(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388883
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】MRIにおいて可視的な医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
A61B5/055 390
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-558470(P2015-558470)
(86)(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公表番号】特表2016-507314(P2016-507314A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】EP2014053476
(87)【国際公開番号】WO2014128276
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】13156291.0
(32)【優先日】2013年2月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515345023
【氏名又は名称】カーディアティス ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100187481
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 淳史
(72)【発明者】
【氏名】フリッド,アルーン
【審査官】
亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−209275(JP,A)
【文献】
特表2008−531161(JP,A)
【文献】
特表2008−539898(JP,A)
【文献】
特開2010−227244(JP,A)
【文献】
特表2007−528779(JP,A)
【文献】
特表2008−532588(JP,A)
【文献】
特開2006−006926(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0249638(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
A61F 2/00 − 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム及び鉄の少なくとも1つを含むコバルトベースの合金で作られ、層として金属基板(1)の最外表面を覆うコバルトリッチな組成物(2)を有する金属基板(1)を含む医療デバイスであって、該コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から10nm以内で、
・ コバルト原子パーセントが、クロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも50at%であること、
・ Co(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化されることが、コバルト原子の総量に対して少なくとも90at%であること、及び
・ 一酸化コバルト(CoO)及び酸化コバルト(II、III)(CoO・Co2O3)の少なくとも1つであるコバルト原子が、酸化状態でのコバルト原子の総量に対して少なくとも55at%であること
を特徴とする医療デバイス。
【請求項2】
コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から10nm以内で、Co(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化されるコバルト原子が、コバルト原子の総量に対して少なくとも95at%のコバルト原子である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から10nm以内で、コバルト原子パーセントが、クロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも60at%である、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
・ コバルトリッチな組成物(2)が、酸化物層の外部表面から10〜5000nmの間で、クロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも50at%のコバルト原子をさらに含み、及び
・ Co(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化されるコバルト原子が、コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から少なくとも100nm以内で、コバルト原子の総量に対して少なくとも90%である、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
移植可能であり、血管体内プロテーゼ、管腔内体内プロテーゼ、ステント、冠動脈ステント、末梢ステント、フィルター及び心臓弁からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項6】
金属基板が、ステンレス鋼及びCo−Cr合金からなる群から選択される生体適合性合金で作られている、請求項1〜5のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項7】
ステンレス鋼がCr−Ni−Feスチールである、請求項6に記載の医療デバイス。
【請求項8】
