【文献】
Momoi, M., et al.,SLI1 (YGR212W) is a major gene conferring resistance to the sphingolipid biosynthesis inhibitor ISP-1, and encodes an ISP-1 N-acetyltransferase in yeast,Biochem J,2004年,381,321-328
【文献】
REFSEQ [online], Accession No. XP_002493741,<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/254573264?sat=46&satkey=20681388>22-JUL-2009 uploaded, De Schutter,K. et al.,Definition: N-acetyltransferase, confers resistance to the sphingolipid biosynthesis inhibitor myriocin (ISP-1) [Komagataella phaffii GS115].,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/254573264?sat=46&satkey=20681388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
培地に、ペンタデカン酸アルキルエステル又はヘプタデカン酸アルキルエステル又はノナデカン酸アルキルエステルを添加し、スフィンゴイドの炭素鎖長が19であるアセチル化スフィンゴイドを製造する請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質はL-セリンとパルミトイル-CoAなどのアシルCoAとの縮合反応から始まる生合成により合成される。その基本構造となるスフィンゴイド塩基は、主として炭素鎖長18の分子として合成され、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン(スフィンガニン)、6−ヒドロキシスフィンゴシンなどが知られている。これらスフィンゴイド塩基と脂肪酸がアミド結合することでセラミドが合成される。
【0003】
スフィンゴ脂質は多くの生理機能を有している。特にセラミドおよびスフィンゴイド塩基は皮膚の保湿機能、バリア機能に関与し、皮膚からの水分蒸散を防止し、外界からの様々な刺激から人体を守る役割を担っている。また、フィトスフィンゴシンは、黄色ブドウ球菌(
Staphyrococcus aureus)、化膿レンサ球菌(
Streptococcus pyogenes)、ミクロコッカス菌 (
Micrococcus luteus)、アクネ菌(
Propionibacterium acnes)、カンジダ症原因菌(
Candida albicans)、汗疱状白癬菌(
Trichophyton mentagrophytes)に対する増殖阻害効果が報告されており(非特許文献1、2)、とくにフィトスフィンゴシンのアクネ菌に対する抗菌効果はマクロライド系抗生物質の一つであるエリスロマイシンの効果よりも高いことが知られている(非特許文献3)。
【0004】
セラミドやスフィンゴイド塩基は、化粧によって補うことで皮膚性状を改善させる効果があることが知られ、また、フィトスフィンゴシンやそのアセチル化物であるテトラアセチルフィトスフィンゴシンは、皮膚に塗ると皮膚に浸透し、セラミドに転換されることが確認されている(特許文献1)。よって、セラミドやスフィンゴイド塩基又はアセチル化フィトスフィンゴシンは外用による皮膚性状改善効果、感染原因菌の増殖抑制効果が期待されている。
【0005】
また、近年皮膚のセラミド組成を詳細に解析する技術が構築され、脂肪酸とスフィンゴイドの組み合わせにより12型340種以上の分子種が存在することが分かっている(非特許文献4)。例えば飽和型脂肪酸とフィトスフィンゴシンが組み合わされたNP型セラミドとしては、炭素鎖長23〜30脂肪酸および炭素鎖長16〜26のフィトスフィンゴシンの組み合わせで検出され、脂肪酸とフィトスフィンゴシンの炭素鎖長の合計が40〜52の分子が存在すること、飽和型脂肪酸とスフィンゴシンが組み合わされたNS型セラミドとしては炭素鎖長16〜30の脂肪酸および炭素鎖長16〜26のスフィンゴシンの組み合わせで検出され、脂肪酸とスフィンゴシンの炭素鎖長の合計が40〜54の分子が存在することなどが知られている(非特許文献4)。健常な皮膚では鎖長の長いセラミドが多く存在するが、荒れた皮膚ではセラミド量が減少する他、より鎖長の短いセラミド量が増加することが知られている(非特許文献5)。このことから鎖長の長いセラミド又はスフィンゴイド塩基の有用性が期待されている。
【0006】
しかしながら現在市販されているセラミドやスフィンゴイド塩基又はアセチル化フィトスフィンゴシンは、1kgあたり数万円〜数十万円と非常に高価であり、またその炭素鎖長はNP型セラミドおよびNS型セラミドでは34、36又は40、フィトスフィンゴシンおよびスフィンゴシンでは18など、限られた鎖長の分子しか提供されていない。
【0007】
セラミドおよびスフィンゴイド塩基の生産法として、動物および植物由来スフィンゴ脂質は分離精製が困難なため、近年、酵母による発酵を用いたスフィンゴ脂質の生産法の開発が進められている。候補酵母株として、ピチア シフェリイ(
Pichia ciferrii;現在はウィッカーハモミセス シフェリイ(
Wickerhamomyces ciferrii))、カンジダ ユチリス(
Candida utilis)およびサッカロミセス セレビシエ(
Saccharomyces cerevisiae)などが挙げられているが、テトラアセチルフィトスフィンゴシンを菌体外に分泌するウィッカーハモミセス シフェリイを利用してテトラアセチルフィトスフィンゴシンを得る方法の開発が積極的に進められている(特許文献6)。本方法で生産されるアセチル化フィトスフィンゴシンの炭素鎖長は主に18であり、脱アセチル化してフィトスフィンゴイシンとして、または化学合成で脂肪酸とアミド結合させてセラミドとして利用されている。
【0008】
斯かるウィッカーハモミセス シフェリイにおけるテトラアセチルフィトスフィンゴシン合成の律速段階は、生合成経路のin vitro解析より、セリンとパルミトイル−CoAの縮合反応及びフィトスフィンゴシンのアセチル化反応であることが明らかにされ(非特許文献7)、アセチル化酵素としてSLI1とATF2の二つが見出されている。このうち、SLI1は、サッカロマイセス セルビシエにおいて、これを発現させた場合にトリアセチルフィトスフィンゴシンを産生することから(非特許文献6)、フィトスフィンゴシンの3つの水酸基及び1つのアミノ基のうちの何れか3箇所のアセチル化に関与すると考えられている。
【0009】
