(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内視鏡は、前記色素有効照明光と前記色素無効照明光を作り出すために、前記観察モード切替手段による観察モードの切り替えに応じて前記照明光の照射スペクトルを変更するスペクトル制御手段をさらに有している、請求項2に記載の内視鏡。
前記内視鏡はさらに、光源と、前記光源から発せられた光のスペクトルを適宜変更するスペクトル変更部を有し、前記スペクトル変更部は、前記光源から発せられた光の光路上に選択的に配置され得る複数の光透過窓と、前記複数の光透過窓の少なくとも一つに設けられた前記光源から発せられた光のスペクトルを変更する光学フィルタを備えており、 前記スペクトル制御手段は、前記光源から発せられた光の光路上に配置される前記光透過窓の位置を制御する、請求項3に記載の内視鏡。
前記色素有効観察モードと前記色素無効観察モードは、被写体に白色光を照射したときの被写体見栄えを実現した通常光画像を観察するモードである、請求項6に記載の内視鏡。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
本実施形態は、「通常光観察」を行うことができる内視鏡である。ここで、内視鏡とは、狭い閉空間内を観察、撮像、診断するため、細長い挿入部の先端に観察機能を有する観察装置をいう。また、通常光観察とは、太陽光や白色を呈する照明を照射したときの被写体見栄えを画像再現する観察をいう。また、通常光観察の画像を作り出すための照明を通常光照明と呼ぶこととする。
【0011】
また、この内視鏡は、色素が散布された被写体に対して、照明光に対して色素の光学特性が有効に作用することにより色素が良く視認される通常光観察画像を取得できる「色素有効観察」と、照明光に対して色素の光学特性が実質的に無効化されることにより色素がほぼ透明液体として振舞うために色素が実質的に視認されない通常光観察画像を取得できる「色素無効観察」の2種類の通常光観察が可能である。
【0012】
本実施形態による内視鏡の概略構成を
図1に示す。この内視鏡は、被写体を照明するための光を出力する光源部12と、光源部12からの光を導光する光ファイバ20と、被写体に照明光を照射するとともに被写体を撮影する機能をもつスコープ挿入部22を備えている。
【0013】
光ファイバ20は、単線ファイバで構成されても、複数のファイバを束ねたバンドルファイバで構成されてもよい。
【0014】
スコープ挿入部22は、その先端部に、光ファイバ20によって導光された光を被写体の照明に適した光に変換する光変換部材24と、被写体の光学像を取得して電気信号に変換して出力する撮像素子26を備えている。
【0015】
光変換部材24は、たとえば、配光を変換する配光変換部材であってよく、レンズや拡散部材で構成されてよい。光変換部材24は、必ずしも必要な要素ではなく、内視鏡に求められる性能によっては、光ファイバ20によって導光された光がそのまま被写体に照射される構成であってもよい。
【0016】
以下の説明では、光源部12から出力される光を光源光、スコープ挿入部22から射出される光を照明光と呼ぶこととする。
【0017】
撮像素子26は、スコープ挿入部22の先端部に設置されることは必ずしも求められない。スコープ挿入部22の先端部には光学部材を設置し、スコープ挿入部22の後方やスコープ挿入部22の外に撮像素子26を設置した構成としても構わない。また、スコープ挿入部22に光学部材を設置し、撮像素子26を設置する代わりに、スコープ挿入部22の後方に接眼レンズを設置することで、使用者が被写体像を光学的に直接観察するシステムでも構わない。
【0018】
内視鏡はまた、撮像素子26から出力された電気信号に基づいて画像を形成する画像形成部32と、画像形成部32によって形成された画像を表示する画像表示部34を備えている。
【0019】
〔光源部〕
従来、高品質で画像再現性の高い観察は、可視光波長領域全域にわたり波長欠落のないブロードな光を照明光として被写体に照射することが不可欠と考えられてきた。ここで、可視光とは、380nm〜780nmの波長を有している光である。
【0020】
しかし近年、レーザ光のような単波長の光を複数組み合わせる照明光でも、十分に照明光としての性能(演色性)を高くすることが可能なことが明らかとなってきている(例:A. Neumann et al., Opt. Exp., 19, S4, A982(July 4, 2011))。
