特許第6388604号(P6388604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6388604被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388604
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20180903BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   A61B5/1455ZDM
   A61B5/0245 A
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-555747(P2015-555747)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公表番号】特表2016-508777(P2016-508777A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2014052143
(87)【国際公開番号】WO2014122126
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】13154017.1
(32)【優先日】2013年2月5日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/760,683
(32)【優先日】2013年2月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥビエルクズイク アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン ロルフ
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−025290(JP,A)
【文献】 特開2004−187980(JP,A)
【文献】 特開2008−167853(JP,A)
【文献】 特開平06−285048(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/112559(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/03
A61B 5/06−5/22
G01N 21/00−21/01,21/17−21/59
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステムであって、前記システムは、
記被験者の皮膚への適用のためのマーカーであって、前記マーカーは、さらに、第1波長の光を透過する第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過する第2マーカーエリアとを有する当該マーカーと、
記マーカーの前記第1マーカーエリア及び前記第2マーカーエリアから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、
記第1マーカーエリア及び前記第2マーカーエリアからの前記検出された放射光から前記被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットと
有し、
前記マーカーは、前記第1マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第1染料及び/又は前記第2マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第2染料を有する、システム。
【請求項2】
前記検出された放射光中の前記第1マーカーエリア及び前記第2マーカーエリアを識別するための画像処理ユニットをさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記マーカーを担持するための担持要素をさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記担持要素は、前記担持要素を前記被験者の皮膚に貼り付けるための接着剤をさらに有する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1マーカーエリア及び/又は前記第2マーカーエリアは、前記担持要素に取り付けられる光学フィルタ板を有する、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記マーカーは、所定の反射特性の基準エリアをさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記基準エリアは、不透明である、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記マーカーは、図形的パターンをさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1マーカーエリア及び/又は前記第2マーカーエリアは、サブエリアを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記マーカーは、前記マーカーに接触する前記被験者の組織中の血液潅流を増加させるための刺激剤をさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
1波長の光を透過する第1マーカーエリアと、
2波長の光を透過する第2マーカーエリアとを有し、
前記マーカーは、前記被験者の皮膚への適用に適合される、
マーカーであって、
前記マーカーは、前記第1マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第1染料及び/又は前記第2マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第2染料を有する、マーカー。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムに使用するデバイスであって、
