特許第6388888号(P6388888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6388888-コーティング組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388888
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20180903BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20180903BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20180903BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180903BHJP
【FI】
   C09D1/00
   A01N59/16 A
   A01N59/16 Z
   A01N59/20 Z
   C09D7/61
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-20443(P2016-20443)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-137448(P2017-137448A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2016年11月10日
【審判番号】不服2017-12426(P2017-12426/J1)
【審判請求日】2017年8月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503330990
【氏名又は名称】株式会社YOOコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間世田 英明
(72)【発明者】
【氏名】大原 武
(72)【発明者】
【氏名】横田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】若間 麻美
【合議体】
【審判長】 川端 修
【審判官】 佐々木 秀次
【審判官】 木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−5207号公報
【文献】 特開2002−308712号公報
【文献】 特開2006−52209号公報
【文献】 特開2005−263767号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C09D1/00−7/80
A01N59/00−59/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ、銀化合物、銅化合物、溶剤、リン酸チタニウム系化合物、及び水のみからなる、コーティング対象表面に接触する液体中の消臭用、臭気抑制用、抗菌用、防藻用、若しくは防カビ用コーティング組成物。
【請求項2】
前記銀化合物が硝酸銀であり、且つ前記銅化合物が硝酸銅である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記溶剤がアルコールを含有する、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、特にコーティング対象表面に接触する液体の消臭用、臭気抑制用、抗菌用、防藻用、若しくは防カビ用である、又は前記表面への汚物付着防止用であるコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
用水路や貯水槽等の屋外の水には、通常、藻や細菌等の微生物が入り込む可能性があり、このためこれらの水における細菌増殖、藻の発生、及び悪臭発生や、これらの水が流れる配管等の表面への汚物(例えば藻等の水棲生物)の付着が問題となることがある。
【0003】
このような問題は、屋外の水に止まらず、屋内の水においても生じ得る。例えば、病院内のシンク等に付着した水には、耐性菌が存在する可能性があり、この水を通して院内感染が起こる危険がある。また、観賞用の動植物等を含む水槽や花瓶等においても、動植物にもともと付着していた藻や細菌等、或いは空気中のエアロゾル内の藻や細菌等によって、同様の問題が生じることがある。
【0004】
このような問題に対しては、原因物質(細菌、藻、悪臭成分等)を除去したり、その発生を抑制したりするための剤を、水中に投入する方法が提案されている(特許文献1等)。しかしながら、この方法は、屋外の大量の水に対しては現実的ではないし、屋内の閉鎖空間内の水に対しては、水の入れ替え毎に剤を投入する必要があり、効率的ではない。
【0005】
一方、表面をコーティングすることによって、表面への汚物の付着を防止する方法が提案されているが、この方法では、コーティング表面周囲の水中の原因物質を除去したり、その発生を抑制したりすることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−153852号公報
【特許文献2】特開2005−023439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コーティング対象表面への汚物付着防止作用のみならず、コーティング対象表面に接触する液体自体に対する消臭作用、臭気抑制作用、抗菌作用、防藻作用、防カビ作用をも発揮できる、コーティング組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意研究を進めた結果、コロイダルシリカ、銀化合物、銅化合物、及び溶剤を含有するコーティング組成物であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. コロイダルシリカ、銀化合物、銅化合物、溶剤、及び水を含有する、コーティング組成物.
項2. 前記銀化合物が銀の無機酸塩であり、且つ前記銅化合物が銅の無機酸塩である、項1に記載のコーティング組成物.
項3. 前記無機酸塩が硝酸塩である、項2に記載のコーティング組成物.
項4. 前記コロイダルシリカが、二酸化ケイ素、酸化ナトリウム、並びに分散媒としての水を含有する、項1〜3のいずれかに記載のコーティング組成物.
項5. 前記溶剤がアルコールを含有する、項1〜4のいずれかに記載のコーティング組成物.
項6. 更に、リン酸チタニウム系化合物を含有する、項1〜5のいずれかに記載のコーティング組成物。
項7. 液体が接触する表面のコーティング用である、項1〜6のいずれかに記載のコーティング組成物.
