(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388814
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】ランタン水素化物の製造法
(51)【国際特許分類】
C01B 6/02 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
C01B6/02
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-214294(P2014-214294)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-79079(P2016-79079A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】石本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】初森 智紀
(72)【発明者】
【氏名】常世田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−170177(JP,A)
【文献】
特開2012−056834(JP,A)
【文献】
特表2010−519407(JP,A)
【文献】
特開平10−158001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンからランタン水素化物を製造する方法であって、
(A)耐圧容器にランタンを仕込み、容器を50〜200℃に加熱する工程、
(B)容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を導入する工程、及び
(C)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が低下しなくなるまで工程(C1)及び/又は(C2)を繰り返す工程、
(C1)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力は低下するが0まで低下しない場合、工程(B)を行う工程、
(C2)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、6分以上放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する工程、
を行なうことを特徴とするランタン水素化物の製造法。
【請求項2】
水素導入のゲージ圧力が0.2〜0.3MPaである請求項1記載のランタン水素化物の製造法。
【請求項3】
原料ランタンの平均粒径が0.1mm〜300mmである請求項1又は2記載のランタン水素化物の製造法。
【請求項4】
工程(C2)において、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、6分〜40分放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する請求項1〜3のいずれか1項記載のランタン水素化物の製造法。
【請求項5】
耐圧容器へのランタン仕込み量が、0.3mol以上である請求項1〜4のいずれか1項記載のランタン水素化物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタンからランタン水素化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、窒素と水素を含むランタンが窒化物蛍光体原料として用いることにより、良い特性を示すという報告がされている(特許文献1)。ランタン窒化物の製造原料になり得るランタン水素化物の製造法としては、真空中でランタン金属を加熱し水素を供給する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−170177号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「無機化合物・錯体辞典」中原勝儼著、講談社、第420頁、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、耐圧容器中ランタンに水素を供給して加熱すると、急激な発熱反応が生じ、その反応が制御できず、高温まで上昇する結果、原料の金属が溶融したり、耐圧容器からニッケル、鉄などの成分が溶出してしまい、高純度のランタン水素化物を得ることはできなかった。
【0006】
従って、本発明の課題は、高純度のランタン水素化物を安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、ランタン金属の水素化反応を低温で行うべく、温度制御を試みたが、容量が大きくなるほど原料ランタン金属中の反応開始場所が特定できず、反応開始の温度と最高温度を見つけることができなかった。かかる現状において、さらに検討した結果、耐圧容器中に導入する水素のゲージ圧力を制御すれば、急激な発熱反応を抑制でき、過度の温度上昇が抑制でき、低温で安定的に高純度のランタン水素化物が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明〔1〕〜〔5〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕ランタンからランタン水素化物を製造する方法であって、
(A)耐圧容器にランタンを仕込み、容器を50〜200℃に加熱する工程、
(B)容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を導入する工程、及び
