(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。まず、本発明の透明電極付き基板の評価方法(以下、単に「本発明の評価方法」ともいう)で使用する透明電極付き基板について説明する。
【0021】
図1は、透明基板1の上に透明誘電体層2が形成され、その上に透明導電膜層3が形成された透明電極付き基板(A)の断面図である。
図2は、透明電極付き基板(A)から透明導電膜層3が除去された基板(B)の断面図である。なお、
図1及び
図2における厚さの寸法関係については、図面の明瞭化と簡略化のため適宣変更されており、実際の寸法関係を表していない。また、各図において、同一の参照符号は同一の技術事項を意味する。
【0022】
透明基板の基材としては、少なくとも可視光領域で無色透明であれば特に限定されず、この上に透明電極を形成可能なものであればよい。例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフテレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂やシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂やシクロオレフィン系樹脂が好ましく用いられ、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。基材の厚みは特に限定されないが、0.01〜0.4mmの厚みが好ましい。上記範囲内であれば、透明基板の耐久性を十分に高めることができ、適度な柔軟性を有するため、生産性の良いロールトゥロール方式で製膜することができる。
【0023】
透明誘電体層の材料としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、酸化ケイ素・酸化チタン・酸化ニオブ・酸化ジルコニウム・酸化アルミニウム等の酸化物を主成分とする材料やフッ化カルシウム・フッ化マグネシウムを主成分とする材料を用いることができる。透明誘電体層を構成する酸化物としては、少なくとも可視光領域で無色透明であり、抵抗率が10Ω・cm以上であるものが好ましい。また、透明誘電体層の厚みは、上記抵抗率を満たせば、任意の厚みでよい。透明誘電体層は1層のみからなるものでもよく、2層以上からなるものでもよい。
【0024】
透明基板の片面あるいは両面には、タッチパネル用透明電極の耐久性を高める等の目的で、透明誘電体層でもあるハードコート層が予め積層されていても良い。ハードコート層の材料としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。ハードコートの膜厚は、適度な耐久性と柔軟性を有することから、1〜10μmが好ましい。
【0025】
上記透明基板には、透明基板と透明導電膜層の付着性を向上させる目的で表面処理を施すことができる。表面処理の手段としては、例えば、基板表面に電気的極性を持たせることで付着力を高める方法等があり、具体的にはコロナ放電、プラズマ法等が挙げられる。本発明における透明導電膜層と透明基板の間の透明誘電体層には、密着性を向上させる効果を持たせることも可能であり、特にSiO
x(x=1.8〜2.0)であれば、光学特性を損なうことがない点からも好ましい。
【0026】
透明導電膜層の材料は、透明性と導電性を両立するものであれば特に限定されない。この様な材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫を主成分とする材料等が挙げられる。中でも、低抵抗の観点から、酸化インジウムを主成分とする材料が好ましく用いられる。
【0027】
本明細書において、ある物質を「主成分とする」とは、当該物質の含有量が51重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上であることを指す。本発明の機能を損なわない限りにおいて、各層には、主成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0028】
透明導電膜層の形成方法は特に限定されず、スパッタリングやイオンプレーティング等のドライプロセス、ゾルゲルコーティング等のウェットプロセス等、求める特性に応じて適切な方法を選択することができる。
【0029】
