(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388885
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】超高感度レシオメトリック静電容量式膨張計および関連する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20180903BHJP
G01B 7/00 20060101ALN20180903BHJP
【FI】
G01N25/16 B
!G01B7/00 101C
!G01B7/00 101M
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-560403(P2015-560403)
(86)(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公表番号】特表2016-516183(P2016-516183A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】US2014021940
(87)【国際公開番号】WO2014138635
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年8月31日
(31)【優先権主張番号】61/774,256
(32)【優先日】2013年3月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/042,665
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515000720
【氏名又は名称】クアンタム デザイン インターナショナル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】QUANTUM DESIGN INTERNATIONAL,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ、マイケル
【審査官】
大森 伸一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−039778(JP,A)
【文献】
特開2013−036980(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/072319(WO,A1)
【文献】
J. J. Neumeier et. al,Capacitive-based dilatometer cell constructed of fused quartz for measuring the thermal expansion of solids,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,2008年,Vol. 79,033903
【文献】
江間 健司,技術ノート(相転移点近傍の物理量の精密測定),応用物理,社団法人応用物理学会,1979年,第48巻,1084(64)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00−3/62
25/00−25/72
G01B 7/00,21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のセル部分(10)、第2のセル部分(20)、およびチャネル(40)を備える超高感度レシオメトリック静電容量式膨張計セル(100)であって、
前記第1のセル部分(10)は少なくとも一対の平面を含み、
前記第2のセル部分(20)は少なくとも一対の平面を含み、
前記第1のセル部分(10)は、前記第2のセル部分(20)に嵌合するように構成されており、前記第1のセル部分(10)の前記少なくとも一対の平面および前記第2のセル部分(20)の前記少なくとも一対の平面は、両者の間に画定されたギャップ(60)によって分離されて少なくとも第1の平行板コンデンサおよび第2の平行板コンデンサを形成し、
前記チャネル(40)は、前記ギャップを横切って前記第1のセル部分から前記第2のセル部分へと延びており、前記チャネルは、
前記第1のセル部分(10)によって少なくとも部分的に画定されている第1の壁(41)と、
前記第2のセル部分(20)によって少なくとも部分的に画定されている第2の壁(42)であって、前記第1の壁(41)と対向するように構成されている第2の壁(42)と
を備え、対向する前記第1および第2の壁(41,42)は、両者の間に標本(300)を受け入れるように構成されるとともに、前記膨張計セルの中心線に沿った方向において互いに対して移動可能であり、
前記標本の大きさが前記第1および第2の壁(41,42)の間で変化したとき、前記第2のセル部分の前記少なくとも一対の平面に対する前記第1のセル部分の前記少なくとも一対の平面の移動により、前記第1および第2の平行板コンデンサのうちの一方の静電容量が減少し、前記第1および第2の平行板コンデンサのうちの他方の静電容量が増加する、膨張計セル。