Co−Cr合金が40wt%Co、20wt%Cr、16wt%Ni、7wt%Mo及び2wt%Mnを含む合金であるかまたはコバルト−クロムである、請求項6に記載の医療デバイス。
【請求項9】
コバルトリッチな組成物(2)の最外層(4)が、クロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも50at%のコバルト原子を含み、
・ コバルト原子の総量に対して少なくとも90%のコバルト原子が、該最外層(4)においてCo(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化され、
・ 該最外層(4)における酸化状態でのコバルト原子の総量に対して少なくとも60%のコバルト原子が、該最外層(4)における一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co2O3)の少なくとも1つであり、及び
・ 該最外層(4)の厚さ(T(4))対金属基板(1)の厚さ(T(1))の比が、少なくとも1/80000(T(4)/T(1))である、請求項1〜8のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項10】
MR画像法において金属基板(1)に抗アーティファクト特性を提供するための方法であって、
(a)クロム及び鉄の少なくとも1つを含む該金属基板(1)を供給する工程、
(b)層として該金属基板(1)の最外表面でコバルトリッチな組成物(2)を形成する工程(ここで、該コバルトリッチな組成物(2)が、クロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子パーセント(at%Co)を含む)、及び
(c)該コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から少なくとも10nm以内に存在するコバルト原子の少なくとも90%を、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ、及び該コバルトリッチな組成物(2)の外部表面から少なくとも10nm以内に存在するコバルト原子の少なくとも55%を、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co2O3)の少なくとも1つへ変換する工程
を含む方法。
【請求項11】
コバルトリッチな組成物(2)が、該コバルトリッチな組成物(2)中に存在するクロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも60%のコバルト原子比(at%Co)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)において、金属基板(1)が、移植可能な医療デバイスのワイヤー、プレート、シリンダー及び任意の形状からなる群から選択される形態である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
移植可能な医療デバイスがステント、フィルター、心臓弁又は人工関節である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属基板(1)が、40wt%Co、20wt%Cr、16wt%Ni、7wt%Mo及び2wt%Mnを含む合金並びにコバルト−クロムからなる群から選択されるCo−Cr合金であり、工程(b)において少なくとも500℃の温度で、少なくとも3時間、熱処理に付される、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
工程(b)において、金属基板(1)が、該金属基板(1)上に層としてコバルトリッチな組成物を形成するように、コバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)に付される、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
工程(b)において、金属基板(1)が、該金属基板(1)上に層としてコバルトリッチな組成物を形成するように、酸素の存在下でコバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)に付され、該コバルトが酸化状態で存在する、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
PVDが、スパッタ堆積、蒸発堆積、パルスレーザー堆積、電子ビーム物理蒸着及び陰極アーク堆積からなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
存在するクロム及び鉄原子の総量に対して少なくとも50at%のコバルト原子を含むコバルトリッチな組成物(2)の厚さが、少なくとも1nmである、請求項10〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
工程(c)において、金属基板(1)が、40℃〜60℃の間で、少なくとも5時間、水で飽和させた500mg/L〜1g/Lの間の濃度でのエチレンオキシド雰囲気に付される、請求項10〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
