(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389625
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】オレフィンの分離方法およびゼオライト膜複合体
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20180903BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20180903BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20180903BHJP
C01B 39/22 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
C01B39/22
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-55192(P2014-55192)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-174081(P2015-174081A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雅博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 求
(72)【発明者】
【氏名】木村 信啓
(72)【発明者】
【氏名】足立 倫明
(72)【発明者】
【氏名】和久 俊雄
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−066242(JP,A)
【文献】
特表2002−523480(JP,A)
【文献】
米国特許第05300715(US,A)
【文献】
GIANNAKOPOULOS, I.G.,Separation of Propylene/Propane Mixtures Using Faujasite-Type Zeolite Membranes,Ind. Eng. Chem. Res.,2004年12月 8日,Vol.44, No.1,pp.226-230
【文献】
AGUADO, S.,Absolute Molecular Sieve Separation of Ethylene/Ethane Mixtures,J. Am. Chem. Soc.,2012年 8月22日,Vol.134, No.36,pp.14635-14637
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
C01B 33/20−39/54
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にX型ゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体によりプロピレン/プロパン混合流体からプロピレンを選択的に分離する方法であって、
前記X型ゼオライトは、前記X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成され、
前記ゼオライト膜複合体の80℃におけるプロピレンが透過度は2×10-8mol・m−2・s−1・Pa−1以上、かつプロピレン/プロパンの分離係数が15以上であることを特徴とするオレフィンの分離方法。
【請求項2】
前記X型ゼオライトは、NaX型ゼオライト中のNaイオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成されることを特徴とする請求項1に記載のオレフィンの分離方法。
【請求項3】
前記AgX型ゼオライト中のAgイオンの割合が26質量%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のオレフィンの分離方法。
【請求項4】
前記AgX型ゼオライト中のAgイオンの割合が26〜46質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のオレフィンの分離方法。
【請求項5】
前記プロピレン/プロパン混合流体のプロピレン/プロパン分圧が、50/50〜95/5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のオレフィンの分離方法。
【請求項6】
前記ゼオライト膜複合体によるプロピレン/プロパン混合流体からのプロピレンの分離温度は、40℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のオレフィンの分離方法。
【請求項7】
多孔質支持体上にX型ゼオライトを成膜した、プロピレン/プロパン混合流体からプロピレンを選択的に分離するゼオライト膜複合体において、
前記X型ゼオライトは、X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成され、
前記ゼオライト膜複合体の80℃におけるプロピレンが透過度は2×10-8mol・m−2・s−1・Pa−1以上、かつプロピレン/プロパンの分離係数が15以上であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの分離方法およびゼオライト膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含有する気体または液体の混合物からの含有成分の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着剤などにより行われている。
しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
【0003】
これらの方法に代わる分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。しかし、高分子膜は加工性に優れる特徴をもつ一方で、熱や化学物質、圧力により劣化して性能が低下することが問題であった。
【0004】
近年、これらの問題を解決すべく耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性が良好な種々の無機膜が提案されてきている。無機膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に劣化の問題により高分子膜では分離できない有機物を含む混合物の分離にも適用できるという利点を有している。その中でもゼオライト膜は、サブナノメートルの規則的な細孔を有しているため、分子ふるいとしての働きをもつので選択的に特定の分子を透過でき、高分離性能を示すことが期待されている。