【請求項2】
前記第2の平行板コンデンサは、前記第1の平行板コンデンサに対して斜めの角度を向いて配置されている、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項3】
前記角度は鋭角である、請求項2に記載の膨張計セル。
【請求項4】
前記角度は鈍角である、請求項2に記載の膨張計セル。
【請求項5】
前記第1および第2のセル部分はそれぞれ誘電材料からなる、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項6】
前記誘電材料は石英である、請求項5に記載の膨張計セル。
【請求項7】
前記第1および第2のセル部分はそれぞれ銅合金からなる、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項8】
ホイートストーンブリッジを備え、前記第1の平行板コンデンサ(201,C1)は前記ホイートストーンブリッジの第1の脚を形成しており、前記第2の平行板コンデンサ(202,C2)は前記ホイートストーンブリッジの第2の脚を形成している、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項9】
前記第1の平行板コンデンサには第1の導電配線を介して第1のインダクタが連結されており、かつ、前記第2の平行板コンデンサには第2の導電配線を介して第2のインダクタが連結されていて前記ホイートストーンブリッジの4つの脚を形成している、請求項8に記載の膨張計セル。
【請求項10】
前記第1および第2のインダクタは、前記膨張計セルの外側に配置されており、かつ、前記第1および第2の導電配線を介して接続されている、請求項9に記載の膨張計セル。
【請求項11】
前記第1および第2のインダクタの少なくとも一方は前記膨張計セル上または前記膨張計セル内に配置されている、請求項9に記載の膨張計セル。
【請求項12】
前記第1の平行板コンデンサは、前記第1のセル部分に連結された第1の導電板と、前記第2のセル部分に連結された第2の導電板とを備え、前記第1および第2の導電板は前記第1および第2のセル部分の金属化表面を有している、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項13】
前記導電板のそれぞれは所定の面積に広がっている、請求項12に記載の膨張計セル。
【請求項14】
複数の取付プラットフォームと使用するためのモジュール式キャリアインタフェースをさらに備え、前記プラットフォームは固定プラットフォームおよび回転子を備える、請求項1に記載の膨張計セル。
【請求項15】
可変の温度または磁場の少なくとも一方の存在下において測定チャンバー内で標本の熱膨張および磁歪を検出する膨張計において、
前記膨張計は、第1の部分、第2の部分、1つまたは複数の出力端子、1つまたは複数の入力端子、および膨張計セルを備え、
前記第1の部分は、第2の部分に嵌合して両者の間にギャップを形成するように構成されており、
前記第1および第2の部分は2つの平行板コンデンサを形成するように構成されており、前記コンデンサのそれぞれは、第1の導電板と、前記第1の導電板から前記ギャップによって分離された第2の導電板とを備え、
前記1つまたは複数の出力端子は、外部の信号処理回路に出力信号を伝えるために前記コンデンサに連結されており、
前記1つまたは複数の入力端子は、前記コンデンサに電力を印加するために前記コンデンサに連結されており、
前記膨張計セルは、前記第1および第2の部分の間を延びる標本を受け入れるように構成されており、それにより前記セルが前記標本の長さについての変化に基づいて前記嵌合している部分の間の静電容量の変化を測定するようになっており、
前記膨張計セルは、前記標本の熱膨張または磁歪の少なくとも一方を測定するための静電容量ブリッジを少なくとも部分的に形成しており、前記セルの前記コンデンサは、前記静電容量ブリッジの2つの脚を形成しており、前記静電容量ブリッジは平衡状態のときに釣り合うように構成されている、膨張計。
【請求項16】
可変磁場の存在下において標本の熱膨張または磁歪の少なくとも一方を検出する方法において、
請求項15に記載の膨張計セルを用意することと、
測定チャンバー内の回転プラットフォームに前記膨張計セルを取り付けることと、
前記膨張計セルに取り付けられた前記標本に磁場を印加することと、
前記磁場の強度を変更することと、
前記磁場を前記測定チャンバーに印加しながら前記プラットフォームを回転させることとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料のその環境変化によってもたらされる寸法変化を測定するように設計された、膨張計として知られる高精密機器に関し、より詳しくは、2つ以上の平行板コンデンサ間のレシオメトリック測定用として構成されたそのような膨張計および関連する方法に関し、このような機器を本明細書中では「レシオメトリック静電容量式膨張計」と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
