特許第6389722号(P6389722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389722
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】ソレノイドポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 17/04 20060101AFI20180903BHJP
   F04B 53/10 20060101ALI20180903BHJP
   F04B 53/14 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   F04B17/04
   F04B53/10 C
   F04B53/14 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-202586(P2014-202586)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-70239(P2016-70239A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】下野 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 智秀
【審査官】 大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−120528(JP,A)
【文献】 特開2013−44290(JP,A)
【文献】 特開平11−264380(JP,A)
【文献】 特開平10−246178(JP,A)
【文献】 特開平4−303182(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0121861(US,A1)
【文献】 特表2003−528244(JP,A)
【文献】 特開2011−214520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 17/04
F04B 53/10
F04B 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定コアと、
この固定コアに対して移動可能に設けられた可動コアと、
この可動コアを前記固定コア側に移動させるコイルと、
円筒状のポンプハウジングと、
このポンプハウジング内に形成された圧力室と、
この圧力室に対する作動液の流入流出を制御する吸入弁及び吐出弁と、
前記ポンプハウジング内において前記可動コアの移動に応じて摺動するとともに、前記圧力室の容積を増減させるピストンと、
前記圧力室内に配置され、前記ピストンを前記可動コア側に付勢する戻しばねとを備えたソレノイドポンプにおいて、
前記吸入弁は、前記ピストンと同軸上に配置され、
前記ポンプハウジング内に嵌合される弁座部材と、この弁座部材に着座する弁体と、カップ状のリテーナと、このリテーナおよび前記弁体の間に配設される弁ばねとで構成され、
前記戻しばねの反ピストン側が前記リテーナに当接しており、前記戻しばねの付勢力によって前記リテーナが保持され
前記ピストンは、本体部と、この本体部の一端側に設けられ前記戻しばねの他端側が当接するばね当接部と、このばね当接部に設けられ前記戻しばねを支持するばね座とを有し、
前記ばね当接部は、前記本体部の径より大きく、前記ばね当接部の外周部に、前記ばね当接部の一端側と他端側とを連通する連通溝を有していることを特徴とするソレノイドポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のソレノイドポンプにおいて、
前記リテーナは、前記戻しばねが当接するフランジ部を備え、
このフランジ部は、前記戻しばねに付勢されて前記弁座部材に当接していることを特徴とするソレノイドポンプ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のソレノイドポンプにおいて、
前記リテーナの側面には、内外を連通する液通孔が形成され、
前記ポンプハウジングには、ピストン軸に直交する連通孔が形成され、
前記液通孔と前記連通孔との少なくとも一部が重なるように配置されていることを特徴とするソレノイドポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のソレノイドポンプにおいて、