【0005】
ゼオライトと総称される結晶性アルミノケイ酸塩は、一つの結晶内に分子サイズの微空間(ナノスペース)を有しており、「分子ふるい」の名で呼ばれている。また、その結晶構造により、LTA(A型)、MFI(ZSM−5型)、MOR、FER、FAU(X型、Y型)といった数多くの種類が存在する。このような特異な高次構造を備えたゼオライトは、形状選択機能(分子ふるい機能)、吸着/分離精製機能、イオン交換機能、固体酸機能、触媒機能などを発揮するので、広い産業分野で利用されている。
【0006】
ゼオライト膜を分離、濃縮に使用する場合、通常、支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体が用いられている。
ゼオライト膜を用いた分離法として、例えば、有機物と水との混合物をA型ゼオライト膜複合体でパーベーパレーション法により水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(例えば、特許文献1参照)や、モルデナイト型ゼオライト膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(例えば、特許文献2参照)、NaX型ゼオライト膜を用いたアルコールとMTBEを分離する方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
また、MFI型ゼオライトによりパラキシレンを選択的に分離し、オルトキシレンとメタキシレンを阻止する、キシレン異性体の分離(例えば、特許文献4および非特許文献1参照)が開示されている。
【0008】
さらに、MFI型ゼオライト膜を使用した直鎖炭化水素と側鎖炭化水素の分離(例えば、特許文献5参照)や、直鎖炭化水素と芳香族炭化水素の分離(例えば、特許文献6参照)が開示されている。
【0009】
さらにまた、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きな細孔があるゼオライト膜において、炭素数が4の炭化水素異性体である直鎖のブタン(ノルマルブタン)と側鎖のブタン(イソブタン)の分離が可能であることが開示されている(例えば、非特許文献2および3参照)。
【0010】
また、オレフィンとパラフィン混合流体から、NaX型(フォージャサイト)ゼオライト膜複合体を用いたオレフィンの分離について記載されている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特許第3754520号公報
【特許文献4】特表2002−537990号公報
【特許文献5】特開2002−348579号公報
【特許文献6】特開2008−188564号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】H. Sakai, T. Tomita, T. Takahashi, Separation Purification Technology, 25 (2001) 297−306
【非特許文献2】野村 幹弘、“シリカライト膜の透過機構と粒界制御に関する研究” 東京大学工学部化学システム工学科博士論文、(1998年)
【非特許文献3】J. Coronas, R. D. Noble, J. L. Falconer, “Separation of C4 and C6 Isomers in ZSM−5 Tubular Membranes”, Ind. Eng. Chem. Res., 37 (1998) 166−176
【非特許文献4】Ioannis G.Giannakopoulos, Vladimiros Nikolakis,“Separation of Propylene/Propane Mixtures Using Faujasite−Type Zeolite Membranes”,Ind.Eng.Chem.Res.(2005)Vol.44,226−230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
オレフィンとパラフィン混合流体からのオレフィンの分離については、非特許文献4に記載があるものの、分離係数が十分満足できるものではないために、例えば、オレフィン/パラフィン混合流体から非特許文献4に開示されるNaX型ゼオライト膜でプロピレンを分離した場合、分離したプロピレンはポリマー用原料として要求される程度の純度のものを得ることが困難であった。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い分離性能を有するとともに、実用上十分な透過度を備えたゼオライト膜複合体を用いた、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィンの分離方法およびゼオライト膜複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、NaX型ゼオライト中のNa等のイオン交換可能なカチオンを、Agイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトから構成されるゼオライト膜が、パラフィン/オレフィンの混合流体からオレフィンを選択的に分離できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0016】
すなわち本発明は、多孔質支持体上にX型ゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体によりオレフィン/パラフィン混合流体からオレフィンを選択的に分離する方法であって、前記X型ゼオライトは、前記X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成されることを特徴とする。前記X型ゼオライトは、NaX型ゼオライト中のNaイオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成されることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、多孔質支持体上にX型ゼオライトを成膜した、オレフィン/パラフィン混合流体からオレフィンを選択的に分離するゼオライト膜複合体において、前記X型ゼオライトは、X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAgX型ゼオライトで構成されることを特徴とする。
