特許第6389506号(P6389506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

特許6389506インクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389506
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】インクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20180903BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20180903BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180903BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C09D11/328
   C09D11/38
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-246323(P2016-246323)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100336(P2018-100336A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】榎本 悠人
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−236279(JP,A)
【文献】 特開2015−081315(JP,A)
【文献】 特表2006−523751(JP,A)
【文献】 特開2012−251071(JP,A)
【文献】 特開2008−169293(JP,A)
【文献】 特開2012−051114(JP,A)
【文献】 特開2012−111824(JP,A)
【文献】 特開昭63−199781(JP,A)
【文献】 特開2012−250434(JP,A)
【文献】 特開2004−059927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41M 5/00
B41J 2/01
A23L 5/00
A61K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、
可食性の染料と、褪色抑制剤とを含み、
前記染料が、赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号及び黄色5号らなる群より選ばれる少なくとも1種の特定染料と、任意成分としての他の染料とを含むものであり、
前記褪色抑制剤が、還元イソマルツロースであり、
さらに、前記褪色抑制剤の含有量が前記水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であるインクジェット用水性インク組成物。
【請求項2】
固体製剤に印刷される印刷画像の褪色抑制方法において、
可食性の染料と、褪色抑制剤とを含むインクジェット用水性インク組成物であって、前記染料が赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号及び黄色5号からなる群より選ばれる少なくとも1種の特定染料と、任意成分としての他の染料とを含むものであり、前記褪色抑制剤が還元イソマルツロースであり、前記褪色抑制剤の含有量が前記水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であるインクジェット用水性インク組成物、を含むインクジェット用水性インクを準備する準備工程と、
前記インクジェット用水性インクを用いてインクジェット方式により前記固体製剤表面に印刷し、前記印刷画像を形成する印刷工程と、
前記印刷画像中の褪色抑制剤が、前記特定染料の前記固体製剤への浸透を抑制する褪色抑制工程とを含む固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法
【請求項3】
前記褪色抑制工程は、印刷工程直後の固体製剤における印刷画像を基準に、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した後の固体製剤における印刷画像の、JIS Z 8730に準拠するL***表色系のΔaを−18以上にする請求項に記載の固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法
【請求項4】
前記印刷画像中の褪色抑制剤が、前記特定染料の光分解を抑制する光褪色抑制工程をさらに含む請求項2又は3に記載の固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法
【請求項5】
前記光褪色抑制工程は、印刷工程直後の固体製剤における印刷画像を基準に、積算光量が120万ルクスの可視光を照射した後の固体製剤における印刷画像の、JIS Z 8781に準拠するL表色系の色差ΔE(ab)を17以下にする請求項に記載の固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法
【請求項6】
インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、