項8. コーティング表面に接触する液体の消臭用、臭気抑制用、抗菌用、防藻用、若しくは防カビ用である、又は前記表面への汚物付着抑制用である、項1〜7のいずれかに記載のコーティング組成物.
項9. 前記汚物が水棲生物である、項8に記載のコーティング組成物.
項10. コロイダルシリカ、銀化合物、銅化合物、溶剤、及び水を配合することを含む、項1〜8のいずれかに記載のコーティング組成物を製造する方法.
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コーティング対象表面への汚物付着防止作用のみならず、コーティング対象表面に接触する液体自体に対する消臭作用、臭気抑制作用、抗菌作用、防藻作用、防カビ作用をも発揮できる、コーティング組成物を提供することができる。このため、本発明のコーティング組成物は、細菌、藻、悪臭成分等存在し得る水が接触する表面(例えば、農業用水の配管表面、水槽や花瓶の内表面等)のコーティング用に特に適している。また、本発明のコーティング組成物は、生物に対する経口毒性が低く、また食品、添加物等の規格基準にも適合しているので、人体その他の生物に対する安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例4の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「含有」なる表現については、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
本発明は、コロイダルシリカ、銀化合物、銅化合物、溶剤、及び水を含有する、コーティング組成物に関する(本明細書において、「本発明のコーティング組成物」と示すこともある。)。以下、本発明のコーティング組成物について説明する。
【0014】
コロイダルシリカは、シリカナノ粒子が溶媒中に分散した分散体であり、この限りにおいて特に限定されない。
【0015】
コロイダルシリカ中の分散媒は、シリカナノ粒子を分散させることができるものである限り特に限定されない。該分散媒としては、例えば水、メタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン等が挙げられ、好ましくは水が挙げられる。また、分散媒として水が用いられる場合、分散媒は、アルカリ性分散安定剤(例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等)を含まないことが好ましい。
【0016】
シリカナノ粒子の形状は特に限定されないが、球状であることが望ましい。
【0017】
シリカナノ粒子の粒径は特に限定されないが、例えば1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは5〜25nm、さらに好ましくは10〜15nmである。
【0018】
コロイダルシリカ中のシリカナノ粒子の含有量は、シリカナノ粒子の分散性が保てる限りにおいて特に限定されない。該含有量は、コロイダルシリカ100質量%に対して、例えば5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。
【0019】
コロイダルシリカには、酸化ナトリウムが含まれることが好ましい。酸化ナトリウムを含む場合、コロイダルシリカ中の酸化ナトリウムの含有量は、コロイダルシリカ100質量%に対して、例えば0.05質量%以下、好ましくは0.01〜0.05質量%、より好ましくは0.02〜0.04質量%である。
【0020】
コロイダルシリカのpHは特に限定されない。該pHは、例えば1〜5程度、好ましくは2〜4程度である。
【0021】
コロイダルシリカは、公知の方法に従って又は準じて製造したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、例えば日産化学工業(株)製のスノーテックス−Oまたはその同等品を挙げることができる。
【0022】
コロイダルシリカは、1種単独を用いてもよいし、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0023】
コロイダルシリカの含有量は、特に限定されない。該含有量は、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば2〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%、さらに好ましくは7〜13質量%である。
【0024】
