特許第6388726号(P6388726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388726
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】オレフイン重合用触媒成分
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/654 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
   C08F4/654
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-544695(P2017-544695)
(86)(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公表番号】特表2018-507304(P2018-507304A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】EP2016054772
(87)【国際公開番号】WO2016142334
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年9月4日
(31)【優先権主張番号】15158458.8
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513076604
【氏名又は名称】バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ・ミニョーナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンピエロ・モリーニ
(72)【発明者】
【氏名】レイナル・シュバリエ
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/106500(WO,A1)
【文献】 特表2008−533243(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/106497(WO,A1)
【文献】 特表2008−533241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4,10,110,210
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Ti、ハロゲン及び下記化学式(I)または(II)の電子供与体を含むオレフインの重合用固体触媒成分:
上記式で、
及びRは独立的に水素またはC−C15炭化水素基であり、
Xは−ORまたは−NR基であり、ここで、Rは、任意にハロゲン、P、S、N、Oから選択されたヘテロ原子を含む、C−C15炭化水素基から選択され、R〜R基は独立的に水素またはR基であり、前記R基は一緒に融合してサイクルを形成することができ、
〜R10基は独立的に水素または、任意にハロゲン、P、S、N、O及びSiから選択されたヘテロ原子で置換されたC−C20炭化水素ラジカルであり、これら炭化水素ラジカルは一緒に融合されて一つ以上のサイクルを形成することができ、
15〜R16基は互いに同一であるか異なり、水素またはR基であり、前記R基は一緒に融合されて一つ以上のサイクルを形成することができ、nは0〜2の整数であり、また
11〜R14は独立的に水素、ハロゲン、またはP、S、N、O及びSiから選択されたヘテロ原子で任意に置換されたC−C15炭化水素基から選択される。
【請求項2】
化学式(II)の電子供与体で前記芳香族環は3及び/または6位置で第1級アルキル基で置換される請求項1に記載の触媒成分。
【請求項3】
化学式(II)の電子供与体で前記芳香族環が4及び/または5位置では第3級アルキル基で置換される請求項1に記載の触媒成分。
【請求項4】
化学式(II)の電子供与体でnが1である請求項1に記載の触媒成分。
【請求項5】
基がC−C15アルキル基、C−C14アリール基、C−C15シクロアルキル基及びC−C15アリールアルキルまたはアルキルアリール基から選択され、R及びR基が水素またはRと同じ意味を有する請求項1に記載の触媒成分。
【請求項6】
、R及びR基は独立的にC−Cアルキル基から選択される請求項5に記載の触媒成分。
【請求項7】
XがORである請求項1〜6の中の何れか一項に記載の触媒成分。
【請求項8】
(i)請求項1〜7の中の何れか一項による固体触媒成分、及び
(ii)アルキルアルミニウム化合物、及び任意に、
(iii)外部電子供与化合物の間の反応生成物を含むオレフインの重合のための触媒。
【請求項9】
触媒システムの存在下で行われるオレフインCH=CHR(ここで、Rは水素または1〜12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカル)の(共)重合方法であって、
(i)請求項1〜7の中の何れか一項に記載の固体触媒成分、
(ii)アルキルアルミニウム化合物、及び