【0021】
本発明者らは、JIS等で定められている照明器品質評価パラメータの一つである平均演色指数Raの計算を、様々な波長や本数のレーザ光に対して行った。その結果、
図2のように、複数本の波長の異なるレーザ光をうまく組み合わせることにより、従来から用いられてきたブロードなスペクトルの一般照明と同等か、それ以上の性能が得られることがわかってきた。
【0022】
このことにより、従来用いていた気体光源やLEDよりもはるかに小さな発光領域から光密度と平行度の高い光を出力するレーザを、演色性が必要な通常光観察用光源として用いることができると期待されるようになってきた。特に、内視鏡のような閉空間内を観察する用途の観察装置においては、レーザ光は、光ファイバなどの細径導光部材に非常に高効率に導入しやすいため、低消費電力で高輝度高演色照明を細径にて実現できるという独自の利点が得られる。
【0023】
光源部12は、このような背景に基づいて構成された光源であり、互いに異なる複数の波長の光をそれぞれ発する複数のレーザ14A,14B,14C,14D,14E,14Fと、レーザ14A〜14Fにそれぞれ光結合された複数本の光ファイバ16と、複数本の光ファイバ16によって導光された光を混合するコンバイナ18を備えている。
【0024】
レーザ14A〜14Fは、それぞれ、その中心波長が互いに異なる光たとえば可視光を発することができる。たとえば、レーザ14Aは、440nmの波長の光を発することができ、レーザ14Bは、470nmの波長の光を発することができ、レーザ14Cは、530nmの波長の光を発することができ、レーザ14Dは、590nmの波長の光を発することができ、レーザ14Eは、640nmの波長の光を発することができ、レーザ14Fは680nmの波長の光を発することができる。
【0025】
〔色素〕
この内視鏡は、「色素観察法」に用いられることが想定されている。したがって、被写体としては、所定の色素が散布された被写体が想定されている。ここで、所定の色素とは、内視鏡を用いた観察において使用されることを想定している色素であり、医療用内視鏡においては、通常光観察では得られにくい被写体情報を強調して観察する用途に使用される色素のことである。この色素には蛍光色素も含まれる。蛍光色素とは、ある特定の波長を吸収し、その波長とは異なる波長の光を発する色素のことである。また色素は、可視光波長領域内に光吸収波長領域と光透過波長領域のある材料である。また、散布とは、色素を含む液体を被写体に吹きつけることのほかに、被写体に流し込む、被写体内に局注することも含むこととする。
【0026】
被写体に散布される主な色素としては、インジゴカルミン、トルイジンブルー、クリスタルバイオレット(ピオクタニン)が知られている。
【0027】
インジゴカルミンは、現在最も使用される頻度の高いコントラスト法の代表的な色素であり、胃・小腸・大腸の病変に対して、通常検査から精密検査まで幅広く使用されている。人体に対して比較的無害で安全性も高いため、どのような患者に対しても安心して使用できる。生体と何らかの反応を示すのではなく、液が内壁凹部に溜まることにより、細かい凹凸を強調して観察することを可能にする。
【0028】
トルイジンブルーは、主に食道の病変に使用される色素であり、食道上皮に欠損が生じた場合、そこに付着した壊死物質を青色に染色することにより、欠損部を強調して観察することを可能にする。
【0029】
クリスタルバイオレット(ピオクタニン)は、細胞核を染色する色素であり、主に大腸の拡大内視鏡の際に使用される。病変を構成する細胞核を青色に染色することにより、病変部を強調して観察することを可能にする。この模様のパターンを拡大内視鏡で観察することで病変の性状(良性か悪性かなど)を判断する診断学が確立されている。
【0030】
〔観察モード切替手段〕
内視鏡はまた、複数の観察モードを切り替える観察モード切替手段42を備えている。ここで、複数の観察モードは、被写体に散布された色素が良く視認される通常光画像を取得できる色素有効観察モードと、被写体に散布された色素が実質的に視認されない通常光画像を取得できる色素無効観察モードを含んでいる。色素有効観察モードと色素無効観察モードはいずれも、被写体に白色光を照射したときの被写体見栄えを実現した像を観察するモードである。観察モード切替手段42は、使用者による観察モードの選択のためのインターフェースも兼ね備えている。
