特許第6389721号(P6389721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389721
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】撮像装置および撮像方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20180903BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   G02B21/36
   G01N21/17 Z
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-199858(P2014-199858)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-71117(P2016-71117A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】末木 博
【審査官】 殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−159794(JP,A)
【文献】 特開2012−013888(JP,A)
【文献】 特開2011−221297(JP,A)
【文献】 特開2009−122356(JP,A)
【文献】 特開2012−147739(JP,A)
【文献】 特開2015−118036(JP,A)
【文献】 特開2013−228361(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0355446(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 − 21/36
G01N 21/00 − 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器に設けられた底面が平坦な窪部に液体が注入されてなる試料を撮像する撮像装置において、
前記窪部の前記底面が水平となるように前記試料容器を保持する保持手段と、
前記試料容器の上方から前記窪部に照明光を入射させる照明手段と、
前記窪部の前記底面から透過する光を受光して前記試料を撮像する撮像手段と、
前記保持手段に保持される前記試料容器と前記撮像手段との間に設けられ、前記窪部の前記底面から出射される光を前記撮像手段に入射させる観察光学系と、
前記撮像手段および前記観察光学系を一体的に、前記試料容器に対し前記窪部の前記底面と平行な方向に相対移動させて、前記窪部に対する前記撮像手段の位置決めを行う位置決め手段と
を備え、
前記観察光学系は、前記保持手段と前記撮像手段との間の光路上に設けられた対物レンズと、前記対物レンズと前記撮像手段との間の光路上に設けられた開口絞りと、前記開口絞りを前記対物レンズの光軸方向に移動させる絞り位置変更部とを有し、
前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置に応じて、前記絞り位置変更部が前記開口絞りの位置を変化させる撮像装置。
【請求項2】
前記開口絞りの可動範囲が、前記対物レンズの焦点位置と、前記焦点位置よりも前記撮像手段側の位置とを含む請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置を互いに異ならせて前記撮像手段により撮像された複数の画像を合成する画像処理手段を備える請求項1または2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置と、前記開口絞りの位置とを予め関連付けた情報に基づき、前記絞り位置変更部が前記開口絞りの位置を変化させる請求項1ないし3のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項5】
前記観察光学系は、前記開口絞りと前記撮像手段との間の光路上に、前記開口絞りを通過した光を前記撮像手段に収束させる結像レンズを備える請求項1ないし4のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項6】
前記照明手段は、前記窪部に拡散光を入射させる請求項1ないし5のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項7】
前記照明手段は、光源と、該光源から前記窪部に入射する光の拡散度を低減させる低減部とを備える請求項1ないし5のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項8】
底面が平坦な窪部に液体が注入されてなる試料を担持する試料容器を、前記窪部の前記底面が水平となるように保持する工程と、
