特許第6389424号(P6389424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6389424結晶育成用反応容器の再生方法および結晶の育成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389424
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】結晶育成用反応容器の再生方法および結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-237347(P2014-237347)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-98151(P2016-98151A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】東原 周平
(72)【発明者】
【氏名】平尾 崇行
(72)【発明者】
【氏名】内川 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】野口 卓
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−136898(JP,A)
【文献】 特開2012−136422(JP,A)
【文献】 特開2013−100207(JP,A)
【文献】 特開2009−221041(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/099720(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナからなる反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成した後に、前記反応容器を再生する方法であって、
前記アルミナの純度が99.9重量%以上であり、前記アルミナの嵩密度が99.5%以上であり、前記反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬して静置する浸漬工程、および
次いで前記反応容器を超音波洗浄する洗浄工程
を有しており、前記反応容器の再生中の環境温度を300℃以下としつつ、前記反応容器の前記酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間を30分以上とし、前記反応容器に付着した水酸化ガリウムを除去することを特徴とする、結晶育成用反応容器の再生方法。
【請求項2】
前記洗浄工程において前記反応容器を前記酸溶液またはアルカリ溶液によって超音波洗浄することを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記結晶が、窒化ガリウム、窒化ガリウムアルミニウムまたは窒化ガリウムインジウムであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記酸が塩酸またはクエン酸であり、前記アルカリが水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項5】
フラックス法によって前記結晶を育成することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項6】
アルミナからなる反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成する第一の育成工程、
次いで前記反応容器を再生する再生工程、および
次いで前記反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成する第二の育成工程
を有しており、前記アルミナの純度が99.9重量%以上であり、前記アルミナの嵩密度が99.5%以上であり、前記再生工程が、
前記反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬して静置する浸漬工程、および
次いで前記反応容器を超音波洗浄する洗浄工程
を有しており、前記第一の育成工程から前記第二の育成工程の間の環境温度を300℃以下としつつ、前記反応容器の前記酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間を30分以上とし、前記反応容器に付着した水酸化ガリウムを除去することを特徴とする、単結晶の育成方法。
【請求項7】
前記第一の育成工程および前記第二の育成工程において、種結晶基板上に前記結晶を育成することを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記結晶が、窒化ガリウム、窒化ガリウムアルミニウムまたは窒化ガリウムインジウムであることを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記酸が塩酸またはクエン酸であり、前記アルカリが水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項10】
