特許第6389414号(P6389414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAメタルテック株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389414
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】銅合金板材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20180903BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20180903BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20180903BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180903BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20180903BHJP
   H01R 13/11 20060101ALI20180903BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20180903BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180903BHJP
【FI】
   C22F1/08 Q
   C22F1/08 B
   C22C9/00
   C22C9/10
   H01B13/00 501Z
   H01B5/02 Z
   H01R13/11
   H01B1/02 A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630Z
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 630K
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-212994(P2014-212994)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-79472(P2016-79472A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】宮城 国朗
(72)【発明者】
【氏名】菅 峻史
(72)【発明者】
【氏名】青山 智胤
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秀樹
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−291518(JP,A)
【文献】 特開2011−174142(JP,A)
【文献】 特開2009−228013(JP,A)
【文献】 特開2010−031339(JP,A)
【文献】 特開2007−039793(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0107726(US,A1)
【文献】 特開2007−177274(JP,A)
【文献】 特開2008−088469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/00 − 3/02
C22C 1/00 − 49/14
H01B 1/02
H01B 5/02
H01B 13/00
H01R 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Fe:0.05〜2.50%、Mg:0.03〜1.00%、P:0.01〜0.20%、Sn:0〜0.50%、Ni:0〜0.30%、Zn:0〜0.30%、Si:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、Cr:0〜0.10%、B:0〜0.10%、Zr:0〜0.10%、Ti:0〜0.10%、Mn:0〜0.10%、V:0〜0.10%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成の銅合金の溶融物をモールドで凝固させ、凝固後の冷却過程における700〜300℃の平均冷却速度を30℃/min以上として鋳片を製造する鋳造工程、
得られた鋳片を、850〜950℃の範囲に加熱保持する鋳片加熱工程、
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延した後、400〜300℃の平均冷却速度が5℃/sec以上となるように急冷する熱間圧延工程、
圧延率30%以上で圧延する冷間圧延工程、
前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間:0.4h以上、550〜600℃における最高到達温度から400℃までの冷却所要時間:2.0h以上、550℃から400℃までの平均冷却速度:80℃/h以下を満たす条件で熱処理する中間焼鈍工程、
