特許第6388770号(P6388770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388770
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】巻線部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20180903BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20180903BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20180903BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   H01F37/00 S
   H01F37/00 N
   H01F37/00 J
   H01F37/00 E
   H01F41/12 D
   H01F27/32 170
   H01F27/28 152
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-8345(P2014-8345)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-138817(P2015-138817A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井田 祐二
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−007547(JP,A)
【文献】 特開2010−118465(JP,A)
【文献】 特開2000−260623(JP,A)
【文献】 特開2004−039888(JP,A)
【文献】 特開2010−219473(JP,A)
【文献】 特開平11−307357(JP,A)
【文献】 特開平07−220950(JP,A)
【文献】 米国特許第06504463(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/28
H01F 27/32
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線をエッジワイズ巻きすることによって形成されたコイルと、このコイルが収納された絶縁用のカバーと、このカバーの端部開口に配置された絶縁用のキャップと、これらカバーおよびキャップの周囲を囲繞するように配置されて閉磁路を形成するコアとを備えてなり、
上記カバーは、上記コイルが載置される底板と、上記コイルの外周を囲繞する筒状の外壁部と、上記コイルの内周に挿入される筒状の内壁部とを有する有底二重筒体状に形成され、かつ上記外壁部と内壁部との間に絶縁性樹脂が充填され
上記外壁部には上記外壁部の径方向外方に突出する堰部が形成され、
上記堰部は上記堰部以外の上記外壁部よりも高さ寸法が小さく形成され、
上記コイルは、上記底板側の端部が上記部に沿うように屈曲されて上記端部開口から外方に引き出され、上記引き出された底板側の端部と上記コイルの上端部から引き出された端部とが上記堰部の上縁に配置されていることを特徴とする巻線部品。
【請求項2】
上記カバー、キャップおよびコアは、筒状のケース内に上記コアを端部の開口部に露出させて収納されていることを特徴とする請求項1に記載の巻線部品。
【請求項3】
上記絶縁性樹脂は、シリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の巻線部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョークコイルやトランス等の磁場を発生させるコイルと磁路を構成するコアとを備えた巻線部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FA機器や車載用の各種電子・電気機器類に組み込まれるチョークコイルやリアクトル等の巻線部品のうち、特に電力が1kW以上の電源装置に用いられるものにあっては、10A〜150Aといった大きな電流が流れることから、例えば下記特許文献1に見られるように、電気抵抗値を小さくして発熱を抑制すべく、平角銅線をエッジワイズ巻きしたコイルが多く用いられている。
【0003】
ところで、このような平角銅線を用いた大電流仕様のコイルにあっては、使用時に当該コイルが発熱源となって、部品温度が過度に高くなり、この結果特性の低下や製品寿命の短縮化を招く恐れがあることから、何らかの発熱量の抑制手段あるいは放熱手段を講じる必要がある。
【0004】
そこで、下記特許文献2においては、フランジ付きボビン組立体の巻胴部の外周に巻線を設け、上記巻胴部の軸線方向に沿って配置した注形用放熱ベースに前記ボビン組立体を前記フランジ部分にて嵌合し、前記注形用放熱ベースに絶縁性樹脂を注形して、前記巻線下部のみが前記絶縁性樹脂に浸るようにするとともに、磁気コアを前記巻胴部内側に挿置した大電流チョークコイルが提案されている。
【0005】
上記大電流チョークコイルによれば、巻線で発生した熱を、絶縁性樹脂を介して注形用放熱ベースに逃がすことができるという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−42027号公報
【特許文献2】実開平7−7123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の大電流チョークコイルは、巻胴部の軸線を当該チョークコイルの取付面と平行に配置した、所謂横型の巻線部品であるために、絶縁性樹脂を介して巻胴部に沿って配置した注形用放熱ベースに放熱させることができるものの、コイルの軸線を取付面と直交させた、所謂縦型の巻線部品に対しては、コイルの端部が当該巻線部品の軸線方向の上下部から引き出される構成になるために、上記構成を適用することができない。このため、通常縦型の巻線部品においては、コイル断面積を大きくして発熱量を抑制する構成が採用されているが、大型化を招くという問題点があった。