【0031】
観察モード切替手段42による観察モードの切り替えに応じて、光源部12は、複数種類の光源光を選択的に出力可能であり、これに伴い、スコープ挿入部22は、複数種類の照明光を選択的に射出可能である。つまり、スコープ挿入部22から被写体に照射される照明光は、観察モード切替手段42によって、その種類が切り替え可能である。
【0032】
複数種類の照明光は、色素有効観察モードが選択されたときに射出される色素有効照明光と、色素無効観察モードが選択されたときに射出される色素無効照明光を含んでいる。
【0033】
内視鏡はまた、色素有効照明光と色素無効照明光を作り出すために、観察モード切替手段42による観察モードの切り替えに応じて照明光の照射スペクトルを変更するスペクトル制御手段44を備えている。スペクトル制御手段44は、各レーザ14A〜14Fの点灯消灯とその出力を独立して制御することが可能である。
【0034】
内視鏡はまた、観察モード毎に適した画像形成方法の情報を画像形成部32に供給する観察モード毎画像形成方法記憶手段46を備えている。画像形成部32は、観察モード切替手段42によって選択された観察モードの情報を観察モード切替手段42から取得し、それに対応する画像形成方法を観察モード毎画像形成方法記憶手段46から取得して、選択された観察モードに適した画像を形成する。
【0035】
内視鏡はまた、複数種類の照明光を作り出すための制御条件情報をスペクトル制御手段44に供給する制御条件記憶手段48を有している。スペクトル制御手段44は、制御条件記憶手段48から供給される制御条件情報に基づいて、各レーザ14A〜14Fを制御する。制御条件情報は、たとえば、色素有効照明光と色素無効照明光を作り出すために点灯消灯するレーザ14A〜14Fの組み合わせを示す情報であってよく、好ましくは、さらに、観察モードの切替時に使用者が受ける違和感をなくすため、色素有効観察モードと色素無効観察モードにおいて得られる画像の明るさがほぼ同じになるようなレーザ14A〜14Fの出力を示す情報を有していてよい。
【0036】
〔色素有効照明光と色素無効照明光〕
色素有効照明光は、被写体に散布された色素の主な吸収波長領域を外れた波長の光と、被写体に散布された色素の主な吸収波長領域内の波長の光を有している。
【0037】
色素無効照明光は、被写体に散布された色素の主な吸収波長領域を外れた波長の光を有しているが、被写体に散布された色素の主な吸収波長領域内の波長の光を有していない。
【0038】
ここで、「主な吸収波長領域」とは、その色素の吸収スペクトルにおいて、可視光のうち最も吸収率の高い波長における吸収率に対し、その1/2よりも高い吸収率を示す波長領域範囲とする。吸収ピーク波長の吸収率よりも1/2以下の吸収率で吸収される波長の光であれば、十分な光量を照射することによって色素の透明度を確保できる。
【0039】
主な吸収波長領域は、より望ましくは、吸収ピーク波長の吸収率の1/10よりも高い吸収率を示す波長領域範囲であるとよい。吸収ピーク波長の吸収率よりも1/10以下の吸収率で吸収される波長の光であれば、光量によらず、色素の透明度を十分に確保できる。
【0040】
「光を有している」とは、その光の強度が、照明光に含まれるさまざまな波長の光のうち、最も強度の強い光に対して、1/2以上であることとする。
【0041】
「光を有していない」とは、その光の強度が、照明光に含まれるさまざまな波長の光のうち、最も強度の強い光に対して、1/10以下であることとする。
【0042】
被写体に散布された色素の主な吸収波長領域内の波長を有し、かつ、照明光に含まれる最も強度の強い光に対して1/2以上の強度をもつ光であれば、その有無は、色素の光学的機能に大きく影響を与える。つまり、このような光が照明光に含まれていれば、色素の光学特性が有効に作用し、得られる画像は、色素が良く視認されるものとなる。反対に、このような光が照明光に含まれていなければ、色素の光学特性は実質的に無効化され、このような照明光に対しては、色素はほぼ透明液体として振舞い、得られる画像は、色素が実質的に視認されないものとなる。
【0043】
被写体に散布された色素の主な吸収波長領域内の波長を有し、かつ、照明光に含まれる最も強度の強い光に対して1/10以下の強度をもつ光であれば、その有無は、色素の光学的機能にほとんど影響を与えない。つまり、このような光が照明光に含まれていたとしても、その光は、ほとんど撮像素子26まで伝わらず問題にならない。
