特許第6388975号(P6388975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6388975
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】薬剤送達システムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20180903BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   A61F2/82
   H01J37/317 Z
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-36369(P2017-36369)
(22)【出願日】2017年2月28日
(62)【分割の表示】特願2014-526249(P2014-526249)の分割
【原出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2017-136381(P2017-136381A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年3月29日
(31)【優先権主張番号】61/525,244
(32)【優先日】2011年8月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508216552
【氏名又は名称】エクソジェネシス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カークパトリック,ショーン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】スブルーガ,リチャード,シー.
【審査官】 和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/017456(WO,A2)
【文献】 特開2010−154884(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/031838(WO,A1)
【文献】 特開平10−083899(JP,A)
【文献】 特開2001−296398(JP,A)
【文献】 特開2007−066795(JP,A)
【文献】 特開2011−003457(JP,A)
【文献】 特開昭62−229100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82 − 2/94
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置の表面の改質方法であって、
前記医療装置の表面に一つまたはそれ以上の穴を形成するステップと、
前記一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つに第一の薬剤を装填する第一装填ステップと、
加速中性ビームを形成する中性ビーム形成ステップであって、
ビーム軌道に沿って加速されたガスクラスタイオンビームを形成し、
ビーム軌道に沿ったガスクラスタイオンビーム内のガスクラスタイオンの解離を促進し、
解離を促進した後にガスクラスタイオンビームから荷電粒子を分離する工程を含む、
中性ビーム形成ステップと、
前記露出表面に第一のバリア層を形成するために、少なくとも一つの装填穴内の前記第一の薬剤の露出表面に、ガスクラスタイオンビームから得られた第一の加速中性ビームを照射する第一照射ステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の加速中性ビームが、集束されていることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記装填ステップの前に、
第二のビームを形成するステップと、
前記穴の少なくとも一部を清掃し、および/または前記穴の前記少なくとも一部の鋭利なまたはギザギザの縁部を除去するために、前記医療装置の前記一つまたはそれ以上の穴の少なくとも一部に前記第二のビームを照射する第二照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項4】
前記第二のビームが、加速中性ビームであることを特徴とする請求項3の方法。
【請求項5】
前記第二のビームが、ガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項3の方法。
【請求項6】
前記加速中性ビームが、加速ガスクラスタイオンビームから得られることを特徴とする請求項4の方法。
【請求項7】
前記第一照射ステップが、
第一の薬剤分子を架橋すること、
前記第一の薬剤を緻密化すること、
前記第一の薬剤を炭化すること、
前記第一の薬剤をポリマー化すること、あるいは
前記第一の薬剤を変性すること、
によって、
前記露出表面で前記第一の薬剤を改質することにより前記第一のバリア層を形成することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項8】
前記第一装填ステップが、
噴射、
浸漬、
静電沈着、
超音波噴射、
蒸着、または
離散液滴−オンデマンド流体噴射、
によって、
前記一つまたはそれ以上の穴に前記第一の薬剤を導入することを備えることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項9】
さらに、前記第一装填ステップが、マスクを採用して、前記少なくとも一つまたはそれ以上の穴のどの穴に前記第一の薬剤が装填されるかを制御することを特徴とする請求項8の方法。
【請求項10】
前記第一のバリア層が、前記少なくとも一つの装填穴への流体の内方拡散速度を制御することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項11】
所定の分布プランに従って表面に前記第一の薬剤を分布させるために、前記一つまたはそれ以上の穴が所定パターンで表面に配置されていることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項12】
前記一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つに、前記第一の薬剤と異なる第二の薬剤を装填する第二装填ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項13】
前記一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つに、前記一つまたはそれ以上の穴とは別の少なくとも一つの穴に装填される第二の量の第一の薬剤と異なる第一の量の第一の薬剤が装填されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項14】
前記第一装填ステップが前記少なくとも一つの穴を完全には充填せず、
前記少なくとも一つの不完全に充填された穴に前記第一のバリア層を覆う第二の薬剤を装填する第二装填ステップと、
前記少なくとも一つの第二の装填穴内の前記第二の薬剤の前記露出表面に第二のバリア層を形成するために、少なくとも一つの第二の装填穴内の前記第二の薬剤の露出表面を第三のビームで照射する第三照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項15】
前記第三のビームが、ガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項16】
前記第三のビームが、加速中性ビームであることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項17】
前記第一のバリア層および前記第二のバリア層が、前記第一および第二の薬剤の溶出速度を異なって制御するための異なる特性を有することを特徴とする請求項14の方法。
【請求項18】
前記第三のイオンビームが、第三のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項19】
前記形成ステップが、レーザ加工または集束イオンビーム加工によって一つまたはそれ以上の穴を形成することを備える請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、哺乳動物に植込み(インプラント、埋設)可能な医療装置(たとえば、冠状動脈ステント、人工挿入物など)などの薬剤送達システムに関し、より具体的には、たとえば薬剤を医療装置表面に貼付する、および/またはビーム技術を用いて、加速中性ガスクラスタビーム(GCIB)または加速中性モノマービームの使用を通じて薬剤放出速度や生体反応度などの上記薬剤送達システムの表面特徴を制御する方法およびシステムに関する。加速中性ガスクラスタビームまたは加速中性モノマービームは加速ガスクラスタイオンビームから導出される。このような技術は、時間をかけて表面から薬剤を有効に放出させるように適用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
たとえば、医療人工挿入物または外科植込み物などの哺乳動物(人間を含む)の身体または身体組織に植え込まれる、あるいは直接接触する医療装置は、各種金属、金属合金、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー材料、固体樹脂材料、ガラス状材料、および用途に適し、適切な生体適合性を備えたその他の材料など、様々な材料で作製することができる。たとえば、ステンレス鋼合金、コバルト−クロム合金、チタンおよびチタン合金、鉄やマグネシウムなどの生分解性金属、ポリエチレン、およびその他の不活性プラスチックが使用される。上記装置はたとえば制限なく、血管ステント、人工関節、人工挿入物(およびその部品)、冠状動脈ペースメーカなどを含む。植込み型医療装置は、該装置が植え込まれる組織または器官に薬剤またはその他の生物活性のある有効な薬品を送達するために採用されることが多い。
【0003】
冠状動脈または血管ステントは、薬剤またはその他の有効な薬品の局地的送達のために使用される植込み型医療装置の一例にすぎない。ステントは血管に挿入され、所望の位置に配置され、バルーンまたはその他の機械的拡張装置によって拡張される。残念ながら、この手術に対する身体反応は、治療部位での血栓症または血液凝固、および瘢痕組織の形成またはその他の外傷由来の組織反応を含む場合が多い。統計が示すように、ステント植込み後の瘢痕組織による動脈再狭窄は、手術のわずか6ヶ月以内に治療患者の相当の割合で発生し、多数の患者で重篤な合併症を招く。
【0004】
ステントに関連する冠状動脈再狭窄合併症は、単独要因または多数の要因の組み合わせによって引き起こされると考えられている。これらの合併症は、ステント植込み部位に局部的に導入される数種類の薬剤によって低減することができる。カテーテル挿入、再ステント植込み、集中ケアなど、再狭窄合併症の治療に付随する多大な金銭的負担のため、再狭窄の割合を低減させることは金銭の節約となり、患者の苦痛も減らすことになる。
【0005】
現在主流な設計の冠状動脈および血管ステントが多数ある。冠状動脈ステントの使用が増大しつつあるにもかかわらず、起こり得る合併症のために、その利点は、特定の臨床的症状や兆候においていまだに議論の的である。ステントの膨張過程で生じる血管内膜の損傷が、動脈を再閉塞させる治癒反応の引き金となると広く考えられている。上記現象への対処のため、血管の再狭窄または再閉塞発生を低減させる薬剤担持ステントが市場に導入されている。通常、これらの薬剤はステント表面に貼付され、あるいはステント表面に貼付されてから硬化する液体ポリマーまたはコポリマーと混合される。植え込まれると、薬剤はやがてポリマー混合物から溶出し、薬剤を周囲組織内に放出させる。この技術に伴う課題はまだ多数残っている。ステントが病変部位で拡張されるため、ポリマー材料は割れ
て、ときにはステント表面から剥離する傾向がある。これらのポリマー剥離は心臓−血管システム全体を移動して重大な損傷を招く可能性がある。ポリマー自体が身体内で毒性反応を引き起こすことを示唆する証拠もある。また、所要量の薬剤を担持するのに必要なコーティングの厚さのため、ステントはやや剛体となり拡張しにくい。また、薬剤を適量含有させるのに必要なポリマー量のため、搭載可能な薬剤の総量が不所望に軽減される場合もある。
【0006】
その他の従来技術のステントでは、ステント自体の裸線または金属メッシュが、高圧装填、噴射、浸漬などの工程を通じて一つまたはそれ以上の薬剤で被覆される。しかしながら、装填、噴射、浸漬は、周囲組織に対して常に最適な徐放性の薬剤投与を行うとは限らない。薬剤または薬剤/ポリマーコーティングは上記の薬剤含有層だけでなく薬剤未含有密閉層などのいくつかの層を含むことがあり、装置が最初に植え込まれたときに最初に液体に接触することから生じる最初の薬剤放出量を低減させる場合がある。
【0007】
外科的植込み後、薬剤またはその他の治療薬を植込み型医療装置に付着し、薬剤/薬品の放出速度を制御する様々な方法が採用されている。一例は植込み型医療装置の表面に穴を設けることである。これらの穴に所望の薬剤または薬品あるいはその組み合わせが充填される。Shanleyらによる米国特許第7,208,011号は冠状動脈ステントでの薬剤充填穴の使用を開示している。ポリマーまたはコポリマーのバリア層は穴の底部および/または頂部に形成されて、付着薬剤/薬品の放出速度を制御する、および/または付着薬剤への外部流体(水または体液など)の拡散速度を制御する。薬剤/ポリマー混合物も穴を充填する際に採用される。薬剤を含有する穴の使用により、ステントに保持可能な薬剤量が増大し、不所望であるが必須のポリマーまたはコポリマーの量も減少させる。しかしながら、上述したように、これらのポリマーまたはコポリマーは薬剤放出速度の制御に貢献するものの、薬剤装填植込み型装置の全般的な医療上の成功を減少する不所望の特徴を備える可能性があり、完全に除去できることが望ましい。