フラックス法によって前記結晶を育成することを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一つの請求項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶育成用反応容器の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Naフラックス法を用いて窒化ガリウム単結晶を育成する方法が研究されている。この際、反応性のきわめて高いナトリウム等をルツボに入れて高温で長時間加熱することから、これに耐えるルツボ材質が要求されている。
【0003】
特許文献1(特開2004−300024)には、窒化ホウ素やアルミナ製のルツボが開示されている。特許文献2(特開2005−263622)にもアルミナ製のルツボが開示されている。特許文献3(特開2005−263535)にはイットリア製のルツボが開示されている。
【0004】
しかし、Naフラックス法では、アルカリ金属フラックスと金属ガリウムを坩堝内に入れ、高温高圧で育成工程を実施する。このため、結晶育成中に、坩堝が高温のナトリウムにより腐蝕され、育成された結晶に不純物発光帯が見られることがあった。このため、坩堝の再生方法として特許文献4を提案した。
【0005】
特許文献4記載の再生方法では、使用済みの坩堝を超音波洗浄した後、酸素含有雰囲気下で1300〜1600℃の温度で加熱する。これは、結晶育成工程において、高温ナトリウムとアルミナ坩堝との接触によってアルミナが還元されており、不純物が堆積する原因となっていることから、還元されたアルミナを1300℃以上の高温熱処理によって再酸化し、復元するものである。また、特許文献4では、使用済み坩堝を酸素雰囲気下で1300℃以上の高温で酸化する前に、純水や濃度10%以下の希塩酸を用いて超音波洗浄することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−300024
【特許文献2】特開2005−263622
【特許文献3】特開2005−263535
【特許文献4】特開2011−136898
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者が、特許文献4記載の方法で坩堝を再生し、結晶を育成してみたところ、以下の問題点が生じた。すなわち、種結晶基板上に窒化ガリウム等の結晶を育成してみたが、坩堝の外観が問題なく再生していても、種結晶基板と育成した結晶との界面に沿って不純物がたまりやすく、成長レートのバラツキ及び界面近傍での結晶不良が発生することがあった。
【0008】
本発明の課題は、アルミナからなる反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成した後に、反応容器を再生するのに際して、育成する結晶の初期の成長レートのバラツキと結晶不良を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミナからなる反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成した後に、前記反応容器を再生する方法であって、
前記アルミナの純度が99.9重量%以上であり、前記アルミナの嵩密度が99.5%以上であり、前記反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬する浸漬浸漬して静置する浸漬工程、および
次いで前記反応容器を超音波洗浄する洗浄工程
を有しており、前記反応容器の再生中の環境温度を300℃以下としつつ、前記反応容器の前記酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間を30分以上とし、前記反応容器に付着した水酸化ガリウムを除去することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、アルミナからなる反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成する第一の育成工程、
次いで前記反応容器を再生する再生工程、および
次いで前記反応容器内にナトリウムおよびガリウムを含む融液を収容した状態で結晶を育成する第二の育成工程
を有しており、前記アルミナの純度が99.9重量%以上であり、前記アルミナの嵩密度が99.5%以上であり、前記再生工程が、
前記反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬して静置する浸漬工程、および
次いで前記反応容器を超音波洗浄する洗浄工程
を有しており、前記第一の育成工程から前記第二の育成工程の間の環境温度を300℃以下としつつ、前記反応容器の前記酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間を30分以上とし、前記反応容器に付着した水酸化ガリウムを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
特許文献4記載の再生方法では、高温での熱処理によって坩堝表面の酸素欠陥を補い、強度を維持すると共に、坩堝表面の酸素欠陥部分に付着したアルカリ成分を除去していた。これは、単なる超音波洗浄や酸による洗浄では、酸素欠陥部分に混入したアルカリ成分を除去できないためである。
