特許第6388812号(P6388812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越石英株式会社の特許一覧

特許6388812石英ガラス繊維用集束剤、石英ガラス繊維、石英ガラスヤーン、並びに石英ガラスクロス
<>
  • 特許6388812-石英ガラス繊維用集束剤、石英ガラス繊維、石英ガラスヤーン、並びに石英ガラスクロス 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388812
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】石英ガラス繊維用集束剤、石英ガラス繊維、石英ガラスヤーン、並びに石英ガラスクロス
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/326 20180101AFI20180903BHJP
   D03D 15/12 20060101ALI20180903BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C03C25/326
   D03D15/12 A
   D03D1/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-209146(P2014-209146)
(22)【出願日】2014年10月10日
(65)【公開番号】特開2016-79048(P2016-79048A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】横澤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】江崎 正信
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕幸
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−078079(JP,A)
【文献】 特開2001−072859(JP,A)
【文献】 特表2014−527505(JP,A)
【文献】 特開昭63−236733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00−25/70
D03D 15/12
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン系水溶性ウレタン樹脂と、カチオン系シランカップリング剤と、カチオン系柔軟剤と、を含む水溶液から構成され、pHが1〜5である石英ガラス繊維用集束剤。
【請求項2】
請求項1に記載の石英ガラス繊維用集束剤が塗布されてなる石英ガラス繊維。
【請求項3】
請求項1に記載の石英ガラス繊維用集束剤が塗布されてなる石英ガラスヤーン。
【請求項4】
前記石英ガラスヤーンが、直径3〜8μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維で構成されている請求項3に記載の石英ガラスヤーン。
【請求項5】
前記石英ガラスヤーンの帯電電位が+1.5〜−1.0kVである請求項3又は4に記載の石英ガラスヤーン。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか1項記載の石英ガラスヤーンを含む石英ガラスクロス。
【請求項7】
請求項6に記載の石英ガラスクロスを含むプリント配線板用プリプレグ。
【請求項8】
請求項2に記載の石英ガラス繊維を含む石英ガラス繊維製品。
【請求項9】
請求項1に記載の石英ガラス繊維用集束剤を塗布した石英ガラスヤーンを用いる石英ガラスクロスの製造方法であって、前記石英ガラス繊維用集束剤を塗布した石英ガラスヤーンで製織した後に、加熱脱油を行わないようにした石英ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス繊維用集束剤、該集束剤が塗布された石英ガラス繊維又は石英ガラスヤーン及び石英ガラスクロス、プリント配線板用プリプレグ、該石英ガラス繊維を用いた製品並びに石英ガラスクロスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層プリント配線板に用いられるガラスクロスとして、Eガラス繊維、Dガラス繊維等を製織してなるEガラスクロス、Dガラスクロス等が用いられてきた。
【0003】
ところが、近年、スマートフォンやタブレットPC等の高機能モバイル端末の軽薄短小化、多機能化に伴い、各種電子部品が搭載される多層プリント配線板には、高密度配線や優れた高周波特性、高多層化、薄型化が求められている。このような背景のもと、プリント配線板を構成する基材であるガラスクロスの低熱膨張化、低誘電率化、薄物化が強く求められている。
【0004】
このため、ガラス繊維の中でも線膨張係数が低く、且つ、誘電率及び誘電正接が低い石英ガラス繊維が注目されている。この石英ガラス繊維を用いた石英ガラスクロスの具体的な厚さとしては、20μm以下のものが要求されている。
【0005】
