF−アクチンについての代表的な免疫染色について示す画像である。(E)4つの対照iPSCCM株(II−2、III−4、III−6、III−7)(患者株当たりn=55)および4つのHCM iPSC−CM株(II−1、III−1、III−2、III−8)(患者株当たりn=59)についての、心臓分化を誘導した40日後の細胞サイズの数量化を示すグラフである。(F)対照iPSC−CM(n=55、4つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=59、4つの患者株)における多核化の数量化を示すグラフである。(G)代表的な免疫蛍光染色により、HCM iPSC−CMにおいて、対照と比較してANF発現が上昇したことが示されている画像である。(H)心臓分化の誘導後20日目、30日目、および40日目における、対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CM(時点当たりn=32、5つの患者株)における単一細胞定量的PCRによって測定されたANF遺伝子発現の変化を示すグラフである。(I)HCM iPSC−CMおよび対照におけるMYH7/MYH6発現比の数量化を示すグラフである(時点当たりn=32、5つの患者株)。(J)HCM iPSC−CMにおけるNFATC4の核移行を示す代表的な免疫蛍光染色画像である。(K)対照iPSC−CM(n=187、5つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=169、5つの患者株)における陽性NFATC4染色を示す心筋細胞の百分率を示すグラフである。(L)カルシニューリン阻害剤であるCs−AおよびFK506を用いて5日間連続して処理した後の、対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおける細胞サイズの数量化を示すグラフである(n=50、群当たり5つの患者株)。(M)心臓分化の誘導後20日目、30日目、および40日目における、単一の対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおける心肥大に関連する遺伝子についての遺伝子発現のヒートマップ表示である。*は、HCM対対照のP<0.05を示し、**は、HCM対対照のP<0.0001を示す。
【
図32A-N】HCM iPSC−CMにおける不整脈および不規則なCa
2+調節の評価を示す図である。(A)電流固定モードのパッチクランプによって測定された、対照iPSCCMおよびHCM iPSCCMにおける自然発生活動電位の電気生理学的測定値である。囲み枠は、拡大した時間尺度におけるDAD様不整脈を実証しているHCM iPSC−CM波形の下線が引かれている部分を示す。(B)対照iPSC−CM(n=144、5つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=131、5つの患者株)におけるDAD出現の数量化を示すグラフである。DAD率は総DAD/総拍動と定義される。(C)推定DADを示す対照iPSC−CM(n=144、5つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=131、5つの患者株)の百分率の数量化を示すグラフである。(D)対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおける代表的なラインスキャン画像および自然発生Ca
2+トランジェントを示す図である。赤色の矢印はHCM細胞では観察されたが対照では観察されなかった頻脈性不整脈様波形を示す。(E)心臓分化の誘導後20日目、30日目、および40日目における、不規則なCa
2+トランジェントを示す対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMについての百分率の数量化を示すグラフである(時点当たりn=50、5つの患者株)。(F)H9 hESC−CMおよび野生型MYH7またはArg663His突然変異を有する突然変異体MYH7のレンチウイルス駆動発現を用いて安定に形質導入したhESC−CMについての代表的なラインスキャン画像および自然発生Ca
2+トランジェントを示す図である。赤色の矢じりは不規則なCa
2+波形を示す。(G)WA09 hESC−CM、野生型MYH7を過剰発現しているhESC−CM、およびArg663His突然変異を有するMYH7を過剰発現しているhESCCMにおける不規則なCa
2+トランジェントを示す細胞の数量化を示すグラフである(n=40、群当たり5つの患者株)。(H)hESC−CM、野生型MYH7を過剰発現しているhESC−CM、およびArg663His突然変異を有するMYH7を過剰発現しているhESC−CMについて電流固定モードで記録された自然発生活動電位を示す図である。赤色の矢じりはDAD様波形を示す。(I)hESC−CM、野生型MYH7またはArg663His突然変異を有する突然変異体MYH7のレンチウイルス駆動発現を用いて安定に形質導入したhESC−CMにおけるDAD様波形を示す細胞の数量化を示すグラフである(群当たりn=20、5つの患者株)。(J)対照iPSC−CM(n=122、4つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=105、4つの患者株)についてのベースラインのFluo−4Ca
2+色素強度の数量化を示すグラフである。(K)Indo−1レシオメトリックCa
2+色素を使用した、対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMの代表的なCa
2+トランジェントを示すグラフである。(L)対照iPSC−CM(n=17、4つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=26、4つの患者株)におけるIndo−1比を測定することによる安静時Ca
2+レベルの数量化を示すグラフである。(M)対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMからの代表的なCa
2+トランジェントの追跡、その後のカフェイン曝露を示すグラフである。(N)対照iPSC−CM(n=23、3つの株)およびHCM iPSC−CM(n=35、3つの株)についてのSR Ca
2+負荷量の放出が示されているカフェイン投与後のΔF/F0比の平均ピーク振幅を示すグラフである。*は、HCM対対照のP<0.05を示し、**は、HCM対対照のP<0.01を示す。
【
図33A-E】陽性変力ストレスによるHCM表現型の増悪を示す図である。(A)対照iPSC−CM(n=50、5つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=50、5つの患者株)をβ−アゴニストであるイソプロテレノールによって変力刺激することにより、HCM iPSC−CMにおいて、対照対応物と比較して細胞の肥大の症状が加速された。β−遮断薬であるプロプラノロールを同時投与することにより、HCM iPSC−CMにおいて20のカテコールアミン誘導性肥大が予防された。(B)イソプロテレノールによって陽性変力刺激した後の、対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおける代表的なCa
2+ラインスキャンおよび波形を示す図である。黒色の矢じりは異常なCa
2+波形を示す。(C)イソプロテレノールによる処理およびプロプラノロールの同時投与に応答して不規則なCa
2+トランジェントを示す対照iPSC−CM(n=50、5つの患者株)およびHCM iPSC−CM(n=50、5つの患者株)の数量化を示すグラフである。(D)ベースライン、その後のイソプロテレノールによる陽性変力刺激時の対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおける自然発生活動電位および不整脈の電気生理学的測定値を示す図である。赤い矢印はDAD様波形を示す。(E)イソプロテレノールを投与した後の対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにおけるDAD率の数量化を示すグラフである(総DAD/総拍動)。*は、HCM対対照のP<0.05を示し、**は、HCM対対照のP<0.001を示し、##はiso+pro対isoのP<0.01を示す。
【
図34】HCM iPSC−CMをベラパミルによって処理することにより、HCM表現型の発生が有意に緩和されたことを示す図である。(A)0nM、50nM、および100nMのL型Ca
2+チャネル遮断薬であるベラパミルを用いて、心臓分化を誘導した25日後に開始して5日間連続して処理したHCM iPSC−CMの代表的な免疫染色画像である。ベラパミルで処理したHCM iPSC−CMについての相対的な細胞サイズの数量化を示す(処理群当たりn=50、5つの患者株)。(B)0nM、50nM、および100nMのベラパミルを用いて5日間連続して処理したHCM iPSC−CMの代表的なCa
2+ラインスキャン画像および波形である。ベラパミルで処理した後に不規則なCa
2+トランジェントを示すことが見いだされたHCM iPSC−CMの百分率の数量化を示す(処理群当たりn=40、5つの患者株)。(C)0nM、50nM、および100nMのベラパミルを用いて5日間連続して処理したHCM iPSC−CMの自然発生活動電位の代表的な電気生理学的記録である。ベラパミルで処理した後のHCM iPSC−CM21のDAD発生頻度の数量化を示す(処理群当たりn=25、5つの患者株)。(D)MYH7においてHCM突然変異によって引き起こされるHCM表現型の発生についての概略図である。赤色の囲み枠は、疾患の発生を緩和するための潜在的な方法を示す。*は無処理対50nMのベラパミル対100nMのベラパミルのP<0.01を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下の発明の詳細な説明を付属の図面と併せて読むと最もよく理解される。
【0019】
本組成物および方法を説明する前に、本発明は記載されている特定の組成物および方法に限定されず、そういうものとして、当然、変動し得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書において使用される用語法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定的なものではないことも理解されるべきである。
【0020】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間に入る値のそれぞれも、文脈により明確に別段の規定がなされない限り下限の単位の10分の1まで、明確に開示されることが理解されるべきである。任意の明示された値または明示された範囲の間に入る値およびその明示された範囲内の任意の他の明示された、または間に入る値との間のより小さな範囲はそれぞれ本発明の範囲内に包含される。これらのより小さな範囲の上限と下限は、それぞれ独立に、その範囲に含めることができるか、その範囲から排除することができ、そのより小さな範囲に限界のいずれかが含まれる、どちらの限界も含まれない、またはどちらの限界も含まれる範囲のそれぞれも本発明に包含され、明示された範囲内の任意の特異的に排除される限界に従属する。明示された範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか、またはその両方を除く範囲も、本発明に包含される。
【0021】
別段の定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似した、またはそれと等しい任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、いくつかの潜在的な好ましい方法および材料がここに記載されている。本明細書で言及されている全ての刊行物は、引用されている刊行物と関連して方法および/または材料を開示し、説明するために参照により本明細書に組み込まれる。本開示は矛盾がある限りでは組み込まれた刊行物の任意の開示に取って代わることが理解されるべきである。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の指示対象を包含することに留意しなければならない。したがって、例えば、「a(1つの)再プログラミング因子ポリペプチド」への言及は、複数のそのようなポリペプチドを含み、「the(その)人工多能性幹細胞」への言及は、1つまたは複数の人工多能性幹細胞および当業者に公知のその等価物などへの言及を含む。
【0023】
本明細書で考察されている刊行物は、単に、本出願の出願日より前のそれらの開示について提供されている。本明細書における全てが、本発明が、先行発明に基づいてそのような刊行物に先立つ権限がないことを容認するものと解釈されるべきではない。さらに、提供されている刊行物の日付は、それぞれ独立に確認する必要があり得る実際の刊行物の日付とは異なる可能性がある。
【0024】
定義
拡張型心筋症(DCM)は、主に心筋に影響を及ぼす疾患の一群である心筋症の1つである。DCMでは、多くの場合、いかなる明白な原因も伴わずに心筋の一部が拡張する。心臓の左心室または右心室の収縮期のポンプ機能が損なわれ、リモデリングと称されるプロセスである進行性の心臓の腫大および肥大に至る。多くの場合、病因は明らかではないが、拡張型心筋症は、種々の毒性作用物質、代謝作用物質、または感染作用物質によって生じる可能性がある。患者の約25〜35%が、この疾患の家族型を有し、大多数の突然変異が細胞骨格タンパク質をコードする遺伝子に影響を及ぼし、いくつかが収縮に関与する他のタンパク質に影響を及ぼしている。この疾患は遺伝的に不均一であるが、その伝播の最も一般的な形態は、常染色体優性パターンである。DCMに関与する細胞骨格タンパク質としては、心筋トロポニンT(TNNT2)、α−心臓アクチン、デスミン、ならびに核ラミンAおよびC、ならびに種々の他の収縮性タンパク質が挙げられる。
【0025】
肥大型心筋症(HCM)は、筋節の複製により心筋細胞(heart muscle cell)のサイズが増加し、その結果、心筋(heart muscle)が肥厚している状態である。さらに、筋肉細胞の正常なアラインメントが撹乱しており、これは心筋錯綜配列として公知の現象である。HCMにより、心臓の電気的機能の破壊も引き起こされる。HCMは、最も一般的には、筋節の9つの遺伝子のうちの1つにおける、突然変異した筋節タンパク質をもたらす突然変異に起因する。ミオシン重鎖突然変異が家族性肥大型心筋症の発生に関連する。肥大型心筋症は、通常、心筋トロポニンT(TNNT2);ミオシン重鎖(MYH7);トロポミオシン1(TPM1);ミオシン結合タンパク質C(MYBPC3);5’−AMP活性化プロテインキナーゼサブユニットガンマ−2(PRKAG2);トロポニンI3型(TNNI3);タイチン(TTN);ミオシン、軽鎖2(MYL2);アクチン、アルファ心筋1(ACTC1);および心臓LIMタンパク質(CSRP3)において突然変異が報告されている常染色体優性形質として遺伝する。アンジオテンシン変換酵素(ACE)をコードする遺伝子における挿入/欠失多型により、疾患の臨床的な表現型が変更される。ACEのD/D(欠失/欠失)遺伝子型は左心室のより顕著な肥大に関連し、有害な転帰のリスクがより高いことと関連する可能性がある。
【0026】
アントラサイクリン誘導心毒性(およびアントラサイクリン誘導毒性に対する抵抗性)。ドキソルビシンなどのアントラサイクリンは白血病、ホジキンリンパ腫、ならびに他の器官の中でも、乳房、膀胱、胃、肺、卵巣、甲状腺、および筋肉の固形腫瘍を治療するために使用されている最先端の化学療法剤である。アントラサイクリンの主な副作用は心毒性であり、これにより、この化学療法剤を利用するレジメンを受けているレシピエントの多くに重度の心不全が生じる。
【0027】
不整脈源性右心室異形成症(ARVD)。ARVDは、右心室の不整脈および心臓突然死を生じる心臓デスモソームの常染色体優性疾患である。ARVDは、肥大型心筋症に次ぐ若年期の心臓突然死の主な原因である。
【0028】
左心室非圧縮(LVNC、aka非圧縮心筋症)。LVNCは、胚形成の間の心筋(myocardium)(心筋(heart muscle))の発生が損なわれることによって生じる遺伝性心疾患である。LVNCを引き起こす突然変異を有する患者では、若年期に心不全および異常な心臓の電気生理が発生する。
【0029】
左室性単心室(DILV)。DILVは、左心房と右心房の両方が左心室に入り込む先天性心臓欠陥である。結果として、この欠陥を持って生まれた小児は機能的な心室腔を1つしか有さず、酸素添加血液を全身循環中に送り出すことが困難である。
【0030】
QT延長(1型)症候群(LQT−1、KCNQ1突然変異)。QT延長症候群(LQT)は、心電図のQT期が持続し、その結果、不整脈および心臓突然死に対する易罹患性が増大する遺伝性不整脈性疾患である。LQTに関連する遺伝子が13種分かっている。
【0031】