前記吸入弁の外周に、前記吐出弁が配置されていることを特徴とするソレノイドポンプ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のソレノイドポンプにおいて、
前記ポンプハウジングの内周部は、前記可動コアから反対側に向けて順次拡径する段付き状に形成されていることを特徴とするソレノイドポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプハウジング内で可動コアの移動に応じて摺動するピストンを備えたソレノイドポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば四輪自動車や自動二輪車等には、液圧式ブレーキを備えたものがあり、この液圧式ブレーキの制動を最適にするブレーキ液圧制御装置が実用に供されている。ブレーキ液圧制御装置は、ブレーキの作動液を増圧させるポンプを有する。このようなポンプには、ソレノイドでポンプハウジング内のピストンを摺動させ、圧力室の容積を増減させるソレノイドポンプが知られている(例えば、特許文献1(図2)参照。)。
【0003】
この特許文献1のソレノイドポンプは、固定コアとしてのポンプハウジングと、このポンプハウジングに対して移動可能に設けられた可動コアと、この可動コアを電磁力で固定コア側に移動させるコイルと、ポンプハウジングに形成された圧力室に対する作動液の流入流出を制御する吸入弁及び吐出弁と、圧力室の容積を増減させるピストンとを備える。
【0004】
吸入弁は、ポンプハウジングに設けられ吸入口を有する弁座部材と、球形状に形成され弁座部材に着座する吸入弁体と、弁座部材に設けられカップ状に形成された内側に吸入弁ばねを収納するリテーナと、リテーナに設けられ吸入弁体を弁座部材に付勢する吸入弁ばねとから構成される。
【0005】
しかし、リテーナは、圧入によって弁座部材に取り付けられるため、弁座部材及びリテーナは、高い寸法精度が要求される。このため、吸入弁の加工コスト及び組み付けコストが高くなり、部品のコストアップを招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−53632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、弁座部材及びリテーナにおける高い寸法精度を不要とし、リテーナ組み付け時の圧入工程もなくして、部品コストの削減を図ることができるソレノイドポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、固定コアと、この固定コアに対して移動可能に設けられた可動コアと、この可動コアを前記固定コア側に移動させるコイルと、円筒状のポンプハウジングと、このポンプハウジング内に形成された圧力室と、この圧力室に対する作動液の流入流出を制御する吸入弁及び吐出弁と、前記ポンプハウジング内において前記可動コアの移動に応じて摺動するとともに、前記圧力室の容積を増減させるピストンと、前記圧力室内に配置され、前記ピストンを前記可動コア側に付勢する戻しばねとを備えたソレノイドポンプにおいて、前記吸入弁は、前記ピストンと同軸上に配置され、前記ポンプハウジング内に嵌合される弁座部材と、この弁座部材に着座する弁体と、カップ状のリテーナと、このリテーナおよび前記弁体の間に配設される弁ばねとで構成され、前記戻しばねの反ピストン側が前記リテーナに当接しており、前記戻しばねの付勢力によって前記リテーナが保持され、前記ピストンは、本体部と、この本体部の一端側に設けられ前記戻しばねの他端側が当接するばね当接部と、このばね当接部に設けられ前記戻しばねを支持するばね座とを有し、前記ばね当接部は、前記本体部の径より大きく、前記ばね当接部の外周部に、前記ばね当接部の一端側と他端側とを連通する連通溝を有していることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、リテーナは、戻しばねが当接するフランジ部を備え、このフランジ部は、戻しばねに付勢されて弁座部材に当接していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、リテーナの側面には、内外を連通する液通孔が形成され、ポンプハウジングには、ピストン軸に直交する連通孔が形成され、液通孔と連通孔との少なくとも一部が重なるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、吸入弁の外周に、吐出弁が配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、ポンプハウジングの内周部は、可動コアから反対側に向けて順次拡径する段付き状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、吸入弁は、ピストンと同軸上に配置され、ポンプハウジング内に嵌合される弁座部材と、この弁座部材に着座する弁体と、カップ状のリテーナと、このリテーナおよび弁体の間に配設される弁ばねとで構成される。