銀化合物は、銀を含み、且つ本発明のコーティング組成物中に溶解可能な化合物である限り特に限定はされないが、例えば銀の塩が挙げられる。銀の塩としては、銀の無機酸塩及び銀の有機酸塩が挙げられるが、好ましくは銀の無機酸塩が挙げられる。銀の無機酸塩としては、例えば硝酸銀、酸化銀、硫化銀等が挙げられるが、透明性及び本願所望の効果の観点から好ましくは硝酸銀が挙げられる。銀の有機酸塩としては、乳酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、カプリン酸銀、アジピン酸銀等のカルボン酸銀が挙げられる。
【0025】
銀化合物は、1種単独を用いてもよいし、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0026】
銀化合物の含有量は、特に限定されない。該含有量は、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.15質量%、より好ましくは0.04〜0.10質量%である。
【0027】
銅化合物は、銅を含み、且つ本発明のコーティング組成物中に溶解可能な化合物である限り特に限定はされないが、例えば銅の塩が挙げられる。銅の塩としては、銅の無機酸塩及び銅の有機酸塩が挙げられるが、好ましくは銅の無機酸塩が挙げられる。銅の無機酸塩としては、例えば硝酸銅、酸化銅、硫化銅等が挙げられるが、好ましくは硝酸銅が挙げられる。銅の有機酸塩としては、乳酸銅、クエン酸銅、酢酸銅、カプリン酸銅、アジピン酸銅等のカルボン酸銅が挙げられる。
【0028】
銅化合物は、1種単独を用いてもよいし、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0029】
銅化合物の含有量は、特に限定されない。該含有量は、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば0.03〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.3質量%、より好ましくは0.07〜0.2質量%である。
【0030】
溶剤としては、特に限定されないが、例えばアルコール等の有機溶媒を使用することが好ましい。アルコールとしては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールを挙げることができる。また、これらの溶剤としては、1種単独を用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせたものを用いてもよい。好適には、例えばエタノール、n−プロパノール、及びメタノールを混合した溶媒を挙げることができる。また、溶剤には、微量の水(溶剤100質量%に対して、例えば5質量%以下、好ましくは1質量%以下)が含まれていてもよい。
【0031】
溶剤は公知の方法に従って又は準じて製造したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、日本アルコール販売(株)製のソルミックスA−7またはその同等品を挙げることができる。
【0032】
溶剤の含有量は、特に限定されない。該含有量は、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば0.5〜20質量%、好ましくは2〜12量%、より好ましくは3〜8質量%である。
【0033】
本発明のコーティング組成物においては、コロイダルシリカに含有され得る水、及び溶剤に含有され得る水とは別に、水が配合されている。この水の含有量は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、特に限定されない。該含有量は、コーティング組成物のゲル化及び配合成分の沈殿を防ぐという観点から、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば70〜95質量%、好ましくは75〜90質量%、より好ましくは80〜88質量%である。
【0034】
本発明のコーティング組成物は、更に、リン酸チタニウム系化合物を含有することが好ましい。これにより、本発明の効果を更に高めることが可能である。
【0035】
リン酸チタニウム系化合物とは、特許文献1に記載された化合物であり、下記式(1)
Ti(OH)x(PO4)y(HPO4)z(H2PO4)l(OR)m (1)
(Rは炭素数1〜4のアルキル基;x=0,1,2,又は3;y=0,1,2,3,又は4;z=0,1,2,3,又は4;l=0,1,2,3,又は4;及びm=0,1,2,又は3であり、x+3y+2z+l+m=4を満たす。ただし、y+z+lは必ず1以上である。)にて表わされるリン酸チタニウム系化合物である。
【0036】
