(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の固定した摩擦材を使用する方法では、摩擦材を固定するための加工が必要となり製造コストを押し上げる要因となっている。また、摩擦材を固定するため、摩擦材の固定側一面は摺動面(摩擦面)として機能せず摺動面(摩擦面)が一面のみとなることから、この一面が磨耗等で機能しなくなるときが寿命となる。したがって、長寿命化を図る場合には摩擦材自体の材料変更を余儀なくされる。
【0007】
そこで、本発明は、摩擦材の材料を変更することなく長寿命化を確保でき、低コスト化が可能であるトルクリミッタ装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のトルクリミッタ装置は、トルクが入力される回転主軸に接続された入力側第1回転プレートと、前記入力側第1回転プレートに取り付けられて、前記回転主軸の軸方向に相対移動可能で、かつ、前記入力側第1回転プレートと一体に回転可能な入力側第2回転プレートと、前記入力側第1回転プレートと前記入力側第2回転プレートの間に配置され、前記回転主軸と同軸上に相対移動可能に設けられた回転従軸に接続された出力プレートと、前記入力側第1回転プレートと前記出力プレートに接して配置され、前記入力側第1回転プレートと前記出力プレートの両方の面に対して摺動可能な摺動面を表裏に有する環状の第1摩擦材と、前記入力側第2回転プレートと前記出力プレートに接して配置され、前記入力側第2回転プレートと前記出力プレートの両方の面に対して摺動可能な摺動面を表裏に有する環状の第2摩擦材と、前記入力側第2回転プレートの前記第2摩擦材側とは反対側の面に圧接し、前記入力側第2回転プレートを前記入力側第1回転プレートに向かって前記軸方向に付勢した付勢部材と、前記入力側第1回転プレートに接続され、前記付勢部材を支持した支持プレートを具備するものである。
【0009】
ここで、入力側第1回転プレートは、トルクが入力される回転主軸に接続されて回転主軸と同期回転するものであり、第1摩擦材が摩擦係合または摺動する相手部材となるものである。
また、入力側第2回転プレートは、前記入力側第1回転プレートと一体に回転可能に取付けられて前記回転主軸の軸方向に相対移動可能であり、第2摩擦材が摩擦係合または摺動する相手部材となるものである。また、付勢部材による付勢力(押圧力)を直接的に受けるものである。
【0010】
出力プレートは、前記入力側第1回転プレートと前記入力側第2回転プレートの間に配置され、第1摩擦材及び第2摩擦材が摩擦係合または摺動する相手部材となり、前記回転主軸と同軸上に相対移動可能に設けられた回転従軸に前記回転主軸のトルクを伝達するものである。
【0011】
第1摩擦材は、前記第1回転プレート及び前記出力プレートに対して摩擦係合または摺動するために前記入力側第1回転プレートと前記出力プレートに接して相対回転可能(周方向への相対移動可能)に配置されるものであり、付勢部材の付勢力によって、前記入力側第1回転プレート及び前記出力プレートに挟持状態で保持され、前記第1回転プレート及び前記出力プレートの両方の面に対して摺動可能な摺動面を表裏両面に有するものである。
また、第2摩擦材も第1摩擦材と同様に、前記第2回転プレート及び前記出力プレートに対して摩擦係合または摺動するために前記入力側第2回転プレートと前記出力プレートに接して相対回転可能(周方向への相対移動可能)配置されるものであり、付勢部材の付勢力によって、前記入力側第2回転プレート及び前記出力プレートに挟持状態で保持され、前記第2回転プレート及び前記出力プレートの両方の面に対して摺動可能な摺動面を表裏両面に有するものである。
【0012】
付勢部材は、前記入力側第2回転プレート及び前記回転従軸に接続された出力プレートを前記入力側第1回転プレートに向かって回転主軸の軸方向に付勢するものであり、入力側第2回転プレートと出力プレートの間に接して配置された第2摩擦材の摺動面を入力側第2回転プレート及び出力プレートに圧接させると共に、入力側第1回転プレートと出力プレートの間に接して配置された第1摩擦材の摺動面を入力側第1回転プレート及び出力プレートに圧接させるものであ
る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明のトルクリミッタ装置によれば、回転主軸に接続された入力側第1回転プレートに対して入力側第2回転プレートが一体回転可能で、かつ、回転主軸の軸方向に相対移動可能に取付けられ、また、入力側第1回転プレートと入力側第2回転プレートの間に出力プレートが回転主軸と同軸上に相対移動可能に設けられ、更に、入力側第2回転プレートには支持プレートによって支持される付勢部材が圧接している。