(C)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が低下しなくなるまで工程(C
1)及び/又は(C
2)を繰り返す工程、
(C
1)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力は低下するが0まで低下しない場合、工程(B)を行う工程、
(C
2)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、6分以上放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する工程、
を行なうことを特徴とするランタン水素化物の製造法。
〔2〕水素導入のゲージ圧力が0.2〜0.3MPaである〔1〕記載のランタン水素化物の製造法。
〔3〕原料ランタンの平均粒径が0.1mm〜300mmである〔1〕又は〔2〕記載のランタン水素化物の製造法。
〔4〕工程(C
2)において、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、6分〜40分放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のランタン水素化物の製造法。
〔5〕耐圧容器へのランタン仕込み量が、0.3mol以上である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のランタン水素化物の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、水素化反応時の反応熱の急激な上昇が防止でき、低温条件で安定して高純度のランタン水素化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のランタン水素化物の製造法は、次の工程(A)、(B)、及び(C)を行なうことを特徴とする。
(A)耐圧容器にランタンを仕込み、容器を50〜200℃に加熱する工程、
(B)容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を導入する工程、及び
(C)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が低下しなくなるまで工程(C
1)及び/又は(C
2)を繰り返す工程。
(C
1)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力は低下するが0まで低下しない場合、工程(B)を行う工程、
(C
2)水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、6分以上放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する工程。
【0012】
本発明方法の原料は、ランタン金属である。用いられるランタン金属の粒径は、微粒子である必要がないばかりか、急激な反応を防止する点から格別な微粒子でないのが好ましい。具体的には、ランタン金属の粒径は、生成するランタン水素化物中にランタンが残存せず、反応容器に収まるために最大粒径が300mm以下のものが好ましく、平均粒径200mm以下のものがより好ましく、150mm以下のものがさらに好ましい。また、反応による急激な発熱を避け安全性を確保する点から平均粒径0.1mm以上のものが好ましく、平均粒径0.5mm以上のものがより好ましく、平均粒径1mm以上のものがさらに好ましい。より具体的な平均粒径としては、0.1mm〜300mmが好ましく、0.5mm〜200mmがより好ましく、1mm〜150mmがさらに好ましい。
【0013】
本発明方法は、急激な反応による多量の熱が生じる場合に有用であるので、一度に反応させるランタンの量が多いほど好ましい。具体的には、一度に反応させるランタンの量は、0.3mol以上が好ましく、0.5mol以上がより好ましく、1mol以上がさらに好ましい。
【0014】
反応に用いられる耐圧容器としては、SUS製が好ましく、ニッケル合金製(具体的にはインコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標))がより好ましい。
【0015】
工程(A)では、耐圧容器にランタンを仕込み、容器を50〜200℃に加熱する。加熱温度を50℃以上とするのが反応を開始する上で必要であり、200℃以下とするのが、急激な反応を抑制するうえで重要である。より好ましい加熱温度は50〜180℃であり、さらに好ましくは75〜150℃である。加熱は工程(C)が完了するまで続ける。温度は、容器を加熱する装置の設定温度でもよいし、直接容器内の物質を熱伝対等により測定したり、放射温度計などで接触させることなく測定することもできる。
【0016】
工程(B)では、容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を導入する。水素のゲージ圧力が0.1MPaより低い場合には、反応が生じない場合があったり、反応が生じるまでに多くの時間を要し、一方、0.3MPaより高い場合には反応が生じた際に急激な発熱が生じる可能性がある。より好ましいゲージ圧力は0.15〜0.3MPaであり、より好ましくは0.15〜0.25MPaである。
【0017】
工程(B)における導入水素量は、耐圧容器内のランタンの一部のみが水素化される条件である。従って、急激な水素化反応の進行による温度上昇が抑制できる。
一方、工程(B)の後に大量の水素を導入すると、水素化反応が急激に進行することになる。そこで、本発明では、工程(C)のように、ゲージ圧力の変化により工程(B)を制御する。すなわち、工程(C)は、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が低下しなくなるまで工程(C