熱膨張率はあらゆる材料の基本的特性であるが、それにもかかわらず熱膨張を測定する能力はほとんどの研究室で、特にケルビン温度で数度または1度未満の極低温において容易に得られない。
【0003】
膨張計は、材料のその環境変化によってもたらされる寸法変化を測定する超高感度の機器である。膨張計の様々な用途には、材料内の相転移の位置を特定すること、超伝導体における圧力効果を予測すること、極低温用建築材料の特徴を調べること、磁気歪みの調査、または熱容量データを補う情報を提供することが含まれうる。
【0004】
当業界では多くの膨張計が提案されており、その中には高温用途で用いられる炉および押し棒搭載型膨張計、低温用途で用いられる共振周波数型膨張計、適度な分解能を提供することがわかっているピエゾ抵抗型膨張計、およびこれらの機器の中で最も高感度ではあるが実装を成功させるのが最も難しい静電容量式膨張計がある。本明細書中の実施形態は、改良された静電容量式膨張計に関する。
【0005】
静電容量式膨張計は、2つの平行板間の静電容量の変化を正確に測定する能力を活かすように設計される。この能力により、このような膨張計は1オングストローム未満程度の長さの変化を測定できる。
【0006】
様々な固体、特に非常に低温下および/または印加磁場内にある固体の熱膨張を調べることに関心がもたれている。
それゆえ、ある材料の熱膨張を測定することに加えて、非常に低温でかつ様々な磁場または勾配内にある所与の標本の寸法変化に関するデータを収集することが有益であろう。したがって、本明細書中の種々の実施形態は、共同所有する市販のカンタム・デザイン社(Quantum Design,Inc.)製「物理特性測定装置(Physical Property Measurement System)」、すなわち“PPMS”と共に使用するように設計されており、PPMSは、0.05Kから1000Kの温度および最高16Tの磁場という環境を提供できる多目的低温クライオスタットである。PPMSはさらに、全自動の内蔵された温度制御および測定機能を提供する。PPMSは本明細書中の特定の実施形態と共に使用するのに特に優れたプラットフォームであるものの、その他の低温クライオスタットまたは同様のシステムも同じように使用することができ、本発明の範囲は上述のPPMSとの利用に限定されないものとすることを理解するべきである。
【0007】
静電容量式膨張計の設計と実装における最近の進歩がシュミーデショフ(Schmiedeshoff)らの“「多目的小型静電容量式膨張計(Versatile and compact capacitive dilatometer)」、レビュー・オブ・サイエンティフィック・インストルメンツ(Review of Scientific Instruments)77、123907、2006年”に記載されている。シュミーデショフには、円柱形の銅製の静電容量式膨張計が記載されている。銅は、その高い熱伝導率、機械加工性、高磁場に対する感受性を比較的欠いていること、およびよく知られた熱膨張特性のために選択されたとされている。しかしながら、周知のことであるが、銅合金は熱膨張率が高く、セル自身の膨張に関する生データに大きく寄与する誘導渦電流における磁気トルクに悩まされる。材料標本に由来する膨張成分を判断するためには、データのうちのこの熱膨張部分を差し引かなければならない。この補正は「空セル効果」と広く呼ばれ、空のセルの熱膨張によるノイズの量が補正においては考慮される。
【0008】
また、小型の静電容量式膨張計の膨張セルは、ほとんど例外なく銅、銅ベリリウム、またはその他の銅合金で構成される。しかしながら、この構成には、同じく導電性である膨張セルの本体からコンデンサ極板を電気的に絶縁するために絶縁材料が必要となるという事実を欠点として伴う。実際に、これらの銅合金膨張セルは通常、導電性材料の大きな熱膨張およびまたはセル自身の銅と絶縁体の複雑な構成のために、「空セル効果」すなわちバックグラウンド信号が大きくなるという結果になる。
【0009】
最近では、ノイマイヤ(Neumeier)らが“「固体の熱膨張を測定するために溶融石英で構成された静電容量式膨張計セル(Capacitive-based dilatometer cell constructed of fused quartz for measuring the thermal expansion of solids)」、レビュー・オブ・サイエンティフィック・インストルメンツ(Review of Scientific Instruments)79、033903、2008年”の中で、5K<T<350Kの温度範囲内で固体試料のオングストローム未満の長さ変化を検出することのできる膨張計セルについて述べている。ノイマイヤの膨張計は絶縁溶融シリカ(石英)から作製されており、これは熱膨張率が小さく、したがってセルの熱膨張による生データへの寄与が小さく、「空セル効果」が低減される。