圧延率5〜95%で圧延する仕上冷間圧延工程、
200〜400℃で加熱する低温焼鈍工程、
を上記の順に有する銅合金板材の製造方法。
【請求項2】
前記の鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、仕上冷間圧延工程、および低温焼鈍工程を上記の順に有する製造手順により、下記(1)式により定まるMg固溶率が47%以上、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下、かつ粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下である金属組織とする請求項1に記載の銅合金板材の製造方法。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、固溶Mg量とは、倍率10万倍のTEM観察でのEDX分析により求まるCuマトリクス部分の平均Mg濃度(質量%)を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工性と耐応力緩和特性を改善したCu−Fe−P−Mg系銅合金板材の製造方法であって、特に、音叉端子など、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向(TD)に応力が付与された状態で使用される部品にも好適な高強度銅合金板材の大量生産に適した合理的な製造方法に関する。また、その銅合金板材、およびそれを加工してなる音叉端子などの通電部品に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu−Fe−P−Mg系銅合金は、導電性の良好な高強度部材を得ることが可能な合金であり、通電部品の用途に使用されている。この種の銅合金を用いて、強度、導電性、プレス加工性、曲げ加工性、あるいは耐応力緩和特性など、目的に応じた特性の改善が試みられている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−67738号公報
【特許文献2】特開平10−265873号公報
【特許文献3】特開2006−200036号公報
【特許文献4】特開2007−291518号公報
【特許文献5】米国特許第6093265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コネクタなどの通電部品に使用する銅合金板材としては、曲げ加工性に優れること、および耐応力緩和特性に優れることが重要である。このうち、耐応力緩和特性については、従来、素材である板材の板厚方向に負荷応力(たわみ変位)を付与する方法で評価されている。しかしながら、音叉端子などの部品では、素材の板厚方向に対して垂直な方向、すなわち素材の板面に平行な方向の変位を受けた状態で使用されることとなる。板材において、圧延方向(LD)や、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向(TD)は、いずれも「板厚方向に対して垂直な方向」に該当する。音叉端子の場合、素材である板材からの採取方向がどのようであっても、部品内には、付与されるたわみ変位の方向がLDとなる箇所とTDとなる箇所が生じる。
【0005】
発明者らの検討によれば、付与されるたわみ変位の方向(負荷応力の方向)が、(i)板厚方向である場合、(ii)LDである場合、(iii)TDである場合、の3通りについて、同一の銅合金板材の耐応力緩和特性を比較した場合、(iii)のTDである場合の応力緩和率が最も悪い結果となりやすいことがわかった。したがって、音叉端子など、「板厚方向に対して垂直な方向」に変位を受けた状態で使用される部品の用途を考慮したとき、たわみ変位の方向がTDである場合の耐応力緩和特性を改善することが重要である。しかしながら、このような特性を改善した銅合金板材は知られていない。
【0006】
本発明は、導電性の良好な高強度Cu−Fe−P−Mg系銅合金板材において、曲げ加工性と、たわみ変位の方向がTDである場合の耐応力緩和特性を同時に改善することを目的とする。特に、工業的な量産に適した合理的な手法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らの詳細な研究によれば、Cu−Fe−P−Mg系銅合金板材において、マトリクス中の固溶Mgと微細なFe−P系化合物が、たわみ変位の方向がTDである場合の耐応力緩和特性を改善するうえで極めて有効に作用することがわかった。また、特に粒子径100nm以上のMg−P系化合物は、曲げ加工性を低下させる要因となるも明らかとなった。Mgについては、トータルMg含有量の47%以上のMgを固溶Mgとして含有していることが、曲げ加工性とたわみ変位の方向がTDである場合の耐応力緩和特性を改善するうえで極めて有効であるとのデータが得られた。
【0008】