(iii)任意に電子供与体化合物の間の反応生成物を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTi原子に担持されたMgジハライド系担体及びエステル及びカルバメート官能基を含む電子供与体化合物を含むオレフイン、特にプロピレンの重合のための触媒成分に関する。また、本発明は上記成分から得られた触媒及びオレフイン、特にプロピレンの重合方法におけるこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフインの立体特異的重合のための触媒成分は本技術分野で開示されている。プロピレンの重合については、チーグラーナッタ触媒が工業的に用いられ、一般的にAl−アルキル化合物とともに用いられるチタン化合物及び内部電子供与体化合物が担持されたマグネシウムジハライドで構成された固体触媒成分を含む。しかし、重合体のより高い結晶化度が要求される場合、より高いアイソタクチシチー(isotacticity)を得るために外部供与体(例えば、アルコキシシラン)も必要である。主に用いられる部類の内部供与体の中の一つはフタル酸のエステルで構成され、フタル酸ジイソブチルが、最も多く用いられている。フタル酸エステルは外部供与体としてのアルキルアルコキシシランとともに内部供与体として用いられる。この触媒システムは、活性、アイソタクチシチー及びキシレン不溶性に対して良好な性能を提供する。
【0003】
この触媒システムの使用に係わる問題の一つは、フタル酸エステルが最近その使用に係わる医学的問題による恐れが提起され、このような部類の一部化合物が健康問題の根本として分類されていることである。
【0004】
結果的に、プロピレン重合用触媒成分の製造に用いるための代替部類の内部供与体を見出すための研究活動が行われている。
【0005】
試される触媒の一部はアミド基及びエステル基を同時に有する供与体構造を含む。PCT公開公報WO2006/110234号には一つのカルバメート基及び一つの硝子エステル官能基を含むアミノ酸誘導体が記載されている。このような構造によって生成された触媒はバルクプロピレン重合で非常に低い活性及び立体特異性を有する(PCT国際公開WO2006/110234の表2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
驚くべきことに、本出願人は特定構造内にカルバメート及びエステル官能基を全部含有する供与体クラスが活性及び立体特異性のおもしろい均衡を現わす触媒を生成するということを明かした。
【0007】
そこで、本発明はMg、Ti、ハロゲン及び下記化学式(I)または(II)の電子供与体を含むオレフインの重合用触媒成分を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
上記式で、
及びRは独立的に水素またはC−C15炭化水素基であり;
Xは−ORまたは−NR基であり、ここで、Rは、任意にハロゲン、P、S、N、Oから選択されたヘテロ原子を含む、C−C15炭化水素基から選択され、R〜R基は独立的に水素またはR基であり、上記R基は一緒に融合してサイクルを形成することができ;
【0010】
〜R10基は独立的に水素または任意にハロゲン、P、S、N、O及びSiから選択されたヘテロ原子で置換された、C−C20炭化水素ラジカルであり、これら炭化水素ラジカルは一緒に融合されて一つ以上のサイクルを形成することができ;
15〜R16基は互いに同一であるか異なり、水素またはR基であり、上記R基は一緒に融合されて一つ以上のサイクルを形成することができ、nは0〜2の整数であり、また
11〜R14は独立的に水素、ハロゲン、またはP、S、N、O及びSiから選択されたヘテロ原子で任意に置換された、C−C15炭化水素基から選択される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
化学式(II)の好ましい構造はR11〜R14基の中の少なくとも一つ、好ましくは、少なくとも2つが水素と相異するものである。特に、好ましい構造は、芳香族環が3、5及び/または6位置で置換されたものである。4、3及び/または6位置での置換も好ましい。これら全ての場合において、R11〜R14基は、好ましくはC1−C5アルキル基から選択される。3及び/または6位置で第1級アルキル基、特にメチルで置換され、4及び/または5位置では第3級アルキル基、特にtert−ブチルで置換されたものが特に好ましい。
【0012】
化学式(II)の好ましい構造はnが1であるもので、特に、上述したように置換された芳香族環と結合された場合、好ましくは水素であるR15及びR16と結合されたものでる。
【0013】
化学式(I)及び(II)の構造で、Xは−ORまたは−NRから独立的に選択される。好ましくは、Xは−ORグループから選択される。
【0014】
好ましくは、化学式(I)及び(II)の構造で上記R基はC−C15アルキル基、C−C14アリール基、C−C15シクロアルキル基及びC−C15アリールアルキルまたはアルキルアリール基から選択されて、さらに水素であってもよいR及びR基にも同様に適用される。より好ましくは、R、R及びR基は独立的にC−C10アルキル基及びより好ましくはC−Cアルキル基、特にエチルから選択される。