験者の皮膚に適用される前記マーカーの、第1波長の光を透過する第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過する第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、
記第1マーカーエリア及び前記第2マーカーエリアからの前記検出された放射光から前記被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットと
を有する、デバイス。
【請求項13】
被験者のバイタルサイン情報を決定するための方法であって、
記被験者の皮膚に適用されるマーカーの、第1波長の光を透過する第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過する第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するステップと、
記第1マーカーエリア及び前記第2マーカーエリアからの前記検出された放射光から前記被験者のバイタルサイン情報を決定するステップと
を有する、方法であって、
前記マーカーは、前記第1マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第1染料及び/又は前記第2マーカーエリアにおける前記被験者の皮膚に適用される第2染料を有する、方法。
【請求項14】
プログラムがコンピュータで実行される場合に、前記コンピュータに請求項13に記載の方法の前記ステップを実行させるためのプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステム及び方法に関する。特に、本発明は、観察される被験者のバイタルサインを遠隔から決定するのに使用され得る光学的測定アプローチに関する。このコンテキストでは、光学的測定は、フォトプレチスモグラフィ(PPG)、より具体的にはパルスオキシメトリを指す。
【背景技術】
【0002】
人のバイタルサイン、例えば心拍数(HR)、呼吸数(RR)又は血中酸素飽和度は、人の現在の状態のインジケータ及び重大な医療事象の強力な予測因子として役立つ。この理由から、バイタルサインは、入院患者及び外来患者の治療環境において、家で、又は更なる健康、レジャー、及びフィットネス環境において、広範囲にわたってモニタリングされる。
【0003】
バイタルサインを測定する一つのやり方は、プレチスモグラフィである。プレチスモグラフィは、一般に、臓器又は身体部位のボリューム変化の測定、特に、心拍毎に被験者の身体を伝搬する心血管パルス波によるボリューム変化の検出を指す。
【0004】
フォトプレチスモグラフィ(PPG)は、関心エリア又は関心ボリュームの光の反射又は透過の時間変化を評価する光学的測定技術である。PPGは、血液が周辺組織よりも光を吸収するので、心拍毎の血液ボリュームの変化が、これに対応して、透過又は反射に影響を与えるという原理に基づく。心拍数についての情報の他に、PPG波形は、呼吸などの他の生理現象に起因する情報を含むことができる。異なる波長(一般に赤色及び赤外線)での透過率及び/又は反射性を評価することによって、血中酸素飽和度が決定され得る。
【0005】
被験者の心拍数及び酸素飽和度を測定するための従来のパルスオキシメータは、被験者の皮膚、例えば指先、耳たぶ又は額に取り付けられる。それ故、これらは、「接触型」PPGデバイスと呼ばれる。一般的なパルスオキシメータは、光源として赤色LED及び赤外線LEDと、患者の組織を透過した光を検出するための一つのフォトダイオードとを有する。市販のパルスオキシメータは、赤色波長での測定と赤外線波長での測定との間を素早く切り替え、これにより、2つの異なる波長での組織の同じエリア又はボリュームの透過率を測定する。これは、時分割多重化方式と呼ばれる。各波長での継時的な透過率は、赤色波長及び赤外線波長に対するPPG波形を提供する。接触型PPGは、基本的に非侵襲的技術と見なされるが、パルスオキシメータが被験者に直接取り付けられ、任意のケーブルが動く自由度を制限するため、接触型PPG測定は、しばしば不快なものに感じられる。
【0006】
最近、邪魔にならない測定のための、非接触型の、遠隔PPGデバイスが導入されている。遠隔PPGは、関心被験者から離れて配置される光源又は一般的に放射光源を利用する。同様に、検出器、例えばカメラ又は光検出器が、関心被験者から離れて配置され得る。したがって、遠隔フォトプレチスモグラフィシステム及びデバイスは、邪魔にならず、医学的及び非医学的な日常のアプリケーションに良好に適すると考えられる。
【0007】
Wieringa等の"Contactless Multiple Wavelength Photoplethysmographic Imaging: A First Step Toward "SpO2 Camera" Technology," Ann. Biomed. Eng. 33, 1034-1041 (2005)は、異なる波長でのプレチスモグラフィック信号の測定に基づく組織の動脈血中酸素飽和度の非接触型イメージングのための遠隔PPGシステムを開示する。システムは、モノクロCMOS−カメラと、3つの異なる波長のLEDを備える光源とを有する。カメラは、被験者の3つの動画を連続して取得する。各動画の間、被験者は、異なる波長で光源によって照らされる。脈拍数は、単一波長での動画から決定され得るが、異なる波長での少なくとも2つの動画が、血中酸素飽和度を決定するのに必要である。測定は、一度に一つの波長のみを使用して、暗い部屋で行われる。患者は、異なる波長での後続の測定の間、動くことが許されない。更なる問題は、暗闇での測定は、邪魔にならない医学的及び非医学的アプリケーションにとって実用的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、邪魔にならず、且つ、経済的に被験者のバイタルサイン情報を決定するための改善されたシステム及び方法を提供することである。環境光条件下での動作のためのシステム及び方法を提供することは有利である。さらに有利には、該システム及び方法は、並列に及び場合によってはリアルタイムで心拍数及び酸素飽和度を測定することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様では、
