特許第6389510号(P6389510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6389510-止血器具 図000002
  • 特許6389510-止血器具 図000003
  • 特許6389510-止血器具 図000004
  • 特許6389510-止血器具 図000005
  • 特許6389510-止血器具 図000006
  • 特許6389510-止血器具 図000007
  • 特許6389510-止血器具 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389510
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】止血器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/135 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
   A61B17/135
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-508799(P2016-508799)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058273
(87)【国際公開番号】WO2015141786
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-58427(P2014-58427)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096806
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(72)【発明者】
【氏名】林 哲平
(72)【発明者】
【氏名】中元 良
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳一
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−218593(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/091718(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血すべき部位に巻き付けて固定される帯体と、
前記帯体を前記部位に巻き付けた状態を保持する掛止部と、
前記帯体に連結されており、流体を注入することで拡張して前記部位の止血のための圧迫力を前記部位に与える拡張部材と、備え、
前記掛止部は、
前記帯体の一端部に設けられる突起部と、
前記帯体の他端部に設けられて、前記突起部を着脱可能に凹部に受容し、前記拡張部材の前記圧迫力が止血に必要な圧力以下であると前記帯体の他端部での前記突起部の受容位置を保持し、前記圧迫力が止血に必要な圧力を超えると前記帯体の他端部での前記突起部の受容位置を前記帯体の長手方向に移して前記帯体の巻き付け周囲長を大きくする取付け部と
を有することを特徴とする止血器具。
【請求項2】
前記取付け部は、
前記帯体の前記長手方向に沿って水平に配列されて、前記拡張部材の前記圧迫力が止血に必要な圧力以下であると、前記帯体の他端部での前記突起部の掛止位置をそれぞれ保持する複数の保持部と、
前記配列された複数の保持部の各保持部どうしの間に設けられて、前記圧迫力が止血に必要な圧力を超えることで、前記突起部が前記帯体の前記長手方向に移動する方向に働く応力により弾性変形して、前記突起部の位置を前記帯体の長手方向に移して隣接する前記保持部に移動させて、前記隣接する次の位置の保持部に保持させる移行部分と
を有することを特徴とする請求項1に記載の止血器具。
【請求項3】
前記移行部分は、前記配列された複数の保持部に対応して、等間隔で内向きに互いに対向して突出した一対の山型の頂点部分により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の止血器具。
【請求項4】
前記取付け部には、前記拡張部材寄りの位置に前記突起部を最初にはめ込んで前記保持部側に案内するためのはめ込み領域部分が設けられ、
前記拡張部材から最も離れた位置には前記保持部と前記移行部分を通った前記突起部を、前記取付け部から取り外すための取り外し領域部分が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の止血器具。
【請求項5】
前記突起部は、前記帯体の前記一端部の面に設けられた基部と、前記基部に設けられており前記保持部に係合する係合部とを有することを特徴とする請求項3または4に記載の止血器具。
【請求項6】
前記一対の山型の頂点部分の間隔は、前記配列順に小さくなっていくことを特徴とする請求項3または4に記載の止血器具。
【請求項7】
複数の前記突起部が、前記帯体の前記一端部の面に、間隔をおいて設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の止血器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕等の穿刺部位を圧迫して止血する止血器具に関する。
【背景技術】
【0002】
術者が、カテーテル等を、患者の肢体の腕や脚の穿刺部位に導入されたイントロデューサーシースの内腔を通じて、経皮的に血管等の病変部に挿入することで、治療・検査等を行った場合には、そのイントロデューサーシースを抜去した後の穿刺部位を止血する必要がある。
この穿刺部位の止血を行うために、空気注入型の圧迫用の止血器具が用いられる。この止血器具の帯体は、腕や脚に形成された穿刺部位に巻き付けて固定し、シリンジ等から空気をこの帯体のバルーンに注入してバルーンによる圧迫力により穿刺部位を圧迫するようになっている。この止血用の圧迫力(止血圧)は、バルーンへの空気の注入量(体積)によりコントロールされている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−218593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した圧迫力をコントロールする時に、術者は、片手で帯体の空気注入口と付属のシリンジの先端部とを押えて、シリンジの目盛を合わせながらバルーンに空気を注入して穿刺部位に圧迫力を与える。このために、止血器具は、取り扱う際には、術者はある程度の技量が必要になる構造である。止血という手技行為の際には、術者は、患者の腕等に対して止血器具をより迅速に装着して、適切な圧迫力を穿刺部位に与えることが要求されている。また、バルーンの圧力が止血に必要な圧力を超える空気を入れると、バルーンが破裂するおそれもある。