金属基板(1)の強磁性又はフェリ磁性特性により引き起こされる磁気共鳴画像法(MRI)におけるアーティファクトの発生を低減させるための、クロム及び鉄の少なくとも1つを含む金属基板(1)を連続的に覆う抗アーティファクト層(4)としてのコバルトリッチな組成物の使用であって、該コバルトリッチな組成物の外部表面から10nm以内で、クロム及び鉄原子の総量に対するコバルト原子比が、少なくとも50at%であり、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つで存在するコバルト原子が、コバルト原子の総量に対して少なくとも90at%であり、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co2O3)の少なくとも1つであるコバルト原子が、酸化状態でのコバルト原子の総量に対して少なくとも55at%である使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像に適合性である金属基板を含む医療デバイス、より詳細には、金属基板の最外表面に抗アーティファクト層を有する金属基板を含む医療デバイス(ここで、上記抗アーティファクト層が、磁気共鳴画像法(MRI)においてアーティファクトの発生を低減させる)に関する。
【背景技術】
【0002】
画像法プロセスを完璧にすることにより、医学において重要な進歩を遂げてきた。核磁気共鳴画像法(MRI)は、侵襲的な血管造影に代わる望ましい代替手段である。それにより、組織及び血管を可視的にできる。例えば、心臓MRIは、冠動脈の近位部及び内側部の正確な画像を提供することが示されている。造影剤又は麻酔薬の存在はMRIベースの血管造影には必須ではないため、MRIによる副作用は最低限の危険性にとどまる。MRIの利点の1つは、血流を定量的に評価することができることである。この流れの情報は、とりわけ血管中の狭窄の存在に関する重要なデータを提供することができる。しかしながら、MRIは、従来の金属医療デバイスの存在下ではいくつかの制限がある。例えば、血管のプロテーゼ及びステント等の医療デバイスは、多くの場合、適正な機械的特性を得るために金属基板を含むか又は本質的に金属基板から成り、金属基板の強磁性又はフェリ磁性(FFM)特性がアーティファクトの発生を引き起こす。アーティファクトは元の物体には存在しない画像に現れるという特色があり、それが金属部付近での望ましい画像を部分的に又は完全に遮断することによりMRIを使用した診断下で解剖学的構造が誤って表される可能性がある。
【0003】
例えば、ステントが患者の血管に導入された後、任意の望ましくないステント内再狭窄を検出するためには、その有効性を連続的にモニタリングすることが、一般的に妥当である。しかしながら、ステントは、多くの場合、金属部(ワイヤー又はプレート)を含むため、過剰のシグナル損失が、ステント内部で、またステント近くで観察される。
【0004】
(特許文献1)は、移植可能な医療デバイスに使用される生体適合性合金を開示しており、ここで、合金のMRI適合性は、それらの鉄及び/又はケイ素含有量を低減させることにより改善される。即ち、合金のMRI適合性は、本質的に合金の組成比を最適化することにより改善されてきた。
【0005】
(特許文献2)は、MRIにおいて低減された干渉を示すステントを開示している。ステントは、少なくとも50重量パーセントのニッケル(wt%Ni)を含有するニチノール(Nitinol)等のNiTi合金からなる。ステントの外部表面は、酸化物層で覆われるように修飾されており、ここで、上記酸化物層中に存在するニッケル原子は全て、一酸化ニッケル(NiO)へ酸化される。この文書はまた、ニチノールの外部表面で一酸化ニッケル層を供給する方法を開示している。この方法は、少なくとも50wt%Niを含むニッケルベースの合金にのみ適用可能である。
【0006】
強磁性は、ある特定の材料が永久磁石を形成する又は磁石に結合する基本メカニズムである。物理学的に、幾つかの異なるタイプの磁性が識別されている。フェリ磁性を含む強磁性は、最も変わったタイプであり、感じられるのに十分強い力を生み出す唯一のタイプであり、また日常生活で遭遇する磁性の一般的な現象の原因となる。例えば、コバルト、鉄及びニッケルは、その金属状態で強磁性材料として知られている。鉄及びクロム等の幾つかの金属は、その酸化状態でフェリ磁性又は強磁性(FFM)材料として知られている。
【0007】
臨床設定で使用されるステントの大部分が、フィノックス(Phynox)、エルジロイ(Elgiloy)及びコバルト−クロム等のコバルトベースの合金で作られている。通常、コバルトベースの合金は、その金属状態又はその酸化状態で強磁性材料であり、またMRIで強いアーティファクトを発生させるコバルト及び多くの場合クロムの高い原子濃度を有する。合金が、合金中に存在するFFM材料と比較して十分な濃度のニッケルを有さない場合、抗アーティファクト層として一酸化ニッケル層を供給する従来の方法は適用不可能である。さらに、合金が、その酸化状態でFFM特性を示す金属、例えば酸化クロム及び酸化鉄を含む場合、NiOを含む酸化物層を得るために、合金の最外表面に存在する全ての金属を、単に酸化状態へ変換することは、それがその酸化状態でFFM材料の表面濃度を増加し得るため、MRI視感度のために合金のFFM特性の密封(マスキング)効果を得るのに必ずしも十分ではない。
【0008】
したがって、(a)50wt%未満のNi、又はNiなし、及び(b)その酸化状態でFFM特性を示す金属を含む金属基板、特に合金の最外表面で堆積される抗アーティファクト層として使用される新たな組成物が望ましい。さらに、上記金属基板の最外表面で抗アーティファクト層を供給する方法が切望されている。本発明の目的は、上述の要件を満足させる解決手段を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0276718号明細書
【特許文献2】欧州特許第1864149号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、MRIにおいて適合性の特性を有する金属基板を含むか、又は本質的にMRI適合性の特性を有する金属基板からなる医療デバイスを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、金属基板の強磁性又はフェリ磁性(FFM)特性により引き起こされる磁気共鳴画像法(MRI)におけるアーティファクトの発生を低減させるために、クロム及び鉄の少なくとも1つを含む金属基板を連続的に覆う抗アーティファクト層としてコバルトリッチな組成物を使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の主題は、添付の独立請求項において規定される。好ましい実施形態は、従属請求項において規定される。
