【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、
(i)クロム(VI)イオン源、
(ii)硫酸イオン源、及び
(iii)メタントリスルホン酸又はその塩
を含む、機能性クロム層を堆積するための水性電気めっき浴によって解決される。
【0010】
さらに、前記課題は、
(i)金属基材を準備する工程、
(ii)前記基材と、クロム(VI)イオン源、硫酸イオン源及びメタントリスルホン酸又はその塩を含む水性電気めっき浴とを接触させる工程、及び
(iii)前記基材をカソードとして外部電流を付与することによって、前記基材上に機能性クロム層を堆積させる工程
を上記の順で含む、金属基材上に機能性クロム層を堆積する方法によって解決される。
【0011】
本発明の水性電気めっき浴から堆積され、そして、本発明の方法によって堆積される機能性クロム層は、既知のアルキルスルホン酸を含む従来の電気めっき浴組成物から堆積される機能性クロム層に比較して増加した耐腐食性を有する。
【0012】
本発明の水性電気めっき浴は、クロム(VI)イオン供給源、硫酸イオン、メタントリスルホン酸又はその塩、及び任意に界面活性剤を含む。
【0013】
クロム(VI)イオン源は、好ましくは、めっき浴中で溶解性であるクロム(VI)化合物、例えばCrO
3、Na
2Cr
2O
7及びK
2Cr
2O
7、最も好ましくは、CrO
3である。本発明の電気めっき浴中のクロム(VI)イオン濃度は、好ましくは80〜600g/l、より好ましくは100〜200g/lである。
【0014】
電気めっき浴中に存在する硫酸イオンは、好ましくは、硫酸又はめっき浴溶解性の硫酸塩、例えばNa
2SO
4の形で添加される。電気めっき浴中の硫酸イオンの濃度は、好ましくは1〜15g/l、より好ましくは2〜6g/lの範囲である。
【0015】
クロム酸対スルフェートの質量%における濃度比は、好ましくは、25〜200、より好ましくは60〜150である。
【0016】
電気めっき浴中のアルキルスルホン酸は、メタントリスルホン酸(HC(SO
2OH)
3)であるか、又はメタントリスルホン酸と1以上の他のアルキルスルホン酸との混合物である。メタントリスルホン酸と混合する好適な他のアルキルスルホン酸は、メタンスルホン酸、メタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、プロピルスルホン酸、1,2−プロパンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸及び1,2,3−プロパン−トリスルホン酸を含む。前述のスルホン酸の相応する塩、例えばナトリウム、カリウム及びアンモニウムの塩もまた、遊離アルキルスルホン酸との混合物の代わりに又はその混合物として使用できる。
【0017】
本発明に応じた電気めっき浴において酸化されてメタントリスルホン酸又はその塩を生じるメタントリスルホン酸又はその塩の前駆体は、メタントリスルホン酸又はその塩の供給源の一部として又はその唯一の供給源として使用されてよい。
【0018】
本発明の電気めっき浴中のメタントリスルホン酸又はその塩の濃度は、好ましくは2〜80mmol/l、より好ましくは4〜60mmol/lである。
【0019】
メタントリスルホン酸と他のアルキルスルホン酸との混合物が利用される場合の前述のメタントリスルホン酸及び他のアルキルスルホン酸又は塩の全濃度は、好ましくは4〜160mmol/l、より好ましくは12〜120mmol/lである。
【0020】
堆積される機能性クロム層内のマイクロクラックの数が多いことが所望され、なぜならば、そうして高い耐腐食性及び所望の機械的特性、例えば減少した内部ストレスが達成されるからである。機能性クロム層内のマクロクラックに対してマイクロクラックは、下にある基材の表面には及ばず、したがって、下にある基材の材料(通常、鋼)の腐食を生じない。
【0021】