そこで、本発明は、止血器具を患者の肢体の腕等に対して迅速に装着でき、適切な圧迫力を患者の止血しようとする部位に与えることができる止血器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の止血器具は、止血すべき部位に巻き付けて固定される帯体と、前記帯体を前記部位に巻き付けた状態を保持する掛止部と、前記帯体に連結されており、流体を注入することで拡張して前記部位の止血のための圧迫力を前記部位に与える拡張部材と、備え、前記掛止部は、前記帯体の一端部に設けられる突起部と、前記帯体の他端部に設けられて、前記突起部を着脱可能に凹部に受容し、前記拡張部材の前記圧迫力が止血に必要な圧力以下であると前記帯体の他端部での前記突起部の受容位置を保持し、前記圧迫力が止血に必要な圧力を超えると前記帯体の他端部での前記突起部の受容位置を前記帯体の長手方向に移して前記帯体の巻き付け周囲長を大きくする取付け部とを有することを特徴とする。
上記構成によれば、取付け部は突起部を着脱可能に受容掛止することで、拡張部材の圧迫力が止血に必要な圧力以下であると突起部の位置を保持し、圧迫力が止血に必要な圧力を超えると帯体の他端部での突起部の位置を帯体の長手方向に移して帯体の巻き付け周囲長を大きくすることができる。このため、止血器具を患者の肢体の腕等に対して迅速に装着でき、適切な圧迫力を患者の止血しようとする部位に与えることができる。
【0006】
好ましくは、前記取付け部は、前記帯体の前記長手方向に沿って水平に配列されて、前記拡張部材の前記圧迫力が止血に必要な圧力以下であると、前記帯体の他端部での前記突起部の掛止位置をそれぞれ保持する複数の保持部と、前記配列された複数の保持部の各保持部どうしの間に設けられて、前記圧迫力が止血に必要な圧力を超えることで、働く応力により、前記突起部が前記帯体の前記長手方向に移動すると弾性変形して、前記突起部の位置を前記帯体の長手方向に移して隣接する前記保持部に移動させて、前記隣接する次の位置の保持部に保持させる移行部分とを有することを特徴とする。
上記構成によれば、圧迫力が止血に必要な圧力以下であると、突起部の位置を変更しないで保持して帯体の周囲長をそのまま維持し、圧迫力が止血に必要な圧力を超えると、突起部が、突起部を乗り越える際に弾性変形して該突起部の位置を帯体の長手方向に移すので、帯体の周囲長を自動的に伸ばして圧迫力を低減できる。
【0007】
好ましくは、前記移行部分は、前記配列された複数の保持部に対応して、等間隔で内向きに互いに対向して突出した一対の山型の頂点部分により構成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、突起部は、圧迫力が止血に必要な圧力を超えた場合には、移行部分一対の山型の頂点部分を乗り越えて、帯体の周囲長を帯体の長手方向に沿って、確実に伸ばすことができる。
【0008】
好ましくは、前記取付け部には、前記拡張部材寄りの位置に前記突起部を最初にはめ込んで前記保持部側に案内するためのはめ込み領域部分が設けられ、前記拡張部材から最も離れた位置には前記保持部と前記移行部分を通った前記突起部を、前記取付け部から取り外すための取り外し領域部分が設けられていることを特徴とする。
上記構成によれば、帯体を装着する際には、突起部は、取付け部のはめ込み領域部分にはめ込んで容易に掛かり止めができ、帯体を取り外す際には、突起部は、取り外し領域部分から容易に取り外すことができる。
【0009】
好ましくは、前記突起部は、前記帯体の前記一端部の面に設けられた基部と、前記基部に設けられており前記保持部に係合する係合部とを有することを特徴とする。
上記構成によれば、圧迫力が止血に必要な圧力以下の場合には、突起部の係合部は、保持部に係合することで、帯体の周囲長を維持できる。
好ましくは、前記一対の山型の頂点部分の間隔は、前記配列順に小さくなっていくことを特徴とする。
上記構成によれば、突起部が一対の山型の頂点部分の間隔を乗り越える際に(乗り越え音)が発生するが、術者は、拡張部材の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力を超えた圧力異常状態の発生を、「乗り越え音」の大きさが大きくなることで、より確実に認知できる。
【0010】
好ましくは、複数の前記突起部が、前記帯体の前記一端部の面に、間隔をおいて設けられていることを特徴とする。
上記構成によれば、患者の体格や年齢に対応して、複数の突起部から適切な位置の突起部を選ぶことができ、止血装置の帯体は、患者の体格の大小や年齢に関わらず、有効に装着することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、止血器具を患者の肢体の腕等に対して迅速に装着でき、適切な圧迫力を患者の止血しようとする部位に与えることができる止血器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の止血器具の第1実施形態を示し、止血冶具を患者の肢体の止血すべき部位である例えば手首に装着する際に、帯体の内面側(肌に接触する面側)となる面を示す図である。
図2図1に示す止血器具を手首に巻いて装着した状態を示す断面図である。
図3】帯体の掛止部を示す斜視図である。
図4】掛止部の構造例を示す断面図である。
図5】掛止部の位置の固定機能と、圧力リミッター機能を示す説明図である。
図6】本発明の第2実施形態を示す図である。
図7】本発明のさらに別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
(第1実施形態)
図1は、本発明の止血器具の第1実施形態を示している。図1は、この止血冶具1を患者の肢体の止血すべき部位である例えば手首に装着する際に、帯体2の内面側(肌に接触する面側)となる面を示す図である。図2は、図1に示す止血器具1を手首Hに巻いて装着した状態を示す断面図である。
【0014】
