(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388761
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】電磁干渉抑制シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20180903BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20180903BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20180903BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20180903BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20180903BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/00
H01F1/153
H01F1/20
H05K9/00 M
H05K9/00 W
C22C45/02 A
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-177919(P2013-177919)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-46538(P2015-46538A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 利行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光晴
【審査官】
右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−231415(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/037824(WO,A1)
【文献】
特開2003−045708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00
H01F 1/12−1/33
C22C 45/02
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、
有機結合剤を主に含有し、
前記鉄系非晶質合金は、組成式が{Fea(SixByPz)1−a}100−bLb、LはAl、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、b、x、y、zは0.70≦a≦0.82、0<b≦8原子%、0.05≦x≦0.60、0.10≦y≦0.85、0.05≦z≦0.70、x+y+z=1を満たすものであり、
10GHzにおける虚部透磁率μ’’が7以上であることを特徴とする電磁干渉抑制体。
【請求項2】
鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、
有機結合剤を主に含有し、
前記鉄系非晶質合金は、組成式が(Fe1−aTMa)100−w−x−y−zPwBxLySiz、TMはCo、Niから選ばれる1種以上の元素であり、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、w、x、y、zは0≦a≦0.98原子%、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%を満たすものであり、
10GHzにおける虚部透磁率μ’’が7以上であることを特徴とする電磁干渉抑制体。
【請求項3】
前記虚部透磁率μ’’の極大値が6GHz以上、10GHz以下にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項4】
前記扁平状の軟磁性粒子は、体積平均粒径(D50)が10μm以上、60μm以下であり、
厚さtの平均値が0.5μm以上、1.5μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項5】
前記扁平状の軟磁性粒子は、
12.0×10 −6 以上、38.0×10 −6 以下の飽和磁歪λsを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項6】
前記扁平状の軟磁性粒子は、
17.0×10 −6 以上、28.0×10 −6 以下の飽和磁歪λsを有することを特徴とする請求項5に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項7】
前記扁平状の軟磁性粒子の飽和磁束密度が1.2テスラ以上、1.6テスラ以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項8】