メタントリスルホン酸又はその塩、或いは他のアルキルスルホン酸との混合物の構成成分は、水酸化ナトリウム及びK
3[Fe(CN)
6]を含む水溶液中でのエッチング後に光学顕微鏡で決定する場合に、機能性クロム層表面cmあたり、200〜1000個、より好ましくは450〜750個と、多くの数の所望のマイクロクラックを可能にする。線に沿ってマイクロクラックの数を数え、そして、cmあたりのマイクロクラックの数を、以下の式を用いて計算する:
マイクロクラック/cm=(線あたりのクラックの平均数):(線がcmで示される場合の長さ)。
【0022】
マイクロクラックの数及び耐腐食性は、触媒としてのメタントリスルホン酸又はその塩で、唯一のアルキルスルホン酸としてメタンジスルホン酸ナトリウム塩又はプロパン−1,2,3−トリスルホン酸ナトリウム塩に比して増加した。このことは実施例1−3に示されている。
【0023】
さらに、増加した数の所望のマイクロクラックがより高い電流密度でも得られ(実施例3)、一方で、メタンジスルホン酸などの既知のアルキルスルホン酸の場合に、マイクロクラックの数はより高い電流密度で減少している(実施例1)。めっき速度が増加するため、めっきの間のより高い電流密度の値が望ましい。
【0024】
本発明の電気めっき浴は、任意にさらに、めっき液の上で不所望な泡形成を減少させる界面活性剤を含む。界面活性剤は、過フッ化スルホナート界面活性剤、過フッ化ホスファート界面活性剤、過フッ化ホスホナート界面活性剤、部分フッ化スルホナート界面活性剤、部分フッ化ホスファート界面活性剤、部分フッ化ホスホナート界面活性剤及びその混合物を含む群から選択されている。
【0025】
任意の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.05〜4g/l、より好ましくは0.1〜2.5g/lである。
【0026】
めっきの間に付与される電流密度は、好ましくは10〜250A/dm
2、より好ましくは40〜200A/dm
2である。機能性クロム層でめっきされるべき基材は、電気めっきの間にカソードとして機能する。
【0027】
カソードの電流効率は、機能性クロム層の電気めっきの間にカソードでの金属(クロム)の堆積に実際に使用される電流のパーセンテージである。
【0028】
本発明の方法の好ましい電流効率は、50A/dm
2の電流密度で≧22%である。
【0029】
本発明の電気めっき浴の温度は、めっきの間に好ましくは10〜80℃の範囲、より好ましくは45〜70℃の範囲、最も好ましくは50〜60℃の範囲に維持される。
【0030】
不活性アノードは、本発明の方法において適用されることが好ましい。
【0031】
好適な不活性アノードは、例えばチタン又はチタン合金製であり、1以上の白金族金属、その合金及び/又はその酸化物で被覆されている。被覆は好ましくは白金属、酸化イリジウム又はその混合物からなる。かかる不活性アノードは、電気めっきの間により高い電流密度を可能にし、そうして鉛アノードに比較してより高いめっき速度を可能にする。
【0032】
本発明のめっき浴は、慣用の鉛アノードを用いて操作されてもよい。
【0033】
クロム(III)イオンは、かかる不活性アノードの使用の場合に形成される。クロム(VI)イオンベースの機能性クロム電気めっき浴におけるアルキルスルホン酸としてのメタントリスルホン酸及び/又はその塩は、クロム(III)イオンに対して極めて感受性が高い。
【0034】
本発明の好ましい実施態様において、更なる金属のカチオン、例えば銀イオン、鉛イオン及びその混合物が、電気めっき浴に添加される。このようにして、クロム(III)イオンの不利な作用を最小限にすることができる。更なる金属イオンの濃度は、好ましくは0.005〜5g/l、より好ましくは0.01〜3g/lの範囲にある。
【0035】
本発明は、機能性クロム電気めっき浴及び機能性クロム層を基材の上に堆積する方法を提供し、前記基材は高い電流密度でも得られる増加した耐腐食性を有する。