【0008】
ガスクラスタイオンビームは、ステントやその他の植込み型医療装置などの植込み型医療装置の表面を平滑化する、あるいはそれ以外の方法で改質するために採用されてきた。たとえば、Kirkpatrickらによる米国特許第6,676,989(C1)号は、血管ステントなどの管状または円筒状ワークピースの処理に適したホルダおよびマニピュレータを有するGCIB処理を教示している。別の例では、Kirkpatrickらによる米国特許第6,491,800(B2)号は、たとえば股関節人工挿入物などのその他の種類の非平面上医療装置の処理に適したワークピースホルダおよびマニピュレータを有するGCIB処理システムを教示している。さらに別の例では、Binnらによる米国特許第7,105,199B2号は、GCIB処理を利用して、ステントへの薬剤コーティングの接着性を向上させ、コーティングからの薬剤の溶出または放出速度を変更することを教示している。
【0009】
イオンは、その電荷が電界および磁界による操作を容易にするために多数のプロセスで長い間採用されてきた。これにより、処理が非常に柔軟になる。しかしながら、用途によっては、どのイオン(GCIB中のガスクラスタイオンを含む)にも固有の電荷が処理表面に望ましくない作用を及ぼす場合がある。GCIBは、単独のまたは小さな複数電荷を有するガスクラスタイオンが従来のイオン(単独の原子、分子、または分子断片)に比べてずっと大きな質量流の移送と制御を可能にするという点で、従来のイオンビームを越える明確な利点を備える(クラスタは数百または数千の分子から成ることがある)。特に、絶縁性材料の場合、イオンを使用して処理される表面は蓄積電荷の急な放出、および材料の電界誘発ストレスの生成(これも蓄積電荷から生じる)から生じる電荷誘発損傷を受けることが多い。このような良くあるケースでは、GCIBは質量当たりの電荷が比較的低いために有益であるが、場合によってはターゲット荷電問題を排除できないことがある。
さらに、中〜高電流強度のイオンビームは、大きな空間電荷の誘発する、長距離に渡って集束されるビームの移送を阻む傾向にあるビームの脱焦を受ける場合がある。ここでも、従来のイオンビームに比べて質量当たりの電荷が低いために、GCIBsは利点を有するが、空間電荷移送問題を完全に排除できていない。
【0010】
GCIB処理は多数の用途で首尾よく採用されてきたが、GCIBまたはその他の現状の方法および装置では十分に満たされていない新たなおよび既存の用途が存在し、そこでは加速中性ビームが優れた成果をもたらし得る。よくある状況で、GCIBは最初やや粗い表面を原子レベルで劇的に平滑化できるが、最終的に達成可能な平滑化は所望の平滑化に達しないことが多く、状況によっては、GCIB処理が中程度に平滑な表面をさらに平滑化するのではなく粗くすることがある。
【0011】
また、本発明を通じて認識され解決されるその他の需要/機会が存在する。薬剤溶出医療植込み物の分野では、GCIB処理は、基板にコーティングを結合する、あるいは患者への植込み後に薬剤がコーティングから溶出される速度を変更するように、医療用植込み物上の薬剤コーティングの表面を首尾よく処理してきた。しかしながら、GCIBが薬剤コーティング(非常に薄いことが多く、非常に高額な薬剤を含む場合がある)の処理に使用される場合、GCIB処理の結果、薬剤コーティングの重量損失(薬剤損失または除去を示す)が発生し得ることが着目されている。このような損失が生じる特定のケースでは(特定の薬剤および特定の処理パラメータの使用)、その発生は通常は望ましくなく、薬剤溶出速度をうまく制御しつつ重量損失を回避できる工程が好ましい。多数の薬剤は電気絶縁性材料、誘電材料、または高電気抵抗材料であるため、電荷による損傷に弱いことがある。このような損傷の可能性は、ガスクラスタイオンビームの代わりに加速中性ビームを使用すると軽減させることができる。
【0012】
中性分子または原子ビームの使用は表面処理用途や無空間電荷ビーム移送では有効であるが、エネルギーが通常原子または分子当たり約数ミリ電子ボルトであるために処理能力が限られるノズルジェットの場合を除き、中性分子または原子の強力なビームを生成するのは容易でも経済的でもないという事実から、別の需要または機会の例が生じる。多数の用途、たとえば清掃、エッチング、平滑化、蒸着、非晶質化を簡易化する、あるいは表面化学作用を生成するために表面または浅表面下の結合を解くことが望ましい場合など、よりエネルギーの大きな中性粒子が有益または必要であろう。このような場合、粒子当たり約1eV〜最大数千eVからのエネルギーが有効である場合が多い。加速荷電GCIBをまず形成し、次にビームの少なくとも一部を中性化し、あるいは中性化の準備をし、荷電部分と未荷電部分とを分離することによって、上記の中性ビームを形成する方法および装置を本願で説明する。中性ビームは中性ガスクラスタ、中性モノマー、またはこれらの組み合わせから成ることができる。 GCIB処理は多数の用途で首尾よく採用されてきたが、特に薬剤溶出医療装置を形成するための薬剤コーティング処理に関連する、GCIBまたはその他の現状の方法および装置では十分に満たされていない新たなおよび既存の用途が存在し、そこでは加速中性ビームが優れた成果をもたらし得る。たとえば、良くある状況で、GCIBは、最初はやや粗い表面を原子レベルで劇的に平滑化できるが、最終的に達成可能な平滑化は所望の平滑化に達しないことが多く、状況によっては、GCIB処理が中程度に平滑な表面をさらに平滑化するのではなく粗くすることがある。
【0013】
原位置薬剤送達に対するこの新たなアプローチに鑑み、穴の使用によって、薬剤を結合する、および/または植込み型装置からの薬剤の放出または溶出速度ならびに薬剤送達培地のその他の表面特徴を制御するために、ポリマー材料の採用の必要性を低減または排除しつつ、薬剤装填能力を高めることが望ましい。
【0014】
したがって、本発明の目的は、ビーム技術、好ましくはガスクラスタイオンビーム技術
または加速中性ビーム技術の使用によってポリマーを組み込む必要なく、相当量の薬剤を医療装置に塗布し、薬剤の溶出または放出速度を制御する手段を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、表面からの適時な薬剤放出を推進するように、薬剤の保持用の穴を設け、ビーム、好ましくはガスクラスタイオンビームまたは加速中性ビームで薬剤の表面を処理することによって医療装置の表面を薬剤送達システムに変換させることである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、外部(水または生物学的)流体の保持薬剤への拡散を遅延させるように、薬剤の保持用の穴を設け、ビーム、好ましくはガスクラスタイオンビームまたは加速中性ビームで薬剤の表面を処理することによって医療装置の表面を薬剤送達システムに変換させることである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、加速中性ビームの照射によって形成されるバリア層を採用することによって、薬剤送達を空間的および時間的制御下で相当量の薬剤を送達する薬剤送達システムである医療装置を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第7,208,011号公報
【特許文献2】米国特許第6,676,989号公報
【特許文献3】米国特許第6,491,800号公報
【特許文献4】米国特許第7,105,199号公報
【特許文献5】米国特許公開第2009/0074834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の上述の目的およびさらにその他の目的と利点は、以下に述べる発明によって達成される。
【0020】
本発明は、医療装置に薬剤含有穴を形成すること、含有穴に薬剤を導入すること、薬剤または薬品が放出または溶出される速度、および/または外部流体が表面層を通って下の薬剤に浸透する速度を制御することによってポリマー、コポリマー、またはその他の結合剤の必要性を排除し医療装置表面を薬剤送達システムに変換させるように、ビーム処理、好ましくはGCIBまたは加速中性ビーム処理を使用して含有薬剤の表面を変質させ、含有薬剤の表面層を変質させることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これにより、毒性、および剥離したポリマー剤が体内を移動することで生じる損傷の問題が防止される。薬剤充填穴を有し、別途塗布されるポリマーバリア層材料または薬剤−ポリマー(またはコポリマー)混合物を利用して薬剤放出または溶出速度を制御する上述の従来技術のステントと異なり、本発明は、薬剤放出植込み型医療装置を作製する際にポリマーまたはコポリマー結合剤またはバリア層の使用を完全に回避することができる。
【0022】
従来のエネルギーイオン、加速荷電原子または分子のビームは、半導体装置の接合を形成する、スパッタリングの表面を平滑化し、薄膜の特性を向上させるために広く利用されている。従来のイオンと異なり、ガスクラスタイオンは、材料(標準的な温度および圧力下ではガス状−一般的には、たとえばアルゴンなどの不活性ガス)の多数の(標準的な分布は数百〜数千、平均値は数千)弱く結合した原子または分子のクラスタから成り、クラスタは共通電荷を共有し、大きな電位差(約3kV〜約70kV以上)により共に加速されて高い総エネルギーを得る。弱く結合されているため、ガスクラスタイオンは表面との
衝撃時に分裂して、クラスタの総エネルギーは構成原子の間で共有される。このエネルギーのため、個々の共有原子は従来のイオンまたはクラスタ化イオンよりもエネルギーがかなり小さくなる結果、かなり浅くしか浸透しない。
【0023】
エネルギーガスクラスタイオン内の個々の原子のエネルギーは非常に小さく、通常は数eV〜数十eVであるため、原子は衝撃時に目標表面の多くてもほんの数個の原子層しか貫通しない。こうした衝突原子の浅い貫通(通常、ビーム加速に応じて数ナノメートル〜約10ナノメートル)は、クラスタイオン全体の担持する全エネルギーが1マイクロ秒の期間内に最上表面層にごくわずかの量しか離散しないことを意味する。これは、材料への浸透が時には数百ナノメートルに及び、材料の表面下深くの変化をもたらす従来のイオンビームと異なる。ガスクラスタイオンの高総エネルギーおよびごくわずかな相互作用量のため、衝撃部位での堆積エネルギー密度は従来のイオンによる衝突の場合よりもずっと大きい。このため、GCIBから得られるGCIBまたは加速中性ビームは薬剤のような有機材料の表面と相互作用して、約10ナノメートル以下の極浅表面層に大きな変化をもたらすことができる。このような変化は分子の架橋、表面層の分子、緻密化、表面層内の有機材料の炭化、ポリマー化、およびその他の形の変性を含むことができる。
【0024】
GCIBは、たとえばKirtpatrickらによる公開米国特許出願第2009/0074834A1に教示されるような既知の技術によりワークピースを照射するために生成および送信される。照射用のGCIBまたはその他の種類のビームの経路に対象を保持し、対象を操作または走査して対象の複数の部分にビームを照射させるための各種ホルダが当該技術において既知である。中性ビームは、本願に教示の技術によりワークピースを照射するために生成および送信することができる。
【0025】
本願で使用されるように、「薬剤」という用語は、略有益に活性化され、植込み型医療装置の近傍で局地的に放出または溶出させて、(たとえば、制限なく、潤滑剤の提供によって)装置の植込みを簡易化する、あるいは(たとえば、制限なく、生物学的または生化学的な活性化により)装置の植込みの好ましい医学上または生理学上の成果を促進することのできる治療薬または材料を意味することを目的とする。「薬剤」は、薬剤を結合する、薬剤に粘着性を提供する、薬剤を医療装置に付着させる、あるいはバリア層を形成して薬剤の放出または溶出を制御するために採用される薬剤とポリマーとの混合物を意味することを目的としていない。薬剤の分子を緻密化、炭化または部分的に炭化、部分的に変性、架橋または部分的に架橋、あるいは少なくとも部分的にポリマー化するようにイオンビーム照射によって変質させられている薬剤は、「薬剤」の定義に含まれると意図される。
【0026】
本願で使用されるように、「溶出」という用語は、対象者への医療装置の植込み後、溶媒、典型的には体液溶媒への薬剤の漸進的溶解によって、医療装置上または医療装置の穴に薬剤源から少なくとも部分的に溶解性のある薬剤材料が放出されることを意味することを目的とする。多くの場合、薬剤材料の溶解性は高いため、薬剤は所望するよりも急速に溶液に放出されて、望ましくないことに医療装置植込み後の薬剤の治療寿命を短縮させてしまう。薬剤の溶出速度または放出速度は、たとえば薬剤の溶解性、薬剤と溶媒間の露出表面積、または薬剤と溶解性を低減させる材料との混合物などの多数の要因に左右される。しかしながら、薬剤と溶媒間のバリア層または密閉層もまた薬剤の溶出または放出速度を変更する可能性がある。溶出による放出速度を遅延させて、植込み部位での治療影響の時間を延長させることが望ましい場合が多い。所望の溶出速度は、医療装置の当業者にとっては十分に既知である。本発明はデバイスでのそのような速度管理を強化している。たとえば、http://www.news−medical.net/health/Drug−Eluting−stent−Design.aspx(溶出時間)を参照。US第3,641,237号も具体的な薬剤溶出速度をいくつか教示している。Haeryら著「薬剤溶出ステント:再狭窄の最後の始まり?」、Cleveland Clinic Journal of Medicine、V71(10),(2004)の818ページ、第2欄の第5段落には、ステントの薬剤放出速度が詳述されている。