ところで、ガラスクロスは一般的に、澱粉を被膜形成剤の主成分とする集束剤を塗布したガラス繊維を用いて製織される。しかし、ガラスクロス製造の最終工程では積層板に使用されるマトリックス樹脂との接着性を高める目的でシラン処理が施されるため、澱粉がガラスクロス上に残っていると、シランカップリング剤とガラスクロスの接着性が悪化する。これを防ぐため、通常、シラン処理前に高温長時間で澱粉系ガラス繊維用集束剤を焼き飛ばす加熱脱油を行う。
【0006】
しかし、この脱油工程は、エネルギーコストが掛かるだけでなく、ガラスクロスにダメージを与えるため、ガラスクロスの強度が極端に低下するといった問題点がある。特に、この強度低下は3〜5μmの極細物ガラスヤーンの製造及びそれを用いた20μm以下の極薄ガラスクロスを製造する上では深刻な問題となる。
【0007】
また、特許文献1に記載されているようにシリカ含有率が99%以上の石英ガラス繊維では、クロスを巻きつける鉄芯よりも石英ガラス繊維の熱膨張率が低いことから、石英ガラス繊維にクラックが入りやすく、加熱脱油による強度低下がより顕著である。
【0008】
これに対して、加熱脱油を必要としない合成樹脂を被膜形成剤の主成分とする集束剤の開発が試みられている。特許文献2や特許文献3に開示されているガラス繊維用集束剤は、水溶性エポキシ樹脂を被膜形成剤の主成分として用いているが、集束力が不十分であるため、ガラス繊維用2次集束剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが使用されている。この薬剤を用いることで集束性と半田耐熱性を改善できるものの、環境ホルモンの問題から使用することは望ましくない。
【0009】
また、特許文献4や特許文献5に開示されているガラス繊維用集束剤は、水溶性ウレタン樹脂、水溶性エポキシ変性物を被膜形成剤の主成分として用いているが、被膜形成が不十分であるために毛羽の抑制ができず、得られる石英ガラスクロスの強度が満足できるレベルではないという問題を抱えていた。さらに、水溶性エポキシ樹脂を用いた場合、反応性が高いエポキシ基を有しているため、ガラス繊維用集束剤に添加したシランカップリング剤との反応が一部起こり、糸質が変化する。加えて、水溶性エポキシ樹脂を用いるとヤーンが硬くなる傾向にあり、もともと硬い石英ガラス繊維に塗布した場合、しなやかさが不十分となり、石英ガラスクロスの経糸と緯糸の交点の部分でフィラメント切れが発生してしまう。
【0010】
上記、石英ガラスクロスに従来のガラス繊維用集束剤を塗布した際の被膜形成が不十分であるが故に生じる強度不足の要因として、石英ガラスの帯電性が挙げられる。汎用品として用いられているEガラスのような多成分ガラスでは溶融状態において電気伝導性があり、紡糸のときも白金系のノズルから紡糸されるため、比較的帯電されにくい。また、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)が0.2重量%以下である無アルカリガラスでも、溶融状態では電気伝導性を示すことは特許文献6で通電溶融法が利用されていることからも明らかである。
【0011】
一方、石英ガラスはアルカリ金属等のイオン導電種を一切含まず、溶融軟化状態でも電気導電性は低く帯電しやすい。実際、石英ガラスは特許文献7〜9のような公知の方法を用いて紡糸されるが、その際、火炎流との摩擦、ガラス内部の流動摩擦等により帯電電位が−2.0kV以上と著しく石英ガラス繊維がマイナスに帯電する。
【0012】
ところで、特許文献10には製織工程におけるガラス繊維束及びガラス繊維織物の帯電電位は、±0kVとなるように制御することが理想的であるが、これらの帯電電位は、温度や湿度の変動により、一般に、マイナス側に大きく変動する傾向があるため、帯電電位の中心値を予め若干プラス側、より具体的には+1.5kV〜−1.0kVになるように制御しておいた方が安定して操業することができるとの記載がある。
【0013】
しかし、石英ガラス繊維の場合、上記のように著しくマイナス側に帯電しやすいため、従来の無極性の被膜形成剤では帯電電位を+1.5kV〜−1.0kVの範囲に収めることが困難であり、十分な被覆がされず、強度が低下していたと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平8−18853
【特許文献2】特開平9−268034
【特許文献3】特開平9−67757
【特許文献4】特開平9−209233
【特許文献5】特開2007−162171
【特許文献6】特開2005−132713
【特許文献7】特開2006−282401
【特許文献8】特開2004−99377
【特許文献9】特開昭61−258043
【特許文献10】特開2007−153706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来のガラス繊維用集束剤にみられる上記問題を解決するものである。即ち、石英ガラス繊維の帯電を抑制し、ガラス繊維用2次集束剤を用いなくとも製織時に必要な集束力を付与することができ、且つ、加熱脱油が不要なpH1〜5の領域でも化学的に安定な石英ガラス繊維用集束剤、該集束剤が塗布された石英ガラス繊維又は石英ガラスヤーン及び石英ガラスクロス、プリント配線板用プリプレグ、該石英ガラス繊維を用いた製品並びに石英ガラスクロスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の石英ガラス繊維用集束剤は、カチオン系水溶性ウレタン樹脂と、カチオン系シランカップリング剤と、カチオン系柔軟剤と、を含む水溶液から構成され、pHが1〜5である。