【0015】
好ましくは、固体触媒成分の中の電子供与体化合物の最終量は固体触媒成分の総重量に対して1〜25重量%、好ましくは3〜20重量%の範囲である。
【0016】
化学式(I−II)による構造の非制限的な例は次のようである。エチル2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3,5−ジイソプロピルベンゾエート、エチル2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート、エチル2−(ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルベンゾエート、エチル2−(ジエチルカルバモイル)オキシ)−5−メチルベンゾエート、エチル2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ベンゾエート、エチル2−((ジメチルカルバモイル)オキシ)ベンゾエート、エチル2−(カルバモイルオキシ)ベンゾエート、エチル2−((ジプロピルカルバモイル)オキシ)ベンゾエート、エチル5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルベンゾエート、エチル5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ベンゾエート、プロピル2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ベンゾエート、2−(ジエチルカルバモイル)−4,6−ジイソプロピルフェニルジエチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)−4,6−ジメチルフェニルジエチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)−4−メチルフェニルジエチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)−6−メチルフェニルジエチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)フェニルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)フェニルジエチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)フェニルジメチルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)フェニルジプロピルカルバメート、2−(ジエチルカルバモイル)フェニルジメチルカルバメート、2−(ジプロピルカルバモイル)フェニルジエチルカルバメート、2−カルバモイルフェニルカルバメート、4−(tert−ブチル)−2−(ジエチルカルバモイル)−6−メチルフェニルジエチルカルバメート、4−(tert−ブチル)−2−(ジエチルカルバモイル)フェニルジエチルカルバメート、2−(2−エトキシ−2−オキソエチル)フェニルピペリジン−1−カルボキシレート、2−(2−エトキシ−2−オキソエチル)フェニルピロリジン−1−カルボキシレート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル)アセテート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3,5−ジメチルフェニル)アセテート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)アセテート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−5−メチルフェニル)アセテート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)−3,3−ジメチルブタノエート 、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)−3−メチルブタノエート 、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)アセテート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)ブタノエート 