【0027】
本願で使用されるように、「拡散」という用語は、バリア層にわたって、またはバリア層を通って濃度勾配により材料を移送することを意味することを目的とする。バリア層にわたって拡散する流体(たとえば体液)は通常、流体が豊富な側からさほど豊富でない側へと分子レベルで移動する結果、層内に濃度勾配が生じる。
【0028】
本願で使用されるように、「ポリマー」という用語はコポリマーを含み、モノマーまたはポリマー形状のいずれかで略有効にポリマー化され生物活性のない材料を意味することを目的とする。代表的なポリマーは制限なく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリ乳酸カプロラクトン共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレン酸化物、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖、多糖誘導体、ポリヒアルロン酸、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、各種セルロース、ポリペプチド、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリ酸無水物、ポリヒドロキシアルカン酸塩、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリリン酸エステルを含むことができる。「ポリマー」という用語は、薬剤の分子をイオンビーム照射によって緻密化、炭化または部分的に炭化、部分的に変性、架橋または部分的に架橋、または少なくとも部分的にポリマー化するように変質された薬剤を含むことを目的としていない。
【0029】
本願で使用されるように、「穴」という用語は、植込み型医療装置の表面を貫通する任意の穴、空隙、窪み、谷、溝、凹み、凹部を意味することを目的とし、装置の一部を通って延在していてもよいし(貫通孔)、装置の一部にのみ延在していてもよいし(止まり穴または空隙)、略円筒状、矩形、またはその他の任意の形状をとることができる。
【0030】
本願で使用されるように、「GCIB」、「ガスクラスタイオンビーム」、「ガスクラスタイオン」という用語は、イオン化ビームおよびイオンだけでなく、加速後に電荷状態の全部または一部が変更される(中性化を含む)加速ビームおよびイオンを包含することを目的とする。「GCIB」および「ガスクラスタイオンビーム」という用語は、未クラスタ化粒子も含むにせよ、加速ガスクラスタイオンを備えるすべてのビームを包含することを目的とする。本願で使用されるように、「中性ビーム」という用語は、加速ガスクラスタイオンビームから得られる中性ガスクラスタおよび/または中性モノマーのビームを意味することを目的とし、加速はガスクラスタイオンビームの加速から生じる。本願で使用されるように、「モノマー」という用語は単独の原子または単独の分子のいずれも等しく指す。「原子」、「分子」、「モノマー」という用語は互換可能に使用することができ、これらすべてが当該ガスの特徴となる適切なモノマー(クラスタの成分、クラスタイオンの成分、または原子または分子)を指す。たとえば、アルゴンなどの一原子ガスを原子、分子、またはモノマーに関して言及することができ、それらの用語はそれぞれ単独の原子を意味する。同様に、窒素のような二原子ガスの場合、原子、分子、またはモノマーに関して言及することができ、それらの用語はそれぞれ二原子分子を意味する。さらに、COのような分子ガスを原子、分子、またはモノマーに関して言及することができ、それらの用語はそれぞれ三つの原子分子などを意味する。これらの定義は、ガス状の一原子、二原子、または分子のいずれであるかに関係なくガスおよびガスクラスタまたはガスクラスタイオンの総称に関する議論を単純化するために用いられる。
【0031】
従来のエネルギーイオン、加速荷電原子または分子のビームは、半導体装置の接合を形成する、スパッタリングの表面を変質させる、薄膜の特性を変更するために広く利用されている。従来のイオンと異なり、ガスクラスタイオンは、標準的な温度および圧力下ではガス状の(一般的には、たとえば酸素、窒素、またはアルゴンなどの不活性ガスだが、ガスクラスタイオンを生成する任意の凝縮性ガスが使用可能である)材料の多数の(標準的
な分布は数百〜数千、平均値は数千)弱く結合した原子または分子のクラスタから形成され、各クラスタは一つまたはそれ以上の電荷を共有し、大きな電位差(約3kV〜約70kVまたはそれ以上)により共に加速されて高い総エネルギーを得る。ガスクラスタイオンの形成および加速後、それらの電荷状態は変更させることができる、あるいは変更する(さらには中性化する)結果、より小さなクラスタイオンまたはモノマーイオン、および/またはより小さな中性化クラスタおよび中性化モノマーに断片化される、あるいは断片化を誘発されることがあるが、大きな電位差を通じて加速されるために比較的高い速度およびエネルギーを維持する傾向があり、エネルギーは断片全体に分配される。ガスクラスタイオンの形成および加速後、それらの電荷状態はその他のクラスタイオン、その他の中性クラスタ、または残りの背景ガス粒子との衝突によって変更させることができる、あるいは変更する(さらには中性化する)結果、より小さなクラスタイオンまたはモノマーイオン、および/またはより小さな中性化クラスタおよび中性化モノマーに断片化される、あるいは断片化を誘発されることがあるが、結果として生じるクラスタイオン、中性クラスタ、モノマーイオン、中性モノマーは大きな電位差を通じて加速されるために比較的高い速度およびエネルギーを維持する傾向があり、加速ガスクラスタイオンエネルギーは断片全体に分配される。
【0032】
加速ガスクラスタイオンが完全に解離して中性化されると、結果として生じる中性モノマーは、加速した時点における最初のガスクラスタイオンを備えたモノマーの数Nで最初の加速ガスクラスタイオンの総エネルギーを割ったものにほぼ等しいエネルギーを有する。このように解離した中性モノマーは、ガスクラスタイオンの最初の加速エネルギーと加速時のガスクラスタのサイズとに応じて、約1eV〜数十、さらには数千eVものエネルギーを有する。
【0033】
本発明は、様々な種類の表面および浅い表面下材料処理用に採用することができ、多数の用途で従来のGCIB処理よりも優れた性能を示す加速ガスクラスタイオンビーム、加速中性ガスクラスタビーム、および/または中性モノマービーム(好ましくは加速中性モノマービーム)から得られる高ビーム純度方法およびシステムを採用することができる。これは、約1eV〜数千eVもの範囲のエネルギーを有する粒子を備えた、十分に集束および加速された強力な中性モノマービームを提供することができる。このエネルギー範囲では、簡易で比較的安価な装置によって強力な中性ビームを形成することはこれまで非実用的であった。
【0034】
これらの加速中性ビームは、まず従来の加速GCIBを形成し、次に、ビームに不純物を導入しない方法および動作条件によって部分的にまたはほぼ全部を解離してから、ビームの残りの荷電部分を中性部分と分離することによって生成され、結果として生じる加速中性ビームがワークピース処理用に使用される。ガスクラスタイオンの解離の程度に応じて、生成される中性ビームは中性ガスモノマーとガスクラスタの混合物とすることができる、あるいは、すべてまたはほぼすべてが中性ガスモノマーから成ることができる。加速中性ビームは完全に解離した中性モノマービームであることが好ましい。
【0035】
本発明の方法および装置によって生成可能な中性ビームの利点は、GCIBを含むすべてのイオン化ビームで一般的に生じるようなビーム移送電荷による電気絶縁性材料表面の帯電により材料に損傷を与えずに該材料を処理するために使用できることである。たとえば、半導体およびその他の電子的用途では、イオンが酸化物、窒化物などの薄誘電膜の損傷または破壊的帯電に寄与することが多い。中性ビームを使用することで、イオンビームが表面またはその他の荷電作用により望ましくない副作用をもたらす用途において、ポリマー、誘電性および/またはその他の電気絶縁性または高電気抵抗材料、コーティング、膜に適切なビーム処理を施すことができる。たとえば、(制限なく)抗腐食コーティング処理や有機膜の照射架橋および/またはポリマー化などである。別の例では、中性ビーム
の誘発するポリマーまたはその他の誘電材料の改質(たとえば、殺菌、平滑化、表面生体適合性の向上、付着の向上、および/または薬剤の溶出速度の制御)を通じて、上記材料を植込み用医療装置および/またはその他の医療/手術用途で使用可能することができる。他の例は、上記ビームがたとえば粗度、平滑性、親水性、生体適合性などの表面特徴を向上させるのに使用することができる、ガラス、ポリマー、およびセラミック生体培養実験機器および/または環境サンプリング表面の中性ビーム処理である。
【0036】
加速中性ビームを本発明の方法および装置によって形成することのできる本特許のGCIBはイオンを備えるため、従来のイオンビーム技術を用いて所望のエネルギーまで容易に加速され、容易に集束される。その後の荷電イオンと中性粒子との解離および分離後、中性ビーム粒子は集束軌道を維持する傾向があり、良好な作用を保ち、長距離を移送させることができる。
【0037】
ジェット内の中性ガスクラスタは、電子衝突によってイオン化されると、加熱および/または励起される。この結果、イオン化ガスクラスタからモノマーが気化し、加速後、ビームラインを下っていく。また、イオン化装置、アクセラレータ、ビームライン領域でのガスクラスタイオンと背景ガス分子との衝突もガスクラスタイオンを加熱および気化する結果、加速後にガスクラスタイオからモノマーをさらに発生させる場合がある。これらのモノマー発生機構がGCIBを形成したものと同じガスの背景ガス分子(および/またはその他のガスクラスタ)と電子との衝撃および/または衝突で誘発されるとき、モノマー発生の際に生じる分離プロセスによって、ビームは汚染されない。
【0038】
ビームを汚染せずにGCIB内のガスクラスタイオンを解離させる(あるいはモノマーの発生を誘発する)ために採用可能な機構は他にもある。これらの機構のうちいくつかも、中性ガスクラスタビーム内の中性ガスクラスタを解離させるために採用することができる。一つの機構は、赤外線またはその他のレーザエネルギーを使用するクラスタ−イオンビームのレーザ照射である。レーザ照射GCIB内のガスクラスタイオンのレーザ誘発加熱はガスクラスタイオンを励起および/または加熱させ、ビームからさらにモノマーを発生させる。もう一つの機構は、輻射熱エネルギーフォトンがビームのガスクラスタイオンに衝突するように加熱管にビームを通過させることである。管内の輻射熱エネルギーによるガスクラスタイオン誘発加熱の結果、ガスクラスタイオンが励起および/または加熱されて、ビームからさらにモノマーを発生させる。別の機構では、GCIBの形成に使用されるソースガス(またはその他の非汚染ガス)と同一のガスまたは混合物のガスジェットにガスクラスタイオンビームを交差させることによって、ガスジェット内のガスのモノマーとイオンビーム内のガスクラスタとが衝突して、ビームのガスクラスタイオンを励起および/または加熱させ、励起されたガスクラスタイオンからさらにモノマーを発生させる。最初のイオン化中の電子衝突、および/またはビーム内の(他のクラスタイオンまたはGCIBを形成するのに使用されるのと同一のガスの背景ガス分子との)衝突、および/またはレーザまたは熱放射、および/またはGCIBの解離および/または断片化を生じさせる非汚染ガスの横断ジェット衝突に完全に依存することによって、他の材料との衝突によるビーム汚染が回避される。
【0039】
ノズルからの中性ガスクラスタジェットが、電子がクラスタをイオン化するように方向付けられるイオン化領域を移動していく間、クラスタは非イオン化状態を保つ、あるいは一つまたはそれ以上の電荷(入射電子によるクラスタからの電子の放射)の荷電状態qを得ることができる。イオン化装置動作状態は、ガスクラスタが特定の荷電状態をとる可能性に影響し、イオン化装置の状態が強力であるほど、より高い荷電状態が達成される可能性が高くなる。高イオン化効率につながる強力なイオン化装置状態は、より高い電子束および/またはより高い(限界内)電子エネルギーをもたらすことができる。いったんガスクラスタがイオン化されると、一般的には、イオン化装置から抽出され、ビームへと集束
され、電界を下ることによって加速される。ガスクラスタイオンの加速量は加速電界の大きさを制御することによって容易に制御される。通常、一般的な市販のGCIB処理ツールは調節可能な加速電位VAcc、たとえば約1kV〜70kV(しかしこの範囲に限定されず、最大200kVまたはそれ以上のVAccが実現可能である)を有する電界によってガスクラスタイオンを加速させる。よって、単独に荷電されたガスクラスタイオンは、1〜70keV(より大きいVAccが使用される場合はそれ以上)の範囲のエネルギーを達成し、複数で荷電された(たとえば、制限なく、荷電状態q=3電子電荷)ガスクラスタイオンは3〜210keV(VAccがより大きい場合はそれ以上)−のエネルギーを達成する。他のガスクラスタイオン荷電状態および加速電位の場合、クラスタ当たりの加速エネルギーはqVAcceVである。所与のイオン化効率を有する所与のイオン化装置から、ガスクラスタイオンはゼロ(未イオン化)〜6などのさらに高い値(またはイオン化装置効率がより高い場合はそれ以上)まで分布された荷電状態を有し、荷電状態分布の最も起こりやすい平均値もイオン化装置効率(電子束および/またはエネルギー)の上昇と共に増加する。イオン化装置効率が高い場合も、イオン化装置で形成されるガスクラスタイオンの数が増える。多くの場合、高効率でイオン化装置を動作する際にGCIB処理量が増大する結果、GCIB電流が増加する。このような動作のマイナス面は、中サイズのガスクラスタイオンで生じ得る複数の荷電状態がイオンによる孔および/または粗境界面の形成を引き起こし、これらの作用が処理の目的にとって逆効果に働く場合が多いことである。よって、多数のGCIB表面処理法では、イオン化装置動作パラメータの選択は単にビーム電流を最大化するよりも多くの考慮事項を含む傾向がある。プロセスによっては、「圧力セル」(米国特許第7,060,989号、Swensonらを参照)を採用して、高圧「圧力セル」内でのガス衝突によるビームエネルギーを穏やかにすることによって許容可能なビーム処理性能を得つつ、高イオン化効率でイオン化装置を動作させる。