前記試料を撮像する撮像手段と、前記窪部の前記底面から透過する光を前記撮像手段に入射させる観察光学系とを一体的に、前記試料容器に対し前記窪部の前記底面と平行な方向に相対移動させて、前記窪部に対する前記撮像手段の位置決めを行う工程と、
前記試料容器の上方から前記窪部に照明光を入射させる工程と、
前記窪部の前記底面から透過する光を前記観察光学系により前記撮像手段に入射させて前記試料を撮像する工程と
を備え、
前記観察光学系は、前記試料容器と前記撮像手段との間の光路上に設けられた対物レンズと、前記対物レンズと前記撮像手段との間の光路上に設けられた開口絞りと、前記開口絞りを前記対物レンズの光軸方向に移動させる絞り位置変更部とを有し、
前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置に応じて、前記絞り位置変更部により前記開口絞りの位置を変化させる撮像方法。
【請求項9】
前記試料容器に対し前記撮像手段を互いに異なる位置に複数回位置決めし、その都度撮像を行う請求項8に記載の撮像方法。
【請求項10】
1回の撮像では、前記試料のうち一部領域を前記撮像手段の撮像視野に収めて撮像を行う請求項9に記載の撮像方法。
【請求項11】
互いに異なる2回の撮像において、前記撮像手段の撮像視野を前記試料上で部分的に重複させる請求項10に記載の撮像方法。
【請求項12】
複数回の撮像による複数の画像を画像処理により合成する工程を備える請求項9ないし11のいずれかに記載の撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料容器に液体が注入されてなる試料を撮像する撮像装置および撮像方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療や生物科学の実験においては、例えば、ウェルと称される窪部を多数配列して設けたプレート状の試料容器(例えばマイクロプレート、マイクロタイタープレート等と呼ばれる)の各ウェルや、シャーレ、ディッシュ等と称される浅皿型の容器に液体やゲル状の流動体(例えば培養液、培地等)を注入し、ここで細胞等を培養したものを試料として観察、計測することが行われる。近年では、CCDカメラ等で撮像してデータ化し、該画像データに種々の画像処理技術を適用して観察や分析に供することが行われるようになってきている。
【0003】
このような撮像装置において、例えば試料の上方から照明光を入射させ、容器底面から透過してくる光を受光して撮像を行う場合、注入された液体表面のメニスカス作用により照明光が屈折することで、画像の明るさが位置により異なるという問題が知られている。より具体的には、容器壁面に近い試料の周縁部において画像が暗くなる。この問題に対応する技術として、例えば特許文献1には、照明光学系に設けた絞りによって、試料に対し照明光が斜め方向から入射するようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−147739号公報(例えば、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料容器の大きさは様々であり、撮像装置の撮像視野内に試料が収まりきらない場合もある。このような場合、撮像位置を変えて複数回撮像を行うことで試料全体の撮像を行うことが可能である。しかしながら、メニスカスの影響の現れ方は試料の位置によって異なっており、しかも、特に試料の周縁部においては1つの撮像視野内においてメニスカスの影響が非対称である。上記従来技術では、光学系の光軸が容器の中心と一致していることが前提となっており、このような場合には対応することができなかった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、撮像視野よりも大きな試料を撮像する場合でも、メニスカスの影響による明るさのムラを抑えた画像を得ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる撮像装置は、試料容器に設けられた底面が平坦な窪部に液体が注入されてなる試料を撮像する撮像装置であって、上記目的を達成するため、前記窪部の前記底面が水平となるように前記試料容器を保持する保持手段と、前記試料容器の上方から前記窪部に照明光を入射させる照明手段と、前記窪部の前記底面から透過する光を受光して前記試料を撮像する撮像手段と、前記保持手段に保持される前記試料容器と前記撮像手段との間に設けられ、前記窪部の前記底面から出射される光を前記撮像手段に入射させる観察光学系と、前記撮像手段および前記観察光学系を一体的に、前記試料容器に対し前記窪部の前記底面と平行な方向に相対移動させて、前記窪部に対する前記撮像手段の位置決めを行う位置決め手段とを備え、前記観察光学系は、前記保持手段と前記撮像手段との間の光路上に設けられた対物レンズと、前記対物レンズと前記撮像手段との間の光路上に設けられた開口絞りと、前記開口絞りを前記対物レンズの光軸方向に移動させる絞り位置変更部とを有し、前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置に応じて、前記絞り位置変更部が前記開口絞りの位置を変化させる。