「多能性」および多能性幹細胞とは、そのような細胞が、生物体内の全種類の細胞に分化する能力を有することを意味する。「人工多能性幹細胞」という用語は、胚性幹(ES)細胞のように、生物体内の全種類の細胞に分化する能力を維持しながら長期にわたって培養することができるが、ES細胞(胚盤胞の内部細胞塊に由来する)とは異なり、分化した体細胞、すなわち、狭い、より規定された潜在性を有し、実験的な操作の不在下では生物体内の全種類の細胞を生じさせることができない細胞に由来する多能性細胞を包含する。iPS細胞はhESC様の形態を有し、大きな核細胞質比、明確な境界および顕著な核を有する平らなコロニーとして成長する。さらに、iPS細胞は、これだけに限定されないが、アルカリホスファターゼ、SSEA3、SSEA4、Sox2、Oct3/4、Nanog、TRA160、TRA181、TDGF 1、Dnmt3b、FoxD3、GDF3、Cyp26a1、TERTおよびzfp42を含めた、当業者に公知の1種または複数種の重要な多能性マーカーを発現する。さらに、iPS細胞は、奇形腫を形成することができる。さらに、iPS細胞は、生きている生物体の外胚葉組織、中胚葉組織、または内胚葉組織を形成することまたはそれに寄与することができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「再プログラミング因子」とは、細胞に作用して転写を変更し、それにより、細胞を再プログラミングして多分化能または多能性にする生物活性因子の1つまたは複数、すなわち、カクテルを指す。再プログラミング因子は、細胞、例えば、心疾患に関する家族歴または対象の遺伝学的性質を有する個体由来の細胞、例えば、線維芽細胞、脂肪細胞などに、個別にまたは単一の組成物として、すなわち、予備混合した再プログラミング因子の組成物としてもたらすことができる。因子は同じモル比で、または異なるモル比でもたらすことができる。因子は、本発明の細胞を培養する過程において一回または多数回もたらすことができる。いくつかの実施形態では、再プログラミング因子は、これだけに限定することなく、Oct3/4;Sox2;Klf4;c−Myc;Nanog;およびLin−28を含めた転写因子である。
【0033】
体細胞を再プログラミングして多能性にするために、十分な組合せおよび数量の、上で定義された再プログラミング因子と接触させる。再プログラミング因子は、体細胞に、個別にまたは単一の組成物として、すなわち、予備混合した再プログラミング因子の組成物としてもたらすことができる。いくつかの実施形態では、再プログラミング因子をベクター上の複数のコード配列としてもたらす。
【0034】
種々の目的で、例えば、機能喪失突然変異を有する遺伝子を交換するため、マーカー遺伝子などをもたらすために遺伝子を体細胞またはそれに由来するiPS細胞に導入することができる、あるいは、アンチセンスmRNAまたはリボザイムを発現するベクターを導入し、それにより、望ましくない遺伝子の発現を遮断する。遺伝子療法の他の方法は、薬物耐性遺伝子を導入して、正常な前駆細胞が利点を有し、選択圧力、例えば、多数の薬物耐性遺伝子(MDR)、またはbcl−2などの抗アポトーシス遺伝子に供されることを可能にすることである。当技術分野で公知の種々の技法、例えば、電気穿孔、カルシウム沈降DNA(calcium precipitated DNA)、融合、トランスフェクション、リポフェクション、感染などを用いて、上記の通り核酸を標的細胞に導入することができる。DNAを導入する特定の様式は本発明の実施にとって重大ではない。
【0035】
iPS細胞は、心筋細胞(cardiac muscle cell)に分化させることもできる。骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達を阻害することにより、心筋細胞(cardiac muscle cell)(または心筋細胞(cardiomyocyte))の生成がもたらされる。例えば、Yuasaら、(2005年)、Nat.Biotechnol.、23(5):607−11を参照されたい。したがって、例示的な実施形態では、誘導された細胞をノギンの存在下で約2日〜約6日、例えば、約2日、約3日、約4日、約5日、または約6日にわたって培養した後に、胚様体を形成させ、胚様体を約1週間〜約4週間、例えば、約1週間、約2週間、約3週間、または約4週間にわたって培養する。
【0036】
培養物中に心臓作用性剤、例えば、アクチビンAおよび/または骨形成タンパク質−4などを含めることによって心筋細胞の分化を促進することができる(本明細書の実施例、それぞれが具体的に参照により本明細書に組み込まれるXuらRegen Med.2011年1月;6(1):53−66;MignoneらCirc J.2010 74(12):2517−26;TakeiらAm J Physiol Heart Circ Physiol.2009−296(6):H1793−803を参照されたい)。そのようなプロトコールの例としては、例えば、Wnt3AなどのWntアゴニストを、場合によってBMP4、VEGFおよびアクチビンAなどのサイトカインの存在下で添加し、その後、可溶性frizzledタンパク質などのWntアンタゴニストの存在下で培養することも挙げられる。しかし、心筋細胞の分化を誘導する任意の適切な方法、例えば、参照により具体的に本明細書に組み込まれる、FujiwaraらPLoS One.2011 6(2):e16734;DambrotらBiochem J.2011 434(1):25−35に記載されているシクロスポリンA;FoldesらJ Mol Cell Cardiol.2011 50(2):367−76に記載されている等軸環状ストレッチ(equiaxial cyclic stretch)、アンジオテンシンII、およびフェニレフリン(PE);WangらSci China Life Sci.2010 53(5):581−9に記載されているアスコルビン酸、ジメチルスルホキシドおよび5−aza−2’−デオキシシチジン、ChenらJ Cell Biochem.2010 111(1):29−39に記載されている内皮細胞などを用いることができる。
【0037】
所望の細胞型のマーカーの発現および表現型の特性に基づいて決定することができる発生の適切な段階で、例えば、約1〜4週間の時点で細胞を回収する。培養物は、対象のマーカーの存在について染色することによって、形態を決定することによってなどで経験的に試験することができる。場合によって、陽性選択ステップの前、またはその後に、薬物選択、パニング、密度勾配遠心分離などによって細胞を濃縮する。別の実施形態では、陰性選択を実施し、選択は、ES細胞、線維芽細胞、上皮細胞などに見いだされるマーカーのうちの1つまたは複数の発現に基づく。選択には、パニング法、磁気粒子選択、粒子選別機による選択などを利用することができる。
【0038】
心筋細胞。哺乳動物の心臓の発生の間に生じる心筋細胞の表現型は、主要な心筋細胞、結節性心筋細胞、伝導心筋細胞(conducting cardiomyocyte)および作動心筋細胞(working cardiomyocyte)に区別することができる。全ての心筋細胞が筋節および筋小胞体(SR)を有し、ギャップ結合によってカップリングしており、また、自動性を示す。主要な心臓管の細胞は、自動性が高いこと、伝導速度が低いこと、収縮性が低いこと、およびSR活性が低いことを特徴とする。この表現型は、結節性細胞において大規模に持続される。対照的に、心房および心室の作動心筋細胞(myocardial cell)は自動性を実質的に示さず、細胞間カップリングが十分であり、十分に発生した筋節を有し、SR活性が高い。房室束、脚および末梢心室伝導系由来の伝導細胞は、筋節の発生が不十分であり、SR活性が低いが、十分にカップリングしており、高い自動性を示す。
【0039】
α−Mhc、β−Mhcおよび心筋トロポニンIならびに遅骨格トロポニンIについて、分化したES細胞培養物において発生の推移を観察した。多くの場合、ES細胞培養物中の心室様細胞および心房様細胞の境界を定めるために、それぞれMlc2vおよびAnfの発現を用いるが、ESDCにおいては、Anf発現では排他的に心房の心筋細胞が同定されず、作動心筋細胞(myocardial cell)の一般的なマーカーでよい。
【0040】
「心筋細胞前駆体」とは、心筋細胞を含む後代を生じさせることができる細胞と定義される。
【0041】
in vitro培養細胞としての種々の使用に加えて、心筋細胞は、適切な動物モデルにおいて試験することができる。1つのレベルでは、細胞を、それらの、in vivoにおいて生存し、それらの表現型を維持する能力について評価する。細胞組成物を免疫不全動物(例えば、ヌードマウス、または化学的にまたは放射線照射によって免疫不全にした動物など)に投与する。ある期間再成長させた後に組織を回収し、投与した細胞またはその後代がなお存在しているかどうかに関して評価し、対象の処理に対する応答に関して表現型決定することができる。動物モデルにおいて、本発明の分化している細胞を用いた処理の結果として起こる心臓の回復の程度を評価することによって適合性を決定することもできる。そのような試験のためにいくつもの動物モデルが利用可能である。例えば、予冷したアルミニウム棒を左心室前壁の表面と接触させて置くことによって心臓に低温傷害を与える(cryoinjure)ことができる(Murryら、J.Clin.Invest.98:2209、1996;Reineckeら、Circulation 100:193、1999;U.S.Pat.No.6,099,832)。より大きな動物では、液体N
2中で冷却した30〜50mmの銅の円板プローブを左心室の前壁におよそ20分置くことによって低温傷害を与えることができる(Chiuら、Ann.Thorac.Surg.60:12、1995)。左側の主要な冠状動脈を結紮することによって梗塞を誘導することができる(Liら、J.Clin.Invest.100:1991、1997)。傷害部位を本発明の細胞調製物で処理し、心臓組織を、損傷を受けた領域内の細胞の存在について組織学的検査によって検査する。左心室の拡張終期の圧力、発生圧力、圧力上昇率、圧力減衰率などのパラメータを決定することによって心臓の機能をモニタリングすることができる。
【0042】
「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」、「治療する(treat)」などの用語は、本明細書では、一般に、所望の薬理的効果および/または生理的効果を得ることを指すために使用される。効果は、疾患またはその症候を完全にまたは部分的に予防するという観点で予防的であってよく、かつ/または、疾患および/または疾患に起因する有害作用の部分的なまたは完全な安定化または治癒という観点で治療的であってよい。「治療(treatment)」とは、本明細書で使用される場合、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患または症候の素因がある可能性があるが今のところはまだそれを有すると診断されていない対象において疾患または症候が起こることを予防すること、(b)疾患の症候を抑制する、すなわち、その発生を阻止すること、または(c)疾患の症候を軽減する、すなわち、疾患または症候の退縮を引き起こすことを包含する。
【0043】
「個体」、「対象」、「宿主」および「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、診断、治療、または療法が望まれる任意の哺乳動物の対象、特にヒトを指す。
【0044】
本発明の方法
上記の通り心疾患に関連する突然変異をコードする少なくとも1つの対立遺伝子を含むヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化させた疾患関連心筋細胞のin vitroにおける細胞培養物を獲得し、使用するための方法が提供される。対象の特定の突然変異としては、限定することなく、MYH7 R663H突然変異、TNNT2 R173W;PKP2 2013delC突然変異;PKP2 Q617X突然変異;およびKCNQ1 G269Sミスセンス突然変異が挙げられる。いくつかの実施形態では、そのような心筋細胞のパネルが提供され、パネルは、2つ以上の異なる疾患関連心筋細胞を含む。いくつかの実施形態では、そのような心筋細胞のパネルが提供され、心筋細胞は複数の候補作用剤、または複数の用量の候補作用剤に供される。候補作用剤としては、対象のRNAの発現を増加または減少させる小分子、すなわち、薬物、遺伝子構築物、電気的変化などが挙げられる。
【0045】
疾患関連心筋細胞に対する候補作用剤の活性を決定するための方法であって、候補作用剤を、心疾患に関連する突然変異をコードする少なくとも1つの対立遺伝子を含むヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化させた心筋細胞の1つまたはパネルと接触させるステップと、これだけに限定することなく、カルシウムトランジェントの振幅、細胞内のCa
2+レベル、細胞サイズ収縮力(contractile force)発生、拍動数、筋節α−アクチニン分布、および遺伝子発現プロファイリングを含めた、作用剤の形態学的、遺伝学的または機能的なパラメータに対する効果を決定するステップとを含む方法が提供される。
【0046】
疾患がDCMである場合、心筋細胞を、候補作用剤と接触させる前、その間、またはその後にβ−アドレナリン作動性アゴニストなどの陽性変力ストレスを用いて刺激することができる。いくつかの実施形態では、β−アドレナリン作動性アゴニストはノルエピネフリンである。本明細書では、DMC心筋細胞は陽性変力ストレスに応答して、最初に陽性であり、後で、不全の特性、例えば、拍動数が減少すること、収縮が弱まること、および異常な筋節α−アクチニン分布を有する細胞が有意に多いことなどを伴って陰性になる変時作用を有することが示されている。β−アドレナリン作動性遮断薬処理および筋小胞体Ca
2+ATPアーゼ(Serca2a)の過剰発現により、機能が改善される。DCM心筋細胞は、例えば、表8に示されている心臓発生を促進する因子、インテグリンおよび細胞骨格シグナル伝達、ならびにユビキチン化経路を含めた経路における遺伝性作用剤を用いて試験することもできる。対照である同じ家族コホート内の健康な個体と比較して、DCM心筋細胞はカルシウムトランジェントの振幅の減少、収縮性の低下、および異常な筋節α−アクチニン分布を示す。
【0047】
疾患がHCMである場合、心筋細胞を、候補作用剤と接触させる前、その間、またはその後にβ−アドレナリン作動性アゴニストなどの陽性変力ストレスを用いて刺激することができる。そのような状態の下では、HCM心筋細胞は、より高い肥大応答を示し、これは、β−アドレナリン作動性遮断薬によって逆転させることができる。健康な個体と比較して、HCM心筋細胞は、細胞サイズの増大およびHCM関連遺伝子の上方制御、ならびに、二次的な未成熟のトランジェントを特徴とする高発生頻度の異常なCa
2+トランジェントを含めた、未成熟の拍動を特徴とする収縮の不規則性を示す。これらの心筋細胞の細胞内Ca
2+レベルは上昇しており、いくつかの実施形態では、候補作用剤はカルシニューリンまたは他のカルシウム親和性に関連する標的を標的とする。
【0048】
小分子についてのスクリーニングアッセイでは、候補作用剤を培養物中の細胞に添加することの効果を、細胞のパネルおよび細胞環境を用いて試験し、細胞環境は、イオン性、薬物刺激などの変更を含めた電気刺激の1つまたは複数を含み、細胞のパネルは、遺伝子型、対象の環境への事前の曝露、提供される作用剤の用量などが変動してよく、通常、少なくとも1つの対照、例えば、陰性対照および陽性対照が包含される。細胞の培養は、一般には、滅菌環境、例えば、加湿した92〜95%の空気/5〜8%のCO
2雰囲気を含有するインキュベーター内、37℃で実施される。細胞培養は、ウシ胎仔血清などの未定義の生体液を含有する栄養混合物、または完全に定義された血清を含まない培地で行うことができる。環境を変更することの影響を、形態学的変化、機能的変化および遺伝学的変化を含めた多数の出力パラメータをモニタリングすることによって評価する。
【0049】
遺伝性作用剤についてのスクリーニングアッセイでは、細胞の遺伝組成を変更するために、パネル内の細胞の1つまたは複数にポリヌクレオチドを添加する。出力パラメータをモニタリングして、表現型に変化があるかどうかを決定する。このように、対象の経路内のタンパク質をコードするまたはその発現に影響を及ぼす遺伝子配列を同定する。結果をデータプロセッサに入力して、スクリーニング結果のデータセットをもたらすことができる。異なる条件下で得られたスクリーニング結果を比較し、分析するためにアルゴリズムが使用される。
【0050】
分析するための方法としては、細胞に適切な色素をローディングし、対象の状態でカルシウムに曝露させ、例えば共焦点顕微鏡を用いて画像化するカルシウムイメージングが挙げられる。Ca
2+応答を数量化することができ、次いで、時間依存性Ca
2+応答を、連続的なCa
2+トランジェントのタイミングの不規則性について、およびトランジェント当たりの総Ca
2+流入について分析した。各トランジェントの間に放出された総Ca
2+を、各波の下の面積をベースラインについて積分することによって決定した。
【0051】
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、収縮力(contractile force)を測定することができる。拍動細胞を、カンチレバーを使用したAFMによって調べる。力を測定するために、細胞にカンチレバーの先端を穏やかに接触させ、次いで、カンチレバーの先端を、ふれのデータが収集される間の間隔にわたってその位置のままにする。各細胞について、力、拍動間の間隔、および各収縮の持続時間に関する統計値を算出することができる。
【0052】
細胞は、拍動心筋細胞をMEAプローブ上にプレーティングし、電場電位持続時間(FPD)を測定し、決定して電気生理学的パラメータをもたらす微小電極アレイ(MEA)によって分析することもできる。
【0053】
単一細胞レベルで分析する方法、例えば、上記の原子間力顕微鏡、微小電極アレイ記録、パッチクランプ、単一細胞PCR、カルシウムイメージング、フローサイトメトリーなどが特に興味深い。
【0054】
パラメータは細胞の数量化できる構成成分、特に、望ましくはハイスループットシステムで正確に測定することができる構成成分である。パラメータは、細胞表面決定因子、受容体、タンパク質またはそのコンフォメーションの修飾もしくは翻訳後修飾、脂質、炭水化物、有機分子もしくは無機分子、核酸、例えば、mRNA、DNAなど、またはそのような細胞構成成分に由来する部分またはそれらの組合せを含めた任意の細胞構成成分または細胞産物であってもよい。大多数のパラメータにより定量的な読み取りがもたらされるが、いくつかの場合には、半定量的な結果または定性的な結果が許容される。読み取りは、単一の決定値を含んでもよく、平均値、中央値または分散などを含んでもよい。変動性が予測され、試験パラメータの設定のそれぞれについての値の範囲は、単一の値をもたらすために用いられる一般的な統計学的方法を用いる標準の統計学的方法を用いて得られる。
