特許第6388541号(P6388541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6388541流体および固体反発性のための表面の改質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388541
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】流体および固体反発性のための表面の改質
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20180903BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20180903BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20180903BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20180903BHJP
   A61L 33/00 20060101ALI20180903BHJP
   A61L 33/04 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   A61L29/08
   A61L29/12
   A61L31/08
   A61L31/12
   A61L33/00 110
   A61L33/04
【請求項の数】43
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2014-552304(P2014-552304)
(86)(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公表番号】特表2015-507507(P2015-507507A)
(43)【公表日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】US2013021056
(87)【国際公開番号】WO2013106588
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2016年1月8日
(31)【優先権主張番号】61/585,059
(32)【優先日】2012年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/692,079
(32)【優先日】2012年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/671,645
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/671,442
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド・イングバー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・シー・レスリー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・エル・ウォッターズ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・スーパー
(72)【発明者】
【氏名】ジョアンナ・アルゼンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・アルゼンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】ピルソク・キム
(72)【発明者】
【氏名】アナ・ウォーターハウス
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−170932(JP,A)
【文献】 国際公開第93/017077(WO,A1)
【文献】 特開昭60−259269(JP,A)
【文献】 特表2009−523890(JP,A)
【文献】 NATURE,2011年,Vol.477,p.443-447
【文献】 PNAS,2008年,Vol.105, No.47,p.18200-18205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑性表面を有する物品であって、
平滑な基材であって、
前記基材に共有結合される頭部基および前記頭部基に直接的または間接的に結合される官能基を含むフッ素含有単分子固着層であって、前記頭部基が、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、クリック反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、またはそれらの組み合わせを含む、前記固着層、ならびに、
前記官能基に対する親和性を有するペルフルオロカーボン油を含みかつ前記固着層の上に配置される潤滑層、を備え、前記固着層および前記潤滑層は非共有結合的な引力によって併せて維持される、前記基材を備え、
前記基材の平均粗度Raは、0.1ミクロン以下であり、
前記固着層および前記潤滑層は、前記ペルフルオロカーボン油と実質的に非混合性である物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成し、
前記滑性表面は、前記ペルフルオロカーボン油と実質的に非混合性である物質を反発する、前記物品。
【請求項2】
前記非混合性物質は、液体、複合流体、溶液、懸濁液、および固体からなる群から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記滑性表面は疎水性である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記滑性表面はオムニフォビックである、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記固着層の前記官能基は炭化水素を含み、前記固着層および前記潤滑層は、疎水性滑性表面を形成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記固着層の前記官能基は、アルカン、アルケン、アルキン、および芳香族化合物、ならびにそれらの組み合わせを含む、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記固着層の前記官能基は、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロオリゴエーテル、およびペルフルオロポリエーテルを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記固着層は、炭化水素またはペルフルオロカーボンテイルに共有結合されるシリル基を含み、前記固着層および前記潤滑層は、疎水性またはオムニフォビック滑性表面を形成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
前記固着層は、炭化水素またはペルフルオロカーボンテイルに共有結合されるホスホン酸基またはカルボン酸基を含み、前記固着層および前記潤滑層は、疎水性またはオムニフォビック滑性表面を形成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項10】
前記滑性表面は、水系および炭化水素系液体に対して滑性である、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記滑性表面は、生体液に対して滑性である、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記滑性表面は、非ヘパリン化血液に対して滑性である、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記滑性表面は、ガラスビーズを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記表面は、医療グレード物質または医療機器を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
物質の接着、吸着、表面媒介性塊形成、または凝固を防止する方法であって、
平均粗度Raが0.1ミクロン以下の平滑な基材に共有結合される頭部基および前記頭部基に直接的または間接的に結合される官能基を含むフッ素含有単分子固着層、ならびに前記官能基に対する親和性を有するペルフルオロカーボン油を含みかつ前記固着層の上に配置される潤滑層を備える、滑性表面を提供することであって、前記固着層および前記潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持され、前記頭部基は、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、クリック反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、またはそれらの組み合わせを含む、前記滑性表面を提供することと、物質の接着、吸着、表面媒介性塊形成、または凝固を防止するために、前記ペルフルオロカーボン油に非混合である非混合性物質を前記滑性表面に接触させることと、を含む、方法。
【請求項16】
前記基材は、アクリル、ガラス、ポリマー、金属、炭素、プラスチック、紙、セラミック、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基材は、前記固着層への曝露の前に前記表面を活性化するように処理される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
活性化は、酸処理、塩基処理、酸化、アンモニア化、プラズマ、またはマイクロ波処理を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記滑性表面は、疎水性である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記滑性表面は、オムニフォビックである、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記官能基は、炭化水素である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記官能基は、ペルフルオロカーボンである、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記非混合性物質は、非粘性および粘性液体、複合流体、半固体、粘着性液体、ならびに固体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記滑性表面は、血液の凝固を低減する、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記滑性表面は、線維素、線維素原、血小板、白血球、赤血球、および凝固因子の接着を低減する、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記非混合性物質は、添加剤を含有し、前記添加剤は、溶質、微粒子、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記非混合性物質は、前記表面によって反発され、また前記添加剤は、前記表面へ引き寄せられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記非混合性物質および前記添加剤は、前記表面によって反発される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記非混合性物質は、全血、血漿、血清、汗、糞便、尿、唾液、涙、膣液、前立腺液、歯肉滲出液、羊水、眼内液、脳脊髄液、精液、痰、腹水、膿、鼻咽頭液(nasopharengal fluid)、創傷滲出液、房水、硝子体液、胆液、耳垢、内リンパ、外リンパ、胃液、粘液、腹膜液、胸膜液、皮脂、嘔吐物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
前記非混合性物質は、アクチノバチルス、アシネトバクター(例えば、アシネトバクター・バウマンニ)、アエロモナス、ボルデテラ、ブレビバチルス、ブルセラ、バクテロイデス、バークホルデリア、ボレリア(Borelia)、桿菌、カンピロバクター、キャプノサイトファガ、カルジオバクテリウム、シトロバクター、クロストリジウム、クラミジア、エイケネラ、エンテロバクター、大腸菌属、フランシセラ、紡錘菌属、フラボバクテリウム、ヘモフィルス、ヘリコバクター、キンゲラ、クレブシエラ、レジオネラ、リステリア、レプトスピラ(Leptospirae)、モラクセラ、モルガネラ、マイコプラズマ、マイコバクテリウム、ナイセリア、パスツレラ、プロテウス、プレボテラ、プレシオモナス、シュードモナス、プロビデンシア、リケッチア、ステノトロホモナス、ブドウ球菌、連鎖状球菌(A群)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群)、ストレプトコッカス・ボビス、肺炎連鎖球菌、ストレプトミセス、サルモネラ、セラチア、赤痢菌、らせん菌、トレポネーマ、ベイヨネラ、ビブリオ、エルシニア、ザントモナス、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される細菌を含有する溶液または懸濁液である、請求項15に記載の方法。
【請求項31】
前記非混合性物質は、アスペルギルス、ブラストミセスデルマ・ティティディス、カンジダ、コクシジオイデス・イミティス、クリプトコッカス、カプスラーツム型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ズボジア型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ブラジルパラコクシジオイデス、スポロトリックス・シェンキィ、アブシジア・コリムビフェラ;リゾムコール・プシルス、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizous)属のメンバー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される菌類を含有する溶液または懸濁液である、請求項15に記載の方法。
【請求項32】
前記非混合性物質は、サイトメガロウイルス(CMV)、デング熱、エプスタイン−バーウイルス、ハンタウイルス、ヒトT細胞リンホトロピックウイルス(HTLV I/II)、パルボウイルス、肝炎、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、呼吸系発疹ウイルス(RSV)、水痘帯状疱疹、西ナイル、ヘルペス、ポリオ、天然痘、黄熱病、ライノウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス(インフルエンザウイルス)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるウイルスを含有する溶液または懸濁液である、請求項15に記載の方法。
【請求項33】
前記非混合性物質は、正常細胞、疾病細胞、寄生された細胞、癌細胞、異質細胞、幹細胞、および感染した細胞、微生物、ウイルス、ウイルス様粒子、細菌、バクテリオファージ、タンパク質、細胞成分、細胞小器官、細胞断片、細胞膜、細胞膜断片、ウイルス、ウイルス様粒子、バクテリオファージ、細胞質タンパク質、分泌タンパク質、シグナル伝達分子、包埋タンパク質、核酸/タンパク質複合体、核酸沈殿剤、染色体、核、ミトコンドリア、葉緑体、鞭毛、生体鉱物、タンパク質複合体、ならびにミニ細胞からなる群から選択される粒子を含有する溶液または懸濁液である、請求項15に記載の方法。
【請求項34】
滑性表面を有する物品を作製する方法であって、
平均粗度Raが0.1ミクロン以下の平滑な基材を、前記基材と反応性である頭部基および前記頭部基に直接的または間接的に結合される官能基を有する反応性分子と接触させて、前記平滑な基材上に共有結合されるフッ素含有単分子固着層を形成することであって、前記頭部基が、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、クリック反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、またはそれらの組み合わせを含む、前記固着層を形成することと、
前記固着層を、前記官能基に対する親和性を有するペルフルオロカーボン油と接触させて、前記固着層の上に配置される潤滑層を形成することであって、前記固着層および前記潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される、ことと、を含み、
前記固着層および前記潤滑層は、前記ペルフルオロカーボン油と非混合性である物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成し、
前記滑性表面は、前記ペルフルオロカーボン油と実質的に非混合性である物質を反発する、前記方法。
【請求項35】
前記固着層をペルフルオロカーボン油と接触させることは、ペルフルオロカーボン油を前記基材中の微細経路を通じて通過させることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記基材は、それを通じてペルフルオロカーボン油が補填される貯蔵容器を備える、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記基材は、細管を備え、前記固着層をペルフルオロカーボン油と接触させることは前記管を通じてペルフルオロカーボン油のボーラスを通過させることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記ペルフルオロカーボン油は、前記固着層上に補填される、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
血液の凝固を低減させる、または線維素、線維素原、血小板、白血球、赤血球、および凝固因子の接着を低減する方法であって、
血液を、血液の凝固に耐性のある表面に接して接触させるまたは貯蔵することを含み、
前記表面は、
平均粗度Raが0.1ミクロン以下の平滑な基材に共有結合される頭部基および前記頭部基に直接的または間接的に結合される官能基を含むフッ素含有単分子固着層であって、前記頭部基が、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、クリック反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、またはそれらの組み合わせを含む、前記固着層、ならびに、
前記官能基に対する親和性を有するペルフルオロカーボン油を含みかつ前記固着層の上に配置される潤滑層、を備え、前記固着層および前記潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される、前記方法。
【請求項40】
前記固着層と前記潤滑層は、前記ペルフルオロカーボン油と実質的に非混合性である、血液を含む生体物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成し、前記滑性表面での血液の凝固を低減する、請求項1記載の物品。
【請求項41】
前記医療機器は、カニューレ、カテーテル、中心線、抹消挿入中心カテーテル線、尿用カテーテル、脈管用カテーテル、腹膜透析カテーテル、および中心静脈カテーテル、カテーテルコネクタ、シャント、脈管用シャント、針、細管、毛細管、気管内管、人工呼吸器、注射器、および注射管コネクタからなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項42】
前記医療機器は、シャント、脈管用シャント、中心線、および細管からなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項43】
前記医療機器は、内視鏡、子宮鏡、膀胱鏡、羊水鏡、腹腔鏡、胃鏡、縦隔鏡、気管支鏡、食道鏡、鼻鏡、関節鏡、直腸鏡、大腸鏡、腎盂尿管鏡、血管鏡、胸腔鏡、咽頭鏡、および脳鏡からなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年1月10に出願された米国仮特許出願第61/585,059号および2012年8月22日に出願された米国仮特許出願第61/692,079号に対する優先権を主張し、これら双方は参照によりその全体を本明細書に取り込まれる。
【0002】
連邦政府の支援による研究における政府の権利に関する記述
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号5U01NS073474−03および米国国防総省によって授与されたN66001−11−1−4180により、政府の支援を得てなされた。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、概して液体、半固体、および固体間の摩擦を低減する、ならびに液体、半固体、および固体からの接着、吸着、および沈着を防止するように転換される表面に関する。
【背景技術】
【0004】
カテーテル、注射器、透析機器等の医療機器における使用のため、ならびに血液凝固または血餅形成の防止、石油パイプライン、食物および調理表面のため、ならびに凍着および氷晶形成の防止のために様々な市販の表面の分子または微粒子の接着、吸着、沈着、および生物付着を防止する物質の開発における成功は限られている。
【0005】
液体を反発することが可能である滑性界面を形成するように、粗いまたは多孔性の基材によって定位置に固定される流体を注入されたナノ/ミクロ構造基材からなる合成表面が作製されている。しかしながら、そのような表面は、潤滑液と該潤滑流体を保持することが可能な特定の粗度または多孔性を有する基材との特定の組み合わせに限定される。