【0012】
しかし、再生した坩堝を使用して実際に種結晶基板上に窒化ガリウム結晶等を育成してみると、結晶の初期の成長レートのバラツキと結晶不良とが生じた。
【0013】
本発明者はこの原因を探索したところ、以下のことを見いだした。すなわち、育成結晶の初期結晶不良や成長レートのバラツキが生じた反応容器について、表面を超音波洗浄し、洗浄液を元素分析したところ、Gaと少量のFeやNaを検出した。次いでこの洗浄液を酸で中和するとGa塩が析出した。これは、水酸化ガリウムが反応容器の表面や内部で生成して残留していることを示す。
【0014】
水酸化ガリウムは、安定物質であるものの、Naのような強還元物質に対しては容易に還元され、水酸化ガリウムを構成している酸素が育成溶液に溶け出すことにより、フラックス溶液中の酸素濃度が上昇して、初期の窒化を阻害するものと考えられる。こうした反応容器に残留する水酸化ガリウムは微量であるため、検出は容易ではなく、また結晶育成の初期において結晶性を劣化させ、成長レートのバラツキをもたらしたものと考えられる。
【0015】
また、特許文献4記載の再生方法では、バルク結晶を育成していたので、坩堝に残留する微量の水酸化ガリウムの影響までは発見できていなかったものと考えられる。
【0016】
このため、本発明者は、まず反応容器を構成するアルミナの材質を検討した。この結果、純度99.9%以上のアルミナを用いることで不純物を抑制した上で、嵩密度99.5%以上の緻密性の高いアルミナによって反応容器を構成することで、結晶育成後に反応容器表面の着色や変質層が見られなくなり、すなわち表面酸素欠陥がほとんど見られないことを見いだした。この結果、酸素雰囲気下での高温加熱によって酸素欠陥を充填する必要が無くなった。
【0017】
その上で、水酸化ガリウムは酸やアルカリに可溶であるので、反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液中で超音波洗浄することで除去することを試みた。しかし、実際に試みてみると、水酸化ガリウムは反応容器に付着するだけでなく、セラミックス中の粒界への入り込みや雑結晶によって、保護・内包されており、一般的な洗浄作業における薬液接触時間では反応が限定的になる。このため、一般的な洗浄作業よりも薬液との接触時間の長時間化が必要であることがわかった。
【0018】
このため、本発明者は、前記の緻密な反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬した状態で保持する浸漬工程を設けた。反応容器が酸溶液またはアルカリ容器内に浸漬されている間に、反応容器表面付近で粒界や雑結晶によって保護・内包されている水酸化ガリウムの溶解が進む。その上で、更に反応容器を洗浄処理することによって、反応容器表面に付着した酸、アルカリと溶解した水酸化ガリウムを除去することに成功した。
【0019】
更に、本発明では、反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬し、次いで洗浄を行うことで反応容器を再生できる。したがって、高温処理によって反応容器の表面の粗れが生ずるのを避けることができる。このため、反応容器の粗れた表面に水酸化ガリウムが内包されにくく、確実に溶解させて次の育成工程への影響を最小限とすることができ、更に雑結晶としての種基板上の異常結晶核形成や種基板から離れた場所での結晶核生成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(反応容器)
本発明に言う反応容器は、フラックスの液体や蒸気に対して接触する容器全般を意味しており、例えば坩堝、坩堝にかぶせる蓋、圧力容器、坩堝を収容する外側反応容器を含む概念である。本発明は、フラックスを直接に収容して溶融させるための坩堝に適用したときに特に効果的である。
【0021】
反応容器を構成する材質のアルミナの嵩密度は99.5%以上とし、99.9%以上とすることが更に好ましい。特許文献4記載の実施例では嵩密度99%のアルミナを用いている。
嵩密度はアルキメデス法によって測定する。
【0022】
反応容器を構成するアルミナの純度は、育成時の単結晶へのドーピングのおそれを最小限にするために、99.9重量%以上とし、99.95重量%以上が更に好ましい。
【0023】
反応容器を構成するアルミナは、単結晶であってよく、また多結晶(セラミックス)であってよい。セラミックスはHIP処理などで、相対密度を高めた、いわゆる透光性を持たせたものであってよい。
【0024】
アルミナ多結晶の平均粒径は、10μm以上、100μm以下であることが、フラックスに対する耐蝕性の点で特に好ましく、この観点からは、原料粉末の粒度を0.1μm以上、10μm以下とすることが更に好ましい。また、反応容器を構成する材質のヤング率は、100GPa以上であることが好ましく、200GPa以上であることが更に好ましい。
【0025】
反応容器を構成するアルミナの製造方法は限定されない。例えば原料粉末を混合し、成形する。この成形方法としては一軸プレス法、コールドアイソスタティックプレス法、キャスティング法を例示できる。また、成形時にはPVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)のようなバインダーを使用することもできる。