、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)ペンタノエート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)プロパノエート、エチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)アセテート、エチル(2−(ジエチルカルバモイルオキシ)フェニル)アセテート、エチル2−(5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)−2−メチルプロパノエート、エチル2−(5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)アセテート、エチル2−(5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)ペンタノエート、メチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)アセテート、プロピル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)アセテート、2−(2−(ジエチルアミノ)−2−オキソエチル)−4,6−ジイソプロピルフェニルジエチルカルバメート、2−(2−(ジエチルアミノ)−2−オキソエチル)フェニルカルバメート、2−(2−(ジエチルアミノ)−2−オキソエチル)フェニルジエチルカルバメート、4−(tert−ブチル)−2−(2−(ジエチルアミノ)−2−オキソエチル)−6−メチルフェニルジエチルカルバメート、エチル3−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)−2−メチルブタノエート 、エチル3−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)プロパノエート、エチル3−(5−(tert−ブチル)−2−(ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)プロパノエート、2−(3−(ジエチルアミノ)−3−オキソプロピル)フェニルジエチルカルバメート、2−(4−(ジエチルアミノ)−3−メチル−4−オキソブタン−2−イル)フェニルジエチルカルバメート、4−(tert−ブチル)−2−(3−ジエチルアミノ)−3−オキソプロピル)−6−メチルフェニルエチルカルバメート、4−エトキシ−4−オキソブタン−2−イルピペリジン−1−カルボキシレート、4−エトキシ−4−オキソブタン−2−イルピロリジン−1−カルボキシレート、ブチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルブタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2,2,3−トリメチルブタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2,2−ジメチルブタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2,2−ジメチルプロピオネート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−イソブチル−2−プロピルヘプタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルブタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルペンタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルプロパノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ブタノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)プロパノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ブタノエート、 エチル3−(カルバモイルオキシ)ブタノエート、プロピル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルブタノエート、4−(ジエチルアミノ)−3,3−ジメチル−4−オキソブタン−2−イルジエチルカルバメート、4−(ジエチルアミノ)−3−メチル−4−オキソブタン−2−イルジエチルカルバメート、4−(ジエチルアミノ)−4−オキソブタン−2−イルジエチルカルバメート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルプロパノエート、エチル3−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−フェニルアセテート、エチル2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3,3−ジメチルブタノエート、エチル4−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−2−メチルブタノエート、エチル4−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ブタノエート、エチル4−((ジエチルカルバモイル)オキシ)ペンタノエート、エチル8−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−1−ナフトエート、4−(ジエチルアミノ)−3−メチル−4−オキソブチルジエチルカルバメート、4−(ジエチルアミノ)−4−オキソブチルジエチルカルバメート、5−(ジエチルアミノ)−5−オキソペンタン−2−イルジエチルカルバメート。