【0006】
ガラスおよび金属酸化物のシラン処理は、その表面が他の物質をより引き寄せないまたはより引き寄せるように物質を改質するための一般的な方法である。薄ペルフルオロカーボン(「PFC」)層(文献内で説明されるようにオムニフォビック(omniphobic)またはアンフィフォビック(amphiphobic)である)は、複合流体中の生体分子から非特異的性(通常は疎水性)相互作用を低減するような表面のシラン処理によって生成される。これらの処理は、低濃度の溶質のガラス表面への吸着を化学的および生物学的に最小化するが、それ自身で血液凝固または分子吸着を完全に防止するには十分でない。
【0007】
フルオラス表面、すなわち、フッ化炭素部分を含有するように処理された表面は、マイクロアレイ表面を形成するために使用されている。例えば、対象の分子に接合されるペルフルオロカーボンドメインを有するガラススライドは、表面上に対象の分子を固定化するために使用されている。
【0008】
更に、フルオラス処理された微小電気機械式「MEM」機器は、MEMの製造における周知の問題、表面接着力がミクロ構造の機械的復元力より高いときに生じる静止摩擦に対処するために使用されている。提案されてきた1つの解決法は、MEMS表面を、「Teflon様」でありMEMS表面に共有結合される単分子コーティングでコーティングすることである。このアプローチは、液体の接着を防止することはできない。
【0009】
ポリマー種を使用してタンパク質吸着を最小化し血餅形成を制御することは、当該技術分野において既知である。例えば、Barstad,R.M,et al.,Thrombosis and haemostasis79,302−305(1998);Niimi,Y.,et al.,Anesth.Analg.89,573−579(1999);Chen,S.et al.,Polymer51,5283−5293(2010)を参照されたい。しかしながらそのような方法は、血液を反発すること、および抗凝固剤を用いずに血餅形成を防止することにおいて完全に有効ではない。例えば、ヘパリン化ポリマーコーティングされた製品が当該技術分野において既知である。しかしながら、ヘパリン化ポリマーコーティングされた製品は血餅接着を防止するのに十分でないため、機器上での凝固を完全に防止するために可溶性ヘパリンまたは抗凝固剤が血液に添加されなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Barstad,R.M,et al.,Thrombosis and haemostasis79,302−305(1998)
【非特許文献2】Niimi,Y.,et al.,Anesth.Analg.89,573−579(1999)
【非特許文献3】Chen,S.et al.,Polymer51,5283−5293(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
様々な市販の表面への分子または微粒子接着、その上での汚染、および血液凝固を防止する反発性表面に対する必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
滑性表面を有する物品が開示される。物品は、固着層を有する基材を備える。固着層は、基材に結合される頭部基と、頭部基に直接的または間接的に結合される官能基とを含む。物品はまた、官能基に対する親和性を有する潤滑液を含む、潤滑層を有する。潤滑層は固着層の上に配置され、該層類は非共有結合的な引力によって併せて維持される。固着層および潤滑層は、潤滑液と非混合性である物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成する。
【0013】
一態様では、物質の接着、吸着、表面媒介性塊形成、または凝固を防止するための方法が開示される。滑性表面は、固着層を含み、それは基材に結合される頭部基と、頭部基に直接的または間接的に結合される官能基とを含む。固着層の官能基に対する親和性を有する潤滑液が、潤滑層を生成するために適用される。固着層および潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される。そのように形成された滑性表面に接触される非混合性物質は、反発される。
【0014】
別の態様では、基材が、基材と反応性である頭部基と頭部基に直接的または間接的に結合される官能基とを有する反応性分子に接触される、滑性表面を有する物品を作製するための方法が開示される。併せて、それらは基材上に固着層を形成する。固着層は、官能基に対する親和性を有する潤滑液と接触されて、固着層の上に配置される潤滑層を形成する。固着層および潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される。固着層および潤滑層は、潤滑液と非混合性である物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成する。
【0015】
同様に、血液の凝固を低減するための方法も開示される。血液は、血液の凝固に耐性のある表面に接して接触または貯蔵される。この表面は、固着層を備え、それは基材に結合される頭部基と頭部基に直接的または間接的に結合される官能基とを含む。表面はまた、官能基に対する親和性を有する潤滑液を有する潤滑層を備える。潤滑層は、固着層の上に配置され、それらは非共有結合的な引力によって併せて維持される。特定の実施形態では、血液の凝固は、完全フッ素化液体を含む潤滑層を提供することによって耐えられる。
【0016】
溶液から溶質を抽出する方法が開示される。固着層を備える表面が提供される。固着層は、基材に結合される頭部基と、頭部基に直接的または間接的に結合される官能基とを含む。官能基に対する親和性を有する潤滑液を含む潤滑層は、固着層の上に配置される。固着層および潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される。表面は、1つ以上の溶質を含む溶液と接触され、少なくとも1つの溶質は、溶液より潤滑液に対して高い親和性を有する。
【0017】
1つ以上の実施形態では、頭部基は、基材に共有結合される、または基材上に吸着される。
【0018】
1つ以上の実施形態では、固着層は、表面上に単分子層を形成する。
【0019】
1つ以上の実施形態では、反発される物質は、液体、溶液、懸濁液、複合流体、および固体からなる群から選択される。
【0020】
1つ以上の実施形態では、滑性表面は、疎水性である、または超疎水性でさえある。他の実施形態では、滑性表面は、疎油性である、または超疎油性でさえある。また他の実施形態では、滑性表面は、オムニフォビックである、または超オムニフォビックでさえある。幾つかの実施形態では、表面は、両親媒性であってもよい。
【0021】
幾つかの実施形態では、官能基は炭化水素である。
【0022】
1つ以上の実施形態では、官能基は極性基であり、極性基は所望により、荷電ポリペプチド、ポリアニオン、ポリカチオン、極性ポリマー、多糖、アミン、カルボン酸、グアニジン、アルコール、スルフヒドリル、カルボキサミド、金属酸化物、無機酸化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
1つ以上の実施形態では、官能基はペルフルオロカーボンである。
1つ以上の実施形態では、官能基は部分フッ素化炭化水素である。
【0024】
幾つかの実施形態では、官能基は、ペルフルオロポリエーテル、ポリエーテル、多硫化物、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ両親媒性物質、およびポリ両性電解質、ならびに前述のポリマーのオリゴマー型からなってもよい。例示的ポリエーテルは、ポリ(酸化プロピレン)であり、オリゴマーポリエーテルは、オリゴ(アリーレンエーテルスルホン)であってもよく、ポリオレフィンの例としては、ポリプロピレンが挙げられる。
【0025】
特定の実施形態では、固着層の頭部基は、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、酸化物、硫化物、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、「クリック」反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、チオレート、金属チオレート、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、物理吸着もしくは化学吸着ないしは別の方法で非共有的に結合される部分、またはそれらの組み合わせを含む。
【0026】
特定の実施形態では、頭部基は、マレイミド、アクリレート、アクリルアミド、エポキシド、アジリジン、チイラン、アルデヒド、ケトン、アジド、アルキン、二硫化物、無水物、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ニトレート、アミジン、シラン、シロキサン、シアネート、アセチレン、シアニド、ハロゲン、アセタール、ケタール、ビオチン、シクロデキストリン、アダマンタン、およびビニルを含む。
【0027】
1つ以上の実施形態では、頭部基は、シラン、カルボキシレート、スルホネート、またはホスホネートである。
【0028】
1つ以上の実施形態では、表面は、アクリル、ガラス、ポリマー、金属、炭素、プラスチック、紙、セラミック、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
特定の実施形態では、表面は、ヒドロゲル、バイオポリマー、およびポリエステル等の生体適合性物質から選択されてもよい。
【0030】
具体的実施形態では、表面は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、アクリル、ポリスチレン、組織培養ポリスチレン、金属、ポリプロピレン、アクリル接着剤、シリコンウエハー、ポリスルホン、およびソーダ石灰ガラスからなる群から選択され、固着層は、ペルフルオロカーボンテイルに共有結合されるシリル基を含み、また潤滑層は、ペルフルオロカーボン油を含む。固着層および潤滑層は、非混合性物質を反発するオムニフォビック滑性表面を形成することができる。
【0031】
1つ以上の実施形態では、表面は、固着層への曝露の前に表面を活性化するように処理される。1つ以上の態様では、活性化は、酸または塩基処理、酸化、アンモニア化、プラズマ、およびマイクロ波処理(またはそれらの組み合わせ)を含む。表面の活性化はまた、固着層に伴うその後の改質のために反応性基または官能基を導入するような化学的沈着(蒸気または溶液)、アミノ分解、アクリル化、エステル交換、還元、求核または求電子置換、オゾン分解、または放射線照射を通じて実施されてもよい。
【0032】
1つ以上の実施形態では、表面は、血液の凝固を防止する。1つ以上の実施形態では、基材は、それを通じて潤滑液が補填される微細経路を有する。他の実施形態では、基材は、それを通じて潤滑液が補填される貯蔵容器を備える。また他の実施形態では、基材は、それを通じて潤滑液のボーラスが通過する細管である。
【0033】
先行する実施形態のいずれかでは、非混合性物質は、乾燥微粒子を含む微粒子であることができる固体、または固体表面である。他の実施形態では、非混合性物質は、粘性液体、非粘性、半固体、粘着性液体、および複合流体からなる群から選択される液体である。他の実施形態では、非混合性物質は、溶解される分子である。
【0034】
1つ以上の実施形態では、非混合性物質は、溶質、微粒子、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、添加剤を含有する。1つの実施形態では、非混合性物質は表面によって反発され、また添加剤は表面に引き寄せられる。別の実施形態では、非混合性物質と添加剤との双方は、表面によって反発される。
【0035】
1つ以上の実施形態では、非混合性物質は、体液である。体液は、全血、血漿、血清、汗、糞便、尿、唾液、涙、膣液、前立腺液、歯肉滲出液、羊水、眼内液、脳脊髄液、精液、痰、腹水、膿、鼻咽頭液(nasopharengal fluid)、創傷滲出液、房水、硝子体液,胆液、耳垢、内リンパ、外リンパ、胃液、粘液、腹膜液、胸膜液、皮脂、嘔吐物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0036】
1つ以上の実施形態では、非混合性物質は、細菌を含有する溶液または懸濁液である。細菌は、アクチノバチルス、アシネトバクター(例えば、アシネトバクター・バウマンニ)、アエロモナス、ボルデテラ、ブレビバチルス、ブルセラ、バクテロイデス、バークホルデリア、ボレリア(Borelia)、桿菌、カンピロバクター、キャプノサイトファガ、カルジオバクテリウム、シトロバクター、クロストリジウム、クラミジア、エイケネラ、エンテロバクター、大腸菌属、フランシセラ、紡錘菌属、フラボバクテリウム、ヘモフィルス、ヘリコバクター、キンゲラ、クレブシエラ、レジオネラ、リステリア、レプトスピラ(Leptospirae)、モラクセラ、モルガネラ、マイコプラズマ、マイコバクテリウム、ナイセリア、パスツレラ、プロテウス、プレボテラ、プレシオモナス、シュードモナス、プロビデンシア、リケッチア、ステノトロホモナス、ブドウ球菌、連鎖状球菌(A群)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群)、ストレプトコッカス・ボビス、肺炎連鎖球菌、ストレプトミセス、サルモネラ、セラチア、赤痢菌、らせん菌、トレポネーマ、ベイヨネラ、ビブリオ、エルシニア、ザントモナス、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。1つ以上の実施形態に従う滑性表面は、細菌による接着、成長、または生物付着を防止する。
【0037】
1つ以上の実施形態では、非混合性物質は、菌類を含有する溶液または懸濁液である。真菌は、アスペルギルス、ブラストミセスデルマ・ティティディス、カンジダ、コクシジオイデス・イミティス、クリプトコッカス、カプスラーツム型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ズボジア型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ブラジルパラコクシジオイデス、スポロトリックス・シェンキィ、アブシジア・コリムビフェラ;リゾムコール・プシルス、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizous)属のメンバー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。1つ以上の実施形態による滑性表面は、真菌による接着、成長、または生物付着を防止する。
【0038】
1つ以上の実施形態では、物質は、ウイルスを含有する溶液または懸濁液である。ウイルスは、サイトメガロウイルス(CMV)、デング熱、エプスタイン−バーウイルス、ハンタウイルス、ヒトT細胞リンホトロピックウイルス(HTLVI/II)、パルボウイルス、肝炎、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、呼吸系発疹ウイルス(RSV)、水痘帯状疱疹、西ナイル、ヘルペス、ポリオ、天然痘、黄熱病、ライノウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス(インフルエンザウイルス)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。1つ以上の実施形態による滑性表面は、ウイルスによる接着または成長を防止する。
【0039】
1つ以上の実施形態では、物質は、正常細胞、疾病細胞、寄生された細胞、癌細胞、異質細胞、幹細胞、および感染した細胞、微生物、ウイルス、ウイルス様粒子、細菌、バクテリオファージ、タンパク質、細胞成分、細胞小器官、細胞断片、細胞膜、細胞膜断片、ウイルス、ウイルス様粒子、バクテリオファージ、細胞質タンパク質、分泌タンパク質、シグナル伝達分子、包埋タンパク質、核酸/タンパク質複合体、核酸沈殿剤、染色体、核、ミトコンドリア、葉緑体、鞭毛、生体鉱物、タンパク質複合体、ならびにミニ細胞からなる群から選択される粒子を含有する溶液または懸濁液である。
【0040】
また別の態様では、滑性表面を有する物品は、固着層を備える無菌基材を含み、固着層は、基材に結合される頭部基および頭部基に直接的または間接的に結合される官能基、ならびに官能基に対する親和性を有する潤滑液を含みかつ固着層の上に配置される潤滑層を備え、固着層および潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持され、固着層および潤滑層は、潤滑液と非混合性である物質と接触するように構成および配設される滑性表面を形成する。
【0041】
1つ以上の実施形態では、基材は、殺菌の前にシラン処理される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
以下の図面は、単に例証を目的として提供されており、限定的であることを意図されない。
図1】本開示に従う滑性液体固定化コーティング表面の概略図であり、反発性物質と非混合性である潤滑液分子の潤滑層と相互作用し、またそれらを保持するために必要な化学的特定を示す固定化された分子の固着層である。
図2】1つ以上の実施形態による、表面を潤滑液で補填し、反発性表面の下に格納される貯蔵容器を有する、超滑性表面の概略図である。
図3】それが暴露されるであろう液体(単数または複数)に対する表面の親和性を調製するために使用される包括的架橋結合化学の概略図であり、R1は、基材の表面の反応性部分を表し、R2は、表面を改質するために使用される二官能性分子上の反応性部分を表す。
図4A】それを通じてPFC油のプラグがシラン処理および非シラン処理細管を通じて汲み上げられ、氷で冷却された非処理ヒト血液が続く、PDMS細管(図4A)、非処理ヒト血液の氷上への接着の防止に成功したPFC油の重ねコーティングを伴うシラン処理PDMS細管の3分(図4B)および45分(図4C)の組み合わせを示す、一連の画像である。図中の透明な液滴はPFC油である。
図4B】それを通じてPFC油のプラグがシラン処理および非シラン処理細管を通じて汲み上げられ、氷で冷却された非処理ヒト血液が続く、PDMS細管(図4A)、非処理ヒト血液の氷上への接着の防止に成功したPFC油の重ねコーティングを伴うシラン処理PDMS細管の3分(図4B)および45分(図4C)の組み合わせを示す、一連の画像である。図中の透明な液滴はPFC油である。
図4C】それを通じてPFC油のプラグがシラン処理および非シラン処理細管を通じて汲み上げられ、氷で冷却された非処理ヒト血液が続く、PDMS細管(図4A)、非処理ヒト血液の氷上への接着の防止に成功したPFC油の重ねコーティングを伴うシラン処理PDMS細管の3分(図4B)および45分(図4C)の組み合わせを示す、一連の画像である。図中の透明な液滴はPFC油である。
図5】PFC油(トリデカフルオロテトラハイドロオクチルトリクロロシラン)の薄い液体層でコーティングされたシラン処理PDMS表面からなる超滑性表面によって反発される(図5B(ii))が、非処理かつ非改質PDMS表面(図5A(i))、PFC油を伴う非シラン処理PDMS(図5A(ii))、および液体油層を伴わないシラン処理PDMS(図5B(i))には接着する抗凝固剤を伴わない新鮮なヒト血液を示す、一連の画像である。