【0044】
色素無効照明光は、被写体に散布された色素の主な吸収波長領域に対して、短波長側の波長の光と長波長側の波長の光の両方を有していることが好ましい。例えば、赤色を主に吸収する色素に対する色素無効照明光の場合、赤色領域のスペクトル成分を全て除去しただけにとどまると、被写体の赤色成分情報が欠落してしまう。青色を主に吸収する色素に関しても同様である。色素吸収領域付近の被写体情報が大きく欠落することを避けるために、色素無効照明光が色素吸収波長領域の両側の波長の光を有するようにし、紫色領域または700nm前後の深い赤色領域の光を、色素吸収波長領域の光の代替光として用いて、青色領域または赤色領域の情報を得ることが好ましい。
【0045】
〔代表的な色素と色素有効照明光と色素無効照明光〕
インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)の吸収スペクトルを
図3に示す。インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)は、色素観察法において頻繁に使用される代表的な色素である。
図3から分かるように、540nm未満の波長の光と670nm以上の波長の光は、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)のいずれに対しても、吸収率が1/2以下である。被写体に散布される色素は、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)のいずれかであってよい。この場合、色素有効照明光は、540nm未満の波長の可視光と540nm以上670nm未満の波長の光を有しているとよい。また、色素無効照明光は、540nm未満の波長の可視光を有しており、540nm以上670nm未満の波長の光を有しておらず、その代わりに670nm以上の波長の可視光を有しているとよい。このような色素有効照明光と色素無効照明光であれば、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)のいずれが散布された被写体に対する色素観察法においても有効である。
【0046】
インジゴカルミンの吸収スペクトルを
図4に示す。
図4から分かるように、555nm未満の波長の光と650nm以上の波長の光は、インジゴカルミンに対する吸収率が1/2以下である。被写体に散布される色素は、インジゴカルミンであってよい。この場合、色素有効照明光は、555nm未満の波長の可視光と555nm以上650nm未満の波長の光を有しているとよい。また、色素無効照明光は、555nm未満の波長の可視光を有しており、555nm以上650nm未満の波長の光を有しておらず、その代わりに650nm以上の波長の可視光を有しているとよい。このような色素有効照明光と色素無効照明光は、インジゴカルミンが散布された被写体に対する色素観察法に有効である。
【0047】
〔狭帯域光〕
色素有効照明光と色素無効照明光は、複数の狭帯域光を組み合わせた光により構成されていることが望ましい。狭帯域光とは、一つの光源から射出される光の発光スペクトルの半値全幅(FWHM)が50nmを下回る光である。また、色素無効照明光は、色素の主な吸収領域の長波長側と短波長側の両方にそれぞれ一つ以上の可視光の狭帯域光を有しているとよい。さらに、色素の主な吸収領域に最も近い長波長側と短波長側の狭帯域光の波長は、それぞれ、色素の主な吸収領域のなるべく近いとよい。これにより、色素の本来の光学的機能を低減させつつ、色素吸収領域付近の被写体情報を取得することが可能となり、色素無効観察の際の被写体見栄えの違和感を低減することができる。通常光観察を例にとると、一般的にカラー撮像する場合、400nm台を青色領域、500nm台を緑色領域など、100nm毎に、時に少しずつオーバーラップさせながら3種類(3色)の被写体情報を取得することで忠実な色再現を実現している。3色のうちどの色が欠落してしまっても忠実な色再現ができなくなるため、必ず3色それぞれの波長領域に、照明光を構成している光の波長が存在することが望ましい。1色100nmとすると、色素の吸収波長を避けて忠実な色再現を得ようとするとその半分の50nmよりも狭い半値全幅(FWHM)の狭帯域光であることが望ましいことになる。これにより、色素の吸収波長領域に近接した波長の狭帯域光を照明光に含めることができ、色素吸収波長領域付近の被写体情報を、色素を透過して忠実に取得することが可能となる。光源としては、最も半値全幅(FWHM)が狭いレーザが望ましく、レーザであれば、色素吸収波長に近接した波長の狭帯域光を容易に照明光に含ませることできる。また半値全幅(FWHM)が50nm以下の狭帯域光を発生するLED、OLED、または何らかの光源により励起される一部の蛍光体も望ましい光源の一つである。