図1に示す止血器具1は、図2に例示するように、患者の肢体の止血すべき部位である手首Hに巻くことにより、手首Hに形成されている穿刺部位100を圧迫して止血する。穿刺部位100は、治療や検査等を行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で手首Hに形成され、止血器具1は、穿刺部位100に留置されていたイントロデューサーシースを抜去した後に、その穿刺部位100を圧迫して止血する。
この止血器具1は、手首Hに巻き付けるための帯体2と、補強板4と、拡張部材の例としてのバルーン5と、拡張部材の例としての補助バルーン6と、マーカー7と、掛止部300を有している。バルーン5と補助バルーン6は、空気を送り込むことで拡張動作する。
【0015】
図1に示す帯体2は、可撓性を有する帯状の部材である。図2に示すように、帯体2は、手首Hの外周囲を一周するように巻き付けられる。帯体2は、手首Hに巻き付けられた状態を保持するために、帯体2の重ね合わせ部分が後述する掛止部300によって、着脱可能に掛止めされるようになっている。
【0016】
この掛止部300は、帯体2に設けられており、この帯体2を手首Hに巻き付けた状態で着脱可能に掛止め、すなわち位置の固定をする機能を有する。しかも、掛止部300は、帯体2を手首Hに巻き付けた状態で、バルーン5と補助バルーン6に流体(空気)を注入した時に、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えようとすると、この通常の止血に必要な圧力を超えないようにするための圧力リミッター機能を有している。この掛止部300の好ましい構造例は、後で説明する。
【0017】
帯体2の構成材料としては、術者が、帯体2を通して、穿刺部位100を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
なお、帯体2は、実質的に透明であることが好ましい。これにより、術者は、帯体2を通して、穿刺部位100を外側から確実に視認することができ、後述するマーカー7を穿刺部位100に対して容易に位置合わせすることができる。これにより、帯体2を手首Hに対して正確に位置決めできる。
【0018】
図1図2に示すように、帯体2の中央部には、後述する補強板保持部21が形成されている。この補強板保持部21は、後で説明する補強板4を収容して保持する役割を有する。別個の帯体部材21Aが、帯体2の外面側(または帯体2の内面側)に対して、融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)、または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法により接合されている。従って、補強板保持部21は、帯体2と別個の帯体21Aとにより二重になるように構成されている。これにより、補強板4は、帯体2と別個の帯体部材21Aとの間の隙間に挿入することで、動かないように確実に保持されている。
【0019】
図2に示すように、補強板4は、上述したように、帯体2の二重に形成された補強板保持部21の間に挿入されることにより帯体2に保持されている。湾曲している補強板4は、その少なくとも一部が内周面側に向かって湾曲した形状を有している。補強板4は、帯体2よりも硬質な材料で作られており、ほぼ一定の形状を保つ。
図1に示すように、補強板4は、帯体2の長手方向に長い形状を有している。図2に示すように、補強板4の長手方向の中央部41は、ほとんど湾曲しておらず平板状になっている。この中央部41の両側には、それぞれ内周側に向かって、しかも帯体2の長手方向(手首Hの周方向)に沿って湾曲した湾曲部42が形成されている。この湾曲部42の曲率半径R2は、中央部41の曲率半径R1(図示の構成では、曲率半径R1はほぼ無限大)より小さい。
【0020】
補強板4の構成材料としては、術者が、補強板4を通して、穿刺部位100を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
補強板4は実質的に透明であることが好ましい。これにより、術者は、帯体2と補強板4を通して、穿刺部位100を外側から確実に視認することができ、後述するマーカー7を穿刺部位100に容易に位置合わせすることができる。なお、補強板4の形状としては、中央部41のような湾曲していない部分を有さないもの、すなわち、その全長に渡り湾曲しているものであってもよい。
【0021】
図1図2に示すように、バルーン5が帯体2の内面側(患者の肌に接する側)に連結されている。このバルーン5は、可撓性を有する材料で作られており、バルーン5は、空気(流体の一例)を注入することにより拡張させることができる拡張部材の一例である。これにより、帯体2と手首Hの間で、バルーン5内に空気を注入することでバルーン5を拡張動作させることにより、手首Hの穿刺部位100を圧迫することができる。
【0022】
図2に示すように、バルーン5は、帯体2の内面側に対して、可撓性を有する連結部11を介して連結されている。しかもバルーン5は、帯体2の内面側において、補強板4の長手方向の一端側に片寄って位置されている。このバルーン5は、図2に示すように、補強板4のほぼ右半分側の部分に重なるように位置されている。バルーン5は、例えば上述した材料から成るシート材の縁部を融着または接着することによりシールして袋状に形成したものである。このバルーン5は、空気を注入して拡張していない状態では、四角形を成している。
【0023】
図2に示すように、連結部11の長さは、比較的短くなっていることで、バルーン5が補強板4に対して片寄った位置に位置決めされている。バルーン5は、帯体2と同質または同様の材料で形成されていることが好ましい。連結部11を形成する材料は、バルーン5を形成する材料と同じであるのが好ましい。これにより、バルーン5は、連結部11を用いて帯体2の内面側に対して融着により接合することが容易にできる。
【0024】
バルーン5を形成する材料としては、術者が、帯体2と補強板4とバルーン5を通じて、外側から穿刺部位100を視認できる材料であれば特に限定されない。特に、帯体2とバルーン5は、実質的に透明であることが好ましい。これにより、術者は、帯体2と補強板4とバルーン5を通じて、外側から穿刺部位100を確実に視認できる。しかも、帯体2とバルーン5を通じて、外側からマーカー7を穿刺部位100に対して容易に位置決めすることができる。
【0025】
図1図2に示すように、バルーン5の内面側には、マーカー7が設けられている。すなわち、このマーカー7は、穿刺部位100に接触する面側に設けられている。このマーカー7をバルーン5の内面側に設けることにより、術者は、患者の手首Hの穿刺部位100を帯体2と補強板4とバルーン5を通じて、目視で確認しながら、このマーカー7を利用して、バルーン5を穿刺部位100に対して容易に位置決めできる。このため、バルーン5の位置ずれによる穿刺部位100からの血液の漏れや、血腫の発生を防ぐことができる。