【0008】
また、この発明にかかる撮像方法は、上記目的を達成するため、底面が平坦な窪部に液体が注入されてなる試料を担持する試料容器を、前記窪部の前記底面が水平となるように保持する工程と、前記試料を撮像する撮像手段と、前記窪部の前記底面から透過する光を前記撮像手段に入射させる観察光学系とを一体的に、前記試料容器に対し前記窪部の前記底面と平行な方向に相対移動させて、前記窪部に対する前記撮像手段の位置決めを行う工程と、前記試料容器の上方から前記窪部に照明光を入射させる工程と、前記窪部の前記底面から透過する光を前記観察光学系により前記撮像手段に入射させて前記試料を撮像する工程とを備え、前記観察光学系は、前記試料容器と前記撮像手段との間の光路上に設けられた対物レンズと、前記対物レンズと前記撮像手段との間の光路上に設けられた開口絞りと、前記開口絞りを前記対物レンズの光軸方向に移動させる絞り位置変更部とを有し、前記撮像手段および前記観察光学系と前記試料容器との相対位置に応じて、前記絞り位置変更部により前記開口絞りの位置を変化させる。
【0009】
詳しくは後述するが、観察光学系の開口絞りを対物レンズの焦点位置よりも撮像手段側に配置することで、液面のメニスカス効果により進路が曲げられた光を集光して撮像手段に入射させることが可能である。というのは、開口絞りを対物レンズから遠ざけることで、特に光軸に対する傾きが大きい方向からの光を取り込んで撮像手段での受光量を増加させることができるからである。このことを利用して、試料周縁部でのメニスカスの影響による光量の低下を補うことができる。
【0010】
上記のように構成された発明では、撮像手段および観察光学系を一体的に、試料容器に対し移動位置決めすることにより、試料の異なる位置を撮像することが可能である。この場合、撮像位置によりメニスカスの影響の現れ方は異なるが、開口絞りの位置を調整することで影響を低減させることができる。すなわち、メニスカスの影響で暗くなる試料の周縁部については、開口絞りの位置調整により入射光量を増加させることで、より明るい画像とすることが可能である。
【0011】
このように、撮像位置を変更するための構成と、観察光学系において開口絞りの位置を変更するための構成とを組み合わせて、試料の各位置においてメニスカスの影響による光量低下を抑えることができ、そのため、本発明によれば、明るさのムラの少ない画像を撮像することができる。
【0012】
本発明においては、例えば、前記開口絞りの可動範囲が、前記対物レンズの焦点位置と、前記焦点位置よりも前記撮像手段側の位置とを含むように構成されてもよい。撮像視野内でメニスカスの影響が現れていなければ、開口絞りを対物レンズの焦点位置に配置するのが好ましい。メニスカスの影響がある場合には、焦点位置よりも撮像手段側に開口絞りを配置することが好ましい。対物レンズの焦点位置およびこれよりも撮像手段側の位置が開口絞りの可動範囲にあれば、いずれの状況にも対応することが可能である。
【0013】
また例えば、試料容器に対し撮像手段を互いに異なる位置に位置決めすることで撮像位置を変化させて、複数回撮像を行うようにしてもよい。こうすることで、撮像視野よりも広い試料であってもその各部を画像に含ませることができる。例えば1回の撮像で、試料のうち一部領域を撮像手段の撮像視野に収めて撮像を行い、これを位置を変えて複数回行うことで、試料の各部を遺漏なく撮像することができる。
【0014】
この場合、例えば、互いに異なる2回の撮像において、撮像手段の撮像視野を試料上で部分的に重複させることがより好ましい。この発明の原理はメニスカス効果による光量低下を絞り位置調整による光量増加で補うというものであるが、このような光量変動を補償する作用は常に撮像視野の全体において同様に得られるというわけではない。すなわち、絞り位置調整による光量増加の現れ方は観察光学系のサイズに依存する。そのため、試料のサイズとの兼ね合いで、1枚の画像のうちのある領域では光量変動が相殺されていても、別の領域では効果が現れなかったり、過補償となっていたりすることがあり得る。試料の同一領域を複数の画像に含ませて撮像を行えば、当該領域に対する絞り位置調整の効果が画像ごとに異なるため、例えば当該領域について最も好ましい効果の現れた画像を採用するといった対応が可能となる。
【0015】
また例えば、各撮像位置で撮像された複数の画像を合成するための構成を備えてもよい。こうすることで、各部を個別に撮像した複数の画像から試料全体に対応する画像を作成することができる。
【0016】