一方、スターメレラ(Starmerella)属微生物、例えばスターメレラ ボンビコーラ(Starmerella bombicola)、旧学名カンジダ ボンビコーラ(Candida bombicola)は著量の糖脂質であるバイオサーファクタントを細胞外に生産でき、高い脂質利用性を有する微生物として知られている(非特許文献8)。しかし、該微生物はセラミド又はスフィンゴ脂質の生産についてはほとんど知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、アミノ酸配列間の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。具体的には、リップマン−パーソン法(Lipman-Pearson法;Science, 227, 1435, (1985))によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出できる。
【0018】
また、遺伝子とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨であり、またその長さに何ら制限されるものではない。また、ポリヌクレオチドとしては、RNA、DNAを例示でき、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAを包含する。
また、本明細書では、スフィンゴイドをアセチル化する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をアセチルトランスフェラーゼ遺伝子ともいい、SLI1をコードする遺伝子をSLI1遺伝子ともいう。
さらに、本明細書において異種生物由来とは、スターメレラ属以外に分類される微生物若しくは生物由来であることを意味する。
【0019】
本発明において、「スフィンゴイド」としては、下記の基:
【0021】
を有する炭素鎖長が18〜20の長鎖アミノアルコールが挙げられ、例えば、炭素鎖長が18のスフィンゴイドとしては(2S,3S,4R)−2−アミノオクタデカン−1,3,4−トリオール(フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−オクタデセン−1,3−ジオール(スフィンゴシン)、(2S,3R)−2−アミノオクタデカン−1,3−ジオール(スフィンガニン)、炭素鎖長が19のスフィンゴイドとしては(2S,3S,4R)−2−アミノノナデカン−1,3,4−トリオール(C19フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−ノナデセン−1,3−ジオール(C19スフィンゴシン)、(2S,3R)−2−アミノノナデカン−1,3−ジオール(C19スフィンガニン)、炭素鎖長が20のスフィンゴイドとしては(2S,3S,4R)−2−アミノイコサン−1,3,4−トリオール(C20フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−イコセン−1,3−ジオール(C20スフィンゴシン)、(2S,3R)−2−アミノイコサン−1,3−ジオール(C20スフィンガニン)などが挙げられ、このうち炭素鎖長19〜20のフィトスフィンゴシンが好ましく、さらに、炭素鎖長20のフィトスフィンゴシンがより好ましい。
【0022】
本発明において、スターメレラ属微生物に導入される遺伝子は、スターメレラ属以外に分類される微生物若しくは生物が有する、スフィンゴイドのアセチル化活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であれば良い。好ましくは、ウィッカーハモミセス シフェリイ、サッカロマイセス セレビシエ、またはピチア パストリスから見出され、SLI1と命名されたアセチルトランスフェラーゼ、並びに当該ポリペプチドから演繹されるポリペプチド、具体的には、以下の(a)〜(i)から選ばれるアミノ酸配列からなり、且つアセチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(e)配列番号4で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(f)配列番号4に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(g)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(h)配列番号6で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(i)配列番号6に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0023】
ここで、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ウィッカーハモミセス シフェリイ由来のSLI1であり、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、サッカロマイセス セレビシエ由来のSLI1であり、配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドはピチア パストリス由来のSLI1であり、いずれもアセチルトランスフェラーゼ活性、好適にはスフィンゴイドに対するアセチル化活性を有する。
【0024】
また、(b)、(e)、(h)のポリペプチドにおいて、1〜数個とは1〜80個、好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個である。
【0025】
さらに、(c)の配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列としては、配列番号2に示すアミノ酸配列において相当する配列を適切にアライメントした時、配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を意味する。(f)の配列番号4に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列としては、配列番号4に示すアミノ酸配列において相当する配列を適切にアライメントした時、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を意味する。(i)の配列番号6に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列としては、配列番号6に示すアミノ酸配列において相当する配列を適切にアライメントした時、配列番号6のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を意味する。
また(a)〜(i)のポリペプチドをコードする遺伝子は、アミノ酸配列が(a)〜(i)に該当する限り、いかなるコドンを選択してもよい。例えば、スターメレラ属微生物に適したコドンを選択することが好ましい。