【0018】
本発明において、AgX型ゼオライト中のAg量は26質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは26〜46質量%である。このようなAgX型ゼオライト膜が製膜されたゼオライト膜複合体は、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィンの分離に一層優れる。
【0019】
また、本発明において、前記ゼオライト膜複合体により選択的に分離するオレフィンはプロピレンであることが好ましく、プロピレンを含むオレフィン/パラフィン混合流体からプロピレンを分離する場合、一層の選択分離性が発揮される。
【0020】
さらに、本発明において、前記ゼオライト膜複合体の80℃におけるオレフィンの透過度が2×10
-8mol・m
−2・s
−1・Pa
−1以上で、かつオレフィン/パラフィンの分離係数が15以上であることが好ましい。透過度、および分離係数を上記以上とした場合、工業規模のスケールで高純度のオレフィンを得ることができる。
【0021】
さらにまた、本発明において、オレフィン/パラフィン混合流体のオレフィン/パラフィン分圧は、50/50〜95/5が好ましい。オレフィンの分圧が高すぎず、低すぎない適度な範囲のものが膜のコストも含め省エネルギーに寄与できる。
【0022】
また、本発明において、前記ゼオライト膜複合体によるオレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィンの分離温度は、40℃以上であることが好ましい。分離温度を40℃以上とすることで、オレフィンの透過性能が一層優れるようになるためである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オレフィンの分離に優れたゼオライト膜複合体及びそれを用いたオレフィン/パラフィン混合流体からの選択的なオレフィンの分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明にかかるゼオライト膜複合体を用いてベーパーパーミエーションによりオレフィンを分離する装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るゼオライト膜複合体及びオレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィンの分離方法の好適な実施形態について、更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
(ゼオライト膜)
本発明において、ゼオライト膜を構成する成分としては、X型ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはX型ゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にX型ゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0027】
ゼオライト膜の厚さは特に限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。また、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。ゼオライト膜の膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下する傾向がある。
【0028】
ゼオライト膜を構成するX型ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それ故、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下、例えば、100μm以下である。さらに、X型ゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じである場合がより好ましい。X型ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、X型ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、X型ゼオライトの粒子径とゼオライト膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。
【0029】
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトはX型ゼオライトである。X型ゼオライトは、アルミノ珪酸塩は、SiとAlの酸化物を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の元素が含まれていてもよい。本発明において、X型ゼオライトのSi/Alのモル比は1〜1.5の範囲である。
【0030】
AgX型ゼオライトは、ナトリウム型、アンモニウム型、プロトン型など様々な形態のX型ゼオライトのカチオンをAgイオンにイオン交換して調整することができる。これらのうちナトリウム型X型ゼオライトが好ましく使用される。一方、銀は通常カチオンとして水に溶解した形態で準備される。その具体例としては、硝酸銀や過塩素酸銀などの水溶液、銀のアンミン錯イオン水溶液、などを挙げることができるが、硝酸銀水溶液が最も好ましく使用される。銀イオンを含む水溶液の濃度は銀の濃度として、通常0.0001〜1モル%、好ましくは0.001〜0.5モル%の範囲である。
【0031】
イオン交換の方法には特に制限はないが、通常は上記のカチオン性の銀を含む溶液に、前述のゼオライト膜を浸漬させ、通常0〜90℃、好ましくは20〜70℃の温度範囲において1時間ないし数時間程度、好ましくは撹拌しながらイオン交換処理する。このイオン交換処理は繰り返し行うことができる。次に必要であれば、200〜600℃、好ましくは250〜400℃で数時間程度焼成処理しても良い。このような方法により、目的の銀イオン交換X型ゼオライトを得ることができる。
【0032】
X型ゼオライト中のAg量は、26質量%以上であることが好ましく、26〜46質量%であることがより好ましい。26質量%より小さい場合にはオレフィンの分離性能が十分でない場合があり、46質量%より多い場合には銀の添加量に見合った性能が発揮されない場合がある。