静電容量方式タッチパネル等のタッチパネル用の透明電極付き基板においては、透明導電膜層の面内の一部がエッチング等によりパターニングされて用いられる。透明導電膜層のパターン(透明電極パターン)は、例えば、透明電極付き基板の透明導電膜層の一部をエッチングにより除去する手法や、透明導電膜層製膜時に透明導電膜層を部分的に製膜しない手法により形成される。エッチングにより透明導電膜層を除去する手法としては、感光性レジストを塗布後、フォトリソグラフィー等でレジストのパターンを形成し、露出した透明導電膜層をエッチング液で除去する方法が知られている。この他の手法であっても、所定のパターンを形成するために透明導電膜層が除去されるものであれば任意に用いることができる。透明導電膜層を部分的に製膜しない手法としては、基板にマスクパターンを形成した後に透明導電膜層を形成し、マスク部を除去する手法等が挙げられる。
【0030】
次に、本発明の透明電極付き基板の評価方法について説明する。本発明の透明電極付き基板の評価方法では、まず、透明基板上に透明誘電体層及び透明導電膜層がこの順に積層された透明電極付き基板(A)の分光反射率R
A(λ)と、上記透明電極付き基板(A)の上記透明導電膜層が存在しない基板(B)の分光反射率R
B(λ)とを測定し、上記分光反射率R
A(λ)と上記分光反射率R
B(λ)との各波長における差分のスペクトルの絶対値ΔR(λ)を計算する。
【0031】
[透明電極付き基板(A)]
透明電極付き基板(A)としては、誘電体層上に透明導電膜層を形成後、パターン形成前のものや、パターン形成後の透明電極付き基板の非エッチング部を用いることができる。タッチパネルとしての評価を行う場合、透明導電膜層のパターニングを行った後ではパターンが細かすぎて反射率測定が行えないことがある。このような場合、反射率測定用の抜き取りサンプルとして、測定が可能なようにパターン形状を変更したり、パターニングやエッチングを行わず透明電極が全面に存在する透明電極付き基板(A)を用いて評価用基板を形成してもよい。
【0032】
透明電極付き基板を利用するタッチパネルでは、透明導電膜層を製膜後、アニールによって透明導電膜層の結晶化が行われることがある。透明導電膜層を構成する材料(ITO等)の屈折率は結晶化前後で変化するため、透明電極パターンの非視認性も結晶化前後で変化する。そのため、通常は、結晶化後の透明導電膜層の光学特性に基づいて光学設計がなされる。また、結晶化前の透明導電膜層では、ITO等自体が光を吸収しやすいため、透明電極パターンが視認されやすくなる。以上の理由により、透明導電膜層の結晶化が行われる場合には、透明電極付き基板(A)として透明導電膜層を結晶化したものを用いることで、精度の高い評価が可能となる。
【0033】
[基板(B)]
基板(B)は、上記透明電極付き基板(A)の透明導電膜層が存在しない状態のものである。透明電極付き基板(A)の透明導電膜層をエッチングした基板や、透明導電膜層を製膜する前の段階の基板を、基板(B)として用いることができる。パターン形成後の透明電極付き基板のエッチング部を基板(B)として用いることもできる。パターニングプロセスにおいて、透明誘電体層がエッチングされたり、変質したりするような場合では、反射率を測定するための基板(B)としてエッチングプロセスを経たものを利用することで、実態に即した精度の高い評価が可能となる。
エッチングの方法としては、酸を用いたウェットプロセスや、プラズマを用いたドライプロセス等、タッチパネルの製造プロセスに応じて適切な方法を選択することができる。
【0034】
タッチパネルとしての評価を行う場合、透明電極付き基板(A)の場合と同様、パターンが細かすぎて反射率測定が行えないことがある。このような場合、反射率測定用の抜き取りサンプルとして、測定が可能なようにパターン形状を変更したり、全面の透明電極を除去した基板(B)を用いて評価用基板を形成してもよい。
【0035】
[反射スペクトル測定]
反射スペクトルの測定は、JIS Z8722の規格に従った方法で行うことができる。反射スペクトルの測定方法としては、インライン分光反射率計を用いて製膜工程中にインラインで測定する方法、製膜終了後にオフライン分光光度計で測定する方法、検査のため簡易タッチパネルに組み上げて測定する方法、完成したタッチパネル製品を測定する方法等が挙げられる。なお、分光反射率R
A(λ)と分光反射率R
B(λ)は、共に「製膜終了後にオフライン分光光度計で測定する」等のように、同じ工程で測定することが好ましい。また、分光反射率の差分の絶対値ΔR(λ)が製造工程の指標に用いられる場合、R