前記インクジェット用水性インクは、請求項1に記載のインクジェット用水性インク組成物を含むものである固体製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤に関し、より詳細には、医薬品や食品等の固体製剤表面に形成された印刷画像の褪色や変色を抑制することが可能なインクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤やカプセル剤等に対するインクジェット用インクは、顔料を分散させた顔料インクと、染料を用いた染料インクに大別される。一般的に染料インクは錠剤等に対して浸透しやすく、内部まで染料が定着する利点がある。これに対して顔料インクは内部への浸透力が小さいため、錠剤表面がコートされていない素錠に対しては内部まで浸透可能である。しかし、糖衣錠やフィルムコート錠(FC錠)等の様に、表面に空孔が少ない錠剤等に印刷する場合には、顔料インクは内部まで浸透することが困難となる。そのため、例えば、印刷画像が擦過等により傷付けられたり、削られた場合には、錠剤等の表面に定着している顔料も削り取られる結果、印刷画像の転写や色落ち等により印刷品質の低下を招来する。
【0003】
従って、糖衣錠やFC錠等のような錠剤に対しては、インクの定着性の観点からは、染料インクによる印刷が有利となる。但し、錠剤等に印刷するためには、染料インクは薬事法等に定める基準に適合した原材料で構成されたものである必要がある。そのため、染料インクは限られた材料の中から開発する必要があり、例えば、黒色染料インクの場合は、赤色系、黄色系、青色系のそれぞれの染料を混合して作製される。
【0004】
しかし、黒色染料インクを用いて糖衣錠等に印刷した後、一定時間放置すると、印刷画像が緑色に変色(緑変)するという問題がある。また、黒色染料の構成成分として赤色のアゾ系染料を用いた場合には、当該アゾ系染料の光分解により、経時変化と共に印刷画像の彩度が低下し光褪色するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開20116−236279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、医薬品や食品等の固体製剤表面における印刷画像の褪色及び変色を抑制することが可能なインクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、固体製剤表面に印刷された画像において、褪色及び変色を生じさせる原因の一つが湿度によるものであることを見出した。
すなわち、ある特定の染料は、印刷後においても、一定の湿度下において他の染料より固体製剤に対する浸透性が高いことが確認された。そのため、例えば、その特定の染料のみを用いて単色で固体製剤表面に印刷した場合には、時間の経過と共に固体製剤に浸透する結果、印刷画像の彩度が低下し褪色を発生させる。また、他の染料と混合した染料インクで固体製剤表面に印刷した場合には、特定の染料は他の染料よりも固体製剤に対する浸透性が高いことから両者は分離し、他の染料だけが固体製剤表面に残存する。これにより、印刷画像としては他の染料だけで表されることになり、印刷画像の変色が発生する。
【0008】
本発明に係るインクジェット用水性インク組成物は、前記の課題を解決する為に、固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、可食性の染料と、褪色抑制剤とを含み、前記染料が、赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑3号、青色1号及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の特定染料と、任意成分としての他の染料とを含むものであり、前記褪色抑制剤が、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに、前記褪色抑制剤の含有量が前記水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
前記の構成において、赤色2号等の特定染料は、湿度に起因して、時間の経過と共に固体製剤に浸透していく性質を有する。一方、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類は、そのような特定染料に対し、印刷画像中において、湿度に起因した固体製剤への浸透を抑制する機能を発揮する。そのため、特定染料のみを用いて印刷された画像においては、特定染料の固体製剤への浸透に起因する彩度の低下を抑制し、褪色の発生を低減することができる。また、特定染料と他の染料との混合染料を用いて印刷された画像においては、特定染料が他の染料と分離して固体製剤に浸透するのを防止する結果、印刷画像が変色するのを低減することができる。
【0010】
また、特定染料に含まれている赤色2号、赤色40号及び赤色102号のようなアゾ系染料は、光照射により分解(光分解)する性質を有しており、これにより印刷画像が光褪色する場合がある。しかし、褪色抑制剤は、そのような特定染料に対して光分解を抑制する機能も発揮する。そのため、前記構成の水性インク組成物においては、印刷画像が光褪色の発生により劣化することも低減することができる。
【0011】
尚、前記構成においては、褪色抑制剤の含有量を水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下にすることにより、当該褪色抑制剤が水性インク組成物中に十分に溶解することができずに析出するのを防止することができる。
【0012】
前記の構成に於いては、前記単糖類が、ガラクトース又はフルクトースの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0013】
前記の構成に於いては、前記二糖類が、マルトース又はトレハロースの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0014】
前記の構成に於いては、前記デキストリン類が、シクロデキストリンであることが好ましい。
【0015】