【0010】
図1はノイマイヤのセルを示しており、これは内側の垂直面に形成されたコンデンサ極板を有する固定のL字形ベース部品と、第1のコンデンサ極板と対向するように構成された垂直面上に形成された第2のコンデンサ極板を有する可動のL字形部品と、L字形部品間に標本を挟み込むためのウェッジと、標本の膨張方向に対する平衡力を維持するための一対のスプリングとを有する。セル本体は溶融シリカ、すなわち石英から構成される。
【0011】
ノイマイヤの膨張計セルの利点としては、全体が溶融シリカで構成されているために膨張が小さいこと、セルが磁場の影響を受けないこと、セルが(それ自身)温度の影響を受けないこと、静電容量計測の分解能が高いこと、大型であるためにかなりの静電容量を測定できること、アンディーンハガーリング(Andeen-Hagerling)ブリッジが静電容量計測のための優れた既製の解決策であること、セルが様々な長さの標本に対応できることが挙げられる。
【0012】
それ自体が大きい熱膨張を伴う先行技術の銅合金型静電容量式膨張計と比較して改善されてはいるものの、実際には、ノイマイヤのセルは、低温クライオスタット内で使用されたときにいくつかの問題、たとえば、ガス吸着によって静電容量が影響を受けること、絶対静電容量測定が必要となること、温度勾配が一次における精度(accuracy in 1
st order)に影響を与えること等を生じる。
【0013】
さらに、これら先行技術のる静電容量式セルのいずれにおいても、測定はガス吸着と温度勾配により一次まで(to first order)影響を受けるとともに、絶対静電容量の測定が必要となり、これは非常に専門的で高価な機器を使用しなければ困難である。
【0014】
材料固体の膨張測定に対して強い関心が寄せられる中、先行技術における上記およびその他の実践上のニーズに応える、改良された静電容量式膨張計セルが引き続き必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】シュミーデショフら、「多目的小型静電容量式膨張計」、レビュー・オブ・サイエンティフィック・インストルメンツ77、123907、2006年
【非特許文献2】ノイマイヤら、「固体の熱膨張を測定するために溶融石英で構成された静電容量式膨張計セル」、レビュー・オブ・サイエンティフィック・インストルメンツ79、033903、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の膨張計セルには、低温クライオスタット内で使用される場合、ガス吸着によって静電容量が影響を受ける、絶対静電容量の測定が必要である、温度勾配が一次における精度に影響を与えるなどのいくつかの問題がある。
【0017】
さらに、従来の膨張計では、ガス吸着と温度勾配によって結果が一次まで影響を受けるとともに、絶対静電容量の測定が必要であり、これは非常に専門的で高価な機器を使用しなければ困難である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
超高感度レシオメトリック静電容量式膨張計および関連する方法が記載される。膨張計は、レシオメトリック静電容量、すなわち、膨張計の2つ以上の平行板コンデンサの間で測定されるレシオメトリック静電容量比に基づいて静電容量を測定する。
【発明の効果】
【0019】
本明細書中の実施形態によれば、絶対静電容量ブリッジが不要であり、吸着ガスの影響が従来の膨張計と比較して大幅に低減される。このレシオメトリック静電容量式膨張計は対称的な構成を提供し、これにより温度勾配の影響が低減される。さらに、特定の実施形態は「V溝設計」を提供し、第1の平行板コンデンサは、その膨張計の第2の平行板コンデンサとの間で、膨張計セルの主要な中心線に沿って角度をなしており、これにより研削、金属化、組立が単純になることによって製造しやすさが向上する。その他の特徴と利点を以下の詳細な説明と添付の図面の中に示して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2A】一実施形態によるレシオメトリック静電容量式膨張計セルの正面斜視図を示し、正面、右面および上面が示されている。
【
図2B】
図2Aのレシオメトリック静電容量式膨張計セルの背面斜視図を示し、背面、左面および上面が示されている。
【
図3】第1のチャネル内に標本を取り付け、第2のチャネル内にスプリングを取り付けた状態のレシオメトリック静電容量式膨張計セルの側面図を示す。
【
図4】レシオメトリック静電容量式膨張計セルの分解図を示す。
【
図5】一実施形態によるレシオメトリック静電容量式膨張計セルを取り付けるための静電試料プローブを示す。
【
図7】一実施形態による膨張計セルおよび関連する検出システムの電気回路図を示す。