【0048】
〔動作〕
光源部12内の一つ以上のレーザ14A〜14Fから発せられたレーザ光(狭帯域光)は、光ファイバ16によって導光され、コンバイナ18によって混合されて光源光となる。光源光は、光ファイバ20によってスコープ挿入部22の先端部の光変換部材24まで導光され、光変換部材24によって照明に適した照明光に変えられる。照明光は、スコープ挿入部22の先端から前方に射出される。
【0049】
スコープ挿入部22の先端部に設けられた撮像素子26は、照明光によって照らされた被写体の光学像を取得し、これを電気信号に変換して画像形成部32に供給する。画像形成部32は、供給される電気信号を、表示に適した信号に変換し、画像表示部34に送信する。画像表示部34は、受信した信号に従って画像を表示する。
【0050】
使用者により色素有効観察モードが選択された場合、観察モード切替手段42において色素有効観察モードが選択され、その情報がスペクトル制御手段44に伝えられる。スペクトル制御手段44は、それを受けて、制御条件記憶手段48から、色素有効観察光を作り出すために点灯消灯するレーザ14A〜14Fの組み合わせの情報と、点灯するレーザ14A〜14Fの出力の情報を取得して、その制御条件情報に従ってレーザ14A〜14Fの点灯消灯とその出力を制御する。
【0051】
たとえば、色素有効照明光を作り出すため、発光波長440nmのレーザ14Aと、発光波長470nmのレーザ14B、発光波長530nmのレーザ14C、発光波長580nmのレーザ14D、発光波長640nmのレーザ14Eが点灯される。
【0052】
これらの発光波長の光を混合した光は、通常照明光として機能する。その結果、被写体に対して性能の良い照明光が照射され、忠実な被写体反射像があらわれ、その像が撮像素子26により受像される。
【0053】
画像形成部32は、撮像素子26から受信した電気信号を、色素有効観察モードに適した画像形成方法に従って信号処理して画像形成を行う。そのため、画像形成部32は、観察モード切替手段42から色素有効観察モードが選択されているという情報をあらかじめ取得し、色素有効観察モードに適した画像形成方法を観察モード毎画像形成方法記憶手段46から参照して画像形成を実行する。
【0054】
一方、使用者により色素無効観察モードが選択された場合、上記と同様なプロセスを経て、スペクトル制御手段44によって、色素無効照明光を作り出すための制御条件情報に従ってレーザ14A〜14Fの点灯消灯とその出力が制御される。
【0055】
たとえば、色素無効照明光を作り出すため、発光波長440nmのレーザ14Aと、発光波長470nmのレーザ14Bと、発光波長530nmのレーザ14Cと、発光波長680nmのレーザ14Fが点灯される。
【0056】
これらの発光波長の光を混合した照明光も、上記色素有効照明光と同様、通常照明光として機能する。
【0057】
画像形成部32は、撮像素子26から受信した電気信号を、色素無効観察モードに適した画像形成方法に従って信号処理して画像形成を行う。
【0058】
この色素有効照明光に含まれる狭帯域光の各スペクトルを、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)の吸収スペクトルに重畳して
図5に示す。また、この色素無効照明光に含まれる狭帯域光の各スペクトルを、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)の吸収スペクトルに重畳して
図6に示す。
【0059】
例えばインジゴカルミン水溶液が散布された被写体に、この色素有効照明光を照射すると、波長590nmの光と波長640nmの光は、インジゴカルミン色素に強く吸収され、波長440nmの光と波長470nmの光と波長530nmの光は、インジゴカルミン色素によって主に反射される。このため、インジゴカルミンのたまる凹部のみ青色を呈することとなり、良好な色素有効観察が可能となる。