【0026】
このマーカー7は、図1に示すように、バルーン5の中心部、すなわちバルーン5の四角形の対角線の交点を中心として設けることが好ましい。これにより、バルーン5の中心部を穿刺部位100に位置合わせすることが可能であるため、バルーン5を拡張させた際に、バルーン5の圧迫力が穿刺部位100に対して確実に作用する。マーカー7の形状は、特に限定されず、例えば円、三角形、四角形等が挙げられ、図1では四角形をなしている。
【0027】
マーカー7の材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。バルーン5にマーカー7を設ける方法は特に限定されないが、例えばマーカー7をバルーン5に印刷する方法、マーカー7をバルーン5に融着する方法、マーカー7の片面に接着剤を塗布してバルーン5に貼り付ける方法等が挙げられる。
マーカー7の色は、バルーン5を穿刺部位100に位置合わせすることができる色できれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、術者は、帯体2と補強板4とバルーン5を通じて、マーカー7を血液や皮膚上で容易に視認することができるため、バルーン5を穿刺部位100に位置合わせすることがより容易となる。
【0028】
また、マーカー7は半透明であることが好ましい。これにより、術者は、穿刺部位100をマーカー7の外側から視認することができる。なお、マーカー7はバルーン5の外面側、すなわちバルーン5の穿刺部位100と接触する面と反対側(図1の紙面の裏側)に設けてもよい。また、マーカー7をバルーン5に設けるのではなく、帯体2もしくは補強板4あるいは後述する補助バルーン6に設けてもよい。この場合も、マーカー7がバルーン5の中心部に重なるように設ける。
【0029】
図1図2に示すように、補助バルーン6は、帯体2の補強板4の湾曲部42とバルーン5との間に配置されている。この補助バルーン6は、可撓性を有する材料により作られており、バルーン5と重なるように配置されている。この補助バルーン6とバルーン5に空気を注入することで、補助バルーン6は、バルーン5を押圧して圧迫力を与える拡張部材として機能する。
補助バルーン6を形成する材料としては、術者が、穿刺部位100を視認できる材料であれば良く、バルーン5を形成する材料と同様の材料を採用できる。補助バルーン6は、好ましくは実質的には透明である。これにより、術者は、患者の手首Hの穿刺部位100を帯体2と補強板4と補助バルーン6とバルーン5を通じて目視で確認でき、マーカー7を穿刺部位100に容易に位置合わせすることができる。
【0030】
図2に示すように、補助バルーン6は、帯体2の長手方向についての幅がバルーン5よりも小さく形成されていることで、補助バルーン6は、補強板4の湾曲部42とバルーン5との間に配置されていることで、バルーン5を局所的に押圧するようになっている。これにより、バルーン5から穿刺部位100への押圧力Fの方向をより確実に傾斜させることができる。
そして、補助バルーン6は、湾曲板4の湾曲部42またはそれより図2中の右側の部分に接触する。これにより、補助バルーン6が湾曲板4から受ける力の方向、換言すれば、補助バルーン6が帯体2を介して接触する部分の補強板4の法線方向は、手首Hの中心部Gに向かうような方向に傾斜することになる。その結果、押圧力fや押圧力Fの方向をより確実に傾斜させることができる。
【0031】
図2に示すように、バルーン5の一部と補助バルーン6の一部とは、互いに融着または接着等の方法により接合されている。そして、その接合部には、バルーン5の内部と補助バルーン6の内部とを連通する連通部(開口部)12が形成されている。これにより、前述したようにしてバルーン5に液体(空気)を注入すると、注入された流体の一部が連通部12を介して補助バルーン6内に流入し、バルーン5の拡張に伴って補助バルーン6が拡張する。これにより、1回の空気注入操作でバルーン5と補助バルーン6を拡張させることができ、空気注入の操作性に優れている。
【0032】
図2に示すように、この補助バルーン6は、固着部13を介して、バルーン5の連結部11と同じ側(図2中の右側位置)でしかも帯体2の内面側に連結されている。これにより、補助バルーン6がより容易かつ確実に傾斜した姿勢になるため、バルーン5に対する押圧力fが傾斜した方向(バルーン5をほぼ手首Hの中心部Gに向かわせるような方向)により作用し易くなり、より優れた止血効果が得られる。
なお、バルーン5を押圧する押圧部材は、補助バルーン6に限らず、例えば、スポンジ状の物質、弾性材料、綿(わた)のような繊維の集合体、またはこれらの組み合わせなどによって形成されたパッドのような部材であっても良い。
【0033】
次に、図1に示す空気(流体)の注入部50について説明する。
この注入部50は、チューブ51と、バッファとしての袋体52を有している。このチューブ51は可撓性を有するチューブであり、チューブ51の一端部51Aは、バルーン5の接続部5Rに接続されている。チューブ51の他端部51Bは、袋体52の接続部52Aに接続されている。袋体52は、一端部には接続部52Aを有しており、他端部にはコネクタ60を有している。
【0034】
図1に示すコネクタ60は、テーパー形状の内周面部分を有しており、例えばこのコネクタ60の内周面部分内には流体の通路(空気の通路)が形成されている。流体の通路には、流体の通路を開閉可能な弁体が配置されている。この弁体は、可撓性を有する材料で作られており、通常は内周面部分内の流体の通路を閉じることで流体(空気)を通さない構造になっている。図1に示す流体注入部材としてのシリンジ200の突出部202を、コネクタ60内に差し込むことで、弁体は押されるようになっている。これにより、弁体は流体の通路を開くことで、コネクタ60の内周面部分の流体の通路に流体(空気)を通すことができるようになっている。
【0035】
次に、図1を参照して、流体供給部材であるシリンジ200の構造例を説明する。
図1に示すシリンジ200は、通常用いられているものであり、バルーン5と補助バルーン6内に空気を供給する流体供給部材である。シリンジ200は、円筒状の本体部201と、突出部202と、押子203を有している。本体部210の一端部には、突出部202が設けられている。本体部201の内部には押子203が挿入されている。突出部202は、コネクタ60内に差し込むことで、袋体52に接続することができる。