【0013】
本発明の主題は、コバルト、並びにクロム及び鉄等のその酸化状態で強磁性又はフェリ磁性(FFM)特性を示す金属の少なくとも1つを含む金属基板を含む医療デバイスである。金属基板が、金属基板の最外表面に酸化物層を含有する。酸化物層が、酸化物層の外部表面から10nm以内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子パーセント(at%Co)を有する。酸化物層の外部表面から10nm以内に存在する少なくとも90%のコバルト原子が、Co(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化される。酸化物層の外部表面から10nm以内に存在する少なくとも55%のコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)の少なくとも1つである。
【0014】
好適な実施形態によれば、酸化物層の外部表面から10nm以内に存在する少なくとも95%のコバルト原子、好ましくは全てのコバルト原子が、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化される。
【0015】
好適には、上記酸化物層は、改善された抗アーティファクト特性を有するように、酸化物層の外部表面から10nm内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも60%のコバルト原子比(at%Co)、好ましくは70at%Co、より好ましくは80at%Co、さらに好ましくは100at%Co、最も好ましくは120at%Coを有する。
【0016】
好ましくは、酸化物層は、酸化物層の外部表面から10〜1000nmの間に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50at%Coをさらに含み、酸化物層の外部表面から少なくとも100nm以内に、好ましくは少なくとも500nm以内に、より好ましくは少なくとも1000nm以内に存在する少なくとも90%のコバルト原子が、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化され得る。
【0017】
本発明による医療デバイスは、移植可能であり、好ましくは血管体内プロテーゼ、管腔内体内プロテーゼ、ステント、冠動脈ステント及び末梢ステントからなる群から選択される。
【0018】
金属基板は好適には、ニチノール等のニッケルチタン合金、銅亜鉛アルミニウム合金、Cr−Ni−Feスチール等のステンレス鋼、並びにフィノックス、エルジロイ及びコバルト−クロム等のCo−Cr合金からなる群から選択される生体適合性合金で作られている。
【0019】
金属基板の最外層は好ましくは、最外層中に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50at%Coを有する。さらに、最外層中に存在する少なくとも90%のコバルト原子が、好ましくはCo(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化され、そこに存在する少なくとも60%のコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)の少なくとも1つである。最外層の厚さ(T
(4))対金属基板の厚さ(T
(1))の比は、好ましくは少なくとも1/80000(T
(4)/T
(1))、より好ましくは1/8000、さらに好ましくは1/4000、最も好ましくは1/800である。
【0020】
本発明の別の主題は、MR画像法において金属基板に抗アーティファクト特性を提供する方法であって、(a)上記金属基板を供給する工程、(b)上記金属基板の最外表面でコバルトリッチな層を形成する工程(ここで、上記コバルトリッチな層が、そこに存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子パーセント(at%Co)を含む)、及び(c)上記金属基板の外部表面から少なくとも10nm以内に存在する少なくとも90%のコバルト原子を、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ、そこに存在する少なくとも55%のコバルト原子を、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)の少なくとも1つへ変換する工程を含む方法である。
【0021】
コバルトリッチな層は好ましくは、そこに存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは100%、最も好ましくは120%のコバルト原子比(at%Co)を含む。
【0022】
工程(a)では、金属基板は好ましくは、ステント及び人工関節等の移植可能な医療デバイスのワイヤー、プレート、シリンダー並びに任意の形状からなる群から選択される形態で存在する。
【0023】
金属基板が、コバルトベースの合金である場合、金属基板は好適には、金属基板上にコバルトリッチな層を形成するように、工程(b)では、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも550℃の温度で、少なくとも3時間熱処理に付される。
【0024】
工程(b)では、金属基板は好ましくは、金属基板上にコバルトリッチな層を形成するように、コバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)に付される。