また例えば、撮像手段および観察光学系と試料容器との相対位置と、開口絞りの位置とを予め関連付けた情報に基づき、開口絞りの位置を変化させる構成であってもよい。容器の形状からメニスカスの現れ方はある程度予測可能である。その予測に基づいて撮像位置と開口絞りの位置とを予め関連付けておけば、撮像手段および観察光学系を位置決めする際に、これに応じて直ちに開口絞りを適切な位置に配置することができる。
【0017】
また例えば、観察光学系は、開口絞りと撮像手段との間の光路上に、開口絞りを通過した光を撮像手段に収束させる結像レンズを備える構成であってもよい。このような構成によれば、撮像手段に結像する光の入射方向を調整することで画像品質を向上させることができる。
【0018】
また例えば、照明手段は、窪部面に拡散光を入射させる構成であってもよい。本願発明者らの知見では、特に撮像される試料が立体的な構造の細胞を含む場合、このように照明光として拡散光を用いた場合に良好な撮像結果が得られる。
【0019】
あるいは例えば、照明手段は、光源と、該光源から窪部に入射する光の拡散度を低減させる低減部とを備える構成であってもよい。特に、撮像される試料が例えば細胞が窪部の底面に沿って平面的に分布している場合には、拡散度の抑制された照明光を用いることで良好な撮像結果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、撮像手段と試料容器との相対位置を変更するための構成と、観察光学系において開口絞りの位置を変更するための構成とを組み合わせることで、試料の各位置においてメニスカスの影響による光量低下を抑え、明るさのムラの少ない画像を撮像することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明にかかる撮像装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2】ディッシュを透過する光を模式的に示す図である。
図3】開口絞りの位置を可変とした場合の効果を示す図である。
図4】撮像位置と有効領域との関係を示す図である。
図5】原画像の撮像原理を説明する図である。
図6】この実施形態における画像作成処理を示すフローチャートである。
図7】照明部の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明にかかる撮像装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この撮像装置1は、試料容器であるディッシュDの上面に形成された窪部に液体が注入されてなる試料を撮像する装置である。以下、各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面、Z軸が鉛直軸を表す。より詳しくは、(+Z)方向が鉛直上向き方向を表している。
【0023】
ディッシュDは、底面が平坦かつ透明で上向きに開口する、平面視が略円形で浅皿型の容器であり、その直径は例えば数十ミリメートル程度である。ディッシュD内には培地Mとしての液体が所定量注入され、この液体中において所定の培養条件で培養された細胞Cあるいは細菌等が培養されて、この撮像装置1の撮像対象となる試料が予め作製されている。培地Mは適宜の試薬が添加されたものでもよく、また液状でディッシュDに注入された後ゲル化するものであってもよい。
【0024】
撮像装置1は、試料を担持するディッシュDの下面周縁部に当接してディッシュDを略水平姿勢に保持するホルダ11と、ホルダ11の上方に配置される照明部12と、ホルダ11の下方に配置される撮像部13と、これら各部の動作を制御するCPU141を有する制御部14とを備えている。
【0025】
照明部12は、ホルダ11により保持されたディッシュDに向けて適宜の拡散光(例えば白色光)を出射する。より具体的には、例えば光源としての白色LED(Light Emitting Diode)光源121と拡散板122とを組み合わせたものを、照明部12として用いることができる。照明部12により、ディッシュDに担持された試料が上方から照明される。
【0026】
ホルダ11により保持されたディッシュDの下方に、撮像部13が設けられる。撮像部13では、ディッシュDの直下位置に対物レンズ131が配置されている。対物レンズ131の光軸は鉛直方向(Z方向)に向けられており、対物レンズ131の光軸OAに沿って上から下に向かって順に、開口絞り132、結像レンズ133および撮像デバイス134がさらに設けられている。対物レンズ131、開口絞り132および結像レンズ133は、それぞれの中心が鉛直方向(Z方向)に沿って一列に並ぶように配置されて、これらが一体として観察光学系130を構成している。なお、この例では撮像部13を構成する各部が鉛直方向に一列に配列されているが、各部間の距離(光路長)が所定の関係を満たす限りにおいて、反射鏡等により光路が折り返されていてもよい。
【0027】