【0026】
成形工程後に脱脂を行うこともできる。脱脂温度は特に限定されないが、例えば300℃以上、更には400℃以上とすることもできる。また、脱脂温度の上限は特にないが、600℃以下、更には500℃以下とすることもできる。
【0027】
焼成方法は特に限定されないが、ホットプレス、ホットアイソスタティックプレス法、放電プラズマ焼結を例示できる。焼成温度は限定されず、例えば1700〜2000℃とすることもできる。
【0028】
アルミナが単結晶である場合には、チョクラルスキー法、カイロポーラス法、EFG法(Edge-defined Film-fed Growth Method)で製造することが好ましい。
【0029】
反応容器の嵩密度を上げる方法として、原料粉末の一次粒子を小さくすることを例示できる。小粒子の原料粉末を用いることにより、低温で緻密化が進む為、嵩密度を上げることが出来る。
【0030】
(再生時の温度条件)
本発明においては、再生工程は、後述する洗浄工程のみからなっていて良いが、洗浄工程以外の工程(例えば浸漬工程)も含んでいて良い。再生工程の全体にわたって、環境温度は、酸溶液またはアルカリ溶液の溶媒の蒸発温度以下を保持する。この温度は、実用的には100℃以下とすることが更に好ましい。また、再生工程を実施する温度の下限は特にないが、水酸化ガリウムの溶出を促進するという観点からは、0℃以上が好ましく、10℃以上が更に好ましい。
【0031】
(再生工程)
本発明では、結晶育成に供した反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬して保持し、次いで洗浄する。
【0032】
この酸、アルカリとしては、反応容器を構成するアルミナに対する侵食性が低く、水酸化ガリウムをエッチングすることが可能である物質であれば、特に限定されない。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、酢酸、シュウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあげられる。
【0033】
また、酸、アルカリは、溶液の形態であり、水溶液であることが特に好ましい。水溶液中に水溶性有機溶媒が含有されていてもよい。
【0034】
水酸化ガリウムの除去効率の観点からは、酸溶液のpHは、5以下が好ましく、3以下が更に好ましい。また、アルカリ溶液のpHは、9以上が好ましく、12以上が更に好ましい。
【0035】
浸漬工程においては、酸溶液またはアルカリ溶液中で反応容器を静置する。
【0036】
洗浄工程においては、反応容器表面に付着した酸、アルカリやこれらに溶解した水酸化ガリウムを洗浄して除去する。
【0037】
超音波洗浄を行う際の溶液の温度は、本発明の観点からは、0℃以上が好ましく、10℃以上が更に好ましく、20℃以上が一層好ましく、30℃以上が特に好ましい。また、超音波洗浄時の温度は、溶媒の沸点以下であり、(溶媒の沸点マイナス10°C)以下が更に好ましい。実用的には100℃以下が好ましい。
【0038】
更に、洗浄工程においては、洗浄媒体を液滴状とし、液滴を反応容器に向かって噴霧することで洗浄することもできる。
【0039】
洗浄時の洗浄媒体としては、酸溶液、アルカリ溶液を使用できるが、中性の純水や有機溶媒を利用することもできる。
【0040】
反応容器を酸溶液またはアルカリ溶液に0.5時間以上浸漬することによって、反応容器に浸透し、付着、内包された水酸化ガリウムに対する接触を確保できる。この観点からは、反応容器の酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間は、1.0時間以上が更に好ましい。また、この接触時間の上限は特にないが、生産性の観点からは、浸漬時間は24時間以下でも良い。
【0041】
反応容器の酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間は、浸漬工程の時間と、洗浄工程において反応容器が酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬されている時間との合計である。
例えば、酸溶液またはアルカリ溶液内で反応容器を超音波洗浄する場合には、超音波洗浄工程の間反応容器が酸溶液またはアルカリ溶液内に浸漬される。一方、洗浄工程において、酸溶液またはアルカリ溶液以外の洗浄媒体を利用した場合には、反応容器の酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬時間は、浸漬工程の時間である。
【0042】
再生工程を実施した後に、反応容器を比較的低温で加熱処理することによって、反応容器に付着した有機物等を飛散させることができる。この場合にも、反応容器の加熱温度は300℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることが更に好ましい。本加熱処理工程では、反応容器を構成するアルミナの再酸化は起こらず、反応容器の表面の粗れが生じず、水酸化ガリウムの除去に支障がない。