【0017】
本発明の石英ガラス繊維は、前記石英ガラス繊維用集束剤が塗布されてなる。
【0018】
本明細書では、石英ガラス繊維とは、石英ガラスを引き伸ばして得られる細い糸状のものを指し、石英ガラス繊維から石英ガラスフィラメント、石英ガラスストランド、石英ガラスヤーン、及び石英ガラスウール等が得られる。また、本明細書では、単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスフィラメントを束ねて撚りをかけたものを石英ガラスヤーンと定義する。
【0019】
本発明の石英ガラスヤーンは、前記石英ガラス繊維用集束剤が塗布されてなる。
【0020】
前記石英ガラスヤーンが、直径3〜8μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維で構成されているのが好適である。
【0021】
前記石英ガラスヤーンの帯電電位が+1.5〜−1.0kVであるのが好適である。
【0022】
本発明の石英ガラスクロスは、前記石英ガラスヤーンを含むものである。前記石英ガラスクロスは、前記石英ガラスヤーンを製織して製造することができる。
【0023】
本発明のプリント配線板用プリプレグは、前記石英ガラスクロスを含むものである。前記プリント配線板用プリプレグは、前記石英ガラスクロスに合成樹脂を含浸させて製造することができる。
【0024】
本発明の石英ガラス繊維製品は、前記石英ガラス繊維を含むものである。
【0025】
本発明の石英ガラスクロスの製造方法は、前記石英ガラス繊維用集束剤を塗布した石英ガラスヤーンを用いる石英ガラスクロスの製造方法であって、前記石英ガラス繊維用集束剤を塗布した石英ガラスヤーンで製織した後に、加熱脱油を行わないようにした方法である。従って、本発明の石英ガラスクロスの製造方法では、加熱脱油を行わないため、加熱脱油による強度低下が生じない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、石英ガラス繊維の帯電を抑制し、ガラス繊維用2次集束剤を用いなくとも製織時に必要な集束力を付与することができ、且つ、加熱脱油が不要なpH1〜5の領域でも化学的に安定な石英ガラス繊維用集束剤、該集束剤が塗布された石英ガラス繊維又は石英ガラスヤーン及び石英ガラスクロス、プリント配線板用プリプレグ、該石英ガラス繊維を用いた製品並びに石英ガラスクロスの製造方法を提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に用いられる石英ガラスフィラメントを製造する方法の一つの実施の形態を概略的に示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に使用されるカチオン系水溶性ウレタン樹脂としては、カチオン部位を構造に有する水溶性ウレタン樹脂であれば特に限定はされない。
【0029】
カチオン部位を構造に有する水溶性ウレタン樹脂とは、水溶性ウレタン樹脂分子構造内に正に帯電した部位を有することを意味し、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、ポリイソシアネートとポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールと分子構造内に3級アミノ基を有する鎖伸長剤とによって構成されるウレタンプレポリマーの3級アミンの一部を酸で中和又は4級アミン剤で4級化したカチオン系プレポリマーを水又はポリアミン化合物を用いて鎖伸長することによりカチオン系水溶性ポリウレタン樹脂を得る。ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0030】
ポリイソシアネートとして、脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族等のポリイソシアネートを使用することができる。
【0031】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、特に限定はされないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジシアネート等が挙げられる。これら脂肪族ポリイソシアネートは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0032】
脂環族ポリイソシアネートとしては、特に限定はされないが、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これら脂環族ポリイソシアネートは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0033】