【0055】
対象のパラメータは、細胞質の、細胞表面の、または分泌される生体分子、しばしば、バイオポリマー、例えば、ポリペプチド、多糖、ポリヌクレオチド、脂質などの検出を含む。細胞表面分子および分泌される分子は、細胞伝達および細胞エフェクター応答を媒介し、また、より容易にアッセイすることができるので、好ましいパラメータの種類である。一実施形態では、パラメータは特異的なエピトープを含む。エピトープは、しばしば特異的なモノクローナル抗体または受容体プローブを使用して同定される。いくつかの場合には、エピトープを含む分子実体は、2つ以上の物質由来であり、定義済みの構造を含む。例としては、組み合わせで決定された、ヘテロ二量体インテグリンと会合したエピトープが挙げられる。パラメータは、特異的に修飾されたタンパク質またはオリゴ糖の検出であってよい。パラメータは、特異的なモノクローナル抗体またはリガンドもしくは受容体結合決定因子によって定義することができる。
【0056】
対象の候補作用剤は、多数の化学的クラス、主に、有機金属分子を含んでよい有機分子、無機分子、遺伝子配列などを包含する生物学的に活性な作用剤である。本発明の重要な態様は、候補薬物を評価すること、好ましい生物学的応答機能を有する治療用抗体およびタンパク質に基づく治療薬を選択することである。候補作用剤は、タンパク質との構造的な相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、一般には、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基、しばしば、官能性化学基の少なくとも2つを含む。候補作用剤は、多くの場合、上記の官能基の1つまたは複数で置換された環式炭素構造もしくは複素環式構造および/または芳香族構造または多芳香族構造を含む。候補作用剤は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組合せを含めた生体分子の中にも見いだされる。
【0057】
薬理活性のある薬物、遺伝的活性のある分子などが包含される。対象の化合物としては、化学療法剤、抗炎症性作用剤、ホルモンまたはホルモンアンタゴニスト、イオンチャネル修飾因子、および向神経活性剤が挙げられる。本発明のために適した医薬品の例は、全て参照により本明細書に組み込まれる、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、GoodmanおよびGilman、McGraw−Hill、New York、New York、(1996年)、第9版、節:Drugs Acting at Synaptic and Neuroeffector Junctional Sites;Cardiovascular Drugs;Vitamins、Dermatology;およびToxicologyに記載のものである。
【0058】
試験化合物は上記の分子のクラスの全てを含み、含有量が分からない試料をさらに含んでよい。植物などの天然の供給源に由来する天然に存在する化合物の複合混合物が対象である。多くの試料は、溶液の状態の化合物を含むが、適切な溶媒に溶解させることができる固体試料もアッセイすることができる。対象の試料としては、環境試料、例えば、地下水、海水、採鉱廃棄物など;生体試料、例えば、作物、組織試料から調製した溶解物など;製造的試料、例えば、医薬品を調製する間の時間経過;ならびに分析のために調製した化合物のライブラリーなどが挙げられる。対象の試料は、潜在的な治療的価値について評価されている化合物、すなわち、薬物候補を含む。
【0059】
試料という用語は、追加的な構成成分、例えば、イオン強度、pH、総タンパク質濃度などに影響を及ぼす構成成分が添加されている上記の流体も包含する。さらに、試料を処理して少なくとも部分的な分画または濃縮を実現することができる。生体試料は、化合物の分解を減少させる注意が払われれば、例えば、窒素の下で、凍結させて、またはそれらの組合せにおいて保管することができる。使用する試料の体積は、測定可能な検出を可能にするために十分なものであり、通常、約0.1ml〜1mlの生体試料で十分である。
【0060】
候補作用剤を含めた化合物は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含めた多種多様な供給源から得られる。例えば、無作為化したオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含めた、生体分子を含めた多種多様な有機化合物のランダムな合成および指向性合成のために多数の手段が利用可能である。あるいは、細菌抽出物、真菌抽出物、植物抽出物および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが利用可能である、または容易に産生される。さらに、天然の、または合成で産生したライブラリーおよび化合物は、従来の化学的手段、物理的手段および生化学的手段によって容易に改変され、また、これを用いてコンビナトリアルライブラリーを産生することができる。公知の薬理作用剤を、指向性のまたはランダムな化学的修飾、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化(amidification)などに供して、構造類似体を産生することができる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「遺伝性作用剤」という用語は、ポリヌクレオチドおよびその類似体を指し、本発明のスクリーニングアッセイにおいて遺伝性作用剤を細胞に添加することによって試験する。遺伝性作用剤を導入することにより、細胞の遺伝組成の全体が変更される。DNAなどの遺伝性作用剤により、一般に配列を染色体に組み込むことによって、細胞のゲノム内に変化を実験的に導入することができる。遺伝学的変化は一過性であってもよく、その場合、外因性の配列は組み込まれないが、エピソーム性作用剤として維持される。アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの遺伝性作用剤も、mRNAの転写または翻訳に干渉することによって、細胞の遺伝子型を変化させることなくタンパク質の発現に影響を及ぼし得る。遺伝性作用剤の効果は、細胞における1つまたは複数の遺伝子産物の発現を増加または減少させることである。
【0062】
ポリペプチドをコードする発現ベクターの導入を用いて、その配列を欠く細胞においてコード産物を発現させること、または産物を過剰発現させるができる。構成的である、または外部の調節に供されている種々のプロモーターを使用することができ、後者の状況では、遺伝子の転写をオンまたはオフにすることができる。これらのコード配列は、全長のcDNAまたはゲノムのクローン、それに由来する断片、または天然に存在する配列と他のコード配列の機能的ドメインもしくは構造的ドメインを組み合わせたキメラを含んでよい。あるいは、導入された配列は、アンチセンス配列をコードしてよく、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAiであってよく、ドミナントネガティブ突然変異、またはネイティブな配列の優性もしくは構成的に活性な突然変異、変更された調節配列などをコードしてよい。
【0063】
アンチセンスおよびRNAiオリゴヌクレオチドは、当技術分野で公知の方法によって化学的に合成することができる。好ましいオリゴヌクレオチドは、ネイティブなリン酸ジエステル構造から、それらの細胞内の安定性および結合親和性を増大させるために化学修飾される。いくつものそのような修飾が文献に記載されており、骨格、糖または複素環式塩基の化学的性質が変更されている。骨格化学の有用な変化としては、ホスホロチオエート;非架橋酸素の両方が硫黄で置換されたホスホロジチオエート;ホスホロアミダイト;アルキルホスホトリエステルおよびボラノホスフェートが挙げられる。アキラルリン酸誘導体としては、3’−O’−5’−S−ホスホロチオエート、3’−S−5’−O−ホスホロチオエート、3’−CH2−5’−O−ホスホン酸エステルおよび3’−NH−5’−O−ホスホロアミデートが挙げられる。ペプチド核酸でペプチド結合を伴うリボースリン酸ジエステル骨格全体を置き換える。安定性および親和性を増強するために糖修飾、例えば、モルホリノオリゴヌクレオチド類似体も用いられる。デオキシリボースの−アノマーも使用することができ、その場合、天然の−アノマーに対して塩基が反転している。リボース糖の2’−OHを変更して2’−O−メチル糖または2’−O−アリル糖を形成することができ、これにより、親和性を含まずに分解に対する抵抗性がもたらされる。
【0064】
作用剤を、1つまたは複数の環境条件において、例えば、β−アドレナリン作動性アゴニストを用いた刺激の後、電気的刺激または機械的刺激後などに、少なくとも1つの細胞、通常は複数の細胞に添加することによって、生物活性についてスクリーニングする。作用剤に応答したパラメータの読み取りの変化を測定し、望ましくは正規化し、次いで、得られたスクリーニング結果を参照スクリーニング結果と、例えば、他の対象の突然変異を有する細胞、正常な心筋細胞、他の家族員に由来する心筋細胞などと比較することによって評価することができる。参照スクリーニング結果は、異なる環境の変化、公知の薬物を含んでも含まなくてもよい他の作用剤を用いて得られたスクリーニング結果などの存在下、および不在下での読み取りを含んでよい。
【0065】
作用剤は、溶液、または易溶性の形態で、培養中の細胞の培地に都合よく添加される。作用剤は、別の静的な溶液に、フロースルーシステムにおいて断続的または継続的な流れとして添加すること、あるいは、化合物のボーラスとして、単独でまたは増加的に添加することができる。フロースルーシステムでは、2つの流体を用い、一方は生理的に中性の溶液であり、他方は加える試験化合物と同じ溶液である。第1の流体が細胞を通過し、その後第2の流体が通過する。単一溶液法では、試験化合物のボーラスを、細胞を取り囲む培地の体積に添加する。培養培地の構成成分の全体的な濃度は、ボーラスを添加することにより、またはフロースルー法における2つの溶液間で有意に変化しないべきである。
【0066】
好ましい作用剤の製剤は、製剤全体に対する有意な影響を有する可能性がある防腐剤などの追加的な構成成分を含まない。したがって、好ましい製剤は、生物活性のある化合物、および生理的に許容される担体、例えば、水、エタノール、DMSOなどから本質的になる。しかし、化合物が溶媒を伴わない液体である場合、製剤は、化合物自体から本質的になる。
【0067】
種々の作用剤濃度を用いて複数のアッセイを並行して実行して、さまざまな濃度に対する示差的な反応を得ることができる。当技術分野で公知の通り、作用剤の有効濃度の決定には、一般には、1:10、または他の対数尺度、希釈度によって生じる種々の濃度範囲を用いる。濃度は、必要であれば、第2の一連の希釈によってさらに精密にすることができる。一般には、これらの濃度のうちの1つが陰性対照としての機能を果たす、すなわち、ゼロ濃度にある、または作用剤の検出のレベルを下回る、または表現型に検出可能な変化を生じさせない作用剤の濃度のレベル以下である。
【0068】
上記の機能的なパラメータに加えて選択されたパラメータの存在を数量化するために、種々の方法を利用することができる。存在する分子の量を測定するための都合のよい方法は、分子を、蛍光、発光、放射性、酵素活性などであってよい検出可能部分、特に高親和性を有するパラメータに特異的に結合する分子を用いて標識することである。実質的に任意の生体分子、構造、または細胞型を標識するための蛍光部分が容易に入手可能である。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質だけでなく、特定のコンフォメーション、切断産物、またはリン酸化のような部位修飾にも結合するようにすることができる。個々のペプチドおよびタンパク質を、例えば、細胞の内側で緑色蛍光タンパク質キメラとして発現させることによって、自己蛍光を発するように操作することができる(概説について、Jonesら(1999)Trends Biotechnol.17(12):477−81を参照されたい)。したがって、抗体を、それらの構造の一部として蛍光色素をもたらすように遺伝子改変することができる。
【0069】
選択した標識に応じて、蛍光標識以外を使用し、放射免疫測定法(RIA)または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、均一系酵素免疫測定法、および関連する非酵素的技法などの免疫測定技法を用いてパラメータを測定することができる。これらの技法では、レポーター分子として特異的抗体を利用し、これは、単一の分子標的を付着させるための特異性の程度が高いので、特に有用である。米国特許第4,568,649号には、シンチレーション測定を用いたリガンド検出システムが記載されている。これらの技法は、タンパク質もしくは修飾されたタンパク質パラメータもしくはエピトープ、または炭水化物決定因子に対して特に有用である。タンパク質および他の細胞決定因子についての細胞の読み取りは、蛍光または他のやり方でタグを付けたレポーター分子を使用して得ることができる。細胞に基づくELISAまたは関連する非酵素的方法または蛍光に基づく方法により、細胞表面パラメータおよび分泌されたパラメータを測定することが可能になる。捕捉ELISAおよび関連する非酵素的な方法では、通常、2つの特異的抗体またはレポーター分子を使用し、この方法は溶液中のパラメータを測定するために有用である。フローサイトメトリー法は、細胞表面および細胞内のパラメータ、ならびに形状の変化および粒度を測定するため、および抗体連結試薬またはプローブ連結試薬として使用するビーズを分析するために有用である。そのようなアッセイからの読み取りは、個々の蛍光抗体により検出された細胞表面分子またはサイトカインと関連づけられる平均蛍光、または蛍光強度のアベレージ、蛍光強度の中央値、蛍光強度の分散、またはこれらの間のいくつかの関係であってよい。
【0070】
定量的イメージングおよび蛍光および共焦点顕微鏡によって入力細胞型を同定し、パラメータを読み取る単一細胞多パラメータ多重アッセイおよび多細胞多パラメータ多重アッセイはどちらも当技術分野において使用されている。Confocal Microscopy Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology Vol.122.)Paddock編、Humana Press、1998を参照されたい。これらの方法は、1999年11月23日に発行された米国特許第5,989,833号に記載されている。
【0071】
核酸、特にメッセンジャーRNAの定量化も対象のパラメータである。これらは、核酸ヌクレオチドの配列に依存するハイブリダイゼーション技法によって測定することができる。技法は、ポリメラーゼ連鎖反応法ならびに遺伝子アレイ技法を含む。例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley&Sons、New York、NY、2000;Freemanら(1999)Biotechniques 26(1):112−225;Kawamotoら(1999)Genome Res 9(12):1305−12;およびChenら(1998)Genomics 51(3):313−24を参照されたい。
【0072】
試験化合物から得られたスクリーニング結果と参照スクリーニング結果(複数可)との比較は、適切な演繹プロトコール、AIシステム、統計比較などを用いることによって実現される。スクリーニング結果を参照スクリーニング結果のデータベースと比較することが好ましい。参照スクリーニング結果のデータベースはコンパイルすることができる。これらのデータベースは、公知の作用剤または作用剤の組合せを含むパネルからの参照結果、ならびに単一のもしくは多数の環境条件またはパラメータを除去または特異的に変更した環境条件下で処理した細胞の分析からの参照を含んでよい。参照結果は、特定の細胞の経路を選択的に標的とするまたは調節する遺伝子構築物を有する細胞を含有するパネルから生成することもできる。
【0073】
読み取りは、平均、アベレージ、中央値もしくは分散または他の測定値に関連する統計学的または数学的に導かれた値であってよい。パラメータの読み取り情報は、対応する参照読み取りと直接比較することによってさらに精密にすることができる。各パラメータについて同一の条件下で得られる絶対値は、生きている生物系に固有の変動性を示し、個々の細胞の変動性ならびに個体間に固有の変動性も反映する。
【0074】
便宜上、本発明のシステムは、キットに入れて提供することができる。キットは、生存能力を維持するために凍結、冷蔵、またはいくつかの他の様式で処理されていてよい、使用するための細胞と、パラメータを測定するための試薬と、スクリーニング結果を作成するためのソフトウェアとを含んでよい。ソフトウェアで結果を受け取り、分析を実施し、また、ソフトウェアは参照データを含んでよい。ソフトウェアにより、対照培養物からの結果を用いて結果を正規化することもできる。組成物は、場合によって、適切な容器内に、例えばスクリーニング方法などの所望の目的のための使用説明書と一緒に包装されていてよい。
【0075】