また、同様の理由から、第一の育成工程と第二の育成工程との間の全体にわたって、環境の最高温度を300℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることが更に好ましい。
【0043】
(第一の育成工程および第二の育成工程)
各育成工程では、ナトリウムおよびガリウムを含む融液を用いて結晶を育成する。
【0044】
好適な実施形態においては、フラックスを収容した坩堝を圧力容器内に収容し、熱間等方圧プレス装置を用いて高圧下で加熱する。この際には、窒素を含む雰囲気ガスを所定圧力に圧縮し、圧力容器内に供給し、圧力容器内の全圧および窒素分圧を制御する。
【0045】
フラックスはナトリウムおよびガリウムを含有しているが、更に例えば、アルミニウム、インジウム、ホウ素、亜鉛、ケイ素、錫、アンチモン、ビスマスを添加することができる。また、フラックス中には、目的とする窒化物の原料が含有されている。
【0046】
各育成方法によって、例えば以下の単結晶を好適に育成できる。また、第一の育成工程と第二の育成工程とにおいて、異なる単結晶を育成することもできる。
窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウム、これらの混晶(窒化アルミニウムガリウムなど)、BN。
【0047】
単結晶育成工程における加熱温度、圧力は、単結晶の種類によって選択するので特に限定されない。加熱温度は例えば800〜1500℃とすることができる。好ましくは800〜1200℃であり、更に好ましくは800〜1100℃である。圧力も特に限定されないが、圧力は1MPa以上であることが好ましく、2MPa以上であることが更に好ましい。圧力の上限は特に規定しないが、例えば200MPa以下とすることができ、100MPa以下が好ましい。
【0048】
窒化ガリウム結晶を育成する際には、フラックスには、ガリウム原料物質を溶解させる。ガリウム原料物質としては、ガリウム単体金属、ガリウム合金、ガリウム化合物を適用できるが、ガリウム単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0049】
このフラックスには、ナトリウム以外の金属、例えばリチウムを含有させることができる。ガリウム原料物質とナトリウムなどのフラックス原料物質との使用割合は、適宜であってよいが、一般的には、ナトリウム過剰量を用いることが考慮される。もちろん、このことは限定的ではない。
【0050】
この実施形態においては、窒素ガスを含む混合ガスからなる雰囲気下で、全圧1MPa以上、200MPa以下の圧力下で窒化ガリウム単結晶を育成する。全圧を1MPa以上とすることによって、例えば800℃以上の高温領域において、更に好ましくは850℃以上の高温領域において、良質の窒化ガリウム単結晶を育成可能であった。
【0051】
好適な実施形態においては、育成時雰囲気中の窒素分圧を1MPa以上、200MPa以下とする。
雰囲気中の窒素以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。窒素以外のガスの分圧は、全圧から窒素ガス分圧を除いた値である。
【0052】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム結晶の育成温度は、800℃以上であり、850℃以上とすることが更に好ましい。窒化ガリウム結晶の育成温度の上限は特にないが、1500℃以下とすることが好ましく、1200℃以下とすることが更に好ましい。
【0053】
本発明の結晶をエピタキシャル成長させるための育成用基板の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl)、LiAlO、LiGaO、LaAlO,LaGaO,NdGaO等のペロブスカイト型複合酸化物を例示できる。また組成式〔A1−y(Sr1−xBa〕〔(Al1−zGa1−u・D〕O(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。また、SCAM(ScAlMgO)も使用できる。
【0054】
種結晶膜の製法は特に限定されないが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法を例示できる。また、種結晶膜の材質としては、13族元素窒化物が好ましく、窒化ガリウム、窒化ガリウムアルミニウムが特に好ましい。
【0055】
(有機溶媒でフラックスを処理する工程)
第一の育成工程後、フラックスからナトリウムを除去し、結晶を分離する必要がある。この際には結晶を機械的に分離することもできるが、好ましくは有機溶媒でフラックスを処理してナトリウムを除去する。
こうした有機溶媒としては、以下を例示できる。
エタノール、イソプロパノール(IPA)、灯油、アセトン
また、有機溶媒による処理温度は、−15〜30°Cが好ましい。
【実施例】
【0056】
(比較例1)
アルミナ焼結体からなる円筒丸底坩堝(外径86mm、内径80mm、高さ50mm)を準備した。アルミナの材質は以下のとおりである。
純度: 99.99重量%
嵩密度: 99.0重量%
平均結晶粒径:1.0μm
【0057】