芳香族ポリイソシアネートとしては、特に限定はされないが、例えば、トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等が挙げられる。これら芳香族ポリイソシアネートは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0034】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、特に限定はされないが、例えば、ジアルキルジフェニルメタン、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これら芳香脂肪族ポリイソシアネートは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、特に限定はされないが、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物等が挙げられる。これらポリエステルポリオールは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0036】
ポリエーテルポリオールとしては、特に限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等が挙げられる。これらポリエーテルポリオールは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0037】
ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定はされないが、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールカーボネートポリオール等が挙げられる。これらポリカーボネートポリオールは単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0038】
3級アミノ基を導入するために用いられる分子構造内に3級アミノ基を有する鎖伸長剤としては、特に限定はされないが、例えば、N−アルキルジアルカノールアミン、N−アルキルジアミノアルキルアミン等が挙げられる。これら3級アミノ基を有する鎖伸長剤は単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0039】
鎖伸長剤によって導入される3級アミノ基の一部を酸で中和又は4級化剤で4級化することでカチオン系ウレタンプレポリマーが生成する。
【0040】
3級アミノ基の一部を酸で中和する際に用いられる酸としては、特に限定はされないが、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸等の有機酸及び塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸が挙げられる。これら酸は単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0041】
3級アミノ基の一部を4級化剤で4級化するために用いられる4級化剤としては、特に限定はされないが、例えば、アルキルハライド、ジアルキル硫酸等が挙げられる。これら4級化剤は単独でも2種類以上混合しても用いることができる。
【0042】
次に、上記一部の3級アミノ基が中和又は4級化されたカチオン系ウレタンプレポリマーを水に分散し、ポリアミン化合物で鎖延長を行うことにより、カチオン系水溶性ウレタン樹脂を得ることができる。
【0043】
ポリアミン化合物としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド類等のアミノ基を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0044】
上記カチオン系水溶性ウレタン樹脂としては、パラゾールPC−88(大原パラヂウム化学製)、スーパーフレックス600、スーパーフレックス610、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、エラストロンM1064(第一工業製薬製)、TR−420、TR−440、TR−2000(花王製)、ブリアンUK−200、ブリアンWET−09(松本油脂製)、ハイドランCP−7020、ハイドランCP−7030、ハイドランCP−7040、ハイドランCP−7050(DIC製)、ヘヤロールUC−4(三洋化成製)等が市販されている。
【0045】
上記、カチオン系水溶性ウレタン樹脂の集束剤への配合割合は、特に限定はされないが、例えば、石英ガラス繊維用集束剤の総量100重量%に対して、0.01〜50重量%が挙げられ、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.01〜20重量%である。
【0046】
本発明で使用されるカチオン系シランカップリング剤としては、カチオン系を示し縮合反応性基を有する有機珪素化合物であれば特に限定はされないが、例えば、耐熱性の観点から、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。
【0047】
上記、カチオン系シランカップリング剤の集束剤への配合割合は、特に限定はされないが、例えば、石英ガラス繊維用集束剤の総量100重量%に対して、0.01〜5重量%が挙げられ、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.01〜2重量%である。
【0048】