【0036】
このように、突出部202は、コネクタ60内に差し込むと、コネクタ60の内周面部分内の弁体が押される。これにより、弁体は流体の通路を開くことで、コネクタ60の内周面部分に流体(空気)を通すことができるようになっている。
そして、術者が押子203を押すことで、本体部201内の空気(流体)は、本体部201から突出部202の流体の通路と、コネクタ60の流体の通路を通じて、しかも袋体52とチューブ51を介して、バルーン5と補助バルーン6内に注入できるようになっている。
【0037】
次に、上述した掛止部300の好ましい構造例を、図1図3から図5を参照して説明する。
図3は、掛止部300を示す斜視図であり、図4は、掛止部300の構造例を示す断面図である。そして、図5は、掛止部300の位置の固定機能と、圧力リミッター機能を示す説明図である。掛止部300の材質としては、例えばABS樹脂のような弾性変形可能な樹脂で作られているが、特に限定されない。
まず、図1に示すように、掛止部300は、断面円形状の突起部(凸部)310と、取付け部330を有している。突起部310は、帯体2の第1端部2Aの外面2Bに固定されている。この突起部310は、図1図3に示すように、基部311と、係合部312を有している。基部311はノッチ部ともいい、基部311は、図3に示すように帯体2の第1端部2Aの外面2Bの直接固定されている。
【0038】
図4(A)は、突起部310の基部311が、取付け部330にはめ込まれる前の状態を示しており、図4(B)は、基部311が、取付け部330にはめ込まれた状態を示している。図4(C)は、基部311が、取付け部330内を帯体2の長手方向CLに沿って移動した状態を示している。
図3図4(A)に示すように、係合部312の直径D2は、基部311の直径D1よりも大きい。寸法例を挙げれば、基部311の直径D1は、例えば30mmであり、帯体2の幅Wは、例えば40mmである。係合部312の直径D2は、30mmよりも大きく、40mmよりは小さいが、特にこの数値には限定されない。
【0039】
一方、図3図4(A)に示すように、取付け部330は、帯体2の第2端部2Cの内面2Dにおいて、帯体2の長手方向CLに沿って設けられている。この取付け部330は、突起部310を保持して位置を固定する機能と、突起部310を長手方向CLに沿って移動させることで圧迫力(圧力)のリミッターとしての機能を有する。
図3に示すように、取付け部330は、はめ込み領域部分331と、取り外し領域部分332と、保持および圧力リミッター領域部分400を有している。保持および圧力リミッター領域部分400は、はめ込み領域部分331と取り外し領域部分332との間に設けられている。
【0040】
まず、はめ込み領域部分331と取り外し領域部分332を説明する。
図2に示すように、止血器具1の帯体2を、患者の例えば手首Hに巻き付けて装着する場合には、図1に示す帯体2の第1端部2Aの外面2Bは、手首Hに沿って折り返されて第2端部2Cの内面2Dに向き合わせる。
はめ込み領域部分331は、第2端部2Cの内面2Dにおいて、突起部310を最初にはめ込む(入れ込む)ための凹部分である。このはめ込み領域部分331は、帯体2の最も内側の位置に設けられており、はめ込み領域部分331は、バルーン5の配置位置に最も近い位置にある。
【0041】
これに対して、図3に示す取り外し領域部分332は、第2端部2Cの内面2Dにおいて、第2端部2Cの先端部2E寄りの位置に設けられている。この取り外し領域部332は、突起部310を最初にはめ込んで突起部310を保持および圧力リミッター領域部分400に通した後に、突起部310を第2端部2Cの内面2Dから取り外すための凹部分である。
図3に示すはめ込み領域部分331の幅W1と取り外し領域部分332の幅W1は、係合部312の直径D2よりもやや大きく設定されている。また、図3図4(A)に示すように、はめ込み領域部分331の深さMと取り外し領域部分332の深さMは、基部311と係合部312の軸方向の合計長さNとほぼ同じである。
【0042】
次に、図3に示す保持および圧力リミッター領域部分400を説明する。
保持および圧力リミッター領域部分400は、取り外し領域部332にはめ込まれた突起部310を、スライド方向SDに沿って、取り外し領域部分332に向けてスライドできるようなっている。保持および圧力リミッター領域部分400は、突起部310をスライド方向SDに沿ってスライドしない様に保持して固定する機能と、圧迫力(圧力)リミッターとしての機能を有している。
【0043】
この圧迫力(圧力)リミッターの機能とは、図2に示すように帯体2を手首Hに巻き付けた状態で、バルーン5と補助バルーン6に流体(空気)を注入した時に、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えると、この通常の止血に必要な圧力を超えないようにする機能である。これにより、患者の穿刺部位100に対して、止血に必要な圧力を超えた圧力を与えないようにすることができる。しかも、バルーン5と補助バルーン6が止血に必要な圧力を超えた圧力を受けて破裂するのを避けることができる。
【0044】
図3に示す保持および圧力リミッター領域部分400は、複数のガイド部401,402,403,404,405を有している。このガイド部401,402,403,404は同じ形状に形成されており、各ガイド部401,402,403,404,405は水平に配列される複数の部分であり、対向して内向きに水平に突出する凸型の移行部分410,410を有している。各対の凸型の移行部分410は、山型(水平に突出部分)の頂点部分411と、保持部412,412を有する。
【0045】
対向する凸型の移行部分410,410の各山型の頂点部分411,411は、間隔Kをおいて離して対向して配置されている。山型の頂点部分411,411は、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)以下の場合には、突起部310の軸部311を通さないようにする。これにより、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力に対抗して、突起部310がスライド方向SDにはスライドさせないようにする部分である。
つまり、例えば図5(A)や図5(B)に例示するように、突起部310は、隣接する4つの保持部412の間に保持されるので、帯体2の巻き付け長さが変化しないように保持して、穿刺部位100は、通常の止血に必要な圧力で圧迫することができる。