前記有機結合剤は、アクリルゴム、フッ素樹脂、ポリイソブチレン、エチレンプロピレン、ポリエチレン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミドアミドのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項9】
さらに絶縁粒子を備え、
前記軟磁性粒子の表面に前記絶縁粒子が付着していることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項10】
さらに軟磁性粒子小片を備え、
前記軟磁性粒子の表面に前記絶縁粒子を介して前記軟磁性粒子小片が付着していることを特徴とする請求項9に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項11】
前記絶縁粒子の10%累積体積平均粒径(D10)が1nm以上、かつ90%累積体積平均粒径(D90)が100nm以下であることを特徴とする請求項10に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項12】
前記軟磁性粒子小片の断面における長軸の長さL1と、前記軟磁性粒子の断面における長軸の長さL2の比(L1/L2)の平均値は、1/2より小さいことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項13】
前記軟磁性粒子の断面において、前記軟磁性粒子に付着した前記絶縁粒子は、1個以上、30個未満であることを特徴とする請求項9から請求項12のいずれかに記載の電磁干渉抑制体。
【請求項14】
前記鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有する成形シートを、前記鉄系非晶質合金のキュリー点よりも低い温度で、かつ100℃以上、300℃以下の温度により熱処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電磁干渉抑制体の製造方法。
【請求項15】
組成式が{Fea(SixByPz)1−a}100−bLb、LはAl、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、b、x、y、zは0.70≦a≦0.82、0<b≦8原子%、0.05≦x≦0.60、0.10≦y≦0.85、0.05≦z≦0.70、x+y+z=1を満たすか、
または組成式が(Fe1−aTMa)100−w−x−y−zPwBxLySiz、TMはCo、Niから選ばれる1種以上の元素であり、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a,w,x,y,zは0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%を満たし、
飽和磁歪λsが17.0×10 −6 以上、28.0×10 −6 以下となる鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、
アクリルゴム、フッ素樹脂、ポリイソブチレン、エチレンプロピレン、ポリエチレン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミドアミドのいずれかである有機結合剤を主に含有するシートを成形し、
前記シートを、前記鉄系非晶質合金のキュリー点よりも低い温度で、かつ100℃以上、300℃以下の温度により熱処理を行うことを特徴とする電磁干渉抑制体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変動磁場や電磁波を吸収し、抑制する電磁干渉抑制体に関する。
【背景技術】
【0002】
扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤により構成した電磁干渉抑制体が用いられており、近年は、特に高周波帯域での電磁干渉の抑制が求められている。
【0003】
特許文献1では、過冷却液体の温度範囲ΔTxが25℃以上のFe基非晶質合金を軟磁性粒子とし、段落0023に記載ある通り、結着剤と混合して固化形成した後、キュリー点温度以上、結晶化開始温度以下の温度で熱処理することで、数GHz帯域での電磁波抑制に適した電波吸収体の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−45708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、キュリー点温度以上の高温で電波吸収体を熱処理するため、結着剤は高温の熱処理に耐え得るものに限られ、さらに熱処理により結着剤が熱劣化する恐れがあるという課題がある。
【0006】
また、新たな通信規格であるLTE(Long Term Evolution)の普及等の事情により、さらに高周波の1.1GHz〜10.0GHz帯域での電磁干渉の抑制が求められているが、特許文献1記載の技術では充分に対応できていないという課題がある。