このため、入力側第1回転プレートと出力プレートに接して配置された第1摩擦材が、入力側第1回転プレートと出力プレートに対して両面で摺動可能な状態で入力側第1回転プレートと出力プレートによって挟持されると共に、入力側第2回転プレートと出力プレートに接して配置された第2摩擦材が、入力側第2回転プレートと出力プレートの両面に対して摺動可能な状態で入力側第2回転プレートと出力プレートによって挟持される。
【0014】
したがって、回転主軸のトルクが所定の範囲内にある場合には、第1摩擦材の入力側第1回転プレートと出力プレートに対する両面の摺動面が入力側第1回転プレート及び出力プレートに摩擦係合すると共に、第2摩擦材の入力側第2回転プレートと出力プレートに対する両面の摺動面が摩擦係合する。このため、回転主軸の回転が入力側第1回転プレート、入力側第2回転プレート、第1摩擦材及び第2摩擦材を介して、出力プレートに伝達される。そして、出力プレートが接続している回転従軸が回転主軸と同期して回転する。 即ち、回転主軸のトルクが、第1摩擦材と第2摩擦材の摩擦力(摩擦抵抗力)により回転従軸に伝達される。
【0015】
一方、回転主軸のトルクが所定値(リミットトルク値)を超えた場合には、第1摩擦材の摺動面が入力側第1回転プレートと出力プレートに対して摺動すると共に、第2摩擦材の摺動面が入力側第2回転プレート及び出力プレートに対して摺動する。これにより、回転主軸から回転従軸へのトルク伝達が遮断・緩和され、過大なトルク変動が伝達されるのが阻止される。
【0016】
このように、本発明のトルクリミッタ装置においては、第1摩擦材が入力側第1回転プレートと出力プレートの両方の面に対して、また、第2摩擦材が、入力側第2回転プレートと出力プレートの両方の面に対して摺動可能な摺動面を表裏に有している。
したがって、従来の片面が固定された摩擦材では片面だけが摺動しているのに対し、本発明のトルクリミッタ装置によれば、トルクリミッタとして働く摩擦材の摺動面が表裏の両面となることから、摺動面が2倍となり、片面が機能しなくなったときでも残る1面がトルクリミッタ機能を発揮し、摩擦材の材料を変更することなく長期の使用が可能となる。また、両面摺動とすることで、片面を摺動させたときに比べて摺動の負担が両面に分散されるため、静摩擦係数μsの経時変化が緩和され安定したトルク制御を行うことができる。更に、第1摩擦材及び第2摩擦材の摩耗の進行や相手部材への摩擦による攻撃性が緩和され、これらのことからも長寿命化が確保される。
【0017】
また、入力側第2回転プレート及び出力プレートの軸方向移動が可能であることで、付勢部材の付勢力によって、常時、第1摩擦材を入力側第1回転プレートと出力プレートに対する両面で摺動可能な状態で入力側第1回転プレートと出力プレートによって保持できると共に、第2摩擦材を入力側第2回転プレートと出力プレートの両面に対して摺動可能な状態で入力側第2回転プレートと出力プレートによって保持できることから、第1摩擦材及び第2摩擦材を特定手段で固定しなくてもよく、低コスト化が可能であ
る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示したように、本発明の実施の形態のトルクリミッタ装置1は、互いに同軸なトルク出力側となる回転主軸10とトルク受入側となる回転従軸20との間に設けられるものであり、回転主軸10側に接続され、軸芯周りに回転可能な入力側第1回転プレート30と、入力側第1回転プレート30に接続される入力側第2回転プレート40と、入力側第1回転プレート30及び入力側第2回転プレート40の間に配置され、回転従軸20に接続される出力プレート50と、入力側第1回転プレート30と出力プレート50に接して配置する環状の第1摩擦材60Aと、出力プレート50と入力側第2回転プレート40に接して配置する環状の第2摩擦材60Bと、入力側第2回転プレート40の第2摩擦材60B側とは反対側の面に接して配置される付勢部材としての皿ばね70と、入力側回転プレート30に接続され皿ばね70を支持して付勢力を与える支持プレート80とから構成されている。
【0020】
図1及び
図2において、回転主軸10に接続される入力側第1回転プレート30は、中央に回転主軸10の先端凸部が挿入される中心貫通孔31aを有する平板の円板部31と、円板部31の外周に延設された円板部31より厚みの大きいマス部32とからなる。 ここで、円板部31とマス部32の一端面は同一平面にあり、円板部31とマス部32の他端面は段差を有する。したがって、入力側第1回転プレート30は断面が略コ字状に形成された環状のプレートとなっている。