図6】血液の液滴が、傾動前(図6A)および後(図6B)の様々な表面処理を有するPDMSシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質PDMS(図6B(i))、PFC油(トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン)を伴うPDMS(図6B(ii))、およびシラン処理PDMS(図6B(iii))に接着したが、薄いPFC油層でコーティングされたシラン処理PDMSによって完全に反発された(図6B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図7】血液の液滴が、傾動前(図7A)および後(図7B)の様々な表面処理を有するアクリルシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質アクリル(図7B(i))、PFC油を伴うアクリル(図7B(ii))、およびシラン処理アクリル(図7B(iii))に接着したが、薄いPFC油層でコーティングされたシラン処理アクリルによって完全に反発された(図7B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図8】血液の液滴が、傾動前(図8A)および後(図8B)の様々な表面処理を有する組織培養ポリスチレンシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質組織培養ポリスチレン(図8B(i))、PFC油を伴う組織培養ポリスチレン(図8B(ii))、およびシラン処理組織培養ポリスチレン(図8B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理組織培養ポリスチレンによって完全に反発された(図8B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図9】血液の液滴が、傾動前(図9A)および後(図9B)の様々な表面処理を有するポリスチレンシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質ポリスチレン(図9B(i))、PFC油を伴うポリスチレン(図9B(ii))、およびシラン処理ポリスチレン(図9B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理ポリスチレンによって完全に反発された(図9B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図10】血液の液滴が、傾動前(図10A)および後(図10B)の様々な表面処理を有するチタンシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質チタン(図10B(i))、PFC油を伴うチタン(図10B(ii))、およびシラン処理チタン(図10B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理チタンによって完全に反発された(図10B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図11】血液の液滴が、傾動前(図11A)および後(図11B)の様々な表面処理を有するソーダ石灰ガラスに適用されており、血液は、非処理かつ非改質ソーダ石灰ガラス(図11B(i))、PFC油を伴うソーダ石灰ガラス(図11B(ii))、およびシラン処理ソーダ石灰ガラス(図11B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理ソーダ石灰ガラスによって完全に反発された(図11B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図12】血液の液滴が、傾動前(図12A)および後(図12B)の様々な表面処理を有するポリプロピレンシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質ポリプロピレン(図12B(i))、PFC油を伴うポリプロピレン(図12B(ii))、およびアクリル接着剤を伴うシラン処理ポリプロピレン(図12B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理ポリプロピレンによって完全に反発された(図12B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図13】血液の液滴が、傾動前(図13A)および後(図13B)の様々な表面処理を有するアクリル接着剤を伴うポリプロピレンに適用されており、血液は、非処理かつ非改質アクリル接着剤を伴うポリプロピレン(図13B(i))、PFC油を伴うアクリル接着剤を伴うポリプロピレン(図13B(ii))、およびアクリル接着剤を伴うシラン処理ポリプロピレン(図13B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うアクリル接着剤を伴うシラン処理ポリプロピレンによって完全に反発された(図13B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図14】血液の液滴が、傾動前(図14A)および後(図14B)の様々な表面処理を有するシリコンウエハーに適用されており、血液は、非処理かつ非改質シリコンウエハー(図14B(i))、PFC油を伴うシリコンウエハー(図14B(ii))、およびシラン処理シリコンウエハー(図14B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理シリコンウエハーによって完全に反発された(図14B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図15】血液の液滴が、傾動前(図15A)および後(図15B)の様々な表面処理を有するポリカーボネートシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質ポリカーボネート(図15B(i))、PFC油を伴うポリカーボネート(図15B(ii))、およびシラン処理ポリカーボネート(図15B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理ポリカーボネートによって完全に反発された(図15B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図16】血液の液滴が、傾動前(図16A)および後(図16B)の様々な表面処理を有するポリスルホンシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質ポリスルホン(図16B(i))、PFC油を伴うポリスルホン(図16B(ii))、およびシラン処理ポリスルホン(図16B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理ポリスルホンによって完全に反発された(図16B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図17】血液の液滴が、傾動前(図17A)および後(図17B)の、PDMSを0.1マイクロメートルの平均粗度を有するステンレス鋼上で硬化させた様々な表面処理を有する平滑なPDMSシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質PDMS(図17B(i))、PFC油を伴うPDMS(図17B(ii))、およびシラン処理PDMS(図17B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理PDMSによって完全に反発された(図17B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図18】血液の液滴が、傾動前(図18A)および後(図18B)の、PDMSを1.0マイクロメートルの平均粗度を有するステンレス鋼上で硬化させた様々な表面処理を有する粗いPDMSシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質の粗いPDMS(図18B(i))、PFC油を伴う粗いPDMS(図18B(ii))、およびシラン処理された粗いPDMS(図18B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理された粗いPDMSによって完全に反発された(図18B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図19】血液の液滴が、傾動前(図19A)および後(図19B)の、PDMSを2.0マイクロメートルの平均粗度を有するステンレス鋼上で硬化させた様々な表面処理を有するPDMSシートに適用されており、血液は、非処理かつ非改質のより粗いPDMS(図19B(i))、PFC油を伴うより粗いPDMS(図19B(ii))、およびシラン処理されたより粗いPDMS(図19B(iii))に接着したが、PFC油コーティングを伴うシラン処理されたより粗いPDMSによって完全に反発された(図19B(iv))ことを示す、一連の画像を示す。
図20】それぞれ、非傾動(図20A)および傾動(図20B)状態で、抗凝固剤を含まない血液の液滴を含有する、2枚のプラズマ処理ソーダ石灰ガラスのスライドを示す。
図21】非傾動(図21A)および非傾動(図21B)状態の、1炭素長のフッ素添加炭素テイルを有する分子(1−PFC)でシラン処理された、プラズマ処理されたトリフルオロプロピルトリクロロシラン処理ソーダ石灰ガラススライドの画像を示し、血液がPFC油を伴わないプラズマ処理された1−PFC処理ガラススライド(図21B(i))に接着したが、多くの血液がPFC油コーティングを伴うプラズマ処理された1−PFC処理ガラススライド上で反発される(図21B(ii))ことを示す。
図22】非傾動(図22A)および非傾動(図22B)状態の、4炭素長のフッ素添加炭素テイルを有する分子(4−PFC)でシラン処理された、プラズマ処理されたノナフルオロヘキシルトリクロロシラン処理ソーダ石灰ガラススライドの画像を示し、血液がPFC油を伴わないプラズマ処理された4−PFC処理ガラススライド(図22B(i))に接着したが、全ての血液がPFC油コーティングを伴うプラズマ処理された4−PFC処理ガラススライド上で反発される(図22B(ii))ことを示す。
図23】非傾動(図23A)および非傾動(図23B)状態の、6炭素長のフッ素添加炭素テイルを有する分子(6−PFC)でシラン処理された、プラズマ処理されたトリデカフルオロテトラハイドロオクチルトリクロロシラン処理ソーダ石灰ガラススライドの画像を示し、血液がPFC油を伴わないプラズマ処理された6−PFC処理ガラススライド(図23B(i))に接着したが、全ての血液がPFC油コーティングを伴うプラズマ処理された6−PFC処理ガラススライド上で反発される(図23B(ii))ことを示す。
図24】非傾動(図24A)および非傾動(図24B)状態の、8炭素長のフッ素添加炭素テイルを有する分子(8−PFC)でシラン処理された、プラズマ処理されたヘプタデカフルオロテトラハイドロデシルトリクロロシラン処理ソーダ石灰ガラススライドの画像を示し、血液がPFC油を伴わないプラズマ処理された8−PFC処理ガラススライド(図24B(i))に接着したが、全ての血液がPFC油コーティングを伴うプラズマ処理された8−PFC処理ガラススライド上で反発される(図24B(ii))ことを示す。
図25】プラズマ処理されたガラススライドであって、鉱油が一方のスライドに適用され(図25A(ii)および図25B(ii))、抗凝固剤を含まない血液が双方のスライドに分注され、スライドが非傾動(図25A)および傾動(図25B)されている、一連の画像を示す。
図26】直鎖オクタン(C8)テイルを伴うシランで更に改質されたプラズマ処理されたガラススライドであって、鉱油が一方のスライドに適用され(図26A(ii)および図26B(ii))、抗凝固剤を含まない血液が双方のスライドに分注され、スライドが非傾動(図26A)および傾動(図26B)されている、一連の画像を示す。
図27】2つの基材が互いに接着することを防止するのに有用な、1つ以上の実施形態による滑性表面の概略図である。
図28】プラズマ処理されていないガラススライドであって、PFC油が一方のスライドに適用され(図28A(ii)、また鉱油がもう一方のスライドに適用され(図28B(ii))、抗凝固剤を含まない血液が非傾動(図28A)および傾動(図28B)状態で各スライドに分注されている、一連の画像を示す。
図29】エタノール中で5体積/体積%でシラン処理された(ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、Gelest、SIN6597.6)1mmガラスビーズであって、次に(i)PFC油(Fluorinert FC−70)中に浸漬してビーズ上に超滑性表面を生成し、(ii)抗凝固剤を含まないヒト血液に暴露し、(iii)PBS溶液で濯いだ3枚の画像を示し、血液物質の接着をほとんど示していない。
図30】(i)ビーズの周りに固体血餅を形成する、凝固剤を含まない血液に暴露され、洗浄された非改質ガラスビーズ、(ii)ビーズ上にほんの少量の血液物質の接着を示した、ビーズ上に分注された血液がPBSで洗浄された後のシラン処理されたPFC油コーティングビーズ、ならびに(iii)比較のための、抗凝固剤を含まない血液への曝露前の、PFC油コーティングを伴うシラン処理されたビーズを示す。
図31A】1つ以上の実施形態による、反発性液体、および反発性液体中に含有される溶質、固体微粒子、またはそれらの組み合わせが1つ以上の実施形態による基材へ接着することを防止する超滑性表面の概略図である。
図31B】1つ以上の実施形態による、反発性液体が基材へ接着することを防止するが、溶質、微粒子、またはそれらの組み合わせが基材上または潤滑液中に接着する、または保持されることを可能にする、超滑性表面の概略図である。
図31C】1つ以上の実施形態による、反発性液体が基材へ接着することを防止するが、特定の溶質および/または微粒子に対する超滑性表面の選択的親和性を示す超滑性表面の概略図である。
図32】PETE製の市販のプラスチックケチャップ瓶が、瓶の壁上のケチャップの沈着を防止する超滑性表面を生成するように、シランで改質され、またPFC油で処理されることが可能であることを示す一連の画像である。
図33A】抗凝固剤を含まない血液への曝露後の非処理または処理医療グレードPVC管内の血液残留物を示す一連の写真であり、(図33A)非処理管、(図33B)FC−70でコーティングされ、殺菌されていない、(図33C)FC−70でコーティングされ、殺菌されている、(図33D)PFDでコーティングされ、殺菌されていない、および(図33E)PFDでコーティングされ、殺菌されている。
図33B】抗凝固剤を含まない血液への曝露後の非処理または処理医療グレードPVC管内の血液残留物を示す一連の写真であり、(図33A)非処理管、(図33B)FC−70でコーティングされ、殺菌されていない、(図33C)FC−70でコーティングされ、殺菌されている、(図33D)PFDでコーティングされ、殺菌されていない、および(図33E)PFDでコーティングされ、殺菌されている。
図33C】抗凝固剤を含まない血液への曝露後の非処理または処理医療グレードPVC管内の血液残留物を示す一連の写真であり、(図33A)非処理管、(図33B)FC−70でコーティングされ、殺菌されていない、(図33C)FC−70でコーティングされ、殺菌されている、(図33D)PFDでコーティングされ、殺菌されていない、および(図33E)PFDでコーティングされ、殺菌されている。
図33D】抗凝固剤を含まない血液への曝露後の非処理または処理医療グレードPVC管内の血液残留物を示す一連の写真であり、(図33A)非処理管、(図33B)FC−70でコーティングされ、殺菌されていない、(図33C)FC−70でコーティングされ、殺菌されている、(図33D)PFDでコーティングされ、殺菌されていない、および(図33E)PFDでコーティングされ、殺菌されている。
図33E】抗凝固剤を含まない血液への曝露後の非処理または処理医療グレードPVC管内の血液残留物を示す一連の写真であり、(図33A)非処理管、(図33B)FC−70でコーティングされ、殺菌されていない、(図33C)FC−70でコーティングされ、殺菌されている、(図33D)PFDでコーティングされ、殺菌されていない、および(図33E)PFDでコーティングされ、殺菌されている。
図34】プラズマ処理、シラン処理、ならびにプラズマ処理およびシラン処理の前後のPMMA、ポリスルホン、およびシリコンウエハー基材上で実施された接触角測定を示す。
図35】その後に潤滑液中での浸漬コーティングを伴うプラズマ処理、シラン処理、ならびにプラズマ処理およびシラン処理の前後のPMMA基材上で実施された水、ヘキサデカン、および血液を用いた傾斜角測定を示す。
図36】ヒト血液に暴露された、様々なコーティング表面を伴うおよび伴わないポリスルホン表面ならびに鋼基材を示す。
図37】非処理ポリスルホン表面およびFC−70でコーティングされたシラン処理ポリスルホン表面上の血栓蓄積の広視野および狭視野での走査型電子顕微鏡画像を示す。
図38】様々な異なるコーティング表面の形成前後のPMMA基材上での血栓蓄積を示す、線維素原のコーティングされた面積割合の時間に対するプロットである。
図39】様々な異なるコーティング表面の形成前後のPMMA基材上で実施された生体内研究における低減された血栓蓄積を示す。
図40】コーティングされたPVC細管およびカテーテルにおいて低減された血栓蓄積を示す、非処理およびコーティングされたPVC細管およびカテーテルの断面図を示す。
図41】コーティングされた標本において低減された血栓蓄積を示す、非処理およびコーティングされた標本の血栓重量測定を示す。
図42】裸アルミニウム(Al)、オキシ水酸化アルミニウム(Al−B)、フルオロ官能化オキシ水酸化アルミニウム(Al−BF)、および純フルオロ脂肪族リン酸エステルフッ素系界面活性剤(FS100)のFT−IRスペクトルを示す。
図43】ペルフルオロカーボンを伴わないガラスに張り付くが、ペルフルオロカーボンで処理された表面には張り付かない、線維素原粒子の光学的画像を示す。
図44】ペルフルオロカーボンを伴わないガラスに張り付くが、ペルフルオロカーボンで処理された表面には張り付かない、蛍光標識された血栓線維素原粒子の光学的画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
液体、液体中に含有される分子または微粒子、および乾燥固体に対して超反発性である固体表面を作製するための方法が説明される。更に、2つの固体表面間の接着および摩擦を低減するための方法が提供される。開示される滑性液体固定化コーティング表面は、潤滑液の薄層と相互作用しそれを保持する下方基材に固定される固着層を含む、合成表面である。固着層は、下にある表面と選好的に相互作用し、潤滑液と良好に相互作用する表面特性を有する官能基を環境に提供する頭部基を有する部分を含む。該部分は、下にある表面上に配設されて、固定化された分子固着層を表面上に形成する。潤滑層は、固着層の上に少なくとも1つの単分子層を形成し、また固着層および潤滑層は、非共有結合的な引力によって併せて維持される。
【0044】
本発明の特定の実施形態は概して、ポリマー、ガラス、金属、金属酸化物、または、有機リガンドおよび有機リガンドの混合物による複合基材の表面コーティング、ならびに液体潤滑剤を化学的に官能化された基材上へ注入することによって滑性表面を形成するためのそのような化学的に改質された基材の使用に関する。
【0045】
本発明の特定の実施形態は、有機リガンドの組成物、ならびに適用される液体潤滑剤に伴う表面エネルギー、親和性、および適合性の制御と官能化された基材上のそのような潤滑剤の改善された安定性および保持とを提供するコーティングされた基材を形成する方法を提供する。
【0046】
化学的に官能化された基材は、化学的に官能化された表面上に潤滑剤を注入することによって超平滑性、全反発性、自己回復型、抗凝固性、および滑性の表面を形成する場合に有用である。組成物は、リガンドの性質を変化させることによって、使用される潤滑剤の種類および反発される異質物質の種類の調整、または液体、気体、および固体ホストを含む様々なホスト媒体および剪断条件における保持される潤滑剤の長期の安定性の達成を可能にする。
【0047】
例証的な超反発性表面200が図1に示される(正確な縮尺率ではない)。図1を参照すると、液体からなる非常に薄い潤滑層220を結合および保持する化学的特性を示す固定化された分子の固着層210が、基材230に結合される。基材230は、平滑なまたは粗い表面であることができる。固定化された分子固着層は、基材230に共有結合される、または基材230上に吸着される。潤滑液は、表面改質された基材に適用される。表面改質固着層は、潤滑液の濡れ特性を強化し、それが薄い潤滑層を形成することを可能にする。固定化された分子固着層は、潤滑液が、平滑なまたは粗い基材230に添加され、また依然非混合性物質を反発することを可能にする。反発性物質240は、反発されるべき物質であり、液体、液体内に含有される微粒子、複合流体、乾燥固体、または固体表面であることができる。潤滑液(またしたがって、下にある固着層の組成)の選択は、その中で反発性物質が非混合性である潤滑層を提供するようになされる。
【0048】
幾つかの実施形態では、固着層は、下にある表面上に吸着される。幾つかの実施形態では、固着層は、下にある基材上に接着によって形成される。
【0049】
他の実施形態では、固着層は、図2に例証される通り、下にある表面に共有結合されることができる。基材は、表面に結合される固定化された分子固着層を含有する。図2を参照すると、固定化された分子固着層110は、基材100に対する化学結合を提供する頭部領域120を含む。固定化された分子固着層110はまた、テイル領域130を含む。固定化された分子固着層のテイル領域は、所望の特性を提供するように基材の表面特性を変更する。例えば、反発性物質の性質に応じて、固定化された分子固着層は、表面の疎油性、疎水性、オムニフォビック性を増加させることができる。テイル領域は、例えば、処理された表面に適用される潤滑液の可溶化分子と相互作用する。したがって、テイル領域は、非共有結合によって潤滑液の分子を保持する。テイル領域と潤滑液の分子とは、潤滑液の分子が表面上に潤滑層140を形成するように、表面上に配設される。潤滑液と固着層の官能領域との相互作用に基づく親和性のために、潤滑層は、非常に薄くあることができ、また僅か1つの分子層であることができる。
【0050】
潤滑層140は、固着層110を表面100上で固定化し、固定化された単分子表面層110を含有する表面に潤滑液を適用することによって、形成される。潤滑液は、基材の処理された表面を湿潤させ、潤滑層140を形成する。固着層110および潤滑層140は、非共有結合的な引力によって併せて維持される。併せて、基材上の基材および潤滑層は、分子および粒子による接着に耐え、また特定の非混合性流体を反発する滑性表面を形成する。これは、物質に、表面へ接着、結合、汚染させることなく、または血液等の生体液の場合には凝固させることなく、高流速を含む様々な流速における物質の通過を可能にする。したがって、これらの表面は、実験室、医療機器上、医療設備、抗凝固および抗生物膜形成を含む医学用途のため、工業用途のため、商業用途のため、および他の実践的用途のため等、幅広い環境で使用されることができる。本明細書で使用するとき、「環境物質」または「環境液体」への言及は、それに対して本開示による超滑性層が反発するまたは接着を低減するように設計される、流体又は固体または他の物質を指す。例えば、「反発性物質」、「反発性液体」、「反発されるべき物質」、「反発されるべき流体」、「反発されるべき液体」等の他の用語は、そのような同様の物質を示すことを意味される。
【0051】
1つの実施形態では、特に反発または排除されるべき物質が疎油性液体中で非混合性であるときに、ペルフルオロカーボン(「PFC」)油が潤滑液として使用される。「Teflon(登録商標)様」PFC油は、例えば、フルオラス表面等の表面上の「Teflon(登録商標)様」層によって表面上に保持され、固着層として働く。処理されたフルオラス表面は、他のフッ化炭素に対する親和性を有し、したがってPFC油が処理された表面に適用されると、表面は、液体の接着に耐え物質を反発するPFC油の薄い層によって湿潤され、またそれを保持する。
【0052】
基材
多くの種類の基材が、本開示に従って使用されることができる。概して、化学的に反応性の表面(または、化学的に反応性の表面を提供するように活性化されることができる表面)を有する固体が、固着層および表面層に適用される潤滑層と相互作用する、およびそれらを固定化するために使用されることができる。1つの実施形態では、表面は平滑である。他の実施形態では、表面は、任意の表面粗度に限定されない。
