【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様では、
− 被験者の皮膚への適用のためのマーカーであって、前記マーカーは、さらに、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有する当該マーカーと、
− マーカーの、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、
− 第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットと
を有する、被験者のバイタルサイン情報を決定するためのシステムが示される。
【0010】
本発明の他の態様では、前述のシステムに使用するマーカーは、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有し、該マーカーは、被験者の皮膚への適用に適することが示される。
【0011】
本発明の他の態様では、前述のシステムに使用するデバイスは、被験者の皮膚に適用されるマーカーの、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するための検出ユニットと、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するための分析ユニットとを有することが示される。
【0012】
本発明の他の態様では、
− 被験者の皮膚に適用されるマーカーの、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとから受光した放射光を検出するステップと、
− 第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するステップと
を有する、被験者のバイタルサイン情報を決定するための方法が示される。実施形態では、該方法はさらに、被験者の皮膚にマーカーを適用するステップを有する。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、プログラムがコンピュータで実行される場合に、コンピュータに、提案される方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提供される。さらに、プロセッサによって実行されたときに、ここに開示される方法の前記ステップが実行されるようにするコンピュータプログラムを保存する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が示される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に規定される。請求項に係るマーカー、デバイス、方法、コンピュータプログラム及び媒体は、請求項に係るシステムの実施形態及び従属請求項に規定される実施形態と類似の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することを理解されたい。
【0015】
本発明のコンテキスト中で使用される「バイタルサイン」なる用語は、被験者の生理的パラメータ及び派生パラメータを指す。特に、「バイタルサイン」なる用語は、心拍数(HR)(パルス数とも呼ばれることもある)、心拍数変動(パルス数変動)、拍動性強度、潅流、潅流インジケータ、潅流変動、トラウベ・ヘーリング・マイヤー波、呼吸数(RR)、体温、血圧、酸素飽和度若しくは血糖値などの血液中及び/又は組織中の物質の濃度を含む。
【0016】
発明のコンテキスト中で使用される「バイタルサイン情報」なる用語は、上に定義した1つ又は複数の測定されたバイタルサインを含む。さらに、「バイタルサイン情報」なる用語は、生理学的パラメータに関するデータ、対応する波形トレース又は後続の分析に役立てることができる継時的な生理学的パラメータに関するデータを含む。
【0017】
本発明は、異なる波長で組織の同じエリア又はボリュームを連続して測定する代わりに、バイタルサイン情報は、並列に測定される組織の空間的に分離されたエリア又はボリュームから決定され得るというアイデアに基づく。言い換えると、発明者は、異なる空間的に分離されたエリア又はボリュームにおける、異なる波長でのフォトプレチスモグラフィ測定からバイタルサイン情報を決定することが可能であることを見出した。これは、空間分割多重化方式と考えられ得る。有利な点は、測定を環境光条件下で実行することができる点及び先行技術に提案されるような異なる波長での連続する狭帯域照明を必要としない点である。
【0018】
本発明の態様によれば、第1波長の光を透過するように構成される第1マーカーエリアと、第2波長の光を透過するように構成される第2マーカーエリアとを有するマーカーが提案される。したがって、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアは、バイタルサイン情報を決定するための空間的に分離されたエリアを規定する。各マーカーエリアは、異なる波長の光を透過するように構成され、その結果、物質の濃度が、2つの異なる波長の光の比較に基づいて決定され得る。マーカーの使用は、検出ユニットに特定の追加のフィルタを必要としないという有利な点を有する。単一の検出ユニットは、全ての必要な情報を取得することができ、これはシステムの低コストにとって有益である。
【0019】
任意選択で、マーカーは、他の波長の光を透過するように構成される更なるマーカーエリアを有する。関心波長は、赤外線及び紫外線波長を含む電磁放射光の不可視波長も含む。
【0020】
ここで使用されるように、「波長」なる用語は、さらに波長の帯域又は波長部分を指す。これは、限定されたスペクトル幅を有するスペクトル範囲として理解されるべきである。例えば、光学フィルタに対しては、波長なる用語は、フィルタの通過帯域を指す。よって、波長なる用語は、単一波長に限定されずに、中心波長の周辺の、例えば数ナノメートル又は数十ナノメートルの波長範囲にも使用される。さらに、フィルタのコンテキスト中の波長なる用語は、全く同一のフィルタ要素の複数の不連続なスペクトル範囲を指すことができる。