ただし、固溶Mg量を十分に確保した上述の組織状態を、工業的な板材量産現場において低コストで安定的に実現することは容易ではなかった。例えば、複数回の中間焼鈍を慎重に行いながらFe−P系化合物の析出を入念にコントロールすれば、上記所望の固溶Mg量を確保した板材を得ることは可能である。しかしながら、複数回の中間焼鈍を必須とする工程を採用することは従来よりも工程負荷を増大させ、製造コストの上昇を招いてしまう。そこで発明者らは更なる検討を進めた結果、熱間圧延条件を工夫することにより、その後に行う時効処理を兼ねた中間焼鈍を1回で済ませるシンプルな工程により、上記所望の組織状態が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明では、質量%で、Fe:0.05〜2.50%、Mg:0.03〜1.00%、P:0.01〜0.20%、Sn:0〜0.50%、Ni:0〜0.30%、Zn:0〜0.30%、Si:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、Cr:0〜0.10%、B:0〜0.10%、Zr:0〜0.10%、Ti:0〜0.10%、Mn:0〜0.10%、V:0〜0.10%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成の銅合金の溶融物をモールドで凝固させ、凝固後の冷却過程における700〜300℃の平均冷却速度を30℃/min以上として鋳片を製造する鋳造工程、
得られた鋳片を、850〜950℃の範囲に加熱保持する鋳片加熱工程、
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延した後、400〜300℃の平均冷却速度が5℃/sec以上となるように急冷する熱間圧延工程、
圧延率30%以上で圧延する冷間圧延工程、
前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間:0.4h以上、550〜600℃における最高到達温度から400℃までの冷却所要時間:2.0h以上、550℃から400℃までの平均冷却速度:80℃/h以下好ましくは10〜80℃/hを満たす条件で熱処理する中間焼鈍工程、
圧延率5〜95%で圧延する仕上冷間圧延工程、
200〜400℃で加熱する低温焼鈍工程、
を上記の順に有する銅合金板材の製造方法が提供される。
【0010】
上記の銅合金の化学組成において、下記(2)式を満たすことがより好ましい。
Mg−1.18(P−Fe/3.6)≧0.03 …(2)
ただし、(2)式の元素記号Mg、P、Feの箇所にはそれぞれの元素の含有量を質量%で表した値が代入される。
また、上記の合金元素のうち、Sn、Ni、Zn、Si、Co、Cr、B、Zr、Ti、Mn、Vは任意含有元素である。
【0011】
前記の鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、仕上冷間圧延工程、および低温焼鈍工程を上記の順に有する製造手順によって、下記(1)式により定まるMg固溶率が47%以上、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下、かつ粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下である金属組織とすることができる。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、固溶Mg量とは、倍率10万倍のTEM観察でのEDX分析により求まるCuマトリクス部分の平均Mg濃度(質量%)を意味する。Fe−P系化合物およびMg−P系化合物の粒子径は、TEMにより観測される粒子の長径を意味する。
【0012】
上記銅合金板材は、例えば、導電率が65%IACS以上であり、圧延方向をLD、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向をTDと呼ぶとき、JIS Z2241に従うLDの0.2%耐力が450N/mm2以上であり、JIS Z3110に従うW曲げ試験において曲げ軸をLD、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とする条件にて割れが観測されない曲げ加工性を有し、片持ち梁方式の応力緩和試験において長手方向がLDに一致し、TDの幅が0.5mmである試験片を用い、たわみ変位の付与方向をTDとする方法でLDの0.2%耐力の80%の負荷応力を加え、150℃で1000時間保持した場合の応力緩和率が35%以下である特性を有するものである。本発明の銅合金板材の板厚は例えば0.1〜2.0mmの範囲とすることが好ましく、0.4〜1.5mmの範囲が一層好ましい。
【0013】
また本発明では、上記銅合金板材から加工された部品であって、前記銅合金板材の圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向(TD)に由来する部品内の方向に負荷応力が付与された状態で使用される通電部品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性を高いレベルで兼ね備えた銅合金板材が、量産に適した合理的な手法によって提供される。特に、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向(TD)に負荷応力が付与された状態で使用される通電部品において、高い耐久性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《化学組成》