【0017】
化学式(I)及び(II)の化合物は化学式HO−A−COXのヒドロキシエステルまたはヒドロキシアミドを3級アミンなどの塩基の存在下でカルバモイルクロリドRN−CO−C1と反応させて製造することができる。本発明の固体触媒成分で、固体触媒成分の中のTi原子の量は上記触媒成分の総重量に対して、好ましくは2.5重量%超過、より好ましくは3.0重量%超過である。
【0018】
上記で説明したように、本発明の触媒成分は、上記電子供与体の他にも、Ti、Mg及びハロゲンを含む。特に、触媒成分は、少なくともTi−ハロゲン結合を有するチタン化合物及びMgハライドに担持された上記電子供与体化合物を含む。ハロゲン化マグネシウムはチーグラーナッタ触媒に対する担体として開示される活性形態のMgClであることが好ましい。アメリカ特許第4,298,718号及び第4,495,338号はチーグラーナッタ触媒作用でこれら化合物の用途を初めて記述した。これら特許は非活性ハライドのスペクトラムで現われる最も強い回折線が強度が減少し、また最大強度がより強い線の強度に比べてより低い角度に変位するハロで置換されるX−線スペクトラムを特徴化するオレフイン重合用触媒成分で担体または補助担体として用いられる活性形態のマグネシウムジハライドを開示している。
【0019】
本発明の触媒成分で用いられる好ましいチタン化合物はTiCl及びTiClであり;また、化学式Ti(OR)m−yのTi−ハロアルコレートが用いられることができ、ここで、mはチタンの原子価であり、yは1〜m−1の数であり、Xはハロゲンであり、Rは1〜10個の炭素元素を有する炭化水素ラジカルである。
【0020】
上記固体触媒成分の製造は各種方法によって行うことができる。一つの方法は、約80〜120℃の温度で電子供与体化合物の存在下でマグネシウムアルコレートまたはクロロアルコレート(特に、アメリカ特許第4,220,554号によって製造されたクロロアルコレート)と過量のTiCl間の反応を含む。
【0021】
好ましい方法によれば、固体触媒成分は化学式Ti(OR)m−y(ここで、mはチタンの原子価であり、yは1〜mの数である)のチタン化合物、好ましくはTiClを化学式MgCl・pROH(ここで、pは0.1〜6の数、好ましくは2〜3.5の数であり、Rは1〜18個の炭素原子を有する炭化水素ラジカルである)の付加物から誘導された塩化マグネシウムと反応させることにより製造されることができる。付加物は付加物の溶融温度(100〜130℃)で撹拌条件下で操作しながら付加物と非混和性の非活性炭化水素の存在下でアルコール及び塩化マグネシウムを混合することにより球状に適合に製造することができる。その後、エマルジョンは急速に冷却されて、付加物が球状粒子形態に固形化する。このような過程によって製造された球状付加物の例はアメリカ特許第4,399,054号及び第4,469,648号に記載されている。このように得られた付加物はTi化合物と直接反応することができるか、またはアルコールのモル数が3未満、好ましくは0.1〜2.5の付加物を得るために予め熱調節された脱アルコール反応(80〜130℃)を行うことができる。上記Ti化合物との反応は冷たいTiCl中に付加物(脱アルコール化またはそのもの)を懸濁させて行うことができ;混合物は80〜130℃まで加熱し、この温度で0.5〜2時間放置する。TiClによる処理は1回以上行うことができる。電子供与体化合物は、好ましくはTiClで処理する途中に添加される。球状形態の触媒成分の製造は、例えば欧州特許出願EP−A−395083、EP−A−553805、EP−A−553806、EPA601525及びWO98/44001に記述されている。
【0022】
上記方法によって得られた固体触媒成分は20〜500m/g、好ましくは50〜400m/gの表面積(BET法による)及び0.2cm/g超過、好ましくは0.2〜0.6cm/gの全体孔隙率(BET法による)を現わす。10.000オングストローム以下の半径を有する空隙による孔隙率(Hg方法)は0.3〜1.5cm/g、好ましくは0.45〜1cm/gの範囲である。
【0023】
上記固体触媒成分の平均粒径は5〜120μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。
【0024】
これら製造方法における何らかの方法において、所望の電子供与体化合物はそのもの自体が添加されてもよく、または代替方式で、例えば、公知された化学反応によって所望の電子供与体化合物で変形されることができる適切な前駆体を用いることによりその位置で得られることができる。
【0025】
利用される製造方法に関係なく、化学式(1)の電子供与体化合物の最終量はTi原子に対するそのモルビが0.01〜2、好ましくは0.05〜1.5になるようにする。
【0026】
本発明による固体触媒成分は、利用可能な方法によってオレフインを有機アルミニウム化合物と反応させることによりオレフイン重合用触媒に転換される。
【0027】
特に、本発明の目的は、Rが水素または1〜12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルであるオレフインCH=CHRの重合用触媒として、