そして、円板部31の中心貫通孔31aの周囲近傍には、中心貫通孔31aを中心とする同心円状の周方向に、軸方向(厚み方向)に表裏を貫通するボルト挿通孔31bが等間隔で複数個形成されている。
【0021】
本実施の形態では、中心貫通孔31aに回転主軸10の先端凸部を挿入し、ボルト挿通孔31bに回転主軸10に連結するためのボルト11を挿通して回転主軸10のねじ孔に螺合することによって、入力側第1回転プレート30を回転主軸10の端面に複数のボルト11によって同軸的に連結固定可能となっている。
【0022】
また、円板部31の外周においてマス部32の近傍には、中心貫通孔31aを中心とする同心円状の周方向に、軸方向(厚み方向)に表裏を貫通し、入力側第2回転プレート40の外周部に形成された爪部41が挿通されるスリット状貫通孔31cが等間隔で複数個形成されている。更に、円板部31の回転主軸10とは反対面において、ボルト挿通孔31bとスリット状貫通孔31cの間にガイド突出部90Aを有する。ガイド突出部90Aは、入力側第1回転プレート30において第1摩擦材60Aの位置決めを行うためのものであり、
図1及び
図2では、第1摩擦材60Aを組み付けたときに第1摩擦材60Aの内周端部が接する位置としている。ガイド突出部90Aの突出高さは、第1摩擦材60Aの両面摩擦代及び出力プレート50に接触しない厚さとする。このように、入力側第1回転プレート30にガイド突出部90Aを設けることで、第1摩擦材60Aが所定の位置で摺動することが可能となる。
【0023】
更に、マス部32の円板部31と段差を有する面32b(以下、段差面32bと呼ぶ)において、中心貫通孔31aを中心とする同心円状の周方向に、支持プレート80を固着するためのボルト84が装着されるボルト装着孔32aが等間隔で複数個設けられている。
【0024】
入力側第1回転プレート30に接続される入力側第2回転プレート40は、入力側第1回転プレート30内に収容される金属製の環状部材であり、中央に中心孔41aが形成され、中心孔41aの周辺に第1摩擦材60Aが配置される平面部が設けられ、更に、その外周部に、入力側第1回転プレート30のスリット状貫通孔31cに対応し、入力側第1回転プレート30側に向かって軸方向に延びる爪部41が、周方向に等間隔で複数突設されている。
【0025】
本実施の形態では、入力側第2回転プレート40の爪部41の軸方向の突出長さが、第1摩擦材60A、第2摩擦材60B、出力プレート50、及び入力側第1回転プレート30のスリット状貫通孔31cの軸方向の長さ(厚み)の合計よりも長く形成されており、入力側第2回転プレート40の爪部41を、入力側第1回転プレート30のスリット状貫通孔31cに挿通することで、入力側第2回転プレート40が、入力側第1回転プレート30に一体に回転可能、かつ、入力側第1回転プレート30に対して回転主軸10の軸方向に相対移動可能に保持されるようになっている。
なお、本発明を実施する場合には、入力側第2回転プレート40を入力側第1回転プレート30にがたつくことなく回転主軸10の軸方向に相対移動可能、かつ、一体に回転可能に取り付けることができれば、係合形態は特に上記に限定されるものではない。
【0026】
また、本実施の形態の入力側第2回転プレート40は、その内周部に入力側第1回転プレート30側に向かって軸方向に突設したガイド突出部90Bを有する。
ガイド突出部90Bは、入力側第2回転プレート40において第2摩擦材60Bの位置決めを行うためのものであり、
図1及び
図2では、第2摩擦材60Bを組み付けたときに第2摩擦材60Bの内周端部が接する位置としている。ガイド突出部90Aと同様、ガイド突出部90Bの突出高さは、第2摩擦材60Bの両面摩擦代及び出力プレート50に接触しない厚さとしている。このように、入力側第2回転プレート40にガイド突出部90Bを設けることで第2摩擦材60Bが所定の位置で摺動することが可能となる。
【0027】
これら入力側第1回転プレート30及び入力側第2回転プレート40の間に配置される出力プレート50は、環状の平板であり、その内周側が回転主軸10と同軸上に相対移動可能に設けられた回転従軸20に接続される。
【0028】
第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bは、共に環状の平板形状をした部材であり、所定以上のトルクが加わると、第1摩擦材60Aでは入力側第1回転プレート30側と出力プレート50側の両面で、第2摩擦材60Bでは入力側第2回転プレート40側と出力プレート50側の両面で摺動する摺動面を有している。つまり第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bの両面は特定の静摩擦係数μsを有した摺動面である。