本発明に使用されるカチオン系柔軟剤としては、特に限定はされないが、柔軟剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸を反応させて得られるアミド又はイミダゾリン等を挙げることができる。
【0049】
上記、カチオン系柔軟剤の集束剤への配合割合は、特に限定はされないが、例えば、石英ガラス繊維用集束剤の総量100重量%に対して、0.01〜10重量%が挙げられ、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.01〜3重量%である。
【0050】
本発明の石英ガラス繊維用集束剤はpHが1〜5であり、より好ましくはpHが1以上3未満である。pHが5より大きい値となると、カチオン系シランカップリング剤の加水分解状態の安定性が悪くなるので好ましくない。pHが1以上3未満の範囲では、カチオン系シランカップリング剤と石英ガラス繊維との脱水縮合反応がより進行しやすくなるため、石英ガラス繊維用集束剤と石英ガラス繊維が強固に結合し、クロス強度や半田耐熱性が向上する。一方、pHが1より小さい値となると石英ガラス表面を侵食するため、石英ガラス繊維の強度が弱くなる場合があるので好ましくない。
【0051】
上記pH1〜5の範囲に収めるために用いられる酸としては、特に限定はされないが、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸等の有機酸及び塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸が挙げられる。
【0052】
本発明の石英ガラス繊維用集束剤は、本発明の効果を損なわない限り、上記したカチオン系水溶性ウレタン樹脂、カチオン系シランカップリング剤、カチオン系柔軟剤以外の他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、潤滑剤、乳化剤、防腐剤等が挙げられる。また、本発明の石英ガラス繊維用集束剤に対して、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールやその他有機溶剤を少量添加してもよい。
【0053】
本発明の石英ガラス繊維は、pHが1〜5で、カチオン系水溶性ウレタン樹脂、カチオン系シランカップリング剤、カチオン系柔軟剤を含むことを特徴とする石英ガラス繊維集束剤が塗布されたものである。これにより、石英ガラス繊維の帯電電位を+1.5kV〜−1.0kVの範囲に収められ、ガラス繊維用2次集束剤を用いなくとも製織時に必要な集束力を付与することができ、且つ、加熱脱油が省略できる。
【0054】
本発明の石英ガラス繊維用集束剤を石英ガラス繊維に付着させる方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、浸漬法、ローラー式又はベルト式のアプリケーター、噴霧法等が挙げられる。
【0055】
本発明の石英ガラスクロスは、帯電電位を+1.5kV〜−1.0kVの範囲に収められ、ガラス繊維用2次集束剤を必要とせず、毛羽の抑制、耐熱性向上の目的から、本発明のガラスヤーンを含むことが好ましく、本発明のガラスヤーンのみからなることがより好ましい。
【0056】
本発明の石英ガラスクロスの織組織、織密度等は特に限定はされないが、織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられる。また、織密度としては、例えば、10〜150本/25mmが挙げられる。
【0057】
本発明の石英ガラスクロスの製織方法としては、特に限定はされないが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等が挙げられる。
【0058】
本発明の石英ガラスクロスは、必要に応じ、水洗や開繊処理を行ってもよい。加熱脱油は石英ガラスクロス表面に付着した石英ガラス繊維用集束剤を完全に除去する目的で行われるが、水洗は石英ガラスクロス表面に余剰に付着した石英ガラス繊維用集束剤のみを除去する目的で行われる。高温下でガラスクロスを長時間処理する加熱脱油に比べ、水洗は温度が低い処理であるため石英ガラスクロスの強度低下を抑制できる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0060】
以下の実施例、比較例における測定及び評価は以下の方法で行った。
【0061】
1.石英ガラス繊維用集束剤のpH
堀場製作所製pHメータD−51と堀場製作所製pH電極9625−10Dを用い、石英ガラス繊維用集束剤のpHを測定した。
【0062】
2.ガラスヤーンの集束力
大栄科学精器製作所製DI式糸摩擦抱合力試験機DI−200を用い、糸交叉角30°、往復速度150rpm、荷重50gとし、10回擦った後の糸の集束力を目視で確認した。本実施例においては、○以上を合格とした。
<評価基準>
ヤーン割れ全くなし ・・・◎
ヤーン割れ一部あり ・・・○
ヤーン割れ小 ・・・△
ヤーン割れ大、毛羽立ち ・・・×
なお、上記の評価基準において、ヤーン割れが全体的にあり且つ割れの程度が小さいものを「ヤーン割れ小」とし、ヤーン割れが全体的にあり且つ割れの程度が大きいものを「ヤーン割れ大」とした。
【0063】
3.ガラスヤーンの帯電電位
ボビンから5cm離れた所にシシド静電気株式会社製静電気測定器スタチロンDX−01をセットし、0.1MPaのエアー圧で糸を連続的に飛ばしながら、ボビンの帯電電位を測定した。