以下、合金元素の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Feは、Pとの化合物を形成しマトリクス中へ微細析出することにより、強度向上および耐応力緩和特性の向上に寄与する元素である。これらの効果を十分に発揮させるために0.05%以上のFe含有量を確保する。ただし過剰のFe含有は導電率の低下を招く要因となるので、2.50%以下の範囲に制限する。1.00%以下であることがより好ましく、0.50%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
Pは、一般的に銅合金の脱酸剤として寄与するが、本発明ではFe−P系化合物およびMg−P系化合物の微細析出によって強度および耐応力緩和特性の向上をもたらす。これらの効果を十分に発揮させるために0.01%以上のP含有量を確保する。0.02%以上とすることがより好ましい。ただし、P含有量が多くなると熱間割れが生じやすくなるので、P含有量は0.20%以下の範囲とする。0.17%以下であることがより好ましく、0.15%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
Mgは、Cuマトリクスに固溶することにより耐応力緩和特性の向上に寄与する。また、微細なMg−P系化合物を形成することにより、強度および耐応力緩和特性の向上に寄与する。特に、付与されるたわみ変位の方向がTDである場合の耐応力緩和特性(以下、これを「たわみ方向がTDの耐応力緩和特性」という)に関しては、微細なFe−P系化合物の寄与に加えて、固溶Mgの寄与と、微細なMg−P系化合物の寄与が必要となる。そのためには、Mg含有量を0.03%以上とする必要がある。ただし、多量のMg添加は、熱間割れを招くなどトラブルの要因となる。種々検討の結果、Mg含有量は1.00%以下に制限される。0.50%以下であることがより好ましく、0.20%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
さらに、FeおよびPの含有量との関係において下記(2)式を満たすようにMgを含有させることが好ましい。
Mg−1.18(P−Fe/3.6)≧0.03 …(2)
ここで、(2)式の元素記号Mg、P、Feの箇所にはそれぞれの元素の含有量を質量%で表した値が代入される。そのMg含有量は、後述(1)式のトータルMg含有量と同じものである。(2)式左辺は、化合物を形成しないフリーのMg存在量(質量%)を示す指標である。(2)式左辺によって算出されるフリーのMg存在量は、理論上、Cuマトリクス中の固溶Mg量に相当すると考えられる。しかしながら、後述のように実測される固溶Mg量は、上記の理論上のフリーのMg存在量より少なくなる場合も多い。実際の固溶Mg量を十分に確保するうえで、(2)式左辺の指標によって表されるフリーのMg存在量が0.03%以上となるようMg含有量を調整することがより効果的である。
【0019】
その他、必要に応じて以下に示す元素の1種以上を、それぞれ以下の含有量範囲内で含有させることができる。
Sn:0.50%以下、Ni:0.30%以下、Zn:0.30%以下、Si:0.10%以下、Co:0.10%以下、Cr:0.10%以下、B:0.10%以下、Zr:0.10%以下、Ti:0.10%以下、Mn:0.10%以下、V:0.10%以下
ただし、これらの任意含有元素の合計含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
【0020】
《金属組織》
〔Mg固溶率〕
本発明では、耐応力緩和特性を向上させるために、Cuマトリクス中に固溶するMgの作用を利用する。MgはCuより原子半径が大きいため、コットレル雰囲気の形成や、空孔との結合によるマトリクス内の空孔減少をもたらし、これらの作用が転移の動きを阻害して耐応力緩和特性を向上させると考えられる。
【0021】
Cuマトリクス中の固溶Mg量は、化学組成に基づく上記(2)式左辺の計算によりある程度推定することができる。しかし、発明者らはTEM(透過型電子顕微鏡)を用いた微視的なEDX分析(エネルギー分散型X線分析)を詳細に行ったところ、実際にマトリクス中に固溶しているとみられるMg量は、必ずしも(2)式による推定値に近い値を示すとは限らず、大幅に低い値となる場合もあることが確認された。特に、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性を安定して改善するためには、直接的な測定に基づいて定まる「実際に固溶しているMgの量」を十分に確保することが極めて有効であることがわかった。
【0022】