【0029】
入力側第2回転プレート40の摩擦材60B側とは反対側の面に接して配置される付勢部材としての皿ばね70は、中空円錐台形状のばね部材である。
【0030】
支持プレート80はフランジを有する円筒状の部材であり、フランジのフランジ部83から筒部82が延び、筒部82の先端にリング部81が設けられて先端部がドーナツ状に閉塞されている。フランジ部83には、入力側第1回転プレート30のボルト装着孔32aに螺合するボルト84が挿通するボルト挿通孔83aが設けられ、このボルト挿通孔83aにボルト84が挿通されて入力側第1回転プレート30のボルト装着孔32aに螺合することで、支持プレート80が入力側第1回転プレート30のマス部32の段差面32bで固定され、入力側第1回転プレート30と一体に回転可能となっている。
また、
図1に示すように、入力側第2回転プレート40との間に介装させる皿ばね70が筒部82内に収容され、リング部81に当接する。そして、皿ばね70を収容する筒部82の高さ(軸方向の長さ)は皿ばね70に所定の付勢力を与えることが可能な値に設定されている。したがって、皿ばね70は、リング部81によって円錐高さを低くする方向(軸方向)に撓ませた状態で筒部82内に支持されて組み付けられ、予め設定されている所定の撓みが付与された状態(予荷重状態)で介装される。
【0031】
このようにして支持プレート80に支持された皿ばね70によって、入力側第2回転プレート40が支持プレート80から離間する方向、即ち、入力側第1プレート30に向けて付勢される。
そして、この付勢力、即ち、皿ばね70の撓み量に応じて発生する皿ばね荷重(押圧力)が、入力側第1回転プレート30に向けて回転主軸10の軸方向に相対移動可能な入力側第2回転プレート40と回転従軸20の軸方向に相対移動可能な出力プレート50により安定して伝達されることによって、入力側第2回転プレート40と出力プレート50に接して配置された第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40と出力プレート50に圧接状態で両者に対して相対回転可能に保持されると共に、出力プレート50と入力側第1回転プレート30に接して配置された第1摩擦材60Aが出力プレート50と入力側第1回転プレート30に圧接状態で両者に対して相対回転可能に保持される。即ち、皿ばね70によって挟持力が与えられ、第1摩擦材60Aが入力側第1回転プレート30及び出力プレート50により相対回転可能に挟持されて保持されると共に、第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40及び出力プレート50により相対回転可能に挟持されて保持される。
【0032】
なお、本発明を実施する場合には、支持プレート80の入力側第1回転プレート30への取付形態はボルト84による固定に限定されるものではなく、入力側第1回転プレート30に対して支持プレート80を一体に設けることができれば、リベット等を使用しても良いし、凹凸等による係合構造とすることも可能である。
【0033】
このような構成によって、本実施の形態のトルクリミッタ装置1では、入力側第2回転プレート40が入力側第1回転プレート30に対して軸方向に相対移動可能、かつ、一体に回転可能に保持され、また、回転従軸20に接続された出力プレート50が軸方向に相対移動可能に設けられ、更に、第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bが両面に摺動面を有していることから、入力側第1回転プレート30に固定した支持プレート80によって支持され軸方向へ付勢するよう予め軸方向へ弾性変形した状態でセットされている皿ばね70の付勢力により、第1摩擦材60Aが入力側第2回転プレート40と出力プレート50、第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40と出力プレート50に対して相対回転可能に挟持状態で保持される。このため、第1摩擦材60Aや第2摩擦材60Bが摩耗した場合でも、入力側第2回転プレート40と出力プレート50が軸方向に相対移動可能に保持されており、皿ばね70による付勢力によって、摩擦材60A,60Bの摩耗に追従して、入力側第2回転プレート40と出力プレート50が入力側第1回転プレート30に近づく方向へ移動し、皿ばね70の付勢力が安定して伝達されることで、第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bの圧接状態が常時安定して維持されて、安定的なトルク伝達やトルク制御が保持される。