撮像部13は、制御部14に設けられたメカ駆動部146によりXYZ方向に移動可能となっている。具体的には、メカ駆動部146が、CPU141からの制御指令に基づき、撮像部13を構成する対物レンズ131、開口絞り132、結像レンズ133および撮像デバイス134を一体的にX方向およびY方向に移動させることにより、撮像部13がディッシュDに対し水平方向に移動する。ディッシュDに対し撮像部13が水平方向における所定位置に位置決めされた状態で、撮像部13によるディッシュD内の試料の撮像が行われる。
【0028】
また、メカ駆動部146は、撮像部13をZ方向に移動させることにより、撮像対象物に対する撮像部のフォーカス合わせを行う。具体的には、撮像対象物たる試料が存在するディッシュDの内底面に対物レンズ131の焦点が合うように、メカ駆動部146が、対物レンズ131、開口絞り132、結像レンズ133および撮像デバイス134を一体的に上下動(Z方向移動)させる。
【0029】
さらに、メカ制御部146は、対物レンズ131とは独立して、開口絞り132を上下動可能となっている。すなわち、この実施形態では対物レンズ131と開口絞り132とのZ方向距離が可変となっている。その可変範囲Rzは、対物レンズ131の焦点FPのZ方向位置Zfを含み、かつ、それより(−Z)方向、つまり撮像デバイス134に近い側へ広がっている。可変範囲Rzが焦点FPよりも(+Z)方向、つまり対物レンズ131に近い側を含むか否かは任意である。以下では開口絞り131のZ方向位置(絞り位置)を符号Zsにより表す。
【0030】
対物レンズ131に対し開口絞り132が上下動するとき、結像レンズ133および撮像デバイス134も開口絞り131と一体的に上下動する。すなわち、開口絞り132と結像レンズ133との距離、および結像レンズ133と撮像デバイス134との距離はいずれも結像レンズ133の焦点距離f2に固定されている。したがって、開口絞り132、結像レンズ133および撮像デバイス134によるテレセントリック光学系が、対物レンズ131に対し上下動する。このように開口絞り132を対物レンズ131に対し移動させる理由については後述する。
【0031】
撮像部13により、ディッシュD内の生物試料が撮像される。具体的には、照明部12から出射されディッシュDの上方から培地Mに入射した光が撮像対象物を照明し、ディッシュD底面から下方へ透過した光が対物レンズ131により集光され、開口絞り132、結像レンズ133を介して最終的に撮像デバイス134の受光面に撮像対象物の像が結像し、これが撮像デバイス134の受光素子1341により受光される。受光素子1341は二次元イメージセンサであり、その表面に結像した撮像対象物の二次元画像を電気信号に変換する。受光素子1341としては、例えばCCDセンサまたはCMOSセンサを用いることができる。
【0032】
ディッシュD内の試料の水平方向(XY方向)の広がり範囲が撮像部13の撮像視野よりも小さい場合には、観察光学系130の光軸OAをディッシュDの中心軸と一致させて撮像を行うことで、試料全体を撮像することができる。一方、試料が撮像部13の撮像視野よりも大きい場合には、メカ駆動部146によりディッシュDに対する観察光学系130の水平方向位置(撮像位置)を多段階に変更しながら、その都度撮像部13が撮像を行うことにより、試料の全体を複数の画像に分割して記録することができる。
【0033】
受光素子1341から出力される画像信号は、制御部14に送られる。すなわち、画像信号は制御部14に設けられたADコンバータ(A/D)143に入力されてデジタル画像データに変換される。CPU141は、受信した画像データに基づき適宜画像処理を実行する。例えば、上記したように複数に分割して撮像された原画像を合成して、試料全体に対応する合成画像を作成する処理を実行する。
【0034】
制御部14はさらに、画像データを記憶保存するための画像メモリ144と、CPU141が実行すべきプログラムやCPU141により生成されるデータを記憶保存するためのメモリ145とを有しているが、これらは一体のものであってもよい。その他に、制御部14には、インターフェース(I/F)142が設けられている。インターフェース142は、ユーザーからの操作入力を受け付けたり、ユーザーへの処理結果等の情報提示を行うほか、通信回線を介して接続された外部装置との間でのデータ交換を行う。
【0035】
図2はディッシュを透過する光を模式的に示す図である。ディッシュDには培地Mが注入されており、その液面には一般的に下に凸のメニスカスが形成される。培地Mの表面Sがほぼ平坦と見なせるディッシュDの中央部では、入射光Lが培地M内に直進するため、メニスカスの影響を考慮する必要がない。この場合、図2(a)に示すように、対物レンズ131と開口絞り132との距離を対物レンズ131の焦点距離f1とし、開口絞り132を対物レンズ131の焦点FPに対応する位置(すなわち、Zs=Zf)に配置した一般的な観察光学系により、試料を良好に撮像することが可能である。
