特許第6389432号(P6389432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和シェル石油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389432
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】燃料組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20180903BHJP
   C10L 1/06 20060101ALI20180903BHJP
   C10L 1/182 20060101ALI20180903BHJP
   C10L 1/185 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C10L1/02
   C10L1/06
   C10L1/182
   C10L1/185
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-267018(P2014-267018)
(22)【出願日】2014年12月29日
(65)【公開番号】特開2016-124988(P2016-124988A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186913
【氏名又は名称】昭和シェル石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(74)【代理人】
【識別番号】100161492
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 栄斉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 伸也
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール及びETBEを含み、
ETBEが7.0〜18.0容量%、
モル比で(エタノール)/(ETBE)が0.1〜0.5、
芳香族分が22.0〜45.0容量%、
炭素数9の芳香族分が5.0容量%以上、
リサーチオクタン価が89以上、
密度が0.70〜0.78g/cm、及び
蒸留50容量%留出温度が45〜120℃,蒸留90容量%留出温度が130〜185℃,蒸留終点が220℃以下、
であることを特徴とする燃料組成物。
【請求項2】
前記炭素数9の芳香族分が6.0〜23.0容量%である請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項3】
炭素数10の芳香族分が2.0〜10.0容量%である請求項1又は2に記載の燃料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載されているエンジンを駆動するための燃料組成物、特にエタノール含有ガソリン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の主な原因となっている二酸化炭素排出量削減の観点から、石油由来の燃料に代わるものとして、生物由来の燃料を使用する試みがなされている。その一環として、例えば、ガソリン組成物に、生物由来のエタノールや、生物由来のエタノールと石油系ガス(イソブテン)の合成により製造されるETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)を混合して使用することが提案されている。
【0003】
そして、現状では、ガソリン燃料用としてのエタノール混合量は品質確保法により3容量%まで許容され、ETBEの混合量は品質確保法の酸素分規格(1.3以下)により約7容量%まで許容されているが、地球温暖化を考慮した二酸化炭素削減の観点から、今後、エタノールやETBEの混合量が増加する可能性もある。
【0004】
ところが、エタノールやETBEを混合したガソリンは飽和水分量が高くなるため、外気が下がった場合などに水分を含んだガソリンの温度が急激に低下し、水分の析出により白濁を起こし、製品品質へ影響を与える可能性がある。このような白濁は、水濁りとも呼ばれ、その対処法も考案されており、例えば、特許文献1(特開2007−23164号公報)、及び特許文献2(特開2007−45858号公報)には水濁り防止性能に優れたETBE含有ガソリン組成物及びその製造方法が開示されている。また、特許文献3(特開2005−187706号)には、相分離を起こしにくいエタノール含有ガソリン及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−23164号公報
【特許文献2】特開2007−45858号公報