戻しばねの反ピストン側がリテーナに当接しており、戻しばねの付勢力によってリテーナが保持されているので、リテーナを弁座部材に圧入する必要がない。結果、弁座部材及びリテーナにおける高い寸法精度を不要とし、リテーナ組み付け時の圧入工程もなくして、部品コストの削減を図ることができる。
加えて、ピストンは、本体部とこの本体部より大径のばね当接部を有し、このばね当接部には、外周部に一端側と他端側とを連通する連通溝が形成されている。この連通溝により、ばね当接部の一端側と他端側との作動液の移動を自由にし、ピストンの軸方向の移動を円滑にすることができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、リテーナは、戻しばねが当接するフランジ部を備える。フランジ部は、戻しばねに付勢されて弁座部材に当接しているので、簡単な構成で、リテーナを保持することができ、部品コストの削減を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、リテーナの側面には、内外を連通する液通孔が形成され、ポンプハウジングには、ピストン軸に直交する連通孔が形成される。連通孔方向において、液通孔と連通孔との少なくとも一部が重なるように配置されているので、リテーナの液通孔から出た作動液が直線的に連通孔へ流れ、作動液を円滑に流通させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、吸入弁の外周に吐出弁が配置されているので、ピストンの軸方向に吐出弁を設ける必要がなく、軸方向の寸法を小さくしてソレノイドポンプの小型化を図ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明では、ポンプハウジングの内周部は、可動コアから反対側に向けて順次拡径する段付き状に形成されているので、ポンプハウジングの段付き形状部分を一方向から全て加工することができる。このため、ポンプハウジングの軸方向両側から加工する場合に比較して、加工工数を短縮でき、ポンプハウジングの製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るソレノイドポンプを採用したブレーキ液圧制御装置の作動液圧回路図である。
図2】本発明に係るソレノイドポンプの断面図である。
図3図2に示したソレノイドポンプの要部拡大図である。
図4図2に示したソレノイドポンプの分解斜視図である。
図5】本発明に係るソレノイドポンプの作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0020】
先ず、本発明の実施例に係るソレノイドポンプが適用されたバーハンドル車両のブレーキ液圧制御装置10の作動液圧回路について説明する。
図1に示されるように、ブレーキ液圧制御装置10は、液圧式ブレーキを備えた自動二輪車、オールテレーンビークル(ATV)などのバーハンドルタイプの車両に好適に採用される。なお、本発明の実施例に係るソレノイドポンプは、四輪自動車のブレーキ液圧制御装置にも適用可能である。以下、自動二輪車の前輪用のブレーキ液圧制御装置10について説明する。ブレーキ液圧制御装置10は、前輪のブレーキ系統20を備え、前輪に設けられた車輪ブレーキ11に付与する制動力を制御装置12で制御することで、車輪ブレーキ11のアンチロックブレーキ制御を可能とするものである。
【0021】
ブレーキ液圧制御装置10は、バーハンドル13に設けられたブレーキ操作子14と、このブレーキ操作子14の操作により作動するマスタシリンダ15と、このマスタシリンダ15に送る作動液を貯留するリザーバ16と、マスタシリンダ15からの液圧を車輪ブレーキ11に伝達するブレーキ系統20と、車輪ブレーキ11に付与する制動力を制御する制御装置12とを備える。