【0036】
一方、図2(b)に示すように、撮像視野にメニスカスによる液面の変動を有する周縁部に近い領域が含まれる場合、入射光Lが培地表面Sにおいて屈折し、試料内での光路が変わる。一般的な下に凸のメニスカスでは、光路がディッシュDの中心から周縁部へ向かう方向に曲げられる。そのため、このように曲げられた光が下方に配置された開口絞り132に入射する際の主光線の傾きがより大きくなり、結果として開口絞り132を通過できる光の量が低下する。つまり、ディッシュDの周縁部では、中央部に比べて画像が暗くなってしまう。
【0037】
この実施形態では、開口絞り132の位置をZ方向に変化させることで、このような光量の低下を抑制してディッシュDの周縁部でも明るい画像が得られるようにしている。以下、その考え方を説明する。
【0038】
図3は開口絞りの位置を可変とした場合の効果を示す図である。上記のようにメニスカスの影響が表れている試料の領域を撮像する際に、図3(a)に示すように、開口絞り132を対物レンズ131の焦点FPよりも撮像デバイス134に近い側、つまり(−Z)側に配置した場合を考える。この場合、対物レンズ131の中央部に入射する光には大きな影響はないが、対物レンズ131の周縁部においては、対物レンズ131から開口絞り132に入射する主光線の傾きが小さくなるため、開口絞り132がより多くの光を通過させることができる。すなわち、メニスカスにより屈折した光も集光して撮像デバイス134に入射させることが可能となり、より明るい画像を得ることができる。
【0039】
図3(b)はディッシュ中心から径方向に取った位置と、当該位置から撮像デバイス134に入射する光量との関係を示す図である。図3(b)において実線で示す曲線は、開口絞り132を対物レンズ131の焦点位置に配置したとき(すなわちZs=Zf)の光量を表している。この場合、ディッシュD周縁部のメニスカスが生じている領域Rmにおいて、中央部に対して光量が低下する。ディッシュDの壁面に近づくにつれて入射光Lの屈折も大きくなり、光量の低下も顕著となる。
【0040】
一方、開口絞り132を対物レンズ131の焦点位置よりも遠く、つまり撮像デバイス134側に配置した場合には、図3(b)に点線で示すように、対物レンズ131の周縁部に対向する領域で光量が増加する。このため、メニスカスの領域Rmでは光量の低下が抑えられ、光量が均一と見なせる領域が広がる。つまりこの領域では、メニスカスの影響による光量低下が、絞り位置調整による光量増加によりキャンセルされ補正される。
【0041】
ただし、観察光学系130の光軸回りの回転対称性に起因して、メニスカスの影響がなく補正の必要のない部分において光量の低下が現れる。また、メニスカスの影響による光量低下、絞り位置調整による光量増加の程度はいずれも位置依存性がある。これらのことから、単一の撮像位置と単一の絞り位置との組み合わせにおいて上記のような補正作用が有効に機能する有効領域Raは限定的である。
【0042】
したがって、撮像時の開口絞り132の位置については、撮像位置、つまり撮像部13の水平方向位置に応じて動的に設定されることが好ましい。また、撮像位置を互いに異ならせて複数の画像を撮像し、それぞれの有効領域Raに対応する領域を抽出して合成し、試料全体の画像とすることが好ましい。
【0043】
図4は撮像位置と有効領域との関係を示す図である。本願発明者の知見によれば、図4に示すように、入射光Lがメニスカスで屈折してディッシュD底面から出射され、対物レンズ131、開口絞り132および結像レンズ133を経て撮像デバイス134に至る光路において、ディッシュD底面から出射される光の主光線の光軸OAに対する傾き角θと、開口絞り132に入射する主光線の傾き角φとが一致するときに、当該入射光Lの入射位置およびその近傍で特に良好な光量の補正効果が得られる。つまり、ある撮像位置、ある絞り位置で撮像される画像のうち、上記条件が満たされる位置およびその近傍領域が有効領域Raである。
【0044】
この実施形態では、撮像位置に対応する好ましい絞り位置Zsおよびそのときの有効領域Raの範囲を予め求めておき、撮像時にはそのときの撮像位置に応じた絞り位置Zsに開口絞り131を配置して撮像を行う。そして、得られた画像から有効領域Raに対応する部分を抽出することで、メニスカスの影響が排除された試料の部分画像が得られる。ディッシュDの底面形状が円形である場合には、メニスカスの回転対称性から、撮像位置についてはディッシュ中心Cdから撮像光学系130の光軸OAまでの距離Roにより表すことができる。
【0045】
なお、メニスカスの現れ方は、液体の粘度やディッシュ壁面との濡れ性等によって異なることがある。したがって、培地Mとなる液体の種類や注入量ごとに、絞り位置Zsおよび有効領域Raとの対応関係を求めておくことが好ましい。求められた対応関係については、例えばテーブル化して参照情報としてメモリ145に記憶保存しておくことができる。撮像時にはこのテーブルを参照して、指定された撮像位置に応じた絞り位置Zsおよび有効領域Raを求めることができる。