本発明の実施において有用な一般的な技法をさらに綿密なものにするために、実践者は、細胞生物学、組織培養、発生学、および心臓生理学(Cardiophysiology)における標準の教本および概説を参照することができる。組織培養および胚性幹細胞に関して、読者は、Teratocarcinomas and embryonic stem cells:A practical approach(E.J.Robertson編、IRL Press Ltd.1987);Guide to Techniques in Mouse Development(P.M.Wassermanら編、Academic Press 1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro(M.V.Wiles、Meth.Enzymol.225:900、1993);Properties and uses of Embryonic Stem Cells:Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy(P.D.Rathjenら、Reprod.Fertil.Dev.10:31、1998)を参照することを希望することができる。心臓細胞の培養に関しては、標準の参照として、The Heart Cell in Culture(A.Pinson編、CRC Press 1987)、Isolated Adult Cardiomyocytes(Vols.I&II、Piper&Isenberg編、CRC Press 1989)、Heart Development(Harvey&Rosenthal、Academic Press 1998)が挙げられる。
【0076】
分子細胞生物学の一般的な方法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版(Sambrookら、Harbor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology、第4版(Ausubelら編、John Wiley&Sons 1999);Protein Methods(Bollagら、John Wiley&Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagnerら編、Academic Press 1999);Viral Vectors(Kaplift&Loewy編、Academic Press 1995);Immunology Methods Manual(I.Lefkovits編、Academic Press 1997);およびCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle&Griffiths、John Wiley&Sons 1998)などの標準の教本に見いだすことができる。本開示において参照している遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma−Aldrich、およびClonTechなどの民間のベンダーから入手可能である。
【0077】
本明細書において引用されている刊行物はそれぞれ、あらゆる目的についてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
本発明は、記載されている特定の方法体系、プロトコール、細胞株、動物種または属、および試薬に限定されず、そういうものとして、変動し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないことも理解されるべきである。
【0079】
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの)」、「and(および)」、および「the(その)」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の指示対象を包含する。したがって、例えば、「a(1つの)細胞」への言及は、複数のそのような細胞を包含し、「the(その)培養物」への言及は、1つまたは複数の培養物および当業者に公知のその等価物への言及を包含するなどである。本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、別段の明確な指示がなければ、本発明が属する当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0080】
以下の実施例は、本発明をどのように行い、使用するかについての完全な開示および記載を当業者に提供するために提示され、発明者らがその発明とみなすものの範囲を限定するものでも、以下の実験が、実施した全ての実験または唯一の実験であることを示すものでもない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確さを確実にするための試みが行われているが、いくらかの実験的な誤差および偏差が考慮されるべきである。別段の指定のない限り、部分は重量による部分であり、分子量は重量アベレージ分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は、大気または大気付近の圧力である。
【実施例1】
【0081】
拡張型心筋症(DCM)は、心室拡張、収縮機能不全、および進行性心不全を特徴とする最も一般的な心筋症である。DCMは、心臓移植に至り、また世界的な健康管理に相当な負担をかけている最も一般的な診断である。本発明では、筋節タンパク質心筋トロポニンTをコードする遺伝子に点突然変異(R173W)を有するDCM家族の患者に由来するiPSCから心筋細胞(CM)を生成した。対照である同じ家族コホート内の健康な個体と比較して、DCM iPSC−CMは、カルシウムトランジェントの振幅の減少、収縮性の低下、および異常な筋節α−アクチニン分布を示した。β−アドレナリン作動性アゴニストを用いて刺激したところ、DCM iPSC−CMは、不全の特性、例えば、拍動数が減少すること、収縮が弱まること、および異常な筋節α−アクチニン分布を有する細胞が有意に多いことなどを示した。β−アドレナリン作動性遮断薬処理および筋小胞体Ca
2+ATPアーゼ(Serca2a)の過剰発現により、DCM iPSC−CMの機能が改善された。我々の試験により、ヒトDCM iPSC−CMが疾患表現型を形態学的かつ機能的に再現し、したがって、分子および細胞機構を探索するため、およびこの特定の疾患の治療を最適化するための有用なプラットフォームとしての機能を果たし得ることが実証された。
【0082】
タンパク質cTnTの173位のアミノ酸のアルギニン(R)からトリプトファン(W)への突然変異を引き起こす、遺伝子TNNT2のエクソン12における常染色体優性の点突然変異を有するDCM発端者からの7個体のコホートを採用した。この特定の点突然変異のDCMに対する因果効果を、17種の主要なDCM関連遺伝子のパネルの遺伝学的スクリーニング(表1)および遺伝子同時分離試験(表2)によって確認した。この突然変異は、完全に無関係のベルギー人の家族においても報告された。採用された7個体は3世代(I、II、およびIII)を包含した(
図1a)。4人の患者(Ia、IIa、IIb、およびIlIa)では、TNNT2のゲノムの遺伝子座をPCRで増幅し、DNA配列決定することによって2つの対立遺伝子のうちの1つにTNNT2 R173W突然変異を有することが確認されたが、他の3個体(Ib、IIc、およびIIIb)は正常であることが確認され、その後の試験において対照としての機能を果たした(
図1b)。特異的なR173W突然変異を有する4人の患者全員で左心室の拡張および駆出率の低下を伴う臨床的なDCMの症候が顕在化し、医学的に処置した(表2)。14歳の疾患患者(IIIa)は臨床症候が重度であったので、同所性心臓移植を行った。最新のDCM関連遺伝子32種のパネルを用いてこの特定の患者IIIaについてエキソーム配列決定することによるさらなる遺伝学的スクリーニングでは、疾患に関連づけられる任意の他の追加的な変異体は見いだされなかった(表3)。
【0083】
7個体について患者特異的iPSCを生成するために、各個体から取得した皮膚生検材料から皮膚線維芽細胞を増大させ(
図1c)、フィーダーフリー条件下で4種のレンチウイルス山中因子(Oct4、Sox2、Klf4、およびc−MYC)を用いて再プログラミングさせた。TRA−1−60
+染色およびヒト胚性幹細胞(hESC)様形態を有するコロニー(
図1dおよび1e)を選び取り、増大させ、個々のiPSC株として樹立した。その後の分析のために、各個体について3つ〜4つのiPSC株を樹立した。ゲノムPCRおよびDNA配列決定により、DCM iPSC株の全てが特異的なR173W突然変異を含有することが確認された(
図5)。樹立iPSC株の全てが多能性マーカーであるOct4、Nanog、TRA−1−81、およびSSEA−4を発現し、アルカリホスファターゼに対して陽性であった(
図1f)。マイクロアレイ分析により、これらのiPSC株が親の皮膚線維芽細胞とは別個であり、よりhESCと類似した全体的な遺伝子パターンを発現していることが示された(
図6)。定量的バイサルファイトシークエンシングにより、試験したiPSC株の全てにおいてOct4およびNanogのプロモーター領域が低メチル化状態であることが示され、これは、多能性遺伝子の転写が活性であることを示している(
図1g)。樹立iPSC株は延長した継代後に正常な核型を維持し(
図7)、その大多数が外因性導入遺伝子のサイレンシングおよび内在性Nanogの再発現を示した(
図8)。導入遺伝子サイレンシングが不完全なiPSC株はその後の試験から除いた。これらの患者特異的iPSCはin vitroにおいて3つの胚葉全ての細胞に分化することができ(
図9)、免疫不全マウスの腎臓被膜に注射されると奇形腫を形成できた(
図1h)。
【0084】
次に、Yang,Lら、Human cardiovascular progenitor cells develop from a KDR+ embryonic−stem−cell−derived population. Nature 453、524−528(2008)によって開発された、十分に確立された3D分化プロトコールを用いてDCM iPSCを心血管系列に分化させた。自然発生拍動胚様体(EB)に分化させるために各個体から2つのiPSC株を選択した。早ければ分化後8日目に自然発生拍動が観察された。心臓系列への分化の効率は異なる株の間で変動した(
図10)。対照iPSCおよび患者iPSCに由来する拍動EBはおよそ50〜60%のcTnT陽性CMを含有した(
図11)。3人のDCM患者の3つのiPSCクローンに由来する拍動EBの対立遺伝子特異的PCRにより、野生型TNNT2遺伝子および突然変異体(R173W)TNNT2遺伝子の二対立遺伝子の発現が示された(
図12)。対照iPSC由来の拍動EBおよびDCM iPSC由来の拍動EBを多電極アレイ(MEA)プローブ上に播種し(
図13a)、それらの電気生理学的性質を記録した(
図13b)。対照iPSC由来の拍動EB(n=45)およびDCM iPSC由来の拍動EB(n=57)はどちらも、ベースラインにおいて匹敵する拍動頻度、電場電位、スパイク間の間隔、および電場電位持続時間(FPD)を示した(表4および
図13c)。
【0085】
次に、さらに分析するために、拍動EBを小さな拍動クラスターおよび単一の拍動CMに解離させた。対照iPSC−CM(n=24)およびDCM iPSC−CM(n=24)に対するマイクロフルイディクス技術を用いた単一細胞PCR分析により、選択された心臓関連転写因子、筋節タンパク質、およびイオンチャネルの遺伝子発現に有意差はないことが示された(
図14)。次に、iPSC−CMにおける筋原線維の組織化を免疫細胞化学によって評価した。対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMはどちらも筋節タンパク質cTnT、筋節α−アクチニン、およびミオシン軽鎖2a(MLC2a)、ならびに心臓のマーカーギャップ結合タンパク質コネキシン43(
図15)を発現した。しかし、分化後30日目において、対照iPSC−CM(n=368)と比較して有意に高い百分率のDCM iPSC−CM(n=391)が細胞の総面積の4分の1にわたる筋節α−アクチニンの点状の分布を示した(p=0.008)(
図2a、2bおよび
図16)。この段階で対照iPSC−CMとDCM iPSC−CMとの間で細胞サイズに有意差はなかった(
図2c)。この表現型は、それぞれ4人のDCM患者に由来する2つの異なるDCM iPSC株において一貫して観察されており、これにより、疾患を引き起こすR173W突然変異との相関が均一であることが示唆されている。特に、点状の筋節α−アクチニン分布を有するCMの大多数は単一細胞または拍動クラスターの周辺にある細胞であった。筋節α−アクチニンは、筋節の完全性および変性に対する優れたマーカーである。これらの結果により、個々のDCM iPSC−CMが筋節の完全性の維持において機能不良である傾向が強いことも示唆されている。
【0086】
陽性変力ストレスにより、DCMのトランスジェニックマウスモデルにおいてDCM表現型を誘導し、臨床患者において疾患を悪化させることができる。次に、β−アドレナリン作動性アゴニストなどの陽性変力試薬を用いた処理によって、DCM iPSC−CMの表現型の応答を迅速にすることができるかどうかを検査した。実際に、MEA記録に反映された通り、DCM iPSC由来の拍動EB(n=14)では、10μMのノルエピネフリン(NE)処理により最初の陽性変時作用が誘導され、その後陰性になり、最終的に自発性収縮の不全に至った。対照的に、対照iPSC由来の拍動EB(n=14)は、持続性の陽性変時活性を示した(
図2d)。1週間のNE処理により、DCM iPSCクローン由来の点状の筋節α−アクチニン分布を有するCMの数が著しく増加し、DCM iPSC−CMのほぼ90%が、組織化が乱れた筋節のパターンを有することが見いだされた(
図2f、2g、
図17および18)。数個の単一のDCM iPSC−CMが、持続したNE処理後に、対照細胞では観察されなかった筋フィラメントの完全な変性を示した。NEを用いて処理した対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMの両方の個々の拍動クラスターのビデオ画像を用いて経時的に追跡することにより、別個の転帰が示された。DCM iPSC−CMでは変力活性および変時活性の低下が観察されたが、対照iPSC−CMでは観察されなかった(
図2e、2h)。単一細胞PCR分析により、DCM iPSC−CM(n=16)と対照iPSC−CM(n=16)のNE処理後の別個の遺伝子発現の変化も明らかになった(
図19)。これらの結果により、β−アドレナリン作動性の刺激により、DCM iPSC−CMの表現型が悪化することが示された。
【0087】
CM収縮は、膜活動電位(AP)に反映される通り、筋細胞の電気的興奮から開始される。DCMの可能性のある基礎をなす機構を調査するために、cTnTにおけるDCMに関連づけられるR173W突然変異がCMの電気的興奮に影響を及ぼすかどうかを評価した。解離させた単一の拍動iPSC−CMの電気的活性をパッチクランプによって検査した。対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMのどちらにおいても3種類の自然発生AP(心室様、心房様、およびnodal様)が観察された(
図20a)。DCM心室筋細胞(n=17)は対照(n=18)と同程度の正常なAPを示した(
図20b)。DCM iPSC−CMの90%再分極(APD90)における活動電位持続時間のアベレージは、対照iPSC−CMにおいて見られたものと有意に異ならなかった(
図20c)。AP発生頻度のアベレージ、ピーク振幅、および静止電位も2つの群間で非常に類似していた(
図20d、20e、および20f)。これらの結果により、ベースラインにおける対照iPSC−CMおよびDCM iPSC−CMの電気的興奮活性は正常であったことが示された。
【0088】
基礎をなすDCM疾患機構をさらに調査するために、蛍光Ca
2+イメージングによってCa
2+ハンドリング性を興奮−収縮カップリングレベルで測定した。DCM iPSC−CM(n=40)は、対照iPSC−CM(n=87)のものに匹敵する全体的な[Ca
2+]
iトランジェントの律動的な頻度、タイミング、および振幅を示した(
図3a、3b、3c、3e、および3f)。しかし、DCM iPSC−CMは、対照iPSC−CMのものと比較して有意に小さい[Ca
2+]
iトランジェントの振幅を示し(p=0.002)(
図3d)、これは、DCM iPSC−CMの各収縮に利用可能な[Ca
2+]
iが有意に少なかったことを示している。CMの小さな[Ca
2+]
iトランジェントは検査した4人のDCM患者に由来するDCM iPSC株の全てにおいて一貫して観察され、これにより、DCM iPSC−CMにおける力発生が弱いことが示唆されている。
【0089】
収縮力(contractile force)発生の欠乏は、誘導性DCMおよび心不全に関与する最も重要な機構の1つである。次に、これをさらに調査するために、培養したニワトリ胚CMを測定するために使用した原子間力顕微鏡(AFM)を使用してiPSC−CMの収縮力を測定した。AFMにより、収縮性を単一細胞レベルで探索することが可能になった(
図21)。単一の対照iPSC−CM(n=13)と比較して、DCM iPSC−CM(n=17)は同様の拍動頻度および持続時間を示したが、収縮力は有意に弱かった(
図4c、4d、
図22、および表5)。AFMによって測定された各単一細胞の細胞サイズと収縮力との間に相関はなかった(
図23)。
【0090】
先の試験により、前臨床試験において調査した処理であるSerca2aの過剰発現により、動物モデルにおいて細胞内のCa
2+が動員され、不全のヒト心臓における心筋細胞の収縮性が回復し、不全の心臓機能が改善されたことが示された。DCM iPSC−CMではCa
2+トランジェントが小さく、収縮性が弱まることを示す我々の結果を考慮して、Serca2aの過剰発現により、DCM iPSC−CMの表現型を救済することができると仮説を立てた。Serca2aとGFPを同時発現しているアデノウイルス(Ad.Seca2a)(方法の節を参照されたい)を感染多重度(MOI)100で用いてDCM iPSC−CMに形質導入することにより、これらの細胞においてSerca2aの過剰発現が導かれた(