【0040】
本発明では、高効率でイオン化装置を動作させることのマイナス面が発生しない。事実、このような動作が好ましいことがある。イオン化装置が高効率で動作するとき、イオン化装置によって生成されるガスクラスタイオンは幅広い荷電状態をとりうる。結果として、イオン化装置と加速電極間の抽出領域、およびビームの下流で、ガスクラスタイオンは幅広い速度を有する。このため、ビーム内のガスクラスタイオン間の衝突頻度が増し、通常は最も大きなガスクラスタイオンが高割合で断片化する。このような断片化はビーム内のクラスタサイズを再分配させ、小さなクラスタサイズの方に偏向させる。これらのクラスタ断片は新たなサイズ(N)に比例してエネルギーを保持するため、最初の非断片化ガスクラスタイオンの加速度をほぼ保持しつつエネルギーは小さくなる。衝突後の速度保持に伴うエネルギーの変化は実験で実証されている(たとえば、Toyoda,N.らの「クラスタサイズは残留ガスとの衝突後におけるガスクラスタイオンのエネルギーおよび速度分布に依存する」、Nucl.Instr.&Meth.in Phys.Research B 257(2007)、662〜665ページで報告されている)。さらに、断片化はクラスタ断片内の電荷も再配分させる。一部の非荷電断片が生じやすく、複数の荷電ガスクラスタイオンがいくつかの荷電ガスクラスタイオンと場合によってはいくつかの未荷電断片とに断片化されることがある。発明者の理解するところでは、イオン化装置の集束場と抽出領域の設計は、小さなガスクラスタイオンおよびモノマーイオンの集束を推進し、ビーム抽出領域および下流ビームにおける大きなガスクラスタイオンとの衝突の可能性を高めることによってガスクラスタイオンの解離および/または断片化に貢献する。
【0041】
本発明の一実施形態では、イオン化装置、加速領域、ビームラインの背景ガス圧は任意で、良好なGCIB送信のために通常利用される高圧を有するように構成することができる。この結果、ガスクラスタイオンから(最初のガスクラスタイオン化事象から生じる加熱および/または励起が招くよりも)さらにモノマーを発生させることができる。圧力は
、ガスクラスタイオンが背景ガス分子との複数の衝突を受けなければならないイオン化装置とワークピース間の十分に短い平均自由軌道および十分に長い飛行軌道を有するように構成することができる。
【0042】
N個のモノマーを含み、荷電状態qを有し、VAccボルトの電位低下を通じて加速された均一ガスクラスタイオンの場合、クラスタはモノマー当たり約qVAcc/NeVのエネルギーを有する。ただしNは加速時のクラスタイオン中のモノマーの数である。最も小さなガスクラスタイオンを除けば、イオンとクラスタソースガスと同一のガスの背景ガスモノマーとの衝突の結果、ガスクラスタイオンに約qVAcc/NeVが追加して蒸着される。このエネルギーは全ガスクラスタイオンエネルギー(qVAcc)と比べて相当小さく、通常はクラスタを励起または加熱させ、クラスタからモノマーをさらに発生させる。このような大きなクラスタと背景ガスとの衝突は滅多にクラスタを断片化せず、クラスタを加熱および/または励起して、気化または類似の機構によってモノマーを発生させると考えられる。励起源から生じたモノマーかガスクラスタイオンからのモノマーかにかかわらず、発生したモノマーはほぼ同一の粒子当たりのエネルギーqVAcc/NeVを有し、モノマーが発生したガスクラスタイオンとほぼ同じ速度と軌道を保持する。このようなモノマーの発生がガスクラスタイオンから生じるとき、最初のイオン化事象、衝突、または輻射加熱によるどの励起または加熱から生じたかにかかわらず、大きな残留ガスクラスタイオンと共に電荷が残る可能性が高い。よって、一連のモノマー発生後、大きなガスクラスタイオンは、場合によっては小さな残留ガスクラスタイオンと共に移動するモノマー群(断片化も生じている場合は数個の場合もある)まで還元させることができる。最初のビーム軌道に沿った共に移動するモノマーはすべて最初のガスクラスタイオンとほぼ同じ速度を有し、それぞれが約qVAcc/NeVのエネルギーを有する。小さなガスクラスタイオンの場合、背景ガスモノマーとの衝突エネルギーは小さなガスクラスタを完全に激しく解離させる可能性が高く、このような場合、結果として生じるモノマーがビームと共に移動し続けるのか,あるいはビームから放射されるのかは不確実である。
【0043】
GCIBがワークピースに到達する前に、ビーム中の残りの荷電粒子(ガスクラスタイオン、特に小中サイズのガスクラスタイオンといくらかの荷電モノマーだが、残りの任意の大きなガスクラスタイオンも含む)はビームの中性部分から分離されて、ワークピース処理用に中性ビームだけが残る。
【0044】
典型的な動作時、処理目標に送達されたフル(荷電プラス中性)ビームのパワーに対して中性ビーム成分のパワー部分は約5%〜95%であるため、本発明の分離方法および装置によって、フル加速荷電ビームのその運動エネルギーの部分を中性ビームであるターゲットに送達させることができる。
【0045】
ガスクラスタイオンの解離とそれによる高中性モノマービームエネルギーの生成は、1)より高い加速電圧で動作することによって推進される。このため、任意の所与のクラスタサイズでのqVAcc/Nが増大する。また、2)高イオン化装置効率で動作することによって推進される。これによりqを増大することによって任意の所与のクラスタサイズのqVAcc/Nが増大し、クラスタ間の荷電状態の差により、抽出領域におけるクラスタ−イオン衝突時のクラスタ−イオンが増大する。3)高イオン化装置、加速領域、またはビームライン圧力で動作する、あるいはビームを横断するガスジェットで、またはより長いビーム軌道で動作することによって推進される。これらはすべて所与のサイズのガスクラスタイオンの場合の背景ガス衝突の可能性を高める。4)ガスクラスタイオンからのモノマーの発生を直接促進するレーザ照射またはビームの輻射加熱で動作することによって推進される。5)より高いノズルガス流で動作することによって推進される。この結果、クラスタ化および場合によっては未クラスタ化ガスのGCIB軌道への輸送が推進され
て衝突が増し、モノマーをより発生させる。
【0046】
中性ビームの測定は、ガスクラスタイオンビームの場合簡便である電流測定によって実行することができない。中性ビームパワーセンサは、ワークピースに中性ビームを照射する際に線量測定を簡易化するために使用される。中性ビームセンサはビーム(または任意で、ビームの既知のサンプル)を捕捉する熱センサである。センサの温度上昇速度はセンサのエネルギービーム照射から生じるエネルギー束に関連する。熱測定は、センサに入射するエネルギーの熱再放射が原因のエラーを避けるためにセンサの限られた範囲の温度内で実行しなければならない。GCIBプロセスの場合、ビームパワー(ワット)はビーム電流(アンペア)×ビーム加速電圧VAccに等しい。GCIBがある期間(秒)ワークピースを照射すると、ワークピースが受け取るエネルギー(ジュール)はビームパワーと照射時間の積である。拡張領域を処理する際のこのようなビームの処理作用は、領域(たとえば、cm)全体に分散される。イオンビームの場合、照射イオン/cmに関して処理量を明示することが従来から好都合であった。その場合、イオンは加速時に平均荷電状態qを有し、各イオンがqVAcceV(eVは約1.6×10−19ジュール)のエネルギーを担持するようにVAccボルトの電位差を通じて加速されていることが既知である、あるいは推定される。よって、VAccによって加速されイオン/cmで明示される平均荷電状態qの場合のイオンビームの線量は、ジュール/cmで表される容易に算出可能なエネルギー量に相当する。本発明で利用されるような加速GCIBから得られる加速中性ビームの場合、加速時のqの値とVAccの値は、(後で形成され分離される)ビームの荷電部分と未荷電部分の両方で同一である。GCIBの二つ(中性および荷電)部分のパワーは各ビーム部分の質量に比例して分割される。よって、本発明で採用されるような加速中性ビームの場合、等しい面積が等しい時間照射されるとき、中性ビームによって蓄積されるエネルギー量(ジュール/cm)は必然的にフルGCIBによって蓄積されるエネルギー量よりも小さい。熱センサを使用してフルGCIBPGのパワーと中性ビームPのパワー(一般的にはフルGCIBの約5%〜95%と考えられる)を測定することによって、中性ビーム処理線量測定で使用される相殺係数を算出することができる。PがPのとき、相殺係数kは1/aである。よって、ワークピースがGCIBから得られる中性ビームを用いて処理される場合、時間はDイオン/cmの量を達成するのに必要なフルGCIB(荷電部分と中性ビーム部分を含む)の処理時間よりもk倍長く設定され、その場合、中性ビームとフルGCIBの両方によってワークピースに蓄積されるエネルギー量は同一である(ただし、二つのビームの粒子サイズの差異による処理作用の量的差異が原因で、結果は異なるかもしれない)。本願で使用されるように、このようにして相殺される中性ビーム処理線量は、Dイオン/cmの量と等価のエネルギー/cmを有すると説明されることがある。
【0047】
線量測定用の熱パワーセンサと組み合わせてガスクラスタイオンビームから得られる中性ビームを使用することは、多くの場合、ガスクラスタイオンと中性ガスクラスタおよび/または中性モノマーの混合物を不可避で含み、ビーム電流測定を用いて線量測定のために従来測定されるフルガスクラスタイオンビームあるいは捕捉または分流部分と比べて有利である。利点をいくつか次に述べる。
【0048】
1)線量測定は、ビームの総パワーが測定されるため、線量測定に熱センサを使用する中性ビームでより正確に行うことができる。線量測定に従来のビーム電流測定を採用するGCIBでは、線量測定にビームのイオン化部分の寄与のみが測定され採用される。GCIB装置の動作条件の分毎および環境毎の偏向によって、GCIBの中性モノマーおよび中性クラスタの部分が変動する場合がある。これらの変動は結果的に工程の変動を招き、線量測定がビーム電流の測定によって行われる際に制御性が低下する可能性がある。
【0049】
2)中性ビームを使用することで、ターゲット中性電子源を設ける必要なく、高絶縁性
材料、高電気抵抗材料(たとえば多数の薬剤)、電荷作用により損傷を受ける可能性のあるその他の材料などの任意の材料を処理し、イオン化ビームによってワークピースに送られる電荷によるワークピースの荷電を防ぐことができる。従来のGCIBを採用すると、電荷を低減するターゲット中性化が滅多に完全とならず、中性電子源自体、ワークピース加熱や、電子源での気化またはスパッタリングからの汚染などの問題を持ち込む場合が多い。中性ビームはワークピースに電荷を移送しないので、このような問題が軽減される。
【0050】
3)エネルギーモノマーイオンを中性ビームから分離する大開口高強度の磁石などの追加の装置が必要とされない。従来のGCIBの場合、エネルギーモノマーイオン(およびその他の小さなクラスタイオン)がワークピースに運ばれて貫入し深い損傷をもたらすリスクが大きく、粒子とビームとを分離するために高価な磁気フィルタが常に必要とされる。本発明の中性ビーム装置の場合、すべてのイオンをビームから分離して中性ビームを生成するために、全モノマーイオンが元から除去される。
【0051】
医療装置への薬剤の塗布はいくつかの方法で達成することができる。まず、たとえば金属、金属合金、セラミック、または多数のその他の材料から成る医療装置の表面を処理して、表面に一つまたはそれ以上の穴を形成する。次に、所望の薬剤を穴に蒸着させる。薬剤蒸着(穴装填)は噴射、浸漬、静電沈着、超音波噴射、蒸着、または離散液滴−オンデマンド流体噴射技術などの多数の方法のいずれかによって行うことができる。噴射、浸漬、静電沈着、超音波噴射、蒸着、または類似の技術が採用されるとき、従来のマスキングスキームを採用して蒸着を選択された位置に制限することができる。離散液滴−オンデマンド流体噴射は、正確な量の液体薬剤または溶液内薬剤を正確にプログラム可能な位置に導入できるため、好適な方法である。離散液滴−オンデマンド流体噴射は、(たとえば、制限なく)テキサス州プラノのMicroFab Technologies社製の市販の流体ジェットプリントヘッド噴射装置を用いて達成することができる。
【0052】
穴に薬剤を装填した後、本発明はイオンビーム照射、好ましくはGCIBまたは加速中性ビーム照射を使用して保持薬剤の極浅表面層を変質させて、表面膜上の拡散を制限するバリア特性を備えた薄表面膜を形成するように特性を変更すべく層内の薬剤を改変する。この結果、穴に保持される薬剤への水またはその他の体液の拡散速度、および穴からの薬剤溶出速度を制御することができる。バリア特性を有する表面膜となる薬剤の表面部分の変質は、薬剤の性質およびイオンビーム(好ましくは、GCIBまたは加速中性ビーム)処理の性質に応じて任意のいくつかの変質効果から成ることができる。可能な効果には、薬剤分子の架橋またはポリマー化、揮発性の高い原子を分子から排除することによる薬剤材料の炭化、薬剤の緻密化、溶解度、信頼性、および/または多孔度または拡散速度の低下を招くその他の形の変性などがある。
【0053】