前記の構成に於いては、前記糖アルコール類が、還元イソマルツロース、キシリトール及びソルビトールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法は、前記の課題を解決する為に、固体製剤に印刷される印刷画像の褪色抑制方法において、可食性の染料と、褪色抑制剤とを含むインクジェット用水性インク組成物であって、前記染料が赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑3号、青色1号及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の特定染料と、任意成分としての他の染料とを含むものであり、前記褪色抑制剤が単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記褪色抑制剤の含有量が前記水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であるインクジェット用水性インク組成物、を含むインクジェット用水性インクを準備する準備工程と、前記インクジェット用水性インクを用いてインクジェット方式により前記固体製剤表面に印刷し、前記印刷画像を形成する印刷工程と、前記印刷画像中の褪色抑制剤が、前記特定染料の前記固体製剤への浸透を抑制する褪色抑制工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
前記の構成においては、インクジェット用水性インクとして、単糖類等の褪色抑制剤を含有した水性インク組成物を含むものを準備し(準備工程)、さらに当該水性インクを用いてインクジェット方式により固体製剤表面に印刷を行う(印刷工程)。さらに、印刷画像中の褪色抑制剤が、特定染料の湿度に起因した固体製剤への浸透を抑制する(褪色抑制工程)。これにより、水性インク組成物中の染料が特定染料のみである場合には、特定染料の固体製剤への浸透による褪色の発生を低減することができる。また、水性インク組成物中の染料として、特定染料のほかに他の染料を含む場合には、特定染料が他の染料と分離して固体製剤に浸透するのを防止し、印刷画像が変色するのを低減することができる。すなわち、前記の方法であると、インクジェット方式により固体製剤に印刷された印刷画像の変色及び褪色を抑制することができ、経時変化と共に印刷画像の視認性が低下するのを低減することができる。その結果、例えば、製品情報を印刷した場合にも、調剤ミスや誤飲等を防止することができる。
【0018】
前記の構成に於いて、前記褪色抑制工程は、印刷工程直後の固体製剤における印刷画像を基準に、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した後の固体製剤における印刷画像の、JIS Z 8730に準拠するL***表色系のΔaを−18以上にするものである。前記構成により、湿度に起因した印刷画像の変色を抑制し、印刷画像の視認性を良好なものに維持することができる。
【0019】
また、前記の構成に於いては、前記印刷画像中の褪色抑制剤が、前記特定染料の光分解を抑制する光褪色抑制工程をさらに含んでもよい。前記構成により、特定染料の光分解に起因した印刷画像の光褪色を抑制し、印刷画像の視認性を良好なものに維持することができる。
【0020】
さらに前記の構成に於いて、前記光褪色抑制工程は、印刷工程直後の固体製剤における印刷画像を基準に、積算光量が120万ルクスの可視光を照射した後の固体製剤における印刷画像の、JIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系の色差ΔE*(ab)を17以下にするものである。
【0021】
前記の構成に於いては、前記単糖類が、ガラクトース又はフルクトースの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0022】
前記の構成に於いては、前記二糖類が、マルトース又はトレハロースの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0023】
前記の構成に於いては、前記デキストリン類が、シクロデキストリンであることが好ましい。
【0024】
前記の構成に於いては、前記糖アルコール類が、還元イソマルツロース、キシリトール及びソルビトールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る固体製剤は、前記の課題を解決する為に、インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、前記インクジェット用水性インクは、前記の水性インク組成物を含むものであることを特徴とする。
【0026】
前記の構成によれば、インクジェット用インクの乾燥皮膜中には褪色抑制剤が含まれており、当該褪色抑制剤は、前述の通り、湿度に起因した特定染料の固体製剤への浸透を抑制することができる。そのため、水性インク組成物中の染料が特定染料のみである場合には、乾燥皮膜が形成する印刷画像の褪色の発生を低減することができる。また、水性インク組成物中の染料として、特定染料のほかに他の染料も含むものである場合には、特定染料が他の染料と分離して固体製剤に浸透するのを防止し、印刷画像が変色するのを低減することができる。さらに、褪色抑制剤は、光照射により特定染料が光分解することも抑制するので、乾燥皮膜が形成する印刷画像において光褪色が発生することも低減することができる。すなわち、前記構成の固体製剤であると、乾燥皮膜が形成する印刷画像の褪色(光褪色を含む)や変色を低減することができ、経時変化と共に印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。その結果、調剤ミスや誤飲等を防止することが可能な固体製剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる色抑制剤が、赤色2号等の特定染料による湿度に起因した固体製剤への浸透を抑制することができる。そのため、固体製剤表面に印刷された画像が、湿度に起因して、時間の経過と共に褪色や変色するのを低減することができる。また、光照射に起因して、印刷画像が光褪色することも低減することができる。