【0036】
実施例
本発明は、以下の実施例を参照して説明されるが、これに限定されるものでない。
【0037】
マイクロクラックの数を、水酸化ナトリウム及びK
3[Fe(CN)
6]を含む水溶液中でのクロム層表面のエッチング後に光学顕微鏡で決定した。同じ長さを有するいくつかの線に沿ってマイクロクラックの数を決定し、そこからマイクロクラックの平均数を計算し、次いで線の長さ(cm)で除して、クラック/cmとして「マイクロクラックの平均数」を与える。
【0038】
機能性クロム層の耐腐食性を、ISO 9227 NSS(neutral salt spray test、中性塩吹付け試験)に応じて決定した。
【0039】
実施例1−3にわたって、250g/l CrO
3、3.2g/l 硫酸イオン及び2ml/lの界面活性剤を含む水性電気めっき浴ストック溶液を使用した。異なる量のアルキルスルホン酸を、機能性クロム層の堆積前に、このストック溶液に添加した。
【0040】
実施例1(比較)
アルキルスルホン酸は、2〜12g/l(7.6〜45.4mmol/l)の濃度においてストック溶液に添加されるメタンジスルホン酸二ナトリウム塩であった。このアルキルスルホン酸は、EP 0 452 471 B1に開示されている。
【0041】
表1は、単独のアルキルスルホン酸として、異なる濃度のメタンジスルホン酸二ナトリウム塩で決定したマイクロクラックの平均数をまとめている(めっき浴温度:58℃、電流密度:50A/dm
2)。
【表1】
【0042】
所望の多くの数のマイクロクラックは、ストック溶液中で狭い濃度範囲の触媒メタンジスルホン酸二ナトリウム塩を使用する場合にだけ得られる。
【0043】
表2は、単独のアルキルスルホン酸として、18.9mmol/l(5g/l)のメタンジスルホン酸二ナトリウム塩を有する電気めっき浴組成物について異なる電流密度で決定したマイクロクラックの平均数をまとめている。
【表2】
【0044】
所望のマイクロクラックの数は、電流密度の増加とともに減少している。
【0045】
不所望な赤錆の形成が、ISO 9227 NSSに応じた中性塩吹付け試験192時間後に認められていた(>0.1%の表面積が、192時間後に赤錆で覆われている)。
【0046】
実施例2(比較)
アルキルスルホン酸は、14.3mmol/l(5g/l)の濃度においてストック溶液に添加されたプロパン−1,2,3−トリスルホン酸三ナトリウム塩であった。このアルキルジスルホン酸は、DE 43 05 732 A1に開示されている。
【0047】
50A/dm
2及びめっき浴温度55℃で電流効率は17.4%であり、この条件下で堆積したクロム層中のマイクロクラックの数は160クラック/cmである。
【0048】
不所望の赤錆の形成が、既にISO 9227 NSSに応じた中性塩吹付け試験24時間後に認められていた(>0.1%の比表面積が24時間後に赤錆で覆われている)。
【0049】
実施例3(本発明)
アルキルスルホン酸は、6.2〜37.2mmol/l(2〜12g/l)の濃度においてストック溶液に添加されるメタントリスルホン酸三ナトリウム塩であった。
【0050】
表3は、単独のアルキルスルホン酸として、異なる濃度のメタントリスルホン酸三ナトリウム塩で決定したマイクロクラックの平均数をまとめている(めっき浴温度:58℃、電流密度:50A/dm
2)。
【表3】
【0051】
表4は、単独のアルキルスルホン酸として、24.8mmol/l(8g/l)のメタントリスルホン酸三ナトリウム塩を有する電気めっき浴組成物について異なる電流密度で決定したマイクロクラックの平均数をまとめている。
【表4】
【0052】
所望の多くの数のマイクロクラックが、付与される電流密度の全範囲において獲得されている。
【0053】
不所望な赤錆の形成は、ISO 9227 NSSに応じた中性塩吹付け試験552時間後まで認められなかった。