【0046】
また、絞り位置Zsについては、フォーカス合わせのために撮像部13全体がZ方向に移動し、これに伴って焦点FPのZ方向位置Zfも上下することから、固定された座標系においてよりも、焦点FPの位置Zfに対する相対値として規定されることが好ましい。固定された座標系において絞り位置Zsの適正位置を規定する場合には、焦点位置の変動分に対応する補正が必要である。
【0047】
次に、撮像部13の撮像視野よりも平面サイズの大きい試料を撮像し試料全体に対応する画像を作成する場合の処理について説明する。その基本的な考え方は、
(1)撮像位置を変更しながら複数回撮像を行い、試料を複数の原画像に分割して撮像する、
(2)撮像視野にメニスカスが含まれる場合には、撮像時に開口絞り132の位置を調整することで光量低下を抑制する、
(3)撮像後の画像処理により、各原画像からメニスカスの影響のない部分を抽出して合成し、試料全体を表す画像を作成する、
というものである。
【0048】
図5は原画像の撮像原理を説明する図である。より具体的には、図5(a)は試料を複数の原画像に分割する際の分割方法を示す。図5(a)に示すように、この例ではディッシュDの内部を29枚の原画像に分割して撮像する。隣接する原画像の撮像範囲は、画像の欠落、つまりどの原画像にも含まれない試料の領域が生じるのを防止するために、互いに一部が重複するように配置される。なお、各原画像の撮像範囲の実際の形状は矩形であるが、図5(a)では、原画像の重なりを見やすくするために隅を丸めた矩形として示している。また、原画像の枚数や配置はディッシュのサイズや形状により適宜変更可能である。
【0049】
実線で示される撮像範囲Rc1(9箇所)は、原画像ディッシュDの周縁部よりも十分内側に配置されており、メニスカスの影響を考慮する必要がない。したがって、開口絞り132は対物レンズ131の焦点位置に配置される(Zs=Zf)。これらの撮像範囲Rc1をそれぞれ撮像することで、試料の中央部分の画像情報が得られる。
【0050】
点線で示される撮像範囲Rc2(16箇所)は、撮像範囲Rc1の周りを囲むように配置され、それぞれディッシュD周縁部の一部を含む。これらの撮像範囲Rc2の撮像時には、メニスカスの影響の大きさに応じた絞り位置調整がなされる。
【0051】
また、破線で示される撮像範囲Rc3(4箇所)は、画像品質向上のために補助的に撮像される原画像の範囲である。ディッシュDの中央部分に設定される撮像範囲Rc1にはメニスカスの影響は現れないが、例えば観察光学系130におけるケラレや収差等により、原画像の周縁部において画像品質が低下する場合がある。より画像品質の良好な撮像範囲の中央部分の画像情報を利用するために、ディッシュD中央部の撮像範囲Rc1間の境界部分を覆うように撮像範囲Rc3が設定される。撮像範囲Rc3の撮像時にも、開口絞り132は対物レンズ131の焦点位置に配置される。
【0052】
図5(b)は撮像時に参照される参照テーブルのデータ構造の一例を示す。上記のように1つのディッシュD内の試料を複数の原画像に分割して撮像するために、例えば図5(b)に示されるテーブルが参照される。上記した29箇所の撮像範囲に対応する原画像に、適宜の順番で画像番号(1〜29)が付される。画像番号で特定される各原画像に対して、当該原画像を得るための撮像位置(XY座標)と、絞り位置Zsの設定値と、当該原画像のうちの有効領域Raを示す情報(例えば座標値)とが互いに関連付けられてテーブル化されている。ある画像番号の原画像を撮像する際には、テーブルを参照して得られた絞り位置Zsの設定値が適用され、撮像された原画像から有効領域Raに対応する部分画像が抽出される。各原画像から抽出された部分画像を合成し再構成することで、試料全体に対応する画像が得られる。
【0053】
各原画像中の有効領域Raは、各原画像から抽出された有効領域をつなぎ合わせることでディッシュD内の全領域をカバーすることができるように設定される。
【0054】
図6はこの実施形態における画像作成処理を示すフローチャートである。この画像作成処理は、CPU141がメモリ145に予め記憶された制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0055】
最初に、外部から試料を担持するディッシュDが撮像装置1に搬入され、ホルダ11にセットされる(ステップS101)。次に、インターフェース142を介してユーザーまたは外部のホスト装置から与えられる試料に関する情報を受け付ける(ステップS102)。試料の情報は、例えば、ディッシュDのサイズ、培地Mの種類および注入量、培養される細胞Cの種類等である。
【0056】