【0021】
ここで使用されるように、「検出ユニット」なる用語は、電磁放射光を検出するためのデバイスを指す。該デバイスは、第1マーカーエリアから及び第2マーカーエリアから受光した放射光を検出するように構成される。好ましい実施形態では、検出ユニットは、CCD又はCMOSイメージセンサなどの、感光性ピクセルのアレイを有するイメージセンサを備えるカメラである。検出ユニットの出力は、放射光データと呼ばれる。例えば、放射光データは、一連の継時的な画像、つまりビデオストリームである。カメラは、モノクロ又はカラーカメラであり得る。カラーカメラのためのRGBイメージセンサは、赤、緑及び青のカラーチャネル用のフィルタを備えるカラーフィルタアレイを有する。RGBカラーカメラを使用する場合、システムの全体のフィルタ特性は、マーカーエリアの透過特性だけでなく、カメラのカラーチャネルのフィルタ特性の両方を含む。実施形態では、第1マーカーエリアの透過波長は、RGBチャネルの第1のチャネルの範囲内にあり、第2マーカーエリアの透過波長は、RGBチャネルの第2のチャネルの範囲内にある。マーカーエリアの透過特性を適切に選択することによって、第1及び第2マーカーエリアの空間的分離は、RGBカメラの周波数選択性検出によってさらに支持され得る。これにより、第1及び第2マーカーエリアの透過特性のための要件は緩和され、システムコストが削減される。
【0022】
第1及び第2マーカーエリアから受光した放射光は、通常2つの成分を有する。第1に、受光した放射光は、マーカー及び/又は皮膚表面で反射される光、すなわち組織に浸透せず、且つ、組織における光吸収についての情報を保持しない光を有する。第2に、受光した放射光は、皮膚に浸透し、組織の内側から反射された光を有する。受光した放射光のこの第2の部分は、組織内の光の時間変化する吸収及び/又は透過に起因する時間変化する強度を有する。光と生体組織との相互作用は、複雑であり、(多重)散乱、後方散乱、吸収、透過及び(拡散)反射の光学的プロセスを含む。このコンテキストで使用される「反射」なる用語は、スペクトル反射に限定されると解釈されるべきではなく、前述の光と組織との相互作用の種類及び任意のこれらの組み合わせを含む。
【0023】
任意選択で、システムはさらに、それぞれの波長で十分な光を使用できることを確実にするために、前記第1波長及び/又は前記第2波長の光を発する光源を有する。さらに任意選択で、システムは、検出ユニットがその最適動作点で動作できるように、特に、例えばノイズ又は代替的に飽和効果が測定を妨げないように、光パワーを制御する制御ユニットを有する。しかしながら、好ましい実施形態では、システムは環境光のみを使用する。
【0024】
分析ユニットは、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアからの検出された放射光から被験者のバイタルサイン情報を決定するように構成される。分析ユニットは、検出ユニットから放射光データを受け取る。被験者の心拍数を決定するには、単一のマーカーエリアから受光された又はマーカーエリアの外側の素肌からでさえ受光された時間変化する放射光を評価することで十分である。しかしながら、物質の濃度を決定する、例えば酸素飽和度又は血糖値を決定するためには、上記のように異なる波長での放射光の分析が必要とされる。分析ユニットは、2つの空間的に分離されたマーカーエリアから時間変化する信号を評価し、これにより、並列に2つの異なる波長を評価する。例えば、第1マーカーエリアから受光した光は、検出ユニットの一部であるイメージセンサのピクセルの第1グループ上に入り、第2マーカーエリアからの光は、イメージセンサのピクセルの第2グループ上に入る。より良い信号雑音比のため、グループのピクセルの信号は、結合され得る。
【0025】
好ましい実施形態によれば、システムはさらに、検出された放射光における第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアを識別するための画像処理ユニットを有する。画像処理ユニットは、検出ユニットと分析ユニットとの間に位置付けられる任意選択の要素である。画像処理ユニットは、放射光データ、例えばビデオストリームを、検出ユニットから受け取る。画像処理ユニットは、受け取った放射光データにおけるマーカーを識別するための画像処理手段を有する。例えば、マーカーは、ビデオストリームの画像において識別され得る特定の特徴を有する。画像処理から知られる分析方法及びビデオ分析が適用され得る。マーカー内に、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアの位置が特定される。よって、画像処理ユニットは、分析ユニットに、放射光データにおける第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアの位置についての情報を含む処理された放射光データを提供する。例えば、画像処理ユニットは、第1マーカーエリアから放射光を受光したイメージセンサの一部を示すピクセル又はピクセルのグループと、第2マーカーエリアから放射光を受光したピクセル又はピクセルのグループとをそれぞれ識別する。画像処理ユニットは、分析ユニットに組み込まれ得る。
【0026】
他の実施形態では、本発明によるシステムはさらに、マーカーを担持するための担持要素を有する。担持要素は少なくとも、第1マーカーエリアに適応する第1領域と、第2マーカーエリアに適応する第2領域とを特徴とする。一般に、担持要素は、マーカーのための機械的支持を提供する要素、例えばパッチ、ラベル又は被験者の皮膚に貼り付けることができる同様の構造をしたものの一種として考えられ得る。担持要素は、紙、織物、ラバー又はパッチ、特に医療アプリケーションのためのパッチに使用する他の材料を含む材料のグループの中の材料から作ることができる。
【0027】