【0026】
アセチルトランスフェラーゼ活性としては、具体的にはスフィンゴイドに対するアセチル化反応を触媒する活性が挙げられ、好ましくはフィトスフィンゴシンまたはスフィンゴシンの水酸基及びアミノ基に対するアセチル化反応を触媒する活性が挙げられる。
【0027】
本発明の遺伝子は、配列番号1、3または5に示す塩基配列を参考にプライマーを作製し、それぞれの遺伝子を有する微生物のゲノムDNAをテンプレートとする常法のPCR法で容易に得ることができる。
すなわち、例えば、配列番号1に示すSLI1遺伝子のN末端開始コドンを含む配列からなるオリゴヌクレオチドA、及び該遺伝子の終始コドンを含む配列と相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドBを化学合成し、これらのオリゴヌクレオチドAとBを1セットにし、ウィッカーハモミセス シフェリイのDNAをテンプレートとしてPCR反応を行なうことにより得ることができる。また、こうして得られる遺伝子断片を効率よくプラスミドベクター等にクローニングを行なうために、オリゴヌクレオチドプライマーの5’末端側に制限酵素切断のための配列を付加して用いることもできる。ここで、プライマーとしては、SLI1遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたヌクレオチド等が一般的に使用できるが、既に取得されたSLI1遺伝子やその断片も良好に利用できる。当該ヌクレオチドとしては、配列番号1に対応する部分ヌクレオチド配列であって、10〜50個の連続した塩基、好ましくは15〜35個の連続した塩基等が挙げられる。
また、PCRの条件は、例えば98℃2分、(98℃10秒、55℃5秒、72℃1分)×30サイクルが挙げられる。
【0028】
また、その当該塩基配列又はアミノ酸配列に従い、DNA合成機により人工的に合成して得ることもできる。DNA合成に際しては、同一のアミノ酸残基であっても、異なるコドンを選択(コドン変換)することができる。前記コドン変換したDNAの一態様として、ウィッカーハモミセス シフェリイのSLI1をコードするDNA中に存在するスターメレラ属微生物におけるレアコドン(当該微生物におけるコドンの使用頻度が少ないもの)を、コードするアミノ酸を同一のまま、スターメレラ属微生物の翻訳機構において利用頻度が高いコドンに変換したDNAが挙げられ、具体的には、配列番号7で示される塩基配列からなるDNAが挙げられる。同様に、サッカロマイセス セレビシエのSLI1をコードするDNA配列をアミノ酸同一のままスターメレラ属微生物において使用頻度の高いコドンに変換したDNAとして配列番号8で示される塩基配列からなるDNAが挙げられ、ピチア パストリスのSLI1をコードするDNA配列をアミノ酸同一のままスターメレラ属微生物において使用頻度の高いコドンに変換したDNAとして配列番号9で示される塩基配列から成るDNAが挙げられる。
【0029】
本発明において、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子のスターメレラ属微生物への導入は、スターメレラ属微生物に対して、上述したアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を発現可能に導入する方法が挙げられる。
【0030】
当該遺伝子を発現可能に導入する方法としては、特に限定されず、上記のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を含む核酸断片であって、その上流側で、転写開始制御領域若しくは転写開始制御領域とリボソーム結合部位を含むDNA断片と適正な形で結合している核酸断片を導入すればよい。
このような断片は、(1)そのまま核酸断片として、あるいはプラスミドベクター等に導入された核酸断片として導入すること、(2)その両端に宿主が有する染色体の一部配列からなる核酸断片が付加された核酸断片として導入すること、により宿主微生物に遺伝的に安定に保持させることができる。導入する遺伝子のコピー数は何ら限定されず、シングルコピーで当該遺伝子を導入しても良いし、マルチコピーで当該遺伝子を導入しても良い。
(1)の核酸断片の宿主微生物内への導入方法としては、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
また、(2)の断片を導入すれば、核酸断片に付加された宿主染色体が有する配列に相当する部位において相同組換えが起こり、導入した核酸断片が微生物内の染色体に組み込まれる。
【0031】
尚、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の上流に結合する転写開始制御領域若しくは転写開始制御領域とリボソーム結合部位としては、宿主微生物において機能を有するものであればよく、例えば、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の本来の転写開始制御領域若しくは転写開始制御領域とリボソーム結合部位、又はその他の公知の転写開始制御領域若しくは転写開始制御領域とリボソーム結合部位が挙げられる。例えば、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子やシトクロムP450モノオキシゲナーゼ、UDP−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモータなどを使用することができる。
【0032】
ここで、遺伝子導入の対象となるスターメレラ属微生物は、スフィンゴイド、少なくともスフィンゴシン又はフィトスフィンゴシンを生産する代謝系を有するものであればよく、例えば、スターメレラ ボンビコーラ、キャンディダ アピコラ、キャンディダ フロリコーラ等が挙げられ、このうちスターメレラ ボンビコーラが好ましく、具体的には、スターメレラ ボンビコーラ KSM36株(特開昭61-31084)又はNBRC10243株等が挙げられる。スターメレラ ボンビコーラは、ソホロリピッド(SL)を生産することが知られているが(非特許文献6)、アセチル化スフィンゴイドの生産能は有さない。
【0033】