【0025】
工程(b)では、金属基板は好ましくは、金属基板上にコバルトリッチな層及び酸化コバルト層を形成するように、酸素の存在下でコバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)に付される。
【0026】
好適には、PVDは、スパッタ堆積、蒸発堆積、パルスレーザー堆積、電子ビーム物理蒸着及び陰極アーク堆積からなる群から選択される。
【0027】
存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子パーセント(at%Co)を含むコバルトリッチな層の厚さは、好適には少なくとも1nm、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、さらに好ましくは少なくとも50nm、より一層好ましくは少なくとも100nm、最も好ましくは少なくとも500nmである。
【0028】
工程(c)では、金属基板は好ましくは、40℃〜60℃の間で少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間、水で飽和させた500mg/L〜1g/Lの間の濃度でのエチレンオキシド雰囲気に付される。
【0029】
本発明の別の主題は、金属基板のFFM特性により引き起こされる磁気共鳴画像法(MRI)におけるアーティファクトの発生を低減させるための、金属基板を覆う抗アーティファクト層としての酸化コバルトの使用であって、上記抗アーティファクト層は、金属基板の最外表面に存在し、そこに存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト比(at%Co)を有し、上記抗アーティファクト層内に存在する少なくとも90%のコバルト原子が、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ変換され、そこに存在する少なくとも55%のコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)の少なくとも1つへ変換される使用に関する。
【0030】
本発明のさらに別の態様は、クロム及び鉄等の金属基板のFFM特性により引き起こされるMRIにおけるアーティファクトの発生を低減させるための、医療デバイスの金属基板を覆う抗アーティファクト層としての酸化状態でのコバルトの使用であって、上記抗アーティファクト層は、金属基板の最外表面に存在し、そこに存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト比(at%Co)を有し、上記抗アーティファクト層内に存在する少なくとも90%のコバルト原子が、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ変換され、そこに存在する少なくとも55%のコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)の少なくとも1つへ変換される使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明による金属基板の最外表面に抗アーティファクト層を有する金属基板の一部の横断面の模式図を示す。
【
図2】比較試験に従ってMRIで得られる縦長図における試料の画像を要約する表2aを示す。
【
図3】比較試験に従ってMRIで得られる横方向における試料の画像を要約する表2bを示す。
【
図4】比較試験に従ってMRIで得られる横方向における耳栓を含む試料のMRI画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
「磁気共鳴画像法(MRI)」の用語は、本発明では、ヒト又は動物の身体の物質、例えば軟部組織を構成する分子の画像を発生させるための核磁気共鳴の使用を意味する。
【0033】
好適な実施形態によれば、「医療デバイス」は、血管体内プロテーゼ、管腔内体内プロテーゼ、ステント、冠動脈ステント、末梢ステント、一時使用のための外科用及び/又は整形外科用移植片(手術用ねじ、プレート、爪及び他の締結手段等の)、永続的な外科用又は整形外科用移植片(人工骨又は人工関節等の)等の移植可能な医療又は治療デバイスを含むと理解される。それが、下記医療デバイスのいずれかにも同様に適用させることができることは、当業者に理解されよう:生検針、マーカー及びそのようなデバイス、胸部組織エキシパンダ、心血管カテーテル及びアクセサリー、頸動脈血管クランプ、コイル及びフィルター、EGC電極、温度センサーを伴うフォーリーカテーテル、ハロー・ベスト及び頸部固定デバイス、心臓人工弁及び弁形成リング、止血クリップ、眼科用移植片及びデバイス、耳科学用移植片、動脈管開存(PDA)、心房中隔欠損(ASD)及び心室中隔欠損(VSD)、ペレット及びビュレット、陰茎移植片、血管アクセス部品、注入ポンプ及びカテーテル等。
【0034】
本発明による医療デバイスは、鉄、マグネシウム、ニッケル、タングステン、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、亜鉛又はケイ素からなる群から選択される材料、及び必要であれば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マンガン、鉄又はタングステンからなる群からの1つ又は幾つかの金属、好ましくは亜鉛−カルシウム合金の第2の成分で作られている金属基板を含むか、又は本質的にその金属基板からなる。さらなる実例では、金属基板は、ニッケルチタン合金及び銅亜鉛アルミニウム合金からなる群からの1つ又は幾つかの材料の記憶効果材料からなる。さらなる実例では、医療デバイスの金属基板は、好ましくはCr−Ni−Feスチールのステンレス鋼、この場合、好ましくは合金316L、又はフィノックス、エルジロイ及びコバルト−クロム等のCo−Cr合金からなる。本発明の好ましい実施形態では、移植可能な医療デバイスは、ステント、特に金属ステント、好ましくは、例えば米国特許第7,588,597号に開示される自己展開式ステントである。