【0034】
そして、第1摩擦材60Aや第2摩擦材60Bは入力側第1回転プレート30、入力側第2回転プレート40、及び出力プレート50の何れにも固定されずに両面が摺動可能な摺動面となっている。したがって、第1摩擦材60Aや第2摩擦材60Bの両面のうち一面が磨耗等によって所定の摩擦特性の維持ができなくなりリミット機能が働かなくなったときでも、他方の面が所定の摩擦特性を維持してリミット機能を発揮し、摺動面が片面の従来のものに比べてトルク制御や磨耗等に対する信頼性が向上する。
なお、本実施の形態では、入力側第1回転プレート30に設けたガイド突出部90Aと入力側第2回転プレート40に設けたガイド突出部90Bにより位置決めを行い第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bの内周を規制することによって第1摩擦材60Aや第2摩擦材60Bを所定の位置で摺動するように保持しているが、本発明を実施する場合には、第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bの位置決めはこれに限定されるものではなく、例えば、ガイド突出部によって摩擦材60A,60Bの外周を規制してもよいし、また、ガイド突出部を出力プレート50に設けることも可能である。
【0035】
このように、本実施の形態のトルクリミッタ装置1によれば、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bをトルクリミッタ装置1のユニットである入力側第2回転プレート40や出力プレート50や入力側第1回転プレート30に特定手段で固定することなく、皿ばね70の付勢力及び入力側第2回転プレート40及び出力プレート50の軸方向移動によって、常時、第2摩擦材60Bを入力側第2回転プレート40及び出力プレート50に対してまた、第1摩擦材60Aを入力側第1回転プレート30及び出力プレート50に対して周方向への相対移動可能とすべく所望の荷重で圧接していることで、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bが受けるトルクの大小によって摩擦係合または摺動することになり、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bの両面が摩擦係合する際の摩擦力に比べて第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bが受けるトルクが大きくなると第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bの両面が摺動面として摺動しトルクリミッタとして機能する。即ち、回転主軸10のトルクによって第1摩擦材60Aが入力側第1回転プレート30及び出力プレート50に対して摩擦係合または摺動するようになっており、第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40及び出力プレート50に対して摩擦係合または摺動するようになっている。
【0036】
よって、回転主軸10のトルクが所定値以内のときには、回転主軸10に接続された入力側第1回転プレート30とそれに一体回転可能に保持された入力側第2回転プレート40との間で、第1摩擦材60Aが入力側第1回転プレート30及び出力プレート50に摩擦係合すると共に、第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40及び出力プレート50に摩擦係合することで、入力側第1回転プレート30、入力側第2回転プレート40、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bを介して、出力プレート50が回転主軸10と同期して回転する。即ち、回転主軸10のトルクが、入力側第1回転プレート30及び出力プレート50と第1摩擦材60Aとの摩擦力、並びに、入力側第2回転プレート40及び出力プレート50と第2摩擦材60Bとの摩擦力により、出力プレート50に伝達される。そして、回転主軸10のトルクは出力プレート50から回転従軸20に伝達される。
【0037】
一方、回転主軸10のトルク変動が所定値(リミットトルク値)を超えた場合には、上述したように、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bが入力側第2回転プレート40、出力プレート50、入力側第1回転プレート30の何れにも固定されていないことから、第1摩擦材60Aの両面が摺動面として、入力側第1回転プレート30と出力プレート50に対して摺動し、また、第2摩擦材60Bの両面が摺動面として、入力側第1回転プレート30と出力プレート50に対して摺動する。これによって回転主軸10から回転従軸20へのトルク伝達が遮断・緩和により制限され、過大なトルクが伝達されるのが阻止される。