別の実施形態では、担持要素はさらに、担持要素を被験者の皮膚に張り付けるための接着剤を有する。好ましい実施形態では、担持要素は、被験者の皮膚に直接貼り付けられるため、生体適合性接着剤が使用される。
【0028】
さらに別の実施形態では、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアは、担持要素に取り付けられる光学フィルタ板を有する。光学フィルタ板は、所望の波長又は波長帯域の光のみが透過されることを確実にする。フィルタ板の種類は、吸収フィルタだけでなく誘電体フィルタを含む。有利には、担持要素は、開口部を有し、光学フィルタ板は前記開口部に位置付けられる。開口部は、窓又は光学窓とも呼ばれる。
【0029】
代替的な実施形態によれば、マーカーは、第1マーカーエリアにおける被験者の皮膚に適用される第1染料(dye)及び/又は第2マーカーエリアにおける被験者の皮膚に適用される第2染料を有する。光学フィルタ板を使用する代わりに、この実施形態は、着色された染料を使用し、第1染料は、第1波長の光を透過し、第2染料は、第2波長の光を透過する。光学フィルタ板は通常、担持要素に取り付けられるが、染料は、担持要素を必要とすることなく被験者の皮膚に直接適用され得る。
【0030】
他の実施形態では、マーカーはさらに、所定の反射特性の基準エリアを有する。この基準エリアは、波長の所定の範囲の反射特性が知られているため、検出ユニットを較正するために使用され得る。特に、システムが任意選択の光源及び制御ユニットを備える場合、検出された放射光における基準エリアは、検出ユニットの感度を調整する並びに/又は光源のパワー及び/若しくはスペクトルを調整するために役立てることができる。マーカーは、2つ以上の基準エリアを有することもでき、各基準エリアは種々異なる反射特性を有する。例えば、赤色基準エリアは、赤色スペクトル領域における光学パワーを測定するのに使用される一方で、赤外線の光を反射する基準エリアは、赤外線スペクトル領域における光学パワーを測定するのに使用される。これらの測定に基づいて、検出ユニットの感度は調整され得る。代替的に、測定時間は、十分に良好な信号雑音比を達成するために調整される。
【0031】
この実施形態の他の態様によれば、基準エリアは不透明である。言い換えると、基準エリアは、マーカーを通過する任意の光を阻止するが、基準エリアに入射する光を反射するだけである。これは、基準エリアから受光した放射光が、実質的に外乱から免れ、特に下部組織からの反射された又は後方散乱された放射光から免れることを確実にする。よって、第1及び/又は第2マーカーエリアからの光は、プレチスモグラフィ情報を提供するのに対し、基準エリアからの光は、プレチスモグラフィ情報を保持せず、基準としての役割を果たす。
【0032】
さらに、基準エリアは、環境光又は人工光源の任意の時間的な外乱又はスペクトルの外乱、例えば日中のゆっくりとした変化又は50/60Hzフリッカ若しくは光源のパルス幅変調などの系統的な影響を測定するのに使用され得る。第1及び/又は第2マーカーエリアから測定された強度は、このような外乱を補償し得る。
【0033】
さらに別の実施形態では、マーカーはさらに、図形的パターンを有する。図形的パターンは、分析ユニットによって又は任意選択の画像処理ユニットによって、放射光データにおいて検出可能に適合される。好ましくは、図形的パターンは、高い画像コントラスト、例えば白黒パターンを有する。代替的に、図形的パターンは、明確に識別し得る種々異なる色を有する。好ましくは、図形的パターンは、バーコード、マトリックス・バーコード、英数文字、QRコード(登録商標)又はこれらに類するものなど機械可読であるように最適化される。画像処理ユニットにとって、不特定の画像特徴を分析するよりも、観察場において特定された図形的パターンを検出する方が容易である。任意選択で、図形的パターンは、測定されたバイタルサイン情報を患者又は患者の身体部位に割り当てるための患者識別子などの情報を保存する機械可読コードである。符号化された情報は、バイタルサイン情報、例えば測定されるべきバイタルサイン情報について要求される感度又は情報を決定するためのシステムを構成するための構成データを有し得る。第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアのアレンジメントだけでなく、担持要素のサイズ及び/又は形状も図形的パターンとして見ることができる。
【0034】
任意選択で、マーカーは、担持要素上にインク若しくは染料の種々異なる層をプリントすることによって作成又は調整され得る。インクの色及び不透明性は、正しい強度及びスペクトル成分が透過される又は阻止されるように調整され得る。代替的に又は付加的に、図形的パターンはマーカーの一部としてプリントされ得る。
【0035】
他の実施形態では、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアは、サブエリアを有する。言い換えると、マーカーエリアは、複数の小さなセクションから構成され得る。例えば、第1マーカーエリア及び/又は第2マーカーエリアのサブエリアは、格子状パターンに配置される。これは、第1マーカーエリア及び第2マーカーエリアが互いに遠くに離れすぎることなく、依然としてマーカーエリア全体が所望の皮膚エリアをカバーすることを確実にする。
【0036】
さらに本発明によるシステムの別の態様によれば、マーカーはさらに、マーカーに接触する被験者の組織中の血液潅流を増加させる刺激剤を有する。上記に説明したように、フォトプレチスモグラフィは、組織中の血管のボリューム変化に依存する。よって、信号強度を増加させるために、バイタルサインが決定されるべき被験者にマーカーが適用されたときに、マーカー下部の血管における十分な血液フローを確実にすることが望ましい。
【0037】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、後述する実施形態から明らかとなり、かかる実施形態を参照して明確になるであろう。