式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基であるが、炭素数が少ない場合には、コーティング組成物とした際の溶液の粘度が低く、またコーティング後の膜厚が薄くなる傾向となり、炭素数が多い場合には、ーティング組成物とした際の溶液の粘度が高く、膜厚が大きくなり、製膜後の皮膜が剥離しやすくなる傾向となる。中でも、Rとしては、エチル基またはイソプロピル基とすることが好ましい。
【0037】
具体的なリン酸チタニウム系化合物としては、Ti(OH)(HPO(OR)、Ti(OH)(PO)、Ti(OH)(HPO)(OR)、Ti(OH)(HPO)(OR)、Ti(OH)(HPO)(HPO)、Ti(OH)(HPO、Ti(OH)(HPO)等が挙げられる。なお、Rは上述の通り、炭素数が1〜4のアルキル基である。
【0038】
なお、リン酸チタニウム系化合物には、その縮合体も包含される。具体的な縮合体は特に限定はされないが、例えば上述のリン酸チタニウム系化合物が2〜10分子縮合した化合物であり、その縮合形式は、上述のリン酸チタニウム系化合物から、水分子が脱離して得られる縮合形式とすればよい。なお、縮合体は、上記リン酸チタニウム系化合物が単一の種類で縮合していてもよく、異なる二種以上が重合していてもよい。
【0039】
リン酸チタニウム系化合物の製造方法も、上記特許文献1に記載された製造方法を採用すればよい。
【0040】
また、リン酸チタニウム系化合物又はその縮重合体は、水、アルコール又は水とアルコールの混合物のいずれの溶媒に溶解していてもよく、溶解後のpHも特に限定はされない。
【0041】
リン酸チタニウム系化合物は、1種単独を用いてもよいし、2種以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0042】
リン酸チタニウム系化合物の含有量は、特に限定されない。該含有量は、本発明のコーティング組成物100質量%に対して、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜3質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。
【0043】
本発明のコーティング組成物には、上記成分の他に、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばpH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。これら他の成分の含有量は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて特に限定されず、例えばコーティング組成物において通常採用される範囲から適宜設定することができる。
【0044】
本発明のコーティング組成物は、上記各成分を配合することを含む方法によって製造することができる。本発明のコーティング組成物は、溶剤→水→コロイダルシリカ→銀化合物及び銅化合物の順で混合することが好ましい。
【0045】
本発明のコーティング組成物のコーティング対象表面は、特に限定されないが、好適には、液体が接触する(好ましくは恒常的に接触する)表面である。このような表面にコーティングすることにより、本発明のコーティング組成物の効果を十分に発揮することができる。この液体としては、特に限定されないが、例えば水が挙げられる。このような水としては、例えば上水、下水、雨水、農業用水、工業用水、河川水、海水、排水、廃水等、さらにはこれらの水を加工(例えば浄水処理等)して得られた水等が挙げられる。なお、「恒常的に接触する」とは、表面の一部又は全部に、常に接触することを意味する。
【0046】
コーティング対象表面の具体例としては、例えば各種配管内表面、ホース内表面、貯水槽内表面、水上又は水中乗り物の水接触面(例えば船底、船原プロペラ、スクリュー、バラスト水タンク内表面等)、シンク表面、便器及びその付属物の水接触面(例えば便器内表面、洗浄ノズル表面、貯水タンク内表面等)、浴槽及び浴室表面、建物の外表面(例えば屋根、外壁等)、動植物の飼育及び/又は観賞用容器(例えば、水槽、花瓶等)の内表面、動植物の飼育及び/又は観賞用容器内への設置物(例えば、水槽や花瓶内の石等)が挙げられる。
【0047】
本発明のコーティング組成物によれば、上記コーティング対象表面への汚物付着防止のみならず、コーティング対象表面に接触する液体自体に対する消臭作用、臭気抑制作用、抗菌作用、防藻作用、防カビ作用をも発揮することができる。
【0048】
付着を防止する汚物としては、例えば貝類等の固着性動物(例えばフジツボ、トコブシ等)や藻等を例示することができる。
【0049】
抗菌とは、細菌の生育阻害や細菌を死滅させること等を意味する。抗菌対象の細菌としては、例えば大腸菌、レジオネラ菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、ウェルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス、赤痢菌、コレラ菌、リステリア菌、アシネトバクター、緑膿菌等が挙げられる。