【0033】
(多孔質支持体)
多孔質支持体は、その表面などにX型ゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性がある多孔質の無機物質であれば如何なるものであってもよい。具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレスなどの焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。このうち、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、支持体作成の容易さや、入手容易性の点から、α−アルミナ、ステンレスが好ましい。
【0034】
多孔質支持体の形状は、オレフィン/パラフィン混合流体を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。本発明においては、無機多孔質支持体の表面などにX型ゼオライトから構成されるゼオライト膜を形成、好ましくはX型ゼオライトを膜状に結晶化させる。
【0035】
多孔質支持体が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になったり、緻密なゼオライト膜が形成されにくくなる傾向がある。
【0036】
また、多孔質支持体の気孔率は特に制限されず、また特に制御する必要は無いが、気孔率は、通常20%以上60%以下であることが好ましい。気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、前記下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、前記上限超過では支持体の強度が低下する傾向がある。
【0037】
(ゼオライト膜複合体)
本発明にかかるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体の表面などにX型ゼオライトが膜状に固着しているものであり、例えば、多孔質支持体の表面などにX型ゼオライトを水熱合成により膜状に結晶化させたものが用いられる。
【0038】
多孔質支持体上にX型ゼオライトを成膜する場合、多孔質支持体上にゼオライト種晶を付着させた後、ゼオライト膜を水熱合成により形成することが好ましい。一般的に、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させるためには、ゼオライト種晶の粉末を溶剤に分散させた分散液を多孔質支持体上に塗布することが好ましいが、その他、多孔質支持体製造時に原料の一部としてゼオライト種晶粉末を混入させることで、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させることもできる。塗布の方法としては、ゼオライト種晶を含む分散液を多孔質支持体に単純に滴下するだけでも良く、ゼオライト種晶を含む分散液に多孔質支持体を浸漬することでも得られる。また、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、スラリーの塗布、濾過など汎用されている方法を用いることもできる。多孔質支持体上の種晶の付着量を制御し、再現性の観点から、ゼオライト種晶を含む分散液を調製し、該分散液に多孔質支持体を浸漬する方法が好ましい。
【0039】
ゼオライト種晶は、市販のものを用いてもよく、原料から製造してもよい。原料から製造する場合には、例えばシリカ原料としてケイ酸ナトリウム、シリカゲル、シリカゾル又はシリカ粉末、アルミナ原料としてアルミン酸ナトリウム又は水酸化アルミニウムなどから既知の方法で製造することができる。
市販のものを用いる場合には、所望の大きさに粉砕機で粉砕した後、水に分散させ、分散液を調製する。調製した分散液は、適宜上記の方法で多孔質支持体に付着させる。該分散液は、スラリー、ゾル、溶液など、いずれの状態としても良く、採用する塗布方法に応じて適宜調製することができ、多孔質支持体を浸漬する方法を採用する場合には、付着の容易性からスラリー状であることが好ましい。
【0040】
上記方法により得られる、ゼオライト種晶を付着させた多孔質支持体を用いて、水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する。水熱合成は、公知の方法を適宜用いることができ、例えば、X型ゼオライト膜複合体は、H
2O、Na
2O、SiO
2及びAl
2O
3の各成分モル組成比を、それぞれH
2O/Na
2O=30〜60、Na
2O/SiO
2=1〜2、SiO
2/Al
2O
3=4〜12となるように調整した反応液中に、種晶を表面に施した多孔質アルミナ支持体を浸漬し、50〜200℃に加温して3時間〜10時間反応させることで製造することができる。このような方法は、例えば特許第3754520号公報に開示がある。
【0041】
本発明にかかるゼオライト膜複合体の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
【0042】
本発明のゼオライト膜複合体は、パーベーパレーション法、及びベーパーパーミエーション法による液体混合物の分離に極めて有効に使用することができる。本発明のゼオライト膜複合体が分離の対象とするオレフィン/パラフィン混合流体の具体例としては、エチレン/メタン、エチレン/エタン、エチレン/プロパン、エチレン/ブタン、プロピレン/メタン、プロピレン/エタン、プロピレン/プロパン、プロピレン/ブタン、ブチレン/メタン、ブチレン/エタン、ブチレン/プロパン、ブチレン/ブタンなどが挙げられる。混合流体としては2成分に限定されず、3成分以上であっても構わない。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(粒度分布の測定)
種結晶の粒度分布の測定を、以下の条件で行った。
・装置名:レーザー回折式粒度分布計測装置LA−500
・測定方式:フランホーファ回折理論とミー散乱理論の併用
・測定範囲:0.1〜200μm
・光源:He−Neレーザー(632.8nm)
・検出器:リング状シリコンフォトダイオード
・分散溶媒:水