上述したようなGCIBまたは加速中性ビーム表面改質を介した薬剤の塗布は合併症を低減させ、正真正銘のコスト節減と患者の生活の質の向上につながり、血栓症および再狭窄の問題を解決する。本発明の薬剤送達システムにおける送達に適した治療薬は、抗凝血剤、抗生物質、免疫抑制剤、血管拡張薬、抗多産薬、抗血栓剤、抗血小板剤、コレステロール降下薬、抗癌剤、およびそれらの組み合わせがあげられる
【0054】
本発明の一実施形態は、医療装置の表面の改質方法であって、医療装置の表面に一つまたはそれ以上の穴を形成するステップと、一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つに第一の薬剤を装填する第一装填ステップと、露出表面に第一のバリア層を形成するために、少なくとも一つの装填穴内の第一の薬剤の露出表面に第一の加速中性ビームを照射する第一照射ステップと、を備える方法を提供する。
【0055】
第一の加速中性ビームは第一のガスクラスタイオンビームから得ることができる。該方
法は、装填ステップの前に、第二のビームを形成するステップと、穴の少なくとも一部を清掃し、および/または穴の前記少なくとも一部の鋭利なまたはギザギザの縁部を除去するために、医療装置の前記一つまたはそれ以上の穴の少なくとも一部に第二のビームを照射する第二照射ステップと、をさらに備えることができる。第二のビームは加速中性ビームとすることができる。第二のビームはガスクラスタイオンビームとすることができる。加速中性ビームは加速ガスクラスタイオンビームから得ることができる。
【0056】
第一の照射ステップは、第一の薬剤分子を架橋する、第一の薬剤を緻密化する、第一の薬剤を炭化する、第一の薬剤をポリマー化する、または第一の薬剤を変性することによって、露出表面において第一の薬剤を変質させることにより第一のバリア層を形成することができる。第一の装填ステップは、噴射、浸漬、静電沈着、超音波噴射、蒸着、または離散液滴−オンデマンド流体噴射によって一つまたはそれ以上の穴に第一の薬剤を導入することを備えることができる。第一の装填ステップは、マスクを採用して、少なくとも一つまたはそれ以上の穴のうちどの穴に第一の薬剤が装填されるかを制御することを備えることができる。
【0057】
第一のバリア層は、少なくとも一つの装填穴への流体の内方拡散速度を制御することができる。一つまたはそれ以上の穴を所定パターンで表面に配置して、所定の分布プランにしたがい表面に第一の薬剤を分布することができる。該方法は、一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つに第一の薬剤と異なる第二の薬剤を装填する第二装填ステップをさらに備えることができる。一つまたはそれ以上の穴のうち少なくとも一つは、一つまたはそれ以上の穴のうち別の少なくとも一つの穴に装填される第二の量の第一の薬剤と異なる第一の量の第一の薬剤を装填することができる。
【0058】
第一装填ステップは少なくとも一つの穴を完全には充填しなくともよく、該方法は、少なくとも一つの不完全に充填された穴に第一のバリア層を覆う第二の薬剤を装填する第二装填ステップと、少なくとも一つの第二の装填穴内の第二の薬剤の露出表面に第二のバリア層を形成するために、少なくとも一つの第二の装填穴内の第二の薬剤の露出表面を第三のビームで照射する第三照射ステップと、をさらに備えることができる。第三のビームはガスクラスタイオンビームとすることができる。第三のビームは加速中性ビームとすることができる。第一のバリア層および第二のバリア層は、第一および第二の薬剤の溶出速度を異なって制御するために異なる特性を有することができる。第三のイオンビームは第三のガスクラスタイオンビームとすることができる。形成ステップはレーザ加工または集束イオンビーム加工によって一つまたはそれ以上の穴を形成することを備えることができる。
【0059】
本発明の別の実施形態は、一つまたはそれ以上の薬剤コーティング層を有する領域を備えた薬剤溶出医療装置であって、薬剤コーティング層のうち少なくとも一つが中性ビーム照射薬剤から形成されるバリア層を備え、バリア層がバリアをわたる材料流速を制御するように構成される薬剤溶出医療装置を提供する。領域は医療装置表面の穴内に配置することができる。材料流速は薬剤溶出速度とすることができる。材料流速は流体拡散速度とすることができる。装置は薬剤溶出ステントとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明の理解を深めるため、他のおよび追加の物体と共に添付図面を参照する。
【0061】
図1】GCIBを使用してワークピースを処理するための従来技術のGCIB処理装置1100の要素を示す概略図である。
図2】GCIBを使用してワークピースを処理するための別のGCIB処理装置1200の要素を示す概略図であり、イオンビーム走査とワークピース操作が採用されている。
図3】荷電ビームと非荷電ビームとを分離する静電偏向板を使用する、本発明の実施形態に係る中性ビーム処理装置1300の概略図である。
図4】中性ビーム測定に熱センサを使用する本発明の実施形態に係る中性ビーム処理装置1400の概略図である。
図5A】金属膜に関して、ビームの中性成分による処理が、フルGCIBまたはビームの荷電成分のいずれかを使用する処理と比べて膜の平滑化に優れるという処理結果を示す図である。
図5B】金属膜に関して、ビームの中性成分による処理が、フルGCIBまたはビームの荷電成分のいずれかを使用する処理と比べて膜の平滑化に優れるという処理結果を示す図である。
図5C】金属膜に関して、ビームの中性成分による処理が、フルGCIBまたはビームの荷電成分のいずれかを使用する処理と比べて膜の平滑化に優れるという処理結果を示す図である。
図5D】金属膜に関して、ビームの中性成分による処理が、フルGCIBまたはビームの荷電成分のいずれかを使用する処理と比べて膜の平滑化に優れるという処理結果を示す図である。
図6A】薬剤溶出医療装置を表すコバルト−クロムクーポン上の薬剤コーティングの比較を示す図であり、中性ビームでの処理がフルGCIBでの処理より優れた結果を挙げている。
図6B】薬剤溶出医療装置を表すコバルト−クロムクーポン上の薬剤コーティングの比較を示す図であり、中性ビームでの処理がフルGCIBでの処理より優れた結果を挙げている。
図7A図7Aは本発明の実施形態に採用され得る貫通穴付き冠状動脈ステントの図である。
図7B図7Bは明瞭化のため最近表面下の詳細を省略して簡略化した冠状動脈ステントの第二の図である。
図8】本発明の実施形態に採用され得る止まり穴付きの冠状動脈ステントの図である。
図9A】各種従来技術によるポリマーを採用した穴の装填を示す、従来技術ステントの従来技術の穴の図である。
図9B】各種従来技術によるポリマーを採用した穴の装填を示す、従来技術ステントの従来技術の穴の図である。
図9C】各種従来技術によるポリマーを採用した穴の装填を示す、従来技術ステントの従来技術の穴の図である。
図10A】本発明の実施形態に係るステントへの薬剤装填貫通穴の形成ステップを示す。
図10B】本発明の実施形態に係るステントへの薬剤装填貫通穴の形成ステップを示す。
図10C】本発明の実施形態に係るステントへの薬剤装填貫通穴の形成ステップを示す。
図10D】本発明の実施形態に係るステントへの薬剤装填貫通穴の形成ステップを示す。
図11A】本発明の実施形態に係るステントの薬剤装填止まり穴を形成するステップを示す。
図11B】本発明の実施形態に係るステントの薬剤装填止まり穴を形成するステップを示す。
図11C】本発明の実施形態に係るステントの薬剤装填止まり穴を形成するステップを示す。
図12A】本発明の実施形態に係る穴の縁部を処理する任意のステップを示す。
図12B】本発明の実施形態に係る穴の縁部を処理する任意のステップを示す。
図13】薬剤投与量制御のために本発明で採用可能な各種方法を示す、植込み型医療装置の表面の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
発明の詳細な説明
以下の説明では、簡潔化のため、上述の図の要素符号が、後述の図で説明なく使用される場合がある。同様に、上述の図に関して説明した要素が、後述の図で要素符号または追加の説明なく使用される場合がある。このような場合、類似の符号を付した要素は類似の要素であり、上述の特徴および機能を有し、本図面に示される要素符号を付していない要素の説明は、上述の図面に示される類似の要素と同一の機能を有する類似の要素を指す。
本発明の実施形態では、加速ガスクラスタイオンビームから得られる中性ビームが、薬剤などの絶縁性(およびその他の感応性)表面を処理するために採用される。
【0063】
加速GCIBから得られる加速低エネルギー中性ビーム
図1はGCIB処理装置1100の概略構造を示す。低圧容器1102はノズルチャン
バ1104、イオン化/加速チャンバ1106、処理チャンバ1108の三つの流体接続チャンバを有する。三つのチャンバは真空ポンプ1146a、1146b、1146cによってそれぞれ排気される。ガス保管シリンダ1111に保管される圧縮凝縮性ソースガス1112(たとえば、アルゴン)はガス測定バルブ1113および供給管1114を通って停滞チャンバ1116へと流れ込む。停滞チャンバ1116内の圧力(通常、数気圧)により、放射されたガスはノズル1110を介して略低圧の真空に放射され超音波ガスジェット1118を形成する。ジェット内の膨張から生じる冷却によって、ガスジェット1118の一部はそれぞれが数個から数千個の弱く結合した原子または分子から成るクラスタへと凝結する。ガススキマ開口1120は、クラスタジェットに凝結されなかったガス分子とクラスタジェットとを部分的に分離することによってガス流を下流チャンバへと制御するために採用される。下流チャンバ内の過剰な圧力は、ガスクラスタイオンの移送と、ビーム形成および送信のために採用され得る高電圧の管理とを阻害するために有害である。適切な凝縮性ソースガス1112はアルゴンおよびその他の凝縮性希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素、およびその他多くのガスおよび/またはガス混合物を含むがそれらに限定されない。超音波ガスジェット1118内のガスクラスタの形成後、ガスクラスタの少なくとも一部はイオン化装置1122でイオン化され、該装置は通常、一つまたはそれ以上の白熱フィラメント1124(またはその他の適切な電子源)からの熱放射により電子を生成して、電子を加速および方向付けてガスジェット1118内のガスクラスタと衝突させる電子衝撃イオン化装置である。電子とガスクラスタとの衝突によりガスクラスタの一部から電子が放射され、それらのクラスタを正イオン化させる。いくつかのクラスタは放射される二つ以上の電子を有し、複数でイオン化することができる。通常、加速後の電子数とそのエネルギーの制御は、起こり得るイオン化の数と、ガスクラスタの複数イオン化と単独イオン化との割合に影響を及ぼす。サプレッサ電極1142および接地電極1144はイオン化装置出口開口1126からクラスタイオンを抽出し、それらを所望のエネルギー(通常は数百V〜数十kVの加速電位)まで加速し集束させてGCIB1128を形成する。GCIB1128がイオン化装置出口開口126とサプレッサ電極1142間を横断する領域を抽出領域と称する。ガスクラスタを含有する超音波ガスジェット1118の軸(ノズル1110で決定)はGCIB1128の軸1154と略同一である。フィラメント電源1136は、イオン化装置フィラメント1124を加熱するフィラメント電圧Vを供給する。アノード電源1134は、フィラメント1124から放射される熱電子を加速して、熱電子にクラスタ含有ガスジェット1118を照射させてクラスタイオンを生成するアノード電圧Vを供給する。抑制電源1138はサプレッサ電極1142にバイアスをかける抑制電圧Vs(数百〜数千ボルト)を供給する。アクセラレータ電源1140は、VAccに等しい総GCIB加速電位となるように、サプレッサ電極114
2および接地電極1144に対してイオン化装置1122にバイアスをかける加速電圧VAccを供給する。サプレッサ電極1142はイオン化装置1122のイオン化装置出口開口1126からイオンを抽出し、不所望の電子が下流からイオン化装置1122に入るのを防止し、集束GCIB1128を形成する役割を果たす。
【0064】
GCIB処理によって処理されるワークピース1160、(たとえば)医療装置、半導体材料、光学素子、または他のワークピースは、GCIB1128の軌道に配置されるワークピースホルダ1162に保持される。ワークピースホルダは処理チャンバ1108に装着されているが、電気絶縁体1164によって電気的に絶縁されている。よって、ワークピース1160およびワークピースホルダ1162に衝突するGCIB1128は導線1168を通って線量プロセッサ1170へと流れる。ビームゲート1172は、軸1154に沿ったワークピース1160までのGCIB1128の送信を制御する。通常、ビームゲート1172は(たとえば)電気的、機械的、または電気機械的であるリンク機構1174によって制御される開放状態および閉鎖状態を有する。線量プロセッサ1170はビームゲート1172の開放/閉鎖状態を制御して、ワークピース1160およびワークピースホルダ1162が受け取るGCIBの線量を管理する。動作時、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を開放させて、ワークピース1160にGCIBを照射させる。通常、線量プロセッサ1170はワークピース1160とワークピースホルダ1162に到達するGCIB電流を統合して、積算GCIB照射線量を算出する。所定の線量で、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を閉鎖して、所定の線量に達した時点で処理を終了する。
【0065】