1)及び/又は(C
2)を繰り返す工程である。
水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が低下しなくなったことは、容器内のランタン金属の全てが水素化されたこと、すなわち水素化反応が終了したことを意味する。ここで、水素導入終了後経過させる時間は、好ましくは5分〜15分であり、より好ましくは10分〜15分である。
【0018】
初期の工程(C
1)では、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力は低下するが0まで低下しない場合、工程(B)を行う。水素導入終了後1〜15分経過すると、導入した水素によるランタンの水素化反応の進行度が把握できる。このときゲージ圧力が低下するが0までは低下しない場合は、水素化反応が弱い、又は若干の水素の漏れがあったと判断できる。従って、強い反応を開始させるためにすぐさま容器中に水素を導入する必要があるため、直ちに工程(B)を行う。水素導入終了後経過させる時間は、好ましくは1分〜12分であり、より好ましくは3分〜10分である。
【0019】
ゲージ圧が0にならず初期の工程(C
1)を繰り返す場合は、水素化反応が進行せずに効率的に水素化物を製造することができない。ゲージ圧が0にならず初期の工程(C
1)を繰り返して60分を超えた場合は、水素化反応が開始しないと判断される。
【0020】
一度ゲージ圧が0まで低下した後(すでに工程(C
2)を行ったことがある場合)の後期の工程(C
1)では、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力は低下するが0まで低下しない場合、工程(B)により水素を導入するが、導入時間は3秒〜10秒間とすることが好ましい。3秒未満で水素導入を停止すると反応を完了させるまで時間を要し、10秒を超えて水素導入を停止すると反応が過剰に生じて高温になってしまう可能性がある。より好ましい水素導入終了時間は、水素導入開始から3秒〜8秒であり、より好ましくは3秒〜6秒である。
【0021】
工程(C
2)では、水素導入終了後1分〜15分経過後にゲージ圧力が0まで低下した場合、0に達してから6分以上放置した後に容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する。ゲージ圧力が0まで低下したことは、導入した水素の多くが反応したことを意味する。従って、未だ水素化されていないランタン金属が残存している可能性が高い。従って、熱が蓄積して高温にならないように6分以上放置して、容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を3秒〜10秒間導入する。ここで、水素導入終了後経過させる時間は、好ましくは1分〜12分であり、より好ましくは1分〜10分である。また、当該時間経過後の放置時間は、好ましくは6分〜30分、より好ましくは6分〜20分である。
【0022】
工程(C
2)では、6分以上放置後、容器内にゲージ圧力0.1〜0.3MPaの水素を導入する。水素のゲージ圧力が0.1MPaより低い場合には、反応が生じない場合があったり、反応が生じるまでに多くの時間を要し、一方、0.3MPaより高い場合には反応が生じた際に急激な発熱が生じる可能性がある。より好ましいゲージ圧力は0.15〜0.3MPaであり、より好ましくは0.15〜0.25MPaである。
【0023】
また、工程(C
2)では、3秒〜10秒間で水素を導入する。3秒未満で水素導入を停止すると反応を完了させるまで時間を要し、10秒を超えて水素導入を停止すると反応が過剰に生じて高温になってしまう可能性がある。より好ましい水素導入終了時間は、水素導入開始から3秒〜8秒であり、より好ましくは3秒〜6秒である。
【0024】
本発明方法によれば、導入水素圧の調整、さらにその繰り返しにより、反応容器内の温度は700℃以下、好ましくは600℃以下、さらに好ましくは400℃以下に制御される。
【0025】
工程(C)の終了後には、反応容器内には、金属が残存することなく高純度のランタン水素化物が生成している。また、反応温度が制御されているため、溶融による容器への付着や反応容器由来の鉄、ニッケル等の混入が防止できる(例えばランタンの融点は920℃、またランタンとニッケルの合金の融点は517℃の場合がある)。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0027】
実施例1〜5及び比較例1〜4
(方法)
耐圧容器0.5Lに粒径20〜30mmの金属ランタン200gを仕込み真空排気した後、水素ガスを供給し、実施例5は200℃、それ以外は100℃に加熱した。より詳細には、(a)MPaの水素ガスを加えた。その際水素化の反応が進むにつれて、反応容器内の内圧が減少してくる。そこで、15分以内の(b)分間隔おきに、内圧を確認した。内圧が0MPaにならなかった場合は、ふたたび(a)MPaまで水素ガスを加えた。作業開始後(d)分後に内圧が0MPaになったので、(e)分間放置を行った。そして(a)MPaの水素ガスを加え、(f)秒後にその供給用のガスバルブを閉じた。(h)分後に内圧が0MPa以下の(g)MPaになったので(e)分間放置を行った。その後、上記水素ガスの供給・反応・放置を繰り返した。しばらくすると(b)分以内に内圧が0MPaにならなくなったので、再び水素ガスの供給を(f)秒間行い、それを繰り返した。圧力が減少しなくなったら加熱をやめ、常温で冷却する。グローブボックス内で内容物を取り出した後に、XRDで生成物を特定した。
(結果)
弁を閉じた際の最高到達温度は(i)℃になった。また生成物は、XRDデータからLaH
2あった。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】