【0046】
しかし、山型の頂点部分411,411は、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた場合には、例えば図5(A)に例示するように、山型の頂点部分411,411が突起部310の軸部311を介して受ける圧迫力に負けて弾性変形する。
これにより、山型の頂点部分411,411は、突起部310の軸部311を通すので、突起部310は山型の頂点部分411,411の間を押し拡げ、例えば図5(A)に示す状態から図5(B)に例示するように、スライド方向SDにはスライドさせて、さらに隣接する4つの保持部412の間に保持されるようになっている。この時、スライドを容易にするために隣接する山形の頂点部分411,411の間には、切れ込みが形成されている。
【0047】
図4(A)に示すように、保持部412は、円弧状の外側案内縁412Aと、2箇所の直線状の内側案内縁412Bを有している。隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aは、突起部310の軸部311の外周囲を保持する。2つの直線状の内側案内縁412Bは、スライド方向SDに平行に形成されており、はめ込み領域部分331から取り外し領域部分332に至るまで形成されている。
【0048】
図5(A)や図5(B)に例示するように、隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aは、突起部310がスライド方向SDに移動しないように、位置を固定する部分である。すなわち、隣接する4つの曲線状(例えば円弧状)の外側案内縁412Aは、突起部310の基部311の外周囲に突き当たることで、突起部310の位置を保持することができる。突起部310は、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)以下の場合には、隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aにおいて保持した状態を維持することができる。図3に示す山型の頂点部分411,411の形成間隔Jは、例えば30mmから60mmであり、また、山型の頂点部分411の高さVは、例えば6mmから10mmであるが、特に限定されない。
【0049】
図3図4(B)に示すように、隣接する4つの外側案内縁412Aは、突起部310の基部311を保持する。2箇所の直線状の内側案内縁412Bは、突起部310の係合部312をスライド方向SDに沿って案内するようになっている。突起部310の係合部312は、外側案内縁412Aの内側面により掛かっているので、帯体2の第1端部2Aの突起部310は、帯体2の第2端部2BからZ方向に外れることは無い。
【0050】
次に、上述した止血器具1の使用例を説明する。
図1に示す止血器具1の帯体2を、図2に示すように患者の例えば手首Hに装着するのであるが、装着前では、バルーン5と補助バルーン6には空気は注入されていないので、バルーン5と補助バルーン6は拡張されていない。
図1に示す帯体2を図2に示すように手首Hに装着する場合には、通常動脈への穿刺部材100は、手首Hの内側(腱がある側)の親指側へ片寄った位置にある。穿刺部位100にはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首Hに帯体2を巻き付けて、バルーン5に設けられているマーカー7が穿刺部位100上に重なるようにバルーン5を位置合わせする。そして、図2図3に示すように、帯体2の第1端部2Aと第2端部2Cを、掛止部300の突起部310と取付け部330とにより固定する。
【0051】
図1に示す止血器具1を手首Hに装着した後、術者は、図3に示す注入部50のコネクタ60に対して、シリンジ200の突出部202を挿入してはめ込む。そして、術者が、シリンジ200の押子203を押すことにより、本体部201内の空気(流体)を、コネクタ60から、袋体52とチューブ51を介して、バルーン5と補助バルーン6内に注入する。これにより、バルーン5と補助バルーン6は所定の空気圧で拡張する。このようにして、バルーン5と補助バルーン6を拡張させると、穿刺部位100からイントロデューサーシースを抜去する。
【0052】
ところで、上述したように、図3に示すように、帯体2の第1端部2Aと第2端部2Cを、掛止部300の突起部310と取付け部330とにより掛かり止め(固定)する際には、術者は、第1端部2Aの突起部310を、第2端部2Cの内面2Dのはめ込み領域部分331に最初にはめ込む(入れ込む)と、突起部310は図5(A)に示すポジションP1の位置になる。
そして、術者が帯体2の第1端部2Aと第2端部2Cを相対的にずらすと、突起部310は、1つ目の対向する一対の山型の頂点部分411,411を弾性変形させて乗り越えて、ポジションP2の位置に移動する。これにより、隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aは、突起部310の基部311を保持することができ、帯体2の第1端部2Aと第2端部2Cは確実に掛かり止め(固定)することができる。
【0053】
そこで、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)以下の場合には、突起部310は、隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aにはまり込んでいるので、突起部310の位置はポジションP2において保持される。
しかし、バルーン5と補助バルーン6に必要以上に空気が注入されて、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が、通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた場合には、山型の頂点部分411,411が突起部310の軸部311の圧迫力に負けて弾性変形する。これにより、突起部310の軸部311は、山型の頂点部分411,411の間を超えてスライド方向SDにスライドして、図5(A)から図5(B)に示すように、ポジションP2からポジションP3に移る。
【0054】