B(λ)の測定には製膜段階での作業が重要なことを考慮すると、反射スペクトルの測定方法としては、製膜工程中か製膜終了後に、分光反射率計又は分光光度計を用いて測定するのが好ましく、特に、製膜終了後に測定するのが好ましい。
【0036】
上記ΔR(λ)を計算した後、一実施形態においては、上記式1に示すように、上記ΔR(λ)と、等色関数x(λ)、y(λ)及びz(λ)の和であるC
1(λ)とを各波長において掛け合わせて、380〜780nmの波長範囲で積分することでΔV
1の値を求める。又は、上記式2に示すように、上記ΔR(λ)と、上記C
1(λ)と、光源スペクトルL(λ)とを各波長において掛け合わせて、380〜780nmの波長範囲で積分することでΔS
1の値を求める。ここで、C
1(λ)は、等色関数x(λ)、y(λ)及びz(λ)を用いて、式「C
1(λ)=x(λ)+y(λ)+z(λ)」で表される関数である。後述するように、光源スペクトルL(λ)は、最終製品の使用環境等における光源スペクトルであり、分光反射率R
A(λ)および分光反射率R
B(λ)の測定に用いられる光源のスペクトルは、必ずしもL(λ)と同一でなくともよい。
【0037】
また、他の実施形態においては、上記式3に示すように、上記ΔR(λ)と、C
2(λ)とを各波長において掛け合わせて、可視光領域の下限波長λ
1(nm)〜上限波長λ
2(nm)の波長範囲で積分することでΔV
2の値を求める。又は、上記式4に示すように、上記ΔR(λ)と、上記C
2(λ)と、光源スペクトルL(λ)とを各波長において掛け合わせて、λ
1(nm)〜λ
2(nm)の波長範囲で積分することでΔS
2の値を求める。ここで、C
2(λ)は、等色関数x(λ)、y(λ)及びz(λ)を用いて、式「C
2(λ)=l×x(λ)+m×y(λ)+n×z(λ)」で表される関数である。
【0038】
[等色関数]
上記における等色関数とは、人間の光感度の波長依存性を表したもので、国際照明委員会(CIE)によって規格化されている。CIEの規格の中では、等色関数は人間が3次元の色座標を持っていることを反映して、x(λ)、y(λ)及びz(λ)の3つの関数が規定されている。上記C
1(λ)はx(λ)、y(λ)及びz(λ)を足し合わせた関数であり、人間がどの波長の光を多く知覚することができるか、ということを表している。人間がどの波長の光を多く知覚することができるか、ということを表す関数としては、上記C
1(λ)の他に、明所視標準比視感度や暗所視標準比視感度が存在する。明所視標準比視感度や暗所視標準比視感度が明るさに重点を置いた関数であるのに対し、C
1(λ)は色彩に重点を置いた関数である。そのため、C
1(λ)を用いることで、色の違いをより正確に反映することができ、その結果、非視認性の評価精度を向上させることができる。
【0039】
本発明においては、x(λ)、y(λ)及びz(λ)の値として、10度視野の値であるCIE(1964)10−deg color matching functionsを用いることが好ましい。
図3に10度視野の等色関数から求めたC
1(λ)を示す。なお、x(λ)、y(λ)及びz(λ)の値としては、最終製品の使用環境等を反映して2度視野の値を用いることもできる。
【0040】
上記C
2(λ)は、C
1(λ)を拡張した関数であり、式「C
2(λ)=l×x(λ)+m×y(λ)+n×z(λ)」(ただし、l+m+n=3である)で表される。本発明においては、C
2(λ)を用いても、非視認性の評価精度を向上させることができる。
【0041】
ΔV
2の値を求める場合、目視による非視認性の評価結果を精度よく表す観点から、上記式中、l=0〜1.25、m=0〜2、n=0.4〜3であり、好ましくはl=0.05〜1.2、m=0〜2、n=0.6〜3であり、より好ましくはl=0.5〜1、m=0.6〜1.6、n=0.7〜1.9である。なお、l=m=n=1であるとき(すなわち、C
2(λ)=C
1(λ)であるとき)が最も好ましい(後述の実施例3〜24及び
図13参照)。
【0042】
ΔS
2の値を求める場合、目視による非視認性の評価結果を精度よく表す観点から、上記式中、l=0〜1.6、m=0〜1.6、n=0.4〜3であり、好ましくはl=0.05〜1.6、m=0〜1.4、n=0.6〜3であり、より好ましくはl=0.2〜1.6、m=0.2〜1.25、n=0.6〜2.6であり、さらに好ましくはl=0.6〜1.3、m=0.6〜1.1、n=0.8〜1.9である。なお、l=m=n=1であるとき(すなわち、C
2(λ)=C
1(λ)であるとき)が最も好ましい(後述の実施例25〜47及び
図14参照)。
【0043】