【
図8】測定手順中に種々の磁場特性を導入するために、取り付けられた膨張計セルを回転させるように構成された回転プローブを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の記載において、限定ではなく説明を目的として、本発明を十分に理解できるように詳細および記述が示されている。しかしながら、当業者にとって明らかであるように、本発明は、本発明の主旨と範囲から逸脱することなく、これらの詳細および記述とは異なるその他の実施形態で実施してもよい。特定の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明するが、例示的な特徴は参照番号により示される。
【0022】
本願の実施形態では、標本の膨張を測定するためのレシオメトリック静電容量式測定を提供するように構成された膨張計セルが紹介される。膨張計セルにおいて、一連の金属化板の間の空間によって試料の長さの変化を検出することができる。先行技術において説明されているその他の膨張計とは異なり、特許請求される実施形態はレシオメトリック測定法を利用しており、これによってセルが温度勾配、交換ガス圧、印加磁場に対する感受性を欠いたものとなるようにすることができる。
【0023】
セルは等温チャンバー内に取り付けられ、印加磁場を基準にして回転され、したがって、幅広い温度範囲における磁歪測定が可能となるようになっている。
定義
本明細書の解釈において、出願人はいくつかの主要な用語を以下のように定義する。
【0024】
「中心線」とは、レシオメトリック静電容量式膨張計セルの第1のセル部分と第2のセル部分の間の仮想的な二等分線または二等分領域と定義され、これには傾斜した突起および傾斜した溝、それらの表面および体積が含まれる。
【0025】
「鋭角」とは、0°よりも大きく、90°よりも小さい角度と定義する。
「鈍角」とは、90°よりも大きく、180°よりも小さい角度と定義する。
「平衡」とは、他のものとバランスがとれているか、あるいは他のものに同等に作用する力または影響と定義する。
【0026】
実施例
ここで図面を見ると、
図2Aは、一実施形態によるレシオメトリック静電容量式膨張計セル100の正面斜視図を示しており、膨張計セルの正面、右面および上面が示されている。
【0027】
膨張計セルは一般に、1つまたは複数の傾斜突起を有する第1のセル部分と、1つまたは複数の傾斜溝を有する第2のセル部分とからなる立方体を有し、第1のセル部分は、第2のセル部分に嵌合するように構成されており、傾斜突起の1つまたは複数の各表面は、傾斜溝の各表面と対向して重なるように構成されている。この点において、第1および第2のセル部分は、2つ以上の重なり面(4つの重なり面が図示されている)を有する膨張計セルの体積を形成するように嵌合している。セルは右面および左面を有し、右面および左面のそれぞれは、本明細書において「スプリング」と呼ぶ2つの平面シートのうちの一方と接触するように構成されている。第2のセル部分にはベース部が取り付けられており、ベース部はその両側に配置された反対向きのノッチを有する。反対向きのノッチは、取付アセンブリを用いて膨張計セルを取り付けるために適合されている。
【0028】
図2Bは、
図2Aのレシオメトリック静電容量式膨張計セル100の背面斜視図を示しており、背面、左面および上面が示されている。
図示の実施形態では立方体として示されているものの、膨張計は、円柱形あるいはその他の形状の体積を有することもできる。ただし、本明細書中に記載されている目的のために、膨張計の設計は対称であることが推奨される。当業者であれば、製造上および設計上の小さな変更があっても、実質的に同様の結果を招くことがわかるであろう。
【0029】
また、セルは好ましくは溶融シリカ(石英)から製造されるが、銅合金およびその他の材料を使って同様の膨張計セルを作ることもできる。例えば、溶融シリカは強磁場および1Kを超える温度での動作が要求される場合に好ましく、銅合金等の導電性材料で作製されるセルは、1K未満また真空環境内での使用に好ましい。
【0030】
図3は、第1のチャネル40内に標本300を取り付け、第2のチャネル50内にばね350を取り付けた状態のレシオメトリック静電容量式膨張計セル100の側面図を示す。ばねはオプションであるが、標本の膨張とは反対方向への平衡力を提供するためには好ましい。
【0031】
図4は、
図3のレシオメトリック静電容量式膨張計セルの分解図を示す。
図3〜
図4に示されるように、膨張計セルは、第1のセル部分10、第2のセル部分20、ベース部分30、膨張計の左面に配置された第1のスプリング5a、および膨張計の右面に配置された第2のスプリング5bを備える。
【0032】
第1のセル部分10は、少なくとも1つの傾斜突起(2つが示されている)をさらに備え、傾斜突起8a,8bのそれぞれは、互いに斜めの角度を向いて配置された一対の平面を含む。この平面のそれぞれは個別に金属化されるか、あるいは、それぞれの平面の面積にわたって導電板を形成するか、あるいは、導電板に連結されるように構成されている。したがって、