【0022】
ブレーキ系統20は、ブレーキ操作子14の操作により車輪ブレーキ11を制動するものであり、マスタシリンダ15に通じる入口ポート21から出口ポート22までの主流路と、この主流路からリザーバ16に直接通じるサブポート23までの副流路を備えている。マスタシリンダ15と入口ポート21との間は第1配管24で接続され、出口ポート22と車輪ブレーキ11との間は第2配管25で接続され、サブポート23とリザーバ16との間は第3配管26で接続される。
【0023】
マスタシリンダ15は、作動液(ブレーキ液)を貯留するリザーバ16が接続されたシリンダを有しており、シリンダ内にはブレーキ操作子14の操作によりシリンダの軸方向へ摺動して作動液を流出するピストンが設けられている。
【0024】
ブレーキ系統20は、入口弁31と、出口弁32と、ソレノイドポンプ40とを備えている。入口弁31及び出口弁32は電磁弁であり、制御装置12により開閉が制御され、ソレノイドポンプ40も制御装置12により作動・停止が制御される。
【0025】
また、入口ポート21から入口弁31までの流路(油路)を出力液圧路33とし、入口弁31から出口ポート22までの流路を車輪液圧路34とする。車輪液圧路34の第1分岐部34aから出口弁32までの流路を分岐路35とし、出口弁32からサブポート23に延びる途中の第2分岐部36aまでの流路を開放路36とし、第2分岐部36aからサブポート23までの流路を兼用路37とする。第2分岐部36aからソレノイドポンプ40までの流路を吸入液圧路38とし、ソレノイドポンプ40から第1分岐部34aまでの流路を吐出液圧路39とする。
【0026】
ブレーキ液圧制御装置10は、通常状態、ABS制御時(アンチロックブレーキ制御時)の減圧状態、ABS制御時の保持状態あるいはABS制御時の増圧状態、を切り換える機能を有する。なお、通常状態は、出力液圧路33と車輪液圧路34とを連通(入口弁31が開)するとともに、分岐路35と開放路36との間を遮断(出口弁32が閉)する状態である。ABS制御時の減圧状態は、出力液圧路33と車輪液圧路34との間を遮断(入口弁31が閉)するとともに、分岐路35と開放路36とを連通(出口弁32が開)する状態である。ABS制御時の保持状態あるいはABS制御時の増圧状態は、出力液圧路33と車輪液圧路34との間、分岐路35と開放路36との間をそれぞれ遮断(入口弁31及び出口弁32が閉)する状態である。
【0027】
入口弁31は、出力液圧路33と車輪液圧路34との間に設けられた常開型の電磁弁である。入口弁31は、通常状態において開いていることで、マスタシリンダ15からの作動液圧が出力液圧路33から車輪液圧路34を経由して車輪ブレーキ11へ伝達することを許容している。また、入口弁31は、前輪がロックしそうになると制御装置12からの信号により閉塞され、マスタシリンダ15からの作動液圧が出力液圧路33から車輪液圧路34を経由して車輪ブレーキ11へ伝達されることを遮断する。
【0028】
出口弁32は、分岐路35を介して車輪液圧路34と開放路36との間に設けられた常閉型の電磁弁である。出口弁32は、通常状態で閉塞されている。出口弁32は、前輪がロックしそうになると制御装置12からの信号により開放され、車輪ブレーキ11に作用する作動液圧を車輪液圧路34から分岐路35を介して開放路36へ逃がす。さらに、開放路36に逃がされた作動液は、兼用路37を通ってリザーバ16へ一時的に流入する。このようにして、ABS制御時における減圧状態となる。
【0029】
ソレノイドポンプ40は、吸入液圧路38と吐出液圧路39との間に設けられており、可動コア43とコイル44(図2参照)などによって作動することで、兼用路37及び吸入液圧路38を介してリザーバ16に貯留された作動液を吸入し、吐出液圧路39に吐出する。このため、車輪ブレーキ11に対して、作動液圧を増圧することができる。ソレノイドポンプ40は、制御装置12からの信号により、ABS制御時における増圧状態で作動する。なお、ソレノイドポンプ40の作動時(増圧状態)には、制御装置12によって入口弁31及び出口弁32が閉塞され、出力液圧路33と車輪液圧路34との間、分岐路35と開放路36との間がそれぞれ遮断され、吐出液圧路39からの作動液が車輪液圧路34に流入する。
【0030】
リザーバ16は、マスタシリンダ15用の作動液を貯留するタンクと、ABS制御時における減圧状態の車輪液圧路34からの作動液を逃がすタンクと、ABS制御時における増圧状態のソレノイドポンプへ送る作動液を貯留するタンクとを兼ねている。