【0035】
通常、合金の表面組成(原子比)は、その製造手順中に引き起こされる材料のセグメンテーションのため、そのバルク組成とは異なる。例えば、フィノックスは、40wt%Co、20wt%Cr、16wt%Ni、7wt%Mo及び2wt%Mn等の本質的に幾つかの金属からなるが、コバルトの濃度と比較してクロムのよりはるかに高い濃度のクロムが、フィノックスの原料の表面で観察される。さらに、酸化クロムは、強磁性体材料であるため、自然に、又は慣習的に酸化される原料フィノックスは、MRIにおいてアーティファクトを示すはずである。したがって、抗アーティファクト特性を有する金属基板を提供するために、金属基板の表面でのコバルトの原子濃度は、ある特定レベルにまで増加させる必要があり、表面中に存在するある特定量のコバルト原子は、抗強磁性特性を示す酸化状態へ変換させる必要がある。
【0036】
本発明による医療デバイスに含まれる金属基板1は、コバルト、並びにクロム及び鉄等のその酸化状態で強磁性又はフェリ磁性(FFM)特性を示す少なくとも1つ以上の金属を含む。
図1に示すように、金属基板1は、金属バルク層3及び金属基板1の最外表面に酸化物層2を有する。酸化物層2は、抗アーティファクト層4内に存在するその酸化状態で強磁性又はフェリ磁性特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、より一層好ましくは少なくとも100%、最も好ましくは少なくとも120%のコバルト原子パーセント(at%Co)を有する酸化物層2の外部表面にある抗アーティファクト層4を含む。抗アーティファクト層4中に存在する少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは全てのコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)、水酸化コバルト(Co(OH)
2)及び酸化コバルト(II、III)(Co
3O
4)等のCo(II)及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ変換され、抗アーティファクト層4内に存在する少なくとも55%のコバルト原子が、CoO及びCo
3O
4の少なくとも1つである。Co
3O
4はまた、CoO・Co
2O
3とも表され、CoOと同様に抗強磁性(AFM)特性として知られている。好ましくは、抗アーティファクト層4における全てのコバルト原子は、CoO及び/又はCoO・Co
2O
3へ変換される。酸化物層2は、抗アーティファクト層4と金属バルク層3との間に酸化コバルト及びコバルト金属の混合物を含有する層5をさらに含んでもよい。上記層5は、抗アーティファクト層4内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して50%未満のコバルト原子比(at%Co)を含有してもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、医療デバイスの金属基板1は、酸化物層2の外部表面から10nm以内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子パーセント(at%Co)を含有する金属基板1の最外表面で酸化物層2を含み、酸化物層2の外部表面から10nm以内に存在する少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のコバルト原子、より好ましくは全てのコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)、水酸化コバルト(Co(OH)
2)及び酸化コバルト(II、III)(Co
3O
4)等のCo(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ、好ましくはCoO及び/又はCo
3O
4へ変換される。
【0038】
本発明による酸化物層2の最外表面に存在する酸化コバルトは、金属原子の総量に対してある特定のコバルト原子濃度を有する金属基板1用の抗アーティファクトコーティングとして作用し、MRIで使用すると、金属基板の磁気特性により引き起こされるアーティファクトの発生を低減させる。結果として、上記金属基板を含む医療デバイス周辺の組織は、MRIプロセスで可視的になる。例えば、医療デバイスが、ステント中で見られるようなシリンダーの形態を有する場合、酸化物層2中の酸化コバルトは、その周辺の組織由来のシグナルの可視化だけでなく、その管腔内のシグナルの可視化も提供し得る。
【0039】
本発明による金属基板1の抗アーティファクト層4は、その酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも50%のコバルト原子比(at%Co)を有し、抗アーティファクト層4中に存在する少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のコバルト原子、より好ましくは全てのコバルト原子が、Co(II)酸化状態及びCo(III)酸化状態の少なくとも1つへ変換される。
【0040】
抗アーティファクト層4の厚さ(T
(4))対金属基板1の厚さ(T
(1))の比は、少なくとも1/80000(=T
(4)/T
(1))、好ましくは少なくとも1/8000、より好ましくは少なくとも1/4000、さらに好ましくは少なくとも1/800であるはずである。
【0041】