【0064】
4.ガラスクロスの引張強度
JIS R 3420 2013 7.4.2に従い、測定した。
【0065】
5.ガラスヤーン及びガラスクロスの強熱減量
JIS R 3420 2013 7.3.2に従い、測定、算出した。
【0066】
6.ガラスクロスの毛羽
側面光をガラスクロスに当てながら、光学顕微鏡で3mm角の範囲を5箇所目視で確認し、毛羽の数を測定した。
【0067】
7.ガラスクロスの半田耐熱性
ガラスクロスをエポキシ樹脂ワニスに浸漬させ、ワニス塗布ガラスクロスを熱風乾燥機において150℃×5分間で乾燥させ、プリプレグを得た。次に、170℃×90分間加熱硬化させることにより、ガラスクロス/エポキシ樹脂複合シートを得た。該複合シートから5cm×5cmに切り出したテストピースを、プレッシャークッカーを用いて所定時間吸湿熱処理(1.05kg/cm(G)、121℃)し、次いで25℃の水に15分間浸漬した。その後、テストピースを260℃の半田浴に25秒間浸漬し、引き上げた後テストピースに張り付いた余分な半田を削り落とし、半田浸漬前と同様の形態とした。半田を削り落としたテストピースの表面を目視で観察し、耐熱性を評価した。本実施例においては、○以上を合格とした。
<評価基準>
界面剥離小 ・・・◎
界面剥離中 ・・・○
全面剥離 ・・・×
【0068】
[ワニスの組成]
エポキシ樹脂:三菱化学(株)製 jER5046B80 100重量部
硬化剤: 関東化学(株)製 ジシアンジアミド 3.2重量部
硬化促進剤: 関東化学(株)製 N,N-ジメチルベンジルアミン 0.2重量部
希釈溶剤: 関東化学(株)製 ジメチルホルムアミド 30重量部
【0069】
(実施例1)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.06重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、塩酸を3.6重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。石英ガラス繊維用集束剤のpHの測定は、該石英ガラス繊維用集束剤を用いて行った。
【0070】
図1に概略を示した状態で、バーナー1のノズルに、直径0.2mmの石英ガラス繊維である石英ガラス素材2を導入して加熱延伸して、直径4μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維3を作製した。そして、各石英ガラス繊維に実施例1に示した石英ガラス繊維用集束剤をアプリケーター4にて塗布した後に集束機5により集束し、巻取り機6により巻き取って石英ガラスフィラメント本数50本の石英ガラスストランド7を作製した。巻き取った石英ガラスストランド7に25mmあたり1回の撚りを掛け、番手1.38texの石英ガラスヤーンを作製した。石英ガラスヤーンの集束力、帯電電位及び強熱減量の測定は、該石英ガラスヤーンを用いて行った。
【0071】
得られた石英ガラスヤーンを用いて整経を行い、ガラス繊維用2次集束剤を塗布せずにビーミングを行い、整経ビームを得た。得られた整経ビームをエアージェット織機にセットし、緯糸として得られた石英ガラスヤーンを用いて、経糸密度が95本/25mm、緯糸密度が95本/25mmの平織の石英ガラスクロスを得た。
【0072】
得られた石英ガラスクロスを用いて、水洗と開繊処理を行った。石英ガラスクロスの引張強度、強熱減量、毛羽及び半田耐熱性の測定は、該石英ガラスクロスを用いて行った。
【0073】
(実施例2)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.06重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を30重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0074】
(実施例3)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを0.46重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を4重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0075】
(実施例4)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてジステアリルジメチルアンモニウムクロライドを0.46重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を4重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0076】
(実施例5)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてラウリルメチルアンモニウムクロライドを0.46重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を0.15重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0077】