【0031】
兼用路37は、ABS制御時における減圧状態の車輪液圧路34からリザーバ16へ作動液を送る流路と、ABS制御時における増圧状態のリザーバ16からソレノイドポンプへ作動液を送る流路とを兼ねている。制御装置12は、図示せぬ前輪用の車輪速度センサなどからの計測値により、ブレーキ液圧制御装置12の各機器を制御する。
【0032】
なお、実施例では、上述の液圧回路としたが、これに限定されず、マスタシリンダ用のリザーバと、車輪液圧路34から作動液を逃がすとともにソレノイドポンプ40へ作動液を送るリザーバと、を別体とした液圧回路としてもよく、さらにはソレノイドポンプ40が組み込まれた液圧回路であれば他の形態であっても差し支えない。
【0033】
次に、ブレーキ液圧制御装置10による通常のブレーキ制御について説明する。
通常のブレーキ制御において、ブレーキ系統20では、マスタシリンダ15から車輪ブレーキ11への流路が、出力液圧路33、入口弁31、車輪液圧路34を経由して連通された状態である。ブレーキ操作子14を操作すると、出力液圧路33、入口弁31、車輪液圧路34を経由して作動液圧が車輪ブレーキ11に作用し、前輪を制動することができる。なお、ブレーキ操作子14を戻すと、車輪ブレーキ11に作用していた作動液が、車輪液圧路34、入口弁31、出力液圧路33を経由してマスタシリンダ15に戻される。
【0034】
次に、ブレーキ液圧制御装置10によるABS制御について説明する。
ABS制御は、前輪がロック状態になりそうな場合に実行され、入口弁31、出口弁32及びソレノイドポンプ40を制御し、車輪ブレーキ11に作用する作動液圧を減圧、増圧、保持することで実行される。前輪用の図示せぬ車輪速度センサなどからの計測値に基づいて、制御装置12によって減圧、増圧、保持の制御がなされる。
【0035】
減圧状態では、入口弁31が閉じることで出力液圧路33と車輪液圧路34との間が遮断され、出口弁32が開くことで車輪液圧路34と開放路36との間が開放され、ソレノイドポンプ40が停止状態となる。車輪ブレーキ11に通じる車輪液圧路34の作動液が、分岐路35、開放路36、兼用路37を通ってリザーバ16に流入し、車輪ブレーキ11に作用している作動液圧が減圧される。
【0036】
保持状態では、入口弁31が閉じることで出力液圧路33と車輪液圧路34との間が遮断され、出口弁32が閉じることで車輪液圧路34(分岐路35)と開放路36との間が遮断され、ソレノイドポンプ40が停止状態となる。車輪ブレーキ11、入口弁31、出口弁32、ソレノイドポンプ40で閉じられた流路内に作動液が閉じ込められ、車輪ブレーキ11に作用している作動液が一定に保たれる。
【0037】
増圧状態では、入口弁31が閉じることで出力液圧路33と車輪液圧路34との間が遮断され、出口弁32が閉じることで車輪液圧路34と開放路36との間が遮断され、ソレノイドポンプ40が作動状態となる。ソレノイドポンプ40の作動によってリザーバ16から兼用路37、吸入液圧路38を通って作動液が吸入され、車輪ブレーキ11、入口弁31、出口弁32、ソレノイドポンプ40で閉じられた流路内に、吐出液圧路39から作動液が送られ、流路内が増圧して車輪ブレーキ11が作動する。
【0038】
次にソレノイドポンプ40について説明する。なお、便宜上、ソレノイドポンプ40のポンプハウジング41の挿入部41Aが配置される側を「一端側」とし、可動コア43が配置される側を「他端側」とする。
図2図4に示されるように、ソレノイドポンプ40は、少なくとも一部が固定コアになる円筒状のポンプハウジング41と、このポンプハウジング41の他端側に固定された有底円筒状のガイドパイプ42と、ポンプハウジング41を貫通する貫通孔45に挿通されるピストン51とを備える。
【0039】
また、ポンプハウジング41内には、圧力室60が形成されている。ソレノイドポンプ40は、ガイドパイプ42内において進退可能に配置され圧力室60に向けてピストンを押圧する可動コア43と、ポンプハウジング41及びガイドパイプ42に外装されたコイル44と、作動液を圧力室60に吸入する際に開く吸入弁70と、圧力室60から作動液を吐出する際に開く吐出弁80とを備える。なお、コイル44は、電磁コイルである。
【0040】