金属基板1の抗アーティファクト層4の厚さは、少なくとも1nm、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、さらに好ましくは少なくとも100nm、より一層好ましくは少なくとも500nm、最も好ましくは少なくとも1000nmである。
【0042】
金属基板の表面組成(各金属原子の原子濃度at%)は、X線光電子分光法(XPS)で測定した。本発明による金属基板の外部表面から10nm以内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対する表面コバルト原子濃度は、少なくとも50at%Co、好ましくは少なくとも60at%Co、より好ましくは少なくとも70at%Co、さらに好ましくは少なくとも80at%Co、より一層好ましくは少なくとも100at%Co、最も好ましくは少なくとも120at%Coである。
【0043】
本発明はまた、MRIにおいて金属基板1に抗アーティファクト特性を提供する方法を提供する。上記方法は、
(a)上記金属基板1を供給する工程、
(b)上記金属基板1の最外表面でコバルトリッチな層を形成する工程(ここで、上記コバルトリッチな層が、そこに存在するその酸化状態で強磁性又はフェリ磁性特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも30%のコバルト原子濃度(at%Co)を含む)、及び
(c)上記金属基板(1)の外部表面から少なくとも10nm以内に存在する少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは全てのコバルト原子を、一酸化コバルト(CoO)、水酸化コバルト(Co(OH)
2)及び酸化コバルト(II、III)(Co
3O
4)等のコバルト(II)酸化状態及びコバルト(III)酸化状態の少なくとも1つへ、及びそこに存在する少なくとも55%のコバルト原子を、CoO及びCo
3O
4の少なくとも1つへ変換する工程
を含む。
【0044】
抗アーティファクト特性を改善するために、金属基板1の外部表面から少なくとも10nm以内に存在する少なくとも55%、好ましくは少なくとも70%のコバルト原子、好ましくはそこに存在する全てのコバルト原子が、抗強磁性特性を有するCoO又はCo
3O
4へ変換される。
【0045】
コバルトベースの合金が、ブレイデッド(braided)ステント等の医療デバイス用の金属基板として選択される場合、金属基板は、金属基板の外部表面から10nm以内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対してコバルト原子パーセント(at%Co)を促進し、金属基板の最外表面にある酸化物(oxidize)層の厚さを増加させるように熱処理に付されてもよい。熱処理は、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも550℃の温度で、少なくとも3時間実施され得る。
【0046】
金属基板1の最外表面にあるコバルトリッチな層はまた、コバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)により形成され得る。高いコバルト原子濃度を含む酸化物層2を直接得るために、金属基板は、酸素の存在下でコバルトを含むターゲットを用いた物理蒸着(PVD)に付されてもよい。物理蒸着(PVD)を使用することにより、この方法は、金属基板の最外表面上に抗アーティファクト層を得るのに、コバルトもニッケルも含有しない金属基板に適用可能であり得る。本発明による方法のための物理蒸着(PVD)は、スパッタ堆積、蒸発堆積、パルスレーザー堆積、電子ビーム物理蒸着及び陰極アーク堆積からなる群から選択され得る。
【0047】
金属基板1はまた、金属基板の最外層内に存在するコバルト原子を、一酸化コバルト(CoO)及び酸化コバルト(II、III)(Co
3O
4)等のコバルト(II)及びコバルト(III)酸化状態の少なくとも1つへ酸化する(oxidized)ように、40℃〜60℃の間で少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間、水で飽和させた500mg/L〜1g/Lの間の濃度でのエチレンオキシド雰囲気に付され得る。
【0048】
本発明はまた、金属基板1の磁気特性により引き起こされる磁気共鳴画像法(MRI)におけるアーティファクトの発生を低減させるための、MRI装置へ配置される金属基板1を覆う抗アーティファクト層4としてのコバルトリッチな組成物の使用を提供する。抗アーティファクト層4は、金属基板1の最外表面に存在し、抗アーティファクト層4内に存在するその酸化状態でFFM特性を示す金属原子の総量に対して少なくとも30%のコバルト原子比(at%Co)を有し、抗アーティファクト層4内に存在する少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは全てのコバルト原子が、一酸化コバルト(CoO)、水酸化コバルト(Co(OH)
2)及び酸化コバルト(II、III)(CoO・Co
2O
3)等のコバルト(II)酸化状態及びコバルト(III)酸化状態の少なくとも1つへ変換され、その中の少なくとも55at%Coの酸化コバルトが、CoO及びCoO・Co
2O
3の少なくとも1つである。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
本発明による内拡径6mm及び長さ2cmを有する4つのフィノックスステントは、米国特許第7,588,597号に開示されるように、直径60〜80μmの48〜56本のワイヤーを編み込むことにより製造した。編み込んだ後、2つのステントの表面を、550℃で3時間、炉中での熱処理(TT)に付して、続いて、47℃で5時間(即ち、試料INV01)又は10時間(即ち、試料INV02)、水で飽和させたエチレンオキシド雰囲気に付した。他の2つのステントはさらに、熱処理後に化学処理(CT)(即ち、硝酸及びフッ化水素の混合物によるポリッシング、続く硝酸による表面不活性化(passivation))に付して、続いて、上述と同じ条件下で5時間(即ち、試料INV03)又は10時間(即ち、試料INV04)、エチレンオキシド雰囲気に付した。