− 被験者の皮膚への適用のためのマーカーであって、前記マーカーは、さらに、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有する当該マーカーと、
− マーカーの、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、
− 第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットと
を有する、被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステムが示される。
【0010】
本発明の他の態様では、前述のシステムに使用するマーカーは、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有し、該マーカーは、被験者の皮膚への適用に適することが示される。
【0011】
本発明の他の態様では、前述のシステムに使用するデバイスは、被験者の皮膚に適用されるマーカーの、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットとを有することが示される。
【0012】
本発明の他の態様では、
− 被験者の皮膚に適用されるマーカーの、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するステップと、
− 第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するステップと
を有する、被験者のバイタルサイン情報を決定するための方法が示される。実施形態では、該方法はさらに、被験者の皮膚にマーカーを適用するステップを有する。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、プログラムがコンピュータで実行される場合に、コンピュータに、提案される方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提供される。さらに、プロセッサによって実行されたときに、ここに開示される方法の前記ステップが実行されるようにするコンピュータプログラムを保存する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が示される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に規定される。請求項に係るマーカー、デバイス、方法、コンピュータプログラム及び媒体は、請求項に係るシステムの実施形態及び従属請求項に規定される実施形態と類似の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することを理解されたい。
【0015】
本発明のコンテキスト中で使用される「バイタルサイン」なる用語は、被験者の生理的パラメータ及び派生パラメータを指す。特に、「バイタルサイン」なる用語は、心拍数(HR)(パルス数とも呼ばれることもある)、心拍数変動(パルス数変動)、拍動性強度、潅流、潅流インジケータ、潅流変動、トラウベ・ヘーリング・マイヤー波、呼吸数(RR)、体温、血圧、酸素飽和度若しくは血糖値などの血液中及び/又は組織中の物質の濃度を含む。
【0016】
発明のコンテキスト中で使用される「バイタルサイン情報」なる用語は、上に定義した1つ又は複数の測定されたバイタルサインを含む。さらに、「バイタルサイン情報」なる用語は、生理学的パラメータに関するデータ、対応する波形トレース又は後続の分析に役立てることができる継時的な生理学的パラメータに関するデータを含む。
【0017】
本発明は、異なる波長で組織の同じエリア又はボリュームを連続して測定する代わりに、バイタルサイン情報は、並列に測定される組織の空間的に分離されたエリア又はボリュームから決定され得るというアイデアに基づく。言い換えると、発明者は、異なる空間的に分離されたエリア又はボリュームにおける、異なる波長でのフォトプレチスモグラフィ測定からバイタルサイン情報を決定することが可能であることを見出した。これは、空間分割多重化方式と考えられ得る。有利な点は、測定を環境光条件下で実行することができる点及び先行技術に提案されるような異なる波長での連続する狭帯域照明を必要としない点である。
【0018】
本発明の態様によれば、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有するマーカーが提案される。したがって、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアは、バイタルサイン情報を決定するための空間的に分離されたエリアを規定する。各マーカーエリアは、異なる波長の光を透過するように構成され、その結果、物質の濃度が、2つの異なる波長の光の比較に基づいて決定され得る。マーカーの使用は、検出ユニットに特定の追加のフィルタを必要としないという有利な点を有する。単一の検出ユニットは、全ての必要な情報を取得することができ、これはシステムの低コストにとって有益である。
【0019】
任意選択で、マーカーは、他の波長の光を透過するように構成される更なるマーカーエリアを有する。関心波長は、赤外線及び紫外線波長を含む電磁放射光の不可視波長も含む。
【0020】
ここで使用されるように、「波長」なる用語は、さらに波長の帯域又は波長部分を指す。これは、限定されたスペクトル幅を有するスペクトル範囲として理解されるべきである。例えば、光学フィルタに対しては、波長なる用語は、フィルタの通過帯域を指す。よって、波長なる用語は、単一波長に限定されずに、中心波長の周辺の、例えば数ナノメートル又は数十ナノメートルの波長範囲にも使用される。さらに、フィルタのコンテキスト中の波長なる用語は、全く同一のフィルタ要素の複数の不連続なスペクトル範囲を指すことができる。
【0021】