【0053】
本明細書に開示される液体反発性表面は、下にある基材の幾何学から独立した特性を有する。したがって、基材の幾何学は、様々な物質の構成に適合するような任意の形状、形態、または構成であることができる。液体反発性表面がとることができる形状、形態、および構成の非限定的例としては、略球形状(例えば、ビーズ)(図29および30参照)、管状(例えば、カニューレ、コネクタ、カテーテル、針、毛細管、または注射器用)(図4A〜4C参照)、平面的(例えば、顕微鏡スライド、プレート、ウエハー、フィルム、または実験室作業台への適用のため)(図5〜26および図28参照)、または任意形状(例えば、ウエル、ウエルプレート、ペトリ皿、タイル、広口瓶、フラスコ、ビーカー、バイアル、試験管、カラム、容器、キュベット、瓶、ドラム、大桶、またはタンク)(図32参照)が挙げられる。基材は、可撓性または剛性の固体であることができる。
【0054】
幾つかの実施形態では、基材は、例えば、医療用途において使用される可撓性管または細管等、可撓性である。図4A−4Cは、本発明の1つ以上の実施形態に従って処理し、液体超反発性にした可撓性PDMS細管を示す。
【0055】
基材は、固定化された分子固着層を形成するような表面改質が可能な任意の物質であることができる。多くの好適な物質が市販されており、または当該技術分野において既知である様々な製造技術によって作製することができる。本明細書に説明される超滑性表面を調製するために使用することができる表面の非限定的な例としては、例えば、ガラス、ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ポリビニル、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン、ポリウレタン、シリコーン等)、金属(例えば、ステンレス鋼、ニチノール、チタン、金、白金、銀、アルミニウム、コバルトクロム等)、紙、プラスチック、様々な形態の炭素(例えば、ダイヤモンド、グラファイト、黒色炭素等)、金属酸化物および他のセラミック物質、複合物質、上述の組み合わせ等が挙げられる。
【0056】
特定の実施形態では、基材は、意図される機器の使用と適合性があるように選択される。例えば、医療機器においては、固体物質は、安全性および生体適合性に関するFDA基準に合うことが好ましい。
【0057】
好適な基材は、その天然形態において反応性表面部分を含有するか、または固着する化合物と結合するための好適な反応性部分を提供するように処理されることができる。例示的な反応性表面部分としては、酸化物、水酸化物、カルボキシル基、カルボニル基、フェノール、エポキシ、キノン、およびラクトン基等の酸素含有表面基、アミノ、C=N基、アジド、アミド、ニトリル基、ピロール様構造等の窒素含有表面基、チオール等の硫黄含有部分等、ならびにアルキンおよびアルケン等の反応性炭素含有表面基が挙げられる。
【0058】
表面は、表面を活性化する、およびそれを表面改質に従うようにするように、周知の技術を用いて処理されることができる。例示的な表面処理としては、酸または塩基処理、酸化、アンモニア化、プラズマ、マイクロ波処理、および様々なエッチング技術が挙げられる。
【0059】
固着層
1つ以上の実施形態によると、基材は、潤滑液に対する親和性を有し、また潤滑液を保持することが可能な固着層を基材上に提供することによって改質される。強いオムニフォビック特性を有することが既知の物質は、大部分の親水性または疎水性基材上に良好に接着しない、または広がらない。同様に、強い疎水性特性を有することが既知の物質は、大部分の親水性またはオムニフォビック基材上に良好に接着しない、または広がらず、また強い親水性特性を有することが既知の物質は、大部分の疎水性またはオムニフォビック基材上に良好に接着しない、または広がらない。適切な固定化された分子固着層の適切な選択は、そのような液体の濡れ特性を改善することができ、またしたがって、優れた液体反発特性を有する表面を提供することができる。
【0060】
概して、固着層は、基材に共有結合する、または基材上に吸着される頭部基と、潤滑層と非共有的に相互作用して潤滑層を表面上に保持する官能基とを含む。この固着層は、少なくとも1つの単分子層を基材上に形成する。幾つかの実施形態では、この層は、基材上に複数の単分子層を形成する。
【0061】
幾つかの実施形態では、固着層は、下にある基材上に接着によって形成される。接着は、異種粒子および/または表面が互いに付こうとする傾向である。固着層を形成するために採用されてもよい非限定的な接着力としては、機械的力、ファンデルワールス力、または静電気力のうちの1つ以上が挙げられる。
【0062】
幾つかの実施形態では、固着層は、下にある基材と共有結合を形成する。固着層は、官能性テイルを担持する二官能性分子の反応性頭部基(図3中の「R2」)と、基材310の表面上の反応性種(図3中の「R1」)との反応によって調製されることができる。R2とR1との反応は、官能基を基材の表面上に固定する共有結合320を形成する。例えば、表面上の反応性酸素部分(「R1」)は、完全フッ素化またはポリフッ素化オルガノシランのトリクロロシラン部分(「R2」)と反応して、シロキシ(Si−O)結合を形成し、曝露された完全フッ素化またはポリフッ素化テイルの改質された表面を付与する。
【0063】
例として、反応性頭部基(R2)は、基材の表面上の酸化物、水酸化物、カルボキシル、カルボニル、フェノール、エポキシ、キノン、およびラクトン基等の酸素含有表面基(R1)、アミノ、C=N基、アミド、アジド、ニトリル基、ピロール様構造等の窒素含有表面基(R1)、チオール等の硫黄含有部分等、ならびにアルキンおよびアルケン等の反応性炭素含有表面基と反応する基である。
【0064】
R1とR2との反応に際して形成する基の幾つかの例としては、エーテル、シリルエーテル、シロキサン、カルボン酸のエステル、スルホン酸のエステル、スルフィン酸のエステル、硫酸のエステル、ホスホン酸のエステル、ホスフィン酸のエステル、リン酸のエステル、カルボン酸のシリルエステル、スルホン酸のシリルエステル、スルフィン酸のシリルエステル、硫酸のシリルエステル、ホスホン酸のシリルエステル、ホスフィン酸のシリルエステル、リン酸のシリルエステル、酸化物、硫化物、炭素環、少なくとも1個の酸素原子を有する複素環、少なくとも1個の窒素原子を有する複素環、少なくとも1個の硫黄原子を有する複素環、少なくとも1個のケイ素原子を有する複素環、「クリック」反応由来複素環、ディールス・アルダー反応由来炭素環、ディールス・アルダー反応由来複素環、アミド、イミド、硫化物、チオレート、金属チオレート、ウレタン、オキシム、ヒドラジド、ヒドラゾン、物理吸着もしくは化学吸着ないしは別の方法で非共有的に結合される部分、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
R2に対する非限定的例としては、カルボン酸、アミン、ハロゲン化物、シラノール、チオール、カルボニル、アルコール、ホスホン酸、スルホン酸、無機酸化物(例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等)、反応性金属(例えば、金、白金、銀)、アジド、アルケン、およびアルキンが挙げられる。
【0066】
例えば、ヒドロキシル基(すなわち、−OH)を有する表面は、ポリフルオロアルキルシラン(例えば、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル−トリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシルトリクロロシラン等)、アルキルシラン、アミノシラン(例えば、(3−アミノプロピル)−トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン)、グリシドキシシラン(例えば、(3−グリシドキシプロピル)−ジメチル−エトキシシラン)、および(メルカプトアルキル)シラン(例えば、(3−メルカプトプロピル)−トリメトキシシラン)等の様々な市販の物質で官能化されることができる。特定の実施形態では、ケイ素、ガラス、アルミナ、および有機ポリマー等、表面上に酸化物を有する、または酸化物を容易に形成することができる様々な物質が、プラズマ処理等の技術を用いて−OH官能基を含有するように活性化されることができる。活性化後、蒸着または溶液沈着技術を使用して、様々なオルガノシリル部分を基材に結合することができる。オルガノシリル部分は、完全にフッ素化された、部分的にフッ素化された、またはフッ素化されていないものから選択されることができる。
【0067】
特定の実施形態では、R2に対する非限定的な例としては、金、銅、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、その合金、および金属間化合物等の金属基材と反応するチオール基が挙げられる。
【0068】
別の実施形態では、例示的な反応性基(R2)の非限定的なリストとしては、置換または非置換カルボン酸、置換または非置換スルホン酸、置換スルフィン酸、置換硫酸、置換ホスホン酸、置換ホスフィン酸、置換リン酸、およびそれらの対応するエステル、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
1つ以上の実施形態では、固着層は、少なくとも1炭素のテイル長を有するペルフルオロカーボンを含む。具体的実施形態では、ペルフルオロカーボンテイルは、1〜50または2〜20または4〜16または6〜12の炭素長を有することができる。1つ以上の実施形態では、固着基頭部基は、例えば、トリクロロシラン(thrichlorosilane)等の反応性シランと基材表面上の酸素部分との反応において形成されるシロキシ基(Si−O)である。多数の市販のペルフルオロカーボントリクロロシランが利用可能である。本明細書で使用するとき、「シラン処理」表面に対する言及は、その中で頭部基がSi−O結合を含む固着層を示す。
【0070】
他の実施形態では、架橋剤が、反応性表面を固着層分子と結合するために使用されることができる。例えば、下に示す通り、エピクロルヒドリン、グルタルアルデヒド、アジピン酸ジヒドラド等の二官能性リンカーは、ヒドロキシル末端、アミノ末端、およびカルボン酸末端化合物をそれらの対応する活性化された表面に結合することができる。
【化1】
【0071】
表1は、結合化学物質の追加の例を示す。いずれかの端部において同一の又は異なる反応性基を有する例示的結合試薬の非限定的リストが示される。試薬は、どの化学基が結合するか(左列)およびそれらの化学的組成(右列)によって分類される。
【0072】

【表1】
【0073】
固着層に使用される官能基(テイル)は、潤滑層の分子と、例えば、非共有結合的な相互作用等の親和性を有し、潤滑層を表面上に保持するように選択されることができる。本明細書で使用するとき、高い親和性とは、例えば、引力を有するように、官能基のものを超える潤滑剤の拡張係数が正であり、また潤滑液が、反発されるべき物質が固着層の官能基に対して有するよりも大きい吸着均衡を固着層の官能基に伴って有するように、互いに混合性であることを指す。具体的には、潤滑液の他の部分は基材から遠ざけられるかもしれないが、固着層に張り付く潤滑液の最も外側の分子が存在するような非滑り条件が、潤滑液と固着層との間に発現することができる(例えば、剪断変形、高衝撃圧等)。例えば、アルカン、アルケン、アルキン、および芳香族化合物、ならびにそれらの組み合わせ等の炭化水素を含む官能基が、同様に疎水性または親油性(lypophilic)である潤滑液に対する親和性を有する疎水性表面を生成するために使用されることができる。組み合わされた表面層および潤滑液は、親水性またはオムニフォビック流体を反発するために有用である。別の実施形態では、親水性官能基は、親水性液体に対する親和性を有する親水性表面を生成するために使用されることができる。例示的な親水性基としては、荷電ポリペプチド、ポリアニオン(例えば、ヘパリンスルフェート、オリゴヌクレオチド、硫酸デキストラン)、ポリカチオン(例えば、キトサン、キチン、臭化ヘキサジメトリン、ジエチルアミノエチルセルロース)極性ポリマー(ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)、多糖(デキストラン、アガロース、イヌリン、セファロース)、アミン(例えば、アミノプロピル、ジエチルアミノエタノール)、カルボン酸、グアニジン、アルコール、スルフヒドリル、カルボキサミド、および金属酸化物が挙げられる。組み合わされた表面層および潤滑液は、疎水性またはオムニフォビック流体を反発するために有用である。また別の実施形態では、官能基は、親水性または疎水性流体を反発するためのオムニフォビック表面を生成するように潤滑剤に対する親和性を有する完全フッ素化された基(例えば、ペルフルオロポリ(またはオリゴ)エーテル等)を含む。
【0074】
基材は、プラズマを使った化学的蒸着、化学的官能化、化学的溶液沈着、化学的蒸着、化学的架橋結合、および原子層沈着を含む、当該技術分野において周知の方法によって、固着層でコーティングされることができる。例えば、化学的蒸着は、基材を反応性シラン蒸気に曝露することによって実施されることができる。化学的溶液沈着に関して、沈着は、例えば、基材をシラン溶液中に浸漬した後、濯ぎ、乾燥させることによって、実施されることができる。同様に、他の反応性頭部基は、当該技術分野において十分に確立された気体相および溶液相方法によって、表面と接触させ、また表面と反応させることができる。
【0075】
固着層は、基材の表面を覆うのに十分な厚さで適用されることができる。適用される層の実際の厚さは、適用の方法に応じてよい。典型的な厚さで適用される固着層は単分子層であると仮定されるが、しかしながら、層は、表面全体を完全に覆わなくとも基材の表面特性を改質するのに十分であってもよい。同様に、層は、複数の単分子層であってもよい。
【0076】
特定の実施形態は、1H,1H−ペルフルオロオクチルアミン等のエチルからドデシルの範囲の炭素鎖長を有するペルフルオロアルキルアミンを、主鎖中のエステルおよびカルバマートのアミノ分解または求核置換を通じて、ポリエステル、ポリウレタン、または塩化ポリビニル等の異なる表面と反応させることを含んでもよい。
【0077】
特定の実施形態では、例えば、基材表面を所望の反応性部分を提供するように反応させ、次にそれを所望の固着層と更に反応させることによって等の2行程プロセスを介して所望の固定層で官能化された下にある基材。例えば、下にある基材(例えば、シリカ)は、イソシアネート基を提供するように反応されることができ、それは次に、ヒドロキシルまたはアミノ末端フルオロ化合物(HO−RfおよびNH−Rf)とイソシアナートプロピルトリエトキシシラン(ICPTES)との間のカルバマート化反応を行って、それぞれウレタンおよび尿素形成を通じてフルオロシランリンカーを形成するように利用されることができる。
【化2】
【0078】
別の例としては、下に示す通り、水酸化表面が、トリエトキシシリルブチルアルデヒド(ABTES)で官能化され、更にアミノ末端フルオロ化合物と反応されることができる。
【化3】
【0079】
特定の実施形態では、ペルフルオロアルキルアミンが、アクリレート、マレイミド、カルボン酸、無水物、アルデヒド、およびエポキシドを担持する表面とマイケル付加、アミド化、求核性添加、および開環メカニズムを通じて反応することができる。
【0080】
他の求核性完全フッ素化分子としては、マレイミド等の求電子剤および二硫化物含有基材と反応することができる、ペルフルオロデカンチオール等のペルフルオロアルキルチオールが挙げられる。
【0081】
特定の実施形態では、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロ−1−オクタノール等のペルフルオロアルキルアルコールが、エステル化を通じてカルボン酸含有基材に固着されてもよい。
【0082】
特定の実施形態では、アミンおよび関連する求核試薬を含有する基材が、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート等のエチルからドデシルの炭素鎖長の範囲のペルフルオロアルキルアクリレート、またはペルフルオロヘキシルプロピルエポキシドもしくはペルフルオロオクチルプロピルエポキシド等のペルフルオロアルキルエポキシドと反応することができる。
【0083】
特定の実施形態では、2−(ペルフルオロオクチル)エチルヨーチド等のエチルからドデシルの範囲の炭素鎖を有するヨウ化ペルフルオロアルキルが、アミンおよび金属塩の存在下で、ヨウ化物付加物を産生するようにオレフィン担持表面と反応されてもよい。
【0084】
前述の反応の炭化水素類似体はまた、C2〜C22の範囲の様々な炭素鎖長を有する脂肪酸、脂質、アルキルアミン、アルカンチオール、アルキルアルコール、ハロゲン化アルキル、アクリル酸アルキル、およびアルキルエポキシドを用いて容易に獲得されてもよい。
【0085】
特定の実施形態では、ホスホン酸が、固着層の一部として利用されることができる。本明細書で使用するとき、用語「ホスホン酸」は、構造:
【化4】
を有する有機化合物を差し、式中、Rは、リン原子がR基の炭素原子に結合される有機(炭素含有)ラジカルまたは残基である。当業者は、ホスホン酸のOH基に結合される水素は、酸性であり、塩基または適切なpHによって除去されて、構造:
【化5】
を有するホスホネートモノアニオンまたはジアニオンを有するホスホン酸の塩を形成することができることを認識する。
【0086】
アニオンとして存在する場合、ホスフェートは、例えば、リチウム、ナトリウム、もしくはカリウムを含む一価カチオン、またはカルシウムもしくは亜鉛を含む1つ以上の二価カチオン等の1つ以上の関連する対イオンを含むことができることが理解される。有機「R」ラジカルまたは残基は、少なくとも1個の炭素原子を含み、また当業者に周知の多くの周知の炭素含有基、残基、またはラジカルを含むがこれらに限定されない。Rラジカルは、酸素、窒素、硫黄、リン等を含む、様々なヘテロ原子を含有することができ、またはヘテロ原子を通じて別の分子に結合されることができる。好適なRラジカルの例としては、メチル、ブチル、またはオクタデシル等のアルキル、またはヒドロキシメチル、ハロアルキル、ペルフルオロアルキル等の置換アルキル、フェニル等の芳香族、またはフェノールもしくはアニリン等の置換芳香族、またはPEG、PPG、シリコーン、ポリエチレン等のポリマー残基、ペルフルオロポリエーテル、Teflon(登録商標)、もしくはViton(登録商標)等のフルオロポリマー、ポリカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されない。多くの非ポリマー実施形態では、ホスホネートのRラジカルは、1〜18個の炭素原子、1〜15の炭素原子、1〜12の炭素原子、1〜8の炭素原子、または1〜4の炭素原子を含む。
【0087】
特定の実施形態では、ホスホン酸リガンドが、金属酸化物基材表面に結合されることができる。
【0088】
別の態様では、ホスホン酸リガンドは、金属酸化物基材の表面上にコーティングを形成することができる。
【0089】
更なる態様では、少なくとも1つのホスホン酸リガンドは、構造R−Xを有する化合物の残基を含み、式中、Rはリガンド基であり、Xは構造:
【化6】
を有するホスホン酸基であり、式中、各nは独立して、1、2、または3である。
【0090】
また更なる態様では、各nは1である。また更なる態様では、化合物は、構造R−Xを含む。
【0091】
1つの態様では、本発明の化学的に官能化された基材は、少なくとも1つのホスホン酸リガンドを含むことができる。
【0092】
更なる態様では、本発明の化学的に官能化された基材は、複数のホスホン酸リガンドを含むことができる。
【0093】
また別の態様では、本発明の化学的に官能化された基材は、ホスホン酸リガンドで覆われることができる。
【0094】
また更なる態様では、本発明の化学的に官能化された基材は、複数の種類のホスホン酸リガンドの混合物で覆われることができる。
【0095】
本明細書で使用するとき、用語「ホスホン酸リガンド」は、ホスホン酸に由来する金属酸化物基材の表面に結合される、または結合することが可能なラジカルまたは残基を指す。当業者は、ホスホン酸またはそのアニオン塩は、共有結合から極性共有結合、イオン結合にわたる、またリン原子と金属酸化物表面上の酸素原子またはイオンとの間の水素結合を通じることを含む結合を伴うホスホン酸の酸素原子のうちの1つ以上の置換によって、金属酸化物の表面に容易に結合されることができることを理解するであろう。
【0096】
特定の態様では、少なくとも1つの有機ホスホン酸は、メチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、ペンタフルオロベンジルホスホン酸、11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸、(11−ホスホノウンデシル)ホスホン酸、(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)ホスホン酸、ペンタブロモベンジルホスホン酸、(11−アクリロイルオキシウンデシル)ホスホン酸、またはそれらの混合物を含む。
【0097】
1つの態様では、ホスホン酸リガンドは、ホスホン酸リガンドの酸素原子のうちの1、2、または3個を金属酸化物表面に結合させることによって、表面に結合される。例えば、有機ホスホン酸リガンドは、下記に例証される構造のうちの1つ以上によって例証される通り、共有結合から極性共有結合、イオン結合にわたる、また水素結合を通じることを含む結合によって、表面に結合されることができる。
【化7】
【0098】
1つの態様では、Rは、例えば、1〜16個の炭素、1〜14個の炭素、1〜12個の炭素、1〜10個の炭素、1〜8個の炭素、1〜6個の炭素、または1〜4個の炭素を含む有機ラジカル等、1〜18個の炭素原子を含む有機ラジカルであることができる。
【0099】