【0007】
従って本発明は、有機結合剤の熱劣化が防止され、1.1GHz〜10.0GHz帯域での電磁干渉抑制が可能な電磁干渉抑制体の提供を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を本発明は、鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有し、前記
鉄系非晶質合金は、組成式が{Fe
a(Si
xB
yP
z)
1−a}
100−bL
b、LはAl、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、b、x、y、zは0.70≦a≦0.82、0<b≦8原子%、0.05≦x≦0.60、0.10≦y≦0.85、0.05≦z≦0.70、x+y+z=1を満たすものであり、10GHzにおける虚部透磁率μ’’が7以上であることを特徴とする電磁干渉抑制体によって解決する。
【0009】
また、鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有し、前記
鉄系非晶質合金は、組成式が(Fe
1−aTM
a)
100−w−x−y−zP
wB
xL
ySi
z、TMはCo、Niから選ばれる1種以上の元素であり、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、w、x、y、zは0≦a≦0.98原子%、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%を満たすものであり、10GHzにおける虚部透磁率μ’’が7以上であってもよい。
【0010】
また、前記
虚部透磁率μ’’の極大値が6GHz以上、10GHz以下にあることが望ましい。
【0011】
また、
鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有する成形シートを、前記鉄系非晶質合金のキュリー点よりも低い温度で、かつ100℃以上、300℃以下の温度により熱処理されていることが望ましい。
【0012】
また、前記扁平状の軟磁性粒子は、体積平均粒径(D50)が10μm以上、60μm以下であり、厚さtの平均値が0.5μm以上、1.5μm以下であることが望ましい。
【0013】
また、前記扁平状の軟磁性粒子は、12.0×10
−6以上、38.0×10
−6以下の飽和磁歪λsを有することが望ましい。
【0014】
また、前記扁平状の軟磁性粒子は、17.0×10
−6以上、
28.0×10
−6以下の飽和磁歪λsを有することが望ましい。
【0015】
また、前記扁平状の軟磁性粒子の飽和磁束密度が1.2テスラ以上、1.6テスラ以下であることが望ましい。
【0016】
また、前記有機結合剤は、アクリルゴム、フッ素樹脂、ポリイソブチレン、エチレンプロピレン、ポリエチレン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミドアミドのいずれかであることが望ましい。
【0017】
また、さらに絶縁粒子を備え、前記軟磁性粒子の表面に前記絶縁粒子が付着していることが望ましい。
【0018】
また、さらに軟磁性粒子小片を備え、前記軟磁性粒子の表面に前記絶縁粒子を介して前記軟磁性粒子小片が付着していることが望ましい。
【0019】
また、前記絶縁粒子の10%累積体積平均粒径(D10)が1nm以上、かつ90%累積体積平均粒径(D90)が100nm以下であることが望ましい。
【0020】
また、前記軟磁性粒子小片の断面における長軸の長さL1と、前記軟磁性粒子の断面における長軸の長さL2の比(L1/L2)の平均値は、1/2より小さいことが望ましい。
【0021】
また、前記軟磁性粒子の断面において、前記軟磁性粒子に付着した前記絶縁粒子は、1個以上、30個未満であることが望ましい。
【0022】
また、組成式が{Fe
a(Si
xB
yP
z)
1−a}
100−bL
b、LはAl、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、b、x、y、zは0.70≦a≦0.82、0<b≦8原子%、0.05≦x≦0.60、0.10≦y≦0.85、0.05≦z≦0.70、x+y+z=1を満たすか、または組成式が(Fe
1−aTM
a)
100−w−x−y−zP
wB
xL
ySi
z、TMはCo、Niから選ばれる1種以上の元素であり、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a,w,x,y,zは0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%を満たし、飽和磁歪λsが17.0×10
−6 以上、28.0×10
−6 以下となる
鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、アクリルゴム、フッ素樹脂、ポリイソブチレン、エチレンプロピレン、ポリエチレン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミドアミドのいずれかである有機結合剤を主に含有するシートを成形し、前記シートを、前記鉄系非晶質合金のキュリー点よりも低い温度で、かつ100℃以上、300℃以下の温度により熱処理を行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、有機結合剤の熱劣化が防止され、10GHz帯域での電磁干渉抑制が可能な電磁干渉抑制体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の電磁干渉抑制体における軟磁性粒子の扁平化処理の様子を示す断面図である。
図1(a)は扁平化処理中の様子を示し、
図1(b)は扁平化処理終了後の様子を示している。
【
図2】本発明におけるシート状の電磁干渉抑制体の厚み方向に沿った断面図を示している。
【
図3】本発明における電磁干渉抑制体の透磁率の周波数特性を示す図である。
図3(a)は実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ’’の2.45GHzまでの周波数特性、
図3(b)は虚部透磁率μ’’の10GHzまでの周波数特性を示す。
【
図4】本発明における電磁干渉抑制体の厚み方向断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4(a)が実施例1の断面、
図4(b)が比較例1の断面を示している。
【
図5】本発明の電磁干渉抑制体の扁平化された軟磁性粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明における電磁干渉抑制体の飽和磁歪と2.45GHzにおける
虚部透磁率μ’’の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の電磁干渉抑制体における軟磁性粒子の扁平化処理の様子を示す断面図である。
図1(a)は扁平化処理中の様子を示し、
図1(b)は扁平化処理終了後の様子を示している。軟磁性粒子1は、ビーズミル、ボールミル、アトライタ(登録商標)加工機等を用いて押し潰すことで扁平化することができる。
【0026】
仮に、扁平化処理後に軟磁性粒子1に絶縁粒子2を付着させようとすると、扁平化された軟磁性粒子1が力を受けて変形したり、ちぎれる恐れがある。
【0027】
そこで、非常に強い力で軟磁性粒子1に絶縁粒子2を付着させるため、軟磁性粒子1に絶縁粒子2を配合し、そのまま扁平化処理を行えば、
図1(a)に示すように、軟磁性粒子1を押し潰す力により絶縁粒子2を表面に付着させることができ、軟磁性粒子1に絶縁粒子2を付着させるために新たな工程を設ける必要がない。
【0028】
ここで、
図1(a)に示すように、軟磁性粒子1の扁平化処理の際に一部が引きちぎれて軟磁性粒子小片11もできるが、上記の扁平化処理を利用する場合は、このような軟磁性粒子小片11が軟磁性粒子1の表面に絶縁粒子2を介して付着するのは避けられないことが多い。
【0029】
このような絶縁粒子2を同時に付着させる軟磁性粒子1の扁平化処理により、
図1(b)に示すような、表面に絶縁粒子2や軟磁性粒子小片11が付着した軟磁性粒子1ができる。
【0030】
図2は、本発明におけるシート状の電磁干渉抑制体の厚み方向に沿った断面図を示している。
【0031】
扁平状の軟磁性粒子1の表面には絶縁粒子2が付着し、さらに絶縁粒子2を介して軟磁性粒子小片11が付着しているものもある。
【0032】
軟磁性粒子1は、結合剤3により結合し、成形されている。
【0033】
結合剤3としては、有機系の結合剤として、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプロピレン、EPM、EPDM、SBR、ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、ネオプレン、ブチル、ポリサルファイド、ウレタンゴム等のエラストマー・ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ナイロン、ウレタン、PBT、PET、ABS等の熱可塑性樹脂、メラミン、フェノール、エポキシ、ウレタン、ポリイミド、ジアリルフタネート、不飽和ポリエステル、フラン等の熱硬化性樹脂であるが、これに限定されるものではない。
【0034】
また、この結合剤中には、複合磁性体に難燃性を付与・向上させるために200℃以上の温度で吸熱作用のある水酸化マグネシウムやメラミンシアヌレートなどの非磁性微粒子や、200℃以上の温度で不燃膜を形成する赤燐などの非磁性微粒子が含まれていても良い。
【0035】
ここで軟磁性粒子小片11の長径は、軟磁性粒子1の半分以下、あるいは1/5以下となる場合が多い。