(i)上記開示されたような固体触媒成分及び
(ii)アルキルアルミニウム化合物及び任意に、
(iii)外部電子供与化合物
を接触させて得られた生成物を含む触媒である。
【0028】
アルキル−Al化合物(ii)は、好ましくは、トリアルキルアルミニウム化合物、例えばトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウムの中で選択される。アルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムハイドライドまたはアルキルアルミニウムセスキクロリド、例えばAlEtCl及びAlEtClが、場合によって、上記言及されたトリアルキルアルミニウムと混合して用いることができる。
【0029】
外部電子供与体化合物は、ケイ素化合物、エーテル、エステル、アミン、ヘテロ環式化合物及び特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン及びケトンを含む。
【0030】
好ましい外部供与体化合物の他の部類は、化学式(R(RSi(ORのケイ素化合物のもので、ここで、a及びbは0〜2の整数であり、cは1〜4の整数であり、(a+b+c)の和は4であり;R、R及びRは任意にヘテロ原子を含む1〜18個の炭素原子を有するラジカルである。aは1であり、bは1であり、cは2であり、R及びRの中の少なくとも一つが、任意にヘテロ原子を含む、3〜10個の炭素原子を有する分枝鎖アルキル、シクロアルキルまたはアリール基から選択され、RがC−C10アルキル基、特にメチルであるケイ素化合物が特に好ましい。このような好ましいケイ素化合物の例はメチルシクルロヘキシルジメトキシシラン(C供与体)、ジフェニルメトキシシラン、メチル−t−ブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン(D供与体)、ジイソプロピルジメトキシシラン、(2−エチルピペリジニル)−t−ジメトキシシラン、(2−エチルピペリジニル)テキシルジメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2−エチルピペリジニル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)ジメトキシシラン、N,N−ジエチルアミノトリエトキシシルランである。さらに、aは0であり、Cは3であり、Rは任意にヘテロ原子を含む、分枝型アルキルまたはシクロアルキルであり、Rはメチルであるケイ素化合物が好ましい。
【0031】
上記電子供与体化合物(iii)は、上記有機アルミニウム化合物と上記電子供与体化合物(iii)との間のモルビが0.1〜500、好ましくは、1〜300、より好ましくは、3〜100となる量で用いられる。
【0032】
従って、本発明の他の目的は、オレフインCH=CHR(ここで、Rは水素または1〜12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルである)の(共)重合方法であって、
(i)本発明の固体触媒成分;
(ii)アルキルアルミニウム化合物;及び
(iii)任意に電子供与体化合物(外部供与体)間の反応生成物を含む触媒の存在下で行う方法である。
【0033】
重合工程は多様な技術、例えば希釈剤として非活性炭化水素溶媒を用いるスラリー重合または反応媒質として液体単量体(例えば、プロピレン)を用いるバルク重合によって行うことができる。また、一つ以上の流動化または機械的撹拌型反応器で操作する気相で重合工程を行うことが可能である。
【0034】
重合は20〜120℃、好ましくは40〜80℃の温度で行う。重合が気相で行われる場合、操作圧力は0.5〜5MPa、好ましくは1〜4MPaである。バルク重合で、操作圧力は1〜8MPa、好ましくは1.5〜5MPaである。
【0035】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために提供され、本発明を限定することを意図しない。
【発明を実施するための形態】
【0036】
特性分析
X.I.の決定
2.5gの重合体及び250mlのo−キシレンを冷却機および還流冷却器が装着された丸底フラスコに投与して窒素大気下で保持させた。収得された混合物を135℃に加熱し、約60分間撹拌し、保持させた。最終溶液を連続的に撹拌しながら25℃に冷却させた後、不溶性重合体を濾過した。続いて、濾過液を140℃の窒素気流下で蒸発させて一定の重量になるようにした。上記キシレン可溶性分画の含量は最初の2.5グラムに対する百分率で示し、この後、差分法によってX.I.%で示す。
【0037】
供与体の決定
電子供与体の含量はガスクロマトグラフィーを通じて行った。固体成分を酸性水に溶解させた。溶液をエチルアセテートで抽出し、内部標準物質を添加し、ガスクロマトグラフィーで有機相サンプルを分析して、出発触媒化合物に存在する供与体の量を決めた。
【0038】
溶融流れ速度(MFR)
重合体の溶融流れ速度(MIL)はISO 1133(230℃、2.16kg)によって決めた。