ポンプハウジング41は、鉄系材料である磁性材料からなる円筒形状を呈し、一端側の挿入部41Aと、他端側の胴部41Bとを有している。挿入部41Aは、ベースとなる基体90に形成された取付穴91にシール材92を介して液密に挿入される。胴部41Bの外周には、ガイドパイプ42が取り付けられる。ポンプハウジング41には、ピストン51が挿通される貫通孔45が、ポンプハウジング41の軸線に沿って形成されている。挿入部41Aは、取付穴91の開口部にリング状の抜け止め部材93によって固定されている。なお、実施例では、ポンプハウジング41を抜け止め部材93で取付穴91に固定したが、これに限定されず、ポンプハウジング41を圧入やカシメ等で固定しても差し支えない。
【0041】
ポンプハウジング41の内周部は、可動コア43から反対側に向けて順次拡径する段付き状に形成されており、可動コア43側から順に、貫通孔45、シール保持孔46、吸入弁保持孔47、吸入口48が形成されている。シール保持孔46の一部と吸入弁保持孔47の一部を利用して、圧力室60が形成されている。
【0042】
ポンプハウジング41の内周部を、可動コア43から反対側に向けて順次拡径する段付き状に形成することで、ポンプハウジング41の段付き形状部分を一方向から全て加工することができる。このため、ポンプハウジング41の軸方向両側から加工する場合に比較して、加工工数を短縮でき、ポンプハウジング41の製造コストを削減することができる。
【0043】
挿入部41Aの一端側には、基体90の取付穴91の底に形成された吸入液圧路38(図1参照)に向けて、吸入口48が開口している。吸入弁保持孔47の一端側に吸入弁70が設けられ、吸入弁70の一端側にフィルタ61が設けられている。
【0044】
また、挿入部41Aの外周部に、基体90の取付穴91の側壁に形成された吐出液圧路39(図1参照)と圧力室60とを連通する連通孔62が形成されている。この連通孔62の開口の内空に吐出弁80が設けられている。圧力室60に面するポンプハウジング41の側壁には、吐出弁80の連通口63が設けられている。
【0045】
圧力室60は、一端側に配置されている。圧力室60は、吸入弁70、吐出弁80及びピストン51(Oリング56)で、シール保持孔46及び吸入弁保持孔47が仕切られることで形成されている。
【0046】
ピストン51は、貫通孔45に移動可能に挿通される本体部52と、この本体部52の一端側に設けられ戻しばね64の他端側が当接するばね当接部53と、このばね当接部53に設けられ戻しばね64を支持するばね座54とを有する。ばね当接部53の径は、本体部52の径よりも大きく、ばね当接部53の外周部には一端側と他端側とを連通する連通溝55が形成されている。連通溝55により、ばね当接部53の一端側と他端側との作動液の移動を自由にし、ピストン51の軸方向の移動を円滑にすることができる。
【0047】
また、圧力室60内には、ピストン51を可動コア43側に付勢する戻しばね64が配置されている。なお、戻しばね64はコイルばねである。
シール保持孔46には、ピストン51とポンプハウジング41の内周部とをシールするOリング56が設けられる。Oリング56は、シール保持孔46に圧入されたリング部材57によって、シール保持孔46内に保持される。
【0048】
ピストン51は、Oリング56を介してポンプハウジング41の貫通孔45に軸方向摺動可能に挿通されており、摺動によって、その一端部が圧力室60に対して出没するように構成されている。すなわち、圧力室60は、ピストン51が一端側に摺動してピストン51の一端部が圧力室60内に突出することで容積が縮小し、ピストン51が他端側に摺動してピストン51の一端部が圧力室60から没することで容積が増大する。
【0049】
吸入弁70は、吸入液圧路38と圧力室60との間の流路を開閉する一方向弁であり、ピストン51の軸と同軸上に配置されている。吸入弁70は、ポンプハウジング41内に嵌合される弁座部材71と、この弁座部材71に着座する球形状の弁体72と、カップ状のリテーナ73と、このリテーナ73と弁体72との間に配設される弁ばね74とで構成されている。
【0050】
弁体72は、弁ばね74によって、弁座71cに着座するように付勢されている。弁体72は、ピストン51が圧力室60の容積を増大する方向(他端側へ向かう方向)に移動するのに伴い、圧力室60が減圧されて開弁し、吸入液圧路38から圧力室60へ作動液が流入する。また、弁体72は、ピストン51が圧力室60の容積を縮小する方向(一端側へ向かう方向)に移動するのに伴い、圧力室60が増圧されて閉弁し、これにより圧力室60から吸入液圧路38へ流出することを阻止する。
【0051】