【0028】
すなわち、本発明によれば、医薬品や食品等の固体製剤における印刷画像の褪色(光褪色を含む)及び変色を抑制することでき、印刷画像の耐湿性及び耐光性を向上させることが可能なインクジェット用水性インク組成物、固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法及び固体製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(インクジェット用水性インク組成物)
本実施の形態に係るインクジェット用水性インク組成物(以下、「水性インク組成物」という。)について、以下に説明する。
【0030】
本実施の形態の水性インク組成物は、可食性の染料と褪色抑制剤を少なくとも含み、主溶媒が水である水性インクである。また、本実施の形態の水性インク組成物は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有するものにすることができ、かつ、インクジェット記録に好適に用いられるものである。インクジェット記録とは、水性インク組成物を微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に定着させ、画像形成させる方式を意味する。
【0031】
前記染料が有する「可食性」とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められているものを意味する。
【0032】
前記染料は、赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑3号、青色1号及び銅クロロフィリンナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の特定染料を含む。また、前記染料は、特定染料以外に、必要に応じて他の染料を含んでもよい。他の染料としては可食性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号等のキサンテン系染料、青色2号等のインジゴイド系染料等が挙げられる。また、他の染料として、コチニール色素、カカオ色素、カラメル色素等の食用天然色素を用いることもできる。
【0033】
前記染料が特定染料のみである場合、染料(特定染料)の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し、0.5質量%〜12質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。特定染料の含有量が0.5質量%以上であると、多くの染料で印刷画像の濃度の濃度が不十分となるのを防止することができる。その一方、特定染料の含有量が12質量%以下であると、インクジェットヘッドのノズルにおいて、染料成分が析出するのを防止することができる。
【0034】
また、前記染料に他の染料を含む場合、他の染料の含有量は、その種類等に応じて適宜設定することができる。
【0035】
前記褪色抑制剤は、湿度に起因して、印刷画像に含まれる特定染料が経時変化と共に固体製剤に浸透するのを抑制する機能を有する。そのため、染料中に他の染料が含まれる場合には、当該特定染料が他の染料と分離するのを抑制することができる。これにより、印刷画像の褪色や変色の発生を低減し、印刷画像の視認性を良好なものに維持することができる。また前記褪色抑制剤は、自然光等の光照射により特定染料が光分解するのを抑制する機能も有する。特定染料のうち、例えば、赤色2号、赤色40号及び赤色102号のようなアゾ系染料は、光照射により光分解する結果、印刷画像が光褪色する場合がある。しかし、色抑制剤は、そのような特定染料の光分解も抑制するので、印刷画像に光褪色が発生するのを低減することができる。
【0036】
尚、「褪色」とは、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透する結果、印刷画像の彩度が不可逆的に低下することを意味する。また、「変色」とは、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透し、特定染料と他の染料が分離する結果、他の染料の色相が特定染料と比べて優位となり、印刷画像全体としての色相が不可逆的に変化することを意味する。「光褪色」とは、自然光等の影響により印刷画像中に含まれる染料が光分解し、これにより印刷画像の色調が不可逆的に変化し、あるいは印刷画像が劣化することを意味する。
【0037】
前記褪色抑制剤は、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0038】
前記単糖類としては特に限定されず、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等が挙げられる。これらのうち、本発明においてはガラクトース及びフルクトースが好ましい。
【0039】
前記二糖類としては特に限定されず、例えば、ショ糖(スクロース、砂糖)、ラクトース(乳糖)、マルトース、トレハロース、パラチノース(イソマルツロース)等が挙げられる。これらのうち、本発明においてはマルトース及びトレハロースが好ましい。
【0040】
前記デキストリン類としては特に限定されず、例えば、シクロデキストリン等が挙げられる。前記シクロデキストリンとしては特に限定されず、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン等が挙げられる。
【0041】