【0050】
防カビとは、例えば胞子形成する菌の生育阻害やこれらの菌を死滅させること等を意味する。防カビ対象の菌としては、例えばAspergillus属、Penicillium属、Paecilomyces属、Gliocladium属、Chaetomium属等が挙げられる。
【0051】
本発明のコーティング組成物で対象表面をコーティングする方法は特に限定されず、対象表面に応じて、公知の方法に従って又は準じた方法を採用することができる。具体例としては、スプレー、刷毛塗り、ディッピング等が挙げられる。コーティング後は、必要に応じて、余分な液体を、公知の方法(例えば乾燥等)に従って又は準じて除去することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
製造例1:コーティング組成物及びその希釈物の調製
以下に示す配合に従い、これらを適宜混合することにより、コーティング組成物を調製した:
・コロイダルシリカ(スノーテックス−O、日産化学工業社製) 10重量部
・硝酸銀(結晶) 0.07重量部
・硝酸銅(結晶) 0.13重量部
・リン酸チタニウム 1重量部
・溶剤(ソルミックスAP−7、日本アルコール販売社製) 5重量部
・水 残部
合計(コーティング組成物) 100重量部。
【0054】
試験例1:防藻能の及び汚物付着抑制能の評価試験
<1-1.石のコーティング試験>
水槽用石400gの表面を、製造例1で得られたコーティング組成物でコーティング処理した。この石、又はコーティング未処理の石を水槽に入れ、そこへ用水路から採取した水2Lを入れた。屋外に14日間放置した後、水の透明性、石への藻やコケの付着の程度、及び水中の藻やコケの発生の程度を評価した。
【0055】
<1-2.アルミ板のコーティング試験>
アルミ板の表面を、製造例1で得られたコーティング組成物でコーティング処理した。このアルミ板、又はコーティング未処理のアルミ板を水槽に入れ、そこへ用水路から採取した水3Lを入れた。屋外に14日間放置した後、アルミ板表面の汚れの程度、及びアルミ板表面の汚れの落ち易さを評価した。
【0056】
<1-3.結果>
評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、石やアルミをコーティング組成物でコーティング処理することにより、石やアルミへの汚物(藻やコケ等)の付着、及び石やアルミの周囲の水の汚れ(藻やコケの発生等)を抑制できることが示された。
【0059】
試験例2:抗菌能の評価試験
試験例1-1後の水中の大腸菌群数を、最確数法により定法に従って定量した。その結果、石のコーティング未処理区では23MPN/100mLであり、石のコーティング処理区では0MPN/100mLであった。このことから、コーティング組成物でコーティング処理することにより、コーティング表面の周囲の水に対して抗菌作用が発揮されることが示唆された。
【0060】
試験例3:消臭能及び臭気抑制能の評価試験
試験例1-1後の水中の臭気強度(TON)を、JIS K 0102 10.2に従って定量した。その結果、石のコーティング未処理区では26であり、石のコーティング処理区では8であった。このことから、コーティング組成物でコーティング処理することにより、コーティング表面の周囲の水に対して消臭作用及び/又は臭気抑制作用が発揮されることが示唆された。
【0061】
試験例4:防カビ能の評価試験
製造例1で得られたコーティング組成物の防カビ能を、JIS Z 2911:2010 繊維製品の試験・湿式法に従って試験した。より具体的には、無機塩寒天培地上にコーティング組成物を塗布し、試験菌株(Aspergillus niger NBRC 105649,Penicillium citrinum NBRC 6352,Chaetomium globosum NBRC 6347,Myrothecium verrucaria NBRC 6113)の混合胞子懸濁液を噴霧し、26±2℃で14日間培養後、カビの生育を観察した。その結果、カビの生育は認められなかった(かびの生育:−、かび抵抗性:0)。
【0062】
試験例5:汚物付着抑制能の評価試験
船のスクリューの一部分を、製造例1で得られたコーティング組成物でコーティング処理した。この船を一定期間海洋で使用した後、スクリューの貝及び藻の付着の程度を観察した。
【0063】
結果を図1に示す。図1中、3枚の羽の内、左下の羽がコーティング組成物でコーティングした羽である。図1に示されるように、非コーティング部位には貝や藻がすき間なく付着していたのに対して、コーティング部位にはこのような付着が全く見られなかった。