図4a)。GFPのみを有するアデノウイルス(Ad.GFP)を用いて形質導入したDCM iPSC−CMと比較して(MOI100)、Serca2aの過剰発現により、in vitroにおいて経時的に、より多数の自発性収縮巣がもたらされた(
図24)。Serca2aとGFPを同時発現により、形質導入された細胞を認識し、収縮力(contractile force)をAFMによって測定することが可能になった(
図4b)。Serca2aの過剰発現(n=12)により、単一のDCM iPSC−CMの収縮力(contractile force)が対照iPSC−CMにおいて見られるものと同様のレベルまで回復したが(
図4c、4d、および表5)、筋節の組織化は改善されなかった(
図4g)。赤色蛍光Ca
2+指標であるRhod−2AMを使用したカルシウムイメージング(
図25)により、GFPを同時発現しているAd.Serca2aを用いて形質導入されたDCM iPSC−CM(n=22)の全体的な[Ca
2+]
iトランジェントが、Ad.GFPのみを用いて形質導入した細胞(n=14)と比較して有意に増加したことが示され(
図4eおよび4f)(p=0.04)、これは、力発生が回復したことと一致する。対照的に、対照iPSC−CMにおけるSerca2aの過剰発現では、収縮性に統計的に有意な増加を生じることはできず(
図26)、これにより、対照iPSC−CMとDCM iPSC−CMとの間にカルシウムハンドリングの天然の差異があることが示唆されている。総じて、これらの結果により、Serca2aの過剰発現により、DCM iPSC−CMの[Ca
2+]
iトランジェントおよび収縮力が増加し、それらの機能が改善されたことが示された。
【0091】
Serca2a遺伝子療法は現在臨床試験中であるが、Serca2a遺伝子療法後の個々のCM細胞の応答の全体的な機構は以前に広範囲にわたって試験されている。したがって、Serca2a送達によりDCM iPSC−CMにおける欠陥が回復する機構の調査について説明する。Serca2aの過剰発現後のDCM iPSC−CMの遺伝子発現プロファイリングにより、191遺伝子(65遺伝子が上方制御され、126遺伝子が下方制御された)が1.5倍を超える発現の変化を有し、対照iPSC−CMにおける発現レベルと同様の発現レベルまで救済されたことが示された(
図27a)。濃縮経路分析により、カルシウムシグナル伝達、プロテインキナーゼAシグナル伝達、およびG−タンパク質共役受容体シグナル伝達などのいくつかの以前から公知の経路がSerca2aの過剰発現によるDCM表現型の救済に有意に関与することが示された。興味深いことに、心臓発生を促進する因子、インテグリンおよび細胞骨格シグナル伝達、ならびにユビキチン化経路を含めた以前はDCMと関連づけられていなかったいくつかの経路もDCM CM機能の救済に関与することが見いだされた(
図27bおよび表7)。
【0092】
臨床試験により、β1選択的β−アドレナリン作動性遮断薬であるメトプロロールが、DCM患者の臨床症候および血行動態の状態に対する有益な効果を有することが示された。10μMのメトプロロールで処理したところ、筋節α−アクチニン染色によって示される通り、DCM iPSC−CMは筋節の組織化の改善を示した(
図28a)。メトプロロール処理により、NE処理によって誘導されるDCM iPSC−CMの増悪も予防された(
図28b)。メトプロロールで処理した対照iPSC−CMでは筋節α−アクチニン分布に対する有意な効果は観察されなかった(
図28c)。これらの結果は、β−アドレナリン作動性経路の遮断が、DCM iPSC−CMの機械的劣化に対する抵抗に役立ったことを示唆している。
【0093】
要約すると、筋節タンパク質cTnTに単一の点突然変異を有するDCM家族由来の患者特異的iPSCおよびこれらのiPSC由来の誘導CMを生成した。これにより、多数のDCM特異的CMを生成すること、およびそれらの機能的性質を分析し、基礎をなす疾患機構を探究し、有効な療法を試験することが可能になった(表8)。ベースラインのDCM iPSC−CMの電気生理学的活性は、対照のものと有意に異ならなかったが、DCM iPSC−CMは、有意に小さい[Ca
2+]
iトランジェントおよび収縮力(contractile force)の減少を示した。DCM iPSC−CMには機械的刺激に抵抗する能力が弱いことも伴った。筋節α−アクチニン染色に反映された通り、NE刺激により、それらの自発性収縮の休止が誘導され、筋節の組織化が著しく悪化した。このTNNT2 R173W突然変異は、CM機能にのみ影響を及ぼし、心血管系列由来の他の細胞には影響を及ぼさないと思われる(
図29)。総合すると、我々のデータにより、TNNT2 R173W突然変異により、CMの力発生に機能傷害が引き起こされ、これが患者におけるDCMの臨床的な表現型の最終的な出現の主要な理由である可能性があることが示された(
図30)。両方のβ−遮断薬であるメトプロロールによりDCM iPSC−CM表現型を救済することができることが示された。さらに、現在臨床試験中の心不全に対する新規の遺伝子療法処理であるSerca2aの過剰発現により、DCM iPSC−CMの機能を有意に改善することができる。遺伝子発現プロファイリングにより、ユビキチン化およびインテグリンシグナル伝達経路を含めた、Serca2a救済に関与するいくつかの新規の経路がさらに同定された。総合すると、我々の発見は、iPSCプラットフォームにより、DCMの疾患機構および治療の標的を調査することにおける新しい興味深い研究の領域が開かれることを実証している。
【0094】
方法
患者特異的iPSCの誘導、培養、および特徴付け。この試験のプロトコールは全てStanford University Human Subjects Research Institutional Review Boardにより認可された。患者特異的iPSC株の生成、維持、および特徴付けを以前に記載されている通り実施した。
【0095】
免疫蛍光法およびアルカリホスファターゼ染色。アルカリホスファターゼ(AP)染色を、定量的アルカリホスファターゼES特徴付けキット(Chemicon)を製造者の説明書に従って使用して実施した。免疫蛍光法を、適切な一次抗体およびAlexaFluorとコンジュゲートした二次抗体(Invitrogen)を使用して、以前に記載されている通り実施した。この試験では、Oct3/4(Santa Cruz)、Sox2(Biolegend)、SSEA−3(Millipore)、SSEA−4(Millipore)、TraA−1−60(Millipore)、Tra−1−81(Millipore)、Nanog(Santa Cruz)、AFP(Santa Cruz)、平滑筋アクチン(SMA)(Sigma)、Tuj−1(Covance)、cTnT(Thermo Scientific)、筋節α−アクチニン(Clone EA−53、Sigma)、コネキシン43(Millipore)、およびミオシン軽鎖(MLC−2a)(Synaptic Systems)に対する一次抗体を使用した。
【0096】
バイサルファイトパイロシークエンス。1μgの試料DNAを、Zymo DNA Methylation Kit(Zymo Research)を製造者の説明書に従って使用して重硫酸塩処理した。次いで、PCR産物を一本鎖DNA鋳型に変換し、Pyrosequencing PSQ96HS System(Biotage)によって配列決定した。QCpGソフトウェア(Biotage)を使用して各遺伝子座のメチル化の状態をT/C SNPとして個別に分析した。
【0097】
ヒトESCおよびiPSCの心臓分化。H7 ESCおよび誘導iPSC株の心臓系列への分化を、Yangらに記載されている十分に確立されたプロトコールを用いて実施した。機能分析のために、I型コラゲナーゼ(Sigma)を用いて拍動EBを解離させ、ゼラチンコーティングした培養皿、ガラスチャンバースライド、またはカバーガラスに播種した。
【0098】
カルシウムイメージング。カルシウムイメージングのために、解離させたiPSC−CMを、ゼラチンコーティングした4ウェルLAB−TEK(登録商標)IIチャンバー(Nalge Nunc International、チャンバー#1.5German coverglass system)に播種した。細胞を、5μMのFluo−4AMまたはRhod−2AM(GFPを発現している細胞用)および0.02%Pluronic F−127(全てMolecular Probesから)を用いて、Tyrodes溶液(140mMのNaCl、5.4mMのKCI、1mMのMgCI
2、10mMのグルコース、1.8mMのCaCI
2、および10mMのHEPES、25℃でNaOHを用いてpH7.4)中に、37℃で15分間ローディングした。次いで、細胞をTyrodes溶液で3回洗浄した。カルシウムイメージングを、63×レンズ(NA=1.4)を備えた共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、LSM510 Meta)を使用し、Zenソフトウェアを用いて行った。ラインスキャンモードを使用し、試料採取速度1.92ms/ラインで自然発生Ca
2+トランジェントを室温で獲得した。19.2秒の記録で合計10,000ラインを獲得した。
【0099】
カルシウムイメージングトレースの分析。ImageJ(National Institutes of Health)の誘導体であるFijiを使用してCa
2+応答を数量化して、各株の蛍光強度を平均した。次いで、時間依存性Ca
2+応答を、連続的なCa
2+トランジェントのタイミングの不規則性について、およびトランジェント当たりの総Ca
2+流入について、MATLABを使用して分析した。トランジェント間の時間(タイミング)を2回の連続的なスパイクのピーク間の時間と定義した。MATLABのSignal Processing Toolboxを使用して第2の誘導体のゼロ交差を算出することによってスパイクを決定した。各トランジェントの間に放出された総Ca
2+を、各波の下の面積をベースラインについて積分することによって決定した。ベースラインを全ての最小値の中央値と定義した。スパイクのタイミングと振幅の両方についての不規則性を標準偏差(s.d.)と一連の測定値の平均との比と定義した。
【0100】
原子間力顕微鏡(AFM)。各実験前にiPSC−CMをガラス底のペトリ皿に播種し、培養培地を温かいTyrode溶液に切り換えた。細胞を実験中ずっと36℃で維持した。拍動細胞を、窒化ケイ素カンチレバー(ばね定数約0.04N/m、BudgetSensors)を使用し、AFM(MFP−3D Bio、Asylum Research)によって調べた。力を測定するために、細胞に、100pNの力でカンチレバーの先端を穏やかに接触させ、典型的な細胞のへこみをおよそ100〜200nmにし、次いで、カンチレバーの先端を、Zピエゾフィードバックを伴わずに多数回の逐次的な2分間隔でその位置のままにし、試料速度2kHzでふれのデータを収集した。これらの測定の間の典型的なノイズはおよそ20pNであった。ばね定数を掛けることによって、ふれのデータを力に変換した。一般には、各単一細胞について100〜400回の拍動を収集し、各細胞について、力、拍動間の間隔、および各収縮の持続時間に関して統計値を算出した。細胞全てにわたる力を、両側スチューデントt検定を用いて比較した。
【0101】
iPSC−CMへのアデノウイルスによる形質導入。Serca2aを駆動するサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターと、それに加えてGFPを駆動する別のCMVプロモーターを有する第1世代5型組換えアデノウイルス(Ad.Serca2a)、および対照としてGFPのみを駆動するCMVプロモーターを有するアデノウイルス(Ad.GFP)を使用した。拍動EBから解離させたiPSC−CMにMOI100で一晩形質導入し、次いで、培養培地(10%FBSを補充したDMEM)を補給した。形質導入の48時間後に、細胞をその後の実験ために使用した。
【0102】
統計分析。データを、ExcelまたはRのいずれかを使用して分析した。2つの群間の統計学的差異を、両側スチューデントt検定を用いて試験した。3つ以上の群間の統計学的差異を、一元配置ANOVA検定、その後のチューキーの多重比較検定を用いて分析した。p値が0.05未満である場合に有意差を決定した。
【0103】
遺伝学的試験。患者から末梢血を抜き取ってEDTAに入れ、ゲノムDNAの単離および商業的な遺伝学的試験のために、GeneDx Laboratories(Gaithersburg、MD)に送付した。「次世代」solid−state sequence−by synthesis method(Illumina)を使用してDNAを増幅し、配列決定した。DCM遺伝子パネルは以下の遺伝子:LMNA、MYH7、TNNT2、ACTC1、DES、MYBPC3、TPM1、TNNI3、LDB3、TAZ、PLN、TTR、LAMP、SGCD、MTTL1、MTTQ、MTTH、MTTK、MTTS1、MTTS2、MTND1、MTND5、およびMTND6の完全なコード領域およびスプライス部位の配列決定を含む。結果をヒト参照配列(cDNA NM_00108005)と比較した。可能性のある疾患関連配列をジデオキシDNA配列決定によって確認した。335の民族性が混在する推定健康対照における候補疾患関連変異体の存在も決定した。TNNT2遺伝子において変異体が同定された(p.Arg173Trp)。これは、親水性陽性アルギニンと疎水性中性チロシンの保存されていないアミノ酸置換である。このアルギニンはいくつかの種にわたって173位に高度に保存されている。in silico分析(PolyPhen)では、このアミノ酸置換は心筋トロポニンT2タンパク質の構造および機能に損傷を与えるものであると予測される。この変異体は、血統が混在する335の対照個体には見いだされなかった。
【0104】
エキソーム配列決定およびデータ分析。個体IIIa由来のゲノムDNAをNimblegen SeqCap EZ Exome Library v2.0(Roche Molecular Biochemicals)を使用したエキソーム配列決定に供した。DCMの基礎をなす32種の最新の常染色体遺伝子
1(補足の表3)を突然変異について検査した。これらの遺伝子の全てがエキソーム捕捉で標的とされ、全部で190kbが含まれた。HiSeq(Illumina)の1つのレーンを用いた配列決定により、適用範囲の中央値217×(四分位範囲152×〜243×)が生じた。Novoalign、Picard、SAMtools、GATK、およびANNOVARを含んでなる分析パイプラインを使用することによって一塩基変異体(SNV)が見いだされた。SNPを、SNPデータベースdbSNP132を比較することによって確認した。SIFTアルゴリズムによって有害なSNVを同定した。
【0105】
マイクロアレイハイブリダイゼーションおよびデータ分析。対照iPSCおよびDCM iPSC(Serca2a過剰発現処理したまたは処理していない)に由来する未分化のiPSCまたは4週齢のCMの生物学的複製由来の全RNA試料を、Affymetrix GeneChip Human Gene 1.0STアレイにハイブリダイズさせ、次いで、Affymetrix Expression Consoleソフトウェアによって正規化し、アノテートした。試料の各対について、全ての試料の中で標準偏差が0.2を超える転写物の発現レベルを使用してピアソン相関係数を算出した。階層クラスタリングに関しては、平均連結クラスタリングのためにピアソン相関を用いた。Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ツールを使用して、濃縮経路を同定した。遺伝子の数>5の経路のみを選択した。
【0106】
ヒトESCおよびiPSCの心臓分化。ヒトESCおよびiPSCを、mTESR−1ヒト多能性幹細胞培養培地(STEMCELL Technologies)を伴うMatrigel(BD Biosciences)コーティングした表面上で80%集密まで培養した。0日目に、アキュターゼ(Accutase)(Sigma)を用いて細胞を解離させて、細胞10〜20個を含有する小さな凝集塊にし、基本培地(StemPro34、Invitrogen、2mMのグルタミンを含有する、Invitrogen、0.4mMのモノチオグリセロール、Sigma、50μg/mlのアスコルビン酸、Sigma、および0.5ng/ml
−BMP4、R&D Systems)2mlに再懸濁させて、胚様体(EB)を形成した。1日目〜4日目に、心臓特異化のためにBMP4(10ng/ml)、ヒトbFGF(5ng/ml)、およびアクチビンA(3ng/ml)を基本培地に加えた。4日目〜8日目に、EBにヒトDKK1(50ng/ml)およびヒトVEGF(10ng/ml)を含有する基本培地を補給し、次いで、8日目から開始してヒトbFGF(5ng/ml)およびヒトVEGF(10ng/ml)を含有する基本培地を補給した。全ての因子をR&D Systemsから入手した。5%CO
2/空気環境で培養物を維持した。
【0107】
微小電極アレイ(MEA)記録。分化後19日目〜47日目における実験の1〜3日前に、1〜6つの拍動iPSC−CM EBをゼラチンコーティングしたMEAプローブ(Alpha Med Scientific)にプレーティングした。MED64増幅器(Alpha Med Scientific)を用いて20kHzにおけるシグナルを獲得し、National Instruments A/DカードおよびMED64Mobius QTソフトウェアを備えたPCを使用してデジタル化した。電場電位持続時間(FPD)を測定し、記載の通り決定し、IGOR Pro(Lake Oswego)およびMS Excelを使用してオフラインで補正した。Bazzet補正式:cFPD=FPD/√スパイク間の間隔を使用して、FPDを拍動頻度に対して正規化した。DCM iPSC−CMと対照iPSC−CMの電気生理学的パラメータを比較する統計分析を両側スチューデントt検定を用いて実施した。