図2は、GCIBを使用するワークピース処理用の別のGCIB処理装置1200の要素を示す概略図であり、イオンビームの走査とワークピースの操作が採用されている。GCIB処理装置1200によって処理されるワークピース1160は、GCIB1128の軌道に配置されるワークピースホルダ1202に保持される。ワークピース1160の均一処理を達成するため、ワークピースホルダ1202は均一の処理に必要とされるようにワークピース1160を操作すべく設計される。
【0066】
非平面状、たとえば、球状またはカップ状、円形、不規則、またはその他の非平坦な構造を有するワークピース表面は、ビーム入射に対してある範囲内の角度で配向させて、ワークピース表面にとって最適のGCIB処理を達成することができる。処理の最適化と均一性のため、ワークピースホルダ1202は、処理対象の非平面上表面全体がGCIB1128と適切に整合して配向されるように完全に連接させることができる。より具体的には、処理されるワークピース1160が非平面状である場合、ワークピースホルダ1202は連接/回転機構1204によって回転運動1210で回転させ、連接運動1212で連接させることができる。連接/回転機構1204は縦軸1206(GCIB1128の軸1154と同軸である)を中心とした360度の回転と、軸1206と垂直な軸1208を中心とした十分な連接とを可能にし、ワークピース表面をビーム入射の所望の範囲内に維持する。
【0067】
特定の状況下では、ワークピース1160のサイズに応じて、走査システムは、大きなワークピースに均一な照射を行うことが望ましい。GCIB処理には必要ない場合が多いが、直交した二対の静電走査板1130および1132が使用されて、拡張処理領域全体にラスタまたはその他の走査パターンを生成する。このようなビーム走査が実行されると、走査ジェネレータ1156はリード対1159を通じて対の走査板1132にX軸走査信号電圧を、リード対1158を通じて対の走査板1130にY軸走査信号電圧を供給する。一般的に、走査信号電圧は、GCIB1128をワークピース1160の表面全体を走査する走査GCIB1148に集束させる、異なる周波数の三角波である。走査ビーム画定開口1214は走査領域を画定する。走査ビーム画定開口1214は導電性であり、
低圧容器1102の壁に電気的に接続され、支持部材1220によって支持される。ワークピースホルダ1202は可撓導線1222を介して、ワークピース1160およびワークピースホルダ1202を囲み、画定開口1214を流れる全電流を回収するファラデーカップ1216に電気的に接続される。ワークピースホルダ1202は連接/回転機構1204から電気的に隔離され、ファラデーカップ1216は絶縁体1218によって低圧容器1102から電気的に隔離され低圧容器1102上に搭載される。したがって、走査ビーム画定開口1214を通過する走査GCIB1148からの全電流はファラデーカップ1216に回収されて、導線1224を通って線量プロセッサ1170まで流れる。動作時、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を開放して、ワークピース1160のGCIB照射を開始する。通常、線量プロセッサ1170はワークピース1160およびワークピースホルダ1202とファラデーカップ1216に到達するGCIB電流を統合し、単位面積当たりの積算GCIB照射線量を算出する。所定の線量で、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を閉鎖して、所定線量が達成された時点で処理を終了する。所定線量の蓄積中、ワークピース1160は、所望の表面全体の処理を確保するように連接/回転機構1204によって操作することができる。
【0068】
図3は、本発明の実施形態に係る中性ビーム処理のために採用可能な典型例としての中性ビーム処理装置1300の概略図である。該装置は、GCIBの荷電部分と非荷電部分とを分離する静電偏向板を使用する。ビームラインチャンバ1107はイオン化装置、アクセラレータ領域、ワークピース処理領域を封入する。ビームラインチャンバ1107は高導電性を有するため、圧力は全体を通じてほぼ一定である。真空ポンプ1146bはビームラインチャンバ1107を排気する。ガスは、ガスジェット1118によって運ばれるクラスタ化ガスおよび非クラスタ化ガスの形状で、およびガススキマ開口1120を通じて漏れる追加の未クラスタガスの形状でビームラインチャンバ1107に流れ込む。圧力センサ1330は、ビームラインチャンバ1107から電気ケーブル1332を介して圧力センサコントローラ1334に圧力データを送信し、そこでビームラインチャンバ1107内の圧力が測定および表示される。ビームラインチャンバ1107内の圧力は、ビームラインチャンバ1107へのガス流と真空ポンプ1146bのポンピング速度とのバランスに依存する。ガススキマ開口1120の径、ノズル1110を通るソースガス1112流、真空ポンプ1146bのポンピング速度を選択することによって、ビームラインチャンバ1107内の圧力は設計とノズル流とによって決定される圧力Pに釣り合う。接地電極1144からワークピースホルダ162へのビーム飛行軌道はたとえば100cmである。設計および調節によって、Pは約6×10−5トル(8×10−3パスカル)とすることができる。よって、圧力とビーム軌道の長さの積は約6×10−3トル−cm(0.8パスカル−cm)であり、ビームのガス目標厚は平方センチメートル当たり約1.94×1014のガス分子であり、これはGCIB1128でガスクラスタイオンを解離するのに有効であると考えられる。VAccはたとえば 30kVとすることができ、GCIB1128はその電位で加速される。一対の偏向板(1302および1304)がGCIB1128の軸1154を中心にして配置される。偏向板電源1306は導線1308を介して正の偏向電圧Vを偏向板1302に供給する。偏向板1304は導線1312によって、電流センサ/ディスプレイ1310を通じて電気的に接地させることができる。偏向板電源1306は手動で制御可能である。Vは、ゼロ電圧からGCIB1128のイオン化部分1316を偏向板1304上に完全に偏向させるのに十分な電圧(たとえば数千ボルト)まで調節することができる。GCIB1128のイオン化部分1316が偏向板1304で偏向すると、結果として生じる電流Iは導線1312と表示用の電流センサ/ディスプレイ1310とを流れる。Vがゼロのとき、GCIB1128は偏向されずにワークピース1160およびワークピースホルダ1162へと移動する。GCIBビーム電流Iはワークピース1160およびワークピースホルダ1162上で回収され、導線1168および電流センサ/ディスプレイ1320を通って流れ接地する。Iが電流センサ/ディスプレイ1320に示される。ビームゲート1172はビームゲートコントローラ1336によってリンク機構1338を介して制御される。ビームゲートコントローラ1336は手動で、あるいは電気的または機械的に所定値によって時間を調整され、所定のインターバルでビームゲート1172を開放させることができる。使用時、Vはゼロに設定され、ワークピースホルダに衝突するビーム電流Iが測定される。所与のGCIBプロセス法での過去の経験に基づき、所与のプロセスでの最初の照射時間は、測定された電流Iに基づき決定される。Vは、すべての測定ビーム電流がIからIに移るまで増加され、IはVの増加と共に増加しない。この時点で、最初のGCIB1128の解離成分を備える中性ビーム1314がワークピースホルダ1162を照射する。その後、ビームゲート1172は閉鎖されて、ワークピース1160が従来のワークピース装填手段(図示せず)によってワークピースホルダ1162に配置される。ビームゲート1172は所定の最初の放射期間、開放される。照射インターバル後、ワークピースを調査し、測定されたGCIBビーム電流1Bに基づき中性ビーム処理時間を較正するように処理時間を必要に応じて調節することができる。このような較正プロセス後、追加のワークピースは較正被爆期間を用いて処理することができる。
【0069】
中性ビーム1314は、加速GCIB1128の最初のエネルギーの反復可能部分を含む。最初のGCIB1128の残りのイオン化部分1316は中性ビーム1314から除去され、接地偏向板1304によって回収される。中性ビーム1314から除去されるイオン化部分1316はモノマーイオンと中サイズのガスクラスタイオンを含むガスクラスタイオンとを含むことができる。イオン化プロセス中のクラスタ加熱、ビーム間衝突、背景ガス衝突、その他の原因(すべてがクラスタの侵食を招く)によるモノマー気化機構のため、中性ビームはほぼ中性モノマーから成り、分離された荷電粒子は大半がクラスタイオンである。発明者は、中性ビームの再イオン化と結果として生じるイオンの電荷質量比の測定とを含む適切な測定によってこのことを確認した。後で示すように、特定の優れた処理結果は、この中性ビームを用いてワークピースを処理することによって得られる。
【0070】
図4は、本発明の実施形態で採用され得るような、たとえば中性ビームの生成の際に使用される中性ビーム処理装置1400の概略図である。該装置は、中性ビームの測定用に熱センサを使用する。熱センサ1402は低伝熱性アタッチメント1404を介して、旋回軸1412に装着された回転支持アーム1410に装着される。アクチュエータ1408は可逆性回転運動1416を介して、熱センサ1402が中性ビーム1314またはGCIB1128を捕捉する位置と熱センサ1402がビームを捕捉しない停止位置1414との間で熱センサ1402を移動させる。熱センサ1402が停止位置(1414で示す)にあるとき、GCIB1128または中性ビーム1314はワークピース1160および/またはワークピースホルダ1162の照射用の軌道1406に沿ったままである。熱センサコントローラ1420は熱センサ1402の配置を制御し、熱センサ1402によって生成される信号の処理を実行する。熱センサ1402は電気ケーブル1418を通じて熱センサコントローラ1420と連通する。熱センサコントローラ1420は電気ケーブル1428を通じて線量測定コントローラ1432と連通する。ビーム電流測定装置1424は、GCIB1128がワークピース1160および/またはワークピースホルダ1162に衝突したときに導線1168に流れるビーム電流Iを測定する。ビーム電流測定装置1424は電気ケーブル1426を介して線量測定コントローラ1432にビーム電流測定信号を伝達する。線量測定コントローラ1432はリンク機構1434を介して送信される制御信号に従い、ビームゲート1172の開放および閉鎖状態の設定を制御する。線量測定コントローラ1432は電気ケーブル1442を介して偏向板電源1440を制御し、ゼロ電圧とGCIB1128のイオン化部分1316を偏向板1304に完全に偏向させるのに十分な正電圧との間で偏向電圧Vを制御することができる。GCIB1128のイオン化部分1316が偏向板1304に衝突すると、結果として生じる電流IDが電流センサ1422によって測定され、電気ケーブル1430を介して線量測定コントローラ1432に伝達される。動作時、線量測定コントローラ1432は熱センサ1402を停止位置1414に設定し、ビームゲート1172を開放し、フルGCIB1128がワークピースホルダ1162および/またはワークピース1160に衝突するようにVをゼロに設定する。線量測定コントローラ1432はビーム電流測定装置1424から送信されるビーム電流Iを記録する。次に、線量測定コントローラ1432は、熱センサコントローラ1420から中継されるコマンドに従いGCIB1128を捕捉するように熱センサ1402を停止位置1414から移動させる。熱センサコントローラ1420はセンサの熱容量と、温度が所定の測定温度(たとえば、70゜C)に上昇したときの熱センサ1402の測定した温度上昇速度とに基づき算出されるGCIB1128のビームエネルギー束を測定し、算出したビームエネルギー束を線量測定コントローラ1432に伝達し、線量測定コントローラ1432は熱センサ1402によって測定されたビームエネルギー束とビーム電流測定装置1424によって測定されたビーム電流の較正を算出する。次に、線量測定コントローラ1432は熱センサ1402を停止位置1414に停止させることによって熱三叉を冷却させ、GCIB1128のイオン化部分による電流Iがすべて偏向板1304に伝達されるまで、正Vを偏向板1302に印加するよう命じる。電流センサ1422は対応するIを測定し、それを線量測定コントローラ1432に伝える。また、線量測定コントローラは熱センサ1402を停止位置1414から移動させて、熱センサコントローラ420を介して中継されるコマンドに従い中性ビーム1314を捕捉する。熱センサコントローラ420は予め決定された較正係数と温度が所定の測定温度まで上昇したときの熱センサ1402の温度上昇速度とを用いて中性ビーム1314のビームエネルギー束を測定し、中性ビームエネルギー束を線量測定コントローラ1432に伝達する。線量測定コントローラ1432はセンサ1402で、中性ビーム1314エネルギー束の熱測定値とフルGCIB1128エネルギー束の熱測定値の比である中性ビーム部分を算出する。通常動作時、約5%〜約95%の中性ビーム部分が達成される。処理開始前に、線量測定コントローラ1432は電流Iも測定し、IとIの最初の値間の電流比を決定する。処理中、最初のI/I比を掛ける同時I測定をIの連続測定の代わりに使用して、線量測定コントローラ1432による処理の制御中に線量測定のために使用することができる。よって、線量測定コントローラ1432は、あたかもフルGCIB1128の実際のビーム電流測定が利用可能であるかのように、ワークピース処理中のビーム変動を相殺することができる。線量測定コントローラは中性ビーム部分を使用して、特定のビームプロセスの所望の処理時間を計算する。このプロセス中、処理時間は、プロセス中のビーム変動の修正のために較正I測定値に基づき調節することができる。