本発明において、アセチル化スフィンゴイドとしては、スフィンゴイドが有するアセチル化可能な基(水酸基、アミノ基等)の水素原子の何れか1以上がアセチル基で置換された化合物を意味する。例えば、(2S,3S,4R)−2−アミノオクタデカン−1,3,4−トリオール(フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−オクタデセン−1,3−ジオール(スフィンゴシンン)、(2S,3R)−2−アミノオクタデカン−1,3−ジオール(スフィンガニン)、(2S,3S,4R)−2−アミノノナデカン−1,3,4−トリオール(C19フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−ノナデセン−1,3−ジオール(C19スフィンゴシン)、(2S,3R)−2−アミノノナデカン−1,3−ジオール(C19スフィンガニン)、(2S,3S,4R)−2−アミノイコサン−1,3,4−トリオール(C20フィトスフィンゴシン)、(2S,3R,4E)−2−アミノ−4−イコセン−1,3−ジオール(C20スフィンゴシン)、(2S,3R)−2−アミノイコサン−1,3−ジオール(C20スフィンガニン)のアセチル化物などが挙げられる。このうち、炭素鎖長19又は20のスフィンゴイドの水酸基及びアミノ基の何れか1以上がアセチル基で置換されたアセチル化スフィンゴイドが好ましく、このうち、炭素鎖長が19又は20のフィトスフィンゴシンで水酸基およびアミノ基の何れか1以上がアセチル化されたアセチル化フィトスフィンゴシンがより好ましい。また、炭素鎖長が20のフィトスフィンゴシンで水酸基およびアミノ基の何れか1以上がアセチル化されたアセチル化フィトスフィンゴシンがさらに好ましい。
【0034】
斯くして作製された微生物は、アセチル化スフィンゴイド、好ましくは炭素鎖長19又は20のアセチル化フィトスフィンゴシンを生産する能力を有し、当該微生物を培養したときに培養液中に当該アセチル化スフィンゴイドを蓄積する。
【0035】
上述した本発明に係る微生物を培地にて培養し、培養液中にアセチル化スフィンゴイドを蓄積させ、培養液に含まれるアセチル化スフィンゴイドを回収することにより、アセチル化スフィンゴイドを製造することができる。
後記実施例に示すように、本発明の微生物を用いることにより、スフィンゴイドの炭素鎖長が19又は20のアセチル化スフィンゴイド(例えば、アセチル化C19フィトスフィンゴシンやアセチル化C20フィトスフィンゴシン)が製造できる。更に、培地に、ペンタデカン酸アルキルエステル又はヘプタデカン酸アルキルエステル又はノナデカン酸アルキルを添加して当該微生物を培養することにより、スフィンゴイドの炭素鎖長が19のアセチル化スフィンゴイドの生産量又は生産比率を増加させることができる。また、培地にオクタデカン酸アルキルエステルを添加して当該微生物を培養することにより、スフィンゴイドの炭素鎖長が20のアセチル化スフィンゴイドの生産比率を増加させることができる。
ここで、アルキルエステルとしては、炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられ、好ましくはメチルエステル又はエチルエステルである。
また、当該脂肪酸アルキルエステルの添加量は、好ましくは1質量%以上で、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは3%以下である。また、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0036】
培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の培地を用いることができる。合成培地又は天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は培養する菌株が利用可能であるものならばいずれの種類を用いてもよい。
【0037】
炭素源としては、グルコース、グリセロール、フラクトース、スクロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、澱粉加水分解物、糖蜜等の糖類が使用でき、その他、酢酸、クエン酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類も単独あるいは他の炭素源と併用して用いることができる。窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩又は硝酸塩等が使用することができる。有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用でき、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用できる。
【0038】
培養は、好ましくは、培養温度20〜35℃に制御することが好ましい。このような条件下で、好ましくは24時間〜120時間程度培養することにより、培養液中にアセチル化フィトスフィンゴイドを蓄積することができる。
【0039】
培養終了後の培養液からアセチル化スフィンゴイドを回収する方法は、特に限定されないが、公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、培養液から菌体を除去した後に濃縮晶析する方法あるいはカラムクロマトグラフィー等によってアセチル化スフィンゴイドを回収することができる。
【0040】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>スフィンゴイドをアセチル化する活性を有するポリペプチドをコードする異種生物由来の遺伝子が導入されたスターメレラ属微生物を培養する、アセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<2>スフィンゴイドをアセチル化する活性を有するポリペプチドが以下の(a)〜(i)から選ばれるアミノ酸配列からなる、<1>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(e)配列番号4で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(f)配列番号4に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(g)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(h)配列番号6で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(i)配列番号6に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