なお、弁ばね74が弁体72を付勢する力よりも、戻しばね64がリテーナ73を付勢する力が大きい。このため、弁体72が弁座部材71から離れても、リテーナ73は弁座部材71に当接を維持する。また、戻しぱね64は、非作動時にピストン51を非作動位置に付勢する付勢力を有する。このため、後述する、コイル44が消磁した際には、戻しばね64の戻し力によって、ピストン51が圧力室60から離れる方向(可動コア43側)へ摺動する。
【0052】
リテーナ73は、戻しばね64の一端側が当接するフランジ部75を備え、このフランジ部75は、戻しばね64に付勢されて弁座部材71に当接している。戻しばね64は、反ピストン51側(一端側)がリテーナ73のフランジ部75に当接し、ピストン51側(他端側)がピストン51のばね当接部53に当接しており、戻しばね64の付勢力によってリテーナ73が保持されている。
【0053】
弁座部材71は、吸入弁保持孔47に嵌合される大径部71aと、この大径部71aよりも小径に形成されリテーナ73が嵌合される小径部71bと、小径部71bの端部にテーパ状に形成され弁体72が着座する弁座71cと、内部に形成され作動液を通す吸入貫通孔71dとを有する。大径部71aによってリテーナ73の軸方向を支持することができ、小径部71bによってリテーナ73の径方向を支持することができる。
【0054】
上述したように、戻しばね64の付勢力によってリテーナ73が保持されているので、組み付け時に、リテーナ73を弁座部材71に圧入する必要がない。結果、弁座部材71及びリテーナ73における高い寸法精度を不要とし、リテーナ73組み付け時の圧入工程もなくして、部品コストの削減を図ることができる。さらに、フランジ部75は、戻しばね64に付勢されて弁座部材71に当接しているので、簡単な構成で、リテーナ73を保持することができ、部品コストの削減を図ることができる。さらに、カップ状に形成されたリテーナ73自体が、戻しばね64のばね座の機能も兼ねることができる。
【0055】
リテーナ73の側面には、内外を連通する液通孔76が複数形成されている。ポンプハウジング41の連通孔62及び連通口63は、ピストン軸に直交して配置されている。連通孔62側から見て、少なくとも1つの液通孔76と連通孔62との少なくとも一部が、重なるように配置されている。このため、連通孔方向において、液通孔76と連通孔62との少なくとも一部が重なるように配置されているので、リテーナ73の液通孔76から出た作動液が直線的に連通孔62へ流れ、作動液を円滑に流通させることができる。
【0056】
また、吸入弁70の外周に吐出弁80が配置されているので、ピストン51の軸方向に吐出弁80を設ける必要がなく、軸方向の寸法を小さくしてソレノイドポンプ40の小型化を図ることができる。
【0057】
吐出弁80は、圧力室60と吐出液圧路39との間の流路を開閉する一方向弁であり、連通孔62の開口の内空に設けられている。吐出弁80は、ポンプハウジング41の連通孔62に嵌合される吐出側弁座部材81と、この吐出側弁座部材81に着座する球形状の吐出側弁体82と、カップ状の吐出側リテーナ83と、この吐出側リテーナ83と吐出側弁体82との間に配設される吐出側弁ばね84とで構成されている。吐出側リテーナ83には、内外を連通する吐出液通孔85が形成され、吐出側リテーナ83の開口端部が、吐出側弁座部材81にカシメられている。また、吐出弁80は、吐出側弁体82の開閉方向が、ピストン51の軸方向と垂直となるように配置されている。
【0058】
吐出側弁体82は、吐出側弁ばね84によって、吐出側弁座81aに着座するように付勢されている。ピストン51が圧力室60の容積を縮小する方向(一端側へ向かう方向)に移動するのに伴い、圧力室60が増圧されて開弁し、圧力室60から吐出液圧路39へ作動液が流出する。また、吐出側弁体82は、ピストン51が圧力室60の容積が増大する方向(他端側へ向かう方向)に移動するのに伴い、圧力室60が減圧されて閉弁し、これにより吐出液圧路39から圧力室60へ作動液が流入することを阻止する。
【0059】
可動コア43は、磁性材料からなり、その一端面をピストン51の他端部に当接させた状態でガイドパイプ42の内部を軸方向に移動する。可動コア43は、コイル44を励磁することでポンプハウジング41に引き寄せられ、戻しばね64の付勢力に抗して一端側に移動する。可動コア43が一端側に移動することで、ピストン51も一端側に押動され、圧力室60にピストン51の一端部が突出する。結果、圧力室の容積が縮小し、圧力室内が増圧される。