【実施例】
【0039】
比較例1で使われたN−Z−L−プロリンメチルエステルはSigma−Aldrichから入手可能である。
【0040】
球状付加物の製造のための一般的な過程
マイクロ球状体(microspheroidal)であるMgCl・2.8COHの初期量は国際公開公報第WO98/44009号の実施例2に記載された方法によって製造されたが、より大きい規模で製造した。
【0041】
固体触媒成分の製造のための一般的な過程
機械的撹拌機、冷却機及び温度計を装着した500mLの丸底フラスコに250mLのTiClを室温で窒素大気下で注入した。0℃に冷却させた後、撹拌しながら内部供与体及び10.0gの球状付加物(上記のように製造される)を順次にフラスコに添加した。注入された内部供与体の量はMg/供与体モル比を6にする量であった。温度を100℃に上げて2時間保持した。その後、撹拌を止め、固体生成物を沈澱させ、上澄液を100℃で吸出した。上澄液を除去した後、さらに新しいTiClを添加して再び初期液量に到達させた。混合物を120℃に加熱し、この温度で1時間保持させた。再び撹拌を中止し、固形物を沈澱させて、上澄液を吸い出した。
【0042】
固体を室温で60℃以下の温度勾配で6回(6x100mL)及び室温で1回(100mL)無水ヘキサンで洗浄した。継いで、得られた固体を真空下で乾燥して分析した。
【0043】
プロピレン重合の一般的な過程
撹拌機、圧力計、温度計、触媒供給システム、単量体供給ライン及び温度調節ジャケットを装着した4リットル鋼鉄オートクレーブを窒素気流で70℃で1時間パージした。その後、プロピレンの流動下で30℃で75mlの無水ヘキサン、0.76gのAlEt、表1に表した外部電子供与体(用いた場合)及び0.006÷0.010gの固体触媒成分を順次に投入した。オートクレーブを閉めた。継いで、2.0NLの水素を添加した。その後、攪拌下で1.2kgの液体プロピレンを供給した。温度を5分で70℃に上昇させ、この温度で2時間重合を行った。重合を終了した後、未反応プロピレンを除去し、重合体を回収し、真空下で70℃で3時間乾燥した。継いで、重合体を秤量し、o−キシレンで分別してキシレン不溶性(X.I.)分画の量を決めた。
【0044】
供与体合成
実施例1で用いた供与体の合成
3,5−ジイソプロピル−2−ヒドロキシ安息香酸(8.00g、36.2mmol)と塩化チオニル(20mL)の混合物を還流下で1時間加熱した。冷却させた後、過量の塩化チオニルを真空下で除去し、残留物をジクロロメタン(50mL)に溶解させた。継いで、ジクロロメタン(100mL)の中のジエチルアミン(20mL)溶液に滴加し、0℃に冷却し、生成された溶液を1時間撹拌した。過量のジエチルアミン及びジクロロメタンを真空下で除去し、残留物をジクロロメタン(300mL)で取った。有機相を1M塩酸(100mL)、水(100mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、濾過して、溶媒を真空で除去した。残留物をトルエン(100mL)に溶解させた後、TiClを添加し(4mL、36.2mmol)、継いで、ジメチルカルバモイルクロリド(5mL、39mmol)を添加した。室温で2時間後混合物を酸性水で慎重に急冷させた後、有機層を分離し、中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSOで 脱水し、溶媒を蒸溜させて純粋な2−(ジエチルカルバモイル)−4,6−ジイソプロピルフェニルジエチルカルバメートを得た。
【0045】
実施例2で用いた供与体の合成
第1段階:2−ヒドロキシフェニル酢酸(10g、65mmol)を、TLCがエステル化を完了したことを現わすまで、20mLのエタノール及び0.5mLの濃いHSOで還流下で処理する。継いで、混合物を水及びジエチルエーテルで希釈して、有機層を分離し、中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSO上で脱水し、溶媒を蒸溜させて純粋なエチル2−ヒドロキシフェニル酢酸を得た(収率98%)。
【0046】
第2段階:250mLの丸底フラスコに、窒素下でTHF(80mL)、NaH(1.5g、61mmol)、ジメチルカルバモイルクロリド(6.7mL、67mmol)及びエチル2−ヒドロキシフェニル酢酸(11g、61mmol)を15mLのTHFに溶解した溶液を撹拌及び冷却下で滴加した。GCが出発が完結された生成物に転換されるまで混合物を室温で撹拌した。継いで、反応混合物を後処理してGC純度98%のエチル2−(2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)フェニル)アセテート(16g、94%収率)を得る。
【0047】
実施例3−4で用いた供与体の合成
エチル2−(5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)アセテート
第1段階:500mLの丸底フラスコに、室温で窒素下で2,6−キシレノール(54.5g、0.45mol)、ヘプタン(130mL)、tert−ブタノール(66g、0.9mol)、継いで、濃いHSOを注入した。