【0036】
すなわち、軟磁性粒子1表面に絶縁粒子2や微細な軟磁性粒子小片11が付着した粒子の集合体を構成することがあっても、軟磁性粒子1同士が絶縁粒子2によって結合した粒子の集合体を構成しないことが望ましい。
【0037】
これにより、個別の軟磁性粒子1が、未硬化の結合剤3の中を軟磁性粒子1の間の隙間を最密充填するように流動しつつ配置され、軟磁性粒子1の電磁干渉抑制体全体に占める充填率が高まることで、電磁干渉抑制体の透磁率を高めることができる。
【0038】
同時に、軟磁性粒子1表面に付着した絶縁粒子2等によって、隣接する軟磁性粒子1の間に均一で微小な隙間を生じさせ、電磁干渉抑制体全体の電気絶縁性を確保することができる。
【0039】
絶縁粒子2はガラス組成物等の無機物であることが望ましく、上記充填率と電気絶縁性が両立するためには、粒径のD10が1nm以上、かつD90が100nm以下であることが望ましく、D10が10nm以上、かつD90が60nm以下であればより望ましい。
【0040】
なお、特に高い電気絶縁性が必要でない場合は、軟磁性粒子1の表面に絶縁粒子2や軟磁性粒子小片11を付着させなくともよい。
【0041】
すなわち本発明は、非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有し、前記非晶質合金は、組成式が{Fe
a(Si
xB
yP
z)
1−a}
100−bL
b、LはAl、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a、b、x、y、zは0.70≦a≦0.82、0<b≦8原子%、0.05≦x≦0.60、0.10≦y≦0.85、0.05≦z≦0.70、
x+y+z=1を満たすか、または組成式が(Fe
1−aTM
a)
100−w−x−y−zP
wB
xL
ySi
z、TMはCo、Niから選ばれる1種以上の元素であり、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の元素であり、a,w,x,y,zは0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%を満たすものであり、10GHzにおける
虚部透磁率μ’’が7以上である電磁干渉抑制体の実施形態を取り得る。
【0042】
Txを結晶化開始温度、Tgをガラス遷移温度、ΔT=Tx−Tgとすると、上記組成の非晶質合金は、ΔTが25℃以上となり、優れた軟磁気特性を示す。
【0043】
このような非晶質合金に、後述の製法で熱処理を行うことにより、10GHzにおける
虚部透磁率μ’’を7以上とすることで、磁気損失による電磁干渉抑制機能を高めることができる。
【0044】
また、前記
虚部透磁率μ’’の極大値が6GHz以上、10GHz以下にあることが望ましい。
【0045】
極大値が上記周波数範囲にあれば、10GHzにおける電磁干渉抑制を、より高めることができる。
【0046】
さらに、
鉄系非晶質合金からなる扁平状の軟磁性粒子と、有機結合剤を主に含有する成形シートを、前記鉄系非晶質合金のキュリー点よりも低い温度で、かつ100℃以上、300℃以下の温度により熱処理されていることが望ましい。
【0047】
熱処理前の扁平状の軟磁性粒子は、未硬化の有機結合剤との濡れ性が良いため、熱処理前にシート成形を行い、成形シートを上記温度で熱処理することで、熱処理による有機結合剤の熱劣化が防止されつつも、10GHzにおける充分な電磁干渉抑制効果を得ることができる。
【0048】
すなわち、1.1GHz〜10.0GHzにおける充分な電磁干渉抑制効果を得るためには、上記の比較的低い温度での熱処理が必要であるとの新たな知見を利用し、熱処理をシート成形後に行うことで、扁平状の軟磁性粒子と未硬化の有機結合剤の濡れ性が良く、電磁干渉抑制体への扁平状の軟磁性粒子の含有率を高めることで透磁率も高めることも可能となり、最終的には10GHzにおける電磁干渉抑制効果をより高める相乗効果を得ることとなる。
【0049】
また、前記扁平状の軟磁性粒子は、平均粒径(D50)が10μm以上、60μm以下であり、厚さtの平均値が0.5μm以上、1.5μm以下であることが望ましい。
【0050】
10GHzにおける電磁干渉抑制を高める上で、より好ましい形状であるためである。
【0051】
また、前記扁平状の軟磁性粒子の飽和磁歪λsは、12.0×10
−6以上、38.0×10
−6以下とすることが望ましく、17.0×10
−6以上、28.0×10
−6以下とすることが、より望ましい。
【0052】
飽和磁歪をλs、弾性歪みをσとすると、1.1GHz〜10.0GHzにおける
虚部透磁率μ’’は、λs×σに対する依存性が高いことから、上記範囲へ飽和磁歪λsを調整することにより、1.1GHz〜10GHzにおける
虚部透磁率μ’’を、さらに高めることができる。
【0053】