【0050】
内拡径6mm及び長さ2cmを有する2つのフィノックスステントは、上述するように編み込むことにより、比較試料として製造した。編み込んだ後、1つのステントは、熱処理(TT)にもエチレンオキシド雰囲気にも付さなかった(即ち、試料CEX01)。別のステントは、上述するように5時間、エチレンオキシド雰囲気にのみに付した(即ち、試料CEX02)。
【0051】
水を充填したポリ塩化ビニルチューブ(PVC+水)を、試料と同じサイズを有する試料として調製した。このチューブは、金属により引き起こされるいかなるアーティファクトも有さないため、MRIにおいて完璧な画像とされ得る。したがって、それを、MRIにおける完璧な画像の参照として使用する。
【0052】
ステントの外部表面から10nm以内に存在するその酸化状態でFFM特性を示すクロム原子の総量(即ち、この実施例によればCr)に対するコバルト原子パーセント(at%(Co/Cr))、ステントの外部表面から10nm以内に存在するコバルト原子の総量(Co(総計))に対する酸化コバルト(Co
OX)の原子比(at%(Co
ox/Co(総計))、及びステントの外部表面から10nm以内に存在するコバルト原子の総量に対する抗強磁性(AFM)形態(Co
AFM)(即ち、CoO及びCoO・Co
2O
3)中のコバルト原子パーセント(at%(Co
AFM/Co
ox))をXPSで測定して、表1に概要した。CEX01及びCEX02の外部表面中に存在するクロムの総量に対するコバルト原子パーセントは、ほんの16及び29at%(Co/Cr)であった一方で、INV01、INV02、INV03及びINV04は、それぞれ71、263、52、90at%(Co/Cr)を示す。CEX01及びCEX02の外部表面中に存在する酸化コバルトの原子比は、それぞれほんの62及び60at%(Co
ox/(総計))である一方で、INV01、INV02、INV03及びINV04は、それぞれ92、100、90及び100at%(Co
ox/Co(総計))を示す。
【0053】
MRIは、エコースピード(Echospeed)SR120(General Electrics Medical System)及び下記パルスシーケンスを使用して1.5Tで実施した:
・ スピンエコーパルスシーケンス;反復時間(TR)、500m秒;エコー時間(TE)、20m秒;マトリックスサイズ、256×256;視野、2mm;セクション厚、0.2mm;バンド幅、32kHz、及び
・ グラディエントエコーパルスシーケンス;反復時間(TR)、100〜500m秒;エコー時間(TE)、15m秒;フリップ角、30度;行列サイズ、256×256;視野、2mm;セクション厚、0.2mm;バンド幅、32kHz。
【0054】
本発明及び比較例によるMRIにおけるステントの画像を、管腔内、及びステントの外側でのシグナル損失の大きさ及び空間的広がりに関して解析した。MRIにおける画像を表2a及び表2bに概要する(
図2及び
図3)。各ステントのMRI適合性は、MRI画像を比較することにより評価して、結果を、MRI比視感度として表1にまとめる。
【0055】
【表1】
【0056】
それぞれ
図2及び
図3に示されるように、比較例による試料(CEX01及びCEX02)は、著しいシグナル損失を引き起こし、管腔の視感度を可能にしなかった。驚くべきことに、本発明による抗アーティファクト層として酸化状態でのコバルトを含むコバルトリッチな組成物を有する試料(INV01及びINV03)は、アーティファクトのほんの微量の発生を引き起こしたに過ぎず、さらには管腔内のほとんどに由来するシグナルの可視化を可能にした。INV01及びINV03で提供されるMRI画像は、水を充填したPVCチューブで提供される画像のようにほぼ明確である。改善されたMRI画像は、10時間エチレンオキシド雰囲気に付された試料(即ち、試料INV02及びINV04)で得られ、酸化状態でのコバルト原子の総量に対してAMF形態で、より大きなコバルト原子パーセントが見られた(at%(Co
AFM/Co
ox))(即ち、70at%及び71at%)。
【0057】
コバルトリッチな組成物の最上部10nmにおけるクロムに対するコバルト原子比のより高い比が、改善された「マスク」効果を有する抗アーティファクト層を提供し、MRI視感度が改善されるという結果になった。また、コバルトリッチな組成物の総コバルト量に対する酸化状態(Co
ox)でのより高いコバルト原子パーセント(at%(Co
ox/Co(総計))が、抗アーティファクト層のマスク効果を高め、これが、MRI視感度の改善につながる。
【0058】
[実施例2]
本発明による内拡径35mm有するフィノックスステントは、米国特許第7,588,597号に開示されるように、相互連結された層のうちの3つを有するように、直径190μmの90〜112本のワイヤーを編み込むことにより製造した。編み込んだ後、ステントの表面を、550℃で3時間、炉中での熱処理(TT)に付して、続いて、47℃で5時間、水で飽和させたエチレンオキシド雰囲気に付した。
【0059】
MRIは、実施例1に示されるのと同じ条件下で実施したが、但し、ステント内部のMRI視感度を評価するために、発泡ポリエチレンで作られた耳栓をステント内に配置した。
【0060】
ステントがより厚く、より多数のワイヤーで作られ、より大きな拡径を有していたという事実にも関わらず、MRI視感度は、ステントの内部及び周囲で確保され、
図4に示すように、耳栓の形状が画像ではっきりと検出された。
【符号の説明】
【0061】
1 金属基板
2 組成物
3 金属バルク層
4 抗アーティファクト層
5 酸化コバルト及びコバルト金属の混合物を含有する層