【0008】
また、上記大電流チョークコイルにおいては、巻線下部のみが絶縁性樹脂に浸るように充填しているために、空気中にある巻線上部からの放熱を効率的に行うことができないという欠点もあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、縦型で用いる場合にも、コイルからの発熱を効率的に外部に放熱させることができ、よって熱による特性の低下や製品寿命の短縮化を抑止することができる巻線部品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る巻線部品は、平角線をエッジワイズ巻きすることによって形成されたコイルと、このコイルが収納された絶縁用のカバーと、このカバーの端部開口に配置された絶縁用のキャップと、これらカバーおよびキャップの周囲を囲繞するように配置されて閉磁路を形成するコアとを備えてなり、上記カバーは、上記コイルが載置される底板と、上記コイルの外周を囲繞する筒状の外壁部と、上記コイルの内周に挿入される筒状の内壁部とを有する有底二重筒体状に形成され、かつ上記外壁部と内壁部との間に絶縁性樹脂が充填され、上記外壁部には上記外壁部の径方向外方に突出する堰部が形成され、上記堰部は上記堰部以外の上記外壁部よりも高さ寸法が小さく形成され、上記コイルは、上記底板側の端部が上記部に沿うように屈曲されて上記端部開口から外方に引き出され、上記引き出された底板側の端部と上記コイルの上端部から引き出された端部とが上記堰部の上縁に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記カバー、キャップおよびコアが、筒状のケース内に上記コアを端部の開口部に露出させて収納されていることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、上記絶縁性樹脂が、シリコン系樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、コイルを収納する二重筒体状のカバーに底板を形成して環状のカップ形状に構成し、その内部に絶縁性樹脂を注入することにより、コイルの平角線間およびコイルとカバーの内外壁部との間に上記絶縁性樹脂を充填することができるために、コイルからの発熱を、上記絶縁性樹脂を介してカバーから外部に放熱することができる。
【0014】
しかも、コイルの底板側の端部を、カバーの外壁部に沿うように屈曲してカバーの端部開口から外方に引き出しているために、外壁部におけるコイルの軸線方向の長さ寸法を大きく設定することができ、この結果コイルの略全長を上記絶縁性樹脂で覆うことができる。よって、縦型で用いる場合にも、コイルからの発熱を効率的に外部に放熱させることができ、よって熱による特性の低下や製品寿命の短縮化を抑止することができる。
【0015】
さらに、請求項2に記載の発明のように、上記カバー、キャップおよびコアをケース内に収納する場合に、上記ケースを筒状に形成して、上記コアを端部のケースの開口部に露出されば、この巻線部品を取り付ける際に、取付面にコアを当接させることにより、放熱性を一層高めることができる。
【0016】
なお、上記絶縁性樹脂としては、請求項3に記載の発明のように、弾性が高く、よって注入・硬化時や使用時の熱膨張によっても周囲の部品に過度の応力を発生させないシリコン系の樹脂が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の巻線部品の一実施形態を示す平面視した斜視図である。
図2】上記巻線部品の底面視した斜視図である。
図3】上記巻線部品の構成要素を示す分解斜視図である。
図4】上記巻線部品のカバー内にコイルを収納した状態を示す斜視図である。
図5図4のカバー内に絶縁性樹脂を充填した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図5は、本発明に係る巻線部品を、チョークコイルに適用した一実施形態を示すものである。
このチョークコイルは、図3に示すように、コイル1と、このコイル1が収納された絶縁用のカバー2と、このカバー2の図中上端部に形成される開口部に配置された絶縁用のキャップ3と、カバー2およびキャップ3の周囲を囲繞するように配置されて閉磁路を形成する一対の蝶型コア4と、これらカバー2、キャップ3および蝶型コア4を収納するケース5とから概略構成されたものである。
【0019】
ここで、コイル1は、平角銅線をエッジワイズ巻きすることによって形成されたもので、両端部1a、1bが平面視において交差する位置から接線方向に直線状に引き出されている。また、カバー2は、中央に円形の孔部が穿設された略円環板状の底板6と、この底板6の外周部に立設されてコイル1の外周を軸線方向に覆う外壁部7と、上記孔部に立設された円筒状の内壁部8とが一体に形成された有底二重筒状のものである。
【0020】
そして、カバー2の外壁部7は、コイル1の軸線方向の長さ寸法よりも僅かに大きい高さ寸法に形成されるとともに、上記コイル1の両端部1a、1bが配置される位置に、径方向外方に突出する堰部7aが形成されている。この堰部7aは、外壁部7よりも僅かに高さ寸法が小さく形成されており、その下端部は底板6よりも下方に位置する底板6aによって塞がれている。
【0021】
なお、底板6aは、底板6よりも蝶型コア4の背板4aの厚さ寸法だけ下方に配置されており、図2に示すように、底面視において上記背板4aの側面のV字形状に一致する形状に形成されている。また、底板6aと径方向に対向する位置にも、底板6aと同じ高さ位置であって、かつ同様に上記背板4aの側面のV字形状に一致する形状を備えた底板6bが形成されている。さらに、このカバー2においては、外壁部7の外周部に、一対の円弧板状のマグネット9が挿入される装着部7bが形成されている。