【特許文献3】特開2005−187706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のETBE含有ガソリン組成物及び特許文献3に記載のエタノール含有ガソリンは、相分離温度が最も低いものでも−25℃であり、特に寒冷地での使用において十分ではない。特許文献2に記載のETBE含有ガソリン組成物は、エタノールを含んでいないためエタノールの活用ができておらず、さらに、相分離温度においても、最も低いものでも−27℃であり、特許文献1及び3と同様に十分に低いとは言えない。
【0007】
そこで、本発明は、エタノール及びETBEを含み、且つ相分離温度が特に低い、即ち水曇りが起こりにくい燃料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、エタノールとETBEを所定量含む場合において、芳香族分の含有量を所定の範囲とすることにより、水曇りが起こりにくいエタノール含有ガソリン組成物が得られることを見出した。すなわち、本発明は、エタノール及びETBEを含み、ETBEが7.0〜18.0容量%、モル比で(エタノール)/(ETBE)が0.1〜0.5、芳香族分が22.0〜45.0容量%、炭素数9の芳香族分が5.0容量%以上、リサーチオクタン価が89以上、密度が0.70〜0.78g/cm、及び蒸留50容量%留出温度が45〜120℃,蒸留90容量%留出温度が130〜185℃,蒸留終点が220℃以下である燃料組成物である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、エタノール及びETBEを含み、水曇りが起こりにくい燃料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る燃料組成物は、エタノールとETBEを含む。ETBEは、燃料組成物中、7.0〜18.0容量%であり、好ましくは8.0〜17.0容量%である。エタノールとETBEのモル比は、(エタノール)/(ETBE)が0.1〜0.5、好ましくは0.2〜0.5である。
【0011】
芳香族分は、例えば、炭素数6〜12の芳香族分が挙げられる。芳香族分は、燃料組成物中、22.0〜45.0容量%であり、好ましくは23.0〜42.0容量%であり、より好ましくは23.0〜40.0容量%である。炭素数9の芳香族分は、燃料組成物中、5.0容量%以上であり、好ましくは5.0〜30.0容量%、より好ましくは6.0〜23.0容量%であり、さらに好ましくは7.0〜15.0容量%である。炭素数10の芳香族分は、燃料組成物中、好ましくは1.0容量%以上、より好ましくは2.0〜10.0容量%、さらに好ましくは3.0〜8.0容量%である。
【0012】
炭素数11と12の芳香族分の和は、燃料組成物中、好ましくは0.1〜5.0vol%であり、より好ましくは1.0〜5.0vol%である。炭素数11と12の芳香族分の和は高い方が相分離温度が低くなり好ましいと考えられるが、高すぎると90%留出温度が高くなり、オイル希釈を生じて潤滑油の機能を低下させる場合がある。
【0013】
エタノールとETBEを所定量の範囲で含有する燃料組成物においては、上記芳香族分の含有量の範囲であると、相分離温度が特に低くなり、水曇りが起こりにくい。このようになる理由は、例えば溶解性の一般的指標であるsp値(溶解パラメータ)を用いて説明することができる。sp値は溶解度の目安と考えることができ、sp値の異なる2つの物質は、それぞれのsp値が近いほど溶解しやすいと考えられている。エタノールのsp値は24であり、ETBEのsp値は15.4である。エタノールとETBEのsp値は離れているので、この2成分のみでは溶解しにくいが、芳香族分には、sp値が15.4〜24の間のものが種々存在するため、それらが含まれることにより、燃料組成物中への溶解度が高くなり、水分子を安定に保持することができ、相分離温度が下がるものと推測される。
【0014】
本発明に係る燃料組成物は、ノルマルパラフィンが、5.0〜20容量%含まれていてもよい。ノルマルパラフィンが少ないと燃焼性が悪化し排ガス性能が悪化することがある。またノルマルパラフィン分が多すぎるとオクタン価が低くなる場合がある。また、イソパラフィンが20.0〜40.0容量%含まれていてもよい。
【0015】
本発明に係る燃料組成物は、オレフィンが0.0〜20.0容量%含まれていてもよい。オレフィンが多いと酸化安定性が悪化することがある。また、ナフテンが1.0〜10.0容量%含まれていてもよい。ベンゼンは、0.5容量%以下であるのが好ましい。
【0016】
本発明に係る燃料組成物は、リサーチオクタン価(RON)が89以上であり、好ましくは、89〜100である。モーターオクタン価(MON)は、例えば、80〜95である。
【0017】
本発明に係る燃料組成物は、15℃における密度が0.70〜0.78g/cmであり、0.71〜0.78g/cmであることが好ましい。密度が大きいとエンジン燃焼室内で、プラグのくすぶりなどの不具合が生ずるおそれがあり、小さいと燃費が悪化する場合がある。
【0018】
