【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの行った実験的研究は、多結晶CVDダイヤモンド材料が、従来のHPHT製作PCD工具よりも、表面仕上げの利点を提供することを示した。また、本発明者らは、多結晶CVDダイヤモンド材料が、非常に高品質の表面仕上げを生成できる単結晶ダイヤモンド工具と同じレベルの仕上げを提供しないことも見出した。しかし、本明細書を書いている時点では、高スペックの単結晶CVDダイヤモンド材料は、比較的小さなサイズでのみ入手可能であり、これらがより大きなサイズで入手可能である範囲で、これらは比較的希少かつ高価であって、コストは、単結晶ダイヤモンドのエッジ長と共に、急速に上昇する。更に、非常に微細な表面仕上げを必要とするある種の用途では、単結晶ダイヤモンドの形態で容易に入手可能な、または本当に入手可能な作業表面よりも大きな作業表面が必要とされる。多結晶CVDダイヤモンド工具ピースは、大幅に大きなサイズで入手可能であるが、この材料は、ある種の用途での望ましい非常に微細な表面仕上げを達成しないことが見出されている。
したがって、現在入手可能なダイヤモンド工具では、ある種の用途について、微細な表面仕上げおよび寸法サイズ要件の組合せが得られないという課題が存在する。すなわち、単結晶ダイヤモンド工具に典型的な表面仕上げを生成でき、しかも妥当なコストで大量に利用できる長いエッジ長の工具が、いくつかの機械加工市場で入手できる必要がある。
【0008】
上記に照らして、本発明者らは、多結晶CVDダイヤモンド材料が、単結晶ダイヤモンド工具によって提供される同じレベルの仕上げを与えないことについて、その原因である機構を研究した。単結晶ダイヤモンド工具と比較した場合、いくつかの要因が、多結晶CVDダイヤモンド工具によって提供される表面仕上げの悪化に寄与し得ることが結論付けられた。この要因は、
(i)多結晶CVDダイヤモンド工具の作業表面のダイヤモンド結晶粒は、使用中に欠けることがあるので、作業表面の一体性の悪化につながり、多結晶CVDダイヤモンド工具によって加工される材料の引っ掻きまたは溝を生じること、ならびに
(ii)多結晶CVDダイヤモンド工具の使用前であっても、正確で平滑なエッジおよび隣接する先導表面の供給に関する作業表面の品質は、単結晶ダイヤモンド材料と比較して、多結晶CVDダイヤモンド材料の粒状で不均一な性質により、単結晶ダイヤモンド工具で達成可能な品質よりも低いことを含む。
上記に関して、本発明者らは、多結晶CVDダイヤモンド工具は通常、多結晶CVDダイヤモンド材料の核生成面ではなく成長面が、工具の露出された作業表面を形成するように構成されることに更に注目した。これは、成長面が、核生成面と比較して通常、非ダイヤモンドsp2炭素の濃度が低い、品質良好で、相互成長の進んだ、ダイヤモンド材料の結晶粒で形成されているからである。したがって、成長面は、多結晶CVDダイヤモンド材料の核生成面と比較して、より低い摩耗率を有することが見出された。
この点について、多結晶CVDダイヤモンド材料のウエハは通常、ダイヤモンド材料の小さな結晶粒および有意量の非ダイヤモンドsp2炭素(ラマン分光法によって検出可能)を含む核生成面;ならびにダイヤモンド材料のより大きな結晶粒および、成長条件が正しく制御される場合には、より少ない量の非ダイヤモンドsp2炭素を含む成長面を備えることに注意すべきである。ダイヤモンド結晶粒径は、核生成面から成長面へと、このような多結晶CVDダイヤモンド材料のウエハの中を移動する際に増大する。
【0009】
本発明者らは、多結晶CVDダイヤモンド材料のより小さな結晶粒の核生成面(成長面ではない)が、ダイヤモンド工具の作業表面として利用される場合、核生成面のより小さな結晶粒微細構造は、大きな結晶粒における、使用中に欠けて、加工される材料の視覚的に知覚可能な引っ掻きまたは溝につながる問題を軽減し得ることを仮定した。本発明者らは更に、使用前であっても、多結晶CVDダイヤモンド材料のより小さな結晶粒の核生成面が、ダイヤモンド工具の作業表面として利用される場合、正確で平滑なエッジおよび隣接する先導表面の提供に関する達成可能な作業表面の品質は、より大きな結晶粒の構造を有する成長面で形成された作業表面と比較して、向上するであろうことを仮定した。すなわち、微細な表面仕上げの提供に関して、多結晶CVDダイヤモンド材料の核生成面は、単結晶ダイヤモンド工具を使用して達成可能な表面仕上げの品質に近付き、同時に、大幅に大きなサイズで、低コストで入手可能であり、このような特色の組合せを要求する業務用途の要件を満たし得る。
【0010】
しかし、上記の取組みの1つの課題は、多結晶CVDダイヤモンド材料の核生成面におけるダイヤモンド材料の品質が低く、一般に有意量のsp2炭素を有し、かつ耐摩耗性が低く、これは、特にダイヤモンド材料および工具部品の高いコストを考えると、長い工具運転寿命を必要とする産業用途には不十分であることである。加えて、多結晶CVDダイヤモンド材料の低品質の核生成面の摩耗率は高いので、使用中に達成される表面仕上げの品質の比較的急速な変化をもたらし得る。
【0011】
上記に照らして、本発明者らは、より低品質のダイヤモンド材料の制御された部分が多結晶CVDダイヤモンドウエハの核生成面から除去される場合、望ましい結晶粒径と共に、低いsp2炭素含有量および成長面の耐摩耗性に近い高い耐摩耗性を有する表面を達成することが可能であることを決定した。次いで、このような表面が、ダイヤモンド工具の作業表面を形成するように、ホルダ内に取り付けられれば、下記の特徴を含む特異な特徴の組合せを有するダイヤモンド工具を提供することが可能である:
ダイヤモンド材料の小さな結晶粒を含む正確に画定された作業表面による、高品質の表面仕上げを達成する能力、
ダイヤモンド工具を製作できる大きな多結晶CVDダイヤモンドウエハを入手可能であることによる、大きな作業表面の提供、
低品質の核生成ダイヤモンド材料を、ダイヤモンド工具の作業表面を製作できる多結晶CVDダイヤモンドウエハの核生成面から除去することによる、低い摩耗率を有する作業表面の提供、および
要求されるサイズの大きな単結晶ダイヤモンド材料が本当に入手可能な範囲で、代替の大きな単結晶ダイヤモンド材料と比較して、相対的に低いコスト。
【0012】
上記に照らして、多結晶CVD合成ダイヤモンド工具での使用のための多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物であって、多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物が、
作業表面と、
取付用後部表面とを備え、
取付用後部表面の平均側方結晶粒径が10μm以上であり、
作業表面が、
(a)取付用後部表面よりも小さなダイヤモンド結晶粒と、
(b)10nm〜15μmの範囲の平均側方結晶粒径と、
(c)作業表面上に集束するレーザーによって生成されるラマン信号とを含み、このラマン信号が、以下の特性:
(1)半値全幅が8.0cm
-1以下である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク、
(2)633nmのラマン励起源使用時に、バックグラウンド除去後に、1332cm
-1のsp3炭素ピークの高さの20%以下の高さを有する、1550cm
-1のsp2炭素ピーク、および
(3)785nmのラマン励起源を使用したラマンスペクトルにおいて、局所バックグラウンド強度の10%以上である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク
のうちの1つまたは複数を示す、多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物が提供される。
【0013】
また、本明細書では、
本明細書で記載される多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物と、
多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物が取り付けられるホルダとを備える、多結晶CVD合成ダイヤモンド工具であって、
多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物の作業表面が露出され、多結晶CVD合成ダイヤモンド工具の作業表面を形成するように、多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物が配向されている、多結晶CVD合成ダイヤモンド工具も記載される。
【0014】
また、本明細書で記載される多結晶CVD合成ダイヤモンド工具を使用して、材料を加工する方法であって、
多結晶CVD合成ダイヤモンド工具の作業表面が、加工される材料と接触するように、多結晶CVD合成ダイヤモンド工具を配向させる工程と、
多結晶CVD合成ダイヤモンド工具の作業表面が、加工される材料と接触している状態で、材料と多結晶CVD合成ダイヤモンド工具の作業表面との相対運動を提供することによって、材料を加工する工程とを含む、方法も提供される。
【0015】
複数の多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物を製作する方法であって、
核生成面および成長面を有する、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層から始める工程であって、核生成面が成長面よりも小さな結晶粒を含み、成長面の平均側方結晶粒径が10μm以上である工程と、
多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層の核生成面を加工して、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の部分を核生成面から除去し、加工済核生成表面を形成する工程であって、前記部分は深さが50nm〜30μmの間であり、核生成表面は、
(a)成長面よりも小さなダイヤモンド結晶粒と、
(b)10nm〜15μmの範囲の平均側方結晶粒径と、
(c)加工済核生成表面上に集束するレーザーによって生成されるラマン信号とを有し、このラマン信号が、以下の特性:
(1)半値全幅が8.0cm
-1以下である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク、
(2)633nmのラマン励起源使用時に、バックグラウンド除去後に、1332cm
-1のsp3炭素ピークの高さの20%以下の高さを有する、1550cm
-1のsp2炭素ピーク、および
(3)785nmのラマン励起源を使用したラマンスペクトルにおいて、局所バックグラウンド強度の10%以上である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク
のうちの1つまたは複数を示す、工程と、
多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層を切断して、それぞれの多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物の作業表面が、前記加工済核生成表面で形成されるように、複数の多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物を形成する工程とを含む、方法が記載される。
【0016】
また、本明細書では、複数の多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物を製作する別の方法であって、
多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層を成長基材上に成長させる工程であって、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層が核生成面および成長面を有し、核生成面が成長面よりも小さな結晶粒を含み、成長面の平均側方結晶粒径が10μm以上であり、
成長基材は、成長基材を横切る5mmの長さにわたって測定した際、表面平坦度が≦5μmであり、表面粗さR
aが≦20nmであり、
多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長は、成長基材の除去後に、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層の核生成面が
(a)成長面よりも小さなダイヤモンド結晶粒と、
(b)10nm〜15μmの範囲の平均側方結晶粒径と、
(c)加工済核生成表面上に集束するレーザーによって生成されるラマン信号とを有するように制御され、このラマン信号が、以下の特性:
(1)半値全幅が8.0cm
-1以下である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク
(2)633nmのラマン励起源使用時に、バックグラウンド除去後に、1332cm
-1のsp3炭素ピークの高さの20%以下の高さを有する、1550cm
-1のsp2炭素ピーク、および
(3)785nmのラマン励起源を使用したラマンスペクトルにおいて、局所バックグラウンド強度の10%以上である、1332cm
-1のsp3炭素ピーク
のうちの1つまたは複数を示す、工程と、
多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層を切断して、それぞれの多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物の作業表面が、前記核生成面で形成されるように、複数の多結晶CVD合成ダイヤモンド加工物を形成する工程とを含む、方法も記載される。
より良好な本発明の理解のために、およびどのように本発明が実施され得るかを示すために、本発明の実施形態を、添付図面を参照して、単に例として以下に記載する。