前記糖アルコール類としては特に限定されず、例えば、マンニトール、エリスリトール、還元イソマルツロース、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。さらに、前記還元イソマルツロースは、イソマルツロースを水素化等することにより還元して得られる化合物である。還元イソマルツロースは、α−D−グルコピラノシル−1,1−マンニトール(以下、「GPM」という。)と、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール(以下、「GPS−6」という。)との混合物である。GPMとGPS−6の混合比は特に限定されないが、通常は略等モル量で両者は混合される。前記糖アルコール類のうち、本発明においては還元イソマルツロース、キシリトール及びソルビトールが好ましい。
【0042】
前記例示した各褪色抑制剤は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
褪色抑制剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であり、好ましくは1質量%〜15質量%、より好ましくは5質量%〜10質量%である。特に、褪色抑制剤としてデキストリン類又は糖アルコール類を用いる場合、これらの含有量は、水性インク組成物の全質量に対し20質量%以下であることが好ましく、好ましくは1質量%〜15質量%、より好ましくは3質量%〜8質量%である。褪色抑制剤の含有量を50質量%以下にすることにより、当該褪色抑制剤が水性インク組成物中に析出するのを防止することができる。
【0044】
本実施の形態の水性インク組成物に於いては、水(主溶媒としての水)を含有する。前記水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、水の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0045】
また、本実施の形態の水性インク組成物においては、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであれば、その他の添加剤が配合されていてもよい。前記添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。表面張力調整剤及び湿潤剤を除き、これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる(表面張力調整剤及び湿潤剤の含有量については、それぞれ後述する。)。
【0046】
前記表面張力調整剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。前記グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
前記カプリル酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、リョートー(登録商標)ポリグリエステル CE19D(商品名、三菱化学フーズ(株)製、HLB値15)、SYグリスターMCA750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)等が挙げられる。
【0048】
尚、前記HLBの値は、グリフィン法によるHLB値であり、下記式によって得られる値を意味する。
HLB値=20×(親水基の式量の和/分子量)
HLB値は0〜20の範囲内の値となり、HLB値が大きいほど親水性が強くなり、HLB値が小さいほど疎水性が強くなる。
【0049】
前記ラウリン酸デカグリセリルとしては、HLBが15以下のものを用いることができる。HLBが15を超えるラウリン酸デカグリセリルであると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1−L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML−750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値14.8)等が挙げられる。
【0050】
前記オレイン酸デカグリセリルとしては、HLBが13未満のものを用いることができる。HLBが13以上であると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。尚、HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1−OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値12)、SYグリスターMO−7S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値12.9)等が挙げられる。
【0051】
前記ラウリン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) HEXAGLYN 1−L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML−500(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値13.5)等が挙げられる。
【0052】
前記オレイン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターMO−5S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値11.6)等が挙げられる。
【0053】
前記縮合リノレン酸テトラグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターCR−310(商品名、阪本薬品工業(株)製)等が挙げられる。
【0054】
脂肪酸エステルヤシパームとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、チラバゾールW−01(商品名、太陽化学(株)製)等が挙げられる。
【0055】