図3〜
図4の実施形態において、第1のセル部分は、互いに第1の角度を向いて配置された第1の対の導電板11,12と、互いに第2の角度を向いて配置された第2の対の導電板13,14とを備える。4つの導電板が示されているが、1つまたは複数の傾斜突起を形成する2つ以上の導電板によっても第1のセル部分を構成することができる。第1のセル部分の左面および右面は、それぞれシートスプリング5a,5bを受承し、少なくとも部分的にそれに接触するように構成された縁部を含むことができる。第1のセル部分の左面および右面のそれぞれの外面には接着またはそれ以外の方法でシートスプリングを結合することができる。
【0033】
第2のセル部分20、すなわち「基底部分」は、少なくとも1つの傾斜溝(2つが図示されている)をさらに備え、傾斜溝9a,9bのそれぞれは互いに斜めの角度を向いて配置された一対の平面を含む。この平面のそれぞれは個別に金属化されるか、あるいは、それぞれの平面の面積にわたって導電板を形成するか、あるいは、導電板に連結されるように構成されている。したがって、
図3〜
図4の実施形態において、第2のセル部分は、互いに第3の角度を向いて配置された第3の対の導電板21,22と、互いに第4の角度を向いて配置された第4の対の導電板23,24とを備える。4つの導電板が示されているが、1つまたは複数の傾斜溝を形成する2つ以上の導電板によっても第2のセル部分を構成することができる。第2のセル部分の左面および右面は、それぞれシートスプリング5a,5bの面を受承し、少なくとも部分的にそれに接触するように構成された縁部を含むことができる。第2のセル部分の左面および右側のそれぞれの外面には、第1のセル部分のそれと同様に接着またはそれ以外の方法でシートスプリングを結合することができる。
【0034】
第1のセル部分と第2のセル部分を互いに嵌合させると、両者の間に小さなギャップを残して第1のセル部分が第2のセル部分に嵌り、2つ以上の平行板コンデンサが形成される。シートスプリング5a,5bはそれぞれ、第1および第2のセル部分の間にギャップを残すのを助けるように構成されてもよい。例えば、
図3〜
図4に示されているように、第1のセル部分10の第1の導電板11は、第2のセル部分20の第1の導電板21と少なくとも部分的に重なり、第1の導電板11,21の間を延びるギャップによって画定される第1の静電容量領域を有する第1の平行板コンデンサ201を形成する。同様に、第1のセル部分10の第2の導電板12は、第2のセル部分20の第2の導電板22と少なくとも部分的に重なり、第2の導電板12,22の間を延びるギャップによって画定される第2の静電容量領域を有する第2の平行板コンデンサ202を形成する。さらに、第3および第4の平行板コンデンサ203,204はそれぞれ、第1および第2のセル部分の間に配置されているようにして示されている。第3の平行板コンデンサは導電板13と導電板23の間に形成されており、第4の平行板コンデンサは導電板14と導電板24の間に形成されている。
【0035】
セルにおいて、膨張計セルの対向する導電板は、所与の温度Tにおいて以下のように表面積A、板同士の間の距離d、板同士の間に存在する媒質の誘電率εの関数である静電容量Cを有するコンデンサを形成する。
【0036】
C(T)=ε(T)[A(T)/d(T)]
各導電板を形成している表面が対となり、互いに斜めの角度を向いて配置されているために、これらの表面に形成される各平行板コンデンサも同様である。したがって、第1の平行板コンデンサ201は第2の平行板コンデンサ202と一緒になって、両者の間に、ある角度をなすように向いて配置されているということができる。第1および第2の平行板コンデンサの間の角度は、鈍角、鋭角、または直角のうちの1つとすることができる。この点において、標本の体積が膨張したときに、第1および第2の平行板コンデンサのうちの一方は、距離の変化に応じてそれらの間のギャップを増大させて静電容量を減少するように構成されており、第1および第2の平行板コンデンサのうちの他方は、距離の変化に応じてそれらの間のギャップを減少させて静電容量を増大するように構成されている。したがって、膨張計は、直接的な静電容量の計測ではなく、2つ以上のコンデンサの間の静電容量のレシオメトリック測定、すなわち静電容量比の測定をするように構成されている。このレシオメトリック静電容量測定は、前述したように、何よりも吸着ガスの影響を低減する(膨張計は、超低温ガスを含んだクライオスタットの標本チャンバー内で測定される)。
【0037】
実際には、導電板の形成には電気メッキが好ましいかもしれないが、各平行板コンデンサの導電板は、ある体積上に金属化表面を形成するために当業界で使用される何れの方法で形成することができ、これには例えば、導電性シートの貼り付け、導電性インクの印刷、あるいは、金属化しようとする面に金属またはその他の導電性材料を堆積するその他の方法が含まれる。