[光源スペクトル]
ΔS
1あるいはΔS
2の計算に使用する光源スペクトルは、最終製品の使用環境や等に応じて設定することができる。例えば、太陽光やD65光源、蛍光灯等、種々の光源が挙げられる。最終製品が屋外で使用されることを想定する場合、太陽光スペクトルの実測値又はD65光源の文献値を参照して得られたスペクトルを使用する方法が好ましい。また、最終製品が屋内で使用されることを想定する場合、照明のスペクトルを光源スペクトルとして使用する方法が好ましく、昼光色蛍光灯光源又はD65光源のスペクトルが好ましい。
図4に昼光色蛍光灯光源のスペクトル、
図5にD65光源のスペクトルを示す。
【0044】
[ΔV
1及びΔS
1の計算]
ΔV
1は、上記式1に表されるように、ΔR(λ)とC
1(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで得られる。ΔS
1は、上記式2に表されるように、ΔR(λ)とC
1(λ)とL(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで得られる。なお、後述の実施例のように、一定の波長間隔(例えば、10nmごと)の値を用いて、区分求積によりΔV
1及びΔS
1を計算してもよい。ΔV
2及びΔS
2の計算においても同様である。
【0045】
[ΔV
2及びΔS
2の計算]
ΔV
2は、上記式3に表されるように、ΔR(λ)とC
2(λ)とを各波長において掛け合わせ、可視光領域の下限波長λ
1(nm)〜上限波長λ
2(nm)の波長範囲で積分することで得られる。ΔS
2は、上記式4に表されるように、ΔR(λ)とC
2(λ)とL(λ)とを各波長において掛け合わせ、λ
1(nm)〜λ
2(nm)の波長範囲で積分することで得られる。可視光領域の下限波長λ
1及び上限波長λ
2の値は特に限定されないが、λ
1=380nm、λ
2=780nmであることが好ましい。
【0046】
ΔS
1あるいはΔS
2の計算に使用する光源スペクトルL(λ)は任意に設定することができるが、強度の異なる光源を使用すると計算結果が変わってしまう。そのため、光源スペクトルの強度を規格化しておく必要がある。本発明においては、C
1(λ)とL(λ)とを各波長で掛け合わせて380〜780nmの波長範囲で積分した場合、及び、C
2(λ)とL(λ)とを各波長で掛け合わせてλ
1(nm)〜λ
2(nm)の波長範囲で積分した場合に、結果が10となるよう規格化を行う。一般的に、光源強度の規格化は、光源スペクトルだけを積分して行うこともあるが、本発明においては人間の感度を考慮した上での規格化が必要となり、それは380〜780nm(又はλ
1(nm)〜λ
2(nm))に跨っているため、上記の積分値を採用した。これはJIS Z8701に記載のk値が、光源スペクトル×等色関数の積分値で規格化されていることと同じ理由である。
【0047】
本発明の透明電極付き基板の評価方法では、上記のようにして得られたΔV
1、ΔS
1、ΔV
2及びΔS
2の値を、それぞれ透明電極パターンの非視認性の指標に用いることができる。透明電極パターンの非視認性の高い透明電極付き基板とするためには、ΔV
1、ΔS
1、ΔV
2及びΔS
2の値は低い方が好ましい。具体的には、ΔV
1の値は、240%nm以下が好ましく、220%nm以下がより好ましく、200%nm以下がさらに好ましい。ΔS
1の値は、7.0%nm以下が好ましく、6.3%nm以下がより好ましく、5.6%nm以下がさらに好ましい。ΔV
2の値は、280%nm以下が好ましく、260%nm以下がより好ましく、190%nm以下がさらに好ましい。ΔS
2の値は、9.0%nm以下が好ましく、7.5%nm以下がより好ましく、5.7%nm以下がさらに好ましい。
【0048】
本発明の透明電極付き基板の評価方法は、透明電極付き基板の製造過程に組み込むことができる。上記評価を、例えば透明電極付き基板の製造条件設定時に行い、評価結果に基づき製造条件(透明誘電体層や透明導電膜層の製膜条件等)を調整することで、各種製造条件を決定することができる。また、製造ラインにて上記評価を実施することで、透明電極付き基板の品質管理を行うこともできる。
【0049】
このように、本発明の評価方法を含む透明電極付き基板の製造方法もまた、本発明の1つである。本発明の透明電極付き基板の製造方法は、上述の評価方法が組み込まれていること以外は、従来の透明電極付き基板の製造方法と同様である。
【0050】
本発明の透明電極付き基板の製造方法では、上記ΔV
1、ΔS