実際に固溶しているMgの量は、TEM観察でのEDX分析によるCuマトリクス部分のMg検出量を測定する手法により評価することができる。具体的には、倍率10万倍のTEM観察画像において、析出物が観察されないCuマトリクスの部分に電子線を照射してEDX分析を行い、Mg濃度を測定する。この測定を、ランダムに選択した10箇所において行い、各箇所でのMg濃度の測定値(質量%に換算したもの)の平均値を、当該銅合金板材の固溶Mg量とする。
【0023】
発明者らの検討によれば、当該合金中に含有されるトータルMgのうちの47%以上が前記固溶Mg量(すなわち実測に基づく固溶Mg量)として存在していることが、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性を安定して改善するうえでの必要条件として重要であることがわかった。具体的には、たわみ変位の付与方向をTDとする後述の応力緩和試験による応力緩和率が35%以下である良好な耐応力緩和特性を安定して実現するために、下記(1)式で定義されるMg固溶率を47%以上とすることが極めて有効であり、49%以上とすることが一層効果的である。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、「固溶Mg量(質量%)」は上述の実測に基づく固溶Mg量であり、「トータルMg含有量(質量%)」は当該銅合金板材の化学組成として表示されるMg含有量(質量%)である。上記Mg固溶率の上限は特に規定する必要はなく、100%に近い値であっても構わないが、通常、95%以下の値となる。本発明で規定する合金組成および製造条件に従うことによってMg固溶率47%以上の組織状態に調整することが可能である。なお、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性を安定して改善するには、Mg固溶率を47%以上とするだけでは不十分であり、Fe−P化合物の微細粒子がCuマトリクスに分散した金属組織であることを要する。
【0024】
〔Fe−P系化合物〕
Fe−P系化合物は原子割合でFeが最も多く含まれ、次いでPが多く含まれる化合物であり、Fe2Pを主体とするものである。Fe−P系化合物のうち、粒子径が50nm未満の微細粒子は、Cuマトリクス中に分布することによって強度向上や耐応力緩和特性の向上に寄与する。しかし、粒子径が50nm以上の粗大粒子は、強度向上や耐応力緩和特性の向上に対する寄与が少ない。また、粗大化の程度が進むと曲げ加工性を低下させる要因となる。
【0025】
強度および耐応力緩和特性の向上に有効である微細なFe−P系化合物が十分に存在しているかどうかについては、粗大なFe−P系化合物の量および粗大なMg−P系化合物の量が所定範囲に抑制されていることをもって、評価することができる。具体的には、本発明で規定する化学組成を満たす銅合金において、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下に抑制されており、かつ粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下に抑制されている場合、良好なTDの耐応力緩和特性を実現するに足る量の微細Fe−P系化合物粒子が分散していると見てよい。粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度は5.00個/10μm2以下に抑制されていることがより効果的である。
【0026】
なお、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度を過剰に低減することは、製造条件の制約を大きくする観点からは好ましくない。通常、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度は0.05〜10.00個/10μm2の範囲とすればよく、0.05〜5.00個/10μm2の範囲に管理してもよい。
【0027】
〔Mg−P系化合物〕
Mg−P系化合物は原子割合でMgが最も多く含まれ、次いでPが多く含まれる化合物であり、Mg32を主体とするものである。Mg−P系化合物のうち、粒子径が100nm未満の微細粒子は、Cuマトリクス中に分布することによって強度向上や耐応力緩和特性の向上に寄与する。ただし、耐応力緩和特性に関しては固溶Mgの存在が有効であり、粒子径が100nm未満のMg−P系化合物を多量に存在させることは固溶Mgの減少を招くことにもなるので、本発明において、微細なMg−P系化合物を多量に存在させることは必ずしも好ましいとは限らない。一方、粒子径が100nm以上のMg−P系化合物粒子は、強度向上や耐応力緩和特性の向上に対する寄与が少ないだけでなく、曲げ加工性を低下させる大きな要因となることがわかった。種々検討の結果、粒子径が100nm以上のMg−P系化合物の存在密度は10.00個/10μm2以下に制限する必要があり、5.00個/10μm2以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度を過剰に低減することは、製造条件の制約を大きくする観点からは好ましくない。通常、粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度は0.05〜10.00個/10μm2の範囲とすればよく、0.05〜5.00個/10μm2の範囲に管理してもよい。