すなわち、透磁率を高めようとすれば、通常は透磁率を阻害する飽和磁歪λsを可能な限り小さく、零に近づけようとするが、本発明では、1.1GHz〜10GHzではむしろ飽和磁歪λsを一定範囲まで大きくしたほうが
虚部透磁率μ’’を高めることができるという、新たな知見を見出している。
【0054】
また、上記扁平状の軟磁性粒子の飽和磁束密度が1.2テスラ以上、1.6テスラ以下であることが望ましい。
【0055】
飽和磁束密度を上記範囲とすることで、強磁性共鳴周波数を高め、1.1GHz〜10.0GHzにおける
虚部透磁率μ’’をさらに高めることができる。
【実施例】
【0056】
(実施例)
組成式は原子%で、Fe
77P
9B
11Nb
2Crとなる軟磁性粒子を水アトマイズ法で作成し、X線回折により非晶質であることを確認した。
【0057】
次に、リン酸塩系ガラスフリットからなる絶縁粒子を軟磁性粒子に重量比で2.5%以上10.0%以下の範囲内で配合し、扁平化処理を行った。
【0058】
扁平化処理後もX線回折により確認したところ、軟磁性粒子は依然として非晶質であった。
【0059】
軟磁性粒子は体積平均粒径(D50)が20μm、厚さに対する長径の比の平均値(アスペクト比)が50であった。
【0060】
扁平化された軟磁性粒子に有機溶媒、アクリルゴム、メラミンシアヌレート、赤燐を配合し、混練することで塗液を作成し、剥離可能なシートに塗布し、乾燥することでシート成形品を得た。
【0061】
さらにシート成形品を鉄板で挟み、加圧しながら1分間、熱処理を行い、シート状の複合磁性体を得た。
【0062】
ここで、熱処理温度150℃の複合磁性体を実施例1、熱処理温度200℃の複合磁性体を実施例2、熱処理温度270℃の複合磁性体を実施例3、熱処理温度300℃の複合磁性体を実施例4とする。
【0063】
(比較例)
実施例と同じ組成の軟磁性粒子を、絶縁粒子を配合せず、そのまま扁平化処理を行い、扁平化した軟磁性粒子を400℃、2時間、窒素雰囲気中で熱処理した。
【0064】
次に実施例と同様に有機溶媒、アクリルゴム、メラミンシアヌレート、赤燐を配合し、得たシート成形品を比較例1とする。
【0065】
図3は、本発明における電磁干渉抑制体の透磁率の周波数特性を示す図である。
図3(a)は実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ’’の2.45GHzまでの周波数特性、
図3(b)は虚部透磁率μ’’の10GHzまでの周波数特性を示す。
【0066】
図3(a)におけるμ’1、μ’’1は実施例1、μ’2、μ’’2は実施例2、μ’3、μ’’3は実施例3、μ’4、μ’’4は実施例4、μ’0、μ’’0は比較例1に対応している。
【0067】
図3(a)より、実施例1乃至4は、比較例よりも全ての周波数範囲に渡って実部透磁率μ’、虚部透磁率μ’’共に高い。
【0068】
また、
図3(b)は、10GHzにおける透磁率は、熱処理温度の最も低い実施例1が最も高いことを示している。
【0069】
図4は、本発明における電磁干渉抑制体の厚み方向断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4(a)が実施例1の断面、
図4(b)が比較例1の断面を示している。
【0070】
実施例1よりも比較例1のほうが扁平状の軟磁性粒子間の気泡及び隙間が大きいことを示している。
【0071】
これは、扁平状の軟磁性粒子を熱処理することで結合剤への親和性や濡れ性がなくなったことに起因することを示している。
【0072】
図5は、本発明の電磁干渉抑制体の扁平化された軟磁性粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【0073】
図5は、実施例1乃至4の軟磁性粒子であり、扁平状の軟磁性粒子1の表面には絶縁粒子2が付着し、さらに絶縁粒子2を介して軟磁性粒子小片11が付着していることがわかる。
【0074】
図6は、本発明における電磁干渉抑制体の飽和磁歪と2.45GHzにおける
虚部透磁率μ’’の関係を示す図である。
【0075】
図6には、実施例3の電磁干渉抑制体と、軟磁性粒子の材料のみ異なり、他は同一の条件で作成した実施例5乃至7、比較例3乃至7の結果を示している。
【0076】
実施例5はFe−Si−B系、実施例6、7はFe−Si−B−P系、比較例2はFe−Ni系、比較例3、4はFe−Si系、比較例5はFe−Si−Al系、比較例6はFe−Al系、比較例7はFe−Co系の材料である。
【0077】
実施例3、実施例5乃至7は非晶質の軟磁性合金であり、比較例2乃至7は結晶質の軟磁性合金であり、それぞれのグループに分けると、飽和磁歪が30.0×
10 −6 の辺りが最も虚部透磁率μ’’が高く、12.0×
10 −6 以上、38.0×
10 −6 以下の範囲でも高い値を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 軟磁性粒子
2 絶縁粒子
3 結合剤
11 軟磁性粒子小片