【0038】
このとき第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bは、両面が摺動面のため、仮に片面が磨耗状態によって摩擦特性が変化して正常な機能が低下したときでも、残る片面が正常な機能を発揮するため信頼性が向上する。また、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bは固定の必要がないため装着が容易であり、接着剤、リベット等の固定部材や、摩擦材を固定するための加工等の余分な加工工程、固定作業を必要とせず、低コスト化が可能である。更に、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bは固定が不要となることで、固定のために必要な強度等の要求仕様が緩和されることから設計自由度が高いものとなる。そのうえ、第1摩擦材60A及び第2摩擦材60Bの両面が摺動面として出力プレート50、入力側第1回転プレート30、入力側第2回転プレート40といった相手部材に対して摺動することで、どちらか一方の面を固定しその反対面の片面のみを摺動面とする従来に比べ、(摩擦材の径方向の大きさを同一とした場合)相手部材との真実接触点が増加して、摩擦摺動の負担が両面に分散されるため、摩擦係数μsの経時変化が緩和され摩耗の進行が抑制され第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bの寿命を長くできる。更に、第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bの相手部材への摩擦による攻撃性が緩和され、相手部材の長寿命化を図ることができる。
一方、摩擦材60A,60Bの摩耗の進行を抑制できることから、従来と同等以上の寿命を確保したうえで、第1摩擦材60A,第2摩擦材60Bの厚みを小さくすることができ、装置全体の軸方向の寸法の短縮化が可能である。
よって、本実施の形態のトルクリミッタ装置1によれば、車両搭載性の自由度が高まる。
【0039】
更に、重量が大きいリベットによる固定を必要とせず摩擦材60A,60Bの厚みを小さくできることで、トルクリミッタ装置のトルク操作性の向上や軽量化が期待できる。また、摩擦材60A,60Bの厚みの縮小により材料コストを削減することもできる。
【0040】
次に、本発明の実施の形態の変形例に係るトルクリミッタ装置について、
図3及び
図4を参照して説明する。
なお、実施の形態と変形例の相互の同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する機能部分を意味し、相互に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0041】
変形例に係るトルクリミッタ装置100においては、回転主軸10に接続プレート12が接続され、この接続プレート12に、支持プレート180及び入力側第1回転プレート130が一体回転可能に設けられている。即ち、接続プレート12に支持プレート180が接続され、更に、入力側第1回転プレート130が接続し、これら支持プレート180と入力側第1回転プレート130がボルト84によって接続プレート12に固定されることで一体に回転可能に設けられている。
【0042】
更に詳しく説明すると、接続プレート12は、中央に回転主軸10の先端凸部が挿入される中心貫通孔12aを有する平板の円板部13と、円板部13の周縁に、円板部13の厚みに比べて回転主軸10とは反対側(回転従軸20側)に向かって回転主軸10の軸方向に厚く形成された厚みを有するマス部14とからなる断面形状が略コ字状の円盤環状部材である。
【0043】
接続プレート12の円板部13には、中心貫通孔12aの周囲であって、中心貫通孔12aを中心とする同心円状の周方向に、軸方向に表裏を貫通するボルト挿通孔12bが等間隔で複数個形成されている。
【0044】
変形例では、中心貫通孔12aに回転主軸10の先端凸部を挿入し、回転主軸10に連結するためにボルト挿通孔12bに複数のボルト11を挿通して回転主軸10のねじ孔に螺合することによって、接続プレート12を回転主軸10に同軸的に連結固定可能となっている。
【0045】