本発明に係る燃料組成物は、初留温度が、例えば、25〜60℃である。10%留出温度は、30〜70℃であるのが好ましい。10%留出温度が低すぎるとベーパーロックが起こりやすくなり、高すぎると低温始動性が悪化する場合がある。30%留出温度は、例えば、40〜100℃である。50%留出温度は、45〜120℃であり、好ましくは70〜115℃である。50%留出温度が低すぎると燃費が悪化し、高すぎると加速性が悪化する場合がある。70%留出温度は、例えば、90〜150℃である。90%留出温度は、130〜185℃であり、好ましくは150〜185℃である。90%留出温度が低すぎると燃費が悪化し、高すぎるとオイル希釈が生じ、潤滑油の機能を低下させる。終点は、220℃以下である。
【0019】
本発明に係る燃料組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る燃料組成物は、異性化ガソリン、軽質分解ガソリン、重質分解ガソリン、アルキレート、接触改質ガソリン、芳香族回収装置から留出する接触改質ガソリンを蒸留操作により分離した複数のガソリン基材、それら複数のガソリン基材をスルフォランなどの溶剤抽出によりベンゼン等の芳香族分を除去した複数のガソリン基材、軽質ナフサ、及びブタン留分などから選ばれる基材に、エタノール及びETBEを混合して調製することができる。燃料組成物の芳香族分等を調整するには、基材の調合割合を変化させたり、各基材を得る時の運転条件、例えば蒸留装置からのカット温度や得率、反応器の反応温度、抽出装置の抽出温度や溶剤比率などを調整したりすればよい。
【実施例】
【0021】
≪実施例1〜6及び比較例1〜5≫
重質芳香族ガソリン基材、重質接触分解ガソリン、トルエン、アルキレート、軽質接触分解ガソリン、軽質ナフサ異性化ガソリン、及びスルフォラン溶剤抽出によりベンゼン等の芳香族分を除去したガソリン基材から選ばれた基材(各基材の性状を表1に示す。)を混合し、表2及び3に示した含有量となるようにエタノール及びETBEを添加して、実施例1〜6及び比較例1〜5に係る燃料組成物を得た。実施例1〜6及び比較例1〜5に係る燃料組成物の組成や性状を表2及び3に示す。性状および成分組成は、以下の方法により測定した。
【0022】
蒸留性状:JIS K 2254「石油製品―蒸留試験方法」により測定した。
硫黄分:JIS K 2541−6「原油及び石油製品−硫黄分試験方法−第6部:紫外蛍光法」により測定した。
ベンゼン:JIS K 2536−2「石油製品−成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した。
密度(@15℃):JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容積換算表」により測定した。
オクタン価(RON):JIS K 2536−2「石油製品−成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により全成分を測定し、それらからオクタン価を算出した。この値はJIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法を用いても算出して代用できる。
オクタン価(MON):JIS K 2536−2「石油製品−成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により全成分を測定し、それらからオクタン価を算出した。この値はJIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のモータ法オクタン価試験方法を用いても算出して代用できる。
【0023】
成分組成:JIS K 2536−2「石油製品―成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した。
【0024】
相分離温度:自動流動点試験器(RPP−106J,離合社)を用いて測定した。45mLの試料を入れた試験管をウォーターバスで40℃になるまで加熱し、その後30℃になるまで自然冷却した試験管を試験器に取り付け、1℃/minの冷却速度で冷却して測定を行った。また、試験器で検出できない試験管底部の曇りが発生した試料は、試験器により試料を冷却し、試料の温度が1℃下がるごとに試験管を取り出し、試料底部に曇りが生じたときの温度を相分離温度とした。なお、ここでは、相分離温度とは、透明なエタノール/ETBE混合ガソリンが冷却により白濁した温度である。
【0025】
【表1】
ALKY:アルキレート
H−AROMA:重質芳香族ガソリン基材
HCCG:重質接触分解ガソリン
LCCG:軽質接触分解ガソリン
HYSOMERATE:軽質ナフサ異性化ガソリン
SEU−RAF:スルフォラン溶剤抽出によりベンゼン等の芳香族分を除去したガソリン基材
TOLUENE:トルエン
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】