【0071】
図5A〜5Dは、金薄膜上のフルビームと電荷分離ビームとの比較作用を示す。実験環境では、シリコン基板に蒸着された金膜が、フルGCIB(荷電成分および中性成分)、中性ビーム(ビームから外へ偏向された荷電成分)、および荷電成分のみを含む偏向ビームで処理された。三つの状態はすべて同じ最初のGCIB30kV加速アルゴンGCIBから得られた。加速後のビーム軌道のガス目標厚は平方センチメートル当たり約2×1014のアルゴンガス原子であった。三つのビームそれぞれに関し、被爆は、平方センチメートル当たり2×1015のガスクラスタイオンのイオン量でフルビーム(荷電プラス中性)によって担持される総エネルギーに一致させた。各ビームのエネルギー束速度を熱センサを使用して測定し、各サンプルがフル(荷電プラス中性)GCIBと等価の総熱エネルギー束を受けるように確保するため処理時間を調節した。
【0072】
図5Aは、約2.22nmの平均粗度Raを有する蒸着金膜サンプルの原子間力顕微鏡(AFM)5ミクロン×5ミクロン走査と統計分析を示す。図5Bは、フルGCIBで処理された金表面のAFM走査を示し、平均粗度Raは約1.76nmに低減されている。図5Cは、ビームの荷電成分のみ(中性ビーム成分からの偏向後)を使用して処理された表面のAFM走査を示し、平均粗度Raは約3.51nmに増加されている。図5Dは、ビームの中性成分のみ(荷電成分が中性ビームから外へ偏向させられた後)を使用して処
理された表面のAFM走査を示す。平均粗度Raは約1.56nmまで平滑化される。フルGCIB処理サンプル(B)は蒸着膜(A)よりも滑らかである。中性ビーム処理サンプル(D)はフルGCIB処理サンプル(B)よりも滑らかである。ビームの荷電成分で処理されたサンプル(C)は蒸着された膜よりもかなり粗い。その結果が裏付けるように、ビームの中性成分が平滑化に寄与し、ビームの荷電成分が粗化に寄与する。
【0073】
図6Aおよび6Bは、薬剤溶出冠状動脈ステントの薬剤溶出速度を判定するのに使用されるコバルト−クロムクーポンに蒸着された薬剤膜のフルGCIB処理と中性ビーム処理との比較結果を示す。図13Aは、平方センチメートル当たり2x1015のガスクラスタイオンの照射線量で30kVのVAccを用いたアルゴンGCIB(荷電成分と中性成分を含む)加速のサンプルを示す。図13Bは、30kVのVAccを用いて加速されたアルゴンGCIBから得られる中性ビームを照射したサンプルを示す。中性ビームは30kV加速、平方センチメートル当たり2×1015ガスクラスタイオンと等価の熱エネルギー(ビーム熱エネルギー束センサによって判定される当量)で照射された。両サンプルの照射は、ビーム送信を可能とするため約50ミクロン径の円形開口アレイを有するコバルトクロム近似マスクを通じて実行された。図6Aは、マスクを通じてフルビームを照射されたサンプルの300ミクロン×300ミクロン領域の走査型電子顕微鏡写真である。図6Bは、マスクを通じて中性ビームを照射されたサンプルの300ミクロン×300ミクロン領域の走査型電子顕微鏡写真である。図6Aに示すサンプルは、マスクを通過した場所でフルビームによって生じた損傷とエッチングを明らかにしている。図6Bに示すサンプルには可視の作用は見られない。生理食塩水中の溶出速度試験では、図Bのサンプルのように処理されたサンプル(ただし、マスクなし)は図6Aのサンプルのように処理されたサンプル(ただし、マスクなし)と比べて優れた(遅延された)溶出速度を発揮した。この結果は、中性ビームでの処理が所望の溶出遅延効果に寄与する一方、フルビーム(荷電静電プラス中性成分)での処理が溶出速度作用に劣り(遅延が少ない)、エッチングによる薬剤重量損に寄与するという結論を裏付けている。
【0074】
図7Aは、本発明の実施形態で採用され得る貫通穴付きの拡張可能冠状動脈ステント100の斜視図である。発明者によって本発明は幅広い植込み型医療装置に適用可能だと理解されているが、説明のためステント100を一例として示す。ステント100は、拡張された、あるいは部分的に拡張された状態で示される拡張可能金属冠状動脈ステントである。拡張可能ステントは多数の構造で製造され、それぞれが様々な利点および欠点を有する。図7Aに示す構造は単純なダイヤモンド状メッシュであり、限定のためではなく本発明の説明を簡易にするために示されている。ステント100は支柱(たとえば110)と支柱110をつなぐ間隙(たとえば112)とを有する。ステント100はステントの内腔を形成する内表面(たとえば108Aおよび108Bで示す)と血管足場を形成する外表面(106で示す)とを有する。穴(たとえば102)は支柱に配置することができる。他の穴(たとえば104)は間隙に配置することができる。穴102および104は外表面106から内表面108Aおよび108Bに貫通する貫通穴である。支柱110および間隙112は、異なる構造のステントであれば、ステント拡張時に異なった影響を及ぼし得る異なる領域を有することができるという一般的な事実を示すように指示される。たとえば、ここに示すようなステント100では、間隙112の近傍に配置される特定の穴102は、間隙の穴104および間隙112からより遠くに配置されるその他の穴102よりも大きな張力を受けるであろう。当業者であれば、その他の構造のステントは、ステント拡張時に穴がより大きなまたは小さな張力を受ける位置を有することができると理解するであろう。図7Aでは、穴102および104は、支柱110および間隙112の大きさに比べて比較的大きい径を有するように図示されている。これらの相対的サイズは概念を明確化するために選択したもので、本発明を限定することを目的としていない。当業者であれば、ステント拡張時、図示されるよりも小さな径の穴は、図示されるような大きな穴よりも低度の張力を受けると理解するであろう。また、当業者であれば、穴がステン
トの特徴に応じて様々なサイズ、パターン、異なる位置をとることができ、どれも本発明の精神に含まれると理解するであろう。図7Aは、従来技術のステントに類似し、本発明を説明するのに適したステントを示す。
【0075】
図7Bは拡張可能冠状動脈ステント100の第二の図である。同一のステントであるが、明瞭化のために最近表面下(最も近い表面下)の詳細を省略して簡易化してある。すなわち、ステント100のより近い部分の背後に位置する内表面の部分108Bが明瞭化および簡略化のために図から省略される一方、内表面の部分108Aは図面に残っている。図7Bは、従来技術のステントに類似するが、本発明を説明するのに適したステントを示す。本発明によると、穴102、104はレーザ加工や集束イオンビーム加工などに任意の実用的な方法で形成することができる。
【0076】
図8は、本発明の実施形態に採用され得る止まり穴付きの拡張可能冠状動脈ステント200の斜視図である。本図は明瞭化のために最近表面下の詳細を省略することによって簡潔化されている。ステント200は、拡張された状態または部分的に拡張された状態で示される拡張可能金属冠状動脈ステントである。ステント200は支柱(たとえば210)と支柱210をつなぐ間隙(たとえば212)とを有する。ステント200はステントの内腔を形成する内表面208と血管足場を形成する外表面206とを有する。穴(たとえば202)は支柱に配置することができる。その他の穴(たとえば204)は間隙に配置することができる。穴202および204は外表面206から内表面208へと貫通せず、ステント壁の厚さの途中まで延在する止まり穴である。穴202および204は、支柱210および間隙212の大きさに比べて比較的大きい径を有するように図示されている。これらの相対的サイズは概念を明確化するために選択したもので、本発明を限定することを目的としていない。当業者であれば、ステント拡張時、図示されるよりも比較的小さな径の穴は、図示されるような大きな穴よりも低度の張力を受けると理解するであろう。また、当業者であれば、穴がステントの特徴に応じて様々なサイズ、パターン、深度、異なる位置をとることができ、どれも本発明の精神に含まれると理解するであろう。図8は、従来技術のステントに類似するが、本発明を説明するのに適したステントを示す。本発明によると、穴202、204はレーザ加工や集束イオンビーム加工などに任意の実用的な方法で形成することができる。
【0077】
図9Aは従来技術のステント100の従来技術の穴102の断面300Aを示し、ポリマーを採用することによって穴に薬剤を装填する従来技術の方法を表す。治療層304は薬剤または薬剤−ポリマー混合物から成る。ステント100の内表面108のバリア層302はポリマーを備え、ステントの内部(内腔)への治療層304の溶出を防止し溶出速度を制御することができる。ステント100の外表面106の第二のバリア層306はポリマーを備え、ステントの外部(血管足場)への治療層304の溶出速度を制御することができる。バリア層302および306は、ステントの外部からステントの穴に保持される治療層304への水またはその他の体液の拡散を制御または防止することもできる。バリア層302および306は生分解性または信頼性を有する材料として、包囲される治療層304の溶出を遅延させることができる。治療層304は薬剤あるいは薬剤とポリマーの混合物として、治療層304の溶出または放出速度をさらに遅延または制御することができる。
【0078】
図9Bは従来技術のステント100の従来技術の穴102の断面300Bを示し、ポリマーを採用することによって穴に複数層の薬剤を装填する従来技術の方法を表す。治療層308、312はそれぞれ薬剤または薬剤−ポリマー混合物から成り、類似のまたは異なる薬剤を備えることができる。ステント100の内表面108のバリア層302はポリマーを備え、ステントの内部(内腔)への治療層308の溶出を防止し溶出速度を制御する。ステント100の外表面106の第二のバリア層314はポリマーを備え、ステントの
外部(血管足場)への治療層312の溶出速度を制御する。第三のバリア層310はポリマーを備え、治療層308および312を分離し、治療層308および310の溶出を防止して溶出速度を制御することができる。バリア層302、310、314は、ステントの外部からステントの穴に保持される治療層308および312への水またはその他の体液の拡散を制御または防止することもできる。バリア層302、310、314はポリマーを備える生分解性または浸食可能材料として、包囲される治療層308および312の溶出を遅延させることができる。治療層308および312はそれぞれ薬剤あるいは薬剤とポリマーの混合物のいずれかとして、治療層308および312の溶出または放出速度をさらに遅延または制御することができる。
【0079】
図9Cは従来技術のステント200の従来技術の止まり穴202の断面300Cを示し、ポリマーを採用することによって穴に薬剤を装填する従来技術の方法を表す。治療層350は薬剤または薬剤−ポリマー混合物から成り、ステント200の外表面206のバリア層352はポリマーを備え、ステントの外部(血管足場)への治療層350の溶出速度を制御する。バリア層352は、ステントの外部からステントの穴に保持される治療層350への水またはその他の体液の拡散を制御または防止することもできる。バリア層352はポリマーを備える生分解性または浸食可能材料として、包囲される治療層350の放出を遅延させることができる。治療層350薬剤あるいは薬剤とポリマーの混合物として、治療材料の溶出または放出速度をさらに遅延または制御することができる。
【0080】
図10Aはステント支柱の断面400Aを示し、本発明の実施形態に係るステント100への薬剤装填貫通穴の形成ステップを表す。ステント100は貫通穴102を有する。ステントはステントの内腔を形成する内表面108と、ステントの血管足場部分を形成する外表面106とを有する。本発明の実施形態のステップとして、バリア層402が既知の技術によりステント100の内表面108に蒸着される。バリア層402は、ポリマーまたはその他の生体適合性バリア材料から形成することができる。
【0081】
図10Bはステント支柱の断面400Bを示し、図10Aに示すステップ後のステント100への薬剤装填貫通穴の形成ステップを示す。図10Bに示すステップでは、薬剤410はステント100の穴102に蒸着される。薬剤410の蒸着は噴射、浸漬、静電沈着、超音波噴射、蒸着、または好ましくは離散液滴−オンデマンド流体噴射技術などの任意の多数の方法により実行することができる。噴射、浸漬、静電沈着、超音波噴射、蒸着、または類似の技術が採用されるとき、蒸着をステントの穴、あるいは穴の一部または全部に制限するように従来のマスキングスキームを有効に使用することができる。離散液滴−オンデマンド流体噴射は、正確な量の液体薬剤または溶液内薬剤を正確にプログラミング可能な位置に導入することができるために好適な蒸着方法である。離散液滴−オンデマンド流体噴射は、(たとえば制限なく)テキサス州ピアノのMicroFab Technologies社製流体ジェットプリンタヘッド噴射装置を用いて達成することができる。薬剤410が液体または溶液内薬剤である場合、好ましくは次のステップに移る前に乾燥またはその他の方法で硬化される。乾燥または硬化ステップはたとえば焼成、低温焼成、または真空蒸着を含むことができる。
【0082】
図10Cはステント支柱の断面400Cを示し、図10Bに示すステップ後のステント100への薬剤装填貫通穴の形成ステップを表す。図10Cに示すステップでは、ステント100の穴102に蒸着された薬剤410にビーム408、好ましくはGCIBまたは加速中性ビームが照射されて、薬剤410の薄い上側領域が変質して薄バリア層412を形成する。薄バリア層412は、薬剤410の薄最上層で緻密化、炭化または部分的に炭化、変性、架橋、または前記薬剤の分子をポリマー化するように変質された薬剤410から成る。薄バリア層412は約10ナノメートル以下の厚さを有することができる。表面を改質する際、加速クラスタイオン、加速中性クラスタ、または加速中性モノマーの形状