また、円板部13の周縁に延設されたマス部14には、厚み方向(軸方向)の回転従軸20側の端面、即ち、円板部13と段差を有する段差面14bにおいて、中心貫通孔12aを中心とする同心円状の周方向に、支持プレート180及び入力側第1回転プレート130が接合されて固定されるためのボルト84が装着されるボルト装着孔12cが等間隔で複数個設けられている。
【0046】
図3及び
図4において、接続プレート12に連結固定される支持プレート180は、付勢部材としての皿ばね70に当接するリング部181と、リング部181から軸方向に延びる筒部182と、筒部182の先端から径方向外方へ延びるフランジ部183とからなり、フランジ部183には軸方向の表裏に貫通するボルト挿通孔183aが接続プレート12のボルト装着孔12cに対応して周方向に等間隔で複数個形成されている。
【0047】
そして、支持プレート180のリング部181に当接して配置された皿ばね70には、入力側第2回転プレート40が当接して配置される。即ち、皿ばね70は、上記実施の形態と同様、支持プレート180のリング部81と入力側第2回転プレート40に当接し、予め設定されている所定の撓みが付与された状態(予荷重状態)で支持プレート180と入力側第2回転プレート40の間に介装される。
【0048】
皿ばね70が接する入力側第2回転プレート40は、上記実施の形態と同様、中央に中心孔41aが形成され、外周には入力側第1回転プレート30側に延びる爪部41が、周方向に等間隔で軸方向に複数突設している。そして、変形例においても、入力側第2回転プレート40の爪部41を、入力側第1回転プレート130のスリット状貫通孔131cに挿通することで、入力側第2回転プレート40が、入力側第1回転プレート130に一体に回転可能、かつ、入力側第1回転プレート130に対して回転主軸10の軸方向に相対移動可能に保持されるようになっている。なお、変形例において、入力側第2回転プレート40は、その外径が支持プレート180の筒部182の外径より小さく形成され、支持プレート180の筒部182内に配置される。また、入力側第2回転プレート40の内周部に、ガイド突出部90Bが軸方向に入力側第1回転プレート130側に向かって突設されている。
図3及び
図4においては、ガイド突出部90Bは、第2摩擦材60Bを組み付けたときに第2摩擦材60Bの内周端部が接する位置とされている。
【0049】
入力側第2回転プレート40が接続される入力側第1回転プレート130は、中央に中心孔131aを有する平板の環状部材であり、入力側第2回転プレート40の爪部41に対応して中心孔131aを中心とする同心円状の周方向には、スリット状貫通孔131cが等間隔で複数個形成されている。
また、入力側第1回転プレート130の外周部には、中心孔131aを中心とする同心円状の周方向に、支持プレート180と共に接続プレート12に固定するためのボルト84が挿通されるボルト挿通孔131bが等間隔で複数個設けられている。
【0050】
更に、入力側第1回転プレート130の内周部、即ち、中心孔131aの周縁部に、入力側第2回転プレート40側の軸方向に伸びるガイド突出部90Aが入力側第2回転プレート40のガイド突出部90Bに対向して突設されている。
図3及び
図4においては、ガイド突出部90Aは、第1摩擦材60Aを組み付けたときに第1摩擦材60Aの内周縁が接する位置とされている。
【0051】
また、変形例に係る入力側第1回転プレート130においては、その内周部、即ち、中心孔131aの周縁部であって、入力側第2回転プレート40側とは反対の軸方向に厚く形成した補強リブ部131dが設けられ、内周側の剛性を高めている。
【0052】
そして、入力側第1回転プレート130と入力側第2回転プレート40の間に回転従軸20に接続される出力プレート50が配置され、更に、入力側第1回転プレート130と出力プレート50に接して平板環状の第1摩擦材60Aが配置され、また、出力プレート50と入力側第2回転プレート40に接して平板環状の第2摩擦材60Bが配置される。第1摩擦材60Aと第2摩擦材60Bは共に入力側第1回転プレート130、入力側第2回転プレート40、出力プレート50の何れにも固定されておらず、入力側第1回転プレート130、入力側第2回転プレート40、出力プレート50に対し周方向への摺動が可能となっている。したがって、本変形例に係るトルクリミッタ装置100においても、第1摩擦材60Aは入力側第1回転プレート130と出力プレート50の両方の面に対して摺動が可能となっており、第2摩擦材60Bは入力側第2回転プレート40と出力プレート50の両方の面に対して摺動が可能となっている。
【0053】
ここで、トルクリミッタ装置100の構成や構成部材の形状は、上記実施の形態や変形例に限定されるものではない。