更なる態様では、Rは、構造:
【化8】
を有するアルキル置換ポリエーテルであり、式中、nは1〜25(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、および25を含む)であり、R′はC1〜C4アルキル(1、2、3、または4個の炭素を含む)である。また更なる態様では、Rは、メチル、エチルプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシルから選択される。
【0100】
別の態様では、Rは、置換または非置換、直鎖または分枝、C〜C50脂肪族または環状脂肪族の、フルオロアルキル、オリゴ(エチレングリコール)、アリール、またはアミノ基を含む。
【0101】
別の態様では、Rは、最大12個の炭素(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12個の炭素を含む)を有する、または最大8個の炭素(1、2、3、4、5、6、7、および8個の炭素を含む)を有する直鎖または分枝アルキル基を含むことができ、またαおよびβは独立して、1〜12の整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12を含む)または1〜8の整数(1、2、3、4、5、6、7、および8を含む)であることができる。
【0102】
更なる態様では、Rは、フッ素化された基である。例えば、Rは、−(CHβ−(OCHCHαF、−OCHCH−(CFβCF、−(CFCFα−(CFβCF、−(CFβ−(CFCFαCF、−(CFCFα−(CHβCF、または−(CFβ−(CFCFαCFを含むことができ、式中、αは0〜25の整数であり、βは0〜25の整数である。様々な更なる態様では、αおよびβは独立して、1〜12の整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12を含む)、または1〜8の整数(1、2、3、4、5、6、7、および8を含む)であることができる。
【0103】
潤滑層
潤滑層を形成するために使用される潤滑液は、固着層に適用される。したがって、潤滑層は、基材上を容易に流れ、固着層の官能基に安定して、しかし非共有的に結合し、連続的な反発性層を形成することができる。潤滑層は、非混合性物質を反発するその能力に基づいて選択されることができる。1つ以上の実施形態では、潤滑層は、下にある基材および反発されるべき環境物質に対して不活性である。
【0104】
潤滑層は、様々な流体から調製されることができる。1つ以上の実施形態では、超滑性表面は医療現場で使用され、そのような場合では、潤滑液は、例えば、生理学的条件下でのその生体適合性、毒性レベル、抗凝固特性、および化学的安定性に基づいて選択される。例えば、生物医学用途における使用に対して認可されている化合物が、本開示に従って使用されることができる。完全フッ素化有機液体は、特に、生物医学的用途における使用に好適である。幾つかの態様では、潤滑層は完全フッ素化油であり、その非限定的な例としては、FC−43、FC−70、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリペンチルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロドデカン、臭化ペルフルオロオクチル、ペルフルオロ(2−ブチル−テトラヒドロフラン)、ペルフルオロペルヒドロフェナンスレン、ペルフルオロエチルシクロヘキサン、ペルフルオロ(ブチルテトラヒドロフラン)、ペルフルオロポリエーテル(KRYTOX)等のPFC油、およびそれらの組み合わせが挙げられる。他の態様では、潤滑層はフッ素化炭化水素油であり、その非限定的な例としては、3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチル−ヘキサン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、ハイドロフルオロエーテル等の油が挙げられる。他の態様では、潤滑層は炭化水素油であり、その非限定的な例としては、アルカン(例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン)、トリアシルグリセリド、鉱油、アルケン、コレステロール、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、フェノール、ナフタレン、ナフトール)等の油、およびそれらの組み合わせが挙げられる。他の態様では、潤滑層は親水性液体であり、その非限定的な例としては、水、水性溶液(例えば、酸、塩基、塩、ポリマー、緩衝液)、エタノール、メタノール、グリセロール、イオン性液体(例えば、エチルアンモニウムニトレート、エチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートおよびそれらの組み合わせが挙げられ、使用することができるイオン性液体の他の例に関しては、「Ionic Liquids in Synthesis」、P.Wasserscheid and T.Welton(編)、Wiley−VCH;第2版(2007年11月28日)(その内容は参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0105】
幾つかの態様では、潤滑層の粘度は、特定の用途に対して選択されることができる。例えば、潤滑油の粘度は、<1cSt、<10cSt、<100cSt、<1000cSt、または<10,000cStであることができる。
【0106】
幾つかの態様では、潤滑層は、−5℃、−25℃、または−50℃未満等の低い凍結温度を有する。低い凍結温度を有する潤滑層は、層が、液体を低温度に保ち、潤滑層と官能化された表面との組み合わせの様々な液体または氷等の固体化した流体を反発する能力を維持することを可能にする。
【0107】
幾つかの態様では、潤滑層は、低い蒸発速度または低い蒸気圧を有する。例えば、潤滑液の蒸気圧は、25℃で10mmHg未満、25℃で5mmHg未満、25℃で2mmHg未満、25℃で1mmHg未満、25℃で0.5mmHg未満、または25℃で0.1mmHg未満であることができる。潤滑層は、固着層を覆うのに十分な厚さで適用されることができる。幾つかの実施形態では、潤滑層は、基材上に単分子層を形成するのに十分な厚さで適用される。他の実施形態では、潤滑層は、基材上に10nm〜10μmの厚さで適用される。他の実施形態では、潤滑層は、基材上に10μm〜10mmの厚さで適用される。単分子層であると仮定される、典型的な厚さで適用される潤滑層は、補填の必要なしに液体反発性を長時間保持することができる。例として、表面は、1時間を超える、または6時間を超える、または24時間を超える、1週間を超える、または1年以上を超える期間、液体反発性を保持することができる。
【0108】
潤滑液は、基材上に1回または繰り返し噴霧される、鋳造される、または引き込まれることができる。特定の実施形態では、潤滑層は、潤滑液の液滴を表面上に分注するスピンコーティング、または表面を、下にある基材の壁にある微小穴を通じて潤滑液を含有する貯蔵容器またはチャネル内へ浸漬すること、または表面を潤滑液で予備飽和させて潤滑像を形成することによって、表面に適用されることができる。潤滑液はまた、吸収、ウィッキング、薄層沈着によって、または大量の潤滑液を表面の上に間欠的に通過させること(例えば、カテーテル中を流れる小さいプラグまたは泡)によって適用されることができる。幾つかの実施形態では、余剰潤滑液は、コーティングした物品を回転させることによって、またはスキージを表面に沿って引くこと、または別の液体で流して濯ぐことによって除去されることができる。
【0109】
幾つかの実施形態では、液体反発性表面の寿命は、特定の間隔で潤滑層を再適用することによって延長されることができる。例えば、図4A〜4Cは、それを通じて潤滑液405(細管内の明色領域として示される)のプラグが一定時間ごとにシランで事前処理された(実施例2も参照)PDMS細管410、420を通じて送られるポンプを示す。幾つかの態様では、潤滑層は、1、5、10、15、20、30、40、50、または60秒ごとに補填される。他の態様では、潤滑層は、5、10、15、20、30、40、50、または60分ごとに補填される。また他の態様では、潤滑層は、2、4、6、8、10、12、24、48、60、または72時間、またはそれを超える時間ごとに補填される。また他の態様では、潤滑液は、一定のまたは変動する速度で継続的に補填されることができる。他の実施形態では、表面は、図2に示される通り、基材100の下に格納される貯蔵容器160から潤滑液で補填されることができる。潤滑液は、微細経路150を通じて引かれ、環境へ失われた潤滑液を補填する。
【0110】
使用
1つ以上の実施形態では、任意の液体(例えば、生体液)、およびその中に含有される固体微粒子は、本開示に従って改質された表面から強く反発されてもよい。同様に、本明細書に開示される方法を用いて、ある固体表面の別の固体表面への接着を防止することができる、または2つの固体表面間の摩擦を低減することができる。
【0111】
例として、図31Aは、環境液体3140ならびに液体3140中に含有される溶質および固体粒子3145が下にある基材3130に接着するのを防止するために使用される固着層3110および潤滑層3120を基材3130上に含む、超滑性表面3100の表現である。したがって、溶液および懸濁液は、1つ以上の実施形態による超滑性コーティングでコーティングされた物品の表面に接着することを防止されることができる。他の実施形態では、超滑性表面3100は、環境液体3140(ならびに、含まれる溶質および粒子3145)との低摩擦界面を提供する。
【0112】
循環器系内科および腫瘍学から整形外科および眼科学にわたる医学分野は、冠動脈、頸動脈、および大腿静脈、関節、ならびに多くの他の身体部分内への医療機器の移植にますます頼るようになっている。これらの機器の使用は、移植誘発性血栓形成、または血餅形成の発症の危険性がある。同様に、血液透析機器等の血液加工設備、具体的には、透析カテーテルは、血餅形成を防止ための予防措置を取らなければならない。具体的には、血液は、ガラスに曝露されると自然に凝固する。1つの態様では、通常血液に接触する表面は、例えば、血餅形成および凝固等の血栓形成を低減するように、本明細書に説明される超滑性コーティングでコーティングされることができる。下の実施例にて説明される通り、完全フッ素化固着層とペルフルオロ炭化水素潤滑層とを用いる超滑性コーティングは、非ヘパリン化血液に長時間接触する表面上での血栓形成を低減するのに、流れている条件においてさえも非常に有効である。
【0113】
別の実施形態では、図31Bは、環境液体3160が基材3130表面に接着するのを防止し、また同時に選択された溶質または粒子を表面上に保持するために使用される、超滑性表面3155を示す。超滑性表面は、固着層3170および潤滑層3180を含む。環境液体3160に対する非混合性に加えて、潤滑層3180は、溶質または微粒子3165を溶解または保持する能力に関して選択される。1つ以上の実施形態では、滑性表面は、環境液体3160中に含有される溶質、微粒子、またはそれらの混合物が、例えば、潤滑層3180中に溶解する、または懸濁されるようになることによって、基材に接着する、または基材上で保持されることを可能にする選択的フィルタとして機能する。環境液体3160中に含有される構成要素に対するこの選択的親和性は、例えば、その中で環境液体中に含有される構成要素がLiquid C中で非混合性である潤滑液を用いること、または潤滑液と環境液体中に含有される特定の構成要素との双方に対する親和性を有する分子、もしくは環境液体中に含有される特定の構成要素に対する親和性を有する基材へ結合される分子を含有する潤滑液を用いることによって達成することができる。
【0114】
図31Cは、特定の溶質および/または微粒子に対する超滑性表面3155の選択的親和性を例証する。基材3130は、湿った、潤滑液を含有する潤滑層3180を結合する固着層3170を含む。滑性表面は、例えば、それを通じて環境液体3160が矢印によって示される方向に流れる管の内面上に配置されることができる。環境液体は、潤滑液に対して低い親和性を有する第1の溶質(溶質1)と、潤滑液に対して高い親和性を有する第2の溶質(溶質2)とを含有する。環境液体が潤滑液との界面上を流れる際、溶質2は、潤滑液を含有する固定された液体層内へ優先的に吸着される。
【0115】
反発されるべき液体中に含有される構成要素に対する選択的親和性は、多くの状況で有用である。例えば、液体中に含有される構成要素に対する選択的親和性は、カラムを通過される液体中に含有される所望の分子を捕捉または結合するが、他の分子の捕捉または結合は防止するようにクロマトグラフィーカラムを改質するために、有用であることができる。
【0116】
血液は、ガラスに曝露されると自然に凝固する。したがって、ガラススライドおよびガラスビーズを、特定の血液構成成分に対する選択的親和性を有しながら表面上での血餅形成および細胞接着を防止するように本開示に従って改質することは、特に有用である。血液構成成分に対する選択的親和性を可能にするように改質される場合、そのような表面は、血液から細胞、病原体、および他の構成成分を分離するために使用されることができる。抗体、レクチン、および酵素等の結合タンパク質は、所望の遊離したおよび結合した血液構成成分を引き寄せるようにガラスビーズに連結されることができる。例えば、ヘパリナーゼに連結されるガラスビーズは、血液およびその中に含有される他の構成成分を反発しながらヘパリンを引き寄せ除去するように、本明細書に開示される方法に従って改質されることができる。血液はまた、自己抗体、リウマチ因子等の生体分子を除去するためにクロマトグラフィーカラムを通過されることができる。血液構成成分に対する選択親和性に関して改質された表面は、血液が患者に戻される前に毒性代謝物等の構成成分を除去するために透析文脈において使用されることができる。更に、表面は、糖尿病患者の血液中に存在する余剰ブドウ糖等の血液構成成分を解毒するように改質されることができる。
【0117】
したがって、開示される液体反発性表面は、多くの表面で血餅血清、細胞接着、および汚染を防止することを含む、多数の生物学用途において使用されることができる。更に、これらの表面は、血餅形成を防止するために使用される場合、抗凝固剤を必要としない。
【0118】
別の実施形態では、本開示に従って説明される表面は、基材が接着するのを防止するために、または基材間の摩擦を低減するために使用されることができる。図27は、第1の基材2710および第2の基材2720が張り付くのを防止するために使用される超滑性表面2700の概略図である。固体基材2710、2720の各々は、それぞれ潤滑液2740、2745と相互作用し、またそれらを保持する、固着層2730、2735をそれぞれ含む、超滑性表面を有する。液体2740、2745は、互いに非混合性であるように選択される。それに加えて、基材2710は潤滑液2740に対する選好的親和性を有し、一方基材2720は潤滑液2745に対する選択的親和性を有する。基材2710、2720が互いに対面関係にあるとき、潤滑液2740、2745にて画定される液体/液体界面は、基材間の摩擦を低減することを可能にする。
【0119】
幾つかの態様では、表面は、工業的、商業的、または実践的目的のために液体反発性に関して改質される。例えば、表面は、粘性液体、非粘性液体、複合流体、半固体、粘着性液体(例えば、食料品、燃料製品等)、水(例えば、露、霧、霜、氷等)、絵画、鉄削り屑、炭素削り屑、ゴミ、残骸、昆虫の低摩擦輸送または反発等の潜在的用途のため、生物付着を防止するように石油パイプラインおよび細管をコーティングするため、ヨットおよび船舶上塗り剤において、本開示に従って改質されることができる。図32は、食品容器(ここではケチャップ)の内側表面に対する1つ以上の実施形態による超滑性コーティングの適用を例証する。ポリエチレンテレフタレート(「PETE」)製の市販のプラスチック瓶が、フルオラス表面を形成するようにシラン処理され、次にPFC油で処理された。コーティングは、処理瓶(図32B(ii))の内面に対するケチャップの接着を防止し、非処理瓶(図32A(i))と比較された。
【0120】
上述の実施形態のうちの1つ以上において、液体反発性にされることができる表面の非限定的な例としては、ビーズ、カニューレ、コネクタ、カテーテル(例えば、中心線、抹消挿入中心カテーテル(PICC)線、尿用、脈管用、腹膜透析、および中心静脈カテーテル)、カテーテルコネクタ(例えば、ルアーロック式および無針コネクタ)、クランプ、皮膚鉤、カフ、開創器、シャント、針、毛細管、気管内管、人工呼吸器、関連人工呼吸器細管、薬剤送達ビヒクル、注射器、顕微鏡スライド、プレート、フィルム、実験室作業台、ウエル、ウエルプレート、ペトリ皿、タイル、広口瓶、フラスコ、ビーカー、バイアル、試験管、細管コネクタ、カラム、容器、キュベット、瓶、ラム、大桶、タンク、臓器、臓器移植、または臓器構成要素(例えば、子宮内機器、除細動器、角膜、胸部、膝関節置換、および股関節置換移植)、人工臓器またはその構成要素(例えば、心臓弁、心室補助機器、完全置換型人工心臓、蝸牛移植、人口眼、およびそれらの構成要素)、歯科器具、歯科インプラント(例えば、歯根型、プレート型、および骨膜下インプラント)、バイオセンサ(例えば、グルコースおよびインスリンモニタ、血液酸素センサ、ヘモグロビンセンサ、生物学的微小電気機械式機器(バイオMEMS)、敗血症診断用センサ、ならびに他のタンパク質および酵素センサ)、生体用電極、内視鏡(子宮鏡、膀胱鏡、羊水鏡、腹腔鏡、胃鏡、縦隔鏡、気管支鏡、食道鏡、鼻鏡、関節鏡、直腸鏡、大腸鏡、腎盂尿管鏡、血管鏡、胸腔鏡、食道鏡、咽頭鏡、および脳鏡)、体外膜型人工肺装置、人工心肺装置、外科用途(例えば、縫合糸および人工血管)、血管用途(例えば、シャント)、外科パッチ(例えば、ヘルニアパッチ)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0121】
1つの実施形態では、本開示に従って改質される表面は、表面接着、表面媒介性塊形成、凝固、または凝集を引き起こすことなく流体を反発することができる。生体液の非限定的な例としては、水、全血、血漿、血清、汗、糞便、尿、唾液、涙、膣液、前立腺液、歯肉滲出液、羊水、眼内液、脳脊髄液、精液、痰、腹水、膿、鼻咽頭液(nasopharengal fluid)、創傷滲出液、房水、硝子体液,胆液、耳垢、内リンパ、外リンパ、胃液、粘液、腹膜液、胸膜液、皮脂、嘔吐物、合成流体(例えば、合成血液、ホルモン、栄養素)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0122】
別の実施形態では、本開示に従って改質される表面は、様々な種類の細菌を反発することができる。1つの実施形態では、これらの表面によって反発される細菌の種類は、グラム陽性菌である。別の実施形態では、開示される改質された表面によって反発される細菌の種類は、グラム陰性菌である。本開示に従って改質される表面によって反発される細菌の非限定的な例としては、アクチノバチルス(例えば、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス)、アシネトバクター(例えば、アシネトバクター・バウマンニ)、アエロモナス、ボルデテラ(例えば、百日咳菌、気管支敗血症菌、およびパラ百日咳菌)、ブレビバチルス、ブルセラ、バクテロイデス(例えば、バクテロイデスフラジリス)、バークホルデリア(例えば、セパシア菌および類鼻疽菌)、ボレリア(Borelia)(例えば、ライム病ボレリア(Borelia burgdorfen))、桿菌(例えば、炭疽菌および枯草菌)、カンピロバクター(例えば、カンピロバクター・ジェジュニ)、キャプノサイトファガ、カルジオバクテリウム(例えば、カルジオバクテリウム・ホミニス)、シトロバクター、クロストリジウム(例えば、破傷風菌またはクロストリジウム・ディフィシレ)、クラミジア(例えば、トラコーマクラミジア、肺炎クラミジア、およびオウム病クラミジア(Chlamydia psiffaci))、エイケネラ(例えば、エイケネラコローデンス)、エンテロバクター、大腸菌属(例えば、大腸菌)、フランシセラ(例えば、野兎病菌)、紡錘菌属、フラボバクテリウム、ヘモフィルス(例えば、デュクレー桿菌またはインフルエンザ菌)、ヘリコバクター(例えば、ヘリコバクターピロリ)、キンゲラ(例えば、キンゲラ・キンゲ)、クレブシエラ(例えば、肺炎桿菌)、レジオネラ(例えば、レジオネラ・ニューモフィラ)、リステリア(例えば、リステリア・モノサイトゲネス)、レプトスピラ(Leptospirae)、モラクセラ(例えば、カタル球菌)、モルガネラ、マイコプラズマ(例えば、マイコプラズマ・ホミニスおよびマイコプラズマ・ニューモニエ)、マイコバクテリウム(例えば、結核菌またはらい菌)、ナイセリア(例えば、淋菌または髄膜炎菌)、パスツレラ(例えば、パスツレラ・マルトシダ)、プロテウス(例えば、プロテウス・ブルガリスおよびプロテウス・ミラビリス(Proteus mirablis))、プレボテラ、プレシオモナス(例えば、プレシオモナス・シゲロイデス)、シュードモナス(例えば、緑膿菌)、プロビデンシア、リケッチア(例えば、斑点熱リケッチアおよび発疹熱リケッチア)、ステノトロホモナス(例えば、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophila))、ブドウ球菌(例えば、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌)、連鎖状球菌(例えば、緑色連鎖球菌、化膿連鎖球菌(A群)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群)、ストレプトコッカス・ボビス、および肺炎連鎖球菌)、ストレプトミセス(例えば、ストレプトミセス・ハイグロスコピクス)、サルモネラ(例えば、腸炎菌(Salmonella enteriditis)、腸チフス菌、およびネズミチフス菌)、セラチア(例えば、霊菌)、赤痢菌、らせん菌(例えば、鼠咬症スピリルム)、トレポネーマ(例えば、梅毒トレポネーマ)、ベイヨネラ、ビブリオ(例えば、コレラ菌、腸炎ビブリオ、およびビブリオ・ブルニフィカス)、エルシニア(例えば、腸炎エルシニア、ペスト菌、および偽結核エルシニア菌)、ザントモナス(例えば、ザントモナス・マルトフィリア)、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される属のメンバーである。