【0048】
(28.4mL、0.54mol)を攪拌下で滴加した。1時間後に反応を完了し、混合物を水及びジエチルエーテルで希釈させた。有機層を分離し、中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSOで脱水し、溶媒を蒸溜させてGC純度98%wtを有する81.3gの4−tertブチル−2,6−キシレノールを得て(収率98%)、これを追加精製なしに次の段階で用いた。
【0049】
第2段階:2リットルの丸底フラスコに、窒素下で4−tert−ブチル−2,6−キシレノール(132.4g、0.74mol)、THF(750mL)及びナトリウムエトキシド(62.9g、0.9mol)を注入した。反応後、30分後に、ジメチルカルバモイルクロリド(122mL、0.97mol)を徐徐に滴加した。GCを通じて反応をモニターし、過量のナトリウムエトキシド及びジメチルカルバモイルクロリドを添加して出発を完全に転換させた。継いで、混合物を水及びi−ヘキサンで希釈し、有機層を分離して中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSO上で脱水して溶媒を蒸溜させてGC純度98%wtを有する197.8gの4−(tert−ブチル)−2,6−ジメチルフェニルエチルカルバメートを得た(収率94%)。生成物を追加精製なしに次の段階で用いた。
【0050】
第3段階:2リットルの丸底フラスコに、窒素下でTHF(770mL)、4−(tert−ブチル)−2,6−ジメチルフェニルエチルカルバメート(173.5g、0.63mol)及びジイソプロピルアミン(8.8mL、0.063mol)を注入した後、混合物を0℃に冷却させ、n−BuLiを滴加した(ヘキサン中の溶液2.5mol/L、520mL、1.3mol)。継いで、冷却浴を除去し、反応物を室温に加温させた。この温度で30分後、反応物を水及びエチルアセテートで希釈させた。有機層を分離して中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSOで脱水し、溶媒を蒸溜させて暗色の油状を得て、これをヘプタン結晶化によって精製してGC純度94%を有する177.4gの2−(5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−N,N−ジエチルアセトアミドを得て(収率96%)、これを追加精製なしに次の段階で用いた。
【0051】
第4段階:丸底フラスコに2−(5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−N,N−ジエチルアセトアミド(以前の段階から純度94%、170g、0.57mol)、エタノール(200mL)及び濃いHSO(30.4mL、0.57mol)を注入した。混合物を還流させ、この温度で5時間保持した後、水及び酢酸エチルで希釈させた。有機層を分離して中性pHになるまで水で洗浄した後、NaSO上で脱水し、溶媒を蒸溜して暗色のオイルを得て、これをヘプタン結晶化を通じて精製してGC純度98%wt(収率72%)を有する86.1gの5−(tert−ブチル)−7−メチルベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。
【0052】
第5段階:以前の段階で得た5−(tert−ブチル)−7−メチルベンゾフラン−2(3H)−オン(83.4g、0.4mol)をエタノール(200mL)及び触媒量の濃いHSOで30分間還流下で処理した後、混合物を後処理してエチル2−(5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アセテートを得た。
【0053】
第6段階:250mLの丸底フラスコに、窒素下でTHF(100mL)、エチル2−(5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アセテート(10g、0.040mol)、ナトリウムエトキシド(2.9g、0.042mol)を添加した後、ジメチルカルバモイルクロリド(5.3mL、0.042mol)を徐々に滴加した。室温で18時間後、反応が完了され、混合物を後処理してエチル2−(5−(tert−ブチル)−2−((ジエチルカルバモイル)オキシ)−3−メチルフェニル)アセテートを得た。
【0054】
実施例1〜3及び比較例1
触媒成分は表1に表した供与体を使用し、一般的な過程によって製造された。このように得られた固体触媒成分の組成を分析し、上述した過程を利用してプロピレンの重合反応を試した。結果は表1に表す。
【0055】
実施例4
触媒成分は一般的な方法によって製造されたもので、一般的な過程で記述されたように製造された10.0gの球状付加物を用い、継いで、アルコール含量が47%に低くなるまで熱的脱アルコール化処理をした。また、TiClとの第1反応段階は120℃の温度で2時間行い、TiClとの第2反応段階も120℃の温度で0.5時間行い、追加として、TiClとの反応の第3段階は120゜の温度で0.5時間行った。
【0056】
【表1】