ここで使用されるように、「検出ユニット」なる用語は、電磁放射光を検出するためのデバイスを指す。該デバイスは、第1マーカーエリアから及び第2マーカーエリアから受光した放射光を検出するように構成される。好ましい実施形態では、検出ユニットは、CCD又はCMOSイメージセンサなどの、感光性ピクセルのアレイを有するイメージセンサを備えるカメラである。検出ユニットの出力は、放射光データと呼ばれる。例えば、放射光データは、一連の継時的な画像、つまりビデオストリームである。カメラは、モノクロ又はカラーカメラであり得る。カラーカメラのためのRGBイメージセンサは、赤、緑及び青のカラーチャネル用のフィルタを備えるカラーフィルタアレイを有する。RGBカラーカメラを使用する場合、システムの全体のフィルタ特性は、マーカーエリアの透過特性だけでなく、カメラのカラーチャネルのフィルタ特性の両方を含む。実施形態では、第1マーカーエリアの透過波長は、RGBチャネルの第1のチャネルの範囲内にあり、第2マーカーエリアの透過波長は、RGBチャネルの第2のチャネルの範囲内にある。マーカーエリアの透過特性を適切に選択することによって、第1及び第2マーカーエリアの空間的分離は、RGBカメラの周波数選択性検出によってさらに支持され得る。これにより、第1及び第2マーカーエリアの透過特性のための要件は緩和され、システムコストが削減される。
【0022】
第1及び第2マーカーエリアから受光した放射光は、通常2つの成分を有する。第1に、受光した放射光は、マーカー及び/又は皮膚表面で反射される光、すなわち組織に浸透せず、且つ、組織における光吸収についての情報を保持しない光を有する。第2に、受光した放射光は、皮膚に浸透し、組織の内側から反射された光を有する。受光した放射光のこの第2の部分は、組織内の光の時間変化する吸収及び/又は透過に起因する時間変化する強度を有する。光と生体組織との相互作用は、複雑であり、(多重)散乱、後方散乱、吸収、透過及び(拡散)反射の光学的プロセスを含む。このコンテキストで使用される「反射」なる用語は、スペクトル反射に限定されると解釈されるべきではなく、前述の光と組織との相互作用の種類及び任意のこれらの組み合わせを含む。
【0023】
任意選択で、システムはさらに、それぞれの波長で十分な光を使用できることを確実にするために、前記第1波長及び/又は前記第2波長の光を発する光源を有する。さらに任意選択で、システムは、検出ユニットがその最適動作点で動作できるように、特に、例えばノイズ又は代替的に飽和効果が測定を妨げないように、光パワーを制御する制御ユニットを有する。しかしながら、好ましい実施形態では、システムは環境光のみを使用する。
【0024】
分析ユニットは、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するように構成される。分析ユニットは、検出ユニットから放射光データを受け取る。被験者の心拍数を決定するには、単一のマーカーエリアから受光された又はマーカーエリアの外側の素肌からでさえ受光された時間変化する放射光を評価することで十分である。しかしながら、物質の濃度を決定する、例えば酸素飽和度又は血糖値を決定するためには、上記のように異なる波長での放射光の分析が必要とされる。分析ユニットは、2つの空間的に分離されたマーカーエリアから時間変化する信号を評価し、これにより、並列に2つの異なる波長を評価する。例えば、第1マーカーエリアから受光した光は、検出ユニットの一部であるイメージセンサのピクセルの第1グループ上に入り、第2マーカーエリアからの光は、イメージセンサのピクセルの第2グループ上に入る。より良い信号雑音比のため、グループのピクセルの信号は、結合され得る。
【0025】
好ましい実施形態によれば、システムはさらに、検出された放射光における第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアを識別するための画像処理ユニットを有する。画像処理ユニットは、検出ユニットと分析ユニットとの間に位置付けられる任意選択の要素である。画像処理ユニットは、放射光データ、例えばビデオストリームを、検出ユニットから受け取る。画像処理ユニットは、受け取った放射光データにおけるマーカーを識別するための画像処理手段を有する。例えば、マーカーは、ビデオストリームの画像において識別され得る特定の特徴を有する。画像処理から知られる分析方法及びビデオ分析が適用され得る。マーカー内に、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアの位置が特定される。よって、画像処理ユニットは、分析ユニットに、放射光データにおける第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアの位置についての情報を含む処理された放射光データを提供する。例えば、画像処理ユニットは、第1マーカーエリアから放射光を受光したイメージセンサの一部を示すピクセル又はピクセルのグループと、第2マーカーエリアから放射光を受光したピクセル又はピクセルのグループとをそれぞれ識別する。画像処理ユニットは、分析ユニットに組み込まれ得る。
【0026】
他の実施形態では、本発明によるシステムはさらに、マーカーを担持するための担持要素を有する。担持要素は少なくとも、第1マーカーエリアに適応する第1領域と、第2マーカーエリアに適応する第2領域とを特徴とする。一般に、担持要素は、マーカーのための機械的支持を提供する要素、例えばパッチ、ラベル又は被験者の皮膚に貼り付けることができる同様の構造をしたものの一種として考えられ得る。担持要素は、紙、織物、ラバー又はパッチ、特に医療アプリケーションのためのパッチに使用する他の材料を含む材料のグループの中の材料から作ることができる。
【0027】
別の実施形態では、担持要素はさらに、担持要素を被験者の皮膚に張り付けるための接着剤を有する。好ましい実施形態では、担持要素は、被験者の皮膚に直接貼り付けられるため、生体適合性接着剤が使用される。
【0028】
さらに別の実施形態では、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアは、担持要素に取り付けられる光学フィルタ板を有する。光学フィルタ板は、所望の波長又は波長帯域の光のみが透過されることを確実にする。フィルタ板の種類は、吸収フィルタだけでなく誘電体フィルタを含む。有利には、担持要素は、開口部を有し、光学フィルタ板は前記開口部に位置付けられる。開口部は、窓又は光学窓とも呼ばれる。
【0029】