【0022】
上記構成からなるカバー2内に、図3および図4に示すように、コイル1が内外壁部7、8間に挿入されることにより収納されている。そして、コイル1の上端部から引き出された端部1aは、堰部7aの上縁から外方に引き出されている。他方、コイルの下端部から引き出された端部1bは、外壁部7の堰部7aに沿うように上方に屈曲されて、同様に堰部7aの上縁から外方に引き出されている。
【0023】
そして、このケース2内には、シリコン系の絶縁性樹脂10が充填・硬化されている。具体的には、絶縁性樹脂10は、外壁部7および堰板7aと内壁部8との間において底板6、6a、6bから堰板7aの上縁付近の高さ寸法まで充填されている。これにより、コイル1は、上端部の1ターンを残した略全長にわたって平角線間および内外周部が、絶縁性樹脂10によって覆われている。
【0024】
以上のように、コイル1が収納されるとともに絶縁性樹脂10が充填されたケース2の上端開口に、キャップ3が配置されている。このキャップ3は、中央部に挿通孔3aが形成された円環板状の部材で、外径がカバー2の外壁部7の外径と略等しく、かつ内径がカバー2の内壁部8の外径と略等しい寸法に形成されている。また、キャップ3の上面には、蝶型コア4の背部4aの側面が係合する一対のV字状の案内板3bが立設されている。
【0025】
そして、これらカバー2およびキャップ3の周囲を囲繞するようにして、一対の上記蝶型コア4が配置されている。この蝶型コア4は、カバー2の底板6またはキャップ3と当接する平板状の背部4aと、この背部4aの長手方向の両端部に一体成形されて外壁部7に沿って配置される外足4bと、これら外足4b間の中央に一体成形されてカバー2の内壁部8内に挿入される円柱状の中足4cとから構成されたものである。
【0026】
これら一対の蝶型コア4は、中足4cがキャップ3の挿通孔3aまたはカバー2の底板6から内壁部8内に挿入され、互いの先端部を当接させるか、あるいは所定のギャップを形成して配置されている。また、外足4bは、中足4cよりも短い寸法に形成されており、これら外足4b間にカバー2の装着部7bに挿入された上記マグネット9が介装されている。
【0027】
さらに、下側の蝶型コア4は、背部4aがケース2の底板6a、6b間に挿入されて、その端面を底板6a、6bの表面と略同一平面上に位置させて配置されるとともに、上側の蝶型コア4は、背部4aをキャップ3の案内板3b間に係合させて配置されている。そして、これらカバー2、キャップ3およびコア4の積層体が、絶縁性樹脂からなるケース5内に挿入されている。
【0028】
このケース5は、上記積層体の外周を軸線方向に覆うとともに、両端部が開口した外観略筒状の壁部であって、その軸線方向の長さが上記積層体における軸線方向の長さと略等しくなるように形成されている。これにより、上記積層体は、ケース5の両端開口部に蝶型コア4の背部4aを露出させて収納されている。
【0029】
また、ケース2の堰部7aが配置される位置の高さ寸法は、堰部7aと略等しい寸法に形成されている。そして、このケース5の外周部には、このチョークコイルを図示されない機器類の取付面に固定するための取付部11が設けられている。
【0030】
以上の構成からなるチョークコイルによれば、コイル1を収納する二重筒体状のカバーを、底板6、6a、6bを形成することにより環状のカップ形状に形成し、その内部にシリコン系の絶縁性樹脂10を注入することにより、コイル1の平角線間およびコイル1とカバー2の内外壁部6、7、7aとの間に絶縁性樹脂10を充填しているために、コイル1からの発熱を、絶縁性樹脂10を介してカバー2およびケース5から当該チョークコイルを取り付ける筐体や空中へと放熱することができる。
【0031】
しかも、コイル1の底板6、6a側の端部1bを、カバー2の外壁部7における堰部7aに沿うように上方に屈曲して、堰部7aの上縁から外方に引き出しているために、外壁部7における堰部7aの高さ寸法を大きく設定することができる。この結果、コイル1の略全長を絶縁性樹脂10によって覆うことができ、よって縦型で用いる場合にも、コイル1からの発熱を効率的に外部に放熱させることができる。
【0032】
さらに、カバー2、キャップ3および蝶型コア4からなる積層体を収納するケース5を、筒状に形成することにより、その開口部から蝶型コア4の背板4aを露出さているために、当該ケース5に設けた取付部11を用いてこのチョークコイルを取り付ける際に、相手側の取付面に蝶型コア4の背板4aを当接させることにより、放熱性を一層高めることができる。
【0033】
ちなみに、本発明者等が同一の寸法形状のチョークコイルであって、ケース2内に絶縁性樹脂10を充填したものと、充填しないものとの使用時の温度を計測して比較したところ、ケース2内に絶縁性樹脂10を充填したものは、充填しないものよりもコイル1の温度が40%低下した。
【0034】
したがって、上記チョークコイルによれば、コイル1が発する熱によって特性が低下したり、あるいは製品寿命が短縮化したりすることを効果的に抑止することができる。
【0035】
なお、上記実施形態においては、本発明に係る巻線部品をチョークコイルに適用した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばトランス等の他の巻線部品にも同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 コイル
1a、1b 端部
2 ケース
3 キャップ
4 蝶型コア
6 底板
7 外壁部
7a 堰部(外壁部)
8 内壁部
10 絶縁性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5