例えば、
図5(a)に示すように、入力側第1回転プレート130を平板環状の円板部131と、円板部181から接続プレート12側の軸方向に延びる筒部132と、筒部132の先端から径方向外方へ延び接続プレート12の端面にボルト84によって支持プレート180と共に固定されるフランジ部133とから構成し、ボルト84によって接続プレート12にて支持プレート180と共に固定されるフランジ部133に対し、このフランジ部133から接続プレート12側とは反対側に延びる凸状に形成することもできる。このような形状とした場合には、
図3及び
図4で示したように、補強リブ131dを設けなくとも、接続プレート12に支持プレート180と共にボルト84によって固定される部分とそれ以外の部分での軸方向の撓みのばらつきを抑えて、プレートの浮き上がりの防止を図ることができる。よって、摩擦材60A,60Bの面圧分布のばらつきが抑えられて摩擦トルクの安定化を図ることができる。
【0054】
また、
図7(b)に示すように、接続プレート12を平板環状部材とし、一方で、接続プレート12に固定する支持プレート180を、平板環状の鍔部181と、鍔部181より入力側第1回転プレート130側に向かって軸方向に厚く形成されたマス部182とから構成された円盤環状部材とすることも可能である。このような構成とした場合には、支持プレート180の鍔部181によって皿ばね70を支持し、鍔部181の周縁に形成されたマス部182が軸方向に厚みを有するため支持プレート180の変形を抑制することができる。
【0055】
更に、
図7(c)に示すように、支持プレート180を、平板の環状部183と、環状部183から入力側第1回転プレート130側に向かって段差状に形成された鍔部184と、鍔部184の外周に入力側第1回転プレート130側に向かって軸方向に厚く形成されたマス部185とによって形成される円盤環状としてフライホールのような慣性マスとしての機能を持たせ、回転主軸10に直接的に接続する構造とすることも可能である。このような構成とした場合には、支持プレート180の鍔部184によって皿ばね70を支持し、鍔部184の周縁に形成されたマス部185が軸方向に厚みを有するため支持プレート180の変形を抑制することができ、また、部品点数の削減を図ることができる。
【0056】
以上説明してきたように、本発明は入力側回転プレート(入力側第1回転プレート30,130、入力側第2回転プレート40)と出力プレート50に接して配される摩擦材(第1摩擦材60A、第2摩擦材60B)が入力側回転プレートまたは出力プレートに固定されていない形態でガイド突出部90A,90Bによって径方向の移動を制限された所定の位置に配されている。このような構成とすることで、摩擦材60A,60Bは入力側回転プレートと出力プレートとの両方の面(2面)に対して周方向への摺動を可能としている。したがって、従来の入力側回転プレートまたは出力プレートに固定された摩擦材と比べて、摺動しなくなることによるトルクリミッタ機能の不具合が起こる危惧が低減され信頼性が向上する。また、摩擦材60A,60Bの両面が摺動面となることにより、摺動面が受ける負荷を低減することができるため摩擦材の長寿命化が可能となる。更に、摩擦材の負荷が低減されることから摩擦材の厚み低減が可能となり、また、固定のための手段が不要となることから、トルクリミッタ装置のコンパクト化やコスト低減を図ることができる。
【0057】
上記実施の形態及び変形例のトルクリミッタ装置は、第1摩擦材及び第2摩擦材が、入力第1プレート、入力第2プレート、及び出力プレートの何れにも固定されていないものである。
【0058】
このトルクリミッタ装置によれば、第1摩擦材及び第2摩擦材が、入力第1プレート、入力第2プレート、及び出力プレートの何れにも固定されていないことから、第1摩擦材及び第2摩擦材の装着が容易であり、接着剤やリベット等の固定部材や、摩擦材を固定するための孔加工等の余分な加工工程や、固定作業等を必要とせず、低コストとなる。
【0059】
更に、リベット等の固定のための加工代が不要となり、摩擦材の厚みを小さくすることができ、また、固定のための強度を摩擦材に要求する必要がなくなるため材料が限定されることもない。よって、摩擦材の設計自由度は高いものとなる。
【0060】
なお、本発明を実施するに際しては、トルクリミッタ装置のその他の部分の構成、形状、材質、大きさ、接続関係、組み付け方法等については、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態及び変形例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。