表面張力調整剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し、0.1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行った場合に、インクジェットヘッドにおけるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が10質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0056】
前記湿潤剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0057】
前記湿潤剤の添加量は、水性インク組成物の全質量に対し、3質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜40質量%がより好ましい。湿潤剤の含有量を3質量%以上にすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の一層の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、水性インク組成物の粘度を適性に制御することができる。
【0058】
(固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法)
本実施の形態の固体製剤の印刷画像の褪色抑制方法は、前述の水性インク組成物を含むインクジェット用水性インク(以下、「水性インク」という場合がある。)を準備する準備工程と、水性インクを用いて固体製剤に対しインクジェット方式印刷する印刷工程と、印刷画像の褪色を抑制する褪色抑制工程とを少なくとも含む。
【0059】
前記水性インクの準備工程は、水性インク組成物の製造工程を含み得る。この場合、水性インク組成物の製造工程は、前述の各成分を適宜な方法で混合することよって実施可能である。即ち、染料、褪色抑制剤、水及び必要に応じて添加剤を混合し、十分に撹拌する。さらに、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る水性インク組成物を得ることができる。
【0060】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0061】
前記印刷工程は、インクジェット方式により固体製剤表面に画像印刷を行う工程である。より具体的には、微細なノズルより固体製剤に水性インクをインク滴として吐出し、インク滴を固体製剤表面に付着させて行う。吐出方法として特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。インク滴の吐出量、印刷速度等の印刷条件は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0062】
また、印刷工程には、固体製剤の表面に付着したインク滴を乾燥させる乾燥工程を含む。乾燥方法としては特に限定されず、熱風乾燥の他、自然乾燥等を行うことができる。また、乾燥時間や乾燥温度等の乾燥条件についても特に限定されず、インク滴の吐出量や水性インク組成物の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0063】
前記褪色抑制工程は、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透するのを、印刷画像中に含まれる色抑制剤が抑制する工程である。褪色抑制工程は、例えば、画像印刷された固体製剤を温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した場合、印刷直後の印刷画像を基準にして、L表色系におけるΔaを−18以上、好ましくは−10〜+10、より好ましくは−5〜+5に抑制する。Δaを−18以上にすることにより、印刷画像の変色を低減し、良好な視認性を維持することができる。その結果、固体製剤表面に製品情報等を印刷する場合にも、当該製品情報の誤認を防止し、調剤ミスや誤飲の発生を低減することができる。尚、印刷直後の印刷画像とは、乾燥後の印刷画像を意味する。
【0064】
前記ΔaはJIS Z 8730に準拠するものであり、下記一般式(1)で表される。
Δa=a−a (1)
(但し、前記aは印刷工程直後の固体製剤における印刷画像のL表色系における値を表し、前記aは温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した後の固体製剤における印刷画像のL表色系の値を表す。)
前記L表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L)表色系と称される色空間のことを意味し、日本工業規格ではJIS Z 8730に規定されている。
【0065】
また本実施の形態においては、特定染料の光分解を抑制する光褪色抑制工程をさらに含んでもよい。前述の通り、褪色抑制剤はアゾ系染料等の特定染料が光分解するのを抑制する機能も有するため、これにより印刷画像の光褪色を低減することができる。
【0066】
光褪色抑制工程は、例えば、固体製剤表面の印刷画像に積算光量が120万luxの可視光(波長域380nm〜750nm)を照射した場合、印刷直後の印刷画像を基準にして、L表色系におけるΔE(ab)を17以下、好ましくは0〜10、より好ましくは0〜5に抑制することができる。ΔE(ab)を17以下にすることにより、印刷画像の光褪色を低減し、良好な視認性を維持することができる。その結果、固体製剤表面に製品情報等を印刷する場合にも、当該製品情報の誤認を防止し、調剤ミスや誤飲の発生を低減することができる。尚、印刷直後の印刷画像とは、前述と同様、乾燥後の印刷画像を意味する。
【0067】
前記ΔE(ab)はJIS Z8781に準拠するものであり、下記一般式(2)で表される。
ΔE(ab)=((ΔL+(Δa+(Δb1/2 (2)
但し、前記ΔL、Δa及びΔbは、それぞれ以下の通り表される。
ΔL=L−L