1、ΔV
2及びΔS
2のいずれかの値が所定の範囲内であるかを判定する。例えば、透明導電膜層が製膜された後の透明電極付き基板に対して本発明の評価方法を行い、ΔV
1等の値が所定の値を超えていれば、透明電極パターンの非視認性が許容範囲内でないことを意味する。
【0051】
上記ΔV
1またはΔV
2の値の判定結果をフィードバックし、その値が所定の範囲内になるように製造条件を調整することにより、透明電極をパターニング後の透明電極付き基板におけるパターンの非視認性を向上できる。上記ΔS
1またはΔS
2の値の判定結果を製造条件にフィードバックすれば、最終製品の使用環境における非視認性を高めることができる。すなわち、ΔS
1またはΔS
2の計算時に用いられる光源スペクトルL(λ)として、最終製品の使用環境等における光源スペクトル、あるいは使用環境に近い光源スペクトルを用いることにより、最終製品の使用環境におけるパターンの非視認性をより正確に評価することが可能となる。例えば、屋外で使用されることが多いモバイル機器では、屋外の太陽光下でパターンが視認され易い傾向があるため、L(λ)として太陽光スペクトルの実測値や、疑似太陽光スペクトルを用いて、ΔS
1またはΔS
2を求めることが好ましい。
【0052】
調整する製造条件としては、例えば、透明誘電体層の製膜条件(材質、厚み、ガス流量等)、透明導電膜層の製膜条件(材質、厚み、ガス流量等)等が挙げられる。なお、2以上の製造条件を同時に調整してもよい。例えば、ΔV
1、ΔS
1等の値が目的の値より高い場合、透明誘電体層及び透明導電膜層の少なくとも一方の厚みを小さくすること、透明誘電体層及び透明導電膜層の少なくとも一方の製膜時における酸素量を増加させること等により、これらの値を低くすることができる。
【0053】
また、上記判定結果を透明電極付き基板に付加することにより、透明電極付き基板の品質管理を行うことができる。例えば、タッチパネルの製造工程において、ΔV
1、ΔS
1等の値が目的の値以下である透明電極付き基板を選択的に使用することにより、最終製品の歩留まりを高めることができる。判定結果を透明電極付き基板に付加する方法としては、判定結果を印刷したラベルや判定結果を記録したICチップ等の媒体を透明電極付き基板に添付あるいは透明電極付き基板とともに梱包する方法、判定結果を直接透明電極付き基板に印字又は印刷する方法等が挙げられる。判定結果は、文字、数字、記号、バーコード、二次元コード等で表すことができ、これらを組み合わせて表してもよい。
【0054】
反射スペクトルの測定方法としては、上述の方法が挙げられる。中でも、製膜工程中にインラインで反射スペクトルを測定する方法が好ましく、分光反射率R
B(λ)として、透明誘電体層が製膜された後で透明導電膜層が製膜される前の基板の分光反射率と、分光反射率R
A(λ)として、透明導電膜層が製膜された後の透明電極付き基板の分光反射率とを、各々インラインで測定する方法がより好ましい。
【0055】
ΔV
1については、好ましくは240%nm以下、より好ましくは220%nm以下、さらに好ましくは200%nm以下のとき、ΔS
1については、好ましくは7.0%nm以下、より好ましくは6.3%nm以下、さらに好ましくは5.6%nm以下のとき、ΔV
2については、好ましくは280%nm以下、より好ましくは260%nm以下、さらに好ましくは190%nm以下のとき、ΔS
2については、好ましくは9.0%nm以下、より好ましくは7.5%nm以下、さらに好ましくは5.7%nm以下のとき、それぞれ、透明電極パターンの非視認性が高い透明電極付き基板とすることができる。このような数値範囲になるように製造条件を管理することで、非視認性が良好な透明電極付き基板を製造することができる。
【0056】
さらに、本発明によれば、評価者の熟練度等による透明電極パターン視認性の判定差の影響を受けることなく、判定結果を透明導電膜層の製膜工程にフィードバックすることができるため、不具合を早期に発見することができ、生産性向上に寄与することができる。
【0057】
[透明電極付き基板の用途]
本発明の透明電極付き基板は、ディスプレイや発光素子、光電変換素子等の透明電極として用いることができ、タッチパネル用の透明電極として好適に用いられる。中でも、透明導電膜層が低抵抗であることから、静電容量方式タッチパネルに好ましく用いられる。
【0058】