代替的な実施形態によれば、マーカーは、第1マーカーエリアにおける被験者の皮膚に適用される第1染料(dye)及び/又は第2マーカーエリアにおける被験者の皮膚に適用される第2染料を有する。光学フィルタ板を使用する代わりに、この実施形態は、着色された染料を使用し、第1染料は、第1波長の光を透過し、第2染料は、第2波長の光を透過する。光学フィルタ板は通常、担持要素に取り付けられるが、染料は、担持要素を必要とすることなく被験者の皮膚に直接適用され得る。
【0030】
他の実施形態では、マーカーはさらに、所定の反射特性の基準エリアを有する。この基準エリアは、波長の所定の範囲の反射特性が知られているため、検出ユニットを較正するために使用され得る。特に、システムが任意選択の光源及び制御ユニットを備える場合、検出された放射光における基準エリアは、検出ユニットの感度を調整する並びに/又は光源のパワー及び/若しくはスペクトルを調整するために役立てることができる。マーカーは、2つ以上の基準エリアを有することもでき、各基準エリアは種々異なる反射特性を有する。例えば、赤色基準エリアは、赤色スペクトル領域における光学パワーを測定するのに使用される一方で、赤外線の光を反射する基準エリアは、赤外線スペクトル領域における光学パワーを測定するのに使用される。これらの測定に基づいて、検出ユニットの感度は調整され得る。代替的に、測定時間は、十分に良好な信号雑音比を達成するために調整される。
【0031】
この実施形態の他の態様によれば、基準エリアは不透明である。言い換えると、基準エリアは、マーカーを通過する任意の光を阻止するが、基準エリアに入射する光を反射するだけである。これは、基準エリアから受光した放射光が、実質的に外乱から免れ、特に下部組織からの反射された又は後方散乱された放射光から免れることを確実にする。よって、第1及び/又は第2マーカーエリアからの光は、プレチスモグラフィ情報を提供するのに対し、基準エリアからの光は、プレチスモグラフィ情報を保持せず、基準としての役割を果たす。
【0032】
さらに、基準エリアは、環境光又は人工光源の任意の時間的な外乱又はスペクトルの外乱、例えば日中のゆっくりとした変化又は50/60Hzフリッカ若しくは光源のパルス幅変調などの系統的な影響を測定するのに使用され得る。第1及び/又は第2マーカーエリアから測定された強度は、このような外乱を補償し得る。
【0033】
さらに別の実施形態では、マーカーはさらに、図形的パターンを有する。図形的パターンは、分析ユニットによって又は任意選択の画像処理ユニットによって、放射光データにおいて検出可能に適合される。好ましくは、図形的パターンは、高い画像コントラスト、例えば白黒パターンを有する。代替的に、図形的パターンは、明確に識別し得る種々異なる色を有する。好ましくは、図形的パターンは、バーコード、マトリックス・バーコード、英数文字、QRコード(登録商標)又はこれらに類するものなど機械可読であるように最適化される。画像処理ユニットにとって、不特定の画像特徴を分析するよりも、観察場において特定された図形的パターンを検出する方が容易である。任意選択で、図形的パターンは、測定されたバイタルサイン情報を患者又は患者の身体部位に割り当てるための患者識別子などの情報を保存する機械可読コードである。符号化された情報は、バイタルサイン情報、例えば測定されるべきバイタルサイン情報について要求される感度又は情報を決定するためのシステムを構成するための構成データを有し得る。第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアのアレンジメントだけでなく、担持要素のサイズ及び/又は形状も図形的パターンとして見ることができる。
【0034】
任意選択で、マーカーは、担持要素上にインク若しくは染料の種々異なる層をプリントすることによって作成又は調整され得る。インクの色及び不透明性は、正しい強度及びスペクトル成分が透過される又は阻止されるように調整され得る。代替的に又は付加的に、図形的パターンはマーカーの一部としてプリントされ得る。
【0035】
他の実施形態では、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアは、サブエリアを有する。言い換えると、マーカーエリアは、複数の小さなセクションから構成され得る。例えば、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアのサブエリアは、格子状パターンに配置される。これは、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアが互いに遠くに離れすぎることなく、依然としてマーカーエリア全体が所望の皮膚エリアをカバーすることを確実にする。
【0036】
さらに本発明によるシステムの別の態様によれば、マーカーはさらに、マーカーに接触する被験者の組織中の血液潅流を増加させる刺激剤を有する。上記に説明したように、フォトプレチスモグラフィは、組織中の血管のボリューム変化に依存する。よって、信号強度を増加させるために、バイタルサインが決定されるべき被験者にマーカーが適用されたときに、マーカー下部の血管における十分な血液フローを確実にすることが望ましい。
【0037】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、後述する実施形態から明らかとなり、かかる実施形態を参照して明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、本発明による被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステムの例示的な実施形態を示す。
図2図2は、本発明によるシステムを用いたバイタルサイン情報の決定を示す。
図3図3は、マーカーの第1の例を示す。
図4図4は、マーカーの第2の例を示す。
図5図5は、マーカーの第3の例を示す。
図6図6は、サブエリアを備えるマーカーの例を示す。
図7図7は、サブエリアを備えるマーカーの代替的な例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明による被験者100のバイタルサイン情報7を決定するためのシステム1の例示的な実施形態を示す。システム1は、被験者100の皮膚への適用のためのマーカー10と、検出ユニット2と、分析ユニット6とを基本部品として有する。この例では、被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステムが、被験者100がベッド103に横たわる臨床環境において採用されている。