【0108】
パッチクランプ。実験のために、解離させたiPSC−CMを、ゼラチンコーティングした24ウェルプレート中の15mmの丸いカバーガラスに播種した。カバーガラス上で対照iPSCおよびDCM iPSCから生成したCMにおける細胞全体でのパッチクランプ記録を、EPC−10パッチクランプ増幅器(HEKA)および倒立顕微鏡(Nikon、TE2000−U)を使用して行った。フィラメント(Sutter Instrument、#BF150−110−10)を伴うホウケイ酸ガラスを使用し、以下のパラメータ(熱、速度、時間):1)740、20、250;2)730、20、250;3)730、20、250;4)710、47、250を使用し、マイクロピペットプラー(Sutter Instrument、モデルP−87)を使用してガラスピペットを調製した。以下のピペット溶液を使用して記録を行った:Tyrodes溶液(140mMのNaCl、5.4mMのKCI、1mMのMgCI
2、10mMのグルコース、1.8mMのCaCI
2、および10mMのHEPES、25℃でNaOHを用いてpH7.4)中120mMのK D−グルコン酸、25mMのKCI、4mMのMgATP、2mMのNaGTP、4mMのNa2−クレアチンリン酸、10mMのEGTA、1mMのCaCI2および10mMのHEPES(25℃でKCIを用いてpH7.4)。両側スチューデントt検定を用いて統計分析を実施した。
【0109】
単一細胞マイクロ流体PCR。単一の拍動CMを顕微鏡の下で手動で選び取った。各細胞を、反応緩衝液(CellsDirect kit、Invitrogen)、TE緩衝液(Ambion)、対象のプライマー(Applied Biosystems)およびSuperScript III Reverse Transcriptase/Platinum Taq Mix(Invitrogen)の混合物10μlを含有するPCRチューブに導入した。逆転写および特異的な転写物増幅を、サーモサイクラー(ABI Veriti)で以下の通り実施した:50℃で15分、70℃で2分、94℃で2分、次いで、94℃で15秒、60℃で30秒、および68℃で45秒を18サイクル、次いで、68℃で7分。増幅されたcDNAを、Nanoflex IFC制御器(Fluidigm)を使用してBiomark48.48 Dynamic Arrayチップにローディングした。相対的な蛍光強度の測定値として閾値サイクル(CT)をBioMark Real−Time PCR Analysisソフトウェア(Fluidigm)によって抽出した。
【0110】
内皮細胞分化。1mg/mlのコラゲナーゼIV(Invitrogen)を使用して細胞およそ500〜1,000個を含有する細胞凝集体内にiPSCを分散させた。細胞凝集体を、超低付着細胞培養ディッシュ内の20%ES−Qualified FBS(Invitrogen)を含有するKnockout DMEM中で、誘導性サイトカイン(R&D Systems)を以下の通り補充して浮遊培養した:0日目〜7日目:20ng/mlのBMP4;1日目〜4日目:10ng/mlのアクチビンA;2日目〜14日目:8ng/mlのFGF−2;4日目〜14日目:25ng/mlのVEGF−A。内皮前駆細胞を、マウス抗ヒトCD31抗体(BD Biosciences)を使用して磁気によって分離し、EGM−2内皮細胞培養培地(Lonza)中で増大させた。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【実施例2】
【0119】
肥大型心筋症の患者由来の心筋細胞
肥大型心筋症(HCM)は、心臓の筋節の常染色体優性疾患であり、世界中で最も蔓延している遺伝性の心臓の状態であると推定される。HCMの患者は、血行力学的負荷の増加の不在下で左心室の(LV)心筋の異常な肥厚を示し、進行性心不全、不整脈、および心臓突然死(SCD)などの臨床合併症リスクが高まっている。二十年前からの分子遺伝学的試験により、HCMは、心臓の筋節内のタンパク質をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされることが実証されている。特異的な突然変異の同定によりHCMの遺伝的原因は定義されているが、筋節の突然変異によって筋細胞肥大および心室性不整脈が導かれる経路は十分に理解されていない。HCMの発生の基礎をなす機構を解明するための試みにより、矛盾する結果がもたらされ、疾患の発生を説明するためのミオシン機能の損失とミオシン機能の獲得の両方のモデルが逆説的に支持されている。これらの不一致を解決するための試みは、ヒト心臓組織を得ることの難しさおよび心臓試料を培養物中で繁殖させることができないことによって妨げられている。
【0120】
これらの障害を回避するために、半数が、βミオシン重鎖遺伝子(MYH7)のエクソン18に、アミノ酸663位におけるアルギニンからヒスチジンへの置換(Arg663His)をコードする常染色体優性のミスセンス突然変異を有する10個体の家族由来の人工多能性幹細胞由来の心筋細胞(iPSC−CM)を生成した。患者特異的iPSC−CMの生成により、単一細胞レベルでのHCMの発生反復が可能になり、HCM iPSC−CMの前臨床モデリングによりこの疾患の発生の基礎をなす機構を解明することができる。これらの所見は、iPSC技術が、筋節の突然変異がHCMの発生をどのように引き起こすかを理解するため、およびこの疾患の新規の治療の標的を同定するための新規の方法であることを検証している。
【0121】
HCM家族コホートの採用ならびに疾患遺伝子型および表現型の評価。皮膚線維芽細胞を単離するために、2世代(IIおよびIII)にわたる構成員10人の家族コホートを採用した。発端者は、動悸、息切れ、および労作時胸痛で診察を受けにきた53歳のアフリカ系米国人女性患者(II−1)であった。包括的試験の結果から、下中隔および下壁(
図31A)の顕著な肥厚を伴う求心性左室肥大(LVH)が明らかになった。HCMを引き起こす突然変異の存在を確認するために、HCMに関連する18遺伝子のパネルを用いて発端者のゲノムDNAを突然変異についてスクリーニングした。ヌクレオチド配列分析により、β−ミオシン重鎖遺伝子のエクソン18に、アミノ酸663位においてアルギニンからヒスチジンへの置換(Arg663His;
図31B)を引き起こす公知の家族性HCMミスセンス突然変異が実証された。その後の発端者の家族の遺伝学的評価により、発端者の子供8人のうち4人(III−1、III−2、III−3、III−8;年齢21歳、18歳、14歳、10歳)がArg663His突然変異を有することが明らかになった(
図31C)。発端者の家族は同じ包括的な臨床評価を受け、それにより、2人の年長の保因者に心エコー検査およびMRIで軽度のLVH、ならびに通院モニタリングで時々の心室期外収縮が明らかになった。2人の年下の保因者(III−3およびIII−8;年齢14歳および10歳)は表現型が完全には発生していなかったが、心エコー検査により運動過多性機能が示された。発端者の夫(II−2;55歳)および他の4人の子供(III−4、III−5、III−6、III−7;年齢20歳、16歳、5 14歳、13歳)。
【0122】
【表9】
【0123】
患者特異的iPSCの生成および多能性の確認
10個体全ての初代線維芽細胞から、再プログラミング因子であるOct−4、Sox−2、Klf−4およびc−Mycをレンチウイルスにより感染させることによって患者特異的iPSCを生成した。患者当たり最低3つの別個の株を生成し、一連の試験を通じて多能性についてアッセイした。樹立されたiPSCは、ESCマーカーであるSSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、Oct4、Sox2、Nanog、およびアルカリホスファターゼについて陽性免疫染色、ならびに転写因子であるOct4、Sox2、およびNanogについてタンパク質の発現を示した。定量的バイサルファイトパイロシークエンスおよび定量的RT−PCRにより、NanogプロモーターおよびOct−4プロモーターの低メチル化、内在性多能性転写因子の活性化、およびレンチウイルス導入遺伝子のサイレンシングが実証された。皮膚線維芽細胞、iPSC、およびヒトESC(WA09株)の全ゲノムの発現プロファイルを比較したマイクロアレイ分析により、全ての細胞株が上首尾に再プログラミングされたことがさらに確認された。核型分析により、全てのiPSC株において30回の継代を通じて安定な染色体の完全性が実証された。自然発生胚様体(EB)および奇形腫形成アッセイにより、in vitroおよびin vivoで3つの胚葉全ての細胞誘導体がもたらされ、これにより、生成したiPSCの多能性が確認された。制限酵素消化および配列決定により、HCM iPSCのMYH7遺伝子座にArg663His突然変異が存在し、対照iPSCのMYH7遺伝子座にArg663His突然変異が存在しないことが検証された。
【0124】
患者特異的iPSCの心筋細胞への分化。標準の3D EB分化プロトコールを用いて、全ての対象由来の樹立iPSC株を心筋細胞系列(iPSC−CM)に分化させた。分化開始の10〜20日後に、光学顕微鏡の下で、自発性収縮するEBが出現することが観察された。心筋トロポニンTについての免疫染色により、対照iPSC株およびHCM iPSC株のどちら由来の拍動EBも60〜80%の心筋細胞の純度を有することが示された。電気生理学的性質を評価するために、拍動EBを多電極アレイ(MEA)プローブに播種した。対照iPSC由来のEBとHCM iPSC由来のEBはどちらも、ベースラインにおいて匹敵する拍動頻度、電場電位、および上昇速度(upstroke velocity)を示した。その後、さらなる分析のために、EBを単一のiPSC−CMに解離させ、ゼラチンコーティングしたチャンバースライド上でプレーティングした。HCM家族員由来および対照家族員由来の単一の解離したiPSC−CMはどちらも、自発性収縮を維持し、心筋トロポニンTおよびミオシン軽鎖などの筋節タンパク質について陽性染色を示した(
図31D)。
【0125】
Arg663His突然変異を有するiPSC−CMは、in vitroにおいてHCM表現型を再現する
心臓分化および単一の拍動細胞への解離後、疾患iPSC−CMおよび対照である対応するiPSC−CMを、in vitroにおいてHCM表現型の発生反復について特徴付けた。肥大性iPSC−CMは、心臓分化を誘導した6週間後に始まる細胞の腫大および多核化などのHCMの特徴を示した(Aradら、2002)。誘導後40日目に、HCM iPSC−CMは対照である対応するiPSC−CM(1175+328画素;n=220、4つの患者株)よりも著しく大きくなり(1859+517画素;n=236、4つの患者株)、有意に高い多核化の発生頻度を示した(HCM:49.7+8.5%;n=236、4つの株対対照:23.0+3.7%;n=220、4つの株)(
図31D〜F)。突然変異体iPSC−CMでは、免疫染色によって検出された通り、心房ナトリウム利尿性因子(ANF)の発現、β−ミオシン/α−ミオシン比の上昇、カルシニューリン活性化、および活性化されたT細胞の核因子(NFAT)の核移行を含めた他のHCMの特徴も実証された(
図31G〜K)。カルシニューリン−NFATシグナル伝達は成体の心筋細胞における肥大の誘導に対する重要な転写活性化因子であるので、HCM iPSC−CMにおける肥大性の発生に対するこの経路の重要性を試験しようとした。シクロスポリンA(CsA)およびFK506によりHCM iPSC−CMにおけるカルシニューリン−NFAT相互作用を遮断することにより、肥大が40%超減少した(
図31L)。阻害の不在下では、HCM iPSC−CMにおいて、GATA4およびMEF2Cなどの肥大のNFAT活性化メディエーターが有意に上方制御され、これは心臓分化の誘導後40日目に始まり、その時点より前には始まらないことが見いだされた。総合すると、これらの結果は、カルシニューリン−NFATシグナル伝達が、Arg663His突然変異によって引き起こされるHCM表現型の発生において中心的な役割を果たすことを示している。
【0126】
単一細胞遺伝子発現プロファイリングによりHCM関連遺伝子の活性化が実証される
HCMの臨床症状は、一般には、影響を受けた個体において数十年にわたって生じる。Arg663His突然変異のHCM発生に対する一時的な影響を細胞レベルで調査するために、HCM患者由来および対照患者由来の単一の精製されたiPSC−CMの両方における肥大性関連遺伝子の発現を評価した。分化の開始から20日目、30日目、および40日目に、単一の収縮心筋細胞を培養皿から手動で引き上げ、32種の心筋細胞関連転写物のパネルを使用した単一細胞定量的PCR分析に供した。40日目に始まり、GATA4、TNNT2、MYL2、およびMYH7などの肥大性関連遺伝子がHCM iPSC−CMにおいて上方制御されることが見いだされた(
図31M)。この時点まではHCM関連遺伝子の発現に有意な増加は見いだされなかった。
【0127】
Arg663His突然変異を有するiPSC−CMは、単一細胞レベルで電気生理学的および収縮性不整脈を示す
不整脈はHCMの臨床的な特徴であり、心臓突然死を含めた疾患に関連する罹患率および死亡率の重要な部分に関与する。したがって、次に、Arg663His突然変異を有するiPSCCMの電気生理学的性質を細胞全体のパッチクランプによって検査した。HCM iPSC−CMと対照iPSC−CMはどちらも結節様電気波形、心室様電気波形、および心房様電気波形を特徴とする筋細胞集団を含有した。分化の誘導後最初の4週間に、両群由来の細胞は同様の活動電位頻度、ピーク振幅、および静止電位を示した。しかし、30日目に始まり、対照(5.1+7.1%;n=144、5つの患者株)と比較して大きなHCM筋細胞の細画分(40.4+12.9%;n=131、5つの患者株)が、活動電位のトリガーとなることができない遅延後脱分極(DAD)に似た頻繁な小さな脱分極および拍動の密集を含めた不整脈性の波形を示すことが観察された(
図32A1、32A2、32B〜C)。光学顕微鏡の下での単一の拍動iPSC−CMの微速度撮影ビデオにより、電気生理学的欠損により収縮性不整脈がもたらされることが確認された。定期的な拍動間隔を有した対照iPSCCM(1.4+1.9%;n=68、5つの患者株)と比較して、HCM iPSC−CMは不規則な頻度で拍動する多数の細胞を含有した(12.4+5.0%;n=64、5つの患者株)。単一細胞ビデオ記録を画素数量化ソフトウェアによって分析することにより、HCM iPSC−CM収縮の不整脈性が確認された。総合すると、これらの所見は、筋節の突然変異は、単一細胞レベルで電気生理学的および収縮性不整脈を誘導することができることを実証している。
【0128】
正常なhESC−CMにおけるArg663His突然変異の過剰発現により、HCM iPSC−CMのカルシウムハンドリング異常が再現される
カルシウム(Ca
2+)は、心臓における興奮収縮連関および電気生理学的シグナル伝達の調節において基本的な役割を果たす。次に、Arg663His突然変異を有する筋細胞における不整脈の基礎をなす可能性のある機構を調査するために、対照患者およびHCM患者由来のiPSC−CMのCa
2+ハンドリング性を蛍光Ca
2+色素であるFluo−4アセトキシメチルエステル(AM)を使用して分析した。健康な個体に由来するiPSC−CMと比較して、HCM iPSC−CMでは、有意なCa
2+トランジェント不規則性、例えば、おそらく誘発された不整脈様電圧波形に関連する、対照細胞では実質的に存在しない多数の事象などが実証された(
図32D〜E)。興味深いことに、HCM iPSC−CMにおいて、細胞の肥大が発症する前に不規則なCa
2+トランジェントが起こることが観察され、これにより、異常なCa
2+ハンドリングが肥大性表現型の誘導の原因因子である可能性があることが示唆される。自発性収縮に固有の変動によりCa
2+トランジェントが潜在的に混乱する可能性があるので、ラインスキャニングの間、HCM iPSC−CMおよび対照iPSC−CMを1Hzのペーシングに供した。自発性収縮からのデータと一致して、異常なCa
2+トランジェントがHCM iPSC−CMではよく見られ(12.5+4.9%;n=19、5つの患者株)、対照iPSC−CMでは存在しなかった(n=20、5つの患者株)。電気生理およびCa
2+調節において観察された欠損がArg663His突然変異に起因することをさらに確実にするために、次に、突然変異体形態のミオシンをヒト胚性幹細胞由来心筋細胞(hESC−CM;WA09株)において過剰発現させた。Arg663His突然変異体MYH7転写物を過剰発現しているhESC−CMが同様の不整脈および異常なCa
2+トランジェントを示すことが見いだされた(
図32F〜I)。
【0129】
先の報告により、細胞内のCa
2+([Ca
2+]
i)上昇が不整脈および細胞の肥大のトリガーとして関連づけられた。したがって、対照iPSC−CMにおける[Ca
2+]
iと疾患iPSC−CMにおける[Ca
2+]
iをさらに比較した。Fluo−4のベースラインの強度によって[Ca
2+]
iを予備数量化することにより、誘導後30日目に、HCM iPSCCM(n=105、4つの患者株)では対照対応物(n=122、4つの患者株)よりも[Ca
2+]
iがおよそ30%高かったことが示唆された(
図32J)。拡張期の[Ca
2+]
iの差異を確認するために、対照iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMにレシオメトリックCa
2+色素であるIndo−1も使用した。Indo−1イメージングにより、Arg663His突然変異を有するiPSC−CM(n=26、4つの患者株)では対照細胞(n=17、4つの患者株)と比較して拡張期の[Ca
2+]