【0123】
本開示による改質された表面は、様々な種類の菌類を反発することができる。改質される表面によって反発される菌類の非限定的な例としては、アスペルギルス(例えば、黄色麹菌、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・グラウクス、アスペルギルス・ニズランス、黒色麹菌、およびアスペルギルス・テレウス)、ブラストミセスデルマ・ティティディス、カンジダ(例えば、鵞口瘡カンジダ、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・パラシローシス、カンジダ・クルセイ、およびカンジダ・ギリエルモンジィ(Candida guillermondii))、コクシジオイデス・イミティス、クリプトコッカス(例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、クリプトコッカス・アルビダス、およびクリプトコッカス・ローレンティ)、カプスラーツム型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ズボジア型ヒストプラスマ・カプスラーツム、ブラジルパラコクシジオイデス、スポロトリックス・シェンキィ、アブシジア・コリムビフェラ;リゾムコール・プシルス、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizous)属のメンバー、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0124】
本開示による改質された表面はまた、様々な種類のウイルスおよびウイルス様粒子を反発することができる。1つ以上の実施形態では、これらの表面によって反発されるウイルスは、dsDNAウイルス、ssDNAウイルス、dsRNAウイルス、(+)ssRNAウイルス、(−)ssRNAウイルス、ssRNA−RTウイルス、dsDNA−RTウイルス、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本開示に従って改質される表面によって反発されるウイルスの非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)、デング熱、エプスタイン−バーウイルス、ハンタウイルス、ヒトT細胞リンホトロピックウイルス(HTLV I/II)、パルボウイルス、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、およびC型肝炎)、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、呼吸系発疹ウイルス(RSV)、水痘帯状疱疹、西ナイル、ヘルペス、ポリオ、天然痘、黄熱病、ライノウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス(インフルエンザウイルス)(例えば、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルス、およびソゴトウイルス)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0125】
また別の実施形態では、本開示による改質される表面は、表面接着、表面媒介性塊形成、凝固、汚染、または凝集を引き起こすことなく、懸濁液または溶液中の粒子を反発することが可能である。開示される改質された表面のオムニフォビック性質は、それらが広範な汚染物から物質を保護することを可能にする。懸濁液または溶液中の粒子の非限定的な例としては、細胞(例えば、正常細胞、疾病細胞、寄生された細胞、癌細胞、異質細胞、幹細胞、および感染した細胞)、微生物(例えば、ウイルス、ウイルス様粒子、細菌、バクテリオファージ)、タンパク質および細胞成分(例えば、細胞小器官、細胞断片、細胞膜、細胞膜断片、ウイルス、ウイルス様粒子、バクテリオファージ、細胞質タンパク質、分泌タンパク質、シグナル伝達分子、包埋タンパク質、核酸/タンパク質複合体、核酸沈殿剤、染色体、核、ミトコンドリア、葉緑体、鞭毛、生体鉱物、タンパク質複合体、およびミニ細胞)が挙げられる。
【0126】
また別の実施形態では、市販の機器(例えば、医療グレード装置または構成要素)が、本開示の特定の態様によって処理されることができる。例えば、医療グレードPVC管が、その内面が本開示に説明される特定の反発性特徴を有することができるように処理されることができる。1つ以上の実施形態では、表面は、医療用細管を通じて流れる血液中の血餅形成を低減するように処理される。
【0127】
幾つかの状況では、表面は、処理の前または後に殺菌されることができる。本明細書に説明される超滑性コーティングは、殺菌後であっても、その滑り特徴を維持可能であるのに十分に強固であることが実証されている。表面処理(例えば、シラン処理)は、表面が、その反発性特徴を長時間(例えば、1日、1週間、1か月、またはそれ以上)および/または殺菌プロセスを伴って維持するのに十分に安定している、または強固であることができる。
【実施例】
【0128】
以下の実施例は、単に例証の目的のために提供され、限定的であることを意図されない。
【0129】
実施例1
PFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)で処理したシラン処理PDMSは、抗凝固剤を含まない血液の接着および凝固を防止することが見いだされた。
【0130】
ペルフルオロカーボンシラン(トリデカフルオロテトラハイドロオクチルトリクロロシラン、Sigma)を、PDMSシート(Sylgard184(登録商標)、Dow Corning)およびPDMS細管(長さ16、内径1.52mm、過酸化物硬化シリコーン、Cole Parmer)上に真空下で10時間超蒸着した。シラン処理および非シラン処理PDMSシートを、ピペットからのPFCの適用によってPFC油でコーティングした(ペルフルオロトリペンチルアミン、Sigma)(それぞれ図5B(ii)および5A(ii)参照)。
【0131】
抗凝固剤を含まない75マイクロリットル体積のヒト血液を、PDMSシート上に分注し、シートを傾動させた。図5に示される通り、血液は、非処理かつ非改質PDMS表面(図5A(i))、ペルフルオロトリペンチルアミン(PFC油)を伴うPDMS(図5A(ii))、およびシラン処理PDMS(図5B(i))に接着した。しかしながら、血液は、ペルフルオロトリペンチルアミン(PFC油)を伴うシラン処理PDMS(図5B(ii))には接着せず、反発されることに成功した。PFC油を伴うシラン処理PDMSは、PFC油を補填することなく、90分超の間血液を反発することに成功した。血液反発性はまた、ペルフルオロデカリンをPFC油としたシラン処理PDMSシートにも示された(図示無し)。
【0132】
実施例2
実施例1に説明される通りに処理したシラン処理PDMS細管は、細管を通じた血液の蠕動汲み上げの間、接着および凝固を防止することに成功したことが示された。図4Aを参照すると、シラン処理410および非シラン処理420PDMS細管の双方の内側を、0.5mLのPFC油でコーティングした。血液を、細管を通じて約100マイクロリットル/分の速度で45分間汲み上げた。PFC油のプラグを、シラン処理細管を通じて汲み上げた。PFC油のプラグ内に血液は見られず、血液が細管の表面に未だ結合していないことを示した。次に、0.5mLのPFC油および0.5mLの脱イオン水を、双方の細管セットを通じて汲み上げた。
【0133】
図4Bを参照すると、可視のままであるPFC油の透明な液滴によって示されるように、3分後、血液は、それを通じて血液とPFC油のプラグとが汲み上げられたシラン処理細管410の内側をコーティングしなかった。比較的に、シラン処理410細管と比較して、著しくより多くの血液構成成分の結合が非シラン処理細管420内に観察された。
【0134】
45分の血液流の後、PFC油および次に水を細管の双方のセットを通じて汲み上げた。図4Cによって示される通り、シラン処理PFC油コーティングPDMS細管410は、水および血液で水洗した後でさえも、非シラン処理PFC油コーティングPDMS細管420よりも著しく少ない血液の結合を示した。
【0135】
実施例3
PFC油で処理した官能化PDMSの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質PDMS、PFC油で処理したPDMS、およびシラン処理PDMSの液体反発性と比較した。4枚のPDMSシート(Dow Corning Sylgard(登録商標)184)を、鏡面研磨アルミニウム上で60℃で硬化させた。2枚のPDMSシートを、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma、製品番号448931)を用いて、約12時間の真空蒸着によって一晩シラン処理した。シラン処理した後、250μLのPFC油を、2枚のシラン処理PDMSシートのうちの1枚と、1枚の非改質PDMSシートとに適用した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図6A参照)。
【0136】
次に、表面を撮像した。撮像後、PDMSシートを手で傾動させ、図6Bに示される通り直ちに再び撮像した。図6は、血液が、非処理かつ未改質PDMS(図6B(i))、PFC油を伴うPDMS(図6B(ii))、およびシラン処理PDMS(図6B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理PDMS(図6B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0137】
実施例4
PFC油で処理した官能化アクリルの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質アクリル、PFC油で処理したアクリル、およびシラン処理アクリルのものと比較した。4枚のクリアキャストアクリルシート、0.060インチの厚さ(McMaster Carr、製品番号8560K171)を、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2枚のアクリルシートを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0138】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理アクリルシートと1枚の非シラン処理アクリルシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図7A参照)。
【0139】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図7Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図7は、血液が、非処理かつ非改質アクリル(図7B(i))、PFC油を伴うアクリル(図7B(ii))、およびシラン処理アクリル(図7B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理アクリル(図7B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0140】
実施例5
PFC油で処理した官能化組織培養ポリスチレンの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質組織培養ポリスチレン、PFC油で処理した組織培養ポリスチレン、およびシラン処理組織培養ポリスチレンのものと比較した。製造者(BD Biosciences、製品番号353025)によって事前にプラズマ処理された4枚の組織培養ポリスチレンシートを、本実験で用いた。4枚の組織培養ポリスチレンシートのうちの2枚を、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0141】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理組織培養ポリスチレンシートと1枚の非シラン処理組織培養ポリスチレンシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図8A参照)。
【0142】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図8Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図8は、血液が、非処理かつ未改質組織培養ポリスチレン(図8B(i))、PFC油を伴う組織培養ポリスチレン(図8B(ii))、およびシラン処理組織培養ポリスチレン(図8B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理組織培養ポリスチレン(図8B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0143】
実施例6
官能化ポリスチレンの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質ポリスチレン、PFC油で処理したポリスチレン、およびシラン処理ポリスチレンのものと比較した。1/32インチの厚さのポリスチレン(McMaster Carr、製品番号8734K29)の4枚のシートを、本実験で用いた。シートを、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。4枚のポリスチレンシートのうちの2枚を、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0144】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理ポリスチレンシートと1枚の非シラン処理ポリスチレンシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図9A参照)。
【0145】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図9Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図9は、血液が、非処理かつ未改質ポリスチレン(図9B(i))、PFC油を伴うポリスチレン(図9B(ii))、およびシラン処理ポリスチレン(図9B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理ポリスチレン(図9B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0146】
実施例7
PFC油で処理した官能化チタンの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質チタン、PFC油で処理したチタン、およびシラン処理チタンのものと比較した。4枚のチタンシートを、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2枚のチタンシートを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0147】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理チタンシートと1枚の非シラン処理チタンシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図10A参照)。
【0148】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図10Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図10は、血液が、非処理かつ非改質チタン(図10B(i))、PFC油を伴うチタン(図10B(ii))、およびシラン処理チタン(図10B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理チタン(図10B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0149】
実施例8
PFC油で処理したソーダ石灰ガラススライドの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質ソーダ石灰ガラススライド、PFC油で処理しソーダ石灰ガラススライド、およびシラン処理ソーダ石灰ガラススライドのものと比較した。4枚のソーダ石灰ガラススライド(Corning、製品番号2947−75x50)を、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2枚のソーダ石灰ガラススライドを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0150】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理ソーダ石灰ガラススライドと1枚の非シラン処理ソーダ石灰ガラススライドとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図11A参照)。
【0151】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図11Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図11は、血液が、非処理かつ非改質ソーダ石灰ガラス(図11B(i))、PFC油を伴うソーダ石灰ガラス(図11B(ii))、およびシラン処理ソーダ石灰ガラス(図11B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理ソーダ石灰ガラス(図11B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0152】
実施例9
PFC油で処理した官能化ポリプロピレンの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質ポリプロピレン、PFC油で処理したポリプロピレン、およびシラン処理ポリプロピレンのものと比較した。4つの直方体の1/8インチの厚さのポリプロピレンバー(McMaster Carr、製品番号8782K31)を、500mトールで60秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2つのポリプロピレンバーを、約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0153】
250μLのFC−70を、1つのシラン処理ポリプロピレンバーと1つの非シラン処理ポリプロピレンバーとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図12A参照)。
【0154】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図12Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図12は、血液が、非処理かつ非改質ポリプロピレン(図12B(i))、PFC油を伴うポリプロピレン(図12B(ii))、およびシラン処理ポリプロピレン(図12B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理ポリプロピレン(図12B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0155】
実施例10
PFC油で処理した官能化テープの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質テープ、PFC油で処理したテープ、およびシラン処理テープのものと比較した。アクリル接着剤を有するポリプロピレンの4枚のシート(McMaster Carr、製品番号75495A36)を、接着剤側を上にして、真空下で約13時間トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0156】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理シートテープの接着側と1枚の非シラン処理シートのテープの接着剤側とに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全ての接着側に適用した(図13A参照)。
【0157】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図13Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図13は、血液が、非処理かつ非改質テープ(図13B(i))、PFC油を伴うテープ(図13B(ii))、およびシラン処理テープ(図13B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理テープ(図13B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0158】
実施例11
PFC油で処理した官能化シリコンウエハーの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質シリコンウエハー、PFC油で処理したシリコンウエハー、およびシラン処理シリコンウエハーのものと比較した。2つのシリコンプライムウエハー(University Wafer)の研磨側を、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。1つのシリコンウエハーを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0159】