(実施例6)
実施例2の石英ガラス繊維用集束剤を調整した。石英ガラス繊維用集束剤のpHの測定は、該石英ガラス繊維用集束剤を用いて行った。
【0078】
図1に概略を示した状態で、バーナー1のノズルに、直径0.2mmの石英ガラス繊維である石英ガラス素材2を導入して加熱延伸して、直径3.5μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維3を作製した。そして、各石英ガラス繊維に実施例6に示したガラス繊維用集束剤をアプリケーター4にて塗布した後に集束機5により集束し、巻取り機6により巻き取って単繊維本数50本の石英ガラスストランド7を作製した。巻き取った石英ガラスストランド7に25mmあたり1回の撚りを掛け、番手1.07texの石英ガラスヤーンを作製した。石英ガラスヤーンの集束力、帯電電位及び強熱減量の測定は、該石英ガラスヤーンを用いて行った。
【0079】
得られた石英ガラスヤーンを用いて整経を行い、ガラス繊維用2次集束剤を塗布せずにビーミングを行い、整経ビームを得た。得られた整経ビームをエアージェット織機にセットし、緯糸として得られた石英ガラスヤーンを用いて、経糸密度が105本/25mm、緯糸密度が105本/25mmの平織の石英ガラスクロスを得た。
【0080】
得られた石英ガラスクロスを用いて、水洗と開繊処理を行った。石英ガラスクロスの引張強度、強熱減量、毛羽及び半田耐熱性の測定は、該石英ガラスクロスを用いて行った。
【0081】
(実施例7)
実施例2の石英ガラス繊維用集束剤を調整した。石英ガラス繊維用集束剤のpHの測定は、該石英ガラス繊維用集束剤を用いて行った。
【0082】
図1に概略を示した状態で、バーナー1のノズルに、直径0.3mmの石英ガラス繊維である石英ガラス素材2を導入して加熱延伸して、直径7.3μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維3を作製した。そして、各石英ガラス繊維に実施例7に示したガラス繊維用集束剤をアプリケーター4にて塗布した後に集束機5により集束し、巻取り機6により巻き取って石英ガラスフィラメント本数200本の石英ガラスストランド7を作製した。巻き取った石英ガラスストランド7に25mmあたり1回の撚りを掛け、番手18.4texの石英ガラスヤーンを作製した。石英ガラスヤーンの集束力、帯電電位及び強熱減量の測定は、該石英ガラスヤーンを用いて行った。
【0083】
得られた石英ガラスヤーンを用いて整経を行い、ガラス繊維用2次集束剤を塗布せずにビーミングを行い、整経ビームを得た。得られた整経ビームをエアージェット織機にセットし、緯糸として得られた石英ガラスヤーンを用いて、経糸密度が65本/25mm、緯糸密度が62本/25mmの平織の石英ガラスクロスを得た。
【0084】
得られた石英ガラスクロスに対して、水洗と開繊処理は行わなかった。石英ガラスクロスの引張強度、強熱減量、毛羽及び半田耐熱性の測定は、該石英ガラスクロスを用いて行った。
【0085】
実施例1〜7により得られた結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
(比較例1)
ハイアミロースコーンスターチを1.2重量%、レギュラーコーンスターチを2.8重量%、牛脂を0.8重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.08重量%、ポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.24重量%、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライドを0.24重量%、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメトキシシランを0.1重量%、防腐剤0.01%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。石英ガラス繊維用集束剤のpHの測定は、該石英ガラス繊維用集束剤を用いて行った。
【0088】
図1に概略を示した状態で、バーナー1のノズルに、直径0.2mmの石英ガラス繊維である石英ガラス素材2を導入して加熱延伸して、直径4μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維3を作製した。そして、各石英ガラス繊維に比較例1に示したガラス繊維集束剤をアプリケーター4にて塗布した後に集束機5により集束し、巻取り機6により巻き取って石英ガラスフィラメント本数50本の石英ガラスストランド7を作製した。巻き取った石英ガラスストランド7に25mmあたり1回の撚りを掛け、番手1.38texの石英ガラスヤーンを作製した。ガラスヤーンの集束力、帯電電位及び強熱減量の測定は、該ガラスヤーンを用いて行った。
【0089】
得られた石英ガラスヤーンを用いて整経を行い、澱粉系ガラス繊維用2次集束剤を塗布し、乾燥させながらビーミングを行い、整経ビームを得た。得られた整経ビームをエアージェット織機にセットし、緯糸として得られた石英ガラスヤーンを用いて、経糸密度が95本/25mm、緯糸密度が95本/25mmの平織の石英ガラスクロスを得た。
【0090】