アルゴン雰囲気のグローブボックス中にて、純度99.9999%の金属ガリウム(Ga) 30g、純度99.95%の金属ナトリウム(Na) 40g、添加物として純度99%の炭素0.08g、および直径2インチの種結晶基板を坩堝中に収容した。
ここで、種結晶基板は、サファイアからなる支持基板上に窒化ガリウム結晶からなる種結晶膜をMOCVD法によって形成したものである。
【0058】
次いで、坩堝本体に蓋をかぶせた。これらをステンレス容器に密閉し、グローブボックスから出して、育成装置に移した。育成条件は、窒素圧力4.5MPa、平均温度875℃にして、20時間保持し、結晶育成を行った(第一の育成工程)。
【0059】
10時間かけて25℃まで坩堝を冷却したのち、坩堝を回収し、育成原料の残渣をエタノールを用いて除去し、結晶を回収した(有機溶媒でフラックスを処理する工程)。得られたGaN結晶は種結晶とLPE部(フラックス法で育成された結晶)の界面に一部着色が見られるものの、本体は無色透明であり、300μm成長していた。このとき、坩堝は、灰色に変色していた。
【0060】
エタノール処理後のルツボを、エタノールを用いて25℃で10分超音波洗浄した(超音波洗浄工程)。次いでルツボを乾燥し、大気炉(ヒーター材質:カンタルスーパー)にて熱処理を行った。昇温および冷却速度は300℃/hrとした(加熱処理工程)。熱処理温度は1500℃とし、1500℃での保持時間は15時間とした。次いで25℃まで冷却した。
【0061】
この結果、坩堝の本体も蓋も変色が無くなった。そこで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さに110〜450μmとバラツキが見られた。また、育成結晶の結晶性が低下した。
【0062】
そこで、再生後の坩堝表面を希釈塩酸で超音波洗浄し、洗浄液をICP−AESによって分析したところ、Al及びGaと微量のNa、Feを検出した。この洗浄液をアルカリ溶液で中和したところ、GaClが析出した。これは坩堝にGaOHが内包され、結晶成長に影響していることを示唆している。
【0063】
(比較例2)
比較例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
次いで、エタノール処理後の坩堝を、5%塩酸水溶液を用いて25℃で10分超音波洗浄した(超音波洗浄工程)。次いでルツボを乾燥し、大気炉(ヒーター材質:カンタルスーパー)にて熱処理を行った。昇温および冷却速度は300℃/hrとした(加熱処理工程)。熱処理温度は1500℃とし、1500℃での保持時間は15時間とした。次いで25℃まで冷却した。
【0064】
この結果、坩堝の本体も蓋も変色が無くなった。そこで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さに150〜420μmとバラツキが見られた。また、育成結晶の結晶性が低下した。
【0065】
(比較例3)
比較例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
ただし、坩堝を構成するアルミナを、以下の物性を有するアルミナに変更した。
純度: 99.99重量%
嵩密度: 99.5重量%
平均結晶粒径:0.3μm
【0066】
得られたGaN結晶は種結晶とLPEとの界面に着色がみられるが、LPEした結晶本体は無色透明であり、約280mm成長していた。また、坩堝の変色は外観上見られなかった。
【0067】
次いで、エタノール処理後の坩堝を、別のエタノールを用いて25℃で30分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして坩堝に付着しているエタノールを除去した。(超音波洗浄工程)。
【0068】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さに150〜370μmとバラツキが見られた。また、育成結晶の結晶性が低下した。
【0069】
そこで、第二の結晶育成工程を実施する直前の坩堝表面を希塩酸水溶液で洗浄し、洗浄液をICP-AESによって分析したところ、Al及びGaと微量のNa、Feを検出した。この洗浄液をアルカリで中和したところ、GaClが析出した。これは坩堝にGaOHが内包され、結晶成長に影響していることを示唆している。
【0070】
(実施例1)
比較例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
ただし、坩堝を構成するアルミナを、以下の物性を有するアルミナに変更した。
純度: 99.99重量%
嵩密度: 99.5重量%
平均結晶粒径: 0.3μm
【0071】
得られたGaN結晶は無色透明であり、約220mm成長していた。また、坩堝の変色は外観上見られなかった。
【0072】
次いで、エタノール処理後の坩堝を、15%塩酸水溶液(pH1未満)に25℃で50分間時間浸漬し、次いで15%塩酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、母材に付着した塩酸を除去した。
【0073】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さのバラツキは190〜250μmであった。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