250μLのFC−70を、シラン処理ウエハーの約半分と非シラン処理ウエハーの約半分とに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、2つの表面の全体に適用した(図14A参照)。
【0160】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図14Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図14は、血液が、非処理かつ非改質シリコンウエハーの半分(図14B(i))、PFC油で処理されたシリコンウエハーの半分(図14B(ii))、およびシラン処理シリコンウエハーの半分(図14B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理シリコンウエハーの半分(図14B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0161】
実施例12
PFC油で処理した官能化ポリカーボネートの液体を反発する能力を調査し、この能力を、非処理かつ非改質ポリカーボネート、PFC油で処理したポリカーボネート、およびシラン処理ポリカーボネートのものと比較した。4枚の1/8インチの厚さの耐擦傷性クリアポリカーボネートシート(McMaster Carr、製品番号8707K111)を、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2枚のポリカーボネートシートを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0162】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理ポリカーボネートシートと1枚の非シラン処理ポリカーボネートシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図15A参照)。
【0163】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図15Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図15は、血液が、非処理かつ非改質ポリカーボネート(図15B(i))、PFC油を伴うポリカーボネート(図15B(ii))、およびシラン処理ポリカーボネート(図15B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理ポリカーボネート(図15B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0164】
実施例13
PFC油で処理した官能化ポリスルホンの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質ポリスルホン、PFC油で処理したポリスルホン、およびシラン処理ポリスルホンのものと比較した。4枚のポリスルホンシート(McMaster Carr)を、500mトールで40秒間、酸素プラズマ処理で更に改質した。2枚のポリスルホンを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0165】
250μLのFC−70を、1枚のシラン処理ポリスルホンシートと1枚の非シラン処理ポリスルホンシートとに適用して、「PFC油」表面を生成した。抗凝固剤を含まない75μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した(図16A参照)。
【0166】
表面を撮像し、次に手で傾動させ、図16Bに示される通りに直ちに再び撮像した。図16は、血液が、非処理かつ非改質ポリスルホン(図16B(i))、PFC油を伴うポリスルホン(図16B(ii))、およびシラン処理ポリスルホン(図16B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理ポリスルホン(図16B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0167】
実施例14
PDMS表面粗度が滑性表面の生成に及ぼす効果を調査した。4枚の平滑なPDMSシートを、0.1マイクロメートルの平均粗度のSuper Corrosion Resistant Stainless Steel(316型)、#8Mirror Finish(McMaster Carr、製品番号9759K11)上で60℃にて硬化させた。次に、2枚のPDMSシートを、(トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma、製品番号448931))で約12時間、一晩シラン処理した。1枚の平滑なシラン処理PDMSシートと1枚の平滑な非シラン処理PDMSシートとを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングした(それぞれ図17A(ii)および17A(iv)参照)。
【0168】
75マイクロリットル体積の凝固剤を含まないヒト血液を、4枚のPDMSシート全ての上に分注した。図17に示される通り、表面を撮像し、次に手で傾動させて、図17Bに示される通り直ちに再び撮像した。図17は、血液が、非処理かつ非改質の平滑なPDMS(図17B(i))、PFC油を伴う平滑なPDMS(図17B(ii))、およびシラン処理の平滑なPDMS(図17B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理の平滑なPDMS(図17B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0169】
4枚の粗いPDMSシートを、図18に示される通り同様に調製した。4枚の粗いPDMSを、1.0マイクロメートルの平均粗度のSuper Corrosion Resistant Stainless Steel(316型)、#4Stain Finish(McMaster Carr、製品番号9745K11)上で60℃にて硬化させた。2枚のPDMSシートを、(トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma、製品番号448931))で約12時間、一晩シラン処理した。1枚の粗いシラン処理PDMSシートと1枚の粗い非シラン処理PDMSシートとを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングした(それぞれ図18A(ii)および18A(iv)参照)。
【0170】
75マイクロリットル体積の凝固剤を含まないヒト血液を、4枚のPDMSシート全ての上に分注した。図18に示される通り、表面を撮像し、次に手で傾動させて、図18Bに示される通り直ちに再び撮像した。図18は、血液が、非処理かつ非改質の粗いPDMS(図18B(i))、PFC油を伴う粗いPDMS(図18B(ii))、およびシラン処理の粗いPDMS(図18B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理の粗いPDMS(図18B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0171】
2.0マイクロメートルの平均粗度のSuper Corrosion Resistant Stainless Steel(316型)、#2B Mill Finish(McMaster Carr、製品番号88885K12)上で60℃にて硬化させたより粗いグレードのPDMSを、図19に示される通り同様に試験した。シートをシラン処理し、75マイクロリットルの凝固剤を含まない血液をシート上に分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させて、図19Bに示される通り直ちに再び撮像した。図19は、血液が、非処理かつ非改質のより粗いPDMS(図19B(i))、PFC油を伴うより粗いPDMS(図19B(ii))、およびシラン処理のより粗いPDMS(図19B(iii))には接着したが、PFC油を伴うシラン処理のより粗いPDMS(図19B(iv))によって完全に反発されたことを示す。
【0172】
図17B(iv)(平滑なPDMS)、18B(iv)(粗いPDMS)、および19B(iv)(より粗いPDMS)の比較は、凝固剤を含まないヒト血液は、使用されるPDMS物質の平滑さに関係なく、PFC油を伴うシラン処理PDMSによって完全に反発されることを示した。
【0173】
実施例15
異なるフッ化炭素鎖長のテイルを有するシランを使用して、フッ化炭素鎖長が、表面が液体および物質を反発する能力に影響するかを決定した。図20を参照すると、2枚のソーダ石灰ガラススライドを、40秒間酸素プラズマ処理で改質した。1枚のガラススライドを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングし、75マイクロリットルの抗凝固剤を含まない血液を双方のスライドに分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させ、図20Bに示される通りに直ちに再び撮像した。血液は、PFC油を伴わないプラズマ処理したガラススライド(図20B(i))とPFC油を伴うプラズマ処理したガラススライド(図20B(ii))との双方に接着した。
【0174】
このプロセスを、プラズマ処理した1−PFC処理ソーダ石灰ガラススライドに繰り返した。図21を参照すると、2枚のソーダ石灰ガラススライドを、40秒間酸素プラズマ処理で改質し、シラン処理(約2時間)(トリフルオロプロピルトリクロロシラン、Gelest、SIT8371.0)して、1−フッ素添加炭素処理ガラスを得た。1枚のガラススライドを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングし、75マイクロリットルの抗凝固剤を含まない血液を双方のスライドに分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させ、図21Bに示される通りに直ちに再び撮像した。血液は、PFC油を伴わないプラズマ処理した1−PFC処理ガラススライド(図21B(i))に接着した。対照的に、血液の多くは、PFC油を伴うプラズマ処理した1−PFC処理ガラススライド上で反発された(図21B(ii))。
【0175】
このプロセスを、プラズマ処理した4−PFC処理ソーダ石灰ガラススライドに繰り返した。図22に示される通り、2枚のソーダ石灰ガラススライドを、40秒間酸素プラズマ処理で改質し、シラン処理(約2時間)(ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、Gelest、SIN6597.6)して、4−フッ素添加炭素処理ガラスを得た。1枚のガラススライドを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングし、75マイクロリットルの抗凝固剤を含まない血液を双方のスライドに分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させ、図22Bに示される通りに直ちに再び撮像した。血液は、PFC油を伴わないプラズマ処理した4−PFC処理ガラススライド(図22B(i))に接着した。対照的に、血液は、PFC油を伴うプラズマ処理した4−PFC処理ガラススライド上では全く接着しなかった(図22B(ii))。
【0176】
同様に、PFC油を伴う6−PFC処理ガラススライドとPFC油を伴わない6−PFC処理ガラススライドとの血液を反発する能力を比較した。このプロセスを、プラズマ処理した4−PFC処理ソーダ石灰ガラススライドに繰り返した。図23に示される通り、2枚のソーダ石灰ガラススライドを40秒間酸素プラズマ処理で改質し、またシラン処理(約2時間)(トリデカフルオロテトラハイドロオクチルトリクロロシラン、Gelest、SIT8174.0)して、6−フッ素添加炭素処理ガラスを達成した。1枚のガラススライドを、250μLのPFC油(Sigma Fluorinert(登録商標)FC−70、製品番号F9880)でコーティングし、75マイクロリットルの抗凝固剤を含まない血液を双方のスライドに分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させ、図23Bに示される通りに直ちに再び撮像した。血液は、PFC油を伴わないプラズマ処理した6−PFC処理ガラススライド(図23B(i))に接着した。対照的に、血液は、PFC油を伴うプラズマ処理した6−PFC処理ガラススライド上では全く接着しなかった(図23B(ii))。
【0177】
同様に、このプロセスを8−PFC処理ガラススライドに繰り返し、それらを2時間シラン処理(ヘプタデカフルオロテトラハイドロデシルトリクロロシラン、Gelest、SIH5841.0)したところ、血液は、PFC油を伴わないプラズマ処理した8−PFC処理ガラススライド(図24B(i))に接着したが、PFC油を伴うプラズマ処理した8−PFC処理ガラススライド上では全く接着しなかった(図24B(ii))。
【0178】
実施例16
親油性表面および炭化水素油を使用して血液を反発することが可能な滑性表面を生成することができるかを決定するために、実験を行った。対照として、2枚のソーダ石灰ガラススライドを、40秒間酸素プラズマ処理で改質した。1枚のガラススライドを、250μLの軽油(Sigma、M8410)でコーティングし、75μLの抗凝固剤を含まないヒト血液を双方のスライドに分注した。表面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した(図25B)。血液は、表面沈着を伴わず双方のガラススライドに接着した(図25B(i)および25B(ii)参照)。
【0179】
図26を参照すると、ソーダ石灰ガラススライドを、40秒間酸素プラズマ処理で改質し、次に2時間シラン処理した(トリクロロ(オクチル)シラン、Sigma、235725)(図26C)。1枚のガラススライドを、250μLの軽油(Sigma、M8410)でコーティングし、75μLの抗凝固剤を含まないヒト血液を双方のスライドに分注した。面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した(図26B)。血液は、8−HC処理ガラススライドに接着したが(図26B(i))、鉱油で処理した8−HC処理ガラススライドには接着しなかった(図26B(ii)参照)。
【0180】
図28は、プラズマ処理を伴わない非改質のソーダ石灰ガラススライドを示し、非処理ガラス、PFC油(Fluorinert FC−70(Sigma、F9880))を伴うガラス、および250μLの軽油(Sigma、M8410)を伴うガラスを比較する。どのスライドもシラン処理しなかった。75μLの抗凝固剤を含まないヒト血液を、各スライドに添加した。表面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した(図28B)。血液は、非シラン処理ソーダ石灰ガラス(図28B(i))、PFC油を伴う非シラン処理ガラス(図28B(ii))、および軽油で処理した非シラン処理ガラス(図28B(iii))に接着した。
【0181】
実施例17
開示される方法は、血液が凝固するまたはガラスビーズへ接着するのを防止するために使用することができる。図29は、シラン処理された1mmガラスビーズの3枚の画像を示す。ビーズを、石鹸水中で1時間の音波処理に供し、1Mの水酸化ナトリウムを1時間添加する。ビーズを、エタノール中で5体積/体積%でシラン処理(ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、Gelest、SIN6597.6)し、PFC油(Fluorinert FC−70)を添加して、ビーズ上に超滑性表面を生成した(i)。20mLの抗凝固剤を含まないヒト血液を、ビーズに添加した(ii)。PBS溶液で濯いだビーズは、血液物質の接着をほとんど示さなかった(iii)。
【0182】
同様に、図30は、抗凝固剤を含まない血液に曝露され、ビーズの周りに固体の塊を形成した、洗浄した非改質ガラスビーズを示す(i)。その上に血液を分注し、PBSで洗浄したシラン処理PFC油コーティングビーズは、ビーズ上に血液物質の少量の接着を示した(ii)。抗凝固剤を含まない血液への曝露前にPFC油コーティングを伴うシラン処理ビーズは、ビーズ上に血液を全く示さなかった(iii)。
【0183】
実施例18
図32は、本明細書に説明される液体反発性表面の商業用途を示す。PETE製の2つの市販のケチャップ瓶を、ケチャップを空にし、脱イオン水およびエタノールで濯いだ後、60℃で18時間焼いた。ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン(Gelest、製品番号SIN6597.6)を、1つの瓶の内面上に5時間蒸着した。1つのシラン処理した瓶の内側を、PFC油(FC−70、Sigma)でコーティングし、余剰な油を出した。ケチャップを双方の瓶の中へ注ぎ戻した。処理瓶および非処理瓶の内容物を、エルレンマイヤーフラスコへ注ぎ出し(図32A)、垂直にして休ませた(図32B)。10分後、非処理の非改質瓶は、瓶の壁にケチャップの著しい接着を示した(図32B(i))。しかしながら、ケチャップはPFC油で処理したシラン処理ケチャップ瓶にほとんど接着しなかった(図32B(ii))。
【0184】
実施例19
以下の例示的な実験条件および手順は、幾つかの実施形態における表面処理の強固性および安定性を試験するために使用することができる。
1)1/4インチの医療グレードPVC管(Sorin Group #020463101)を、170mトール酸素下で100Wにて120秒間プラズマ処理し、エタノール中の5%トリデカフルオロ−1,1,2,2−ハイドロオクチルトリクロロシラン(Gilest #SIT8174.0)(体積/体積%)を用いて1時間液体シラン処理し、60℃にて一晩乾燥させた。
2)上述のPVC管の半分を、Self−Seal Sterilization Pouches(Cardinal Health #92713)内でパッケージし、エチレンオキシド(ethalene oxide)を用いて標準的な病院殺菌プロトコル下で殺菌した。上述のPVC管のもう半分は、殺菌せず、室温で覆いをかけて保管した。
3)7日後、殺菌した管と殺菌していない管とを、Fluorinert FC−70(3M)かまたはペルフルオロデカリン(perfluordecalin)(sigma)かのいずれかでコーティングし、簡単に水気を切った。
4)100ユニット/kgのヘパリンを伴うCPDバッグ内に収集したブタ血液を、40umの細胞ストレーナー(BD)を用いて濾過し、7.5mMの塩化カルシウム/塩化マグネシウム(100mMのCaCl2、75mMのMgCl2)で再石灰化し、3.5mg/mlの硫酸プロタミンでヘパリン除去化した。次に、30mLを、シリンジポンプで駆動して30ml/分で管を通じて流した。
5)次に、血液を細管から重力排水し、細管を撮像して、処理細管と非処理細管、および殺菌細管と非殺菌細管とを比較した。(非処理の対照管は、シラン処理、殺菌、またはペルフルオロカーボン油でコーティングしなかったが、それ以外は処理管と同様に取り扱った)。
【0185】
図33A〜Eは、非処理または処理医療グレードPVC管を用いた、(例えば、上述の手順および条件にて説明されるような)一連の血液残留実験の試験結果を示す。図33Aは、著しい血液残留物が非処理管内に残ることを示す。図33Bは、血液残留物は、FC−70処理(非殺菌)管内で著しく低減されることを示す。図33Cは、反発性特徴は、殺菌によってほとんど影響されないことを示す。図33Dは、血液残留物は、PFD処理(非殺菌)管内で著しく低減されることを示す。図33Eは、反発性特徴は、殺菌によってほとんど影響されないことを示す。
【0186】
実施例20
University Wafer製のシリコンウエハー、McMaster Carr製のアクリル(PMMA)、およびMcMaster Carr製のポリスルホンを、酸素プラズマを用いて160mトールおよび100Wにて1分間、プラズマ処理した。次に、シラン処理を、純エタノール(無水)を伴う5%(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル(tetrhydroocyl))トリクロロシラン(体積/体積)で1時間行い、その後エタノール、脱イオン水、およびエタノールで濯ぎ、その後65℃で2時間焼いた。5μLの水をピペットで各標本の上に定置し、各標本について3枚の画像を用いて、平均および標準偏差を測定した。図34に示される通り、接触角は、プラズマ処理後に減少するが、シラン処理後に増加する。
【0187】
実施例21
McMaster Carr製の厚さ1/4のアクリル(PMMA)を、160mトールおよび100Wにて酸素プラズマを用いて1分間、プラズマ処理した。次に、シラン処理を、純エタノール(無水)を伴う5%(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル(tetrhydroocyl))トリクロロシラン(体積/体積)で1時間行い、その後エタノール、脱イオン水、およびエタノールで濯ぎ、その後65℃で2時間焼いた。プラズマ処理およびシラン処理の前後にアクリル表面の原子間力顕微鏡法(AFM)表面測定をアクリル表面(Mcmaster Carr)で行い、自乗平均表面粗度の中央値および標準偏差を行った。アクリル表面を、150mトールの酸素ガス下で100Wにて60秒間プラズマ処理し、純エタノール(無水)中の5%(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル(tetrhydroocyl))トリクロロシラン(体積/体積)で1時間シラン処理し、その後エタノール、脱イオン水、およびエタノールで濯ぎ、その後65℃で2時間焼いた。表面粗度は、シラン処理後に3.4nm±1.1nm〜約2.0±0.2nm減少する。