<3>前記(b)、(e)、(h)の1〜数個が、1〜80個、好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個である、<2>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<4>前記(c)のポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、(f)のポリペプチドが、配列番号4に示すアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、(i)のポリペプチドが、配列番号6に示すアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である<2>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<5>スターメレラ属微生物が、スターメレラ ボンビコーラである<1>〜<4>のいずれかに記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<6>スターメレラ ボンビコーラがスターメレラ ボンビコーラ KSM36株又はスターメレラ ボンビコーラ NBRC10243株である<4>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<7>アセチル化スフィンゴイドがアセチル化フィトスフィンゴシンである<1>〜<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>アセチル化スフィンゴイドが、炭素鎖長が19又は20のアセチル化スフィンゴイドである、<1>〜<7>のいずれかに記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<9>炭素鎖長が19又は20のアセチル化スフィンゴイドが、炭素鎖長が19又は20のアセチル化フィトスフィンゴシンである、<8>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<10>培地にペンタデカン酸アルキルエステル、ヘプタデカン酸アルキルエステル、オクタデカン酸アルキルエステル及びノナデカン酸アルキルエステルから選ばれる1以上の脂肪酸アルキルエステルを添加する、<1>〜<9>のいずれかに記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<11>脂肪酸アルキルエステルが炭素数1〜4のアルキルと脂肪酸のエステルである<10>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<12>脂肪酸アルキルエステルの培地への添加量が、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である<10>又は<11>記載のアセチル化スフィンゴイドの製造方法。
<13>スフィンゴイドをアセチル化する活性を有するポリペプチドをコードする異種生物由来の遺伝子が導入されたスターメレラ属微生物。
<14>スフィンゴイドをアセチル化する活性を有するポリペプチドが以下の(a)〜(i)から選ばれるアミノ酸配列からなる、<13>記載のスターメレラ属微生物。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(e)配列番号4で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(f)配列番号4に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(g)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(h)配列番号6で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(i)配列番号6に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
<15>前記(b)、(e)、(h)の1〜数個が、1〜80個、好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個である、<14>記載のスターメレラ属微生物。
<16>前記(c)のポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、(f)のポリペプチドが、配列番号4に示すアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であり、(i)のポリペプチドが、配列番号6に示すアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である<14>記載のスターメレラ属微生物。
<17>スターメレラ属微生物が、スターメレラ ボンビコーラである<13>〜<16>のいずれかに記載のスターメレラ属微生物。
<18>スターメレラ ボンビコーラがスターメレラ ボンビコーラ KSM36株又はスターメレラ ボンビコーラ NBRC10243株である<17>記載のスターメレラ属微生物。
【0041】
以下、実施例によって本発明の内容をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0042】
実施例1:ウィッカーハモミセス シフェリイ由来WcSLI1遺伝子導入株の作製
(1)導入遺伝子断片の構築
スターメレラ ボンビコーラのコドン使用頻度に合わせて人工合成したウィッカーハモミセス シフェリイ由来アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(WcSLI1)(配列番号7)をテンプレートとして配列番号10、12または11,12のプライマーを用いてPCRすることにより、WcSLI1遺伝子断片を得た。PCRの条件は、例えば98℃2分、(98℃10秒、55℃5秒、72℃1分)×30サイクルが挙げられる。WcSLI1の発現には、Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase(5’−GAPDH)とUDP−glucosyltransferase(5’−UGT)遺伝子のプロモータを使用した。それぞれの配列は配列番号13と14、15と16のプライマーを用いてスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートとしてPCRすることにより得た。さらに、Cytochrome c(3’−CYC)のターミネータを使用した。3’−CYC配列は配列番号17と18のプライマーを用いてスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートとしてPCRすることにより得た。これらをSOE−PCRを用いて連結し、[5’−GAPDH or 5’−UGT][WcSLI1][3’−CYC]の遺伝子断片を得た。この遺伝子断片とプラスミドpHsp70A/RbcS2−Chlamy(Chlamydomonas Resource Center)を制限酵素SacIとNcoIで処理したものをin−Fusion cloning kit(Clontech)を用いて連結させ、プラスミド1を得た。形質転換の選抜にはハイグロマイシン耐性遺伝子(配列番号19)を使用した。