【0064】
試験例6:急性経口毒性試験
製造例1で得られたコーティング組成物の急性経口毒性を、OECD GUIDELINE FOR TESTING OF CHEMICALS Acute Oral Toxicity - Fixed Dose Procedure Adopted: 17th December 2001 (TG420) に従って試験し、試験結果に基づいてGHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)分類を行った。概要及び結果は次のとおりである。
【0065】
8週齢の雌ラット(SD系(Crl:CD(SD))、SPF)5匹(体重:191~198g)それぞれに対して、コーティング組成物を2000mg/kg用量で強制経口投与した。その結果、投与から14日経過後も死亡例は見られず、LD50>2000mg/kgであった。この結果より、被検コーティング組成物の急性経口毒性のGHS分類はカテゴリー5(最も有害性が低い評価)であると結論された。また、投与から14日経過後までの体重増加量の平均は65.0gであり、これは正常な増加量であった。
【0066】
試験例7:食品、添加物等の規格基準の適合試験
製造例1で得られたコーティング組成物について、食品、添加物等の規格基準(昭和34年12月28日、厚生省告示第370号)における合成樹脂製の器具又は容器包装の一般規格への適合性を評価した。具体的には次のように行った。
【0067】
<材質試験(カドミウム及び鉛の含有量)>
コーティング組成物1.0gを白金製、石英製又は耐熱ガラス製の蒸発皿に採り、硫酸2mLを加え徐々に加熱し、更に硫酸の白煙がほとんど出なくなり、大部分が炭化するまで加熱した。これを約450℃の電気炉で加熱して灰化した。完全に灰化するまで、蒸発皿の内容物を硫酸で潤して再び加熱する操作を繰り返し行った。この残留物に塩酸(1→2)5mLを加えてかき混ぜ、水浴上で蒸発乾固した。冷後0.1mol/L硝酸20mLを加えて溶解して試験溶液とした。この試験溶液について、原子吸光光度法又は誘導結合プラズマ発光強度測定法によりカドミウム及び鉛の含有量を測定した。その結果、鉛及びカドミウムの含有量はいずれも1μg/g以下であった。よって、試験したコーティング組成物は、カドミウム及び鉛の含有量に関して、合成樹脂製の器具又は容器包装の一般規格に適合するものであった。
【0068】
<溶出試験−重金属>
コーティング組成物をガラス板に均一に塗布した後、十分に乾燥させた。得られたガラス板を4%酢酸水溶液に浸漬し、常温で暗所に24時間放置した。放置後、液を回収して試験溶液とした。試験溶液20mLをネスラー管に採り、水を加えて50mLとした。別に鉛標準溶液(重金属試験用)2mLをネスラー管に採り、浸出用液20mL及び水を加えて50mLとし、比較標準液とした。両液に硫化ナトリウム試液2滴ずつを加えてよく混和し、5分間放置した後、両管を白色を背景として上方及び側方から観察した。その結果、試験溶液の呈する色は、比較標準液の呈する色よりも薄かった(すなわち、試験溶液中の重金属(鉛)量は基準値未満であった)。よって、試験したコーティング組成物は、重金属(鉛)の溶出に関して、合成樹脂製の器具又は容器包装の一般規格に適合するものであった。
【0069】
<溶出試験−過マンガン酸カリウム消費量>
コーティング組成物をガラス板に均一に塗布した後、十分に乾燥させた。得られたガラス板を水に浸漬し、常温で暗所に24時間放置した。放置後、液を回収して試験溶液とした。一方で、三角フラスコに水100mL、硫酸(1→3)5mL及び0.002 mol/L過マンガン酸カリウム溶液5mLを入れ、5分間煮沸した後、液を捨て水で洗った。この三角フラスコに試験溶液100mLを採り、硫酸(1→3)5mLを加え、更に0.002mol/L過マンガン酸カリウム溶液10mLを加え、加熱して5分間煮沸した。次いて、加熱をやめ、直ちに0.005mol/Lシュウ酸ナトリウム溶液10mLを加えて脱色した後、0.002mol/L過マンガン酸カリウム溶液で微紅色が消えずに残るまで滴定した。別に同様な方法で空試験を行い、下記式により過マンガン酸カリウム消費量を求めた。その結果、試験したコーティング組成物は、過マンガン酸カリウム消費量に関して、合成樹脂製の器具又は容器包装の一般規格に適合するものであった。
式:過マンガン酸カリウム消費量(μg/mL)=((a−b)×0.316×f×1、000)/100
ただし、
a:本試験の0.002mol/L過マンガン酸カリウム溶液の適定量(mL)
b:空試験の0.002mol/L過マンガン酸カリウム溶液の適定量(mL)
f:0.002mol/L過マンガン酸カリウム溶液のファクター。
図1