【0060】
一方、インジゴカルミン水溶液が散布された被写体に、この色素無効照明光を照射すると、色素無効照明光はインジゴカルミン色素の吸収波長領域内の波長の光を含んでいないため、また、インジゴカルミンは吸収波長領域において光散乱特性や反射特性は有していないため、色素の存在は実質的に撮像されない。そのため、色素無効照明光下においては、インジゴカルミンは「透明液体」と同等の振る舞いとなり、その下にある被写体の生体色が忠実に撮像される。
【0061】
図7は、生体の主成分である血液、メラニンのスペクトルを、レーザ14A〜14Fの発光波長に重畳して示している。この
図7から、生体内を撮像する用途に限定すると、640nm付近と680nm付近では、ヘモグロビンとメラニンの吸収はいずれも同程度の強さであるため、これらの波長の光を代替的に使用することに対して、得られる生体画像にほとんど影響がないことが分かる。
【0062】
さらに、撮像素子26から出力される電気信号は、画像形成部32において、観察モードに適した画像形成方法に従って信号処理される。たとえば、色素無効観察モードにおいて撮像素子26から出力される電気信号は、色素無効照明光に含まれない波長580nmの光と波長640nmの光に対応する色情報を、波長530nmの光と波長680nmの光に基づいて補うようにして信号処理される。それにより、色素有効観察モードと色素無効観察モードのいずれにおいても、被写体に白色光を照射したときの被写体見栄えを実現した像が得られる。
【0063】
この内視鏡を利用して、色素有効観察モードと色素無効観察モードを切り替えることにより、
図8に示すような2種類の観察画像が得られる。
【0064】
〔変形例〕
通常光観察としての照明光は「白色光」に限らない。白色光を照明した時の見栄えを実現するための照明光は白色光である必要はなく、特に内視鏡など外光のほとんど入らない環境下での観察装置では、白色でない照明光下で撮像し、その情報を白色光照明した時の見栄えに再現処理することは比較的容易である。
【0065】
色素有効観察と色素無効観察の切り替えを適用する観察は通常光観察に限らない。特定の波長光を単色もしくは複数色照射することで被写体の一部の血管や細胞、蛍光物質など特定の物質、成分、形状などを強調して表示する種類の観察において、色素有効観察と色素無効観察を切り替えてもよい。
【0066】
光源部12に適用される光源は、レーザやLEDのような固体光源に限らない。キセノンやハロゲンのような気体光源が用いられてもよい。これらの光源は、一般的に、可視光全域にわたる発光スペクトルを有している。この場合、色素の吸収波長領域内の波長の光を含まない色素無効照明光に対応する発光スペクトルとするためには、色素の吸収波長領域内の光をカットするカットフィルタを、上記光源の前方に設置すればよい。
【0067】
そのような構成による内視鏡の概略構成を
図9に示す。
図9において、
図1に示した部材と同一の参照符号を付した部材は同様の部材であり、その詳しい説明は省略する。また
図10は、
図9に示されたターレットの平面図である。
【0068】
この内視鏡では、光源部52は、可視光全域にわたる発光スペクトルを有している光源54と、光源54から発せられた光をほぼ平行光に変えるレンズ56と、平行光を収束光に変換して光ファイバ20に結合させるレンズ58と、レンズ56とレンズ58の間に配置されたターレット62を有している。ターレット62は、モータ70によって、回転軸68のまわりに回転可能に支持されている。またターレット62は、レンズ56とレンズ58の光路上に選択的に配置され得る複数たとえば二つの光透過窓64を有している。二つの光透過窓64には、それぞれ、色素有効照明光を作り出すのに適した光学フィルタ66Aと、色素無効照明光を作り出すのに適した光学フィルタ66Bが設けられている。
【0069】
光学フィルタ66Aは、可視光全域にわたって透明であってよく、たとえば、単なる透明板や開口で構成されてよい。光学フィルタ66Bは、たとえば、540nm以上670nm未満の波長の光を遮断するバンドカットフィルタまたはカラーフィルタで構成されてよい。
【0070】