【0029】
《特性》
上記の化学組成、Mg固溶率および金属組織を有する銅合金板材において、以下の特性を有するものが提供できる。
(a)導電率が65%IACS以上、好ましくは70%IACS以上、
(b)圧延方向をLD、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向をTDと呼ぶとき、JIS Z2241に従うLDの0.2%耐力が450N/mm2以上、
(c)JIS Z3110に従う90°W曲げ試験において曲げ軸をLD(B.W.)、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とする条件にて割れが観測されない曲げ加工性、
(d)片持ち梁方式の応力緩和試験において長手方向がLDに一致し、TDの幅が0.5mmである試験片を用い、たわみ変位の付与方向をTDとする方法でLDの0.2%耐力の80%の負荷応力を加え、150℃で1000時間保持した場合の応力緩和率が35%以下、好ましくは30%以下。
このような特性を有する銅合金板材は、音叉端子など、特に素材の板面に平行な方向のたわみ変位が付与される通電部材に適するものである。
なお、上記応力緩和試験は、日本電子材料工業会標準規格EMAS−1011に示される片持ち梁方式において、たわみ変位の付与方向をTDとして実施すればよい。
【0030】
《製造方法》
Mg固溶率、Fe−P系化合物、Mg−P系化合物に関する上記各規定を満たし、上述の特性を呈する銅合金板材を工業的に安定して量産するための手法として、本発明では以下の製造方法を開示する。
【0031】
〔鋳造工程〕
上記規定に従う化学組成の銅合金の溶融物をモールド(鋳型)で凝固させ、凝固後の冷却過程における700〜300℃の平均冷却速度を30℃/min以上として鋳片を製造する。この平均冷却速度は鋳片の表面温度に基づくものである。700〜300℃の温度域ではFe−P系化合物およびMg−P系化合物が生成する。この温度域を上記より遅い冷却速度で冷却すると、極めて粗大なFe−P系化合物およびMg−P系化合物が多量に生成する。その場合、微細なFe−P系化合物が分散し、かつMg固溶率が前述の範囲にある板材を得ることが極めて難しくなる。鋳造方式としてはバッチ式鋳造、連続鋳造のいずれを適用することも可能である。鋳造後は必要に応じて鋳片表面の面削が実施される。
【0032】
〔鋳片加熱工程〕
鋳造工程で得られた鋳片を850〜950℃の範囲に加熱保持する。この温度範囲での保持時間は20min以上とすることが望ましく、30min以上とすることがより好ましい。この保持により鋳造組織の均質化が進行し、また粗大なFe−P系化合物およびMg−P系化合物の固溶化が進行する。この熱処理は熱間圧延工程での鋳片加熱時に行うことができる。
【0033】
〔熱間圧延工程〕
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延する。600℃から400℃までの滞在時間とは、熱間圧延中の材料の板幅中央部における表面温度が600℃から400℃まで低下するのに要する所要時間を意味する。Fe−P系化合物が析出しやすい温度域は、Mg−P系化合物が析出しやすい温度域よりも高温域にある。熱間圧延時に600〜400℃での滞在時間を1min以上確保することにより、その温度域でFe−P化合物の析出をMg−P系化合物の析出よりも優先して進行させ、合金中に含まれるPをできるだけFe−P系化合物の析出に消費させてしまう。それにより、その後の冷却過程でMg−P系化合物の生成量が低減され、固溶Mgの残存量を増大させることができる。また、熱延最終パス温度を400〜550℃とし、かつ400〜600℃の間に行われる1回または複数回の圧延パスにおける合計圧延率を20%以上確保することにより、Fe−P系化合物の析出形態を微細化させる。400〜600℃での圧延率が20%を下回ると粗大なFe−P系化合物が残存しやすく、耐応力緩和特性の向上が不十分となりやすい。熱延最終パス温度は400℃以上500℃未満の範囲とすることがより好ましく、具体的には例えば400℃以上490℃以下、あるいは410℃以上480℃以下といった範囲に管理することができる。なお、熱間圧延1パス目の温度(初回パス温度)は例えば850〜950℃の範囲に設定すればよい。
【0034】
ここで、板厚h0(mm)から板厚h1(mm)までnパス(nは1以上の整数)の圧延により板厚を減じる場合、そのnパスでの圧延における合計圧延率R(%)は下記(3)式により定まる(後述の各冷間圧延工程での圧延率についても同様)。
圧延率R(%)=(h0−h1)/h0×100 …(3)
従って、上記の「600℃以下での合計圧延率」は、600℃以下で行われる最初の圧延パスに供する材料の板厚をh0(mm)、最終パス後の板厚をh1(mm)として上記(3)式を適用することにより求まる。
【0035】