【0060】
可動コア43の外周部には、可動コア43の軸方向に沿って連通溝43aが形成されている。連通溝43aの一端側は、可動コア43の一端面とポンプハウジング41の他端面との間の空間に連通しており、連通溝43aの他端側は、可動コア43の他端面とガイドパイプの内面との間の空間に連通している。
【0061】
ガイドパイプ42は、有底筒状を呈し、ポンプハウジング41の胴部41Bの他端側に外側から嵌合され、例えば溶接により胴部41Bに固定されている。なお、固定方法は溶接に限らず、圧入やかしめ等であってもよい。ガイドパイプ42の底部には、大気を導入する外気導入孔42aが形成されている。この外気導入孔42aを通じて、可動コア43の他端面とガイドパイプ42の内面との間の空間に大気が導入され、さらに可動コア43の連通溝43aを通じて、可動コア43の一端面とポンプハウジング41の他端面との間の空間に大気が導入される。このため、可動コア43の一端面とポンプハウジング41の他端面との間の空間に、空気が自由に出入りし、可動コア43及びピストン51の円滑な軸方向の摺動が確保できる。
【0062】
コイル44は、樹脂製のボビン44aで環装され、さらにボビン44aの外側には、磁路を形成するヨーク44bが設けられている。
【0063】
以上に述べたソレノイドポンプ40の作用を次に説明する。
図5(a)に示されるように、コイル44(図2参照)が励磁されると、可動コア43が一端側に引き寄せられ、想像線で示すピストン51が、実線で示すピストン51の位置に移動する。圧力室60の容積が縮小するとともに圧力室60が増圧され、想像線で示す吐出側弁体82が、実線で示す吐出側弁体82の位置に移動し、吐出弁80が開く。圧力室60内の作動液は、矢印(1)のように連通口63から吐出弁80に流れ、さらに矢印(2)のように吐出液通孔85から吐出液圧路39へ流出する。
【0064】
続いて、コイル44が消磁されると、戻しばね64の付勢力によりピストン51及び可動コア43が他端側に、矢印(3)のように移動する。圧力室60の容積が増大するとともに圧力室60が減圧され、実線で示す吐出側弁体82が矢印(4)のように移動し、吐出弁80が閉じる。圧力室60がさらに減圧されると、弁体72が矢印(5)のように移動し、吸入弁70が開く。
【0065】
すると、図5(b)に示されるように、作動液が吸入液圧路38から矢印(6)のように吸入弁70に流れ、さらに矢印(7)のように圧力室60に吸入される。続いて、弁体72が矢印(8)のように移動し、吸入弁70が閉じる。このような動作を繰り返すことで、作動液の吸入・吐出が連続して行われる。
【0066】
尚、実施例では、作動液圧回路は、マスタシリンダ15用、出口弁32用及びソレノイドポンプ40用のリザーバ16を共用した回路としたが、これに限定されず、マスタシリンダ用のリザーバと、出口弁32用及びソレノイドポンプ40用のリザーバ16とを別体とした回路であってもよく、ソレノイドポンプ40が組み込まれれば他の作動液圧回路であっても差し支えない。
また、本発明は、上述した実施例に限定されず、圧力室60の容積や、ピストン51の径、ピストン51の吐出量は、適宜変更してもよく、作動液の吐出量が異なっても差し支えない。
【0067】
また、実施例では、リテーナ73のフランジ部75で戻しばね64を受けるようにしたが、これに限定されず、リテーナ73の他端側の端面で戻しばね64を受けるようにしてもよく、この場合、フランジ部75を設けなくても差し支えない。
また、液通孔76と連通孔62は、一部が重ならないようにしても差し支えない。
また、吐出弁80は、吸入弁70の外周ではなく、吸入弁70に対して軸方向にずらして配置しても差し支えない。
また、ポンプハウジング41の内周部は、可動コア43側から反対側に向けて順次拡径していなくても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のソレノイドポンプは、車両用ブレーキ液圧制御装置に好適である。
【符号の説明】
【0069】
10…ブレーキ液圧制御装置、40…ソレノイドポンプ、41…固定コア(ポンプハウジング)、43…可動コア、44…コイル、51…ピストン、52…本体部、53…ばね当接部、54…ばね座、55…連通溝、60…圧力室、62…連通孔、64…戻しばね、70…吸入弁、71…弁座部材、72…弁体、73…リテーナ、74…弁ばね、75…フランジ部、76…液通孔、80…吐出弁。
図1
図2
図3
図4
図5