【0188】
シラン処理アクリル標本を、ペルフルオロデカリン(FluoroMed)で浸漬コーティングし、水、ヘキサデカン、およびクエン酸塩を伴うヒト血液の傾斜角を、5μLの液体を調製した標本上にピペットで定置することによって測定した。次に、標本をゴニオメータ(Edmund Scientific)を用いて手動で傾動させた。傾斜角が10°に達した後に液体を移動させなかった標本は、それ以上傾動させず、10°の傾斜角で記録した。
【0189】
図35は、液体は、非処理標本上で10°傾斜角でさえも移動しなかったが、一方ペルフルオロデカリンで処理した表面は、2°を下回る傾斜角を示すことを示す。
【0190】
実施例22
潤滑液による処理の前後の生物学的特徴付けを、生体外研究を用いて行った。ポリスルホン表面を、150mトールの酸素ガス下で100Wにて60秒間プラズマ処理し、純エタノール(無水)中の5%(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル(tetrhydroocyl))トリクロロシラン(体積/体積)で1時間シラン処理し、その後エタノール、脱イオン水、およびエタノールで濯ぎ、その後65℃で2時間焼いた。「PFC油無し」標本を、プラズマ/シラン処理したが、その後いかなる添加される潤滑液も有さなかった。「ペルフルブロン」、「ペルフルオロデカリン」、および「Fluorinert FC−70」標本を、対応する潤滑剤で浸漬コーティングし、血液への曝露の前に余剰を重力によって直ちに除去した。標本を、生理食塩水で濯いだ後に撮影した。血液を、提供の2週間以内にアスピリンを摂取しておらず、また喫煙していない健康な男性ボランティアから告知に基づく同意を得て獲得した。血液を、Harvard Committee on Human Studies認可のthe Declaration of Helsinkiに従って採取した(Protocol Number M20403−101)。血液傾動実験を、90度の角度にて行った。
【0191】
滑性PMMAおよびポリスルホン上でのヒト全血からの血栓形成の速度を調査し、血液を蛍光線維素原で固定することによって接着を定量化した。調査した全ての滑性表面上で、非処理表面よりも低減された表面接着および線維素形成が観察された。血液接着実験のために、ポリスルホンまたはポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)片(11mmx8mm)を、15ug/mLの蛍光線維素原を含有するヘパリン化血液(0.25U/ml)と共にBSA(1%(重量/体積))で遮断されたウエル内で30、60、または90分間培養した。30分、60分、および90分の、ポリスルホンおよびPMMA上におけるBSA遮断ポリスチレンウエルプレート内での僅かにヘパリン化したヒト血液からの血栓蓄積の経時変化を、図36に示す。示される通り、ペルフルオロデカリン(perfluordecalin)およびFC70で処理された標本は、血栓蓄積における最も有効な低減を示した。
【0192】
図37は、非処理ポリスルホンと、30分後にプラズマ処理、シラン処理、およびFC−70でコーティングしたものとの走査型電子顕微鏡画像を示す。図36と同様に、FC−70で処理した標本は、血栓蓄積における著しい低減を示した。
【0193】
僅かにヘパリン化したヒト血液からの血栓蓄積の経時変化を、蛍光線維素原を用いてBSA遮断ポリスチレンウエルプレート内のアクリル上で90分更に観察した。標本を、生理食塩水で濯いだ後に蛍光顕微鏡法によって測定し、画像をImageJ softwaredを用いて分析した。図38に示される通り、FC−70で処理した標本は、最小の線維素原コーティング面積を示した。化学的表面改質は、線維素接着を非処理PMMAから著しく減少させた(P<0.001)。線維素形成は、FC−70を伴う滑性PMMA上で90分後に97%低減され、統計的に有意であった(P<0.001)。
【0194】
実施例23
滑性表面改質および医療グレード完全フッ素化液体によるコーティングは、生体外研究において、非抗凝固処理血液と接触するときに表面の血栓形成を低減させた。
【0195】
PVC細管(Tygon 3603)を、170mトール酸素下で120秒間プラズマ処理し、1時間液体シラン処理(エタノール中の5%トリデカフルオロ−1,1,2,2−ハイドロオクチルトリクロロシラン)し、エタノール、脱イオン水、およびエタノール3Xで濯ぎ、60℃にて一晩乾燥させた。PVC管の半分をパッケージし、エチレンオキシド殺菌によって殺菌した。残りは室温で覆いをかけて保管した。
【0196】
7日後、殺菌した細管と殺菌していない細管とを、ペルフルオロデカリン(perfluordecalin)(FluoroMed)で潤滑化した。処理していないブタ血液を、46.9ul/mlの100mMのCaCl2/75mMのMgCl2(3/4)と3.5ugの硫酸プロタミン(1/2)とをブタ血液に添加する前に、細胞ストレーナーを通じて濾過した。
【0197】
30mlのブタ血液を、シリンジポンプを用いて30mL/分で細管を通じて流した。血液を100mMのCaCl2および75mMのMgCl2および硫酸プロタミン10ug/Uで再活性化した。動静脈シャントを、8Fカテーテル(Medtronic)を用いてヨークシャーブタの大腿動静脈および1/4インチの細管(Sorin Group)内に確立した。細管を、重力によって血液を空にし、直ちに水平に撮像した。図38に示される通り、ペルフルオロデカリンを伴う殺菌および非殺菌細管は、血液を保持せず、一方非処理細管は保持した。したがって、殺菌はシラン処理に影響しないようであり、表面は滑性のままである。
【0198】
実施例24
滑性表面改質および医療グレード完全フッ素化液体によるコーティングは、生体内研究において、非抗凝固処理血液と接触するときに表面の血栓形成を低減させた。
【0199】
潤滑液による処理の前後の生物学的特徴付けを、生体内研究を用いて行った。滑性表面処理を伴う、および伴わない医療グレードプラスチックを、40kgのブタの大腿動静脈間に動静脈(AV)ブリッジを形成することによって、行った。8Frカニューレを、24x1/4インチPVC細管によって接合した。約1L/分(60L/時間)の血流速を、追加の抗凝固剤の使用を伴わずに8時間試験した。滑性シャントは、約1L/分の血流で8時間超、閉塞しないままであり(特許)、一方非処理シャントは、90分以内で完全に閉鎖した。
【0200】
医療グレードPVC細管(Sorin group)を、170mトール酸素下で180秒間プラズマ処理し、1時間液体シラン処理(エタノール中の5%トリデカフルオロ−1,1,2,2−ハイドロオクチルトリクロロシラン)し、エタノール、脱イオン水、およびエタノール3Xで濯ぎ、60℃にて一晩乾燥させた。
【0201】
同様に、医療グレードポリウレタンカテーテルを、170mトール酸素下で120秒間プラズマ処理し、1時間液体シラン処理(エタノール中の5%トリデカフルオロ−1,1,2,2−ハイドロオクチルトリクロロシラン)し、エタノール、脱イオン水、およびエタノール3Xで濯ぎ、60℃にて一晩乾燥させた。
【0202】
両標本を、ペルフルオロデカリンによる潤滑化の前にエチレンオキシドによって殺菌した。
【0203】
図39Aに示される通り、その上に適用される潤滑液を伴わない医療グレードカニューレおよびPVCブリッジは、著しい血餅形成/閉塞を、特にカニューレ:ブリッジコネクタ内に示す。閉鎖は、1〜1.5時間以内に発生した。対照的に、図39Bに示される通り、医療グレードカニューレおよびPVCブリッジ上に滑性表面が形成されるとき、8時間後でさえも、最小限の血餅形成および最小限の血小板活性化が観察される。
【0204】
図40に示される通り、カテーテルおよび細管を切開し、撮像した。示される通り、滑性表面を伴う標本は、非処理対照サンプルと比較して低減された血餅形成を示した。
【0205】
更に、図41に示される通り、標本を、生理食塩水で充填したときと生理食塩水を空にした後とで重量測定し、導管内の血栓の重量を決定した。対照サンプルよりも少ない血栓蓄積が、処理標本にて観察された。
【0206】
実施例25
カルボキシル末端ペルフルオロポリエーテルを固着層として用いた金属表面改質を実証する。Krytox157FSH(カルボキシル末端ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)、MW7000−7500、Miller Stephenson)を、固着層として使用した。FC−70(Aldrich、lot#MKBF9431V)またはKrytox10xを、潤滑剤として使用した。アルミニウム合金6061−T6を、基材として使用した。30%過酸化水素(水溶液)、無水エタノール(Pharmco)、HFE−7100(メチルノナフルオロブチルエーテル30〜50%とメチルノナフルオロイソブチルエーテル70〜50%との混合物、Miller Stephenson)を、受容されるものとして使用した。洗浄に使用した水は、Milliporeグレードであった。
【0207】
平坦なAl標本の代表的な粗度および波形データを、表2に提供する。
【0208】
【表2】
【0209】
アルミニウムプレートを、30%H、水、および無水エタノール中で連続して30分間音波処理し、次にオーブン内で空気中で100℃にて30分間乾燥させた。
【0210】
事前洗浄した標本を、Teflonホルダー内に垂直に置き、次に還流冷却器、熱電対、加熱マントル、および窒素雰囲気生成装置(泡立器)を備え付けた500mL三口フラスコ内へ定置した。フラスコに、Krytox−157FSHのHFE−7100中3mM溶液(370.5mL中8.46g)を充填する。溶液は、図1bに示される通り、プレートを完全に覆った。混合物を、窒素下で60℃にて3時間還流させた後、混合物を室温まで冷却し、標本を取り除き、40mLのHFE−7100と40mLの無水エタノールとで連続して濯ぎ、80℃にて55分間空気中でオーブン中で乾燥させた。一度に2つの標本を処理し、溶液および濯ぎ液は次の標本セットの処理で再利用した。
【0211】
接触角測定を、CAM101(KSV Instruments LTD)計器およびMilliporeグレード水を用いて室温で行った。提供される値は、各場所に対して左、右、および平均角度である。各標本に対して1〜3箇所で試験した。標本は、測定中水平に保持された。代表的な接触角データを、表3に提供する。
【0212】
【表3】
【0213】
表面事前処理したアルミニウム片を、FC−70(Aldrich、lot#MKBF9431V)と共に、合計60μL(約130mg)のFC−70を標本の表面上に定置することによって注入した。FC−70は、数分間拡張された。標本を、潤滑剤で非常に素早く湿潤させ、平滑で光沢のある表面を得た。
【0214】
処理した標本の表面を液体反発性に関して試験するため、1滴の水(30μL、Millipore)をアルミニウム表面上に置き、表面を様々な方向に傾動させながら水滴の挙動を観察し、ビデオ録画した。水滴は、止まることなく低傾斜角にて極めて少ない抵抗で官能化および潤滑化表面を容易に摺動することがはっきりと分かった。
【0215】
官能化化学反応を、下に示す。官能化後、化学的に官能化された平坦な標本は、110〜120度の接触角を示し、約120度の平坦なPTFE表面上での報告されている最大の水接触角に近い。観察値は、官能化が発生したことを示唆している。
【化9】
【0216】
予想通り、フッ素化潤滑剤FC−70は、官能化した基材上に容易に拡張して、低傾斜角での表面上の液滴の抵抗や固定を伴わない自由ない動きからも明らかなように、流体反発挙動を示す平滑な滑性表面を生成した。
【0217】
実際例26
液体潤滑剤との親和性に合致し、滑性表面を形成するような、ホスホン酸リガンドによる固体基材の化学的官能化を実証する。
【0218】
全ての化学物質は、Sigma−Aldrichから購入し、別に定めのない限り更なる精製をせずに使用した。
【0219】
潤滑剤との基材の親和性に合致するための、完全フッ素化ホスホン酸リガンドを用いた金属酸化物基材の溶液相化学的官能化
【0220】
オキシ水酸化アルミニウム基材表面上にフルオロアルキル鎖の単層を生成するために、標本を、95:5エタノール:水中の1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルホスホン酸(F13PA)またはFS100(フルオロ脂肪族リン酸エステルフッ素系界面活性剤、Mason Chemical Company)の1重量%溶液中に、70℃で1時間浸した。別の態様では、高温で損傷する可能性がある部分を有する基材を、同じ浴槽内でより低温でより長時間(例えば、40℃で3〜4時間または室温で一晩)フッ素化した。また別の態様では、アルコールによって損傷する可能性がある部分を有する基材(例えば、PMMA、医療グレードPVC)を、1重量%のPluronicF−68(EO78PO30EO78、FW=8400、Affymetrix)の存在下でFS100を溶解するように調製したFS100の水溶液中でフッ素化して、次に他の基材と同じ手順に従った。
【0221】
溶液相化学的官能化方法に適合しない基材(例えば、PDMS、PHEMAヒドロゲル)を、Cプラズマを用いて、120sccmのC流速(立方センチメートル毎分)を有する誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングシステム(STS MPX/LPX RIE)を用いて、1mトール圧力下および600W/0Wコイル/プラテン電力で8秒間フッ素化した。
【0222】
全てのフッ素化した表面を、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤(DuPont Krytox GPL100、「K100」)の適用によって潤滑化した。潤滑剤を拡張させるため、基材を傾動するか、または回転コーティング器上で回転させた。余剰潤滑剤は、典型的には基材を高い回転速度(>3,000rpm、1分)で回転させることによって、または基材を高圧水流中で圧力洗浄することによって除去した。
【0223】
図42は、裸アルミニウム(Al)、オキシ水酸化アルミニウム(Al−B)、フルオロ官能化オキシ水酸化アルミニウム(Al−BF)、および純フルオロ脂肪族リン酸エステルフッ素系界面活性剤(FS100)からの4つの異なる官能化の段階を通じて上昇する特徴的なピークによって明らかであるように、FTIRスペクトルを通じて、滑性表面が成功的に形成されたことを示す。
【0224】
実施例27
ガラス底24ウエルプレート(Matek Corporation、P24G−0−13−F)を、PFD(添加し、次に分注する)と共に、または伴わずにプラズマおよびシラン処理した。次に、リン酸緩衝生理食塩水中の蛍光線維素原Alexa Fluor647(Invitrogen、F35200)の0.5ug/m溶液1mlを、各ウエルに添加した。画像を、Leica TIRF on DM16000B上で63x油対物レンズを用いて多点位置決めで撮影した。
【0225】
図43(スケールバー=20um)に示される通り、生理食塩水中の線維素原分子は滑性ガラスから反発される。蛍光線維素原粒子(矢印参照)は、ペルフルオロカーボンを伴わないガラスには張り付く(上)が、ペルフルオロカーボン物質で処理したガラスでは表面に張り付かず、その上を移動し続ける(下)。
【0226】
実施例28
ガラス底24ウエルプレート(Matek Corporation、P24G−0−13−F)を、Vitreon(添加し、次に分注する)と共に、または伴わずにプラズマおよびシラン処理した。次に、蛍光線維素原Alexa Fluor647(Invitrogen、F35200)の1.5ug/ml溶液をたらした1mlのヘパリン化ヒト全血を、各ウエルに添加した。画像を、Leica SP5 X MP Inverted Confocal Microscopeを用いて20X対物レンズで多点位置決めで撮影した。
【0227】
図44(スケールバー=100um)に示される通り、全ての血が滑性ガラスから反発された。蛍光血栓(矢印)は、ペルフルオロカーボンを伴わないガラスには張り付く(上)が、ペルフルオロカーボン物質で処理したガラスでは表面に張り付かず、その上を移動し続ける(下)。
【0228】
実施例29
PFC油で処理した官能化濾紙の液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質濾紙、PFC油で処理した濾紙、およびシラン処理濾紙のものと比較した。2枚の濾紙(Whatman、#B−2,10347673)を、170mトールで60秒間200Wにて酸素プラズマ処理で更に改質した。これらの2枚のフィルタを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0229】
75μLのペルフルオロデカリンを、1枚のシラン処理濾紙と1枚の非シラン処理濾紙とに適用して、「PFC油」表面を生成した。25μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した。
【0230】
表面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した。血液は、非処理かつ非改質濾紙、PFC油で処理した濾紙、およびシラン処理濾紙には接着したが、PFC油を伴うシラン処理濾紙によって完全に反発された。
【0231】
実施例30
PFC油で処理した官能化ガラス繊維フィルタの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質ガラス繊維フィルタ、PFC油で処理したガラス繊維フィルタ、およびシラン処理ガラス繊維フィルタのものと比較した。2枚のガラス繊維フィルタ(Millipore、AP2007500)を、170mトールで60秒間200Wにて酸素プラズマ処理で更に改質した。これらの2枚のフィルタを、真空下で約13時間、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シランで一晩シラン処理した。
【0232】
75μLのペルフルオロデカリンを、1枚のシラン処理ガラス繊維フィルタと1枚の非シラン処理ガラス繊維フィルタとに適用して、「PFC油」表面を生成した。25μLのヒト血液を、4つの表面全てに適用した。
【0233】
表面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した。血液は、非処理かつ非改質ガラス繊維フィルタ、PFC油で処理したガラス繊維フィルタ、およびシラン処理ガラス繊維フィルタには接着したが、PFC油を伴うシラン処理ガラス繊維フィルタによって完全に反発された。
【0234】
実施例31
シラン処理中のシラン上の脱離基の組成および溶媒の組成を調査した。ペルフルオロデカリンを、シランの沈着のための溶媒として使用した。トリエトキシシランかトリクロロシランかのいずれかで官能化し、更にPFC油で処理したアクリルの液体を反発する能力を調査し、非処理かつ非改質アクリル、PFC油で処理したアクリル、およびトリエトキシシランかまたはトリクロロシランかのいずれかで官能化したアクリルのものと比較した。6枚のクリアキャストアクリルシート、0.060インチの厚さ(McMaster Carr、製品番号8560K171)を得た。2枚のアクリル(acyrylic)シートを、ペルフルオロデカリン中で5体積パーセントのトリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Gelest、SIT8174.0)で1時間、シラン処理した。2枚の別個のフィルタを、ペルフルオロデカリン(FluoroMed、AP140−HP)中で5体積パーセントのトリエトキシ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Gelest、SIT8175.0)で1時間、シラン処理した。4枚のシラン処理シートを、1ミリリットルのペルフルオロデカリンで濯ぎ、圧縮空気で乾燥させ、摂氏60℃で2時間焼いた。
【0235】
75μLのペルフルオロデカリンを、1枚のトリクロロシランでシラン処理したアクリルシート、1枚のトリエトキシシランでシラン処理したアクリルシート、および1枚の非シラン処理アクリルシートに適用して、「PFC油」表面を生成した。25μLのヒト血液を、6つ全ての表面に適用した。
【0236】
表面を撮像し、次に手で傾動させて、直ちに再び撮像した。血液は、非処理かつ非改質アクリル、PFC油で処理したアクリル、およびトリエトキシシランかまたはトリクロロシランからのいずれかで官能化したアクリルには接着したが、トリエトキシシランかまたはトリクロロシランかのいずれかで官能化し、更にPFC油で処理したアクリルによって完全に反発された。
【0237】
本開示を読めば当業者に明らかであるように、本開示の態様は、上述に具体的に開示されるもの以外の形態で実施されることができる。例えば、特定の医学関連応答(抗血餅形成、血液または他の生体液反発、薬剤放出、感染抑制、組織成長促進等)を達成することを意図される所望の機能性が、固着および潤滑層の組成へと改変されることができる。上述の具体的な実施形態はしたがって、例証的であり、制限的ではないとみなされるべきである。当業者は、単に日常的な実験を用いることによって、本明細書に説明される特定の実施形態に対する多数の同等物を認識する、または確認することができるであろう。本発明の範囲は、前述の説明に含まれる実施例に限定されるよりむしろ、添付の特許請求の範囲およびその同等物に明記される通りである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
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図33B
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