突起部310は、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が、通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)以下の場合には、突起部310は、隣接する4つの円弧状の外側案内縁412Aにはまり込んでいるので、突起部310の位置はポジションP3において保持される。
しかし、さらに、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた場合には、山型の頂点部分411,411が突起部310の軸部311の圧迫力に負けて弾性変形する。これにより、突起部310の軸部311は、山型の頂点部分411,411の間を超えてスライド方向SDにスライドして、図5(B)から図5(C)に示すように、ポジションP3からポジションP4に移る。
【0055】
さらに、穿刺部位100に対する圧迫力(圧力)が通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた場合には、山型の頂点部分411,411が突起部310の軸部311の圧迫力に負けて弾性変形する。これにより、突起部310の軸部311は、山型の頂点部分411,411の間を超えてスライド方向SDにスライドして、図5(C)に示すように、ポジションP4からポジションP5に移る。
【0056】
この状態で、止血が終われば、術者が第1端部2Aと第2端部2Cを相対的にずらすと、突起部310は、4つの円弧状の外側案内縁412Aから、山型の頂点部分411,411を弾性変形させて乗り越えて、ポジションP4から取り外し領域部分332へ、スライド方向SDに沿ってスライドして逃がす。これにより、第1端部2Aの突起部310は、第2端部2Cの取付け部330から取り外して、手首Hから帯体2を外すことができる。
【0057】
このように、帯体2を手首Hに巻き付ける際に、帯体2の一端側に設けられているノッチのような突起部310を、帯体2の他端側に配置されている取付け部330に対して掛かり止めする。このように掛かり止め(固定)した後に、バルーン5と補助バルーン6を膨らませて通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を注入する際に、この止血に必要な圧力を超えれば、術者が圧力を確認するまでもなく、突起部310は取付け部330において位置が保持された状態から、一対の山型の頂点部分411,411を乗り越えて、スライド方向SDに沿って自動的に移動することができる。
【0058】
これにより、手首Hに巻く付けることで掛かり止めされている帯体2は、その周囲長が実質的に長くなるので、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力は、自動的に下げることができる。このため、バルーン5と補助バルーン6が破裂することを防ぐことができる。しかも、バルーン5と補助バルーン6による一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)で、穿刺部位100を適切に圧迫して止血できる。従って、術者は、止血器具1を患者の肢体の腕等に対してより迅速に装着でき、適切な圧迫力を患者の止血しようとする部位に与えることができる。
【0059】
また、突起部310の基部311が、一対の山型の頂点部分411,411を弾性変形させて乗り越える際に、一対の山型の頂点部分411,411が「乗り越え音」を発生させる。これにより、術者はこの「乗り越え音」を聞くことにより、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた、圧力異常が発生したことを認知できる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、図6を参照して説明する。
図3に示す第1実施形態の突起部310に比べて、図6に示す突起部310の基部311と係合部312の直径を小さくし、しかも図3に示す第1実施形態の保持および圧力リミッター領域部分400のガイド部401から405の形成間隔に比べて、図6に示す保持および圧力リミッター領域部分400のガイド部401から405の形成間隔を小さくしている。山型の頂点部分411の高さV1は、例えば18mmから19mmであるが、これに限定されない。
このようにすることで、止血に必要な圧力を超えれば、突起部310の軸部311は、取付け部330の一対の山型の頂点部分411,411を乗り越えてスライド方向SDに沿って、第1実施形態の場合に比べて、より多く数の段階で、保持したり、自動的に移動することができる。
【0061】
図7(A)から図7(D)は、本発明のさらに別の実施形態を示している。
図7(A)の実施形態の帯体2では、各山型の頂点部分411,411の間隔K1、K2、K3で示すように、この間隔が、スライド方向SDに行くに従って、間隔K1>K2>K3となるように、段々小さくなるようにしても良い。
これにより、突起部310の軸部311が、一対の山型の頂点部分411,411を弾性変形させて乗り越える際に、一対の山型の頂点部分411,411が、スライド方向SDに行くに従って、「乗り越え音」が大きく鳴り易くなり、順番に、より大きな「乗り越え音」を発生させることができる。従って、術者は、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた、圧力異常状態の発生を、「乗り越え音」の大きさが大きくなることで、より確実に認知できる。
【0062】
図7(B)に示す本発明の実施形態の帯体2では、図7(A)の本発明の実施形態と反対に、各山型の頂点部分411,411の間隔K1、K2、K3で示すように、この間隔が、スライド方向SDとは反対方向に行くに従って、間隔K1>K2>K3となるように、段々小さくなるようにしても良い。
これにより、突起部310の軸部311が、一対の山型の頂点部分411,411を弾性変形させて乗り越える際に、一対の山型の頂点部分411,411が、スライド方向SDに行くに従って、「乗り越え音」が小さくなる。従って、術者は、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えた、圧力異常の発生を、「乗り越え音」の大きさが小さくなることで、より確実に認知できる。また、一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を超えるたびに、帯体2の第1端部2Aが第2端部2Cから外れやすくなるので、術者は、圧力異常状態をより確実に認識できる。
【0063】