スペクトル制御手段44は、観察モード切替手段42によって選択された観察モードに応じて、すなわち色素有効観察モードと色素無効観察モードのどちらが選択されているかに応じて、モータ70を制御して、観察モードに適した光学フィルタ66A,66Bをレンズ56とレンズ58の光路上に選択的に配置させる。
【0071】
この色素有効照明光のスペクトルを、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)の吸収スペクトルに重畳して
図11に示す。また、この色素無効照明光のスペクトルを、インジゴカルミンとトルイジンブルーとクリスタルバイオレット(ピオクタニン)の吸収スペクトルに重畳して
図12に示す。
【0072】
〔効果〕
色素有効照明光で観察することで生体内の色再現性が高い。
【0073】
色素散布後に色素有効照明光で観察を行うことで色素を正確に捉えることができ、良好な色素観察を行うことができる。
【0074】
色素散布後に、色素無効照明光に切り替えて観察を行うことで色素に影響されない生体本来の表面構造を撮像することができる。
【0075】
制御条件記憶手段48を有しているため、観察モード切替手段42により切替られた観察モードに合致し、かつ観察モード切替時に明るさや色に違和感のない照明切替が実現できる。
【0076】
狭帯域光を組み合わせて照明光が構成されているため、色素の吸収波長領域にかなり接近した波長の光を照明光に含めることができ、観察像に違和感のない通常光観察で色素無効化することができる。
【0077】
色素無効照明光は、色素の主な吸収領域の短波長側と長波長側の両方に狭帯域光を有しているため、可視光のほぼ全域にわたって色情報を取得することができる。
【0078】
[第2の実施形態]
本実施形態は、色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像を同時視認できる「同時観察モード」を有する内視鏡である。
【0079】
内視鏡の装置構成は、
図1に示されたものと同様である。
【0080】
使用者により同時観察モードが選択されると、観察モード切替手段42は、観察モードを、色素有効観察モードと色素無効観察モードを交互に切り替える。切り替えの周期は、撮像素子26の撮像周期に合わせて設定される。例えば、撮像素子26による撮像の1フレームに合わせられる。撮像素子26が30Hzの周期で撮像する場合、色素有効照明光と色素無効照明光を作り出すために点灯するレーザ14A〜14Fの組み合わせが30Hzの周期で切り替えられる。
【0081】
画像形成部32は、撮像素子26から供給される受信信号に対して、色素有効観察モードに適した画像形成方法と色素無効観察モードに適した画像形成方法を30Hzの周期で切り替えて適用して画像形成を行う。すなわち、画像形成部32は、30Hzの周期で、色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像を交互に形成し、それらの画像情報を画像表示部34に送る。画像表示部34は、受け取った画像情報にしたがって、色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像を同時にたとえば並べて表示する。
【0082】
画像表示部34によって同時に表示される色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像の一例を
図13に示す。
【0083】
色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像は必ずしも並べて表示する必要はない。より使用者にとってわかりやすいように、画像重畳や重ね合わせ等の画像処理を行って表示することも可能である。
【0084】
〔効果〕
2種類の照明光を交互に切り替えることで色素有効観察モードと色素無効観察モードを実質的に同時に提供することができるため、色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像が同時に得られる。
【0085】
光源としてレーザ光を用いているため、瞬時に光源切替が可能であり、遅延や明るさ不安定性などの表示不具合無く、色素有効観察モード画像と色素無効観察モード画像を良好に同時表示できる。
【0086】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。ここにいう様々な変形や変更は、上述した実施形態を適当に組み合わせた実施も含む。