【0038】
図3〜
図4に示される実施形態に戻ると、第1のチャネル40は、第1のセル部分から第2のセル部分へとギャップ60をまたいで垂直に延びており、第1のセル部分に配置された第1の壁41と、第1の壁41とは反対側において第2のセル部分に配置された第2の壁42とを備える。この点において、標本は第1の壁41と第2の壁42の間に挿入されて、標本の大きさが増大したときには、第1および第2の壁はセルの中心線に沿って互いに遠ざかるように移動するように構成されている。この移動の結果として静電容量が変化し、関連する測定システム、例えば上述のようなカンタム・デザイン社製の物理特性測定装置(PPMS)によりこれは検出することができる。
【0039】
第2のチャネル50はオプションとして提供されてもよく、第2のチャネル50は、第1のセル部分から第2のセル部分へとギャップ60をまたいで垂直に延びており、第1のセル部分に配置された第1の壁51と、第1の壁51とは反対側において第2のセル部分の配置された第2の壁52とを備える。第2のチャネルは前述の第1のチャネルと同様であるが、第2のチャネルは標本の代わりに、セルの中心線に沿った標本の膨張とは反対の方向の平衡力を提供するためのばね350を受け入れるように構成されている。
【0040】
ベース30は、膨張計100を試料プローブの標本チャンバー内に取り付けるために設けられている。図示の実施形態において、ベースは、ベースの第1の側に沿って延びる第1のノッチ31と、第1の側とは反対側のベースの第2の側に沿って延びる第2のノッチ32とを有する。試料プローブの取付プラットフォームに膨張計セルを当てるか、あるいはその標本チャンバー内に膨張計セルを保持するためのクリップの一部を受け入れるようにベースを構成することもできる。
【0041】
図5は、一実施形態によるレシオメトリック静電容量式膨張計セルを収容する静電試料プローブを示す。静電プローブは、基端から先端に延びるプローブシャフト151a,151bを有し、また、先端に配置されたプラットフォーム筐体153を有する。プローブは、プローブの下側体積を上側部分の中にある放射から分離するための1つまたは複数の放射バッフルスペーサ152を備えていてもよい。プラットフォーム筐体は、そこに膨張計セルを受け入れるように構成された少なくとも1つの固定プラットフォームを備える。膨張計セル100は、印加磁場を基準にして任意の角度で取り付けられるように構成されており、前記角度は、プラットフォームと、取り付けられた膨張計セルのそれに関連する取付位置とによって固定される。膨張計は、取り付けのために、プローブの取付プラットフォームと係合するように設計されたベース部分30を備えてもよい。
【0042】
図6は、一実施形態による膨張計セルの電気構成を示す。「平行」な構成の2つのコンデンサのセットは、固定された(すなわち、それが取り付けられる膨張計セルプローブに対して剛性である)トランスミッタ陽極板と、固定されたトランスミッタ陰極板と、標本の膨張または縮小に応じて右または左に移動する可動レシーバ板とを形成する。レシーバ板の移動によって第1のコンデンサセットのギャップおよび静電容量が減少し、第2のコンデンサセットのギャップおよび静電容量が増大する。
図6を参照すると、第1のコンデンサC1は第1のトランスミッタ陰極板73aによって形成されており、第1のトランスミッタ陰極板73aは、面積「A」を有し、第1のレシーバ板71aから距離d1の位置において第1のレシーバ板71aと平行に配置されている。第2のコンデンサC2は第1のトランスミッタ陽極板74aによって形成されており、第1のトランスミッタ陽極板74aは、関連する面積を有し、第2のレシーバ板72aと平行に配置されている。第1のコンデンサC1と第2のコンデンサC2は第1のコンデンサセット70aを形成している。膨張計は、図示のように2つ以上のコンデンサのセットを含んでいてもよく、第3のコンデンサは、お互いの間に距離d3をおいた板71b,73bによって形成されており、第4のコンデンサは、お互いの間に距離d4をおいた板72b,74bによって形成されている。第3および第4のコンデンサは第2のコンデンサセット70bを形成している。
【0043】
標本の膨張の変化を検出するために、レシオメトリック測定は、有効面積Aとギャップd1およびd2を有する2つのコンデンサセットの間で行われる。各コンデンサの静電容量は以下のように表される。
【0044】
C1=ε(T)A/d
1
C2=ε(T)A/d
2
ここで、ε(T)はコンデンサ板同士の間のガスの誘電率である。
【0045】
平衡状態において、d
1=d
2=dは、室温下かつ印加磁場ゼロでの標本の長さにより規定される。
温度および/または印加磁場の変化によって標本が無限小の量xだけ膨張すると、コンデンサ内のギャップはd
1=d+xおよびd
2=d−xへと変化する。
【0046】
バランス信号をゼロに保つために(すなわち、V