(前記Lは固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL***表色系の明度を表し、前記Lは固体製剤の印刷画像における積算光量120万luxの可視光を照射した後のL***表色系の明度を表す。)
Δa=a−a
(前記aは、固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL***表色系の値を表し、前記aは、固体製剤の印刷画像における積算光量120万luxの可視光を照射した後のL***表色系の値を表す。)
Δb=b−b
(前記bは固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL***表色系の値を表し、前記bは、固体製剤の印刷画像における積算光量120万luxの可視光を照射した後のL***表色系の値を表す。)
【0068】
(固体製剤)
本明細書において、「固体製剤」とは食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD錠(口腔内崩壊錠)、素錠、FC(フィルムコート)錠、糖衣錠等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。また、固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。
【0069】
固体製剤の表面には、前記水性インク組成物を含む水性インクを用いて、インクジェット記録方法により直接印刷された乾燥皮膜からなる印刷画像が形成される。そして乾燥皮膜は、水性インク組成物中に含まれていた染料と、褪色抑制剤とにより少なくとも構成される。
【0070】
褪色抑制剤は、前述の通り、特定染料が周囲の湿度に起因して固体製剤に浸透するのを抑制するものであるが、この効果は固体製剤が糖衣錠やFC錠の場合に特に有効である。本発明の褪色抑制剤がその効果を特に奏しやすい糖衣錠としては、糖衣層が白糖(ショ糖)やマルチトール等からなるものが挙げられる。糖衣層における白糖又はマルチトール等の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。また、本発明の褪色抑制剤がその効果を特に奏しやすいFC錠としては、フィルムコートがヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物からなるものが挙げられる。
【0071】
本発明の固体製剤においては、乾燥皮膜からなる印刷画像が、湿度に起因して褪色又は変色したり、あるいは自然光等の光照射に起因して光褪色するのを低減することができる。そのため、製品情報など使用者に対し識別性を向上させるために印刷した各種情報の劣化を防止することが可能であり、これにより、長期にわたって良好な視認性を維持し、調剤ミスや誤飲の防止を可能にする。
【実施例】
【0072】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、インクジェット用水性インク組成物の各材料は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0073】
(インクジェット用水性インク組成物Aの調製)
下記表1に示す通り、アゾ系染料(特定染料)として2.4質量%の赤色2号、その他の染料として3質量%の黄色5号及び0.6質量%の青色1号、15質量%の褪色抑制剤、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)、湿潤剤として7.5質量%のポリエチレングリコール、及び69.5質量%のイオン交換水を混合して、黒色のインクジェット用水性インク組成物Aを作製した。但し、褪色抑制剤については、後述の通り、実施例毎にそれぞれ変更した。
【0074】
(インクジェット用水性インク組成物Bの調製)
下記表1に示す通り、アゾ系染料(特定染料)として3.6質量%の赤色40号、その他の染料として1.68質量%の黄色5号及び0.72質量%の緑色3号、15質量%の褪色抑制剤、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)、湿潤剤として10質量%のポリエチレングリコール、67質量%のイオン交換水を混合して、黒色のインクジェット用水性インク組成物Bを作製した。但し、褪色抑制剤については、後述の通り、実施例毎にそれぞれ変更した。
【0075】
(インクジェット用水性インク組成物Cの調製)
下記表1に示す通り、アゾ系染料(特定染料)として6質量%の赤色102号、その他の染料として2質量%の黄色5号及び2質量%の青色1号、15質量%の褪色抑制剤、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル類(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)、湿潤剤として7.5質量%のポリエチレングリコール、65.5質量%のイオン交換水を混合して、黒色のインクジェット用水性インク組成物Cを作製した。但し、褪色抑制剤については、後述の通り、実施例毎にそれぞれ変更した。
【0076】
【表1】
【0077】
(インクジェット用水性インク組成物Dの調製)
インクジェット用水性インク組成物Dについては、褪色抑制剤を添加せず、さらに下記表2に示す配合割合としたこと以外は、水性インク組成物Aと同様にして作製した。
【0078】
(インクジェット用水性インク組成物Eの調製)
インクジェット用水性インク組成物Eについては、褪色抑制剤を添加せず、さらに下記表2に示す配合割合としたこと以外は、水性インク組成物Bと同様にして作製した。
【0079】
(インクジェット用水性インク組成物Fの調製)
インクジェット用水性インク組成物Fについては、褪色抑制剤を添加せず、さらに下記表2に示す配合割合としたこと以外は、水性インク組成物Cと同様にして作製した。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例1〜24)