【0040】
マーカー10はさらに、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリア11と、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリア12とを有する。検出ユニット2は、マーカー10の第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12から受光した放射光を検出するように適合される。この例では、検出ユニット2は、任意選択の画像処理ユニット4に接続される。検出ユニット2は、検出された放射光を示す放射光データ3を、画像処理ユニット4にビデオストリーム形式で提供する。画像処理ユニット4は、放射光データ3中の第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12を識別する。画像処理ユニット4は同様に、分析ユニット6に接続される。画像処理ユニット4は、予め処理した放射光データ5を分析ユニット6に提供する。この例における予め処理した放射光データ5は、放射光データ3のビデオストリームの画像のどの領域が、第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12を表現しているかについての情報を有する。分析ユニット6は同様に、第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12において時間変化する強度から、被験者のバイタルサイン情報7を決定する。この例では、バイタルサイン情報は、心拍数及び血中酸素飽和度を有する。
【0041】
第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12を識別するための画像処理ユニット4も、分析ユニット6に組み込まれ得る。代替的に放射光データ3は、分析ユニット6に直接提供される。この場合、第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12はいずれも、ビデオストリームの画像中のマーカーエリアを手動で選択することによって決定され得る。代替的に、マーカー10を有する被験者100は、第1マーカーエリア11及び第2マーカーエリア12が所定の位置に位置付けられるように、検出ユニット2の視野内の所定の位置に位置付けられる必要がある。しかしながら、画像処理ユニット4による放射光データ3中のマーカー10の自動識別が好ましい。
【0042】
示された例では、マーカー10は、被験者100の額101の素肌に直接適用される。第1マーカーエリア11´及び第2マーカーエリア12´を備える代替的なマーカー10´は、被験者100の左前腕102に位置付けられる。マーカー10、10´のサイズ及び形状は、解剖学的位置に依存して適合され得る。
【0043】
現場が、太陽光7a又は人工光源7bなどの放射光源によって照明される。放射光源7a、7bは、被験者100に向けて直接的に又は間接的に放射光8a、8bを放射する。加えて、又は代替で、システム1は、被験者100に向けて光8cを放射する任意選択のシステム光源7cも有し得る。環境光源7a、7bが十分な光を提供しない場合又は環境光源7a、7bのスペクトルが第1波長及び第2波長で十分なパワーを提供しない場合に、システム光源7cの使用は特に有用である。
【0044】
任意選択の制御ユニット9は、検出ユニット2の感度を制御する及び/又はシステム光源7cのパワーを制御するように適合される。検出ユニット2として使用される検出器又はイメージセンサのダイナミックレンジは限定されているため、シャッター又は電子オフセットは、観察場における照明状況に従って調整される必要があり得る。システム光源7cは、検出ユニット2のイメージセンサの最適動作点を設定する制御ループの一部であり得る。このコンテキストにおける最適とは、信号クリッピングのない出力信号、イメージセンサの個々の検出器の飽和が無いこと、並びに、第1及び/若しくは第2マーカーエリアに対応する少なくとも検出エリアの良好な信号雑音比を指す。
【0045】
図2は、本発明によるシステム1を用いての被験者のバイタルサイン情報の決定を例示する。図2は、光源21と、検出ユニット22と、第1マーカーエリア23及び第2マーカーエリア24を有するマーカーとを示す。マーカーは、被験者の皮膚組織104に適用される。組織は、血管105を有する。
【0046】
この実施形態では、光源21は、少なくとも第1波長(点線で示される)及び第2波長(破線で示される)の光を放射する。第1マーカーエリア23は、第1波長の光を透過するように構成され、前記第1波長は、光源21の第1波長に対応する。第2マーカーエリア24は、第2波長の光を透過するように構成され、前記第2波長は、光源21の第2波長に対応する。図2は、第1波長の2つの光線A、B及び第2波長の2つの光線C、Dを描いている。第1マーカーエリア23は、第1波長の光を透過するように構成されるため、光線Aはマーカーを通過し、被験者100の皮膚104に浸透する。光の一部は皮膚104内に吸収される一方で、光の一部は、組織で反射され又は散乱し、検出ユニット22に達する。吸収及び/又は反射特性は、時間変化し、血管105を有する組織104の時間変化する潅流を示す。
【0047】
検出ユニット22は、受光素子、例えば受光レンズと、イメージセンサを形成する光検出素子又はピクセルのアレイ25とを有する。第1マーカーエリアから受光する光は、ピクセル26の第1グループ又はアレイに撮像される。これに対応して、第2マーカーエリア24から受光する光は、ピクセル27の第2グループに撮像される。
【0048】
組織104における光の吸収は時間変化するため、検出ユニット22のイメージセンサに入射する光強度も時間変化する。ピクセル26のエリアの時間変化する強度は、カーブ28によって表現される。ピクセル27のグループに入射する時間変化する強度は、カーブ29によって表現される。
【0049】
第1マーカーエリアは、第1波長の光のみを透過するように構成されるため、光線Cによって示されるように、第2波長の光はマーカーエリアを通過せず、組織に浸透しない。それでもなお、光の一部は、マーカー表面で後方散乱し、検出ユニット22に達し得る。この光は、血液ボリュームのパルス変化によって変調されず、オフセットを与える。よって、カーブ28によって表現される強度変調は、第1波長での組織104において時間変化する反射に起因する。