balance=0)、回路内のマイクロプロセッサは、可変インダクタ同士の間の電圧振幅比を量ΔUだけ調整し、2つのコンデンサの間のギャップの変化を補償する。すると、各コンデンサの間の電圧は、
U
0−ΔU=I/(jωC
1)
U
0+ΔU=I/(jωC
2)
となる。
【0047】
これらの等式からIを消去して、
(U
0−ΔU)[εA/(d+x)]=(U
0+ΔU)[εA/(d−x)]
とするか、あるいは標本の膨張xを求めると、
x=−(ΔU/U
0)d
となる。
【0048】
この結果は、標本の膨張の測定がコンデンサ極板間のガス媒質の温度依存誘電率ε(T)に依存せず、したがって、セル自身のコンデンサ極板へのガス吸着による膨張計の生データへの貢献が大幅に減少することを示している。
【0049】
図7は、一実施形態による膨張計セルおよび関連する検出システムの電気回路図を示す。プロセッサはユーザインタフェースに接続されており、取り付けられた標本の対応する寸法変化に起因する膨張計セルの静電容量のレシオメトリック変化を測定するように構成されている。プロセッサは、バランス信号を受け取って、駆動信号の振幅と変圧信号の比の各々を調整するように構成されている。膨張計セル自体は、破線の楕円の中に含まれる回路の一部として示されている。膨張計セルは、上述のように、第1のコンデンサC1および第2のコンデンサ2を備える。膨張計セルはプリアンプに接続されており、出力信号は復調器、ローパスフィルタ、およびA/D変換器を通じて伝えられる。
【0050】
図8は、測定手順中に種々の磁場特性を導入するために、それに取り付けられている膨張計セルを様々な角度で回転させるように構成された試料プローブを示す。この試料プローブは、プローブをクライオスタットの中に挿入している間に回転調整することができる。この能力によって、膨張計を毎回の標本測定の間および測定中に位置調整することができる。回転プローブは、作動シャフト82の基端に配置されたアクチュエータ81を備え、作動シャフトは基端から先端およびプラットフォーム筐体83へと延びている。プラットフォーム筐体83はプラットフォームマウント86を備え、プラットフォームは、ピボット84において歯車機構85を介して作動シャフト82に連結されている。したがって、アクチュエータ81が使用者によって調整されると、作動シャフトの少なくとも一部が回転し、ピボット84および、連結された歯車機構85を通じて運動が伝わって、それによってプラットフォーム86が回転し、その結果、そこに取り付けられた膨張計セルが回転する。この点において、クライオスタット内で印加磁場を基準にして様々な角度(例えば、0度、90度など)で膨張計セルを回転させることができる。
【0051】
この装置によって、印加磁場による形状の変化(通常、強磁性材料に見られる)である磁歪の物理特性を使用者は調査することができる。この変化は、材料の磁気モーメントによる磁場相互作用に起因する。
【0052】
あるいは、
図5の実施形態において示されている静電プローブを使用してもよいが、このような実施形態の場合、様々な角度での測定を行うためには、膨張計をプローブから外し、回転させた向きでまたプローブに取り付け直さなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
特許請求される発明は、材料の研究開発に関する産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
C1 第1のコンデンサ
C2 第2のコンデンサ
d1 第1の距離
d2 第2の距離
d3 第3の距離
d4 第4の距離
5a 第1のシートスプリング
5b 第2のシートスプリング
8a 傾斜突起
8b 傾斜突起
9a 傾斜溝
9b 傾斜溝
10 第1のセル部分
11 導電板
12 導電板
13 導電板
14 導電板
20 第2のセル部分
21 導電板
22 導電板
23 導電板
24 導電板
30 ベース部分
31 第1のノッチ
32 第2のノッチ
40 第1のチャネル
41 第1のチャネルの第1の壁
42 第1のチャネルの第2の壁
50 第2のチャネル
51 第2のチャネルの第1の壁
52 第2のチャネルの第2の壁
60 セル部分同士の間のギャップ
70a 第1のコンデンサセット
70b 第2のコンデンサセット
71a 第1のレシーバ板
71b コンデンサ極板
72a 第2のレシーバ板
72b コンデンサ極板
73a 第1のトランスミッタ陰極板
73b コンデンサ極板
74a 第1のトランスミッタ陽極板
74b コンデンサ極板
81 アクチュエータ
82 作動シャフト
83 プラットフォーム筐体
84 ピボット
85 歯車機構
86 プラットフォームマウント
100 レシオメトリック静電容量式膨張計セル
151a プローブシャフト
151b プローブシャフト
152 バッフルスペーサ
153 プラットフォーム筐体
201 第1の平行板コンデンサ
202 第2の平行板コンデンサ
203 第3の平行板コンデンサ
204 第4の平行板コンデンサ
300 標本
350 平衡ばね