タッチパネルの形成においては、透明電極付き基板上に、導電性インクやペーストが塗布されて、熱処理されることで、引き廻し回路用配線としての集電極が形成される。加熱処理の方法は特に限定されず、オーブンやIRヒータ等による加熱方法が挙げられる。加熱処理の温度・時間は、導電性ペーストが透明電極に付着する温度・時間を考慮して適宜に設定される。例えば、オーブンによる加熱であれば120〜150℃で30〜60分、IRヒータによる加熱であれば150℃で5分等の例が挙げられる。なお、引き廻し回路用配線の形成方法は、上記に限定されず、ドライコーティング法によって形成されてもよい。また、フォトリソグラフィーによって引き廻し回路用配線が形成されることで、配線の細線化が可能である。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
限定されるものでは無い。
【0060】
[基板の作製]
[基板1]
透明電極付き基板(A)
1として、基材(透明基板)上に透明誘電体層(高屈折率層、低屈折率層)、透明導電膜層、を順次積層した。高屈折率層としてNb
2O
5、低屈折率層としてSiO
2、透明導電膜層として酸化インジウムに酸化スズのドープされたITOを使用した。
【0061】
基材としてPETフィルム(厚み125μm)の両面にハードコート層(ウレタン樹脂)が形成されたフィルムを使用し、その上にスパッタリングにより、Nb
2O
5、SiO
2、ITOを順次製膜した。ハードコート層の厚みは5μm、Nb
2O
5の厚みは8nm、SiO
2の厚みは50nm、ITOの厚みは28nmとした。
【0062】
スパッタリング直後のITOは非晶質であるので、150℃のオーブンで30分間のアニールを行うことによりITOの結晶化を行った。このようにして得られた透明電極付き基板を基板(A)
1とした。
【0063】
基板(B)
1は、透明電極付き基板(A)
1の透明導電膜層を、エッチング液(関東化学製ITO−02)を用いてウェットエッチングすることにより作製した。
【0064】
[目視による非視認性評価]
上記透明電極付き基板(A)
1をフォトリソグラフィーによりパターニングし、パターニングサンプル1を作製した。このパターニングサンプル1を用い、昼光色の蛍光灯下で透明電極パターンの非視認性をレベル1からレベル5の5段階で評価した。数字が大きいほど非視認性が良好であることを示す。パターニングサンプル1の目視による非視認性レベルは1であった。
【0065】
[基板2]
SiO
2の厚みを40nm、ITOの厚みを25nmとした以外は、実施例1と同様にして、透明電極付き基板(A)
2を作製し、透明導電膜層をウェットエッチングすることにより、基板(B)
2およびパターニングサンプル2を作製した。パターニングサンプル2の目視による非視認性レベルは2であった。
【0066】
[基板3]
Nb
2O
5の厚みを7nm、ITOの厚みを26nmとした以外は、実施例1と同様にして、透明電極付き基板(A)
3を作製し、透明導電膜層をウェットエッチングすることにより、基板(B)
3およびパターニングサンプル3を作製した。パターニングサンプル3の目視による非視認性レベルは3であった。
【0067】
[基板4]
ITOの厚みを26nmとした以外は、実施例1と同様にして、透明電極付き基板(A)
4を作製し、透明導電膜層をウェットエッチングすることにより、基板(B)
4およびパターニングサンプル4を作製した。パターニングサンプル4の目視による非視認性レベルは4であった。
【0068】
[基板5]
Nb
2O
5の厚みを6nm、SiO
2の厚みを34nm、ITOの厚みを10nmとした以外は、実施例1と同様にして、透明電極付き基板(A)
5を作製し、透明導電膜層をウェットエッチングすることにより、基板(B)
5およびパターニングサンプル5を作製した。パターニングサンプル5の目視による非視認性レベルは5であった。
【0069】
[基板6]
Nb
2O
5の厚みを6nm、SiO
2の厚みを30nm、ITOの厚みを10nmとした以外は、実施例1と同様にして、透明電極付き基板(A)
6を作製し、透明導電膜層をウェットエッチングすることにより、基板(B)
6およびパターニングサンプル6を作製した。パターニングサンプル5の目視による非視認性レベルは5であった。
【0070】
[実施例1]
上記において作製した透明電極付き基板(A)
1〜(A)
5及び基板(B)
1〜(B)
5の反射スペクトルを測定し、式1に基づきΔV
1を計算した。
【0071】
[反射スペクトル測定]