【0050】
これに対応して、第2波長の光線Dは、第2マーカーエリア24を通過することができる一方で、第1波長の光線Bは阻止される。よって、カーブ29によって表現される強度変調は、第2波長での組織104において時間変化する反射に起因する。
【0051】
被験者のパルス数は、カーブ28又は29の内の一つにおいて時間変化する強度から直接決定され得る。しかしながら、血中酸素飽和度をフォトプレチスモグラフィによって決定するには、以下に例示的に説明されるように、少なくとも2つの波長が必要である。
【0052】
接触型パルスオキシメータは、通常、赤色(R)光及び赤外線(IR)(又はより正確には、いくつかのケースでは赤外線付近の)光を、関心被験者の血管組織に透過させる。それぞれの光の部分(R/IR)は、代替的な(高速スイッチングの)やり方で透過され、検出され得る。それぞれのスペクトル部分が酸素化ヘモグロビン(HbO)及び還元ヘモグロビン(Hb)によって別々に吸収される場合、血中酸素飽和度は徐々に処理され得る。酸素飽和度(SO)評価アルゴリズムは、赤色及び赤外線部分に関する信号比を利用し得る。さらに、アルゴリズムは、非パルス信号成分を考慮し得る。一般に、PPG信号は、DC成分及び比較的小さなパルス状のAC成分を有する。さらに、SO評価は、一般的に、処理された値に適用される経験的に導き出された較正因子に関係する。一般的に、較正因子(又は較正カーブ)は、侵襲的な血中酸素飽和度測定に関係する基準測定の下で決定される。PPGデバイスは、基本的に、一般的にHbO及びHbの比に関係する血中酸素飽和度値に変換される必要がある(スペクトル)信号部分の比を検出するので、較正因子が必要である。例えば、本開示を限定する意図はないが、血中酸素飽和度評価は、下記の一般式
【数1】

に基づくことができるのに対し、PPGデバイスは、少なくとも2つの波長でのスペクトル反応から、単に間接的にHbO及びHbを検出する。
【0053】
一般に、特性信号として測定された強度カーブ28、29は、かなり一定した(DC)部分と、DC部分に重ね合わせられる交流(AC)部分とを含むと考えられる。信号処理手段を適用することで、AC部分は抽出され、さらに、外乱を補償し得る。例えば、特性信号のAC部分は、被験者100の血管活動、特に心拍をはっきりと示し得る優位周波数を有することができる。さらに、特性信号、特にAC部分は、他のバイタルパラメータを示し得る。これに関連して、動脈血中酸素飽和度の検出は、アプリケーションの重要な分野である。上記に示された通り、基本的に、動脈血中酸素飽和度代表値は、その明確なスペクトル部分での特性信号のAC部分の振る舞いを考慮に入れて算出され得る。言い換えると、動脈血中酸素飽和度の度合いは、血管での種々異なる放射光吸収に反映され得る。さらに、酸素化の程度に起因する吸収における違いも種々異なるスペクトル部分にわたって大きく変化するという事実を利用することができる。また、信号のDC部分も、血中酸素飽和度検出に利用することができる。一般的に、DC成分は、組織、静脈血及び非パルス動脈血の全体の光吸収を示す。対照的に、AC成分は、パルス動脈血の吸収を示し得る。結果として、動脈血中酸素飽和度(SaO)の決定は、
【数2】
として示され得、ここで、Cは較正パラメータである。Cは、AC/DC関係に適用可能な様々な較正パラメータを表してもよく、したがって、式(2)の厳格な代数的意味で解釈されるべきではない。例えばCは、固定の一定値、固定の定数のセット又は調整可能な較正パラメータを表してもよい。例として、別の例示的なSaO導出モデルは、
【数3】
と示され得、ここで、C及びCは、線形近似値の較正パラメータと考えられ得る。例示的な実施形態では、信号較正パラメータ決定は、パラメータCを調整する又は適合させるために行われ得る。さらに、代替的なSaO導出は、デバイス1に蓄積される(又はデバイス1によってアクセス可能な)値テーブルにも基づいてもよい。値テーブル(又はデータベース)が、検出されたPPG信号及び所望の較正パラメータとの間の関係の離散的な表現のために提供されてもよい。その場合においても、適合可能な較正パラメータが、バイタルパラメータ決定の精度を改善するために適用されてもよい。
【0054】
式(2)及び(3)は、主として例示的な目的で示されていることを理解されたい。これらは、本開示の範囲を限定するものとして見なされるべきではない。実際には、当業者は、さらに適切なSaO導出モデルを決定し、確立してもよい。代替的な波長の組み合わせ、例えば緑色及び赤色の組み合わせは、検出されるべき物質に依存して使用され得る。SaOの測定が詳細に説明されてきたが、これは、血液及び/又は組織中の物質の濃度を測定する一般的概念のための例として理解されるべきである。
【0055】
図3は、本発明による被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステム1に使用するマーカーのより詳細な実施形態を示す。マーカー30は、第1の図形的パターン32、第2の図形的パターン33、基準エリア34a、35a、36a、37a、3つの異なる波長の光を透過するように構成されるマーカーエリア34b、35b、36b、及び透明マーカーエリア37bを特徴とする。
【0056】
担持要素31は、その要素と共にマーカー30を担持し、機械的安定性を提供する。この実施形態では、担持要素31は、接着剤で被験者100の皮膚に直接貼り付けることができるパッチ又はバンドエイド(登録商標)である。担持要素は、光を透過しない不透明なラバーのような材料から作られる。したがって、担持要素は、マーカーエリア34b、35b、36b、37bの位置での開口部又は窓を特徴とする。
【0057】
各窓34b、35b、36bには、光学フィルタ板が配置され、フィルタ板34bは、第1波長の光を透過し、フィルタ板35bは、第2波長の光を透過し、フィルタ板36bは、第3波長の光を透過するように構成される。マーカーエリア37bは、周波数選択性フィルタを有しないが、エリア37bの下部の皮膚が、フィルタリングされていない皮膚の基準として検出ユニットから見ることができるように透明である。