最終パス後は、600℃から400℃までの滞在時間が既に1min以上確保されている場合は、すぐに急冷してよい。最終パス後に上記滞在時間がまだ1min以上経っていない間合いは、1min経過する時点まで待った後に急冷を開始する。急冷は、巻き取られた熱延板のコイルを水槽中に浸漬する方法や、巻取前の板に水を吹き付ける方法などにより行うことができる。熱延後には400〜300℃の平均冷却速度が5℃/sec以上となるように急冷することが望ましく、20℃/sec以上とすることがより好ましい。この急冷によりMg−P系化合物の生成を抑制する。
【0036】
〔冷間圧延工程〕
前記の熱間圧延工程によって得られた板材(熱延板)を圧延率30%以上、より好ましくは35%以上で冷間圧延する。この工程で付与される冷間加工歪によって、次工程の焼鈍でFe−P系化合物の析出処理を極めて短時間で行うことができ、Fe−P系化合物の微細化に有効となる。冷間圧延率の上限は目標板厚および冷間圧延機のミルパワーによって適宜設定することができる。通常、95%以下の圧延率とすればよく、80%以下あるいは70%以下の範囲で設定してもよい。
【0037】
〔中間焼鈍工程〕
本発明では、上記の冷間圧延工程と後述の仕上冷間圧延工程の間で、時効処理を兼ねた中間焼鈍を1回で済ませる。複数回の中間焼鈍により析出形態を入念に調整すれば所望の組織状態を得ることは比較的容易であると考えられるが、そのような手法は量産材の製造コスト上昇を招く要因となる。発明者らは詳細な検討の結果、以下に示すように、中間焼鈍を1回で済ませる合理的な手法を見出した。すなわち、前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間を0.4h以上好ましくは0.5h以上確保する。550〜600℃での保持時間は、材料温度が550〜600℃の間に維持されている温度である。この保持時間が不足するとFe−P系化合物の析出が不十分となる。この保持時間の上限は特に規定しないが、通常5h以内とすればよく、3h以内に設定してもよい。
【0038】
また、この焼鈍では、温度を低下させる過程でFe−P化合物の溶解度を徐々に減じていき、合金中に固溶状態で残存するPをできるだけFe−P化合物として消費させてしまうことが重要である。そのために本発明では、材料温度を徐々に低下させていく過程に要する時間(徐冷時間)を十分に確保する。具体的には、550〜600℃における最高到達温度から400℃までの冷却所要時間を2.0h以上とすること、および、少なくとも550℃から400℃までの平均冷却速度を80℃/h以下、より好ましくは40℃/h以下とすることにより、Fe、Pの溶解度を減じながらFe−P系化合物の析出を更に進行させることができる。その場合、温度が400℃まで低下した時点で、固溶しているPはほとんど残っていないと考えられる。400℃より低温域は、本来、Fe−P系化合物に加えMg−P系化合物の析出も活発に起こる温度域であるが、上記の徐冷条件に従えば既に優先的に析出したFe−P系化合物によってMgと結合し得るPはほとんど残存していないので、更なるMg−P系化合物の生成が防止され、結果的にMgの固溶量が非常に多い、この合金系としては特異な組織状態が実現されるのである。550℃から400℃までの平均冷却速度があまり遅いと生産性が低下するので、通常、その平均冷却速度は10℃/h以上の範囲で設定すればよい。また、前記最高到達温度から400℃までの冷却所要時間については、20h以下の範囲で設定することが望ましく、通常、10h以下の範囲で設定すればよい。
上記において、最高到達温度を保持温度として加熱保持する場合は、「最高到達温度から400℃までの冷却所要時間」を定めるための開始時期は最高到達温度からの降温が始まる時点とする。焼鈍時の材料温度は板材の板幅方向(すなわち圧延直角方向)中央部における表面温度によって把握することができる。
【0039】
〔仕上冷間圧延工程〕
上記の中間焼鈍の後、最終的な板厚調整や更なる強度向上のために、圧延率5〜95%の範囲で仕上冷間圧延を行う。過剰に高い圧延率に設定すると材料中の歪量が増加し、曲げ加工性が低下するため、圧延率は95%以下の範囲で設定する。90%以下とすることがより好ましく、70%以下とすることが一層好ましい。ただし、強度向上の効果を十分に得るためには5%以上の圧延率を確保することが望ましく、20%以上の圧延率を確保することがより好ましい。
【0040】
〔低温焼鈍工程〕
低温焼鈍は一般に連続焼鈍炉またはバッチ式焼鈍炉で行われる。いずれの場合も材料の物温が200〜400℃となるように加熱保持する。これにより、歪みが緩和され、導電率が向上する。また、曲げ加工性および耐応力緩和特性も向上する。加熱温度が200℃より低い場合は歪みの緩和効果が十分に得られず、特に仕上冷間圧延の加工率が高い場合には曲げ加工性の改善が難しい。加熱温度が400℃を超えると材料の軟化が生じやすく、好ましくない。保持時間は連続焼鈍の場合は3〜120sec、バッチ焼鈍の場合は10min〜24h程度とすればよい。
【実施例】
【0041】