種結晶の粒度分布を測定するための分散液は、計測装置の超音波分散バスに水を入れて撹拌機で撹拌しながら、分散液をフローセルに循環させ、分散液を透過した光の強度が装置に表示される適正な光強度の範囲に入るように、超音波分散バス中の水に種結晶を加えることで調製した。このときの分散溶媒である水の量は通常250ml、分散させる種結晶は通常0.01gである。種結晶を入れた後、超音波を10分間かけて分散液中の種結晶の凝集を取き、フロー方式で測定した。得られた累積分布図(体積基準、粒子径の小さいものから積算)で、50%の高さを与える直径(メジアン径)をD50(平均粒径)とした。
【0044】
(水銀圧入法による細孔分布測定)
多孔質支持体の細孔分布は、減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理を施した後、0.53psia(細孔径404μm相当)から60000psia(細孔径0.0036μm相当)までの水銀圧入法圧入曲線を測定することにより求めた。この水銀圧入法圧入曲線から、D50(大きい細孔から積算していった細孔容積の合計が全細孔容積の50%となったときの細孔径)を求め、平均孔径とした。
【0045】
(実施例1)
・種晶付多孔質支持体の調製
種晶として市販のUSYゼオライト粉末(Si/Al=3.5、東ソー社製)を準備し
、ボールミルで湿式粉砕を行った。粉砕後のUSYゼオライト粉末の平均粒径を測定したところ200nmであった。粉砕後のUSYゼオライト粉末を水に加え攪拌後、4,000rpmで10分間、遠心分離を行った。上澄みを回収し、スラリー中の種晶の濃度が1.0g/Lとなるように種晶スラリー1を調製した。次に、多孔質支持体として、直径1cm、長さ3cmの円筒型のα−アルミナ支持体を準備した。支持体の平均孔径は150nmであり、気孔率は37%であった。α−アルミナ支持体を種晶スラリーに3分間浸漬し、種晶付多孔質支持体1を得た。種晶付多孔質支持体1の種晶担持量を測定したところ2.2mgであり、多孔質支持体の表面及び断面をSEMにて観察したところ、種晶は支持体上に主に担持されていた。
【0046】
・ゼオライト膜の形成
ケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム水溶液、及びアルミン酸ナトリウム+水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ混合し、4時間、100℃でエージングすることで、合成アルミノシリケートゲルを得た。ゲルの組成はモル比でNa
2O:Al
2O
3:SiO
2:H
2O=80:1:9:5000であった。得られた合成アルミノシリケートゲルに種晶付多孔質支持体1を浸漬し、100℃で24時間、水熱合成を行い、Naゼオライト膜複合体1を得た。Naゼオライト膜複合体1は、NaX型ゼオライトであった。その後、Naゼオライト膜複合体1を0.01Mの硝酸銀水溶液に減圧下で1時間浸漬し、蒸留水で繰り返し洗浄した後、常温、減圧下で乾燥し、Agゼオライト膜複合体1を得た。得られたAgゼオライト膜複合体1は、AgX型ゼオライトであり、AgX型ゼオライト中のAgの割合は46質量%であった。ゼオライト中のAg量はイオン交換前後の重量変化から算出した。また、ゼオライトの構造はXRD測定におけるピークパターンから決定した。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造したNaゼオライト膜複合体1を、0.003Mの硝酸銀水溶液に減圧下で1時間浸漬して、Agゼオライト膜複合体2を得た。得られたAgゼオライト膜複合体2は、AgX型ゼオライトであり、AgX型ゼオライト中のAgの割合は12質量%であった。
【0048】
(実施例3)
実施例1と同様にして製造したNaゼオライト膜複合体1を、0.006Mの硝酸銀水溶液に減圧下で1時間浸漬して、Agゼオライト膜複合体3を得た。得られたAgゼオライト膜複合体3は、AgX型ゼオライトであり、AgX型ゼオライト中のAgの割合は26質量%であった。
【0049】
(合成例1)
ゼオライト膜形成用の合成アルミノシリケートゲルの組成を、Na
2O:Al
2O
3:SiO
2:H
2O=22:1:25:990とした以外は、実施例1と同様の方法によりNaゼオライト膜複合体2を得て、Naゼオライト膜複合体2をイオン交換することによりAgゼオライト膜複合体4を得た。得られたAgゼオライト膜複合体4は、AgY型ゼオライトであり、AgY型ゼオライト中のAgの割合は32質量%であった。
【0050】
(合成例2)
種晶として市販のZSM−5ゼオライト粉末(東ソー社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりNaゼオライト膜複合体3を得て、Naゼオライト膜複合体3をイオン交換することによりAgゼオライト膜複合体5を得た。得られたAgゼオライト膜複合体5は、AgZSM−5型ゼオライトであった。
【0051】
(実施例4〜21、および比較例1〜8)
実施例1〜3、合成例1および2で得たAgゼオライト膜複合体1〜5およびNaゼオライト膜複合体1を用い、
図1に概略を示す装置を用いてベーパーパーミエーション試験を行った。
図1において、マスフローコントローラー(図示しない)によりオレフィンガスとパラフィンガスの供給量が調整された混合流体を、ヒーターにより加熱され、大気圧に保持した分離セル内に供給した。分離セルは、円筒型のゼオライト膜複合体の外側表面に分離する混合流体を供給し、内側表面から透過ガスを得る構造をとる。供給する混合ガスの総供給量は200ml/minに固定し、オレフィンガスとパラフィンガスの比率は実施例または比較例に応じて変化させた。また、透過側にはキャリアガスとしてヘリウムガスを200mL/minの速度で流した。ゼオライト膜を透過したガスを含む回収ガスを分取し、ガスクロマトグラフにて分析を行ない、ゼオライト膜を透過した透過ガスの透過率(mol・m
−2・s
−1・Pa
−1)および分離係数を算出し、評価した。その結果を表1〜表4に示す。なお、分離係数とは、下記式で示されるように、供給ガス中のオレフィン濃度(モル%、S
O)とパラフィン濃度(モル%、S
P)との比に対する透過ガス中のオレフィン(モル%、P
O)とパラフィン(モル%、P
P)との比の値をいう。
分離係数=(P
O/P
P)/(S
O/S
P)
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にオレフィンの分離方法およびゼオライト膜複合体は、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィンの選択的な分離に有用である。