反射スペクトルは、積分球を備えた分光光度計である、パーキンエルマー社製LAMBDA750を用いて、380nm〜780nmの波長範囲を、波長間隔10nmごとに測定した。測定は気温25℃、湿度40%の室温環境で行った。反射スペクトルの測定では、分光された単色光が製膜面に入射するようにサンプルを設置し、透過した全光線を積分球にて測定した。反射スペクトル測定の際には裏面に黒塗りする等の特別な処理を行わず、裏面反射を含めて反射率を測定した。サンプル固定は積分球開口部に接している部分の外側を押さえることで行い、背面が空気に接している状態で測定した。
【0072】
[ΔV
1の計算]
ΔV
1は、式1に表されるように、ΔR(λ)とC
1(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで求めた。ΔR(λ)は上記反射スペクトル測定により得られた、透明電極付き基板(A)と基板(B)の反射スペクトルの差の絶対値である。等色関数は反射スペクトルの測定波長に合わせ、380nm〜780nmの波長範囲を、波長間隔10nmごとに使用した。ΔS
1、ΔV
1及びΔS
2の計算においても同様である。
【0073】
この計算により得られた結果を
図6に示す。ΔV
1と目視による非視認性の評価結果は良い相関を示し、ΔV
1が非視認性の評価方法として優れていることが分かる。
【0074】
[実施例2]
実施例1において、評価関数ΔV
1の代わりにΔS
1を使用して、非視認性の評価を行った。ΔS
1の計算には、目視評価に使用した光源と同じ、昼光色蛍光灯光源スペクトルを使用した。
【0075】
[ΔS
1の計算]
ΔS
1は、式2に表されるように、ΔR(λ)とC
1(λ)と光源スペクトルL(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで求めた。本実施例においては、C
1(λ)とL(λ)とを各波長で掛け合わせて380〜780nmの波長範囲で積分した場合に、結果が10となるよう規格化を行った。
【0076】
この計算により得られた結果を
図7に示す。ΔS
1と目視による非視認性の評価結果は良い相関を示し、ΔS
1が非視認性の評価方法として優れていることが分かる。
【0077】
[参考例1]
実施例2において、光源スペクトルL(λ)として、昼光色蛍光灯光源スペクトルの代わりに、D65光源スペクトルを使用してΔS
1を計算した。
【0078】
この計算により得られた結果を
図8に示す。
図8では、参考のために、昼光色の蛍光灯下で評価した非視認性レベルと対比している。光源を変更した場合でもΔS
1が計算できることが確認された。
【0079】
[比較例1]
実施例1で得られた反射スペクトルから、等色関数としてCIE(1964)10−deg color matching functions、光源スペクトルとしてD65光源スペクトルを用い、JIS Z8701に記載のL
*a
*b
*表色系における色差ΔEを計算した。得られた結果を
図9に示す。ΔEと目視による非視認性の評価結果は相関が悪く、ΔEでは非視認性を十分な精度で表すことができていない。
【0080】
[比較例2]
実施例1で得られた反射スペクトルから下記式5を計算することにより、国際公開第2010/114056号(上記特許文献2)に記載の反射スペクトルの差の積算値を計算した。得られた結果を
図10に示す。反射スペクトルの差の積算値と目視による非視認性の評価結果は相関が悪く、反射スペクトルの差の積算値では非視認性を十分な精度で表すことができていない。
【0081】
【数5】
【0082】
[比較例3]
実施例1で得られた反射スペクトルから、特開2013−84376号公報(上記特許文献3)に記載の反射スペクトルの平均の差の絶対値を計算した。得られた結果を
図11に示す。反射スペクトルの平均の差の絶対値と目視による非視認性の評価結果は相関が悪く、反射スペクトルの平均の差の絶対値では非視認性を十分な精度で表すことができていない。
【0083】
[比較例4]
実施例1で得られた反射スペクトルから、特開2010−76232号公報(上記特許文献4)に記載の視感反射率の差の絶対値の積分値を計算した。得られた結果を
図12に示す。視感反射率の差の絶対値の積分値と目視による非視認性の評価結果は相関が悪く、視感反射率の差の絶対値の積分値では非視認性を十分な精度で表すことができていない。
【0084】
【表1】
【0085】
各実施例、参考例及び比較例の結果を表1に示す。表1には、パターニングサンプル6(透明電極付き基板(A)
6及び基板(B)
6)の結果も示している。表1から明らかなように、ΔV
1及びΔS