iが高かったこと(Indo−1比が25.1%上昇)、および不整脈活性はArg663His筋細胞でのみ明らかであったことが実証された。これらの所見により、HCMの病理発生における不規則なCa
2+サイクリングの役割が強調される(
図32K〜L)。
【0130】
筋小胞体(SR)Ca
2+貯蔵の測定により、Ca
2+が細胞質で保持されることによりSR Ca
2+取り込みが妨げられることによってSR Ca
2+負荷量が減少することが示されているので、疾患iPSC−CMにおいて[Ca
2+]
iが上昇しているという所見がさらに裏付けられる。HCM iPSC−CMおよび対照iPSC−CMにFluo−4をローディングし、SR Ca
2+貯蔵の細胞質への放出を誘導するカフェインに曝露させた。Arg663His突然変異を有する筋細胞を、SR Ca
2+放出(平均ピークΔF/F0比=3.05+0.20、n=35、3つの患者株)が対照iPSC−CM(平均ピークΔF/F0比=3.96+0.18、n=23、3つの患者株)と比較して有意に小さいと特徴付けた(
図32M〜N)。これらの所見により、Arg663His突然変異によって引き起こされるHCMの病理発生におけるCa
2+サイクリング機能障害および[Ca
2+]
iの上昇の中心的な役割が実証される。
【0131】
変力刺激により、疾患iPSC−CMにおけるHCM表現型が増悪する
Arg663His突然変異を有するiPSC−CMによりin vitroにおけるHCM表現型の多数の態様が再現されるので、我々のプラットフォームはHCMに対する医薬物の効果を単一細胞レベルで評価するためのスクリーニングツールとしても使用することができるという仮説を立てた。HCM iPSC−CMの、医薬物応答を正確にモデリングする能力を試験するために、まず、単一の対照iPSC−CMおよび疾患iPSC−CMを、筋細胞肥大および心室性頻脈のトリガーとなることが公知の陽性変力刺激に供した。分化の誘導の30日後に始めて5日間毎日、患者特異的心筋細胞をβ−アドレナリン作動性アゴニスト(200μMのイソプロテレノール)と一緒にインキュベートした。以前は、HCM iPSC−CMは、一般には、誘導後40日目まで細胞の肥大を示さなかったが(
図31E)、イソプロテレノールで処理した場合、30日目から35日目の間で、対照対応物と比較して細胞サイズが1.7倍増加することが見いだされた(
図33A)。β−アドレナリン作動性の刺激により、HCM iPSC−CMにおける不規則なCa
2+トランジェントおよび不整脈の症状が著しく増悪することも見いだされた(
図33B〜C)。重要なことに、β−アドレナリン作動性遮断薬(400μMのプロプラノロール)とイソプロテレノールの同時投与により、肥大、Ca
2+ハンドリング欠損、および不整脈のカテコールアミン誘導性増悪が有意に改善された。
【0132】
Ca
2+調節不全の処理により、HCM表現型の発生が予防される
したがって、対照iPSC−CMおよび突然変異体iPSC−CMをL型Ca
2+チャネル遮断薬であるベラパミルで処理することによるCa
2+進入の薬学的阻害がHCM表現型の発生の予防に役立つかどうかを評価した。MEA用量応答実験によって検出された通り、対照細胞と比較して、HCM iPSC−CMにおける自然発生拍動数はベラパミルに対して比較的抵抗性であり(HCM IC
50=930.61+80.0nM、対照IC
50=103.0+6.0nM)、Arg663His突然変異を有するiPSC−CMにおいて[Ca
2+]
iが上昇することと一致した。驚くべきことに、ベラパミルを治療投与量(50〜100μM)で単一の疾患iPSC−CMに連続した10〜20日にわたって継続的に添加することにより、筋細胞肥大、Ca
2+ハンドリング異常、および不整脈を含めたHCM表現型の全ての態様が有意に改善された(
図34A〜C)。
【0133】
不整脈性iPSC−CMを潜在的な薬学的処理について単一細胞レベルでスクリーニングすることができる
HCMに対する現行の薬学的療法はCa
2+チャネル遮断薬に加えてβ−遮断薬および抗不整脈薬の使用を含むので、HCMを治療するために臨床的に使用されている他の薬物12種のパネルを、HCM表現型を単一細胞レベルで改善するそれらの潜在性についてさらにスクリーニングした。ベラパミルが細胞の肥大を予防することができることが見いだされた唯一の作用剤であるが、Na+流入を阻害する抗不整脈薬、例えば、リドカイン、メキシレチン、およびラノラジンなども、HCM iPSC−CMにおいて、おそらくNa+/Ca
2+交換体による細胞へのCa
2+進入を制限することによって正常な拍動頻度を回復させる潜在性が実証されている。他の抗不整脈剤はK+チャネルを標的とし、変力刺激の不在下で投与されたβ−遮断薬は単一細胞においていかなる治療効果も有さなかった。総じて、これらの結果により、Ca
2+調節の不均衡が細胞のレベルでのHCMの発生の基礎をなす中心的な機構として関連づけられ、HCMを治療するための新規の医薬品を同定するための有力なツールとしての患者特異的iPSC−CMの潜在性を実証している。
【0134】
【表10】
HCMの遺伝的原因は、数十年前に最初に同定された。しかし、心臓の筋節をコードする遺伝子における突然変異がHCMの発生を引き起こし得る機構は不明なままである。患者特異的iPSC−CMの生成により、拡張型心筋症、LEOPARDおよびQT延長症候群を含めた遺伝性心血管障害の深さモデリングが可能になった。HCM発生の基礎をなすシグナル伝達経路を解明するために、iPSC技術を利用して、半数がMYH7遺伝子にHCM Arg663His突然変異を有する構成員10人の家族コホートの皮膚線維芽細胞から機能性心筋細胞を生成した。患者特異的iPSC−CMは細胞の肥大、カルシニューリン−NFAT活性化、肥大転写因子の上方制御、および収縮性不整脈を含めたHCMのいくつもの特性を再現した。不規則なCa
2+トランジェントおよび拡張期の[Ca
2+]
iの上昇が他の表現型の異常の症状よりも先に起こることが観察され、これにより、Ca
2+サイクリングの調節不全が疾患の病理発生の中心的な機構として強力に関係づけられる。Ca
2+恒常性の不均衡は、多数の報告においてHCMの重要な特性として記載されている。しかし、これらの異常がHCMの症候または原因因子であるかどうかを詳細に説明するための証拠はほとんど存在しない。
【0135】
この試験では、Arg663His突然変異によって引き起こされるHCMの発生におけるCa
2+の極めて重要な役割についてのいくつかのラインの証拠を示す。詳細には、我々の発見は、Arg663His突然変異によって媒介される[Ca
2+]
iの上昇により、細胞の肥大と収縮性不整脈の両方が誘導され得ることを示している。[Ca
2+]
iの持続性の上昇は、ストレス状態での筋細胞の肥大の重大なエフェクターであるCa
2+依存性ホスファターゼであるカルシニューリンの活性化の公知のトリガーである。活性化されたカルシニューリンはNFAT3転写因子を脱リン酸化し、GATA4およびMEF2などの肥大の古典的なメディエーターと直接相互作用するためにそれらの核への移行を可能にする。心臓分化の誘導後の単一のiPSC−CMの時間に基づく遺伝子発現プロファイリングにより、肥大の下流のエフェクターの発現は[Ca
2+]
iの上昇およびNFATの核移行に左右されることが観察されたので、このモデルが確認された。CsAおよびFK506によるカルシニューリン活性の阻害ならびにベラパミルによるCa
2+流入の低下により、細胞の肥大が緩和され、これにより、HCMの病理発生におけるCa
2+機能障害およびカルシニューリン−NFATシグナル伝達の役割が確認される(
図34D)。Ca
2+サイクリングの変更は、脳卒中または心臓突然死を誘導するそれらの潜在性に起因してHCMの重症の臨床合併症である心不整脈の一般的なトリガーである。
【0136】
HCMの患者における不整脈の基礎をなす機構は十分に理解されていないが、報告により、間質性線維症、異常な心臓の解剖学的構造、筋細胞錯綜配列、細胞サイズの増大、およびCa
2+恒常性における機能障害が可能性のあるメディエーターとして関係づけられている。我々の発見は、MYH7遺伝子におけるArg663His突然変異が、細胞の肥大の不在下でさえも、単一細胞レベルで電気生理学的および収縮性不整脈を直接もたらし得ることを初めて実証するものである。個々のHCM iPSC−CMにおける不整脈の発生の最も可能性が高い機構は[Ca
2+]
iの蓄積であり、それにより遅延後脱分極(DAD)が誘導され、それによって筋小胞体Ca
2+放出が活動電位の再分極後にトランジェント内向き電流のトリガーとなる。継続したDADの症状が今度は、再発性不整脈に罹患している患者の場合と同様に心室性頻脈および心臓突然死を導き得る。
【0137】
HCM iPSC−CMの細胞全体の電流固定実験により、疾患筋細胞における頻繁な自然発生DAD様波形の実証を通じてこの仮説が裏付けられた。これらの結果は、単一細胞レベルでArg663Hisなどの特定のHCM突然変異が不整脈の直接のトリガーとしての機能を果たし得ることを実証する最初の報告であると我々は考える。
【0138】
筋細胞Ca
2+ローディングの上昇の機構的役割は、肥大と催不整脈の両方の中核をなすと思われる。突然変異体iPSC−CMの医薬物スクリーニングにより、[Ca
2+]
iの上昇が不整脈発生の中心的な機構としてさらに裏付けられた。使用した13種の作用剤のうち、Ca
2+およびNa
+進入の薬学的遮断のみがHCM iPSC−CMにおける収縮性不整脈を緩和した。Na
+流入の低下により、Ca
2+をより容易に除去するためのNa
+/Ca
2+交換が可能になることによって[Ca
2+]
iが制限される。我々の結果は、HCMの発生および関連する誘発された不整脈をモデリングするため、ならびに、該疾患に対する潜在的な治療剤を同定するためのiPSCに基づく技術の有用性を実証するものである。これらの結果は、単一細胞レベルでのHCMの発生の開始因子としてのCa
2+恒常性における不均衡の直接の証拠をもたらす最初のものである。
【0139】
実験手順
患者の採用。発端者および家族の臨床評価は、身体検査、ECG、心臓磁気共鳴画像法(MRI)、および24時間のホルター心電図を含んだ。結果により、発端者(II−1)および年長の2人の保因者(III−1およびIII−2)において収縮末期における頂端壁のほぼ完全な閉塞を伴う運動過多性心室収縮機能が明らかになった。発端者または保因者においてコントラスト増強MRIで増強の遅延は見いだされなかった。通院モニタリングにより、時々の心室期外収縮が明らかになった。年少の2人の保因者(III−3およびIII−8;年齢14歳および10歳)は運動過多性の心臓機能を示したが、他のHCMの臨床的特徴は示さず、これは年齢が低いことに起因する可能性が最も高い。
【0140】
線維芽細胞の単離および維持。新たに単離した皮膚生検材料をPBSですすぎ、1.5mlのチューブに移した。コラゲナーゼI(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中1mg/ml、Invitrogen、Carlsbad、CA)中で組織を細かく切り、37℃で6時間にわたって消化させた。解離した皮膚線維芽細胞をプレーティングし、10%FBS(Invitrogen)、Glutamax(Invitrogen)、4.5g/Lのグルコース(Invitrogen)、110mg/Lのピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、50U/mLのペニシリン(Invitrogen)、および50g/mLのストレプトマイシン(Invitrogen)を含有するDMEMを用い、加湿したインキュベーター内、37℃、95%空気、および5%CO2で維持した。全ての細胞を5回の継代の範囲内で再プログラミングために使用した。
【0141】
レンチウイルスの産生および形質導入。293FT細胞(Invitrogen)を100mmのディッシュにおいて80%集密度でプレーティングし、12μgのレンチウイルスベクター(Oct4、Sox2、Klf4、およびc−MYC)と、8μgのパッケージングpPAX2および4μgのVSVGプラスミドを、Lipofectamine2000(Invitrogen)を製造者の説明書に従って使用してトランスフェクトした。トランスフェクトした48時間後に上清を採取し、ポアサイズ0.45μmの酢酸セルロースフィルター(Millipore、Billerica、MA)を通して濾過し、PEG−it Virus Concentration Solution(System Biosciences、Mountain View、CA)と4℃で一晩混合した。次の日に1,500gでウイルスを沈殿させ、Opti−MEM培地(Invitrogen)に再懸濁させた。
【0142】
患者特異的iPSCの誘導。患者特異的iPSC株の生成、維持、および特徴付けを、mTESR−1hESC Growth Medium(StemCell Technology、Vancouver、Canada)を伴うMatrigelコーティングした組織培養ディッシュ(BD Biosciences、San Jose、CA)において、上記の通り産生したレンチウイルスを使用して、以前に記載されている通り実施した。
【0143】
アルカリホスファターゼ染色。アルカリホスファターゼ(AP)染色を先の試験の場合と同様に、Quantitative Alkaline Phosphatase ES Characterization KitS(Millipore)を用い、製造者の説明書を使用して行った。
【0144】
免疫蛍光染色。免疫蛍光染色を、以下の一次抗体:SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81、ANF、Tuj−1(Millipore)、Oct3/4、Nanog、AFP(Santa Cruz、CA)、Sox2(Biolegend、San Diego、CA)、平滑筋アクチン(Biolegend)、筋節α−アクチニン(Sigma、St.Louis、MO)、cTnT(Thermo Scientific Barrington、IL)、Alexa Fluor 488 Phalloidin(invitrogen)、ミオシン軽鎖2a(MLC2a)、ミオシン軽鎖2v(MLC2v)(Synaptic Systems、Goettingen、Germnay)、および以前に記載されているAlexaFluorとコンジュゲートした二次抗体(Invitrogen)を使用して実施した。
【0145】
バイサルファイトパイロシークエンス。Zymo DNA Methylation Kit(Zymo Research、Irvine、CA)を使用して、製造者の説明書の通り1μgの試料DNAをバイサルファイトで処理した。PCR後、cDNAを一本鎖DNA鋳型に変換し、Pyrosequencing PSQ96 HS System(Biotage、Charlotte、NC)によって配列決定した。QCpGソフトウェア(Biotage)を用いて個々の遺伝子座をT/C SNPとして分析した。
【0146】
マイクロアレイハイブリダイゼーションおよびデータ分析。RNAをiPSCから単離し、Affymetrix GeneChip Human Gene1.0ST Array(Affymetrix、Santa Clara、CA)にハイブリダイズさせた。Affymetrix Expression Consoleソフトウェア(Affymetrix)によって発現を正規化し、アノテートした。試料の各対について、全ての試料の中で0.2を超える標準偏差を示す転写物の発現レベルを使用してピアソン相関係数を算出した。
【0147】
自然発生in vitro分化。胚様体(EB)を形成させるために、Matrigelコーティングしたプレート上で、コラゲナーゼIV(Invitrogen)を用いてiPSCコロニーを解離させ、低付着6ウェルプレート中、15%KSR(Invitrogen)、Glutamax(Invitrogen)、4.5g/Lのグルコース(Invitrogen)、110mg/Lのピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、50U/mLのペニシリン(Invitrogen)、および50g/mLのストレプトマイシン(Invitrogen)を含有するKnockout DMEM(Invitrogen)に播種して、胚様体(EB)を形成させた。5日後に、EBを接着性のゼラチンコーティングしたチャンバースライドに移し、同じ培地でさらに8日間培養した。
【0148】
奇形腫の形成。未分化のiPSC1×10
6個をMatrigel(BD Biosciences)10μLに懸濁させ、28.5ゲージのシリンジで8週齢のSCID Beigeマウスの腎被膜下に送達した。細胞送達の8週間後に、ヘマトキシリン・エオシン染色のために腫瘍を外植した。
【0149】
ウエスタンブロット。細胞全体の抽出物を、RIPA緩衝液を使用して単離し、タンパク質10μgを、Oct4、c−Myc、Klf4、アクチン(Santa Cruz)、Sox2(Biolegend)に対する特異的な抗体を使用して、ウエスタンブロットによって分析した。
【0150】
ヒトESCおよびiPSCの心臓分化。ヒトH9 ESCおよびiPSCを以前に記載されている通り心筋細胞に分化させた。簡単に述べると、80%集密時にアキュターゼ(accutase)(Sigma)を用いて多能性幹細胞を解離させて細胞10〜20個の小さな凝集塊にした。細胞を、StemPro34(Invitrogen)、2mMのグルタミン(Invitrogen)、0.4mMのモノチオグリセロール(Sigma)、50μg/mlのアスコルビン酸(Sigma)、および0.5ng/mlのBMP4(R&D Systems、Minneapolis、MN)を含有する基本培地2mlに再懸濁させて、EBを形成させた。1〜4日目の心臓分化のために、細胞を、基本培地に添加した10ng/mlのBMP4、5ng/mlのヒトbFGF(R&D Systems)、および3ng/mlのアクチビンA(R&D Systems)で処理した。4〜8日目から、EBに、ヒト50ng/mlのDKK1(R&D Systems)および10ng/mlのヒトVEGF(R&D Systems)を含有する基本培地を補給した。8日目以降、細胞を、5ng/mlのヒトbFGFおよび10ng/mlのヒトVEGFを含有する基本培地で処理した。培養物を5%CO