ハイグロマイシン耐性遺伝子は配列番号20と21のプライマーでハイグロマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドloxP−PGK−gb2−hygro−loxP(Gene Bridges)をテンプレートとしてPCRし、URA3遺伝子のプロモータ、ターミネータを配列番号22と23または24と25でスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートとしてそれぞれPCRした増幅物とSOE−PCRにて連結し[5’−URA3][ハイグロマイシン耐性遺伝子][3’−URA3]の遺伝子断片を得た。さらに、プラスミドpUC−Arg7−lox−B ARG7を配列番号26と27のプライマーを用いたPCRでARG7以外の領域を増幅し、in−Fusion cloning kit(Clontech)を用いてSOE−PCRの増幅物と連結し、プラスミド2を得た。プラスミド1とプラスミド2のloxP配列を利用してcre recombinase反応によって連結させ、[5’−GAPDH or 5’−UGT][WcSLI1][3’−CYC]−[5’−URA3][ハイグロマイシン耐性遺伝子][3’−URA3]のように連結したプラスミド3を得た。プラスミド3を配列番号13と25または15と25のプライマーでPCRすることにより、WcSLI1導入遺伝子断片を得た。
また、cyp52M1を欠損させるための遺伝子導入断片としてcyp52M1遺伝子の上流領域を配列番号28と29のプライマー、下流領域を配列番号30と31のプライマー、またURA3遺伝子を配列番号32と33のプライマーを用いて、それぞれスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行い、得られた3断片をSOE−PCRにて連結した。この断片をcyp52M1欠損遺伝子断片として使用した。
実施例1において使用したプライマーを表1にまとめる。
【0043】
【表1】
【0044】
(2)ウラシル要求性株の取得
スターメレラ ボンビコーラ KSM36株(FERM BP−799)を0.68%
Yeast Nitrogen Base w/o amino acids、2% グルコース、0.03%ウラシルおよび1.5%Agarを含むSD−U寒天培地に接種したのち、30℃で1ヶ月間培養し、得られた菌体を1mLの0.8%食塩水に一白金耳懸濁し、0.68%Yeast Nitrogen Base w/o amino acids、2%グルコース、0.03%ウラシル、および5−フルオロオロチン酸、1.5%Agarを含むSD-UF寒天培地に100μL塗抹し30℃で2週間培養した。生育したコロニーを再度SD−UF寒天培地で培養した後、それぞれについてウラシル要求性、5−フルオロオロチン酸耐性を確認し、ウラシル要求性株を取得した。
スターメレラ ボンビコーラ KSM36株および得られたウラシル要求性株を50g/LのYPD Broth(日本BD製)5mLを含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで48時間培養した。培養液1mLを5000rpm、4℃で5分間遠心して集めた菌体からGenとるくん
TM(TAKARAバイオ)を用い、添付の方法に従ってゲノムDNAを抽出した。表1記載のプライマー(配列番号32、33)およびKOD−plus.ver2(TOYOBO)を用いてウラシル生合成に関わるオロチジンデカルボキシラーゼをコードするURA3遺伝子を増幅し、PCR産物を鋳型としてURA3遺伝子の配列をシーケンス解析し、スターメレラ ボンビコーラ NBRC10243株の配列(GenBank accession No.DQ916828)と比較した。その結果、スターメレラ ボンビコーラ KSM36株はスターメレラ ボンビコーラ NBRC10243株のURA3遺伝子と同じ配列を有すること、ウラシル要求性株は皆54位のシステインがチロシンに変異していることが確認された。取得した、ウラシル要求性株をスターメレラ ボンビコーラ KSM36−ura3株として使用した。
【0045】
(3)ウラシル要求性株の取得方法
(2)において、ウラシル要求性株の変異位置が確定されたので、例えば下記の遺伝子組換え手段を用いて容易にウラシル要求性株の調製が可能である。
スターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートとしてURA3遺伝子を配列番号32、33のプライマーを用いて増幅する。増幅した遺伝子断片を適当なベクターに導入し、54位のシステインをチロシンに変更する点変異を導入する。点変異を導入したベクターを配列番号32,33のプライマーを用いて増幅し、URA33遺伝子に変異の導入された形質転換断片を得る。スターメレラ ボンビコーラ KSM36を、5mLのYPD Brothを含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養する。得られた培養液を、YPD Broth50mLを含む坂口フラスコに1%植菌し、30℃、120rpmでOD600=1〜2になるまで培養する。増殖した菌体を3000rpm、4℃で5分間遠心して集菌した後、氷上で冷やした滅菌水20mLで2回洗浄する。菌体を氷冷した1mLの1Mソルビトール溶液に懸濁し、5000rpm、4℃で5分間遠心し、上清を捨てたのち、400μLの1Mソルビトール溶液を加えて氷上におき、ピペッティングで懸濁する。この酵母懸濁液を50μLずつ分注し、形質転換用のDNAを1μg加える。酵母懸濁液を氷冷した0.2cmギャップのチャンバーに移したのち、GENE PULSER II(BIO−RAD)を用いて25uF,350Ω、2.5kVのパルスをかける。氷冷した1Mソルビトール入りYPD Brothを加えて1.5mL容チューブに移し、30℃で2時間振とうした後、5000rpm、4℃で5分間遠心して菌体を回収し、200μLの1Mソルビトール溶液に再懸濁して100μLずつ選択培地に塗抹し、30℃で約1週間培養する。選択培地には、0.68%Yeast Nitrogen Base w/o amino acids、2%グルコース、0.03%ウラシル、および5−フルオロオロチン酸、1.5%Agarを含むSD-UF寒天培地を使用する。生育したコロニーを再度SD−UF寒天培地で培養した後、それぞれについてウラシル要求性、5−フルオロオロチン酸耐性を確認し、ウラシル要求性株を取得することができる。
【0046】
(4)cyp52M1遺伝子欠損株の取得