実施例1〜24でそれぞれ用いた水性インク組成物は、下記表3〜表5に示す通りとした。また、褪色抑制剤についても、それぞれ下記表3〜表5に示すものを用いた。尚、実施例16〜18で用いた還元イソマルツロースとしては、パラチニット(登録商標、三井製糖(株)製)を用いた。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
各実施例の水性インク組成物を用いて、インクジェット記録方法により、糖衣錠(糖衣層がショ糖)の一方の面に印刷を行った。印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度40%の環境下で行った。その後、ドライヤーにて熱風を直接当て、印刷面を十分に乾燥させた。これにより、各実施例のサンプルを作製した。
【0086】
(比較例1〜3)
比較例1〜3でそれぞれ用いた水性インク組成物は、前記表5に示す通りとした。
【0087】
さらに、各比較例の水性インク組成物を用いて、前述の実施例と同様にして、インクジェット記録方法により糖衣錠に印刷を行った。これにより、各比較例のサンプルを作製した。
【0088】
(変色抑制性に関する評価)
実施例1〜24及び比較例1〜3のサンプルにおける水性インク組成物の変色抑制性については、以下の試験を行うことにより評価した。先ず、各実施例及び比較例のサンプルに印刷された画像について、それぞれ色彩色差計(型番:VSS7700、日本電色工業(株)製)を用いて、L表色系におけるL、a、bの初期値をそれぞれ測定した(表6〜表14では、保管時間0時間でのL、a、bの値)。
【0089】
続いて、各サンプルを温度25℃、相対湿度60%に設定した高温高湿槽内に24時間保管した。その後、再び前記色彩色差計を用いて、各サンプルのL表色系におけるL、a、bをそれぞれ測定した(表6〜表14では、保管時間24時間でのL、a、bの値)。結果を下記表6〜表14に示す。
【0090】
尚、各表中に示すΔL、Δa、Δb、ΔE(ab)、ΔC(ab)及びΔH(ab)は、それぞれ下記一般式により算出した。
ΔL=L−L
Δa=a−a
Δb=b−b
ΔE(ab)=((ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔC(ab)=((Δa+(Δb1/2
ΔH(ab)=(ΔE(ab)−ΔL−ΔC(ab)1/2
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
【表9】
【0095】
【表10】
【0096】
【表11】
【0097】
【表12】
【0098】
【表13】
【0099】
【表14】
【0100】
(光褪色抑制性に関する評価)
各実施例の水性インク組成物の褪色抑制性については、以下の試験を行うことにより評価した。すなわち、各実施例及び比較例に係る水性インク組成物によるインクジェット印刷後の糖衣錠(サンプル)について、それぞれ色彩色差計(型番:VSS7700、日本電色工業(株)製)を用いて、L表色系におけるL、a、bをそれぞれ測定した(表15〜表23では、積算光量0luxでのL、a、bの値)。
【0101】
続いて、ICHガイドラインに準拠した光安定性試験装置(ナガノサイエンス(株)製)を用いて、密閉したガラス製瓶内に保存した印刷後のサンプルに対し光照射を行った。このときの積算光量は120万ルクス(室内蛍光灯下換算で50日分)とした。その後、再び前記色彩色差計を用いて、各サンプルのL表色系におけるL、a、bをそれぞれ測定した(表15〜表23では、積算光量120万luxでのL、a、bの値)。結果を下記表15〜表23に示す。
【0102】
尚、各表中に示すΔE(ab)、ΔL、Δa、Δb、ΔC(ab)及びΔH(ab)は、それぞれ下記一般式により算出した。
ΔE(ab)=((ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L−L
Δa=a−a
Δb=b−b
ΔC(ab)=((Δa+(Δb1/2
ΔH(ab)=(ΔE(ab)−ΔL−ΔC(ab)1/2
【0103】
【表15】
【0104】
【表16】
【0105】
【表17】
【0106】
【表18】
【0107】
【表19】
【0108】
【表20】
【0109】
【表21】
【0110】
【表22】
【0111】
【表23】
【0112】
(結果)
表14に示す通り、比較例1〜3のサンプルにおいては、糖衣錠に印刷された印刷画像のa値が、温度25℃、相対湿度60%の環境下で24時間保管した後に、大きく減少することが示された。すなわち、Δaの値が極めて小さくなり、印刷画像が黒色から緑色に変色していることが確認された。
【0113】
その一方、表6〜表13に示す通り、実施例1〜24のサンプルにおいては、印刷画像のa値の減少幅が低減され、Δa値が小さくなるのを抑制することができた。また、印刷画像も黒色から緑色への変色が十分に抑制できていることが確認できた。特に、還元イソマルツロースは、他の糖類と比較して湿度に起因する変色の抑制に優れていた。これにより、赤色2号、赤色40号及び赤色102号の各アゾ系染料を含む黒色の水性インク組成物に対し、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類は変色を抑制する褪色抑制剤として極めて有効であることが示された。
【0114】
表23に示す通り、比較例1〜3のサンプルにおいては、糖衣錠に印刷された印刷画像の色差ΔE(ab)が、印刷直後と比較していずれも大きくなり、印刷画像が大幅に光褪色していることが確認された。
【0115】
その一方、表14〜表22に示す通り、実施例1〜24のサンプルにおいては、糖衣錠に印刷された印刷画像の色差ΔE(ab)の増加が大幅に抑制され、全て17以下となった。これにより、本実施例においては、印刷画像中の赤色2号等のアゾ系染料の光分解も低減することができ、光褪色の低減も可能であることが確認された。