【0058】
基準エリア34a、35a、36aは、特定の波長のための基準エリアである。好ましくは、基準エリアの色は、隣接するフィルタの透過波長に対応する。例えば、マーカーエリア34bは赤色光を透過するように構成され、基準エリア34aは、特に、マーカーに入射した放射光にどの位赤色光があるかという基準として役立つように、赤色を有する。
【0059】
図形的パターン32は、位置合わせ標識として役立つ。幾何学的構造は、画像処理ユニット4がマーカー30の位置及び/又は方向を判別することを可能とする。マーカー30はさらに、QRコード(登録商標)形式の機械可読図形的パターン33を特徴とする。このコードは、決定されたバイタルサイン情報が被験者に、例えば電子カルテ(EHR)に割り当てられ得るように、被験者についての情報を有する。コードは、マーカーが被験者の身体に貼り付けられる場所についての情報も有し、したがって、測定位置(例えば額及び腕)に特有の種々異なる測定値が、同時に同じ被験者から採取され得る。
【0060】
図3は複数の特徴を示すが、これら全てが必須ではない。図4は、2つのマーカーエリアを有する最も基本的な構成を示す。この例では、マーカーは、第1マーカーエリアにおける被験者の皮膚に直接適用される第1染料と、第2マーカーエリアにおける被験者の皮膚に直接適用される第2染料とを有する。染料は、例えば皮膚の上にラバースタンプされ、描かれ、スプレーされ、又はプリントされ得る。第1マーカーエリアの染料は、第1波長の光を透過するように構成される一方で、第2マーカーエリアの染料は、第2波長の光を透過するように構成される。付加的な基準エリアがこれに応じて適用され得る。
【0061】
図5は、図3に示されたものに類似するマーカーの側面図を示す。これは、被験者の皮膚104に貼り付けられる。担持要素51は、マーカー50に機械的安定性を提供する。担持要素51の、皮膚104に面する側に、担持要素51は、担持要素を被験者の皮膚104に貼り付けるための接着剤52を有する。接着剤52はさらに、マーカー50と共に担持要素51に接触する被験者の組織104中の血液潅流を増加させるための刺激剤を有する。
【0062】
担持要素51の反対の側に、マーカー50は、基準エリア54a、55aだけでなく、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリア54bと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリア55bとを有することを特徴とする。これは、第1及び第2のマーカーエリアの位置に配置され、担持要素51にラミネートされる光学フィルタ板56、57によって達成される。任意選択で、接着剤は、マーカーエリアの透過特性に影響を与えないために、マーカーエリア54b、55bに適用されない。
【0063】
図6及び図7は、第1及び第2マーカーエリアだけでなく基準エリアを備える光学窓の種々異なるパターンを示す。この例では、第1及び第2のマーカーエリアは、サブエリアに分割される。基準エリアのパターン及び第1及び第2マーカーエリアを有する光学窓は、特定の測定のニーズに従って選択され得る。
【0064】
いくつかの測定のために、組織の間隔が接近したエリアからの各波長に対する信号を得ることが重要である。この場合、いくつかのより小さな、例えばチェックボードデザインの光学窓を有することが有利である。図6は、交互の、第1波長のための基準エリア61a及び第1マーカーエリア61bと、第2波長のための基準エリア62a及び第2マーカーエリア62bとを備える、2つの波長のためのチェックボードデザインを備えるマーカー60を示す。例えば、血中酸素飽和度測定のために、赤色が第1波長として使用され、赤外線が第2波長として使用される。
【0065】
図7は、基準エリア71a、72a及び第1及び第2マーカーエリア71b、72bのための光学窓の分配が、予測される信号強度に依存して最適化されるマーカー70の代替的な実施形態を示す。例えば、第1の要求される波長、例えば緑色の波長での信号は、第2の要求される波長、例えば赤色の波長での信号よりも強い。よって、第2マーカーエリア72b全体は、両方の波長で類似する信号強度を達成するために、第1マーカーエリア71b全体に対して増大される。
【0066】
例として、本発明は、ヘルスケア、例えば邪魔にならない遠隔患者モニタリング、一般的な監視、セキュリティモニタリング、及びフィットネス設備若しくはこれに類する設備などのいわゆるライフスタイル環境の分野に適用され得る。アプリケーションは、酸素飽和度(パルスオキシメトリ)、心拍数、血圧、心拍出量、血液環流の変化、自律機能の評価及び抹消血管疾患の検出のモニタリングを含んでもよい。
【0067】
本発明は、図面及び前述の記載において詳細に図示及び説明されたが、このような図示及び説明は、解説的又は例示的であって限定するものではないと見なされるべきである。すなわち、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。開示された実施形態に対する他のバリエーションは、当業者により、請求項に係る発明を実施する際に、図面、開示内容、及び添付の請求項の精査から理解され、達成され得る。
【0068】
請求項において「有する(comprising)」なる単語は、他の構成要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を排除するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に引用されているという単なる事実は、これら手段の組み合わせを有利に使用することができないということを示すものではない。
【0069】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと合わせて、又は他のハードウェアの一部として供給される、光学記憶媒体又はソリッドステート媒体などの適切な非一時的な媒体において記憶/配布されてもよいが、さらに、他の形態で、例えばインターネット又は他の有線若しくは無線の遠隔通信システムなどを介して配信されてもよい。
【0070】
請求項における任意の参照符号は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7