上記スターメレラ ボンビコーラ KSM36−ura3株を、5mLのYPD Brothを含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液を、YPD Broth50mLを含む坂口フラスコに1%植菌し、30℃、120rpmでOD600=1〜2になるまで培養した。増殖した菌体を3000rpm、4℃で1分間遠心して集菌した後、氷上で冷やした滅菌水20mLで2回洗浄した。菌体を氷冷した1mLの1Mソルビトール溶液に懸濁し、5000rpm、4℃で5分間遠心し、上清を捨てたのち、400μLの1Mソルビトール溶液を加えて氷上におき、ピペッティングで懸濁した。この酵母懸濁液を50μLずつ分注し、形質転換用のDNA(cyp52M1欠損遺伝子断片)を1μg加えた。酵母懸濁液を氷冷した0.2cmギャップのチャンバーに移したのち、GENE PULSER II(BIO−RAD)を用いて25uF,350Ω、2.5kVのパルスをかけた。氷冷した1Mソルビトール入りYPD Brothを加えて1.5mL容チューブに移し、30℃で2時間振とうした後、5000rpm、4℃で1分間遠心して菌体を回収し、200μLの1Mソルビトール溶液に再懸濁して100μLずつ選択培地に塗抹し、30℃で約1週間培養した。選択培地には、0.68% Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids,2% グルコース、0.077% CSM−ura(フナコシ)及び1.5% Agarを含むSD−ura寒天培地を使用した。生育したコロニーを配列番号28、31のプライマーを用いてKOD−FX−Neo(TOYOBO)によりコロニーPCRし、増幅される配列長が変化していることを確認したのち、cyp52M1遺伝子欠損株を得た。
【0047】
(5)スターメレラ ボンビコーラへのWcSLI1遺伝子の導入
上記スターメレラ ボンビコーラ cyp52M1遺伝子欠損株およびスターメレラ ボンビコーラ KSM36株を、5mLのYPD Brothを含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液を、YPD Broth50mLを含む坂口フラスコに1%植菌し、30℃、120rpmでOD600nm=1〜2になるまで培養した。増殖した菌体を3000rpm、4℃で5分間遠心して集菌した後、氷上で冷やした滅菌水20mLで2回洗浄した。菌体を氷冷した1mLの1Mソルビトール溶液に懸濁し、5000rpm、4℃で1分間遠心し、上清を捨てたのち、400μLの1Mソルビトール溶液を加えて氷上におき、ピペッティングで懸濁した。この酵母懸濁液を50μLずつ分注し、形質転換用のDNA(WcSLI1導入遺伝子断片)を1μg加えた。酵母懸濁液を氷冷した0.2cmギャップのチャンバーに移したのち、GENE PULSER II(BIO−RAD)を用いて25uF,350Ω、2.5kVのパルスをかけた。氷冷した1Mソルビトール入りYPD Brothを加えて1.5mL容チューブに移し、30℃で2時間振とうした後、5000rpm、4℃で1分間遠心して菌体を回収し、200μLの1Mソルビトール溶液に再懸濁して100μLずつ選択培地に塗抹し、30℃で約1週間培養した。選択培地には、0.68% Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids,2% グルコース、0.077% CSM−ura(フナコシ),200μg/mL ハイグロマイシン及び1.5% Agarを含むSD−ura+ハイグロマイシン寒天培地を使用した。生育したコロニーを配列番号13と18又は15と18のプライマーを用いてKOD−FX−Neo(TOYOBO)によりコロニーPCRし、遺伝子がゲノムに挿入されていることを確認したのち、スターメレラ ボンビコーラ cyp52M1欠損株に遺伝子導入したΔcyp52M1/pGAPDH−WcSLI1株(GAPDHプロモータを使用)、Δcyp52M1/pUGT−WcSLI1株(UGTプロモータを使用)、およびスターメレラ ボンビコーラ KSM36株に遺伝子導入したpGAPDH−WcSLI1株、pUGT−WcSLI1株を得た。またコントロールとしてハイグロマイシン耐性遺伝子のみを導入した株を得た。
【0048】
実施例2:WcSLI1遺伝子導入株におけるアセチル化フィトスフィンゴシン生産性の解析(1)
(1)遺伝子導入株の脂質組成の解析
コントロール株(ハイグロマイシン耐性遺伝子を)、Δcyp52M1/pGAPDH−WcSLI1株、Δcyp52M1/pUGT−WcSLI1株をYPD寒天培地に塗抹し、生育したコロニーを5 mLのSD−Ura培地を含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液 500 μLを5 mLのSD−Ura培地を含む100mL容試験管に植菌し、30℃、250rpmで24〜72時間培養し、脂質の組成を解析した。
【0049】
(2)アセチル化フィトスフィンゴシンの定量
培養液を1mL回収後、クロロホルム:メタノール(2:1)混合溶液を4mL添加し、ボルテックスした後、15min静置した。3000rpm、15min遠心し、下層(クロロホルム層)を回収した。回収した液を窒素にて乾固させた後、1mLのメタノールに懸濁、適宜希釈し、フィルターろ過後のサンプルをLCMSにて測定した。LCMSの条件は以下の通りである。
LC条件:Capcell core C18 2.7 umφ2.1×50mm(資生堂)、Oven Temp. 40℃、Sol.A: 0.1% HCO
2H in water、Sol.B: MECN、(A60%、B40%) 0.5min→[(A60%、B40%)→(A0%、B100%)5.5min]→B100% 2min、[(A0%、B100%)→(A60%、B40%)0.01min]→(A60%、B40%)2min、Flow rate 0.6ml/min.、Inject 5μl、MS/MS装置:API3200QTrap(AB SCIEX)
【0050】
【表2】
【0051】
図1に、培養24、48時間後の脂質組成を示した。コントロールの株ではトリアセチルフィトスフィンゴシン(TriAPS)(炭素鎖長18)とテトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)(炭素鎖長18)の生産が確認されないのに対して、WcSLI1を遺伝子導入したスターメレラ ボンビコーラではTriAPSとTAPSの生産が確認された。
表3および表4に、培養72時間目のアセチル化フィトスフィンゴシンの生産量および生産物の割合を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
実施例3:WcSLI1遺伝子導入株におけるアセチル化フィトスフィンゴシン生産性の解析(2)
Δcyp52M1/pGAPDH−WcSLI1株をYPD寒天培地に塗抹し、生育したコロニーを5 mLのSD−Ura培地を含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液 100μLを5mLのSD−Ura培地および炭素鎖長C15〜C19の脂肪酸エチルエステルを50mM含む100mL容試験管に植菌し、30℃、250rpmで72時間培養し、実施例2と同様の方法で脂質の組成を解析した。
【0055】
表5および表6として培養72時間目におけるC18〜C20アセチル化フィトスフィンゴシン生産量および生産物の割合を示す。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
参考例:WcSLI1遺伝子導入株におけるアセチル化フィトスフィンゴシン生産性の解析(3)