【0074】
そこで、また、再生後の坩堝表面を純水で超音波洗浄し、洗浄液をICP-AESによって分析したところ、Alは検出されたが、Ga、Na、Feが検出されなかった。
【0075】
(実施例2)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
次いで、エタノール処理後の坩堝を、20%クエン酸水溶液(pH2.5)に25℃で50分間浸漬し、次いで20%クエン酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスし、反応容器に付着しているクエン酸を除去した。
【0076】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さのバラツキは190〜280μmであった。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
【0077】
そこで、また、再生後の坩堝表面を純水で超音波洗浄し、洗浄液をICP−AESによって分析したところ、Alは検出されたが、Ga、Na、Feが検出されなかった。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
次いで、エタノール処理後の坩堝を、48%水酸化ナトリウム水溶液(pH14)に25℃で50分間浸漬し、次いで48%水酸化ナトリウム水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、水酸化ナトリウムを除去した。
【0079】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さのバラツキは170〜270μmであった。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
【0080】
そこで、また、再生後の坩堝表面を純水で超音波洗浄し、洗浄液をICP−AESによって分析したところ、Alは検出されたが、Ga、Na、Feが検出されなかった。
【0081】
(実施例4)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
次いで、エタノール処理後の坩堝を、3%塩酸水溶液(pH<1)に25℃で1時間50分間時間浸漬し、次いで3%塩酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、塩酸を除去した。
【0082】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さのバラツキは190〜260μmであった。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
【0083】
(実施例5)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
ただし、坩堝を構成するアルミナを、以下の物性を有するアルミナに変更した。
純度: 99.99重量%
嵩密度: 99.9重量%
平均結晶粒径:0.3μm
【0084】
得られたGaN結晶は無色透明であり、約260mm成長していた。また、坩堝の変色は外観上見られなかった。
【0085】
次いで、エタノール処理後の坩堝を、15%塩酸水溶液(pH<1)に25℃50分間浸漬し、次いで15%塩酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、塩酸を除去した。
【0086】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さに160〜230μmとバラツキが見られた。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
【0087】
(比較例4)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。
次いで、エタノール処理後の坩堝を、15%塩酸水溶液(pH<1)に浸漬して保持する工程を設けず、直ちに超音波洗浄を開始した。そして、15%塩酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、塩酸を除去した。
【0088】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さに120〜300μmとバラツキが見られた。また、育成結晶の結晶性の低下が見られた。
【0089】
(実施例6)
実施例1と同様にして第一の結晶育成工程を実施した。 次いで、エタノール処理後の坩堝を、15%塩酸水溶液(pH1未満)に25℃で20分間浸漬し、次いで15%塩酸水溶液で10分超音波洗浄し、次いで純水を用いてリンスして、母材に付着した塩酸を除去した。
【0090】
次いで、第一の結晶育成工程と同じ条件で第二の結晶育成工程を実施した。すると、育成された結晶の厚さのバラツキは150〜270μmであった。また、育成結晶の結晶性の低下が見られなかった。
そこで、また、再生後の坩堝表面を純水で超音波洗浄し、洗浄液をICP-AESによって分析したところ、Alは検出されたが、Ga、Na、Feが検出されなかった。