表1に示す化学組成を有する銅合金を溶解し、鋳片を得た。鋳造の際、モールド(鋳型)に設置した熱電対によって鋳片表面の冷却速度をモニターした。鋳造後の鋳片(鋳塊)から40mm×40mm×20mmの鋳片を切り出し、これを鋳片加熱工程以降の工程に供した。製造条件を表2に示す。熱間圧延工程では板厚5mmまで熱間圧延した。熱間圧延1パス目の温度(初回パス温度)は鋳片加熱温度にほぼ等しい。冷間圧延工程および仕上冷間圧延工程での圧延率を表2に示すように設定して、最終的に板厚を0.64mmに揃えた。中間焼鈍はバッチ焼鈍炉にて各例とも1回で済ませた。中間焼鈍では、最高到達温度で一定時間保持した後、降温を開始した。最高到達温度から400℃まで各例毎に概ね一定速度で冷却した。なお、鋳片加熱工程は熱間圧延時の鋳片加熱を利用して行った。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
低温焼鈍を終えて得られた板厚0.64mmの板材(供試材)から試験片を採取して、以下の方法で析出物の存在密度、Mg固溶率、導電率、0.2%耐力、曲げ加工性、応力緩和率を調べた。
【0045】
析出物の存在密度は以下のようにして求めた。供試材から採取した試料をTEMで倍率4万倍にて観察し、ランダムに選択した5視野について、それぞれ3.4μm2の観察領域中に存在する粒子径50nm以上のFe−P系化合物および粒子径100nm以上のMg−P系化合物の個数をカウントした。粒子径は観察される粒子の長径である。観察領域の境界線に掛かる粒子については、粒子面積の半分以上が領域内にあるものをカウント対象とした。粒子がFe−P系化合物であるかMg−P系化合物であるかは、EDX分析を利用して識別した。それぞれの粒子について、各視野でのカウント数を5視野について合計し、その合計数に、10μm2/(観察した総面積3.4μm2×5)の値を乗じることにより、10μm2当たりの個数を算出した。
【0046】
Mg固溶率は以下のようにして求めた。供試材から採取した試料をTEMで倍率10万倍にて観察し、EDX分析によって、析出物のないCuマトリクス部分のMg濃度を測定する操作を、ランダムに選択した10視野について行った。各視野で測定されたMg濃度(質量%に換算した値)の平均値を、当該試料の固溶Mg量として定め、下記(1)式によってMg固溶率を求めた。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
なお、トータルMg含有量はICP発光分光分析法により供試材から採取した試料に含まれるMg含有量を測定する方法で求めた。
【0047】
導電率は、JIS H0505に従って測定した。導電率65%IACS以上を合格とした。
0.2%耐力は、JIS Z2241に従って、LDの引張試験により測定した。0.2%耐力450N/mm2以上を合格とした。
曲げ加工性は、JIS H3110に示される治具を用いて、曲げ軸をLD(B.W.)、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とする条件でW曲げ試験を行い、曲げ加工部を光学顕微鏡により倍率50倍で観察して割れが認められないものを○(良好)、それ以外を×(不良)と評価した。
応力緩和率は、板厚0.64mmの供試材からワイヤーカットにてLDの長さが100mm、TDの幅が0.5mmの細長い試験片を切り出し、これを日本電子材料工業会標準規格EMAS−1011に示される片持ち梁方式の応力緩和試験にかけることによって求めた。ただし、試験片は、たわみ変位の方向がTDとなるように、0.2%耐力の80%に相当する負荷応力を付与した状態でセットし、150℃で1000時間保持後の応力緩和率を測定した。このようにして求めた応力緩和率を「たわみ方向がTDの応力緩和率」と呼ぶ。たわみ方向がTDの応力緩和率35%以下を合格と判定した。
調査結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3からわかるように、本発明例の銅合金板材は、導電性、強度(0.2%耐力)、曲げ加工性、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性のすべてにおいて良好な特性を有する。
【0050】
比較例であるNo.21、22、27は熱延条件が本発明規定範囲外であったことにより粗大なFe−P系化合物の存在密度が高くなり、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性が悪かった。No.23は中間焼鈍での冷却速度が大きかったので最高到達温度から400℃までの冷却時間が不足し、Mg固溶率が十分に確保できなかった。その結果、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性が悪かった。No.24はP含有量が少なすぎたものであり、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性に劣った。No.25はFe含有量が多すぎたものであり、導電性に劣った。No.26はMg含有量が多すぎたので熱間圧延中に割れが生じ、その後の調査を中止した。