1(実施例1及び2)は目視評価の順序と完全に対応しているのに対し、従来の指標(比較例1〜4)では目視評価の判定順序と入れ替わっている。このように、従来の指標では非視認性を十分な精度で数値化できていない。
【0086】
さらに、パターニングサンプル5及び6の結果から、ΔV
1及びΔS
1を使用することで、目視評価では区別できない非視認性の違いを数値化できていることが分かる。この結果から、ΔV
1及びΔS
1を使用することで、非視認性が極めて良好な透明電極付き基板であっても、透明電極パターンの非視認性を定量的に評価できることが期待される。
【0087】
[実施例3〜24]
実施例1において、評価関数ΔV
1の代わりにΔV
2を使用して、非視認性の評価を行った。実施例3〜24では、透明電極付き基板(A)
1〜(A)
4及び基板(B)
1〜(B)
4の反射スペクトルを測定した。
【0088】
[ΔV
2の計算]
ΔV
2は、式3に表されるように、ΔR(λ)とC
2(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで求めた。表2に、l、m及びnの値を示す。なお、実施例1では、l=m=n=1すなわちC
2(λ)=C
1(λ)である。
【0089】
この計算により得られた結果を表2に示す。ΔV
1と同様、ΔV
2についても目視評価の順序と対応していることが分かる。
【0090】
【表2】
【0091】
[実施例25〜47]
実施例2において、評価関数ΔS
1の代わりにΔS
2を使用して、非視認性の評価を行った。ΔS
2の計算には、目視評価に使用した光源と同じ、昼光色蛍光灯光源スペクトルを使用した。実施例25〜47では、透明電極付き基板(A)
1〜(A)
4及び基板(B)
1〜(B)
4の反射スペクトルを測定した。
【0092】
[ΔS
2の計算]
ΔS
2は、式4に表されるように、ΔR(λ)とC
2(λ)と光源スペクトルL(λ)とを各波長において掛け合わせ、380〜780nmの波長範囲で積分することで求めた。本実施例においては、C
2(λ)とL(λ)とを各波長で掛け合わせて380〜780nmの波長範囲で積分した場合に、結果が10となるよう規格化を行った。表3に、l、m及びnの値を示す。なお、実施例2では、l=m=n=1すなわちC
2(λ)=C
1(λ)である。
【0093】
この計算により得られた結果を表3に示す。ΔS
1と同様、ΔS
2についても目視評価の順序と対応していることが分かる。
【0094】
【表3】
【0095】
表2に、ΔV
2(実施例3〜24)と目視結果(レベル1〜4)との相関係数を示し、表3に、ΔS
2(実施例25〜47)と目視結果(レベル1〜4)との相関係数を示す。相関係数は、2つの変数間の相関を示す統計学的な指標であり、2つの変数(表2であればΔV
2−レベル、表3であればΔS
2−レベル)の共分散をそれぞれの標準偏差で割ることにより求めることができる。相関係数が−1に近いほど、ΔV
2又はΔS
2と目視評価とが整合していることを意味している。
【0096】
図13は、ΔV
2(実施例3〜24)における、等色関数C
2(λ)の各係数l、m及びnの値と目視評価との関係を示す平面三角座標である。
図14は、ΔS
2(実施例25〜47)における、等色関数C
2(λ)の各係数l、m及びnの値と目視評価との関係を示す平面三角座標である。
図13及び
図14は、頂点lを3とする0≦l≦3、頂点mを3とする0≦m≦3、頂点nを3とする0≦n≦3の三角座標を表しており、この座標内の任意の点は、l+m+n=3の関係を満たしている。
【0097】
図13及び
図14は、ΔV
2又はΔS
2と目視結果(レベル1〜4)との相関係数を示しており、相関係数が−1以上−0.99以下であるものを「○」、−0.99より大きく−0.97以下であるものを「◇」、−0.97より大きく−0.95以下であるものを「△」、−0.95より大きいものを「□」で示している。
【0098】
図13及び
図14より、ΔV
2及びΔS
2のいずれの場合であっても、l、m及びnの値が1に近い場合(x(λ)、y(λ)及びz(λ)の比率がほぼ同じである場合)に目視評価との相関が良く、x(λ)、y(λ)及びz(λ)の比率が少なくとも一方に偏るほど目視評価との相関が悪くなる傾向があることが確認された。
【0099】
また、ΔS
2と比べて、ΔV
2では、lの値が大きい場合(x(λ)の比率が高い場合)に目視評価との相関が悪くなり、m及びnの値が大きい場合(y(λ)及びz(λ)の比率が高い場合)に目視評価との相関が良くなる傾向が確認された。