の好ましくはアルゴンまたは他の不活性ガスを備えるビーム408が採用される。ビーム408は好ましくは、5kV〜50kV以上の加速電位で加速される。コーティング層は好ましくは、平方センチメートル当たり少なくとも約1x1013のガスクラスタイオンのGCIB線量(または中性ビームの場合、熱ビームエネルギー束センサによって判定されるエネルギー当量)で照射される。ビーム408の線量および/または加速電位を選択することによって、ステント100が植え込まれ拡張されたときに放出または溶出速度および/または水および/またはその他の体液の内方拡散速度を制御するように薄バリア層412の特徴を調節することができる。概して、加速電位を増大させると形成される薄バリア層の厚さが増し、GCIBまたは中性ビーム線量を変更すると、結果として生じる架橋、緻密化、炭化、変性、および/またはポリマー化の程度が変化して薄バリア層の性質が変化する。これは、薬剤がバリアを通じて放出または溶出する速度、および/または水および/または体液が外側から薬剤内へと拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0083】
図10Dはステント支柱の断面400Dを示し、図10Cに示すステップ後のステント100の薬剤装填貫通穴を示す。図10Dでは、薬剤を蒸着し、GCIBまたは加速中性ビーム照射を利用して薬剤表面に薄バリア層を形成するステップが、図10Cに示す段階後、(たとえば)あと2回繰り返される。図10Dは追加の薬剤層(414および418)と追加のビーム形成薄バリア層416および420とを示す。薬剤410、414、418は同一の薬剤材料であってもよいし、異なる治療様式での異なる薬剤であってもよい。薬剤410、414、418の層の厚さは異なるように示されており、異なる薬剤投与量を個々の層に蒸着させることができることを示す。もしくは、厚さ(および投与量)は一部または全部の層で同一にすることができる。また、各薄バリア層412、416、420の特性は、上述するようにGCIBまたは加速中性ビーム特性を制御することによって、各バリア層形成照射ステップでGCIBまたは加速中性ビーム特性を選択することで個々に調節することができる。図10Dは三つの薬剤層が装填された穴を示しているが、穴深度および薬剤蒸着能力の制限内で、本発明の精神の範囲内で一つから非常に多数の層まで自由に利用できる。GCIBまたは加速中性ビーム処理によって形成し得る極薄バリア層と、たとえば離散液滴−オンデマンド流体噴射技術によってごく少量の薬剤を蒸着できる能力とにより、多数の数十または数百の層が可能となる。各薬剤層は異なるまたは類似の薬剤材料であってもよいし、適合性のある薬剤の混合物であってもよいし、量がより多くても少なくてもよく、薬剤送達システムの治療作用と、一つまたはそれ以上の薬剤の順序および溶出速度においてより高い柔軟性と制御性を提供する。
【0084】
図10Dに示す薬剤送達システムは従来技術のシステムを改良したものだが、ポリマーまたはその他の生体適合性バリア材料から成る従来のバリア層402を利用するという事実がある。ステントの場合、たとえば、非拡張ステントの内部(内腔)表面のビーム処理によってバリア層を形成することが通常簡単ではない。よって、従来のバリア層402が通常は必要とされる。ポリマーの使用は、バリア層402の形成にその他の生体適合性材料を採用することによって回避することができる。しかしながら、その場合でも、後で材料が剥離して不所望の原位置放出となるリスクが存在する。図5A、5B、5Cは、こうした従来のバリア材料を使用する不所望の必要性を回避する別の本発明の実施形態を示す。
【0085】
図11Aはステント支柱の断面500Aを示し、本発明の実施形態に係るステント200に薬剤装填止まり穴を形成するステップを表す。ステント200は止まり穴202を有し、ステントはステントの内腔を形成する内表面208と、ステントの血管足場部分を形成する外表面206とを有する。本発明の実施形態のステップとして、薬剤502がステント200の穴202に蒸着される。図示しないが、任意で、穴202に薬剤502を蒸着する前に、GCIBまたは加速中性ビーム清掃工程を採用して穴202の表面を清掃することができる。薬剤502の蒸着は上述の方法のいずれであってもよい。離散液滴−オ
ンデマンド流体噴射は、正確な量の液体薬剤または溶液内薬剤を正確にプログラム可能な位置に導入できるため、好適な蒸着方法である。薬剤502が流体または溶液内薬剤である場合、好ましくは次のステップに移る前に乾燥またはその他の方法で硬化される。乾燥または硬化はたとえば焼成、低温焼成、または真空蒸着を含むことができる。
【0086】
図11Bはステント支柱の断面500Bを示し、図11Aに示すステップ後のステント200への薬剤装填止まり穴の形成ステップを表す。図11Bに示すステップでは、ステント200の穴202に蒸着された薬剤502にビーム504、好ましくはGCIBまたは加速中性ビームが照射されて、薬剤502の薄上側領域が変質して薄バリア層506を形成する。薄バリア層506は、薬剤502の薄最上層で過密化、炭化または部分的に炭化、変性、架橋、または前記薬剤の分子をポリマー化するように変質された薬剤502から成る。薄バリア層506は約10ナノメートル以下の厚さを有することができる。表面を改質する際、加速クラスタイオン、加速中性クラスタ、または加速中性モノマーの形状の好ましくはアルゴンまたは他の不活性ガスを備えるビーム504が採用される。ビーム504は好ましくは5kV〜50kV以上の加速電位で加速される。コーティング層は好ましくは、平方センチメートル当たり約1x1013のガスクラスタイオンのGCIB線量(または中性ビームの場合、熱ビームエネルギー束センサによって判定されるエネルギー当量)を照射される。ビーム504の線量および/または加速電位を選択することによって、ステント200が植え込まれ拡張されたときに溶出速度および/または水および/またはその他の体液の内方拡散速度を制御するように薄バリア層506の特徴を調節することができる。概して、加速電位を増大させると形成される薄バリア層の厚さが増大し、GCIBまたは加速中性ビーム線量を変更すると、結果として生じる架橋、緻密化、炭化、変性、および/またはポリマー化の程度が変化して薄バリア層の性質が変化する。これは、薬剤がバリアを通じて放出または溶出する速度、および/または水および/または体液が外側から薬剤内へと拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0087】
図11Cは、本発明の実施形態に係る複数の薬剤層を有するステント200の薬剤装填止まり穴の断面500Cを示す。図5Aおよび5Bを参照して上述したように、薬剤を蒸着し、イオンビーム照射を使用して薄バリア層を薬剤表面に形成するステップが(たとえば)連続して3回適用されて、三つの薬剤510、514、518を装填した止まり穴202を形成し、各薬剤は、好ましくはGCIBまたは加速中性ビームの照射によって形成される薄バリア層512、516、520をそれぞれ有する。薬剤510、514、518は同一の薬剤材料とすることができる、あるいは異なる治療様式での異なる薬剤とすることができる。薬剤510、514、518の層の厚さは異なるように図示されており、異なる薬剤投与量を個々の層に蒸着することができることを示す。もしくは、厚さ(および投与量)は層の一部または全部で同一とすることができ、薄バリア層512、516、520のそれぞれの特性は、上述したようにGCIBまたは加速中性ビーム特性を制御することによって各バリア層形成照射ステップでビーム特性を制御して個々に調節することができる。薬剤の三つの層が示されているが、穴深度および薬剤蒸着能力の制限内で、本発明の精神の範囲内で一つから非常に多数の層まで自由に利用できる。
【0088】
図12Aは、植込み型医療装置(たとえばステント200)の止まり穴の一部の断面600Aを示し、穴202がレーザ加工によって形成された結果、加工プロセスから生じる鋭利な、または(図示されるような)ギザギザの縁部602ができている。大半の場合、このような鋭利な縁部やギザギザは植込み型医療装置には望ましくない。GCIBまたは加速中性ビーム処理は、穴への薬剤の装填と薄バリア層の形成(上述したように)に先立って、このようなギザギザや鋭利な縁部を除去するために有利に採用することができる。
【0089】
図12Bは、GCIBまたは加速中性ビーム処理によって鋭利なまたはギザギザの縁部602を除去し円滑な縁部606を形成するため、ビーム604、好ましくはGCIBま
たは加速中性ビームでの照射によって処理されたステント200の穴202の断面600Bを示す。加速クラスタイオン、加速中性イオン、または加速中性モノマーの形状の好ましくはアルゴン、他の不活性ガス、酸素、または窒素を備えるビーム604が採用される。ビーム604は好ましくは、5kV〜50kV以上の加速電位で加速される。コーティング層は好ましくは、平方センチメートル当たり約1x1015〜約1x1017のガスクラスタイオンからのGCIB線量(または中性ビームの場合、熱ビームエネルギー束センサによって判定されるエネルギー当量を有する線量)を被爆される。GCIB604の線量および/または加速電位を選択することによって、GCIB604のエッチング特徴を調節して、平滑な縁部606を形成する際のエッチング量および平滑化を制御する。概して、加速電位および/またはGCIBまたは加速中性ビームを増加させることで、エッチング速度が増大する。
【0090】
図13は本発明の多様性および柔軟性を表す様々な薬剤装填穴706、708、710、712、714を有する非ポリマー植込み型医療装置の部分702の表面704の断面700を示す。植込み型医療装置はたとえば血管ステント、人工関節補綴物、心臓ペースメーカ、またはその他の任意の植込み型非ポリマー医療装置のいずれであってもよく、必ずしも血管または冠状動脈ステントのような薄壁装置である必要はない。穴はすべて、各穴の一つまたはそれ以上の薬剤層上に、本発明により形成される薄バリア層740を有する。簡潔にするため、図13のすべての薄バリア層に参照符号を付していないが、穴714は薄バリア層740(穴714の薄バリア層740のみに参照符号が付されているが、図13の陰影領域は薄バリア層を表し、以下すべてのバリア層を例示の参照符号740で言及する)で被覆された第一の薬剤736を含有するように図示されている。穴706は薄バリア層740で被覆される第二の薬剤716を含有する。穴708は薄バリア層740で被覆される第三の薬剤720を含有する。穴710は薄バリア層740で被覆される第4の薬剤738を含有する。穴712は第5、第6、第7の薬剤728、726、724を含有し、各薬剤は薄バリア層740で被覆される。それぞれの薬剤716、720、724、726、728、736、738は異なるまたは同一の組み合わせにおいて、異なる薬剤材料であるように選択することができる、あるいは同一の薬剤材料とすることができる。各薄バリア層740は、上述のビーム(好ましくはGCIBまたは加速中性ビーム)処理原理により溶出または放出速度および/または水またはその他の体液の 内方拡散速度を制御するため同一のまたは異なる特性を有することができる。穴706および708は同一の幅および充填深度718を有するため、同一量の薬剤を保持するが、薬剤716および720は異なる治療様式での異なる薬剤とすることができる。穴706および708にそれぞれ対応する薄バリア層740は、穴706および708に含有される薬剤に対して同一のまたは異なる溶出、放出、または内方拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。穴708および710は同一の幅だが異なる充填深度718および722を有するため、異なる投与量に対応する異なる薬剤装填量を含有する。穴708および710にそれぞれ対応する薄バリア層740は、穴708および710に含有される薬剤に対して同一または異なる溶出、放出、または内方拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。穴710および712は同一の幅730と同一の充填深度722を有するため、同じ総装填量の薬剤を含有するが、穴710には薬剤738の単独の層が充填され、穴712には薬剤724、726、728の複数の層が充填され、各層は同一または異なる投与量を表す同一または異なる量の薬剤であってもよく、さらに異なる治療様式での異なる薬剤材料であってもよい。穴710および712の各薄バリア層740は、穴に含有される薬物に対して同一または異なる溶出、放出、または内方拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。穴708および714は同一の充填深度718を有するが、異なる幅を有するため、異なる量および投与量の薬剤720および736を含有する。穴708および714にそれぞれ対応する薄バリア層740は、穴708および714に含有される薬剤に対して同一または異なる溶出、放出、または内方拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。植込み型医療装置の表面704の全体的な穴パターンと穴732間の間隔とは、植込み型医療装置の表面にわたる薬剤投与量の空間分布を制御するように選択することができる。よって、本発明の薬剤送達システムによって送達される薬剤の種類、投与量、投与量の空間的分布、時間放出順序、放出速度、放出速度時間プロファイルを制御するにあたって、本発明の適用には多数の柔軟な選択肢がある。
【0091】
本発明を各種実施形態に関して説明したが、本発明の精神と範囲内で幅広い追加の実施形態およびその他の実施形態も可能であると理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13