Δcyp52M1/pGAPDH−WcSLI1株、pGAPDH−WcSLI1株、Δcyp52M1/pUGT−WcSLI1株およびpUGT−WcSLI1株をYPD寒天培地に塗抹し、生育したコロニーを5 mLのYPD培地を含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液 100μLを5mLの改良YPD培地(10% グルコース、10%ヘキサデカン酸エチル、2% Peptone、1% Yeast Extract、25mM CaCl
2・2H
2O、50mM L−セリン)を含む100mL容試験管に植菌し、30℃、250rpmで7日間培養し、実施例2と同様の方法で脂質の組成を解析した。脂質解析の結果を表7に示す。また、本培養液1mLを2mLのヘキサンで抽出し、ヘキサン層を回収したのち、残った水層に2mLの酢酸エチルを加えて抽出し、酢酸エチル層を回収した。乾燥させた酢酸エチル層の解析からΔcyp52M1/pGAPDH−WcSLI1株およびΔcyp52M1/pUGT−WcSLI1株ではソホロリピッドは生産されず、pGAPDH−WcSLI1株およびpUGT−WcSLI1株ではソホロリピッドが生産されたことを確認した。
【0059】
【表7】
【0060】
実施例4 他の生物種由来SLI1導入株の作製
(1)導入用断片の作製
配列番号34、35のプライマーを用いてスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートにPCRにてCYP52M1遺伝子の上流部分を増幅させ、配列番号36、37のプライマーで増幅させたプラスミド1とin−Fusion cloning kit(Clontech)を用いて連結することにより、GAPDHプロモーターの前方にCYP52M1遺伝子の上流部分を挿入し、プラスミド1−Aとした。次に配列番号22、25のプライマーを用いてスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートにPCRにてURA3遺伝子のプロモーターおよびターミネータを含む領域を増幅させ、さらに配列番号26、27を用いてプラスミドpUC−Arg7−lox−B ARG7のARG7以外の領域を増幅し、in−Fusion cloning kit(Clontech)を用いてURA3の増幅物と連結した。得られたプラスミドをプラスミド2−Aとした。さらに、配列番号38、39のプライマーを用いてスターメレラ ボンビコーラ KSM36株のゲノムDNAをテンプレートにPCRにてCYP52M1遺伝子の下流部分を増幅させ、配列番号40、41のプライマーを用いて増幅させたプラスミド2−Aをin−Fusion cloning kit(Clontech)を用いて連結することにより、URA3ターミネータの後方にCYP52M1遺伝子の下流部分を挿入し、プラスミド2−Bとした。プラスミド1−Aおよび2−BをCre Recombinase反応によって連結させ、プラスミド4とした。配列番号28、31のプライマーを用いてプラスミド4をテンプレートにPCRにてcyp52M1::pGAPDH−WcSLI1断片を得た。
【0061】
(2)他の生物由来SLI1導入用断片の作製
サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびピチア パストリス(Pichia pastris)由来SLI1をスターメレラボンビコーラのコドン使用頻度に合わせて人工合成し、それぞれ配列番号8、9の配列を得た。これらをテンプレートに配列番号42、43および44、45のプライマーを用いてPCRし、ScSLI1、およびPpSLI1断片を得た。次にプライマー46、47を用いてプラスミド4をテンプレートにPCRにてWcSLI1以外の領域を増幅した。ScSLI1断片またはPpSLI1断片をプラスミドとin−Fusion cloning kit(Clontech)で連結させ、それぞれプラスミド5、6とした。配列番号28、31のプライマーを用いてプラスミド5または6をテンプレートにPCRにてcyp52M1::pGAPDH−ScSLI1断片、cyp52M1::pGAPDH−PpSLI1断片を得た。
【0062】
(3)各種SLI1導入株の作製
上記スターメレラ ボンビコーラ KSM36−ura3株を、5mLのYPD Brothを含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。えられた培養液を、YPD Broth50mLを含む坂口フラスコに1%植菌し、30℃、120rpmでOD600=1〜2になるまで培養した。増殖した菌体を3000rpm、4℃で5分間遠心して集菌した後、氷上で冷やした滅菌水20mLで2回洗浄した。菌体を氷冷した1mLの1Mソルビトール溶液に懸濁し、5000rpm、4℃で1分間遠心し、上清を捨てたのち、400μLの1Mソルビトール溶液を加えて氷上におき、ピペッティングで懸濁した。この酵母懸濁液を50μLずつ分注し、形質転換用のDNAを1μg加えた。酵母懸濁液を氷冷した0.2cmギャップのチャンバーに移したのち、GENE PULSER II(BIO−RAD)を用いて25uF,350Ω、2.5kVのパルスをかけた。氷冷した1Mソルビトール入りYPD Brothを加えて1.5mL容チューブに移し、30℃で2時間振とうした後、5000rpm、4℃で1分間遠心して菌体を回収し、200μLの1Mソルビトール溶液に再懸濁して100μLずつ選択培地に塗抹し、30℃で約1週間培養した。選択培地には、0.68% Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids,2% グルコース、0.077% CSM−ura(フナコシ)及び1.5% Agarを含むSD−ura寒天培地を使用した。生育したコロニーを配列番号28,31のプライマーを用いてKOD−FX−Neo(TOYOBO)によりコロニーPCRし、増幅される配列長が変化していることを確認したのち、cyp52M1::pGAPDH−WcSLI1株、cyp52M1::pGAPDH−ScSLI1株、cyp52M1::pGAPDH−PpSLI1株を得た。実施例4において使用したプライマーを表8にまとめる。
【0063】
【表8】
【0064】
実施例5 各種SLI1発現株のアセチルフィトスフィンゴシン生産性の評価
実施例4で得られた3株およびcyp52M1欠損株をYPD寒天培地に塗抹し、生育したコロニーを5 mLのSD−Ura培地を含む100mL容試験管に一白金耳植菌し、30℃、250rpmで24時間培養した。得られた培養液 100μLを5mLのSD−Ura培地を含む100mL容試験管に植菌し、30℃、250rpmで120時間培養し、実施例2と同様の方法で脂質の組成を解析した。表9および表10として培養120時間目におけるC18〜C20アセチル化フィトスフィンゴシン生産量および生産物の割合を示す。
【0065】
【表9】
【0066】
【表10】