また、図7(C)に示す本発明の実施形態の帯体2では、2対の山型の頂点部分411,411を設けるだけにすることで、バルーン5と補助バルーン6の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力(好ましくは150mmHg相当)を一度だけ超えれば、帯体2の第1端部2Aが第2端部2Cから外れるので、術者は、圧力異常状態をより確実に認識できる。
【0064】
図7(D)に示す本発明の実施形態の帯体2では、2つ以上の突起部310,310Rが帯体2の第1端部2Aの外面2Bにおいて、帯体2の長手方向CLに沿って、間隔をあけて設けられている。
このように2つ以上の突起部310,310Rを設けるのは、腕の太さが異なる、例えば小児から成人までの患者に幅広く対応できるようにするためである。例えば、外側に設けられた突起部310は、腕周りの大きい成人の患者に使用される。別の突起部310Rは、突起部310よりは内側に設けられており、この突起部310Rは、腕周りの小さい小児等の患者に使用することができる。これにより、止血装置1は、患者の体格の大小や年齢に関わらず、有効に使用することができる。
【0065】
本発明の実施形態の止血装置1は、肢体の止血すべき部位に巻き付けて固定される帯体2と、帯体を部位に巻き付けた状態を保持する掛止部300と、帯体に連結されており、流体を注入することで拡張して部位の止血のための圧迫力を部位に与える拡張部材(バルーン5と補助バルーン6)を備える。掛止部300は、帯体2の一端部2Aに設けられる突起部310と、帯体2の他端部2Cに設けられて、突起部310を着脱可能に掛かり止めし、拡張部材の圧迫力が止血に必要な圧力以下であると帯体2の他端部2Cでの突起部310の位置を保持し、圧迫力が止血に必要な圧力を超えると帯体2の他端部2Cでの突起部310の位置を帯体2の長手方向CLに移して帯体2の巻き付け周囲長を大きくする取付け部330を有する。
これにより、取付け部は突起部を着脱可能に掛かり止めすることで、拡張部材の圧迫力が止血に必要な圧力以下であると突起部の位置を保持し、圧迫力が止血に必要な圧力を超えると帯体の他端部での突起部の位置を帯体の長手方向に移して帯体の巻き付け周囲長を大きくすることができる。このため、止血器具を患者の肢体の腕等に対して迅速に装着でき、適切な圧迫力を患者の止血しようとする部位に与えることができる。
【0066】
取付け部330は、帯体2の長手方向に沿って配列されて、拡張部材の圧迫力が止血に必要な圧力以下であると、帯体2の他端部2Cでの突起部310の位置をそれぞれ保持するための複数の保持部412と、複数の保持部の間に設けられて、圧迫力が止血に必要な圧力を超えて突起部310が帯体2の長手方向に移動すると弾性変形して、突起部310の位置を帯体2の長手方向に移して次の位置の保持部412に保持させる移行部分410と、を有する。これにより、圧迫力が止血に必要な圧力以下であると、突起部の位置を保持部に保持して帯体の周囲長をそのまま維持し、圧迫力が止血に必要な圧力を超えると、移行部分は、突起部が乗り越える際に弾性変形して突起部の位置を帯体の長手方向に移すので、帯体の周囲長を自動的に伸ばして圧迫力を低減できる。
【0067】
移行部分は、間隔をおいて対向して設けられた一対の山型の頂点部分により構成されている。これにより、突起部は、圧迫力が止血に必要な圧力を超えた場合には、移行部分一対の山型の頂点部分を乗り越えて、帯体の周囲長を帯体の長手方向に沿って、確実に伸ばすことができる。
【0068】
取付け部には、拡張部材寄りの位置に突起部を最初にはめ込んで保持部側に案内するためのはめ込み領域部分が設けられ、拡張部材から最も離れた位置には保持部と移行部分を通った突起部を、取付け部から取り外すための取り外し領域部分が設けられている。これにより、帯体を装着する際には、突起部は、取付け部のはめ込み領域部分にはめ込んで容易に掛かり止めができ、帯体を取り外す際には、突起部は、取り外し領域部分から容易に取り外すことができる。
【0069】
突起部は、帯体の一端部の面に設けられた基部と、基部に設けられており保持部に係合する係合部と、を有するので、圧迫力が止血に必要な圧力以下の場合には、突起部の係合部は、保持部に係合することで、帯体の周囲長を維持できる。
一対の山型の頂点部分の間隔は、順番に小さくなっていくようにすれば、突起部が一対の山型の頂点部分の間隔を乗り越える際に(乗り越え音)が発生するが、術者は、拡張部材の圧迫力が、一定の通常の止血に必要な圧力を超えた圧力異常状態の発生を、「乗り越え音」の大きさが大きくなることで、より確実に認知できる。
複数の突起部が、帯体の一端部の面に、間隔をおいて設けられているので、患者の体格や年齢に対応して、複数の突起部から適切な位置の突起部を選ぶことができ、止血装置の帯体は、患者の体格の大小や年齢に関わらず、有効に装着することができる。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
上記実施形態の各構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせることができる。
例えば、バルーン5と補助バルーン6に注入する流体としては、空気に限らず例えば窒素やその他の気体であっても良い。
図示例では、掛止部300の突起部310は、帯体2の第1端部2Aの外面2Bに固定されている。また、取付け部330は、帯体2の第2端部2Cの内面2Dにおいて、帯体2の長手方向CLに沿って設けられている。しかしこれに限らず、逆に、掛止部300の突起部310は、帯体2の第1端部2Aの内面に固定され、取付け部330は、帯体2の第2端部2Cの外面において、帯体2の長手方向CLに沿って設けても良い。突起部310の形状や、取付け部330は、図示例に限らず、他の形状を採用することもできる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・止血器具、2・・・帯体、2A・・・帯体の第1端部、2C・・・帯体の第2端部、4・・・補強板、5・・・バルーン(拡張部材の例)、6・・・補助バルーン(拡張部材の例)、7・・・マーカー、100・・・肢体の穿刺部位、300・・・掛止部、310・・・突起部、311・・・突起部の基部、312・・・突起部の係合部、330・・・取付け部、331・・・取付け部のはめ込み領域部分、332・・・取り外し領域部分、400・・・保持および圧力リミッター領域部分、410・・・凸型の移行部分、411・・・山型の頂点部分、412・・・保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7