得られた石英ガラスクロスを用いて、加熱脱油と開繊処理、さらにシラン処理を行った。石英ガラスクロスの引張強度、強熱減量、毛羽及び半田耐熱性の測定は、該石英ガラスクロスを用いて評価した。
【0091】
(比較例2)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、アミノシランカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメトキシシランを0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてラウリルメチルアンモニウムクロライドを0.46重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を0.15重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0092】
(比較例3)
ノニオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス500(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.06重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を30重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0093】
(比較例4)
カチオン系水溶性ウレタン樹脂としてスーパーフレックス600(第一工業製薬製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.06重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を0.02重量%含み、残りが水からなる集束剤を調整したが、サイズ剤が安定せず、均一に塗布することができなかった。
【0094】
(比較例5)
カチオン系水溶性エポキシ樹脂としてアデカレジンEM−0436F(ADEKA製)を2重量%、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を0.45重量%、カチオン系柔軟剤としてポリエチレンペンタミンとステアリン酸との縮合物の酢酸塩を0.4重量%、その他成分としてオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートを0.06重量%、ポリエチレンイミンを0.1重量%、酢酸を30重量%含み、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を調整した。それ以外は実施例1と同様に行い、石英ガラスクロスを得た。
【0095】
(比較例6)
実施例2の石英ガラス繊維用集束剤を調整した。これを直径4μmのEガラスフィラメントからなるEガラスヤーンに塗布した以外、実施例1と同様に行い、Eガラスクロスを得た。
【0096】
比較例1〜6により得られた結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
実施例1〜7にて得られた石英ガラスヤーンは、pHが1〜5で、カチオン系水溶性ウレタン樹脂、カチオン系シランカップリング剤、カチオン系柔軟剤を含有する石英ガラス繊維用集束剤を塗布したものであるため、石英ガラス繊維の帯電電位を+1.5kV〜−1.0kVの範囲に収められ、ガラス繊維用2次集束剤を用いなくとも製織時に必要な集束力を十分に有するものであった。また、この石英ガラスヤーンを製織して得られた石英ガラスクロスは加熱脱油が不要であるため、従来の澱粉系ガラス繊維用集束剤を用いた比較例1に比べ、高強度となった。特に、実施例1〜3にて得られた石英ガラスヤーンpHが1以上3未満であるため、カチオン系シランカップリング剤と石英ガラス繊維が強固に結合したことにより、帯電電位が±0kV付近となり製織中の毛羽を効果的に抑制することができ、よりクロス強度の高い石英ガラスクロスを得ることができた。さらに、カチオン系シランカップリング剤としてN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を用いることで、アミノシランカップリング剤であるN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメトキシシランを用いた比較例2よりも良好な耐熱性が得られた。
【0099】
一方、ノニオン系ウレタン樹脂を用いた比較例3のガラス繊維用集束剤が塗布されたガラスヤーンは負に大きく帯電していたため、ヤーンの集束力が悪くなり、製織中の毛羽発生を抑制できなかった。比較例4の石英ガラス繊維用集束剤はpHが5以上であったために安定した石英ガラス繊維用集束剤が得られず、均一な塗布ができなかった。カチオン系エポキシ樹脂を用いた比較例5のガラス繊維用集束剤が塗布されたガラスヤーンは、硬いためにしなやかさに乏しく、製織中の毛羽発生を抑制することができなかった。Eガラスヤーンに石英ガラス繊維用集束剤を塗布した比較例6では、pHが1以上3未満と低いために、Eガラス繊維にダメージが入り強度が低下した。
【符号の説明】
【0100】
1:バーナー、2:石英ガラス素材、3:石英ガラス繊維、4:アプリケーター、5:集束機、6:巻取り機、7:石英ガラスストランド。
図1