2/空気環境で維持した。
【0151】
心筋細胞サイズの測定。単一の心筋細胞を分析するために、拍動EBをゼラチンコーティングしたディッシュにプレーティングした。プレーティングの3日後に、EBをトリプシン処理し、ポアサイズが40mmサイズのフィルターを通して濾過し、単一細胞を、ゼラチンコーティングしたチャンバースライド(Nalgene Nunc International、Rochester、NY)に低密度で再プレーティングした。再プレーティングの3日後に、細胞を、4%パラホルムアルデヒド(Sigma)を用いて固定し、0.3%Triton(Sigma)中に透過処理し、5%BSAを用いてブロッキングし、心筋トロポニンT(1:200、Thermo Fisher)について4℃で一晩染色した。染色された細胞をPBSで3回洗浄し、次いで、Alexa Fluor 488ファロイジン(Invitrogen)、Alexa Fluor 594ロバ−抗マウス抗体(Invitrogen)およびDAPI(Invitrogen)と一緒に1時間インキュベートした。正常iPSC−CMおよびHCM iPSC−CMの細胞面積を、ImageJソフトウェアパッケージ(National Institutes of Health、Bethesda、MD)を使用して分析した。
【0152】
単一細胞マイクロ流体PCR。光学顕微鏡の下で単一の拍動iPSC−CMを手動で選び取り、以前に記載されている逆転写および指定のプライマーを用いたcDNA増幅のために別々のPCRチューブに入れた。増幅されたcDNAを、BioMark Real−Time PCR Analysisソフトウェア(Fluidigm)によって分析するためにBiomark48.48 Dynamic Arrayチップ(Fluidigm、South San Francisco、CA)にローディングした。
【0153】
カルシウム(Ca
2+)イメージング。カルシウムイメージングのために、iPSC−CMを解離させ、ゼラチンコーティングした8ウェルLAB−TEK(登録商標)IIチャンバー(Nalgene Nunc International)に播種した。細胞に5μMのFluo−4AM(Invitrogen)およびTyrodes溶液(140mMのNaCl、5.4mMのKCI、1mMのMgCl
2、10mMのグルコース、1.8mMのCaCl
2、および10mMのHEPES、25℃でNaOHを用いてpH7.4)中0.02%のPluronic F−127(Invitrogen)を37℃で15分間ローディングした。Fluo−4ローディング後に、細胞をTyrodes溶液で3回洗浄した。63×レンズを備えた共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、LSM510Meta、Gottingen、Germany)を用い、Zenソフトウェア(Carl Zeiss)を使用してイメージングを行った。ペース調整したカルシウム色素イメージングのために、495+20nmの励起および515±20nmの放出において蛍光を測定した。10秒の記録時間にわたって20fpsでビデオを撮った。細胞を1Hzおよび2Hzで刺激した。Lambda DG−4 300W Xenon光源(Sutter Instruments、Novato、CA)、ORCA−ER CCDカメラ(Hamamatsu、Bridgewater、NJ)、およびAxioVison4.7ソフトウェア(Carl Zeiss)を備えたAxioObserver Z1(Carl Zeiss)倒立顕微鏡で測定値を取得した。各ビデオフレームにおいて、対象領域(ROI)を、色素強度f/f0の変化について、各ビデオの第1のフレームで決定される静止蛍光値f0を用いて分析した。バックグラウンドの強度を全ての値から引き算し、プロットをゼロに対して正規化した。
【0154】
Indo−1−AMを使用した基底の[Ca
2+]
iの測定。心筋細胞を、5μMのIndo−1AM(Invitrogen)および0.02%Pluronic F−127(Invitrogen)を含有する培養培地に37℃で20分にわたってローディングした。Indo−1ローディング後に、細胞を2mMのCa
2+Ringer(155mMのNaCl、4.5mMのKCI、2mMのCaCl
2、1mMのMgCl
2、10mMのD−グルコース、および5mMのNa−HEPES、pH7.4)で3回洗浄し、室温で20分インキュベートして、Indo−1を脱エステル化させた。Ca
2+Ringer中、32℃で、Zeiss Axiovert 200M落射蛍光顕微鏡を使用して心筋細胞を画像化し、0.6UVNDフィルター(励起強度を弱毒化するため)および400DCLPを使用してIndo−1を350±10nmで励起させた。放出された光を、Cairn Optosplit II(425二色性、488/22帯域フィルター、Kent、UK)を使用して分離した。自然発生Ca
2+トランジェントを、Metamorphソフトウェア(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を100msの露光で使用して、ストリーム取得モードで、4×4画素ビニングで収集した。画像分析のために、Cairn Image Splitter ImageJプラグインを使用して短い波長放出チャネルと長い波長放出チャネルをアラインメントした。
【0155】
iPSC−CMのカフェイン処理。細胞に1.8mMのCa
2+および1mMのマグネシウムを含有するPBSを用いて灌流適用し、1Hzにペース調整して定期的なトランジェントを見た。灌流装置を通じて、20mMのストックカフェイン溶液の2秒のひと吹きを送達した。Ca
2+放出を正確に測定するために、カフェインが細胞に到達する前にペース調整をオフにした。
【0156】
カルシウムイメージングラインスキャンの分析。Ca
2+ラインスキャンについての蛍光強度のアベレージを、Fiji(National Institutes of Health)を使用して数量化した。トランジェント間のタイミングを2回の連続的なスパイクのピーク間の時間と定義した。Ca
2+ベースラインを全てのトランジェントの最小値の中央値と定義した。スパイクのタイミングの不規則性を標準偏差(s.d.)と平均の比と定義した。
【0157】
微小電極アレイ(MEA)記録。対照iPSCおよびHCM iPSCを、CMの純度が60〜80%にわたる拍動EBに分化させ、電場電位持続時間(FPD)および拍動頻度(1分当たりの拍動、BPM)およびスパイク間の間隔(ISI)を記録するために多電極40アレイに播種した。分化後20〜40日の実験の前に拍動iPSC−CM EBをゼラチンコーティングしたMEAプローブ(Alpha Med Scientific、Osaka、Japan)にプレーティングした。MED64増幅器(Alpha Med Scientific)を用いて20kHzにおけるシグナルを獲得し、PCを使用して、MED64Mobius QTソフトウェア(Witwerx、Inc.、Tustin、CA)を実行するPCI−6071 A/Dカード(National Instruments、Austin、TX)を用いてデジタル化した。全ての実験を、血清または抗生物質を伴わないDMEM中、35.8〜37.5℃で実施した。ストックベラパミル溶液を再蒸留水中50mMの濃度で作製した。用量応答実験を、DMEM中0.4〜2μLの1000×ベラパミル濃度を体積1〜2mlのMEAプローブに各用量で10分間添加することによって実施した。Mobius QTを使用して拍動頻度および電場電位波形データをオフラインで抽出し、CSVファイルで保存した。FPDおよびVmaxの測定のために波形データをIGOR Pro(Wavemetrics、Portland、OR)に入力した。拍動頻度をベラパミル用量応答実験についてのベースラインに対して正規化し、Bazett補正式:cFPD=FPD/√スパイク間の間隔を使用してFPDを拍動頻度に調整した。
【0158】
パッチクランプ。細胞全体でのパッチクランプ記録を、EPC−10パッチクランプ増幅器(HEKA、Lambrecht、Germany)を使用して行った。収縮EBを機械的に単離し、酵素により単一細胞に分散させ、ゼラチンコーティングしたカバーガラス(CS−22/40、Warner、Hamden、CT)に付着させた。記録している間、プレーティングした心筋細胞またはhERG−HEK293細胞を含有するカバーガラスを、倒立顕微鏡(Nikon、Tokyo、Japan)のステージに載せたRC−26C記録チャンバー(Warner)に移した。薄膜ホウケイ酸ガラス(Warner)を使用し、マイクロピペットプラー(Sutter Instrument、Novato、CA)を用いてガラスピペットを調製し、マイクロフォージ(Narishige、Tokyo、Japan)を使用して研磨し、2〜4MΩの抵抗を持たせた。急速溶液交換体(Bio−logic、Grenoble、France)を用い、1分を要する溶液交換を伴って細胞外の溶液灌流を継続させた。PatchMasterソフトウェア(HEKA、Germany)を使用してデータを獲得し、1.0kHzでデジタル化した。PulseFit(HEKA)、Igor Pro(Wavemetrics、Portland、OR)、Origin 6.1(Microcal、Northampton、MA)、およびPrism(Graphpad、La Jolla、CA)を使用してデータを分析した。iPSCから生成したヒト心筋細胞の細胞全体でのパッチクランプ記録のために、TC−324B加熱システム(Warner)によって温度を一定して36〜37℃に維持した。140mMのNaCl、5.4mMのKCI、1mMのMgCI
2、10mMのグルコース、1.8mMのCaCI
2および10mMのHEPES(25℃でNaOHを用いてpH7.4)を含有する通常のTyrode溶液で電流固定記録を行った。ピペット溶液は120mMのKCI、1mMのMgCI2、10mMのHEPES、3mMのMg−ATP、10mMのEGTA(25℃でKOHを用いてpH7.2)を含有した。ベラパミル(Sigma)をH2Oに溶解させ、ガラスバイアル中に10mMのストックとして調製した。ストック溶液を室温で10分間、勢いよく混合した。試験のために、外液を使用して化合物をガラスバイアル中に希釈した。希釈物は使用する前30分のうちに調製した。最終希釈物には等量のDMSO(0.1%)が存在していた。
【0159】
定量的RT−PCR。TRIZOLを使用して総mRNAを単離し、Superscript II cDNA合成キット(Invitrogen)を使用してcDNAを合成するために1μgを使用した。反応混合物0.25μLを用いて、SYBR(登録商標)Green Master Mix(Invitrogen)を使用したqPCRによって遺伝子発現を数量化した。発現値をGAPDHの発現のアベレージに対して正規化した。
【0160】
薬物処理。単一の収縮iPSC−CMを、即時分析のために医薬品で10分間処理し、次いで洗い流した。変力刺激実験のために、200μMのイソプロテレノールおよび400μMのプロプラノロールを細胞の培地に5日間連続して添加した。ベラパミル処理を、50μMおよび100μMをiPSC−CMの培養培地に10〜20日連続して毎日添加することによって行った。
【実施例3】
【0161】
アントラサイクリン毒性を有する患者由来の心筋細胞
アントラサイクリン誘導心毒性(およびアントラサイクリン誘導毒性に対する抵抗性)。ドキソルビシンなどのアントラサイクリンは白血病、ホジキンリンパ腫、ならびに他の器官の中でも、乳房、膀胱、胃、肺、卵巣、甲状腺、および筋肉の固形腫瘍を治療するために使用されている最先端の化学療法剤である。アントラサイクリンの主な副作用は心毒性であり、これにより、この化学療法剤を利用するレジメンを受けているレシピエントの多くに重度の心不全が生じる。アントラサイクリン誘導心毒性に対して易罹患性である個体ならびにアントラサイクリン誘導心毒性に対して易罹患性ではない個体から患者特異的iPSC−心筋細胞(iPSC−CM)を得た。
【0162】
これらの細胞は、心毒性化学療法薬を検出し、滴定するため、ならびにアントラサイクリン誘導心毒性に対する易罹患性/抵抗性に関与する遺伝子を同定するために有用である。アントラサイクリンに基づく化学レジメンを受けている、年齢が適合する患者を採用し、その患者にアントラサイクリン誘導心不全が発生するかどうかを評価した。皮膚試料を患者から採取し、線維芽細胞からiPSC−CMを生成した。
【0163】
線維芽細胞を単離し維持するための方法;患者特異的iPSC細胞株を誘導するための方法;および細胞の心臓分化のための方法を実施例1または実施例2に記載の通り実施した。
【実施例4】
【0164】
ARVDの患者由来の心筋細胞
不整脈源性右心室異形成症(ARVD)。ARVDは、右心室の不整脈および心臓突然死を生じる心臓デスモソームの常染色体優性疾患である。ARVDは、肥大型心筋症に次ぐ若年期の心臓突然死の主な原因である。ARVDに関する遺伝性の突然変異を有する患者のコホートならびに家族対応対照から患者特異的iPSC−心筋細胞(iPSC−CM)を得た。これらの細胞株は薬物スクリーニングのため、および疾患表現型に関与する分子標的を同定するために使用することができる。
【0165】
線維芽細胞を単離し維持するための方法;患者特異的iPSC細胞株を誘導するための方法;および細胞の心臓分化のための方法を実施例1または実施例2に記載の通り実施した。
【0166】
6人の患者の血液からiPSC−CMを作製した。2人の患者はPKP2遺伝子にP672fsX740 2013delC突然変異を有し、2人の患者はPKP2遺伝子にQ617X 1849C>T突然変異を有し、2人の患者は家族対応対照の対象であった。
【実施例5】
【0167】
LVNCの患者由来の心筋細胞
左心室非圧縮(LVNC、aka非圧縮心筋症)。LVNCは、胚形成の間の心筋(myocardium)(心筋(heart muscle))の発生が損なわれることによって生じる遺伝性心疾患である。LVNCを引き起こす突然変異を有する患者では、若年期に心不全および異常な心臓の電気生理が発生する。
【0168】
LVNC患者のコホートならびに家族対応対照の対象から患者特異的iPSC−心筋細胞(iPSC−CM)を得た。これらの細胞株は、薬物スクリーニングのため、および疾患表現型に関与する分子標的を同定するために使用することができる。
【0169】
線維芽細胞を単離し維持するための方法;患者特異的iPSC細胞株を誘導するための方法;および細胞の心臓分化のための方法を実施例1または実施例2に記載の通り実施した。
【実施例6】
【0170】
DILVの患者由来の心筋細胞
左室性単心室(DILV)。DILVは、左心房と右心房の両方が左心室に入り込む先天性心臓欠陥である。結果として、この欠陥を持って生まれた小児は機能的な心室腔を1つしか有さず、酸素添加血液を全身循環中に送り出すことが困難である。
【0171】
この疾患を有する1個体から患者特異的iPSC−心筋細胞(iPSC−CM)を得た。これらの細胞株は、薬物スクリーニングのため、および疾患表現型に関与する分子標的を同定するために使用することができる。
【0172】
線維芽細胞を単離し維持するための方法;患者特異的iPSC細胞株を誘導するための方法;および細胞の心臓分化のための方法を実施例1または実施例2に記載の通り実施した。
【実施例7】
【0173】
QT延長の患者由来の心筋細胞
QT延長(1型)症候群(LQT−1、KCNQ1突然変異)。QT延長症候群(LQT)は、心電図のQT期が持続し、その結果、不整脈および心臓突然死に対する易罹患性が増大する遺伝性不整脈性疾患である。LQTに関連する遺伝子が13種分かっている。
【0174】
最も一般的に突然変異するLQT遺伝子であり、この疾患の全症例の30〜35%に関与するKCNQ1遺伝子に突然変異を有するLQT患者のコホートから患者特異的iPSC−心筋細胞(iPSC−CM)を得た。遺伝子はG269Sミスセンス突然変異を有した。これらの細胞株は、薬物スクリーニングのため、および疾患表現型に関与する分子標的を同定するために使用することができる。
【0175】
線維芽細胞を単離し、維持するための方法;患者特異的iPSC細胞株を誘導するための方法;および細胞の心臓分化のための方法を実施例1または実施例2に記載の通り実施した。
【0176】
上記では、ただ単に本発明の原理が例示されている。当業者は本明細書においてはっきりとは記載されていない、または示されていないが、本発明の原理を具体化し、その主旨および範囲内に含まれる種々の取り合わせを考案することができることが理解されよう。さらに、本明細書において列挙されている全ての例および条件付きの言葉は、読者が本発明の原理および当技術分野を推進するために発明者らが与える概念を理解するために役立つことが主に意図されており、そのような具体的に列挙された例および条件に限定されないと解釈されるべきである。さらに、本明細書において、本発明の原理、態様および実施形態ならびにその特定の例が列挙されている全ての記載は、それらの構造的等価物および機能的等価物の両方を包含するものとする。さらに、そのような等価物は、現在公知の等価物および今後開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず、同じ機能を実施する、開発される任意の要素をどちらも包含するものとする。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、記載されている例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲および主旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。