これらの情報および参照テーブルとして予めメモリ145に記憶されている情報とに基づき、CPU141は、撮像位置の割り付けや撮像順序、開口絞り132の位置設定、撮像分解能、照明条件等の組み合わせからなる撮像スケジュールを作成する(ステップS103)。そして、撮像スケジュールに基づき、撮像位置、絞り位置等を順次変更設定しながら撮像部13が複数回撮像を実行し(ステップS104)、これにより複数枚の原画像が取得される。
【0057】
こうして得られた複数の原画像に基づき、CPU141が画像処理を行うことにより、試料の全体像に対応する画像が作成される。具体的には、各原画像から有効領域Raに対応する部分画像が抽出され(ステップS105)、それらを合成した合成画像が作成される(ステップS106)。得られた合成画像では、異なる原画像から抽出された部分画像の継ぎ目において画像要素の連続性が損なわれていることがある。そこで、スムージング処理によって継ぎ目の不連続性が解消される(ステップS107)。そして、こうして作成された合成画像が画像メモリ144に保存されるともに、出力画像として外部装置に出力される(ステップS108)。
【0058】
作成された出力画像では、メニスカスの影響による周縁部での光量低下が絞り位置調整によって補正されており、上記した画像作成処理によって、ディッシュD内の全体において光量ムラの少ない画像が得られる。
【0059】
以上説明したように、この実施形態においては、ディッシュDが本発明の「試料容器」に相当しており、ホルダ11が本発明の「保持手段」として機能している。また、照明部12が本発明の「照明手段」として機能する一方、撮像デバイス134が本発明の「撮像手段」として機能している。また、メカ駆動部146が本発明の「位置決め手段」および「絞り位置変更手段」としての機能を有している。また、CPU141が本発明の「画像処理手段」として機能している。
【0060】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、観察光学系に結像レンズを設けているが、結像レンズを用いない観察光学系であっても、対物レンズと開口絞りとの配置に関して本発明を適用することで、上記実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0061】
また、上記実施形態の撮像部13では、二次元イメージセンサである受光素子1341を用いて撮像を行っているが、一方向に延びるリニアイメージセンサをこれと直交する方向に走査移動させて二次元画像の撮像を行う撮像部を用いても、上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0062】
また、上記実施形態の照明部12は、照明光として拡散光をディッシュDに入射させるものであるが、試料中の細胞の種類によっては、より拡散度の低い照明光、例えば平行光を入射させた方が鮮明な画像を得られる場合もある。このような場合に対応するために、例えば以下のような構成としてもよい。
【0063】
図7は照明部の他の構成例を示す図である。なお、この変形例は、上記実施形態に対して照明部の構成が異なるのみであるので、上記実施形態と同一の構成については記載を省略しまたは同一符号を付してその説明を省略する。この変形例の照明部22は、光源221と絞り222との組み合わせにより観察光学系130の光軸OAと平行に近い成分を多く含む照明光を作り出し、ディッシュDに照射する。この場合、絞り222が本発明の「低減部」に相当することとなる。
【0064】
また、上記実施形態の撮像装置1は、ホルダ11に保持されたディッシュDに対し撮像部13を移動させる構成であるが、撮像部13を固定してディッシュDを移動させるようにしても技術的には等価である。また、フォーカス合わせの方法についても、上記のように撮像部13全体を上下動させる構成に代えて、例えば複数のレンズからなる光学系のレンズ間距離を調整するものを適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
この発明は、例えば医療・生物科学分野で用いられるディッシュのような、例えば細胞を含む試料の撮像を必要とする分野に特に好適に適用することができるが、その応用分野は医療・生物科学分野に限定されない。
【符号の説明】
【0066】
1 撮像装置
11 ホルダ(保持手段)
12 照明部(照明手段)
13 撮像部
14 制御部
131 対物レンズ
132 開口絞り
133 結像レンズ
134 撮像デバイス(撮像手段)
141 CPU(画像処理手段)
146 メカ駆動部(位置決め手段、絞り位置変更手段)
D ディッシュ(試料容器)
FP 焦点
Ra 有効領域
Rz (絞り位置Zsの)可変範囲
Zf 焦点位置
Zs 絞り位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7